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特開2024-76545運動支援制御装置、方法およびプログラム
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  • 特開-運動支援制御装置、方法およびプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076545
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】運動支援制御装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A63B 69/00 20060101AFI20240530BHJP
   A63B 71/06 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
A63B69/00 C
A63B71/06 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188130
(22)【出願日】2022-11-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.2022年7月6日 一般社団法人情報処理学会 マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2022)シンポジウム 予稿集にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊勢崎 隆司
(72)【発明者】
【氏名】梅沢 昂平
(72)【発明者】
【氏名】青木 良輔
(72)【発明者】
【氏名】小池 幸生
(72)【発明者】
【氏名】大山 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】下田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】平田 仁
(72)【発明者】
【氏名】小田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】森 健策
(57)【要約】
【課題】運動主体感を低下させることなく運動精度の向上を可能にする。
【解決手段】この発明の一態様は、ユーザの運動を支援する際に、前記ユーザが自身の運動結果に対して前記運動を適切に行えたと感じる範囲を定義した運動結果許容範囲情報を事前に取得する。この状態で、前記ユーザが実際に前記運動を行ったときの運動結果情報を取得し、取得した前記運動結果情報を前記運動結果許容範囲情報と比較し、その比較結果に基づいて前記ユーザに対する介入強度を設定する。そして、設定された前記介入強度に従い前記ユーザの前記運動結果情報に対し介入処理を行う。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの運動を支援するための制御を行う運動支援制御装置であって、
前記ユーザが自身の運動結果に対して前記運動を適切に行えたと感じる範囲を定義した運動結果許容範囲情報を取得する第1の処理部と、
前記ユーザが実際に前記運動を行ったときの運動結果情報を取得する第2の処理部と、
取得した前記運動結果情報を前記運動結果許容範囲情報と比較し、その比較結果に基づいて前記ユーザに対する介入強度を設定する第3の処理部と、
設定された前記介入強度に従い前記ユーザの前記運動結果情報に対し介入処理を行う第4の処理部と
を具備する運動支援制御装置。
【請求項2】
前記第1の処理部は、前記ユーザに少なくとも1回の事前運動を行わせてその事前運動結果情報を取得し、取得した前記事前運動結果情報に基づいて前記運動結果許容範囲情報を設定する、請求項1に記載の運動支援制御装置。
【請求項3】
前記第3の処理部は、
前記運動結果情報と前記運動結果許容範囲情報との比較の結果、前記運動結果情報が運動結果許容範囲内に含まれる場合には所定の小さい値を有する第1の介入強度を設定する処理と、
前記運動結果情報が前記運動結果許容範囲の境界付近の場合には、前記第1の介入強度より大きい第2の介入強度を設定する処理と、
前記運動結果情報が前記運動結果許容範囲から大きく逸脱している場合には、前記第2の介入強度より小さい第3の介入強度を設定する
請求項1に記載の運動支援制御装置。
【請求項4】
ユーザの運動を支援するための制御装置が実行する運動支援制御方法であって、
前記ユーザが自身の運動結果に対して前記運動を適切に行えたと感じる範囲を定義した運動結果許容範囲情報を取得する過程と、
前記ユーザが実際に前記運動を行ったときの運動結果情報を取得する過程と、
取得した前記運動結果情報を前記運動結果許容範囲情報と比較し、その比較結果に基づいて前記ユーザに対する介入強度を設定する過程と、
設定された前記介入強度に従い前記ユーザの前記運動結果情報に対し介入処理を行う過程と
を具備する運動支援制御方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の運動支援制御装置が備える処理部の少なくとも1つが行う処理を、前記運動支援制御装置が備えるプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一態様は、運動主体感を考慮してユーザの運動を支援する運動支援制御装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
