(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076897
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】クロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
C07C 17/386 20060101AFI20240530BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20240530BHJP
C07C 17/389 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C07C17/386
C07C21/18
C07C17/389
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188719
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三竹 覚人
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB46
4H006AD13
4H006AD17
4H006BB12
4H006BC51
4H006BC52
4H006EA03
(57)【要約】
【課題】地球温暖化係数の低い抽出溶剤を用いて、共沸組成物又は共沸様組成物の形成により分離が困難なR22とHFPとの混合物から、R22とHFPを高効率で分離する分離方法の提供。
【解決手段】クロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンとを含む第1の混合物と、ハイドロフルオロカーボンを含む抽出溶剤と、を混合して抽出用混合物を得る混合工程と、前記抽出用混合物を蒸留して、クロロジフルオロメタンを主成分とする第1の留出物と、前記抽出溶剤を主成分としヘキサフルオロプロピレンを含む第1の缶出物と、をそれぞれ得る抽出蒸留工程と、を有する、クロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンとを含む第1の混合物と、ハイドロフルオロカーボンを含む抽出溶剤と、の混合物である抽出用混合物を得る混合工程と、
前記抽出用混合物を蒸留して、クロロジフルオロメタンを主成分とする第1の留出物と、前記抽出溶剤を主成分としヘキサフルオロプロピレンを含む第1の缶出物と、をそれぞれ得る抽出蒸留工程と、
を有する、クロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【請求項2】
前記ハイドロフルオロカーボンは、0~120℃の沸点を有する、請求項1に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【請求項3】
前記ハイドロフルオロカーボンは、クロロジフルオロメタン及びヘキサフルオロプロピレンの合計モル量に対し3倍量の前記ハイドロフルオロカーボンを添加したときに、クロロジフルオロメタンのヘキサフルオロプロピレンに対する比揮発度Rvを1.1より大きくする化合物である、請求項1に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【請求項4】
ハンセン溶解度パラメータの値から求められるヘキサフルオロプロピレンと前記ハイドロフルオロカーボンとの相互作用距離RaHFPが、クロロジフルオロメタンと前記ハイドロフルオロカーボンとの相互作用距離RaR22よりも小さい、請求項1に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【請求項5】
前記相互作用距離RaHFPの前記相互作用距離RaR22に対する比が0.7以下である、請求項4に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【請求項6】
前記ハイドロフルオロカーボンの炭素数が2~8である、請求項1に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【請求項7】
前記ハイドロフルオロカーボンは、下記式(1)で表される飽和化合物及び下記式(2)で表される不飽和化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
(1) Cx1Hy1Fz1
(2) Cx2Hy2Fz2
前記式(1)中、x1は2~8の整数、y1は1~(x1)×2+1の整数、z1は(x1)×2+2-y1であり、
前記式(2)中、x2は2~8の整数、y2は1~(x2)×2-1の整数、z2は(x2)×2-y2である。
【請求項8】
前記ハイドロフルオロカーボンは、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロブタン、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキセン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、及び1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【請求項9】
前記混合工程における前記ハイドロフルオロカーボンの添加量のモル比は、クロロジフルオロメタン及びヘキサフルオロプロピレンの合計モル量に対し、1/1~30/1である、請求項1に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【請求項10】
前記第1の缶出物を蒸留して、前記ヘキサフルオロプロピレンを主成分とする第2の留出物を得る第2の蒸留工程をさらに有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【請求項11】
前記第1の混合物は、クロロトリフルオロエチレンをさらに含み、
前記第1の缶出物は、クロロトリフルオロエチレンをさらに含む、
請求項1に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【請求項12】
前記第1の混合物は、クロロトリフルオロエチレンをさらに含み、
前記第1の缶出物は、クロロトリフルオロエチレンをさらに含み、
前記第2の留出物は、クロロトリフルオロエチレンをさらに含む、
請求項10に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【請求項13】
