(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077714
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】卵殻膜含有粉末を含む悪液質改善または予防用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/57 20150101AFI20240603BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240603BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240603BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240603BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20240603BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240603BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240603BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20240603BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240603BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20240603BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240603BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
A61K35/57
A61P7/00
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/16
A61K9/48
A61K9/08
A61Q7/00
A61Q19/00
A61K8/98
A23L33/10
A23L2/52
A23L2/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189824
(22)【出願日】2022-11-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り Journal of Cachexia,Sarcopenia and Muscle(2022)Vol.13,p.2088-2101
(71)【出願人】
【識別番号】501303046
【氏名又は名称】株式会社 アルマード
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久典
(72)【発明者】
【氏名】賈 慧娟
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 由紀夫
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C076
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LE03
4B018MD72
4B018ME14
4B018MF07
4B117LC04
4B117LK19
4B117LP20
4C076AA12
4C076AA29
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4C076AA53
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4C083AA071
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4C087AA01
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4C087BB33
4C087BB70
4C087MA17
4C087MA35
4C087MA37
4C087MA41
4C087MA43
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA51
(57)【要約】
【課題】単一成分を有効成分として含み、悪液質を改善または予防することのできる経口組成物を提供する。
【解決手段】本発明の悪液質改善または予防用組成物は、卵殻膜含有粉末を有効成分として含む。卵殻膜含有粉末の補給により、ナイーブT細胞からTh17細胞やTh1細胞への分化の抑制と、有益な腸内微小環境への調節が行われる。この組成物を含む製剤は、食品添加物、飲食品、サプリメント、医薬品等の様々な用途、形態で利用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵殻膜含有粉末を有効成分として含む悪液質改善または予防用組成物。
【請求項2】
前記卵殻膜含有粉末が、レーザー回折法による体積平均粒子径が6μm以下、および/または体積最大粒子径が20μm以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記卵殻膜含有粉末がボールミルによる粉砕粉末である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
経口投与される製剤である、請求項1ないし3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の組成物を含む、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、またはドリンク剤。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれかに記載の組成物を含む、飲食品、サプリメント、または医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵殻膜含有粉末を有効成分として含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
卵殻膜は、鶏卵などの鳥類の卵の卵殻の内側にある膜で、内外2枚からなり、外卵殻膜は卵殻内面に密着し、内卵殻膜は卵白を包んでおり、抗菌性を有して発生中の胚を感染から保護している。卵殻膜は、I型、V型およびX型コラーゲン等を含む繊維状の蛋白質を主成分とし、これらのタンパク質はシスチン、システインを多く含み、強靭な繊維性のタンパク質からなる網目状の構造を有している。
【0003】
卵殻膜含有成分を摂取したり塗布することで、美肌、皮膚再生、育毛発毛促進、脱毛防止等の効果(特許文献1、2)や、食欲増進、疲労回復等の日常的な健康増進効果があることが知られており、すでにサプリメントや化粧品成分として開発が進められ、実用化されている。
また、本発明者らは、卵殻膜含有粉末は腸内で約54%が消化吸収されずに残り(非特許文献1)、難消化性タンパク質として機能して、その残った成分がプレバイオティクスとして作用し、腸内細菌のうちの悪玉菌の増殖を防止し、腸内フローラを改善することを以前報告(特許文献3)した。
【0004】
一方、悪液質(cachexia;カヘキシー)とは、癌、AIDS、心臓疾患などの疾患に伴う、食欲不振、体重減少、体力消耗や衰弱、貧血、浮腫などの脂肪組織と骨格筋の両方が消耗する重篤な病態をいう。主として栄養失調に基づく病的な全身の衰弱状態であり、脂肪、筋肉量の低下に伴う体重減少やCRPや炎症性サイトカインの上昇、低アルブミン血症、心理的苦痛をもたらすという特徴がある。癌患者にとって悪液質の発症は、生命を脅かす終末期症状をもたらすだけでなく、患者のQOL(Quality of life)を著しく損なう。
【0005】
悪液質は、特に進行性がん患者の約80%に認められ、死亡率上昇の要因となっているため、がん治療においては、悪液質に積極的に対応する必要がある。悪液質になると、食欲不振や倦怠感などの症状が現れ、治癒力や抵抗力が低下すると、日和見感染などの感染症が発生してますます体力がなくなり死亡の原因となるので、悪液質を改善ないし緩和することが重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-52854号公報
【特許文献2】特許第3862600号公報
【特許文献3】特許第7086517号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mol. Nutr. Food Res. (2013) Vol.57, p.291-306
【非特許文献2】Cancer Res. (1997) Vol.57, p.94-99
【非特許文献3】Am. J. Clin. Nutr. (2009) Vol.89, p.1164-1172
【非特許文献4】Zhonghua Zhong Liu Za Zhi (2010) Vol.32, p.845-849
【非特許文献5】Food Sci. Nutr. (2020) Vol.8, p.2512-2523
