(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076744
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法、及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240530BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240530BHJP
C08L 33/16 20060101ALI20240530BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240530BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240530BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240530BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L63/00 A
C08L33/16
C08K3/22
C08K3/38
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188455
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 樹
(72)【発明者】
【氏名】浅井 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】深津 博樹
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BG082
4J002CD003
4J002CD013
4J002CD023
4J002CD053
4J002CD122
4J002CF071
4J002DA028
4J002DE098
4J002DE126
4J002DE148
4J002DE188
4J002DF018
4J002DJ018
4J002DJ048
4J002DJ058
4J002DK007
4J002DL008
4J002EY017
4J002FD018
4J002FD132
4J002FD136
4J002FD207
(57)【要約】
【課題】耐加水分解性を向上させつつ、異物の発生を低減し得る難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及びこれを用いて得られる成形品を提供する。
【解決手段】(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)下記式(1)を満たすエポキシ化合物0.10~5質量部と、(C)臭素化アクリレート系難燃剤及び数平均分子量13000以上の臭素化エポキシ系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む臭素系難燃剤と、(D)アンチモン系難燃助剤とを含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(M×2)+N≦6 式(1)
(式(1)中、Mは、前記(B)エポキシ化合物の1分子中のエポキシ基数を表し、Nは、前記(B)エポキシ化合物の1分子中の水酸基数を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)下記式(1)を満たすエポキシ化合物0.10~5質量部と、(C)臭素化アクリレート系難燃剤及び数平均分子量13000以上の臭素化エポキシ系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む臭素系難燃剤と、(D)アンチモン系難燃助剤とを含む、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(M×2)+N≦6 式(1)
(式(1)中、Mは、前記(B)エポキシ化合物の1分子中のエポキシ基数を表し、Nは、前記(B)エポキシ化合物の1分子中の水酸基数を表す。)
【請求項2】
前記(B)エポキシ化合物が非芳香族系エポキシ化合物である、請求項1に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)エポキシ化合物が脂環式エポキシ化合物である、請求項2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)エポキシ化合物が水酸基を含まない、請求項1又は2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)エポキシ化合物の1分子中のエポキシ基数が2以上である、請求項1又は2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)臭素系難燃剤が、数平均分子量13000以上の臭素化エポキシ系難燃剤であって、エポキシ当量が20,000g/当量(g/eq)以上である、請求項1又は2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
異物抑制剤としてホウ素系酸性物質をさらに含む、請求項1又は2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項8】
無機充填剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と前記(B)エポキシ化合物と前記(C)臭素系難燃剤と前記(D)アンチモン系難燃助剤とを含む混合物を溶融混練することを含む、方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて得られる、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法、及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械的特性、成形加工性などの種々の特性に優れるため、多くの用途に利用されている。
【0003】
