(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076650
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】一重項酸素発生剤の使用方法、樹脂組成物および樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20240530BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240530BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20240530BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240530BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L101/00
C08K5/00
C08L101/16 ZBP
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188315
(22)【出願日】2022-11-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/光スイッチ型海洋分解性の可食プラスチックの開発研究」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日野 彰大
(72)【発明者】
【氏名】中山 敦好
(72)【発明者】
【氏名】川崎 典起
(72)【発明者】
【氏名】山野 尚子
(72)【発明者】
【氏名】伊田 小百合
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 真紀
(72)【発明者】
【氏名】増井 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】岡村 秀雄
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002CF031
4J002CF191
4J002EE026
4J002EU026
4J002FD096
4J002FD206
4J200AA04
4J200AA07
4J200BA10
4J200BA11
4J200BA12
4J200BA14
4J200BA15
4J200BA16
4J200BA18
4J200BA20
4J200BA25
4J200CA01
4J200CA08
4J200DA01
4J200DA18
4J200DA26
4J200DA27
4J200EA21
(57)【要約】
【課題】一重項酸素発生剤を生分解性樹脂と共存させることによって、使用時には生分解性樹脂の強度を維持し、廃棄されると速やかに生分解性樹脂の分解が進行する、一重項酸素発生剤の使用方法を提供すること、一重項酸素発生剤と生分解性樹脂とを含む樹脂組成物および成形体を提供すること。
【解決手段】一重項酸素発生剤の使用方法であって、前記一重項酸素発生剤を、生分解性樹脂と共存させることによって、明所で前記生分解性樹脂の分解を抑制し、暗所で前記生分解性樹脂の分解を促進し、前記生分解性樹脂100重量部に対して、前記一重項酸素発生剤を0.01重量部以上5.0重量部以下含む、一重項酸素発生剤の使用方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一重項酸素発生剤の使用方法であって、
前記一重項酸素発生剤を、生分解性樹脂と共存させることによって、明所で前記生分解性樹脂の分解を抑制し、
前記生分解性樹脂100重量部に対して、前記一重項酸素発生剤を0.01重量部以上5.0重量部以下含む、一重項酸素発生剤の使用方法。
【請求項2】
前記生分解性樹脂に前記一重項酸素発生剤を含有させて成形体とする、請求項1に記載の使用方法。
【請求項3】
前記一重項酸素発生剤は、有機色素である、請求項1または請求項2に記載の使用方法。
【請求項4】
前記生分解性樹脂は、脂肪族ポリエステルである、請求項1または請求項2に記載の使用方法。
【請求項5】
生分解性樹脂100重量部と、一重項酸素発生剤0.01重量部以上5.0重量部以下とを含む、前記生分解性樹脂の分解を制御する機能を有する樹脂組成物。
【請求項6】
前記一重項酸素発生剤は、有機色素である、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記生分解性樹脂は、脂肪族ポリエステルである、請求項5または請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5に記載の樹脂組成物からなる樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一重項酸素発生剤の使用方法、樹脂組成物および樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプラスチック製品は石油由来であり、土壌や水中での分解ができなかった。そのため、焼却や埋め立て等の手段で廃棄されてきたが、近年、廃棄による環境への悪影響が懸念されている。このため、環境中の微生物等によって分解される生分解性樹脂が注目されている。
