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特開2024-7735ガリウム化合物の加工方法及びその装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007735
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】ガリウム化合物の加工方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
H01L21/302 105Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109020
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】佐野 泰久
(72)【発明者】
【氏名】山内 和人
(72)【発明者】
【氏名】中上 元太
【テーマコード(参考)】
5F004
【Fターム(参考)】
5F004AA16
5F004BA04
5F004BB13
5F004BB18
5F004BB25
5F004BB26
5F004BC03
5F004CA02
5F004CA03
5F004CA04
5F004DA22
5F004DA23
5F004DA24
5F004DA26
5F004DB00
5F004DB19
5F004EA27
(57)【要約】
【課題】安全性や環境負荷の問題があるフッ素系ガスや塩素系ガスを使用せず、ガリウム化合物を高能率でプラズマエッチングによって加工することが可能なガリウム化合物の加工方法及びその装置を提供する。
【解決手段】ガリウム化合物の表面をプラズマエッチングにより加工する加工方法であって、不活性ガスと水素ガスからなるエッチングガスに、金属ガリウムを酸化する作用のある酸化性ガスを添加してプロセスガスとし、プラズマを発生させてガリウム化合物の表面をプラズマエッチングする。例えば、ガリウム化合物が、窒化ガリウム又は酸化ガリウムであり、酸化性ガスが、水蒸気又は酸素ガスである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウム化合物の表面をプラズマエッチングにより加工する加工方法であって、
不活性ガスと水素ガスからなるエッチングガスに、金属ガリウムを酸化する作用のある酸化性ガスを添加してプロセスガスとし、プラズマを発生させてガリウム化合物の表面をプラズマエッチングする、
ガリウム化合物の加工方法。
【請求項2】
前記ガリウム化合物が、窒化ガリウム又は酸化ガリウムである、
請求項1記載のガリウム化合物の加工方法。
【請求項3】
前記酸化性ガスが、水蒸気又は酸素ガスである、
請求項1又は2記載のガリウム化合物の加工方法。
【請求項4】
前記不活性ガスに対して、水素ガス濃度が0.5~10%である、
請求項1記載のガリウム化合物の加工方法。
【請求項5】
ガリウム化合物の表面をプラズマエッチングにより加工する加工装置であって、
ガリウム化合物を保持し、下部電極を兼ねる保持台と、
前記保持台上のガリウム化合物に対して所定間隔を置いて設けた電極と、
前記保持台と電極間に高周波電圧を印加してプロセスガスのプラズマを発生させる高周波電源と、
少なくとも前記ガリウム化合物と電極間の空間に、不活性ガスと水素ガスからなるエッチングガスに、金属ガリウムを酸化する作用のある酸化性ガスを添加したプロセスガスを供給するガス供給系と、
前記プロセスガスを排気する排気系と、
より構成されるガリウム化合物の加工装置。
【請求項6】
前記ガリウム化合物が、窒化ガリウム又は酸化ガリウムである、
請求項5記載のガリウム化合物の加工装置。
【請求項7】
前記ガス供給系が、不活性ガスボンベからマスフローコントローラを介して供給された不活性ガスと、水素ガスボンベからマスフローコントローラを介して供給された水素ガスとを混合してエッチングガスとし、該エッチングガスを気密水槽の水中に通して前記酸化性ガスとして水蒸気を気化混合してプロセスガスを調製する構造である、
請求項5又は6記載のガリウム化合物の加工装置。
【請求項8】
前記ガス供給系が、不活性ガスボンベからマスフローコントローラを介して供給された不活性ガスと、水素ガスボンベからマスフローコントローラを介して供給された水素ガスとを混合してエッチングガスとし、該エッチングガスに、酸素ガスボンベからマスフローコントローラを介して供給された前記酸化性ガスとして酸素ガスを混合してプロセスガスを調製する構造である、