具体的な用途としては、各種自動車用電装部品(各種コントロールユニット、各種センサー、イグニッションコイルなど)、各種電気電子部品(コネクター類、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品など)、その他、家電等各種電機・電器の部品(筐体、絶縁部材など)等が挙げられ、これらの用途においては漏電等による火災を防止するため、使用する材料に難燃性が要求されることから、各種の難燃剤を添加した難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物として用いられている。
【0004】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を難燃化する手法としては、ハロゲン化エポキシ系難燃剤等のハロゲン系難燃剤や非ハロゲン系難燃剤を添加する手法が一般的に知られている。特許文献1には、ハロゲン化エポキシ系難燃剤を用いるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が記載されている。
【0005】
一方、ポリブチレンテレフタレート樹脂はポリエステル樹脂であり、耐加水分解性の改善は耐久性向上に不可欠である。ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐加水分解性の改善のための方法としては、例えば、エポキシ化合物やカルボジイミド化合物等を添加することが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-024880号公報
【特許文献2】特開2010-143995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、エポキシ化合物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に添加した場合、溶融加工時に、エポキシ化合物が増粘したり、スクリュ等に付着し、その付着物が炭化して、黒色異物として成形品に混入し、成形品の外観を損ねる要因となる場合がある。またカルボジイミド化合物は、イソシアネートガス発生の原因となる場合がある。
また、特許文献1に記載されるようなハロゲン化エポキシ系難燃剤も、増粘して異物発生の原因となる場合があり、特許文献1では、外観を損ねる異物の発生を抑制するため、組成物全体におけるエポキシ基の総含有量を0.0155mol/kg以下にする検討が行われている。
本発明の実施形態は、耐加水分解性を向上させつつ、異物の発生を低減し得る難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及びこれを用いて得られる成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)下記式(1)を満たすエポキシ化合物0.10~5質量部と、(C)臭素化アクリレート系難燃剤及び数平均分子量13000以上の臭素化エポキシ系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む臭素系難燃剤と、(D)アンチモン系難燃助剤とを含む、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
(M×2)+N≦6 式(1)
(式(1)中、Mは、前記(B)エポキシ化合物の1分子中のエポキシ基数を表し、Nは、前記(B)エポキシ化合物の1分子中の水酸基数を表す。)
本発明の他の実施形態は、上記実施形態の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と前記(B)エポキシ化合物と前記(C)臭素系難燃剤と前記(D)アンチモン系難燃助剤とを含む混合物を溶融混練することを含む方法に関する。
本発明の他の実施形態は、上記実施形態の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて得られる成形品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、耐加水分解性を向上させつつ、異物の発生を低減し得る難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及びこれを用いて得られる成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施形態を説明するが、本発明が下記の実施形態に限定されることはない。
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物>
本発明の実施形態に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)エポキシ化合物と、(C)臭素系難燃剤と、(D)アンチモン系難燃助剤とを少なくとも含む。
【0011】
[(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂]
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られる樹脂である。PBT樹脂は、ホモポリブチレンテレフタレートに限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0012】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0013】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂において、1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0014】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0015】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は、0.6~1.3dL/gであることが好ましく、0.7~1.0dL/gであることがより好ましい。また、固有粘度が上記範囲のポリブチレンテレフタレート樹脂は、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.8dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0016】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されない。耐加水分解性の観点から、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましく、15meqが更に好ましい。
