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特開2024-76883芳香族スルフィド化合物の精製方法及び製造方法、芳香族スルフィド誘導体の製造方法、並びに、芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076883
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】芳香族スルフィド化合物の精製方法及び製造方法、芳香族スルフィド誘導体の製造方法、並びに、芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 319/28 20060101AFI20240530BHJP
   C07C 321/30 20060101ALI20240530BHJP
   C07C 327/26 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C07C319/28
C07C321/30
C07C327/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188694
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅羽 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】塩田 大
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB46
4H006AB48
4H006AB84
4H006AC60
4H006AD15
4H006AD17
4H006BB11
4H006BB14
4H006TA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】芳香族スルフィド化合物の精製方法及び製造方法、かかる精製方法によって得られた該化合物を用いた誘導体の製造方法、並びに該誘導体等を提供する。
【解決手段】(a)式(1)で表される芳香族スルフィド化合物と不純物とを含有する混合物を、芳香族スルフィド化合物の良溶媒に加え不溶解成分を析出させて処理液を得る工程と;(b)(b-1)ろ過助剤を含む層を有するろ材を用い処理液をろ過して、ろ液を得る工程、(b-2)ろ過助剤を処理液に加えた後、ろ過することによって、ろ液を得る工程、又は(b-3)(b-1)及び(b-2)の両方を行い、ろ液を得る工程と;(c)ろ液を、芳香族スルフィド化合物の貧溶媒に加えて晶析させることによって、芳香族スルフィド化合物を得る工程と;を含む芳香族スルフィド化合物の精製方法を提供する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造を有する芳香族スルフィド化合物の精製方法であって、
(a)前記芳香族スルフィド化合物と不純物とを含有する混合物を、前記芳香族スルフィド化合物の良溶媒に加えて、不溶解成分を析出させて処理液を得る工程と;
(b)(b-1)ろ過助剤を含む層を少なくとも有するろ材を用いて、前記処理液をろ過して、ろ液を得る工程、(b-2)ろ過助剤を前記処理液に加えた後、ろ過することによって、ろ液を得る工程、又は(b-3)前記(b-1)及び前記(b-2)の両方を行い、ろ液を得る工程と;
(c)前記(b)工程で得られたろ液を、前記芳香族スルフィド化合物の貧溶媒に加えて、晶析させることで、芳香族スルフィド化合物を得る工程と;
を含む、芳香族スルフィド化合物の精製方法。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、-OH基又は-SH基を表し、a及びbは、それぞれ独立に、0又は1であり、a及びbの少なくとも1つは1である。)
【請求項2】
前記式(1)のR及びRの両方が-SH基であり、a及びbの両方が1である、請求項1に記載の芳香族スルフィド化合物の精製方法。
【請求項3】
前記(c)工程は、前記(b)工程で得られたろ液を、前記芳香族スルフィドの貧溶媒に加えて、晶析させることで、不純物含有量が6000ppm以下である前記芳香族スルフィド化合物を含有する組成物を得る工程である、
請求項1又は2に記載の芳香族スルフィド化合物の精製方法。
【請求項4】
後処理として、請求項1又は2に記載の精製方法を行う工程を含む、芳香族スルフィド化合物の製造方法。
【請求項5】
(i)請求項1又は2に記載の精製方法によって精製された芳香族スルフィド化合物を準備する工程と;
(ii)前記精製された芳香族スルフィド化合物と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロイルハライド、及びメタクリロイルハライドからなる群より選ばれる少なくとも1種とを、反応させて、下記式(2)で表される構造を有する芳香族スルフィド誘導体を得る工程と、を含む、
芳香族スルフィド誘導体の製造方法。
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、A及びBは、それぞれ独立に、S原子又はO原子を表し、a及びbは、それぞれ独立に、0又は1であり、a及びbの少なくとも1つは1である。)
【請求項6】
前記(ii)工程は、前記精製された芳香族スルフィド化合物と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロイルハライド、及びメタクリロイルハライドからなる群より選ばれる少なくとも1種とを、反応させて、不純物含有量が30ppm以下である、前記芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物を得る工程を行う、
請求項5に記載の芳香族スルフィド誘導体の製造方法。
【請求項7】
(i)請求項1又は2に記載の精製方法によって精製された芳香族スルフィドを準備する工程と;
(ii)前記精製された芳香族スルフィド化合物と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロイルハライド、及びメタクリロイルハライドからなる群より選ばれる少なくとも1種とを、反応させて、不純物含有量が30ppm以下である、下記式(2)で表される構造を有する芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物を得る工程と、
を含む方法によって得られる、芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物。
【化3】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、A及びBは、それぞれ独立に、S原子又はO原子を表し、a及びbは、それぞれ独立に、0又は1であり、a及びbの少なくとも1つは1である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族スルフィド化合物の精製方法及び製造方法、芳香族スルフィド誘導体の製造方法、並びに、芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
4,4’-チオビスベンゼンチオール(「44TBBT」、「ビス(4-メルカプトフェニル)スルフィド」等と呼ばれることもある。)等の芳香族スルフィド化合物は、透明性、屈折率向上性等に優れた材料として有用である。
【0003】
その他にも、4,4’-チオビスベンゼンチオール等の芳香族スルフィド化合物はビス(4-メタクリロイルチオフェニル)スルフィド(「BMTPS」)等の芳香族スルフィド誘導体等の原料としても有用である。
【0004】
例えば、特許文献1には、ビス(4-メルカプトフェニル)スルフィドのアルカリ金属塩とメタクリロイルハライドとを反応させ、ビス(4-メタクリロイルチオフェニル)スルフィドを得る方法において、あらかじめビス(4-メルカプトフェニル)スルフィドに還元剤を添加しアルカリ金属水酸化物水溶液中で加熱処理した後、メタクリロイルハライドと反応させることを特徴とするビス(4-メタクリロイルチオフェニル)スルフィドの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06-100528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、4,4’-チオビスベンゼンチオール等の芳香族スルフィド化合物の合成において、合成反応後の不純物の除去について改善の余地がある。例えば、合成反応において、相間移動触媒である第4級アンモニウム塩を用いる場合、目的物である芳香族スルフィド化合物と、相間移動触媒のカチオンとの塩等が副生されてしまい、このような副生成物が、反応生成物全体として有機溶媒への溶解性の悪化、及び次工程の反応において操作性の悪化、収率の低下の原因になっている場合があると考えられる。
【0007】