請求項5又は6記載のガリウム化合物の加工装置。
【請求項9】
前記不活性ガスに対して、水素ガス濃度が0.5~10%である、
請求項5記載のガリウム化合物の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高能率と高い実用性を兼ね備えたガリウム化合物の加工方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)や酸化ガリウム(Ga)は低損失パワー半導体デバイス用材料として注目されているが、GaNは高硬度であることから、またGaはへき開性が高いことから、従来技術では高能率な加工が困難であり、デバイスコストを押し上げている一つの要因となっている。
【0003】
特許文献1には、GaN等の化合物膜のドライエッチングにおいて、プラズマ発生用のエッチングガスとして、Cl、BCl、HCl、HCl及びHBrから選択された少なくとも1種のハロゲンガス又はハロゲン化物ガスと希釈ガスとの混合ガスを用いる点が記載されている。
【0004】
特許文献2には、少なくとも表面に窒化ガリウム層を有する基板を製造する方法であって、誘導結合式プラズマ発生装置を具備したプラズマエッチング装置を用い、フッ素系ガスを導入し、前記窒化ガリウム層の表面をドライエッチング処理する基板の製造方法が記載されている。
【0005】
一方、同じく低損失パワー半導体用材料として注目されている炭化ケイ素(SiC)も高硬度かつ化学的に安定なため高能率な加工が困難であったが、SFガスを用いた高ラジカル密度プラズマによるプラズマエッチングによって15μm/minという高能率加工が実現されている(非特許文献1)。GaNにおいても同様に大気圧プラズマを用いた高能率加工の検討が行われた(非特許文献2)が、最大約9μm/minという高加工速度が得られた一方で、反応ガスとして塩素ガス(ヘリウムで希釈)を用いることから安全性や装置の腐食性を考慮する必要があり、実用には至っていない。また、Gaに関しては、プラズマエッチングに関して十分な検討はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許5033361号公報
【特許文献2】特許5832058号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ECS J. Solid State Sci. Technol. 10, 014005
【非特許文献2】Surf. Interface Anal.40, 1556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、安全性や環境負荷の問題があるフッ素系ガスや塩素系ガスを使用せず、ガリウム化合物を高能率でプラズマエッチングによって加工することが可能なガリウム化合物の加工方法及びその装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の課題解決のために、以下に構成するガリウム化合物の加工方法及びその装置を提供する。
【0010】
(1)
ガリウム化合物の表面をプラズマエッチングにより加工する加工方法であって、
不活性ガスと水素ガスからなるエッチングガスに、金属ガリウムを酸化する作用のある酸化性ガスを添加してプロセスガスとし、プラズマを発生させてガリウム化合物の表面をプラズマエッチングする、
ガリウム化合物の加工方法。
【0011】
(2)
前記ガリウム化合物が、窒化ガリウム又は酸化ガリウムである、
(1)記載のガリウム化合物の加工方法。
【0012】
(3)
前記酸化性ガスが、水蒸気又は酸素ガスである、
(1)又は(2)記載のガリウム化合物の加工方法。
【0013】
(4)
前記不活性ガスに対して、水素ガス濃度が0.5~10%である、
(1)記載のガリウム化合物の加工方法。
【0014】
(5)
ガリウム化合物の表面をプラズマエッチングにより加工する加工装置であって、
ガリウム化合物を保持し、下部電極を兼ねる保持台と、
前記保持台上のガリウム化合物に対して所定間隔を置いて設けた電極と、
前記保持台と電極間に高周波電圧を印加してプロセスガスのプラズマを発生させる高周波電源と、
少なくとも前記ガリウム化合物と電極間の空間に、不活性ガスと水素ガスからなるエッチングガスに、金属ガリウムを酸化する作用のある酸化性ガスを添加したプロセスガスを供給するガス供給系と、
前記プロセスガスを排気する排気系と、
より構成されるガリウム化合物の加工装置。