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性が高く、飲食品、サプリメント、医薬品として日常的に利用でき、単一素材で悪液質を改善または予防することのできる経口組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下(1)~(4)の組成物、(5)の錠剤、顆粒剤、カプセル剤、またはドリンク剤、および(6)の飲食品、サプリメント、または医薬品に関する。
(1)卵殻膜含有粉末を有効成分として含む悪液質改善または予防用組成物。
(2)前記卵殻膜含有粉末が、レーザー回折法による体積平均粒子径が6μm以下、および/または体積最大粒子径が20μm以下である、上記(1)に記載の組成物。
(3)前記卵殻膜含有粉末がボールミルによる粉砕粉末である、上記(1)に記載の組成物。
(4)経口投与される製剤である、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の組成物を含む、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、またはドリンク剤。
(6)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の組成物を含む、飲食品、サプリメント、または医薬品。
【発明の効果】
【0010】
ヒトの腸内には、数百種の腸内細菌が約100兆個以上バランスよく生息しており、善玉菌、悪玉菌、および日和見菌が腸内において互いにバランスを保ちながら、一種の生態系(腸内フローラ)を形成している。この腸内フローラのバランスが崩れると、悪玉菌の増加等による腸内に有害な物質が蓄積されて、便秘、下痢症状、免疫機能の低下のみならず、血液中に吸収された有害物質により、肝臓に負担を与え老化を促進したり、癌の原因にもなることが知られている。
【0011】
卵殻膜含有粉末の腸内で消化吸収されずに残った成分が、腸内細菌のうちの悪玉菌の増殖を防止し腸内フローラを改善する(特許文献3)ことに加えて、本研究者らは、悪液質を再現したIL10ノックアウトマウスモデルに卵殻膜含有粉末を補給することにより、肝臓、骨格筋、腸、免疫系を含む各種器官における悪液質関連の症状が減衰されることを確認した。
また、卵殻膜含有粉末を補給されたIL10ノックアウトマウス(IL10KOマウス)において、Th17細胞の存在量とTh1細胞のマーカー遺伝子の発現量が減少して、ナイーブT細胞からTh17細胞、Th1細胞への分化の抑制が示唆された。
これらの結果から、卵殻膜含有粉末の補給によるTh細胞の分化の抑制と、有益な腸内微小環境と、それによる前悪液質の減衰とが関連することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
このように、前悪液質の改善または予防に対する卵殻膜含有粉末の効果が確認されたことにより、本発明によれば、食品添加剤、飲食品、サプリメント、医薬品等のさまざまな形態で日常的に摂取できる悪液質改善または予防用組成物を提供でき、前悪液質や悪液質による各症状を改善あるいは緩和することが可能となる。
また、本発明の組成物は、刺激性がなく、様々な形態で種々の成分と併用することができ、錠剤化も簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例の動物実験の結果の全体的な特徴の指数を示す。(A)は体重の変化、最終的な体重、生存率。(B)食物の一日摂取量と12週間目以降の食物摂取量。(C)便の硬さの変化。(D)腸間膜脂肪、後腹膜脂肪、精巣上体脂肪、腹腔内脂肪、腓腹筋、脾臓、肝臓の相対的重量。(E)結腸の重量と全長、および結腸の重量/全長比。(以下、
図1-3において共通)WT: 野生型マウス、KO:IL10KOマウス、KOE:卵殻膜(ESM)を補給したIL10KOマウス。すべての値は平均±SE(n=5-7)である。一元配置分散分析に続きTukeyの検定を*p<0.05と**p<0.01にて実施。
【
図2】実施例の動物実験結果の生化学的・組織化学的解析。(A)血漿グルコース、HDLコレステロール、NEFA、インスリン、TG、TC、肝臓内TG、ヘモグロビンの各値。(B)結腸のヘマトキシリンとエオジン(H&E)による染色とMPO活性。(C)腓腹筋におけるPECAM1の免疫組織化学像と定量値。
【
図3】実施例の動物実験結果の盲腸から得た試料における腸内環境の変化。(A)細菌の相対的存在度。(B)有機酸の濃度。
【