【0003】
特許文献1(特開2016-53128号公報)は、生分解性樹脂と金属酸化物等の光触媒とを含む生分解性樹脂組成物を、特許文献2(特開平5-117507号公報)は、抗菌性の無機金属イオンを含む生分解性プラスチック製品を、特許文献3(特開2001-323177号公報)は、生分解性樹脂と天然由来の有機系抗菌剤とを含む生分解性樹脂組成物を、それぞれ開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-53128号公報
【特許文献2】特開平5-117507号公報
【特許文献3】特開2001-323177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生分解性樹脂は、微生物等の作用により生分解が進行し、劣化するため、劣化に起因する強度等の物性低下を抑制する必要がある。しかし、特許文献1~3に記載の生分解性樹脂組成物等では、この点で改善の余地がある。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、一重項酸素発生剤を生分解性樹脂と共存させることによって、使用時には生分解性樹脂の強度を維持し、廃棄されると生分解性樹脂を分解する、一重項酸素発生剤の使用方法を提供すること、一重項酸素発生剤と生分解性樹脂とを含む樹脂組成物および成形体を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、使用中は太陽光の当たる環境にあり、廃棄後は土壌に埋設され光の当たらなくなる状態になることを想定し、光の照射により活性酸素である一重項酸素を発生させる一重項酸素発生剤を生分解性樹脂に含ませることにより、光照射下では一重項酸素による生分解性樹脂の表面近傍での滅菌作用を奏するため、生分解抑制が可能であると考えた。一方、光が照射されない環境では、一重項酸素が発生しないため、生分解が抑制されず、微生物による分解が速やかに進行するものと考えられる。
【0008】
〔1〕一重項酸素発生剤の使用方法であって、
前記一重項酸素発生剤を、生分解性樹脂と共存させることによって、明所で前記生分解性樹脂の分解を抑制し、
前記生分解性樹脂100重量部に対して、前記一重項酸素発生剤を0.01重量部以上5.0重量部以下含む、一重項酸素発生剤の使用方法。
【0009】
〔2〕前記生分解性樹脂に前記一重項酸素発生剤を含有させて成形体とする、〔1〕に記載の使用方法。
【0010】
〔3〕前記一重項酸素発生剤は、有機色素である、〔1〕または〔2〕に記載の使用方法。
【0011】
〔4〕前記生分解性樹脂は、脂肪族ポリエステルである、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の使用方法。
【0012】
〔5〕生分解性樹脂100重量部と、一重項酸素発生剤0.01重量部以上5.0重量部以下とを含む、前記生分解性樹脂の分解を制御する機能を有する樹脂組成物。
【0013】
〔6〕前記一重項酸素発生剤は、有機色素である、〔5〕に記載の樹脂組成物。
【0014】
〔7〕前記生分解性樹脂は、脂肪族ポリエステルである、〔5〕または〔6〕に記載の樹脂組成物。
【0015】
〔8〕〔5〕から〔7〕のいずれかに記載の樹脂組成物からなる樹脂成形体。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、一重項酸素発生剤を生分解性樹脂と共存させることによって、使用時には生分解性樹脂の強度を維持し、廃棄されると速やかに生分解性樹脂の分解が進行する、一重項酸素発生剤の使用方法を提供することができる。また、一重項酸素発生剤と生分解性樹脂とを含む樹脂組成物および成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、9,10-アントラセンジイルビス(メチレン)ジマロン酸(ABDA)を含む溶液に、一重項酸素発生剤としてテトラフェニルポルフィリン(TPP)を含む樹脂組成物と、テトラアミノフェニルポルフィリン(TAPP)を含む樹脂組成物と、テトラヒドロキシフェニルポルフィリン(THPP)を含む樹脂組成物と、テトラメトキシフェニルポルフィリン(TMOPP)を含む樹脂組成物と、クロロフィルaを含む樹脂組成物とを浸漬させた場合の9,10-アントラセンジイルビス(メチレン)ジマロン酸(ABDA)の吸光度の経時変化を示したグラフである。
【
図2】