【0015】
(6)
前記ガリウム化合物が、窒化ガリウム又は酸化ガリウムである、
(5)記載のガリウム化合物の加工装置。
【0016】
(7)
前記ガス供給系が、不活性ガスボンベからマスフローコントローラを介して供給された不活性ガスと、水素ガスボンベからマスフローコントローラを介して供給された水素ガスとを混合してエッチングガスとし、該エッチングガスを気密水槽の水中に通して前記酸化性ガスとして水蒸気を気化混合してプロセスガスを調製する構造である、
請求項5又は6記載のガリウム化合物の加工装置。
【0017】
(8)
前記ガス供給系が、不活性ガスボンベからマスフローコントローラを介して供給された不活性ガスと、水素ガスボンベからマスフローコントローラを介して供給された水素ガスとを混合してエッチングガスとし、該エッチングガスに、酸素ガスボンベからマスフローコントローラを介して供給された前記酸化性ガスとして酸素ガスを混合してプロセスガスを調製する構造である、
請求項5又は6記載のガリウム化合物の加工装置。
【0018】
(9)
前記不活性ガスに対して、水素ガス濃度が0.5~10%である、
(5)記載のガリウム化合物の加工装置。
【発明の効果】
【0019】
以上にしてなる本発明によれば、塩素系ガスやフッ素系ガスを用いることなく、高能率に窒化ガリウム(GaN)や酸化ガリウム(Ga)のプラズマエッチングが実現可能となり、窒化ガリウム基板や酸化ガリウム基板の平坦化や平滑化に使用できるばかりでなく、パワーデバイス形成後の裏面薄化プロセス等への適用により、低コスト低損失パワーデバイスの実現に貢献することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のガリウム化合物の加工装置の概略図である。
図2】ガス供給系の具体例を示し、(a)はHeガスとHガスを混合したエッチングガスの供給系を示し、(b)はHeガスとHガスを混合したエッチングガスに酸化性ガスとして水蒸気を添加するガス供給系を示し、(c)はHeガスとHガスを混合したエッチングガスに酸化性ガスとしてOガスを添加するガス供給系の配管図である。
図3】排気系の配管図である。
図4】加工条件が、He:H=90:10、RF電力130W、加工時間5分、ガス流量500sccmの場合のGaNの加工レートを示すグラフである。
図5】加工条件が、He:H=90:10、RF電力130W、加工時間3分、ガス流量500sccmの場合のGaの加工レートを示すグラフである。
図6】加工条件が、He:H=90:10、RF電力130W、加工時間5分、ガス流量100sccmの場合のGaN表面の走査電子顕微鏡像である。
図7】加工条件が、He:H=96:4、RF電力130W、加工時間5分、ガス流量500sccmの場合のGa表面の走査電子顕微鏡像である。
図8】加工条件が、He:H=95:5、RF電力180W、加工時間5分に固定し、ガス流量を100、500、800sccmと変化させた場合のGaNの加工レートを示すグラフである。
図9】加工条件が、RF電力180W、加工時間5分、ガス流量500sccmに固定し、水素ガス濃度を1、5、10%と変化させた場合のGaNの加工レートを示すグラフである。
図10】加工条件が、He:H=90:10、加工時間5分、ガス流量100sccmを固定し、RF電力を130、150、180、200Wと変化させた変化させた場合のGaNの加工レートを示すグラフである。
図11】加工条件が、He:H=90:10、RF電力130W、加工時間5分、ガス流量500sccmに固定し、保持台2(試料台)の温度を30、50、200℃と変化させた場合のGaNの加工レートを示すグラフである。
図12】加工条件が、He:H=90:10、RF電力130W、加工時間5分、ガス流量75sccmに固定し、保持台2(試料台)の温度を30、50、70、100℃と変化させた場合のGaの加工レートを示すグラフである。
図13】加工条件が、He:H=95:5、RF電力180W、加工時間5分、ガス流量800sccmの場合のGaN表面の走査電子顕微鏡像である。
図14】加工条件が、プロセスガスがエッチングガスHe:H=95:5に水蒸気添加、RF電力200W、加工時間3分、ガス流量800sccm、温度150℃の場合のGaN表面の走査電子顕微鏡像である。
図15】加工条件が、プロセスガスがエッチングガスHe:H=90:10に水蒸気添加、RF電力80W、加工時間5分、ガス流量500sccm、温度50℃の場合のGa表面の走査電子顕微鏡像である。