図4】実施例の動物実験結果の大腸粘膜と腸間膜リンパ節の変化。(A)RT-PCRにより測定しRplp1へ正規化した大腸粘膜遺伝子のmRNA発現。(B)フローサイトメトリーによる腸間膜リンパ節におけるTh17細胞の定量化。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で使用される卵殻膜は、陸生の卵生動物すべての卵、特に鳥類の卵の卵殻の内側にある膜であればいずれも使用できる。特に鶏卵の卵殻膜が、入手の容易性、コストの点から好ましい。卵殻膜含有粉末は、少なくとも卵殻膜を含む粉末であれば特に制限はなく、粉末とは粒子サイズにかかわらず、あらゆる粉体をいう。剥離された卵殻膜または卵殻に卵殻膜が付着した状態の原料を使用して、公知のいずれの方法で粉末化してもよい。また、市販の卵殻膜含有粉末を用いてもよい。
【0015】
本発明で使用される卵殻膜含有粉末は、体積最大粒子径および/または体積平均粒子径が概ね100μmより小さいものをいう。本願明細書において、粉末または微粉末の「体積平均粒子径」、「体積最大粒子径」は、レーザー回折式粒度分布測定機(株式会社セイシン製、LMS-30)を用いて測定した値を意味する。粒子径の測定に際しては、卵殻膜含有微粉末を界面活性剤を用いて水に分散させた測定試料を用いる。また、「体積平均粒子径」とは、粒度分布における小粒径側からの累積値が50%における粒子径を意味する。
【0016】
本発明で使用される卵殻膜含有粉末は、特に体積平均粒子径が6μm以下、または体積最大粒子径が20μm以下のものが、消化吸収効率の点から好ましい。市販の卵殻膜含有粉末等の卵殻膜含有原料を、ガス中で相互に衝突させるジェットミルを用いる微粉砕工程により製造することができる。
さらに好ましくは、体積平均粒子径が6μmまたは体積最大粒子径が20μm以下になるまでボールミルで微粉砕する。微粉砕にかかる時間は、ボールミルの種類や卵殻膜含有粉末の大きさによって異なるが、たとえば、ボールミル(BM-100 株式会社大島鉄工所製)を用いて、1~12時間である。ボールミルで粉砕することにより、全体としての体積平均粒子径は変わらないものの、従来の微粉末に比べて、大きさが小さくて揃っている微粉末分子が得られ、そのために均一に分散してより可溶化される卵殻膜含有微粉末となる。
【0017】
悪液質とはがんや慢性疾患などのさまざまな病理学において観察されている致死的な疾患であり、一般的に「前悪液質(pre-cachexia)」「悪液質(cachexia)」「不応性悪液質(refratory cachexia)」に分類される。特に進行性のがん患者の大多数では、悪液質には神経性やせ症、多量の除脂肪組織量、骨格筋の衰弱、身体機能の低下、さらにはがん関連の死亡率の増加が伴う。慢性的炎症は、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターロイキン6(IL6)、インターフェロンガンマ(IFNγ)などの炎症性サイトカインを媒介していることから、これらが悪液質の主原因の一つであることが知られている。
悪液質の患者は化学療法や放射線療法に対する耐性が比較的低いため、悪液質に関する治療法の選択肢は限られている。対照的に、初期の段階で適切な緩和処置が行われていれば悪液質の病因を予防・遅延できると考えられていることから、研究者は悪液質の早期段階である前悪液質に着目している。
【0018】
IL10は、T細胞から派生したIFNγなどのサイトカインの発現を抑制し、単球による抗原提示の可能性を抑えることができる。加えて、IL10は、エンドトキシン誘発急性致死性を防ぐことで、IL1、IL6、TNF-αなどの炎症性サイトカインを大幅に下方制御できる。マウスモデルでは、IL10遺伝子転移が腫瘍部位におけるTNF-α発現を下方制御することで、悪液質を改善することが確認されている(非特許文献2)。ヒトを対象とした先行研究では、胃食道の悪性腫瘍を患う患者の間で観察されていることから、宿主のIL10遺伝子型が悪液質の発生に影響しうることが報告されている(非特許文献3)。さらに、IL10の遺伝子ハプロタイプは胃がん患者における悪液質の発生に寄与している(非特許文献4)。
【0019】
本発明者らは、IL10ノックアウトマウスを自然発症的な炎症性腸疾患(IBD)および大腸がんのモデルとして用い、悪液質の症状を再現した。肝臓、骨格筋、脂肪、大腸を含む複数の組織を標的とし、卵殻膜粉末給餌による悪液質に対する影響を試験し、同時に腸内微生物叢における変化も評価した。
その結果、卵殻膜粉末がIL10KOマウスにおいて悪液質の症状を軽減したことを実証した。その根底にある機序は、腸内微生物叢の作用によるヘルパーT(Th)細胞の分化制御が考えられる。
【0020】
本発明の経口組成物に含まれる卵殻膜含有粉末の含有量は特に制限されないが、粒子への造粒と打錠が円滑に行え、かつ錠剤を摂取した際の悪液質善効果の観点から、錠剤の全重量に対して5~40重量%の割合、より好ましくは10~35重量%の割合で含有する。含有量を5重量%以上とすることにより、多量の錠剤を摂取する必要がなくなり、一方、35重量%以下とすることにより造粒および打錠が容易となり、錠剤を製造しやすくなる。
