(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076616
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】注視反応時間計測システム、遠隔操作装置、作業機械、管理装置、注視反応時間計測方法、及び操作主体感算出方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240530BHJP
A61B 5/18 20060101ALI20240530BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
A61B5/11
A61B5/18
E02F9/20 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188261
(22)【出願日】2022-11-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年6月3日にロボティクス・メカトロニクス講演会2022にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100214961
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 洋三
(72)【発明者】
【氏名】来間 千晶
(72)【発明者】
【氏名】永井 政樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】小岩井 一茂
【テーマコード(参考)】
2D003
4C038
【Fターム(参考)】
2D003BA04
2D003DA04
2D003DB08
4C038PQ04
4C038PR01
4C038PS07
4C038VA04
4C038VA17
4C038VB04
4C038VC01
(57)【要約】
【課題】作業機械による作業効率の低下を抑制しながら、作業機械を操作する操作者の操作主体感の度合いを把握する。
【解決手段】注視反応時間計測システムは、作業装置3を含む作業機械200を操作する操作者OPの注視点に関する注視点情報を取得する注視点情報取得器20と、作業装置3とは異なる視認対象60に操作者OPが反応する時間である注視反応時間RTを注視点情報を用いて計測するコントローラ101と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業装置を含む作業機械を操作する操作者の注視点に関する注視点情報を取得する注視点情報取得器と、
前記作業装置とは異なる視認対象に前記操作者が反応する時間である注視反応時間を前記注視点情報を用いて計測するコントローラと、を備える注視反応時間計測システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記注視反応時間として、前記視認対象が表示された時点又は前記視認対象が現れた時点から、前記視認対象を基準に設定される範囲である注視判定範囲に前記操作者の前記注視点が移動するまでの時間を計測する、請求項1に記載の注視反応時間計測システム。
【請求項3】
前記視認対象は、前記操作者が視認することが可能な視認可能領域に表示される視覚刺激を含み、
前記コントローラは、予め設定された表示条件が満たされた場合に前記視認可能領域に前記視覚刺激を表示させるための指令を出力する、請求項1に記載の注視反応時間計測システム。
【請求項4】
前記コントローラは、前記作業機械が行う作業内容を判定し、前記作業内容に応じた表示態様で前記視覚刺激を表示させるための指令を出力する、請求項3に記載の注視反応時間計測システム。
【請求項5】
前記表示条件は、基準時点から所定時間が経過することを含む、請求項3に記載の注視反応時間計測システム。
【請求項6】
前記視認対象は、前記作業機械が配置された作業現場に存在する物体である対象物体を含む、請求項1に記載の注視反応時間計測システム。
【請求項7】
前記視認対象は、前記対象物体の近くに表示される注意喚起画像をさらに含む、請求項6に記載の注視反応時間計測システム。
【請求項8】
前記コントローラは、前記注視反応時間に応じた表示態様で前記注意喚起画像を表示させるための指令を出力する、請求項7に記載の注視反応時間計測システム。
【請求項9】
前記視認対象は、前記作業機械が配置された作業現場に存在する物体である対象物体と、前記操作者が視認することが可能な視認可能領域に表示される視覚刺激と、を含む、請求項1に記載の注視反応時間計測システム。
【請求項10】
前記コントローラは、
前記視認可能領域に前記対象物体が現れた場合には前記操作者が前記対象物体に反応する時間である第1注視反応時間を計測し、
所定時間内に前記視認可能領域に前記対象物体が現れない場合には前記視認可能領域に前記視覚刺激を表示させるための指令を出力し、前記操作者が前記視覚刺激に反応する時間である第2注視反応時間を計測する、請求項9に記載の注視反応時間計測システム。
【請求項11】
前記コントローラは、前記注視反応時間に応じて前記作業機械の制御パラメータを調節する、請求項1に記載の注視反応時間計測システム。
【請求項12】
前記コントローラは、前記注視反応時間の計測結果を用いて前記操作者の操作主体感の度合いを算出する、請求項1~11の何れか1項に記載の注視反応時間計測システム。
【請求項13】
作業装置を含む作業機械を操作者が遠隔操作するための遠隔操作装置であって、
前記作業機械が配置された作業現場の画像を表示する表示領域を有する表示器と、
前記操作者の注視点に関する注視点情報を取得する注視点情報取得器と、を備え、
前記注視点情報取得器は、前記作業装置とは異なる視認対象に前記操作者が反応する時間である注視反応時間をコントローラが前記注視点情報を用いて計測することが可能なように、前記注視点情報を出力する、遠隔操作装置。
【請求項14】
作業装置と、
作業現場に存在する物体に関する物体情報を取得する物体情報取得器と、を備え、
前記物体情報取得器は、前記作業装置とは異なる視認対象に操作者が反応する時間である注視反応時間をコントローラが前記操作者の注視点に関する注視点情報を用いて計測することが可能なように、前記物体情報を出力する、作業機械。
【請求項15】
作業機械の作業装置とは異なる視認対象に前記作業機械の操作者が反応する時間である注視反応時間を、前記操作者の注視点に関する注視点情報を用いて計測する管理装置。
【請求項16】
作業装置を含む作業機械を操作する操作者の注視点に関する注視点情報を取得することと、
前記作業装置とは異なる視認対象に前記操作者が反応する時間である注視反応時間をコントローラが前記注視点情報を用いて計測することと、を含む注視反応時間計測方法。
【請求項17】
作業装置を含む作業機械を操作する操作者の注視点に関する注視点情報を取得することと、
前記作業装置とは異なる視認対象に前記操作者が反応する時間である注視反応時間をコントローラが前記注視点情報を用いて計測することと、
前記注視反応時間を用いて前記操作者の操作主体感の度合いを算出することと、を含む操作主体感算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注視反応時間計測システム、遠隔操作装置、作業機械、管理装置、注視反応時間計測方法、及び操作主体感算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、操作主体感(Sense of Agency)について記載されている。この非特許文献1では、操作主体感は、物理的にはヒトと何らかのシステムがそれぞれある程度自律的に協調動作を行って何らかの目的に向かっていながらあくまでヒト側がその目的と制御の主体を握っていると主観的に感じる事柄である、と説明されている。非特許文献1には、操作主体感の計測は質問紙を用いて5件法や7件法に代表される方法で測定できることが記載されている。
【0003】
特許文献1には、操作主体感を定量化する評価装置が開示されている。この特許文献1では、操作主体感は、被操作装置の操作者が当該操作を自分で行っている感覚である、と説明されている。この評価装置は、操作された被操作装置の動きに伴って身体に与えられた運動刺激を表す入力値から、運動刺激に応じて生じる不随意運動に関連する出力値を出力する数理モデルに基づいて、入力値及び出力値の測定結果であるセンサ情報を用いて数理モデルの有する内部パラメータを算出し、算出された内部パラメータに基づいて操作主体感の指標値を算出する演算部を備える。運動刺激を表す入力値は、頭部運動の量を表す値である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】葭田貴子、外2名、“「自分の身体の使い心地」の心理学的・脳科学的計測”、[online]、2016年3月、計測と制御 第55巻第3号、[令和4年11月検索]、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl/55/3/55_252/_pdf>