【0017】
なお、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、市販品を使用してもよく、ジカルボン酸成分と、グリコール成分と、必要によりその他のコモノマーとを、慣用の方法、例えばエステル交換、直接エステル化法等により共重合(重縮合)することにより製造したものを使用してもよい。また、その製造は、溶融状態、固相状態、溶液状態のいずれの状態で行ってもよい。
【0018】
[(B)エポキシ化合物]
(B)エポキシ化合物としては、下記式(1)を満たすエポキシ化合物を用いる。
(M×2)+N≦6 式(1)
式(1)中、Mは、エポキシ化合物の1分子中のエポキシ基数を表し、Nは、エポキシ化合物の1分子中の水酸基数を表す。なお、本発明の(B)エポキシ化合物には臭素化エポキシ系難燃剤は含まない。
【0019】
上述の通り、エポキシ化合物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐加水分解性を向上させるために用いることができる。一方、エポキシ化合物を難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に添加した場合、溶融加工時に、エポキシ化合物が増粘したり、スクリュ等に付着物が発生する場合がある。特にエポキシ化合物中に水酸基を有すると、ポリブチレンテレフタレート樹脂とのエステル交換反応により粘度上昇を引き起こし、スクリュに付着物が発生しやすくなる傾向がある。その付着物が炭化したものが、黒色の異物として成形品に混入し、成形品の外観を損ねる原因となり得る。難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に、式(1)を満たすエポキシ化合物を、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.10~5質量部含ませる場合、耐加水分解性を向上させ得るとともに、異物の発生を低減し得る。
【0020】
異物の低減の観点から、式(1)の(M×2)+Nは、6以下が好ましく、4以下がより好ましい。
【0021】
耐加水分解性の観点から、(B)エポキシ化合物は、1分子中のエポキシ基数が2以上であることが好ましい。一方、異物の低減の観点から、(B)エポキシ化合物は、1分子中のエポキシ基数が3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。(B)エポキシ化合物は、1分子中のエポキシ基数が1~3であることが好ましく、2であることがより好ましい。
【0022】
異物の低減の観点から、(B)エポキシ化合物は、1分子中の水酸基数が2以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましく、水酸基を含まないことがさらに好ましい。
【0023】
(B)エポキシ化合物の数平均分子量は特に限定されないが、異物の低減の観点から、エポキシ化合物の数平均分子量は3000以下が好ましく、1500以下がより好ましく、1000以下がさらに好ましい。(B)エポキシ化合物の数平均分子量は、100以上が好ましく、150以上がより好ましく、200以上がさらに好ましい。(B)エポキシ化合物の数平均分子量は、例えば、100~3000が好ましく、150~1500がより好ましく、200~1000がさらに好ましい。エポキシ化合物の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で求めることができる。
【0024】
(B)エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ以上有し、式(1)を満たすものであれば特に限定されない。
芳香環を含むエポキシ化合物は、スクリュに付着した場合、滞留等により炭化しやすい傾向がある。このような観点から、(B)エポキシ化合物としては、非芳香族系エポキシ化合物が好ましい。非芳香族系エポキシ化合物とは、分子内に芳香環を含まない非芳香族系エポキシ化合物を意味する。エポキシ化合物とポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボン酸末端とが反応した後に生じる水酸基のエステル交換の反応性の観点から、非芳香族系エポキシ化合物としては、脂環式エポキシ化合物がより好ましい。脂環式エポキシ化合物としては、例えば、シクロアルケンオキサイド構造を含む化合物が好ましい。シクロアルケンオキサイド構造は、例えば、シクロヘキセンオキサイド構造、シクロペンテンオキサイド構造等のように、脂肪族環を構成する原子のうちの隣接する2個の炭素原子が酸素原子とともにエポキシ基を形成している構造である。脂環式エポキシ化合物は、1分子中にシクロアルケンオキサイド構造を1個以上含むことが好ましく、2個以上含むことがより好ましい。
【0025】
(B)エポキシ化合物としては、例えば、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル化合物;
テレフタル酸ジグリシジルステル等のグリシジルエステル化合物;
N-グリシジルフタルイミド等のグリシジルイミド化合物;
2,2-ビス(3’,4’-エポキシシクロヘキシル)プロパン、3',4'-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の脂環式エポキシ化合物等が挙げられる。
これらのなかで、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2-ビス(3’,4’-エポキシシクロヘキシル)プロパン、3',4'-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の非芳香族系エポキシ化合物が好ましい。
【0026】
(B)エポキシ化合物としては、1種の化合物のみを用いてもよく、2種以上の化合物を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0027】
