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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077799
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】マイクロLED素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/36 20100101AFI20240603BHJP
   H01L 33/30 20100101ALI20240603BHJP
【FI】
H01L33/36
H01L33/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189962
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】石崎 順也
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA41
5F241CA12
5F241CA37
5F241CA74
5F241CA91
(57)【要約】
【課題】同じ面にAlGaInP系発光素子構造と、極性の異なる2つの電極を有する一辺100μm未満のマイクロLED素子(ダイス)の割れを低減または回避することができるマイクロLED素子を提供することを目的とする。
【解決手段】マイクロLED素子構造の上部電極17と下部電極18で段差があり、応力集中点を生みやすくなるが、下部電極18の周囲を囲むように発光素子構造8を有することで、上部電極17と下部電極18の周囲の段差を少なくすることができ、応力集中点になるべき部分には発光素子構造8があり、強度低下を引き起こしにくい。そのため、ダイス割れの頻度を低下させることができる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(AlGa1-yIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)からなる活性層が第一クラッドと第二クラッドに挟まれた発光素子構造と、
上部電極と、
前記上部電極とは極性が異なる下部電極と、
を有する一辺100μm未満のマイクロLED素子において、
前記発光素子構造と、前記上部電極及び前記下部電極は、前記マイクロLED素子の第一の面に配置し、
前記上部電極は前記発光素子構造の上面に配置し、
前記下部電極は前記発光素子構造が無い位置に配置し、
前記下部電極の周囲を囲むように前記発光素子構造を有するものであることを特徴とするマイクロLED素子。
【請求項2】
前記下部電極の周囲を囲む前記発光素子構造は、前記下部電極の周囲を連続して切れ目無く囲むものであるか、一部切り欠き部を有するものであり、前記切り欠き部と前記発光素子構造の外側の境界部が、前記下部電極の端部より外側に位置するものであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロLED素子。
【請求項3】
前記マイクロLED素子の第二の面には、発光波長に対して透明なウェーハが接着剤または接合材にて接合されているものであることを特徴とする請求項2に記載のマイクロLED素子。
【請求項4】
前記接着剤または接合材が、BCBであることを特徴とする請求項3に記載のマイクロLED素子。
【請求項5】
前記透明なウェーハがサファイアまたは石英であることを特徴とする請求項3または4に記載のマイクロLED素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロLED素子に関し、特に割れを低減または回避することができるマイクロLED素子の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロLEDディスプレイ実現のため、レーザーリフトオフ(LLO)を用いてLEDを出発基板から剥離して実装用基板に移載し、駆動基板に移載する技術が特許文献1に開示されているが、全てGaN系LEDに対してのみであり、AlGaInP系LEDを用いたマイクロLED素子に関する技術開示は少ない。
【0003】
AlGaInP系LEDでLLO工程によりマイクロLED素子を実現するためには、サファイア基板に移載する必要がある。AlGaInP系LEDをサファイア基板に移載する技術に関しては、例えば特許文献7などの先行技術の開示がある。
【0004】
