(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077361
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240531BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189418
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(72)【発明者】
【氏名】石見 駿太郎
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA23
2H033BA11
2H033BA12
2H033BA25
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB33
2H033BB38
2H033BE00
2H033BE03
(57)【要約】
【課題】潤滑剤による被記録媒体や装置内部の汚損を防止できると共に定着ベルトの摩耗を抑制して装置の耐久性を維持することが可能な定着装置及びこれを用いた画像形成装置を提供する。
【解決手段】無端状のベルト部材29と、ベルト部材29を加熱する加熱部材30と、ベルト部材29を走行可能に支持する支持部材32と、ベルト部材29の内周部に配置され、ベルト部材29を外方に向けて押圧する押圧部材33と、ベルト部材29を介して押圧部材33を押圧して、ベルト部材29と共に被記録媒体Sが挟持搬送される定着ニップNを形成する加圧部材35と、ベルト部材29の内面に潤滑剤を供給する供給部材31と、供給部材31に接触し、供給部材31からベルト部材29の内面に供給される潤滑剤がベルト部材29の両端部に比して中央部が多くなるように潤滑剤を整流する潤滑剤整流部材34と、を備えた定着装置15。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状のベルト部材と、
前記ベルト部材を加熱する加熱部材と、
前記ベルト部材を走行可能に支持する支持部材と、
前記ベルト部材の内周部に配置され、前記ベルト部材を外方に向けて押圧する押圧部材と、
前記ベルト部材を介して前記押圧部材を押圧して、前記ベルト部材と共に被記録媒体が挟持搬送される定着ニップを形成する加圧部材と、
前記ベルト部材の内面に潤滑剤を供給する供給部材と、
前記供給部材に接触し、前記供給部材から前記内面に供給される前記潤滑剤が前記ベルト部材の両端部に比して中央部が多くなるように前記潤滑剤を整流する潤滑剤整流部材と、
を備えた定着装置。
【請求項2】
請求項1記載の定着装置において、
前記潤滑剤整流部材は前記供給部材に接触するシート部材を有し、前記シート部材は前記供給部材に接触する接触量が、幅方向の両端部で短く中央部に向かうに従い長くなることを特徴とする定着装置。
【請求項3】
請求項2記載の定着装置において、
前記シート部材は厚みが50~300μmであることを特徴とする定着装置。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一つに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子写真方式を採用した画像形成装置において、加熱部材により加熱された無端ベルトからなる定着ベルト及びこれに接触する加圧部材によって定着ニップを形成し、定着ニップにトナー像が転写された被記録媒体を通過させ、熱及び圧力により被記録媒体にトナー像を定着させる定着装置が知られている。
このような定着装置において、定着ベルトの内部に押圧部材を設けると共に加圧部材を弾性部材により構成し、定着ベルトを介して加圧部材を押圧部材に圧接させて加圧部材の弾性変形により定着ニップを形成する技術が知られており、このような定着装置は摺動定着装置と呼ばれている。この摺動定着装置では、固定された押圧部材に対して定着ベルトが摺接しながら走行移動するが、移動時における定着ベルトと押圧部材との摩擦抵抗を軽減させるため、定着ベルトの内面に潤滑剤を供給する技術が提案されている(例えば「特許文献1」、「特許文献2」、「特許文献3」、「特許文献4」、「特許文献5」参照)。
【0003】
「特許文献1」には、潤滑剤漏れを防止して加圧ベルトのスムーズな走行を可能とすべく、加圧部材及び定着部材及び加圧ベルトと、加圧ベルトの内面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布部材と、加圧ベルトの内面に摺接して潤滑剤を掻き取る一対の第1ブレード部材とを有する定着装置が開示されている。第1ブレード部材によって掻き取られた潤滑剤は、潤滑剤塗布部材によって回収される。