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば操作者が作業機械を操作するときの操作主体感は、操作対象としての作業装置の動きを、操作者が自分自身で意図的に引き起こし、コントロールしているという感覚である。この操作主体感の度合いを、操作者、管理者、補助者などの作業機械による作業に関係する作業関係者が把握することは、例えば、作業機械による作業の効率を改善する上で望ましい。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に開示された質問紙を用いた方法では、操作者が質問に回答するためにはその都度作業を中断する必要があるので作業効率が低下する。また、作業機械による作業では操作者の頭部運動が十分に生じないこともあり、この場合、特許文献1に開示された評価方法では操作主体感の評価が困難になる。
【0008】
本発明は、作業機械による作業効率の低下を抑制しながら、作業機械を操作する操作者の操作主体感の度合いを把握することが可能な注視反応時間計測システム、遠隔操作装置、作業機械、管理装置、注視反応時間計測方法、及び操作主体感算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するための手段を検討する過程において、操作者の操作に対する操作対象の応答性を変えた様々な条件下、すなわち操作主体感を人為的に変えた様々な条件下で、前記操作対象とは異なる視覚刺激を提示し、当該視覚刺激に対する操作者の注視行動を解析した結果、前記操作対象を操作しているときの操作者の操作主体感の度合いと、前記操作対象とは異なる視覚刺激に対して操作者が反応する時間である注視反応時間と、の間に相関があることを明らかにした。具体的には、前記操作対象を操作しているときの操作者の操作主体感が低い場合には前記操作対象に対する注意の配分の度合いが増加し、その結果、前記操作対象とは異なる前記視覚刺激への視線の移動が遅れる。従って、前記注視反応時間は、操作者の操作主体感の度合いの評価の指標として用いることが可能である。
【0010】
本発明はこのような観点からなされたものである。提供される注視反応時間計測システムは、作業装置を含む作業機械を操作する操作者の注視点に関する注視点情報を取得する注視点情報取得器と、前記作業装置とは異なる視認対象に前記操作者が反応する時間である注視反応時間を前記注視点情報を用いて計測するコントローラと、を備える。
【0011】
この注視反応時間計測システムでは、操作対象としての作業装置とは異なる視認対象に操作者が反応する注視反応時間を計測することが可能であり、この注視反応時間の計測では、作業機械による作業を中断する必要はなく、また、頭部運動の量を表す値を計測する必要もない。従って、この注視反応時間計測システムでは、作業機械による作業効率の低下を抑制しながら、作業機械を操作する操作者の操作主体感の度合いを作業関係者が把握することが可能になる。
【0012】
前記コントローラは、前記注視反応時間として、前記視認対象が表示された時点又は前記視認対象が現れた時点から、前記視認対象を基準に設定される範囲である注視判定範囲に前記操作者の前記注視点が移動するまでの時間を計測することが好ましい。この構成では、前記注視反応時間の計測の開始と当該計測の完了を適切なタイミングで行うことができ、前記注視反応時間の計測の完了を示す注視点の位置を、設定された前記注視判定範囲を用いて適切に判定することができる。
【0013】
前記視認対象は、前記操作者が視認することが可能な視認可能領域に表示される視覚刺激を含み、前記コントローラは、予め設定された表示条件が満たされた場合に前記視認可能領域に前記視覚刺激を表示させるための指令を出力してもよい。この構成では、予め設定された表示条件が満たされると視認可能領域に視覚刺激が表示され、表示された視覚刺激に操作者が反応する注視反応時間、すなわち、その時点における操作者の操作主体感に相関する注視反応時間が計測される。
【0014】
前記コントローラは、前記作業機械が行う作業内容を判定し、前記作業内容に応じた表示態様で前記視覚刺激を表示させるための指令を出力してもよい。この構成では、コントローラは、作業内容に応じた表示態様で視覚刺激を表示させることができる。
【0015】
前記表示条件は、基準時点から所定時間が経過することを含んでいてもよい。この構成では、基準時間から所定時間が経過すると視認可能領域に視覚刺激が表示される。コントローラは、例えば、前記所定時間ごとに視認可能領域に視覚刺激を表示させるための指令を出力してもよい。この場合、所定時間ごとに断続的に視認可能領域に視覚刺激が表示される。
【0016】
前記視認対象は、前記作業機械が配置された作業現場に存在する物体である対象物体を含むことが好ましい。この構成では、作業現場に実際に存在する物体(対象物体)を利用して注視反応時間を計測することができる。例えば、対象物体は、作業現場に存在する人であってもよく、作業現場において作業の障害になる障害物であってもよく、作業現場に存在する他の物であってもよい。
【0017】
前記視認対象は、前記対象物体の近くに表示される注意喚起画像をさらに含むことが好ましい。この構成では、対象物体の近くに注意喚起画像が表示されるので、注視反応時間の計測結果が、対象物体の種類、大きさなどの対象物体の特性に左右されにくくなる。これにより、対象物体の特性にかかわらず、注視反応時間をより正確に計測することができる。
【0018】
前記コントローラは、前記注視反応時間に応じた表示態様で前記注意喚起画像を表示させるための指令を出力してもよい。この構成では、例えば、計測された注視反応時間に応じて注意喚起画像の表示態様を変えることができるので、操作者の操作主体感の度合いに応じた注意喚起画像を表示させることができる。具体的には、操作主体感の度合いが高い場合には、例えば、注意喚起画像のサイズを小さくしたり、注意喚起画像の色をあまり目立たない色にしたりするというような表示態様で注意喚起画像を表示させることで、注意喚起画像に対して操作者の注意が過度に注がれることを抑制できる。また、操作主体感の度合いが低い場合には、例えば、注意喚起画像のサイズを大きくしたり、注意喚起画像の色を目立つ色にしたりするというような表示態様で注意喚起画像を表示させることで、対象物体を操作者に確実に認識させることができる。
【0019】
前記視認対象は、前記作業機械が配置された作業現場に存在する物体である対象物体と、前記操作者が視認することが可能な視認可能領域に表示される視覚刺激と、を含むことが好ましい。この構成では、対象物体及び視覚刺激の少なくとも一方を用いて注視反応時間を計測することができる。
【0020】
前記コントローラは、前記視認可能領域に前記対象物体が現れた場合には前記操作者が前記対象物体に反応する時間である第1注視反応時間を計測し、所定時間内に前記視認可能領域に前記対象物体が現れない場合には前記視認可能領域に前記視覚刺激を表示させるための指令を出力し、前記操作者が前記視覚刺激に反応する時間である第2注視反応時間を計測することが好ましい。この構成では、作業現場に存在する物体(対象物体)が視認可能領域に現れた場合には、その対象物体を利用して注視反応時間を計測することができ、視認可能領域に対象物体が現れない場合であっても、視認可能領域に視覚刺激を表示させることによって注視反応時間を計測することができる。
【0021】
前記コントローラは、前記注視反応時間に応じて前記作業機械の制御パラメータを調節してもよい。具体的には例えば、前記注視反応時間が長い場合には操作者の操作主体感の度合いが低いので、このような場合には、コントローラは、作業機械の制御パラメータを前記注視反応時間に応じて調節することで作業機械の動作の特性をその操作者に適した状態に近づけることが可能である。
【0022】
前記コントローラは、前記注視反応時間の計測結果を用いて前記操作者の操作主体感の度合いを算出することが好ましい。算出された操作主体感の度合いに関するデータは、例えば、作業機械による作業効率の改善に利用されてもよい。
【0023】
