(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077125
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】改質褐炭ブリケット及び低燐高炭素鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/30 20060101AFI20240531BHJP
【FI】
C21C5/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188983
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105692
【弁理士】
【氏名又は名称】明田 莞
(74)【代理人】
【識別番号】100161252
【弁理士】
【氏名又は名称】明田 佳久
(72)【発明者】
【氏名】松岡 秀一
(72)【発明者】
【氏名】作左部 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】松尾 浩
(72)【発明者】
【氏名】松井 良行
【テーマコード(参考)】
4K070
【Fターム(参考)】
4K070AC32
4K070DA01
4K070EA11
(57)【要約】
【課題】製鋼の際に、転炉や電気炉に装入することにより、省エネルギーとすることができ、二酸化炭素を一酸化炭素に改質することによって二酸化炭素の発生を抑制しながら、低燐化すると共に、高品位な高炭素鋼を溶製することができる改質褐炭ブリケットを提供する。
【解決手段】褐炭を脱水、脱油して発熱量を上げると共に長距離輸送を可能とした改質褐炭を、成型し、乾燥させた改質褐炭ブリケットであって、灰組成を所定の灰組成にしたことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
褐炭を脱水、脱油して発熱量を上げると共に長距離輸送を可能とした改質褐炭を、成型し、乾燥させた改質褐炭ブリケットであって、灰組成を所定の灰組成にしたことを特徴とする改質褐炭ブリケット。
【請求項2】
嵩密度が、1.0~7.0g/ccであることを特徴とする請求項1に記載の改質褐炭ブリケット。
【請求項3】
前記所定の灰組成が、CaO/SiO2≧0.3であることを特徴とする請求項1に記載の改質褐炭ブリケット。
【請求項4】
前記所定の灰組成が、t-Fe≧5(wt%)であることを特徴とする請求項1に記載の改質褐炭ブリケット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の改質褐炭ブリケットを用いたことを特徴とする低燐高炭素鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分が多く酸素分が多くて発熱量が少なく、また、乾燥によって粉化し易く自然発火するので長距離輸送や貯蔵に適さない低品位の褐炭を、脱水、脱油して発熱量を上げると共に長距離輸送が可能となった改質褐炭を、さらに、所定の灰組成を満たし、成型・乾燥させてブリケットにしたものを製鋼の転炉や電気炉に添加して使用することによって、二酸化炭素の発生を抑制しながら脱燐した高品質な高炭素鋼を製造することができる改質褐炭ブリケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、製鋼をする際に、土状黒鉛のブリケットを転炉等に添加して、炭素分を補充し、転炉内の銑鉄内の炭素や土状黒鉛ブリケットの炭素を一酸化炭素にして、二酸化炭素の発生を抑えることが行われてきた。
【0003】
例えば、低強度の熱補給用成型炭(ブリケット)を加えて転炉吹錬操業をすることによって、二酸化炭素や窒素の発生量を抑えることができる転炉吹錬操業法の先行技術が開示されている(参考文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の先行技術は、耐圧強度が90kgf以下の土状黒鉛ブリケットを転炉に添加して吹錬して二酸化炭素や窒素の発生量を抑えて、比較的炭素含有量が高い鋼を溶製し得るという点で優れている。しかし、鋼の低燐化については効果が認められないので、高品位な鋼を得ることができないという問題があった。また、従来、一般に、脱燐反応を行うと脱炭反応も同時に行われることになるので、やはり、低燐高炭素鋼を造れないという問題があった。
