(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076921
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】固体燃料の粉砕装置、及び、発電設備
(51)【国際特許分類】
F23K 3/02 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
F23K3/02 B
F23K3/02 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188767
(22)【出願日】2022-11-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 一般社団法人日本エネルギー学会、第59回 石炭科学会議 発表論文集、令和4年10月13日 〔刊行物等〕 第56回 石炭科学会議、令和4年10月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 一輝
(57)【要約】
【課題】簡単な操作により粉砕手段の内部の粉砕物の発熱性を抑制する。
【解決手段】石炭、バイオマスを粉砕する粉砕手段に、雰囲気温度が高くなって石炭の最大上昇温度(雰囲気温度と石炭の最高温度との差)が大きくなる状況で、所定の温度を超えると最大上昇温度が小さくなるバイオマスを供給し、粉砕手段の内部の粉砕物を所望状態に制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体燃料を粉砕する粉砕手段と、
前記粉砕手段に石炭を供給する石炭供給手段と、
前記粉砕手段にバイオマスを供給すると共に、前記バイオマスの供給状況を調整し、前記粉砕手段の内部の粉砕物を所望状態に制御するように前記バイオマスの供給状況が調整されるバイオマス供給手段と、
粉砕された燃料を搬送するための一次空気を供給する一次空気供給手段とを備えた
ことを特徴とする固体燃料の粉砕装置。
【請求項2】
請求項1に記載の固体燃料の粉砕装置において、
粉砕された燃料の燃焼の負荷状態に応じて、前記一次空気の量を所望の供給量に調整する供給量調整手段を備えた
ことを特徴とする固体燃料の粉砕装置。
【請求項3】
請求項1に記載の固体燃料の粉砕装置において、
供給される前記石炭の水分状態に応じて、前記一次空気の温度を所望の温度に調整する温度調整手段を備えた
ことを特徴とする固体燃料の粉砕装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の固体燃料の粉砕装置と、
粉砕された燃料が供給されて高温・高圧の蒸気を得るボイラと、
前記ボイラで生成された前記蒸気を膨張して駆動力を得る蒸気タービンと、
前記蒸気タービンの駆動により電力を得る発電手段と、
前記蒸気タービンで仕事を終えた排気蒸気を復水して前記ボイラに供給する復水供給手段とを備えた
ことを特徴とする発電設備。
【請求項5】
請求項4に記載の発電設備において、
前記バイオマス供給手段による前記バイオマスの供給量を調整する制御手段を備え、
前記制御手段には、
前記石炭供給手段から供給される前記石炭の種類の情報、前記バイオマスの種類の情報が入力され、
前記制御手段は、
前記石炭の種類の情報、前記バイオマスの種類の情報に応じて前記バイオマスの供給量を調整する
ことを特徴とする発電設備。
【請求項6】
請求項5に記載の発電設備において、
前記制御手段には、
前記ボイラの負荷の情報が入力され、
前記制御手段は、
前記ボイラの負荷の情報に応じて前記一次空気の供給量を調整する
ことを特徴とする発電設備。
【請求項7】
請求項5に記載の発電設備において、
前記制御手段は、
前記石炭の種類の情報に応じて前記一次空気の温度を調整する
