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特開2024-76538ベンゼンヘキサチオールの作製方法およびナノシートの作製方法
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  • 特開-ベンゼンヘキサチオールの作製方法およびナノシートの作製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076538
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】ベンゼンヘキサチオールの作製方法およびナノシートの作製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 319/06 20060101AFI20240530BHJP
   C07C 321/26 20060101ALI20240530BHJP
   C07C 319/14 20060101ALI20240530BHJP
   C07C 321/28 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C07C319/06
C07C321/26
C07C319/14
C07C321/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188116
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】国橋 要司
(72)【発明者】
【氏名】井手 智仁
(72)【発明者】
【氏名】横山 寛義
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB90
4H006AC63
4H006BB17
4H006BB24
4H006BC10
4H006BE10
4H006TA04
4H006TB72
(57)【要約】
【課題】より容易にヘキサベンゼンチオールが合成する。また、より大きなベンゼンヘキサチオールのナノシートが形成できるようにする。
【解決手段】4-メトキシ-α-トルエンチオールとヘキサフルオロベンゼンとを反応させてヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼンを合成し、合成したヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼンをトリフルオロ酢酸に溶解して加温することでベンゼンヘキサチオールを合成する。また、基板の表面に水溶液の薄い膜が形成されている状態で、基板の表面にベンゼンヘキサチオールが溶解している原料溶液を供給して基板の表面に原料溶液の膜を形成する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのメトキシ基を有するトルエンチオールと、ヘキサフルオロベンゼン,ヘキサクロロベンゼン,ヘキサブロモベンゼンのいずれかとを反応させて合成物を作製する第1工程と、
前記合成物をトリフルオロ酢酸に溶解して加温することで、前記合成物からメトキシベンジル基を脱離してベンゼンヘキサチオールを生成する第2工程と
を備えるベンゼンヘキサチオールの作製方法。
【請求項2】
請求項1記載のベンゼンヘキサチオールの作製方法において、
前記第1工程は、4-メトキシ-α-トルエンチオールとヘキサフルオロベンゼンとを反応させて前記合成物としてヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼンを合成する
ことを特徴とするベンゼンヘキサチオールの作製方法。
【請求項3】
請求項1記載のベンゼンヘキサチオールの作製方法において、
前記第1工程は、塩基を添加した溶媒中で実施することを特徴とするベンゼンヘキサチオールの作製方法。
【請求項4】
請求項1記載のベンゼンヘキサチオールの作製方法において、
前記第2工程は、トリフルオロ酢酸を70℃に加温して実施することを特徴とするベンゼンヘキサチオールの作製方法。
【請求項5】
請求項4記載のベンゼンヘキサチオールの作製方法において、
前記第2工程は、トリエチルシランが溶解したトリフルオロ酢酸に前記合成物を溶解することを特徴とするベンゼンヘキサチオールの作製方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のベンゼンヘキサチオールの作製方法において、
ベンゼンヘキサチオールを生成した後で、トリフルオロ酢酸を除去する第3工程をさらに備えることを特徴とするベンゼンヘキサチオールの作製方法。
【請求項7】
水溶性を有する有機溶媒にベンゼンヘキサチオールが溶解している原料溶液を用意する第1工程と、
基板の表面に水溶液の薄い膜が形成されている状態で、前記基板の表面に前記原料溶液を供給し、前記基板の表面に前記原料溶液の膜を形成する第2工程と、
前記基板の表面より前記水溶液を除去することで、前記原料溶液の膜より前記有機溶媒を除去して前記原料溶液よりベンゼンヘキサチオールを分離して、前記基板の表面にベンゼンヘキサチオールのシートを形成する第3工程と
を備えるナノシートの作製方法。
【請求項8】
請求項7記載のナノシートの作製方法において、
前記第2工程は、容器に収容された前記水溶液に前記基板を浮かべることで、前記基板の表面に前記水溶液の薄い膜を形成し、
前記第3工程は、前記容器より前記水溶液を排出することで、前記水溶液の除去を実施する
ことを特徴とするナノシートの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゼンヘキサチオールの作製方法およびナノシートの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサベンゼンチオールと金属からなる2次元ナノシート状錯体が、トポロジカル絶縁体としての機能が期待されている。従来の一般に知られているベンゼンヘキサチオールの合成法では、ヘキサクロロベンゼンおよびベンジルメルカプタンを用いて合成されている。この合成方法では、ベンジル基の脱離は、-78℃に冷却した液体アンモニア中、金属ナトリウムを用いて行われる(図4)。
【0003】
また、ベンゼンヘキサチオールと金属からなる2次元ナノシート状錯体は、液相界面で形成されている(非特許文献2参照)。この技術では、金属塩を溶解した水層と、配位子を溶かした有機層の界面でベンゼンヘキサチオールのナノシートを形成している。金属イオンが溶解した水溶液とベンゼンヘキサチオールが溶解した有機溶液とを接触させ、この界面にナノシートを生成させることでナノシートを形成している(液―液界面法)。有機溶液の使用量を減らすことで、その蒸発とともに水溶液上面にナノシートを生成させる(気―液界面法)。このようにしてナノシートを形成した後、生成したナノシートを基板に転写する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jennifer A. Harnisch and Robert J. Angelici, "Gold and platinum benzenehexathiolate complexes as large templates for the synthesis of 12-coordinate polyphosphine macrocycles", Inorganica Chimica Acta, vol. 300.302, pp. 273-279, 2000.
