(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077477
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】認知機能測定装置、認知機能測定システム、認知機能測定方法、及び認知機能測定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20240531BHJP
G16H 50/30 20180101ALI20240531BHJP
【FI】
A61B10/00 H
G16H50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189602
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】土嶺 章子
(72)【発明者】
【氏名】森瀬 博史
(72)【発明者】
【氏名】工藤 究
(72)【発明者】
【氏名】三坂 好央
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】認知機能の測定において、測定精度の低下またはばらつきを抑制する。
【解決手段】認知機能測定装置は、動きが変化する複数のオブジェクトを含む視覚刺激を刺激提示領域内に提示する刺激提示部と、前記刺激提示領域内の特定領域への注視を促す注視情報を提示する注視情報提示部と、前記視覚刺激と前記注視情報の提示期間中に前記特定領域を少なくとも一回変える表示制御部と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動きが変化する複数のオブジェクトを含む視覚刺激を刺激提示領域内に提示する刺激提示部と、
前記刺激提示領域内の特定領域への注視を促す注視情報を提示する注視情報提示部と、
前記視覚刺激と前記注視情報の提示期間中に前記特定領域を少なくとも一回変える表示制御部と、
を有する認知機能測定装置。
【請求項2】
前記視覚刺激に対する被験者の応答を取得する応答取得部と、
前記応答に基づいて認知機能スコアを計算するスコア計算部、
を有する請求項1に記載の認知機能測定装置。
【請求項3】
前記視覚刺激は放射運動するオブジェクトであり、
前記応答取得部は、前記オブジェクトの湧き出し中心または吸い込み中心と前記特定領域との相対位置関係についての応答を取得する、
請求項2に記載の認知機能測定装置。
【請求項4】
前記注視情報は、位置を刺激特性として、被験者の視線方向を選択的に前記注視情報が提示される空間位置に向ける、
請求項1に記載の認知機能測定装置。
【請求項5】
前記視覚刺激は複数の異なる視覚刺激を含み、
前記提示期間中に、前記複数の異なる視覚刺激の各々に対する応答を取得する一連の取得動作が実行され、
前記表示制御部は、前記一連の取得動作の実行中に前記特定領域を定期的または不定期に変更する、
請求項1に記載の認知機能測定装置。
【請求項6】
前記表示制御部は、前記特定領域を所定回数の取得動作ごとに変更する、
請求項5に記載の認知機能測定装置。
【請求項7】
前記表示制御部は、前記オブジェクトの動きのパターンで分類されるタスクの種類が変わるときに、前記特定領域を変更することが可能な、
請求項5に記載の認知機能測定装置。
【請求項8】
前記タスクは、前記刺激提示領域内で前記オブジェクトが放射状に動く放射状タスク、前記オブジェクトが水平方向に動く水平運動タスク、前記オブジェクトの放射状の動きの中心を前記注視情報に対して偏心させる中心位置偏心タスク、またはこれらの組み合わせを含む、
請求項7に記載の認知機能測定装置。
【請求項9】
前記応答取得部で取得された前記応答の正誤を判断する解析部、
をさらに有し、
前記スコア計算部は、前記解析部の判断結果と前記視覚刺激のそれぞれに設定されているパラメータ値とに基づいて、前記認知機能スコアを計算する、
請求項2に記載の認知機能測定装置。
【請求項10】
前記注視情報は、シンボル、マーク、絵、文字、音、ドット、前記視覚刺激のオブジェクトとは異なるオブジェクト、またはこれらの組み合わせを含み、
前記表示制御部は、前記注視情報の提示位置、種類、色、形状の少なくともひとつを変更する、
請求項1に記載の認知機能測定装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の認知機能測定装置と、
前記視覚刺激と前記注視情報を表示する表示装置と、
を含む認知機能測定システム。
【請求項12】
動きが変化する複数のオブジェクトを含む視覚刺激を、刺激提示領域内に提示し、
前記刺激提示領域内の特定領域への注視を促す注視情報を、前記刺激提示領域内に提示し、
前記視覚刺激と前記注視情報の提示期間中に前記特定領域を少なくとも一回変化させる、
認知機能測定方法。
【請求項13】
前記視覚刺激に対する被験者の応答を取得し、
前記応答に基づいて前記被験者の認知機能スコアを計算し、
前記認知機能スコアを所定の閾値と比較して前記被験者の認知機能を計算する、
請求項12に記載の認知機能測定方法。
【請求項14】
コンピュータを、
動きが変化する複数のオブジェクトを含む視覚刺激を、刺激提示領域内に提示し、
前記刺激提示領域内の特定領域への注視を促す注視情報を、前記刺激提示領域内に提示し、
前記視覚刺激と注視情報の提示期間中に前記特定領域を少なくとも一回変化させる、
ように動作させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能測定装置、認知機能測定システム、認知機能測定方法、及び認知機能測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトが持つ五感のうち、視覚は特に外部の刺激情報の収集に大きく関与する。視覚認知機能は、一般的に加齢により低下すると言われているが、児童や成人においても、先天的または後天的に視覚認知機能が不十分になる場合がある。対象物の認知や空間関係の認識が困難な場合は、学習や作業に影響を及ぼす。視覚認知機能を回復または向上するトレーニングを行うに先立って、認知機能の定量的な測定が求められる。
【0003】
ドットが放射状に動くオプティックフローと呼ばれる視覚刺激を用いて、被験者にドットがどの方向に動いたかを判断させることで認知能力を判定する技術が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
