(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078195
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】結露水の滴下防止用保温材とこれを用いた結露水の滴下防止冷媒配管及びその配管構造と給水給湯用配管構造及び結露水の滴下防止建築用構造、結露水の滴下防止用不織布、並びにこの保温材を用いた冷媒配管の結露水滴下防止構造の形成方法、建築用部材の結露水の滴下防止構造の形成方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/24 20060101AFI20240603BHJP
D04H 1/541 20120101ALI20240603BHJP
D04H 3/04 20120101ALI20240603BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20240603BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
B32B5/24 101
D04H1/541
D04H3/04
B32B27/12
B32B27/32 Z
【審査請求】有
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190603
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 英史
(72)【発明者】
【氏名】河井 功一
(72)【発明者】
【氏名】海野 太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊司
【テーマコード(参考)】
4F100
4L047
【Fターム(参考)】
4F100AJ02B
4F100AJ04B
4F100AK01C
4F100AK04A
4F100AK04B
4F100AK06
4F100AK07B
4F100AK25B
4F100AK42
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100DA11A
4F100DA11B
4F100DD01B
4F100DG01
4F100DG01B
4F100DG15
4F100DG15B
4F100DJ01
4F100DJ01A
4F100EC03B
4F100EJ39B
4F100GB07
4F100JD15
4F100JD15B
4F100JJ02
4F100JJ02A
4F100JJ02B
4F100JK02
4F100JK02B
4F100YY00A
4F100YY00B
4L047AA08
4L047AA12
4L047AA14
4L047AA17
4L047AA21
4L047AA27
4L047AA28
4L047AB06
4L047AB07
4L047AB09
4L047BA03
4L047BA04
4L047BA08
4L047BA09
4L047BA12
4L047BB09
4L047CA07
4L047CB01
4L047CB07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】冷媒用配管の外周に使用された場合に結露の滴下が発生しない保温材を提供する。
【解決手段】結露水の滴下防止用保温材とこれを用いた結露水の滴下防止配管及びその配管構造と結露水の滴下防止建築用構造及び結露水の滴下防止保温材に用いる結露水の滴下防止用不織布、並びに保温材を用いた配管構造の施工方法、建築用無機系建材の結露水の滴下防止構造の形成方法に関する発明である。ポリエチレン系樹脂発泡体の少なくとも一方の表面に不織布が配置され、前記不織布を構成する繊維の少なくとも一部がポリエチレン系樹脂発泡体の表面に融着または接着されており、前記繊維の平均繊維径が10~30μmの範囲で、前記繊維の空隙率が85~98%で、さらに、5%引張応力値が25MPa以下1MPa以上である結露水の滴下防止用保温材を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂発泡体の表面に不織布を配置した結露水の滴下防止用保温材であって、基材がシート状の独立気泡を有するポリエチレン系樹脂発泡体であり、当該基材の一方の表面に不織布が融着または接着されており、前記不織布を構成する繊維の平均繊維径が10~30μmの範囲で、前記繊維の空隙率が85~98%で、さらに、前記不織布は引張試験におけるMD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足することを特徴とする結露水の滴下防止用保温材。
【請求項2】
前記保温材の不織布のJISL1913に基づいて測定した厚さが1.0mm以下であり、前記不織布の見かけ厚さ1mm当たりに換算した保水量が500g/m2以上であることを特徴とする請求項1に記載の結露水の滴下防止用保温材。
【請求項3】
前記保温材の不織布を構成する繊維がポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル系樹脂を少なくとも一種以上含む繊維により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の結露水の滴下防止用保温材。
【請求項4】
前記保温材の不織布を構成する繊維が、さらにセルロース繊維、パルプ、レーヨン繊維あるいは高吸水性高分子繊維のいずれかを繊維総重量の30%以下、含むことを特徴とする請求項3記載の結露水の滴下防止用保温材。
【請求項5】
前記保温材の不織布を構成する前記繊維の少なくとも一部が芯鞘構造を有する繊維で構成されるか、あるいは、さらに前記芯鞘構造を有する繊維の芯部繊維が中空芯部を有する繊維で構成され、前記中空繊維の回りに鞘部が形成された複層構造繊維であり、前記芯鞘構造の繊維が前記芯部あるいは前記中空芯部を形成する繊維の鞘部が芯部より低融点の樹脂で形成されていることを特徴とする請求項3に記載の結露水の滴下防止用保温材。
【請求項6】
さらに、前記樹脂発泡体の表面に形成された前記不織布がエンボス加工されたものであることを特徴とする請求項1に記載の結露水の滴下防止用保温材。
【請求項7】
請求項1に記載の結露水の滴下防止保温材であって、さらに引張試験におけるTD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足することを特徴とする結露水の滴下防止用保温材。
【請求項8】
請求項1に記載の結露水の滴下防止用保温材が冷媒用配管の外周に不織布が外周面に向けて被覆されていることを特徴とする配管。
【請求項9】
請求項8に記載の冷媒用配管の外周部に被覆された結露水の滴下防止用保温材を相互に対向させて熱融着または熱接着させることで、2本の配管を一体化させたものであることを特徴とする眼鏡型配管構造。
【請求項10】
複数本の冷媒用配管、ドレン管と配線の配管に内装される部品が用意され、前記請求項1から請求項7のいずれかに記載の結露水の滴下防止保温材が不織布形成面を外周面として、前記結露水の滴下防止保温材の外周面形状が断面略円筒形状となるように前記複数本の冷媒用配管、ドレン管と配線を囲うことで、前記配管に内装される部品を前記結露水の滴下防止保温材の内部に収納することを特徴とする冷媒用配管の筒状配管構造。
【請求項11】
給水給湯用配管として架橋ポリエチレン管と架橋ポリエチレン管の外周を覆う樹脂製鞘管が用意され、前記架橋ポリエチレン管と前記架橋ポリエチレン管の外周を覆う樹脂製鞘管を囲んで、前記請求項1から請求項7のいずれかに記載の結露水の滴下防止保温材が不織布形成面を外周面として、前記結露水の滴下防止保温材の外周面形状が断面略円筒形状となるように、前記結露水の滴下防止保温材の内部に前記架橋ポリエチレン管と前記鞘管とを収納することを特徴とする給水給湯用配管の筒状配管構造。
【請求項12】
前記樹脂製鞘管は、前記鞘管の外周を囲うように樹脂発泡体で被覆されていることを特徴とする請求項11に記載の給水給湯用配管の筒状配管構造。
【請求項13】
前記結露水の滴下防止保温材が冷媒用配管の外周に被覆される配管構造であって、前記配管の少なくとも一部に垂直配管を含み、前記垂直配管に請求項7に記載の結露水の滴下防止保温材の不織布形成面が外周面となるように前記垂直配管に被覆されることを特徴する垂直配管の配管構造。
【請求項14】
請求項7に記載の前記結露水の滴下防止用保温材が空調用ダクトの外表面に不織布形成面を外表面に向けて接着されていることを特徴とする空調用ダクトの構造。
【請求項15】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の結露水の滴下防止用保温材が無機系建築用板材の表面に不織布形成面を外表面として載置されているか、さらに前記無機系建築用板材の表面に不織布形成面を外表面として載置された前記結露水の滴下防止用保温材の樹脂発泡体面と前記無機系建築用板材の表面の対向面同士が相互に接着されて水平面方向に配置されているかのいずれかであり、前記無機系建築用板材が石膏ボード、ケイ酸カルシウム板の少なくともいずれかであることを特徴とする無機系建築用板材の結露水の滴下防止構造。
【請求項16】
請求項7に記載の結露水の滴下防止用保温材が無機系建築用板材の表面に不織布形成面を外表面として載置された前記結露水の滴下防止用保温材の樹脂発泡体面と前記無機系建築用板材の表面の対向面同士が相互に接着されている前記無機系建築用板材が垂直面方向に配置されていて、前記無機系建築用板材は、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板の少なくともいずれかであることを特徴とする無機系建築用板材の結露水の滴下防止構造。
【請求項17】
請求項7に記載の前記結露水の滴下防止用保温材が折板屋根の内面に接着されることを特徴とする折板屋根の結露水の滴下防止構造。
【請求項18】
不織布を構成する繊維の平均繊維径が10~30μmの範囲で、前記繊維の空隙率が85~98%であり、さらに、JISL1913に基づいて測定した前記不織布の厚さが1.0mm以下であり、さらに、引張試験におけるMD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値が25MPa以下を満足することを特徴とする結露水の滴下防止用不織布。
【請求項19】
請求項18に記載の前記不織布の見かけ厚さ1mm当たりに換算した保水量が500g/m2以上であって、ポリエチレン系樹脂発泡体の表面に融着して使用することを特徴とする結露水の滴下防止用不織布。
【請求項20】
前記不織布を構成する前記繊維は、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又はアクリル系樹脂を少なくとも一種以上含む繊維により構成され、さらに前記繊維が芯鞘構造でない繊維で構成されていることを特徴とする請求項19に記載の結露水の滴下防止用不織布。
【請求項21】
前記不織布を構成する繊維が、さらにセルロース繊維、パルプ、レーヨン繊維あるいは高吸水性高分子繊維のいずれかを繊維総重量の30%以下含むことを特徴とする請求項20記載の結露水の滴下防止用不織布。
【請求項22】
前記不織布を構成する前記繊維の少なくとも一部が芯鞘構造を有する繊維で構成されるか、あるいは、さらに前記芯鞘構造を有する繊維の芯部繊維が中空芯部を有する繊維で構成され、前記中空繊維の回りに鞘部が形成された複層構造繊維であり、前記芯鞘構造の繊維が前記芯部あるいは前記中空芯部を形成する繊維の鞘部が芯部より低融点の樹脂で形成されていることを特徴とする請求項20または請求項21に記載の結露水の滴下防止用不織布。
【請求項23】
前記不織布は、引張試験におけるMD方向、TD方向のそれぞれの引張伸びの値が5%におけるそれぞれ同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MPa以下1MPa以上であることをともに満足することを特徴とする請求項18に記載の結露水の滴下防止用不織布。
【請求項24】
前記不織布を構成する繊維の少なくとも一部が短繊維により形成されるか、経緯直交長繊維や経緯斜交長繊維により形成されるかのいずれかであることを特徴とする請求項23に記載の結露水の滴下防止用不織布。
【請求項25】
請求項24に記載の短繊維の不織布がケミカルボンド法、サーマルボンド法、スパンレース法、エアーレイド法、ニードルパンチ法等により製造されたものであることを特徴とする結露水の滴下防止用不織布。
【請求項26】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の結露水の滴下防止保温材が冷媒用配管の外周に巻き付けられる配管構造の施工方法であって、前記配管が垂直配管あるいは斜め配管である場合には、前記結露水の滴下防止保温材の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する方向を前記垂直配管の方向と直交する水平方向に向けて配置することを特徴とする結露水の滴下防止配管構造の形成方法。
【請求項27】
空調用ダクトの結露水の滴下防止構造の形成方法において、空調用ダクトの側面は少なくとも垂直な方向にダクトの上面と下面を挟むように対向して設けられるもので、前記側面には、請求項1から請求項7のいずれかに記載の結露水の滴下防止保温材の不織布の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する方向を前記垂直なダクト側面に直交する水平方向に向けて配置することを特徴とする空調用ダクトの結露水の滴下防止構造の形成方法。
【請求項28】
建築用無機系建材の結露水の滴下防止構造の形成方法において、前記建築用無機系建材の結露構造が垂直な壁構造である場合には、請求項1から請求項7のいずれかに記載の結露水の滴下防止保温材の不織布の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する方向を前記垂直な壁構造の方向と直交する水平方向に向けて前記建築用無機系建材の縦壁の表面に前記保温材の不織布を外表面として配置することを特徴とする建築用無機系建材の結露水の滴下防止構造の形成方法。
【請求項29】
折板屋根の結露水の滴下防止構造の形成方法において、請求項1から請求項7のいずれかに記載の結露水の滴下防止保温材の不織布の前記結露水の滴下防止保温材の不織布の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する方向を前記折板屋根の折板の折り曲げ方向と直交する方向に向けて前記折板屋根の裏面に前記保温材の不織布を外表面として配置することを特徴とする折板屋根の結露水の滴下防止構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結露水の滴下防止用保温材とこれを用いた結露水の滴下防止冷媒配管及びその配管構造と給水給湯用配管構造及び結露水の滴下防止建築用構造、結露水の滴下防止用不織布、並びにこの保温材を用いた冷媒配管の結露水滴下防止構造の形成方法、建築用部材の結露水の滴下防止構造の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、ポリエチレン発泡体の少なくとも一方の表面にポリエチレンやポリプロピレンフィルムを貼合して、貼合した樹脂発泡体の表面をエンボス加工した材料が空調機器の冷媒などの配管用保温材として使用されていた。しかし、このような保温材の場合には、冷媒用配管の外周に使用される保温材の表面に結露が生じ、これらの結露水となって、天井裏の配管スペース等に結露水が滴下することで、天井裏などの配管スペースにカビが発生する問題があった。
【0003】
特許文献1には、ダクト本体に不織布が一体成形されたダクトが記載されている。ダクト本体に不織布が一体成形されたダクトであって、前記ダクト本体は、発泡ブロー成形体である。発泡ブロー成形体であるダクト本体に不織布が一体成型されているので、ダクト本体の表面での結露が生じにくく、たとえ結露が生じたとしても結露水が不織布に吸収されるので、結露水の滴下が抑制される。
【0004】
特許文献1の発明は、ダクト本体に不織布が一体成型されているので、不織布がダクト本体から剥がれることが抑制される。ダクト本体に不織布が一体成形されたものであるため、発泡体と不織布を熱融着したものではない。
【0005】
特許文献2には、独立気泡構造の発泡体からなる内部層と熱可塑性樹脂製の不織布からなる空調ダクトの分割体が記載されている。この分割体は、外部層は融点が異なる2種の熱可塑性樹脂を含み、融点が低い樹脂層が融着により相互に結合している。さらに内部層の発泡体と外部層を形成する2種の繊維の低融点側の繊維の融点よりも低温で接着できるホットメルト接着剤にて、相互に接着させた構造を有する空調ダクトの分割体が形成されている。
【0006】
また、この出願には、発泡体には、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系等の熱可塑性樹脂フォームや、ポリウレタンフォームを使用することができ、さらに不織布としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂繊維を用いること、また融点が異なる樹脂を用いて芯鞘構造を形成することが記載されている。
【0007】
この出願には、不織布が2種類の繊維を用いた芯鞘構造を有する複層の不織布であり、さらに発泡体層と不織布がホットメルト接着剤で接着されていることが記載されている。
【0008】
特許文献3には、多孔性フィルムと不織布が積層され、フィルム面に滴下した水滴の吸収速度が60秒以内であることを特徴とする保温材が開示されている。不織布の繊維は一般的な天然繊維、コットン、麻、羊毛等を用いることができるが一部吸水性の繊維を用いることに特徴がある。この保温材を食品に使用するため再生繊維、例えばレーヨン、アセテート等が好ましく、価格的には合成繊維、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートが使用できる。
【0009】