【0006】
本発明は、この問題を解決したものであって、製鋼の際に、転炉や電気炉に装入することによって、二酸化炭素を一酸化炭素に改質することによって二酸化炭素の発生を抑制しながら、低燐化すると共に、高品位な高炭素鋼を溶製することができる改質褐炭ブリケットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本願発明の請求項1に係る改質褐炭ブリケットは、褐炭を脱水、脱油して発熱量を上げると共に長距離輸送を可能とした改質褐炭を、成型し、乾燥させた改質褐炭ブリケットであって、灰組成を所定の灰組成にしたことを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項1に係る改質褐炭ブリケットは、水分が多く、さらに、酸素分が多くて発熱量が低く、また、乾燥することによって粉化して自然発火し易く、長距離輸送や貯蔵に適さない褐炭を、脱水、脱油することによって発熱量を上げると共に、ある程度の水分を残すことによって、粉化を防ぐことができ、そのことによって自然発火を防ぎ、長距離輸送や貯蔵を可能にした改質褐炭について、乾留させて、所定の灰組成を満たして(特にCaO/SiO2やFeの量)混錬し、成型した後に、乾燥機で乾燥させて製造する。
【0009】
本発明の請求項1に係る改質褐炭ブリケットは、所定の灰組成を満たしているので、製鋼の際、転炉や電気炉に添加することによって、二酸化炭素の発生を抑制しながら、吹錬によって銑鉄内にある燐を不安定な状態のP2O5にした後、灰組成の調整によって改質褐炭に多く含まれたCaOによって、(CaO)4・P2O5にして、スラグ内に固定化する。よって、確実に脱燐することができる。このことによって、二酸化炭素の発生を抑制しながら脱燐して、高品位な低燐・高炭素鋼を製造することができる。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る改質褐炭ブリケットは、請求項1の改質褐炭ブリケットにおいて、嵩密度が、1.0~7.0g/ccであることを特徴とする。
【0011】
この構成をとることによって、請求項2の改質褐炭ブリケットは、転炉内の鋼浴の中に沈まないで浮かせることができるので、鋼浴上部のスラグ内で、脱燐反応や二酸化炭素を一酸化炭素に改質する反応を確実に行うことができる。
【0012】
また、本発明の請求項3に係る改質褐炭ブリケットは、請求項1の改質褐炭ブリケットにおいて、前記改質褐炭の灰組成が、CaO/SiO2≧0.3であることを特徴とする。
【0013】
この構成をとることによって、請求項3の改質褐炭ブリケットは、スラグの気泡の崩壊時間を短くすることができる。気泡は微細なものが形成されて、合体しながら成長して破壊に至るので、崩壊時間が短いほど、気泡の直径が早く小さくなる。そして、気泡の直径が小さいほど転炉内のスラグの泡立ち高さが高くなり、復燐を少なくして脱燐反応を確実に行って、燐をスラグ内に固定できると共に、鋼に炭素を残せるので、高炭素鋼を製造することができる。したがって、二酸化炭素の発生を抑えながら、脱燐反応を行って、高炭素鋼の製鋼を行うことができる。
【0014】
また、本発明の請求項4に係る改質褐炭ブリケットは、請求項1の改質褐炭ブリケットにおいて、前記改質褐炭の灰組成が、t-Fe≧5(wt%)であることを特徴とする。
【0015】
この構成をとることによって、請求項4の改質褐炭ブリケットは、スラグの気泡の直径が小さいほど転炉内のスラグの浮力が大きくなって泡立ち高さが高くなり、復燐を少なくして脱燐反応を確実に行って、スラグ内に燐を固定化できると共に、鋼に炭素を残せるので、高炭素鋼を製造することができる。よって、二酸化炭素の発生を抑えながら、脱燐反応を行って、高炭素鋼の製鋼を行うことができる。
【0016】
また、本発明の請求項5に係る低燐高炭素鋼の製造方法は、請求項1から4のいずれかに記載の前記改質褐炭ブリケットを用いたことを特徴とする。
【0017】