前記第2の留出物と吸着剤とを接触させ、ヘキサフルオロプロピレンを主成分とする精製物を得る吸着工程をさらに有する、請求項12に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【請求項14】
前記吸着剤は、合成ゼオライトを含む、請求項13に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
【請求項15】
ヘキサフルオロプロピレンとクロロジフルオロメタンとを含む組成物であって、ヘキサフルオロプロピレンの含有率は前記組成物全体に対し99.5質量%以上である、組成物。
【請求項16】
さらにクロロトリフルオロエチレンを含む、請求項15に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサフルオロプロピレンは、フッ素樹脂等の原料として用いられる化合物であり、例えば、クロロジフルオロメタンの熱分解反応により得られる。以下、ヘキサフルオロプロピレンを「HFP」ともいい、クロロジフルオロメタンを「R22」ともいう。
R22の熱分解反応により純度の高いHFPを得ようとする場合、未反応のR22と生成したHFPとの分離が求められる。原料と反応生成物とを分離する方法として、例えば沸点差を利用した蒸留が挙げられるが、R22とHFPとは共沸組成物又は共沸様組成物を形成するため、蒸留による分離は困難である。
【0003】
R22とHFPを分離する方法として、特許文献1には、蒸留条件下で液体である炭素数2以上のパーフルオルまたはハロゲン化ポリフルオル化合物を用いた抽出蒸留が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたパーフルオルまたはハロゲン化ポリフルオル化合物は、後述するように、地球温暖化係数が高い。以下、地球温暖化係数を「GWP」ともいう。そこで、GWPの高い化合物を用いない、R22とHFPの効率的な分離が求められる。また、R22とHFPの分離により、高純度のHFPを得ることが求められる。
【0006】
本開示の一態様は、地球温暖化係数の低い抽出溶剤を用いて、共沸組成物又は共沸様組成物の形成により分離が困難なR22とHFPとの混合物から、R22とHFPを高効率で分離する分離方法を提供することを目的とする。
また、本開示の一態様は、HFPの純度が高い組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は以下の態様を含む。
<1> クロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンとを含む第1の混合物と、ハイドロフルオロカーボンを含む抽出溶剤と、の混合物である抽出用混合物を得る混合工程と、
前記抽出用混合物を蒸留して、クロロジフルオロメタンを主成分とする第1の留出物と、前記抽出溶剤を主成分としヘキサフルオロプロピレンを含む第1の缶出物と、をそれぞれ得る抽出蒸留工程と、
を有する、クロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
<2> 前記ハイドロフルオロカーボンは、0~120℃の沸点を有する、<1>に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
<3> 前記ハイドロフルオロカーボンは、クロロジフルオロメタン及びヘキサフルオロプロピレンの合計モル量に対し3倍量の前記ハイドロフルオロカーボンを添加したときに、クロロジフルオロメタンのヘキサフルオロプロピレンに対する比揮発度Rvを1.1より大きくする化合物である、<1>又は<2>に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
<4> ハンセン溶解度パラメータの値から求められるヘキサフルオロプロピレンと前記ハイドロフルオロカーボンとの相互作用距離RaHFPが、クロロジフルオロメタンと前記ハイドロフルオロカーボンとの相互作用距離RaR22よりも小さい、<1>~<3>のいずれか1つに記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
<5> 前記相互作用距離RaHFPの前記相互作用距離RaR22に対する比が0.7以下である、<4>に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
<6> 前記ハイドロフルオロカーボンの炭素数が2~8である、<1>~<5>のいずれか1つに記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
<7> 前記ハイドロフルオロカーボンは、下記式(1)で表される飽和化合物及び下記式(2)で表される不飽和化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
(1) Cx1Hy1Fz1
(2) Cx2Hy2Fz2
前記式(1)中、x1は2~8の整数、y1は1~(x1)×2+1の整数、z1は(x1)×2+2-y1であり、
前記式(2)中、x2は2~8の整数、y2は1~(x2)×2-1の整数、z2は(x2)×2-y2である。
<8> 前記ハイドロフルオロカーボンは、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロブタン、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキセン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、及び1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
<9> 前記混合工程における前記ハイドロフルオロカーボンの添加量のモル比は、クロロジフルオロメタン及びヘキサフルオロプロピレンの合計モル量に対し、1/1~30/1である、<1>~<8>のいずれか1つに記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
<10> 前記第1の缶出物を蒸留して、前記ヘキサフルオロプロピレンを主成分とする第2の留出物を得る第2の蒸留工程をさらに有する、<1>~<9>のいずれか1つに記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
<11> 前記第1の混合物は、クロロトリフルオロエチレンをさらに含み、
前記第1の缶出物は、クロロトリフルオロエチレンをさらに含む、
<1>~<10>のいずれか1つに記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
