(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076799
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】膨潤した澱粉を含む食品素材に合せる流動状組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 23/00 20160101AFI20240530BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20240530BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20240530BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20240530BHJP
【FI】
A23L23/00
A23L35/00
A23L7/109 C
A23L7/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188567
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】中谷(柳川) 優美
(72)【発明者】
【氏名】図師 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】仲田 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】北川 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 将平
【テーマコード(参考)】
4B023
4B036
4B046
【Fターム(参考)】
4B023LE11
4B023LK05
4B023LK06
4B023LL04
4B036LE02
4B036LE05
4B036LF01
4B036LF03
4B036LH09
4B036LH13
4B036LK03
4B036LP18
4B036LP19
4B046LA02
4B046LA06
4B046LB04
4B046LC01
4B046LC20
4B046LE15
4B046LG11
4B046LG15
(57)【要約】
【課題】油っぽいものではなく、吸水耐性に優れた、炊飯米や茹でたパスタ等の膨潤した澱粉を含む食品素材に合せるのに適した流動状組成物を得ること。
【解決手段】デキストリン及び乳化剤を含有する、水中油型エマルジョンであることを特徴とする、膨潤した澱粉を含む食品素材に合せる流動状組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デキストリン及び乳化剤を含有する、水中油型エマルジョンであることを特徴とする、膨潤した澱粉を含む食品素材に合せる流動状組成物。
【請求項2】
乳化剤が、7~20のHLB値を有する乳化剤である、請求項1記載の流動状組成物。
【請求項3】
デキストリンが、18以下のDE値を有するデキストリンである、請求項1記載の流動状組成物。
【請求項4】
油の含有量が、30質量%未満である、請求項1記載の流動状組成物。
【請求項5】
乳化剤の含有量が、0.01~5質量%である、請求項1記載の流動状組成物。
【請求項6】
デキストリンの含有量が、3~30質量%である、請求項1記載の流動状組成物。
【請求項7】
60℃における粘度が、1500mPa・s以下である、請求項1記載の流動状組成物。
【請求項8】
前記食品素材が、炊飯米又は茹でた麺類である、請求項1記載の流動状組成物。
【請求項9】
レトルト食品である請求項8記載の流動状組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨潤した澱粉を含む食品素材に合せる流動状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炊飯した米飯に、各種ソースを掛けて食する場合に、ソース中の水分が米飯に移行し、米飯がふやけて軟らかくなり、食感が低下する問題があった。ボイルしたパスタと、パスタソースとを混ぜ合わせて調理したり、ボイルしたパスタに、パスタソースを合せて食する場合にも、パスタソース中の水分がパスタに移行し、パスタが軟らかくなって(のびて)、食感がわるくなる問題があった。このため、ソース中の水分が、炊飯した米飯やボイルしたパスタなどの膨潤した澱粉を含む食品素材に移行し難い、即ち、吸水耐性に優れたソース等の流動状組成物が求められる。