提供される遠隔操作装置は、作業装置を含む作業機械を操作者が遠隔操作するための装置であって、前記作業機械が配置された作業現場の画像を表示する表示領域を有する表示器と、前記操作者の注視点に関する注視点情報を取得する注視点情報取得器と、を備え、前記注視点情報取得器は、前記作業装置とは異なる視認対象に前記操作者が反応する時間である注視反応時間をコントローラが前記注視点情報を用いて計測することが可能なように、前記注視点情報を出力する。この遠隔操作装置では、注視点情報取得器は、前記注視点情報を取得し、コントローラが当該注視点情報を用いて注視反応時間を計測することが可能なようにその注視点情報を出力する。従って、作業機械による作業効率の低下を抑制しながら、作業関係者が操作者の操作主体感の度合いを把握することが可能になる。
【0024】
提供される作業機械は、作業装置と、作業現場に存在する物体に関する物体情報を取得する物体情報取得器と、を備え、前記物体情報取得器は、前記作業装置とは異なる視認対象に操作者が反応する時間である注視反応時間をコントローラが前記操作者の注視点に関する注視点情報を用いて計測することが可能なように、前記物体情報を出力する。この作業機械では、物体情報取得器は、前記物体情報を取得し、コントローラが注視点情報を用いて注視反応時間を計測することが可能なようにその物体情報を出力する。従って、作業機械による作業効率の低下を抑制しながら、作業関係者が操作者の操作主体感の度合いを把握することが可能になる。
【0025】
提供される管理装置は、作業機械の作業装置とは異なる視認対象に前記作業機械の操作者が反応する時間である注視反応時間を、前記操作者の注視点に関する注視点情報を用いて計測する。この管理装置では、視認対象に操作者が反応する注視反応時間を計測することが可能であり、この注視反応時間の計測では、作業機械による作業を中断する必要はなく、また、頭部運動の量を表す値を計測する必要もない。従って、作業機械による作業効率の低下を抑制しながら、作業関係者が操作者の操作主体感の度合いを把握することが可能になる。
【0026】
提供される注視反応時間計測方法は、作業装置を含む作業機械を操作する操作者の注視点に関する注視点情報を取得することと、前記作業装置とは異なる視認対象に前記操作者が反応する時間である注視反応時間をコントローラが前記注視点情報を用いて計測することと、を含む。この注視反応時間計測方法では、視認対象に操作者が反応する注視反応時間を計測することが可能であり、この注視反応時間の計測では、作業機械による作業を中断する必要はなく、また、頭部運動の量を表す値を計測する必要もない。従って、作業機械による作業効率の低下を抑制しながら、作業関係者が操作者の操作主体感の度合いを把握することが可能になる。
【0027】
提供される操作主体感算出方法は、作業装置を含む作業機械を操作する操作者の注視点に関する注視点情報を取得することと、前記作業装置とは異なる視認対象に前記操作者が反応する時間である注視反応時間をコントローラが前記注視点情報を用いて計測することと、前記注視反応時間を用いて前記操作者の操作主体感の度合いを算出することと、を含む。この操作主体感算出方法では、視認対象に操作者が反応する注視反応時間を計測し、この注視反応時間を用いて操作主体感の度合いを算出することが可能であり、前記注視反応時間の計測及び前記操作主体感の度合いの算出では、作業機械による作業を中断する必要はなく、また、頭部運動の量を表す値を計測する必要もない。従って、作業機械による作業効率の低下を抑制しながら、作業関係者が操作者の操作主体感の度合いを把握することが可能になる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、作業機械による作業効率の低下を抑制しながら、作業機械を操作する操作者の操作主体感の度合いを把握することが可能な注視反応時間計測システム、遠隔操作装置、作業機械、注視反応時間計測方法、及び操作主体感算出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態に係る注視反応時間計測システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る作業機械を示す側面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る遠隔操作装置を示す側面図である。
【
図4】前記遠隔操作装置の表示器における表示領域を示す図である。
【
図5】前記注視反応時間計測システムのコントローラが行う演算処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】前記遠隔操作装置の表示器における表示領域を示す図である。
【
図7】前記遠隔操作装置の表示器における表示領域を示す図である。
【
図8】前記遠隔操作装置の表示器における表示領域を示す図である。
【
図9】注視反応時間と操作主体感の度合いとの関係の一例を示すグラフである。
【
図10】前記遠隔操作装置の表示器における表示領域を示す図である。
【
図11】前記遠隔操作装置の表示器における表示領域を示す図である。
【
図12】前記実施形態の変形例に係る注視反応時間計測システムの構成の一部を示すブロック図である。
【
図13】操作者ごとの作業機械の動特性と注視反応時間との関係のイメージを示すグラフである。
【
図14】操作者ごとの作業機械の速度特性と注視反応時間との関係のイメージを示すグラフである。
【
図15】視覚刺激に対する操作者の注視行動を解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1~
図4に示すように、本実施形態に係る注視反応時間計測システム100は、作業装置3を含む作業機械200を操作する操作者OPの注視点に関する注視点情報を取得する注視点情報取得器20と(
図1、
図3参照)、操作者OPが視認することが可能な視認可能領域Vにおいて作業装置3とは異なる視認対象60(
図4参照)に操作者OPが反応する時間である注視反応時間RTを前記注視点情報を用いて計測するコントローラ101(
図1参照)と、を備える。
【0031】
図1に示すように、注視反応時間計測システム100は、作業機械200と、遠隔操作装置300と、管理装置400と、を含む。作業機械200は、例えば作業現場500(
図4参照)に配置される。遠隔操作装置300は、作業機械200から離れた場所に配置される。管理装置400は、作業機械200及び遠隔操作装置300から離れた場所に配置されてもよく、作業機械200と同じ場所に配置されてもよく、遠隔操作装置300と同じ場所に配置されてもよい。管理装置400は、例えばサーバを含んでいてもよい。
【0032】
図1に示すように、作業機械200は、作業機械200の動作を制御する作業機械コントローラ201と、通信機器210と、を備える。遠隔操作装置300は、遠隔操作装置コントローラ301と、通信機器310と、を備える。管理装置400は、管理装置コントローラ401と、通信機器410と、を備える。注視反応時間計測システム100のコントローラ101は、作業機械コントローラ201と、遠隔操作装置コントローラ301と、管理装置コントローラ401と、を含む。すなわち、作業機械コントローラ201、遠隔操作装置コントローラ301、及び管理装置コントローラ401のそれぞれは、注視反応時間計測システム100のコントローラ101の一部を構成するコントローラユニットである。作業機械コントローラ201、遠隔操作装置コントローラ301及び管理装置コントローラ401のそれぞれは、演算処理装置と、メモリと、を含むコンピュータを備える。作業機械200、遠隔操作装置300及び管理装置400は、通信機器210,310,410を用いて無線又は有線で情報を相互に伝達することが可能である。
【0033】
図2に示すように、作業機械200は、下部走行体1と、上下方向の旋回軸Z回りに旋回可能に下部走行体1に支持される上部旋回体2と、上部旋回体2に支持される作業装置3と、を備える。下部走行体1は、下部フレームと、下部フレームを支持する走行装置と、を備える。前記走行装置は、例えば左右一対のクローラと、これらのクローラを駆動する走行モータと、を含む。上部旋回体は、前記下部フレームに支持される旋回フレームと、旋回フレームに支持されるキャビン2Aと、カウンタウエイト2Bと、を備える。作業装置3は、上部旋回体2に回動可能に支持されるブーム4と、ブーム4の先端部に回動可能に支持されるアーム5と、アーム5の先端部に回動可能に支持される先端アタッチメント6と、を備える。先端アタッチメント6は、