この発明の特徴は、上記の繊維に、吸水性の繊維として、親水性のポリアクリル酸ナトリウム塩の架橋物からなる繊維を1~10%の範囲で含むものである。さらに、不織布の厚さが0.3~3mm(0.5~1.5mm)で、不織布の目付量が20~250g/m2であることが記載され、さらに好ましくは50~150g/m2であることが記載されている。
【0010】
特殊な吸水性樹脂を使用することで、シートの保水量が向上するが、コストアップする問題があり、不織布の基材が発泡体でなく、樹脂フィルムであるため、断熱性が不足する問題がある。
【0011】
特許文献4には、樹脂発泡体シートと樹脂フィルムとを貼着してなる積層シートに対してエンボス模様を連続的に彫刻するエンボスシートの形成方法が開示されている。
この発明においては、前記樹脂フィルムに、互いに隣接する凹部が模様をなして形成するエンボスロールを圧接して回転させて、エンボスロールがシートに圧接されたときに空気を溜める空気溜まり部が形成されるように、凹部底面に凸部が形成されるエンボスロールと、これにより製造されるエンボスシートが開示されている。さらにエンボス模様が外面に位置するように円筒状に成形加工してなることを特徴とするパイプカバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2020-197315号公報
【特許文献2】特開2014-065382号公報
【特許文献3】特開平9-300511号公報
【特許文献4】特開平9-314661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これまでに、保温材の表面に不織布を貼り付けた構造とすることで結露水の滴下防止可能な場合があることは知られていたが、結露水の滴下防止構造を得るには、不織布を表面に配置するだけでは不十分であり、吸水性繊維を使用しなくとも、保温材の表面に貼合された不織布の構造を制御することのみで結露水の滴下を防止することが可能かどうか、可能であるとしても不織布の構造をどのような構造とすれば、結露水の滴下を防止または抑制することができるかは未解明であった。そこで、保温材表面の不織布の構造と結露水の滴下防止性の関係を解明して、不織布の材質に関係なく、不織布の滴下防止構造を得ることを目的として、不織布の結露水の滴下防止構造を得るためには、不織布が特定の構造を有していることが必要であると考えて、不織布の結露水の滴下防止構造を得ることを課題とした。
ここで、結露水の滴下防止構造に影響する不織布の構造因子としては、不織布の空隙率、繊維の接続部の構造、繊維の絡み合いの度合い、繊維の屈曲の度合いである捲縮性及びこれらの構造因子相互作用や影響度の大小等の複雑な要因がある。
本発明では、これらの構造因子により構成される不織布の3次元構造の結露防止性に対する影響を一括して代替するマクロパラメータである引張試験におけるMD方向の実効引張応力を所定範囲に制御することができることを見出し、不織布のミクロ構造の代替パラメータである空隙率とこのマクロパラメータを組み合わせることで、本願発明を達成するに至った。
さらに、これを用いた結露水の滴下防止冷媒配管と給水給湯用配管構造及び結露水の滴下防止建築用構造、結露水の滴下防止用不織布、並びにこの保温材を用いた冷媒配管の結露水滴下防止構造の形成方法、建築用部材の結露水の滴下防止構造の形成方法を得ることを課題とした。また、上記発明の一部の発明に関して、不織布の滴下防止性能を向上させるために、不織布を構成する繊維にセルロース繊維、パルプ、レーヨン繊維、あるいは高吸水性高分子繊維などの吸水性繊維を加えた不織布も発明に加えて評価を行った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本来、不織布の材質、構造によって、不織布の吸水性や結露特性が異なるはずであるが、特許文献1と特許文献2の、不織布を用いた結露水の滴下防止構造には、不織布の構造と吸水性に関する記載がない。特許文献3では、ポリアクリル酸ナトリウムの架橋物のような特殊な吸水性樹脂を使用するが、本発明では、このような樹脂を使用せずに、吸水性を有しない汎用樹脂化学繊維材料や吸水性を有する再生繊維材料のいずれの材料を使用しても、結露水の滴下防止が可能なポリエチレン系樹脂発泡体の表面に所定の構造を有する不織布を融着して配置した結露水の滴下防止用保温材とするものである。
【0015】
本発明の結露水の滴下防止用保温材は、ポリエチレン系樹脂発泡体の少なくとも一方の表面に所定の構造を有する不織布を融着または接着したものである。本発明は、結露水の滴下防止用保温材とこれを用いた結露水の滴下防止冷媒配管と給水給湯用配管構造及び結露水の滴下防止建築用構造、結露水の滴下防止用不織布、並びにこの保温材を用いた冷媒配管の結露水滴下防止構造の形成方法、建築用部材の結露水の滴下防止構造の形成方法に関する。
【0016】
ここで、このような配管構造には、結露水の滴下防止のために、保温材である発泡体に不織布を貼合することで、不織布の内部に結露水を担持することが結露水の滴下を防止できる可能性がある。しかしながら、不織布を発泡体の表面に貼合すれば、単純に結露水の滴下を防止できるものではなく、不織布の構造により、結露を防止できる場合と、できない場合があることを発見して、不織布の空隙率、繊維の接続部の構造、繊維の絡み合い、繊維の屈曲の度合いである捲縮性などの繊維の3次元構造などが影響するが、不織布の構造は複雑であり、これを直接的に規定することができないが、不織布の複雑な構造の結露水の滴下性に対する影響を反映する代替パラメータを見出してこれを規定することで本発明をなすにいたった。
【0017】
また、本発明においては、保温材に用いる不織布の構造を規定する要因として、使用する不織布の繊維径と所定厚さにおける繊維の空隙率などを基本として繊維の空間的な構造規定するとともに、さらに繊維の屈曲部が多く捲縮性が高い方が結露水の滴下防止特性に優れることを見出した。また、この繊維の捲縮性、繊維の接続部の構造、繊維の絡み合いの程度など含めた3次元構造を評価するパラメータとして、引張試験で所定ひずみ時の引張モジュラス値と結露水の滴下防止性に相関があることを見出した。上記構造に基づく保水特性は、所定不織布厚さ当たりの保水量を評価して、所定の保水量以上を有する不織布が結露水の滴下防止特性に優れることを確認した。ここで引張モジュラスとは、引張試験における所定方向の引張伸び値が5%における同方向の見かけ引張応力を充填率で割った実効引張応力値をいう。所定の引張モジュラス値あるいは実効引張応力値が所定の値を満足するとは、引張試験における所定方向の引張伸び値が5%における同方向の見かけ引張応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MP以下1MPa以上を満足することをいう。すなわち、引張モジュラスと実効引張応力値は同義である。また、見かけの引張応力とは、見かけ引張荷重を不織布の、JISL1913に基づいて測定した不織布の見かけ厚さと試験片幅から定義される断面積で割った値をいう。
【0018】
さらに、本発明の不織布は、下地のポリエチレン樹脂発泡体に融着または接着して保温材とした後、所定形状のエンボス加工を行なうが、このエンボス加工における賦形性も、不織布の立体構造、特に充填率や引張モジュラス値の影響を受けるものと考えられたため、エンボス加工における賦形性を確認した。
【0019】
また、保水性は、不織布に用いる繊維に吸水性がないポリエチレン樹脂,ポリプロピレン樹脂,PET樹脂等の樹脂であっても、不織布が所定の構造的条件を満足することで保水性を高くすることが可能であり、さらに、結露水の滴下防止性能に優れることを発見して本発明をなすに至ったものである。
【0020】
もちろん、不織布が所定の構造的条件を満足することで、吸水性を有するセルロース繊維、パルプなどの天然繊維やレーヨン繊維やアセテート繊維等の再生繊維や半合成繊維を所定量範囲で使用することも可能である。この場合には、ポリエチレン樹脂,ポリプロピレン樹脂,ポリエステル系のPET樹脂等の吸水性がない樹脂繊維を使用する場合よりも、結露水の滴下防止性がさらに向上するが不織布の強度が低下するため、吸水性繊維の使用は繊維総重量の内所定量範囲に制限する必要がある。また、前記セルロース繊維、パルプなどの天然繊維やレーヨン繊維やアセテート繊維等の再生繊維に変えて高吸水性高分子繊維を使用することも可能である。特に不織布にセルロース繊維、パルプ等の天然繊維を使用する場合には、天然繊維の特性として長繊維を製造することが困難であり、繊維長が安定しないため、短繊維を用いることが望ましい。ここで、本発明においては、PET樹脂を、PET樹脂あるいはポリエチレンテレフタレート樹脂のいずれかの表記を用いたが当然両者は同義である。
【0021】
尚、本発明は保温材に用いる不織布により担保されるものであるため、本発明では、結露水の滴下防止用保温材とこれを用いた結露水の滴下防止冷媒配管及びその配管構造と給水給湯用配管構造及びその結露水の滴下防止建築用構造に加えて、これに用いる結露水の滴下防止用不織布の発明も加えた。また、この保温材を用いた冷媒配管構造と建築用部材の結露水の滴下防止構造の形成方法の発明も加えた。
【0022】
ポリエチレン系樹脂発泡体の表面に不織布を配置した結露水の滴下防止用保温材であって、基材がシート状の独立気泡を有するポリエチレン系樹脂発泡体であり、当該基材の一方の表面に不織布が融着または接着されており、前記不織布を構成する繊維の平均繊維径が10~30μmの範囲で、前記繊維の空隙率が85~98%で、さらに、前記不織布は引張試験におけるMD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する結露水の滴下防止用保温材である。これは、MD方向の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足すればよく、TD方向の実効引張応力は、必ずしも25MPa以下1MPa以上の範囲を満足してもしなくてもよい。この際、上記発明は、不織布の空隙率や構造的特徴を規定しただけであるから、不織布を構成する繊維の材質に関係がなく成立する。不織布を構成する繊維がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、PET樹脂等の吸水性のない樹脂であっても結露防止保温材が実現できるし、さらに、上記の吸水性のない樹脂に加えて、少なくとも一部に所定量の吸水性樹脂繊維を使用することも可能である。
ここで、ポリエチレン系樹脂発泡体の厚さは、断熱性を確保するため、少なくとも10mm以上あれば十分であるため、所望の断熱性能を得るには、通常は10mmあればよい。逆に発泡体の厚さを厚くし過ぎると保温材の被覆後の製品厚さや製品直径などの製品寸法が大きくなり、現場施工性が低下するため、ポリエチレン系樹脂発泡体の厚さは10mmが望ましい。
【0023】
このとき、前記繊維の平均繊維径が10~30μmの範囲とするのは、繊維径が10μm以下であると、不織布の強度が不足するため、保護部材表面の使用時の耐久性が低下し、保温材が不織布と発泡体を熱融着される際に、不織布自体が変形して融着後の弾性回復が不十分になると同時に繊維が倒れ込んで面状に融着されるなどの問題を生じるからであり、逆に繊維径が30μmを超えると、繊維径の増加により、繊維自体の空間占有率が高くなり、3次元的に安定した空隙率の高い空間を形成することが困難になるため、空隙率を85~98%の範囲に保つことが難しくなるためである。ここで、不織布が複数の繊維から構成されている場合には、本発明でいう平均繊維径は、それぞれの構成繊維の平均繊維径が上記の範囲を満足することが好ましいが、それらの平均繊維径(数平均)が上記範囲を満足するものとなる。複数の繊維の繊維径が、SEM画像上で区別ができる場合には、それぞれの繊維の繊維径を10カ所ずつ別々に求めて、それぞれの10カ所ずつの平均をさらに混率を含めて荷重平均して、複数の繊維の繊維径が略同等で区別がつかない場合には、任意の繊維の繊維径を20カ所測定してその平均値を平均繊維径とした。
【0024】
ここで、空隙率についてみると、空隙率が85%未満になると、単位体積あたりの中に占める繊維の割合が大きくなるため、十分な保水量を発揮できなくなる。また、空隙率が98%を超えると、水膜を作る空間は増加するものの、水膜を維持できなくなり、保水性が低下するとともに、不織布自体の形状安定性や成形加工後の不織布の弾性回復性等が低下する。また、本発明では、不織布の繊維の空隙率は85~98%であるが、空隙率は高い方が水幕を作る空間が十分確保できることから高い方が望ましく、空隙率を90~98%とすることが望ましい。
【0025】
また、引張モジュラス(実効引張応力)は、通常の引張応力値を充填率で除した値であることから、繊維の充填率(空隙率)の影響を排除した値となっている。このことから、不織布内における繊維自体の捲縮性および不織布内の繊維の配向性の多寡の情報を包括的に含む値と考えられる。これは、仮に同じ空隙率であれば、繊維が捲縮しているほど、また、配向性が小さいほど、三次元的に隣り合う繊維間の距離が小さくなることから、その不織布は多く水を保持できると考えられることからも、重要なパラメータである。実際、実効引張応力が25MPaを超えると、不織布の剛性が増加するとともに保水性が低下し、保水量が不十分になると同時に、エンボス加工性も低下するため、好ましくない。また、MD方向、TD方向の実効引張応力がともに1MPaを下まわると、結露水を保持する空間は十分であるが、不織布内部の繊維の結合や絡み合いが不十分となるため、不織布としての形状保持性が担保できなくなり、本発明の製造工程上、取り扱いが難しくなる。そのため、少なくともいずれかの方向の実効引張応力がともに1MPaを超える必要があると考えられる。本発明では所定方向の引張伸びの値が5%における実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する必要があるが、不織布の剛性が低いほど保水性が向上することで結露水の滴下防止または抑制の性能が向上すると考えられることから、実効引張応力の上限は高すぎないことが好ましいため、20MPa以下とすることが好ましく、不織布の形状安定性を考慮すると、下限値は2MPa以上が好ましい。
【0026】
前記保温材の不織布のJISL1913に基づいて測定した厚さが1.0mm以下であり、前記不織布の見かけ厚さ1mm当たりに換算した保水量が500g/m2以上であってもよい。
【0027】
前記保温材の不織布を構成する前記繊維がポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又はアクリル系樹脂を少なくとも一種以上含む繊維により構成されているかのいずれかであってもよい。また、前記保温材の不織布を構成する繊維が、さらに前記繊維に加えてセルロース繊維、パルプ、レーヨン繊維、あるいは高吸水性高分子繊維のいずれかを繊維総重量の30%以下含むものであってもよい。また、上記の繊維総重量は、不織布強度の点では、15%以下とすることがより好ましい。天然繊維を使用する場合には、長繊維を得ることが困難なため、短繊維を使用してもよい。特に、高吸水性高分子繊維を用いる場合は吸水性に特に優れるため、15%以下の10%程度でも十分効果が得られるため、高吸水性繊維を持用いる場合は、15%以下とすることが望ましい。ここで、吸水性樹脂の含有量を30%以下とするのは、吸水性樹脂の吸水による強度低下を防止するためと、本願はもともと不織布の空隙率と不織布の構造を代替するパラメータである実効引張応力が所定値を満足することで結露水の滴下を防止するには十分であるが、さらに吸水性樹脂を使用することで、不織布の保水性を高めて不織布の滴下防止性能を向上させることを目的とすることから、吸水性樹脂の含有量が30%を超えて含有される必要はないためである。また、吸水性樹脂は必要に応じて加えるだけであるから吸水性樹脂の含有量の下限値を設ける必要がなく、当然下限値はゼロも含むものとする。
なお、アクリル系樹脂は僅かに吸水性を有するが、吸水率が1%を下回り、セルロース繊維、パルプ、レーヨン繊維等と較べると吸水性が低く、吸水による強度低下を示す乾湿強度比も0.9以上であることから、本発明においては、吸水性を有しないポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂と同様に扱うことにした。
【0028】
前記保温材の不織布を構成する前記繊維の少なくとも一部が芯鞘構造を有する繊維で構成されるか、あるいは、さらに前記芯鞘構造を有する繊維の芯部繊維が中空芯部を有する繊維で構成され、前記中空繊維の回りに鞘部が形成された複層構造繊維であり、前記芯鞘構造の繊維が前記芯部あるいは前記中空芯部を形成する繊維の鞘部が芯部より低融点の樹脂で形成されている繊維であってもよい。芯部を中空構造とすることで、不織布の柔軟性を向上させることができる。前記不織布を構成する繊維の少なくとも一部が短繊維により形成されるか、経緯直交長繊維や経緯斜交長繊維により形成されるかのいずれかの不織布であってもよい。
【0029】
さらに、前記樹脂発泡体の表面に形成された前記不織布がエンボス加工された結露水の滴下防止保温材であってもよい。このようにエンボス加工を行うことで、不織布の外表面の形状を安定させることができ、不織布を配管やダクトなどに巻き付けるときの形状安定性を増加させることができる。
【0030】
前記結露水の滴下防止用保温材は、ポリエチレン系樹脂発泡体と不織布からなる結露水の滴下防止用保温材であって、基材がシート状の独立気泡を有するポリエチレン系樹脂発泡体の一方の表面に不織布が融着されており、前記繊維の平均繊維径が10~30μmの範囲で、前記繊維の空隙率が85~98%で、さらに、引張試験におけるMD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足し、さらに引張試験におけるTD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する結露水の滴下防止用保温材であってもよい。
【0031】