視覚認知機能を測定するこれまでの装置では、もっぱら視覚刺激の中心位置を固視点としている。被験者は、検査の間は固視点を注視しているように指示され、固視点、すなわち視覚刺激の中心位置に対するドットの移動方向を回答する。固視点とは、文字通り、目を動かさないで見る一点である。被験者は、ドットの移動方向を判断するために常に固視点に注意を払わなければならないが、被験者にとって、一つの固視点を見続けていることは難しい。被験者にとって固視点への集中を持続することの困難さによって測定精度の低下が懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態において、認知機能測定装置は、
動きが変化する複数のオブジェクトを含む視覚刺激を刺激提示領域内に提示する刺激提示部と、
前記刺激提示領域内の特定領域への注視を促す注視情報を提示する注視情報提示部と、
前記視覚刺激と前記注視情報の提示を含む提示期間中に前記特定領域を少なくとも一回変える表示制御部と、
を備える。
【発明の効果】
【0006】
認知機能の測定精度の低下またはばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の認知機能測定システムの模式図である。
【
図2】注視情報の提示位置の変更例を示す図である。
【
図3】
図1のシステムで用いられる情報処理装置のハードウェア構成図である。
【
図5】認知機能測定装置が行う処理のフローチャートである。
【
図6】視覚刺激と注視情報の提示タイミングの例を示す図である。
【
図7】放射状タスクのパラメータの変更例を示す図である。
【
図8】水平運動タスクのパラメータの変更例を示す図である。
【
図9】湧き出し位置偏心タスクのパラメータの変更例を示す図である。
【
図10】一連のトライアルを含むセッションの例を示す図である。
【
図11】一連のトライアルを含むセッションの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下で、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。実施形態のひとつの側面で、認知機能の測定精度の低下またはばらつきを抑制する。下記の実施形態は、発明の技術思想を具体化するための例示であり、本発明を下記の構成と手法に限定するものではない。図面中、同一の構成要素には同一符号を付して、重複する記載を省略する場合がある。図面に示される部材の大きさや位置関係は、発明の理解を容易にするために誇張されている場合がある。
【0009】
実施形態では、オプティックフローと呼ばれる動的な視覚刺激と、固視点への注視を促す注視情報を用いた一連の刺激提示の中で、注視する特定領域を少なくとも一回変える。被験者の注視を促す特定領域を少なくとも一回変えることで、被験者の注意を固視点に惹きつけて、被験者の注意力を持続させる。これにより、注意力低下による測定精度の低下またはばらつきを抑制する。特定領域の変更には、注視情報の位置の変更、注視情報を示すアイコンの変更、注視情報の提示態様の変更などが含まれる。
【0010】
<システム及びデバイスの構成>
図1は、実施形態の認知機能測定システム1の模式図である。認知機能測定システム1は、表示装置20と、情報処理装置2を備える。情報処理装置2は、認知機能の測定を実行する認知機能測定装置10を含む。表示装置20は、視覚刺激101及び注視情報110を表示する表示画面30と、被験者(またはユーザ)による応答を検出する応答センサ60とを含む。表示画面30と応答センサ60は、別々の機器として情報処理装置2に接続されていてもよいし、表示画面30と応答センサ60が一体化したタッチパネル型の表示装置20を用いてもよい。後者の場合、応答センサ60はタッチセンサであり、静電容量または電気抵抗の変化から表示画面30への接触を検出し、検出結果を応答情報として出力する。なお、応答センサ60に代えてマウス等の入力手段によるユーザの応答を受け付けてもよい。
【0011】
視覚刺激101は、複数のオブジェクト100を含む。複数のオブジェクト100の全部または一部は、認知機能測定装置10で設定されたパラメータ値に応じて、表示画面30上の刺激提示領域5内を動的に動く。図中で、動的に動くオブジェクト100の移動方向を、便宜上、破線の矢印で示しているが、実際の表示画面30では、動きの方向を示す矢印は表示されない。刺激提示領域5は、表示画面30の全面に設定されてもよいし、表示画面30の一部に設定されてもよい。
【0012】
図1では、視覚刺激101を構成するオブジェクト100として、ある一点から放射状に湧き出して拡がる円形のドットを用いているが、この例に限定されない。被験者の視覚認知の能力を判定できるかぎり、オブジェクト100の色、形、及び動きは適切に選択され得る。オブジェクト100の形状は楕円、多角形、その他の形状であってもよい。オブジェクト100の輪郭の内部は一様に塗りつぶされていてもよいし、白抜きになっていてもよい。オブジェクト100の色は、背景画面に対して識別が可能な適切な色が選択される。後述するように、オブジェクト100の動きは、外側から内側へ吸い込まれる動きであってもよいし、水平方向の移動、ある一点を中心とする回転であってもよい。
【0013】
図1で放射状に拡がって動くオブジェクト100が刺激提示領域5から消えると、湧き出しの中心から新たにオブジェクト100が湧き出して移動する。このようなオブジェクト100の動きは、認知機能測定装置10によって制御される。オブジェクト100の全部または一部が動いても、刺激提示領域5内に表示されるオブジェクト100の数はほぼ一定である。オブジェクト100の数が「ほぼ一定」というのは、オブジェクト100が刺激提示領域5の境界から消えるタイミングと、新たなオブジェクト100が刺激提示領域5内に表示されるタイミングのズレに応じた誤差は許容されることを意味する。
【0014】
「注視情報」110は、刺激提示領域5内の特定領域40に表示される。「特定領域」とは認知機能の測定で被験者が注視すべき領域、
図1の例では、オブジェクト100の湧き出しの中心を含む一定範囲の領域、またはその近傍である。この例で、注視情報110は十字マークで示されているが、この例に限定されない。後述するように、被験者に特定領域40への注視を促すことができるかぎり、様々な形状、提示の態様をとることができる。注視情報110として、前記視覚刺激としてのオブジェクトとは異なる、色及び又は形状のドット(オブジェクト)の点滅・点灯、音、文字、絵、または、これらの組み合わせを用いてもよい。
【0015】