図1に示す具体例ではバケットであるが、バケットに限られず、破砕機、フォークなどの他の先端アタッチメントであってもよい。
【0034】
作業機械200は、複数のアクチュエータと、複数のアクチュエータを駆動する図略の駆動装置と、をさらに備える。複数のアクチュエータは、上部旋回体2に対してブーム4を回動させるためのブームシリンダ7と、ブーム4に対してアーム5を回動させるためのアームシリンダ8と、アーム5に対して先端アタッチメント6を回動させるための先端アタッチメントシリンダ9と、下部走行体1に対して上部旋回体2を旋回させるための旋回モータ10と、前記走行モータと、を含む。
【0035】
複数のアクチュエータのそれぞれは、油圧アクチュエータであってもよく、電動アクチュエータであってもよい。複数のアクチュエータが油圧アクチュエータを含む場合には、前記駆動装置は、エンジンなどの駆動源により駆動されて作動油を吐出する油圧ポンプと、コントロールバルブと、を含む油圧回路を備える。複数のアクチュエータが電動アクチュエータを含む場合には、前記駆動装置は、バッテリーを含む電気回路を備える。
【0036】
作業機械200は、物体情報取得器30と、センサ群31と、表示器32と、操作器33と、をさらに備える。
【0037】
物体情報取得器30は、作業現場に存在する物体に関する物体情報を取得することが可能なように構成される。物体情報取得器30は、取得した物体情報を出力する。出力された物体情報は、コントローラ101に入力される。具体的には、出力された物体情報は、作業機械コントローラ201に入力されてもよく、遠隔操作装置コントローラ301に入力されてもよく、管理装置コントローラ401に入力されてもよい。
【0038】
物体情報取得器30は、例えば、作業現場の画像情報を検出する撮像器を含んでいてもよい。この撮像器は、例えば
図2に示すように作業機械200の特定部位に配置される。特定部位は、例えば、キャビン2Aにおいて操作者が座席に座る場合における操作者の目の高さ位置に近い位置であってもよく、他の位置であってもよい。
【0039】
前記撮像器は、作業現場の撮像対象についての縦横の二次元情報を検出するカメラを含むものであってもよい。コントローラ101は、当該カメラから入力される物体情報を含む画像データと、後述する注視点情報と、を用いて、注視反応時間を計測してもよい。
【0040】
また、前記撮像器は、作業現場の撮像対象の三次元情報を検出する三次元情報検出器を含んでいてもよい。コントローラ101は、当該三次元情報検出器から入力される物体情報を含む画像データと、後述する注視点情報と、を用いて、注視反応時間を計測してもよい。
【0041】
この三次元情報検出器は、例えば、撮像対象についての縦横の2次元情報と、撮像対象についての奥行きの情報と、を検出することが可能な3次元カメラであってもよい。3次元カメラは、ステレオ方式の3次元カメラ(ステレオカメラ)であってもよく、TOF(Time of Flight)方式の3次元カメラであってもよく、プロジェクターとカメラとを組み合わせた3次元カメラであってもよい。TOF方式の3次元カメラは、例えばLiDAR(Light Detection And Ranging)であってもよい。
【0042】
センサ群31に含まれる各センサは、作業機械200の動作を制御するために必要な種々のデータを取得する。表示器32は、作業機械200による作業において必要な情報を操作者に提示する。操作器33は、作業装置3を動作させるための操作者による操作を受ける操作レバー、操作ペダルなどを含む。なお、操作者は、遠隔操作装置300を用いて作業機械200を操縦することが可能であり、作業機械200のキャビン2Aにおいて操作器33を用いて作業機械200を操縦することも可能である。
【0043】
遠隔操作装置300は、注視点情報取得器20と、表示器40と、操作器50と、座席90と、をさらに備える。
【0044】
注視点情報取得器20は、作業装置3を含む作業機械200を操作する操作者OPの注視点に関する注視点情報を取得することが可能なように構成される。注視点情報取得器20は、取得した注視点情報を出力する。出力された注視点情報は、コントローラ101に入力される。具体的には、出力された注視点情報は、作業機械コントローラ201に入力されてもよく、遠隔操作装置コントローラ301に入力されてもよく、管理装置コントローラ401に入力されてもよい。
【0045】
注視点情報取得器20は、操作者OPの視線を検出することが可能な視線検出器を含んでいてもよい。この視線検出器は、例えば
図3に示すように操作者OPの頭部に装着されるヘッドマウント装置に搭載されていてもよく、操作者OPの頭部から離れた位置に配置されていてもよい。視線検出器としては、例えばアイトラッカーと称されるものを用いることができる。注視点情報取得器20は、操作者OPの視線を含む注視点情報を出力し、コントローラ101は、その注視点情報を用いて、操作者OPの注視点を算出してもよい。
【0046】
表示器40は、作業機械200が配置された作業現場500の画像を表示する表示領域41(
図4参照)を有する。操作器50は、作業装置3を動作させるための操作者による操作を受ける操作レバー51,52、操作ペダルなどを含む。操作者OPは、座席90に座って作業機械200を操縦する。
【0047】
表示器40は座席90の前方に配置され、この座席90に座る操作者OPは、主に表示器40の表示領域41を見ながら操作器50を操作することにより作業機械200を操縦する。従って、操作者OPが作業機械200を操縦しているときに操作者OPが視認することが可能な視認可能領域Vは、主に座席90の前方の領域である。視認可能領域Vは、少なくとも表示器40の表示領域41を含む。また、視認可能領域Vは、例えば
図3に示すように表示器40の表示領域41と、その周辺の領域と、を含んでいてもよい。具体的には、前記周辺の領域は、表示器40の表示領域41よりも上の領域と、表示領域41よりも下の領域と、表示領域41よりも右の領域と、表示領域41よりも左の領域と、を含んでいてもよい。
【0048】
管理装置コントローラ401は、画像処理部と、視覚刺激提示部と、注意喚起提示部と、注視反応時間計測部と、操作主体感算出部と、を含む。画像処理部、視覚刺激提示部、注意喚起提示部、注視反応時間計測部、及び操作主体感算出部のそれぞれは、コントローラ101のメモリ(例えば、管理装置コントローラ401のメモリ)に記憶された制御プログラムが実行されることにより実現される。
【0049】
画像処理部は、物体情報取得器30から入力される画像データの画像処理を行う。具体的には例えば、画像処理部は、物体情報取得器30からコントローラ101に入力される画像データを用いて、視認可能領域V(表示領域41)に作業装置3とは異なる対象物体60Aが現れたか否かを判定してもよい。
【0050】
視覚刺激提示部は、予め設定された表示条件が満たされた場合に視認可能領域Vに後述する視覚刺激60Bを表示器40に表示させるための指令を出力する。
【0051】
注意喚起提示部は、視認可能領域Vにおいて対象物体60Aの近くに注意喚起画像62を表示器40に表示させるための指令を出力する。
【0052】
注視反応時間計測部は、視認可能領域Vにおいて作業装置3とは異なる視認対象60に操作者OPが反応する時間である注視反応時間RTを前記注視点情報を用いて計測する。
【0053】
操作主体感算出部は、注視反応時間RTの計測結果を用いて操作者OPの操作主体感の度合いを算出する。
【0054】
注視反応時間計測システム100は、注視反応時間を計測する方法である本実施形態に係る注視時間計測方法に用いられる。また、注視反応時間計測システム100は、操作者の操作主体感の度合いを算出する方法である操作主体感算出方法に用いられる。
【0055】
前記注視時間計測方法は、作業装置3を含む作業機械200を操作する操作者OPの注視点に関する注視点情報を取得することと、操作者OPが視認することが可能な視認可能領域Vにおいて作業装置3とは異なる視認対象60に操作者OPが反応する時間である注視反応時間RTを、注視反応時間計測システム100のコントローラ101が前記注視点情報を用いて計測することと、を含む。前記操作主体感算出方法は、前記注視反応時間計測方法の前記ステップに加え、注視反応時間RTを用いて操作者OPの操作主体感の度合いを算出することをさらに含む。前記注視反応時間計測方法及び前記操作主体感算出方法では、視認対象60に操作者OPが反応する注視反応時間RTを計測することが可能であり、また、注視反応時間RTを用いて操作主体感の度合いを算出することが可能である。注視反応時間RTの計測及び操作主体感の度合いの算出では、作業機械200による作業を中断する必要はなく、また、頭部運動の量を表す値を計測する必要もない。従って、作業機械200による作業効率の低下を抑制しながら、作業機械200を操作する操作者OPの操作主体感の度合いを作業関係者が把握することが可能になる。