すなわち、引張試験におけるMD方向、TD方向の引張伸びの値が5%における見かけ応力を充填率で割った実効引張応力値が20MPa以下1MPa以上であることがさらに望ましい。より好ましくは、MD方向、TD方向のいずれかの方向の引張試験における引張伸びの値が5%における見かけ応力を充填率で割った実効引張応力値20MPa以下2MPa以上であることが好ましい。このような特性を満足することで、MD方向、TD方向の両方向の実効引張応力が所定値を満たす保温材を得ることができるため、保温材の使用時に方向性への影響が少ない結露水の滴下防止性能に優れる保温材を得ることができるため、保温材を垂直方向に使用しても結露水が滴下することを防止することができる。
【0032】
前記結露水の滴下防止用保温材が冷媒用配管または温水用配管の外周に不織布を外周面に向けて被覆されていることを特徴とする配管であってもよい。このようにすることで、配管の保温性を向上させるとともに結露を防止することが可能になる。
【0033】
前記冷媒用配管の外周部に被覆された結露水の滴下防止用保温材を相互に対向させて熱融着または熱接着させることで、2本の配管を一体化させたものである眼鏡型の配管構造である。
【0034】
複数本の冷媒用配管、ドレン管と配線の配管に内装される部品が用意され、前記結露水の滴下防止保温材が不織布形成面を外周面として、前記結露水の滴下防止保温材の外周面形状が断面略円筒形状となるように前記複数本の冷媒用配管、ドレン管と配線を囲うことで、前記配管に内装される部品を前記結露水の滴下防止保温材の内部に収納することを特徴とする冷媒用配管の筒状配管構造であってもよい。このような配管構造とすることで複数本の配管をまとめて保温して結露を防止することができる冷媒用配管の筒状配管構造であってもよい。
【0035】
給水給湯用配管として架橋ポリエチレン管と架橋ポリエチレン管の外周を覆う樹脂製鞘管が用意され、前記架橋ポリエチレン管と前記架橋ポリエチレン管の外周を覆う樹脂製鞘管を囲んで、前記結露水の滴下防止保温材が不織布形成面を外周面として、前記結露水の滴下防止保温材の外周面形状が断面略円筒形状となるように、前記結露水の滴下防止保温材の内部に前記架橋ポリエチレン管と前記鞘管とを収納する給水給湯用配管の筒状配管構造であってもよい。
【0036】
前記樹脂製鞘管は、前記鞘管の外周を囲うように樹脂発泡体で被覆されている給水給湯用配管の筒状配管構造であってもよい。
【0037】
前記結露水の滴下防止保温材が冷媒用配管の外周に被覆される配管構造であって、前記配管の少なくとも一部に垂直配管を含み、前記垂直配管に結露水の滴下防止保温材の不織布形成面が外周面となるように前記垂直配管に被覆される垂直配管の配管構造であってもよい。ここで、垂直配管に巻き付ける結露水の滴下防止保護部材は、平均繊維径が10~30μmの範囲で、前記繊維の空隙率が85~98%であり、MD方向、TD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値が20MPa以下で1MPa以上を満足する不織布であることが望ましい。
【0038】
前記結露水の滴下防止用保温材が空調用ダクトの外表面に不織布形成面を外表面に向けて接着されている空調用ダクトの構造であってもよい。このように空調用ダクトの外周部を本発明の結露水の滴下防止保温材で覆うことで、空調用ダクトの断熱性を向上させるとともに、ダクト外周部の結露を防止することができる。この際、空調用ダクトの外周面に接着される不織布は、引張試験におけるMD方向、TD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する不織布であることが望ましい。
【0039】
前記結露水の滴下防止用保温材が無機系建築用板材の表面に不織布形成面を外表面として載置されているか、さらに前記無機系建築用板材の表面に不織布形成面を外表面として載置された前記結露水の滴下防止用保温材の樹脂発泡体面と前記無機系建築用板材の表面の対向面同士が相互に接着されて水平面方向に配置されているかのいずれかであり、前記無機系建築用板材が石膏ボード、ケイ酸カルシウム板の少なくともいずれかである無機系建築用板材の結露水の滴下防止構造であってもよい。
【0040】
前記結露水の滴下防止用保温材が無機系建築用板材の表面に不織布形成面を外表面として載置された前記結露水の滴下防止用保温材の樹脂発泡体面と前記無機系建築用板材の表面の対向面同士が相互に接着されている前記無機系建築用板材が垂直面方向に配置されていて、前記無機系建築用板材は、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板の少なくともいずれかである無機系建築用板材の結露水の滴下防止構造であってもよい。
【0041】
この際、前記無機系建築用板材が垂直面方向に配置されて、前記無機系建築用板材の外周面に接着される不織布は、引張試験におけるMD方向、TD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する不織布であることが望ましい。
【0042】
前記結露水の滴下防止用保温材が折半屋根の内面に接着されている折板屋根の結露水の滴下防止構造であってもよい。このように折板屋根の内面に結露水の滴下防止保温材を接着することで、屋根内面の断熱性を向上させるとともに、屋根の内面の結露を防止することが可能になる。この際、折板屋根の結露水の滴下防止構造に用いられる不織布は、空調用ダクトと同様のMD方向、TD方向の両方向の引張モジュラスが所定値を満たす不織布であることが望ましい。
【0043】
前記不織布を構成する繊維の平均繊維径が10~30μmの範囲で、前記繊維の空隙率が85~98%であり、さらに、JISL1913に基づいて測定した前記不織布の厚さが1.0mm以下であり、さらに、引張試験におけるMD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値が25MPa以下1MPa以上を満足する結露水の滴下防止用不織布であってもよい。この際、上記特性は、不織布の構造的特徴を規定しただけであることから、不織布を構成する繊維の材質に関係がなく、不織布を構成する繊維がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の吸水性がない樹脂であっても結露水の滴下防止用不織布が実現できる。さらに、吸水性がない樹脂に加えて、吸水性樹脂繊維を使用することも可能である。
【0044】
前記不織布の見かけ厚さ1mm当たりに換算した保水量が500g/m2以上であることを特徴とする不織布をポリエチレン系樹脂発泡体の表面に融着して使用する結露水の滴下防止用不織布であってもよい。
【0045】
前記不織布を構成する繊維は、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又はアクリル系樹脂を少なくとも一種以上含む繊維により構成され、さらに前記繊維が芯鞘構造でない繊維で構成されていてもよい。アクリル系樹脂繊維は僅かに吸水性を有するが、吸水率が1%を下回り、さらにポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂からなる繊維と同様に汎用される繊維で、吸水による強度低下も少ないことから、本発明においては、吸水性を有しないポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂からなる繊維を用いた不織布と同様に扱うことにした。
また、前記不織布を構成する繊維が、さらにセルロース繊維、パルプ、レーヨン繊維、あるいは高吸水性高分子繊維のいずれかの吸水性繊維を総重量の30%以下含むものであってもよい。ここで、吸水性繊維の含有量を所定値以下にするのは、給水量の増加による強度低下を防止するためである。セルロース繊維やパルプなどの天然繊維を使用する場合には、所定長さの長繊維を用いることが難しいため、短繊維を用いる方が望ましい。不織布を構成する繊維が高吸水性高分子繊維である場合には、高吸水性高分子繊維は吸水性に特に優れるため、15%以下の10%程度でも十分効果が得られるため、高吸水性高分子繊維の含有量は15%以下の含有量の10%程度でも十分であるため、高吸水性高分子繊維を用いる場合には、15%以下とすることが望ましい。ここで、不織布を構成する繊維に吸水性繊維を含む場合の不織布の総重量の30%以下とする上限の設定理由や下限値を設定しない理由は、段落0027に記載した理由と同様である。
【0046】
さらに前記繊維の少なくとも一部が芯鞘構造を有する繊維で構成されるか、あるいは、さらに前記芯鞘構造を有する繊維の芯部繊維が中空芯部を有する繊維で構成され、前記中空繊維の回りに鞘部が形成された複層構造繊維であり、前記芯鞘構造の繊維が前記芯部あるいは前記中空芯部を形成する繊維の鞘部が芯部より低融点の樹脂で形成されている結露水の滴下防止用不織布であってもよく、さらに芯鞘構造の芯部繊維が中空繊維であり、中空繊維の回りに鞘部が形成された中空複層構造繊維であってもよい。芯部を中空構造とすることで、不織布の柔軟性を確保することが可能になる。
【0047】
前記不織布は、引張試験におけるMD方向、TD方向のそれぞれの引張伸びの値が5%におけるそれぞれの方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MPa以下1MPa以上であることをともに満足することを特徴とする結露水の滴下防止用不織布とすることもできる。このような特性を満足することで、両方向ともに結露水の滴下防止性に優れるあるいは設置方向に関係なく結露水の滴下防止性能を有する結露水の滴下防止用不織布を得ることができる。
【0048】
前記不織布を構成する繊維の少なくとも一部が短繊維により形成されるか、経緯直交長繊維や経緯斜交長繊維により形成されるかのいずれかである結露水の滴下防止用不織布であってもよい。このように、短繊維や経緯直交長繊維、経緯斜交長繊維を用いれば、繊維の配向を調整しやすいので、MD方向、TD方向の両方向の実行引張応力を上記の所定範囲に制御しやすいためである。また、なお通常の長繊維を用いても、構造によっては両方向の実効引張応力を上記の所定範囲とすることができる。
【0049】
このように、鞘部が芯部より低融点の樹脂で形成されている非溶融タイプの繊維を用いることで、融点の高い芯部よりも低温度域で熱融着させることで、融着後も芯部の繊維の物性や機械的性質を保つことができる。また、芯部を中空構造とすることで、不織布の柔軟性を向上させることができる。
【0050】
前記短繊維の不織布がケミカルボンド法、サーマルボンド法、スパンレース法、エアーレイド法、ニードルパンチ法等により製造された不織布とすることができる。このような製造方法で、製造した短繊維を不織布に少なくとも一部使用することで、不織布を水平面上でなく、垂直方向に使用した場合でも結露を防止することができる。また、短繊維を用いないでも、繊維の配向の影響を少なくすることができる不織布として、経緯直交不織布や経緯斜交不織布を用いることもできる。
【0051】
前記結露水の滴下防止保温材が冷媒用配管の外周に巻き付けられる配管構造の施工方法であって、前記配管が垂直配管あるいは斜め配管である場合には、前記結露水の滴下防止保温材の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する方向を前記垂直配管の方向と直交する水平方向に向けて配置する結露水の滴下防止配管構造の形成方法であってもよい。
【0052】
ここで、結露水の滴下防止配管が垂直配管や斜め配管である場合には、垂直方向の配管の長さが長いと重力の影響を受けて、不織布表面からの蒸散と不織布内に集積した水分の増加が競合するが、配管下部から結露水の滴下の可能性があるため、不織布の側面への移動を促進することで不織布表面からの蒸散を加速するように、TD方向の実効引張応力を改善することで、結果として不織布表面からの蒸散を促進して結露水の滴下を防止することが考えられる。
【0053】
空調用ダクトの結露水の滴下防止構造の形成方法において、空調用ダクトの側面は少なくとも垂直な方向にダクトの上面と下面を挟むように対向して設けられるもので、前記側面には、前記結露水の滴下防止保温材の不織布の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する方向を前記垂直なダクト側面に直交する水平方向に向けて不織布面を外表面として配置する空調用ダクトの結露水の滴下防止構造の形成方法であってもよい。
【0054】
建築用無機系建材の結露水の滴下防止構造の形成方法において、建築用無機系建材の結露構造が垂直な壁構造である場合には、前記結露水の滴下防止保温材の不織布の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する方向を前記垂直な壁構造の方向と直交する水平方向に向けて前記建築用無機系建材の縦壁の表面に前記保温材の不織布を外表面として配置する建築用無機系建材の結露水の滴下防止構造の形成方法であることが望ましい。また、折板屋根の結露水の滴下防止構造の形成方法において、前記結露水の滴下防止保温材の不織布の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する方向を前記折板屋根の折板の折り曲げ方向と直交する方向に向けて前記折板屋根の裏面に前記保温材の不織布を外表面として配置する折板屋根の結露水の滴下防止構造の形成方法であることが望ましい。この際、通常折板屋根の敷設時の水切り勾配が3/100程度であるため、これによる結露水の滴下への影響はほとんどない。
【0055】
本発明の結露水の滴下防止保温材においては、ポリエチレン系樹脂発泡体の少なくとも一方の表面に不織布が融着されていて、不織布を構成する繊維の平均繊維径が10~30μmの範囲で、前記繊維の空隙率が85~98%であり、さらに、引張試験におけるMD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値が25MPa以下1MPa以上を満足することを特徴とする結露水の滴下防止用保温材を得ることができる。
【0056】
ここで、上記の保温材を用いれば、JISL1913に基づいて測定した不織布の厚さが1.0mm以下で、前記不織布の見かけ厚さ1mm当たりに換算した保水量が500g/m2以上を満足することができる。本発明での結露水の滴下防止性能は、繊維自体の吸水性に関係なく得ることができるため、不織布を構成する繊維としては、化学素材系繊維から天然素材系繊維の両方を使用することができる。また、本発明の不織布は、繊維の3次元構造を間接的に反映するパラメータとしての空隙率や引張モジュラスに加えて、繊維径も所定範囲とすることからを結露水の滴下防止性だけでなく、エンボス加工性にも優れるという特徴を有している。本発明の保温材における不織布の発泡体への接合は融着が望ましいが接着により接合することで配置してもよい。
【0057】
ここで、本発明の保温材の結露水滴下防止メカニズムは、下記のように考えられる。まず、発泡体と不織布の界面に微小結露が発生すると、微小結露水は不織布の毛細管現象により厚み方向に拡散する。厚み方向に拡散した水分は、外気との接触面積が大きくなるため、外気により温められやすくなることで、結露現象が継続して微小結露水による水滴が大きくなることを抑制する。
【0058】
また、結露水が拡散して不織布の表面から蒸発することで、結露が抑制されるものと考えられる。この際に、所定の繊維径と空隙率とすることで、5%引張伸び値における応力を充填率で割った値を所定範囲とすることで、結露水の滴下を防止して所定の保水量水分を保水する不織布とすることができる。また、ここで、繊維径や空閑率が所定値を満足しても、5%引張伸び値における応力を充填率で割った値が所定範囲を満足しない場合には、結露を防止することができないことになる。
【0059】
上記の他、不織布を配管に巻き付けた場合には、保温材の外周部に略円筒形状断面に巻かれた不織布には、保温材の不織布が平面状に使用される場合と比較して上下方向に高低差が生じるため、毛細管現象による吸い上げ移動効果と重力による水分の下方への移動により、配管の周りに保温材を被覆した配管構造の上下で不織布中に含まれる含水量に、高さに応じた勾配が生じて配管の上部に対して下部の含水量が多くなる。
【0060】
例えば、水平配管の場合には、配管の上面には、水量が少ないため、大気との接触面積が大きく配管の上面から水が蒸発して、配管の下面側からの上面側へ毛細管現象による吸水が行なわれ、蒸発と吸水が所定の関係を保つことで配管からの結露を防止することができる。また、保温材の被覆状態に上下差がある縦配管や竪壁のような場合には、水平配管の場合より重力の効果が大きくなるため、結露発生に対する重力の効果を考慮する必要があるが、毛管現象で不織布が保水した水分を水平方向に逃がすことで空気との接触面積を大きくして結露水の蒸散を加速することができれば、この問題は解消する。
【0061】
つまり、本発明の不織布が引張試験における所定の値である引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値が25MPa以下1MPa以上を満足する方向を、不織布を施工する時の水平方向と一致するように施工するか、不織布が施工時に不織布のMD方向、TD方向のいずれの方向を水平方向と一致するように施工されたとしても実効引張応力値が所定値を満足する問題のない異方性が改善された不織布を使用することができれば、保温材の結露の問題を解決することが可能になり、結露を防止することが可能な不織布を提供することができる。もちろん、この場合にも、使用する不織布の繊維径と空隙率が本発明の範囲である平均繊維径10μm~30μm、空隙率85~95%を満足する必要があることは言うまでもない。
【0062】
前記結露水の滴下防止用保温材を冷媒用配管の外周に被覆することで結露水の滴下防止配管構造を得ることができるし、結露水の滴下防止用保温材が空調用ダクトの外周面に接着または被覆された空調用ダクトとすることで結露水の滴下防止空調用ダクトを得ることができる。また、結露水の滴下防止用保温材が無機系建築用板材の表面に配置される無機系建築用板材の結露水の滴下防止構造を得ることができるし、結露水の滴下防止用保温材が無機系建築用板材の表面に配置されている無機系建築用板材が縦壁として配置された無機系建築用板材の結露水の滴下防止構造を得ることができる。折半屋根の内面に接着することで結露水の滴下防止折板屋根構造を得ることできる。当然のことながら保水性と結露水の滴下防止性能に優れる不織布自体を得ることができる。