しかし、AlGaInP系LEDはGaN系LEDに比べて機械的に脆弱であり、ダイス設計の適否によりLLO工程時、ダイス割れが発生しやすくなる。LLO工程時のマイクロLEDダイス割れ回避に関する技術開示は無い。特にダイスデザインと割れに関する先行する技術開示は無い。
【0005】
特許文献2では長辺と短辺を有するチップにおいて、矩形のオーミック電極を長辺方向端部に配置する設計が開示されている。典型的なチップデザインだが、ダイス割れに関しては考慮されておらず、下部電極と上部電極を別々に(別バッチで)形成するため、高さを絶対一致させることは難しい。高さが異なることにより、上部電極と下部電極の間の領域にLLO時、応力がかかる。上部電極域と下部電極域を結ぶ台座部分の機械強度が弱い場合、ダイス割れにつながる。AlGaInP系LEDでは台座に当たる部分は高密度の結晶転位を有するGaPとすることが一般的であり、機械強度は極めて低い。
【0006】
特許文献3では下部電極の三方向をDH層(発光層)で囲む構造が開示されている。この構造の場合、下部電極と上部電極を別々に(別バッチで)形成するため、高さを絶対一致させることは難しい。従って、特許文献2の場合と同様に、特許文献3に示される技術ではダイス割れが発生しやすい。従って、特許文献3に示される技術は、ダイスの機械強度を高めるための技術では無い。
【0007】
特許文献3と類似する技術として、特許文献4では下部電極が長辺を有し、上部電極が下部電極の三辺を囲う設計が開示されている。しかし下部電極の一辺は囲われておらず、囲われていない方向に下部電極は伸ばされている。さらに上部が開口しており、開口部分は部分的に素子が薄くなっている。従って、開口部分の下部電極の機械強度は低くなる。通常、ダイスの辺は劈開方向である<100>方向に沿って形成されるため、劈開しやすい構造である。そのため、一辺が囲われていない特許文献4の構成はダイス割れ回避の点で適した技術ではない。
【0008】
特許文献5では、GaN系LEDにおいて周囲を囲まれた複数の丸形の下部電極の設計が開示されている。一方マイクロLED素子においては、一般にダイス1辺が100μm未満であり、下部電極の長辺が50μm前後以下、短辺はその半分程度である場合が多い。特許文献5をAlGaInP系LEDに適用しようとすると、厚みが2~3μm程度あるAlGaInP系発光層を削って複数の電極を設ける必要がある。AlGaInP系発光層を削る過程で活性層が露出するため、ショートを防止するため、加工断面にパッシベーション膜を形成する必要がある。そのため、オーミックコンタクト可能な面積は、開口した穴の直径より小さくなる。開口加工面積よりコンタクト電極の面積が小さくなることは、マイクロLED素子ではないそれ以上のサイズのダイスであれば大きな問題にはならないが、マイクロLED素子のような微少サイズのダイスではスペース効率が悪い。また、先行技術においては複数の下部電極とコンタクトを取る電極部分を別のスペースに設けており、その設計もスペース効率を悪化させる。特許文献5ではダイスサイズの明示はないが、マイクロLED素子のような小さいダイスを設計するのに向いた技術ではないのは明らかである。
【0009】
特許文献6では、下部電極の二方向をDH層(発光層)で囲む構造が開示されている。特許文献6におけるDH層の加工構造は輝度向上と相互配線のためのものであり、かつ、1辺100μm超のサイズの例示であり、長辺においても100μm未満のマイクロLED素子の割れを念頭においた技術の開示ではない。
【0010】
以上に示す様に、AlGaInP系材料を活性層に有するマイクロLED素子において、LLO工程時のダイス割れを回避する技術開示は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2020-521181号公報
【特許文献2】特開2019-129299号公報
【特許文献3】特開2014-179590号公報
【特許文献4】特開2011-124248号公報
【特許文献5】特開2009-117796号公報
【特許文献6】WO2010/074288
【特許文献7】特開2022-013203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、同じ面にAlGaInP系発光素子構造と、極性の異なる2つの電極を有する一辺100μm未満のマイクロLED素子(ダイス)の割れを低減または回避することができるマイクロLED素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、(AlGa1-yIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)からなる活性層が第一クラッドと第二クラッドに挟まれた発光素子構造と、上部電極と、前記上部電極とは極性が異なる下部電極と、を有する一辺100μm未満のマイクロLED素子において、前記発光素子構造と、前記上部電極及び前記下部電極は、前記マイクロLED素子の第一の面に配置し、前記上部電極は前記発光素子構造の上面に配置し、前記下部電極は前記発光素子構造が無い位置に配置し、前記下部電極の周囲を囲むように前記発光素子構造を有するものであるマイクロLED素子を提供する。