「ある運動を引き起こしている、あるいは生み出しているのは、他の誰でもない自分であるという感覚」を運動主体感という。この運動主体感は、運動遂行時のモチベーションの維持や運動学習効率に大きな影響を及ぼす。一方で、ユーザが適切に運動を行えたかどうか、つまり運動精度について考慮することも大切である。
【0003】
そこで、ユーザの運動主体感および運動精度を変化させるために、種々の介入手法が提案されている。例えば、非特許文献1にはユーザの手操作を撮影した映像に遅延を与えて表示させる手法が記載されている。また非特許文献2には、ユーザの入力に他者の入力を重畳することによりユーザの入力を支援する手法が記載されている。これらの手法を用いてユーザの操作に介入することで、例えばユーザが不得意な運動を行う場合の運動精度の向上が期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Michihiro Osumi, Satoshi Nobusako, Takuro Zama, Naho Yokotani, Sotaro Shimada, Takaki Maeda and Shu Morioka,“The relationship and difference between delay detection ability and judgment of sense of agency”,July 9, 2019,PLoS One,インターネット<URL: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0219222>
【非特許文献2】Ryu Ohata, Tomohisa Asai, Hiroshi Kadota, Hiroaki Shigemasu, Kenji Ogawa and Hiroshi Imamizu,“Sense of Agency Beyond Sensorimotor Process: Decoding Self-Other Action Attribution in the Human Brain” ,2020, Cereb. Cortex 30 4076-91
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、介入よって、ユーザ自身の運動精度の向上のための学習意欲が低下したり、自力で運動ができたという感覚が得られにくくなって運動主体感が低下するといったデメリットが生じることも想定される。
【0006】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、運動主体感を低下させることなく運動精度の向上を可能にする技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためにこの発明に係る運動支援制御装置または方法の一態様は、ユーザの運動を支援する際に、前記ユーザが自身の運動結果に対して前記運動を適切に行えたと感じる範囲を定義した運動結果許容範囲情報を事前に取得する。この状態で、前記ユーザが実際に前記運動を行ったときの運動結果情報を取得し、取得した前記運動結果情報を前記運動結果許容範囲情報と比較し、その比較結果に基づいて前記ユーザに対する介入強度を設定する。そして、設定された前記介入強度に従い前記ユーザの前記運動結果情報に対し介入処理を行う。
【発明の効果】
【0008】
この発明の一態様によれば、ユーザの運動結果に応じて介入強度が適切に制御されることになり、これによりユーザの運動主体感を低下させることなく運動精度を高めることが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る運動支援制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、この発明の一実施形態に係る運動支援制御装置のソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、図2に示した運動支援制御装置の制御部が事前設定フェーズにおいて実行する運動結果許容範囲の設定処理の処理手順と処理内容の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、図2に示した運動支援制御装置の制御部が運動介入フェーズにおいて実行する運動支援制御処理の処理手順と処理内容の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、図3に示した運動結果許容範囲設定処理の動作例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
【0011】
[一実施形態]
(構成例)
図1および図2は、それぞれこの発明の一実施形態に係る運動支援制御装置SVのハードウェア構成およびソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0012】