そして、不純物の除去が不十分な芳香族スルフィド化合物を用いて、ビス(4-メタクリロイルチオフェニル)スルフィド等の芳香族スルフィド誘導体を合成すると、得られた芳香族スルフィド誘導体についても不純物の除去が不十分であり、ろ過性等が悪いという不具合が生じ得る。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、不純物の除去に優れた芳香族スルフィド化合物の精製方法及びその製造方法、さらには、かかる精製方法によって得られた芳香族スルフィド化合物を用いた芳香族スルフィド誘導体の製造方法、並びに、芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の構造を有する芳香族スルフィド化合物の精製方法であって、(a)芳香族スルフィド化合物と不純物とを含有する混合物を、芳香族スルフィド化合物の良溶媒に加えて、不溶解成分を析出させて処理液を得る工程と;(b)(b-1)ろ過助剤を含む層を少なくとも有するろ材を用いて、処理液をろ過して、ろ液を得る工程、(b-2)ろ過助剤を処理液に加えた後、ろ過することによって、ろ液を得る工程、又は(b-3)(b-1)及び(b-2)の両方を行い、ろ液を得る工程と;(c)(b)工程で得られたろ液を、芳香族スルフィド化合物の貧溶媒に加えて、晶析させることで、芳香族スルフィド化合物を得る工程と;を含む、芳香族スルフィド化合物の精製方法を行うことに知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
<1>
下記式(1)で表される構造を有する芳香族スルフィド化合物の精製方法であって、(a)前記芳香族スルフィド化合物と不純物とを含有する混合物を、前記芳香族スルフィド化合物の良溶媒に加えて、不溶解成分を析出させて処理液を得る工程と;(b)(b-1)ろ過助剤を含む層を少なくとも有するろ材を用いて、前記処理液をろ過して、ろ液を得る工程、(b-2)ろ過助剤を前記処理液に加えた後、ろ過することによって、ろ液を得る工程、又は(b-3)前記(b-1)及び前記(b-2)の両方を行い、ろ液を得る工程と;(c)前記(b)工程で得られたろ液を、前記芳香族スルフィド化合物の貧溶媒に加えて、晶析させることで、芳香族スルフィド化合物を得る工程と;を含む、芳香族スルフィド化合物の精製方法である。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、-OH基又は-SH基を表し、a及びbは、それぞれ独立に、0又は1であり、a及びbの少なくとも1つは1である。)
<2>
前記式(1)のR及びRの両方が-SH基であり、a及びbの両方が1である、<1>に記載の芳香族スルフィド化合物の精製方法である。
<3>
前記(c)工程は、前記(b)工程で得られたろ液を、前記芳香族スルフィドの貧溶媒に加えて、晶析させることで、不純物含有量が6000ppm以下である前記芳香族スルフィド化合物を含有する組成物を得る工程である、<1>又は<2>に記載の芳香族スルフィド化合物の精製方法である。
<4>
後処理として、<1>~<3>のいずれかに記載の精製方法を行う工程を含む、芳香族スルフィド化合物の製造方法である。
<5>
(i)<1>~<3>のいずれかに記載の精製方法によって精製された芳香族スルフィド化合物を準備する工程と;(ii)前記精製された芳香族スルフィド化合物と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロイルハライド、及びメタクリロイルハライドからなる群より選ばれる少なくとも1種とを、反応させて、下記式(2)で表される構造を有する芳香族スルフィド誘導体を得る工程と、を含む、芳香族スルフィド誘導体の製造方法である。
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、A及びBは、それぞれ独立に、S原子又はO原子を表し、a及びbは、それぞれ独立に、0又は1であり、a及びbの少なくとも1つは1である。)
<6>
前記(ii)工程は、前記精製された芳香族スルフィド化合物と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロイルハライド、及びメタクリロイルハライドからなる群より選ばれる少なくとも1種とを、反応させて、不純物含有量が30ppm以下である、前記芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物を得る工程を行う、<5>に記載の芳香族スルフィド誘導体の製造方法である。
<7>
(i)<1>~<3>のいずれかに記載の精製方法によって精製された芳香族スルフィドを準備する工程と;
(ii)前記精製された芳香族スルフィド化合物と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロイルハライド、及びメタクリロイルハライドからなる群より選ばれる少なくとも1種とを、反応させて、不純物含有量が30ppm以下である、下記式(2)で表される構造を有する芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物を得る工程と、を含む方法によって得られる、芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物である。
【化3】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、A及びBは、それぞれ独立に、S原子又はO原子を表し、a及びbは、それぞれ独立に、0又は1であり、a及びbの少なくとも1つは1である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不純物の除去に優れた芳香族スルフィド化合物の精製方法及びその製造方法、さらにはかかる精製方法によって得られた芳香族スルフィド化合物を用いた芳香族スルフィド誘導体の製造方法、並びに、芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0013】
そして、本明細書中、特に断りがない限り、「(メタ)アクリル」はメタクリル及びアクリルを包含するものとする。例えば、(メタ)アクリルは、メタクリル、アクリル、又はその両方を意味するものである。「(メタ)アクリレート」等の他の類似用語についても同様である。
【0014】
<芳香族スルフィド化合物の精製方法>
【0015】
本実施形態に係る芳香族スルフィド化合物の精製方法は、
下記式(1)で表される構造を有する芳香族スルフィド化合物の精製方法であって、
(a)芳香族スルフィド化合物と不純物とを含有する混合物を、芳香族スルフィド化合物の良溶媒に加えて、不溶解成分を析出させて処理液を得る工程と;
(b)(b-1)ろ過助剤を含む層を少なくとも有するろ材を用いて、処理液をろ過して、ろ液を得る工程、(b-2)ろ過助剤を処理液に加えた後、ろ過することによって、ろ液を得る工程、又は(b-3)(b-1)及び(b-2)の両方を行い、ろ液を得る工程と;
(c)(b)工程で得られたろ液を、芳香族スルフィド化合物の貧溶媒に加えて、晶析させることで、芳香族スルフィド化合物を得る工程と;
を含む、芳香族スルフィド化合物の精製方法である。
【0016】
【化4】
【0017】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、-OH基又は-SH基を表し、a及びbは、それぞれ独立に、0又は1であり、a及びbの少なくとも1つは1である。)
【0018】
式(1)のR及びRは、それぞれ独立に、-OH基又は-SH基であればよいが、両方が同じであることが好ましく、両方が-SH基であることがより好ましい。
【0019】
式(1)のa及びbは、それぞれ独立に、0又は1であり、a及びbの両方が1であればよい。これらの中でも、a及びbの両方が1であることが好ましい。
【0020】
式(1)で表される化合物の具体例としては、下記の式(1-1)~(1-7)からなる群より選ばれるいずれかで表される構造を有する化合物(化合物(1-1)~(1-7))等が挙げられる。
【0021】
【化5】
【0022】
上述した式(1)のR、R、a、及びbの組み合わせとしては、R及びRが同じであり、かつ、R及びRの両方が-SH基又は-OH基であり、a及びbの両方が1であることが好ましい。これに対応する化合物としては、例えば、2,2’-チオビスベンゼンチオール(式(1-3)参照)、3,4’-チオビスベンゼンチオール(式(1-2)参照)、4,4’-チオビスベンゼンチオール(式(1-1)参照)等のチオビスベンゼンチオール類;2,3’-チオビスフェノール(式(1-6)参照)、2,4’-チオビスフェノール(式(1-4)参照)、3,3’-チオビスフェノール(式(1-5)参照)、4,4’-チオビスフェノール(式(1-7)参照)等のチオビスフェノール類が挙げられる。
【0023】