図2は、一重項酸素発生剤としてテトラフェニルポルフィリン(TPP)、ローズベンガル(RB)およびクロロフィルaを用いた場合の抗菌活性値を光照射下および暗所で測定した結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、一重項酸素発生剤としてテトラフェニルポルフィリン(TPP)を含む樹脂組成物と、一重項酸素発生剤としてローズベンガル(RB)を含む樹脂組成物と、一重項酸素発生剤を含まない樹脂とを用いた場合の、生分解性樹脂であるポリカプロラクトン(PCL)およびポリ乳酸(PLA)の共重合体に対する生分解率を、光照射下および暗所で測定した結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、一重項酸素発生剤としてテトラヒドロキシフェニルポルフィリン(THPP)を含む樹脂組成物と、一重項酸素発生剤としてテトラアミノフェニルポルフィリン(TAPP)を含む樹脂組成物と、一重項酸素発生剤としてクロロフィルaを含む樹脂組成物とを用いた場合の、生分解性樹脂であるポリカプロラクトン(PCL)およびポリ乳酸(PLA)の共重合体に対する生分解率を、光照射下および暗所で測定した結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、一重項酸素発生剤としてテトラフェニルポルフィリン(TPP)を含む樹脂組成物と、一重項酸素発生剤を含まない樹脂とを用いて、海中に13日間浸漬させた後の重量保持率を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態が説明される。ただし以下の説明は特許請求の範囲を限定するものではない。
【0019】
<一重項酸素発生剤の使用方法>
本開示の一重項酸素発生剤の使用方法は、一重項酸素発生剤を、生分解性樹脂と共存させることによって、明所で生分解性樹脂の分解を抑制する。生分解性樹脂100重量部に対して、一重項酸素発生剤を0.01重量部以上5.0重量部以下含む。
【0020】
(生分解性樹脂)
本開示における生分解性樹脂としては、特に制限はなく、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、有機酸で修飾された糖鎖ポリマー、ポリエチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリアミド4およびこれらの共重合体等が挙げられる。他の共重合体としては、例えば、乳酸-グリコール酸共重合体等が挙げられる。これらの生分解性樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチルサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペートおよびこれらの混合物が好ましい。生分解性樹脂の数平均分子量は、3000~2000000程度、好ましくは5000~1000000程度、より好ましくは10000~500000程度である。数平均分子量は、GPC(gel permeation chromatography)(東ソー(株)社製、HLC-8020)により、ポリスチレンを標準物質として用いて測定することができる。
【0021】
(一重項酸素発生剤)
本開示における一重項酸素発生剤とは、光を吸収したのち基底状態の酸素へエネルギー移動を引き起こし、活性酸素種である一重項酸素を発生させることのできる物質を意味する。一重項酸素は、細菌やウイルスに対して障害性を持つ。
【0022】
一重項酸素発生剤としては、例えば、有機色素、遷移金属錯体等が挙げられる。
【0023】
有機色素としては、例えば、ベンゾフェノン、ローズベンガル、フルオレセイン、エオシンブルー、エリスロシン(赤色3号)、メチレンブルー、クロロフィルa、ポルフィリン誘導体およびその構造異性体、フタロシアニン誘導体、ジアザポルフィリン誘導体、テトラピロール環構造を有する物質等が挙げられる。また、ポルフィリン誘導体およびその構造異性体、フタロシアニン誘導体、ジアザポルフィリン誘導体およびテトラピロール環構造を有する物質は、メタルフリーであってもよく、マグネシウム、亜鉛、カドミウム、パラジウム等の金属が配位していてもよく、アミノ基、ヒドロキシ基、メトキシ基、ニトロ基、アルキル基等の置換基が導入されていてもよい。
【0024】
ポルフィリン誘導体としては、例えば、テトラフェニルポルフィリンおよびその誘導体、オクタエチルポルフィン等が挙げられる。ポルフィリン誘導体の構造異性体としては、例えば、ポルフィセン、コルフィセン、ヘミポルフィセン等が挙げられる。フタロシアニン誘導体としては、例えば、ナフタロシアニン等が挙げられる。ジアザポルフィリン誘導体としては、例えば、10,20-ジフェニル-5,15-ジアザポルフィリン等が挙げられる。テトラピロール構造を有する物質としては、例えば、クロリン、バクテリオクロリン等が挙げられる。
【0025】