運動支援制御装置SVは、中央処理ユニット(Central Processing Unit:CPU)等のハードウェアプロセッサを使用した制御部1を備える。そして、この制御部1に対し、プログラム記憶部2およびデータ記憶部3を有する記憶ユニットと、入出力インタフェース(以後インタフェースをI/Fと略称する)部4とを、バス5を介して接続したものとなっている。
【0013】
入出力I/F部4には、入力デバイス6および出力デバイス7が、例えば信号ケーブルを介して接続される。なお、接続手段としては、例えばBluetooth(登録商標)等の小電力無線データ伝送規格を採用した無線インタフェースが用いられてもよい。
【0014】
出力デバイス7は、LCD又はLEDを用いた表示デバイスを有し、事前設定フェーズにおいてユーザの運動結果許容範囲を計測し設定するために使用する事前運動用映像と、運動介入フェーズにおいてユーザが運動を行うための実運動用映像を表示するために使用される。
【0015】
入力デバイス6は、例えばキーボード、マウスおよびジョイスティックを備え、上記事前運動用映像および上記実運動用映像においてユーザが運動の一環であるカーソル操作を行うために使用される。
【0016】
入出力I/F部4は、制御部1から出力される上記事前運動用映像および実運動用映像を出力デバイス7へ出力する。また入出力I/F部4は、入力デバイス6においてユーザが行ったカーソル操作の操作情報を受け取る。
【0017】
プログラム記憶部2は、例えば、記憶媒体としてSSD(Solid State Drive)等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発性メモリと、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリとを組み合わせて構成したもので、OS(Operating System)等のミドルウェアに加えて、一実施形態に係る各種制御処理を実行するために必要なアプリケーション・プログラムを格納する。なお、以後OSと各アプリケーション・プログラムとをまとめてプログラムと称する。
【0018】
データ記憶部3は、例えば、記憶媒体として、SSD等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発性メモリと、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリと組み合わせたもので、その記憶領域には一実施形態を実施するために必要な記憶部として、運動結果記憶部31と、設定情報記憶部32が設けられている。
【0019】
運動結果記憶部31は、事前運動用映像および実運動用映像においてユーザが操作したカーソルの操作情報を、運動結果を表す情報として記憶する。設定情報記憶部32は、事前設定フェーズにおいて設定されたユーザの運動結果許容範囲を表す情報を記憶するために使用される。
【0020】
制御部1は、この発明の一実施形態を実施するために必要な処理機能として、事前設定制御処理部11と、運動結果許容範囲設定処理部12と、運動情報取得処理部13と、許容範囲判定処理部14と、許容範囲内用介入強度設定処理部15と、許容範囲外用介入強度設定処理部16と、カーソル座標更新処理部17とを備えている。上記各処理部11~17は、何れもプログラム記憶部2に格納されたアプリケーション・プログラムを制御部1Aのハードウェアプロセッサに実行させることにより実現される。なお、上記処理部11~17の一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0021】
事前設定制御処理部11は、事前設定フェーズにおいて、目標点とカーソルとを含む事前運動用映像を入出力I/F部4を介して出力デバイス7に表示させる。そして、事前設定制御処理部11は、ユーザが入力デバイス6において上記目標点に向けて上記カーソルを操作したときの操作情報を入出力I/F部4を介して取得し、取得した上記操作情報を運動結果を表す情報として運動結果記憶部31に記憶する。
【0022】
運動結果許容範囲設定処理部12は、上記運動結果記憶部31に記憶された上記カーソルの操作情報に基づいて、ユーザが自身の運動結果に対して運動を適切に行えたと感じる範囲を定義した運動結果許容範囲を設定し、この運動結果許容範囲の設定情報を設定情報記憶部32に記憶する。上記運動結果許容範囲は、例えば目標点からの距離により表される。
【0023】
なお、上記運動結果許容範囲の設定処理動作の一例については動作例において述べる。
【0024】
運動情報取得処理部13は、運動介入フェーズにおいて、目標点とカーソルとを含む実運動用映像を入出力I/F部4を介して出力デバイス7に表示させる。そして、運動情報取得処理部13は、ユーザが入力デバイス6において、上記目標点に向けて上記カーソルを操作したときの操作情報を入出力I/F部4を介して取得する。
【0025】
許容範囲判定処理部14は、上記運動情報取得処理部13により取得されたカーソル操作情報と、上記設定情報記憶部32に記憶された運動結果許容範囲の設定情報とに基づいて、上記カーソル操作によりカーソルの座標が上記運動結果許容範囲内に入ったか否かを判定する。
【0026】