上述した式(1)のR、R、a、及びbの組み合わせとしては、R及びRの両方が-SH基であり、a及びbの両方が1であることがより好ましい。これに対応する化合物としては、例えば、2,2’-チオビスベンゼンチオール、3,4’-チオビスベンゼンチオール、4,4’-チオビスベンゼンチオール等のチオビスベンゼンチオール類が挙げられる。これらの中でも、分離の効果が優れているという観点から、式(1-1)で表される4,4’-チオビスベンゼンチオールが好ましい。
【0024】
((a)工程)
本実施形態に係る精製方法では、(a)芳香族スルフィド化合物と不純物とを含有する混合物(「芳香族スルフィド混合物」という場合がある。)を、芳香族スルフィド化合物の良溶媒に加えて、不溶解成分を析出させて処理液を得る工程を行う。
【0025】
芳香族スルフィド混合物の「混合物」には、例えば、「粗生成物」や「粗組成物」等と呼ばれるものも包含する。そして、芳香族スルフィド混合物は、例えば、芳香族スルフィド化合物の合成反応が終了した反応液や、このような反応液に対して分離処理及び/又は精製処理を行ったが純度が不十分である粗い組成物等といった「粗生成物」であってもよいし、ある程度の不純物が含有されている芳香族スルフィド化合物の市販品等といった「粗生成物」や「粗組成物」等と呼ばれるものであってもよい。
【0026】
芳香族スルフィド化合物の合成反応の具体例の詳細は、後述するが、その一例として、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩を相間移動触媒として用いる合成反応が挙げられる。この相間移動触媒を用いた合成反応では、特に、式(1)のR及びRの-OH基や-SH基に第4級アンモニウムカチオンが結合してしまうことによって、分離が困難になる傾向にある。しかしながら、本実施形態によれば、このような分離が難しい副生成物であっても効果的に除去できる。精製対象である芳香族スルフィド混合物が、従来では分離が困難な傾向にある第4級アンモニウム塩(例えば、目的物である芳香族スルフィド化合物に第4級アンモニウムカチオンが結合した第4級アンモニウム塩や、系中に残存するテトラブチルアンモニウム塩等の相間移動触媒)を不純物として含有するものであっても、本実施形態に係る精製方法によれば、このような不純物も効果的に除去することができる。
【0027】
本実施形態における芳香族スルフィド化合物の良溶媒としては、混合物中の不純物の溶解度が低く、かつ、芳香族スルフィド化合物の溶解度が高いものであることが好ましい。このような良溶媒を用いることによって、不純物を不溶解成分として析出させることができる。
【0028】
本実施形態における芳香族スルフィド化合物の良溶媒の具体例としては、例えば、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン(THF)、4-メチルテトラヒドロピラン(MTHP)、1,4-ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル等の極性溶媒等が挙げられる。なお、残留塩素濃度を低減する観点では、クロロホルム、ジクロロメタン等の塩素系溶媒は、良溶媒として用いないことが好ましい。
【0029】
上記の中でも、芳香族炭化水素類、エーテル類が好ましく、トルエン、4-メチルテトラヒドロピランがより好ましく、トルエンが更に好ましい。これらの溶媒は、芳香族スルフィド化合物が4,4’-チオビスベンゼンチオールである場合の良溶媒として、特に好適である。これらの溶媒は、4,4’-チオビスベンゼンチオールを溶解させることができるとともに、重合物や第4級アンモニウム塩等の不純物を不溶解成分として効果的に析出させることができる点で好ましい。
【0030】
芳香族スルフィド混合物に良溶媒を加えた後の操作としては、特に限定されず、通常の析出で行われる操作を採用することができる。
【0031】
((b)工程)
続いて、本実施形態に係る精製方法では、(b-1)ろ過助剤を含む層を少なくとも有するろ材を用いて、処理液をろ過して、ろ液を得る工程、(b-2)ろ過助剤を処理液に加えた後、ろ過することによって、ろ液を得る工程、又は(b-3)(b-1)及び(b-2)の両方を行い、ろ液を得る工程を行う。これによって、(a)工程において析出した不溶解成分が除去されたろ液を得ることができる。
【0032】
(b-1)としては、例えば、プリコート法を採用できる。プリコート法としては、例えば、ろ過に先立ち、ろ過助剤を分散させた清澄液をろ材に通して、ろ材表面にろ過助剤の層(ケーク層)を形成する方法が挙げられる。プリコート法を採用することによって、高いろ過速度で、高清澄度のろ液をより効果的に得ることができる。
【0033】
ろ過助剤の層は、2段以上の層であってもよい。2段以上のろ過助剤の層を有するろ材の場合、1段目の層は粒度が粗いろ過助剤の層とし、2段目以降の層は、粒度が粗いろ過助剤の層を使用することができる。
【0034】
ろ過助剤としては、例えば、パーライト、珪藻土、セルロース、シリカゲル、及び活性炭等からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらは市販品を使用することもできる。パーライトとしては、例えば、昭和化学工業社製の商品名「トプコ」、三井金属鉱業社製の商品名「ロカヘルプ」等を使用できる。珪藻土としては、例えば、昭和化学工業社製の商品名「ラヂオライト」等を使用できる。シリカゲルとしては、例えば、富士フイルム和光純薬社製の商品名「ワコーゲル」等を使用できる。セルロースとしては、例えば、粉末セルロースとして日本製紙社製の商品名「KCフロック」、武蔵野化学研究所社製の商品名「ロカエース」や「シルキーエイド」等を使用できる。活性炭としては、例えば、大阪ガスケミカル社製の商品名「白鷺」等を使用できる。ろ過助剤は、乾燥品、焼成品、融剤焼成品等のいずれであってもよい。これらの中でも、芳香族スルフィド化合物の精製を効率よく行うことができる観点から、パーライト、珪藻土が好ましい。
【0035】
ろ材としては、通常使用されるろ材であれば特に限定されないが、例えば、ろ紙、ろ布、金属フィルター、金属焼結フィルター、金属繊維/粉末積層タイプ等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
(b-2)としては、例えば、ボディーフィード法を採用できる。ボディーフィード法としては、(a)工程の処理液にろ過助剤を直接添加する方法を採用できる。(b-2)において使用されるろ過助剤は、(b-1)において使用可能なろ過助剤を使用することができる。これらの中でも、芳香族スルフィド化合物の精製を効率よく行うことができる観点から、パーライト、珪藻土が好ましい。
【0037】
(b-3)は、(b-1)と(b-2)とを併用する方法である。(b-3)としては、例えば、プリコート法とボディーフィード法とを併用することができる。プリコート法とボディーフィード法とを併用する場合、ろ過が進行するにつれて、懸濁液等とともにボディーフィードのろ過助剤もプリコートの層(ケーク層)によって捕捉され、ケーク層を形成することになる。これによって、ケーク層中にろ過助剤による空隙が形成されるので、流体の経路を確保でき、ろ過を更に効率よく進行させることができる。その結果、ろ過速度を一層速く維持でき、かつ、目詰まりも効果的に抑制できるため、工業的な規模であっても長時間のろ過操作を行うことができる傾向にある。
【0038】
本実施形態に係る精製方法では、ろ過速度、目詰まりも抑制、及びろ過操作時間等の観点から、(b-3)が好ましく、具体的にはプリコート法とボディーフィード法とを併用することがより好ましい。
【0039】
((c)工程)
続いて、本実施形態に係る精製方法では、(c)(b)工程で得られたろ液を、芳香族スルフィド化合物の貧溶媒に加えて、晶析させることで、芳香族スルフィド化合物を得る工程を行う。これによって、芳香族スルフィド混合物から不純物が除去された、純度の高い芳香族スルフィド化合物を得ることができる。晶析は、目的物である芳香族スルフィド化合物の各種品質に影響を及ぼすことがある操作であるが、本実施形態に係る精製方法によれば、(a)工程及び(b)工程を行った後に(c)工程を行うことによって、品質に不利な影響を及ぼすことがなく、目的物である芳香族スルフィド化合物を得ることができる。
【0040】
本実施形態における芳香族スルフィド化合物の貧溶媒としては、芳香族スルフィド化合物の溶解度が低く、かつ、ろ液中に残存している不純物の溶解度が高いものであることが好ましい。このような貧溶媒を用いることによって、芳香族スルフィド化合物を不溶解成分として析出させることができる。
【0041】
本実施形態における芳香族スルフィド化合物の貧溶媒の具体例としては、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の炭化水素類;メタノール、エタノール、n-ブタノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル等のエーテル類;水(例えば、純水、イオン水、蒸留水、精製水等も包含される。)等が挙げられる。なお、残留塩素濃度を低減する観点では、クロロホルム、ジクロロメタン等の塩素系溶媒は、良溶媒として用いないことが好ましい。
