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  • 特開-金属樹脂複合体および成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078326
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】金属樹脂複合体および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20240603BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K3/08 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190808
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆行
(72)【発明者】
【氏名】小林 莉奈
(72)【発明者】
【氏名】黒田 達也
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 有希
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CF06W
4J002CF07Y
4J002DA086
4J002FD097
4J002FD166
4J002GG01
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 金属部材と熱可塑性樹脂部材の接合強度(金属接合強度)が高く、かつ、離型性に優れた金属樹脂複合体および成形品の提供。
【解決手段】 表面に凹凸を有する金属部材と、金属部材と前記凹凸を有する面側で接している熱可塑性樹脂部材とを含み、熱可塑性樹脂部材が樹脂組成物から形成され、樹脂組成物において、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部における、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の質量比が、0/100~99/1であり、ポリエチレンテレフタレート樹脂が鉄元素を1.0~100μg/gの割合で含む、樹脂組成物から形成される、金属樹脂複合体。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を有する金属部材と、前記金属部材と前記凹凸を有する面側で接している熱可塑性樹脂部材とを含み、
前記熱可塑性樹脂部材が樹脂組成物から形成され、
前記樹脂組成物において、
ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部における、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の質量比が、0/100~99/1であり、ポリエチレンテレフタレート樹脂が鉄元素を1.0~100μg/gの割合で含む、樹脂組成物から形成される、
金属樹脂複合体。
【請求項2】
前記樹脂組成物中のポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部における、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の質量比が、10/90~90/10である、請求項1に記載の金属樹脂複合体。
【請求項3】
前記樹脂組成物中のポリエチレンテレフタレート樹脂が、イソフタル酸に由来する単位を含み、かつ、ポリエチレンテレフタレート樹脂のジカルボン酸成分に由来する全単位中、イソフタル酸に由来する単位が0.5モル%以上15モル%以下である、請求項1または2に記載の金属樹脂複合体。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、さらに、繊維状無機充填剤を、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、1~150質量部含む、請求項1または2に記載の金属樹脂複合体。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、さらに、着色剤を含む、請求項1または2に記載の金属樹脂複合体。
【請求項6】
着色剤が、染料である、請求項5に記載の金属樹脂複合体。
【請求項7】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂が、リサイクル品を含む、請求項1または2に記載の金属樹脂複合体。
【請求項8】
ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部における、ポリエチレンテレフタレート樹脂の割合が、50質量部超である、請求項1または2に記載の金属樹脂複合体。
【請求項9】
前記樹脂組成物中のポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部における、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の質量比が、10/90~90/10であり、
前記樹脂組成物中のポリエチレンテレフタレート樹脂が、イソフタル酸に由来する単位を含み、かつ、ポリエチレンテレフタレート樹脂のジカルボン酸成分に由来する全単位中、イソフタル酸に由来する単位が0.5モル%以上15モル%以下であり、
前記樹脂組成物が、さらに、繊維状無機充填剤を、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、1~150質量部含み、
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂が、リサイクル品を含み、
ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部における、ポリエチレンテレフタレート樹脂の割合が、50質量部超である、請求項1に記載の金属樹脂複合体。
【請求項10】
請求項1、2または9に記載の金属樹脂複合体から形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属樹脂複合体および成形品の製造方法に関する。特に、金属部材と熱可塑性樹脂部材を含む金属樹脂複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系樹脂に代表される熱可塑性樹脂は、優れた機械的強度や成形性を有していることから、電気電子機器部品、自動車部品その他の電装部品、機械部品等に広く用いられている。特に、近年、熱可塑性樹脂から形成される熱可塑性樹脂部材と、アルミニウムや鉄などから形成される金属部材とが複合化された金属樹脂複合体を用いられることも多くなっている。