【発明の効果】
【0063】
本発明によれば、ポリエチレン系樹脂発泡体の表面に不織布を配置した保温材において、吸水性繊維を使用しなくても、不織布の材質に関係なく、不織布のミクロ構造の代替パラメータである空隙率と本発明のマクロパラメータである実効引張応力を所定範囲に制御することで、結露水の滴下防止性を高めることができ、結露水の滴下防止や抑制を行うことができ、結露水の滴下防止用保温材を得ることができる。さらに、これを用いた結露水の滴下防止冷媒配管及びその配管構造と給水給湯用配管構造及び結露水の滴下防止建築用構造、結露水の滴下防止用不織布、並びにこの保温材を用いた冷媒配管の結露水滴下防止構造の形成方法、建築用部材の結露水の滴下防止構造の形成方法を得ることができる。また、さらに不織布の滴下防止性能を向上させるために、不織布を構成する繊維に、セルロース繊維、パルプ、レーヨン繊維、あるいは高吸水性高分子繊維などの吸水性繊維を所定量加えた不織布を使用することで上記効果をより確実なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】(a)は恒温恒湿槽を用いた結露試験材の試験状況を示す図であり、(b)結露水の滴下防止保温材の冷媒管への巻き付け状況を示す図である。
【
図2】
図2(a)は、冷媒用配管の外周に結露水の滴下防止用保温材3が巻き付けられて被覆された配管の斜視図を示し、
図2(b)は、
図2(a)を直線X-Xを含む所定位置で切断した断面図を示す。
【
図3】
図3(a)は、本発明の結露水の滴下防止用保温材が冷媒用配管の外周に被覆された配管を相互に対向させて一体化させた配管構造を示し、
図3(b)は、
図3(a)を、直線A-Aを含む所定位置で切断した断面図を示す。
【
図4】
図4は、既設冷媒配管を本発明の保温材で囲んだ冷媒用筒状配管構造を示す。
【
図5(a)】
図5(a)は、給水給湯用配管の外周部に配管保護用の樹脂製さや管をかぶせた配管の外周部に、本発明の保護部材を配置した給水給湯用筒状配管構造を示す。
【
図5(b)】
図5(b)の(c)は、樹脂製さや管の外周が樹脂発泡体で被覆され、さらに樹脂発泡体の外周を本発明の保護部材で覆う給水給湯用筒状配管構造を示す。図中の(d)は斜視図(c)の直線B-Bを含む所定位置で切断した断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の保護部材を縦配管に適用した配管構造を示す。
【
図7】
図7には、本発明の保温材を使用したダクトの結露水の滴下防止構造を示す。
【
図8】
図8(a)は、結露水の滴下防止用保温材が無機系建築用板材の表面に配置される無機系建築用板材の結露水の滴下防止構造を示し、
図8(b)は、結露水の滴下防止用保温材が無機系建築用板材の表面に配置されている無機系建築用板材が縦壁として配置された無機系建築用板材の結露水の滴下防止構造を示す。
【
図9】
図9は、折板屋根の鋼板の下面に本発明の保温材の不織布を下面にして積層した鋼板を折り曲げ加工した折板屋根構造を示す。
【
図10(a)】
図10(a)は結露水の滴下防止性に優れる不織布4の100倍でのSEM写真。
【
図10(b)】
図10(b)は結露水の滴下防止性に優れる不織布4の吸水後の100倍での光学顕微鏡写真。
【
図10(c)】試験材19に相当する短繊維を使用した不織布のSEM写真。
【
図10(d)】試験材20の斜交繊維からなる不織布の100倍でのSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0066】
本発明の結露水の滴下防止用保温材は、基材が独立気泡を有するポリエチレン系樹脂発泡であって、前記ポリエチレン系樹脂発泡体の少なくとも一方の面に、不織布が前記樹脂発泡体の表面に配置されたもので、さらに前記不織布が所定の構成を満足することで、結露水の滴下防止機能を満足する保温材である。
【0067】
本発明の結露水の滴下防止用保温材の基材を構成するポリエチレン系発泡体の製造方法としては、架橋発泡方法が用いられる。押出により架橋させて、架橋後に発泡させる押出架橋発泡法を用いることができる。
【0068】
(ポリエチレン系樹脂発泡体)
ポリエチレン系発泡体に用いられる樹脂としては、LDPE、HDPEなどのポリエチレン樹脂を単独あるいは,LDPEとHDPEの混合樹脂を用いることができる。
【0069】
また、これらのポリエチレン系発泡体に必要に応じて耐熱性や難燃性を付与することもできる。LDPEとHDPEの混合樹脂とする場合には、LDPEとHDPEを所定の混合割合、LDPEとHDPEを所定の割合、例えば、LDPE40質量部に対してHDPE60質量部を混合した混合樹脂とすることができる。また、本発明においては、後述するように、耐熱性向上剤や難燃剤を加えて、ポリエチレン系樹脂発泡体を、耐熱仕様や難燃仕様とすることが可能である。以上の他、発泡性を阻害したり、樹脂の劣化を起こさない限り、各種添加剤を加えたポリエチレン系樹脂発泡体を用いることができる。
【0070】
ポリエチレン系樹脂としては、LDPEやHDPEの他、EVA(酢酸ビニル共重合ポリエチレン)などのポリエチレン系変性樹脂を用いることができる。EVAをポリエチレンに代わって用いる理由は、柔軟性と弾力性が高いため、多様な製品用途に使用することが可能なためである。例えば、LDPEには、宇部丸善ポリエチレン株式会社製:F120N、HDPEには、日本ポリエチレン株式会社製HD1300等を用いることができ、EVAには、株式会社ENEOSNUC社製 DQDJ-1868を用いることができる。
【0071】
(架橋剤、発泡剤等)
ここで、ポリエチレン系発泡体に用いる架橋剤と発泡剤の含有量は、例えば、発泡倍率20~40倍の場合では、ポリエチレン系樹脂100質量部に対して、架橋剤を0.6~1.5重量部の範囲で含有させ、発泡剤を、10~30重量部の範囲で含んでもよい。架橋剤や発泡剤は上記の範囲が望ましいが必要に応じて変更することも可能である。
【0072】
例えば、架橋剤としては、ジクミルパーオキサイドなどが使用できる。例えば、架橋剤としてのジクミルパーオキサイドとしては、日本油脂株式会社 商品名パークミルDを使用することができる。また、発泡剤としては。無機系発泡剤を用いても良いが、有機系分解型発泡剤であるアゾジカルボンアミド(ADCA)、例えば、永和化学株式会社 商品名ビニホールAC#LQなどが好適に使用できる。
【0073】
発泡剤としては、アゾジカルボンアミド(ADCA)の他、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、p-トルエンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジアゾアミノベンゼン、N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロテレフタルアミド、アゾビスイソブチロニトリルなどを用いることができ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。これらのいずれの発泡剤を用いてもよい。通常は、発泡剤としては、アゾジカルボンアミド(ADCA)が用いられることが多い。
【0074】
上記の他、架橋助剤、発泡助剤を必要に応じて加えることもできる。例えば、架橋助剤としては、TMPT(トリメチロールプロパントリメタクリレート)商品名:オグモントを加えてもよいが、発泡助剤としては、酸化亜鉛を用いることができる。
【0075】
(耐熱性向上剤、難燃剤)
耐熱性を付与する場合には、樹脂100質量部に対して少なくともカーボンまたは酸化チタン(ルチル型)の耐熱性を有する顔料のいずれかまたは両者を合計で2.0質量部以下の範囲で加えることができる。カーボンは、導電性が高いため放熱効果があり、酸化チタンは熱反射性に優れ、さらにカーボン、酸化チタンはともに耐熱性が高いため、樹脂発泡体の耐熱性を向上させることができる。
【0076】
また、発泡体の難燃性を向上させるため、難燃剤を加えるが、難燃剤を樹脂100質量部に対して、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどのアンチモン系難燃剤や水酸化物系難燃剤、臭素系難燃剤などを合計で、100質量部の範囲で加えることができる。その他、上記のアンチモン系難燃剤や臭素系難燃剤、水酸化物系難燃剤の他、無機充てん剤を加えても良い。
【0077】
例えば、難燃剤の含有量は、100質量部を超えると効果が飽和すると同時に発泡性が阻害されるため、難燃剤の添加量は、合計で100質量部以下である。難燃剤の含有量が100質量部を超えると、難燃剤により発泡性が阻害されるため、上限は、100質量部以下とする必要がある。ここで、アンチモン系難燃剤や臭素系難燃剤の好ましい含有量はそれぞれ20質量部以下であり、水酸化物系難燃剤の好ましい含有量は80質量部以下である。なお、難燃剤はいずれの難燃剤も樹脂成分に比べると比重が大きいため、混合する体積割合に直すと樹脂成分に対する混合割合は質量割合に比べると著しく小さくなるため、上記の範囲であれば、特に問題はない。
【0078】
(無機充填剤)
発泡性と耐衝撃性、耐火性(炭化層の厚みの均一性)を損害しない範囲で無機充填剤を含むことができる。無機充填剤としては、例えば、ケイ酸カルシウム、ゼオライト、タルク、マイカ、シリカ、アルミナ、珪藻土、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化スズ、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、モンモリロナイトを挙げることができる。無機充てん剤の含有量が多いと発泡性を阻害するため、無機充てん剤の少なくともいずれかを2質部以下含むことができるが好ましい。さらに、これらの無機充填剤の含有量は、1質量部以下が望ましい。
【0079】
(酸化防止剤、安定剤)
酸化防止剤は、樹脂発泡体の発泡を阻害する面があるため、用いる場合は少量にすることが望ましい。酸化防止剤に加えて場合により光安定剤、耐候剤等を含んでもよい。酸化防止剤を配合すると、発泡体を構成する基材樹脂の酸化劣化を防止することができる。
【0080】
酸化防止剤には、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤をブレンドした組成物挙げられる。
上記の要求を満足する酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系化合物等があげられる。以上の酸化防止剤は、酸化防止剤としての効果の他、安定剤、又は耐候剤としての効果を有する。例えば、本発明では、具体的には、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンとしては、BASF社製のIrganox1010を使用する。
【0081】
酸化防止剤の含有量は、ポリエチレン系樹脂100質量部に対して、0.05~1.0質量部が好ましい。酸化防止剤の含有量が多いと基材樹脂の架橋が阻害され、粘度が低下するため、気泡径が大きくなり、ひいてはガス抜けが生じて発泡倍率が低下し、その結果発泡阻害を起こすことがある。そのため、酸化防止剤は1.0質量部を超えて添加しないことが望ましい。
【0082】
(その他添加剤)
本発明における樹脂発泡体は、さらに、目的に応じて、滑剤、カーボンや酸化チタン含む顔料、染料、可塑剤、充てん剤、帯電防止剤等のその他の添加剤を、発泡性を阻害しない範囲で含んでもよい。例えば、これらのその他の添加剤は、2質量部以下の範囲で加えることができる。例えば、無機顔料を、所定量加えることで意匠性やデザイン性を付与することができる。これらの添加剤には、公知の市販の添加剤を使用することができる。
【0083】
(ポリエチレン系樹脂発泡体の製造方法)
ここで、ポリエチレン系樹脂発泡体の製造方法を、基材樹脂に低密度ポリエチレンを用いる場合で説明する。まず、基材樹脂として低密度ポリエチレンに対して、有機系分解型発泡剤、架橋剤を配合して、加圧式ニーダーにて混錬、ペレタイズして、発泡性樹脂組成物のペレットを得た。このようにして得たペレットを短軸式押出機のホッパーより投入して、所定幅のダイスにより押出して、所定厚さの発泡用母材シートを得ることができる。
【0084】
樹脂発泡体は、発泡用母材シートの120~150℃の押出に続いて、連続的に200~230℃の加熱炉中で所定倍率に発泡させ、さらにその後ロールを通過させることで、発泡体の寸法と表面性状を整えた後、巻き付ける配管の直径に応じた所定幅に切断される。
【0085】
発泡倍率は、断熱性、エンボス加工性、クッション性を考慮して制御する必要がある。発泡倍率が高すぎると、不織布貼合後のエンボス加工を安定して均一に行うことが難しくなり、発泡倍率が低すぎると、樹脂の剛性が強すぎて、所望のエンボス高さが得られないし、断熱性が低下する問題がある。そのため、樹脂発泡体の発泡倍率は、20~40倍が望ましく、この範囲であれば、特段の問題はない。クッション性は、発泡倍率は20倍~40倍の範囲であれば特に問題がない。本実施例では、30倍に発泡させた。30倍発泡させるに際しては、ポリエチレン系樹脂100質量部に対して、有機系分解型発泡剤16質量部、架橋剤0.8質量部を加えることができる。すなわち、発泡剤や架橋剤の含有量は、発泡倍率に応じて適宜調整することができる。
【0086】
この際、ポリエチレン系樹脂としては、LDPEとHDPEを、4:6の質量比で混合した混合樹脂をポリエチレン樹脂として用いてもよい。LDPEには、宇部丸善ポリエチレン株式会社製:F120Nを、HDPEには、日本ポリエチレン株式会社製 HD1300を用い、発泡剤には、永和化成株式会社製 商品名ビニホールAC♯LQ、架橋剤には、日本油脂株式会社製、商品名パークミルDをそれぞれ上記の割合で加えた。
【0087】
本発明においては、ポリエチレン系樹脂発泡体の少なくとも一方の表面に不織布を融着により接合することで、本発明の結露水の滴下防止用保温材を得ることができるが、次にポリエチレン系発泡体上に配置する不織布について説明する。ここで、樹脂発泡体への不織布の接合は融着によらず接着によって行ってもよい。
【0088】
(不織布)
先ず、不織布の定義を明確にすると、JISでは、「不織布は、繊維を織り込まずに積層して、シート状に広げたもので、繊維シート、ウェブ又はパッドで、繊維が一方向又はランダムに配向しており、交絡、及び/又は融着、及び/又は接着によって繊維間が結合されたものをいう。ただし、紙、織物、タフト及び縮絨フェルトは除く。」と定義されている。
【0089】
(不織布に用いる繊維)
本発明の不織布は、天然素材系繊維をレーヨン系樹脂、アセテート系樹脂などの天然素材系樹脂の使用を排除しないが、主として、不織布を構成する繊維の繊維径や空隙率を所定範囲とした上で、不織布の3次元構造を制御するため、引張モジュラスによる力学的特性を所定割合とすることにより、結露を防止する。このため、繊維自体が吸水性を有している必要がないことから、不織布を構成する繊維には、化学素材系繊維を用いる。化学素材系繊維としては、ポリエステル系繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維などを用いることができる。
【0090】
本発明においては、不織布自体が吸水性を有しない繊維であっても、所定の構造を有していれば、結露水の滴下防止性を不織布に付与することが可能になる。これらの繊維の工業的な定義は、繊維用語(原料部門)第2部:化学繊維のJISであるJISLO204―2(2001)ではそれぞれ下記のように記載されている。なお、本発明では、不織布の3次元構造が複雑でかつ規則的な構造を有しておらず、不織布の3次元構造を直接定量的に特定することが困難なため、これを評価するための代替パラメータとして引張モジュラスを用いたものである。
【0091】
ポリエステル繊維は、テレフタル酸と2価アルコールとのエステル単位を質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子からなる繊維、ポリエチレン繊維は、置換基のない飽和脂肪族炭化水素で構成する高分子で長鎖状合成高分子からなる繊維、ポリプロピレン繊維は、2個当たり1個の炭素原子にメチル基の側鎖がある飽和脂肪族炭化水素で構成する高分子で、立体規則性があり他に置換基のない長鎖状合成高分子からなる繊維、アクリル繊維は、アクリロニトリル基の繰り返し単位が質量比で85%以上含む直鎖状合成高分子からなる繊維である。
【0092】
ここで、ポリエステル系繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維は吸水性がないため、繊維表面に水蒸気が吸着しても、繊維自体に吸水性がないため、繊維強度の変化がなく、吸水による強度低下がないが、アクリル系繊維は、吸湿により僅かに強度低下するものの、乾湿強度比は0.9以上で、天然素材系繊維であるレーヨンやビニロンに比べて強度低下は僅かであるため、他の吸水性のない繊維との混合繊維としてアクリル繊維を使用するような場合には、特に大きな問題はない。なお、不織布を構成する繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル系繊維、アクリル繊維に加えて、セルロース繊維、パルプ、レーヨン繊維、高吸水性高分子繊維などの天然素材系繊維を所定量含むことを許容するが、その含有量はこれらの繊維の吸湿による強度低下を考慮すると、繊維総重量の30%以内にする必要がある。ここで、セルロース繊維、パルプなどの繊維を使用する場合には、短繊維を用いることが望ましい。上記の他吸水性繊維としては、高吸水性高分子繊維を含んでいてもよい。不織布を構成する繊維が高吸水性高分子繊維である場合には、高吸水性高分子繊維は吸水性に特に優れることから、15%以下の10%程度でも十分効果が得られるため、高吸水性高分子繊維の含有量は15%以下の含有量の10%程度でも十分である。そのため、特に、高吸水性高分子繊維の含有量は15%以下とすることが望ましい。ここで、高吸水性繊維の上下限に関しては既に段落0027で説明済みである。
【0093】
(不織布の繊維の構成及び構造)