【非特許文献2】T. Kambe et al., "π-Conjugated Nickel Bis(dithiolene) Complex Nanosheet", Journal of the American Chemical Society, vol. 135 , no. 7, pp. 2462-2465, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のヘキサベンゼンチオールの合成法では、液体アンモニアや金属ナトリウムを使用しているため、薬剤の取り扱いが容易ではなく、容易に合成することができないという問題があった。また、従来のナノシートの形成技術では、水層と有機層との界面にナノシートが形成されるため、これを所定の基板に転写することになる。このため、従来技術では、面積の大きなナノシートを得ることが容易ではないという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、より容易にヘキサベンゼンチオールが合成することを目的とする。また、より大きなベンゼンヘキサチオールのナノシートが形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るベンゼンヘキサチオールの作製方法は、少なくとも1つのメトキシ基を有するトルエンチオールと、ヘキサフルオロベンゼン,ヘキサクロロベンゼン,ヘキサブロモベンゼンのいずれかとを反応させて合成物を作製する第1工程と、合成物をトリフルオロ酢酸に溶解して加温することで、合成物からメトキシベンジル基を脱離してベンゼンヘキサチオールを生成する第2工程とを備える。
【0008】
また、本発明に係るナノシートの作製方法は、水溶性を有する有機溶媒にベンゼンヘキサチオールが溶解している原料溶液を用意する第1工程と、基板の表面に水溶液の薄い膜が形成されている状態で、基板の表面に原料溶液を供給し、基板の表面に原料溶液の膜を形成する第2工程と、基板の表面より水溶液を除去することで、原料溶液の膜より有機溶媒を除去して原料溶液よりベンゼンヘキサチオールを分離して、基板の表面にベンゼンヘキサチオールのシートを形成する第3工程とを備える。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、メトキシ基を有するトルエンチオールと、ヘキサフルオロベンゼン,ヘキサクロロベンゼン,ヘキサブロモベンゼンのいずれかとを反応させて得られた合成物をトリフルオロ酢酸に溶解して加温することでベンゼンヘキサチオールを合成するので、より容易にヘキサベンゼンチオールが合成することができる。また、本発明によれば、基板の表面に水溶液の薄い膜が形成されている状態で、基板の表面に原料溶液を供給して基板の表面に原料溶液の膜を形成するので、より大きなベンゼンヘキサチオールのナノシートが形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施の形態に係るベンゼンヘキサチオールの作製方法を説明するためのフローチャートである。
図2図2は、4-メトキシ-α-トルエンチオールとヘキサフルオロベンゼンと反応によりヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼンを合成する化学反応式を示す説明図である。
図3図3は、ヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼンからメトキシベンジル基を脱離してベンゼンヘキサチオールを合成する化学反応式を示す説明図である。
図4図4は、本発明の実施の形態に係るナノシートの作製方法を説明するためのフローチャートである。
図5図5は、非特許文献1に示されたベンゼンヘキサチオール合成の化学反応式を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係るベンゼンヘキサチオールの作製方法について、図1を参照して説明する。まず、第1工程S101で、少なくとも1つのメトキシ基を有するトルエンチオールと、ヘキサフルオロベンゼン,ヘキサクロロベンゼン,ヘキサブロモベンゼンのいずれかとを反応させて合成物を作製する(第1工程)。例えば、4-メトキシ-α-トルエンチオールとヘキサフルオロベンゼンとを反応(芳香族求核置換反応)させて、合成物としてヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼンを合成する。この合成は、塩基を添加した溶媒中で実施することができる。例えば、水酸化ナトリウムを添加した溶媒を用いることができる。この溶媒として、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを用いることができる。反応の進行により、ヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼンが沈殿していく。図2に、反応式を示す。