このような金属樹脂複合体の例として、特許文献1には、繊維状強化剤と熱可塑性エラストマーを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、あるいは全ジカルボン酸成分に対してイソフタル酸成分の含有率が3~50モル%であるポリブチレンテレフタレート/イソフタル酸共重合体からなる変性ポリブチレンテレフタレート樹脂と繊維状強化剤を含む変性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物と、表面が微細凹凸処理された金属(層)とが一体に付着していることを特徴とする複合成形体が開示されている。しかしながら、このような金属樹脂複合体においては、異種部材である熱可塑性樹脂部材と金属部材の接合性が問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-149018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、金属部材と熱可塑性樹脂部材を含む金属樹脂複合体においては、金属部材と熱可塑性樹脂部材の接合性が求められる。さらに、近年、かかる金属樹脂複合体をインサート成形等するに際し、熱可塑性樹脂部材の離型性が求められる傾向が高くなっている。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、金属部材と熱可塑性樹脂部材の接合強度(金属接合強度)が高く、かつ、離型性に優れた金属樹脂複合体および成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、熱可塑性樹脂部材として、鉄元素を含むポリエチレンテレフタレート樹脂を用いることにより上記課題は解決されることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>表面に凹凸を有する金属部材と、前記金属部材と前記凹凸を有する面側で接している熱可塑性樹脂部材とを含み、前記熱可塑性樹脂部材が樹脂組成物から形成され、前記樹脂組成物において、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部における、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の質量比が、0/100~99/1であり、ポリエチレンテレフタレート樹脂が鉄元素を1.0~100μg/gの割合で含む、樹脂組成物から形成される、金属樹脂複合体。
<2>前記樹脂組成物中のポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部における、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の質量比が、10/90~90/10である、<1>に記載の金属樹脂複合体。
<3>前記樹脂組成物中のポリエチレンテレフタレート樹脂が、イソフタル酸に由来する単位を含み、かつ、ポリエチレンテレフタレート樹脂のジカルボン酸成分に由来する全単位中、イソフタル酸に由来する単位が0.5モル%以上15モル%以下である、<1>または<2>に記載の金属樹脂複合体。
<4>前記樹脂組成物が、さらに、繊維状無機充填剤を、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、1~150質量部含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の金属樹脂複合体。
<5>前記樹脂組成物が、さらに、着色剤を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の金属樹脂複合体。
<6>着色剤が、染料である、<5>に記載の金属樹脂複合体。
<7>前記ポリエチレンテレフタレート樹脂が、リサイクル品を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の金属樹脂複合体。
<8>ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部における、ポリエチレンテレフタレート樹脂の割合が、50質量部超である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の金属樹脂複合体。
<9>前記樹脂組成物中のポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部における、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の質量比が、10/90~90/10であり、前記樹脂組成物中のポリエチレンテレフタレート樹脂が、イソフタル酸に由来する単位を含み、かつ、ポリエチレンテレフタレート樹脂のジカルボン酸成分に由来する全単位中、イソフタル酸に由来する単位が0.5モル%以上15モル%以下であり、前記樹脂組成物が、さらに、繊維状無機充填剤を、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、1~150質量部含み、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂が、リサイクル品を含み、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部における、ポリエチレンテレフタレート樹脂の割合が、50質量部超である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の金属樹脂複合体。
<10><1>~<9>のいずれか1つに記載の金属樹脂複合体から形成された成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、金属部材と熱可塑性樹脂部材の接合強度(金属接合強度)が高く、かつ、離型性に優れた金属樹脂複合体および成形品を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例における接合強度の測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
図1は模式図であり、縮尺度などは実際と整合していないこともある。
【0009】
本実施形態の金属樹脂複合体は、表面に凹凸を有する金属部材と、前記金属部材と前記凹凸を有する面側で接している熱可塑性樹脂部材とを含み、前記熱可塑性樹脂部材が樹脂組成物から形成され、前記樹脂組成物において、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部における、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の質量比が、0/100~99/1であり、ポリエチレンテレフタレート樹脂が鉄元素を1.0~100μg/gの割合で含む、樹脂組成物から形成される、ことを特徴とする。すなわち、本実施形態の樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含まないか、または、含み、かつ、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む。
このような構成とすることにより、金属部材と熱可塑性樹脂部材との接合強度に優れ、かつ、金属樹脂複合体、特に、熱可塑性樹脂部材部分が、離型性に優れたものとすることができる。本実施形態においては、鉄元素を微量に含むポリエチレンテレフタレート樹脂を用いることにより、鉄元素が核剤のような効果を果たし、樹脂組成物の示差走査熱量測定(DSC測定)における結晶化速度が速くなり、離型性が向上すると推測される。また、結晶化速度が向上することで、金属部材と熱可塑性樹脂部材の接合強度が向上すると推測される。すなわち、熱可塑性樹脂部材をインサート成形等で成形する場合、熱可塑性樹脂部材が金型から容易に離型していないと、金属部材と熱可塑性樹脂部材との接合強度が低下してしまう。本実施形態においては、熱可塑性樹脂部材の金型からの離型性がよいので、金属部材との接合強度を高くすることができると推測される。
【0010】
<金属部材>
本実施形態の金属樹脂複合体は、表面に凹凸を有する金属部材を有する。金属部材が表面に凹凸を有することにより、凹凸構造の凹部壁の奥まで熱可塑性樹脂が侵入して、そのまま固化し凹部から抜けなくなって固定されることにより、強固な接合強度を発現させることができると推測される。
なお、熱可塑性樹脂部材が金属部材の凹凸を有する面側すべてで接している必要はなく、凹凸を有する面側の一部で接していてもよいことは言うまでもない。また、熱可塑性樹脂部材が金属部材と接している箇所のすべての箇所について、金属部材が凹凸を有している必要はない。すなわち、熱可塑性樹脂部材と金属部材と接している箇所の一部において、金属部材が凹凸を有していればよい。