この構成をとることによって、請求項5の低燐高炭素鋼の製造方法を用いれば、所定の灰組成を満たした改質褐炭ブリケットを使用するので、低燐高炭素鋼を製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の改質褐炭ブリケットを転炉や電気炉に用いることによって、二酸化炭素の発生を抑えながら、脱燐して燐を所定値以下に抑えると共に、炭素品位に優れた高炭素鋼を製造することができる。よって、環境にやさしく、高品位な鋼を製造することができる。また、転炉ガスの排ガス顕熱を利用できるので省エネルギーにも貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る改質褐炭ブリケットの模式的平面図及び正面図である。
【
図2】土状黒炭と改質褐炭の性状比較の一例を示す表
【
図3】本実施例において用いた試験転炉の模式図である。
【
図5】ηCO(CO2/(CO+CO2)(%))と転炉ガス温度と関係を示すグラフ。
【
図6】吹錬時間とηCO(CO2/(CO+CO2)(%))の関係を示すグラフ。
【
図7】試験転炉における吹錬時間とスラグ高さとの関係を示すグラフ。
【
図8】試験転炉における吹錬時間と溶鉄中の燐との関係を示すグラフ。
【
図9】試験転炉における吹錬時間と溶鉄中の炭素との関係を示すグラフ。
【
図10】試験転炉の脱燐反応における土状黒鉛ブリケット添加時と改質褐炭ブリケット添加時の状態を示す模式的断面図である。
【
図11】スラグ中の鉄濃度とスラグ―メタル界面で発生する気泡直径との関係を示すグラフ。
【
図12】転炉におけるスラグ塩基度(CaO/SiO
2)と気泡の崩壊時定数τとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の好適な実施の形態を説明する。なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変更、改良等は、本発明に含まれる。
【0021】
本実施形態に係る改質褐炭ブリケット1は、
図1に示すように、一例として平面的に見れば四隅の角を丸め一辺が約42mmの略正方形であり、正面から見れば中央部が膨らんだ厚みが約30mmの立体形状をしているが、特に制限されるものではない。また、改質褐炭ブリケット1は、褐炭を脱水、脱油して改質褐炭とし、それを乾留、混錬、成型、乾燥して製造する。
【0022】
本実施形態の改質褐炭ブリケットの製造方法の一例を示す。改質褐炭ブリケット1の原料となる褐炭は、水分が多く酸素分が多くて発熱量が少なく、また、乾燥によって粉化し易く自然発火するので長距離輸送や貯蔵に適していない。この褐炭を、例えば、加水し褐炭水スラリ―にして、触媒を加えながら350℃240気圧で水熱処理をし、その後、脱圧してガスを抜く、そして、水分、油分を蒸留分離して改質褐炭にする。改質褐炭は、脱水しているので発熱量が高くなっている。また、水分が若干残っているので、粉化し難く自然発火しないので、船舶によって安全に海外から長距離輸送してくることができる。ここで、改質褐炭(乾留後)の性状の一例を
図2に示している。
図2に示すように、従来製鋼時に用いられている土状黒鉛に比べて総発熱量が7,480cal/kgと高く、また、灰組成(wt%)の鉄濃度t-Feが18.9と大きく、また、塩基度CaO/SiO
2が0.51と大きいのが特徴である。
【0023】
その改質褐炭を、乾留した後に、所定の灰組成になるように調整して混錬し、成型した後、乾燥させて本実施形態の改質褐炭ブリケット1は製造される。なお、
図2に示した灰組成の褐炭のように、灰組成の調整前に、既に所定の灰組成を満たしている改質褐炭は、灰組成の調整を別途する必要はない。
【0024】
ここで、本実施形態に係る改質褐炭ブリケット1を固めて成型・乾燥させて、嵩密度が、1.0~7.0g/ccが好ましい。この嵩密度によって、転炉内の鋼の中に沈まないで浮かせることができるので、鋼浴上部のスラグ内で、脱燐や二酸化炭素を一酸化炭素にする反応や脱燐反応を確実に行うことができる。
【0025】
本実施形態に係る改質褐炭ブリケット1は、製鋼の際に転炉や電気炉に主原料の銑鉄や他の副原料と共に投入して使用する。
【実施例0026】
次に、本実施形態に係る改質褐炭ブリケット1の使用方法の一例を示す。
図3に示す試験転炉100を用いて、本実施形態に係る改質褐炭ブリケット1の使用実験を行った。試験の条件は、試験転炉100の大きさは0.5ton、酸素上吹き、不活性ガス底吹き、試験転炉の鉄皮内容積0.9m
3、煉瓦内容積0.4m
3、上吹き酸素流量比~4.0Nm
3/min/ton、底吹きについて、用いるガスの種類は窒素又はアルゴン、ガス流量比~0.16Nm