【0014】
従来のマイクロLED素子構造では上部電極と下部電極で段差があり、応力集中点を生みやすくなるが、本発明のマイクロLED素子であれば、下部電極の周囲を囲むように発光素子構造を有することで、上部電極と下部電極の周囲の段差を少なくすることができ、応力集中点になるべき部分には発光素子構造があり、強度低下を引き起こしにくい。そのため、ダイス割れの頻度を低下させることができる。
【0015】
また、前記下部電極の周囲を囲む前記発光素子構造は、前記下部電極の周囲を連続して切れ目無く囲むものであるか、一部切り欠き部を有するものであり、前記切り欠き部と前記発光素子構造の外側の境界部が、前記下部電極の端部より外側に位置するものであることが好ましい。
発光素子構造が下部電極の周囲を連続して切れ目無く囲むものであれば、下部電極の周囲には一切の段差が無く、最も強度低下を引き起こしにくい。また、発光素子構造に一部切り欠き部を有するものであっても、切り欠き部と発光素子構造の外側の境界部が、下部電極の端部より外側に位置するものであれば、十分に強度低下を防ぐことができる。このように強度低下を防ぐことで、ダイス割れの頻度を低下させることができる。
【0016】
また、前記マイクロLED素子の第二の面には、発光波長に対して透明なウェーハが接着剤または接合材にて接合されているものであることが好ましい。
このような接合ウェーハにおいてLLO(レーザーリフトオフ)工程を行う場合、従来、LLOは割れの頻度が高い工程であるが、本発明によりダイス割れの頻度を低下させることができる。
【0017】
また、接着剤または接合材が、BCBであることが好ましい。
このような接着剤または接合材であれば、マイクロLED素子に好適に適用することができる。
【0018】
また、透明なウェーハはサファイアまたは石英であることが好ましい。
このような透明なウェーハであれば、マイクロLED素子に好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明のマイクロLED素子であれば、下部電極の周囲を囲むように発光素子構造を有することで、上部電極と下部電極の周囲の段差を少なくすることができ、応力集中点になるべき部分には発光素子構造があり、強度低下を引き起こしにくい。そのため、ダイス割れの頻度を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一の実施形態のマイクロLED素子の製造方法の1つの工程を示す概略断面図である。
図2】本発明の第一の実施形態のマイクロLED素子の製造方法の1つの工程を示す概略断面図である。
図3】本発明の第一の実施形態のマイクロLED素子の製造方法の1つの工程を示す概略断面図である。
図4】本発明の第一の実施形態のマイクロLED素子の製造方法の1つの工程を示す概略断面図である。
図5】本発明の第一の実施形態のマイクロLED素子の製造方法の1つの工程を示す概略断面図である。
図6】本発明の第一の実施形態のマイクロLED素子の製造方法の1つの工程を示す概略断面図である。
図7】本発明の第一の実施形態のマイクロLED素子の移載方法の1つの例を示す概略断面図である。
図8】本発明の第一の実施形態のマイクロLED素子の上面図である。
図9】本発明の第一の実施形態のマイクロLED素子の断面図である。
図10】本発明の第二の実施形態のマイクロLED素子の上面図である。
図11】本発明の第二の実施形態のマイクロLED素子の断面図である。
図12】本発明の第二の実施形態のマイクロLED素子の断面図である。
図13】本発明の第二の実施形態のマイクロLED素子の断面図である。
図14】本発明の第二の実施形態の別の例のマイクロLED素子の上面図である。
図15】従来のマイクロLED素子の上面図である。
図16】従来のマイクロLED素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
前述のように、同じ面にAlGaInP系発光素子構造と極性の異なる2つの電極を有する一辺100μm未満のマイクロLED素子において、LLO工程時のダイス割れを回避する技術開示が無いことが分かった。