【0012】
次に、第2工程S102で、合成した合成物[ヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼン]をトリフルオロ酢酸[CF3COOH]に溶解して加温することで、合成物[ヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼン]からメトキシベンジル基を脱離(保護基として用いたSH基の脱保護反応)してベンゼンヘキサチオールを生成(合成)する(第2工程)。この生成(第2工程)は、トリフルオロ酢酸を70℃に加温して実施することができる。また、この生成(第2工程)では、トリエチルシラン[(C253SiH]が溶解したトリフルオロ酢酸に合成物[ヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼン]を溶解することができる。図3に、反応式を示す。
【0013】
上述したように、ベンゼンヘキサチオールを生成したら、第3工程S103で、溶媒として用いたトリフルオロ酢酸を除去することで、ベンゼンヘキサチオールを得ることができる。
【0014】
次に、ベンゼンヘキサチオールを用いたナノシートの作製方法について図4を参照して説明する。
【0015】
まず、第1工程S111で、水溶性を有する有機溶媒にベンゼンヘキサチオールが溶解している原料溶液を用意する。
【0016】
次に、第2工程S112で、基板の表面に水溶液の薄い膜が形成されている状態で、基板の表面に原料溶液を供給し、基板の表面に原料溶液の膜を形成する。例えば、容器に収容された上記水溶液に基板を浮かべることで、基板の表面に水溶液の薄い膜を形成することができる。
【0017】
次に、第3工程S113で、基板の表面より水溶液を除去することで、原料溶液の膜より有機溶媒を除去して原料溶液よりベンゼンヘキサチオールを分離して、基板の表面にベンゼンヘキサチオールのシートを形成する。例えば、容器に収容された上記水溶液に基板を浮かべた後で、容器より上記水溶液を排出することで、水溶液の除去を実施することができる。
【0018】
次に、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0019】
[ベンゼンヘキサチオールの作製]
はじめに、ベンゼンヘキサチオールの作製について説明する。
【0020】
まず、ヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼンを合成する。
【0021】
シュレンク管(50mL)にNaOH(1.08g,27mmol)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(32.00mL)を入れた。このシュレンク管に窒素パージを3回行い、常温の水を用いて冷却しつつ、4-メトキシ-α-トルエンチオール(3.30mL,24mmol)を入れた。攪拌を1分間継続した後、ヘキサフルオロベンゼン(0.345mL,3.0mmol)を入れた。冷却はヘキサフルオロベンゼンを入れてから10分後まで行った。この後、室温で攪拌を2時間することで得られた沈殿物[反応混合物]を、窒素を30分以上バブリングして酸素を脱気したメタノール(約200mL)に入れて再沈殿した。メタノールにより再沈した後、沈殿物を濾別し、さらにメタノールで洗浄した後、減圧乾燥することで、ヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼンを得た(収量2.31g,収率78%)。
【0022】
得られたヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼンの1H NMRスペクトル測定、および13C NMRスペクトル測定の結果を示す。共鳴周波数は400MHzであり、溶媒として重水素化クロロホルム(CDCl3)を用いた。δ以降の数値がケミカルシフトを示し、カッコ内のs,d,brはピークの分裂状態、J値はカップリング定数、12Hは積分強度、ArH、CH2、OCH3は対象となるH原子の帰属を示す(特開2015-172166号公報参照)。13C NMRについても同様である。