これにより、定着ベルト端部からの潤滑剤漏れが防止されて潤滑剤による記録用紙や装置内部の汚損が防止され、さらに掻き取った潤滑剤を潤滑剤塗布部材に戻すので長期間安定した潤滑剤塗布が可能になるとされている。
【0004】
「特許文献2」には、潤滑剤を含有させた摺動部材から潤滑剤が漏れて枯渇することを防止すべく、定着部材と熱源とニップ形成部材と摺動部材とを備え、摺動部材に潤滑剤を流す流路を形成し、流路の両側に潤滑剤を循環させる潤滑剤循環流路を接続した定着装置が開示されている。流路の一方側から漏れた潤滑剤は、潤滑剤循環流路を介して流路の他方側へ供給される。
これにより、摺動部材に含有される潤滑剤の枯渇をなくすことができるとされている。
【0005】
「特許文献3」には、定着ベルトの摺動方向と同じ向きに形成された繊維凹溝方向を有する摺動シートを備え、潤滑剤循環部材がニップ部の上流側の摺動シートに供給する潤滑剤を保持すると共に、定着ベルトに潤滑剤を供給してニップ部の下流側に供給する定着装置が開示されている。
これにより、定着ベルトの両端部からの潤滑剤の流出が防止され、定着ベルトの摺動性が向上して移動時におけるトルク上昇を防止でき、定着装置の高寿命化を図ることができるとされている。
【0006】
「特許文献4」には、定着ベルトの幅方向端部から潤滑剤が漏出することを抑制すべく、定着ベルトとニップ形成部材と加圧部材と潤滑剤含浸部材とを備え、潤滑剤含浸部材は、定着ベルトの内周面に接触する接触部と、接触部のベルト移動方向上流側に設けられた非接触部とを有する定着装置が開示されている。
これにより、定着装置の外部に潤滑剤が漏出することを抑制できるとされている。
【0007】
「特許文献5」には、ベルト部材に保持された潤滑剤が両端部側へと偏ることを抑制すべく、回動部材とベルト部材とベルトガイド部材とを備え、ベルトガイド部材のベルト部材との当接面に、ベルト部材の回動方向上流側から下流側に向けて、ベルト部材の幅方向中央部に向けて傾けて形成された複数の溝を有する定着装置が開示されている。
これにより、ベルト部材の円滑な回動性を確保でき長期にわたり高品質な画像を形成できると共に、潤滑剤の外部への漏洩を抑制でき光沢に優れた定着画像の形成を維持できるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の摺動定着装置では、ベルト内面と押圧部材とが摺動しているため、ベルト内面に供給された潤滑剤が押圧部材のベルト走行方向上流側端部で堰き止められ、堰き止められた潤滑剤が押圧部材の端部に沿ってベルト幅方向に移動し、少しずつベルト外部に漏出して被記録媒体や装置内部に付着して、被記録媒体や装置内部が汚損されるという問題点がある。また、潤滑剤の流出によりベルト内面の潤滑剤が不足し、ベルト内面と押圧部材との摺動抵抗が増加して装置の故障の原因となるという問題点がある。
【0009】
「特許文献1」に開示された技術では、第1ブレード部材によって定着ベルト端部からの潤滑剤漏れが防止され、潤滑剤による被記録媒体や装置内部の汚損を防止することができるとされているが、第1ブレード部材によって定着ベルトの摩耗が促進され、装置の耐久性が低下するという問題点がある。
本発明は上述した問題点を解決し、潤滑剤による被記録媒体や装置内部の汚損を防止できると共に定着ベルトの摩耗を抑制して装置の耐久性を維持することが可能な定着装置及びこれを用いた画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、無端状のベルト部材と、前記ベルト部材を加熱する加熱部材と、前記ベルト部材を走行可能に支持する支持部材と、前記ベルト部材の内周部に配置され、前記ベルト部材を外方に向けて押圧する押圧部材と、前記ベルト部材を介して前記押圧部材を押圧して、前記ベルト部材と共に被記録媒体が挟持搬送される定着ニップを形成する加圧部材と、前記ベルト部材の内面に潤滑剤を供給する供給部材と、前記供給部材に接触し、前記供給部材から前記内面に供給される前記潤滑剤が前記ベルト部材の両端部に比して中央部が多くなるように前記潤滑剤を整流する潤滑剤整流部材と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、潤滑剤による被記録媒体や定着装置内部の汚損を防止できると共にベルト部材の摩耗を抑制して耐久性を維持することが可能な定着装置及びこれを用いた画像形成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る定着装置の概略正面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に用いられる潤滑剤整流部材を説明する概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るシート部材の先端偏差と潤滑剤の移動速度との相関関係を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るシート部材の厚みと潤滑剤の移動の有無との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る定着装置が適用可能な画像形成装置を示している。