人の注意は「位置」を刺激特性として情報の選択を行うため、特定領域40に表示された注視情報としてのシンボル、マーク、絵、文字、またはこれらの組み合わせが提示された「空間位置」に視線の注意が向けられる。また、前記特定領域から出される注意情報が音または音声の場合は、ヘッドホンやスピーカなどを使ってステレオで(左右の耳から)音が聞こえる状態にし、音または音声が出ている方向と画面に向けさせる視野の方向を一致させ、位置に対する注意を選択的に向けることができる。
【0016】
人の注意を向けるための注視情報110として、オブジェクト100とは異なる、シンボル、マーク、絵、文字、またはこれらの組み合わせを用いる。「注視情報」は、一つに限らず、複数の注視情報が提示される場合は、特定の色にのみ注意を向けるように予め教示し、色が異なる注視情報のみに視線を向けさせるようにすると注意を惹きやすくなるため望ましい。ドットや線分などではなく、オブジェクト100よりも複雑な形を使用するとより注意を惹きやすくなるため望ましい。
【0017】
視覚刺激101と注視情報110の提示を含む一連の認知機能テスト中に、注視情報110を提示する特定領域40を、少なくとも一回変える。1回の視覚刺激101の提示に対する1回の応答の取得を「トライアル」と呼ぶ。通常は、一回の認知機能測定で、複数の異なる視覚刺激に対する応答を取得する一連の取得動作(トライアル)が行われる。トライアルは通常0.5秒~5秒であり、典型的には1秒である。人の注意の持続時間は典型的には8秒程度であるため、8回のトライアルにつき、少なくとも1回の頻度で変えるのが望ましい。
【0018】
通常は、被験者が提示される視覚刺激101に慣れてしまわないように、トライアルごとに視覚刺激101の提示の態様を変えて、複数のトライアルでの応答結果に基づいて認知機能が判定される。この一連のトライアルの間に、特定領域40を少なくとも一回、変える。トライアルごとに特定領域40を変化させてもよいし、トライアルの所定回数ごと(たとえば、少なくとも8回のトライアルごと)に特定領域40を変えてもよいし、オブジェクト100の動きのパターンを切り替えるときに特定領域40を変化させてもよい。
【0019】
特定領域40の変化は、図中の白矢印で示すように、注視情報110の表示位置の変化であってもよいし、注視情報110の提示態様(音出力、発光、文字表示など)の変化、注視情報110の色や形状の変化であってもよい。
【0020】
図2は、注視情報110の提示位置の変更例を示す。
図1と同様に、視覚刺激101として、外側に向かって放射状に湧き出すドットのオブジェクト100を用いる。オブジェクト100は、湧き出しの中心102から外側に向かって放射状に動く。湧き出しの中心102は表示画面30には表示されないが、オブジェクト100の動きの基準点となる。
【0021】
注視情報110は、オブジェクト100の動きの基準となる湧き出しの中心102の近傍に表示される。被験者に期待される応答は、注視情報110に対するオブジェクト100の相対位置または移動方向だからである。注視情報110を提示する特定領域40と、湧き出しの中心102は互いに重なっていてもよいし、重ならない程度に近接していてもよい。注視情報110の表示位置の変更にともなって、オブジェクト100の湧き出しの中心102の位置も変わる。
【0022】
図2の(a)では、注視情報110と湧き出しの中心102は、刺激提示領域5の中心よりも右上に表示される。
図2の(b)では、注視情報110と湧き出しの中心102は刺激提示領域5の中心よりも左上に表示される。
図2の(c)では、注視情報110と湧き出しの中心102は、刺激提示領域5の中心よりも右下に表示される。
図2の(d)では、注視情報110と湧き出しの中心102は刺激提示領域5の中心よりも左下に表示される。
【0023】
視覚刺激101と注視情報110を提示する一連のトライアルの間に、特定領域40が少なくとも一回変わることで、被験者は気分を新たにして特定領域40を注視することができる。これにより、注意力の低下による被験者の誤判断を防止し、認知機能の測定精度の低下またはばらつきを抑制する。
【0024】
図1に戻って、被験者は、視覚刺激101の提示に対して、特定領域40に対する湧き出し中心あるいは吸い込み中心のようなオブジェクト100の特徴点の相対位置、または移動方向を回答する。
図1の例では、表示画面30上の応答ボタン50a及び50bを用いて、回答が入力される。被験者は、注視情報110に対してオブジェクト100が放射状に外向き(湧き出し方向)に移動していると認識したときに応答ボタン50aを押下し、内向き(吸い込み方向)に移動していると認識したときに、応答ボタン50bを押下する。オブジェクト群が水平方向に移動する視覚刺激を用いる場合は、応答ボタン50aと50bは、オブジェクト100の移動方向として「右」、又は「左」を選択するように表示されてもよい。認知機能測定装置10は、被験者によって入力された応答に基づいて、視覚認知機能のスコアを計算する。
【0025】
放射状に外向き又は内向きにオブジェクトが移動する「放射運動」では、複数のオブジェクト100において、湧き出し中心、あるいは吸い込み中心のようなオブジェクト群としての特徴点の位置が1トライアルごとに一意に決まる。このように、位置と特定領域40の相対位置関係についての応答を取得することで、被験者の視点がどの程度の頻度で固視点から外れたかを判断することができ、好適である。特徴点が一意に決まる別の例として、回転中心を特徴点とする回転運動を用いてもよい。
【0026】
図3は、情報処理装置2のハードウェア構成図、
図4は、認知機能測定装置10の機能ブロック図である。情報処理装置2は、プロセッサ21、主メモリ22、補助メモリ23、入出力インタフェース(図中で「I/F」と表記)24、及び通信インタフェース25を有し、これらは、システムバス26を介して相互に接続されている。
【0027】
プロセッサ21は、各種の演算処理を含む制御処理を実行し、認知機能測定装置10の機能を実現する。プロセッサ21が実行する制御処理の中には、視覚刺激101の提示、注視情報110の提示、注視情報110を提示する特定領域40の変更、入力された被験者の応答の解析、刺激条件の決定、視覚認知機能のスコア計算等が含まれる。
【0028】
主メモリ22は、プロセッサ21の駆動に用いられるプログラムを記憶するリードオンリーメモリ(ROM)と、プロセッサ21のワークエリアとして使用されるランダムアクセスメモリ(RAM)を含む。補助メモリ23は、ハードディスクドライブ(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD)などの記憶装置を含み、各種プログラムとそれらの起動に必要なパラメータ情報の他に、認知機能の測定に必要な情報やパラメータを記憶する。
