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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007720
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】改質硫化物固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20240112BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240112BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20240112BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20240112BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01M10/0562
C01B25/14
H01G11/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108983
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓明
(72)【発明者】
【氏名】柴田 誠之
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
【Fターム(参考)】
5E078DA11
5E078DA18
5H029AJ14
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】ペーストとして塗工する際の塗工適性に優れ、リチウムイオン電池への使用に適した改質硫化物固体電解質を効率的に提供することである。
【解決手段】リチウム原子、硫黄原子及びリン原子を含む原料含有物と、錯化剤と、を混合して電解質前駆体を得ること、前記電解質前駆体を加熱して硫化物固体電解質を得ること、及び前記硫化物固体電解質を、ケーシングと、前記ケーシングを長手方向に貫通するように配され、軸方向に沿ってパドルが設けられた、少なくとも1本の回転軸と、を備える混練機を用いて混練すること、を含む改質硫化物固体電解質の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム原子、硫黄原子及びリン原子を含む原料含有物と、錯化剤と、を混合して電解質前駆体を得ること、
前記電解質前駆体を加熱して硫化物固体電解質を得ること、及び
前記硫化物固体電解質を、ケーシングと、前記ケーシングを長手方向に貫通するように配され、軸方向に沿ってパドルが設けられた、少なくとも1本の回転軸と、を備える混練機を用いて混練すること、
を含む改質硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記混練機が、前記回転軸を2本以上備えるものである請求項1に記載の改質硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記混練機が、リバーススクリューを有する請求項1又は2に記載の改質硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記原料含有物が、硫化リチウム及び硫化リンを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の改質硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記原料含有物が、さらにハロゲン原子を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の改質硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記原料含有物が、ハロゲン化リチウム及びハロゲン単体から選ばれる少なくとも一種を含む請求項5に記載の改質硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記ハロゲン原子が、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも一種の原子である請求項5又は6に記載の改質硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記錯化剤が、ヘテロ原子を含む化合物である請求項1~7のいずれか1項に記載の改質硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項9】
前記ヘテロ原子が、窒素原子及び酸素原子から選ばれる少なくとも一種の原子である請求項8に記載の改質硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項10】
前記錯化剤が、分子中に少なくとも二つの第三級アミノ基を有する化合物である請求項1~9のいずれか1項に記載の改質硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項11】
前記化合物が、脂肪族アミンである請求項10に記載の改質硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項12】
前記脂肪族アミンが、テトラメチルエチレンジアミン及びテトラメチルジアミノプロパンから選ばれる少なくとも一種である請求項11に記載の改質硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項13】
前記改質硫化物固体電解質が、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の改質硫化物固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質硫化物固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。従来、このような用途に用いられる電池において可燃性の有機溶媒を含む電解液が用いられていたが、電池を全固体化することで、電池内に可燃性の有機溶媒を用いず、安全装置の簡素化が図れ、製造コスト、生産性に優れることから、電解液を固体電解質層に換えた全固体電池の開発が行われている。
【0003】
固体電解質層に用いられる固体電解質の製造方法としては、固相法と液相法とに大別され、さらに液相法には、固体電解質材料を溶媒に完全に溶解させる均一法と、固体電解質材料を完全に溶解させず固液共存の懸濁液を経る不均一法とがある。例えば、液相法のうち、均一法としては、固体電解質を溶媒に溶解して再析出させる方法が知られ(例えば、特許文献1参照)、また不均一法としては、極性非プロトン性溶媒を含む溶媒中で硫化リチウム等の固体電解質原料を反応させる方法(例えば、特許文献2及び3、非特許文献1参照)、原料とアミノ基を有する特定の化合物とを混合することを含む固体電解質の製造方法(例えば、特許文献4参照)も知られている。
【0004】
特許文献5には、硫化物固体電解質の正極材、負極材及び電解質への使用に際して、所望の粒径等のモルフォロジーへの調整に着目して、解砕及び造粒から選ばれる少なくとも一の機械的処理を行うことで、モルフォロジーを調整しやすい硫化物固体電解質及びその処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-191899号公報
【特許文献2】国際公開第2014/192309号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2018/054709号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2020/105737号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2020/105736号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“CHEMISTRY OF MATERIALS”、2017年、第29号、1830-1835頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、ペーストとして塗工する際の塗工適性に優れ、リチウムイオン電池への使用に適した改質硫化物固体電解質を効率的に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、硫黄原子及びリン原子を含む原料含有物と、錯化剤と、を混合して電解質前駆体を得ること、
前記電解質前駆体を加熱して硫化物固体電解質を得ること、及び
前記硫化物固体電解質を、ケーシングと、前記ケーシングを長手方向に貫通するように配され、軸方向に沿ってパドルが設けられた、少なくとも1本の回転軸と、を備える混練機を用いて混練すること、
を含む改質硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ペーストとして塗工する際の塗工適性に優れ、リチウムイオン電池への使用に適した改質硫化物固体電解質を効率的に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の製造方法で用いられる多軸混練機の断面の模式図である。
図2】本実施形態の製造方法で用いられる多軸混練機の断面の模式図である。
図3】実施例及び比較例における積算動力と比表面積との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について説明する。なお、本明細書において、「以上」、「以下」、「~」の数値範囲に係る上限及び下限の数値は任意に組み合わせできる数値であり、また実施例の数値を上限及び下限の数値として用いることもできる。また、好ましいとされている規定は任意に採用することができる。即ち、好ましいとされている一の規定を、好ましいとされている他の一又は複数の規定と組み合わせて採用することができる。好ましいもの同士の組み合わせはより好ましいといえる。
【0012】
(本発明に至るために本発明者らが得た知見)
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の事項を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
これまで、固体電解質自体の性能の向上に着目した開発が行われてきた。しかし近年、全固体電池の実用化に向けて量産化が進む中、固体電解質を全固体電池に使用する際の性能の発現のしやすさが着目されるようになっている。固体電解質は、リチウムイオン電池の正極、負極及び電解質層に用いられるが、これらの用途に応じた最適な粒径、比表面積等のモルフォロジーの制御が着目されるようになっている。
【0014】
リチウムイオン電池の正極、負極及び電解質層の形成は、固体電解質をペースト状にして塗布して行うことが一般的である。そのため、固体電解質の比表面積が大きいと、ペーストの粘度が高くなり、塗工適性が著しく低下するといった製造上の問題が生じやすくなる。この場合、溶媒を多量に用いてペーストの粘度を低くすることで、ペーストの塗工適性を向上させることは可能であるが、乾燥時間が長くなる、層を構成する固体電解質の密度の低下により電池性能が低下する、といった問題が発生する。
このように、イオン伝導度のような固体電解質自体の性能に優れていても、全固体電池に使用する場合に、電池性能が低下してしまうことがある。よって、固体電解質自体の性能に優れていることはもちろんのこと、用途に応じた最適なモルフォロジーに制御された固体電解質が求められるようになっている。
【0015】
特許文献1~4のように、イオン伝導度、電池性能の向上を課題とする固体電解質については、多数の研究がされてきた。しかし、これらの文献では、リチウムイオン電池の実用化が急速に進みつつある状況下、量産化に着目して、ペーストの塗工適性といった製造過程における性能を向上させる手法について何ら検討されていない。
また、特許文献5では、用途に応じた最適なモルフォロジーの調整についての検討が行われている。しかし、特許文献5に記載される方法では、例えば小さい比表面積を要望される用途に対応する際に、消費エネルギー(「消費電力」とも称し得る。)の低減について改善の余地がある。
【0016】
そこで本発明者らは、モルフォロジーの制御を行う際に用いる機器として、ケーシングと、前記ケーシングを長手方向に貫通するように配され、軸方向に沿ってパドルが設けられた、少なくとも1本の回転軸とを備える混練機(以下、単に「混練機」とも称する。)に着目した。混練機は、通常異なる材料同士に対して、混ぜる、練る、つぶす、つく等の機械的処理を同時に行うことで、均一に混ざった材料を作るために用いられる機器である。混練機が通常異なる材料同士に対して用いられることは、例えば固体電解質原料同士の混練による反応(例えば、特開2018-101593号公報等参照)、また電子伝導性物質(固体電解質に該当する。)及び活物質等との混合(例えば、特開2016-213184号公報等参照)に用いられていることからも分かる。
【0017】
これに対して、本発明者らは、固体電解質という単一の材料を混練機に供給したところ、ビーズミル等の粉砕機を用いてモルフォロジーの制御を行った場合に比べて、低エネルギーでモルフォロジーの制御を行うことができることを見出した。そして、とりわけ比表面積を小さくする場合に、消費エネルギーの低減効果が顕著であることを見出した。