<12> 前記第1の混合物は、クロロトリフルオロエチレンをさらに含み、
前記第1の缶出物は、クロロトリフルオロエチレンをさらに含み、
前記第2の留出物は、クロロトリフルオロエチレンをさらに含む、
<10>に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
<13> 前記第2の留出物と吸着剤とを接触させ、ヘキサフルオロプロピレンを主成分とする精製物を得る吸着工程をさらに有する、<12>に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
<14> 前記吸着剤は、合成ゼオライトを含む、<13>に記載のクロロジフルオロメタンとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
<15> ヘキサフルオロプロピレンとクロロジフルオロメタンとを含む組成物であって、ヘキサフルオロプロピレンの含有率は前記組成物全体に対し99.5質量%以上である、組成物。
<16> さらにクロロトリフルオロエチレンを含む、<15>に記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、地球温暖化係数の低い抽出溶剤を用いて、共沸組成物又は共沸様組成物の形成により分離が困難なR22とHFPとの混合物から、R22とHFPを高効率で分離する分離方法が提供される。
また、本開示の一態様によれば、HFPの純度が高い組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の分離方法における物質の流れの一例を示す図である。
【
図2】本開示の分離方法における物質の流れの他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0011】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の割合は、特に記載しない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の割合を意味する。
本開示において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0012】
本開示において「留出物」とは、蒸留塔の塔頂側から留出される物質をいい、「缶出物」とは、蒸留塔の塔底側から留出される物質をいう。
本開示において「主成分」とは、当該成分以外の成分の量が相対的に少ないことを意味する。「主成分」の量は全体の50モル%以上が好ましく、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、最も好ましくは80モル%以上である。
本開示において、特に断りのない限り、化合物の沸点は常圧での値であり、常圧は1.013×105Paである。
【0013】
[分離方法]
本開示の一実施形態における分離方法は、クロロジフルオロメタン(R22)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とを含む第1の混合物と、ハイドロフルオロカーボンを含む抽出溶剤と、の混合物である抽出用混合物を得る混合工程と、前記抽出用混合物を蒸留して、R22を主成分とする第1の留出物と、前記抽出溶剤を主成分としHFPを含む第1の缶出物と、をそれぞれ得る抽出蒸留工程と、を有する。以下、ハイドロフルオロカーボンを「HFC」ともいう。
【0014】
本実施形態の分離方法は、混合工程及び抽出蒸留工程以外の他の工程を有してもよい。
他の工程としては、例えば、第1の缶出物を蒸留して、HFPを主成分とする第2の留出物を得る第2の蒸留工程等が挙げられる。本実施形態の分離方法は、第2の蒸留工程をさらに有していることが好ましい。
【0015】
本実施形態の分離方法では、特許文献1に開示されたパーフルオルまたはハロゲン化ポリフルオル化合物に比べてGWPの低い化合物のなかでも、ハイドロフルオロカーボン(HFC)を抽出溶剤として用いることで、R22とHFPの高効率な分離を実現した。
本実施形態の分離方法において抽出溶剤として用いられるHFCの一部について、GWPの値を下記表1に示す。また、比較として、パーフルオロカーボン(PFC)におけるGWPの値を併せて下記表1に示す。なお、下記表1に示すHFC及びPFCにおけるGWPの値は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次報告書(AR5)の値(100年値)である。ただし、下記表1に示す数値のうち、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン及び1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタンのGWPは、測定値である。
本実施形態の分離方法において用いる抽出溶剤のGWPの値は、5000以下が好ましく、4000以下がより好ましく、3000以下がさらに好ましい。上記GWPの値は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次報告書(AR5)に記載されている場合はその値(100年値)とし、記載されていない場合は測定値を適用する。なお、混合物である抽出溶剤のGWPは、組成質量による加重平均とする。
【0016】
【0017】
以下、本実施形態の分離方法が有する各工程について説明する。
【0018】
<混合工程>
混合工程では、R22とHFPとを含む第1の混合物と、HFCを含む抽出溶剤と、の混合物である抽出用混合物を得る。
【0019】
(第1の混合物)
第1の混合物は、少なくともR22とHFPとを含み、さらに他の化合物を含んでもよい。第1の混合物に含まれる他の化合物としては、R22の熱分解反応により生成する化合物等が挙げられ、具体的には、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、パーフルオロシクロブタン、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,2‐ペンタフルオロエタン、ジクロロジフルオロメタン等が挙げられる。以下、クロロトリフルオロエチレンを「CTFE」ともいい、テトラフルオロエチレンを「TFE」ともいう。
第1の混合物が他の化合物を含む場合、第1の混合物に含まれる他の化合物は、1種のみでもよく、2種以上でもよい。