本実施形態においては、熱可塑性樹脂部材が、金属部材と前記凹凸を有する面側で接しているが、熱可塑性樹脂部材が、金属部材と前記凹凸を有する面側の表面とが接していることが好ましい。また、詳細を後述するとおり、金属部材の表面の凹凸化処理によって、微粒子等が固定化される場合や、金属部材の表面にプライマー層を設ける場合、かかる処理等の後の表面に熱可塑性樹脂部材を設ける態様も、金属部材と前記凹凸を有する面側で接している態様に含まれる。
【0011】
金属部材を構成する金属としては、アルミニウム、鉄、銅、マグネシウム、錫、ニッケル、亜鉛等の各種金属、およびこれらの金属を含む合金が挙げられる。この中でも、金属部材が、アルミニウム、鉄、銅およびマグネシウム、ならびにこれらの金属を含む合金の少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウムおよびアルミニウムを含む合金を含むことがより好ましい。
また、金属部材は、そのすべてが金属で構成されているものの他、金属以外の部位で構成された部材の凹凸側の表面を金属、例えばニッケル、クロム、亜鉛、金等によりメッキされた部材であってもよい。
金属部材の形状としては、特に制限はないが、平板、曲板、板状、棒状、筒状、塊状、シート状、フィルム状等、あるいは所望する特定の形状に製作されたものが好ましく挙げられる。凹凸化処理前の原料金属部材の表面の形状は特に制限はなく、単一の平面や曲面に限定されず、段状部や凹部、凸部等、各種の形状を有していてもよい。
金属部材の厚さとしては、特に制限はないが、0.05~100mmの範囲であることが好ましく、0.1~50mmであることがより好ましく、0.12~10mmであることがさらに好ましい。特に、アルミニウム板および鉄板の場合の厚みは、それぞれ、0.1~20mmであることが好ましく、0.2~10mmであることがより好ましい。上記厚さは、金属部材が平板状の場合は、その厚さをいい、また、平板状以外の場合は、金属部材のうち、熱可塑性樹脂部材と凹凸を有する面側で接している金属部位のうち、最も薄い厚さが上記範囲であることが好ましい。
金属部材は、少なくとも熱可塑性樹脂部材と接する箇所の一部は、凹凸を有する。前記凹凸は、金属部材の凹凸化処理(粗面化処理ともいう)を施すことによって形成することができる。このような凹凸化処理により、金属部材が微細な凹凸形状の表面を有するものとすることができる。
【0012】
金属部材の表面に微細な凹凸を形成する凹凸化処理としては、特に限定されず、各種の公知の方法が採用可能であるが、例えば、化学処理、レーザー処理、ブラスト処理等が例示され、化学処理が好ましい。
また、凹凸化処理は、また、金属部材の表面に、金属酸化物やセラミックス等の微粒子、例えば、酸化チタン、酸化シリコン微粒子を粉体または、各種溶媒に粉体を分散したものを固定化し、物理的に凸部を形成することにより凹凸化してもよい。微粒子の数平均粒径は10nm~1mmが好ましく、20nm~500μmがより好ましく、30nm~200μmがさらに好ましい。
【0013】
化学処理は、金属の種類に応じて種々の方法が知られており、公知の方法を用いることができる。金属部材がアルミニウムまたはアルミニウム合金である場合、酸性水溶液および/または塩基性水溶液によるエッチング、あるいは、表面に酸化皮膜を形成した後、酸化皮膜を除去し、次いでアンモニア、ヒドラジン、水溶性アミン化合物、トリアジンチオール類等により処理する方法が好ましく挙げられる。
レーザー処理は、金属部材の表面に対して、レーザー光を照射して、金属部材の表面に凹凸を形成する処理であり、例えば、金属表面を溝掘加工および溶融させ再凝固させる条件にて加工するレーザーエッチング処理により形成される。例えば、ある走査方向についてレーザースキャニング加工した後、同じ走査方向あるいはクロスする方向にレーザースキャニングすることを複数回繰り返すことにより形成される。
レーザースキャニングの条件には、出力、スキャン速度、スキャン周波数、スキャン回数、ハッチング幅(処理ピッチ)、パターニング形状等があり、これらの組み合わせで、所望する凹部と凸部から微細な凹凸表面を形成することができる。
【0014】
また加工に使用するレーザーの種類は、固体レーザー、ファイバーレーザー、半導体レーザー、気体レーザー、液体レーザーの各種波長のものを適宜選択すればよく、発振形態も連続波、パルス波を期待する金属部材の表面の凹凸形状に合わせて選択することができる。また連続波を用いた場合には、より複雑な凹凸構造とすることが可能である。
ブラスト処理としては、インペラー(羽根車)の遠心力を利用してブラスト材を投射するショットブラスト処理、エアーコンプレッサーを用いて圧縮空気によりブラスト材を投射するエアーブラスト処理があり、どちらも金属部材の表面に凹凸形状を付与することが可能である。ブラスト材として、珪砂、アルミナ、アルミカットワイヤー、スチールグリッド、スチールショットなどの材料が挙げられる。
また、樹脂粒や金属粒などの砥粒を混入した水を金属部材の表面に向けて加工エアーとともに数十m/秒~約300m/秒程度の速度で高圧噴射せしめ、エッチング処理するウェットブラスト処理も可能である。
また、他の方法として、金属メッキ(例えば、亜鉛メッキ)した上で、メッキ金属(亜鉛)の融点よりも高い温度まで加熱し、メッキ層の金属(亜鉛)の一部または殆どを蒸発させることにより、表面が粗面化された金属部材を得ることも可能である。
上記で例示した凹凸化処理(粗面化処理)は、単独または複数を組み合わせて用いる。組み合わせ方法によっては、凹凸構造の最適化やコスト低減などの効果を見出せる場合もある。
【0015】
金属部材表面の凹凸は、十点平均粗さRzとしては300μm以下であることが好ましく、より好ましくは250μm以下、さらに好ましくは150μm以下、一層好ましくは100μm以下、より一層好ましくは80μm以下であり、10μm以下、1μm以下であってもよく、さらには、500nm以下、300nm以下、200nm以下、150nm以下であってもよい。下限値に関しては、特に定めるものではないが、0.1nm以上であることが接合強度発現のために好ましい。十点平均粗さは、金属部材の凹凸表面をレーザー顕微鏡(KEYENCE VK-X100)の対物レンズ10倍で観察し、表面粗さを計測することによって測定される。
【0016】
上記した金属部材は、シランカップリング剤により表面処理することも有用である。
シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えばメトキシ基、エトキシ基、シラノール基等を有する化合物が挙げられ、シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、クロロプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-(N-スチリルメチル-2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン塩酸塩、ウレイドアミノプロピルエトキシシランなどが好ましく挙げられる。特に、アルミニウム基体、鉄基体とシランカップリング剤は、Al-O-SiやFe-O-Siの結合を形成して強固に結合し、また、樹脂組成物とシランカップリング剤の有機官能基が反応して強固に結合し、より強固な結合が達成できる。
また、トリアジンチオール誘導体を含む溶液を用いた湿式法により、凹凸化処理した金属表面にトリアジンチオール誘導体の被膜を形成しておくことで、化学結合による一層の接合強度向上を達成できる。
【0017】
金属部材と熱可塑性樹脂部材の接合において、凹凸によるアンカー効果に加え、極性基を有効に作用させて化学結合を形成することも好ましい。例えば、酸性および塩基性官能基として、COOH基、NH2基などを付与するため、凹凸化処理した金属表面に対して、オゾン処理、プラズマ処理、火炎処理、コロナ放電処理、化学薬液処理などを施すことも有用である。
【0018】