同図において画像形成装置としてのプリンタ1は、装置本体2のほぼ中央に中間転写ユニット3を有している。中間転写ユニット3は、中間転写体としての中間転写ベルト4を備えており、中間転写ベルト4は複数の支持ローラによってループ状に張架されている。支持ローラは、中間転写ベルト4を
図1において時計回り方向に走行駆動する駆動ローラ5、二次転写バックアップローラ6、従動ローラ7,8、4個の一次転写ローラ9Y,9M,9C,9Kから構成される。
中間転写ベルト4は、ほぼ逆三角形の姿勢で張架され、逆三角形の上辺に当たるベルト上部張架面の上方に、イエロ、マゼンタ、シアン、ブラックの4色分のプロセスカートリッジ10Y,10M,10C,10Kが、それぞれ水平方向に順次配置されている。
【0014】
プロセスカートリッジ10Yはイエロの作像部を収容し、作像されたイエロのトナー像が中間転写ベルト4上に転写される。同様にプロセスカートリッジ10Mはマゼンタの作像部を、プロセスカートリッジ10Cはシアンの作像部を、プロセスカートリッジ10Kはブラックの作像部をそれぞれ収容する。
これ等各色のプロセスカートリッジ10から、各色のトナー像が各一次転写ローラ9と対向する一次転写位置において中間転写ベルト4にそれぞれ転写される。中間転写ベルト4上に一次転写されたカラートナー像は、中間転写ベルト4の走行移動により二次転写部11に送られる。
【0015】
図1において、プロセスカートリッジ10Y,10M,10C,10Kの上方には、画像情報に基づいた露光光Lを後述する感光体ドラム17に照射する、イエロ及びマゼンタ用とシアン及びブラック用との一対の露光部12が設けられている。一対の露光部12は、図示しないスキャナ等から後述する制御部21に送信される原稿の画像情報に基づいて各色の画像データを受け、共に図示しないレーザ制御部及び半導体レーザによって4本の露光光Lを出射する。そして各プロセスカートリッジ10が有する感光体ドラム17をそれぞれ露光光Lによって走査し、各感光体ドラム17の表面にイエロ、マゼンタ、シアン、ブラックの静電潜像をそれぞれ書き込む。
図1において、符号13,14は被記録媒体である転写シートSを収容した給紙部を、符号15は転写シートS上に転写された未定着トナー像を熱と圧力とによって定着させる定着装置を、符号16は内部にトナーを収容したトナーボトルをそれぞれ示している。定着装置15の構成及び動作については後述する。
【0016】
次に、プロセスカートリッジ10について説明する。なお、プロセスカートリッジ10Y,10M,10C,10Kは用いられるトナーの色を除いて全て同じ構成であるので、ここではプロセスカートリッジ10Yのみを代表して説明する。
プロセスカートリッジ10Yのほぼ中央には、像担持体である感光体ドラム17Yが配置されており、その周囲には、感光体ドラム17Yを帯電させる帯電装置18Y、感光体ドラム17Yの表面に形成された静電潜像を現像する現像装置19Yが配置されている。さらに感光体ドラム17Yの周囲には、感光体ドラム17Yの表面に残存した未転写トナーを回収する感光体クリーニング装置20Y、感光体ドラム17Yの表面を除電する図示しない除電装置が配置されている。これ等各部材は共通の支持体であるケーシングによってそれぞれ支持され、装置本体2に対して一つのプロセスカートリッジ10Yとして一体的に着脱可能に構成されており、これによりメンテナンス性が向上されている。
【0017】
次に、画像形成時におけるプリンタ1の動作を説明する。先ず、装置本体2の内部に設けられた周知のマイクロコンピュータからなる制御部21に図示しないスキャナから画像情報が送信され、受信した画像情報はイエロ、マゼンタ、シアン、ブラックの4色に色分解される。各色のうち、例えばイエロの画像情報は電気信号に変換された後にプロセスカートリッジ10Yに入力され、露光部12に送信される。露光部12からは、送信された電気信号からなる画像情報に基づいたレーザ光等の露光光Lが感光体ドラム17Yに向けて照射される。
【0018】
各感光体ドラム17は