特開2009-207388号公報には、増粘多糖類を含有しないパスタソースにおいて、DE(「デキストロース当量」や「Dextrose Equivalent」と同義)値1~6のでん粉糖を4~25質量%含有させることを特徴とする、吸水耐性に優れたパスタソースの製造方法が開示されている。この製造方法は、特定の「でん粉糖」(「澱粉分解物」や「デキストリン」と同義)を含有させることによって吸水耐性を改善するものであるが、油脂量の少ない水系のソースでは、十分な吸水耐性を得ることができない。
また、特開2009-65878号公報には、DE5以下の澱粉分解物とDE9~15の澱粉分解物とを含有していることを特徴とするパスタソースが開示されている。このパスタソースは、特定の澱粉分解物を組合せて含有させることによって吸水耐性を改善するものであるが、油脂量の少ない水系のソースでは、十分な吸水耐性を得ることができない。
特開2005-87014号公報には、20℃でのSFCが10%以上の油脂と乳化剤を含有する油相部と、調味料を含有する水相部とからなり、油相部と水相部との重量比が90/10~30/70の範囲にあり、且つ、油中水型に乳化してなることを特徴とするパスタソースが開示されている。このパスタソースは、喫食時の再加熱調理によって解乳化し、水相部を麺と接触させることで、麺ののびを抑える等の作用を得るが、そのために油相部を30重量部以上含み、油っぽいものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-207388号公報
【特許文献2】特開2009-65878号公報
【特許文献3】特開2005-87014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、油っぽいものではなく、吸水耐性に優れた、炊飯米や茹でたパスタ等の膨潤した澱粉を含む食品素材に合せるのに適した流動状組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、流動状組成物を、デキストリン及び乳化剤を含有する水中油型エマルジョンとすることによって、上記課題が解決できることを見出した。すなわち、本発明は、以下のものである。
[1]デキストリン及び乳化剤を含有する、水中油型エマルジョンであることを特徴とする、膨潤した澱粉を含む食品素材に合せる流動状組成物。
[2]乳化剤が、7~20のHLB値を有する乳化剤である、[1]記載の流動状組成物。
[3]デキストリンが、18以下のDE値を有するデキストリンである、[1]又は[2]記載の流動状組成物。
[4]油の含有量が、30質量%未満である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の流動状組成物。
[5]乳化剤の含有量が、0.01~5質量%である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の流動状組成物。
[6]デキストリンの含有量が、3~30質量%である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の流動状組成物。
[7]60℃における粘度が、1500mPa・s以下である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の流動状組成物。
[8]前記食品素材が、炊飯米又は茹でた麺類である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の流動状組成物。
[9]レトルト食品である[1]~[8]のいずれか1項に記載の流動状組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、油っぽいものではなく、吸水耐性に優れた、炊飯米や茹でたパスタ等の膨潤した澱粉を含む食品素材に合せるのに適した流動状組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の、膨潤した澱粉を含む食品素材に合せる流動状組成物は、デキストリン及び乳化剤を含有する、水中油型エマルジョンであることを特徴とする。
膨潤した澱粉を含む食品素材としては、炊飯した米飯(炊飯米)、パスタやうどんなどの茹でた麺類、餅、団子、トッポギ、パン、春雨、フォーなどが挙げられる。当該食品素材は、レトルト食品、冷凍食品、チルド食品、缶詰、無菌包装食品などのものを用いてもよい。炊飯米はα化米でもよい。炊飯米、茹でた麺類が特に好ましい。
「合わせる」とは、流動状組成物を、必要により加熱して、前記の食品素材の上に掛けたり(トッピング)、前記の食品素材と混ぜ合わせたり、前記の食品素材の中にフィリング材として詰めたり、さらにこれらを加熱したりするなど、任意の方法で前記の食品素材と合せることをいう。