許容範囲内用介入強度設定処理部15は、上記許容範囲判定処理部14によりカーソル座標が運動結果許容範囲内に入ったと判定された場合に、このときの目標点から上記カーソル座標までの距離に応じて所定の小さい値である第1の介入強度を設定する。
【0027】
許容範囲外用介入強度設定処理部16は、上記許容範囲判定処理部14によりカーソル座標が運動結果許容範囲の境界付近にあると判定された場合には、第1の介入強度より大きい第2の介入強度を設定し、またカーソル座標が運動結果許容範囲から大きく逸脱している位置にあると判定された場合には上記第2の介入強度より小さい第3の介入強度を設定する。
【0028】
カーソル座標更新処理部17は、上記運動情報取得処理部13により取得されたカーソル座標に、上記許容範囲内用介入強度設定処理部15または許容範囲外用介入強度設定処理部16により設定された介入強度を反映させる。そして、カーソル座標更新処理部17は、反映後の上記座標位置に上記カーソルを表示させるべく実運動用映像を更新し、更新した上記実運動用映像を入出力I/F部4を介して出力デバイス7に出力し表示させる。
【0029】
なお、上記第1、第2および第3の各介入強度の設定処理の一例と、実運動用映像の更新処理の一例についても、動作例において述べる。
【0030】
(動作例)
次に、以上のように構成された運動支援制御装置SVの動作例を説明する。
一実施形態では、被支援者であるユーザについて事前に運動結果許容範囲を設定する事前設定フェーズと、上記運動結果許容範囲の設定情報を用いて上記ユーザの運動に対する介入制御を行う運動介入フェーズとに分けて処理を実行する。
【0031】
(1)事前設定フェーズ
図3は、運動支援制御装置SVの制御部1が事前設定フェーズにおいて実行する運動結果許容範囲設定処理の処理手順と処理内容の一例を示すフローチャートである。
【0032】
(1-1)事前設定用の操作情報の収集
ユーザまたは管理者は、運動支援制御装置SVに対し事前設定実行要求を入力する。これに対し、運動支援制御装置SVの制御部1は、ステップS10において上記事前設定の実行要求を受け取ると、事前設定制御処理部11の制御の下、先ずステップS11においてデータ記憶部3から事前運動用映像情報を読み出す。そして、読み出した上記事前運動用映像情報を入出力I/F部4から出力デバイス7へ出力し、表示させる。
【0033】
図5は、出力デバイス7に表示される事前運動用映像の一例を示すもので、事前運動用映像には目標点TG1~TGnと、カーソルCSが表示される。なお、この例ではすべての目標点TG1~TGnが同時に表示されている状態を示しているが、目標点TG1~TGnは1回の運動ごとに1つずつ順に表示されるようにしてもよい。この場合、目標点TG1~TGnの表示位置はランダムに変更される。
【0034】
上記事前運動用映像が表示された状態で、ユーザは入力デバイス6の例えばジョイスティックを操作して、上記カーソルCSを上記目標点TG1~TGnの1つ(例えばTG1)に向け移動させる。そしてユーザは、カーソルCSが上記目標点TG1に十分に近づいたと判断した時点でジョイスティックの操作を終了する。
【0035】
事前設定制御処理部11は、ステップS12において、上記ジョイスティックの操作情報を入出力I/F部4を介して時系列で取得する。そして、予め設定した一定時間τの間、操作情報が変化しなければ、ユーザの操作が終了したとステップS13で判断し、ステップS14においてこのときのカーソルCSの座標P1と目標点TG1の座標との間の距離d1を算出し、算出した距離d1を目標点TG1に対するユーザの運動結果を表す操作情報として運動結果記憶部31に記憶する。
【0036】
事前設定制御処理部11は、以後同様に、ステップS11~S14により、ユーザが残りの目標点TG2~TGnに対するカーソルCSの移動操作を行うごとにその操作情報を取得し、操作が終了したときのカーソルCSの座標P2~Pnと目標点TG2~TGnの座標との間の距離d2~dnをそれぞれ算出して、運動結果記憶部31に記憶する。そして、すべての目標点TG1~TGnに対するカーソルCSの移動操作による操作情報の取得処理が終了したことをステップS15により確認すると、事前設定制御処理部11は事前設定のための操作情報の収集処理を終了する。
【0037】
(1-2)運動結果許容範囲の設定
運動支援制御装置SVの制御部1は、上記事前設定のための操作情報の収集処理が終了すると、運動結果許容範囲設定処理部12の制御の下、ユーザに対する運動結果許容範囲の設定処理を以下のように実行する。
【0038】
すなわち、運動結果許容範囲設定処理部12は、先ずステップS16において、運動結果記憶部31からn個の目標点TG1~TGnとカーソルの停止位置座標P1~Pnとの間の距離d1~dnを読み出す。運動結果許容範囲設定処理部12は、続いてステップS17において、読み出した上記距離d1~dnの平均値を算出し、算出した距離d1~dnの平均値をユーザの運動結果に対する許容範囲Rを表す情報として、ステップS18により設定情報記憶部32に記憶する。
【0039】
すなわち、運動結果許容範囲設定処理部12は、目標点を中心として半径が上記距離d1~dnの平均値に設定された円を定義し、この円内を上記運動結果許容範囲Rとして設定する。
【0040】
(2)運動介入フェーズ
図4は、運動支援制御装置SVの制御部1が運動介入フェーズを実行において実行する運動介入制御処理の処理手順と処理内容の一例を示すフローチャートである。