【0042】
上記の中でも、炭化水素類、アルコール類が好ましく、炭素数1~6の脂肪族炭化水素類、炭素数1~6の脂環式炭化水素類、炭素数1~4の脂肪族アルコール類がより好ましく、n-ヘプタン、メタノールが更に好ましい。これらの溶媒は、芳香族スルフィド化合物として、4,4’-チオビスベンゼンチオールを用いた場合の貧溶媒として、特に好適である。これらの溶媒は、4,4’-チオビスベンゼンチオールを効果的に晶析させることができる溶媒であるとともに、重合物や第4級アンモニウム塩等の不純物をろ液中に留まるよう溶解させておくことができる点で好ましい。
【0043】
ろ液に貧溶媒を加えた後の操作としては、特に限定されず、通常の晶析で行われる操作を行うことができる。例えば、加熱、冷却、攪拌等の操作を行ってもよい。また、添加方法は、一括添加でもよいし、順次添加でもよい。例えば、貧溶媒に滴下する方法等であってもよい。
【0044】
そして、晶析によって、芳香族スルフィド化合物を結晶として析出させた後は、ろ過等によって、目的物を分離する。分離の操作としては、例えば、ろ過として熱時ろ過等の操作を行ってもよい。
【0045】
本実施形態に係る精製方法によれば、(c)工程の段階で不純物を効果的に除去できる。(c)工程の好適な態様としては、(b)工程で得られたろ液を、芳香族スルフィドの貧溶媒に加えて、晶析させることで、不純物含有量が6000ppm以下である芳香族スルフィド化合物を含有する組成物(芳香族スルフィド化合物含有組成物)を得る工程とすることができる。より好適な態様としては不純物含有量が3000ppm以下であり、更に好適な態様としては不純物含有量が1500ppm以下であり、より更に好適な態様としては不純物含有量が1000ppm未満である。すなわち、本実施形態に係る精製方法において、(c)工程の晶析によって、従来に比して不純物含有量が著しく低減された芳香族スルフィド化合物含有組成物を得ることができる。
【0046】
<芳香族スルフィド化合物の製造方法等>
【0047】
本実施形態に係る芳香族スルフィド化合物の精製方法は、当該芳香族スルフィド化合物の製造方法において好適に使用することができる。すなわち、本実施形態に係る芳香族スルフィド化合物の製造方法は、後処理として、上述した精製方法を行う工程を含む、芳香族スルフィド化合物の製造方法である。例えば、芳香族スルフィド化合物を合成する反応を行う工程と、後処理として、上述した精製方法を行う工程とを含む、芳香族スルフィド化合物の製造方法等が挙げられる。これにより、芳香族スルフィド化合物の合成反応を行った後、合成目的物である芳香族スルフィドを分離する後処理等として、上述した精製方法を行うことができる。
【0048】
芳香族スルフィド化合物の合成反応としては、特に限定されず、公知の合成反応を採用することができる。例えば、以下の合成反応(A)~(E)からなる群より選ばれるいずれかによって、芳香族スルフィド化合物を合成することができる。
(A)第4級アンモニウム塩(例えば、テトラアルキルアンモニウム塩等)を相間移動触媒として用いる、芳香族スルフィド化合物の合成反応;
(B)第4級アンモニウム塩を用いない合成反応であり、ジフェニルスルフィドと一塩化硫黄とを、触媒(例えば、塩化亜鉛等)の存在下で、反応させる工程を含む、芳香族スルフィド化合物の合成反応;
(C)第4級アンモニウム塩を用いない合成反応であり、芳香族スルホニルハライド類(例えば、4,4’-チオビスベンゼンスルホニルクロリド等)を、還元剤を用いて還元する工程を含む、芳香族スルフィド化合物の合成反応;
(D)第4級アンモニウム塩を用いない合成反応であり、ジフェニルスルフィドとクロロスルホン酸とを、反応させる工程を含む、芳香族スルフィド化合物の合成反応;
(E)第4級アンモニウム塩を用いない合成反応であり、チオフェノールと、無水酢酸、ヨウ素及び二塩化硫黄と、を反応させる工程を含む、芳香族スルフィド化合物の合成反応。
【0049】
合成反応(A)について説明する。
【0050】
第4級アンモニウム塩としては、相間移動触媒として使用可能であればよく、特に限定されない。第4級アンモニウム塩の具体例としては、例えば、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、トリオクチルメチルアンモニウムブロミド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド等のテトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。
【0051】
合成方法(A)の具体例としては、例えば、ジクロロジフェニルスルホキシド類(4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド等)に、チオール化合物の塩(例えば、ナトリウムメタンチオラート等のアルキルチオラート塩)を、相間移動触媒である第4級アンモニウム塩の存在下で反応させて、目的とする芳香族スルフィド化合物を得る工程を含む合成反応が挙げられる。この場合、例えば、以下の工程によって、目的とする4,4’-チオビスベンゼンチオール(44TBBT)を得ることができる。
【0052】
まず、トルエン等の有機溶媒中の4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド(式(A1)の化合物(A1-1)参照)に、テトラブチルアンモニウムブロミド水溶液を加え、ナトリウムメタンチオラート水溶液を滴下して、反応させる。反応終了後、反応液の油層を分離採取して、これをろ過し、溶媒を留去すること等によって、4,4’-ジ(メチルチオ)フェニルスルホキシドを得る。
【0053】
次に、得られた4,4’-ジ(メチルチオ)フェニルスルホキシドを、トルエン等の有機溶媒に加えて、塩酸水溶液、亜鉛を分割添加して、反応させる。反応終了後、反応液をろ過して亜鉛残渣等を除去した後、油層の分離採取を行い、溶媒を留去すること等によって、4,4’-ジ(メチルチオ)フェニルスルフィドを得る。
【0054】
続いて、得られた4,4’-ジ(メチルチオ)フェニルスルフィドを、トルエン等の有機溶媒に加えて、塩素ガスと反応させて、ビス(4-クロロメチルスルファニルフェニル)スルフィドを生成させる。反応終了後、反応液に水を加えて(例えば、約110℃に)加熱して、更に反応させる。その後、冷却して、析出した結晶をろ過すること等によって、目的とする4,4’-チオビスベンゼンチオール(44TBBT)を得ることができる。
【0055】
【化6】
【0056】
そして、合成反応(A)の別の一例として、相間移動触媒を使用しなくても芳香族スルフィド化合物を合成することができるが、反応効率や収率を一層向上させる目的等から、相間移動触媒を使用することも可能である合成反応が挙げられる。このような合成反応の具体例として、例えば、後述する合成反応(B)~(E)の合成反応において、相間移動触媒として第4級アンモニウム塩を用いる、芳香族スルフィド化合物の合成反応が挙げられる。
【0057】
一例として、後述する合成反応(B)において相間移動触媒を使用する合成反応について説明する。詳細は後述するが、合成反応(B)は、ジフェニルスルフィド(Ph-S-Ph;後述する式(B1)の化合物(B1-1)参照)と一塩化硫黄とを、触媒(例えば、塩化亜鉛や亜鉛等)の存在下で、反応させる工程を行うものであるが、その際に、必要に応じて、第4級アンモニウム塩を相間移動触媒として併用することもできる。例えば、ジフェニルスルフィドと一塩化硫黄とを、金属系触媒(例えば、塩化亜鉛や亜鉛等)及び相間移動触媒(第4級アンモニウム塩等)の存在下で反応させる工程を行う合成反応を行うことも可能であろう。
【0058】
また、合成反応(A)の更に別の一例として、原料として使用可能であるジフェニルスルフィド(Ph-S-Ph)を相間移動触媒を用いて合成する工程を含む、芳香族スルフィド化合物の合成反応が挙げられる。つまり、芳香族スルフィド化合物の原料であるジフェニルスルフィドを合成する段階で、相間移動触媒を使用する場合である。このような合成反応(A)の具体例として、例えば、第4級アンモニウム塩(例えば、テトラアルキルアンモニウム塩等)を相間移動触媒として用いてジフェニルスルフィドを合成する工程と、得られたジフェニルスルフィドから芳香族スルフィド化合物(4,4’-ジ(メチルチオ)フェニルスルホキシド等)を合成する工程と、を含む芳香族スルフィド化合物の合成反応等が挙げられる。ジフェニルスルフィドの合成反応は、相間移動触媒を使用可能な反応であれば特に限定されず、公知の合成反応を採用することができる。
【0059】
なお、合成反応(A)に関して、例えば、特開2011-207793号公報等の開示も参照することができる。
【0060】