【0018】
ところで、近年の全固体電池の実用化に向けて、汎用性及び応用性に加えて、簡便かつ大量に合成できる方法として、液相法が注目されるようになっている。液相法の中でも、現在開発を進めている、錯化剤と固体電解質原料とを反応させる液相法(不均一法)による硫化物固体電解質の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、比表面積が大きくなる傾向があることが分かってきた。そのため、本発明者らは、混練機を用いてモルフォロジーの制御を行うこと、特に比表面積を小さくするために混練機を用いることは、錯化剤と固体電解質原料とを反応させる液相法(不均一法)による硫化物固体電解質の製造方法による、より効率的な硫化物固体電解質の提供にあたり、極めて有効ではないかと考えた。
【0019】
以上の知見に基づき、錯化剤と固体電解質原料とを反応させる液相法(不均一法)により得られる硫化物固体電解質を、混練機を用いて混練することで、液相法を採用しながら、ペーストとして塗工する際の塗工適性に優れ、リチウムイオン電池への使用に適した改質硫化物固体電解質を効率的に得られることを見出すに至った。
【0020】
(本実施形態の各種形態について)
本実施形態の第一の形態に係る改質硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、硫黄原子及びリン原子を含む原料含有物と、錯化剤と、を混合して電解質前駆体を得ること、
前記電解質前駆体を加熱して硫化物固体電解質を得ること、及び
前記硫化物固体電解質を、ケーシングと、前記ケーシングを長手方向に貫通するように配され、軸方向に沿ってパドルが設けられた、少なくとも1本の回転軸と、を備える混練機を用いて混練すること、
を含む改質硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【0021】
本実施形態の改質硫化物固体電解質の製造方法において用いられる硫化物固体電解質は、錯化剤と固体電解質原料とを反応させる液相法(不均一法)により得られるものである。
錯化剤と固体電解質原料とを混合することで、電解質前駆体が得られる。電解質前駆体は、本実施形態の製造方法で得られる硫化物固体電解質の前駆体であり、錯化剤を除去することにより硫化物固体電解質となり得るもののことである。ここで、錯化剤は、錯化する剤、すなわち錯体を形成し得る剤のことであり、原料含有物に含まれる固体電解質原料と錯体を形成しやすい化合物のことを意味する。よって、電解質前駆体は、原料含有物と錯化剤とを混合することで得られるものであることから、より具体的には固体電解質原料が錯化剤を介して形成した錯体であるといえる。
【0022】
本実施形態の製造方法で用いられる硫化物固体電解質は、錯化剤と固体電解質原料とを反応させる液相法(不均一法)を採用することから、既述のように、比表面積が大きいものとなる。これを、混練機を用いて混練することで、比表面積を小さくすることができるので、ペーストとして塗工する際に、ペーストの粘性挙動としてチキソ性の増大が抑制される。そのため、本実施形態の製造方法により得られる改質硫化物固体電解質は、ペーストとして塗工する際の塗工適性に優れたものとなり、リチウムイオン電池への使用に適したものとなる。
【0023】
比表面積を小さくする場合に、ボールミル、ビーズミル等の粉砕機に比べて混練機を用いた方が消費エネルギーを格段に低減できる理由については不明であるが、以下のことが考えられる。
ボールミル、ビーズミル等の粉砕機は、ボール、ビーズといった媒体と、硫化物固体電解質の粉末と、が衝突等を繰り返すことで、硫化物固体電解質の粉末の造粒が進行する等の理由により、比表面積が小さくなるものと考えられる。その際、ボール、ビーズ等の媒体は粉砕室の容積に対して通常50~80容量%で充填されるため、20~50容量%のスペースが生じることになる。そのため、媒体と硫化物固体電解質の粉末との衝突の頻度は高いとはいえない。
【0024】
他方、混練機の場合は、ケーシング内を硫化物固体電解質の粉末のみが密の状態で充填されるため、スペースはほとんど存在しない。その結果、極めて効率よく硫化物固体電解質の粉末同士が衝突(接触)することとなるので、硫化物固体電解質の粉末の造粒が進行しやすくなる等の理由により、効率的に比表面積が小さくなるものと考えられる。
かくして、本実施形態の改質硫化物固体電解質の製造方法によれば、液相法を採用しながら、ペーストとして塗工する際の塗工適性に優れ、リチウムイオン電池への使用に適した改質硫化物固体電解質を効率的に提供することが可能になると考えられる。
【0025】
本実施形態の第二の形態に係る改質硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一の形態において、
前記混練機が、前記回転軸を2本以上備えるものである、
というものである。
【0026】
本実施形態の製造方法において、混練機としては、少なくとも1本の回転軸を備える混練機であれば特に制限なく用いることが可能である、すなわち1本の回転軸を備える単軸混練機を用いることもできるし、2本以上の回転軸を備える多軸混練機を用いることもできる。より効率的に改質硫化物固体電解質を提供する観点から、多軸混練機が好ましいことを規定するものである。
【0027】
本実施形態の第三の形態に係る改質硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一又は第二の形態において、
前記混練機が、リバーススクリューを有する、
というものである。
【0028】
少なくとも1本の回転軸は、供給口からケーシング内に供給される硫化物固体電解質を排出口に送る、送り力を発現するフォワードスクリューを有するフォワード部を好ましく有する。これに対して、当該排出口から供給口に戻す力を発現するリバーススクリューを有するリバース部を有することが好ましい。リバーススクリューを有すると、混練機の排出口近傍の硫化物固体電解質を供給口側に戻すことで、ケーシング内の硫化物固体電解質を充満させることができ、またケーシング内における硫化物固体電解質の滞留を抑制することもできる。その結果、より効率的に、塗工適性に優れ、リチウムイオン電池への使用に適した改質硫化物固体電解質が得られる。
【0029】
本実施形態の第四の形態に係る改質硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第三の形態において、
前記原料含有物が、硫化リチウム及び硫化リンを含む、
というものである。
このような固体電解質原料を含む原料含有物を採用することで、より効率的に改質硫化物固体電解質を製造することが可能となる。
【0030】
本実施形態の第五の形態に係る改質硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第四の形態において、
前記原料含有物が、さらにハロゲン原子を含む、
というものである。また、本実施形態の第六の形態に係る改質硫化物固体電解質の製造方法は、上記第五の形態において、
前記原料含有物が、ハロゲン化リチウム及びハロゲン単体から選ばれる少なくとも一種を含む、
というものである。
【0031】
原料含有物がハロゲン原子を含むことで、得られる改質硫化物固体電解質にハロゲン原子が含まれることとなる。ハロゲン原子を含む硫化物固体電解質は、含まない硫化物固体電解質に比べてイオン伝導度が高くなる。よって、ハロゲン原子を含むことで、より高いイオン伝導度を有する改質硫化物固体電解質を製造することが可能となる。
また、ハロゲン原子を含む固体電解質原料として、ハロゲン化リチウムは取扱いが容易である。
【0032】
本実施形態の第七の形態に係る改質硫化物固体電解質の製造方法は、上記第五又は第六の形態において、
前記ハロゲン原子が、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも一種の原子である、
というものである。
ハロゲン原子の中でも、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子は、イオン伝導度の向上に有効である。
【0033】
本実施形態の第八の形態に係る改質硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第七の形態において、
前記錯化剤が、ヘテロ原子を含む化合物である、
というものであり、本実施形態の第九の形態に係る改質硫化物固体電解質の製造方法は、上記第八の形態において、
前記ヘテロ原子が、窒素原子及び酸素原子から選ばれる少なくとも一種の原子である、
というものであり、本実施形態の第十の形態に係る改質硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第九の形態において、
前記化合物が、脂肪族アミンである、
というものである。
【0034】
また、本実施形態の第十一の形態に係る改質硫化物固体電解質の製造方法は、上記第十の形態において、
前記錯化剤が、分子中に少なくとも二つの第三級アミノ基を有する化合物である、
というものであり、本実施形態の第十二の形態に係る改質硫化物固体電解質の製造方法は、上記第十一の形態において、
前記脂肪族アミンが、テトラメチルエチレンジアミン及びテトラメチルジアミノプロパンから選ばれる少なくとも一種である、
というものである。
【0035】
錯化剤は、既述のように原料含有物に含まれる固体電解質原料と錯体を形成するという性質を有する溶媒である。錯化剤は、後述するように、ヘテロ原子を有する化合物は固体電解質原料と錯体を形成するという性質を有しやすく、錯化剤として好ましい化合物である。中でも、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子を含む化合物であると、より錯体を形成しやすくなるだけでなく、錯体の形成において取り込まれにくいハロゲン原子が取り込まれやすくなり、固体電解質原料の分散状態が均一に保たれやすくなる。そのため、より高いイオン伝導度が得られやすくなる。
【0036】
また、この錯化剤を用いることによる効果は、ヘテロ原子として窒素原子を含む化合物として、窒素原子をアミノ基として有するアミン化合物、中でも脂肪族アミン、特にテトラメチルエチレンジアミン及びテトラメチルジアミノプロパンを用いることで得られやすくなる。ヘテロ原子として窒素原子を含む化合物は、さらに電解質前駆体から分離しやすく、除去しやすいという性質をも有する。よって、イオン伝導度が高い硫化物固体電解質をより容易に製造することが可能となる。
【0037】
本実施形態の第十三の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第十二の形態において、
前記改質硫化物固体電解質が、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する、
というものである。
【0038】
本実施形態の製造方法において、原料含有物に含まれる固体電解質原料の種類及び配合比をかえることで、所望の硫化物固体電解質を製造することが可能である。チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質は、イオン伝導度が極めて高い硫化物固体電解質として知られており、本実施形態の製造方法により得ようとする改質硫化物固体電解質として好ましいものである。
【0039】
(固体電解質)
本明細書において、「固体電解質」とは、窒素雰囲気下25℃で固体を維持する電解質を意味する。本実施形態における固体電解質は、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含み、リチウム原子に起因するイオン伝導度を有する固体電解質である。
【0040】
「固体電解質」には、非晶性固体電解質と、結晶性固体電解質と、の両方が含まれる。
本明細書において、結晶性固体電解質とは、X線回折測定におけるX線回折パターンにおいて、固体電解質由来のピークが観測される固体電解質であって、これらにおいての固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものである。すなわち、結晶性固体電解質は、固体電解質に由来する結晶構造を含み、その一部が該固体電解質に由来する結晶構造であっても、その全部が該固体電解質に由来する結晶構造であってもよい。そして、結晶性固体電解質は、上記のようなX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶性固体電解質が含まれていてもよい。したがって、結晶性固体電解質には、非晶質固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスが含まれる。
また、本明細書において、非晶性固体電解質とは、X線回折測定におけるX線回折パターンにおいて、材料由来のピーク以外のピークが実質的に観測されないハローパターンであるもののことであり、固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものである。
【0041】
[硫化物固体電解質の製造方法]
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、硫黄原子及びリン原子を含む原料含有物と、錯化剤と、を混合して電解質前駆体を得ること、
前記電解質前駆体を加熱して硫化物固体電解質を得ること、及び