【0021】
本発明の経口組成物には、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、またはドリンク剤を形成するための各種の公知の添加剤を添加することができ、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、その他の栄養素等を添加することができる。
賦形剤としては、公知の賦形剤が適宜使用できるが、化工澱粉および乳糖の少なくとも1種を、賦形性の観点から卵殻膜成分の重量に対して0.3~3倍用いることが好ましく、1~2.5倍であることがより好ましい。化工澱粉としては、焙焼デキストリンなどのデキストリン、酸化澱粉、低粘性変性澱粉などの1種または2種以上を用いることができる。賦形剤として化工澱粉と乳糖を併用する場合は、使用割合(重量比)が、1:5~5:1であることが好ましい。
結合剤としては、公知の結合剤が適宜使用できるが、たとえば、デンプン糊、アラビアゴム糊、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
崩壊剤としては、公知の崩壊剤が適宜使用できるが、たとえば、セルロース類などを用いることができる。
滑沢剤としては、公知の滑沢剤が適宜使用できるが、たとえば、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ワックス類、タルク、ビタミンCなどが挙げられる。
【0022】
また、錠剤の硬度を高くして、変形や傷つきを防止し、取扱性を向上させるため、硬度向上剤として卵殻カルシウムを含有することが好ましく、錠剤に含まれる卵殻カルシウムの含有量は、好ましくは0.1~20重量%、より好ましくは0.5~15重量%である。
さらに、錠剤中に含まれる成分の変質や分解を防止し、かつ、錠剤表面の耐傷つき性を向上させるため、コーティング皮膜で覆うことが好ましい。コーティング皮膜は、公知のコーティング皮膜が適宜使用できるが、たとえば、商品名「セラック」(岐阜セラック株式会社製)を用いることができ、本発明の錠剤は、糖衣で覆われていてもよく、着色してもよく、着色後に艶出し処理を施してもよい。
【0023】
本発明の錠剤の大きさは特に制限されないが、一般には直径が約7~10mm程度の円形や楕円形とするのが、取扱性、服用のし易さから好ましい。錠剤の1個の重さは、約350~600mg程度であり、有効成分が好ましくは約10~240mg、より好ましは約20~150mg含まれるようにする。
本発明の錠剤は、卵殻膜含有粉末を少なくとも含む打錠用原料を用いて、公知の錠剤製造方法により製造することができる。たとえば、打錠用原料を打錠して裸錠を形成する打錠工程を経て、必要に応じて、造粒工程、保護コーティング工程、糖衣コーティング工程等を行い、さらに着色、艶出しを行ってもよい。
【0024】
また、本発明の悪液質改善剤としての医薬品の有効投与量は、治療もしくは予防すべき症状の程度、投与対象の状態(年齢、性別を含む)、剤型などによって異なる。このような医薬品のヒト(体重60kgの成人)に対する経口投与量は、卵殻膜含有粉末に換算して、好ましくは1日当たり1~100,000mgである。たとえば、有効投与量は、1日当たり卵殻膜含有粉末を合計で10~48,000mgとすることができ、好ましくは、20~3,500mgとすることができる。本発明の卵殻膜含有粉末は、安全性が高く副作用の心配がないので、他の成分を適切に選択する限りにおいて、摂取量または適用量が上記の範囲を超えても問題はない。
【0025】
さらに、本発明の製剤は、菓子類、飲料、健康食品、保存食品、加工食品などの食品添加剤とすることができる。ここで、「医薬品」および「飲食品」の対象はヒトに限定されるのもではなく、ペットや家畜のような哺乳動物用の医薬品および飼料も包含する。また、「飲食品」の概念には、通常の飲食品の他、経腸栄養食品、栄養機能食品、機能性表示食品、特定保健用食品などが包含される。
【0026】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0027】
[動物実験]
齢5週間のオスB6.129P2-IL10<tm1Cgn>/J (IL10-/-)マウス(The Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME)に、28週間にわたりアメリカ栄養学会が1993年に開発したAIN-93G粉末飼料(KO)、または8%ESM(卵殻膜)含有AIN-93G飼料(KOE)(n=7)を給餌した。C57BL/6野生型マウス(Oriental Yeast Co., Ltd., Tokyo, Japan)にはAIN-93G飼料を給餌し、正常の対照群(WT)として用いた(n=5)。実験は制御した室温(23± 2℃)、相対湿度(50%-60%)、照明条件(12h明/暗サイクル)の下で実施した。体重、食物摂取量、便の硬さを含む全体的な特徴の指数を測定した。便の硬さのスコアは0-正常、2-柔らかい、4-下痢とした。