芳香族スルフィド化合物の合成方法において、相間移動触媒として第4級アンモニウム塩を用いる場合、目的物である芳香族スルフィドと、相間移動触媒のカチオンと、の塩が副生されてしまい、この副生成物が、反応生成物全体として有機溶媒への溶解性の悪化、及び次工程の反応において操作性の悪化、収率の低下の原因となることが考えられており、特に、第4級アンモニウム塩を用いる場合は、目的物と副生成物(不純物)との分離が困難である傾向にある。しかしながら、後処理として本実施形態に係る精製方法を行うことによって、このような分離が難しい副生成物が存在する反応系であっても、効果的に目的物を分離・精製することができる。
【0061】
合成反応(B)について説明する。
【0062】
合成反応(B)としては、ジフェニルスルフィドと一塩化硫黄とを、触媒(例えば、塩化亜鉛や亜鉛等)の存在下で、反応させる工程を行うが、必要に応じて、過剰の一塩化硫黄をアルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム等)とアルカリ性条件下で反応させることが好ましい。なお、合成反応(A)において説明したように、相間移動触媒を使用する場合には、例えば、ジフェニルスルフィドと一塩化硫黄とを、金属系触媒(例えば、塩化亜鉛や亜鉛等)及び相間移動触媒(第4級アンモニウム塩等)の存在下で反応させる工程であってもよい。
【0063】
さらに、必要であれば、上記触媒の活性を制御する観点から、N,N’-ジメチルホルムアミド等のカルボキシアミドを反応系に存在させることが好ましい。この場合、例えば、以下の工程によって、目的とする4,4’-チオビスベンゼンチオール(44TBBT)を得ることができる。
【0064】
まず、酢酸エチル等の有機溶媒中のN,N’-ジメチルホルムアミド、一塩化硫黄、及び塩化亜鉛に対して、ジフェニルスルフィド(式(B1)の化合物(B1-1)参照)を滴下して、反応させることによって、一旦、ポリ[チオ-1,4-フェニレン(ジチオ)-1,4-フェニレン]のような多量体を得る。反応終了後、反応液にモノクロルベンゼンを加えた後、有機層を分離採取する。
【0065】
次に、これに水酸化ナトリウム水溶液を加えて、(例えば、80~95℃で)加熱して、4,4'-チオビスベンゼンチオールのナトリウム塩を得る。
【0066】
続いて、得られた反応液を分液して、有機層を除いた後、アルカリ層を冷却して、塩酸又は硫酸等の酸を加えて、目的とする4,4’-チオビスベンゼンチオール(44TBBT、式(B1)の化合物(1-1)参照)を得ることができる。
【0067】
【化7】
【0068】
合成反応(B)に関して、例えば、特開平06-032773号公報や特開平04-264064号公報等の開示も参照することができる。
【0069】
合成反応(C)について説明する。
【0070】
合成反応(C)としては、例えば、チオビスベンゼンスルホニルハライド類である4,4’-チオビスベンゼンスルホニルクロリド(下記式(C1)の化合物(C1-1)参照)を、亜鉛、塩酸、及び硝酸ビスマス(III)存在下で反応させる方法等が挙げられる。その他にも、4,4’-チオビスベンゼンスルホニルクロリドを、亜鉛、リン、及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いて還元する方法等も挙げられる。
【0071】
【化8】
【0072】
なお、上記のチオビスベンゼンスルホニルハライド類は、例えば、ジフェニルスルフィド(Ph-S-Ph)とハロゲン化スルホニル(例えば、クロロスルホン酸(SOCl(OH))等)とを反応させて、ハロゲン化スルホニル基(-SOCl)をジフェニルスルフィドの芳香環に導入する反応によって得ることができる。
【0073】
合成反応(C)に関して、例えば、特開平03-014557号公報や特開平03-170456号公報等の開示も参照することができる。
【0074】
合成反応(D)について説明する。
【0075】
合成反応(D)としては、例えば、ジフェニルスルフィドとクロロスルホン酸とを、反応させることによって、目的とする4,4’-チオビスベンゼンチオール(44TBBT)を得ることができる。この反応は、必要に応じて、硫酸や亜鉛等の存在下で行うことができる。
【0076】
合成反応(D)に関して、例えば、特開平03-170456号公報等の開示も参照することができる。
【0077】
合成反応(E)について説明する。
【0078】
合成反応(E)としては、例えば、チオフェノールと、無水酢酸、ヨウ素及び二塩化硫黄と、を反応させることによって、目的とする4,4’-チオビスベンゼンチオール(44TBBT)を得ることができる。
【0079】
上述した芳香族スルフィド化合物の合成反応の中でも、本実施形態の精製方法による不純物の除去効果が優れており、従来に比して不純物含有量が低い目的物を効果的に得ることができるという観点から、第4級アンモニウム塩を相間移動触媒として使用した合成反応(例えば、合成反応(A)等参照)を用いることが好ましい。当該合成反応によって芳香族スルフィド化合物を得て、当該芳香族スルフィド化合物が含まれた反応液又は後処理物等を、上述した精製方法によって精製することで、より純度が高い芳香族スルフィド化合物を効率的に得ることができる。
【0080】
なお、本実施形態に係る精製方法によって精製される芳香族スルフィド化合物は、どのような合成反応によって合成されたのかによって何ら限定されるものではない。例えば、汎用されている公知の合成反応によって得られた芳香族スルフィド化合物の粗生成物が、本実施形態に係る精製対象になり得ることは、いうまでもない。
【0081】
さらに、本実施形態に係る精製方法の対象である芳香族スルフィド化合物の混合物は、合成反応後の粗生成物に限定されない。例えば、反応の副生成物ではない不純物が含まれた混合物も本実施形態に係る精製対象になり得ることは、いうまでもない。例えば、芳香族スルフィド化合物の市販試薬を精製する方法やその純度を更に高める方法として、本実施形態に係る精製方法を用いることも可能である。
【0082】
<芳香族スルフィド誘導体の製造方法等>
【0083】
本実施形態に係る精製方法によって得られた芳香族スルフィド化合物は、純度が高いため、ビス(4-メタクリロイルチオフェニル)スルフィド(BMTPS)等の芳香族スルフィド誘導体の製造方法の原料として、好適に使用できる。すなわち、本実施形態に係る芳香族スルフィド誘導体の製造方法は、
(i)上記の精製方法によって精製された芳香族スルフィド化合物を準備する工程と;
(ii)精製された芳香族スルフィド化合物と、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリロイルハライドからなる群より選ばれる少なくとも1種とを、反応させて、下記式(2)で表される構造を有する芳香族スルフィド誘導体を得る工程と、を含む、芳香族スルフィド誘導体の製造方法である。
【0084】
【化9】
【0085】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、A及びBは、それぞれ独立に、S原子又はO原子を表し、a及びbは、それぞれ独立に、0又は1であり、a及びbの少なくとも1つは1である。)
【0086】
式(2)で表される構造を有する芳香族スルフィド誘導体は、式(1)で表される構造を有する芳香族スルフィド化合物のR及びR(-OH基又は-SH基)と、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリロイルハライドからなる群より選ばれるいずれか1つとを反応させることによって得られる。例えば、芳香族スルフィド化合物の芳香環に結合したR及びRが-SH基である場合、チオエステル反応が進行して、チオエステル結合(-CO-S-)が生成する。例えば、芳香族スルフィド化合物の芳香環に結合したR及びRが-OH基である場合、エステル反応が進行して、エステル結合(-CO-O-)が生成する。
【0087】
上述した式(2)のR、R、a、及びbの組み合わせとしては、R及びRが同じであり、かつ、R及びRの両方が水素原子又はメチル基であり、a及びbの両方が1であることが好ましい。
【0088】
本実施形態に係る製造方法によって得られる芳香族スルフィド誘導体(式(2))の具体例としては、例えば、芳香族スルフィド化合物(式(1))の具体例として例示した化合物(1-1)~(1-7)の芳香環に結合している-OH基又は-SH基に、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリロイルハライドからなる群より選ばれるいずれか1つを反応させたものを例示できる。これらの中でも芳香族スルフィド誘導体(式(2))の好適な具体例を例示するならば、例えば、下記の式(2-1-1)~(2-7-2)からなる群より選ばれるいずれかで表される構造を有する化合物(化合物(2-1-1)~(2-7-2))等が挙げられる。これらの中でも、従来に比して純度がより高い目的物を効果的に得ることができるという観点から、式(2-1-1)又は式(2-1-2)で表される化合物(化合物(2-1-1)、(2-1-2))がより好ましい。