前記硫化物固体電解質を、ケーシングと、前記ケーシングを長手方向に貫通するように配され、軸方向に沿ってパドルが設けられた、少なくとも1本の回転軸と、を備える混練機を用いて混練すること、
を含む改質硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【0042】
〔電解質前駆体を得ること〕
本実施形態の製造方法は、リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、錯化剤とを混合して、電解質前駆体を得ること、を含む。
本実施形態の製造方法について、まず原料含有物から説明する。
【0043】
(原料含有物)
本実施形態で用いられる原料含有物は、リチウム原子、硫黄原子及びリン原子を含むものであり、また好ましくはハロゲン原子も含むものであり、より具体的にはこれらの原子からなる群より選ばれる1種以上を含む化合物(以下、「固体電解質原料」とも称する。)を含む含有物である。本実施形態で用いられる原料含有物は、固体電解質原料を2種以上含有するものであることが好ましい。
【0044】
原料含有物に含まれる固体電解質原料としては、例えば硫化リチウム;フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム;三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン;各種フッ化リン(PF、PF)、各種塩化リン(PCl、PCl、PCl)、各種臭化リン(PBr、PBr)、各種ヨウ化リン(PI、P)等のハロゲン化リン;フッ化チオホスホリル(PSF)、塩化チオホスホリル(PSCl)、臭化チオホスホリル(PSBr)、ヨウ化チオホスホリル(PSI)、二塩化フッ化チオホスホリル(PSClF)、二臭化フッ化チオホスホリル(PSBrF)等のハロゲン化チオホスホリル;などの上記四種の原子から選ばれる少なくとも二種の原子からなる原料、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン単体、好ましくは臭素(Br)、ヨウ素(I)が代表的に挙げられる。
【0045】
上記以外の固体電解質原料として用い得るものとしては、例えば、上記四種の原子から選ばれる少なくとも一種の原子を含み、かつ該四種の原子以外の原子を含む固体電解質原料、より具体的には、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物;硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の硫化アルカリ金属;硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム、硫化ホウ素、硫化ガリウム、硫化スズ(SnS、SnS)、硫化アルミニウム、硫化亜鉛等の硫化金属;リン酸ナトリウム、リン酸リチウム等のリン酸化合物;ヨウ化ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等のハロゲン化ナトリウム等のリチウム以外のアルカリ金属のハロゲン化物;ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ケイ素、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化セレン、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化テルル、ハロゲン化ビスマス等のハロゲン化金属;オキシ塩化リン(POCl)、オキシ臭化リン(POBr)等のオキシハロゲン化リン;などが挙げられる。
【0046】
上記の中でも、リチウム原子、硫黄原子及びリン原子を含む固体電解質原料としては、硫化リチウム、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リンが好ましく、硫化リンの中でも五硫化二リンが好ましい。また、酸素原子を固体電解質に導入する場合、酸化リチウム、水酸化リチウム及びリン酸リチウム等のリン酸化合物が好ましい。
【0047】
また、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子がより好ましく、固体電解質原料としては、これらのハロゲン原子を含むものが挙げられる。ハロゲン原子としては、これらのハロゲン原子を単独で、又は複数種を組み合わせて用いられてもよく、複数種を組み合わせて用いられることが好ましい。
ハロゲン原子を含む固体電解質原料としては、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン単体、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウムが好ましく上げられる。
【0048】
固体電解質原料の組み合わせとしては、例えば、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムの組み合わせ、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン単体の組み合わせが好ましく挙げられ、ハロゲン化リチウムとしては演歌リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムが好ましく、ハロゲン単体としては塩素、臭素及びヨウ素が好ましい。
【0049】
本実施形態においては、PS構造を含むLiPSを原料の一部として用いることもできる。具体的には、先にLiPSを製造する等して用意し、これを原料として使用する。
原料の合計に対するLiPSの含有量は、60~100mol%が好ましく、65~90mol%がより好ましく、70~80mol%が更に好ましい
【0050】
また、LiPSとハロゲン単体とを用いる場合、LiPSに対するハロゲン単体の含有量は、1~50mol%が好ましく、10~40mol%がより好ましく、20~30mol%が更に好ましく、22~28mol%が更により好ましい。
【0051】
本実施形態で用いられる硫化リチウムは、粒子であることが好ましい。
硫化リチウム粒子の平均粒径(D50)は、0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.5μm以上100μm以下であることがより好ましく、1μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。本明細書において、平均粒径(D50)は、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%(体積基準)に達するところの粒子径であり、体積分布は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる平均粒径のことである。また、上記の原料として例示したもののうち固体の原料については、上記硫化リチウム粒子と同じ程度の平均粒径を有するものが好ましい、すなわち上記硫化リチウム粒子の平均粒径と同じ範囲内にあるものが好ましい。
【0052】
固体電解質原料として、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムを用いる場合、硫化リチウム及び五硫化二リンの合計に対する硫化リチウムの割合は、より高い化学的安定性及びより高いイオン伝導度を得る観点から、70~80mol%が好ましく、72~78mol%がより好ましく、74~78mol%が更に好ましい。
硫化リチウム、五硫化二リン、ハロゲン化リチウム及び必要に応じて用いられる他の固体電解質原料を用いる場合、これらの合計に対する硫化リチウム及び五硫化二リンの含有量は、50~100mol%が好ましく、55~85mol%がより好ましく、60~80mol%が更に好ましい。
また、ハロゲン化リチウムとして、臭化リチウムとヨウ化リチウムとを組み合わせて用いる場合、イオン伝導度を向上させる観点から、臭化リチウム及びヨウ化リチウムの合計に対する臭化リチウムの割合は、1~99mol%が好ましく、20~80mol%がより好ましく、30~70mol%が更に好ましく、40~60mol%が特に好ましい。
【0053】
固体電解質原料としてハロゲン単体を用いる場合であって、硫化リチウム、五硫化二リンを用いる場合、ハロゲン単体のモル数と同モル数の硫化リチウムを除いた硫化リチウム及び五硫化二リンの合計モル数に対する、ハロゲン単体のモル数と同モル数の硫化リチウムとを除いた硫化リチウムのモル数の割合は、60~90%の範囲内であることが好ましく、65~85%の範囲内であることがより好ましく、68~82%の範囲内であることが更に好ましく、72~78%の範囲内であることが更により好ましく、73~77%の範囲内であることが特に好ましい。これらの割合であれば、より高いイオン伝導度が得られるからである。
また、これと同様の観点から、硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体とを用いる場合、硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体との合計量に対するハロゲン単体の含有量は、1~50mol%が好ましく、2~40mol%がより好ましく、3~25mol%が更に好ましく、3~15mol%が更により好ましい。
【0054】
硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体とハロゲン化リチウムとを用いる場合には、これらの合計量に対するハロゲン単体の含有量(αmol%)、及びハロゲン化リチウムの含有量(βmol%)は、下記式(2)を満たすことが好ましく、下記式(3)を満たすことがより好ましく、下記式(4)を満たすことが更に好ましく、下記式(5)を満たすことが更により好ましい。
2≦2α+β≦100…(2)
4≦2α+β≦80 …(3)
6≦2α+β≦50 …(4)
6≦2α+β≦30 …(5)
【0055】
二種のハロゲンを単体として用いる場合には、一方のハロゲン原子の物質中のモル数をA1とし、もう一方のハロゲン原子の物質中のモル数をA2とすると、A1:A2が1~99:99~1が好ましく、10:90~90:10であることがより好ましく、20:80~80:20が更に好ましく、30:70~70:30が更により好ましい。
【0056】
また、二種のハロゲン単体が、臭素とヨウ素である場合、臭素のモル数をB1とし、ヨウ素のモル数をB2とすると、B1:B2が1~99:99~1が好ましく、15:85~90:10であることがより好ましく、20:80~80:20が更に好ましく、30:70~75:25が更により好ましく、35:65~75:25が特に好ましい。
【0057】
(錯化剤)
錯化剤は、既述のように、原料含有物に含まれる固体電解質原料と錯体を形成しやすい化合物であり、例えば固体電解質原料として好ましく用いられる硫化リチウム、五硫化二リン、またこれらを用いた場合に得られるLiPS、更にハロゲン原子を含む固体電解質原料(以下、これらをまとめて「固体電解質原料等」とも称する。)と錯体を形成可能な化合物である。
【0058】
錯化剤としては、上記の性状を有するものであれば特に制限なく用いることができ、特にリチウム原子との親和性が高い原子、例えば窒素原子、酸素原子、塩素原子等のヘテロ原子を含む化合物が好ましく、これらのヘテロ原子を含む基を有する化合物がより好ましく挙げられる。これらのヘテロ原子、該へテロ原子を含む基は、リチウムと配位(結合)し得るからである。
【0059】
錯化剤の分子中に存在するヘテロ原子はリチウム原子との親和性が高く、固体電解質原料等と結合して錯体(以下、単に「錯体」とも称する。)を形成しやすい性状を有するものになると考えられる。そのため、上記固体電解質原料と、錯化剤とを混合することにより錯体が形成し、固体電解質原料の分散状態、とりわけハロゲン原子の分散状態が均一に保たれやすくなるので、結果としてイオン伝導度が高い硫化物固体電解質が得られるものと考えられる。
【0060】
錯化剤が、固体電解質原料等と錯体を形成可能であることについては、例えばFT-IR分析(拡散反射法)により測定される赤外線吸収スペクトルよって、直接的に確認することができる。
錯化剤として、好ましい錯化剤の一つであるテトラメチルエチレンジアミン(以下、単に「TMEDA」とも称する。)とヨウ化リチウム(LiI)とを撹拌して得られた粉末、及び錯化剤自体についてFT-IR分析(拡散反射法)により分析すると、TMEDA自体のスペクトルと、特に1000~1250cm-1におけるC-N伸縮振動に由来するピークにおいて異なるものとなる。また、TMEDAとヨウ化リチウムとを撹拌、混合することでLiI-TMEDA錯体を形成することが知られていること(例えば、Aust.J.Chem.,1988,41,1925-34の特にFig.2等)等を考慮しても、LiI-TMEDA錯体が形成しているものと考えることは妥当である。
【0061】
また、例えば錯化剤(TMEDA)と、LiPSとを撹拌して得られた粉末についても、上記と同様にFT-IR分析(拡散反射法)により分析すると、TMEDA自体のスペクトルとは、1000~1250cm-1におけるC-N伸縮振動に由来するピークにおいて異なるものであることが確認できる一方で、LiI-TMEDA錯体のスペクトルとは類似していることも確認できる。このことから、LiPS-TMEDA錯体が形成しているものと考えてもよい。
そして、本実施形態の製造方法では、原料含有物と錯化剤とを混合して得られるこれらの錯体を電解質前駆体とし、これを加熱して電解質前駆体の粉末から錯化剤を除去することで、硫化物固体電解質を製造するのである。