ことを特徴とする発電設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体燃料の粉砕装置、及び、固体燃料の粉砕装置を備えた発電設備に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭(固体燃料)は世界の広い地域に存在し、可採埋蔵量が多く、価格が安定しているため、供給安定性が高く発熱量あたりの価格が低廉である。石炭は、例えば、発電用のボイラの燃料として使用され、石炭を用いた発電により、電力の安定した供給が実現されている。
【0003】
ボイラの燃料として石炭を使用する場合、高い燃焼効率を得るために、粉砕機(粉砕手段)を用いて石炭を粉砕して微粉体(微粉炭)とすると共に、熱風により加熱搬送させている(粉砕装置)。粉砕手段は、石炭を粉砕するための回転ローラ等の機器が備えられているため、ローラシャフト周り等、熱風が届きにくい場所に微粉炭が堆積し、酸化により堆積した微粉炭が発熱して温度が上昇する虞があった。
【0004】
このため、従来から、粉砕手段内の微粉炭の発熱を防止する技術が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の技術は、粉砕手段の出口のCOやCO2の濃度を測定し、発火の予兆があるときには、発熱性が低いとされる石炭の供給量を増やすようにして粉砕手段内の発火を防止している。
【0005】
しかし、従来から提案されている特許文献1の技術は、粉砕手段内の雰囲気ガスの連続分析を行う必要があり、既存設備に対して導入する場合には設備投資が必要になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、簡単な操作により粉砕手段の内部の粉砕物の発熱性を抑制することができる固体燃料の粉砕装置を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、簡単な操作により粉砕手段の内部の燃料(例えば、微粉炭)の発熱性が抑制された状態で、例えば、微粉炭(粉砕物)をボイラに供給することができる発電設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、粉砕手段内の石炭(固体燃料)は、粉砕手段内の雰囲気の温度により雰囲気温度と固体燃料の最高温度との差(最大上昇温度)が異なることを見出し、高い雰囲気温度になるにしたがい、最大上昇温度が大きくなることを見出した。これに基づき、本発明者により、最大上昇温度が大きくなるにしたがい、粉砕手段の内部での石炭の発熱性が高くなる知見が得られている。
【0010】
即ち、例えば、石炭、バイオマスを試料として充填した10cm角のワイヤーメッシュ容器を恒温槽内に懸架し、窒素雰囲気下において複数の温度(80℃、90℃、100℃)に保持し、試料の温度が上記複数の温度に達した際に、窒素から空気雰囲気下に切替える。そして、空気雰囲気下における発熱時の試料の中心温度を検出して温度の経時変化を求め、雰囲気温度と試料の最高温度との差を、上記複数の温度における最大上昇温度と定義し、粉砕手段内の石炭が、粉砕手段内の雰囲気の温度により最大上昇温度が異なることを見出した。
【0011】
一方、本発明者は、雰囲気の温度が所定温度よりも高くなった際に、木質バイオマス、炭化バイオマスなどのバイオマス(固体燃料)の最大上昇温度が低下することを見出した。そして、最大上昇温度が小さくなることでバイオマスの発熱性が抑制される知見を得た。
【0012】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものであり、雰囲気の温度が所定温度よりも高くなった際に、最大上昇温度が低下するバイオマスを粉砕手段に投入することで、粉砕手段の内部の粉砕物(微粉炭、粉砕バイオマス)の発熱性を抑制することができる知見を得るに至った。