遷移金属錯体としては、例えば、ルテニウム錯体が挙げられる。ルテニウム錯体は、配位子が2,2’-ビピリジン、1,10-フェナントロリン、2,2’-ビピラジン、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、ジフェニル-1,10-フェナントロリン-4,7-ジスルフォネート、1,10-フェナントロリン-5-オクタデカンアミドであるものが挙げられる。
【0026】
これらの中でも、有機色素が好ましい。また、生分解性樹脂の分解性の観点から、クロロフィルa、テトラフェニルポルフィリンおよびその誘導体がより好ましい。
【0027】
一重項酸素発生剤の光の吸収帯は、吸収波長域が紫外域から可視域であることが好ましい。一重項酸素発生剤にとって有効な吸収波長域は、100nm~850nm程度であり、紫外域は200nm~400nm程度であり、可視域は400nm~600nm程度である。一重項酸素発生剤の光の吸収帯は、光による生分解性樹脂の劣化を防ぐ観点から、可視域であることがより好ましい。
【0028】
生分解性樹脂100重量部に対して、一重項酸素発生剤を0.01重量部以上5.0重量部以下含む。生分解性樹脂100重量部に対して、一重項酸素発生剤を0.01重量部未満含む場合、十分な抗菌性が発揮されないおそれがある。生分解性樹脂100重量部に対して、一重項酸素発生剤を5.0重量部を超えて含む場合、生分解性樹脂自身の酸化を促進させるため、劣化するおそれがある。生分解性樹脂100重量部に対して、一重項酸素発生剤を0.05重量部以上3.0重量部以下含むことが好ましく、0.1重量部以上1.0重量部以下含むことがより好ましい。
【0029】
(成形体)
本開示においては、生分解性樹脂に一重項酸素発生剤を含有させて成形体として使用してもよい。
【0030】
(使用方法)
本開示における一重項酸素発生剤の使用方法は、一重項酸素発生剤を、生分解性樹脂と共存させることによって、明所で生分解性樹脂の分解を抑制するものである。ここで、明所とは、光が照射された条件下のことをいう。明所としては、例えば、照度が100lx以上の場所、紫外線強度が0.01mW/cm2以上の場所をいう。
【0031】
本開示の使用方法は、明所で生分解性樹脂の分解が抑制されれば、条件に特に制限はない。例えば、温度は、10℃~40℃でもよく、期間は、10日~100日であってもよい。
【0032】
<樹脂組成物>
本開示の樹脂組成物は、生分解性樹脂の分解を制御する機能を有し、生分解性樹脂と、0.01重量部以上5.0重量部以下の一重項酸素発生剤とを含む。なお、生分解性樹脂および一重項酸素発生剤に関して、上記内容と重複する説明は省略する。
【0033】
(その他)
本開示の樹脂組成物は、本開示の目的を阻害しない限り、可塑剤、滑剤、離型剤、難燃剤、帯電防止剤、酸化防止剤、顔料、充填剤等の添加剤を含有してもよい。これらの添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
(樹脂組成物の製造方法)
本開示における樹脂組成物の製造方法は、特に制限はない。樹脂組成物は、例えば、生分解性樹脂と一重項酸素発生剤とを混練することにより、製造することができる。混練は、例えば、2軸熱ロール、バンバリーミキサー、二軸押出機等で常法に従い行うことができる。混練時の条件は、使用する生分解性樹脂や一重項酸素発生剤によって適宜変更すればよい。
【0035】
(用途)
本開示の樹脂組成物は、優れた耐久性や耐候性、抗菌性を有する塗膜を形成できることから、例えば、衣類、手袋、シーツ、布団カバー等の寝具、内装材やその周辺部材に用いられる各種の建材、家具、携帯電話、家電製品、OA機器、自動車内装材等の表面被覆用コーティング剤として好適に使用することができる。
【0036】
本開示の樹脂組成物は、種々の基材上に、コーティング剤として塗装して塗装物を得ることができる。その際に、(1)コーティング剤を基材に直接塗装する、(2)予め基材上に下塗り塗料を塗装してから、コーティング剤を上塗り塗料として塗装する、(3)基材に下塗り塗料としてコーティング剤を塗装し、次いで別の上塗り塗料を塗装し塗膜を形成させる等の塗装方法により塗装物を得ることができる。
【0037】
塗装方法としては、例えば、刷毛塗り、ローラー塗装、スプレー塗装、浸漬塗装、フロー・コーター塗装、ロール・コーター塗装、電着塗装等が挙げられる。
【0038】
<樹脂成形体>
本開示の樹脂成形体は、上記樹脂組成物からなる。
【0039】
本開示の樹脂成形体は、押出成形、真空成形、圧空成形、射出成形、ブロー成形等の方法によって、樹脂組成物を成形することで得ることができる。例えば、農業用や食品包装用のフィルムまたはシート、各種カードや鉄道の切符、園芸用ポット、カップやトレー等の食品用容器、ブリスターパック容器、各種流動体用容器、各種射出成形体、繊維、不織布、ラミネート加工品等の複合材料を得ることができる。
【実施例0040】
以下、実施例が説明される。ただし以下の例は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0041】