【0062】
錯化剤は、分子中に少なくとも二つの配位(結合)可能なヘテロ原子を有することが好ましく、分子中に少なくとも二つヘテロ原子を含む基を有することがより好ましい。分子中に少なくとも二つのヘテロ原子を含む基を有することで、固体電解質原料等を、分子中の少なくとも二つのヘテロ原子を介して結合させることができる。
【0063】
ヘテロ原子の中でも、酸素原子、窒素原子が好ましく、窒素原子を含むことがより好ましい。
窒素原子を含む基としてはアミノ基が好ましい。すなわち錯化剤としてはアミン化合物が好ましい。
【0064】
アミン化合物としては、分子中にアミノ基を有するものであれば、錯体の形成を促進し得るので特に制限はないが、分子中に少なくとも二つのアミノ基を有する化合物が好ましい。このような構造を有することで、固体電解質原料等を、分子中の少なくとも二つの窒素原子を介して結合させて、錯体を形成することができる。
【0065】
このようなアミン化合物としては、例えば、脂肪族アミン、脂環式アミン、複素環式アミン、芳香族アミン等のアミン化合物が挙げられ、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0066】
より具体的には、脂肪族アミンとしては、エチレンジアミン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン等の脂肪族一級ジアミン;N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチルジアミノプロパン、N,N’-ジエチルジアミノプロパン等の脂肪族二級ジアミン;N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノメタン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノプロパン、N,N,N’,N’-テトラエチルジアミノプロパン、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノブタン、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノペンタン、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノヘキサン等の脂肪族三級ジアミン;などの脂肪族ジアミンが代表的に好ましく挙げられる。ここで、本明細書における例示において、例えばジアミノブタンであれば、特に断りがない限り、1,2-ジアミノブタン、1,3-ジアミノブタン、1,4-ジアミノブタン等のアミノ基の位置に関する異性体の他、ブタンについては直鎖状、分岐状の異性体等の、全ての異性体が含まれるものとする。
【0067】
脂肪族アミンの炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは6以上であり、上限として好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは7以下である。また、脂肪族アミン中の脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは2以上であり、上限として好ましくは6以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。
【0068】
脂環式アミンとしては、シクロプロパンジアミン、シクロヘキサンジアミン等の脂環式一級ジアミン;ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環式二級ジアミン;N,N,N’,N’-テトラメチル-シクロヘキサンジアミン、ビス(エチルメチルアミノ)シクロヘキサン等の脂環式三級ジアミン;などの脂環式ジアミンが代表的に好ましく挙げられ、また、複素環式アミンとしては、イソホロンジアミン等の複素環式一級ジアミン;ピペラジン、ジピペリジルプロパン等の複素環式二級ジアミン;N,N-ジメチルピペラジン、ビスメチルピペリジルプロパン等の複素環式三級ジアミン;などの複素環式ジアミンが代表的に好ましく挙げられる。
脂環式アミン、複素環式アミンの炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは14以下である。
【0069】
また、芳香族アミンとしては、フェニルジアミン、トリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族一級ジアミン;N-メチルフェニレンジアミン、N,N’-ジメチルフェニレンジアミン、N,N’-ビスメチルフェニルフェニレンジアミン、N,N’-ジメチルナフタレンジアミン、N-ナフチルエチレンジアミン等の芳香族二級ジアミン;N,N-ジメチルフェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルフェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラメチルナフタレンジアミン等の芳香族三級ジアミン;などの芳香族ジアミンが代表的に好ましく挙げられる。
芳香族アミンの炭素数は、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは8以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは12以下である。
【0070】
本実施形態で用いられるアミン化合物は、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、水酸基、シアノ基等の置換基、ハロゲン原子により置換されたものであってもよい。
なお、具体例としてジアミンを例示したが、本実施形態で用いられ得るアミン化合物としては、ジアミンに限らないことは言うまでもなく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルジメチルアミン、上記脂肪族ジアミン等の各種ジアミンに対応する脂肪族モノアミン、またピペリジン、メチルピペリジン、テトラメチルピペリジン等のピペリジン化合物、ピリジン、ピコリン等のピリジン化合物、モルホリン、メチルモルホリン、チオモルホリン等のモルホリン化合物、イミダゾール、メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、上記脂環式ジアミンに対応するモノアミン等の脂環式モノアミン、上記複素環式ジアミンに対応する複素環式モノアミン、上記芳香族ジアミンに対応する芳香族モノアミン等のモノアミンの他、例えば、ジエチレントリアミン、N,N’,N’’-トリメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、N,N’-ビス[(ジメチルアミノ)エチル]-N,N’-ジメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のアミノ基を3つ以上有するポリアミンも用いることができる。
【0071】
上記の中でも、窒素原子を含む錯化剤としては、より高いイオン伝導度を得る観点から、脂肪族アミンが好ましい。
また、アミン化合物としては、アミノ基として第三級アミノ基を有する三級アミンであることが好ましく、二つの第三級アミノ基を有する三級ジアミンであることがより好ましく、二つの第三級アミノ基を両末端に有する三級ジアミンが更に好ましく、第三級アミノ基を両末端に有する脂肪族三級ジアミンがより更に好ましい。上記のアミン化合物において、三級アミノ基を両末端に有する脂肪族三級ジアミンとしては、テトラメチルエチレンジアミン、テトラエチルエチレンジアミン、テトラメチルジアミノプロパン、テトラエチルジアミノプロパンが好ましく、入手の容易性等も考慮すると、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルジアミノプロパンが好ましい。
【0072】
また、ヘテロ原子として窒素原子を含む、アミノ基以外の基、例えばニトロ基、アミド基等の基を有する化合物も、これと同様の効果が得られる。
【0073】
本実施形態の製造方法において、錯化剤としてはヘテロ原子として上記の窒素原子を含む化合物の他、酸素原子を含む化合物も好ましい。
酸素原子を含む化合物としては、酸素原子を含む基としてエーテル基及びエステル基から選ばれる1種以上の官能基を有する化合物が好ましく、その中でも特にエーテル基を有する化合物が好ましい。すなわち、酸素原子を含む錯化剤としては、エーテル化合物が特に好ましい。
【0074】
エーテル化合物としては、例えば、脂肪族エーテル、脂環式エーテル、複素環式エーテル、芳香族エーテル等のエーテル化合物が挙げられ、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0075】
より具体的には、脂肪族エーテルとしては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル等のモノエーテル;ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシメタン、ジエトキシエタン等のジエーテル;ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、トリエチレンオキサイドグリコールジメチルエーテル(トリグリム)等のエーテル基を3つ以上有するポリエーテル;またジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の水酸基を含有するエーテル等も挙げられる。
脂肪族エーテルの炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であり、上限として好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。
また、脂肪族エーテル中の脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上であり、上限として好ましくは6以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。
【0076】
脂環式エーテルとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジメトキシテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、ジオキソラン等が挙げられ、また、複素環式エーテルとしては、フラン、ベンゾフラン、ベンゾピラン、ジオキセン、ジオキシン、モルホリン、メトキシインドール、ヒドロキシメチルジメトキシピリジン等が挙げられる。
脂環式エーテル、複素環式エーテルの炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは14以下である。
【0077】
また、芳香族エーテルとしては、メチルフェニルエーテル(アニソール)、エチルフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジフェニルエーテル、ベンジルフェニルエーテル、ナフチルエーテル等が挙げられる。
芳香族エーテルの炭素数は、好ましくは7以上、より好ましくは8以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは12以下である。
【0078】
本実施形態で用いられるエーテル化合物は、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、水酸基、シアノ基等の置換基、ハロゲン原子により置換されたものであってもよい。
【0079】
上記のエーテル化合物の中でも、より高いイオン伝導度を得る観点から、脂肪族エーテルが好ましく、ジメトキシエタン、テトラヒドロフランがより好ましい。
【0080】
エステル化合物としては、例えば、脂肪族エステル、脂環式エステル、複素環式エステル、芳香族エステル等のエステル化合物が挙げられ、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0081】
より具体的には、脂肪族エステルとしては、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸トリエチル等の蟻酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等の酢酸エステル;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル等のプロピオン酸エステル、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル等のシュウ酸エステル;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル等のマロン酸エステル;コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル等のコハク酸エステルが挙げられる。
【0082】
脂肪族エステルの炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であり、上限として好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは7以下である。また、脂肪族エステル中の脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、上限として好ましくは6以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。