(B)エポキシ化合物のエポキシ基量は特に限定されない。耐加水分解性の観点から、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の合計量に対する(B)エポキシ化合物のエポキシ基量は、7mmol/kg以上が好ましく、12mmol/kg以上がより好ましく、15mmol/kg以上がさらに好ましい。一方、異物の低減の観点から、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の合計量に対する(B)エポキシ化合物のエポキシ基量は、50mmol/kg以下が好ましく、40mmol/kg以下がより好ましく、30mmol/kg以下がさらに好ましい。難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の合計量に対する(B)エポキシ化合物のエポキシ基量は、7~50mmol/kgが好ましく、12~40mmol/kgよりが好ましく、15~30mmol/kgがさらに好ましくい。エポキシ化合物のエポキシ量はNMRなどにより測定することができる。
【0028】
(B)エポキシ化合物の水酸基量は特に限定されない。異物の低減の観点から、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の合計量に対する(B)エポキシ化合物の水酸基量は、40mmol/kg以下が好ましく、30mmol/kg以下がより好ましく、10mmol/kg以下がさらに好ましい。
【0029】
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、(B)エポキシ化合物の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.10~5質量部であることが好ましく、0.12~3質量部であることがより好ましく、0.15~2質量部であることがさらに好ましい。
【0030】
耐加水分解性の観点から、(B)エポキシ化合物の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.10質量部以上が好ましく、0.12質量部以上がより好ましく、0.15質量部以上がさらに好ましい。一方、異物の低減の観点から、(B)エポキシ化合物の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましい。
【0031】
[(C)臭素系難燃剤]
(C)臭素系難燃剤は、数平均分子量13000以上の臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化アクリレート系難燃剤、又はそれらの組合せのいずれを含むものであってもよい。
【0032】
(臭素化エポキシ系難燃剤)
臭素化エポキシ系難燃剤としては、例えば、1分子中にエポキシ基を1つ以上含有する芳香族エポキシ化合物(ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物など)を用いることができる。
【0033】
臭素化エポキシ系難燃剤の数平均分子量は、13000以上が好ましい。臭素化エポキシ系難燃剤としては、例えば、数平均分子量13000以上20000以下であるものを好ましく用いることができる。難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形性の観点からは、臭素化エポキシ系難燃剤の数平均分子量は、14000以上18000以下であることがより好ましく、15000以上16000以下であることがさらに好ましい。臭素化エポキシ系難燃剤の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で求めることができる。
【0034】
上記の臭素化エポキシ系難燃剤のエポキシ当量は20,000g/当量(g/eq)以上であることが好ましく、30,000g/eq以上であることがより好ましく、31,000g/eq以上であることがさらに好ましい。エポキシ当量をこの範囲にすることにより、本発明における難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形時に、当該組成物が押出機や成形機のスクリュに付着することを、より効果的に抑制できる傾向がある。
【0035】
また、上記の臭素化エポキシ化合物として、末端をブロモフェノール(トリブロモフェノール等)などで封止したものを使用すれば、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性の低下を抑制できるため好ましい。
【0036】
臭素化エポキシ系難燃剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
(臭素化アクリレート系難燃剤)
臭素化アクリレート系難燃剤としては、重合体が好ましい。例えば、臭素化アクリレート系難燃剤としては、下記式(I)で表されるものが挙げられる。
【化1】
【0038】
式(I)中、Xは、それぞれ独立して水素原子又は置換基を表し、Xの少なくとも1つ以上が臭素原子である。置換基としては、例えばハロゲン原子等が挙げられる。例えば、Xは、それぞれ独立して水素原子又は臭素原子であってよい。Xの数は、一構成単位中5個であるが、例えば、そのうち、3~5個が置換基であってよい。難燃化の効果から、一構成単位中の5個のXのうちの3~5個が臭素原子であることが好ましい。平均重合度mは10~2000であり、好ましくは15~1000の範囲である。平均重合度mが10以上であると、熱安定性がより良好になる傾向がある。一方、平均重合度mが2000以下であると、これを添加した難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形加工性がより良好となる傾向がある。また、上記臭素化アクリレート系難燃剤は1種を単独で、又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0039】
式(I)で表される臭素化アクリレート系難燃剤は、臭素を含有するベンジルアクリレート(以下「臭素含有ベンジルアクリレート」という場合もある。)を単独で重合することによって得られる。
臭素化アクリレート系難燃剤は、例えば、臭素含有ベンジルアクリレートとともに、これと類似構造のベンジルメタクリレート等を共重合させて得られた構造を有するものであってもよい。
臭素含有ベンジルアクリレートとしては、ペンタブロモベンジルアクリレート、テトラブロモベンジルアクリレート、トリブロモベンジルアクリレート、又はその混合物が挙げられる。中でも、ペンタブロモベンジルアクリレートが好ましい。