【0029】
入出力インタフェース24は、表示装置20、スピーカ4、及び入力装置3を情報処理装置2に接続する。入力装置3は、カメラ、マイク、表示画面30のタッチパネル、キーボード、マウス、ジョイスティック等の入力機器を含む。表示画面30上の応答ボタン50a、50bが用いられるときは、入出力インタフェース24は、表示画面30への接触を検知する応答センサ60の出力を取り込む。応答ボタン50a、50bに替えて、キーボードの矢印キーやトラックパネル、ジョイスティック等を用いて視覚刺激101に対する応答を入力してもよいし、マイクに向かって音声で回答してもよい。通信インタフェース25は、通信ネットワークを介して、情報処理装置2と外部装置との間の通信を可能にする。情報処理装置2は、通信インタフェース25によりインターネットあるいはクラウドにアクセス可能である。
【0030】
図4を参照すると、プロセッサ21で実現される認知機能測定装置10は、刺激提示部11、注視情報提示部12、表示制御部13、スコア計算部14、解析部15、及び応答取得部16を有する。応答取得部16は、入出力インタフェース24を介して視覚刺激に対する被験者の応答を取得する。被験者に期待される応答は、視覚刺激の種類に応じて異なる。視覚刺激が
図2に示すような放射運動するオブジェクト100である場合、応答取得部16は、オブジェクト100の湧き出し中心102または吸い込み中心と特定領域40との相対位置関係についての応答を取得する。解析部15は、応答解析部151と、刺激条件決定部152を含む。刺激提示部11は、刺激条件決定部152で決定された条件またはパラメータに応じて、表示画面30に表示される視覚刺激101を生成し、提示する。刺激の条件またはパラメータには、刺激提示領域5に表示されるオブジェクト100の数、オブジェクト100の移動方向、移動速度、全オブジェクトに対する移動するオブジェクトの割合などが含まれる。刺激提示部11は、これらのパラメータで示される条件で、視覚刺激101を提示する。
【0031】
注視情報提示部12は、刺激提示領域5内の特定領域40に表示される注視情報110を生成し、提示する。表示制御部13は、視覚刺激101の提示と注視情報110の提示を含む一連のトライアル期間中に、注視情報110を表示する特定領域40を、少なくとも一回変える。特定領域40を変更するタイミングは、定期的であっても、不定期であってもよい。表示制御部13は、注視情報110の表示位置を変える、表示の態様を変える、注視情報110の色や形を変えるなど、被験者の視線を注視情報110に惹きつけておくことのできる態様で、特定領域40の変化を指示する。注視情報提示部12は、表示制御部13の指示にしたがって、注視情報110を提示する。
【0032】
応答解析部151は、応答取得部16で取得された応答情報を解析し、解析結果を刺激条件決定部152と、表示制御部13と、スコア計算部14に出力する。応答解析部151は、応答センサ60から取得した被験者の応答情報を、刺激条件決定部152に設定されている刺激条件またはパラメータの値と比較して、応答の正誤を判断する。応答解析部151は、所定回数のトライアルが終了するまで、トライアルごとに応答を取得し、正誤を判断する。カウンタを用いて、あらかじめ決められたトライアル回数に達するまで、トライアルを継続してもよい。設定される刺激の強度が閾値を超えたとき、不正解が所定回数(たとえば3回)連続したときなど、所定の場合にトライアルを終了する規則を設けておいてもよい。
【0033】
刺激条件決定部152は、解析結果に基づいて、次のトライアルで被験者に提示される刺激の条件またはパラメータを決定する。たとえば、解析の結果、被験者の応答が不正解である場合に、刺激条件決定部152は刺激の強度を一段階高くする。刺激の強度を高くするとは、刺激条件を緩めてオブジェクト100の動きを認識しやすくすることである。全オブジェクトに対する動くオブジェクト100の割合を高くする、あるいは、オブジェクト100の移動速度を上げることにより、判別が容易になる別の視覚刺激を選択する。逆に、解析の結果、被験者の応答が正解である場合に、刺激の強度を下げて刺激条件を厳しくし、被験者の認知機能の上限を判断してもよい。刺激提示部11は、刺激条件決定部152によって決定された条件またはパラメータにしたがって、視覚刺激101を生成し提示する。
【0034】
スコア計算部14は、複数のトライアルで得られた被験者の応答結果(正誤)と、それぞれの応答に対して設定されていた刺激条件またはパラメータに基づいて、認知機能のスコアを計算する。単に正誤の割合でスコアを決定するのではなく、設定されている刺激条件との関係で、総合的にスコアを計算する。正解の数が同じ場合でも、刺激強度が強い条件で正解した場合と、刺激強度が低い条件で正解した場合とでは、低い刺激で正解するほうがスコアは高くなる。
【0035】
一連のトライアルの間、表示制御部13により、注視情報110を提示する特定領域40は、少なくとも一回変更されている。これにより一連のトライアルの間、被験者の視線を注視情報110に惹きつけて、認知機能の測定精度の低下またはばらつきを抑制する。
【0036】
<認知機能測定の処理フロー>
図5は、認知機能測定装置10が実行する処理のフローチャートである。認知機能測定装置10は、プロセッサ21により実現される。認知機能測定装置10は、所定の刺激条件またはパラメータ値で決まる視覚刺激101を提示する(S1)。また、特定領域40を注視させる注視情報110を提示する(S2)。ステップS1とS2は、同時であってもよいし、どちらを先にしてもよい。S1とS2のタイミングが一部重複していてもよい。
【0037】
図6は、視覚刺激101と注視情報110の提示タイミングの例を示す。視覚刺激101の提示中に、注視すべき箇所を被験者に示すことができれば、どのようなタイミングで注視情報110を提示してもよい。
図6の(a)では、視覚刺激101と注視情報110は同時に提示される。
図6の(b)では、視覚刺激101の提示期間内に注視情報110の提示期間が含まれ、視覚刺激101が提示された後に、注視情報110が提示される。
図6の(c)では、注視情報110の提示期間内に視覚刺激101の提示期間が含まれ、注視情報110が提示された後に、視覚刺激101が提示される。
【0038】
図6では、視覚刺激101と注視情報110の表示期間を、一つのパルスとして示しているが、視覚刺激101と注視情報110は、水平方向の時間軸に沿って高速で繰り返し表示され、被験者は表示タイミングのずれをほとんど認識しない。したがって、
図6の(d)のように表示期間が一部重複する提示タイミングでもよいし、