第1の混合物全体に対するR22及びHFPの合計含有率としては、例えば50モル%以上が挙げられ、80モル以上であってもよく、90モル以上であってもよく、99モル%以上であってもよく、100モル%であってもよい。
第1の混合物が他の化合物の中でもCTFEを含む場合、第1の混合物全体に対するCTFEの含有率は、10モル%未満が挙げられ、0.01モル%~5モル%であってもよく、0.01モル%~2モル%であってもよい。
【0020】
第1の混合物に含まれるHFPとR22とのモル比は、特に限定されるものではない。第1の混合物に含まれるHFPの含有量におけるR22含有量に対するモル比は、1/99~50/50であってもよく、3/97~40/60であってもよく、5/95~30/70であってもよい。以下、第1の混合物に含まれるHFPの含有量におけるR22含有量に対するモル比を「モル比(HFP/R22)」ともいう。
特に、モル比(HFP/R22)が10/90であるHFPとR22との混合物は共沸組成物となり、蒸留による分離は困難であるが、本実施形態の分離方法によれば、R22とHFPを高効率で分離できる。
【0021】
(抽出溶剤)
抽出溶剤は、少なくともHFCを含み、さらに他の化合物を含んでもよい。ここで、HFCは、炭化水素化合物を構成する水素の一部または全部をフッ素で置換した化合物である。HFCは、クロロフルオロカーボン(CFC)及びハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)とは異なり、塩素原子を含まない化合物である。なお、HFCには、飽和のハイドロフルオロカーボンに加え、炭素-炭素二重結合を有するハイドロフルオロカーボンも含まれる。
抽出溶剤全体に対するHFCの含有率は、R22とHFPを高効率で分離する観点から、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0022】
抽出溶剤に含まれるHFCとしては、炭素数が2~8であるハイドロフルオロカーボンが挙げられる。HFCの炭素数は、R22とHFPを高効率で分離する観点から、2~8が好ましく、3~7がより好ましく、4~6がさらに好ましい。
【0023】
HFCは、式(1)で表される飽和化合物及び式(2)で表される不飽和化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。
(1) Cx1Hy1Fz1
(2) Cx2Hy2Fz2
式(1)中、x1は2~8の整数、y1は1~(x1)×2+1の整数、z1は(x1)×2+2-y1であり、式(2)中、x2は2~8の整数、y2は1~(x2)×2-1の整数、z2は(x2)×2-y2である。
【0024】
式(1)及び式(2)中、x1及びx2は、2~8の整数であり、R22とHFPを高効率で分離する観点から、3~7の整数が好ましく、4~6の整数がより好ましい。
式(1)中、y1は、1~(x1)×2+1の整数であり、R22とHFPを高効率で分離する観点から、1~(x1)+1の整数が好ましく、1~2の整数がより好ましい。y1及びz1の合計に対するy1の割合y1/(y1+z1)は、R22とHFPを高効率で分離する観点から、1/(2×(X1)+2)~1/2が好ましく、1/(2×(X1)+2)~2/(2×(X1)+2)がより好ましい。
式(2)中、y2は、1~(x2)×2-1の整数であり、R22とHFPを高効率で分離する観点から、1~(X2)の整数が好ましく、1~(2/3)×(X2)の整数がより好ましい。y2及びz2の合計に対するy2の割合y2/(y2+z2)は、R22とHFPを高効率で分離する観点から、1/(2×(X2))~1/2が好ましく、1/(2×(X2))~1/3がより好ましい。
【0025】
HFCは、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、環状構造を含むものであってもよい。HFCは、R22とHFPを高効率で分離する観点から、その中でも直鎖状の飽和化合物及び直鎖状の不飽和化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、直鎖状の飽和化合物を含むことがより好ましい。
【0026】
HFCの具体例としては、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロブタン、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキセン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン、3,3,4,4,4-ペンタフルオロ‐1-ブテン、1,1,1,2,2,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,2,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,1-トリフルオロプロパン、2,2-ジフルオロプロパン等が挙げられる。
なお、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサンの市販品の一例としては、AGC株式会社製のAC-2000が挙げられる。また、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタンの市販品の一例としては、AGC株式会社製のAC-6000が挙げられる。
【0027】
HFCは、その中でも、R22とHFPを高効率で分離する観点から、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロブタン、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキセン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、及び1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロブタン、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキセン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン、及び1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましく、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン、及び3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキセンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことがさらに好ましい。