【0056】
図4は、遠隔操作装置300の表示器40における表示領域41を含む視認可能領域Vを示す図である。
図4において、視認可能領域Vにおける表示領域41には、視認対象60が表示されている。この視認対象60は、作業装置3とは異なる画像である。視認対象60は、作業現場500に存在する物体である対象物体60Aの画像(
図6参照)であってもよく、作業現場500に存在する物体の画像ではない視覚刺激60Bの画像(
図10参照)であってもよい。対象物体60Aの画像は、例えば、作業現場500に存在する人の画像であってもよく、作業現場500において作業の障害になる障害物の画像であってもよく、作業現場に存在する他の物の画像であってもよい。前記障害物は、例えばダンプ、岩石、倒木などであってもよい。視覚刺激60Bの画像は、例えば、特定の色と形状を有する画像であってもよい。視覚刺激60Bの画像は、視認可能領域Vにおいて特定の場所に表示されてもよく、不特定の場所にランダムに表示されてもよい。また、視覚刺激60Bの画像は、例えば、天候、時刻などの情報を含むものであってもよい。
【0057】
例えば
図4に示すように作業機械200により地盤を掘削する掘削作業が行われている場合、操作者OPは、通常、作業装置3の先端アタッチメント6又はその近傍を見ながら、遠隔操作装置300の操作器50を操作することにより作業機械200を遠隔操作する。具体的には、操作者OPは、例えば、視認可能領域Vにおける表示領域41に表示されている先端アタッチメント6の近傍の位置P0を見ながら操作器50を操作する。
【0058】
このような操作中には、操作者OPの注意は、主に先端アタッチメント6の近傍の位置P0に向けられているが、位置P0の周辺にも多少の注意が払われている。従って、このような操作中に視認可能領域Vに視認対象60が表示され、操作者OPがその視認対象60の気配を感じると、操作者OPの視線は、位置P0から視認対象60に向かって移動する。具体的には、操作者OPの視線は、例えば
図4に示すように、位置P0から位置P1を経て、位置P2に移動する場合があり、また、位置P0から位置P1及び位置P2を経て、位置P3に移動する場合もある。位置P3は、視認対象60の画像の範囲に含まれる位置である。位置P0,P1,P2のそれぞれは、視認対象60の画像の範囲には含まれない位置である。位置P0,P1は、視認対象60の画像の範囲から比較的大きく離れた位置であるが、位置P2は、視認対象60の画像の範囲に近い位置である。
【0059】
本実施形態では、視認対象60を基準にして注視判定範囲61が設定されている。注視判定範囲61は、視認対象60の画像の範囲に一致する範囲であってもよく、視認対象60の画像の範囲よりも広い範囲であってもよい。
図4に示す具体例では、注視判定範囲61は、二点鎖線の丸で示されており、視認対象60の画像を含み、かつ、視認対象60の画像の範囲よりも広い。注視判定範囲61は、操作者OPの注視点が視認対象60に移動したこと又は視認対象60の近傍に移動したことを判定することが可能な範囲に設定される。
【0060】
操作器50を操作しているときの操作者OPの操作主体感が低い場合には、先端アタッチメント6又はその近傍の部位(例えば位置P0)に対する注意の配分の度合いが増加し、その結果、作業装置3の先端アタッチメント6とは異なる視認対象60への視線の移動が遅れる。すなわち、操作者OPの操作主体感と、視認対象60に対して操作者OPが反応する時間である注視反応時間RTと、の間には相関がある。従って、注視反応時間RTは、操作者OPの操作主体感の度合いの評価の指標として用いることが可能である。
【0061】
コントローラ101は、視認可能領域Vにおいて視認対象60に操作者OPが反応する注視反応時間RTを、注視点情報取得器20からコントローラ101に入力される注視点情報を用いて計測する。本実施形態では、注視反応時間RTは、計測開始時点から注視判定範囲61に操作者OPの注視点が移動するまでの時間である。前記計測開始時点は、視認可能領域Vに視認対象60(例えば視覚刺激60B)が表示された時点であってもよく、視認可能領域Vに視認対象60(例えば対象物体60A)が現れた時点であってもよい。
【0062】
図5は、注視反応時間計測システム100のコントローラ101が行う演算処理の一例を示すフローチャートである。
【0063】
コントローラ101は、視認可能領域Vに含まれる表示領域41に対象物体60Aが現れたか否かを判定する(ステップS11)。表示領域41に対象物体60Aが現れた場合には(ステップS11においてYES)、コントローラ101は、ステップS12以降の処理を実行し、表示領域41に対象物体60Aが現れていない場合には(ステップS11においてNO)、コントローラ101は、ステップS18以降の処理を実行する。
【0064】
図6は、対象物体60Aが作業現場500に存在する人である場合を例示している。
図6に示すように表示領域41に対象物体60Aが現れた場合、コントローラ101は、その時点における時刻t1を記憶する(ステップS12)。この時刻t1は、注視反応時間の計測開始時点である。
【0065】
次に、コントローラ101は、対象物体60Aの近くに注意喚起画像62を表示器40に表示させるための指令を出力する(ステップS13)。
図7に示す具体例では、注意喚起画像62は、対象物体60Aの周りを囲むように表示される枠画像63と、その近傍に表示される注意喚起マーク64と、を含む。ただし、注意喚起画像62は、
図7に示す具体例に限られず、作業機械200の近くに対象物体60Aが現れたことを操作者に報知することが可能な画像であればよい。
【0066】
次に、コントローラ101は、操作者OPの注視点が注視判定範囲に移動したか否か、すなわち操作者OPの注視点が対象物体60A又はその近傍に移動したか否かを判定する(ステップS14)。注視判定範囲は、対象物体60Aの画像に一致する範囲であってもよく、対象物体60Aの画像を含み、かつ、対象物体60Aの画像よりも広い範囲であってもよい。この注視判定範囲は、例えば
図4における注視判定範囲61と同様に、操作者OPの注視点が対象物体60A又はその近傍に移動したことを判定することが可能な範囲に設定される。
【0067】
操作者OPの注視点が前記注視判定範囲に移動した場合には(ステップS14においてYES)、コントローラ101は、ステップS15以降の処理を実行し、操作者OPの注視点が前記注視判定範囲に移動していない場合には(ステップS14においてNO)、コントローラ101は、ステップS14の処理を実行する。
【0068】
操作者OPの注視点が前記注視判定範囲に移動した場合、コントローラ101は、その時点における時刻t2を記憶する(ステップS15)。この時刻t2は、注視反応時間の計測完了時点である。
【0069】
次に、コントローラ101は、メモリに記憶された時刻t1と時刻t2とを用いて、注視反応時間RT(RT=t2-t1)を算出する(ステップS16)。なお、以下では、時刻t1と時刻t2を用いて算出される注視反応時間RTのことを第1注視反応時間RTと称することがある。
【0070】
次に、コントローラ101は、注視反応時間RTの計測結果を用いて操作者OPの操作主体感の度合いを算出する(ステップS17)。具体的には例えば、コントローラ101は、予めメモリに記憶された
図9に示すマップと、注視反応時間RTの計測結果と、を用いて、操作者OPの操作主体感の度合いを算出してもよい。
図9示すマップは、注視反応時間RTと、操作主体感と、の関係を規定する関数である。このマップは、注視反応時間RTが長くなるにつれて操作主体感の度合いが低くなるような特性を示している。ただし、注視反応時間RTの計測結果を用いて操作者OPの操作主体感の度合いを算出するためのマップは、
図9に示す具体例に限られない。
【0071】
そして、コントローラ101は、ステップS11以降の処理を繰り返す。
【0072】
なお、ステップS13において、コントローラ101は、注視反応時間に応じた表示態様、すなわち操作者の操作主体感の度合いに応じた表示態様で、対象物体60Aの近くに注意喚起画像62を表示器40に表示させるための指令を出力してもよい。
【0073】
具体的には例えば、注視反応時間RTが予め設定された反応時間閾値よりも小さい場合、すなわち操作者OPの操作主体感の度合いが高い場合には、コントローラ101は、例えば