図6の(e)のように互いに重ならない提示タイミングであってもよい。
【0039】
図5に戻って、認知機能測定装置10は被験者の応答を取得する(S3)。この応答は、応答センサ60から出力された応答情報であってもよい。応答情報には、被験者が回答したオブジェクト100の相対位置または移動方向が含まれる。被験者に提示された視覚刺激101の内容によって、期待される回答が異なる。
図1のような放射状の動きのパターンでは、オブジェクト100の湧き出し、あるいは吸い込みに応じて「外向き」か「内向き」が選択される。基準点を中心とする回転移動では、「右回り(時計回り)」、または「左回り(反時計回り)」が選択される。オブジェクト100の水平移動では、「右向き」、または「左向き」が選択される。
【0040】
認知機能測定装置10は、取得した応答と、応答に対応する刺激条件を示すパラメータを比較して、正誤を判定する(S4)。その後、次のトライアルに移行するか否かを判断する(S5)。たとえば、トライアル回数を設定したカウンタ値がゼロになるまで、次のトライアルへの移行を続ける運用であってもよい。次のトライアルに移行する場合は(S5でYES)、次のトライアルの条件またはパラメータ値を決定して(S6)、ステップS1からS5を繰り返す。応答結果に応じて次のトライアルの条件またはパラメータ値が設定されるので、被験者の認知能力に合わせてトライアルが行われる。
【0041】
一連のトライアルを実行する中で、注視情報110を提示する特定領域40を、少なくとも1回変える(S8)。特定領域40は、次のトライアルへの移行のたびに変更されてもよいし、所定回数ごと、あるいは視覚刺激101の特定の条件(たとえば動くオブジェクトの割合)が変わるたびに変更されてもよい。所定回数の値が「1」のときは、トライアルごとに特定領域40が変更される。
【0042】
次のトライアルに移行しない場合は(S5でNO)、各トライアルの正誤の結果と、各応答に対応する刺激条件またはパラメータ値とに基づいて、認知機能のスコアを計算する(S7)。一般的には、トライアルのカウンタ値がゼロになったときに、次のトライアルに移行しない。これ以外に、刺激条件が閾値条件よりも緩くなった場合、換言すると、被験者に与えられる刺激の強度が所定の閾値を超えて強くなった場合や、所定回数を超えて不正解が連続したときにトライアルを終了してもよい。
【0043】
刺激の強度を強めると、刺激条件が緩くなり、認知機能が低い被験者にとってオブジェクト100の動きが認知しやすくなる。しかし、ある境界を超えると、それ以上測定を続けても、正しい応答が期待しにくいので、トライアルを終了する。刺激条件またはパラメータの変更にもかかわらず、所定回数連続して不正解になる場合も、次に正しい応答が期待しにくいので、トライアルを終了してもよい。
【0044】
認知機能のスコアは、一連のトライアルの中で得られた正誤の判定結果と、刺激条件またはパラメータ値とに基づいて計算される。正解を1ポイント、不正解を-1ポイントとし、刺激条件で重みづけしてもよい。刺激条件が厳しい(すなわち刺激強度が低い)状態での正解に対して、重み付け係数の値を大きくし、刺激条件が緩い(すなわち刺激強度が強い)場合の正解に対し、重み付け係数の値を小さくしてもよい。刺激条件が厳しい(すなわち刺激強度が低い)状態での不正解に対して、重み付け係数の値を小さくし、刺激条件が緩い(すなわち刺激強度が強い)場合の不正解に対して、重み付け係数の値を大きくしてもよい。複数回のトライアルを通した応答結果と、各トライアルに対応する刺激条件またはパラメータとから、総合的にスコアを計算する。
【0045】
計算されたスコア値に基づいて、認知機能を判定する(S9)。認知機能の判定用の閾値をあらかじめ設定しておいてもよい。判定用の閾値は、経験的に求められた値であってもよい。たとえば、同一条件で繰り返しトライアルを実施し、正解と不正解の割合が均衡するまで測定を続ける。正解と不正解が均衡したときの刺激条件で得られるスコア値を閾値とし、被験者のスコア値が閾値以上のときに認知機能に問題なしと判定してもよい。判定用の閾値を複数設けておいてもよい。年代ごとに判定用の閾値を用意してもよいし、身体機能の程度や疾患の有無に応じて判定用の閾値を用意してもよい。
【0046】
図5の方法では、一連のトライアルの間に少なくとも一回、固視点を示す特定領域40が変更されるので、特定領域40を見る被験者の注意を惹きつけて、認知機能の測定精度の低下またはばらつきを抑制することができる。
【0047】
<刺激条件またはパラメータの変更例>
図7は、放射状タスクのパラメータの変更例を示す。「タスク」とは、注視情報110に対するオブジェクト100の動きのパターンとして分類される刺激の種類である。放射状タスクは、刺激提示領域5内で、オブジェクト100がある点から放射状に外側または内側に向かって動く視覚刺激である。
図7の例では、放射状の外側に拡がるタスクを示しているが、中心に向かって放射状に吸い込まれるタスクも、タスクの種類としては同じ放射状タスクである。ただし、オブジェクト100が外側に向かって動くか、内側に向かって動くか、または、速く動くかゆっくりと動くかによって刺激条件またはパラメータ値が異なるので、別々の刺激となる。
【0048】
図7の(a)、(b)、(c)で、動くオブジェクト100の割合が異なる。刺激提示領域5内の全オブジェクトに対する動くオブジェクト100の割合も、刺激条件またはパラメータ値となる。
図7では便宜上、動くオブジェクトを「オブジェクト100」と呼び、動かないオブジェクトを「オブジェクト350」と呼んで区別するが、いずれも視覚刺激101を構成するオブジェクトである。
【0049】
図7の(a)ではすべてのオブジェクト100が動き、動くオブジェクト100の割合は100%である。100%の割合で動くオブジェクト100により、視覚刺激101aが生成される。
図7の(b)では、動くオブジェクト100の割合は60%である。60%の動くオブジェクト100と、40%の動かないオブジェクト350で、視覚刺激101bが生成される。
図7の(c)で動くオブジェクト100の割合は20%である。20%の動くオブジェクト100と、80%の動かないオブジェクト350で、視覚刺激101cが生成される。視覚刺激101a、101b、及び101cは、それぞれ別個の刺激であり、別々のトライアルとして用いられ得る。放射状に動くオブジェクトの割合を変えることによって、視覚情報が側頭連合野に向かうventral stream経路の認知機能(対象認知機能)の判定を行うことができる。
【0050】