抽出溶剤は、HFCを1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0028】
HFCは、R22とHFPを高効率で分離する観点から、0~120℃の沸点を有することが好ましく、25~120℃の沸点を有することがより好ましく、50~120℃の沸点を有することがさらに好ましい。HFCの沸点が前記下限値以上であることにより、R22の沸点との差及びHFPの沸点との差が大きくなり、R22とHFPを高効率で分離しやすくなるとともに、後述する第2の蒸留工程等においてHFPとHFCの分離もしやすくなる。また、HFCの沸点が前記上限値以下であることにより、抽出蒸留工程及び第2の蒸留工程において低い温度での蒸留が可能となる。
【0029】
HFCは、R22とHFPを高効率で分離する観点から、R22及びHFPの合計モル量に対し3倍量のHFCを添加したときに、R22のHFPに対する比揮発度Rvを1.1より大きくする化合物であることが好ましい。
つまり、R22及びHFPの合計モル量に対し3倍量のHFCを添加したときにおける比揮発度Rvの値は、1.1より大きいことが好ましい。R22及びHFPの合計モル量に対し3倍量のHFCを添加したときにおける比揮発度Rvの値は、R22とHFPを高効率で分離する観点から、1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.6以上がさらに好ましく、大きいほど好ましい。
また、HFCは、R22とHFPを高効率で分離する観点から、R22及びHFPの合計モル量に対し1~7倍量のHFCを添加したときにおいても、R22のHFPに対する比揮発度Rvを1.1より大きくする化合物であることが特に好ましい。
【0030】
例えば、モル比(HFP/R22)が10/90付近のR22及びHFPからなる混合物は、共沸組成物を形成するため、比揮発度Rvが1に近く、通常の蒸留による分離は困難である。一方、上記R22とHFPとの混合物にHFCを添加することで、比揮発度Rvが1から離れた値となり、分離が容易となる。その理由は、HFCの沸点がR22及びHFPの沸点より高く、かつ、HFCとHFPとの親和性が高いことでHFPを揮発しにくくするとともに、HFCとR22との親和性が低いことでR22の揮発を妨げにくいためと推測される。
そのため、混合工程においては、R22とHFPを高効率で分離する観点から、抽出用混合物における比揮発度Rvが1.1より大きくなるようにHFCの種類の選択及びHFCの添加量の調整を行うことが好ましい。混合工程においては、比揮発度Rvが1.3以上となるようにHFCの種類の選択及びHFCの添加量の調整を行うことがより好ましく、比揮発度Rvが1.5以上となるようにHFCの種類の選択及びHFCの添加量の調整を行うことがさらに好ましく、比揮発度Rvが1.6以上となるようにHFCの種類の選択及びHFCの添加量の調整を行うことが特に好ましい。
【0031】
R22のHFPに対する比揮発度Rvは、下記式(3)で表される。
式(3):Rv=(気相部におけるR22のモル分率/液相部におけるR22のモル分率)/(気相部におけるHFPのモル分率/液相部におけるHFPのモル分率)
また、R22のHFPに対する比揮発度Rvは、以下のようにして測定される。
具体的には、1Lの圧力計付きオートクレーブに、モル比(HFP/R22)が10/90であるHFP及びR22の混合物と、必要に応じて抽出溶剤と、を注入し、ゲージ圧が0.19MPaGとなるように温度を調整し、1日保持して、オートクレーブ内の組成を安定化させる。なお、R22及びHFPの合計モル量に対し3倍量のHFCを添加したときにおける比揮発度Rvの値を測定する場合は、上記必要に応じて注入する抽出溶剤として、R22及びHFPの合計モル量に対し3倍量のHFCを添加する。
次いで、気相および液相からそれぞれ測定試料を採取して、完全にガス化させた後にガスクロマトグラフィーで分析を行い、R22のHFPに対する比揮発度Rvを算出する。
つまり、上記3倍量のHFCを添加したときにおける比揮発度Rvは、少なくとも、モル比(HFP/R22)が10/90であり、かつ、HFCをHFP及びR22の混合物に対して3倍量加えた際の、ゲージ圧が0.19MPaGであるときの値を意味する。
【0032】
HFCは、R22とHFPを高効率で分離する観点から、ハンセン溶解度パラメータの値から求められるHFPとHFCとの相互作用距離RaHFPが、R22とHFCとの相互作用距離RaR22よりも小さい化合物であることが好ましい。相互作用距離RaHFPの相互作用距離RaR22に対する比(RaHFP/RaR22)は、R22とHFPを高効率で分離する観点から、0.7以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
【0033】
ここで、相互作用距離RaHFP及び相互作用距離RaR22は、それぞれ下記式(4)及び(5)で表される。
式(4):RaHFP=[4×(δDHFP-δDHFC)2+(δPHFP-δPHFC)2+(δHHFP-δHHFC)2]0.5
式(5):RaR22=[4×(δDR22-δDHFC)2+(δPR22-δPHFC)2+(δHR22-δHHFC)2]0.5
式(4)及び(5)中、δDHFP、δPHFP、及びδHHFPはそれぞれHFPのハンセン溶解度パラメータにおける分散項、極性項、及び水素結合項を表し、δDHFC、δPHFC、及びδHHFCはそれぞれHFCのハンセン溶解度パラメータにおける分散項、極性項、及び水素結合項を表し、δDR22、δPR22、及びδHR22はそれぞれR22のハンセン溶解度パラメータにおける分散項、極性項、及び水素結合項を表し、単位はいずれも(MPa)1/2である。
なお、上記各化合物のハンセン溶解度パラメータにおける分散項、極性項、及び水素結合項は、文献値又は化合物の化学構造からコンピュータソフトウエア(Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)バージョン4)によって推算した値である。2種以上の化合物を含む混合物のハンセン溶解度パラメータは、各化合物のハンセン溶解度パラメータに、混合物全体に対する各化合物の体積比を乗じた値のベクトル和として算出される。
【0034】