臭素含有ベンジルアクリレートと共重合可能なベンジルメタクリレートとしては、例えば、上記したアクリレートに対応するメタクリレートが挙げられる。さらにはビニル系モノマーとの共重合も可能であり、ビニル系モノマーとして、例えば、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレートのようなアクリル酸エステル類、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートのようなメタクリル酸エステル類、スチレン、アクリロニトリル、フマル酸、マレイン酸のような不飽和カルボン酸又はその無水物、酢酸ビニル、塩化ビニルなどが挙げられる。また、架橋性のビニル系モノマー、キシリレンジアクリレート、キシリレンジメタクリレート、テトラブロムキシリレンジアクリレート、テトラブロムキシリレンジメタクリレート、ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼンも使用できる。これらはベンジルアクリレートやベンジルメタクリレートに対し、好ましくは等モル量以下、より好ましくは0.5倍モル量以下が使用される。
【0040】
上記の臭素化アクリレート系難燃剤の製造法の一例を示すと、臭素含有ベンジルアクリレート等のモノマーを溶液重合又は塊状重合にて所定の重合度に反応させる方法が挙げられる。溶液重合の場合、溶媒としてクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族化合物を用いないことが好ましい。また、溶液重合の際の溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテルや、メチルエチルケトン、エチレングリコールジメチルエーテルおよびジオキサンなどの非プロトン性溶媒が好ましい。
【0041】
上記の臭素化アクリレート系難燃剤は、残留ポリアクリル酸ナトリウム等の反応副生成物を除去するために、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液にて洗浄されることが好ましい。アルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液はアルカリ(土類)金属塩を水に投入することで容易に得られるが、塩化物イオン、リン酸イオン等を含まないアルカリ(土類)金属である水酸化物(例えば水酸化カルシウム)が最適である。アルカリ(土類)金属塩として、例えば水酸化カルシウムを用いる場合、水酸化カルシウムは一般に20℃において100gの水中に0.126g程度可溶であり、水溶液濃度は溶解度までであれば特に規定はない。また、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液による洗浄の手法も特に限定されず、臭素化アクリレート系難燃剤を適当な時間、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液に浸漬させる等の手法で良い。上記、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液による洗浄処理を終えた臭素化アクリレート系難燃剤は、一般的に温水抽出分中の乾固分が100ppm以下のものとなり、このような臭素化アクリレート系難燃剤を用いる場合、その成形品表面に臭素化アクリレート系難燃剤由来の異物を発生させることが殆どなくなる。
【0042】
臭素化アクリレート系難燃剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
[(D)アンチモン系難燃助剤]
(D)アンチモン系難燃助剤としては特に限定されないが、具体例としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、ハロゲン化アンチモン等が挙げられる。中でも供給性やコスト面で三酸化アンチモンを用いることが好ましい。
【0044】
(D)アンチモン系難燃助剤の形態は特に限定されないが、平均粒子径が0.1~10μmの粒子状であるものが好ましく、平均粒子径が0.3~5μmであるものがより好ましく、0.5~2μmであるものがさらに好ましい。アンチモン系難燃助剤の平均粒子径が10μm以下であると、得られる難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に機械的な応力が加えられたときに破壊の起点となりにくく、脆さを生じにくい他、難燃性も低下しにくい傾向がある。また、アンチモン系難燃助剤の平均粒子径が0.1μm以上であると、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)エポキシ化合物との反応が促されにくく、成形安定性が損なわれにくい傾向がある。
【0045】
前記平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(堀場製作所製)にて、分散媒として蒸留水を用いて測定し、メジアン径として得ることができる。
【0046】
(D)アンチモン系難燃助剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の(D)アンチモン系難燃助剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し3~10質量部であることが好ましく、より好ましくは4~9質量部である。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対する(D)アンチモン系難燃助剤の含有量が3質量部以上の場合は、難燃助剤としての効果がより良好に発揮されやすい。一方、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対する(D)アンチモン系難燃助剤の含有量が10質量部以下の場合には機械的特性が低下する等の欠点が現れにくい傾向がある。また、(C)臭素系難燃剤の含有量との関係としては、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中における、(C)臭素系難燃剤中のハロゲン原子及び(D)アンチモン系難燃助剤中のアンチモン原子の質量の合計量が、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の有機成分の合計量に対して15~35質量%であってもよく、好ましくは18~33質量%、より好ましくは20~30質量%であってもよい。また、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中における、(C)臭素系難燃剤中のハロゲン原子の質量と、(D)アンチモン系難燃助剤中のアンチモン原子の質量との比率(臭素原子/アンチモン原子)は、2/1~4/1であってもよい。アンチモン系難燃助剤が上記を満たすように配合されることで、ハロゲン系難燃剤による難燃性付与効果を効果的に高めることができる。