ここで、本発明に使用する不織布には、複数の繊維を用いることができる。例えば、ポリエチレン繊維とPET繊維やポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維を組み合わせて使用することができる。このように、ポリエチレン繊維とPET繊維やポリプロピレン繊維を組み合わせて用いる場合には、複数の繊維を所定割合で混合して用いるので、繊維同士が融着する融着点の数を制御しやすくなる。これにより、繊維に所定の3次元構造を得やすくなり、空隙率が高くても安定な不織布を得やすくなる。複数の繊維や芯鞘構造の繊維を用いることの利点は、異なる樹脂の融点の差異を利用することで、繊維同士を選択的に融着することが可能であることである。
【0094】
不織布繊維としては、2種の繊維を混合して用いる他、芯鞘構造の繊維を用いた不織布を使用することができる。このような芯鞘構造の繊維を不織布に使用するメリットは、繊維同士を相互に融着する場合に、たとえば、芯部にPET繊維やポリプロピレン繊維を使用し、さや部にポリエチレン繊維を使用することで、120~140℃の比較的低温での繊維同士の相互融着を可能にすることができ、不織布の製造を容易にすることが可能になると同時に、芯部に鞘部より高強度繊維を使用することで、不織布に使用する繊維の剛性を高めることができ、これにより不織布を構成する繊維の繊維径をその分小さくすることが可能になり、不織布の空隙率などの制御がよりし易くなる。
【0095】
不織布繊維としては、融点の異なる複数の繊維を用いて、融点の低い繊維を溶融させて、バインダーとして用いることで、不織布を構成する。ここで、PET繊維とポリエチレン繊維を混合して、所定割合で用いると、ポリエチレン繊維がバインダーとして作用する。例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂を主構成繊維に用いて、バインダーとしての低融点繊維には、共重合ポリエステル(Co-PET)樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などを使用することができる。上記の構造とすることにより、不織布の空隙率や不織布の強度などの制御がしやすくなるため、例えば、空隙率が高くても所定の強度を有する不織布が得られる。
【0096】
ここで、本発明の不織布繊維として、融点の異なる芯鞘構造の繊維と、他の繊維を組み合わせた繊維を用いた不織布とすることもできる。例えば、芯部に鞘部より高強度繊維を使用することで、不織布に使用する繊維の剛性を高めると、同時に他の繊維に高強度繊維や中空繊維などを用い両者の混合割合を制御することで、不織布の力学特性を向上させたり、不織布に柔軟性を付与したりすることが可能になる。
【0097】
また、本発明の不織布繊維として、長繊維を用いた場合に、不織布の製造時の主方向であるMD方向に繊維が配向しやすく、その影響で方向の力学特性がTD方向の力学特性に比べて高剛性になりやすいが、短繊維を用いることで、繊維の配向のMD方向への配向の影響を緩和し、TD方向の配向を改善することが可能になり、異方性の改善効果が期待できる。また、経緯直交不織布、経緯斜交不織布を使用することでも、短繊維と同様の効果が得られるものと推定される。
【0098】
また、短繊維を用いないでも、繊維のMD方向とTD方向の配向の影響を少なくすることができる不織布として、経緯直交不織布がある。経緯直交不織布は、経ウェブと緯ウェブが直交して積層、接着されている不織布である。経緯直交不織布は、経ウェブと緯ウェブが積層機にかけて直交積層させ、さらにこれらの経ウェブを縦延伸したものであり、緯ウェブは横延伸したものである。上記の他、経緯直交不織布に斜交する不織布を加えた経緯斜交不織布がある。このように、経緯直交不織布や経緯斜交不織布を用いることで、短繊維を用いずに長繊維を用いた不織布であったとしても繊維の配向の影響を少なくすることで、短繊維を用いた不織布の場合と同様の効果を得ることができる。
【0099】
本発明の結露水の滴下防止用保温材の、繊維径、空隙率(充填率)、繊維の屈曲部の有無などの構造上の特徴を満足する不織布を用いることで結露水の滴下防止特性には影響がなく、吸水性を有する樹脂を用いる必要はなく、不織布の厚さは、1.0mm以上とすることもできるが、不織布の厚さは、1.0mm以下の厚さでも結露水の滴下防止性や後述するエンボス加工性を満足することができる。
【0100】
(不織布の製造方法)
次に、不織布の製造方法について確認する。通常不織布は、繊維だけで構成された薄い膜状のウェブと呼ばれる膜状のシートを形成し、形成されたウェブを形成する各繊維を必要に応じて相互に必要な部分だけ結合することで形成される。
【0101】
不織布の形成方法は、種々の方法があるが、例えば、ウェブの形成方法としては、湿式法、乾式法の両方があり、湿式法は、繊維を製紙工程と同様の方法で、不織布にする方法であり、乾式法におけるウェブの形成方法は、後述するように種々の方法があり、いずれの方法でウェブを形成してもよいが、本発明の結露水の滴下防止の用途には、長繊維を使用する場合には、繊維を屈曲させて不織布の立体構造を形成する必要があるため、不織布の繊維が屈曲する捲縮性を有していることが望ましい。
【0102】
また、ウェブから不織布を得るには、ウェブを形成する繊維を所定位置で結合する必要がある。ここで、ウェブの繊維結合方法としては、浸漬法、スプレー法などのケミカルボンド法、サーマルボンド法、スパンボンド法、メルトブロー法、メルトプレーン法、エアーレィ法、スパンレース法(水交流法)、ニードルパンチ法などの種々の方法がある。ここで、長繊維を用いた不織布を形成する方法としては、下記のケミカルボンド法、サーマルボンド法、スパンボンド法、メルトブロー法、メルトプレーン法などの方法が用いられ、短繊維を用いた不織布を形成する方法としては、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、エアーレィ法、スパンレース法、ニードルパンチ法を用いることができる。なお、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、エアーレィ法、スパンレース法などは長繊維、短繊維いずれの方法にも用いることができる。なお、高吸水性高分子繊維を不織布に混合して使用する場合には、ウェブの形成には、高吸水性高分子繊維が不織布の製造中に給水しないようにスパンレース法などの湿式法は使用しないで、カード機を用いたりして、乾式法を用いる方がよい。
【0103】
具体的に各方法について説明すると、ケミカルボンド法はウェブを接着剤で部分接着する方法であり、サーマルボンド法は、低融点の熱融着繊維を混合して熱ロールの間を、通過させて熱圧着するか、熱風を当てて、溶融する繊維で繊維の加熱部分を接着して、繊維同士を接着させる方法である。スパンボンド法は、紡糸と直結して繊維を並べ、自己融着熱で布にする方法である。メルトブロー法は、紡糸と直結して繊維を並べ、極細繊維を絡ませる方法である。メルトブレーン法は、樹脂を溶融して紡糸ノズルの周囲から噴射する高温エアにより、繊維を細くしてシート状に集積する方法である。
【0104】
エアーレィ法は、空気とバインダーでパルプを接着して不織布にする方法である。また、スパンレース法は高圧水流で繊維を絡みあわせる方法である。ニードルパンチ法は、ウェブを高速で上下する特殊な針(ニードル)で繰り返し突き刺して、ニードルに形成した突起により繊維を絡ませることで、不織布を製造する方法である。
【0105】
特に、本発明では、不織布が所定の繊維径と所定の空隙率などの構造的特徴を有していればよいから、これらの構造的特徴を満足する不織布が得られる限りにおいては、不織布の製造方法は制約を設けない。本願に使用する所定の繊維径の範囲で、所定の空隙率を有し、引張試験における5%伸びにおける実効応力値が所定の値を満足するような不織布の繊維が屈曲する捲縮性を有しており、本発明の目的に使用できる不織布であれば、いずれの方法で製造したものであっても良い。
【0106】
ここで、本発明に用いる不織布が短繊維で製造される場合には、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、エアーレィ法、スパンレース法、ニードルパンチ法が用いられることが多い。このような短繊維を用いた不織布を使用する場合には、長繊維を用いた不織布を使用する場合に比べて、繊維のMD方向とTD方向の配向の差異を少なくすることができることが期待できる。従って、不織布の力学的性質も差異も少なくすることができる可能性を有する。なお、高吸水性高分子繊維を不織布に混合して使用する場合には、短繊維の場合でも、不織布の製造中に高吸水性高分子繊維が吸水しないようにスパンレース法などの湿式法は使用しないで、乾式法を用いる方がよい。
【0107】
また、短繊維を用いないでも、繊維のMD方向とTD方向の配向の影響を少なくすることができる不織布として、経緯直交不織布がある。経緯直交不織布は、経ウェブと緯ウェブが直交して積層、接着されている不織布である。経緯直交不織布は、経ウェブと緯ウェブが積層機にかけて直交積層させ、さらにこれらの経ウェブを縦延伸したものであり、緯ウェブは横延伸したものである。上記の他、経緯直交不織布に斜交する不織布を加えた経緯斜交不織布がある。このように、経緯直交不織布や経緯斜交不織布を用いることで、短繊維を用いずに長繊維を用いた不織布であったとしても繊維の配向の影響を少なくすることで、短繊維を用いた不織布の場合と同様の効果を得ることができる。
【0108】
(不織布のポリエチレン系樹脂発泡体への貼合方法)
ポリエチレン系樹脂発泡体の一方の表面に不織布を配置し、熱ロール成形を行うことで、不織布とポリエチレン系樹脂発泡体を融着することができる。あるいは、ポリエチレン系樹脂発泡体の一方の表面に、接着剤を塗付して、さらにこの状態で、不織布をポリエチレン系樹脂発泡体の表面に配置した状態で熱ロール成形を行うことで、不織布をポリエチレン系樹脂発泡体の表面に固定することができる。
【0109】
(エンボス加工方法)
例えば、発泡体の一方の表面に不織布が融着された材料を赤外線ヒータで、これを所定温度に加熱した状態で、上下1対のエンボスロール通過させることで通過させることでエンボス加工を行なうことができる。
【0110】
エンボス加工を行なう際には、エンボスロールを通過させる材料の表面を赤外線ヒータで、所定温度、例えば120~150℃に加熱され、エンボスロールそのものは、ロール表面への不織布等のロール通過材の凝着を考慮して、冷却してロール表面温度を所定温度、例えば、20℃に保つようにする。このように材料を加熱して、ロールを冷却することで、表面に貼合した不織布の焼き付けを防止することができる。
【0111】
また、エンボス加工に用いる凹凸模様は、賦形が可能であれば、特に制約はなくいかなる形状でもよいが、本発明の場合には、底面約4.0mm2×上面2.5mm2×高さ約1.2mmの正四角錘台形状の模様を、正四角錘台形状の各辺がMD方向、TD方向のそれぞれと一致するように製品幅全領域に渡って賦形するエンボス加工を行なう。
【0112】
この際のエンボス加工時に、不織布自体は加熱成形されるため、変形ひずみの3次元構造への影響は認められるものの、その影響はそれほど大きくはなく、試験材間の構造的な特徴の差異などは維持される。しかし、エンボス加工を行なわないものと比べると、エンボス加工の影響により、結露水の滴下防止性の点では不利になることから、エンボス加工後の結露性評価試験は未加工の場合に比べると相対的に過酷試験となる。エンボス加工品が結露性評価試験において結露水の滴下が生じなければ、未加工品は結露による結露水の滴下が生じないことになる。
【実施例0113】
(測定方法)
以下に、実施例において、本発明の保温材は樹脂発泡体と不織布により構成されているため、組成や構造を変えた不織布や発泡体の組成を変えた各種保温材を用いて、エンボス加工前後のこれらの保温材の、結露性評価試験による結露水の滴下の有無、保温材のエンボス加工性の評価を行った。ここで、結露性やエンボス加工性に対しては、不織布の構造の影響が大きいと考えられるため、不織布の構造を決定するパラメータとして、繊維径、充填率、空隙率、引張試験の5%伸びにおける実効応力値の決定と保水性の評価、これに加えて必要に応じてSEMによる不織布繊維の構造観察、吸水後の不織布の光学顕微鏡観察などを行なった。
【0114】
(不織布の測定評価方法)
不織布の構造評価のための測定評価方法として、繊維径、不織布の厚さ、空隙率、充填率の測定方法、引張試験による実効引張応力値の測定方法、不織布のSEM観察及び光学顕微鏡観察の方法について説明を行い、不織布の結露性に関係する性能評価方法として、保水性の評価として保水量の測定を行ったがこれらについて説明する。また、不織布の性能評価試験に加えて、保温材の結露性及びエンボス加工性評価試験を行ったがこれらの方法について順次具体的に説明する。
【0115】
(不織布厚さ)
試験に用いた不織布、0.22mmから0.95mmの厚さのものを用いた。試験に用いた不織布厚さは、JIS一般不織布測定方法(JISL1913:2010)に記載された測定方法のA法と同じ測定が可能な不織布厚み測定器(φ56.4mmの円盤平面測定子)によりJIS法に基づいて測定したものである。
【0116】
(繊維径)
不織布の繊維径は、SEMの繊維の画像から任意に20カ所を選び、画像処理ソフトを用いて平均繊維径(数平均)を算出した。ここで、本発明に使用した不織布の平均繊維径は、10μmから30μmの範囲であり、通常不織布の繊維はこの範囲のものが使用されることが多い。この理由は、繊維径10μm以下でも、不織布を製造することは可能であるが、繊維径が10μm以下では、不織布の強度が不足するため、保護部材表面の使用時の耐久性が低下する。また、繊維径が30μmを超えると、不織布の直径増加により、不織布の充填率が相対的に増加して、空隙率を85~98%の範囲に保つことが難しくなる。従って、平均繊維径は、10~30μmの範囲とすることが望ましい。尚、実施形態の各実施例の各試験材において、各試験材の繊維径の測定値は簡略化のため、繊維径として記載しているが、これらの繊維径の測定値は平均繊維径を意味する。
ここで、2種類の繊維を混合した不織布も試験材として使用しているが、2種類の繊維径が略同等である場合に、それらの繊維を個別に認識することは困難である。そのため、2種類の繊維を用いている場合であっても、繊維径が略同等の場合には、任意の繊維の繊維径を20カ所測定してその平均値を平均繊維径とした。
また、2種類の繊維を混合した不織布を試験材として使用し、繊維径が相互に異なる場合には、それぞれの繊維の繊維径を別々に求めて、それぞれの繊維の繊維径の平均値が10~30μmの範囲に含まれていればよい、また一方の繊維径が上限値、または下限値を超えていて、他方の繊維の繊維径が上記範囲に含まれる場合には、それぞれの繊維の混率を掛けて、それらの加重平均が上記範囲に含まれていればよいものとする。
そのため、それぞれの繊維の繊維径が上記範囲に含まれている場合には、両者の混率を掛けた平均繊維径も上記範囲に含まれることは当然であるが、本発明においては、参考のため、この場合にも平均繊維径を計算により求めた。
ここで、基材となるパルプと高吸水性繊維に関しては、繊維径の形状や大きさに特徴があり、不織布を構成する他の繊維と繊維同士の区別ができるため、繊維径が個別に測定可能なであることから、SEM像より、それぞれPET/PE繊維の繊維径とパルプの直径を別々に求め、またPET/PE繊維と高吸水性高分子繊維の繊維径を別々に求めた。これにそれぞれの繊維の混合割合をかけて、それぞれの不織布の繊維径を求める方法とした。この際パルプの混合割合である不織布全重量に対する混率(重量%)は20%、高吸水性高分子の不織布全重量に対する混率は10%とした。
これに対して、パルプは扁平形状で円形でなく形状に特徴があり、同時使用するPET/PE繊維との繊維同士の区別が容易にできるため、個別に測定を行なって繊維径をパルプとPET/PE繊維の繊維径を個別に求めた。この際、パルプの繊維径の定義は別途決定した。また、高吸水性高分子繊維は、他の繊維より繊維径が大きいために繊維径による繊維の区別が可能なため、高吸水性高分子繊維とPET/PE繊維の繊維径を個別にそれぞれ10カ所ずつ測定を行なった後、それぞれの測定値の平均に混率をかけて平均繊維径を求めた。
また、ここでアクリル繊維は、同時使用したPET/PE繊維との混合性や分散性を考慮して、繊維径がほぼ同等な繊維径のものを使用したことから、それぞれの繊維を区別することが困難なため、上記のように測定対象とする繊維を任意に選んで上記のように任意の繊維を20カ所選んで測定を行い、その平均値を求めて平均繊維径とした。
なお、本発明では、各不織布に用いる繊維の直径を、上記のようにして平均繊維径として求めたが、本発明の主要な技術的特徴は、不織布に用いる繊維の繊維径が10~30μmの所定範囲を満足することを前提とするものの、発明の主要な技術的特徴は、繊維の空隙率と、さらに、マクロパラメータである引張試験におけるMD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である引張モジュラスが25MPa以下1MPa以上を満足することにあるため、上記のような測定方法であっても、発明の構成や結果に対して大きな影響はないものと考える。
【0117】
(空隙率、充填率)
不織布の空隙率は、不織布の厚みと目付量により見かけ比重を算出して、見かけ比重を用いて、下記式より、算出した。空隙率などの計算に使用する真比重は、水中置換法により求める。ここで、空隙率の単位は、体積%である。
空隙率(%)={1-(見掛け比重/真比重)}×100
充填率(%)=100-空隙率(%)
【0118】
(引張試験における実効引張応力値の測定)
不織布の繊維の絡み合いあるいは屈曲の度合いを示す捲縮性、繊維の接合部の影響などを個々の繊維について評価して、それを不織布全体構造のマクロパラメータに置き換えることは難しい。そのため、各不織布について引張試験における伸び値や応力に絡むパラメータを、不織布繊維の3次元構造評価の代替パラメータとして評価することで、保水量を担保するための、空隙率と関連付けた評価パラメータとして、引張試験における5%伸びにおける応力値を充填率で割って求めた値、すなわち充填率で規格化した値を5%伸びにおける実効引張応力値の測定評価を行った。
【0119】