本発明の流動状食品は、いわゆるソース等の食品である。流動状とは、定形を有さないことをいい、一見固形であっても、それをかき混ぜると容易に形状が崩れるようなものも流動状組成物に含まれる。流動状組成物には、具材等の固形材料が含まれていてもよい。但し、以下の説明において、特に断りがない場合、各成分の含有量は、具材などの固形部分を除いた部分、すなわち流動状組成物中における含有量を意味する。前記流動状組成物としては、ラーメン用スープ、春雨用スープ、和風スープ(お雑煮、豚汁、味噌汁など)、洋風スープ(コンソメスープ、ポトフ、オニオンスープ、クラムチャウダー、ミネストローネ、海老のビスク、ボルシチなど)、中華スープ(卵スープ、酸辣湯など)、エスニックスープ(トムヤンクン、フォーなど)、野菜スープ(コーン、かぼちゃ、ヴィシソワーズなど)、韓国スープ(参鶏湯、ソルロンタン、ユッケジャンなど)、鍋用スープなどの各種スープ;カレー、スープカレー、シチュー、ハヤシライスソース、ハッシュドビーフ、カレーうどん用ソース、パスタソース、スープパスタなどの各種ソース、丼物のトッピング材などが挙げられる。
前記流動状組成物を、デキストリン及び乳化剤を含有する水中油型エマルジョンとする。水中油型エマルジョンとしては、水からなる連続相に油からなる分散相(油滴)が分散している形態のエマルジョンや、水からなる連続相中に油中水型エマルジョンが分散粒子となって分散している形態のエマルジョンが挙げられる。
【0008】
本発明の流動状組成物に含有されるデキストリンの種類は特に限定されない。デキストリンとしては、18以下のDE値を有するデキストリンが好ましい。前記DE値は、より好ましくは15以下であり、さらに好ましくは11以下であることが望ましく、下限値は任意である。
前記流動状組成物中のデキストリンの含有量は、例えば、3~30質量%であり、好ましくは4~25質量%であり、より好ましくは5~20質量%である。デキストリンの含有量が、3質量%に満たないと、流動状組成物の十分な吸水耐性を得難い傾向があり、30質量%を超えると、流動状組成物の風味に影響がでる傾向があるため、前記の含有量の範囲で、流動状組成物の本来の風味を保持して、十分な吸水耐性を得ることが可能となる。
【0009】
本発明の流動状組成物に含有される乳化剤の種類は特に限定されない。乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンなどが挙げられる。合成された乳化剤を用いることができる。乳化剤は、好ましくは7~20のHLB(親水性親油性バランス)値を有する乳化剤である。前記HLB値は、より好ましくは9.5~16である。
乳化剤のHLB値が、7に満たないと、流動状組成物の十分な吸水耐性を得難い傾向があり、7~20(上限)のHLB値で、十分な吸水耐性を得ることが可能となる。
前記流動状組成物中の乳化剤の含有量は、好ましくは0.01~5質量%であり、より好ましくは0.03~3質量%である。乳化剤の含有量が、0.01質量%に満たないと、流動状組成物の十分な吸水耐性を得難い傾向があり、5質量%を超えると、流動状組成物の風味に影響がでる傾向があるため、0.01~5質量%の含有量で、流動状組成物の本来の風味を保持して、十分な吸水耐性を得ることが可能となる。
【0010】
本発明の流動状組成物には、上記の成分以外に、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。その他の成分として、水、油、及び調味料(香辛料を含む)などが挙げられる。
前記油としては、菜種油、大豆油、パーム油、マーガリン、綿実油、及びコーン油などの植物油脂、牛脂、豚脂、バター脂などの動物油脂、魚油、鶏油、各種香味油などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の流動状組成物において、油の含有量は、好ましくは30質量%未満であり、より好ましくは20質量%未満であり、さらに好ましくは10質量%未満である。油の含有量は、好ましくは0.1質量%以上である。
本発明では、油脂量の少ない、油っぽいものではなく、サッパリとした風味、食感の水系の流動状組成物を所望しており、前記の油の含有量によって、当該特性と十分な吸水耐性とを備えた流動状組成物を達成できる。
【0011】