図7に示すように、注意喚起画像62のサイズを小さくしたり、注意喚起画像62の色をあまり目立たない色にしたりするというような表示態様で注意喚起画像62を表示器40表示させてもよい。これにより、注意喚起画像62に対して操作者OPの注意が過度に注がれることを抑制できる。また、注視反応時間RTが前記反応時間閾値以上である場合、すなわち操作者OPの操作主体感の度合いが低い場合には、コントローラ101は、例えば
図8に示すように、注意喚起画像62のサイズを大きくしたり、注意喚起画像62の色を目立つ色にしたりするというような表示態様で注意喚起画像62を表示器40に表示させてもよい。これにより、視認可能領域Vにおける表示領域41に現れる対象物体60Aを操作者OPに確実に認識させることができる。
【0074】
図5に示すフローチャートの演算処理の開始後、コントローラ101が注視反応時間RT(操作主体感の度合い)を一度も算出していない場合、コントローラ101は、表示態様を決める基準となる注視反応時間又は操作主体感の度合いとして、例えば予め設定されたデフォルト値を用いてもよい。
図5に示すフローチャートの演算処理の開始後、コントローラ101が注視反応時間RT(操作主体感の度合い)を少なくとも1回算出している場合、コントローラ101は、表示態様を決める基準となる注視反応時間又は操作主体感の度合いとして、例えば、直近に算出された注視反応時間又は操作主体感の度合いを用いてもよく、算出された注視反応時間の平均値又は算出された操作主体感の度合いの平均値を用いてもよい。
【0075】
次に、
図5のステップS18以降の処理について説明する。表示領域41に対象物体60Aが現れていない場合には(ステップS11においてNO)、コントローラ101は、ステップS18の処理を行う。ステップS18において、コントローラ101は、注視反応時間(操作主体感の度合い)を算出せずに所定時間が経過したか否かを判定する。この場合、コントローラ101は、視認可能領域Vにおける表示領域41に対象物体60Aが現れていない状態で前記所定時間が経過したか否かを判定してもよい。
【0076】
図5に示すフローチャートの演算処理の開始後、コントローラ101が注視反応時間(操作主体感の度合い)を一度も算出していない場合、コントローラ101は、前記所定時間の計測を開始する時点(基準時点の一例)として、予め設定されたデフォルトの時点を用いてもよい。デフォルトの時点は、例えば、
図5に示すフローチャートの演算処理が開始された時点であってもよい。
図5に示すフローチャートの演算処理の開始後、コントローラ101が注視反応時間(操作主体感の度合い)を少なくとも1回算出している場合、コントローラ101は、前記所定時間の計測を開始する時点として、例えば、前回に注視反応時間RTを算出した時点又は前回に操作主体感の度合いを算出した時点を用いてもよい。この場合、コントローラ101は、前回に注視反応時間RTを算出した時点又は前回に操作主体感の度合いを算出した時点で所定時間をリセットした後にステップS11の処理に戻ってもよい。
【0077】
前記所定時間が経過した場合には(ステップS18においてYES)、コントローラ101は、ステップS19以降の処理を実行し、前記所定時間が経過していない場合には(ステップS18においてNO)、コントローラ101は、ステップS11以降の処理を実行する。
【0078】
前記所定時間が経過した場合、コントローラ101は、視認可能領域Vに視覚刺激60Bを表示させるための指令を出力する(ステップS19)。具体的には、コントローラ101は、例えば
図10に示すように視認可能領域Vにおける表示領域41に視覚刺激60Bを表示させてもよく、例えば
図11に示すように視認可能領域Vの範囲内であるが表示領域41の範囲外に視覚刺激60Bを表示させてもよい。視覚刺激60Bが表示領域41の範囲外に表示される場合、視覚刺激60Bが表示領域41に表示される作業現場500の画像の邪魔にならない。
【0079】
次に、コントローラ101は、その時点における時刻t3を記憶する(ステップS20)。この時刻t3は、注視反応時間の計測開始時点である。
【0080】
次に、コントローラ101は、操作者OPの注視点が注視判定範囲に移動したか否か、すなわち操作者OPの注視点が視覚刺激60B又はその近傍に移動したか否かを判定する(ステップS21)。注視判定範囲は、視覚刺激60Bの画像に一致する範囲であってもよく、視覚刺激60Bの画像を含み、かつ、視覚刺激60Bの画像よりも広い範囲であってもよい。この注視判定範囲は、例えば
図4における注視判定範囲61と同様に、操作者OPの注視点が視覚刺激60B又はその近傍に移動したことを判定することが可能な範囲に設定される。
【0081】
操作者OPの注視点が前記注視判定範囲に移動した場合には(ステップS21においてYES)、コントローラ101は、ステップS22以降の処理を実行し、操作者OPの注視点が前記注視判定範囲に移動していない場合には(ステップS21においてNO)、コントローラ101は、ステップS21の処理を実行する。
【0082】
操作者OPの注視点が前記注視判定範囲に移動した場合、コントローラ101は、その時点における時刻t4を記憶し(ステップS22)、視覚刺激60Bの画像が表示器40に表示されないような制御を行う(ステップS23)。この時刻t4は、注視反応時間の計測完了時点である。
【0083】
次に、コントローラ101は、メモリに記憶された時刻t3と時刻t4とを用いて、注視反応時間RT(RT=t4-t3)を算出する(ステップS16)。なお、以下では、時刻t3と時刻t4を用いて算出される注視反応時間RTのことを第2注視反応時間RTと称することがある。
【0084】
次に、コントローラ101は、第2注視反応時間RTの計測結果を用いて操作者OPの操作主体感の度合いを算出する(ステップS17)。具体的には例えば、コントローラ101は、予めメモリに記憶されたマップと、第2注視反応時間RTの計測結果と、を用いて、操作者OPの操作主体感の度合いを算出してもよい。なお、第2注視反応時間RTとともに用いられる当該マップは、第1注視反応時間RTとともに用いられる
図9に示すマップと同じものであってもよく、異なるものであってもよい。ただし、第2注視反応時間RTとともに用いられる当該マップは、第2注視反応時間RTと、操作主体感と、の関係を規定する関数であり、注視反応時間RTが長くなるにつれて操作主体感の度合いが低くなるような特性を示している点で、
図9に示すマップと共通している。
【0085】
そして、コントローラ101は、ステップS11以降の処理を繰り返す。
【0086】
以上説明したように、本実施形態に係る注視反応時間計測システム100は、作業装置3を含む作業機械200を操作する操作者OPの注視点に関する注視点情報を取得する注視点情報取得器20と、操作者OPが視認することが可能な視認可能領域Vにおいて作業装置3とは異なる視認対象60に操作者OPが反応する時間である注視反応時間RTを注視点情報を用いて計測するコントローラ101と、を備える。この注視反応時間計測システム100では、作業機械200による作業効率の低下を抑制しながら、作業機械200を操作する操作者OPの操作主体感の度合いを作業関係者が把握することが可能になる。
【0087】
本実施形態では、コントローラ101は、注視反応時間RTとして、視認可能領域Vに視認対象60が表示された時点又は視認可能領域Vに視認対象60が現れた時点から、視認対象60を基準に設定される範囲である注視判定範囲61に操作者OPの注視点が移動するまでの時間を計測する。従って、注視反応時間RTの計測の開始と当該計測の完了を適切なタイミングで行うことができ、注視反応時間RTの計測の完了を示す注視点の位置を、設定された注視判定範囲61を用いて適切に判定することができる。
【0088】
本実施形態では、視認対象60は、視認可能領域Vに表示される視覚刺激60Bを含み、コントローラ101は、予め設定された表示条件が満たされた場合に視認可能領域Vに視覚刺激60Bを表示させるための指令を出力する。従って、予め設定された表示条件が満たされると視認可能領域Vに視覚刺激60Bが表示され、表示された視覚刺激60Bに操作者OPが反応する注視反応時間RT、すなわち、その時点における操作者OPの操作主体感に相関する注視反応時間RTが計測される。
【0089】
本実施形態では、前記表示条件は、基準時点から所定時間が経過することを含む。従って、基準時間から所定時間が経過すると視認可能領域Vに視覚刺激60Bが表示される。なお、前記表示条件は、基準時点から所定時間が経過することでなくてもよく、例えば、操作者OPが図略の入力器に対して、視認可能領域Vに視覚刺激60Bを表示させるための入力を行ったことであってもよく、他の条件であってもよい。