【0083】
脂環式エステルとしては、シクロヘキサンカルボン酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸エチル、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルシクロヘキサンジカルボン酸ジブチル、シクロヘキセンジカルボン酸ジブチル等が挙げられ、また、複素環式エステルとしては、ピリジンカルボン酸メチル、ピリジンカルボン酸エチル、ピリジンカルボン酸プロピル、ピリミジンカルボン酸メチル、ピリミジンカルボン酸エチル、またアセトラクトン、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類等が挙げられる。
【0084】
脂環式エステル、複素環式エステルの炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは14以下である。
【0085】
芳香族エステルとしては、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル等の安息香酸エステル;ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のフタル酸エステル;トリメチルトリメリテート、トリエチルトリメリテート、トリプロピルトリメリテート、トリブチルトリメリテート、トリオクチルトリメリテート等のトリメリット酸エステル等が挙げられる。
【0086】
芳香族エステルの炭素数は、好ましくは8以上、より好ましくは9以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは12以下である。
【0087】
本実施形態で用いられるエステル化合物は、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、水酸基、シアノ基等の置換基、ハロゲン原子により置換されたものであってもよい。
【0088】
上記のエステル化合物の中でも、より高いイオン伝導度を得る観点から、脂肪族エステルが好ましく、酢酸エステルがより好ましく、特に酢酸エチルが好ましい。
【0089】
錯化剤の添加量は、錯体を効率的に形成させる観点から、原料含有物に含まれるリチウム原子の合計モル量に対する、錯化剤の添加量のモル比が、好ましくは0.1以上2.0以下であり、より好ましくは0.5以上1.5以下であり、さらに好ましくは0.8以上1.2以下であり、最も好ましくは1.0である。
【0090】
(混合)
本実施形態の製造方法は、上記の固体電解質原料と、錯化剤とを混合する。
本実施形態において、固体電解質原料及び錯化剤を混合する形態は固体状、液状のいずれであってもよいが、固体電解質原料は固体を含んでおり、錯化剤は液状であるため、通常液状の錯化剤中に固体の固体電解質原料が存在する形態で混合する。また、原料と錯化剤を混合する際、必要に応じてさらに溶媒を混合してもよい。以下、原料及び錯化剤の混合について説明する箇所においては、特に断りが無い場合、錯化剤には、必要に応じて用いられる溶媒も含まれるものとする。
【0091】
固体電解質原料と錯化剤とを混合する方法に特段の制限はなく、固体電解質原料及び錯化剤を混合できる装置に、固体電解質原料及び錯化剤を投入して混合すればよい。例えば、錯化剤を槽内に供給し、撹拌翼を作動させた後に、固体電解質原料を徐々に加えていくと、固体電解質原料の良好な混合状態が得られ、原料の分散性が向上するため、好ましい。
ただし、固体電解質原料としてハロゲン単体を用いる場合、固体電解質原料が固体ではない場合があり、具体的には常温常圧下において、フッ素及び塩素は気体、臭素は液体となる。このような場合、例えば固体電解質原料が液体の場合は、他の固体の固体電解質原料とは別に錯化剤とともに槽内に供給すればよく、また固体電解質原料が気体の場合は、錯化剤に固体の固体電解質原料を加えたものに吹き込むように供給すればよい。
【0092】
本実施形態の製造方法は、固体電解質原料と錯化剤とを混合することを含むことを特徴とする。すなわち、固体電解質原料と錯化剤とは混合すれば足り、粉砕までは要しないから、ボールミル、ビーズミル等の媒体式粉砕機等の、一般に粉砕機と称される固体電解質原料の粉砕を目的として用いられる機器を用いない方法でも製造できる。本実施形態の製造方法では、固体電解質原料と錯化剤とを単に混合するだけで、原料含有物に含まれる固体電解質原料と錯化剤とが混合され、錯体、すなわち電解質前駆体が形成し得る。なお、錯体を得るための混合時間を短縮したり、微粉化したりするために、原料と錯化剤との混合物を粉砕機によって粉砕してもよいが、既述のように粉砕機は用いないことが好ましい。
【0093】
固体電解質原料と錯化剤とを混合する装置としては、例えば槽内に撹拌翼を備える機械撹拌式混合機が挙げられる。機械撹拌式混合機は、高速撹拌型混合機、双腕型混合機等が挙げられ、固体電解質原料と錯化剤との混合物中の固体電解質原料の均一性を高め、より高いイオン伝導度を得る観点から、高速撹拌型混合機が好ましく用いられる。また、高速撹拌型混合機としては、垂直軸回転型混合機、水平軸回転型混合機等が挙げられ、どちらのタイプの混合機を用いてもよい。
【0094】
機械撹拌式混合機において用いられる撹拌翼の形状としては、アンカー型、ブレード型、アーム型、リボン型、多段ブレード型、二連アーム型、ショベル型、二軸羽型、フラット羽根型、C型羽根型等が挙げられ、固体電解質原料の均一性を高め、より高いイオン伝導度を得る観点から、ショベル型、フラット羽根型、C型羽根型等が好ましい。また、機械撹拌式混合機においては撹拌対象を混合機外部に排出してから再び混合機内部に戻す循環ラインを設置することが好ましい。これにより、ハロゲン化リチウム等の比重が重い原料が沈降、また滞留することなく撹拌され、より均一な混合が可能となる。
【0095】
循環ラインの設置個所は特に限定されないが、混合機の底から排出して混合機の上部に戻すような箇所に設置されることが好ましい。こうすることで、沈降しやすい固体電解質原料を循環による対流に乗せて均一に撹拌しやすくなる。さらに、戻り口が撹拌対象の液面下に位置していることが好ましい。こうすることで、撹拌対象が液跳ねして混合機内部の壁面に付着することを抑制することができる。
【0096】
固体電解質原料と錯化剤とを混合する際の温度条件としては、特に制限はなく、例えば-30~100℃、好ましくは-10~50℃、より好ましくは室温(23℃)程度(例えば室温±5℃程度)である。また混合時間は、0.1~150時間程度、より均一に混合し、より高いイオン伝導度を得る観点から、好ましくは1~120時間、より好ましくは4~100時間、更に好ましくは8~80時間である。
【0097】
原料含有物と、錯化剤とを混合して、電解質前駆体を得ることにおいて、原料含有物と錯化剤との混合は、段階的に原料含有物を加えて混合してもよいし、段階的に錯化剤を加えて混合してもよい。
例えば、固体電解質原料としてハロゲン単体を用いる場合は、原料含有物を段階的に混合することが好ましく、硫化リチウムと単体ハロゲンとを予め混合して、単体ハロゲンの少なくとも一部をハロゲン化リチウムとし、次いで五硫化二リンを加えて混合するというように、段階的に混合することが好ましい。このようにすることで、副反応を抑えることができるので、反応速度低下の抑制やイオン伝導度の向上が期待できる。この際、錯化剤は、上記と同様の観点から、五硫化二リンを加える際に加えることが好ましい。
【0098】
固体電解質原料と錯化剤とを混合することで、上記の固体電解質原料等と錯化剤とにより錯体が形成する。錯体は、より具体的には、固体電解質原料に含まれるリチウム原子、硫黄原子、リン原子、また好ましく用いられるハロゲン原子と錯化剤との作用により、これらの原子が錯化剤を介して及び/又は介さずに直接互いに結合したものと考えられる。すなわち、本実施形態の製造方法において、固体電解質原料と錯化剤とを混合して得られる錯体は、錯化剤、リチウム原子、硫黄原子、リン原子、また好ましく用いられるハロゲン原子により構成されるものともいえる。
本実施形態において得られる錯体は、液体である錯化剤に対して完全に溶解するものではなく、通常、固体であるため、錯化剤及び必要に応じて用いられる溶媒中に錯体が懸濁した懸濁液が得られる。したがって、本実施形態の固体電解質の製造方法は、いわゆる液相法における不均一系に相当する。
【0099】
(溶媒)
本実施形態において、固体電解質原料と錯化剤とを混合する際、さらに溶媒を加えてもよい。
液体である錯化剤中において固体である錯体が形成される際、錯体が錯化剤に溶解しやすいものであると、成分の分離が生じる場合がある。そこで、錯体が溶解しない溶媒を使用することで、電解質前駆体中の成分の溶出を抑えることができる。また、溶媒を用いて固体電解質原料及び錯化剤を混合することで、錯体形成が促進され、各主成分をより満遍なく存在させることができ、固体電解質原料の分散状態、とりわけハロゲン原子の分散状態が均一に保たれた電解質前駆体が得られるので、結果として高いイオン伝導度が得られるという効果が発揮されやすくなる。
【0100】
本実施形態の固体電解質の製造方法は、いわゆる不均一法であり、錯体は、液体である錯化剤に対して完全に溶解せず析出することが好ましい。溶媒を加えることによって錯体の溶解性を調整することができる。特にハロゲン原子は錯体から溶出しやすいため、溶媒を加えることによってハロゲン原子の溶出を抑えて所望の錯体が得られる。その結果、固体電解質原料、とりわけハロゲン原子を含む固体電解質原料等の成分が均一に分散した電解質前駆体を経て、高いイオン伝導度を有する硫化物固体電解質が得られやすくなる。
【0101】
このような性状を有する溶媒としては、溶解度パラメータが10以下の溶媒が好ましく挙げられる。本明細書において、溶解度パラメータは、各種文献、例えば「化学便覧」(平成16年発行、改定5版、丸善株式会社)等に記載されており、以下の数式(1)により算出される値δ((cal/cm1/2)であり、ヒルデブランドパラメータ、SP値とも称される。
【0102】
【数1】

(数式(1)中、ΔHはモル発熱であり、Rは気体定数であり、Tは温度であり、Vはモル体積である。)
【0103】
溶解度パラメータが10以下の溶媒を用いることにより、上記の錯化剤に比べて相対的に固体電解質原料、中でもハロゲン原子、ハロゲン化リチウム等のハロゲン原子を含む原料、更には錯体を構成するハロゲン原子を含む成分(例えば、ハロゲン化リチウムと錯化剤とが結合した集合体)等が溶解しにくい状態とすることができる。そのため、錯体中において特にハロゲン原子を定着させやすくなり、得られる電解質前駆体、更には固体電解質中に良好な分散状態でハロゲン原子が存在することとなり、高いイオン伝導度を有する固体電解質が得られやすくなる。すなわち、本実施形態で用いられる溶媒は、錯体が溶解しない性質を有することが好ましい。これと同様の観点から、溶媒の溶解度パラメータは、好ましくは9.5以下、より好ましくは9.0以下、更に好ましくは8.5以下である。
【0104】
本実施形態で用いられる溶媒としては、より具体的には、固体電解質の製造において従来用いられてきた溶媒を広く採用することが可能であり、例えば、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等の炭化水素溶媒;アルコール系溶媒、エステル系溶媒、アルデヒド系溶媒、ケトン系溶媒、片側の炭素数が4以上のエーテル系溶媒、炭素原子とヘテロ原子を含む溶媒等の炭素原子含む溶媒;等が挙げられ、これらの中から、好ましくは溶解度パラメータが上記範囲であるものから、適宜選択して用いればよい。
【0105】
より具体的には、ヘキサン(7.3)、ペンタン(7.0)、2-エチルヘキサン、ヘプタン(7.4)、オクタン(7.5)、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン(8.2)、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン(8.8)、キシレン(8.8)、メシチレン、エチルベンゼン(8.8)、tert-ブチルベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン(9.5)、クロロトルエン(8.8)、ブロモベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;エタノール(12.7)、ブタノール(11.4)等のアルコール系溶媒;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド(10.3)、ジメチルホルムアミド(12.1)等のアルデヒド系溶媒、アセトン(9.9)、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(8.4)、tert-ブチルメチルエーテル、アニソール等のエーテル系溶媒;アセトニトリル(11.9)、ジメチルスルホキシド、二硫化炭素等の炭素原子とヘテロ原子を含む溶媒等が挙げられる。なお、上記例示における括弧内の数値はSP値である。
また、上記例示はあくまで一例であり、例えば異性体を有するものは全ての異性体も含み得る。また、ハロゲン原子で置換されたもの、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒であれば、例えばアルキル基等の脂肪族基等で置換されたもの等も含み得る。