【0023】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ7.10(d,J=8.4Hz,12H,ArH),6.73(d,J=6.8Hz,12H,ArH),3.98(s,12H,CH2),3.70(s,18H,OCH3)。13C NMR(400MHz,CDCl3):δ158.74146.71,130.34,129.31,113.69,55.17,41.84。
【0024】
次に、ベンゼンヘキサチオールの合成を合成する。
【0025】
窒素パージしたシュレンク管(50mL)にトリフルオロ酢酸(10mL)とトリエチルシラン(1.91mL)を入れた。このシュレンク管に、上述したことにより得たヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼン(0.20g,0.20mmol)を入れた。これらを攪拌しつつ、室温から70℃まで加熱し、1.5時間反応させた。続いてシュレンク管内を室温で減圧することで、トリフルオロ酢酸を気化して除いた。次いで、カニュラーろ過により不揮発性液体を除き、さらに、クロロホルムを用いてシュレンク管内の白色粉末を4回洗浄し、洗浄後に減圧乾燥することで、ベンゼンヘキサチオールを得た(収量0.043g,収率79%)。
【0026】
得られたベンゼンヘキサチオールの1H NMRスペクトル測定、13C NMRスペクトル測定、およびIR測定(全反射測定:ATR)の結果を示す。共鳴周波数は400MHzであり、溶媒として ピリジン-d5(C55N)を用いた。δ以降の数値がケミカルシフトを示す。13C NMRについても同様である。
【0027】
1HNMR(400MHz,C55N):δ7.19(br,6H,ArSH)。13CNMR(400MHz,C55N):δ131.35。IR(ATR):3407.6,2494.5,1680.7,1482.0,1443.5,1306.5,1276.7,1204.3,1136.8,922.8,900.6,845.6,803.2,803.2,726.1,557.3cm-1
【0028】
[ナノシートの作製]
次に、ナノシートの作成について説明する。
【0029】
[作製方法1]:浮遊法
まず、酢酸エチルを飽和した35mM酢酸ニッケル-10mM臭化ナトリウム水溶液(3mL)にシリコンウエハ片(基板)を浮かべることで、シリコンウエハ片の上に水溶液の膜が形成される状態とした。次いで、シリコンウエハ片の上に静かにベンゼンヘキサチオールの酢酸エチル溶液(飽和溶液を100倍希釈したもの;70μL)を滴下し、4時間静置した。この後、溶液を排出し、水および酢酸エチルで洗浄することで、シリコンウエハ片の上に、ベンゼンヘキサチオールのナノシートが得られた。
【0030】
[作製方法2]:浮遊法
酢酸エチルを飽和した35mM酢酸ニッケル-10mM臭化ナトリウム水溶液(3mL)に、透過型電子顕微鏡(TEM)用メッシュグリッド(基板)を浮かべることで、TEM)用メッシュグリッドの上に水溶液の膜が形成される状態とした。次いで、TEM用メッシュグリッドの上に静かにベンゼンヘキサチオールの酢酸エチル溶液(飽和溶液を100倍希釈したもの;70μL)を滴下し、5時間静置した。この後、溶液を排出し、水および酢酸エチルで洗浄することで、TEM用メッシュグリッドの上に、ベンゼンヘキサチオールのナノシートが得られた。
【0031】
[作製方法3]:排液法
所定の容器に酢酸エチルを飽和した35mM酢酸ニッケル-10mM臭化ナトリウム水溶液を収容し、この水溶液にシリコンウエハ片(基板)を沈めた。次いで、シリコンウエハ片が露出しないぎりぎりまで容器内の溶液を排液し、シリコンウエハ片の上に水溶液の膜が形成される状態とした。次いで、水溶液の膜が形成されているシリコンウエハ片の上に、静かにベンゼンヘキサチオールの酢酸エチル溶液(飽和溶液を100倍希釈したもの;70μL)を滴下し、5時間静置した。この後、容器内の溶液を完全に排出し、水および酢酸エチルで洗浄した。この結果、シリコンウエハ片の上に、ベンゼンヘキサチオールのナノシートが得られた。
【0032】
[作製方法4]:排液法