【0022】
さらに本発明者らが検討を重ねたところ、上記のマイクロLED素子において、下部電極の周囲を囲むように発光素子構造を有することで、上部電極と下部電極の周囲の段差を少なくし、強度低下を引き起こしにくくすることができ、ダイス割れの頻度を低下させることができることが判り、本発明を完成させた。
【0023】
即ち、本発明は、(AlGa1-yIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)からなる活性層が第一クラッドと第二クラッドに挟まれた発光素子構造と、上部電極と、上部電極とは極性が異なる下部電極と、を有する一辺100μm未満のマイクロLED素子において、発光素子構造と、上部電極及び下部電極は、マイクロLED素子の第一の面に配置し、上部電極は発光素子構造の上面に配置し、下部電極は発光素子構造が無い位置に配置し、下部電極の周囲を囲むように発光素子構造を有するものであるマイクロLED素子である。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
(第一の実施形態)
最初に図1に示すように第一導電型のGaAs出発基板1上に、第一導電型のGaAsバッファ層積層後、エッチストップ層2として例えば0.1μm厚の第一導電型のGaIn1-xP(0.4≦x≦0.6)第一エッチストップ層、例えば0.1μm厚の第一導電型のGaAs第二エッチストップ層、さらに、例えば1.0μm厚の第一導電型の(AlGa1-yIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0.6≦y≦1.0)第一クラッド層(第一クラッド3)、ノンドープの(AlGa1-yIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)活性層4、例えば1.0μm厚の第二導電型の(AlGa1-yIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0.6≦y≦1.0)第二クラッド層(第二クラッド5)、例えば0.1μm厚の第二導電型のGaIn1-xP(0.5≦x≦1.0)中間層、第二導電型のGaP窓層6を順次成長したエピタキシャル機能層として発光素子構造を有するエピタキシャルウェーハ7を準備する。ここで第一クラッド層3から第二クラッド層5までをダブルヘテロ(DH)構造部(DH層8、あるいは発光素子構造8)と称する。
【0026】
前述した膜厚はあくまで例示であり、素子の動作仕様により膜厚は変更されるべきパラメーターにすぎず、ここで記載した膜厚に限定されない。また、第一および第二クラッド層は共に1.0μmの場合を例示したが、マイクロLED素子においては、定格電流密度が、大きいサイズのディスクリートLED素子より小さく、この膜厚より薄くてもクラッド層としての機能が損なわれない。
【0027】
第一クラッド層3は、後述する様に、第一クラッド層3に接する形で電極が形成されるため、オーミック接触形成時の金属拡散を考慮し、0.6μm以上の厚さを有することが好適である。これ以上の厚さであれば、どのような厚さでも選択可能である。ただ、あまり厚くなりすぎるとコストアップ要因になると共に、定電流駆動時の発光効率が低下する、あるいは、ウェーハの反りが大きくなることによる歩留まりの低下、などが発生しやすくなる。そのため、10μm以下の範囲で設計するのが好ましい。
【0028】
第二導電型がP型の場合、ホールの有効質量が大きいため、第二クラッド層5が、例えば0.2μm程度の厚さであっても、1.0μmと同様に機能する。そのため、0.2μm以上の厚さであれば、どのような厚さでも選択可能である。ただ、あまり厚くなりすぎるとコストアップ要因になると共に、定電流駆動時の発光効率が低下する、あるいは、ウェーハの反りが大きくなることによる歩留まりの低下、などが発生しやすくなる。そのため、10μm以下の範囲で設計するのが好ましい。
【0029】
また、各層は単一組成層ではなく、例示した範囲の組成内で複数組成層を有しても良い。
【0030】
また、キャリア濃度の水準は、各層で均一ではなく、各層内で複数の水準を有しても良い。
【0031】
活性層4は、単一組成から構成されてもよく、また、バリア層と活性層を複数交互に積層した超格子構造であっても、類似の機能を有し、両者いずれもが選択可能である。いずれの構造を選択しても本技術の作用効果は同様である。
【0032】
GaP窓層6の厚さは5μm超が必要であり、例えば6μm程度とすることができるが、この厚さに限定されるものではない。後述する素子分離の短辺長より薄い範囲での膜厚であればどのような膜厚でも選択可能である。