図1において反時計回り方向に回転しており、各帯電装置18によってそれぞれの表面を一様に帯電される。帯電された各感光体ドラム17の表面には、露光光Lの照射によって画像情報に対応した静電潜像が形成される。形成された静電潜像は各感光体ドラム17の回転によって各現像装置19との対向部に到達し、各現像装置19によって顕像化される。
現像装置19内のトナーは、図示しないトナーホッパから供給されたトナーと共に図示しない攪拌部材によってキャリアと混合され、混合により摩擦帯電されたトナーはキャリアと共に周知の現像ローラ上に供給される。現像ローラ上に担持されたトナーは、周知のドクターブレードを通過してその層厚を均一化された後に感光体ドラム17との対向部に達し、表面上に形成された静電潜像に付着する。
なお、図示しないトナーホッパから供給されるトナーは現像装置19内のトナー消費に伴いトナーボトル16から適宜供給され、現像装置19内のトナー消費は感光体ドラム17に対向する図示しない光センサからなるトナー濃度センサによって検出される。
【0019】
現像装置19によって現像され感光体ドラム17の表面上に形成されたトナー像は、一次転写ローラ9との対向部において中間転写ベルト4上に一次転写される。一次転写工程後、感光体ドラム17の表面には中間転写ベルト4に転写されなかった未転写トナーが僅かながら残存する。この後、感光体ドラム17は表面を図示しない除電装置によって除電され、残留している静電電位が除去されて電位がリセットされる。このような除電工程を経た後、未転写トナーを有する感光体ドラム17の表面は感光体クリーニング装置20に到達する。感光体クリーニング装置20は感光体ドラム17の表面に付着した残留トナーを除去するものであり、周知のブラシやローラ、ブレード等を有している。感光体ドラム17の表面に付着した未転写トナーは、感光体クリーニング装置20が有するブラシ、ローラ、ブレード等によって、感光体ドラム17の表面から除去される。
【0020】
各プロセスカートリッジ10から各色のトナー像が中間転写ベルト4上にそれぞれ一次転写され、各色のトナー像が重ねられることで中間転写ベルト4上にフルカラートナー像が形成されると、形成されたフルカラートナー像は中間転写ベルト4の走行移動によって二次転写部11に送られる。これと同時に、給紙部13,14のうちの一つが自動または手動で選択される。本実施形態では、給紙部13が選択されたものとする。
給紙部13に設けられた給紙ローラ22が駆動されることにより、給紙部13に収容されている転写シートSの一枚が搬送経路Kに向けて給送され、搬送経路Kを通過した転写シートSはレジストローラ対23に到達する。その後、レジストローラ対23が所定のタイミングで回転することにより、転写シートSは中間転写ベルト4上のフルカラートナー像と位置合わせされたタイミングで二次転写部11に向けて給送される。
【0021】
二次転写部11に送られた転写シートSは、二次転写部11に設けられた二次転写ローラ24が変位して二次転写バックアップローラ6に当接することにより中間転写ベルト4に圧接され、その表面にフルカラートナー像を転写される。トナー像が転写された転写シートSは搬送コンベヤ37によって定着装置15に送られ、熱と圧力とにより転写されたトナー像が定着される。定着後のシートSは、出力画像として排紙トレイ25上に排出される。
二次転写部11を通過した中間転写ベルト4は、二次転写部11のベルト走行方向下流側に配置されたベルトクリーニング部26に到達し、ベルトクリーニング部26に設けられたガイドローラ27に対向する部位で掻き取りブレード28によって残留トナーを除去される。ガイドローラ27は、中間転写ベルト4に一定の張力を与えると共に、掻き取りブレード28による掻き取り動作を容易化させている。掻き取りブレード28は中間転写ベルト4よりも寿命が短いため、適宜交換される。以上の動作により、一連の画像形成プロセスが完了する。
【0022】
ここで、定着装置15の構成及び動作について説明する。
図2は、定着装置15の概略図を示している。
図2において定着装置15は、無端ベルトからなるベルト部材としての定着ベルト29、加熱部材としての加熱ローラ30、供給部材としての供給ローラ31、支持部材としてのテンションローラ32を有している。さらに定着装置15は、押圧部材としての摺動パッド33、潤滑剤整流部材34、加圧部材としての加圧ローラ35、ガイド部材36等を有している。定着ベルト29、摺動パッド33、加圧ローラ35は、それぞれの全幅、すなわちシート搬送方向に直交する転写シートSの幅方向における大きさが、プリンタ1で画像形成可能な最大サイズの転写シートSの幅よりも大きくなるように設定されている。
【0023】