本試験による、引張試験における伸び値と応力変化の挙動は、保水性のみでなく、エンボス加工性にも影響があり、両者ともに引張試験における伸び値が大きく、低ひずみ領域における応力の増加が小さい方が望ましいと考えられるため、引張試験により、これらの挙動の確認を行った。さらに、冷媒管への巻き付け歪みを考慮すると、TD方向の場合には、エンボス加工の歪に加えて、冷媒管への巻き付け歪みが加わるため、MD方向の伸び値よりTD方向の伸び値が大きく、引張試験の応力増加が少ない方が望ましいと考えられた。
【0120】
ここで、実効引張応力値をMD方向のみについて測定したのは、TD方向は不織布のWEBの方向と直交する方向であるため、繊維同士の所定長さあたりの結合点や絡み合いが少なく、ひずみゲージで安定的に歪みを測定することが困難な上、いずれの不織布もMD方向に比べて応力の立ち上がりが低いことが分かった。そのため、TD方向には、5%伸びにおける実効応力値を求めることが困難であり、MD方向の引張挙動における評価パラメータにより、不織布の保水性や結露水の滴下防止性が影響を受けると判断して、MD方向の5%伸びにおける実効応力値を優先的に求めることにした。なお、後述するように、第1の実施形態の実施例3において、TD方向の実効引張応力を改善した短繊維不織布や経緯斜交不織布を作成したので、一部の材料については、MD方向の実効引張応力値に加えて、TD方向の実効引張応力も求めた。
【0121】
また、不織布の実効応力値を5%伸びにおける実効応力値と決めたのは、予備試験の結果から、2%伸びにおける応力値では、微小な変形領域の測定となるため、不織布材料の均一性に加えて、測定上ひずみ量の精度にバラつきが見られ精確性が担保できない上、実効引張応力レベルが小さく各材料間の差異も見極めにくい。一方、10%伸びでは、不織布内の繊維の3次元構造の差異の他、各不織布の繊維同士の係合・摩擦・融着などの状態変化によるマクロ構造変化や引張変形の進行に伴う2次的な不織布の状態変化に起因して生じる影響が表れる応力レベル領域まで変形を付与する可能性があり、不織布の初期状態としての3次元構造を正しく評価できない可能性があるためであり、5%における実効引張応力値が不織布の構造を間接的に表すパラメータとして適切なものと考えた。
【0122】
各不織布から JIS K6251(2017)1号ダンベル形状の試験片をMD方向に打ち抜き、チャック間距離80mmでサンプルを保持し、標線間距離40mmとし、10mm/minで引張試験を実施し、標線間の歪み量が5%になった時点の実効引張応力を測定し、不織布の繊維充填率でこの値を割り、規格化した5%伸びにける実効応力値を5%伸びにおける実効引張応力値として表現した。なお、この実効引張応力値のばらつきを考慮して、各3回行いその平均値を各材料の実効引張応力値と定義した。
【0123】
(不織布のSEM観察及び光学顕微鏡観察)
不織布を構成する繊維の屈曲の程度や絡み合い構造などを、確認するために、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、加速電圧20KVで、100倍で、結露水の滴下防止効果が得られた不織布と、結露水の滴下防止効果が得られない不織布の代表例について観察した。また、結露水の滴下防止効果が得られた不織布の保水状態を確認するため、光学顕微鏡で、SEM観察に用いた材料と同様の材料についてSEM観察の場合と同様の倍率100倍での不織布が保水した状態での光学顕微鏡観察を行った。
【0124】
ここで、光学顕微鏡で不織布の保水状態を確認した試験片の吸水操作は、下記の手順で行った。先ず、30mm×30mmの大きさで不織布を切り出し、これを、水を入れたビーカーに2分間以上浸漬し、十分に保水させた。その後、ピンセットで試料を持ち上げ、水滴が落ちきるまで待ち、さらにビーカーの縁にサンプルを接触させて30秒間保持した。これを顕微鏡のサンプルステージに乗せ、光学顕微鏡での測定を実施した。
【0125】
(保水量)
試験に用いた各不織布から一定面積の不織布を切り出し、秤量する。その後、この不織布を水道水に浸漬し、十分水を吸水させた後、30秒以上持ち上げ、水滴が落ちてこない状態にしてから、再度秤量する。保水重量を面積で割り、単位面積(m2)あたりの保水量を算出するものを、保水量(g/m2)とする。なお、試験に用いた不織布は、不織布厚さが異なるため、各不織布間の保水量の比較は、所定の不織布厚さ1mmにおける保水量に換算して各不織布の保水量の比較を行なった。表1~3の左側の保水量が測定値としての保水量であり、右側の保水量が不織布厚さ1mmにおける換算された保水量g/(m2・mm)を示している。
【0126】
(結露水の滴下防止性評価試験)
図1には、恒温恒湿槽1を用いた結露性確認試験の状況を示す図である。結露性試験は、
図1(a)に示すように、冷媒管2としてのステンレス管に、樹脂発泡体7の表面に不織布を融着した各結露水の滴下防止保温材の表面を外側に向けて、各4個巻き付け恒温恒湿槽1内に配置したものである。ここで、試験には、冷媒管2として寸法(外径49φ×内径45φ×肉厚2mm)の冷媒巻(ステンレス管)2を用い、いずれも発泡倍率30倍で厚さ10mmの発泡体の一方の表面に不織布を融着した各種の保温材3を用意し、長さ150mmに切断してそれぞれ冷媒管2の全周に巻き付けたものである。ここで、保温材3は、各試験材ともに、不織布表面にエンボス加工を行なったエンボス加工材とエンボス加工を行なわないエンボス非加工材の両者について行った。以下本発明においては恒温恒湿槽1を簡略化して恒温槽と記載することもある。
【0127】
試験に際しては、前記の準備完了後に、恒温槽を23℃×湿度50%RHに3時間保持し、その後ステンレス管2に5℃の冷媒を流して、試験温度35℃×湿度90%RHの雰囲気に30分で昇温し、その後結露水の滴下防止用保温材を12時間保持して、水滴が結露して滴下するかどうかを各試験片の直下にそれぞれ滴下センサ5を配置して結露の有無を評価した。試験時には、A点は冷媒管2の外側温度、B点で不織布表面温度、C点では恒温槽内の雰囲気温度などを確認した。A、B、C各点での測定温度は、設定温度に対して±0.5℃に制御した。
【0128】
また、恒温槽内の温度は、図示のような位置に熱電対を配置して、温度測定により確認を行った。熱電対は、恒温槽内の雰囲気温度、エンボス加工された不織布の表面温度及びステンレス管とポリエチレン系樹脂発泡体7の界面温度の3つについて、複数個所の測定を行い、それぞれ同様の測定位置における測定温度の誤差が±0.5℃以内になるように設定した。また、試験には、試験を行う試験材の数が恒温槽内に4個配置されるようにして、後述する実施例1~実施例3の各試験材について、結露水の滴下の有無を確認する試験を試験材個数に応じて繰り返して試験を行なった。そのため、結露水の滴下の有無を測定するトレイは、各試験材にそれぞれの試験材の位置に対応するように配置した。また、試験片が4個に満たない場合には、測定対象でない試験片を恒温槽内に配置して試験条件が常に同一になる条件にて測定を行った。試験の結果、結露水の滴下のないものを「〇」、結露水が滴下するものを「×」とした。
【0129】
また、
図1(b)には、エンボス加工を行なった場合の結露性評価試験での冷媒管2を囲む保温材3の断面図である。冷媒管2の外周に巻き付けられた保温材3は、樹脂発泡体7と不織布8からなり、樹脂発泡体7の最表面には不織布8が配置され、不織布8は、エンボス加工されてエンボス加工部9により、凹凸が形成されている。なお、試験に用いた不織布は、表1に示すように各不織布により、不織布の厚さが異なる。
また、
図1(b)には、試験時の冷媒管2としてのステンレス管の外周に樹脂発泡体7が配置され、最外周に不織布が配置された積層構造を示す断面図である。不織布の表面は、エンボス加工により、凹凸が形成されている。
【0130】
(エンボス加工性)
ポリエチレン系樹脂発泡体の一方の表面に不織布が融着された材料を赤外線ヒータで、これを所定温度に加熱した状態で、上下1対のエンボスロール通過させることで通過させることで底面約4.0mm2×上面2.5mm2×高さ約1.2mmの正四角錘台形状の模様を、模様の各辺をMD方向、TD方向のそれぞれと一致するように製品幅全領域に渡って賦形するエンボス加工を行なうことでエンボス加工性の評価を行った。
【0131】
具体的には、エンボス加工性の評価は、MD方向、TD方向にそれぞれ10個ずつ評価を行った。目標とする上記形状が安定して確保できているかどうかを基準に判断し、評価したエンボス加工部9において目標として形状が得られている場合を〇、少なくとも1個でも表面につぶれ等が存在し目標の形状が得られない場合や不織布を形成する繊維に損傷がある場合を×として評価することにした。
【0132】
本発明の実施形態としては、第1の実施形態として、各種保温材の保温材の結露水の滴下防止性評価試験結果とエンボス加工性の評価結果を表1~表3にそれぞれ示す。第2の実施形態として、本発明の保温材を各種配管構造へ適用した結果を示し、第3の実施形態として、本発明の保温材を建材への適用結果を示す。建築構造体への適用事例としては、無機系建材の結露水の滴下防止構造、ダクトの結露水の滴下防止構造、折板屋根の結露水の滴下防止構造について順次記載する。ここで、ダクトは空調用ダクトに関するものであるが、ダクトは比較的大型の部材で建築構造物に形成されるものであるため、本発明では、ダクトの結露水の滴下防止構造は、建築構造体への適用事例の実施形態に含めることにした。また、第1の実施形態の実施例1から実施例3(表1から表3)の試験材の不織布を構成する各繊維において、芯鞘構造の繊維は括弧で記載し、括弧内の左側が芯部で、右側が鞘部を表すものとなる。通常芯部より鞘部を構成する繊維が芯部を構成する繊維より低融点になる。
【0133】
(第1の実施形態:実施例1)
ここでは、全ての試験材については、樹脂発泡体7としてLDPEを発泡倍率30倍、厚さ10mmに発泡させた発泡体を用い、不織布を構成する繊維と構造の異なる6種類の不織布をLDPE発泡体上に融着することで、試験材1から試験材6の保温材を得た。ここで、また、不織布の発泡体表面に対する融着は、前記の条件により、熱ロール成形により行った。不織布構造を決定するための各種試験と保温材の結露性評価試験、エンボス加工性試験を行い、不織布構造の結露に対する影響やエンボス加工性に対する影響を評価した。なお、樹脂発泡体の厚さは、10mm以上の20mmなどとすることは可能であるが、通常は発泡体の厚さは10mmとするのは、この理由は発泡体厚さを10mm以上とすると、配管などに保温材として巻き付けて使用する場合に巻き付け後の配管の直径が大きくなり、配管加工性や配管の取り回し等の施工性が低下するためである。内部に多数の配管構造を内在する筒状の保温材などの場合には、特に部材の寸法が大きくなり施工性が低下する。
【0134】
ここで、試験材1から試験材6に加えてポリエチレン樹脂発泡体の表面にポリエチレンフィルムを融着させた結露が発生する従来材としての保温材も試験に加えた。ここで、従来材は、フィルム厚さ80μmであるため、空隙がないことから、充填率100%、空隙率が0%の材料と言えるが、これを従来材1とした。表1には、これらの材料の入手先を参考のため記載した。
【0135】
ここで、試験材1は、PET繊維で繊維径17.3μm、充填率16.2%、空隙率83.8%で、繊維の屈曲が少ないものであり、試験材2は、PET繊維で繊維径17.1μm、空隙率97.8%で繊維の屈曲が多く、試験材3は、(PP/PE)の芯鞘構造繊維とPET繊維の混合で、繊維径19.4μm、空隙率95.4%で繊維の屈曲が多い繊維である。試験材4は、(PET/PE)の芯鞘構造繊維とアクリル繊維の混合繊維から構成された不織布であるが、不織布に用いた両繊維の繊維径が略同等である場合で、繊維径11.7μm、空隙率91.2%、繊維の屈曲が多い繊維であり、試験材5のPET/PE繊維は、PETが芯部でPEが鞘部を構成する芯鞘構造の繊維で、繊維径18.9μm、空隙率97.6%で、繊維の屈曲が多い繊維である。試験材6は、繊維径18.8μmのPET/PE芯鞘構造の繊維に、繊維径23.7μmの高吸水性高分子繊維を不織布全体の繊維重量の10質量%加えたものであり,空隙率が93.6%の繊維の屈曲が多い繊維である。それぞれの繊維の繊維径に混率を掛けて、加重平均した平均繊維径は、19.3μmである。ここで、試験材1の不織布1は、空隙率が85%を超えずに屈曲も少ないが、試験材2~5の不縮布2~5は、繊維径が10~30μmの範囲にあり、空隙率が85~98%の範囲を満たして、繊維の屈曲部が比較的多く認められた。試験材6の場合も、繊維径が10~30μmの範囲にあり、さらに、空隙率が85~98%の範囲を満たし、繊維の屈曲部が比較的多く認められた。
【0136】
ここで、試験材1,2は通常のPET繊維単独の材料からなる不織布であり、試験材3は、具体的には、芯鞘構造のPP/PE繊維(PPが芯材、外側をPEで被覆した芯鞘構造の繊維)とPET繊維の複合繊維からなる不織布であり、試験材4は、試験材3と同様にPET繊維の外周をPE繊維で被覆した芯鞘構造の繊維とアクリル繊維からなる不織布である。試験材5は、PET/PE繊維は、PETが芯材、外側がPEで被覆された芯鞘構造)の繊維を使用した不織布である。さらに、試験材6は、PET繊維の外周をPE繊維で被覆した芯鞘構造の繊維と高吸水繊維の混合繊維からなる不織布であり、高吸水性高分子を含んでいることから、保水性がさらに向上することが期待される。
【0137】
(試験結果)
表1に、第1の実施形態における実施例1の試験結果を示す。表1の試験結果によると、エンボス加工後の結露水の滴下防止性評価試験の結果は、試験材2~試験材6の保温材は、結露水が滴下せずに良好な結果を示したが、これに対して、試験材1は、結露水が滴下した。ここで、試験材の結露水の滴下の有無と不織布の構造の関係についてみると、平均繊維径10~30μmの範囲で、空隙率85~98%(充填率2~15%)を満足し、引張試験におけるMD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけの引張応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MPa以下である不織布において結露水の滴下が発生しないことが確認された。具体的には、試験材2~試験材6の実効引張応力値は、7.2―17.2MPaの範囲にある。これらの結露水の滴下が発生しない不織布は後述するSEM観察の結果繊維の屈曲部が多く繊維の捲縮性が高いことが確認された。また、結露が発生しないための不織布の保水量は、不織布の見かけ厚さ1mm当たりに換算した保水量が500g/m2以上を満足した。エンボス加工前の結露水の滴下試験結果もエンボス加工前と同様であり、結露水の滴下への影響はエンボスによる影響はなかった。また、試験材3,4の見かけ厚さ1mm当たりに換算した保水量は、試験材2,5に比べると少し低かったが、この理由は、空隙率が試験材2と試験材5はともに98%を超えているのに対して、試験材3,4は低いためと考えられた。試験材4が試験材3より保水量が多いのは、実行引張応力が試験材3より小さいためと考えられた。また、アクリル繊維が僅かではあるが吸水性があるため、それによる2次的な効果も僅かではあるが寄与しているものと考えられた。また、試験材6の不織布1mm厚さに換算した保水量は、高吸水性高分子繊維を10質量%含有しているため、試験材2~5より保水量が多くなった。
【0138】
これに対して、結露が発生した不織布である試験材1は、繊維径は上記10~30μmの範囲を満足するものの、空隙率が85%未満で、充填率が15%を超えるもので、空隙率が低く、引張試験におけるMD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力が38.5MPaと25MPaをはるかに超えるものであった。さらに不織布を構成する繊維の屈曲部が少なく、不織布の捲縮性の低いものであった。不織布の滴下を防止することができない保水量は、不織布の見かけ厚さ1mm当たりに換算した保水量が500g/m2を満足しなかった。以上、結露の発生に関しては、空隙率が高く、所定歪量5%伸びにおける実効引張応力値が小さい不織布が優れることが確認された。また、ここで、試験に用いた繊維は、吸水性のない化学繊維系の材料が中心であるが、本発明の不織布の結露水の滴下防止性は、基本的には繊維の種類によらずに構造のみにより成立するものと考えられた。
【0139】
試験材1~試験材6の結果からすると、芯鞘構造の繊維を用いた保温材である試験材4,5、6の場合も、不織布を形成する繊維が単独の繊維からなる不織布を用いたか、芯鞘構造の繊維を用いたか、あるいは2種の異なる材質の複合繊維を用いたかに関係なく、保水性や結露水の滴下防止性は、繊維の空隙率や5%伸びにおける引張応力を充填率で割ることで求めた実効引張応力と相関があることが分った。なお、試験材6は上記の効果に加えて高吸水性高分子を含有するため、試験材2から試験材5より保水性が向上したものと考えられる。
【0140】
ここで、このような結果が得られた理由としては、不織布が露点以下に冷却された時に、空隙率が高い不織布の場合には、繊維の屈曲が多く捲縮性を有することにより、空隙率が高い不織布の繊維が作る3次元空間のネットワークに、露点以下の温度に冷却された場合には、繊維間を繋ぐように、多数の独立した水膜が形成され、不織布中に水分が多量に保水されるが、逆に不織布の空隙率が小さい充填率が大きい場合には、充填率が高いことにより、水膜が形成される空間が少なくなる。なお、水膜の生成状況は、光学顕微鏡で確認した事実に基づくものである。
【0141】
エンボス加工性は、充填率が高い試験材1は、繊維の重なり合いが多く、不織布繊維が破断したり、繊維の弾性回復によりエンボス加工部9の形状が不安定になる場合があり、エンボス加工性が低下した。また、試験材2~試験材6は、平均繊維径が10~30μmで、空隙率が85~98%と高いことから、繊維同士の重なり合いによる繊維の相互作用による繊維破断や形状不安定等のエンボス加工性の低下がなかった。
【0142】