【0013】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の固体燃料の粉砕装置は、固体燃料を粉砕する粉砕手段と、前記粉砕手段に石炭を供給する石炭供給手段と、前記粉砕手段にバイオマスを供給すると共に、前記バイオマスの供給状況を調整し、前記粉砕手段の内部の粉砕物を所望状態に制御するように前記バイオマスの供給状況が調整されるバイオマス供給手段と、粉砕された燃料を搬送するための一次空気を供給する一次空気供給手段とを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項1に係る本発明では、粉砕手段(粉砕機)で石炭(固体燃料)を粉砕する際に、雰囲気の温度が所定温度よりも高くなった際に、最大上昇温度が低下する(もしくは、最大上昇温度の上昇が抑制される)バイオマス(固体燃料)をバイオマス供給手段から供給状況を調整しながら供給し、粉砕手段の内部の粉砕物を所望状態に制御する。また、粉砕手段の雰囲気温度が所定温度以下で維持されている場合であっても、所定温度以下で維持されている状態の時に、最大上昇温度が低下する(もしくは、最大上昇温度の上昇が抑制される)バイオマス(固体燃料)をバイオマス供給手段から供給状況を調整しながら供給し、粉砕手段の内部の粉砕物を所望状態に制御する。
【0015】
例えば、粉砕手段の雰囲気温度が所定温度(例えば、80℃:この温度を超えるとバイオマスの最大上昇温度が低下する温度、もしくは、この温度を超えるとバイオマスの最大上昇温度の上昇が抑制される温度)を超えた際に、バイオマスを供給するように調整する。また、粉砕手段の雰囲気温度が所定温度(例えば、80℃:この温度を超えるとバイオマスの最大上昇温度が低下する温度、もしくは、この温度を超えるとバイオマスの最大上昇温度の上昇が抑制される温度)以下に維持されている際であっても、初期段階からバイオマスを供給するように調整する。
【0016】
尚、粉砕手段の内部の粉砕物を所望状態に制御するとは、例えば、粉砕手段の内部のその時の雰囲気温度において、粉砕物が発火に至らない状態が挙げられる。
【0017】
このため、簡単な操作により粉砕手段の内部の粉砕物の発熱性を抑制することが可能になる。
【0018】
そして、請求項2に係る本発明の固体燃料の粉砕装置は、請求項1に記載の固体燃料の粉砕装置において、粉砕された燃料の燃焼の負荷状態に応じて、前記一次空気の量を所望の供給量に調整する供給量調整手段を備えたことを特徴とする。
【0019】
請求項2に係る本発明では、粉砕された燃料の燃焼の負荷状態を変化させる際に、固体燃料(石炭)の量、及び一次空気の量が変更(調整)され、粉砕手段の内部の雰囲気温度が上昇する虞がある(過昇温の虞がある)が、過昇温が生じる虞が生じた際に、バイオマスを供給し、粉砕手段の内部の粉砕物を所望状態に制御する。
【0020】
例えば、定格負荷から低負荷、もしくは、低負荷から定格負荷へ負荷を変化させる際には、粉砕手段の運用に応じて(例えば、複数の粉砕手段の運用状態に応じて)粉砕手段へ供給される石炭の量の増減や、一次空気(熱風)の量の増減が頻繁に生じる。このため、粉砕手段内の流体の流れ場が不安定になったり温度分布が生じたりして、粉砕手段の内部に局所的な過昇温が生じる虞がある。
【0021】
また、負荷変化時(例えば、定格負荷から低負荷への変化時)において、固体燃料(石炭)の供給量を減少させるタイミングに対して一次空気(熱風)の量を減少させるタイミングが遅れた場合、一時的に粉砕手段内に投入される一次空気(熱風)の量が多くなって熱量が過大となり、粉砕手段の内部の温度が上昇する虞がある。(過昇温が生じる虞がある)。
【0022】
このような、過昇温が生じる虞が生じた際に、バイオマスを供給し、粉砕手段の内部の粉砕物を所望状態に制御することができる。即ち、粉砕手段の内部の温度が上昇した際に、バイオマスの供給量を増加させて粉砕物の発熱を抑制することができる。
【0023】
また、請求項3に係る本発明の固体燃料の粉砕装置は、請求項1に記載の固体燃料の粉砕装置において、供給される前記石炭の水分状態に応じて、前記一次空気の温度(例えば、粉砕手段の出口側の空気の温度)を所望の温度に調整する温度調整手段を備えたことを特徴とする。
【0024】