【0033】
次に図2に示すようにエピタキシャルウェーハ7上に熱硬化型接合部材(以下、接合材9)としてベンゾシクロブテン(BCB)をスピンコートし、被接合ウェーハであるサファイアウェーハ10(透明なウェーハ10)と対向させて重ね合わせ、真空雰囲気下にて熱圧着する。スピンコートにてBCBを塗布する際、設計膜厚は例えば0.6μmとすることができる。
【0034】
また、真空雰囲気に限定されるものではなく、酸素が100ppm以下の雰囲気を作製できるのであれば、どのような雰囲気であっても採用可能である。窒素雰囲気やアルゴン雰囲気であっても同様の効果が得られる。
【0035】
また、被接合基板はサファイアに限定されるものではなく、LLO用レーザー光透過性と平坦性が担保されていればどのような材料も選択可能である。サファイアの他、石英を選択することが可能ある。
【0036】
また、BCBは層状に塗布した状態である場合に限定されない。感光性BCBを用いて孤立島状やライン状、その他の形状にパターン化し、接合の工程を行っても同様な結果が得られる。
【0037】
また、BCBの厚さは0.6μmに限定されるものではなく、この厚さ以下に薄くても同様の効果が得られる。
【0038】
次に図3に示すようにGaAs出発基板をウェットエッチングで除去し、第一エッチストップ層を露出させ、第一第二エッチングストップ層をそれぞれに適したエッチング液で除去して第一クラッド層3を露出させ、DH層8とGaP窓層6のみを保持するエピタキシャル接合基板11を作製する。
【0039】
次に図4に示すようにTEOSとOを原料とするP-CVD法にてエピタキシャル接合基板11のエピタキシャル層上にSiO膜を例えば1μm厚で形成する。次にフォトリソグラフィ(以下フォトリソ法)にてレジストパターンを形成し、フッ酸溶液にてSiOのパターン形状を作製する。なお、このSiOパターン形状は、一辺が100μm未満とする。次にSiOパターンをハードマスクとして、塩素系ガスを導入したICP装置にて、ICP処理を行い、DH層8とGaP窓層6をドライエッチングし、BCB層(接合材9)を露出させ、エッチングガスを切り替えて露出したBCB層(接合材9)を更にドライエッチングしてサファイアウェーハ(透明なウェーハ10)を露出させ、DH層8とGaP窓層6からなる素子分離パターンを形成する。素子分離パターン形成後、素子分離パターンの一部が開口する様にSiOパターンを形成し、DH層8の一部を、前記と同様にICP法でエッチングし、第二クラッド層5あるいは中間層あるいはGaP窓層6を露出させ、バスタブ状加工部12を有する様に加工する。
【0040】
図4のバスタブ状加工部12では垂直な壁を有する場合を示しているが、壁が垂直な場合に限定されるものではなく、ICP加工条件次第では10~15度程度の斜面を形成することは容易であり、斜面形状としても良い。
【0041】
また、バスタブ状加工部12は、図8に示すような略四角形状に限定されるものではなく、楕円や円形状、多角形のような形状であっても良い。このようにバスタブ状加工部12を形成することで素子(ダイス13)の外周は発光素子構造8で囲まれた構造となり、応力集中点になるべき部分には発光素子構造8があり、強度低下を引き起こしにくい。そのため、ダイス13割れの頻度が低下する。
【0042】
次に、図5に示すように、TEOSとOを原料とするP-CVD法にて例えば0.1μm厚のSiO層で全面を被覆し、絶縁膜14を形成する。なお、P-CVD法のみに限定されず、スパッタ法や光CVD、EB蒸着、PLD法など、他の成膜方法を用いても良い。
【0043】
次に、バスタブ状加工部12の底部すなわち第二コンタクト部15(開口部15)、および第一クラッド層3の一部すなわち第一コンタクト部16(開口部16)の両者が開口する様にフォトリソ法にてレジストパターンを形成し、フッ酸系エッチャントを用いたウェットエッチング法にて開口部を形成する。開口部15、16は、バスタブ状加工部の底部すなわち第二コンタクト部、および第一クラッド層の一部が露出した第一コンタクト部である。
【0044】
次に開口加工後、第一コンタクト部16に第一コンタクト電極(第一オーミック電極17)を、第二コンタクト部15に第二コンタクト電極(第二オーミック電極18)を形成する(図8参照)。第一導電型がP型の場合、第一コンタクト電極はAuZnあるいはAuBeを含む金属であり、第二コンタクト電極はAuGeあるいはAuSiを含む金属で形成する。第一導電型がN型の場合、第一コンタクト電極はAuGeあるいはAuSiを含む金属であり、第二コンタクト電極はAuZnあるいはAuBeを含む金属で形成する。膜厚はSiO絶縁膜14と略同一のそれぞれ例えば0.1μmで形成することができる。