【0106】
これらの溶媒の中でも、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、エーテル系溶媒が好ましく、より安定して高いイオン伝導度を得る観点から、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、アニソールがより好ましく、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテルが更に好ましく、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテルがより更に好ましく、特にシクロヘキサンが好ましい。本実施形態で用いられる溶媒は、好ましくは上記例示した有機溶媒であり、上記の錯化剤と異なる有機溶媒である。本実施形態においては、これらの溶媒を単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0107】
〔加熱して硫化物固体電解質を得ること〕
本実施形態の製造方法は、上記の電解質前駆体を得ることの後、前記電解質前駆体を加熱して硫化物固体電解質を得ることを含む。電解質前駆体は、硫化物固体電解質の前駆体であり、錯化剤を除去することにより硫化物固体電解質となり得るものである。錯化剤の除去は、電解質前駆体の加熱により行われる。
また、本実施形態の製造方法において、加熱することにおける加熱温度の調整により、結晶化することもでき、硫化物固体電解質を結晶性硫化物固体電解質とすることもできる。
【0108】
既述のように、加熱することには、電解質前駆体から錯化剤を除去するための加熱、結晶化するための加熱の二種の加熱がある。本実施形態の製造方法は、電解質前駆体から錯化剤を除去するための加熱を含むことを要する。硫化物固体電解質が得られないからである。他方、結晶化するための加熱は、結晶性硫化物固体電解質が所望される場合に行えばよい加熱である。
【0109】
これらの加熱の両方を行う場合、別々に行ってもよいし、同時に行うこともできる。より安定的に、塗工適性に優れ、リチウムイオン電池への使用に適した改質硫化物固体電解質を製造するためには、別々に加熱することが好ましい。ここで、同時に行うこととは、結晶化するための加熱を行うことを意味する。結晶化するための加熱温度は、錯化剤を除去するための加熱温度よりも高いため、結晶化するための加熱温度で加熱することで、錯化剤の除去も同時に行われるからである。
まず、錯化剤の除去のための加熱について説明する。
【0110】
(錯化剤の除去のための加熱)
本実施形態の製造方法は、電解質前駆体を加熱することにおける加熱として、少なくとも錯化剤の除去のための加熱を行うことを要する。電解質前駆体から錯化剤を除去することで、硫化物固体電解質が得られる。
【0111】
錯化剤の除去のための加熱の加熱温度は、錯化剤の除去ができれば特に制限はなく、非晶性硫化物固体電解質が得られる温度とすればよい。非晶性硫化物固体電解質が得られる温度は、非晶性硫化物固体電解質(又は電解質前駆体)を加熱して得られる結晶性硫化物固体電解質の構造に応じて加熱温度を決定すればよく、具体的には、非晶性硫化物固体電解質(又は電解質前駆体)を、示差熱分析装置(DTA装置)を用いて、10℃/分の昇温条件で示差熱分析(DTA)を行い、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップの温度を起点に、好ましくは5℃以下、より好ましくは10℃以下、更に好ましくは20℃以下の範囲とすればよく、下限としては錯化剤の沸点以上であれば特に制限はなく、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップの温度-40℃以上程度とすればよい。このような温度範囲とすることで、より効率的かつ確実に電解質前駆体から錯化剤が除去され、非晶性硫化物固体電解質が得られる。
【0112】
錯化剤を除去するための加熱の加熱温度としては、得られる結晶性硫化物固体電解質の構造に応じてかわるため一概に規定することはできないが、通常、135℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、125℃以下が更に好ましく、下限としては錯化剤の沸点以上であれば特に制限はなく、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上である。
【0113】
錯化剤を除去するための加熱は、常圧で行うこともできるが、加熱温度を低減するため、減圧雰囲気下、さらには真空雰囲気下で行うこともできる。
圧力条件としては、減圧雰囲気下で加熱する場合は、好ましくは85kPa以下、より好ましくは80kPa以下、更に好ましくは70kPa以下であり、下限としては真空(0KpakPa)でもよく、圧力の調整の容易さを考慮すると、好ましくは1kPa以上、より好ましくは2kPa以上、更に好ましくは3kPa以上である。圧力条件が上記範囲内であると、加熱条件をマイルドにすることができ、装置の大型化を抑制することができる。
【0114】
錯化剤を除去するための加熱の加熱時間は、錯化剤を除去できる時間であれば特に制限されるものではないが、例えば、1分間以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上が更に好ましく、1時間以上がより更に好ましい。また、加熱時間の上限は特に制限されるものではないが、24時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、5時間以下が更に好ましく、3時間以下がより更に好ましい。
【0115】
また、錯化剤を除去するための加熱は、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気)、で行なうことが好ましい。硫化物固体電解質の劣化(例えば、酸化による劣化)を防止できるからである。
【0116】
錯化剤を除去するための加熱の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、ホットプレート、真空加熱装置、アルゴンガス雰囲気炉、焼成炉を用いる方法等を挙げることができる。また、工業的には、加熱手段と送り機構を有する横型乾燥機、横型振動流動乾燥機等を用いることもでき、加熱する処理量に応じて選択すればよい。
上記の機器の他、気流乾燥機、メディア粒子等の媒体を気体により流動させる機構を備える媒体流動乾燥機、スプレー型乾燥機、といったタイプの乾燥機を用いることも可能である。これらの気流を伴う乾燥機を用いると、効率的に平均粒径が小さい硫化物固体電解質が得られる。
【0117】
上記加熱することにより、電解質前駆体から錯化剤を除去することができ、電解質前駆体は非晶性硫化物固体電解質となるが、電解質前駆体から全ての錯化剤が除去されず、結果として非晶性硫化物固体電解質に錯化剤が残存する場合がある。この場合、硫化物固体電解質に含まれる錯化剤の含有量は、0質量%、すなわち錯化剤は全く含まれないことが好ましいが、効率的にイオン伝導度が高い硫化物固体電解質を得る観点から、通常50質量%以下、さらには45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、25質量%以下であり、下限としては0.1質量%以上程度である。
【0118】
また、錯化剤と同様に、溶媒を用いる場合は溶媒も残存し得る。この場合の溶媒の含有量も、上記錯化剤の含有量の数値範囲と同じである。
本明細書において、硫化物固体電解質に含まれる錯化剤、必要に応じて用いられる溶媒の含有量は、実施例等で得られた粉末を、水及びペンタノールの混合液に溶解させたものを、ガスクロマトグラフィー装置(GC)を用いて測定し、錯化剤及び高沸点溶媒を絶対検量線で定量した(GC検量線法)。
【0119】
(結晶化のための加熱)
本実施形態の製造方法は、上記錯化剤の除去のための加熱に続いて、所望に応じて結晶化のための加熱を行ってもよい。上記錯化剤の除去のための加熱により、非晶性硫化物固体電解質が得られる。これを結晶化のための加熱を行うことで、結晶性硫化物固体電解質とすることができる。
【0120】
また、上記の錯化剤の除去のための加熱により得られる非晶性硫化物固体電解質には、錯化剤及び必要に応じて用いられる溶媒が残存し得る。さらに、結晶化のための加熱を行うことにより、非晶性硫化物固体電解質に残存する錯化剤及び溶媒の含有量が低下するため、硫化物固体電解質の品質が向上し、高いイオン伝導度が得られやすくなる。その他、上記錯化剤の除去のための加熱をしても、非晶性硫化物固体電解質とならず、電解質前駆体のまま残存する場合もある。この場合、結晶化のための加熱をすることにより、電解質前駆体から、錯化剤を除去することができ、非晶性硫化物固体電解質を経て結晶性硫化物固体電解質が得られる。
【0121】
結晶化のための加熱の加熱温度は、上記の錯化剤の除去のための加熱温度よりも高い温度とすれば特に制限はなく、例えば、電解質前駆体から錯化剤を除去して得られた非晶性硫化物固体電解質を加熱して得られる結晶性硫化物固体電解質の構造に応じて加熱温度を決定すればよい。
結晶化のための加熱は、錯化剤のための加熱の後、続けて行ってもよいし、錯化剤のための加熱を行った後、別途結晶化のための加熱を行ってもよい。続けて行う場合は、例えば錯化剤のための加熱を行い、続けて加熱温度を結晶化のための加熱に要する加熱温度まで上げて、加熱を行うことができる。
【0122】
結晶化のための加熱の加熱温度は、より具体的には、上記電解質前駆体から錯化剤を除去して得られる非晶性硫化物固体電解質を、示差熱分析装置(DTA装置)を用いて、10℃/分の昇温条件で示差熱分析(DTA)を行い、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップの温度を起点に、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上の範囲とすればよく、上限としては特に制限はないが、40℃以下程度とすればよい。このような温度範囲とすることで、より効率的かつ確実に結晶性硫化物固体電解質が得られるだけでなく、硫化物固体電解質に残存する錯化剤及び必要に応じて用いられる溶媒の含有量を低減することができ、かつ電解質前駆体の含有量を低減することで、硫化物固体電解質の純度を向上させることもできる。
【0123】
結晶化のための加熱の加熱温度としては、得られる結晶性硫化物固体電解質の構造に応じてかわるため一概に規定することはできないが、通常、130℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、150℃以上が更に好ましく、上限としては特に制限はないが、好ましくは300℃以下、より好ましくは280℃以下、更に好ましくは250℃以下である。
【0124】
結晶化のための加熱の加熱時間、圧力条件、不活性ガス雰囲気下で行うこと、加熱方法は、上記錯化剤を除去するための加熱で説明した内容をそのまま適用し得る。
【0125】
(乾燥すること)
本実施形態の製造方法は、加熱することにおいて、上記の電解質前駆体を得ることの後、電解質前駆体を乾燥することを含んでもよい。上記電解質前駆体を得ることにより得られる電解質前駆体は、電解質前駆体の形成に寄与しない錯化剤、必要に応じて用いられる溶媒を伴う流体(通常スラリー状である。)となることがある。この場合、加熱することの前に、予め残存する錯化剤、必要に応じて用いられ溶媒を乾燥することにより除去することができる。
乾燥することは、上記の錯化剤の除去のための加熱の前に行うことが好ましい。事前に乾燥することにより、電解質前駆体からの錯化剤の除去をより速やかに行うことができるため、得られる硫化物固体電解質に含まれる錯化剤の含有量をより低減することができ、イオン伝導度が向上する。
【0126】
乾燥の方法としては、ガラスフィルター等を用いたろ過、デカンテーションによる固液分離、また遠心分離機等を用いた固液分離が挙げられる。固液分離は、具体的には、電解質前駆体、残存する錯化剤及び必要に応じて用いられる溶媒等を含む流体(通常スラリー状である。)を容器に移し、固体が沈殿した後に、上澄みとなる錯化剤及び必要に応じて用いられる溶媒を除去するデカンテーション、また例えばポアサイズが10~200μm程度、好ましくは20~150μmのガラスフィルターを用いたろ過が容易である。
【0127】
また、乾燥機等を用いて、加熱により乾燥することもできる。電解質前駆体含有物の乾燥は、加圧下、常圧下及び減圧下のいずれの圧力条件によって行ってもよく、常圧下又は減圧下で行うことが好ましい。特により低温で乾燥することを考慮すると、真空ポンプ等を用いて減圧下、さらには真空下で乾燥することが好ましい。
乾燥のための温度条件としては、残存する錯化剤、又は必要に応じて用いられる溶媒の沸点以上の温度で行えばよい。使用する錯化剤、溶媒の種類に応じてかわり得るため、具体的な温度条件については一概には言えないが、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上であり、上限として好ましくは110℃以下、より好ましくは85℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
【0128】
また、圧力条件としては、既述のように常圧下又は減圧下とすることが好ましく、減圧下とする場合は、具体的には、好ましくは85kPa以下、より好ましくは80kPa以下、更に好ましくは70kPa以下であり、下限としては真空(0Kpa)でもよく、圧力の調整の容易さを考慮すると、好ましくは1kPa以上、より好ましくは2kPa以上、更に好ましくは3kPa以上である。