無端状の定着ベルト29は多層構造のベルトであり、例えば基材及び離型層によって構成される二層構造のベルト、または基材及び弾性層及び離型層によって構成される三層構造のベルトである。定着ベルト29に弾性層を設けることにより、トナー像へ定着ベルト29の表面が密着し易くなり画質を向上できる。定着ベルト29は一般的な構造であり、基材にはポリイミドが用いられており、離型層にはPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)またはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が用いられている。
加熱ローラ30は内部にヒータ30aを備えており、ヒータ30aによって加熱された加熱ローラ30によって定着ベルト29が加熱される。ヒータ30aの出力制御は、加熱ローラ30に当接した定着ベルト29の表面温度を図示しない温度検出手段によって検出し、この検出結果に基づいて制御部21により行われる。加熱ローラ30は定着装置15の図示しないフレームに回転自在に支持されており、定着ベルト29の走行時に従動回転する。
【0024】
定着ベルト29が掛け渡される供給ローラ31は金属製の基部31aとその周囲に設けられた供給部31bとを備えており、基部31aを定着装置15の図示しないフレームに回転自在に支持され、定着ベルト29が
図2に矢印Aで示す方向に走行駆動される際に従動回転する。
供給部31bは、フェルト、アラミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)等の不織布や、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)またはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の耐熱性及びオイル保持性を有する繊維体によって構成されており、アミノシリコーンオイル等の耐熱性を有する低粘度の潤滑剤が含浸されている。供給部31bに含浸される潤滑剤は、定着装置15内に設けられた図示しない潤滑剤貯容部から適宜供給される。
定着ベルト29が掛け渡されるテンションローラ32は図示しない支持部材によって回転自在に支持されており、この支持部材は定着装置15の図示しないフレームに移動可能に支持されている。図示しない支持部材にはテンションローラ32を
図2において左方へと付勢する圧縮ばね32aが取り付けられており、これにより定着ベルト29にはテンションローラ32によって所定の張力が付与されている。
【0025】
摺動パッド33は、図示しない支持部材によって定着装置15の図示しないフレームに固定されている。これにより、後述する加圧ローラ35で加圧された際にも摺動パッド33の位置が変わらず、均一な幅の定着ニップを得ることができる。なお、加圧ローラ35の押圧力を制御することにより、定着ニップの幅を制御可能である。
摺動パッド33は、転写シートSの搬送方向に沿ってニップ形成面を有しており、定着ベルト29との摺動抵抗を低減させるためにニップ形成面にはフッ素樹脂層が設けられていて、ニップ形成面の両端部には曲面加工が施されている。なお、本実施形態ではニップ形成面を湾曲形成したが平面であってもよい。湾曲形成する場合には、転写シートSの搬送に支障がない程度に形成される。
【0026】
摺動パッド33としては、耐熱性部材で構成されることが好ましい。これにより、トナー定着温度域での熱による変形が防止され、安定した定着ニップを確保して出力画像の安定化を図ることができる。
摺動パッド33を構成可能な耐熱性部材としては、例えばポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマ(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の一般的な耐熱性樹脂が挙げられる。
【0027】
潤滑剤整流部材34は、供給ローラ31が定着ベルト29の内周面に接触する位置よりもベルト走行方向上流側の外周面近傍に設けられている。潤滑剤整流部材34については後述する。
加圧ローラ35は、定着ベルト29の外周部であって定着ベルト29を介して摺動パッド33と対向する位置に配置されており、定着ベルト29を介して摺動パッド33に圧接離間可能に構成されている。加圧ローラ35は、外周面に例えばシリコンゴムからなる弾性層を有する弾性体であり、定着ベルト29を介して摺動パッド33に圧接した際に弾性変形することにより、