請求項3に係る本発明では、石炭の水分状態に応じて、温度調整手段により一次空気の温度(例えば、粉砕手段の出口側の空気の温度)を所望の温度に調整し、石炭の水分量に応じて設定された所定の乾燥温度に対して、更に乾燥温度を高くする。つまり、石炭の水分量に応じて乾燥温度を上昇させることにより、粉砕物(微粉炭)に残存する水分量を減少させる。そして、乾燥温度を上昇させた際に、最大上昇温度が低下するバイオマスを供給し、粉砕手段の内部の粉砕物を所望状態に制御する(粉砕物の発熱を抑制する)。
【0025】
上記目的を達成するための請求項4に係る本発明の発電設備は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の固体燃料の粉砕装置と、粉砕された燃料が供給されて高温・高圧の蒸気を得るボイラと、前記ボイラで生成された前記蒸気を膨張して駆動力を得る蒸気タービンと、前記蒸気タービンの駆動により電力を得る発電手段と、前記蒸気タービンで仕事を終えた排気蒸気を復水して前記ボイラに供給する復水供給手段とを備えたことを特徴とする。
【0026】
請求項4に係る本発明では、粉砕手段の内部の粉砕物が所望状態に制御された粉砕手段を備えた発電設備とすることができる。このため、簡単な操作により粉砕手段の内部の燃料(微粉炭)の発熱性が抑制された状態で、微粉炭(粉砕物)を、発電動力を得るための燃焼手段に供給することが可能になる。
【0027】
そして、請求項5に係る本発明の発電設備は、請求項4に記載の発電設備において、前記バイオマス供給手段による前記バイオマスの供給量を調整する制御手段を備え、前記制御手段には、前記石炭供給手段から供給される前記石炭の種類の情報、前記バイオマスの種類の情報が入力され、前記制御手段は、前記石炭の種類の情報、前記バイオマスの種類の情報に応じて前記バイオマスの供給量を調整することを特徴とする。
【0028】
請求項5に係る本発明では、石炭の種類の情報(石炭の種類に基づく性状など:例えば発熱性)、バイオマスの種類の情報に応じてバイオマスの供給量が調整される。
【0029】
また、請求項6に係る本発明の発電設備は、請求項5に記載の発電設備において、前記制御手段には、前記ボイラの負荷の情報が入力され、前記制御手段は、前記ボイラの負荷の情報に応じて(供給量調整手段を制御し)前記一次空気の供給量を調整することを特徴とする。
【0030】
請求項6に係る本発明では、粉砕手段の内部の粉砕物を所望状態に制御できる状態で、ボイラの負荷に応じて一次空気の供給量を調整することができる。
【0031】
また、請求項7に係る本発明の発電設備は、請求項5に記載の発電設備において、前記制御手段は、前記石炭の種類の情報に応じて(温度調整手段を制御し)前記一次空気の温度を調整することを特徴とする。
【0032】
請求項7に係る本発明では、粉砕手段の内部の粉砕物を所望状態に制御できる状態で、石炭の種類の情報(水分量)に応じて一次空気の温度を調整し、石炭の乾燥をより適切に行い、燃焼効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の固体燃料の粉砕装置は、簡単な操作により粉砕手段(粉砕機)の内部の粉砕物の発熱性を抑制することが可能になる。
【0034】
本発明の発電設備は、簡単な操作により粉砕手段の内部の燃料(例えば、微粉炭)の発熱性が抑制された状態で、例えば、微粉炭(粉砕物)をボイラに供給することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の一実施例に係る粉砕装置を備えた発電設備の概略構成図である。
【
図3】石炭の最大上昇温度と雰囲気温度との関係を概念的に表すグラフである。
【
図4】バイオマスの最大上昇温度と雰囲気温度との関係を概念的に表すグラフである。
【
図5】石炭、バイオマスの最大上昇温度と雰囲気温度との関係を概念的に表すグラフである。
【
図7】石炭の最大上昇温度を説明する概念図である。
【
図8】バイオマスの最大上昇温度を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
