(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077921
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】金属有機複合薄膜およびその製造方法、二酸化炭素還元電極、ならびに二酸化炭素の還元方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/085 20210101AFI20240603BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20240603BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240603BHJP
C25B 3/03 20210101ALI20240603BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240603BHJP
C25B 11/061 20210101ALI20240603BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20240603BHJP
C25D 15/02 20060101ALI20240603BHJP
C25B 11/095 20210101ALI20240603BHJP
【FI】
C25B11/085
C25B3/26
C25B9/00 G
C25B3/03
C25B11/052
C25B11/061
C25D7/00 G
C25D7/00 Z
C25D7/00 R
C25D15/02 H
C25B11/095
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190162
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 勇希
(72)【発明者】
【氏名】竹市 信彦
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
4K024
【Fターム(参考)】
4K011AA06
4K011AA20
4K011AA69
4K011BA02
4K011DA10
4K021AC02
4K021DB53
4K021DC11
4K024AA09
4K024AB01
4K024AB19
4K024BA11
4K024CA02
4K024CA16
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の電気化学的な還元に使用可能であり、各種炭素化合物の生成に有用な金属有機複合薄膜の提供を目的とする。
【解決手段】上記課題を解決する金属有機複合薄膜は、Se、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Mo、Pd、Ag、In、Sn、Sb、Ir、Au、およびBiからなる群から選ばれる、少なくとも一種の金属と、アミノ酸と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Se、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Mo、Pd、Ag、In、Sn、Sb、Ir、Au、およびBiからなる群から選ばれる、少なくとも一種の金属と、
アミノ酸と、
を含む、金属有機複合薄膜。
【請求項2】
前記金属が、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、およびAuからなる群から選ばれる、少なくとも一種の金属である、
請求項1に記載の金属有機複合薄膜。
【請求項3】
導電性基材と、
前記導電性基材上に配置された、請求項1または2に記載の金属有機複合薄膜と、
を含む、
二酸化炭素還元電極。
【請求項4】
Se、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Mo、Pd、Ag、In、Sn、Sb、Ir、Au、およびBiからなる群から選ばれる、少なくとも一種の金属を含む金属源、ならびにアミノ酸を含む電解液を準備する工程と、
前記電解液に、一対の電極を接触させて電圧を印加し、一方の電極上に、前記金属およびアミノ酸を含む、金属有機複合薄膜を析出させる工程と、
を含む、金属有機複合薄膜の製造方法。
【請求項5】
二酸化炭素を含む電解液に、請求項3に記載の二酸化炭素還元電極と、対電極と、を接触させて電圧を印加する工程を含む、
