(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077056
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】液卵代替組成物及びその凝固物
(51)【国際特許分類】
A23L 15/00 20160101AFI20240531BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20240531BHJP
A23J 3/14 20060101ALI20240531BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20240531BHJP
A23L 11/00 20210101ALN20240531BHJP
【FI】
A23L15/00 Z
A23J3/00 508
A23L15/00 D
A23J3/14
A23J3/16
A23L11/00 F
A23L11/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188863
(22)【出願日】2022-11-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯部 和宏
(72)【発明者】
【氏名】白石 敦士
【テーマコード(参考)】
4B020
4B042
【Fターム(参考)】
4B020LB24
4B020LB27
4B020LB30
4B020LC02
4B020LC04
4B020LG04
4B020LG09
4B020LK01
4B020LK02
4B020LK06
4B020LK20
4B020LP06
4B020LP08
4B020LP12
4B020LP13
4B020LP15
4B020LP30
4B042AC01
4B042AC03
4B042AC05
4B042AD37
4B042AK01
4B042AK09
4B042AK10
4B042AK12
4B042AK13
4B042AK20
4B042AP04
4B042AP14
4B042AP15
4B042AP20
4B042AP23
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、液卵代替組成物として求められる凝固性を有し、かつ、植物性タンパク質特有の風味がマスキングされた液卵代替組成物及びその凝固物を提供するものである。
【解決手段】
植物由来タンパク質とカルシウムを含有する液卵代替組成物であって、
前記タンパク質の含有量が3~15%であり、
前記タンパク質1質量部に対する前記カルシウムの含有量が0.003~0.3質量部である、
液卵代替組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来タンパク質とカルシウムを含有する液卵代替組成物であって、
前記タンパク質の含有量が3~15%であり、
前記タンパク質1質量部に対する前記カルシウムの含有量が0.003~0.3質量部である、
液卵代替組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の液卵代替組成物を用いて調製した、
加熱凝固物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液卵代替組成物及びその凝固物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康への配慮や、植物性食品への嗜好の高まり等から、卵を使用せずに植物性タンパク質等の原料を使用し、卵の代わりに調理に用いることができる液卵代替組成物が開発されている。
【0003】
しかしながら、原料として植物性タンパク質を利用すると、原料特有の風味が付与され、卵らしさが損なわれてしまう。栄養強化の観点からタンパク質を強化しようとすると、植物性タンパク質の配合量も増え、さらに風味を損ねる原因となっていた。
特許文献1には、節類パウダーにより植物性タンパク臭をマスキングする方法が開示されているが、マスキング効果は十分でなく、さらなる改善が望まれている。
【0004】
また、液卵代替組成物は、卵らしい風味と共に、加熱等の処理により本物の卵のように凝固することも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、液卵代替組成物として求められる凝固性を有し、かつ、植物性タンパク質特有の風味がマスキングされた液卵代替組成物及びその凝固物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、液卵代替組成物及びその凝固物において、植物由来タンパク質とカルシウムを含有し、前記タンパク質の含有量を3~15%、前記タンパク質1質量部に対する前記カルシウムの含有量を0.003~0.3質量部とすることによって、意外にも、液卵代替組成物として求められる凝固性を有し、かつ、植物性タンパク質特有の風味がマスキングされた液卵代替組成物及びその凝固物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
植物由来タンパク質とカルシウムを含有する液卵代替組成物であって、
前記タンパク質の含有量が3~15%であり、
前記タンパク質1質量部に対する前記カルシウムの含有量が0.003~0.3質量部である、
液卵代替組成物、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液卵代替組成物として求められる凝固性を有し、かつ、植物性タンパク質特有の風味がマスキングされた液卵代替組成物及びその凝固物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において特に規定しない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0011】