【0089】
【化10】
【0090】
【化11】
【0091】
【化12】
【0092】
上述の(メタ)アクリル基を有する芳香族スルフィド誘導体である化合物(2-1-1)~(2-7-2)は、例えば、芳香族スルフィド化合物である化合物(1-1)~(1-7)から得ることができる。化合物(2-1-1)~(2-3-2)は、(メタ)アクリル基のチオエステルであり、化合物(2-4-1)~(2-7-2)は、(メタ)アクリル基のエステルである。
【0093】
例えば、化合物(2-1-1)及び(2-1-2)は、化合物(1-1)から得ることができる。化合物(2-2-1)及び(2-2-2)は、化合物(1-2)から得ることができる。化合物(2-3-1)及び(2-3-2)は、化合物(1-3)から得ることができる。化合物(2-4-1)及び(2-4-2)は、化合物(1-4)から得ることができる。化合物(2-5-1)及び(2-5-2)は、化合物(1-5)から得ることができる。化合物(2-6-1)及び(2-6-2)は、化合物(1-6)から得ることができる。化合物(2-7-1)及び(2-7-2)は、化合物(1-7)から得ることができる。
【0094】
ここで、ビス(4-メタクリロイルチオフェニル)スルフィド(BMTPS)である化合物(2-1-1)の場合を例にして、芳香族スルフィド誘導体の合成方法を説明する。
【0095】
化合物(2-1-1)は、4,4’-チオビスベンゼンチオール(44TBBT)である化合物(1-1)を原料として用いることができる。そして、化合物(1-1)をチオエステル化して化合物(2-1-1)を得る反応として、以下の反応(i)及び(ii)等を例示できる。
・(i)化合物(1-1)とメタクリル酸とを反応させる方法;
・(ii)化合物(1-1)とメタクリロイルハライドとを反応させる方法。
【0096】
方法(i)の場合、有機溶媒中において、DMAP等の触媒やEDC等の縮合剤の存在下で、芳香族スルフィド化合物(化合物(1-1)と、メタクリル酸とを反応させる方法が挙げられる。この場合、有機溶媒は、上述した精製方法において不純物の除去を効率よく行うことができる点も考慮すれば、芳香族スルフィド化合物の良溶媒として使用可能なものを用いることが好ましい。例えば、4,4’-チオビスベンゼンチオールを用いた場合の良溶媒として好適な芳香族炭化水素類(例えば、トルエン等)、エーテル類(例えば、4-メチルテトラヒドロピラン等)を使用することが好ましい。
【0097】
方法(ii)の場合、有機溶媒中において、芳香族スルフィド化合物(化合物(1-1)と、メタクリロイルハライド(例えば、メタクリロイルクロリド等)とを反応させる方法が挙げられる。この場合、有機溶媒は、上述した精製方法において不純物の除去を効率よく行うことができる点も考慮すれば、芳香族スルフィド化合物の良溶媒として使用可能なものを用いることが好ましい。例えば、4,4’-チオビスベンゼンチオールを用いた場合の良溶媒として好適なトルエン等を使用することが好ましい。そして、メタクリロイルハライドを、芳香族スルフィド化合物に順次滴下する操作によって反応させることができる。(メタ)アクリロイルハライドとしては、酸クロライド(例えば、(メタ)アクリロイルクロリド)、酸ブロマイド(例えば、(メタ)アクリロイルブロミド)等を使用でき、反応条件に応じて適切な種類を選択することができる。
【0098】
そして、方法(i)及び方法(ii)のいずれにおいても、必要に応じて、反応終了後に公知の後処理及び精製を行い、目的物である芳香族スルフィド誘導体を得ることができる。
【0099】
化合物(2-1-2)~(2-7-2)も、化合物(2-1-1)について説明した上記の方法に準じて合成することができる。例えば、化合物(2-1-2)は、化合物(1-1)と、アクリル酸又はアクリロイルハライドと、を反応させればよい。化合物(2-7-1)は、化合物(1-7)と、メタクリル酸又はメタクリロイルハライドと、を反応させればよい。化合物(2-7-2)は、化合物(1-7)と、アクリル酸又はアクリロイルハライドと、を反応させればよい。
【0100】
本実施形態に係る製造方法によれば、原料として使用する芳香族スルフィド化合物の不純物含有量が低いため、目的物である芳香族スルフィド誘導体の不純物含有量についても低減することができる。その好適な態様としては、(ii)工程は、精製された芳香族スルフィド化合物と、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリロイルハライドからなる群より選ばれる少なくとも1種とを、反応させて、不純物含有量が30ppm以下である、芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物(芳香族スルフィド誘導体含有組成物)を得ることができる。より好適な態様としては不純物含有量が20ppm以下であり、更に好適な態様としては不純物含有量が10ppm以下であり、より更に好適な態様としては不純物含有量が8ppm未満である。すなわち、本実施形態に係る製造方法において、(ii)工程の反応後の分離物として、従来に比して不純物含有量が著しく低減された芳香族スルフィド誘導体含有組成物を得ることができる。
【0101】
本実施形態に係る製造方法によれば、高い合成収率を得ることもできる。その好適な態様としては、例えば、
(i)上記の精製方法によって、精製された芳香族スルフィド化合物を含有する原料を準備する工程と;
(ii)原料中の精製された芳香族スルフィド化合物と、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリロイルハライドからなる群より選ばれる少なくとも1種とを、反応させて、上記の式(2)で表される構造を有する芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物(芳香族スルフィド誘導体含有組成物)を得る工程と;
を含み、
(ii)工程における原料に対する芳香族スルフィド誘導体含有組成物の合成収率(芳香族スルフィド誘導体含有組成物/芳香族スルフィド化合物、モル質量比)が70%以上である、芳香族スルフィド誘導体の製造方法が挙げられる。
そして、より好適な態様としては合成収率が80%以上であり、更に好適な態様としては合成収率が84%以上である。
【0102】
さらに、本実施形態に係る方法によって得られる芳香族スルフィド誘導体含有組成物は、不純物含有量が低減された高い純度であるため、組成物のろ過性が良好であるという利点も有する。本実施形態によって達成し得るろ過性が良好な好適例としては、膜孔径0.45μmのシリンジフィルターに、当該組成物の0.8質量%プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)溶液を押出圧5kg/cmで10秒間押し出した際の通過率が、40%以上である。
通過率(%)=通過量/充填量×100 である。
【0103】
なお、充填量とは、溶剤がプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである当該組成物の0.8質量%溶液を、シリンジに充填した液量をいう。通過量とは、充填された溶液がシリンジに接続されたシリンジフィルターを通過して、外部に押し出された溶液の量をいう。例えば、シリンジに充填された溶液の全量がシリンジフィルターを通過して外部に押し出された場合の通過率は、100%である。
【0104】
このようにして得られる芳香族スルフィド誘導体含有組成物は、
(i)上記の精製方法によって精製された芳香族スルフィドを準備する工程と;
(ii)精製された芳香族スルフィド化合物と、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリロイルハライドからなる群より選ばれる少なくとも1種とを、反応させて、上記式(2)で表される構造を有する芳香族スルフィド誘導体を含有する組成物を得る工程と、を含む方法によって得られる芳香族スルフィド誘導体含有組成物である。かかる組成物は、上述した精製方法の利点を享受することができるものであり、純度が高い芳香族スルフィド誘導体であり、上述した種々の利点を有する組成物である。
【実施例0105】
以下の実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下において特に断りがない限り、数量は質量基準であり、実験は25℃、大気圧の条件下で行った。
【0106】
<不純物の定量>
不純物含有量は、特に断りがない限り、以下の方法によって算出した。測定サンプルについて、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)及びガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)を用いて不純物の存在等を確認し、核磁気共鳴分析(H-NMR)の積分比等から、目的物に対する不純物の濃度(質量比)を算出した。なお、H-NMR、LC-MS、GC-MSの測定条件は、それぞれ以下のとおりである。