これにより、平均繊維径が10~30μmで、空隙率が85~98%と高い不織布構造として、不織布厚さ1.0mm以下で、引張試験におけるMD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ引張応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MPa以下1MPa以上であれば、エンボス加工の有無に関係なく、結露水の滴下防止用保温材の保水性が確保できる。
【0143】
【0144】
(第1の実施形態:実施例2)
結露水の滴下防止性に対する発泡樹脂の組成の影響はほとんどないものと考えられたが、実施例2において、ポリエチレン系樹脂発泡体の組成の結露性に対する影響とエンボス加工性の確認のための実験を表2に示すような樹脂組成と不織布の組み合わせにて行った。実施例2では、ポリエチレン系樹脂発泡体の組成をLDPEに変えて、HDPE,LDPEとHDPEの混合樹脂、あるいはEVA樹脂などのポリエチレン系各種発泡体に種々変更し、必要に応じて、耐熱性向上のために、カーボンや酸化チタンあるいは難燃性向上のため難燃剤などを加えた樹脂発泡体7を用意し、これらの樹脂発泡体7に不織布として、結露水の滴下防止性に優れる不織布2または不織布4を融着した試験材7から試験材14までの保温材を試験材として用意した。また、実施例1と同様に、これらの保温材に用いる発泡体の発泡倍率は、いずれも30倍で発泡体厚さ10mmの発泡体とした。この際の発泡剤と架橋剤の配合量は前記の範囲内で適宜調整した。
【0145】
試験材7の保温材は、樹脂発泡体をHDPEとし、試験材8は、LDPEとHDPE6:4で混合した混合樹脂、試験材9から試験材12の保温材は、前記LDPEとHDPE混合樹脂に種々の添加剤を添加した発泡体を用いたものである。具体的には、試験材9の保温材は、前記混合樹脂にカーボンを0.5質量部、試験材10は、酸化チタンを2.0質量部加えたものであり、試験材11は、それぞれ三酸化アンチモンを2.0質量部に臭素系難燃剤を4.0質量部加え、さらに試験材12は、水酸化マグネシウム20質量部加えた樹脂発泡体を用いたものである。また、試験材13の保温材はEVAに水酸化マグネシウム80質量部、試験材14の保温材はEVAに水酸化アルミニウム50部加えた樹脂発泡体を用いたものである。ここで、試験材7~試験材12の保温材には、PET繊維を用いた不織布2を用い、試験材13、試験材14には、PET/PEの芯鞘構造の繊維にアクリル繊維の混合繊維を用いた不織布4を用いた。
【0146】
(試験結果)
表2には、実施例2の試験結果を示す。表2の試験結果からは、試験材7~試験材14までの保温材は、恒温槽における結露水の滴下防止性試験の結果、いずれの試験材も発泡体の組成の影響はなく、結露水の滴下が発生しなかった。また、エンボス加工性も良好であった。従って、実施例2の保温材はいずれの保温材も、ポリエチレン系樹脂発砲体の表面に融着された不織布が実施例1で確認された所定の繊維径10~30μm、所定の空隙率85~98%を満足し、5%伸びにおける充填率で規格化した応力が25MPa以下を満足する不織布を用いれば、発泡体の樹脂組成に関係なく結露水の滴下防止性を満足するものと考えられる。また、この時、保温材に使用する不織布の厚さが1mm以下であり、不織布厚さ1mm当たりの保水量が500g/(m2.mm)を満足し、これらの保温材はエンボス加工性も実施例1と同様に問題なかった。
【0147】
【0148】
(第1の実施形態:実施例3)
表3には、MD方向の引張試験におけるMD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足することだけでなく、引張試験におけるTD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足することが可能な材料を確認探索する試験を行った結果を示す。この試験の目的は、引張試験の方向に関係なく、見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力が所定値である25MPa以下1MPa以上を満足することで、結露水の滴下防止保温材の結露水の滴下防止特性の差異を確認することである。また、表3には、参考のため、試験に用いた不織布の入手先を記載した。
【0149】
表3には、試験材15~20の試験結果を示す。試験材15~17は、MD方向に配向した長繊維からなる不織布であり、試験材18、19は、短繊維からなる不織布であり、試験材20は経緯斜交長繊維からなる不織布である。試験材15は、PET/PEの芯鞘構造繊維にアクリル繊維を混合した繊維からなる不織布で、繊維径11.7μm、空隙率91.2%、繊維の屈曲が多い不織布である。試験材16は、PET繊維とPE繊維を用いた芯鞘構造の不織布で、繊維径18.9μm、空隙率97.6%で、繊維の屈曲が多い不織布である。
【0150】
(試験結果)
試験材15は、中空のPET繊維の外周をPE繊維で被覆した芯鞘構造の繊維とアクリル繊維からなる不織布である。試験材16は、PE繊維とPET繊維の芯鞘構造を使用した不織布である。ここで、試験材15,16の不縮布は、繊維径が10~30μmの範囲にある空隙率が85~98%の範囲を満たして、繊維の屈曲部が比較的多く認められるものである。
【0151】
試験材15は、PET/PE繊維とアクリル繊維の長繊維からなる不織布で、PET/PE繊維はPETが芯部を構成し、PEが鞘部を構成する芯鞘構造の不織布である表1の試験材4と同一の材料である。試験材15では、試験材4の場合に加えて、TD方向の実効引張応力の試験値を加えた点が異なる。試験材15の引張試験におけるMD方向、TD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力がそれぞれ11.5、0.91MPaであり、繊維径が11.7μm、繊維の空隙率が91.2%であることから、繊維径、空隙率とMD方向の実効引張応力とがともに、引張伸び値が5%における同方向の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足するが、TD方向の引張伸び値5%における同方向の実効引張応力が上記範囲を満足しない。この場合の不織布1mm当たりの保水量は、700g/m2で、エンボス加工前後の結露水の滴下もなく、エンボス加工性も良好であった。
【0152】
試験材16は、PET繊維とPE繊維の芯鞘構造の長繊維からなる不織布で、表1の試験材5と同一の材料ある。試験材16では、試験材5の場合に加えて、TD方向の実効引張応力の試験値を加えた点が異なる。試験材16の引張試験におけるMD方向、TD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力がそれぞれ17.2, 0.97MPaであり、繊維径が18.9μm、繊維の空隙率が97.6%であることから、繊維径、空隙率が本発明の範囲を満足し、実効引張応力がともに、本発明の範囲であるMD方向の引張伸び値が5%における同方向の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足するが、TD方向の引張伸び値5%における同方向の実効引張応力が上記範囲を満足しない。この場合の不織布1mm当たりの保水量は、1383g/m2で、エンボス加工前後の結露水の滴下もなく、エンボス加工性も良好であった。
【0153】
試験材17は、PET/PE繊維の芯鞘構造の長繊維からなる不織布である。この試験材17の引張試験におけるMD方向、TD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力がそれぞれ15.30, 2.10MPaであり、繊維径が17.0μm、繊維の空隙率が95.6%であることから、繊維径、空隙率、実効引張応力ともに、本発明の範囲である平均繊維径が10~30μm、繊維の空隙率が85~98%,引張伸び値5%における同方向の実効引張応力がMD方向、TD方向ともに25MPa以下1MPa以上を満足する。この場合の不織布1m当たりの保水量は、1303g/m2で、エンボス加工前後の結露水の滴下もなく、エンボス加工性も良好であった。
【0154】
試験材18は、PET/PE繊維の芯鞘構造の短繊維からなる不織布である。この試験材18の引張試験におけるMD方向、TD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力がそれぞれ16.6、12.9MPaであり、繊維径が20μm、繊維の空隙率が97.2%であることから、繊維径、空隙率、実効引張応力ともに、本発明の範囲である平均繊維径が10~30μm、繊維の空隙率が85~98%,引張伸び値5%における同方向の実効引張応力がMD方向、TD方向ともに25MPa以下1MPa以上を満足する。この場合の不織布1m当たりの保水量は、937g/m2で、エンボス加工前後の結露水の滴下もなく、エンボス加工性も良好であった。
【0155】
試験材19は、PET/PE繊維とパルプの複合繊維の短繊維からなる不織布である。この試験材19の引張試験におけるMD方向、TD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力がそれぞれ3.50、3.30MPaであり、繊維径が18.3μm、繊維の空隙率が91.1%であることから、繊維径、空隙率、実効引張応力ともに、本発明の範囲である平均繊維径が10~30μm、繊維の空隙率が85~98%,引張伸び値5%における同方向の実効引張応力がMD方向、TD方向ともに25MPa以下1MPa以上を満足する。この場合の不織布1m当たりの保水量は、1247g/m2で、エンボス加工前後の結露水の滴下もなく、エンボス加工性も良好であった。試験材19では、PET/PE繊維の繊維径19.8μmの繊維に、断面寸法が(幅38μm×厚さ8μm)に叩解したパルプを繊維総重量に対して、総重量の20%加えた材料であり、パルプの平均繊維径は叩解したパルプの全外周長を4で割った23.0μmをパルプの直径として、PET/PE繊維径とパルプの繊維径をそれぞれの混率をかけて荷重平均したものを、繊維径としたが、繊維径は20.4μmであった。
【0156】
試験材20は、PET/PE繊維の芯鞘構造の繊維とアクリル繊維の斜交構造を有する長繊維からなる不織布である。この試験材20の引張試験におけるMD方向、TD方向の引張伸びの値が5%における同方向の見かけ応力を充填率で割った値である実効引張応力がそれぞれ8.89、4.41MPaであり、繊維径が18.0μm、繊維の空隙率が94.4%であることから、繊維径、空隙率、実効引張応力ともに、本発明の範囲である平均繊維径が10~30μm、繊維の空隙率が85~98%,引張伸び値5%における同方向の実効引張応力がMD方向、TD方向ともに25MPa以下1MPa以上を満足する。この場合の不織布1m当たりの保水量は、925g/m2で、エンボス加工前後の結露水の滴下もなく、エンボス加工性も良好であった。
【0157】
ここで、試験材15,試験材16の5%引張伸びの値における見かけ応力を充填率で割った値であるTD方向の実効引張応力のMD方向の実効引張応力に対する比率が0.08、0.06で異方性が大きく、これらの材料のTD方向の実効引張応力が1MPa未満であるのに対して、試験材17~試験材20のTD方向の実効引張応力のMD方向の実効引張応力に対する比率が0.14~0.94であり、TD方向、MD方向の実効引張応力の差が少なく、いずれのTD方向の実効引張応力が2MPaを超えている。
【0158】
表3の垂直構造・斜め構造とは、垂直構造・斜め構造の配管や構造体に本発明の保温材を適用した場合に結露水の滴下が起こるかどうかの結果を示すが、試験材15および試験材16を使用した場合には、TD方向の実効引張応力が1MPaに満たず、通常のMD方向を上下方向と一致させた施工方法の場合には、結露水の滴下が起こり、そのため垂直構造・斜め構造の結露水の評価結果が「×」となる。一方、試験材17~試験材20を使用した場合には、MD方向とTD方向の実効引張応力がともに1MPaを超えるため、垂直構造や斜め構造の配管や構造体に本発明の保温材を使用しても、結露水の滴下が起こらず、垂直構造・斜め構造の結露防止性の評価結果が「〇」となる。また、試験材15,16の保温材であっても、MD方向を垂直方向でなく、水平方向と一致させて施工した場合には、MD方向とTD方向の実効引張応力が1MPaを超える材料と同様の効果が得られるため、結露水の滴下が起こらない。
【0159】
以上のように、平均繊維径が10~30μmで、空隙率が85~98%と高い不織布構造として、不織布厚さ1.0mm以下で、引張試験におけるMD方向の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足すると同時にTD方向においても同様の引張特性を満足する不織布が、短繊維を不織布に用いる場合だけでなく、長繊維を不織布に用いても斜交構造を有する長繊維を用いれば得られることができ、このような不織布を使用した結露水の滴下防止用保温材が得られることが確認された。
【0160】
【0161】
(第2の実施形態:本発明の保温材の冷媒配管及び給水給湯用配管構造への適用)
次に、第2の実施形態として、本発明の保温材を適用した各種配管構造について説明する。配管構造としては、以下の5種類の配管構造について記載する。配管の外周部に本発明の保温材を巻き付けた配管構造、配管の外周部に保温材を巻き付けた2本の配管を対向させ対向部を熱融着させた眼鏡型配管構造、既設冷媒配管を本発明の保温材で囲んだ筒状配管構造、既設給水給湯用配管とその保護管を本発明の保温材で囲んだ筒状配管構造、本発明の保護部材を縦配管に適用した配管構造である。
【0162】
(第2の実施形態:実施例1)
(冷媒配管の外周部に本発明の保温材を巻き付けた配管構造)
図2(a)には、冷媒用配管2の外周に結露水の滴下防止用保温材3が巻き付けられて被覆された配管構造の斜視図を示し、ここで、
図2(a)の配管は、エンボス加工後の不織布8とポリエチレン系樹脂発泡体7を融着した保温材3を、不織布のエンボス加工部9を外周側に向け、樹脂発泡体面を配管に接するように、熱交換器の冷媒配管の外周に巻き付けた配管である。冷媒管2の外周に巻き付けた保温材3は、熱融着部11で相互に対向し、その対向面を熱融着または接着により固定される。
図2(b)は、
図2(a)に示す配管を直角に横切る直線X-Xを含む所定位置で切断した断面図を示すが、冷媒管2の内部は、所定温度の冷媒が流れる。保温材3の外周にエンボス加工部9が向くようにエンボス加工部9を配置するのは、冷媒管2に被覆した不織布の内周と外周の周長差に対応して外周部の変形をしやすくするためである。
【0163】
(第2の実施形態:実施例2)
(本発明の保温材を被覆した冷媒用配管を相互に対向一体化させた眼鏡型配管構造)
図3(a)には、結露水の滴下防止用保温材3が冷媒用配管2の外周に被覆された配管を相互に対向させて一体化させた眼鏡型配管構造10を示す。配管構造10a、10bにおいて冷媒用配管2の外周に巻き付けた保温材3は、熱融着部11で相互に対向し、その対向面を熱融着または接着により固定される。
図3(b)は、
図3(a)に示す2本の配管を直角に横切る直線A-Aを含む所定位置で切断した配管構造の断面図を示すが、冷媒管2の内部は、所定温度の冷媒が流れる。保温材3の外周にエンボス加工部9が向くようにエンボス加工部9を配置するのは冷媒管2に被覆した不織布の外周部の変形をしやすくするためである。
【0164】
本発明の保温材が熱交換器の冷媒用配管の外周に巻き付け筒状に成形された2本の配管の少なくとも一方の、保温材の表皮部分である不織布の表面近傍を、熱風、加熱板、超音波、レーザー等によって、部分的に不織布の融点以上の所定温度に加熱溶融し、直後に当該部分を熱融着または熱圧着することにより1組の眼鏡型断面を有する筒状の配管構造を得ることができる。
【0165】
また、
図3(a)の配管は、
図2(a)に示す保温材を巻き付けた配管の保温材の両端部を相互に対向させ、対向面を押圧して所定温度で熱融着することで、不織布を樹脂発泡体の表面に熱融着により貼り付けた保温材を配管の外周部に巻き付けた眼鏡型の配管構造を得ることができる。この際、配管に巻き付けた保温材の両端部は、前記のように熱融着の他、両面テープなどで接着する等して固定することができる。
【0166】
ここで、眼鏡型配管の管径の小さい配管が液体用冷媒配管であり、管径の大きい冷媒配管が気体用配管である。このようにして、本発明の保温材を、不織布のエンボス加工面を外表面に配置するように熱交換器の冷媒配管の外周に巻き付ける配管構造を得ることができる。このような配管構造を得ることで、ポリエチレン系樹脂発泡体の表面にポリエチレン等の樹脂フィルムを貼り付けた保温材を配管に巻き付けた従来の眼鏡型の配管構造では発生する結露を、本発明の眼鏡型の配管構造を使用することで結露水の滴下防止を行うことができる。
【0167】
(第2の実施形態:実施例3)
(既設冷媒配管を本発明の保温材で囲んだ筒状配管構造)
図4には、複数の冷媒配管、ドレン管と配線を、本発明の保温材で囲んだ冷媒用筒状配管構造16を示すが、この配管構造について説明する。この配管の典型例としては、一般的な熱交換器の配管としては、エアコンの冷媒配管2(2本)、ドレン管12、配線13などがセットになって、熱交換器の冷媒配管2、ドレン管12と配線13が組み合わせて、不織布25形成面を外周面に向けた筒状保温材14でこれらの配管や配線全体を囲んで、熱交換器の室内器と室外器を結ぶように使用することができる。この際、組み合わされた配管と配線を囲う保温材3の両端部は、熱融着の他、両面テープなどで接着する等して固定することができる。
【0168】
ここで、従来の配管の場合には、個々の配管に保温材として樹脂フィルムを表面に貼合した樹脂発泡体シートが配管の外周部を覆う配管構造となっているが、本発明のように、所定の繊維径、充填率や力学特性としての引張モジュラスを満足する不織布を樹脂発泡体の表面に融着させることで結露水の滴下防止効果を有する保温材でないため、発泡体による保温効果は存在するものの、既設複数の熱交換器の配管、ドレン管と配線の1組の配管の外周部に被覆したとしても保温材からの結露水が滴下することを防止できなかった。
【0169】
これらの1組の配管、配線の断面全体を本発明のシート状の保温材の不織布表面を外側に向けて囲んだ筒状配管構造とすることができる。この際、これらの一組のドレン管を含む配管と配線の外周部に不織布を外側に向けて本発明の保温材で筒状に囲むことで、配管の外周部に発生する結露の発生を防止することができる。