【0090】
本実施形態では、視認対象60は、作業機械200が配置された作業現場500に存在する物体である対象物体60Aを含む。従って、作業現場500に実際に存在する物体が視認可能領域Vに現れた場合に、その物体(対象物体60A)を利用して注視反応時間RTを計測することができる。
【0091】
本実施形態では、視認対象60は、視認可能領域Vにおいて対象物体60Aの近くに表示される注意喚起画像62をさらに含む。従って、視認可能領域Vに現れる対象物体60Aの近くに注意喚起画像62が表示されるので、注視反応時間RTの計測結果が、対象物体60Aの種類、大きさなどの対象物体60Aの特性に左右されにくくなる。これにより、対象物体60Aの特性にかかわらず、注視反応時間RTをより正確に計測することができる。
【0092】
本実施形態では、コントローラ101は、注視反応時間RTに応じた表示態様で注意喚起画像62を表示させるための指令を出力する。従って、例えば、計測された注視反応時間RTに応じて注意喚起画像62の表示態様を変えることができるので、操作者OPの操作主体感の度合いに応じた注意喚起画像62を表示させることができる。
【0093】
本実施形態では、視認対象60は、作業機械200が配置された作業現場500に存在する物体である対象物体60Aと、視認可能領域Vに表示される視覚刺激60Bと、を含む。この構成では、対象物体60A及び視覚刺激60Bの少なくとも一方を用いて注視反応時間RTを計測することができる。
【0094】
本実施形態では、コントローラ101は、視認可能領域Vに対象物体60Aが現れた場合には操作者OPが対象物体60Aに反応する時間である第1注視反応時間RTを計測し、所定時間内に視認可能領域Vに対象物体60Aが現れない場合には視認可能領域Vに視覚刺激60Bを表示させるための指令を出力し、操作者OPが視覚刺激60Bに反応する時間である第2注視反応時間RTを計測する。従って、作業現場500に存在する物体(対象物体60A)が視認可能領域Vに現れた場合には、その対象物体60Aを利用して注視反応時間RTを計測することができ、視認可能領域Vに対象物体60Aが現れない場合であっても、視認可能領域Vに視覚刺激60Bを表示させることにより、注視反応時間RTを計測することができる。
【0095】
本実施形態では、コントローラ101は、注視反応時間RTの計測結果を用いて操作者OPの操作主体感の度合いを算出する。算出された操作主体感の度合いに関するデータは、例えば、作業機械200による作業効率の改善に利用されてもよい。
【0096】
本実施形態に係る遠隔操作装置300は、作業装置3を含む作業機械200を操作者OPが遠隔操作するための装置であって、作業機械200が配置された作業現場500の画像を表示する表示領域41を有する表示器40と、操作者OPの注視点に関する注視点情報を取得する注視点情報取得器20と、を備える。注視点情報取得器20は、操作者OPが視認することが可能な領域であって表示領域41を含む視認可能領域Vにおいて作業装置3とは異なる視認対象60に操作者OPが反応する時間である注視反応時間RTをコントローラ101が注視点情報を用いて計測することが可能なように、注視点情報を出力する。この遠隔操作装置300では、注視点情報取得器20は、注視点情報を取得し、コントローラ101が当該注視点情報を用いて注視反応時間RTを計測することが可能なようにその注視点情報を出力する。従って、作業機械200による作業効率の低下を抑制しながら、作業関係者が操作者OPの操作主体感の度合いを把握することが可能になる。
【0097】
本実施形態に係る作業機械200は、作業装置3と、作業現場500に存在する物体に関する物体情報を取得する物体情報取得器30と、を備える。物体情報取得器30は、操作者OPが視認することが可能な視認可能領域Vにおいて作業装置3とは異なる視認対象60に操作者OPが反応する時間である注視反応時間RTをコントローラ101が操作者OPの注視点に関する注視点情報を用いて計測することが可能なように、物体情報を出力する。この作業機械200では、物体情報取得器30は、物体情報を取得し、コントローラ101が注視点情報を用いて注視反応時間RTを計測することが可能なようにその物体情報を出力する。従って、作業機械200による作業効率の低下を抑制しながら、作業関係者が操作者OPの操作主体感の度合いを把握することが可能になる。
【0098】
本実施形態に係る管理装置400は、作業装置3を含む作業機械200を操作する操作者OPが視認することが可能な視認可能領域Vにおいて作業装置3とは異なる視認対象60に操作者OPが反応する時間である注視反応時間RTを、操作者OPの注視点に関する注視点情報を用いて計測する。この管理装置400では、視認対象60に操作者OPが反応する注視反応時間RTを計測することが可能であり、この注視反応時間RTの計測では、作業機械200による作業を中断する必要はなく、また、頭部運動の量を表す値を計測する必要もない。従って、作業機械200による作業効率の低下を抑制しながら、作業関係者が操作者OPの操作主体感の度合いを把握することが可能になる。
【0099】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例を含む。
【0100】
(A)制御パラメータの調節について
コントローラ101は、注視反応時間RTに応じて作業機械200の制御パラメータを調節してもよい。注視反応時間RTが長い場合には操作者OPの操作主体感の度合いが低いので、このような場合には、コントローラ101は、作業機械200の制御パラメータを注視反応時間RTに応じて調節することで作業機械200の動作の特性をその操作者OPに適した状態に近づけることが可能である。
【0101】
前記制御パラメータは、例えば、作業機械200の動特性に関する制御パラメータであってもよく、作業機械200の速度特性に関する制御パラメータであってもよく、作業機械200の他の特性に関する制御パラメータであってもよい。動特性に関する制御パラメータは、例えば、ブーム4、アーム5、先端アタッチメント6などのように作業装置3に含まれる可動部の動作に関する時定数であってもよく、上部旋回体2の旋回に関する時定数であってもよい。速度特性に関する制御パラメータは、例えば、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、先端アタッチメントシリンダ9、旋回モータ10などのアクチュエータの動作速度であってもよく、前記可動部の動作速度であってもよく、上部旋回体2の旋回の動作速度であってもよい。
【0102】
この変形例に係る注視反応時間計測システム100では、例えば
図12のブロック図に示すように、コントローラ101(例えば作業機械コントローラ201)は、動特性設定部と、速度特性設定部と、最適動特性演算部と、最適速度特性演算部と、を備えていてもよい。前記動特性設定部、前記速度特性設定部、前記最適動特性演算部、及び前記最適速度特性演算部のそれぞれは、コントローラ101のメモリに記憶された制御プログラムが実行されることにより実現される。なお、前記動特性設定部、前記速度特性設定部、前記最適動特性演算部、及び前記最適速度特性演算部は、作業機械コントローラ201ではなく、遠隔操作装置コントローラ301に備えられていてもよく、管理装置コントローラ401に備えられていてもよい。
【0103】
コントローラ101の注視反応時間計測部(例えば管理装置コントローラ401の注視反応時間計測部)が前記注視点情報を用いて注視反応時間RTを計測すると、前記最適動特性演算部は、計測された注視反応時間RTに応じて、作業機械200の動特性に関する制御パラメータの修正値を演算し、前記動特性設定部は、動特性に関する制御パラメータを前記修正値に変更する。また、前記最適速度特性演算部は、計測された注視反応時間RTに応じて、作業機械200の速度特性に関する制御パラメータの修正値を演算し、前記速度特性設定部は、速度特性に関する制御パラメータを前記修正値に変更する。
【0104】
図13は、操作者ごとの作業機械の動特性と注視反応時間との関係のイメージを示すグラフであり、
図14は、操作者ごとの作業機械の速度特性と注視反応時間との関係のイメージを示すグラフである。これらのグラフのそれぞれにおいて、実線で示された操作者Aの曲線は、操作者が作業機械の操縦について十分に慣れていない初心者である場合のものであり、破線で示された操作者Bの曲線は、操作者が作業機械の操縦について熟練した熟練者である場合のものである。