二酸化炭素の還元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属有機複合薄膜およびその製造方法、二酸化炭素還元電極、ならびに二酸化炭素の還元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の抑制の観点等から、大気中の二酸化炭素量の削減が求められている。そこで近年、二酸化炭素を回収し、これを様々な炭素化合物に変換することが行われている。二酸化炭素を還元する方法の一つに、電気化学的な還元がある。例えば、イリジウム等の金属錯体の存在下、二酸化炭素を電気化学的に還元することで、一酸化炭素や、エチレンガス等が得られることが報告されている。
【0003】
また、銅およびアミン系ポリマーを含む電極を用いた二酸化炭素の還元によって、一酸化炭素およびエチレンガスが得られることも報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Xinyi Chen, et al., "Electrochemical CO2-to-ethylene conversion on polyamine-incorporated Cu electrodes", Nature Catalysis, Vol. 4, pp.20-27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の金属錯体は非常に高価であり、実用化が難しいという課題がある。また、上述の非特許文献1の方法では、例えばメタン等の他の炭素化合物を生成することは行われていない。
【0006】
本発明は、二酸化炭素の電気化学的な還元に使用可能であり、各種炭素化合物の生成に有用な金属有機複合薄膜およびその製造方法、二酸化炭素還元電極、ならびに二酸化炭素の還元方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、Se、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Mo、Pd、Ag、In、Sn、Sb、Ir、Au、およびBiからなる群から選ばれる、少なくとも一種の金属と、アミノ酸と、を含む、金属有機複合薄膜を提供する。
【0008】
また、本発明は、導電性基材と、前記導電性基材上に配置された、上記金属有機複合薄膜と、を含む、二酸化炭素還元電極を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、Se、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Mo、Pd、Ag、In、Sn、Sb、Ir、Au、およびBiからなる群から選ばれる、少なくとも一種の金属を含む金属源、ならびにアミノ酸を含む電解液を準備する工程と、前記電解液に、一対の電極を接触させて電圧を印加し、一方の電極上に、前記金属およびアミノ酸を含む、金属有機複合薄膜を析出させる工程と、を含む、金属有機複合薄膜の製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、二酸化炭素を含む電解液に、上記二酸化炭素還元電極と、対電極と、を接触させて電圧を印加する工程を含む、二酸化炭素の還元方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属有機複合薄膜やこれを含む二酸化炭素還元電極によれば、二酸化炭素を効率よく還元可能である。また本発明の二酸化炭素の還元方法によれば、各種炭素化合物の生成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aは、カーボンペーパーを走査型電子顕微鏡で観察した写真であり、
図1Bは、実施例の二酸化炭素還元電極(金属有機複合薄膜)を走査型電子顕微鏡で観察した写真であり、
図1Cは、比較例の二酸化炭素還元電極(金属薄膜)を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
【
図2】
図2は、カーボンペーパー、L-ヒスチジン、比較例の二酸化炭素還元電極(金属薄膜)、および実施例の二酸化炭素還元電極(金属有機複合薄膜)について、ラマン分光法で分析を行ったときのラマンスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「~」で示す数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を含む数値範囲を意味する。
【0014】
1.金属有機複合薄膜および二酸化炭素還元電極
本発明の金属有機複合薄膜は、特定の金属と、アミノ酸と、を含む膜であり、主に二酸化炭素を還元するための電極(本明細書では「二酸化炭素還元電極」とも称する)に好適に使用される膜である。以下、導電性基材および金属有機複合薄膜が積層された二酸化炭素還元電極を例に、金属有機複合薄膜の説明を行うが、本発明の金属有機複合薄膜の用途は、二酸化炭素還元電極に限定されず、例えば水電解用の正極用触媒または負極用触媒、燃料電池の電極触媒等にも適用可能である。
【0015】