【0048】
[滴下防止剤]
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、さらに、燃焼した樹脂が滴下することによる延焼を防ぐ目的で、ポリテトラフルオロエチレン等の滴下防止剤をあわせて使用することも好ましい。滴下防止剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0049】
[異物抑制剤]
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、さらに、異物抑制剤としてホウ素系酸性物質を加えても良い。ホウ素系酸性物質は(B)エポキシ化合物の開環触媒として働き、耐加水分解性を損ねることなく、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の異物の発生を抑制することができる。ホウ素系酸性物質は(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.05~1質量部であることが好ましく、0.08~0.5質量部であることがより好ましく、0.1~0.3質量部であることがさらに好ましい。ホウ素系酸性物質は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0050】
[無機充填剤]
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、無機充填剤を含有してもよい。無機充填剤を含有することで、機械的特性や耐熱性を向上させることができる。また、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形収縮率や線膨張係数を低減することができる。
【0051】
無機充填剤としては、例えば、繊維状無機充填剤[例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化珪素繊維、ウィスカー(アルミナ、窒化珪素などのウィスカー)など]、板状無機充填剤[例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、グラファイトなど]、粉状無機充填剤[例えば、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ミルドファイバー(ガラスなどのミルドファイバー)、ウォラストナイトなど]が挙げられ、これらの無機充填剤のうち、ガラス系充填剤(ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズなど)、タルク、マイカ、ウォラストナイトなどが好ましく、中でもガラス繊維は、入手性や強度及び剛性の面から、好適に使用できる。また、板状や粉状の充填剤は、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形収縮率や線膨張係数の異方性抑制の面から、好適に使用できる。これらの充填剤の使用に当たっては、必要に応じ公知の表面処理剤を使用することができる。
【0052】
無機充填剤として繊維状充填剤を用いる場合、その形状は特に限定されないが、例えば長さは100μm~5mm、より好ましくは500μm~3mm程度であり、直径は例えば1~50μm、より好ましくは3~30μm程度である。また、板状充填剤又は粉状充填剤を用いる場合、その平均粒子径も特に限定されないが、例えば0.1~100μm、より好ましくは0.1~50μm程度である。これらの充填剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0053】
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が無機充填剤を含む場合、機械的特性の向上の観点から、無機充填剤の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましい。一方、靭性の観点から、無機充填剤の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましく、80質量部以下であることがさらに好ましい。難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が無機充填剤を含む場合、無機充填剤の含有量は、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して5~100質量部であることが好ましく、10~90質量部であることがより好ましく、20~80質量部であることがさらに好ましい。
【0054】
[他の成分]
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、必要に応じて、上記成分以外のその他の成分を含んでよい。その他の成分としては、他の樹脂や、酸化防止剤、安定剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、結晶核剤、着色剤等の添加剤が挙げられ、これらの1種以上を必要に応じて含有させることができる。
【0055】
<難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法>
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法は、特に限定されない。難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法として知られる種々の方法によって製造することができる。
【0056】