H-NMR
ブルカー社製 AVANCE400
溶媒:重クロロホルム
標準物質:テトラメチルシラン(TMS)
観測周波数:400MHz
積算回数:32
・GC-MS
島津製作所社製 QP5050A
キャリアガス:He
試料導入法:直接試料導入法(DI法)
・LC-MS
島津製作所社製 LCMS-8030
イオン化法:ESI
移動相:アセトニトリル/水
流速:0.2mL/分
【0107】
1.芳香族スルフィド化合物(粗生成物)の精製
【0108】
(参考例)
まず、芳香族スルフィド化合物である4,4’-チオビスベンゼンチオールを主成分として含有する粗生成物(白色粉末)を準備し、これを精製することなく、そのまま使用した。この粗生成物は、第4級アンモニウムであるテトラブチルアンモニウムブロミドを相間移動触媒として使用する合成方法によって得られた、4,4’-チオビスベンゼンチオールと第4級アンモニウム塩等の不純物を含有する混合物である。そして、この粗生成物の不純物含有量は、13300ppmであった。なお、この粗生成物をH-NMR、GS-MS、及びLC-MS等によって分析したところ、不純物として、例えば、4,4’-チオビスベンゼンチオールのチオール基にテトラブチルアンモニウム(Bu)が結合した第4級アンモニウム塩等の存在も確認された。以下の各実施例及び各比較例では、この粗生成物を開始原料として使用した。
【0109】
(実施例1-1)
4,4’-チオビスベンゼンチオールの粗生成物20.0gをトルエン80.0gに加えて、20分間攪拌し、懸濁液を得た。その懸濁液を、シリカゲル(商品名:ワコーゲル、富士フイルム和光純薬社製)2.0gをプリコートした桐山漏斗を用いてろ過し、不溶解成分を除去した。得られたろ液を濃縮した後、10℃以下に冷却したメタノール400g中へ10分かけて滴下し、1時間撹拌した。その後、析出した結晶をろ取し、減圧乾燥して、微黄色~白色針状の結晶18.8gを得た。
【0110】
(実施例1-2)
プリコートに珪藻土(商品名:ラヂオライト、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-1と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶18.6gを得た。
【0111】
(実施例1-3)
プリコートにパーライト(商品名:トプコ、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-1と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶18.8gを得た。
【0112】
(実施例1-4)
4,4’-チオビスベンゼンチオールの粗生成物20.0gをトルエン80.0gに加えて、20分間攪拌し、懸濁液を得た。そこへ粉末セルロース(商品名:KCフロック、日本製紙社製)1.0gを添加し20分間撹拌した。そして、粉末セルロースをろ別し、ろ液を濃縮した後、10℃以下に冷却したメタノール400g中へ10分かけて滴下し、1時間撹拌した。その後、析出した結晶をろ取し、減圧乾燥して微黄色~白色針状の結晶18.4gを得た。
【0113】
(実施例1-5)
4,4’-チオビスベンゼンチオールの粗生成物20.0gをトルエン80.0gに加えて、20分間攪拌し、懸濁液を得た。そこへ粉末セルロース(商品名:KCフロック、日本製紙社製)1.0gを添加し20分間撹拌した。撹拌後、シリカゲル(商品名:ワコーゲル、富士フイルム和光純薬社製)2.0gをプリコートした桐山漏斗を用いてろ過し、不溶解成分を除去した。得られたろ液を濃縮した後、10℃以下に冷却したメタノール400g中へ10分かけて滴下し、1時間撹拌した。その後、析出した結晶をろ取し、減圧乾燥して微黄色~白色針状の結晶18.2gを得た。
【0114】
(実施例1-6)
プリコートとして珪藻土(商品名:ラヂオライト、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-5と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶17.8gを得た。
【0115】
(実施例1-7)
プリコートとしてパーライト(商品名:トプコ、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-5と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶17.6gを得た。
【0116】
(実施例1-8)
添加助剤として珪藻土(商品名:ラヂオライト、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-4と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶18.6gを得た。
【0117】
(実施例1-9)
添加助剤として珪藻土(商品名:ラヂオライト、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-5と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶18.4gを得た。
【0118】
(実施例1-10)
プリコートとして珪藻土(商品名:ラヂオライト、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-9と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶18.2gを得た。
【0119】
(実施例1-11)
プリコートとしてパーライト(商品名:トプコ、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-9と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶18.2gを得た。
【0120】
(実施例1-12)
添加助剤としてパーライト(商品名:トプコ、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-4と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶19.0gを得た。
【0121】
(実施例1-13)
添加助剤としてパーライト(商品名:トプコ、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-5と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶18.8gを得た。
【0122】
(実施例1-14)
プリコートとして珪藻土(商品名:ラヂオライト、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-13と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶18.4gを得た。
【0123】
(実施例1-15)
プリコートとしてパーライト(商品名:トプコ、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-13と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶18.8gを得た。
【0124】
(実施例1-16)
添加助剤として活性炭(商品名:白鷺M、大阪ガスケミカル社製)を用いた点以外は、実施例1-4と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶18.0gを得た。
【0125】
(実施例1-17)
添加助剤として活性炭(商品名:白鷺M、大阪ガスケミカル社製)を用いた点以外は、実施例1-5と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶17.6gを得た。
【0126】
(実施例1-18)
プリコートとして珪藻土(商品名:ラヂオライト、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-17と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶17.2gを得た。
【0127】
(実施例1-19)
プリコートとしてパーライト(商品名:トプコ、昭和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1-17と同様の操作を実施し、微黄色~白色針状の結晶17.8gを得た。
【0128】
(比較例1-1)