【0129】
本実施形態の製造方法においては、乾燥を行う場合、上記固液分離を行った後、加熱しながら乾燥を行ってもよい。
また、本実施形態の製造方法において、乾燥することは行ってもよいし、行わなくてもよい。すなわち、本実施形態の製造方法において、加熱することの加熱対象は、電解質前駆体、残存する錯化剤及び必要に応じて用いられる溶媒を含む流体(スラリー状である。)であってもよいし、乾燥することにより流体から残存する錯化剤及び必要に応じて用いられる溶媒を除去した電解質前駆体(粉末状となる。)であってもよい。
【0130】
(非晶性硫化物固体電解質)
上記加熱することにより得られる硫化物固体電解質は、所望に応じて非晶性硫化物固体電解質、結晶性硫化物固体電解質のいずれかとすることができる。すなわち、結晶化のための加熱を行わなければ非晶性硫化物固体電解質が得られ、結晶化のための加熱を行うと結晶性硫化物固体電解質が得られる。
【0131】
上記加熱することにより得られる非晶性硫化物固体電解質としては、リチウム原子、硫黄原子及びリン原子、好ましくはハロゲン原子を含んでおり、代表的なものとしては、例えば、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiCl-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr等の、硫化リチウムと硫化リン、硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質;更に酸素原子、珪素原子等の他の原子を含む、例えば、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS-P-LiI等の固体電解質が好ましく挙げられる。より高いイオン伝導度を得る観点から、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr等の、硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質が好ましい。
非晶性硫化物固体電解質を構成する原子の種類は、例えば、ICP発光分光分析装置により確認することができる。
【0132】
上記加熱することにより得られる非晶性硫化物固体電解質が、少なくともLiS-Pを有するものである場合、LiSとPとのモル比は、より高いイオン伝導度を得る観点から、65~85:15~35が好ましく、70~80:20~30がより好ましく、72~78:22~28が更に好ましい。
【0133】
上記加熱することにより得られる非晶性硫化物固体電解質が、例えば、LiS-P-LiI-LiBrである場合、硫化リチウム及び五硫化二リンの含有量の合計は、60~95モル%が好ましく、65~90モル%がより好ましく、70~85モル%が更に好ましい。また、臭化リチウムとヨウ化リチウムとの合計に対する臭化リチウムの割合は、1~99モル%が好ましく、20~90モル%がより好ましく、40~80モル%が更に好ましく、50~70モル%が特に好ましい。
【0134】
上記加熱することにより得られる非晶性硫化物固体電解質において、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子の配合比(モル比)は、1.0~1.8:1.0~2.0:0.1~0.8:0.01~0.6が好ましく、1.1~1.7:1.2~1.8:0.2~0.6:0.05~0.5がより好ましく、1.2~1.6:1.3~1.7:0.25~0.5:0.08~0.4が更に好ましい。また、ハロゲン原子として、臭素及びヨウ素を併用する場合、リチウム原子、硫黄原子、リン原子、臭素、及びヨウ素の配合比(モル比)は、1.0~1.8:1.0~2.0:0.1~0.8:0.01~0.3:0.01~0.3が好ましく、1.1~1.7:1.2~1.8:0.2~0.6:0.02~0.25:0.02~0.25がより好ましく、1.2~1.6:1.3~1.7:0.25~0.5:0.03~0.2:0.03~0.2がより好ましく、1.35~1.45:1.4~1.7:0.3~0.45:0.04~0.18:0.04~0.18が更に好ましい。リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子の配合比(モル比)を上記範囲内とすることにより、後述するチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する、より高いイオン伝導度の固体電解質が得られやすくなる。
【0135】
非晶性硫化物固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。
粒子状の非晶性硫化物固体電解質の平均粒径(D50)としては、例えば、0.01μm以上、さらには0.03μm以上、0.05μm以上、0.1μm以上であり、上限としては5μm以下、さらには3.0μm以下、1.5μm以下、1.0μm以下、0.5μm以下である。
【0136】
(結晶性硫化物固体電解質)
上記加熱することにより得られる結晶性硫化物固体電解質は、非晶質硫化物固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスであってもよく、その結晶構造としては、LiPS結晶構造、Li結晶構造、LiPS結晶構造、Li11結晶構造、2θ=20.2°近傍及び23.6°近傍にピークを有する結晶構造(例えば、特開2013-16423号公報)等が挙げられる。
【0137】
Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造(Kannoら、Journal of The Electrochemical Society,148(7)A742-746(2001)参照)、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造(Solid State Ionics,177(2006),2721-2725参照)等も挙げられる。本実施形態の製造方法により得られる結晶性硫化物固体電解質の結晶構造は、より高いイオン伝導度が得られる点で、上記の中でもチオリシコンリージョンII型結晶構造であることが好ましい。ここで、「チオリシコンリージョンII型結晶構造」は、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造のいずれかであることを示す。
【0138】
上記加熱することにより得られる結晶性硫化物固体電解質は、上記チオリシコンリージョンII型結晶構造を含むものであってもよいし、主結晶として含むものであってもよいが、より高いイオン伝導度を得る観点から、主結晶として含むものであることが好ましい。本明細書において、「主結晶として含む」とは、結晶構造のうち対象となる結晶構造の割合が80%以上であることを意味し、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。また、本実施形態の製造方法により得られる結晶性硫化物固体電解質は、より高いイオン伝導度を得る観点から、結晶性LiPS(β-LiPS)を含まないものであることが好ましい。
【0139】
CuKα線を用いたX線回折測定において、LiPS結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=17.5°、18.3°、26.1°、27.3°、30.0°付近に現れ、Li結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=16.9°、27.1°、32.5°付近に現れ、LiPS結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=15.3°、25.2°、29.6°、31.0°付近に現れ、Li11結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=17.8°、18.5°、19.7°、21.8°、23.7°、25.9°、29.6°、30.0°付近に現れ、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.1°、23.9°、29.5°付近に現れ、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.2、23.6°付近に現れる。なお、これらのピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
【0140】
上記のLiPSの構造骨格を有し、Pの一部をSiで置換してなるアルジロダイト型結晶構造を有する結晶性硫化物固体電解質も好ましく挙げられる。
アルジロダイト型結晶構造の組成式としては、例えば組成式Li7-x1-ySi及びLi7+x1-ySi(xは-0.6~0.6、yは0.1~0.6)で示される結晶構造が挙げられる。この組成式で示されるアルジロダイト型結晶構造は、立方晶又は斜方晶、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
【0141】
アルジロダイト型結晶構造の組成式としては、組成式Li7-x-2yPS6-x-yCl(0.8≦x≦1.7、0<y≦-0.25x+0.5)も挙げられる。この組成式で示されるアルジロダイト型結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
また、アルジロダイト型結晶構造の組成式としては、組成式Li7-xPS6-xHa(HaはClもしくはBr、xが好ましくは0.2~1.8)も挙げられる。この組成式で示されるアルジロダイト型結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
なお、これらのピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
【0142】
上記加熱することにより得られる結晶性硫化物固体電解質に含まれる錯化剤の含有量は、上記非晶性硫化物固体電解質に含まれる錯化剤の含有量よりも減少する。
結晶性硫化物固体電解質に含まれる錯化剤の含有量は、0質量%、すなわち錯化剤は全く含まれないことが好ましいが、効率的にイオン伝導度が高い硫化物固体電解質を得る観点から、通常10質量%以下、さらには8質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下であり、下限としては0.01質量%以上程度である。
【0143】
また、錯化剤と同様に、溶媒を用いる場合は溶媒も残存し得る。この場合の溶媒の含有量も、上記錯化剤の含有量の数値範囲と同じである。
【0144】
結晶性硫化物固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。
粒子状の結晶性硫化物固体電解質の平均粒径(D50)としては、例えば、0.01μm以上、さらには0.03μm以上、0.05μm以上、0.1μm以上であり、上限としては15μm以下、さらには12μm以下、10μm以下である。
【0145】
また、上記加熱することにより得られる結晶性硫化物固体電解質の比表面積は、通常10m/g以上、さらには15m/g以上、20m/g以上、25m/g以上、30m/g以上、となる。上限としては特に制限はなく、例えば50m/g以下程度である。本明細書において、比表面積は、
JIS R1626:1996に規定される「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に基づき、測定装置として流動法装置を用い、多点法にて測定される値であり、吸着質として窒素を用いてもよいし(窒素法)、クリプトンを用いてもよく(クリプトン法)、比表面積の大きさに応じて適宜選択して測定される。
【0146】
〔混練すること〕
本実施形態の製造方法は、上記の硫化物固体電解質を得ることの後、得られた硫化物固体電解質を、ケーシングと、前記ケーシングを長手方向に貫通するように配され、軸方向に沿ってパドルが設けられた、少なくとも1本の回転軸とを備える混練機を用いて混練すること、を含む。混練機を用いて混練することにより、消費電力を抑えつつ硫化物固体電解質の比表面積を小さくすることができるため、塗工適性に優れ、リチウムイオン電池への使用に適した改質硫化物固体電解質が効率的に得られる。
【0147】
(混練機)
本実施形態の製造方法で用いられる混練機は、ケーシングと、前記ケーシングを長手方向に貫通するように配され、軸方向に沿ってパドルが設けられた、少なくとも一本の回転軸と、を備えるものである。
混練機としては、少なくとも1本の回転軸を備える単軸混練機、2本以上の回転軸を備える多軸混練機のいずれを用いてもよく、より効率的に改質硫化物固体電解質を提供する観点から、多軸混練機が好ましい。
【0148】
図1に、本実施形態の製造方法で用いられる典型的な多軸混練機の回転軸の中心で破断した平面図を示す。また図2に、回転軸のパドルが設けられる部分の、該回転軸に対して垂直に破断した平面図を示す。以下、図1及び2を用いて、混練機について説明する。
【0149】
図1に示される多軸混練機は、一端に供給口2、他端に排出口3を備えるケーシング1、ケーシング1の長手方向に貫通するように2つの回転軸4a、及び4bを備える2軸混練機である。回転軸4a及び4bには、各々パドル5a及び5bが設けられている。硫化物固体電解質は、供給口2からケーシング1内に入り、パドル5a及び5bにおいてせん断応力が加えられて、比表面積が小さく、塗工適性に優れる改質硫化物固体電解質が、排出口3から排出される。