本実施例では、以下に示される装置を用いた。なお、紫外可視吸収分光光度計(Ultra violet-visible spectrophotometer)は「UV-Vis」と、生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand)は「BOD」と、それぞれ略記される。
UV-Vis:(株)日立ハイテクサイエンス社製、U-2900
GPC :東ソー(株)社製、HLC-8020
照度計 :(株)T&D社製、TR-74Ui おんどとり
BOD測定器:WTW社製、Oxitop(商標登録) IDS
【0042】
本実施例では、以下に示される試薬等を用いた。なお、ローズベンガルは「RB」と、テトラフェニルポルフィリンは「TPP」と、テトラアミノフェニルポルフィリンは「TAPP」と、テトラヒドロキシフェニルポルフィリンは「THPP」と、テトラメトキシフェニルポルフィリンは「TMOPP」と、それぞれ略記される。TAPP、THPPおよびTMOPPは、TPPの誘導体である。
RB :富士フイルム和光純薬(株)製
TPP :富士フイルム和光純薬(株)製
TAPP :東京化成工業(株)製
THPP :東京化成工業(株)製
TMOPP :東京化成工業(株)製
クロロフィルa:(株)富士エス・エル・アイ製
【0043】
本実施例で用いられる生分解性樹脂は、ポリカプロラクトン(PCL)およびポリ乳酸(PLA)を8:2の割合で共重合させた共重合体である。以下、上記共重合体を単に「PCL/PLA共重合体」とも称する。PCL/PLA共重合体は、開環重合により合成され、クロロホルムおよびメタノールによる再沈殿によって精製された。PCL/PLA共重合体の重量平均分子量および分子量分布は、78000および1.53であった。PCL/PLA共重合体の重量平均分子量および分子量分布は、上記GPC装置を用いて、以下の条件で測定された(標準ポリスチレン換算)。
〔条件〕
カラム:G5000HXL、G4000HXL、G3000HXL(いずれも東ソー(株)社製)
溶出液:クロロホルム
温度 :40℃
流速 :0.5mL/min
【0044】
本実施例で用いられる樹脂組成物および樹脂成形体(フィルム)は、以下のように製造された。生分解性樹脂1.3gおよび一重項酸素発生剤6.5mgを三角フラスコに入れ、クロロホルム15mLに溶解させた。溶解後、該溶液をシャーレに移し、ゆっくりと溶剤を蒸発させることで、樹脂組成物のフィルム(以下、単に「フィルム」とも称する。)を得た。該フィルムは、生分解性樹脂100重量部に対して一重項酸素発生剤を0.5重量部含むものであった。なお、比較対象として、一重項酸素発生剤を含まない樹脂フィルム(PCL/PLA共重合体からなるフィルム)を、同様の方法で作製した。
【0045】
本実施例では、Escherichia coli NBRC3972を試験菌として用いた。該試験菌は、菌株を栄養寒天培地(日水製薬(株)製)で35℃の条件で16時間培養した後、細胞を回収し、1/500の栄養培地で懸濁し、懸濁液を1.0×107/mL程度に調製することで得た。
【0046】
<試験例1>
一重項酸素発生剤からの一重項酸素の発生量をABDAブリーチング法により測定した。ABDAは、9,10-アントラセンジイルビス(メチレン)ジマロン酸であり、9位と10位とからメチレン基を介してマロン酸が結合したアントラセン誘導体である。ABDAのアントラセン部位は、一重項酸素に対して特異的に反応し、エンドペルオキシド型で捕捉することが知られている。上記反応により、アントラセン由来の吸収や蛍光が減衰することから、吸光度を比較することで一重項酸素の発生の有無を検出することができる。
【0047】
ABDA濃度を25μmol/Lとした溶液(H
2O:DMSO=99:1)を準備した。該溶液を3mL入れた石英セル内に各フィルムを浸漬させた。フィルムに含まれる一重項酸素発生剤としては、TPP、TPPの誘導体であるTAPP、THPPおよびTMOPP、ならびにクロロフィルaを用いた。各セルに対して、LEDユニットを用いて光照射を行った。照射前、照射開始後0.5時間、1時間、2時間および3時間の各溶液の吸収スペクトルを、上記UV-Visを用いて測定した。測定値は、光照射前(0時間)の400nm付近の吸光度を1(Abs
0)とした場合の各吸光度の割合(Abs/Abs
0)とした。その結果を
図1に示す。
【0048】
図1の結果より、各一重項酸素発生剤が一重項酸素を発生していることが確認された。
【0049】
<試験例2>