4,4’-チオビスベンゼンチオールの粗生成物20.0gを酢酸エチル40.0gに加えて、1時間撹拌した。その後、固体をろ取し、減圧乾燥して白色粉末18.2gを得た。なお、比較例1-1の不純物濃度が13800ppmに増加した理由としては、目的物以外のチオール等の不純物が溶媒(酢酸エチル)に溶解してしまったからだと推測される。
【0129】
(比較例1-2)
4,4’-チオビスベンゼンチオールの粗生成物20.0gをメタノール40.0gに加えて、1時間撹拌した。その後、固体をろ取し、減圧乾燥して白色粉末19.2gを得た。
【0130】
(比較例1-3)
4,4’-チオビスベンゼンチオールの粗生成物20.0gをトルエン40.0gに加えて、20分間攪拌し、懸濁液を得た。その懸濁液を、10℃以下に冷却したメタノール400g中へ10分かけて滴下し、1時間撹拌した。その後、析出した結晶をろ取し、減圧乾燥して微黄色~白色粉末19.2gを得た。
【0131】
参考例、各実施例、及び各比較例の条件及び結果について、表1に示す。なお、表1の「精製回収率」とは、精製開始前の4,4’-チオビスベンゼンチオールの粗生成物(参考例参照)に対する、精製後の4,4’-チオビスベンゼンチオールを含有する組成物(4,4’-チオビスベンゼンチオール含有組成物)の質量比を示す。
【0132】
【表1】
【0133】
2.芳香族スルフィド化合物を用いたBMTPSの製造
【0134】
[製造例1-3]
まず、200mLの反応容器(第1の反応容器)に、実施例1-6で精製された芳香族スルフィド化合物含有組成物である4,4’-チオビスベンゼンチオール(44TBBT)10.0g(0.0399mol)、4-メチルテトラヒドロピラン(MTHP)40mL、20質量%水酸化ナトリウム水溶液19.2g(0.0959mol)を加え、内温60℃で1時間撹拌した。
【0135】
次に、別の反応容器(第2の反応容器)にメタクリル酸17.2g(0.200mol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)13.6g(0.0879mol)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)0.98g(0.0080mol)、及び4-メチルテトラヒドロピラン(MTHP)10mLを加えて、20分間攪拌した。
【0136】
そして、第1の反応容器中の溶液及び第2の反応容器の溶液を、それぞれ、5℃に冷却し、内温10℃以下を保ちながら、第2の溶液を30分かけて第1の溶液に滴下した。滴下終了後60℃で4時間撹拌し、反応終了後、反応溶液を分液し、有機層を得た。得られた有機層を水で洗浄後、0℃に冷却して、析出した結晶をろ別し、白色固体のビス(4-メタクリロイルチオフェニル)スルフィド(BMTPS)を13.9g(収率90.2%)得た。
【0137】
【化13】
【0138】
[製造例2-1]
200mL反応容器に、実施例1-6で精製された芳香族スルフィド化合物含有組成物である4,4’-チオビスベンゼンチオール(44TBBT)(10.0g、0.0399mol)、トルエン40mL、20質量%水酸化ナトリウム水溶液19.2g(0.0959mol)を加え、内温60℃で1時間撹拌した。反応液を5℃に冷却し、内温10℃以下を保ちながらメタクリル酸クロリド(25.0g、0.240mol)を30分かけて滴下した。滴下終了後室温で2時間撹拌し、反応終了後、反応溶液を分液し、有機層を得た。得られた有機層を水で洗浄後、0℃に冷却して、析出した結晶をろ別し、白色固体のBMTPSを11.3g(収率73.0%)得た。
【0139】
【化14】
【0140】
[製造例1-1、1-2、1-4~1-8]
製造例1-1は、実施例1-4の精製された芳香族スルフィド化合物含有組成物を使用した点以外は、製造例1-3と同様の条件で、BMTPSを得た。
製造例1-2は、実施例1-5の精製された芳香族スルフィド化合物含有組成物を使用した点以外は、製造例1-3と同様の条件で、BMTPSを得た。
製造例1-4は、実施例1-7の精製された芳香族スルフィド化合物含有組成物を使用した点以外は、製造例1-3と同様の条件で、BMTPSを得た。
製造例1-5は、実施例1-4の洗浄溶媒をメタノールから純水に種類を変更して芳香族スルフィド化合物含有組成物を精製した点以外は、製造例1-3と同様の条件で、BMTPSを得た。
製造例1-6は、実施例1-5の洗浄溶媒をメタノールから純水に種類を変更して芳香族スルフィド化合物含有組成物を精製した点以外は、製造例1-3と同様の条件で、BMTPSを得た。
製造例1-7は、実施例1-6の洗浄溶媒をメタノールから純水に種類を変更して芳香族スルフィド化合物含有組成物を精製した点以外は、製造例1-3と同様の条件で、BMTPSを得た。
製造例1-8は、実施例1-7の洗浄溶媒をメタノールから純水に種類を変更して芳香族スルフィド化合物含有組成物を精製した点以外は、製造例1-3と同様の条件で、BMTPSを得た。
【0141】
[比較製造例1-1~1-4]
比較製造例1-1は、参考例の粗生成物(4,4’-チオビスベンゼンチオールを主成分として含有する粗生成物(白色粉末))をそのまま使用して、製造例1-3と同様の条件で、BMTPSを得た。
比較製造例1-2は、比較例1-1の酢酸エチルで精製された芳香族スルフィド化合物含有組成物を使用した点以外は、製造例1-3と同様の条件で、BMTPSを得た。
比較製造例1-3は、比較例1-2のメタノールで精製された芳香族スルフィド化合物含有組成物を使用した点以外は、製造例1-3と同様の条件で、BMTPSを得た。
比較製造例1-4は、比較製造例1-2の酢酸エチルを純水に種類を変更して芳香族スルフィド化合物含有組成物を精製した点以外は、製造例1-3と同様の条件で、BMTPSを得た。
【0142】
[比較製造例2-1~2-4]
比較製造例2-1は、参考例の粗生成物(4,4’-チオビスベンゼンチオールを主成分として含有する粗生成物(白色粉末))をそのまま使用して、製造例2-1と同様の条件で、BMTPSを得た。
比較製造例2-2は、比較例1-1の酢酸エチルで精製された芳香族スルフィド化合物含有組成物を使用した点以外は、製造例2-1と同様の条件で、BMTPSを得た。
比較製造例2-3は、比較例1-2のメタノールで精製された芳香族スルフィド化合物含有組成物を使用した点以外は、製造例2-1と同様の条件で、BMTPSを得た。
比較製造例2-4は、比較製造例2-2の酢酸エチルを純水に種類を変更して芳香族スルフィド化合物含有組成物を精製した点以外は、製造例2-1と同様の条件で、BMTPSを得た。
【0143】
<BMTPSの合成収率>
表2の「BMTPS合成収率」は、BMTPSの合成に使用した原料に対する、合成後のBMTPSを含有する組成物(4,4’-チオビスベンゼンチオール含有組成物)のモル質量比を示す。
例えば、製造例1-3の場合を例にして説明する。
44TBBTの分子量は250.39であり、BMTPSの分子量は386.54
であるから、
使用した44TBBTは、(10/250.39)=0.0399mol、
得られるBMTPSの理論収量は、386.54×0.0399=15.4g、
となる。
そして、実際に得られたBMTPS量は13.9gであるから、
収率=13.9/15.4×100=90.2%となる。
【0144】
<組成物ろ過性>
表2の「組成物ろ過性」は、得られたBMTPSのろ過性を評価した。具体的には、測定サンプルであるBMTPSを含有する組成物(4,4’-チオビスベンゼンチオール含有組成物)について、溶剤がプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)である0.8質量%溶液を準備した。そして、この溶液50mLを、汎用注射筒(テルモ社製、製品名:テルモシリンジ、シリンジ容量50mL)内に充填した。そして、押出圧5kg/cmで10秒間、汎用注射筒に接続した除粒子用シリンジフィルターユニット(クラボウ社製、製品名:「クロマトディスク 非水系(HPLC前処理用シリンジフィルター)25N」、未滅菌、膜孔径0.45μm、有効ろ過面積4cm、フィルター材質ポリテトラフルオロエチレン)に通液したときの液量を測定し、ろ過性を評価した。なお、通過率(%)=通過量/充填量(50mL)×100 である。

〇:1回の押し出し(手動)での通液量が40mL以上であった。(通過率80%以上)
△:1回の押し出し(手動)での通液量が10mL以上40mL未満であった。(通過率20%以上80%未満)
×:1回の押し出し(手動)での通液量が10mL未満であった。(通過率20%未満)
【0145】
【表2】
【0146】
以上のことから、本実施例によれば、不純物の除去に優れた芳香族スルフィド化合物の精製方法であることが少なくとも確認された。そして、このような精製方法を芳香族スルフィド化合物の製造方法に用いることによって、不純物含有量が低減された芳香族スルフィド化合物が得られることが確認できた。さらには、このような精製方法によって得られた芳香族スルフィド化合物を用いて製造された芳香族スルフィド誘導体についても、不純物含有量が少ないことが少なくとも確認された。