動くオブジェクト100の割合が低いほど刺激が弱く、正解を導く刺激条件が厳しい。健常者は、動くオブジェクト100の割合が20%程度でオブジェクト100の移動方向を認知できるが、認知能力が低下している被験者は、動くオブジェクト100の割合を高くしないと移動方向の認知が難しい。動くオブジェクト100の割合を、より小さいステップサイズ(たとえば10%刻み)で異ならせて、複数の視覚刺激101をランダムな順序で提示して一連のトライアルとしてもよい。一連のトライアルで得られた正解と不正解が均衡する境界条件から、被験者の認知能力を判定してもよい。
【0051】
図7では、特徴点(または基準点)となる湧き出しの中心102から放射方向に動くオブジェクト100と、動かないオブジェクト350を視覚刺激101として用いているが、動くオブジェクト100と動かないオブジェクト350の背景にランダムに動く点群を配置してもよい。この場合は、ランダムに動く点群の中で、放射方向に動くオブジェクト100を識別することになり、刺激条件が厳しくなる。ランダムに動く点群を背景に用いることも、刺激条件またはパラメータのひとつである。
【0052】
オブジェクト100の背景として、逆パターンの運動をするオブジェクトを使用しても良い。例えば、動くオブジェクト100が湧き出し(または吸い込み)放射運動である場合、それよりも少ない割合で、吸い込み(または湧き出し)放射運動をするオブジェクトを混在させることができる。この場合、両者の湧き出し中心、または吸い込み中心を同じ点とすることにより、特定領域40の相対位置関係の明確さを維持したまま、問題の難易度を調整することができる。同様に回転運動の場合、時計回り運動するオブジェクトと反時計回りするオブジェクトを混在させることができる。
【0053】
刺激のパラメータを変えて一連のトライアルを行う間、注視情報110が提示される特定領域40を、少なくとも1回変える。一連のトライアルの間、被験者が注視すべき特定領域40を少なくとも1回変えることで、被験者の視線を注視情報110に惹きつけて、安定的な注意力の下で認知機能を測定し、認知機能の測定精度の低下またはばらつきを抑制する。
【0054】
図8は水平運動タスクのパラメータの変更例を示す。水平運動タスクとは、注視情報110の周りで、オブジェクト100が刺激提示領域5の水平方向に動く視覚刺激である。
図8の例では、オブジェクト100が刺激提示領域5の右端から左端に向かって動くタスクを示しているが、左端から右端に向かって動くタスクも、タスクの種類としては同じ水平運動タスクである。ただし、オブジェクト100が右向きに動くか左向きに動くか、あるいは速く動くかゆっくりと動くかによって刺激条件またはパラメータ値が異なり、別個の刺激となる。
【0055】
水平運動タスクの場合、オブジェクト100の動きの基準となる基準線は、動きの方向によって、刺激提示領域5の右端、または左端である。
図8の(a)、(b)、(c)で、水平方向に動くオブジェクト100の割合は異なるが、刺激提示領域5内に表示されているオブジェクトの数はほぼ一定である。動くオブジェクト100が刺激提示領域5の左端に消えてゆくと、刺激提示領域5の右端から新たなオブジェクト100が現れる。
図8では便宜上、動くオブジェクトを「オブジェクト200」と呼び、動かないオブジェクトを「オブジェクト450」と呼んで区別するが、いずれも視覚刺激201を構成するオブジェクトである。
【0056】
図8の(a)ではすべてのオブジェクト200が刺激提示領域5の右端から左端に向かって動き、動くオブジェクト200の割合は100%である。100%の動くオブジェクト200で視覚刺激201aが生成される。
図8の(b)では、水平方向に動くオブジェクト200の割合は60%である。60%の動くオブジェクト200と、40%の動かないオブジェクト450で、視覚刺激201bが生成される。
図8の(c)で、水平方向に動くオブジェクト200の割合は20%である。20%の動くオブジェクト200と、80%の動かないオブジェクト450で、視覚刺激201cが生成される。視覚刺激201a、201b、及び201cはそれぞれ別個の刺激であり、別々のトライアルとして用いられ得る。水平運動をするオブジェクトの割合を変えることで、視覚情報が頭頂連合野に向かうdorsal stream経路の認知機能(空間認知機能)の判定を行うことができる。
【0057】
図8では、一定方向、すなわち刺激提示領域5の右端を基準線として左側に向かって水平に動くオブジェクト200と、動かないオブジェクト450を視覚刺激201として用いているが、背景にランダムに動く点群を配置して認知機能を測定してもよい。この場合は、ランダムに動く点群の中で水平方向に動くオブジェクト200を認知するので、刺激条件が厳しくなる。背景にランダムに動く点群を用いることも刺激条件またはパラメータのひとつである。背景に、逆方向に動くオブジェクトを用いてもよい。動くオブジェクト200よりも少ない割合で逆方向に動くオブジェクトを混在させることで、特定領域40に対する相対位置関係の明確性を保ったまま、回答の難易度を中程度に調整できる。
【0058】
水平運動タスクを用いる場合も、水平方向に動くオブジェクト200の割合を、より小さいステップサイズ(たとえば10%刻み)で異ならせて、複数の視覚刺激201をランダムな順序で提示して一連のトライアルとしてもよい。一連のトライアルで得られた正解と不正解が均衡する境界条件から、被験者の認知能力を判定してもよい。水平運動タスクの刺激条件またはパラメータ値を変えて一連のトライアルを行う間、被験者が注視すべき特定領域40を、少なくとも1回変える。一連のトライアルの間、特定領域40を少なくとも1回変えることで、被験者の視線を注視情報110に惹きつけて、安定的な注意力の下で認知機能を測定し、認知機能の測定精度の低下またはばらつきを抑制する。
【0059】
図9は、湧き出し位置偏心タスクのパラメータの変更例を示す。湧き出し位置偏心タスクとは、放射状タスクで動くオブジェクト100の割合を一定にして、注視情報110に対する湧き出しの中心102の位置を変える視覚刺激である。
図9の(a)で、注視情報110に対する湧き出しの中心102の偏心度は、左方向に0.05°である。この偏心状態でオブジェクト100を放射状に動かして、視覚刺激301aが生成される。
図9の(b)で、注視情報110に対する湧き出しの中心102の偏心度は、左方向に5°である。この偏心状態でオブジェクト100を放射状に動かして、視覚刺激301bが生成される。
図9の(c)で、注視情報110に対する湧き出しの中心102の偏心度は、左方向に12°である。この偏心状態でオブジェクト100を放射状に動かして、視覚刺激301cが生成される。