【0041】
(2-1)運動情報の取得
ユーザは、運動支援制御装置SVに対し運動の実行要求を入力する。これに対し、運動支援制御装置SVの制御部1は、ステップS20において上記運動の実行要求を受け取ると、運動情報取得処理部13の制御の下、先ずステップS21においてデータ記憶部3から実運動用映像情報を読み出す。そして、読み出した上記実運動用映像情報を入出力I/F部4から出力デバイス7へ出力し、表示させる。この例では、実運動用映像として、図5に例示した複数の目標点TG1~TGnのうちの任意の1つ(以後TGと呼ぶ)と、カーソルCSが表示された映像が使用される。なお、実運動用映像は、事前運動用映像とは異なるものであっても構わない。
【0042】
上記実運動用映像が表示された状態で、ユーザは入力デバイス6の例えばジョイスティックを操作して、上記カーソルCSを上記目標点TGに近づけるように移動させる。
【0043】
これに対し、運動情報取得処理部13は、ステップS22において、上記ジョイスティックの操作情報を入出力I/F部4を介して時系列に取得する。そして、運動情報取得処理部13は、上記操作情報を例えば予め設定された時間間隔でサンプリングし、その各々のタイミングごとに上記操作情報に対応するカーソルCSの位置座標と目標点TGの座標との間の距離dを算出する。そして、その算出結果を許容範囲判定処理部14に渡す。
【0044】
(2-2)許容範囲内か否かの判定
許容範囲判定処理部14は、上記距離dの算出結果を受け取るごとに、ステップS23,S24において、設定情報記憶部32に記憶された運動結果許容範囲Rの設定情報をもとに、算出された上記距離dが運動結果許容範囲R内に含まれるか否かを判定する。すなわち、許容範囲判定処理部14はユーザの運動精度を判定する。
【0045】
そして、許容範囲判定処理部14は、算出された上記距離dが運動結果許容範囲R内に含まれると判定された場合、つまりd<Rの場合には、許容範囲内用介入強度設定処理部15に対し、上記算出した距離dを含む介入情報設定指示を出力する。一方、距離dが運動結果許容範囲Rの境界付近または許容範囲R外にあると判定された場合、つまりd>=Rの場合には、許容範囲外用介入強度設定処理部16に対し、上記算出した距離dを含む介入情報設定指示を出力する。
【0046】
(2-3)介入強度の設定
許容範囲内用介入強度設定処理部15は、上記介入情報設定指示を受け取ると、この場合上記距離dが運動結果許容範囲R内に含まれていることから、ユーザの運動精度は高いと判断し、ステップS25において、所定の小さい値を有する第1の介入強度を設定する。
【0047】
例えば、許容範囲内用介入強度設定処理部15は、運動結果許容範囲R内に対応する介入強度fin (d) の算出式として、
【数1】
を用い、この式に上記許容範囲判定処理部14から受け取った距離dと、設定情報記憶部32に記憶された運動結果許容範囲Rを代入して、第1の介入強度fin (d) を算出する。
【0048】
なお、αは第1の介入強度の距離に応じた変化の特性に関わるパラメータであり、このαを大きくするほどd<R内での介入は減少し、Rに近づくに従い第1の介入強度は増加する。また、qはd=Rのときに実数を取るためのパラメータである。
【0049】
そして、許容範囲内用介入強度設定処理部15は、算出した上記第1の介入強度fin (d) をカーソル座標更新処理部17へ出力する。
【0050】
一方、許容範囲外用介入強度設定処理部16は、上記介入情報設定指示を受け取ると、この場合上記距離dが運動結果許容範囲R外であることから、ユーザの運動精度は上記運動結果許容範囲内の場合より低いと判断し、ステップS26において介入強度を上記第1の介入強度とは異なる値に設定する。
【0051】
より具体的には、距離dが運動結果許容範囲Rの境界付近の場合には、運動結果の成否が大きく変化する領域であるため、ユーザのカーソル操作結果を強く支援するべく上記第1の介入強度より大きい値を有する第2の介入強度を設定する。また、距離dが運動結果許容範囲Rから大きく逸脱している場合には、ユーザの運動精度が低くかつユーザは低い運動主体感しか感じられない状態であると推測されるため、上記第2の介入強度より小さい第3の介入強度を設定する。
【0052】
以上述べた第2および第3の介入強度を設定するために、許容範囲外用介入強度設定処理部16では、運動結果許容範囲R外における介入強度fout (d) を算出するための計算式として、
【数2】
を用いる。そして、この計算式に上記許容範囲判定処理部14から受け取った距離dと、設定情報記憶部32に記憶された運動結果許容範囲Rを代入して、第2の介入強度fout (d) を算出する。
【0053】
許容範囲外用介入強度設定処理部16は、算出した上記第2または第3の介入強度fout (d) をカーソル座標更新処理部17へ出力する。
【0054】
(2-4)カーソル座標の更新
カーソル座標更新処理部17は、上記許容範囲内用介入強度設定処理部15または上記許容範囲外用介入強度設定処理部16から介入強度fin (d) またはfout (d) を受け取ると、ステップS27において、受け取った上記介入強度fin (d) またはfout (d) を、上記運動情報取得処理部13により取得された操作情報が反映されたカーソル座標に加算し、これにより上記カーソル座標値を更新する。そして、カーソル座標更新処理部17は、更新した上記カーソル座標値を入出力I/F部4を介して出力デバイス7へ出力する。