一実施形態において、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法は、上述の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、上述の(B)エポキシ化合物、上述の(C)臭素系難燃剤及び上述の(D)アンチモン系難燃助剤を含む混合物を溶融混練することを含む。この溶融混練の工程では、少なくとも、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)エポキシ化合物、(C)臭素系難燃剤、及び(D)アンチモン系難燃助剤を含む混合物を溶融混練することができる。溶融混練の工程では、例えば、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)エポキシ化合物、(C)臭素系難燃剤、及び(D)アンチモン系難燃助剤、並びに、必要に応じて、無機充填剤等のその他の成分を、溶融混練することができる。これらの成分は、一括または分割して溶融混練してもよいし、例えば、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)エポキシ化合物、(C)臭素系難燃剤、及び(D)アンチモン系難燃助剤を溶融混練後にその他の成分を添加し、製造することができる。
【0057】
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の好適な製造方法としては、例えば、1軸又は2軸押出機等の溶融混練装置を用いて、各成分を溶融混練して押出しペレットとする方法が挙げられる。
【0058】
<成形品>
本発明の一実施形態は、上述の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて得られる成形品に関する。
【0059】
難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて成形品を得る方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練して押出してペレット化し、このペレットを、所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0060】
本発明の実施形態は下記を含むが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
<1> (A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)下記式(1)を満たすエポキシ化合物0.10~5質量部と、(C)臭素化アクリレート系難燃剤及び数平均分子量13000以上の臭素化エポキシ系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む臭素系難燃剤と、(D)アンチモン系難燃助剤とを含む、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(M×2)+N≦6 式(1)
(式(1)中、Mは、前記(B)エポキシ化合物の1分子中のエポキシ基数を表し、Nは前記(B)エポキシ化合物の1分子中の水酸基数を表す。)
<2> 前記(B)エポキシ化合物が非芳香族系エポキシ化合物である、<1>に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
<3> 前記(B)エポキシ化合物が脂環式エポキシ化合物である、<2>に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
<4> 前記(B)エポキシ化合物が水酸基を含まない、<1>~<3>のいずれか1項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
<5> 前記(B)エポキシ化合物の1分子中のエポキシ基数が2以上である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
<6> 前記(C)臭素系難燃剤が、数平均分子量13000以上の臭素化エポキシ系難燃剤であって、エポキシ当量が20,000g/当量(g/eq)以上である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
<7> 異物抑制剤としてホウ素系酸性物質をさらに含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
<8> 無機充填剤をさらに含む、<1>~<7>のいずれか1項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
<9> <1>~<8>のいずれか1項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と前記(B)エポキシ化合物と前記(C)臭素系難燃剤と前記(D)アンチモン系難燃助剤とを含む混合物を溶融混練することを含む、方法。
<10> <1>~<9>のいずれか1項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて得られる、成形品。
【実施例0061】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
<難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造>
下記表1~4に、各実施例及び比較例の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の組成を示す。下記表1及び2に示す成分を、下記表1及び2に示す部数(質量部)で混合し、30mmφのスクリュを有する2軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX30)にて、シリンダ温度260℃及びスクリュ回転数130rpmで溶融混練して押し出し、ペレット状の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得た。
【0063】
表中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0064】
(1)ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂
A:ポリプラスチックス株式会社製ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(固有粘度:0.88dL/g)
【0065】
(2)エポキシ化合物
B1:2,2-ビス(3’,4’-エポキシシクロヘキシル)プロパン(分子量236)
B2:ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル(数平均分子量約830)