【0060】
放射状に動くオブジェクトの特徴点(または基準点)となる湧き出し位置または吸い込み位置を変えることで、認知機能のひとつである方位識別知覚を判定できる。視覚刺激301cのように、注視情報110と、湧き出しの中心102との偏心度が大きいほど、方位識別が容易になり、正解を導く刺激条件が緩くなる。偏心度は、湧き出し位置偏心タスクの刺激条件またはパラメータ値である。偏心度を変えて一連のトライアルを行う間、被験者が注視すべき特定領域40を、少なくとも1回変える。一連のトライアルの間、特定領域40を少なくとも1回変えることで、被験者の視線を注視情報110に惹きつけて安定的な注意力の下で認知機能を測定し、認知機能の測定精度の低下またはばらつきを抑制する。
【0061】
図7から
図9に示したタスクはそれぞれ変形が可能であり、また、互いに組み合わせ可能である。
図7で、湧き出し方向のタスクと吸い込み方向のタスクを混在させてもよい。
図8で、左方向への水平運動タスクと、右方向への水平運動タスクを混在させてもよい。
図9で、湧き出し位置偏心タスクと、吸い込み位置偏心タスクを混在させてもよい。放射状に動くオブジェクトと、水平運動するオブジェクトを重ね合わせて提示してもよい。動くオブジェクトの周辺を明るくするなどの強調処理を施してもよい。いずれの場合も、異なる刺激条件での一連のトライアルの間に、被験者が注視すべき特定領域40を、少なくとも一回変えることで、被験者の注意力を持続させて、認知機能の測定精度の低下またはばらつきを抑制する。
【0062】
<複数タスクを含むセッション>
図10は、一連のトライアルを含むセッションの例を示す。「セッション」は、刺激条件またはパラメータがそれぞれ決定された2以上のトライアルの集合であり、認知機能測定の同一の機会に試行される。セッションAは、
図7の放射状タスクを用いたトライアルa1、a2、a3、及びa4を含む。トライアルa1、a2、a3、及びa4は、それぞれ異なる刺激条件またはパラメータに設定されている。刺激条件またはパラメータは、放射状に動くオブジェクトの方向(湧き出しまたは吸い込み)、動くオブジェクトの割合、速度、背景状態などを含む。被験者が視覚刺激のパターンに慣れないように、刺激条件またはパラメータは、ランダムに変更されるのが望ましい。セッションAの間、注視情報110が提示される特定領域40は、少なくとも一回変更される。
【0063】
セッションBは、
図8の水平運動タスクを用いたトライアルb1、b2、b3、及びb4を含む。トライアルb1、b2、b3、及びb4は、それぞれ異なる刺激条件またはパラメータに設定されている。セッションBの刺激条件またはパラメータは、水平に動くオブジェクトの方向(左方向、右方向)、動くオブジェクトの割合、速度、背景状態などを含む。被験者が視覚刺激のパターンに慣れないように、刺激条件またはパラメータは、ランダムに変更されている。セッションBの間、注視情報110が提示される特定領域40は、少なくとも一回変更される。
【0064】
セッションCは、
図9の湧き出し位置偏心タスクを用いたトライアルc1、c2、c3、及びc4を含む。トライアルc1、c2、c3、及びc4は、それぞれ異なる刺激条件またはパラメータに設定されている。セッションCの刺激条件またはパラメータは、注視情報110に対するオブジェクト100の湧き出しの中心102の偏心度、動くオブジェクトの速度、背景状態などを含む。被験者が視覚刺激のパターンに慣れないように、刺激条件またはパラメータは、ランダムに変更されている。セッションCの間、注視情報110が提示される特定領域40は、少なくとも一回変更される。刺激提示領域5内で注視情報110の表示位置または表示形態が変更されても、注視情報110に対する湧き出しの中心102の偏心度は、決定された値に設定される。
【0065】
図11は、一連のトライアルを含むセッションの別の例を示す。
図11では、異なる種類のタスクを用いた複数のトライアルを含む。セッションDは、放射状タスクを用いたトライアルa1と、水平運動タスクを用いたトライアルb1と、湧き出し位置偏心タスクを用いたトライアルc1を含む。異なる種類のタスクを組み合わせるため、一度のセッションで複数の運動視能力を判定できる。
図11の混合タスクを含むセッションにおいても、一連のトライアルa1、b1、及びc1の中で、注視情報110が提示される特定領域40を、少なくとも一回変える。一連のトライアルを通して同一位置で同じものを注視する場合と比較して、被験者の注意力の低下を防止でき、認知機能の測定精度の低下またはばらつきを抑制できる。
【0066】
<注視情報の例>
図12は、注視情報提示部12によって提示される注視情報110の例を示す。注視情報110は、被験者の注視を引きやすい情報であれば、特に限定されない。
図12の(a)では、複数のオブジェクト100が動く視覚刺激101の中で、注視情報110Aは、ドットの点滅または点灯で提示される。次のトライアルに移行するタイミングで光の色を変えてもよいし、点灯位置を変えてもよい。また、ドットに限らず、オブジェクト自体が点滅・点灯しても良い。
【0067】
図12の(b)では、音声を用いて注視情報110Bを提示する。たとえば、「画面の中心の少し右斜め上を見ていてください」等のアナウンスを行う。次のトライアルに移行するタイミングで、「今度は、画面の中心の少し左斜め下を見ていてください」と音声を出力してもよい。音声による注視情報110Bは、
図1のようなシンボルあるいはマークを用いた注視情報110と組み合わせると、より効果的である。
なお、音による注視情報は、音声によるアナウンスに限らず、正弦波音、雑音、ベル音、楽器音でも良い。
【0068】
図12の(c)では、文字を用いた注視情報110Cを提示する。次のトライアルに移行するタイミングで、文字を表示するストリップの背景色を変える、文字の色を変える、ストリップの位置を変えるなどしてもよい。文字を用いた注視情報110Cは、音声の注視情報110Bと組み合わせると、より効果的である。
図12の(d)は、絵の中にガボールフィルタのような周波数情報を加えた注視情報110Dを示す。次のトライアルに移行するタイミングで、表示する絵を変える、ガボールフィルタの空間周波数を変えるなどしてもよい。
【0069】
注視情報110の形状、形態は