3/min/ton、羽口数4、羽口形式は単孔、で行った。また、溶鉄(メタル)2の深さは400mm入っており、その上に、スラグ―メタル界面4があり、その上にスラグ3が溶鋼2上に浮いている状態である。そして、H
slag(試験転炉底面からスラグ上面までの高さ)を計測し、製造された鋼のP濃度やC濃度を測定する。
【0027】
そして、
図4に示した吹錬条件で酸素上吹き(2.0Nm
3/min/ton)吹錬時間30分間とAr底吹き(0.12Nm
3/min/ton)30分間とを行った。また、改質褐炭ブリケット1(0.5kg)を20チャージ(合計20kg/t)13分間行った。
【0028】
その結果を
図5に示す。本実施形態に係る改質褐炭ブリケット1添加と、土状黒鉛は30分間吹錬を行い、添加無しは25分間、吹錬を行った。この図から判るように、本実施形態に係る改質褐炭ブリケット1の添加時は、ηCO(CO2/(CO+CO2)が、添加無しや土状黒鉛よりも低く、
C(sol)+CO
2(g)=2CO(g)
が促進し、CO
2のCOへの改質反応が確認された。また、その吸熱量は、試験転炉ガスの排ガス顕熱から補償されていることから省エネルギー効果も確認された。
【0029】
図6に吹錬時間とηCO(CO2/(CO+CO2)の関係を示す。この図より、本実施形態に係る改質褐炭ブリケット1を用いると、CO
2の発生をブリケット1の添加時から低く抑えることができることが判る。よって、本実施形態に係る改質褐炭ブリケット1を用いると、CO
2の発生を抑え、環境に優しい操業ができる。
【0030】
また、吹錬時間とスラグ高さHと関係を
図7に示し、また、吹錬時間とメタル2中に含まれる燐P濃度との関係を
図8に示し、また、吹錬時間とメタル2中の炭素C濃度との関係を
図9に示しており、
図8図9から、本実施形態の改質褐炭ブリケット1を用いると、30分後にP濃度が略0%になるが、Cが約1.5%となっていることが判る。よって、脱燐を十分にしながら、高炭素鋼を製鋼することができることが判った。したがって、本実施形態の改質褐炭ブリケット1を用いると、脱燐を確実に行うと共に、炭素を0.5%以上の高炭素鋼を造ることができ、即ち、CO
2発生を抑えて、脱燐を確実に行うことができ、高品位である高炭素鋼を製鋼することができる。
【0031】
また、
図7より、炭素濃度を維持しながら、脱燐反応を行う場合において、本実施形態に係る改質褐炭ブリケット1を用いると、スラグ高さHが添加無しや土状黒鉛を用いる場合に比べて高くなることが判った。
【0032】
そこで、鋭意検討を行った結果、
図10に示すように、従来の土状黒鉛ブリケットにおける脱燐反応は、メタル2中のPが上吹き吹錬のO
2と反応して、スラグ―メタル界面4で
4P+5O
2=2(P
2O
5)
となるが、この状態は安定せずに、またメタル2内にPが戻ってしまう(復燐する)ので、脱燐が確実に行われない。しかし、本実施形態に係る改質褐炭ブリケット1は塩基度CaO/SiO
2が大きいので、スラグ―メタル界面4で
4P+5O
2+8CaO=2(P
2O
5)+8CaO
となって、さらに、スラグ3内で、スラグ高さHが、高くなり、
2(P
2O
5)+8CaO=2(CaO)
4・P
2O
5
となって、そのスラグ3内にPが固定されて脱燐が確実に行われること、さらに、スラグ高さHを高くすることによって、復燐を少なくして脱燐を確実に行うと共に高炭素鋼を製鋼できることを見出した。
【0033】
さらに、スラグ高さHを高くするには、気泡の直径を小さくすることと、気泡の崩壊時定数τを短くすることを見出した。そこで、気泡の直径を小さくするために、
図11に示すように、「小川雄司、徳光直樹、鉄と鋼,87(2001)1,14-20.」のグラフ101を参照することによって、改質褐炭ブリケット1内の灰組成のt-Feの量11を5(wt%)以上にすれば、望ましくは10以上であれば、気泡が小さくなっていくことを見出した。また、気泡の崩壊時定数τを短くするために、
図12に示すように、「立川正彬、島田道彦、石橋政衛、白石惟光:鉄と鋼55(1969)S92」のグラフ111を参照することによって、改質褐炭ブリケット1内のCaO/SiO
2が1.3以上にすれば、気泡の崩壊時定数τを短くなることを見出した。ここで、製鋼時には副原料としてCaOを入れるので、その割合1.0を補正して補正グラフ112により、改質褐炭ブリケットのCaO/SiO
2の値12が0.3以上、望ましくは0.5以上であればよいことが判った。