【0045】
なお、各コンタクト電極の厚さは0.1μmに限定されない。この膜厚より厚くても薄くても同様の効果が得られるが、薄すぎる場合、オーミック性が低下する恐れがある。それを防ぐためには0.05μm以上の厚さを有することが好適である。本技術においては、コンタクト電極とSiO絶縁膜14の厚さを略同一とすることがポイントである。従って、SiO絶縁膜14が薄すぎると加工側面での被覆率が低下し、加工側面で電気的リークが発生する可能性が生じる。そのためには薄すぎるSiO絶縁膜14ではよくない。そのため、0.05μm以上の膜厚とすることが好ましい。また、コンタクト電極が厚すぎる場合、後述するパッド電極形成時に本技術の効果が減少してしまう。そのため、コンタクト電極の厚さは後述するパッド電極の1/5以下であることが好ましい。パッド電極は一般的に3μm厚を超えることがない。従って、コンタクト電極は0.6μm以下であることが好ましい。
【0046】
次に図6に示すようにコンタクト電極形成後、各コンタクト電極の少なくとも一部と接し、各電極が電気的に離間する様にパッド電極19、20を形成する。パッド電極の厚さは、コンタクト電極の厚さ、特に第一クラッド層3と接するコンタクト電極の5倍以上の厚さとすることが好適である。パッド電極は例えば真空蒸着法で成膜することができる。また、パッド電極はコンタクト電極の厚さの5倍以上、0.25μm以上の厚さとすることで、略同一としたSiO絶縁膜とコンタクト電極表面の凹凸(高低差)が緩和され、LLO工程時の応力集中を低減または回避することができる。なお、図8にはパッド電極19、20形成後の上面図を示し、第一コンタクト電極(第一オーミック電極17)、第二コンタクト電極(第二オーミック電極18)との関係がわかるように記載した。また、図8のA-A´ラインの断面図を図9に示す。
【0047】
次に図7に示すようにマイクロLED素子パターン及びピッチに類似するシリコーン凸パターン(シリコーン層21)を有する石英基板(移載基板22)に、マイクロLED素子パターンを押し当て、サファイア基板側よりエキシマレーザーを照射してBCBを昇華させる。BCBが昇華することでサファイアからマイクロLED素子を分離するLLO工程を行い、サファイア基板から石英基板に移載される。
【0048】
以上、本実施の形態におけるマイクロLED素子は、(AlGa1-yIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)からなる活性層4が第一クラッド3と第二クラッド5に挟まれた発光素子構造8と、上部電極17(第一コンタクト電極、第一オーミック電極)と、上部電極とは極性が異なる下部電極18(第二コンタクト電極、第二オーミック電極)と、を有する一辺100μm未満のマイクロLED素子において、発光素子構造8と、上部電極17及び下部電極18は、マイクロLED素子の第一の面に配置し、上部電極17は発光素子構造8の上面に配置し、下部電極18は発光素子構造8が無い位置に配置し、下部電極18の周囲を囲むように発光素子構造8を有するものである。
【0049】
従来のマイクロLED素子構造では上部電極と下部電極で段差があり、応力集中点を生みやすくなるが、本発明のマイクロLED素子であれば、図8図9の構成からも明らかなように、下部電極18の周囲を囲むように発光素子構造8を有することで、応力集中点になるべき部分には発光素子構造8があり、強度低下を引き起こしにくい。そのため、ダイス割れの頻度を低下させることができる。
【0050】
また、第一の形態では、下部電極18の周囲を囲む発光素子構造8は、下部電極18の周囲を連続して切れ目無く囲むものである。
発光素子構造8が下部電極18の周囲を連続して切れ目無く囲むものであれば、上部電極17と下部電極18を囲む部分には段差が無く、最も強度低下を引き起こしにくい。このように強度低下を防ぐことで、ダイス割れの頻度を低下させることができる。
【0051】
また、マイクロLED素子の第二の面には、発光波長とLLO転写用のレーザー光に対して透明なウェーハ(サファイアウェーハ10)が発光波長に対して透明でLLO転写用レーザー光を吸収するBCB(接合材9)にて接合されているものである。このような接合ウェーハにおいてLLO(レーザーリフトオフ)工程を行う場合、従来、LLOは割れの頻度が高い工程であるが、本発明によりダイス割れの頻度を低下させることができる。
【0052】