図12の例に限定されず、一連のトライアルを含むセッションの間に被験者の注意を特定領域40に惹きつけておくことができれば、どのような注視情報を用いてもよいし、どのように変更してもよい。同じ注視情報110を用いて、トライアルごとに、またはトライアルの一定回数ごとに、特定領域40の位置を変えてもよい。あるいは、トライアルごとに、またはトライアルの一定回数ごとに、注視情報の形状、色、提示形態などを変えてもよい。特定の条件が変わるタイミングで、特定領域40を変えてもよい。たとえば、オブジェクトの動きのパターンで分類されるタスクが変わるタイミングで注視情報110を変えてもよい。一連のトライアルの中で、特定領域40を不定期に変えてもよい。
【0070】
実施形態の認知機能測定装置10をコンピュータプログラムで実現する場合、認知機能計算プログラムが情報処理装置2にインストールされ、プロセッサ21で実行される。認知機能計算プログラムは、プロセッサ21に、
(a)動きが変化する複数のオブジェクトを含む視覚刺激を、刺激提示領域内に提示する手順と、
(b)刺激提示領域内の特定領域への注視を促す注視情報を、前記刺激提示領域内に提示する手順と、
(c)視覚刺激と注視情報の提示期間中に前記特定領域を少なくとも一回変える手順と、
を実行させる。
【0071】
以上、特定の実施例に基づいて視覚刺激を用いた認知機能測定について説明したが、本発明には発明を逸脱しない範囲で多様な変形例が含まれる。視覚刺激を構成するオブジェクトの移動方向は水平方向や放射方向に限定されず、上下方向、対角方向、渦巻方向などを含んでもよい。上下運動タスクの基準線を、刺激提示領域5の上端または下端に設定して、オブジェクトを上から下、または下から上へ動かしてもよい。対角運動タスクの場合は、刺激提示領域5の対角線を基準線として、互いに反対向きの斜め方向にオブジェクトを動かしてもよい。いずれの場合も、異なる視覚刺激を提示する一連のトライアルの中で少なくとも一回、注視情報110を提示する特定領域40を変更することで、認知機能の測定精度の低下またはばらつきを抑制できる。表示装置20として表示画面30と応答センサ60一体化したタッチパネル型に限定されず、液晶ディスプレイ、ヘッドマウントディスプレイ、ゴーグル型ディスプレイなどを用いてもよい。応答センサ60への入力装置として押しボタン、ジョイスティックなどを用いてもよい。
【0072】
上記の実施例に対して以下の態様をとり得る。
(項1)
動きが変化する複数のオブジェクトを含む視覚刺激を刺激提示領域内に提示する刺激提示部と、
前記刺激提示領域内の特定領域への注視を促す注視情報を提示する注視情報提示部と、
前記視覚刺激と前記注視情報の提示期間中に前記特定領域を少なくとも一回変える表示制御部と、
を有する認知機能測定装置。
(項2)
前記視覚刺激に対する被験者の応答を取得する応答取得部と、
前記応答に基づいて認知機能スコアを計算するスコア計算部、
を有する項1に記載の認知機能測定装置。
(項3)
前記視覚刺激は放射運動するオブジェクトであり、
前記応答取得部は、前記オブジェクトの湧き出し中心または吸い込み中心と前記特定領域との相対位置関係についての応答を取得する、
項2に記載の認知機能測定装置。
(項4)
前記注視情報は、位置を刺激特性として、被験者の視線方向を選択的に前記注視情報が提示される空間位置に向ける、
項1から3のいずれかに記載の認知機能測定装置。
(項5)
前記視覚刺激は複数の異なる視覚刺激を含み、
前記提示期間中に、前記複数の異なる視覚刺激の各々に対する応答を取得する一連の取得動作が実行され、
前記表示制御部は、前記一連の取得動作の実行中に前記特定領域を定期的または不定期に変更する、
項1から4のいずれかに記載の認知機能測定装置。
(項6)
前記表示制御部は、前記特定領域を所定回数の取得動作ごとに変更する、
項5に記載の認知機能測定装置。
(項7)
前記表示制御部は、前記オブジェクトの動きのパターンで分類されるタスクの種類が変わるときに、前記特定領域を変更することが可能な、
項5に記載の認知機能測定装置。
(項8)
前記タスクは、前記刺激提示領域内で前記オブジェクトが放射状に動く放射状タスク、前記オブジェクトが水平方向に動く水平運動タスク、前記オブジェクトの放射状の動きの中心を前記注視情報に対して偏心させる中心位置偏心タスク、またはこれらの組み合わせを含む、
項7に記載の認知機能測定装置。
(項9)
前記応答取得部で取得された前記応答の正誤を判断する解析部、
をさらに有し、
前記スコア計算部は、前記解析部の判断結果と前記視覚刺激のそれぞれに設定されているパラメータ値とに基づいて、前記認知機能スコアを計算する、
項2に記載の認知機能測定装置。
(項10)
前記注視情報は、シンボル、マーク、絵、文字、音、ドット、前記視覚刺激のオブジェクトとは異なるオブジェクト、またはこれらの組み合わせを含み、
前記表示制御部は、前記注視情報の提示位置、種類、色、形状の少なくともひとつを変更する、
項1から9のいずれかに記載の認知機能測定装置。
(項11)
項1から10のいずれかに記載の認知機能測定装置と、
前記視覚刺激と前記注視情報を表示する表示装置と、
を含む認知機能測定システム。
(項12)
動きが変化する複数のオブジェクトを含む視覚刺激を、刺激提示領域内に提示し、
前記刺激提示領域内の特定領域への注視を促す注視情報を、前記刺激提示領域内に提示し、
前記視覚刺激と前記注視情報の提示期間中に前記特定領域を少なくとも一回変化させる、
認知機能測定方法。
(項13)
前記視覚刺激に対する被験者の応答を取得し、
前記応答に基づいて前記被験者の認知機能スコアを計算し、
前記認知機能スコアを所定の閾値を比較して前記被験者の認知機能を計算する、
項12に記載の認知機能測定方法。
(項14)
コンピュータを、
動きが変化する複数のオブジェクトを含む視覚刺激を、刺激提示領域内に提示し、
前記刺激提示領域内の特定領域への注視を促す注視情報を、前記刺激提示領域内に提示し、
前記視覚刺激と注視情報の提示期間中に前記特定領域を少なくとも一回変化させる、
ように動作させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0073】
1 認知機能測定システム
2 情報処理装置
3 入力装置
4 スピーカ
5 刺激提示領域
10 認知機能測定装置
11 刺激提示部
12 注視情報提示部
13 表示制御部
14 スコア計算部
15 解析部
151 応答解析部
152 刺激条件決定部
16 応答取得部
20 表示装置
21 プロセッサ
22 主メモリ
23 補助メモリ
24 入出力インタフェース(I/F)
30 表示画面
40 特定領域
60 応答センサ
100 視覚刺激オブジェクト
101、101a~101c、201a~201c、301a~301c 視覚刺激
110、110A、110B、110C、110D 注視情報
【先行技術文献】
【特許文献】
【0074】