さらに、金属部材上には、プライマー層を設けることも好ましい。プライマー層に用いる材料としては、アクリル系材料、エポキシ系材料、ウレタン系材料、ポリアミド系材料等を用いることが好ましい。プライマー層に用いる材料の市販品としては、東亞合成社製、アロンメルトPPETが例示される。
【0019】
<熱可塑性樹脂部材>
本実施形態の金属樹脂複合体は、金属部材と、前記金属部材の凹凸を有する面側で接している熱可塑性樹脂部材とを含む。
前記熱可塑性樹脂部材は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含み、さらに、ポリブチレンテレフタレート樹脂も含むことが好ましい。
【0020】
本実施形態においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部における、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の質量比が、0/100~99/1であり、1/99~99/1であることが好ましく、10/90~90/10であることがより好ましい。さらには、本実施形態における樹脂組成物においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、ポリブチレンテレフタレート樹脂の割合が、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、12質量部以上であることがさらに好ましく、15質量部超であることが一層好ましく、20質量部以上であることがより一層好ましく、23質量部以上であることがさらに一層好ましく、25質量部以上であることがよりさらに一層好ましく、27質量部以上であることが特に好ましく、28質量部以上であってもよい。また、本実施形態における樹脂組成物においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、ポリブチレンテレフタレート樹脂の割合が、85質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下、35質量部以下であってもよい。
【0021】
さらには、本実施形態における樹脂組成物においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、ポリエチレンテレフタレート樹脂の割合が、15質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、50質量部超であることが一層好ましく、50質量部超であることがより一層好ましく、60質量部以上であることがさらに一層好ましく、65質量部以上であることがよりさらに一層好ましい。また、本実施形態における樹脂組成物においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、ポリエチレンテレフタレート樹脂の割合が、95質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましく、88質量部以下であることが好ましく、85質量部以下であることが一層好ましく、80質量部以下であることがさらに一層好ましく、77質量部以下であることがよりさらに一層好ましく、75質量部以下であることが特に好ましく、73質量部以下であってもよく、72質量部以下であってもよい。
【0022】
本実施形態における樹脂組成物におけるポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計量は、樹脂組成物の40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、55質量%以上であることがさらに好ましく、60質量%以上であることが一層好ましく、65質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、成形加工性(離型性)に優れ、前記樹脂組成物を成形して得られる熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の耐衝撃性と機械物性がより良好となるため好ましく、また、熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の離型性が良好になることから表面外観がさらに向上する傾向にある。また、本実施形態における樹脂組成物におけるポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計量は、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、用途等に応じて、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、耐熱性が向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂を、それぞれ、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0023】
<<ポリブチレンテレフタレート樹脂>>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含むことが好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることにより、金属部材の凹凸部により十分に樹脂組成物を充填されてから固化させることができ、金属部材と熱可塑性樹脂部材の接合強度がより向上する傾向にある。
【0024】
本実施形態における樹脂組成物に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位および1,4-ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有するポリエステル樹脂であって、ポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)の他に、テレフタル酸単位および1,4-ブタンジオール単位以外の、他の共重合成分を含むポリブチレンテレフタレート共重合体や、ホモポリマーとポリブチレンテレフタレート共重合体との混合物を含む。
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸以外のジカルボン酸単位を1種または2種以上含んでいてもよい。
他のジカルボン酸の具体例としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ビス(4,4’-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、1,4-シクロへキサンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸類、および、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類等が挙げられる。
本実施形態で用いるポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位が全ジカルボン酸単位の80モル%以上を占めることが好ましく、90モル%以上を占めることがより好ましく、95モル%以上を占めることがさらに一層好ましく、99モル%以上であってもよい。
【0025】
ジオール単位としては、1,4-ブタンジオールの外に1種または2種以上の他のジオール単位を含んでいてもよい。
他のジオール単位の具体例としては、炭素数2~20の脂肪族または脂環族ジオール類、ビスフェノール誘導体類等が挙げられる。具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシメタン、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシプロパン、ビスフェノ一ルAのエチレンオキシド付加ジオール等が挙げられる。また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