【0028】
[血液採集と組織採取]
マウスは実験の終了時に安楽死前にペントバルビタールナトリウム塩により麻酔し、頸動脈から出血させた。血漿と赤血球細胞は、4℃で15分間にわたり1000×g遠心分離を行うことで分離した。回盲接合部と近位直腸の距離を測定し、大腸長と見なした。肝臓、大腸、脾臓、腸間膜脂肪、後腹膜脂肪、精巣上体脂肪、腓腹筋、盲腸の内容を液体窒素で凍らせ、さらなる分析を行うまで-80℃で保管した。
【0029】
[生化学的アッセイ]
血液細胞におけるヘモグロビン値は、ヘモグロビン・アッセイキット(和光純薬工業株式会社、大阪)を用いて測定した。総脂質量はFolch法により肝臓から抽出した。血漿中および肝臓内の総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、高密度リポタンパク質(HDL)コレステロール、遊離脂肪酸(NEFA)の各値は和光製のキットを用いて測定した。血漿インスリン値は森永生科学研究所(横浜)製のキットにより測定した。粘膜内ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性には比色キット(BioVision, Palo Alto, CA, USA)を用い、メーカーの説明書に従って測定した。
【0030】
[組織像]
(1)大腸の組織病理像
各群のマウスから得た大腸組織の切片はOCTコンパウンド(Sakura Finetek, Torrance, CA, USA)に包埋し、液体窒素により瞬間凍結した。厚さ5μmの各切片はヘマトキシリンとエオジンにより区分化・染色し、光学顕微鏡(Olympus顕微鏡BX51、オリンパス光学工業、東京)で観察した。
(2)筋肉の免疫組織化学的特徴
筋組織の切片は抗PECAM-1ウサギポリクローナル抗体(Spring Bioscience)を用いて処理し、試料あたり五つのフィールドから行った観察に基づいて採点した。陽染性細胞の数は、実験条件のわからない2名の独立した調査者がImageJ(http://rsbweb.nih.gov/ij/)を用いて20倍率で確認した細胞の総パーセント面積の平均として表した。
【0031】
[トランスクリプトーム解析]
(DNAマイクロアレイ解析とIngenuity Pathway解析(IPA))
各群のマウスの肝臓または大腸からそれぞれRNA分離キット(NucleoSpin(商標登録) RNA Π, Macherey-Nagel, Duren, Germany)およびTRIzol試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)により抽出し、プールした肝臓または大腸の全粘膜RNAを用いてマイクロアレイ解析(Affymetrix Mouse Genome 430 2.0 Array Genechips, Santa Clara, CA, USA)を実施した。スキャンした画像はAffymetrix Microarray Suite ver.5.0を用いて解析し、KO対CONマウスおよびKOE対KOマウスの遺伝子発現の比率を計算した。発現変動した遺伝子は発現log(比)>1.0および<-1.0のものとして定義し、IPAのPathway Explorerを用いてマッピングした。
遺伝子の発現変動を裏付けるために、逆転写リアルタイム・ポリメラーゼ連鎖反応検査(RT-PCR)とデジタルポリメラーゼ連鎖反応検査(dPCR)を実施した。
【0032】
[盲腸メタゲノム解析と盲腸内の短鎖脂肪酸(SCFA)濃度の測定]
非特許文献5に記述の方法に従って、16SrDNA配列決定と盲腸内におけるSCFAの測定を実施した。
[腸間膜リンパ節(MLN)のフローサイトメトリー解析]
フローサイトメトリー解析は、FACSverse(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)を用いて所定の手順に従って実施した。
[統計分析]
データは平均±標準偏差(SE)として提示し、一元配置分散分析による分析を行った。有意差はTukeyの検定を用いて*p<0.05と**p<0.01の有意水準にて評価した。
【0033】
[結果]
(1)全体的特徴
28週間経過した時点では、WTマウスとKOEマウスの間において体重の有意な変化は見られなかった(