二酸化炭素還元電極用の導電性基材は、導電性を有し、かつ金属有機薄膜を積層可能であればその種類は特に制限されない。導電性基材の材料の例には、Cu、Ag、Fe等の金属やその合金;グラファイト、導電性ダイヤモンドの炭素系材料;が含まれる。また、導電性基材は、各種材料からなるフレキシブル基板(例えば樹脂フィルム等)の表面に、金属や導電性の金属酸化物(例えばITO等)からなる層が積層されたものであってもよい。さらに、導電性基材の形状は特に制限されず、例えば、表面が平滑な平板状の部材であってもよく、多数の孔を有するメッシュ状の部材であってもよく、上記導電性材料の繊維で構成される紙(例えばカーボンペーパー)等であってもよい。
【0016】
一方、二酸化炭素還元電極用の金属有機複合薄膜は、上記導電性基材の表面に配置されていればよい。上記導電性基材が、金属箔や金属板のように、平板状の部材である場合には、金属有機複合薄膜は、通常、その一方の面もしくは両方の面を覆うように配置される。また、導電性基材が、メッシュ状の部材である場合や、紙である場合には、金属有機複合薄膜が、導電性基材の形状に沿って配置されていてもよい。例えば導電性基材がカーボンペーパー(繊維の集合体)等である場合には、各繊維をコーティングするように、金属有機複合薄膜が配置されていてもよい。
【0017】
上記金属有機複合薄膜の厚みは、金属有機複合薄膜の種類等に応じて適宜選択されるが、通常10nm以上500nm以下が好ましく、100nm以上300nm以下がより好ましい。金属有機複合薄膜の厚みが10nm以上であると、二酸化炭素還元電極を、後述の二酸化炭素の還元方法に使用した際、効率よく二酸化炭素を還元しやすくなる。一方、厚みが500nm以下である金属有機複合薄膜は、後述の製造方法によって容易に製造可能である。
【0018】
ここで、金属有機複合薄膜が含む金属は、二酸化炭素を還元可能な活性を有していればよく、具体的には、Se、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Mo、Pd、Ag、In、Sn、Sb、Ir、Au、およびBiからなる群から選ばれる。金属有機複合薄膜は、これらの金属を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。これらの金属の中でも、後述の方法で金属有機複合薄膜を形成しやすく、かつ二酸化炭素を還元しやすいという観点で、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、およびAuが好ましい。また、導電性が良好であり、かつ金属有機複合薄膜を形成しやすいという観点で、Cuが特に好ましい。
【0019】
金属有機複合薄膜中の上記金属の量は、金属の種類等により適宜選択されるが、金属有機複合薄膜の総質量に対して70質量%以上99.5質量%以下が好ましく、85質量%以上95質量%以下がより好ましい。金属有機複合薄膜中の金属の量が70質量%以上であると、金属有機複合薄膜の導電性が良好になり、二酸化炭素の還元効率が良好になる。一方、金属有機複合薄膜中の金属の量が、99.5質量%以下であると、相対的にアミノ酸の量が多くなり、所望の種類の炭素化合物を生成しやすくなる。
【0020】
一方、金属有機複合薄膜が含むアミノ酸は、分子内にアミノ基およびカルボキシ基を有する化合物であればよく、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸、酸性アミノ酸のいずれであってもよい。金属有機複合薄膜は、アミノ酸を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。ここで、金属有機複合薄膜において、アミノ酸は、金属とナノレベルで混合されている。金属有機複合薄膜内で、金属とアミノ酸とがナノレベルで混合されていると、電気化学的に二酸化炭素を還元する際、アミノ酸中のアミノ基が二酸化炭素を電極に引き寄せる。そして、引き寄せた二酸化炭素や、周囲の水素イオン等に対して、カルボキシ基が作用することで、二酸化炭素を炭素化合物に変化させやすくすると考えられる。なお、アミノ酸中のアミノ基およびカルボキシ基以外の構造も、二酸化炭素や、周囲の水素イオン等と相互作用するため、アミノ酸の構造に応じて生成する炭素化合物の種類が決定されると考えられる。
【0021】
アミノ酸は、α-アミノ酸であってもよく、β-アミノ酸、γ-アミノ酸等、いずれの構造であってもよい。α-アミノ酸の具体例には、L-ヒスチジン、トリプトファン、アスパラギン酸、アルギニン、フェニルアラニン、アスパラギン、システイン、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン、セリン、スレオニン、プロリン、リジン、グルタミン酸、メチオニン、チロシン等が含まれる。これらの中でも、L-ヒスチジン、トリプトファン、プロリン等、ヘテロ環を有する化合物や、グルタミン、アルギニン、リジン等の分子中にアミノ基を2つ以上有する化合物が、反応性の観点で好ましい。例えば、二酸化炭素を還元し、メタンを生成する場合等には、L-ヒスチジンが好適に使用される。