図2に示す定着ニップNを形成する。加圧ローラ35は揺動自在に設けられた図示しない側板に回転自在に支持されており、この側板に取り付けられた図示しないモータ等の駆動手段によって回転駆動される。図示しない接離手段の作動により加圧ローラ35が定着ベルト29を介して摺動パッド33に圧接した際に、加圧ローラ35の回転力が伝達されて定着ベルト29が
図2の矢印方向に走行駆動される。
定着装置15の図示しない側板に固定された板状部材からなるガイド部材36は、搬送コンベヤ37によって搬送された転写シートSを定着ニップNに向けて案内する。
【0028】
図2において、それぞれ二点鎖線で示すリフレッシュローラ38及びリフレッシュ対向ローラ39は、定着ベルト29を介して互いに対向するように配置されている。リフレッシュ対向ローラ39はその周面を定着ベルト29の内周面に近接して配置されており、リフレッシュローラ38は図示しない接離手段によってその周面が定着ベルト29の外周面から離間する離間位置と定着ベルト29を介してリフレッシュ対向ローラ39に接触する接触位置とを選択的に占める。リフレッシュローラ38はその周面に凹凸部を有しており、接触位置を占めた際に凹凸部を定着ベルト29の外周面に接触させて、走行する定着ベルト29の外周面(表面)を研磨して表面性を回復させる機能を備えている。なお、リフレッシュローラ38及びリフレッシュ対向ローラ39は、その配置を省略可能である。
【0029】
回転駆動された加圧ローラ35が定着ベルト29を介して摺動パッド33に圧接することにより、定着ベルト29が走行駆動されると共に加熱ローラ30が従動回転され、さらに供給部31bから定着ベルト29の内面に潤滑剤が供給される。搬送コンベヤ37によって定着装置15に送られてきた転写シートSはガイド部材36によって定着ニップNに案内され、加圧ローラ35の回転に伴い定着ニップNを搬送される。このとき、ヒータ30aから加熱ローラ30及び定着ベルト29を介して転写シートSに熱が伝えられて転写シートS上の転写トナーが溶融され、加圧ローラ35による圧力との相互作用により転写シートS上にトナー像が定着される。
【0030】
上述の構成において、供給ローラ31によって定着ベルト29の内面に供給された潤滑剤は摺動パッド33のベルト走行方向上流側端部で堰き止められ、堰き止められた潤滑剤が摺動パッド33の端部に沿って幅方向に移動し、少しずつ定着ベルト29の外部に漏出して被記録媒体や装置内部が汚損されるという問題点がある。また、漏出により定着ベルト29内の潤滑剤が枯渇すると、摺動パッド33と定着ベルト29との摩擦抵抗が上昇して定着ベルト29の摩耗が促進され、定着ベルト29及び定着装置15の耐久性が低下するという問題点がある。
【0031】
上述した問題点の発生を防止する本発明の潤滑剤整流部材34を以下に説明する。
図2を矢印Bの方向から見た
図3に示すように、潤滑剤整流部材34は保持部34a及び保持部34aに固定された2枚のシート部材としてのブレード34bによって構成されている。金属や硬質樹脂等の強度を有する材質からなる保持部34aは定着装置15の図示しないフレームに固定されており、マイラ等の弾性を有する薄いシート材からなる各ブレード34bはそれぞれの先端を供給ローラ31の周面に接触させる態様で配置されている。
各ブレード34bは、その幅方向外側の端部がそれぞれ供給ローラ31の両端部よりも内側に位置するように形成されており、それぞれの中央部には所定の間隔が設けられている。各ブレード34bの矢印Aで示すベルト走行方向における突出量、すなわち供給ローラ31の周面に接触する接触量は、両端部で最も短く中央部に向かうに従い長くなるように形成されている。
【0032】
ここで、ブレード34bの形状を上述のように決定した実験について説明する。実験では、ブレード34bとして、耐熱性、耐寒性、耐油性及び耐久性に優れたシート材であるカプトンシート(登録商標)を用いた。
図4は、シート部材であるブレード34bの先端偏差と潤滑剤移動速度との関係を示すグラフである。同図において、シート部材先端偏差とは、中央部におけるブレード34bの突出量から端部におけるブレード34bの突出量を差し引いた値を示している。この実験では、ブレード34bとして厚みが100μmのものを用いた。
【0033】
図4から判るように、ブレード34bの突出量は短ければ短いほど、シート部材の剛性による影響を受けるために供給ローラ31に対する接触圧力が高くなる。そして、潤滑剤は圧力が高い方から低い方へと移動する。従って、ブレード34bの突出量を中央部に比して端部寄りを短くすると、潤滑剤は端部から中央部に向けて寄っていく。シート部材の先端偏差と潤滑剤の移動速度とは相関関係があり、先端偏差が大きくなるほどシート部材の接触圧力の偏差が大きくなり、潤滑剤の移動速度が増加することが判明した。
【0034】