火力発電設備のボイラの燃料として、一般に、固体燃料としての石炭を粉砕して得られる微粉炭が用いられる。石炭を粉砕する粉砕機(粉砕手段)の内部の石炭は、粉砕手段内の雰囲気の温度により雰囲気温度と固体燃料の最高温度との差(最大上昇温度)が異なることが本発明者により見出された。
【0037】
尚、最大上昇温度は次のように定義した。例えば、石炭(微粉炭)を試料として充填した10cm角のワイヤーメッシュ容器を恒温槽内に懸架し、
図6に示すように、所定の雰囲気温度Tにおいて、発熱時の試料の温度(例えば、中心温度:以下中心温度と記す)を検出して温度の経時変化を求め、上昇して温度Tu(最高温度)となった時の雰囲気温度との差を最大上昇温度と定義した。
【0038】
そして、粉砕手段内の石炭が、粉砕手段内の雰囲気の温度により最大上昇温度が異なることを見出した。例えば、石炭(微粉炭)を試料として充填した10cm角のワイヤーメッシュ容器を恒温槽内に懸架し、雰囲気温度が80℃、90℃、100℃の場合において発熱時の試料の中心温度を検出して温度の経時変化を求めた。
図7に示すように、雰囲気温度が80℃、90℃、100℃と高くなるにしたがって、最大上昇温度が大きくなっていることが確認されている。
【0039】
つまり、雰囲気温度が80℃、90℃、100℃と高くなるにしたがって(最大上昇温度が大きくなるにしたがって)、粉砕手段の内部での微粉炭の発熱性が高くなることが確認されている。
【0040】
一方、本発明者は、木質バイオマス、炭化バイオマスなどのバイオマスが、雰囲気の温度が所定温度よりも高くなった際に、最大上昇温度が低下することを見出した。例えば、粉砕したバイオマスを試料として充填した10cm角のワイヤーメッシュ容器を恒温槽内に懸架し、雰囲気温度が80℃、90℃、100℃の場合において発熱時の試料の中心温度を検出して温度の経時変化を求めた。
図8に示すように、80℃における最大上昇温度よりも90℃における最大上昇温度が小さくなり、100℃における最大上昇温度が90℃における最大上昇温度とほぼ同じになっている(80℃における最大上昇温度よりも小さくなっている)ことが確認されている。
【0041】
つまり、石炭に加え、雰囲気の温度が所定温度よりも高くなった際に(例えば、80℃を超えた際に)、最大上昇温度が低下する(最大上昇温度の上昇が抑制される)バイオマスを粉砕手段に投入することで、粉砕手段の内部での粉砕物(微粉炭、粉砕バイオマス)の最大上昇温度を小さくして、粉砕物の発熱性を抑制させることができる知見が得られた。
【0042】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたもので、雰囲気の温度が所定温度よりも高くなった際に、最大上昇温度が低下する(最大上昇温度の上昇が抑制される)バイオマスを、石炭を粉砕する粉砕手段に投入することで、粉砕手段の内部の粉砕物(微粉炭、粉砕バイオマス)の発熱性を抑制することができる知見に基づいて、本発明を完成させるに至った。
【0043】
以下、図面に基づいて本発明の粉砕装置、及び、発電設備を説明する。
【0044】
図1には本発明の一実施例に係る粉砕装置を備えた発電設備の全体の系統を説明する概略構成、
図2には制御手段の機能を説明するブロック構成、
図3には石炭の最大上昇温度と雰囲気温度との関係(概略的な関係)、
図4にはバイオマスの最大上昇温度と雰囲気温度との関係(概略的な関係)、
図5には石炭、バイオマスの最大上昇温度と雰囲気温度との関係(概略的な関係)を示してある。
【0045】
【0046】
図に示すように、発電設備(火力発電設備)1は、石炭、及び、バイオマスを燃料として蒸気(高圧蒸気)を得るボイラ2を備え、ボイラ2で生成された蒸気が蒸気タービン3で膨張されて駆動され、蒸気タービン3の駆動により発電が実施される(発電手段)。蒸気タービン3で仕事を終えた蒸気は復水器4で復水され、ボイラ2に給水される(復水供給手段)。
【0047】
ボイラ2の燃料として、固体燃料である石炭、及び、バイオマスが用いられる。ボイラ2には、粉砕装置11で粉砕された粉砕物(微粉炭、粉砕バイオマス)が供給される。
【0048】