本発明の流動状組成物の品温60℃での粘度は、1500mPa・s以下、1000mPa・s以下、750mPa・s以下、500mPa・s以下、400mPa・s以下、300mPa・s以下、200mPa・s以下、100mPa・s以下、50mPa・s以下が記載の順で好ましい。また、本発明の流動状組成物の品温60℃での粘度は、好ましくは5mPa・s以上であり、より好ましくは10mPa・s以上である。粘度が1500mPa・sを超えると、サッパリとした風味、食感の流動状組成物を得難い傾向があり、5mPa・sに満たないと粘性がない。前記の流動状組成物の粘度範囲によって、求める比較的低粘度の流動状組成物において、十分な吸水耐性を得ることができる。
なお、流動状組成物は、増粘剤などを含むことで、高粘度のものになるほど、食品素材への水分移行がし難い傾向となる。したがって、本発明は、水分移行がし易い、より低粘度の流動状組成物に対して、その吸水耐性を向上するための手段として、特に有効である。
流動状組成物の粘度は、下記する実施例において、記載した方法で測定したものを指す。
【0012】
本発明の流動状組成物には、上述のように、具材が含まれていてもよい。具材としては、野菜類、豆類、穀類、卵類、果物類、肉類、及び魚介類などが挙げられる。本発明の流動状組成物には、他の原料として、増粘剤(キサンタンガムなどのガム類や、加工澱粉などの澱粉や、小麦粉を含む)、野菜果実などのペースト、乳製品、調味料、香辛料などが含まれていてもよい。
【0013】
本発明の流動状組成物は、レトルト食品として提供されてもよい。レトルト食品とは、容器(レトルトパウチ、樹脂製パウチ等)に密封された加熱殺菌済みの食品である。加熱殺菌済みであるため、消費者は、必要により温めて、流動状組成物を容器から取り出し、膨潤した澱粉を含む食品素材に合せることができる。加熱殺菌処理の条件は、特に限定されるものではなく、110~140℃で3~30分間が例示できる。容器包装詰加圧加熱殺菌食品について、食品衛生法に定められた条件に適合することとすることができる。また、例えば、85~98℃で求める保存性に応じた時間の緩やかな条件でもよい。他にも、本発明の流動状組成物は、冷凍食品、チルド食品(低温殺菌処理したものを含む)、缶詰、無菌包装食品などの形態で提供されてもよい。乾燥食品やペースト食品(濃縮タイプものを含む)などの形態で提供されてもよい。
【実施例0014】
(実施例1~10及び比較例1~4)
表1-1及び表1-2に記載した原料を90℃で加熱混合してユッケジャンソースを調製し、150gずつパウチに充填し、次いでレトルト処理してレトルトユッケジャンソースを製造した。製造した各ソースについて、下記のように評価した結果を、表2-1及び表2-2に記載した。
ソースをパウチに充填する際に、ソースが均一な分散状態であるか否か、ソースからの油の分離があるか否かを調べた。また、ソースを顕微鏡で観察し、水からなる連続相に油滴が分散している、水中油型エマルジョンの状態であるかを調べた。
【0015】
【表1-1】
【表1-2】
・HLB16の乳化剤として、ショ糖脂肪酸エステルを使用し、それ以外は乳化剤として、グリセリン脂肪酸エステルを使用した。
【0016】
(前記パウチに充填する際における、油の分離の有無)
なし:ソースは均一な分散状態で、油の分離はない。
あり:ソースの表面に油が分離している。
【0017】
(水中油型(O/W)エマルジョンであること)
◎:水相と油相とが、乳化剤により水中油型に乳化された水中油型エマルジョンである。
×:前記の水中油型エマルジョンが形成されない。
【0018】
(ソースの粘度(mPa・s))
パウチから取り出したソースを品温60℃としたときの粘度を、B型粘度計(東機産業社製RB-80L)を用いて、ローターNo.1、回転数30rpm及び測定時間30秒間の測定条件により測定した。
【0019】
(ソースを合せた食品素材の食感)
電子レンジで温めて、パウチから取り出したソース150gを、それぞれの食品素材(炊飯米約80g、茹でたパスタ240g、茹でたうどん220g)と混ぜ合せて、15分後及び30分後における、食品素材の食感を以下の基準で評価した。なお、茹でたパスタ、及び茹でたうどんと混ぜ合せた場合の評価は、実施例1、9及び比較例2についてのみ実施した。
◎:食品素材への吸水が低減され、ソース中で食品素材の求める食感がある。食品素材が、好ましい固形物感、風味を保持している。
○:食品素材への吸水が低減され、ソース中で食品素材の求める食感があるが、◎に比べて食感、固形物感、風味がやや劣る。
△:食品素材への吸水が低減されておらず、○に比べてふやけて軟らかくなった食感で、食感、固形物感、風味が劣る。
×:食品素材が吸水して、△に比べても極端に、ふやけて軟らかくなった食感で、食感、固形物感、風味がわるい。
【0020】
【表2-1】
【表2-2】
※1 多量に含まれる油が、分離して表面に浮いた。
※2 原料を加熱混合してソースを調製する際に、乳化剤が溶解しなかった。