<本発明の特徴>
本発明は、植物由来タンパク質とカルシウムを含有する液卵代替組成物であって、前記タンパク質の含有量が3~15%であり、前記タンパク質1質量部に対する前記カルシウムの含有量が0.003~0.3質量部である、液卵代替組成物であることによって、液卵代替組成物として求められる凝固性を有し、かつ、植物性タンパク質特有の風味がマスキングされた液卵代替組成物及びその凝固物を提供できることに特徴を有する。
【0012】
<液卵代替組成物>
本発明の液卵代替組成物は、卵を含有しない又は卵を少量含有する液卵代替組成物であって、植物性タンパク質を3~15%含有することを特徴とする。
本発明の液卵代替組成物は、液卵同様に凝固物を調製することができ、本物のスクランブルエッグや炒り卵等の加熱凝固卵に近いそぼろ状の外観を有することが好ましい。
【0013】
「卵を含有しない」とは、鶏、鶉、アヒルの卵など、一般に食用に供される鳥類の卵由来の原料を含有していないことをいい、「卵を少量含有する」とは、前記鳥類の卵由来の原料を、液卵代替組成物中に5質量%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下含有することをいう。
【0014】
本発明の液卵代替組成物のpHは5.0~8.5であるとよい。pHが前記範囲内であることにより、液卵代替組成物において植物性タンパク質特有の風味をマスキングする効果が得られやすい。
【0015】
<凝固物>
本発明の凝固物とは、本発明の液卵代替組成物を用いて調製した凝固物をいう。
本発明の液卵代替組成物を使用する限り、いずれの形態でもよく、例えば、スクランブルエッグ、オムレツ、卵焼き、炒り卵、薄焼き卵、錦糸卵、及びこれらを含む調理品等が挙げられる。本発明の凝固物は、加熱凝固卵の代替物として用いることができる。
当該凝固物の製造方法に制限は無く、例えば、加熱又は冷却により凝固させてもよいし、特定の溶液に接触させることで凝固させてもよいが、上記液卵代替組成物をフライパン、湯煎、その他の適当な方法で加熱して、凝固させた加熱凝固物であることが好ましい。
【0016】
<植物性タンパク質>
本発明の液卵代替組成物は植物性タンパク質を含有する。本発明で使用する植物性タンパク質の由来は、例として、大豆、白インゲン豆、赤インゲン豆、エンドウ、緑豆、ルピン豆、ヒヨコ豆、ヒラ豆、ササゲ等の豆類、ゴマ、キャノーラ種子、ココナッツ種子、アーモンド種子等の種子類、とうもろこし、そば、麦、米などの穀物類、野菜類、果物類などが挙げられる。本発明の効果が得られやすいことから、大豆、白インゲン豆、エンドウ豆、アーモンド種子、米から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0017】
本発明で使用する植物性タンパク質は、原料の植物性素材を粉砕して粉末状にしたものや、原料の植物性素材からタンパク質を抽出した精製タンパク質を用いることができる。前記精製タンパク質を用いることで、本発明の効果が得られやすい。
なお、植物性タンパク質に対し、必要に応じて、ゲル化性を高めるためのトランスグルタミナーゼ処理等の酵素処理を行うこともできる。
【0018】
本発明の液卵代替組成物は、上記植物性タンパク質を3~15%含有する。植物性タンパク質が前記範囲未満の場合、植物性タンパク質の風味が弱く本発明の効果が得られない。また、植物性タンパク質が前記範囲より多い場合、植物性タンパク質の風味を十分にマスキングすることができず、本発明の効果が得られない。
また、本発明の液卵代替組成物は、本発明の効果が得られやすいことから、上記植物性タンパク質を5~14%含有するとよく、7~12%含有するとよりよい。なお、前記植物性タンパク質の割合は、植物性タンパク質から抽出されたタンパク質のみの割合を指し、植物性タンパク質に由来するタンパク質以外の成分は含まない。
【0019】
<カルシウム>
本発明の液卵代替組成物は、カルシウムを含有する。
本発明におけるカルシウムは、食品原料由来のカルシウムでもよいし、食品添加物の態様でカルシウムそのものを添加してもよいが、食品添加物の態様でカルシウムそのものを添加した方が、本発明の効果が得られやすい。食品添加物の態様で添加するカルシウムは、食品に添加できるカルシウムであれば特に限定されず、例えば乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、卵殻カルシウムなどがあるが、特に、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム又はグルコン酸カルシウムを配合すると、本発明の効果が得られやすい。
【0020】
本発明の液卵代替組成物は、植物性タンパク質1質量部に対するカルシウムの含有量が0.003~0.3質量部である。植物性タンパク質とカルシウムの比率が前記下限を下回ると、十分に植物性タンパク質の風味をマスキングすることができず、本発明の効果が得られない。また、植物性タンパク質とカルシウムの比率が前記上限を上回ると、カルシウムのえぐみが強くなり全体の味のバランスが損なわれてしまう。
また、植物性タンパク質1質量部に対するカルシウムの含有量は、0.005~0.1質量部であるとよく、さらに0.008~0.08質量部であるとよい。
カルシウムの含有量は、液卵代替組成物として求められる凝固性を付与しやすく、植物性タンパク質の風味のマスキング効果が得られやすいことから、液卵代替組成物全体に対し、0.01~1%であるとよく、さらに0.05~0.5%であるとよい。
【0021】
<他の原料>