粉砕装置11には、固体燃料(石炭、及び、バイオマス)を粉砕する粉砕手段12(粉砕機)が備えられている。また、負荷に応じた量の石炭を粉砕手段12に供給する石炭供給手段13、及び、粉砕手段12にバイオマスを供給するバイオマス供給手段14が備えられている。
【0049】
粉砕手段12では、固体燃料である石炭、及び、バイオマスが粉砕されて粉砕物(微粉炭、粉砕バイオマス)とされ、粉砕物(微粉炭、粉砕バイオマス)は、一次空気供給手段15から供給される一次空気によりボイラ2に搬送される。
【0050】
バイオマス供給手段14からのバイオマスの供給量の調整は、制御手段21の制御により行われる。制御手段21には、石炭供給手段13から負荷に応じて供給される石炭の種類の情報、バイオマスの種類の情報が入力され、制御手段21は、石炭の種類の情報、バイオマスの種類の情報(最大上昇温度など)に応じてバイオマスの供給量(供給状況)を調整するように供給手段14を制御する。
【0051】
尚、図中の符号で16は、粉砕手段12の出口温度を検出する温度検出手段であり、温度検出手段16で検出された出口温度の情報、及び、後述する一次空気の入り口温度の情報に基づいて(制御手段21により)、粉砕手段12の内部の雰囲気温度が導出される。
【0052】
ボイラ2の負荷が変更されると、粉砕された微粉炭の量が調整される。一次空気供給手段15には、ボイラ2の負荷に応じて(粉砕された燃料の燃焼の負荷状態に応じて:粉砕された石炭の量に応じて)一次空気の量を所望の供給量に調整する供給量調整手段17が備えられている。そして、一次空気供給手段15には、供給される石炭の水分状態に応じて、一次空気の温度(例えば、粉砕手段12の出口側の空気の温度)を所望の温度に調整する温度調整手段18が備えられている。
【0053】
供給量調整手段17による一次空気供給量の調整は、制御手段21の制御により行われる。制御手段21には、ボイラ2の負荷の情報が入力され、ボイラ2の負荷に応じた一次空気の供給量となるように、供給量調整手段17が制御される。これにより、ボイラ2の負荷に応じて一次空気の供給量を調整することができる。
【0054】
温度調整手段18による一次空気の温度の調整は、制御手段21の制御により行われる。制御手段21には、石炭供給手段13から供給される石炭の種類の情報が入力され、石炭の種類の情報(水分量)に応じて一次空気の温度(例えば、粉砕手段12の出口側の空気の温度)が調整されるように、温度調整手段18が制御される。
【0055】
即ち、石炭の水分量に応じて設定された所定の乾燥温度に対して、更に乾燥温度を高くし、石炭の水分量に応じて乾燥温度を上昇させるように、温度調整手段18が制御される。これにより、石炭の乾燥がより適切に実施され、燃焼効率を向上させることができる。
【0056】
図2から
図5に基づいて制御手段21の機能を具体的に説明する。
【0057】
図2に示すように、制御手段21には、バイオマス供給量調整機能22が備えられ、バイオマス供給量調整機能22からバイオマス供給手段14に動作指令が出力される。また、制御手段21には、一次空気供給量調整機能23が備えられ、一次空気供給量調整機能23から供給量調整手段17に動作指令が出力される。更に、制御手段21には、一次空気温度調整機能24が備えられ、一次空気温度調整機能24から温度調整手段18に動作指令が出力される。
【0058】
そして、制御手段21には、石炭データ記憶機能25が備えられ、石炭データ記憶機能25には石炭の種類に応じた雰囲気温度毎の石炭の最大上昇温度のデータ(発熱性)が記憶されている(
図7参照、及び、後述する
図3、
図5参照)。また、制御手段21には、バイオマスデータ記憶機能26が備えられ、バイオマスデータ記憶機能26にはバイオマスの種類に応じた雰囲気温度毎のバイオマスの最大上昇温度が記憶されている(
図8参照、及び、後述する
図4、
図5参照)。
【0059】
石炭の種類に応じた雰囲気温度毎の石炭の最大上昇温度の情報は石炭データ記憶機能25からバイオマス供給量調整機能22、一次空気供給量調整機能23、一次空気温度調整機能24に送られる。また、バイオマスの種類に応じた雰囲気温度毎のバイオマスの最大上昇温度の情報はバイオマスデータ記憶機能26からバイオマス供給量調整機能22、一次空気供給量調整機能23、一次空気温度調整機能24に送られる。