また、接合材9をBCBとしたが、BCBのみに限るものではなく、同様の接着剤または接合材を用いてもかまわない。
【0053】
また、透明なウェーハ10をサファイアとしたが、サファイアに限るものではなく、石英でも良いし、LLO用レーザー光透過性と平坦性が担保されていればどのような材料も選択可能である。
【0054】
(第二の実施形態)
第二の形態では、第二クラッド層、またはGaInP中間層、またはGaP窓層などの第二導電型層が露出するバスタブ状加工部を有する様に加工する工程は第一の実施形態と同様だが、素子分離パターンの角部方向に切り欠き部を有する点で第一の実施形態と異なる。
【0055】
図10に示すように角部の切り欠き部23は2つの場合と、図14に示すように1つの場合がある。また、図11図10のA-A´ラインの断面図を示す。なお、図14の断面図は図11と同じなので省略する。
【0056】
図10において、角部における切り欠き部23と発光素子構造8の外側の境界部24が、下部電極の端部25(第二コンタクト電極(第二オーミック電極18)の端部)より内側にならないように設けるようにする。即ち、図10の長さDをD≧0とする。このような構造とすることによっても応力集中点になるべき部分には発光素子構造8があり、素子(ダイス)において厚みが薄い部分となる下部電極(第二コンタクト電極(第二オーミック電極18)に応力がかかるのを防ぎ、強度低下を引き起こしにくい。そのため、ダイス割れの頻度が低下する。
【0057】
また、図12図10のB-B´ラインの断面図、図13図10のC-C´ラインの断面図を示す。発光素子構造8が、図12の両端と図13の中央に配置されていることで、下部電極(第二コンタクト電極(第二オーミック電極18)に応力がかかりにくいことが理解できる。
【0058】
以上、本実施の形態において、下部電極(第二コンタクト電極(第二オーミック電極18)の周囲を囲む発光素子構造8は、一部切り欠き部23を有するものであり、切り欠き部23と発光素子構造8の外側の境界部24が、下部電極(第二コンタクト電極(第二オーミック電極18)の端部25より外側に位置するものである。
このように、発光素子構造8に一部切り欠き部23を有するものであったとしても、切り欠き部23と発光素子構造8の外側の境界部24が、下部電極(第二コンタクト電極(第二オーミック電極18)の端部25より外側に位置するものであれば、十分に強度低下を防ぐことができる。このように強度低下を防ぐことで、ダイス割れの頻度を低下させることができる。
【実施例0059】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
第一導電型のGaAs出発基板上に、第一導電型のGaAsバッファ層積層後、0.1μm厚の第一導電型のGaIn1-xP(0.4≦x≦0.6)第一エッチストップ層、0.1μm厚の第一導電型のGaAs第二エッチストップ層、1.0μm厚の第一導電型の(AlGa1-yIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0.6≦y≦1.0)第一クラッド層、ノンドープの(AlGa1-yIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)活性層、1.0μm厚の第二導電型の(AlGa1-yIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0.6≦y≦1.0)第二クラッド層、0.1μm厚の第二導電型のGaIn1-xP(0.5≦x≦1.0)中間層、第二導電型の厚さ6μmのGaP窓層を順次成長したエピタキシャル機能層として発光素子構造を有するエピタキシャルウェーハを準備した。
【0061】
次にエピタキシャルウェーハ上に熱硬化型接合部材としてベンゾシクロブテン(BCB)をスピンコートし、被接合ウェーハであるサファイアウェーハと対向させて重ね合わせ、真空雰囲気下にて熱圧着した。スピンコートにてBCBを塗布する際、設計膜厚は0.6μmとした。
【0062】
次にGaAs出発基板をウェットエッチングで除去し、第一エッチストップ層を露出させ、第一第二エッチングストップ層をそれぞれに適したエッチング液で除去して第一クラッド層を露出させ、DH層と窓層のみを保持するエピタキシャル接合基板を作製した。
【0063】