図16】加工条件が、He:H:O=92:4:4、RF電力100W、加工時間3分、ガス流量500sccm、温度80℃の場合のGaN表面の走査電子顕微鏡像である。
図17】加工条件が、He:H:O=92:4:4、RF電力80W、加工時間3分、ガス流量500sccm、温度50℃の場合のGa表面の走査電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。図1は本発明の加工特性を実証するために用いた加工装置を示している。本発明は図示した実施例に限定されず、被加工物の加工面全面を均一にプラズマエッチングする加工装置、被加工物の加工面の一部を局所的にプラズマエッチングして任意形状を創成するPCVM装置を構成することが可能である。本発明では、被加工物が窒化ガリウム(GaN)又は酸化ガリウム(Ga)などのガリウム化合物である。また、本実施形態では大気圧プラズマを用いるが、減圧プラズマでも構わない。ここで「大気圧」とは、プロセスガスの流動を発生させる必要があるので大気圧より若干高い圧力の範囲を含むことを意味している。つまり、本発明のプロセスガスの圧力は、数kPa~大気圧の範囲である。
【0022】
本発明では、ガリウム化合物のプラズマエッチングガスにおける反応ガスとして水素ガスを用いる。因みに、ガリウム化合物の反応生成物として、フッ素系ガスを用いるとGaF(沸点1000℃)、塩素系ガスを用いるとGaCl(沸点201℃)、水素ガスを用いるとGa(沸点-50℃)が生成される。このように、水素ガスを用いると、ガリウム化合物を加熱しなくても反応生成物が揮発するので有利であるが、後述のように金属ガリウムが表面に付着するという新たな問題が生じる。
【0023】
図1に示した加工装置は、ガリウム化合物1を保持し、下部電極を兼ねる保持台2と、前記保持台2上のガリウム化合物1に対して所定間隔を置いて設けた電極3と、前記保持台2と電極3間に高周波電圧を印加してプロセスガスのプラズマを発生させる高周波電源4と、少なくとも前記ガリウム化合物1と電極3間の空間に、不活性ガスと水素ガスからなるエッチングガスに、金属ガリウムを酸化する作用のある酸化性ガスを添加したプロセスガスを供給するガス供給系5と、前記プロセスガスを排気する排気系6と、を備えている。
【0024】
本実施形態の加工装置には、前記保持台2にヒーターや適宜冷却装置を組み合わせた温度制御系及び熱電対からなる温度計7を設けている。前記保持台2の上面には基板状の前記ガリウム化合物1を保持し、あるいは走査できるようにXYステージを備えている。そして、前記保持台2に対して絶縁性の筒体8を介して導電性の上板9が保持され。該上板9の一部が下方に突出してパイプ状の電極3を構成している。前記筒体8の一部若しくは全部が透光性のガラス材料で構成され、内部を観察できるようにしている。
【0025】
前記保持台2、筒体8及び上板9でチャンバーを構成し、前記ガス供給系5からのプロセスガスは、前記上板9の内部の供給路10を通って前記電極3の中心孔11から噴出する一方、チャンバー内のプロセスガスは前記保持台2の内部の排気路12を通って前記排気系6から排気される。そして、前記保持台2は接地され、前記上板9に前記高周波電源4から高周波電圧が印加され、前記電極3とガリウム化合物1の間の空間で高周波プラズマが発生される。尚、本発明では、前記電極3の構造及びプラズマの発生方法は特に限定されない。
【0026】
従来からエッチングガスとして使われてきた塩素系ガスやフッ素系ガスは、加工レートが大きいものの、環境負荷が大きいガスのため取り扱いや回収処理にコストがかかる欠点がある。そこで、本発明では、水素ガスを不活性ガスで希釈したエッチングガスを用いることを検討した。不活性ガスは、本実施形態ではHeを使ったが、Arでも構わない。ガス供給系5の具体例は図2に示し、排気系6の具体例は図3に示している。エッチングガスは、図2(a)に示すように、ヘリウムガスボンベ13からマスフローコントローラ14を介して供給されたヘリウムガスと、水素ガスボンベ15からマスフローコントローラ16を介して供給された水素ガスとを混合して調製する。排気系6は、図3に示すように、チャンバー内を初期排気するための真空ポンプ17と除害筒18とで構成し、プロセスガスが大気圧の場合には、真空ポンプ17を介さずに除害筒18を通して直接大気中に排気できるように、二つのバルブ19,20で排気流路を切り替えるようになっている。尚、図中符号21は圧力計である。
【0027】