【0022】
また、アミノ酸の分子量は特に制限されないが、ポリマー化されていないほうが、構造が複雑化しすぎず、所望の炭素化合物を生成しやすいとの観点で好ましい。
【0023】
金属有機複合薄膜中のアミノ酸の量は、アミノ酸の種類により適宜選択されるが、通常金属有機複合薄膜の質量に対して0.5質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上15質量%以下がより好ましい。金属有機複合薄膜中のアミノ酸の量が0.5質量%以上であると、後述の二酸化炭素の還元方法において、所望の炭素化合物が得られやすくなる。一方、金属有機複合薄膜中のアミノ酸の量が、30質量%以下である場合には、相対的に上述の金属の量が十分に多くなり、二酸化炭素の還元効率が良好になる。
【0024】
なお、発明の目的および効果を損なわない範囲で、金属有機複合薄膜は、上記金属およびアミノ酸以外の成分を含んでいてもよく、上記以外の種類の金属や、有機化合物等を含んでいてもよい。ただし、上記金属とアミノ酸との合計量は、金属有機複合薄膜の質量に対して、80質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい。
【0025】
(効果)
本発明の金属有機複合薄膜、およびこれを含む二酸化炭素還元電極によれば、後述の二酸化炭素の還元方法において、金属有機複合薄膜中のアミノ酸のアミノ基によって、二酸化炭素を引き寄せることが可能であり、効率よく二酸化炭素を電気化学的に還元できる。また、当該金属有機複合薄膜やこれを含む二酸化炭素還元電極では、アミノ酸が二酸化炭素由来の炭素や電解液中の水素イオン等と相互作用する。その結果、アミノ酸の構造に応じて、様々な種類の炭素化合物を生成させることが可能である。
【0026】
2.金属有機複合薄膜の製造方法
上述の金属有機複合薄膜や、二酸化炭素還元電極は、以下の方法で製造可能である。ただし、上記金属有機複合薄膜の製造方法は、当該方法に限定されない。
【0027】
まず、Se、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Mo、Pd、Ag、In、Sn、Sb、Ir、Au、およびBiからなる群から選ばれる金属を含む金属源と、上述のアミノ酸とを含む電解液を準備する。電解液は、金属源およびアミノ酸以外に、通常、水および支持電解質等をさらに含む。
【0028】
上記金属源は、上記金属を含み、かつ電解液中で電離可能な化合物であればよく、上記金属の塩が好適である。電解液は、当該金属源を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。上記金属の中でも、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、またはAuが、二酸化炭素の還元効率が良好であるという観点で好ましく、金属源は、これらの塩であることが好ましい。Feを含む塩の例には、クエン酸第一鉄アンモニウムや、シュウ酸第一鉄アンモニウム、硫酸第一鉄アンモニウム等が含まれる。Niを含む塩の例には、塩化ニッケルや、硫酸ニッケル等が含まれる。Cuを含む塩の例には、硫酸銅や塩化銅等が含まれる。Znを含む塩の例には、硫酸亜鉛や塩化亜鉛等が含まれる。Agを含む塩の例には、硝酸銀や、フッ化銀、酸化銀、p-トルエンスルホン酸銀、チオ硫酸銀ナトリウム、シアン化銀カリウム等が含まれる。Auを含む金属源の例には、シアン化金や、三塩化金、三臭化金、塩化金カリウム、シアン化金カリウム、塩化金ナトリウム、シアン化金ナトリウム等が含まれる。これらの中でも、Cuを含む塩が特に好ましい。
【0029】
電解液中の金属源の濃度は、後述の電析によって、金属が電極の表面に析出可能な濃度であれば特に制限されない。通常1mM以上100mM以下が好ましく、5mM以上50mM以下がより好ましい。電解液中の金属の濃度が当該範囲であると、効率よく金属有機複合薄膜を形成できる。
【0030】
また、アミノ酸は、上述の金属有機複合薄膜が含むアミノ酸と同様である。電解液中のアミノ酸の濃度は、後述の電析によって、電極表面に十分な量のアミノ酸が析出可能な濃度であれば特に制限されない。通常10μmol・dm-3以上5000μmol・dm-3以下が好ましく、250μmol・dm-3以上3000μmol・dm-3以下がより好ましい。電解液中のアミノ酸の濃度が当該範囲であると、得られる金属有機複合薄膜中に十分な量のアミノ酸が含まれやすくなる。なお、電解液中の金属のモル濃度を1としたとき、電解液中のアミノ酸のモル濃度は0.01以上1以下が好ましく、0.04以上0.5以下がより好ましい。電解液中の金属とアミノ酸との比が当該範囲であると、二酸化炭素の還元によって、所望の炭素化合物が得られやすくなる。