図1A)。しかし、21週間後から28週間後にかけて、KOマウスはWTマウスと比較して体重が有意に減少し、23週間目を過ぎるとKOEマウスの場合と比較してKOマウスにおいて観察された体重の減量が有意であり、最終的な生存率はそれぞれ82%と70%であった。
実験期間全体を通じて、WT、KO、KOEマウスの間での食物の一日摂取量の平均について有意差は観察されなかった(
図1B)。しかし、KO群における食物の一日摂取量の平均値は14週間目から28週間目にかけてWT群よりも有意に低く、14週間目から18週間目にかけてはKOE群よりも低かった。
便の硬さについては、KOマウスが13週間目から便が柔らかくなり、28週間目まで増加し続ける傾向にあった(
図1C)。KOEマウスは23週間目から便が柔らかくなり、柔らかさの程度はKOマウスのそれよりも有意に低かった。
脂肪組織の重量(
図1C)、腓腹筋、脾臓、肝臓、大腸、ならびに大腸の体重/全長比(
図1E)は、WTマウスの場合と比較してKOマウスにおいて有意に変化していた。しかし、これらの因子はKOマウスにおけるESMの補給により著しく改善していた。
【0034】
(2)生化学的アッセイ
血漿グルコース、HDLコレステロール値、NEFA値はWTマウスよりもKOマウスにおいて有意に低く、KOEマウスでは各値が著しく回復した(
図2A)。KO群とKOE群では、血漿中のインスリン、TG、TCの各値や肝脂質代謝マーカーでは有意な変化は見られなかった。赤血球細胞におけるヘモグロビン値はWTマウスよりもKOマウスにおいて有意に低く、KOEマウスでは上昇する傾向にあった(p=0.073)。
【0035】
(3)大腸および筋のパラメーター
IL10ノックアウトは、粘膜上皮細胞における構造的な障害を誘発しており、炎症細胞による粘膜と粘膜下層への湿潤を増加させた可能性がある。ESMの補給は、炎症細胞による湿潤を削減することで、この障害を明らかに改善させており(
図2B)、KOEマウスにおける好中球の遊走に関するマーカーであるミエロペルオキシダーゼ(MPO)の粘膜活性の低下にも、このことが反映されている。加えて、免疫組織化学的解析から明らかなように、KOマウスではWTマウスと比較して、筋肉の血小板内皮細胞接着分子-1(PECAM-1)値が有意に上昇し、KOEマウスでは有意に低下していた(
図2C)。
【0036】
(4)肝臓のトランスクリプトーム解析
肝臓のマイクロアレイ解析により同定した発現変動した遺伝子を、Ingenuity Pathway解析(IPA)により解析した。KO/WTマウスとKOE/KOマウスのIngenuity canonical Pathwayの上位10位において、RXR機能経路のリポ多糖 (LPS)/IL1を媒介した阻害は、KO/WTマウスおよびKOE/KOマウスにおいて有意に変化しており、この経路における遺伝子の発現はRT-PCRにより裏付けられた。
ESMの補給はリポ多糖結合タンパク質(Lbp)、CD14抗原(Cd14)、トル様受容体4(Tlr4)、インターロイキン1受容体タイプII(Il1r2)、インターロイキン1-β(Il1b)、インターロイキン1受容体関連キナーゼ4(Irak4)、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ1(Map3k1, p = 0.083)、腫瘍壊死因子-α(Tnfα)遺伝子の発現を下方制御した。他の遺伝子の発現においては変化が見られなかったものの、Myd88タンパク質値は、KOマウスよりKOEマウスにおいて低くなっていた(p = 0.056)。加えて、dPCR解析からは、炎症に関連するタンパク質であるIL6をコードするIl6遺伝子の発現が、WTマウスよりもKOマウスにおいて有意に上方制御され、KOEマウスでは下方制御されていた。
【0037】
(5)腸内微生物叢の変容と群集の構造
各群における腸内微生物叢の構成について調査するため、階層型クラスターによるデンドログラム解析を実施した。KOEマウスの腸内微生物叢の構成は、KOマウスよりもWTマウスのそれに類似していた。この結果は、試料間での分類群の分布の違いを一定の分類レベルまで同定した主座標分析(PCoA)による結果と似ていた。Shannon多様度指数の分析からは、ESMの補給がKOマウスと比較してIL10ノックアウトマウスにおいて微生物叢のα多様性を増加させたことが示され、さらにChaol指数において明確な違いが確認された。
ESMの補給はバクテロイデス(最も存在量の多い門の一つ)、ファーミキューテス(大腸炎関連の細菌)、ウェルコミクロビウム、Deferribacteraceae(DSSに誘導される大腸炎関連の細菌)の相対的存在度を有意に高めた(