本実施形態で用いるポリブチレンテレフタレート樹脂は、1,4-ブタンジオール単位が全ジオール単位の80モル%以上を占めることが好ましく、90モル%以上を占めることがより好ましく、95モル%以上を占めることがさらに一層好ましく、99モル%以上であってもよい。
【0026】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、上記した通り、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとを重縮合させたポリブチレンテレフタレート単独重合体が好ましい。また、カルボン酸単位として、前記のテレフタル酸以外のジカルボン酸1種以上および/またはジオール単位として、前記1,4-ブタンジオール以外のジオール1種以上を含むポリブチレンテレフタレート共重合体であってもよい。ポリブチレンテレフタレート樹脂が、共重合により変性したポリブチレンテレフタレート樹脂である場合、その具体的な好ましい共重合体としては、ポリアルキレングリコール類、特にはポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂や、ダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。中でも、ポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂が共重合体である場合、共重合量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂全単位中の1モル%以上、50モル%未満のものをいう。中でも、共重合量が、好ましくは2モル%以上50モル%未満、より好ましくは3~40モル%、さらに好ましくは5~20モル%である。このような共重合割合とすることにより、成形収縮率が小さくおよび耐衝撃性が高い熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体が得られるため好ましい。
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、末端カルボキシル基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることがさらに好ましい。上記上限値以下とすることにより、耐アルカリ性および耐加水分解性が向上する傾向にある。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造の生産性を考慮し、5eq/ton以上が好ましい。
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLにポリブチレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lのベンジルアルコール溶液を用いて滴定により測定する値である。末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0028】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、0.5dL/g以上であることが好ましく、0.6dL/g以上であることがより好ましく、0.7dL/g以上であることがさらに好ましく、0.8dL/g以上であることが特に好ましい。前記固有粘度は、2dL/g以下であることが好ましく、1.5dL/g以下であることがより好ましく、1.4dL/g以下であることがさらに好ましく、1.3dL/g以下であることがより一層好ましく、1.26dL/g以下であることがさらに一層好ましく、1.05dL/g以下、1.00dL/g以下、0.90dL/g以下であっても良い。前記上限値以下とすることにより、成形性がより向上し、金属部材の凹凸部により樹脂組成物が充填し易くなり、金属部材と熱可塑性樹脂部材の接合強度がより向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物がポリエステル樹脂を2種以上含む場合は、混合物の固有粘度とする。
固有粘度は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0029】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分またはこれらのエステル誘導体と、1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分を、回分式または連続式で溶融重合させて製造することができる。また、溶融重合で低分子量のポリブチレンテレフタレート樹脂を製造した後、さらに窒素気流下または減圧下固相重合させることにより、重合度(または分子量)を所望の値まで高めることもできる。
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、連続式やバッチ式で溶融重縮合する製造法で得られたものが好ましい。
エステル化反応を遂行する際に使用される触媒は、従来から知られているものであってよく、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等を挙げることができる。これらの中で特に好適なものは、チタン化合物である。エステル化触媒としてのチタン化合物の具体例としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等を挙げることができる。
【0030】
<ポリエチレンテレフタレート樹脂>
本実施形態における樹脂組成物は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、「PET」ということがある)を含む。本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、ジカルボン酸とジオールを主たる構成単位とする樹脂である。
本実施形態においては、ポリエチレンテレフタレート樹脂に含まれる鉄元素の量が、1.0~100μg/gである。前記下限値以上とすることにより、結晶化速度が向上し離型性に優れる傾向にある。前記上限値以下とすることにより、離型性と共に耐加水分解性がより向上する傾向にある。
ポリエチレンテレフタレート樹脂、特に、PETボトル由来のリサイクルPET等リサイクルPETは、不純物として金属元素を含むことがある。これは、反応釜や、リサイクルPETの場合は、カッター等にも由来する。金属元素、特に、鉄元素は、磁性物であることから含まない方がよいと考えられていたが、本実施形態における樹脂組成物では、あえて、少量の鉄元素を含むことにより、離型性および耐加水分解性を向上可能であることを見出したものである。
【0031】
鉄元素は本実施形態における樹脂組成物中で結晶核剤として働き、特に鉄元素が前記樹脂組成物を成形して得られる熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の離型性向上に寄与すると推定される。なお、本実施形態においては、リサイクルPETに限らず、バージンPETであって所定量の鉄元素を含むPETも好ましく用いられることは言うまでもない。
【0032】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂における鉄元素の量は、1.0μg/g以上であるが、1.2μg/g以上であることが好ましく、1.4μg/g以上であることがより好ましい。前記ポリエチレンテレフタレート樹脂における鉄元素の量は、100μg/g以下であり、90μg/g以下であることが好ましく、80.0μg/g以下であることがより好ましく、50μg/g以下であることがさらに好ましく、20μg/g以下であることが一層好ましく、10μg/g以下であることがより一層好ましく、5.0μg/g以下であることがさらに一層好ましく、4.0μg/g以下であることが特に一層好ましく、さらには、3.0μg/g以下、2.0μg/以下であってもよい。