【0031】
一方、電解液に使用する支持電解質は、上記金属源の種類等に合わせて適宜選択される。支持電解質の例には、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が含まれる。支持電解質の具体例には、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、酒石酸水素カリウム、硫酸マグネシウム等が含まれる。電解液中の支持電解質の濃度は、金属源の量に応じて適宜選択されるが、通常0.05M以上2M以下が好ましく、0.1M以上1M以下がより好ましい。電解液中の支持電解質の濃度が当該範囲であると、電析によって、効率よく金属有機複合薄膜を形成できる。
【0032】
上記電解液の調製後、上記電解液に、一対の電極、すなわち作用電極(カソード電極)および対電極(アノード電極)をそれぞれ接触させて、これらの間に電圧を印加する(電析)。これにより、作用電極(カソード電極)の表面に金属およびアミノ酸を含む金属有機複合薄膜が析出する。
【0033】
作用電極には、上述の導電性基材を使用可能である。一方、対電極の材料は、作用電極(カソード電極)に応じて適宜選択され、その例には、Pt、インジウムスズ酸化物(ITO)等が含まれる。また、対電極の形状は限定されず、例えば板状やフィルム状、いずれの形状であってもよい。さらに、上記作用電極および対電極と併せて、作用電極の電位を特定するための参照電極を使用してもよい。参照電極の種類は特に制限されず、例えばAg/AgClからなる電極等を使用可能である。
【0034】
ここで、電析の際の雰囲気は、副反応を抑えるため、不活性ガス雰囲気が好ましい。また、電析の際の電解液の温度は特に制限されないが、効率よく金属有機複合薄膜を形成する観点で、20℃以上30℃以下が好ましく、22℃以上28℃以下がより好ましい。
【0035】
さらに、電析の際の作用電極の電位は、参照電極に対して、-0.3V以上-1.2V以下が好ましく、-0.5V以上-0.8V以下がより好ましい。作用電極の電位を上記範囲にすることで、効率よく金属およびアミノ酸を作用電極の表面に析出させることができる。なお、電気量は特に制限されず、所望の金属有機複合薄膜の厚みに応じて適宜選択される。
【0036】
(効果)
本発明の金属有機複合薄膜の製造方法によれば、複雑な工程を行ったり、高価な金属錯体を使用したりすることなく、容易に金属有機複合薄膜を形成可能である。
【0037】
3.二酸化炭素の還元方法
以下、上記二酸化炭素還元電極(金属有機複合薄膜)を用いた二酸化炭素の還元方法を説明するが、二酸化炭素の還元方法は、当該方法に限定されない。
【0038】
まず、一対の電極(ここでは、作用電極(カソード電極)および対電極(アノード電極))と、二酸化炭素を含む電解液とを準備する。そして、これらを接触させて、作用電極および対電極間に電圧を印加する。これにより、作用電極(カソード電極)表面で、二酸化炭素が還元され、さらに二酸化炭素由来の炭素が、電解液中の水素等と反応することで所望の炭素化合物が生成する。
【0039】
作用電極(カソード電極)には、上述の金属有機複合薄膜を有する二酸化炭素還元電極を使用する。また、対電極(アノード電極)は、作用電極(カソード電極)に応じて適宜選択され、上述の金属有機複合薄膜の製造に使用する作用電極と同様の電極を使用可能である。さらに、二酸化炭素の還元時にも、参照電極を使用してもよく、参照電極として、Ag/AgClからなる電極等を使用可能である。
【0040】
電解液は、少なくとも二酸化炭素、水、および支持電解質を含んでいればよい。二酸化炭素を電解液中に溶解させる方法は特に制限されず、例えばバブリング等により、電解液中に二酸化炭素を導入する方法が挙げられる。電解液中の二酸化炭素の濃度は、特に制限されないが、飽和状態が好ましい。また、電圧の印加時によって消費された二酸化炭素を補うため、系内に二酸化炭素を継続して供給することが好ましい。
【0041】
一方、支持電解質の例には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が含まれ、具体例には、KOH、NaOH、LiHCO3、NaHCO3、KHCO3、CsHCO3、KCl、KClO4、K2SO3、KHPO4、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiTf、LiTFSI、Li(CF3SO2)2N、K2CO3、Li2CO3、Na2CO3等が含まれる。これらの中でも、KHCO3、KOHが好ましく用いられる。電解液中の支持電解質の濃度は特に制限されないが、通常0.05mol・dm-3以上2mol・dm-3以下が好ましく、0.1mol・dm-3以上1mol・dm-3以下がより好ましい。電解液中の支持電解質の濃度が当該範囲であると、効率よく二酸化炭素を還元できる。
【0042】