図3A)。Akkermansia muciniphila(腸の炎症を誘導する細菌)の相対的存在度とBacteroidaceaeおよびPorphyromonadaceae(日和見病原体)、Bacteroides ovatus(腸組織の炎症を誘導する細菌)、B. acidifaciens(IgAの産生を促進させる細菌)の病原性はIL10ノックアウトに対する応答として高まり、ESMの補給への応答として低下した。腸内でSCFAを発酵させるRuminococcaceaeの相対的存在度はKOマウスと比較してKOEマウスにおいて有意に増加した(
図3A)。
【0038】
(6)盲腸内SCFA濃度における変化
IL10ノックアウトは、WTマウスと比較して盲腸の酢酸塩と酪酸の量を有意に減少させ、乳酸とイソ酪酸を増加させた(
図3B)のに対し、ESMの補給は、KOマウスと比較して酪酸と酢酸塩の量ならびに総SCFA量を有意に増加させた。吉草酸濃度はIL10ノックアウトでは変化しなかったが、ESMを補給したことにより、WTマウスと比較して有意に上昇した。盲腸におけるプロピオン酸とイソ吉草酸の濃度は各群間で有意に変化しなかった。
【0039】
(7)結腸粘膜のトランスクリプトーム解析
大腸マイクロアレイ解析で同定した発現変動した遺伝子を、関連する生物学的機能や経路を特定するためにIPAにより分析した。KO/WTマウスとKOE/KOマウスのIngenuity canonical Pathwayの上位10位について、KOマウスのそれと比較して、ESMの補給は結腸粘膜におけるケモカイン(C-C motif)リガンド9(Ccl9)、ケモカイン(C-C motif)受容体1(Ccr1)、ケモカイン(C-X-C motif)リガンドファミリーのメンバー(Cxcl13 and Cxcl11)、ケモカイン(C-X-C motif)受容体5(Cxcr5)、Il6、インターロイキン12(Il12a, Il12b)、インターロイキン12受容体(Il12rb1)を含む炎症関連の遺伝子を下方制御した(
図4A)。
【0040】
さらに、T細胞の分化に関連する遺伝子の発現はKOEマウスの場合は抑制されていた。これらの遺伝子はIfngおよびTボックスタンパク質21(Tbx21)、インターロイキン17(Il17a)を含むTh17細胞の発達、レチノイド関連オーファン受容体(Rora)、塩基性のロイシンジッパー転写因子ATF様(Batf)、インターフェロン制御因子(Irf4, Irf8)、転写因子jun-B(Junb)、JUN二量体化タンパク質2(Jdp2)、転写因子フォークヘッドボックスP3(FoxP3)を含む制御T細胞(Treg)の発達、トランスフォーミング増殖因子(Tgfb)とIl6を含むTreg/Th17バランスの維持など、Th1細胞の発達に関連している。しかし、KO群とKOE群の間では、レチノイン酸受容体に関連するオーファン受容体ガンマt(Rorgt)、Il23、ならびに腸管バリア機能と関係している閉鎖帯1(Zo1)(
図4A)の発現において有意な変化は見られなかった。
(8)Th17細胞の存在量の変化
KOマウスはMLNにおいて有意に高いCD4
+IL17A頻度を示していたが、これはKOEマウスにおけるESMの補給により減衰する傾向にあった(p=0.071;
図4B)。
【0041】
体重、腓腹筋と脂肪組織、結腸の重量/全長比、血漿HDLとNEFA、筋肉PECAM-1値(p<0.01)、血漿グルコース、結腸粘膜内ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性(p<0.05)、ヘルパーTh17細胞(Th17)の存在量(p=0.071)は、すべてKOマウスと比較してKOEマウスにおいて改善していた。
プロテオーム解析からは、筋肉の弱さと筋肉形成の維持におけるESMの保護的な役割も示された(>1.5倍)。トランスクリプトーム解析では、ESMの補給が肝臓におけるLPS/IL1を媒介したRXR機能経路の阻害を抑制し、上流のBATF経路を抑制することで、結腸粘膜におけるケモカインの発現とTh細胞の分化に関連するマーカー(p<0.01)を下方制御していることを示した。
腸内微小環境の分析では、ESMの補給が微生物のα多様性と炎症の程度と関係する微生物叢の存在量を改善し(p<0.05)、総有機酸量、特にTh1やTh17の産生を阻害できる可能性がある酪酸(2.3倍)などのSCFAの量を増加させたことが明らかになった。
【0042】
ESMの補給により、除脂肪組織量、骨格筋の衰弱、身体機能の低下などの悪液質の主な症状に改善が見られ、また、ESMは結腸や骨格筋の炎症、脂質代謝、微生物叢の変容も改善した。
これらの悪液質関連症状の減衰結果は、ESMが腸内微生物叢を調節し、ヘルパーT細胞の分化を抑制することと密接に関連することが示された。