このことから、各ブレード34bの供給ローラ31の周面に接触する接触量を両端部で最も短く中央部に向かうに従い長くなるように形成したことにより、供給ローラ31から定着ベルト29の内面に供給される潤滑剤を定着ベルト29の両端部に比して中央部を多くすることができる。
これにより、潤滑剤が定着ベルト29の両端部より漏出することを抑制でき、潤滑剤による転写シートSや定着装置15内部の汚損を防止できると共に定着ベルト29の摩耗を抑制して耐久性を維持することが可能な定着装置15及びこれを用いた画像形成装置1を提供できる。
【0035】
図5は、ブレード34bの厚みと潤滑剤の移動の有無との関係を実験によって求めた結果を示す表である。実験は、シート部材として50μm未満、100μm、200μm、300μm、400μmの厚みを有する5種類のブレード34bを用いて行った。
図5から判るように、厚みが50μm未満であるとシート部材の剛性が低すぎ、幅方向の中央部と端部とで接触圧力の偏差が生じることがなく、潤滑剤が移動しないことが判明した。また、厚みが400μm以上であるとシート部材の剛性が高すぎ、全ての潤滑剤をシート部材が掻き取ってしまうために潤滑剤が移動しなくなることが判った。このことから、ブレード34bとして適用可能なシート部材としては厚みが50~300μmであるものが好適であることが判明した。この厚みとすることにより、上述した作用効果、すなわち潤滑剤による転写シートSや定着装置15内部の汚損を防止できると共に定着ベルト29の摩耗を抑制して耐久性を維持することが可能な定着装置15及びこれを用いた画像形成装置1を提供できるという作用効果を実現できる。
【0036】
上記実施形態及び変形例では、本発明が適用可能な画像形成装置としてフルカラーのプリンタ1を用いた例を示したが、本発明が適用可能な画像形成装置としてはこれに限られず、複写装置、ファクシミリ、複合機等にも本発明は適用可能である。
また上記実施形態では、画像が形成される被記録媒体として転写シートSを用いる構成を示したが、この転写シートSとは記録紙には限定されず、厚紙、ハガキ、ロール紙、封筒、普通紙、薄紙、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ、OHPシート、OHPフィルム、樹脂フィルム等も含まれ、シート状で画像形成可能であればどのようなものを用いてもよい。
【0037】
本発明の態様は、例えば以下の通りである。
[1]無端状のベルト部材と、前記ベルト部材を加熱する加熱部材と、前記ベルト部材を走行可能に支持する支持部材と、前記ベルト部材の内周部に配置され、前記ベルト部材を外方に向けて押圧する押圧部材と、前記ベルト部材を介して前記押圧部材を押圧して、前記ベルト部材と共に被記録媒体が挟持搬送される定着ニップを形成する加圧部材と、前記ベルト部材の内面に潤滑剤を供給する供給部材と、前記供給部材に接触し、前記供給部材から前記内面に供給される前記潤滑剤が前記ベルト部材の両端部に比して中央部が多くなるように前記潤滑剤を整流する潤滑剤整流部材と、を備えた定着装置である。
[2]前記潤滑剤整流部材は前記供給部材に接触するシート部材を有し、前記シート部材は前記供給部材に接触する接触量が、幅方向の両端部で短く中央部に向かうに従い長くなることを特徴とする[1]に記載の定着装置である。
[3]前記シート部材は厚みが50~300μmであることを特徴とする[2]に記載の定着装置である。
[4][1]ないし[3]の何れか一つに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置である。
【0038】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を例示したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0039】
1 画像形成装置(プリンタ)
15 定着装置
29 ベルト部材(定着ベルト)
30 加熱部材(加熱ローラ)
31 供給部材(供給ローラ)
32 支持部材(テンションローラ)
33 押圧部材(摺動パッド)
34 潤滑剤整流部材
34b シート部材(ブレード)
35 加圧部材(加圧ローラ)
N 定着ニップ
S 被記録媒体(転写シート)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0040】
【特許文献1】特許第5040304号公報
【特許文献2】特開2014-174434号公報
【特許文献3】特開2014-174358号公報
【特許文献4】特開2017-125919号公報
【特許文献5】特開2006-78965号公報