【0105】
図13に示すように、初心者には初心者に適した動特性があり、熟練者には熟練者に適した動特性がある。同様に、
図14に示すように、初心者には初心者に適した速度特性があり、熟練者には熟練者に適した速度特性がある。具体的には例えば、初心者(操作者A)は、動作の応答性が高い場合や動作速度が高い場合には思い通りに操作ができず、操作主体感が低下して注視反応時間RTが長くなると考えられる。ただし、初心者であっても、動作の応答性が過度に低い場合や動作速度が過度に低い場合にも思い通りに操作ができず、操作主体感が低下して注視反応時間RTが長くなると考えられる。一方、熟練者(操作者B)は、動作の応答性が低い場合や動作速度が低い場合には思い通りに操作ができず、操作主体感が低下して注視反応時間RTが長くなると考えられる。ただし、熟練者であっても、動作の応答性が過度に高い場合や動作速度が過度に高い場合にも思い通りに操作ができず、操作主体感が低下して注視反応時間RTが長くなると考えられる。初心者及び熟練者の何れでも、注視反応時間RTが最も短いときには操作主体感の度合いが高いと考えられる。従って、コントローラ101は、計測された注視反応時間RTを用いて、動特性に関する制御パラメータを、一人ひとりの操作者に適した値に調節することができる。同様に、コントローラ101は、計測された注視反応時間RTを用いて、速度特性に関する制御パラメータを、一人ひとりの操作者に適した値に調節することができる。
【0106】
コントローラ101は、必ずしも制御パラメータを前記注視反応時間RTに応じた最適な値に1回の制御で直ちに変更しなくてもよく、制御パラメータを最適な値に向けて段階的に変更してもよい。具体的には例えば、コントローラ101は、制御パラメータを徐々に変更することで注視反応時間が最も短くなるように制御パラメータを設定してもよい。すなわち、コントローラ101は、制御パラメータを探索的に変更することで注視反応時間が最も短くなるような制御パラメータを見つけ、その値に制御パラメータを設定してもよい。また、操作者は、作業機械200の操縦を長時間続けると、疲労が蓄積して注意力が低下する傾向にあり、その時々に計測される注視反応時間RTは、操作者の疲労度合いにも相関すると考えられる。従って、コントローラ101は、作業機械200による作業中に断続的に注視反応時間RTを計測することで、その時々の注視反応時間RTに応じた最適な制御パラメータへの調節、すなわち操作者の疲労度合いに応じた最適な制御パラメータへの調節を行うことも可能である。これにより、操作者の疲労を軽減することも可能になる。
【0107】
(B)作業内容の判定について
コントローラ101は、作業機械200が行う作業内容を判定し、判定した作業内容に応じた表示態様で視覚刺激60Bを表示させるための指令を出力してもよい。この場合、コントローラ101は、作業内容に応じた表示態様で視覚刺激60Bを表示させることができる。表示態様には、例えば、作業内容に応じて視認対象を表示器に表示させるか否かを変えてもよく、作業内容に応じて視認対象の表示位置を変えてもよく、作業内容に応じて表示器40とは別の表示器に表示させてもよい。前記作業内容としては、掘削作業、掘削作業後に行われるブーム4の上げ動作と上部旋回体2の旋回動作を含む持ち上げ旋回作業、ダンプの荷台などに土砂を排土する排土作業、排土作業後に掘削対象に戻る戻り旋回作業、などを例示できるが、作業内容は、これらの具体例に限られない。掘削作業、持ち上げ旋回作業、排土作業、戻り旋回作業などの複数の作業のそれぞれでは、特有の作業装置3の動作が行われること、及び/又は特有の上部旋回体2の旋回動作が行われる。従って、コントローラ101は、予め設定された判定条件に基づいて、作業機械200が行う作業内容を判定することができる。
【0108】
(C)注視反応時間計測システムの構成について
前記実施形態では、注視反応時間計測システム100は、作業機械200と、遠隔操作装置300と、管理装置400と、を含むが、操作者OPが作業機械200の搭乗して作業機械200を操縦する場合には、遠隔操作装置300は、注視反応時間計測システム100に含まれていなくてもよい。
【0109】
また、管理装置400の管理装置コントローラ401の機能を、作業機械コントローラ201及び遠隔操作装置コントローラ301の少なくとも一方が備えている場合には、管理装置400は、注視反応時間計測システム100に含まれていなくてもよい。
【0110】
管理装置400は、作業機械200及び遠隔操作装置300から離れた場所に配置されてもよく、作業機械200と同じ場所に配置されてもよく、遠隔操作装置300と同じ場所に配置されてもよい。
【0111】
(D)操作者が作業機械に搭乗する場合について
前記実施形態では、操作者OPが遠隔操作装置300を用いて作業機械200を遠隔操作するが、このような実施形態に限られない。操作者OPは、作業機械200のキャビン2Aに搭乗して作業機械200を操作してもよく、この場合、前記視認可能領域Vは、コントローラ101において、例えば、物体情報取得器30の視野範囲に一致する範囲に設定されていてもよく、物体情報取得器30の視野範囲のうちの一部に設定されていてもよい。具体的には、操作者OPが視認することが可能な視認可能領域Vは、主に座席90の前方の領域である。従って、物体情報取得器30の視野範囲を、操作者OPの視認可能領域Vに相当するような範囲、又は、操作者OPの視認可能領域Vを含む範囲に、予め調節することで、コントローラ101は、物体情報取得器30の視野範囲又は当該視野範囲の一部を、操作者OPが視認することが可能な視認可能領域Vとして用いることができる。
【0112】
(E)その他
コントローラ101は、作業内容ごとに注視反応時間RTを計測してもよく、作業内容ごとに操作主体感を算出してもよい。
【0113】
コントローラ101は、算出された操作主体感の度合いを表示器に表示させるための指令を出力するように構成されていてもよい。これにより、操作者、管理者などの作業関係者は、作業中における操作者の操作主体感をリアルタイムで把握することができる。
【0114】
[実施例]
図15は、視覚刺激に対する操作者の注視行動を解析した結果を示すグラフである。
図15の解析結果では、平均反応時間(平均注視反応時間)と自己主体感スコア(操作主体感スコア)(Sense of agency score)について、有意な負の相関関係がみられた(Spearman’sρ=-0.258、p=0.011、欠損値処理:pairwise法)。
【0115】
図15の解析結果を得るために行った実験条件の概要は次の通りである。実験の参加者のうち、実験プロトコル不履行の4名を除き、手指動作や視力に疾病のない35名(女性19名、男性16名、21.714±2.814歳)を有効データとした。テストブロックにおいて、視覚刺激として「正方形マーク」または「ひし形マーク」のいずれかをランダムに提示した。視覚刺激の提示位置は(x,y,z)=(0,15.0,50.0)とした。ドットをゴールゾーンに留めた直後に、提示されていたマークについて手元のキーボード操作(正方形マークであれば左カーソルキー、ひし形マークであれば右カーソルキー)により回答を求めた。ただし、回答時間が0.02sを下回ったトライアルは正答率の解析から除外した。また、注視行動の指標として、視点が視覚刺激および周辺範囲(-1.75≦x≦1.75,-13.25≦y≦16.75)内に置かれた時点を注視とし、各ブロックの合計注視時間、各トライアルのサイクルタイムあたりの注視時間、視覚刺激提示後の注視の反応時間を求めた。各テストブロックではキープレスがドットの動きに反映されるまでの間に0.1s、0.4s、0.7sのいずれかの遅延を発生させた。各遅延発生条件の実施順序は実験参加者ごとにランダムとし、カウンターバランスをとった。なお、実験参加者の視線情報については、市販のアイトラッキングシステムを用いて測定、解析した。算出された視線とプレイエリアの交点を視点とし、各トライアル開始から終了まで記録した。
【符号の説明】
【0116】
3 :作業装置
20 :注視点情報取得器
30 :物体情報取得器
40 :表示器
41 :表示領域
60 :視認対象
60A :対象物体
60B :視覚刺激
61 :注視判定範囲
62 :注意喚起画像
100 :注視反応時間計測システム
101 :コントローラ
200 :作業機械
201 :作業機械コントローラ
300 :遠隔操作装置
301 :遠隔操作装置コントローラ
400 :管理装置
401 :管理装置コントローラ
500 :作業現場
OP :操作者
RT :注視反応時間
V :視認可能領域