混合工程におけるHFCの添加量のモル比は、R22とHFPを高効率で分離する観点から、R22及びHFPの合計モル量に対し、1/1~30/1が好ましく、1/1~15/1がより好ましく、3/1~10/1がさらに好ましい。以下、混合工程におけるR22及びHFPの合計モル量に対するHFCの添加量のモル比を「モル比(HFC/(R22+HFP))」ともいう。
例えば後述するように、抽出蒸留塔にR22とHFPとを含む第1の混合物を供給し、さらに抽出蒸留塔にHFCを含む抽出溶剤を供給する場合、「モル比(HFC/(R22+HFP))」は、抽出蒸留塔に供給するR22及びHFPの合計供給量に対する抽出蒸留塔に供給するHFCの供給量のモル比を表す。
【0035】
混合工程における第1の混合物に対する抽出溶剤の添加は、抽出蒸留工程の前であれば特にタイミングを問わない。なお、蒸留作業の効率の観点から、抽出蒸留塔に第1の混合物を供給した後、さらに抽出蒸留塔に抽出溶剤を供給して塔内で抽出用混合物を調製する混合工程と同時に、抽出蒸留工程を行うことが好ましい。
なお、混合工程においては、例えば第1の混合物に対して抽出溶剤を添加することで、第1の混合物と抽出溶剤との混合物が得られるが、第1の混合物と抽出溶剤とを混合する操作を別途行ってもよい。
【0036】
<抽出蒸留工程>
抽出蒸留工程では、混合工程によって得られた抽出用混合物を蒸留して、R22を主成分とする第1の留出物と、抽出溶剤を主成分としHFPを含む第1の缶出物と、をそれぞれ得る。
【0037】
抽出蒸留工程は、一般に使用される蒸留装置、例えば棚段塔等の蒸留塔、充填塔などを使用して実施できる。抽出蒸留工程の種々の条件、例えば、操作温度、操作圧力、還流比、蒸留塔の総段数、仕込み段の位置、抽出溶剤供給段の位置等は、特に限定されるものではなく、目的とする分離を達成するために適宜選択できる。抽出蒸留工程に棚段塔である蒸留塔を用いる場合、蒸留塔の段数としては、例えば1~100が挙げられ、純度の高いHFPを得る観点から、30以上が好ましく、50以上がより好ましい。R22及びHFPはいずれも低い沸点を有するため、加圧下で抽出蒸留するのが好ましく、例えば0~5MPaG(ゲージ圧)の圧力とすることが好ましい。
【0038】
さらに、蒸留塔の塔頂部及び塔底部の温度は、操作圧力並びに留出物及び缶出物の組成に応じて決まる。塔頂部及び塔底部に設けられる凝縮器及び再加熱器の温度を考慮して、経済的に蒸留操作を行うためには、塔頂部の温度は-60~100℃、塔底部の温度は20~300℃とするのが好ましい。抽出蒸留は、バッチ式でも連続式でもよく、場合により留出物及び缶出物を間欠的に抜き出したり、間欠的に仕込みを行ったりする半連続式でも実施できるが、抽出溶剤については、蒸留装置に連続的に供給することが好ましい
【0039】
抽出溶剤はHFPと親和性を有する。したがって、R22とHFPと抽出溶剤とを含む抽出用混合物を抽出蒸留することにより、R22を主成分とする第1の留出物が、抽出蒸留塔の塔頂側から得られる。この第1の留出物は、R22を主成分として含むものであれば組成は限定されないが、第1の留出物におけるR22のモル分率は、90モル%以上が好ましく、99モル%以上がより好ましい。また、第1の留出物におけるHFPのモル分率は、第1の混合物におけるHFPのモル分率の1/10以下が好ましく、1/100以下がより好ましい。第1の留出物におけるHFPのモル分率は、10モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。
R22を高濃度で含む第1の留出物は、HFPを製造するための原料として再使用されてもよい。
【0040】
抽出蒸留塔の塔底側から、抽出溶剤を主成分とし、かつ、この抽出溶剤に対して親和性を有するHFPを含む第1の缶出物が得られる。第1の缶出物に含まれるR22及びHFPの合計に対するHFPのモル分率は、90モル%以上が好ましく、99モル%以上がより好ましい。また、第1の缶出物に含まれるR22及びHFPの合計に対するR22のモル分率は、第1の混合物におけるR22のモル分率の1/10以下が好ましく、1/100以下がより好ましい。第1の缶出物に含まれるR22及びHFPの合計に対するR22のモル分率は、10モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。
なお、第1の混合物がCTFEを含む場合、第1の缶出物はCTFEを含む。
第1の缶出物は、後述する第2の蒸留工程をさらに経ることが好ましい。
【0041】
<第2の蒸留工程>
第2の蒸留工程では、第1の缶出物を蒸留して、HFPを主成分とする第2の留出物を得る。このとき、抽出溶剤を主成分とする第2の缶出物が得られる。第1の缶出物に含まれる抽出溶剤とその親和性成分であるHFPとは沸点差が大きいため、第2の蒸留工程においては、通常の蒸留分離操作により容易に実施できる。第2の蒸留工程は、前述の抽出蒸留工程と同様の蒸留装置を使用して実施できる。第2の蒸留工程の種々の条件、例えば、操作温度、操作圧力、還流比、蒸留塔の総段数、仕込み段の位置等は、特に限定されるものではなく、目的とする分離を達成するために適宜選択できる。
【0042】
第2の蒸留工程により、抽出溶剤とHFPとが分離され、HFPを含み、かつR22及びHFPの合計に対するHFPのモル分率が、第1の混合物におけるR22及びHFPの合計に対するHFPのモル分率より増大された、すなわちHFPが第1の混合物に比べて濃縮された第2の留出物が、蒸留塔の塔頂側より得られる。第2の留出物におけるHFPのモル分率は、90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、98モル%以上がさらに好ましい。
なお、第1の混合物がCTFEを含む場合、第2の留出物もCTFEを含む。第2の留出物がCTFEを含む場合、第2の留出物は、後述する吸着工程をさらに経ることが好ましい。
【0043】
第2の蒸留工程では、蒸留塔の塔底側から抽出溶剤を極めて高濃度で含有する第2の缶出物が得られる。得られる第2の缶出物は、そのまま抽出蒸留工程に供給し、抽出溶剤として再使用できる。また、第2の缶出物をさらに精製して抽出溶剤を回収し、抽出蒸留工程で再使用することもできる。
【0044】
<吸着工程>
前記の通り、第2の留出物がCTFEを含む場合、本実施形態の分離方法は、第2の留出物と吸着剤とを接触させ、HFPを主成分とする精製物を得る吸着工程をさらに有してもよい。
【0045】
吸着剤としては、合成ゼオライト、活性炭、活性アルミナ、金属有機構造体、多孔性配位高分子、共有結合性有機構造体等が挙げられる。吸着剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
HFPとCTFEとの効率的な分離を行う観点から、吸着剤として合成ゼオライトを用いることが好ましい。つまり、吸着剤は、合成ゼオライトを含むことが好ましい。