本発明の液卵代替組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の原料を含有することができる。このような原料としては、例えば、醤油、食塩、胡椒、アミノ酸等の調味料類、グラニュ糖、上白糖、三温糖、果糖ぶどう糖液糖、澱粉類、デキストリン、フルクトース、トレハロース、グルコース、乳糖、オリゴ糖、糖エタノール等の糖類、グリシン、酢酸ナトリウム等の静菌剤、有機酸、有機酸塩等のpH調整剤、保存料、酸化防止剤、香料、植物性油脂等が挙げられる。
【0022】
<液卵代替組成物の製造方法>
次に、本発明の液卵代替組成物の代表的な製造方法について下記に記載するが、これらは本発明を特に限定するものではない。
具体的には、植物性タンパク質と、カルシウムと、水と、その他の原料と、を攪拌して混合し、液卵代替組成物を調製する。植物性タンパク質は、3~15%となるように調製される。
なお、必要に応じて、加熱殺菌工程を行うこともできる。
【0023】
以下、本発明について、実施例、比較例、及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例0024】
<試験例1:植物性タンパク質とカルシウムの比率の検討>
表1に記載の配合で、実施例1~4、比較例1~2の液卵代替組成物を調製した。具体的には、ゲル化剤をあらかじめ水に混合し、ヒスコトロンで5分撹拌して分散させた。その後植物性タンパク質抽出物を溶解させ、その他の原料も加えてよく撹拌し、液卵代替組成物を調製した。
なお、使用した米タンパク質抽出物(「Prodiem Rice 5020」、KERRY GROUP P.L.C.製)は、米タンパク質を87%含んでいた。
【0025】
【0026】
調製した液卵代替組成物を約170℃に加熱したフライパンで加熱し、かき混ぜながら熱凝固物を調製した。加熱凝固物の風味及び凝固性を下記基準で評価した。結果を表2に示した。
【0027】
[風味の評価基準]
A:植物性タンパク質の風味がマスキングされていた
B:植物性タンパク質の風味がややマスキングされていた
C1:植物性タンパク質の風味が強く感じられた
C2:植物性タンパク質の風味がマスキングされていたが、カルシウムのえぐみが強かった
[凝固性の評価基準]
A:そぼろ状の非常に卵らしい凝固物が得られた
B:ややペーストに近いが卵らしい凝固物が得られた
C:凝固しなかった
【0028】
【0029】
表2に示すように、植物性タンパク質1質量部に対するカルシウムの含有量が0.003~0.3質量部であることにより、卵代替組成物として求められる凝固性を有し、かつ、植物性タンパク質の風味がマスキングされることが分かった。
また、カルシウム含有量が1.0%以下であると、卵代替組成物として求められる凝固性を有しており、0.5%以下であると、卵代替組成物として求められる凝固性に特に優れていることが理解できる。
【0030】
<試験例2:タンパク質の種類の検討>
実施例1の米タンパク質抽出物を表3に記載のタンパク質抽出物に変更した以外は、実施例1と同様に、実施例5~7の液卵代替組成物を調製した。また、比較例1の米タンパク質抽出物を表3に記載のタンパク質抽出物に変更した以外は、比較例1と同様に、比較例3~5の液卵代替組成物を調製した。
なお、大豆タンパク質抽出物(「プロリーナHD101R」、不二製油株式会社製)は、大豆タンパク質を85%含んでいた。エンドウ豆タンパク質抽出物(「Prodiem Pea 7028」、KERRY GROUP P.L.C.製)は、エンドウ豆タンパク質を78%含んでいた。大手亡豆タンパク質抽出物は以下の方法で調製したものを用い、大手亡豆タンパク質を70%含んでいた。
まず、大手亡豆原料を、外皮を残したまま粉砕して粉体化した。続いて、粉体化された豆原料を水に分散し、水酸化ナトリウムを用いてpH9.0に調整し、タンパク質を溶出させた。タンパク質溶液の上清を回収し、当該上清に塩酸を加えてpH4.5に調整し、タンパク質を沈殿させた。沈殿物を回収し、水酸化ナトリウムを用いてpH7.0となるように中和した。この中和された沈殿物を、大手亡豆タンパク質抽出物として用いた。
【0031】
【0032】
調製した液卵代替組成物を用いて、試験例1と同様に加熱凝固物を調製しその風味及び凝固性を評価した。
その結果、表4に記載の通り、米タンパク質抽出物の代わりに大豆タンパク質抽出物、エンドウ豆タンパク質抽出物、大手亡豆タンパク質抽出物を使った場合でも、植物性タンパク質の風味がマスキングされた。
【0033】
【0034】
<試験例3:pHの検討>
実施例1の液卵代替組成物のpHを変更した実施例8,9を調製した。具体的には、実施例8は塩酸を用いてpH5.0に、実施例9は水酸化ナトリウムを用いてpH9.0にそれぞれ調整した。
調製した液卵代替組成物を用いて、試験例1と同様に加熱凝固物を調製しその風味及び凝固性を評価した。
その結果、pH5.0の実施例8は、実施例1と同様に植物性タンパク質の風味がマスキングされ、また、そぼろ状の非常に卵らしい凝固物が得られた。一方、pH9.0の実施例9は、そぼろ状の非常に卵らしい凝固物が得られたが、風味に関しては、植物性タンパク質の風味がややマスキングされていたものの、実施例1ほどではなかった。
以上より、本発明の液卵代替組成物のpHは、5.0~8.5であることが好ましいことが理解できる。
【0035】
<試験例4:カルシウムの種類の検討>
実施例1の乳酸カルシウム五水和物を塩化カルシウム(無水)に変更した以外は、実施例1と同様に、実施例10の液卵代替組成物を調製した。なお、実施例10は、塩化カルシウム(無水)の配合量を調整し、実施例1と同様のカルシウム含有量になるようにした。さらに、調製した液卵代替組成物を用いて、試験例1と同様に加熱凝固物を調製しその風味を評価した。その結果、実施例1と同様に植物性タンパク質の風味がマスキングされ、また、そぼろ状の非常に卵らしい凝固物が得られた。