【0150】
回転軸4(4a、4b)は、2本以上あれば特に制限はなく、汎用性を考慮すると、2~4本であることが好ましく、2本であることがより好ましい。
回転軸4は互いに平行である平行軸であってもよいし、斜交型であってもよく、また回転軸の回転方向は同方向であってもよいし、異方向であってもよい。回転方向は、混練の効果により比表面積をより小さくしようとする場合は異方向を選択すればよく、またケーシング内の硫化物固体電解質を掃き取り、これらのケーシング内における滞留を抑える自己清掃効果を重視する場合は同方向を選択すればよい。
【0151】
パドル5(5a、5b)は、硫化物固体電解質を混練するために回転軸に備えられるものであり、供給口から供給された硫化物固体電解質を排出口に送る、送り力を発現することから、「フォワードスクリュー」、「スクリュー羽根」等とも称される。回転軸のうち、パドル5が設けられている部分は、フォワード部と称され、硫化物固体電解質は供給口から排出口の方に向かって混練されながら移動する。
パドル5の断面形状は特に制限なく、図2に示されるような、正三角形の各辺が一様に凸円弧状となった略三角形の他、円形、楕円形、略四角形等が挙げられ、これらの形状をベースとして、一部に切欠け部を有した形状であってもよい。
【0152】
パドルを複数備える場合、図2に示されるように、各々のパドルは異なる角度で回転軸に備えられていてもよい。また、パドルはかみ合い型でもよいし、非かみ合い型でもよく、混練の効果により比表面積をより小さくしようとする場合は、かみ合い型を選択すればよい。
【0153】
多軸混練機は、硫化物固体電解質を滞りなく混練機内に供給させるため、図1に示されるように供給口2側にスクリュー6(6a、6b)を備えていてもよく、またパドル5による混練を経て得られた改質硫化物固体電解質がケーシング内に滞留しないようにするため、図1に示されるように排出口3側にリバーススクリュー7(7a、7b)を備えていてもよい。
【0154】
リバーススクリューは、既述のように、ケーシング内の滞留を抑制するだけでなく、混練機の排出口近傍の硫化物固体電解質を供給口側に戻す力を発現する。既述のパドル5が設けられているフォワード部に対して、リバーススクリュー7が設けられるリバース部を有することで、フォワード部により排出口の方向に移動する硫化物固体電解質と、リバース部により供給口の方向に移動する排出口近傍の硫化物固体電解質及び改質硫化物固体電解質をとが、衝突しあいながら、ケーシング内で充満することとなる。そのため、より効率的に比表面積が小さくなり、塗工適性に優れ、リチウムイオン電池への使用に適した改質硫化物固体電解質が得られる。
【0155】
また、混練機のケーシングの容量(L)に対する、硫化物固体電解質の混練機への1時間あたりの供給量(kg)は、好ましくは0.1kg以上、より好ましくは0.5kg以上、更に好ましくは1.0kg以上、より更に好ましくは3.0kg以上であり、上限として好ましくは10.0kg以下、より好ましくは9.0kg以下、更に好ましくは8.0kg以下、より更に好ましくは7.5kg以下である。上記範囲であると、より確実かつ効率的に、塗工適性に優れ、リチウムイオン電池への使用に適した改質硫化物固体電解質が得られる。
【0156】
(改質硫化物固体電解質の性状)
このようにして得られる改質硫化物固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。
粒子状の改質硫化物固体電解質の平均粒径(D50)としては、例えば、0.01μm以上、さらには0.03μm以上、0.05μm以上、0.1μm以上であり、上限としては7.0μm以下、さらには5.0μm以下、4.0μm以下、3.0μm以下、2.5μm以下、2.0μm以下である。
【0157】
また、改質硫化物固体電解質の比表面積は、上記結晶性硫化物固体電解質の比表面積よりも小さくなり、通常25m/g以下、さらには20m/g以下、15m/g以下、10m/g以下、5m/g以下となる。下限としては特に制限はなく、例えば0.1m/g以上である。
【0158】
本実施形態の製造方法により得られる改質硫化物固体電解質が非晶性硫化物固体電解質である場合の組成、結晶性硫化物固体電解質である場合の組成、結晶構造等は、上記加熱することにより得られる硫化物固体電解質と同じである。
【0159】
(用途)
本実施形態の製造方法により得られる改質硫化物固体電解質は、ペーストとして塗工する際の塗工適性に優れており、またイオン伝導度が高く、優れた電池性能も有していることから、リチウムイオン電池に好適に用いられる。
本実施形態の製造方法により得られる改質硫化物固体電解質は、正極層に用いてもよく、負極層に用いてもよく、電解質層に用いてもよい。なお、各層は、公知の方法により製造することができる。
【0160】
また、上記電池は、正極層、電解質層及び負極層の他に集電体を使用することが好ましく、集電体は公知のものを用いることができる。例えば、Au、Pt、Al、Ti、又は、Cu等のように、上記の固体電解質と反応するものをAu等で被覆した層が使用できる。
【実施例0161】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら制限されるものではない。
【0162】
(比表面積の測定)
JIS R1626:1996に規定される「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に基づき、測定装置として流動法装置を用い、吸着質として窒素ガス(純度:99.9%以上)を用い、多点法にて比表面積を測定した。
【0163】
(平均粒径の測定)
レーザー回折/散乱式粒径分布測定装置(「Partica LA-950(型番)」、株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。具体的には、脱水処理されたトルエン(和光純薬製、特級)とターシャリーブチルアルコール(和光純薬製、特級)を93.8:6.2の質量比で混合したものを分散媒として用いた。装置のフローセル内に分散媒を50mL注入し、循環させた後、測定対象の粉末を添加して超音波処理した後、粒径分布を測定した。
また、平均粒径(D50)は、上記粒径分布の積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%(体積基準)に達するところの粒子径とした。
【0164】
(粉末XRD回折の測定)
粉末X線回折(XRD)測定は以下のようにして実施した。
実施例及び比較例で得られた硫化物固体電解質の粉末を、直径20mm、深さ0.2mmの溝に充填し、ガラスで均して試料とした。この試料を、XRD用カプトンフィルムで密閉し、空気に触れさせずに、以下の条件で測定した。
測定装置:D2 PHASER、ブルカー(株)製
管電圧:30kV
管電流:10mA
X線波長:Cu-Kα線(1.5418Å)
光学系:集中法
スリット構成:ソーラースリット4°、発散スリット1mm、Kβフィルター(Ni板)使用
検出器:半導体検出器
測定範囲:2θ=10-60deg
ステップ幅、スキャンスピード:0.05deg、0.05deg/秒
【0165】
(調製例:硫化物固体電解質の調製)
実施例及び比較例で用いる硫化物固体電解質は、以下の方法により調製した。ここで、固体電解質原料、錯化剤等の使用量は、以下の方法に記載される使用量の比率を同じとしながら、各実施例及び比較例における必要量となるようにした。
【0166】
撹拌子入りシュレンク瓶(容量:500mL)に、窒素雰囲気下で硫化リチウム(LiS)15.87gを導入した。撹拌子を回転させた後、シクロヘキサン300mLを加え、次いでヨウ素(I)6.26gを加えて、室温で2時間撹拌した。その後、臭素(Br)3.94gを加え、室温で12時間撹拌した後、50℃にしてさらに3時間の撹拌を行った。得られたスラリーを静置して固形分を沈降させて、上澄み190mLを除去し、シクロヘキサンを190mL加えるデカンテーションを3回行い、硫化リチウム、ヨウ化リチウム及び臭化リチウムを含むシクロヘキサンスラリーを得た。
得られたシクロヘキサンスラリーに、五硫化二リン(P)21.93g及びシクロヘキサン100mLを加えて、回転翼を備えた循環ライン付きのセパラブルフラスコ(容量:500mL)に移した。これに、錯化剤としてテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)103mLを加えて、回転翼の回転数:200rpm、ポンプ流量:550mL/minで、室温で循環撹拌による混合を開始した。48時間経過した後、ジメトキシエタン(DME)61mLを加え、循環撹拌を更に24時間継続して行った。得られたスラリーを室温で減圧乾燥して、粉末の電解質前駆体を得た。
得られた電解質前駆体を、減圧下で110℃の加熱温度で2時間の加熱を行い、錯化剤を除去して、非晶性硫化物固体電解質を得た。さらに、得られた非晶性硫化物固体電解質を、減圧下で160℃の加熱温度で2時間の加熱を行い、結晶性硫化物固体電解質を得た。
【0167】
得られた結晶性硫化物固体電解質について、粉末XRD回折の測定を行ったところ、2θ=20.2°、23.6°に結晶化ピークが検出され、高いイオン伝導度を発現するチオリシコンリージョンII型結晶構造を有するものであることが確認された。また、得られた結晶性硫化物固体電解質について、比表面積を測定したところ、33m/gであった。
【0168】
(比較例1)
撹拌翼付きの反応槽に、上記製造例で製造した結晶性硫化物固体電解質を90質量部、トルエン657質量部、ジブチルエーテル0.9質量部を投入し、撹拌翼を回転させて撹拌を開始した。反応槽と連結された、循環運転可能なビーズミル(「ラボスターミニLMZ015(商品名)」、アシザワ・ファインテック株式会社製)に、ジルコニアボール(直径:0.5mmφ)を456g(粉砕室に対するビーズ充填率:80%)仕込み、上記反応槽と粉砕室との間を、ポンプ流量:550mL/min、周速:8m/s、ミルジャケット温度:20℃の条件で循環させながら、10分の粉砕を行った。
粉砕して得られたスラリーを、室温で減圧乾燥を行った。得られた粉末の比表面積を測定したところ、26m/gとなった。また、平均粒径(D50)を測定したところ、0.2μmであった。これらの結果を第1表に示す。
【0169】
(比較例2~4)
比較例1において、粉砕時間を20分、30分、及び60分行い、スラリーを得た。得られたスラリーの比表面積を測定したところ、各々16m/g、9m/g及び7m/gとなった。また、平均粒径(D50)を測定したところ、各々1.4μm、2.4μm及び3.5μmであった。これらの結果を第1表に示す。
【0170】
(実施例1)
窒素を充填したグローブボックス内に、市販の小型連続式二軸混練機を設置した。
二軸混練機の供給口から、上記製造例で製造した結晶性硫化物固体電解質5質量部を供給し、13分後に排出口から混練物Aが排出された(13分かけて5質量部の結晶性硫化物固体電解質を供給口から供給した。)。排出された混練機物Aの3.6質量部を、再度二軸混練機の供給口から供給し、13分後に排出口から混練物Bが排出された(13分かけて3.6質量部の結晶性硫化物固体電解質を供給口から供給した。)。次いで、排出された混練物Bの3質量部を、再度二軸混練機の供給口から供給し、14分後に排出口から混練物Cが排出された(14分かけて3質量部の結晶性硫化物固体電解質を供給口から供給した。)。
これらの混練物A~Cについて、比表面積を測定したところ、各々20m/g、9m/g及び5m/gとなった。また、混練物A~Cについて平均粒子径を測定したところ、各々1.9μm、3.6μm及び5.0μmであった。これらの結果を第1表に示す。
また、混練物Aを得る際の、硫化物固体電解質の混練機への1時間当たりの供給量は、混練機のケーシングの容量(L)に対する、硫化物固体電解質の混練機への1時間あたりの供給量(kg)は6.5kgであった。
【0171】
(積算動力について)
以上比較例1~4において、粉砕に要した積算動力(kWh/kg)を横軸に、比表面積を縦軸としたグラフを作成し、比表面積が10m/gとなった際の積算動力(kWh/kg)を基準(1.0)として、上記実施例1における、混練物A~Cを得るために必要な積算動力を指数で表すと、各々0.1、0.3及び0.5となった。
以上の結果を第1表に示す。また、図3に、実施例1及び比較例1~4について、横軸を積算動力の指数とし、縦軸を比表面積としたグラフを示す。
【0172】
【表1】
【0173】
図3に示される結果から、本実施形態の製造方法により、混練機を用いて比表面積を10m/gとするために必要な積算動力は0.25(指数)であり、従来のビーズミルを用いて比表面積を10m/sとするために必要な積算動力の25%で済むことが確認された。よって、本実施形態の製造方法によれば、ペーストとして塗工する際の塗工適性に優れ、リチウムイオン電池への使用に適した改質硫化物固体電解質を効率的に提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法によれば、ペーストとして塗工する際の塗工適性に優れ、リチウムイオン電池への使用に適した改質硫化物固体電解質を効率的に提供することができる。
本実施形態の製造方法により得られる改質硫化物固体電解質は、電池に、とりわけ、パソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等に用いられるリチウムイオン電池に好適に用いられる。
図1
図2
図3