【0033】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、鉄元素に加え、カルシウム元素、ナトリウム元素およびチタン元素の少なくとも1種を含んでいることが好ましい。また、鉄元素に加え、ナトリウム元素およびチタン元素を含むことが好ましく、さらにカルシウム元素を含むことがより好ましい。
【0034】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂におけるカルシウム元素の量は、1.0μg/g以上であることが好ましく、1.1μg/g以上であることがより好ましく、1.2μg/g以上であることがさらに好ましく、1.3μg/g以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、離型性がより向上する傾向にある。前記ポリエチレンテレフタレート樹脂におけるカルシウム元素の量は、30μg/g以下であることが好ましく、25μg/g以下であることがより好ましく、20μg/g以下であることがさらに好ましく、15μg/g以下であることが一層好ましく、10μg/g以下であることがより一層好ましく、8.0μg/g以下であることがさらに一層好ましく、6.0μg/g以下であることが特に一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形性や外観等がより向上する傾向にある。
【0035】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂(好ましくはリサイクルPET)におけるナトリウム元素の量は、0.1μg/g以上、0.4μg/g以上、0.5μg/g以上、0.6μg/g以上が挙げられる。上限値は、例えば、30μ/g以下、25μg/g以下、20μg/g以下、15μg/g以下、10μg/g以下、8μg/g以下、5μg/g以下であってもよい。
【0036】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂におけるチタン元素の量は、0.4μg/g以上であることが好ましく、0.6μg/g以上であることがより好ましく、1.0μg/g以上であることがさらに好ましく、1.1μg/g以上であることが一層好ましく、1.2μg/g以上であることがより一層好ましく、1.3μg/g以上であることがさらに一層好ましく、1.4μg/g以上であることが特に一層好ましく、1.6μg/g/g以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、離型性がより向上する傾向にある。前記ポリエチレンテレフタレート樹脂におけるチタン元素の量は、30μg/g以下であることが好ましく、25μg/g以下であることがより好ましく、20μg/g以下であることがさらに好ましく、15μg/g以下であることが一層好ましく、10μg/g以下であることがより一層好ましく、8μg/gであることがさらに一層好ましく、6μg/gであることが特に一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形性や外観等がより向上する傾向にある。
【0037】
さらに、本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂における、鉄元素、ナトリウム元素およびチタン元素の合計量は、1.0μg/g以上であることが好ましく、1.5μg/g以上であることがより好ましく、4.0μg/g以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、離型性がより向上する傾向にある。前記ポリエチレンテレフタレート樹脂における鉄元素、ナトリウム元素およびチタン元素の合計量は、30μg/g以下であることが好ましく、25μg/g以下であることがより好ましく、20μg/g以下であることがさらに好ましく、15.0μg/g以下であることが一層好ましく、10μg/g以下であることがより一層好ましく、8.0μg/g以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形性や外観等がより向上する傾向にある。
【0038】
なお、PET中の金属元素の定性/半定量分析(μg/g)は、ICP発光分析法によって行う。この場合、前処理として試料200mgを秤量し、ケルダール湿式分解(硫酸/硝酸、硫酸/過酸化水素)を行い、50mLに定容し、続いて、ICP発光分析を酸濃度マッチング一点検量法にて行う。ICP発光分析は、Thrmo Fisher Scientific社製「iCAP76000uo」を用い、axial/radial測光にて行うことができる。
【0039】
また、本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、イソフタル酸に由来する単位を含み、かつ、ポリエチレンテレフタレート樹脂に含まれるジカルボン酸成分に由来する全単位中、イソフタル酸に由来する単位(以下、「イソフタル酸単位」と記すことがある。)が0.5モル%以上15モル%以下であることが好ましい。このような特定のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いることにより、全体としての結晶化を抑制でき、成形収縮率が小さなり、耐衝撃性がより高い熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体が得られる傾向にある。
【0040】
前記イソフタル酸単位の割合は、ジカルボン酸成分に由来する全単位中、0.7モル%以上であることが好ましく、0.9モル%以上であることがより好ましく、1.1モル%以上であることがさらに好ましく、1.3モル%以上であることが一層好ましい。また、前記イソフタル酸単位の割合は、ジカルボン酸成分に由来する全単位中、10モル%以下、8.0モル%以下、5.0モル%以下、4.0モル%以下、3.5モル%以下であることが好ましく、3.0モル%以下であることがより好ましく、2.5モル%以下であることがさらに好ましく、2.4モル%以下であることが一層好ましく、2.3モル%以下、2.0モル%以下であってもよい。
【0041】
ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、0.50dL/g以上であることが好ましく、0.53dL/g以上であることがより好ましく、0.55dL/g超であることがさらに好ましく、0.60dL/g以上であることが一層好ましく、0.61dL/g超であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の耐衝撃性がより向上し、収縮率が小さくなる傾向にある。この理由は、分子量が大きくなることで分子の絡み合いが増加しやすくなるためと推測される。また、ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、2.0dL/g以下であることが好ましく、1.5dL/g以下であることがより好ましく、1.2dL/g以下であることがさらに好ましく、0.80dL/g以下であることが一層好ましく、0.70dL/g以下であることがより一層好ましく、0.65dL/g以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、溶融混練時や成形時での溶融粘度が高すぎることなく、押出し機や成形機への負荷が低減される傾向にあり、さらに、金属部材の凹凸部により樹脂組成物が充填し易くなり、金属部材と熱可塑性樹脂部材の接合強度がより向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物がポリエチレンテレフタレート樹脂を2種以上含む場合、固有粘度は、混合物の固有粘度とする。