合成ゼオライトとしては、A型ゼオライト、X型ゼオライト、ベータ型ゼオライト、フェリエライト型ゼオライト、モデルナイト型ゼオライト、L型ゼオライト、Y型ゼオライト等が挙げられ、なかでも、HFPとCTFEとの効率的な分離を行う観点から、A型ゼオライトが好ましく、5A型ゼオライトがより好ましい。また、合成ゼオライトとしては、耐酸性を付与した改良型の合成ゼオライトも好ましく挙げられる。
合成ゼオライトの分子骨格内に配位するイオン種としては、カリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン等が挙げられる。合成ゼオライトは、CTFEの吸着に適した細孔径を得る観点から、カルシウムイオンを含むことが好ましい。
合成ゼオライトの細孔径としては、0.42±0.03nmが好ましく挙げられる。
【0046】
吸着工程では、例えば、内部に吸着剤を充填した充填塔に第2の留出物を流通させることで、吸着剤にCTFEを吸着させ、CTFEの少ない高純度のHFP、すなわちHFPを主成分とする精製物を得る。精製物におけるHFPのモル分率は、99.00モル%以上が好ましく、99.50モル%以上がより好ましく、99.90モル%以上がさらに好ましい。精製物におけるCTFEのモル分率は、1.00モル%以下が好ましく、0.50モル%以下がより好ましく、0.10モル%以下がさらに好ましい。
第2の留出物がHFP及びCTFE以外の他の化合物を含む場合、本実施形態の分離方法は、必要に応じて、前記他の化合物を除去する除去工程をさらに有してもよい。
【0047】
本実施形態では、以上のようにして、第1の混合物中に含まれていたR22とHFPが効率よく分離される。それにより、R22が、抽出蒸留工程における第1の留出物の主成分として高濃度で得られ、第2の蒸留工程において第2の留出物として、第1の混合物より濃縮されたHFPが得られる。そして、必要に応じて吸着工程等を経ることにより、さらに高純度のHFPが得られる。
【0048】
次に、本実施形態の分離方法における物質の流れを、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、R22とHFPとを所定の割合、例えばモル比(HFP/R22)が10/90で含む第1の混合物1は、例えば加圧で操作される抽出蒸留塔2に供給される。抽出蒸留塔2としては、段数が1~100段のものが使用され、第1の混合物1は、抽出蒸留塔2に供給される。そして、第1の混合物1に含まれるR22及びHFPの合計モル分率に対して1~30倍のモル分率のHFCを含む抽出溶剤3を、抽出蒸留塔2の第1の混合物1の供給段より上側の段に供給する。こうして蒸留を行い、抽出溶剤3に対して親和性を有しない成分であるR22を主成分とする第1の留出物4を、抽出蒸留塔2の塔頂側から抜き出す。得られる第1の留出物4においては、R22とHFPの合計に対するR22のモル分率が、第1の混合物1における同様なモル分率に比べて増大されている。こうして第1の留出物4として、第1の混合物1に比べてR22のモル分率が増大され、すなわちR22のモル濃度が濃縮された混合物が得られる。
【0049】
また、抽出蒸留塔2の塔底側から、第1の缶出物5として、抽出溶剤を主成分としHFPを含む混合物を抜き出す。次いで、この第1の缶出物5を、例えば加圧で操作される別の蒸留塔である溶剤回収塔6に供給し、実質的に抽出溶剤を含まない第2の留出物7を塔頂側から得る。得られる第2の留出物7においては、R22とHFPの合計に対するHFPのモル分率が、第1の混合物1における同様なモル分率に比べて増大されている。こうして第2の留出物7として、第1の混合物1に比べてHFPのモル分率が増大され、すなわちHFPのモル濃度が濃縮された混合物が得られる。
なお、本明細書において、「実質的にAを含まない」なる語は、Aの含有量が0.1モル%以下であることを意味する。
【0050】
溶剤回収塔6の塔底側からは、抽出溶剤3を主成分とする第2の缶出物8が得られる。こうして抽出溶剤3は回収され、回収された抽出溶剤3は再使用される。再使用される抽出溶剤3は、必要に応じて熱交換器9により加熱または冷却された後に、抽出蒸留塔2に供給される。
なお、
図1において、符号10は凝縮器を示し、符号11は加熱器を示す。
【0051】
抽出蒸留塔2において抽出溶剤3を供給する位置(段)は、第1の混合物1を供給する段より上方に位置する段であるのが好ましく、還流を供給する段と同じ段に抽出溶剤3を供給してもよい。場合により、第1の混合物1と同じ段に抽出溶剤3を供給してもよい。さらに、第1の混合物1は、抽出蒸留塔2に供給する前に、予め抽出溶剤3と混合してから供給してもよい。
以上の装置及び操作により、R22及びHFPを含む第1の混合物1から、R22とHFPとを分離し、実質的にR22を含まないHFPを得ることができる。
【0052】
次に、第1の混合物がCTFEを含む場合における物質の流れを、
図2を参照して説明する。
図2に示すように、R22とHFPとCTFEとを含む第1の混合物21を抽出蒸留塔2の中央部より下側の段に供給し、HFCを含む抽出溶剤3を抽出蒸留塔2の第1の混合物21の供給段より上側の段に供給し、蒸留を行う。そして、R22を主成分とする第1の留出物4を抽出蒸留塔2の塔頂側から抜き出し、抽出蒸留塔2の塔底側から第1の缶出物25として、抽出溶剤を主成分としHFPとCTFEとを含む混合物を抜き出す。
次いで、第1の缶出物25を溶剤回収塔6に供給して蒸留し、溶剤回収塔6の塔頂側から実質的に抽出溶剤を含まずHFPとCTFEとを含む第2の留出物27を得て、溶剤回収塔6の塔底側から抽出溶剤3を主成分とする第2の缶出物8を得る。第2の缶出物8として回収された抽出溶剤3は、抽出蒸留塔2に供給されて再使用される。
【0053】
次いで、得られた第2の留出物27を、例えば5A型ゼオライトを含む吸着剤を内部に充填した充填塔12の下部から圧力を調整しながら供給して充填塔12の内部を流通させる。充填塔12の内部に充填された吸着剤には第2の留出物27に含まれていたCTFEが吸着し、充填塔12の上部にある出口からHFPを主成分とする精製物13が得られる。精製物13においては、HFP及びCTFEの合計に対するHFPのモル分率が、第2の留出物27におけるHFP及びCTFEの合計に対するHFPのモル分率に比べて増大されている。
以上の装置及び操作により、R22、CTFE、及びHFPを含む第1の混合物21から、R22及びCTFEとHFPとを分離し、実質的にR22及びCTFEを含まないHFPを得ることができる。
【0054】