二酸化炭素の還元を行う際の温度は、電解液の組成等に影響を及ぼさない範囲であれば特に制限されないが、効率の観点で20℃以上60℃以下が好ましく、30℃以上40℃以下がより好ましい。
【0043】
(効果)
本発明の二酸化炭素の還元方法によれば、複雑な工程を行ったり、高価な金属錯体を使用したりすることなく、容易に二酸化炭素を還元可能である。また、当該方法では、上述のアミノ酸を含む金属有機複合薄膜を有する二酸化炭素還元電極を使用する。そのため、効率よく二酸化炭素を還元できるだけでなく、アミノ酸の作用によって、所望の炭素化合物を生成することが可能である。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれによって何ら制限を受けない。
【0045】
[実施例]
(金属有機複合薄膜(二酸化炭素還元電極)の作製)
カーボンペーパーを作用電極、Ptを対電極、およびAg/AgClを参照電極として準備した。一方、水、CuSO4・5H2O、およびNa2SO4を、CuSO4・5H2Oの濃度が12.5mM、かつ、Na2SO4の濃度が0.1Mとなるように混合した。当該混合液を20mL電解槽に入れ、さらにL-ヒスチジン(塩基性アミノ酸)を、その濃度が500μmol・dm-3となるように添加した。上記作用電極、対電極、および参照電極を電解液内に配置し、これらを固定した。そして、作用電極、対電極、および参照電極をポテンショスタット/ガルバノスタット装置に接続し、作用電極の電位が、参照電極(Ag/AgCl)の電位に対して-0.7Vとなるように一定電位で、2cm2の電極面積に対して1C(クーロン)の電気量を流し、カーボンペーパー表面に金属有機複合薄膜を作製して、二酸化炭素還元電極を得た。
【0046】
(CO2の定電位電解)
上述の二酸化炭素還元電極を作用電極、Ptを対電極、およびAg/AgClを参照電極(Ag/AgCl)として準備した。また、CO2が飽和状態であり、かつKHCO3の濃度が0.5mol・dm-3である電解液を準備し、これを電解槽に入れた。さらに、上記作用電極、対電極、および参照電極をそれぞれ電解液内に配置し、これらを固定した。そして、作用電極、対電極、および参照電極をポテンショスタット/ガルバノスタット装置に接続し、作用電極の電位が、Ag/AgClの電位に対して-1.9Vとなるように一定電位で、3C(クーロン)の電気量を流し、電解液中の二酸化炭素を還元した。このときの雰囲気中のCH4量をガスクロマトグラフィー質量分析法により測定した。
【0047】
[比較例]
(金属薄膜(二酸化炭素還元電極)の形成)
金属銅の電解液にL-ヒスチジンを添加しなかった以外は、実施例と同様に、カーボンペーパー表面(各繊維表面)に金属薄膜を作製して、二酸化炭素還元電極を得た。
【0048】
(CO2の定電位電解)
上記二酸化炭素還元電極を使用した以外は、実施例と同様に定電位電解を行った。
【0049】
[評価]
(表面状態の観察)
金属有機複合薄膜や金属薄膜を形成する前のカーボンペーパー、実施例で作製した二酸化炭素還元電極(金属有機複合薄膜)、および比較例で作製した二酸化炭素還元電極(金属薄膜)の表面を、走査型電子顕微鏡で観察したときの写真を、
図1A~
図1Cに示す。カーボンペーパーの表面に銅およびアミノ酸を電析させると、
図1Bに示すように、カーボンペーパーの各繊維の表面に金属有機複合薄膜が形成された(実施例)。一方、カーボンペーパーの表面に銅のみを電析させた場合にも、
図1Cに示すように、カーボンペーパーの各繊維表面に金属薄膜が形成された(比較例)。ただし、実施例の金属有機複合薄膜と比較例の金属薄膜とでは、その表面形態が異なっていた。
【0050】
(ラマン分光法による分析)
カーボンペーパーのみ、L-ヒスチジンのみ、実施例の二酸化炭素還元電極、ならびに比較例の二酸化炭素還元電極について、ラマン分光法による分析を行った。得られたラマンスペクトルを
図2に示す。
【0051】
図2に示すように、実施例の二酸化炭素還元電極のラマンスペクトルでは、銅由来のピークだけでなく、L-ヒスチジン由来のピークも確認され、明らかに比較例の二酸化炭素還元電極のラマンスペクトルと異なっていた。つまり、実施例で作製した二酸化炭素還元電極の金属有機複合薄膜は、銅およびL-ヒスチジンを含むといえる。
【0052】
(二酸化炭素還元時(CO2からCH4への変換時)のファラデー効率)
上述の実施例および比較例のCO2の定電位電解によって得られたメタン量、および電気量から、ファラデー効率を特定した。その結果、実施例のファラデー効率は13.5%であり、比較例のファラデー効率は2.5%であった。つまり、実施例のほうが、およそ5.5倍のファラデー効率を有していた。
本発明の金属有機複合薄膜や、これを用いた二酸化炭素還元電極によれば、二酸化炭素を効率よく還元可能であり、さらに各種炭素化合物を生成可能である。したがって、様々な産業分野において、有用な技術であるといえる。