【0055】
この結果、出力デバイス7に表示されるカーソルの表示位置は、上記更新されたカーソル座標の位置となるように更新される。すなわち、ユーザのカーソル操作に対し、運動支援制御装置SVによりユーザのカーソルの移動操作の結果に応じた介入処理が行われ、これによりカーソルの表示位置は上記介入処理が反映された位置に移動する。
【0056】
従って、例えばユーザが目標点に向けてカーソルを移動操作し、その結果カーソルの位置が運動結果許容範囲R内に入った場合には、ユーザの運動精度は既に高いため介入強度は小さな値に設定される。この結果、ユーザは介入に頼らずに自身の運動結果に対し高い運動主体感を感じることが可能となる。
【0057】
これに対し、例えばユーザが目標点に向けてカーソルを移動操作した結果、カーソルの位置が運動結果許容範囲Rの境界付近に止まった場合には、ユーザのカーソル移動操作に対し積極的に介入処理が行われる。このため、ユーザは自身のカーソル操作に上記介入処理が反映された結果を自身の運動結果として認識することができ、これにより高い運動主体感を感じることが可能となる。
【0058】
また、例えばユーザが目標点に向けてカーソルを移動操作した結果、カーソルの位置が運動結果許容範囲Rから大きく逸脱した位置に止まっている場合には、ユーザのカーソル移動操作に対する介入強度は上記境界付近の場合より小さい値に設定される。この結果、ユーザは自力で目標点に到達する努力を継続することになり、運動に対するモチベーションを維持することができ、運動主体感の低下も防ぐことができる。
【0059】
(2-5)運動支援処理の終了
運動支援制御装置SVの制御部1は、ステップS28において運動が終了したか否かを判定する。そして、続けて運動が行われる場合には、ステップS21に戻ってステップS21~S28により、次に運動に対する一連の支援制御を実行する。これに対し、例えばユーザが入力デバイス6において運動終了を入力すると、一連の制御を終了して待機状態に移行する。
【0060】
(効果)
以上述べたように一実施形態では、先ず事前設定フェーズにおいて、ユーザに事前運動用映像を用いて複数回の運動を行わせ、その各運動結果を表すカーソル操作情報をもとにユーザの運動結果許容範囲Rを設定する。続いて、運動支援モードにおいて、ユーザに実運動用映像を提示して運動を行わせ、その運動結果を表すカーソル操作情報を上記運動結果許容範囲Rと比較してその比較結果をもとに介入強度を設定し、設定した上記介入強度に従いユーザの運動に対し介入操作を行うようにしている。
【0061】
従って、ユーザの運動結果に応じて介入強度が適切に制御されることになり、これによりユーザの運動主体感を低下させることなく運動精度を高めることが可能となる。
【0062】
[その他の実施形態]
(1)一実施形態では、事前設定フェーズにおいて事前運動用映像を用いてユーザの運動結果を取得し、取得した結果をもとに運動結果許容範囲Rを設定するようにした。しかし、上記運動結果許容範囲は、ユーザごとに設定せずに一般的なユーザの運動結果に応じた汎用の値を設定するようにしてもよい。また、この場合は運動支援制御装置SVに運動結果許容範囲を設定する機能を備える必要はなく、上記汎用の値を入力デバイス6または外部の管理端末等から取得するようにしてもよい。
【0063】
(2)運動支援制御装置が備える処理機能部は、例えば管理者またはユーザ本人が所有するパーソナルコンピュータに設けてもよいし、Webまたはクラウド上に設置されたサーバコンピュータに設けるようにしてもよく、さらには運動主体感推定装置が備える各処理機能部を複数のパーソナルコンピュータまたはサーバコンピュータに分散配置するようにしてもよい。
【0064】
(3)その他、運動の種類をはじめ、その運動結果を表す情報の取得処理、運動結果許容範囲の設定処理、介入強度の制御処理および介入処理の各処理手順とその処理内容等についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【0065】
以上、この発明の実施形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点においてこの発明の例示に過ぎない。この発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、この発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0066】
要するにこの発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0067】
SV…運動支援制御装置
1…制御部
2…プログラム記憶部
3…データ記憶部
4…入出力I/F部
5…バス
6…入力デバイス
7…出力デバイス
11…事前設定制御処理部
12…運動結果許容範囲設定処理部
13…運動情報取得処理部
14…許容範囲判定処理部
15…許容範囲内用介入強度設定処理部
16…許容範囲外用介入強度設定処理部
17…カーソル座標更新処理部
31…運動結果記憶部
32…設定情報記憶部
図1
図2
図3
図4
図5