[組成物]
本開示の一実施形態における組成物は、HFPとR22とを含み、HFPの含有率が組成物全体に対し99.5質量%以上である組成物である。組成物全体に対するHFPの含有率は、99.50質量%以上であり、99.70質量%以上が好ましく、99.90質量%以上がより好ましい。本実施形態の組成物は、例えば、R22とHFPとを含む第1の混合物を前述の分離方法により分離することで得られる。
【0055】
本実施形態の組成物は、HFP及びR22以外の他の化合物を含んでもよい。組成物に含まれる他の化合物としては、前述の第1の混合物に含まれてもよい他の化合物の具体例と同様のものが挙げられる。
本実施形態の組成物は、他の化合物としてCTFEを含んでもよい。HFPとR22とCTFEとを含み、HFPの含有率が組成物全体に対し99.5質量%以上である組成物は、例えば、R22とHFPとCTFEとを含む第1の混合物を前述の分離方法により分離することで得られる。
【実施例0056】
以下、実施例によって本開示の実施形態を詳細に説明するが、本開示の実施形態はこれらに限定されない。
【0057】
[比揮発度Rvの測定]
前述の方法により、モル比(HFP/R22)が10/90であるR22とHFPとの混合物にHFCを添加したときにおける、R22のHFPに対する比揮発度Rvの値を測定した。R22及びHFPの合計量に対するHFCの添加量のモル比(HFC/(R22+HFP))とHFC添加後の比揮発度Rvとの関係を表2に示す。
また、HFCの沸点を併せて表2に示す。
また、ハンセン溶解度パラメータの値から求められるHFPとHFCとの相互作用距離RaHFP、R22とHFCとの相互作用距離RaR22、及び比(RaHFP/RaR22)を前述の方法により求めた値を、併せて表2に示す。
【0058】
【0059】
[蒸留シミュレーション]
上記R22のHFPに対する比揮発度Rvの測定により求められた上記表に記載の結果を使用し、既知の熱力学特性に基づく計算手法(Chemcad)(Chemstations社の化学工学プロセスシミュレータ)により、以下に示す抽出蒸留および溶剤回収蒸留のシミュレーションを行った。結果を表3に示す。表中「-」は、溶剤を用いていないこと、又は溶剤回収塔を用いた蒸留を行っていないことを意味する。
【0060】
(例A1)
段数60段の蒸留塔の塔頂部から50段目から、モル比(HFP/R22)が1/3であるR22とHFPとの混合物を毎時1キロモルで連続的に供給して蒸留を行い、塔頂側から第1の留出物を毎時0.61キロモルで連続的に抜き出し、塔底側から第1の缶出物を毎時0.39キロモルで連続的に抜き出した。この間の蒸留塔内の圧力は0.5MPaG(ゲージ圧)とし、塔頂温度は6.23℃、塔底温度は9.19℃とした。
第1の留出物全体に対する各成分の含有率は、R22が93モル%、HFPが7モル%となった。他方、第1の缶出物全体に対する各成分の含有率は、R22が46モル%、HFPが54モル%となった。
【0061】
(例A2)
段数60段の抽出蒸留塔の塔頂部から50段目から、モル比(HFP/R22)が1/3であるR22とHFPとの混合物を毎時1キロモルで連続的に供給するとともに、塔頂部から10段目から、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサンを毎時3キロモルの速度で連続的に供給した。以下、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサンを「HFC-52-13p」ともいう。
そして、抽出蒸留塔内の圧力を0.5MPaG(ゲージ圧)、塔頂温度を6.19℃、塔底温度を103.11℃として、連続的に抽出蒸留を行った。抽出蒸留塔の塔頂側から第1の留出物を毎時0.76キロモルの速度で留出し、塔底側から第1の缶出物を毎時3.24キロモルの速度で缶出した。
【0062】
抜き出した第1の留出物においては、HFC-52-13pが非検出であり、第1の留出物全体に対するR22の含有率が98.7モル%であり、残りの成分はHFPとなった。他方、第1の缶出物全体に対する各成分の含有率は、R22が19モルppm、HFPが7.4モル%となり、残部は抽出溶剤であるHFC-52-13pが占めていた。
【0063】
次に、第1の缶出物を、段数30段の溶剤回収塔の塔頂部から20段目から、毎時1キロモルで連続的に供給し、溶剤回収塔内の圧力を0.4MPaG(ゲージ圧)、塔頂温度を15.21℃、塔底温度を128.27℃として、連続的に蒸留を行った。溶剤回収塔の塔頂側から第2の留出物を毎時0.24キロモルの速度で留出し、塔底側から第2の缶出物を毎時3キロモルの速度で抜き出した。
抜き出した第2の留出物及び第2の缶出物のそれぞれについて組成を分析すると、第2の留出物全体に対する各成分の含有率は、HFPが99.97モル%となり、R22が0.026モル%となり、残部は抽出溶剤であった。他方、第2の缶出物全体に対する各成分の含有率は、HFC-52-13pが99.99モル%以上となった。
【0064】
【0065】
上記例において、例A2は実施例であり、例A1は比較例である。表3に示されるように、例A2では、例A1に比べて、R22とHFPを高効率で分離され、純度の高いHFPが得られている。
【0066】
[HFPとCTFEの分離]
内径1インチ、軸方向長さ50cmの円筒形ステンレス製充填塔に、下記表に示す吸着剤をそれぞれ充填した。次いで、充填塔内の圧力を0.1MPaGになるように調整し、HFP95.587GC%とCTFE4.413GC%との混合物を充填塔の下部から流通し、1時間後に充填塔の出口から得られたサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーで分析を行った。結果を表4に示す。
なお、下記表中、「MS-4A」はモレキュラーシーブス4A(ユニオン昭和株式会社製、金属イオン:Na、細孔径:0.35nm、有効孔径:0.4nm)、「MS-5A」はモレキュラーシーブス5A(ユニオン昭和株式会社製、金属イオン:Ca、細孔径:0.42nm、有効孔径:0.5nm)、「MS-13X」はモレキュラーシーブス13X(ユニオン昭和株式会社製、金属イオン:Na、有効孔径:1.0nm)、「AW-500」はモレキュラーシーブスAW-500(ユニオン昭和株式会社製、耐酸性モレキュラーシーブ)を意味する。
【0067】
本開示の一実施形態によれば、R22とHFPとを含む混合物からR22とHFPとを効率良く分離できる。また、本開示の一実施形態によれば、例えばフッ素樹脂製造等の原料としてとして有用なHFPを高濃度で得ることができ、経済的なメリットが大きい。