次にTEOSとOを原料とするP-CVD法にてEP接合基板上にSiO膜を1μm厚で形成した。フォトリソ法にてレジストパターンを形成し、フッ酸溶液にてSiOのパターン形状を作製した。このSiOパターン形状は35×55μm角とした。SiOパターンをハードマスクとして、塩素系ガスを導入したICP装置にて、ICP処理を行い、DH層部とGaP層をドライエッチングし、BCB層を露出させ、CF系ガスに変えてBCB層のドライエッチングを行い、DH層部とGaP層からなる素子分離パターンを形成した。素子分離パターン形成後、素子分離パターンの一部が開口する様にSiOパターンを形成し、DH層部の一部を、前記と同様にICP法でエッチングし、第二クラッド層あるいは中間層あるいはGaP層を露出させ、バスタブ状加工部を有する様に加工した。
【0064】
バスタブ状加工部を形成後、TEOSとOを原料とするP-CVD法にて0.1μm厚のSiO層で全面を被覆し、絶縁膜を形成した。
【0065】
バスタブ状加工部の底部すなわち第二コンタクト部、および第一クラッド層の一部、第一コンタクト部の両者が開口する様にフォトリソ法にてレジストパターンを形成し、フッ酸系エッチャントを用いたウェットエッチング法にて開口部を形成した。開口部は、バスタブ状加工部の底部すなわち第二コンタクト部、および第一クラッド層の一部が露出した第一コンタクト部である。
【0066】
開口加工後、第一コンタクト部に第一コンタクト電極を、第二コンタクト部に第二コンタクト電極を形成した。膜厚はSiO絶縁膜と略同一のそれぞれ0.1μmで形成した。
【0067】
コンタクト電極形成後、各コンタクト電極の少なくとも一部と接し、各電極が電気的に離間する様にパッド電極を形成した。
【0068】
マイクロLED素子パターン及びピッチに類似するシリコーン凸パターンを有する石英基板に、マイクロLED素子パターンを押し当て、サファイア基板側よりエキシマレーザーを照射してBCBを昇華させることでサファイアからマイクロLED素子を分離するLLO工程を行い、マイクロLED素子をサファイア基板から石英基板に移載した。
【0069】
(実施例2)
実施例2は図10に示すように素子分離パターンの角部に切り欠き部を左右対称に2つ有する点を除き実施例1と同様の条件でマイクロLED素子を製造した。なお、角部の切り欠き部は図10に示す長さDを2μmとした。
【0070】
(実施例3)
実施例3は長さDを0μmとしたことを除き実施例2と同様の条件でマイクロLED素子を製造した。
【0071】
(比較例1)
比較例1は第二クラッド層の第二導電型層が露出する加工をすることは実施例1と同様だが、バスタブ状の加工ではなく、図15図16に示すように第二コンタクト電極周辺は全て第二導電型層が露出した構造とすること以外は実施例1と同様の条件でマイクロLED素子を製造した。
【0072】
(比較例2)
比較例2は長さDを-2μmとしたことを除き実施例2と同様の条件でマイクロLED素子を製造した。
【0073】
(実施例と比較例のマイクロLED素子の割れ状況)
表1に実施例1,2,3と比較例1,2におけるLLO工程時のマイクロLED素子の割れの発生率(%)を示す。表1に示すように下部電極の周囲を連続して切れ目無く囲む発光素子構造を有する実施例1や、角部に切り欠き部を有し、切り欠き部と発光素子構造の外側の境界部が、下部電極の端部より外側(D≧0)に設けられた発光素子構造を有している実施例2,3は平均の割れ発生率が0%である。これは、従来の構造である下部電極の周囲に発光素子構造が全くない比較例1や、角部に切り欠き部を有するものの、切り欠き部と発光素子構造の外側の境界部が、下部電極の端部より内側(D<0)に設けられた発光素子構造を有している比較例2の平均の割れ発生率(30%、27%)に比べ大きく改善されたことが判る。
【表1】
【0074】
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではない。上記実施例は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0075】
3…第一クラッド層(第一クラッド)
4…活性層
5…第二クラッド層(第二クラッド)
7…エピタキシャルウェーハ
8…DH層(発光素子構造)
9…熱硬化型接合部材(接合材)
10…サファイアウェーハ(透明なウェーハ)
11…エピタキシャル接合基板
12…バスタブ状加工部
13…素子(ダイス)
14…絶縁膜
15…第二コンタクト部(開口部)
16…第一コンタクト部(開口部)
17…上部電極(第一コンタクト電極、第一オーミック電極)
18…下部電極(第二コンタクト電極、第二オーミック電極)
19,20…パッド電極
22…石英基板(移載基板)
23…切り欠き部
24…外側の境界部
25…下部電極の端部
D…長さ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16