【0042】
ポリエチレンテレフタレート樹脂の、JIS K7210(温度265℃、荷重5kgf)に準拠して測定されるメルトボリュームレイト(MVR)は、10cm3/10分以上であることが好ましく、50cm3/10分以上であることがより好ましく、80cm3/10分以上であることがさらに好ましく、また、150cm3/10分以下であることが好ましく、120cm3/10分以下であることがより好ましく、100cm3/10分以下であることがさらに好ましい。
【0043】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂におけるテレフタル酸およびイソフタル酸以外の酸成分としては、ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸およびこれらの構造異性体、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等のジカルボン酸およびその誘導体、p-ヒドロキシ安息香酸、グリコール酸等のオキシ酸またはその誘導体が挙げられる。
【0044】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位およびイソフタル酸単位が全ジカルボン酸単位の80モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることがより好ましく、98モル%以上を占めることがさらに好ましく、99モル%以上を占めることが一層好ましい。
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂におけるエチレングリコール以外のジオール成分としては、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族ジヒドロキシ化合物誘導体等が挙げられる。
【0045】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、エチレングリコール単位が全ジオール単位の80モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることがより好ましく、98モル%以上を占めることがさらに好ましく、99モル%以上を占めることが一層好ましい。
さらに、ポリエチレンテレフタレート樹脂は、分岐成分、例えばトリカルバリル酸、トリメリシン酸、トリメリット酸等の如き三官能、もしくはピロメリット酸の如き四官能のエステル形成性能を有する酸、またはグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット等の如き三官能もしくは四官能のエステル形成能を有するアルコールを、例えば1.0モル%以下、好ましくは0.5モル%以下、さらに好ましくは0.3モル%以下を共重合せしめたものであってもよい。
【0046】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位、イソフタル酸単位、および、エチレングリコール単位が末端基を除く全単位の90モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることがより好ましく、98モル%以上を占めることがさらに好ましく、99モル%以上を占めることが一層好ましい。
また、ポリエチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、55eq/ton以下であることが好ましく、45eq/ton以下であることがさらに好ましい。なお、ポリエチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基濃度は、ベンジルアルコール25mLにポリエチレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定することにより求める値である。
末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0047】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂としては、リサイクルPET、特にPETボトル由来のリサイクルPETを使用することが好ましい。
【0048】
ポリエチレンテレフタレート樹脂には、通常、線状オリゴマーや環状オリゴマーが含まれており、環状三量体、環状四量体、環状五量体が主成分であるが、リサイクルPETの場合は、通常、リサイクルの過程でこれらの線状オリゴマーや環状オリゴマーの量が減じている。また、特にボトル由来のリサイクルPETは、リサイクルの過程で結晶化工程や固相重合の工程の様な加熱工程を経るため、さらに環状オリゴマーの量が減じる傾向にある。
【0049】
PETボトル由来のリサイクルPET等リサイクルPETとしては、環状オリゴマー(環状三量体、環状四量体、環状五量体)の合計量が1.1質量%以下のものが好ましく、0.9質量%以下のものがより好ましく、0.7質量%以下のものがさらに好ましく、0.6質量%以下であるものがより一層好ましく、0.5質量%以下であるものが特に好ましい。前記上限値以下にすることにより、耐フォギング性に優れる傾向にあり、金型表面のデポジット付着量が減少する傾向にある。下限値は特に定められるものではないが、0.1質量%以上が現実的である。
【0050】
さらに、リサイクルPET中の環状三量体量が、0.8質量%以下であるものが好ましく、0.6質量%以下であるものがより好ましく、0.5質量%以下であるものが特に好ましい。前記上限値以下にすることにより、耐フォギング性に優れる傾向にあり、金型表面のデポジット付着量が減少する傾向にある。下限値は特に定められるものではないが、0.1質量%以上が現実的である。
【0051】
なお、環状オリゴマー量は、ポリエチレンテレフタレート樹脂0.1gを溶解可能なクロロホルム等の溶媒に溶かし、溶解・再沈を行い、上澄み液を濾過後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。また定量は、1点による絶対検量線法により実施し、DMT(テレフタル酸ジメチル)換算での値とした。
このようなポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、「PET」と記すことがある。)としては、バージン品(以下、「バージンPET」と記すことがある。)、リサイクル品(以下、「リサイクルPET」と記すことがある。)、バイオ由来品(以下、「バイオPET」と記すことがある。)およびこれらの混合物を用いることが出来る。なお、バイオPETとは、原料の少なくとも一部が生物資源(バイオマス)由来であるポリエチレンテレフタレート樹脂を言う。
【0052】
リサイクルPETとしては、回収された使用済PETボトルやフィルム等を粉砕、アルカリ洗浄して繊維等に再利用するマテリアルリサイクルにより得られたもの、ケミカルリサイクル(化学分解法)より得られたものおよびメカニカルリサイクルにより得られたもの等が挙げられる。
【0053】
ケミカルリサイクルは、回収された使用済PETボトルやフィルム等を化学分解して、原料レベルに戻してポリエチレンテレフタレート樹脂を再合成するものである。一方、メカニカルリサイクルは、上述したマテリアルリサイクルにおけるアルカリ洗浄をより厳密に行うこと、あるいは高温で真空乾燥すること等によって、マテリアルリサイクルよりもポリエチレンテレフタレート樹脂の汚れを確実に取り除くことを可能にした手法である。
例えば、使用済PETボトルからは、異物が取り除かれた後に、粉砕・洗浄され、次に押出機によりペレット化された後に、約120~150℃環境下で結晶化され、さらにその後、窒素気流下または高減圧下において約210℃環境下で固相重合されて、リサイクルPETが得られる。