新たに反応ガスとして水素ガス(ヘリウムで希釈)を用いることを検討し、GaN及びGaの小片試料を図1に示した加工装置により加工可能性を調査した結果、GaNに関しては、図4に示すように4μm/min(加工条件;He:H=90:10、RF電力130W、加工時間5分、ガス流量500sccm)、Gaに関しては、図5に示すように60μm/min(加工条件、He:H=90:10、RF電力130W、加工時間3分、ガス流量500sccm)という高加工速度が得られることが分かった。しかしながら、加工前に研磨によって鏡面化されていた試料表面は、加工後は白濁しており、図6図7に示す通りGaNにおいてもGaにおいても球状の付着物で覆われていた。加工条件は、GaNに関してHe:H=90:10、RF電力130W、加工時間5分、ガス流量100sccm、Gaに関してHe:H=96:4、RF電力130W、加工時間5分、ガス流量500sccmである。この付着物を分析した結果、金属Gaであることが分かり、表面の還元や反応生成物の再付着等によって形成した金属GaがGaNやGaよりも水素ラジカルによるエッチング速度が低いため、加工後も表面に残留したものと考えられる。
【0028】
次に、GaNについて、前述のエッチングガスを用いて、ガス流量と水素ガス濃度を変化させて加工レートを評価した。図8は、加工条件として、He:H=95:5、RF電力180W、加工時間5分に固定し、ガス流量を100、500、800sccmと変化させた場合の加工レートを示すグラフである。ガス流量の増加に伴って加工レートが増加していることが分かる。これはプラズマからエネルギーを受け取るH量が増加し、水素ラジカルが増加したためと理解できる。図9は、加工条件として、RF電力180W、加工時間5分、ガス流量500sccmに固定し、水素ガス濃度を1、5、10%と変化させた場合の加工レートを示すグラフである。ヘリウムに対する水素濃度が5%で加工レートが最大になることが分かる。水素ガス濃度が低いと反応に寄与する水素ラジカルが不足して加工レートが低く、逆に水素ガス濃度が高いとプラズマ中のエネルギーが減少して加工レートが低下すると考えられる。尚、水素ガス濃度が低くてもガス流量を増やせば加工レートを高めることができるので、水素ガス濃度は0.5~10%の範囲が好ましい。実用的には、水素ガス濃度は2~10%の範囲がより好ましく、更に好ましくは3~7%の範囲である。
【0029】
また、GaNについて、前述のエッチングガスを用いて、RF電力と保持台2(試料台)の温度を変化させて加工レートを評価した。図10は、加工条件として、He:H=90:10、加工時間5分、ガス流量100sccmを固定し、RF電力を130、150、180、200Wと変化させた変化させた場合の加工レートを示すグラフである。電力増加に伴って加工レートが増加することが分かる。これは、電力増加に伴って水素ラジカルが増加するとともに、GaN基板の温度が上昇したためと推測される。図11は、加工条件として、He:H=90:10、RF電力130W、加工時間5分、ガス流量500sccmに固定し、保持台2(試料台)の温度を30、50、200℃と変化させた場合の加工レートを示すグラフである。温度の上昇とともに加工レートは増加するが飽和傾向を示している。
【0030】
対比として、図12に、Gaについて、加工条件として、He:H=90:10、RF電力130W、加工時間5分、ガス流量75sccmに固定し、保持台2(試料台)の温度を30、50、70、100℃と変化させた場合の加工レートを示すグラフである。加工レートは50℃で最大となるが、温度に対する依存性は小さいことが分かる。
【0031】
前述の水素ガスからなるエッチングガスによるプラズマエッチングによって、ガリウム化合物を高能率に加工できることが分かったが、エッチング後にガリウム化合物表面に金属Gaの粒子が付着する問題が未解決である。そこで、GaNについて、ガス流量を増加させると金属Gaがどうなるかを調べた。図13は、加工条件が、He:H=95:5、RF電力180W、加工時間5分、ガス流量800sccmの場合のGaN表面の走査電子顕微鏡像である。図6と比較すれば、加工条件が多少異なるものの、ガス流量を増加させることによって金属Gaの粒径が約1/10に小さくなっていることが分かるが、消滅することはない。また、図6の状態の基板をGaの融点(29.76℃)よりも高い温度に昇温した後、堆積物を拭き取っても完全に除去することはできなかった。
【0032】