所定の容器に酢酸エチルを飽和した35mM酢酸ニッケル-10mM臭化ナトリウム水溶液を収容し、この水溶液にTEM用メッシュグリッドを沈めた。次いで、TEM用メッシュグリッドが露出しないぎりぎりまで排液し、TEM用メッシュグリッドの上に水溶液の膜が形成される状態とした。次いで、水溶液の膜が形成されているTEM用メッシュグリッドの上に、静かにベンゼンヘキサチオールの酢酸エチル溶液(飽和溶液を100倍希釈したもの;70μL)を滴下し、3時間静置した。この後、容器内の溶液を完全に排出し、水および酢酸エチルで洗浄した。この結果、TEM用メッシュグリッドの上に、ベンゼンヘキサチオールのナノシートが得られた。
【0033】
以上に説明したように、本発明によれば、メトキシ基を有するトルエンチオールと、ヘキサフルオロベンゼン,ヘキサクロロベンゼン,ヘキサブロモベンゼンのいずれかとを反応させて得られた合成物をトリフルオロ酢酸に溶解して加温することでベンゼンヘキサチオールを合成するので、より容易にヘキサベンゼンチオールが合成することができる。また、本発明によれば、基板の表面に水溶液の薄い膜が形成されている状態で、基板の表面に原料溶液を供給して基板の表面に原料溶液の膜を形成するので、より大きなベンゼンヘキサチオールのナノシートが形成できるようになる。本発明によれば、ベンゼンヘキサチオールを従来よりも安全かつ簡便に合成することができ、また、より大きなナノシートが得られる。
【0034】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されるが、以下には限られない。
【0035】
[付記1]
少なくとも1つのメトキシ基を有するトルエンチオールと、ヘキサフルオロベンゼン,ヘキサクロロベンゼン,ヘキサブロモベンゼンのいずれかとを反応させて合成物を作製する第1工程と、前記合成物をトリフルオロ酢酸に溶解して加温することで、前記合成物からメトキシベンジル基を脱離してベンゼンヘキサチオールを生成する第2工程とを備えるベンゼンヘキサチオールの作製方法。
【0036】
[付記2]
付記1記載のベンゼンヘキサチオールの作製方法において、前記第1工程は、4-メトキシ-α-トルエンチオールとヘキサフルオロベンゼンとを反応させて前記合成物としてヘキサキス(4-メトキシベンジルチオ)ベンゼンを合成することを特徴とするベンゼンヘキサチオールの作製方法。
【0037】
[付記3]
付記1または2記載のベンゼンヘキサチオールの作製方法において、前記第1工程は、塩基を添加した溶媒中で実施することを特徴とするベンゼンヘキサチオールの作製方法。
【0038】
[付記4]
付記1~3のいずれか1項に記載のベンゼンヘキサチオールの作製方法において、前記第2工程は、トリフルオロ酢酸を70℃に加温して実施することを特徴とするベンゼンヘキサチオールの作製方法。
【0039】
[付記5]
付記1~4のいずれか1項に記載のベンゼンヘキサチオールの作製方法において、前記第2工程は、トリエチルシランが溶解したトリフルオロ酢酸に前記合成物を溶解することを特徴とするベンゼンヘキサチオールの作製方法。
【0040】
[付記6]
付記1~5のいずれか1項に記載のベンゼンヘキサチオールの作製方法において、ベンゼンヘキサチオールを生成した後で、トリフルオロ酢酸を除去する第3工程をさらに備えることを特徴とするベンゼンヘキサチオールの作製方法。
【0041】
[付記7]
水溶性を有する有機溶媒にベンゼンヘキサチオールが溶解している原料溶液を用意する第1工程と、基板の表面に水溶液の薄い膜が形成されている状態で、前記基板の表面に前記原料溶液を供給し、前記基板の表面に前記原料溶液の膜を形成する第2工程と、前記基板の表面より前記水溶液を除去することで、前記原料溶液の膜より前記有機溶媒を除去して前記原料溶液よりベンゼンヘキサチオールを分離して、前記基板の表面にベンゼンヘキサチオールのシートを形成する第3工程とを備えるナノシートの作製方法。
【0042】
[付記8]
付記7記載のナノシートの作製方法において、前記第2工程は、容器に収容された前記水溶液に前記基板を浮かべることで、前記基板の表面に前記水溶液の薄い膜を形成し、前記第3工程は、前記容器より前記水溶液を排出することで、前記水溶液の除去を実施することを特徴とするナノシートの作製方法。
【0043】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
図1
図2
図3
図4
図5