【0060】
粉砕手段12で石炭を粉砕する際に、雰囲気の温度が所定の温度(例えば、80℃)よりも高くなった際に、石炭の最大上昇温度は大きくなるが、最大上昇温度が小さくなるバイオマスの供給状態(供給量)がバイオマス供給量調整機能22により調整されることで、粉砕手段12の内部の粉砕物が所望状態に制御される(例えば、粉砕手段12の内部のその時の雰囲気温度において、粉砕物が発火に至らない状態に制御される)。
【0061】
例えば、雰囲気温度が所定の温度(例えば、80℃:この温度を超えるとバイオマスの最大上昇温度が低下する温度)を超えた際に、バイオマスが供給される状態に制御される。また、粉砕手段の初期の雰囲気温度が所定の温度(例えば、80℃:この温度を超えるとバイオマスの最大上昇温度が低下する温度)以下に維持されている際に、初期段階からバイオマスを供給するように調整される。
【0062】
このため、簡単な操作により粉砕手段12の内部の粉砕物の発熱性を抑制することが可能になる。
【0063】
図3に基づいて石炭データ記憶機能25に記憶されたデータの一例を説明する。
【0064】
図に示すように、例えば、石炭データ記憶機能25には、複数種類(図示例では3種類)の石炭の雰囲気温度(℃)に対する最大上昇温度(℃)の状況が記憶されている。即ち、A炭(実線で示してある)の雰囲気温度(℃)に対する最大上昇温度(℃)の関係、B炭(点線で示してある)の雰囲気温度(℃)に対する最大上昇温度(℃)の関係、C炭(一点鎖線で示してある)の雰囲気温度(℃)に対する最大上昇温度(℃)の関係が記憶されている。
【0065】
A炭、B炭、C炭は、いずれも、雰囲気温度が80℃よりも高くなるにしたがって、最大上昇温度が大きくなっており、石炭の種類により、最大上昇温度は異なっている。そして、A炭、B炭、C炭共に、80℃、90℃、100℃での最大上昇温度は、X℃よりも大きくなっている。
【0066】
図4、
図5に基づいてバイオマスデータ記憶機能26に記憶されたデータの一例を説明する。
【0067】
図4に示すように、例えば、バイオマスデータ記憶機能26には、複数種類(図示例では3種類)のバイオマスの雰囲気温度(℃)に対する最大上昇温度(℃)の状況が記憶されている。
【0068】
即ち、Aバイオマス(実線で示してある)の雰囲気温度(℃)に対する最大上昇温度(℃)の関係、Bバイオマス(点線で示してある)の雰囲気温度(℃)に対する最大上昇温度(℃)の関係、Cバイオマス(一点鎖線で示してある)の雰囲気温度(℃)に対する最大上昇温度(℃)の関係が記憶されている。
【0069】
図に示すように、Aバイオマス、Bバイオマス、Cバイオマスは、いずれも、雰囲気温度が80℃よりも高くなると、雰囲気温度が80℃のときに比べて、最大上昇温度が低下している。
【0070】
AバイオマスよりもBバイオマスが、雰囲気温度が80℃、90℃、100℃で最大上昇温度がやや小さくなっており、Cバイオマスが、雰囲気温度が80℃、90℃、100℃で最大上昇温度が一番小さくなっている。そして、Aバイオマス、Bバイオマス、Cバイオマス共に、80℃、90℃、100℃での最大上昇温度は、X℃よりも小さくなっている。
【0071】
図5に示すように、雰囲気温度が80℃、90℃、100℃のいずれの温度においても、Aバイオマス、Bバイオマス、Cバイオマスの最大上昇温度は、石炭(C炭:図中太実線で示してある)の最大上昇温度よりも小さくなっている。
【0072】
このため、粉砕手段12で石炭を粉砕する際に、例えば、雰囲気温度が80℃を超えた際に最大上昇温度が小さくなるバイオマスを粉砕手段12に供給することで、粉砕手段12の内部の粉砕物を所望状態に制御することができる。
【0073】
このため、簡単な操作により粉砕手段12の内部の粉砕物の発熱性を抑制することが可能になる。また、使用する燃料の一部をバイオマスに置き換えることにより、発電設備1の環境負荷を低減することができる。つまり、CO2排出量を低減することができる。