B3:三菱ケミカル株式会社製「エピコート1001」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、数平均分子量約900)
B4:三菱ケミカル株式会社製「エピコート1004」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、数平均分子量約1650)
B5:ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル
B6:フェノールノボラックエポキシ樹脂
【0066】
(3)難燃剤
C1:宇進高分子社製 臭素化エポキシ系難燃剤「CXB-1500C」(数平均分子量15000、エポキシ当量31000g/eq)
C2:阪本薬品工業株式会社製 臭素化エポキシ系難燃剤「SRT5000S」(数平均分子量10000、エポキシ当量5000g/eq)
C3:ICL Japan株式会社製 臭素化エポキシ系難燃剤「F-3100」(数平均分子量10000、エポキシ当量47000g/eq)
C4:ICL Japan株式会社製 臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤「FR-1025」
C5:帝人株式会社製 臭素化ポリカーボネート樹脂「ファイヤーガードFG-7500」
【0067】
(4)難燃助剤
D:日本精鉱株式会社製三酸化アンチモン
【0068】
(5)ドリッピング防止剤
E:ダイキン工業株式会社製「ポリフロンPTFE M-392」(四フッ化エチレン樹脂)
【0069】
(7)異物抑制剤
F1:ホウ酸
F2:フェニルボロン酸
F3:アジピン酸
F4:ステアリン酸カルシウム
【0070】
(7)無機充填剤
G:日本電気硝子株式会社製ガラス繊維「ECS03T-127」
【0071】
(8)安定剤
H:BASFジャパン株式会社製「Irganox 1010」
【0072】
(9)滑剤
I:エメリーオレオケミカルズジャパン株式会社製「LOXIOL VPG861」(ペンタエリスリトールステアリン酸エステル)
【0073】
表1~4中の各成分の含有量の単位は質量部である。
【0074】
<評価>
得られた難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットを用いて以下の評価を行った。
【0075】
(1)異物評価(スクリュの黒色付着物)
上記で得られた各実施例及び比較例の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥させた後、以下の手順で溶融混練、及びスクリュの黒色付着物の目視観察を行った。
手順1:東洋精機社製ラボプラストミルを用いて、シリンダ温度275℃、スクリュ回転数20rpmにて、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を10分間押し出す。
手順2:シリンダ温度275℃のままスクリュを停止し、シリンダ内の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を120分間、又は300分間滞留させる。
手順3:シリンダ温度275℃、スクリュ回転数20rpmとして、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物にて10分間パージする。
手順4:シリンダ温度275℃、スクリュ回転数60rpmとして、ポリエチレン樹脂にて5分間パージする。
手順5:シリンダ温度200℃、スクリュ回転数60rpmとして、トーヨーカラー株式会社製パージ材「リオクリン-Z」にて5分間パージする。
手順6:スクリュを引き抜き、綿ネルで軽く拭き、パージ材を除去した後、スクリュの黒色付着物の量を目視観察する。
【0076】
手順6のスクリュの黒色付着物の目視観察において、スクリュの黒色付着物の量が著しく多いものを「D」、スクリュの黒色異物の量が多いものを「C」、スクリュの黒色付着物の量が少ないものを「B」、スクリュの黒色付着物がほとんど見られないものを「A」とした。結果を表1、2に示す。
【0077】
(2)耐加水分解性
上記で得られた各実施例及び比較例の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、シリンダ温度260℃、金型温度80℃の条件での射出成形により、ISO3167に準拠した多目的試験片を作製し、ISO527-1,2に準拠して島津製作所製万能試験機オートグラフを用いて引張強さ(MPa)の初期値を測定した。
上記で得た試験片を、プレッシャークッカーテスト(PCT)装置を用いて、121℃、100%RH下で50時間処理(湿熱処理)した後、上記測定方法と同様に引張強さ(MPa)を測定し、その測定値と初期値とから、初期値に対する湿熱処理後の引張強さの保持率(%)を求めた。この評価では、85%以上の引張強さ保持率の場合、耐加水分解性良好とする。結果(初期値に対する湿熱処理後の引張強さの保持率(%))を表1、2に示す。
【0078】
(3)難燃性
上記で得られたペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、シリンダ温度250℃、金型温度70℃にて射出成形し、UL94に準拠し、125mm×13mm×厚さ1/16インチの短冊状試験片を作製して燃焼性を評価した。V-0を満たすものをV-0、満たさないものを不合格とした。結果を表1、2に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
表1に示されるように、実施例1~6では、異物評価においてスクリュの黒色付着物が少ないか、又はほとんど見られなかった。また、実施例1~6は、耐加水分解性も良好であった。
これに対して、式(1)を満たさない(すなわち、「(M×2)+N」の値が6より大きい)エポキシ化合物を含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が用いられた比較例2~4、比較例11~13、比較例15では、いずれも、異物評価において、スクリュの黒色付着物の量が多かった。また、(C)臭素化エポキシ系難燃剤であって、数平均分子量が13000未満のものが用いられた比較例5~12では、異物評価において、スクリュの黒色異物の付着量が多かった。
エポキシ化合物が含まれない比較例1、臭素系難燃剤に臭素化ポリカーボネートを使用している比較例14及び15は、いずれも耐加水分解性に劣っていた。