樹脂組成物の抗菌活性を、上記の菌を用いてJIS R1752に準じたフィルム密着法により評価した。一重項酸素発生剤としてTPP、RBまたはクロロフィルaを含む各樹脂組成物のフィルム(25mm×25mm、厚さ100μm)と、一重項酸素発生剤を含まない同サイズの樹脂フィルムを準備した。各フィルムを直径90mmのシャーレに置いた。シャーレ内には、湿度を維持するために湿ったろ紙も置いた。シャーレ内のフィルムに、40μLの細菌懸濁液(約4.0×105CFU)を滴下し、粘着性のポリエチレン透過フィルム(20mm×20mm、厚さ80μm)でフィルムを覆った。シャーレの上部に保湿用ガラス板を置き、光照射下または暗所下で1~6時間培養した。温度は20℃とした。光照射条件は、キセノンランプで4時間とした。各樹脂組成物の光照射の照度および紫外線強度は、TPPは12000lxおよび0.195mW/cm2、RBは4000lxおよび0.068mW/cm2、クロロフィルaは12000lxおよび0.19mW/cm2とした。また、暗所の条件は、0.5lxおよび0mW/cm2とした。照度は、上記照度計により測定した。抗菌活性値(R)は、以下の式により算出した。
【0050】
R=Log(B/C)・・・式(1)
上記式(1)中、Bは一重項酸素発生剤を含まないフィルム上の生細胞数であり、Cは一重項酸素発生剤を含むフィルムの上の生細胞数である。生細胞数は、コロニーカウント法により測定した。その結果を
図2に示す。
【0051】
図2より、光照射下の抗菌活性値は、全て3以上であった。一方、暗所下の抗菌活性値は、全て1.5以下であった。抗菌活性値が2以上であると、抗菌活性を示すと判断されることから、各フィルムは、光照射によって抗菌活性が発現していることが確認された。
【0052】
<試験例3>
樹脂組成物の生分解率を、上記の菌および大阪南港から採水した海水を用いてISO 14851に準じたBOD試験により評価した。ここで、BOD試験とは、微生物により代謝を受ける際に消費する酸素量(ppm)を、閉鎖系内の圧力減少を基に算出する試験である。上記海水200mLが入った500mLのふらん瓶に、粉体の生分解性樹脂および一重項酸素発生剤の混合物を30mgを入れて撹拌した。混合物は、一重項酸素発生剤としてTPP、RB、TAPP、THPPまたはクロロフィルaを含むものを準備した。また、二酸化炭素吸収剤であるソーダ石灰を上記のBOD測定器に付属の容器に目一杯入れた。各ふらん瓶に上記のBOD測定器を装着し、密閉した。蛍光灯ユニットおよび各ふらん瓶を、3方向から光が照射されるように、または暗所となるように恒温槽内に設置した。光照射の照度は、3000lx~10000lxとした。暗所の照度は0.5lxとした。恒温槽の温度は27℃とし、30日間継続して実施した。生分解率は、以下の式(2)により算出した。
【0053】
生分解率(%)=100×実酸素消費量/理論酸素消費量・・・式(2)
実酸素消費量は、上記BOD測定器により測定した。理論酸素消費量は、生分解性樹脂の燃焼を表す化学反応式に基づいて算出した。その結果を
図3および4に示す。
【0054】
図3より、一重項酸素発生剤を含まないPCL/PLA共重合体は、30日後では、暗所での生分解率と光照射下での生分解率とが、ほとんど変わらなかった。また、TPPは、30日後では、暗所での生分解率が約70%であったのに対し、光照射下での生分解率が0%程度となった。さらに、RBは、暗所での生分解率が約65%であったのに対し、光照射下での生分解率が約25%となった。
図4より、TAPPは、暗所での生分解率が約45%であったのに対し、光照射下での生分解率が約5%となった。また、THPPは、暗所での生分解率が約65%であったのに対し、光照射下での生分解率が約15%となった。さらに、クロロフィルaは、暗所での生分解率が約60%であったのに対し、光照射下での生分解率が約35%となった。これらの結果より、各樹脂組成物は、光照射下での生分解率が抑制され、暗所での生分解率が促進されることが確認された。
【0055】
<試験例4>
樹脂組成物の重量保持率を、神戸大学深江キャンパス内係船場で海水に浸漬させることで評価した。一重項酸素発生剤としてTPPを、生分解性樹脂100重量部に対して0.05重量部、0.1重量部および0.5重量部含む各樹脂組成物のフィルム(20mm×30mm、厚さ100μm)と、一重項酸素発生剤を含まない同サイズの樹脂フィルムをそれぞれ3枚ずつ準備した。各フィルムを透明なプラスチック容器の最上部に入れ、深さ0.7m~1.0mの海に13日間浸漬させた。13日後、回収された各フィルムは、超音波洗浄機で洗浄された。洗浄後、各フィルムの重量を測定した。重量保持率は、以下の式により算出した。その結果を
図5に示す。なお、該プラスチック容器の最上部は、数百lx~数千lxの太陽光が照射することが確認されている。また、該プラスチック容器には、海水が供給されるように穴が開けられていた。
【0056】
重量保持率(%)=100×浸漬後のフィルムの重量/浸漬前のフィルムの重量・・・式(3)
【0057】
図5より、一重項酸素発生剤としてTPPを含む各フィルムは、TPPを含まないフィルムに比べて、重量減少率の低下が抑制された。また、TPPを含む各フィルムは、TPPの含有量が多くなるにつれて、重量減少率の低下がさらに抑制された。
【0058】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。