そこで、本発明では、水素ガスからなるエッチングガスに、水素ラジカルによりエッチングされ易いように金属Gaを酸化するための酸化性ガスを添加することを提案する。ここで、酸化性ガスの具体例としては、実用的な観点から水蒸気(HO分子)若しくは酸素ガス(O分子)が挙げられる。酸化性ガスの添加により金属Gaを酸化し、水素ラジカルとの反応によって気化が促進されることが期待できる。
【0033】
本発明は、ガリウム化合物の表面をプラズマエッチングにより加工する加工方法であって、不活性ガスと水素ガスからなるエッチングガスに、金属ガリウムを酸化する作用のある酸化性ガスを添加してプロセスガスとし、プラズマを発生させてガリウム化合物の表面をプラズマエッチングして加工するガリウム化合物の加工方法である。そして、本発明では、前記酸化性ガスが、水蒸気又は酸素ガスであるというものである。
【0034】
図2(b)は、前述のエッチングガスに酸化性ガスとして水蒸気を添加するガス供給系5を示している。このガス供給系5は、ヘリウムガスボンベ13からマスフローコントローラ14を介して供給されたヘリウムガスと、水素ガスボンベ15からマスフローコントローラ16を介して供給された水素ガスとを混合してエッチングガスとし、該エッチングガスを気密水槽22の水中に通して水蒸気を気化混合してプロセスガスを調製する構造である。
【0035】
図2(b)に示したガス供給系5で調製し、水蒸気を添加したプロセスガスを用いて窒化ガリウム基板と酸化ガリウム基板をプラズマエッチングした結果を図14図15に示す。図14は、加工条件として、プロセスガスがエッチングガスHe:H=95:5に水蒸気添加、RF電力200W、加工時間3分、ガス流量800sccm、温度150℃とした場合のGaN表面の走査電子顕微鏡像である。図15は、加工条件として、プロセスガスがエッチングガスHe:H=90:10に水蒸気添加、RF電力80W、加工時間5分、ガス流量500sccm、温度50℃とした場合のGa表面の走査電子顕微鏡像である。これらの結果から、水蒸気を含むプロセスガスを用いて、ガリウム化合物の表面をプラズマエッチングすることにより、金属Gaの堆積のない綺麗な加工面に加工できた。
【0036】
図2(c)は、前述のエッチングガスに酸化性ガスとして酸素ガスを添加するガス供給系5を示している。このガス供給系5は、ヘリウムガスボンベ13からマスフローコントローラ14を介して供給されたヘリウムガスと、水素ガスボンベ15からマスフローコントローラ16を介して供給された水素ガスとを混合してエッチングガスとし、該エッチングガスに、酸素ガスボンベ23からマスフローコントローラ24を介して供給された酸素ガスを混合してプロセスガスを調製する構造である。
【0037】
図2(c)に示したガス供給系5で調製し、酸素ガスを添加したプロセスガスを用いて窒化ガリウム基板と酸化ガリウム基板をプラズマエッチングした結果を図16図17に示す。図16は、加工条件として、He:H:O=92:4:4、RF電力100W、加工時間3分、ガス流量500sccm、温度80℃とした場合のGaN表面の走査電子顕微鏡像である。図17は、加工条件として、He:H:O=92:4:4、RF電力80W、加工時間3分、ガス流量500sccm、温度50℃とした場合のGa表面の走査電子顕微鏡像である。これらの結果から、酸素ガスを含むプロセスガスを用いても、ガリウム化合物の表面をプラズマエッチングすることにより、金属Gaの堆積のない綺麗な加工面に加工できた。
【0038】
このように、He/H/HOからなるプロセスガスを用いてガリウム化合物のプラズマエッチングを行ったところ、図14図15に示すように、加工後表面には球状の付着物は全く見られなくなり、光沢のある加工面が得られるようになった。HO 代わりに酸素ガスを添加しても同様の効果が確認されたため、加工中に表面に形成された金属Gaはプラズマ中の酸素ラジカルによって速やかに酸化され、水素ラジカルによりエッチングされたものと考えられる。
【符号の説明】
【0039】
1 ガリウム化合物
2 保持台
3 電極
4 高周波電源
5 ガス供給系
6 排気系
7 温度計
8 筒体
9 上板
10 供給路
11 中心孔
12 排気路
13 ヘリウムガスボンベ
14 マスフローコントローラ
15 水素ガスボンベ
16 マスフローコントローラ
17 真空ポンプ
18 除害筒
19 バルブ
20 バルブ
21 圧力計
22 気密水槽
23 酸素ガスボンベ
24 マスフローコントローラ
図1
図2
図3
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