【0170】
(第2の実施形態:実施例4)
(既設給水給湯用配管とその保護管を本発明の保温材で囲んだ筒状配管構造)
また、本発明の保温材で筒状に囲んだ配管構造としては、上記のような熱交換器用冷媒配管に限らない。
図5(a)に示すように、給水給湯用配管としての架橋ポリエチレン管15の外周部の保護管である樹脂製鞘管17の外周部に、本発明の保護部材を配置した給水給湯用筒状配管構造19aとすることができる。前記の熱交換機の冷媒用の筒状の配管構造と同様に、配管に巻き付けた筒状保温材14の両端部は、熱融着の他、両面テープなどで接着する等して固定する。
【0171】
ここで、従来の既設給水給湯用配管の場合には、給水給湯用配管である架橋ポリエチレン管15の外周に保護管である波形形状を有する樹脂製鞘管17を被覆する配管構造にはなっているが、給水給湯用配管の外周部は、発泡体シート18が外周部を覆う配管構造にはなっていない。また、そのため、保護管として樹脂製鞘管17のみが被覆される場合には、使用環境により最外層に露出した鞘管17の外表面に結露が発生する場合がある。本発明の保温材で樹脂製鞘管の外周部を筒状に囲うことで、各配管の外周部や配線の外周における結露の発生を防止する効果を得ることができ、筒状配管構造の外周部からの結露水の滴下を防止することができる。
【0172】
本発明の保温材で給水給湯用配管の保護管としての樹脂製鞘管の外周部を本発明の保護部材で筒状に取り囲んだ筒状配管構造とすることで、給水給湯用配管を鞘管のみを被覆した状態で過酷な環境で使用した場合に想定される結露水の滴下を防止することができる。
【0173】
さらに、
図5(b)に、
図5(a)の架橋ポリエチレン管を保護する樹脂製鞘管の外周部が樹脂発泡体で被覆された筒状保温材14で覆った筒状配管構造19bとしてもよい。
図5(b)が示す、給水給湯用配管としての架橋ポリエチレン管を保護する樹脂製鞘管の外周部が樹脂発泡体7で被覆されていてもよく、この樹脂発泡体7の外周部をさらに本発明の筒状の保護部材14で覆う筒状配管構造としてもよい。このような構造とすることで、給水給湯用配管の外周部に発生する結露をより確実に防止することができる。
【0174】
(第2の実施形態:実施例5)
(本発明の保護部材を縦配管に適用した配管構造及びその形成方法)
本発明の保温材のMD方向が水平方向と一致するように被覆した配管の場合には、結露水の滴下は認められないが、MD方向を垂直方向と一致するように保温材を被覆する縦配管の場合には、表面張力による吸い上げ効果と重力による結露水の沈降滴下の両者が競合する状況が考えられる。本発明の配管を縦配管とした場合の結露の有無などの問題点を確認する実験を行った。
【0175】
図6は、本発明の保護部材を縦配管に適用した配管構造を示す。
図6は、恒温恒湿槽内に水平配管の両側に略対称に垂直配管を設けた略コの字型の形状の配管である。この配管は、水平配管の中央部の左側に垂直に降下する25cmの左側縦配管20を設けて、約30cmの水平配管22を経由し、前記、水平配管の右側に垂直に上昇する25cmの右側縦配管21を設けたものである。
【0176】
図6は、左側右側の縦配管20,21に保温材を巻き付けた配管を使用し、この配管全体を温度35℃×湿度90%の恒温槽内に配置し、配管内に冷媒温度5℃の冷媒を循環させて、結露水の発生の有無を確認する確認実験を行なったが、この場合の縦配管を含む配管構造を示す。ここで、それぞれの配管の結露水は、垂直配管の底部に、トレイ23を配置して、トレイ23に結露水24を収集する試験前後のトレイの重量変化により、結露水の重量を測定した。
【0177】
保温材Xは、引張試験におけるMD方向の実効引張応力のみが25MPa以下1MPa以上を満足する不織布を使用した保温材である。また、保温材Yは、MD方向、TD方向の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上をともに満足する結露水の滴下防止用保温材である。
【0178】
この結果、保温材XのMD方向を垂直方向と一致するように巻き付けた垂直配管は、恒温槽内に配置後、1時間で滴下開始し、15時間で40.9gの滴下水が滴下したのに対して、保温材YのMD方向を垂直方向と一致するように巻き付けた垂直配管は、保温材を恒温槽内に配置後、15時間後にも結露水の滴下がなかった。ここで、保温材Xは、表3の試験材15に相当する保温材であり、保温材Yは、表3の試験材18を満足する保温材である。
【0179】
また、表3の試験材18,19,20の保温材を同様に垂直配管に巻き付けた場合にも、結露水の滴下がなかった。この理由は、試験材17~20の保温材の場合には、MD方向、TD方向の両方向の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足するため、不織布が保水した水分をTD方向である水平方向に移動して蒸散することで結露水が発生しなかったものと考えられた。このため、垂直配管に被覆する保温材としては、MD方向、TD方向の両方向の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する保温材を被覆した結露水の滴下を防止する垂直配管構造が得られる。
【0180】
また、結露水の滴下防止保温材が冷媒用配管の外周に巻き付けられる配管であって、前記配管が垂直配管である場合には、前記結露水の滴下防止保温材の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する少なくともいずれかの方向を前記垂直配管の方向と直交する水平方向に向けて配置することを特徴とする垂直配管の形成方法を得ることができる。このように、実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する保温材を水平方向に向けて配管に被覆することで、TD方向の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する保温材を使用しなくとも、実質的にTD方向の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する保温材を使用した場合と同様の効果が得られ、結露水の滴下を防止することが可能となる。これは、不織布に吸着あるいは保水された結露水を不織布表面から蒸散しやすくする効果によるものと考えられる。
【0181】
(第3の実施形態:本発明の保温材の建築部材の結露水の滴下防止構造への適用)
第3の実施形態の本発明の保温材の建築部材への適用事例として、実施例1から実施例3として、ダクトの結露水の滴下防止構造、無機系建材の結露水の滴下防止構造、折板屋根の結露水の滴下防止構造を示す。
【0182】
(第3の実施形態:実施例1)
(ダクトの結露水の滴下防止構造及びその形成方法)
図7には、本発明の保温材3を使用したダクト本体29の結露水の滴下防止構造30を示す。厚さ25cm×長さ30cm×高さ30cmの直方体形状のダクトを作成して、保温材の不織布形成面がダクト本体29の表面に配置されるように保温材の裏面の発泡体7の表面を接着剤でダクト本体29に接着することで、保温材3の外表面の不織布形成面8がダクト本体29の全表面が保温材の不織布8で被覆された構造体を作製した。この構造体を恒温恒湿槽1内に配置して、第2の実施形態の実施例5の縦配管の結露水の滴下防止配管構造の場合と同様の条件の冷媒ガスをダクト内に流して、結露水の滴下防止性確認試験を行った。その結果、冷媒用縦配管の場合と同様の結果が得られた。
【0183】
この試験の結果、ダクト表面における結露水の滴下挙動は、ダクト外表面を覆う保温材の種類によりことなる挙動を示した。例えば、試験材17~20のMD方向、TD方向の両方向の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する保温材を用いた場合には、ダクト外周部からの結露水の滴下がないことが確認された。また、試験材15,16のようにMD方向のみの実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足し、TD方向のみの実効引張応力が1MPa以下である保温材を、ダクト側面にMD方向を上方に向けて配置した場合には、結露水の滴下が認められた。試験材15,16の保温材をダクト側面にTD方向を水平方向に向けて形成した場合には、結露水の滴下が認めらない。このようなダクトからの結露水の滴下を防止するためには、前記結露水の滴下防止保温材の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する少なくともいずれかの方向を前記ダクト側壁の垂直方向に平行な方向と直交する水平方向に向けて配置するダクトの構造の形成方法とすることもできる。
【0184】
(第3の実施形態:実施例2)
(無機系建築用板材の結露水の滴下防止構造及びその形成方法)
図8(a)は、結露水の滴下防止用保温材が無機系建築用板材26の表面に配置される無機系建築用板材の水平方向の結露水の滴下防止構造27を示す。このとき、さらに結露水の滴下防止用保温材3と無機系建築用板材26の対向面同士が相互に接着された無機系建築用板材の結露水の滴下防止構造であってもよい。本発明においては、無機系建築用板材26としては、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板の少なくともいずれかを使用することができる。この場合の使用状態は、第3の実施形態の実施例1のダクト上面の保温材部に対応する。このため、無機系建築用板材26の表面に配置される無機系建築用板材の水平方向の結露水の滴下防止構造27に使用する不織布は重力による結露水の下方への移動を考慮する必要がないため、引張試験における5%の伸びにおけるMD方向の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する不織布であればよい。このような構造とすることで、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板の水平方向配置の場合の表面における結露を防止することが可能になる。
【0185】
図8(b)は、結露水の滴下防止用保温材3が表面に接着されている無機系建築用板材26が縦壁として垂直方向に配置された無機系建築用板材の垂直方向の結露水の滴下防止構造28を示す。この場合には、
図7のダクトの場合の実験結果から判るように、垂直な壁構造に使用できる保温材の不織布は、水平方向の壁構造におけるMD方向の5%の伸びにおける実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足するものではなく、保温材に使用する不織布のMD方向、TD方向の5%の伸びにおける実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する保温材が表面に配置された縦壁構造にする必要がある。
【0186】
この場合には、縦壁用建材として使用する保温材の不織布の両方向の力学特性としての引張実効応力値は上記の制約を満たす必要がある。この理由は、無機系建築用板材の表面に垂直方向に配置された保温材の下部から結露水が滴下するため、不織布の側面への移動を促進することで不織布表面からの蒸散を加速するように、TD方向の実効引張応力を所定範囲として、結露水の滴下を防止する不織布構造とする必要があるからである。以上の他、このような無機系建築用板材26が縦壁として垂直方向に配置される無機系建築用板材の垂直方向の結露水の滴下防止構造28を形成するには、ダクトの場合と同様に、前記結露水の滴下防止保温材の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する少なくともいずれかの方向を前記無機系建築用板材の垂直方向に平行な方向と直交する水平方向に向けて配置する形成方法とすることも可能である。
【0187】
(第3の実施形態:実施例3―折板屋根の結露水の滴下防止構造及びその形成方法)
図9には、折板屋根31の鋼板の下面に本発明の保温材3の不織布8を下面にして積層した鋼板を折り曲げ加工した折板屋根の結露水の滴下防止構造32を示す。折板屋根31は、通常上辺と下辺は所定幅で、上辺と下辺を挟み込むような斜辺とによって略V字の繰り返し形状に成形される。例えば、1周期で屋根高さ160~180mm×幅500mm前後に成形される。
【0188】
例えば、折板屋根での使用を模擬した結露試験として、厚さ0.8mmのガルバリウム鋼板(登録商標)を用い、それにポリエチレン樹脂発泡体の表面に所定の力学特性を満足する不織布を貼合した保温材を接着した構造体を用いることで、折板屋根の結露水の滴下防止構造を実現できる。
【0189】
図9の折板屋根の結露水の滴下防止構造を用いた場合にも、同様に、折板屋根の折り曲げ構造の垂直方向の高さの差異を考慮した場合には、MD方向、TD方向の両方向の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する保温材を用いる必要がある。実際の屋根材に表3の試験材17~20の試験材を使用した場合には、折板屋根の下部の保温材表面の不織布からの結露水の滴下がないことが確認された。
【0190】
また、試験材15,16のようにMD方向のみの実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足するが、TD方向の実効引張応力が1MPa未満である保温材を適用した場合には、折板屋根の下部の斜面部の保温材表面から、結露水の滴下が認められた。これらの保温材であっても、折板屋根の裏面にMD方向を折板屋根の折板の折り曲げ方向と直交する方向に貼り付けた構造とすることで、保温材表面の不織布からの結露水の滴下を防止することができる。従って、折板屋根の結露水の滴下防止構造を得るには、前記結露水の滴下防止保温材の実効引張応力が25MPa以下1MPa以上を満足する少なくともいずれかの方向を前記折板屋根の折り曲げ方向と直交する方向に向けて配置する必要があり、これを満足する形成方法とする必要がある。
【0191】
ここで、
図10(a)には結露性確認試験で結露水の滴下が発生しなかった材料の代表例として、結露水の滴下防止性に優れる不織布の代表例として試験材4の不織布4を100倍でSEM観察を行った結果を示す。不織布4は、屈曲部が多く、捲縮性が高い構造を有していることが分る。特に写真を示さないが、これに対して、結露水の滴下が生じた試験材1に使用した不織布1は、比較的屈曲部が少なく捲縮性が低いことが分った。また、
図10(b)には、結露水の滴下防止性に優れる不織布4の吸水させた吸水後の100倍での不織布の状況を観察光学顕微鏡観察した結果を示すが、この写真によると、不織布の繊維の屈曲部の3次元構造を繋ぐように水膜が形成され、結果として不織布が結露水を保持していることが分る。
図10(c)には、試験材19に相当する短繊維であるパルプを使用した不織布の場合を示すが、この場合にも同様に視野中の写真の水平方向の繊維流れが
図10(a)に比べて改善されていることが分る。
図10(d)には、試験材20の斜交繊維からなる不織布の100倍でのSEM写真を示すが、この写真からは、
図10(a)と比べると視野中の写真の水平方向(TD方向に相当する)繊維の流れが強くなっているように見える。これにより、保温材のMD方向を垂直方向と一致させて通常の使用方法で垂直成分が多い構造体に使用しても、繊維表面や繊維の交絡部に保水された水分のTD方向への移動が促進させることで、不織布内の均一化が図られることで、保水された水分の蒸散が促進され、下部の繊維への結露水の凝集が抑制される結果、結露水の滴下が防止されるものと考えられる。ここで、視野中のパルプ繊維は繊維幅が40μm程度に見えるが、パルプ繊維は、パルプをたたき潰して叩解されているため、繊維厚さは10μm以下であり、その測定値は断面寸法が(幅38μm×厚さ8μm)であり、縦横比を考慮したパルプの平均繊維径(パルプの幅方向と厚さ方向の寸法の形状取り扱いを同等として4で割った平均)は23μmであり、本願における繊維径の範囲を概ね満足した。
【0192】
以上のように、本発明により、不織布の材質に関係なく、結露水の滴下防止用保温材とこれを用いた結露水の滴下防止冷媒配管及びその配管構造と給水給湯用配管構造及び結露水の滴下防止建築用構造、結露水の滴下防止用不織布、並びにこの保温材を用いた冷媒配管の結露水滴下防止構造の形成方法、建築用部材の結露水の滴下防止構造の形成方法を得ることができることが確認された。また、本発明によれば、MD方向の不織布の空隙率や実効引張応力に加えて、TD方向の不織布の空隙率や実効引張応力を所定範囲に制御することで、熱交換器や給水給湯用配管における縦配管や建築用構造の縦壁などに適用可能な結露水の滴下防止構造を得ることができる。また、不織布に所定量の吸水性樹脂繊維を加えるとことで、同様に安定した結露防止効果を有する保温材、これに用いる不織布や熱交換配管構造、給水給湯配管構造及び建築用部材の構造、及び種々の結露水の滴下防止構造の形成方法を得ることができる。
【0193】
さらに、本発明では保温材の縦配管や建築部材の結露水の滴下防止構造への適用として、これらの構造が垂直方向に形成されている場合のこれらの構造の形成方法の発明について記載したが、これらの縦配管や建築部材の結露水の滴下防止構造への保温材の使用方法の発明とすることも可能である。
【0194】
ここで、結露水の滴下防止性に優れる実施例4のSEM写真観察の結果をみると、不織布の繊維の3次元構造を繋ぐように水膜が形成され、結果として不織布が結露水を保持していることが分る。以上の他、2.5μml(1滴分)の水道水を不織布上に滴下し、水が染み込むまでの時間を測定する吸水速度の測定試験、所定サイズの不織布を切り出し、先端の2mmを水に30秒間浸漬し不織布を駆け上がってきた長さを測定して、吸い上げ長さを測定する水吸い上げ長の測定試験、所定サイズの短冊状に不織布を用いた、23.5°の傾斜プラスチック(アクリル板)面上における、60秒の間の水伝搬速度(cm/min/0.3mL)を求める試験などを行ったが、いずれの試験においても結露性との相関はなかった。
【0195】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。