【0074】
具体的な活用の例を説明する。
【0075】
例えば、定格負荷から低負荷、もしくは、低負荷から定格負荷へ、ボイラ2の負荷を変化させる際には、粉砕手段12へ供給される石炭の量の増減や、一次空気(熱風)の量の増減が、粉砕手段12の運用に応じて頻繁に生じる。このため、粉砕手段12内の流体の流れ場が不安定になったり温度分布が生じたりして、粉砕手段12の内部に局所的な過昇温が生じる虞がある。
【0076】
また、ボイラ2の負荷変化時(例えば、定格負荷から低負荷への変化時)において、固体燃料(石炭)の供給量を減少させるタイミングに対して一次空気(熱風)の量を減少させるタイミングが遅れた場合、一時的に粉砕手段12内に投入される一次空気(熱風)の量が多くなって熱量が過大となり、粉砕手段12の内部の温度が上昇する虞がある。(過昇温が生じる虞がある)。
【0077】
このような、過昇温が生じる虞が生じた際に、適用される石炭の種類に応じて、最大上昇温度が小さくなるバイオマスを適宜選択して供給することで、粉砕手段12の内部の粉砕物を所望状態に制御(粉砕物の最大上昇温度を小さくさせる制御)することができる。即ち、バイオマスの種類に応じて、粉砕物(微粉炭、粉砕バイオマス)の最大上昇温度が小さくなるようにして発熱性を抑制することができる。
【0078】
したがって、ボイラ2の負荷が変更になって粉砕手段12の雰囲気温度が高くなっても(過昇温が生じる虞になっても)、粉砕物(微粉炭、粉砕バイオマス)の発熱性を抑制することができる。
【0079】
尚、ボイラ2を一定負荷で運転している時(例えば、定格負荷運転時)に過昇温が生じる虞になった場合であっても、バイオマスを供給することで、粉砕物の発熱性を抑制することができる。
【0080】
また、石炭の水分量に応じて設定された所定の乾燥温度に対して、一次空気の温度(例えば、粉砕手段12の出口側の空気の温度)を所望の温度に調整し、乾燥温度を更に高くすることができる。つまり、石炭の水分量に応じて乾燥温度を上昇させることにより、粉砕物(微粉炭)に残存する水分量を減少させることができる。これにより、石炭の乾燥がより適切に実施され、燃焼効率を向上させることができる。
【0081】
石炭の乾燥温度を上昇させて粉砕手段12の内部の雰囲気温度を高くし、粉砕物(微粉炭)に残存する水分量を減少させた際に、最大上昇温度が小さくなるバイオマスを供給する。これにより、粉砕手段12の内部の粉砕物を所望状態に制御することができ、粉砕手段12の内部の雰囲気温度を高くしても、供給するバイオマスの種類に応じて、粉砕物の最大上昇温度が小さくなるようにして発熱を抑制することができる。
【0082】
したがって、石炭の水分量に応じて設定された所定の乾燥温度に対して、更に乾燥温度を高くしても、粉砕物(微粉炭、粉砕バイオマス)の発熱性を抑制することができる。
【0083】
上述した固体燃料の粉砕装置11は、簡単な操作により粉砕手段12の内部の粉砕物の発熱性を抑制することが可能になる。そして、簡単な操作により粉砕手段12の内部の燃料(微粉炭)の発熱性が抑制された状態で、微粉炭(粉砕物)を、発電動力を得るための燃焼手段に供給することが可能な発電設備とすることができる。このため、供給する石炭の種類、量の調整の自由度を高くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は固体燃料の粉砕装置、発電設備の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 発電設備(火力発電設備)
2 ボイラ
3 蒸気タービン
4 復水器
11 粉砕装置
12 粉砕手段
13 石炭供給手段
14 バイオマス供給手段
15 一次空気供給手段
16 温度検出手段
17 供給量調整手段
18 温度調整手段
21 制御手段
22 バイオマス供給量調整機能
23 一次空気供給量調整機能
24 一次空気温度調整機能
25 石炭データ記憶機能
26 バイオマスデータ記憶機能