【0054】
バイオPETとしてはPETの原料であるモノエチレングリコールをさとうきび由来のバイオ原料に替えて製造されたPETが挙げられる。
【0055】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、JIS K7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により40℃から昇温速度20℃/分で300℃まで昇温後、降温速度-20℃/分で40℃まで降温する操作を1サイクルとして、前記操作を行った際の1サイクル目の昇温時の結晶化熱(以下、「ΔHTc1-1st」と記すことがある)の絶対値が3J/g未満であることが好ましい。すなわち、明確な昇温時結晶化温度(Tc1-1st)を示さないことが好ましい。このような樹脂を用いることにより、成形性が向上する傾向にある。この理由は、成形時における結晶化あるいは固化がしやすい方向になるためと推測される。
【0056】
また、本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、前記1サイクル目の降温時の結晶化熱(以下、「ΔHTc2-1st」と記すことがある。)の絶対値が3J/g以上であることが好ましい。すなわち、明確な降温時結晶化温度(Tc2-1st)を有することが好ましい。このような樹脂を用いることにより、結晶化がし易くなり、また離型性が良くなり、成形性がより良くなる傾向にある。また、前記Tc2-1stは、160℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましい。前記下限値以上であることにより、結晶化がし易くなり、また、離型性がより向上する傾向にある。また、前記Tc2-1stは、195℃以下であることが好ましく、186℃以下であることがより好ましく、183℃以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形収縮率がより小さくなる傾向にある。
【0057】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、前記1サイクル目の昇温時の結晶化熱(ΔHTc1-1st)の絶対値が3J/g未満であり、かつ、前記1サイクル目の降温時の結晶化熱(ΔHTc2-1st)の絶対値が3J/g以上であることが好ましい。すなわち、明確な昇温時結晶化温度(Tc1-1st)を示さない、かつ、明確な降温時結晶化温度(Tc2-1st)を有することが好ましい。このようなポリエチレンテレフタレート樹脂を用いることによって、離型性が良くなり、表面外観が向上するという効果がより発揮できる。
【0058】
また、本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、前記1サイクル目の融点(Tm-1st)が254℃以下であることが好ましく、253℃以下がより好ましく、252℃以下がさらに好ましく、さらには、251℃以下、250℃以下であってもよい。前記上限値以下であることにより、より低い樹脂温度で成形できるため、成形性がより向上する傾向にある。また、樹脂組成物としての靭性が向上する傾向となる。下限値は、230℃以上が好ましく、235℃以上がより好ましい。前記下限値以上とすることにより、離型性がより向上する傾向になる。また、樹脂組成物として剛性が向上する傾向になる。なお、融解ピークが2つ以上見られた場合には、低い方の温度を融点(Tm-1st)とする。
【0059】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂のJIS K7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により40℃から昇温速度20℃/分で300℃まで昇温後、降温速度-20℃/分で40℃まで降温する操作を1サイクルとして、前記操作を行った際の2サイクル目の昇温時の結晶化熱(ΔHTc1-2nd)の絶対値が3J/g未満であることが好ましい。すなわち、明確な昇温時結晶化温度(Tc1-2nd)を示さないことが好ましい。このような構成とすることにより、結晶化がし易くなり、また離型性が良くなり、成形性が向上する傾向にある。
また、本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、前記2サイクル目の降温時の結晶化熱(以下、「ΔHTc2-2nd」と記すことがある。)の絶対値が3J/g以上であることが好ましい。すなわち、明確な降温時結晶化温度(Tc2-2nd)を有することが好ましい。このような構成とすることにより、結晶化がし易くなり、また離型性が良くなり、成形性がより良くなる傾向にある。また、前記2サイクル目の降温時結晶化温度(Tc2-2nd)は、150℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより結晶化がし易くなり、また離型性が良くなる傾向にある。また、前記Tc2-2ndは190℃以下であることが好ましく、185℃以下であることがより好ましく、180℃以下であることがさらに好ましく、175℃以下であることが一層好ましく、さらには170℃以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、成形収縮率が小さくなる傾向にある。
【0060】
さらに、本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、前記2サイクル目の昇温時の結晶化熱(ΔHTc1-2nd)の絶対値が3J/g未満であり、かつ、前記2サイクル目の降温時の結晶化熱(ΔHTc2-2nd)の絶対値が3J/g以上であることが好ましい。すなわち、2サイクル目において明確な昇温時結晶化温度(Tc1-2nd)を示さない、かつ、2サイクル目において明確な降温時結晶化温度(Tc2-2nd)を有することが好ましい。このようなポリエチレンテレフタレート樹脂を用いることによって、離型性が良くなり、表面外観が向上するという効果が発揮できる。
また、本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、前記2サイクル目の融点(Tm-2nd)が、254℃以下が好ましく、252℃以下がより好ましく、250℃以下がさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、より低い樹脂温度で成形できるため、成形性がより向上する傾向にある。前記Tm-2ndの下限値は、230℃以上が好ましく、235℃以上がより好ましい。前記下限値以上とすることにより、離型性がより向上する傾向にある。なお、融解ピークが2つ以上見られた場合には、低い方の温度を融点(Tm-2nd)とする。
【0061】
上記のようなポリエチレンテレフタレート樹脂としてはリサイクルPET、特にPETボトル由来のリサイクルPETが好ましい。
【0062】
一方、一般的なポリエチレンテレフタレート樹脂(例えば、バージンポリエチレンテレフタレート樹脂)は、1サイクル目において明確な昇温時の結晶化温度(Tc1-1st)を示し、結晶化熱(ΔHTc1-1st)の絶対値が3J/g以上である。また、一般的なポリエチレンテレフタレート樹脂は、2サイクル目において明確な昇温時の結晶化温度(Tc1-2nd)を示す傾向があるのに対し、リサイクル品のポリエチレンテレフタレートは示さない傾向である。
さらに、一般的なポリエチレンテレフタレート樹脂は、明確な1サイクル目の降温時の結晶化温度(Tc2-1st)を示さない傾向があるのに対し、リサイクル品のポリエチレンテレフタレートは示す傾向である。また、一般的なポリエチレンテレフタレート樹脂は、明確な2サイクル目の降温時の結晶化温度(Tc2-2nd)を示さない傾向があるのに対し、リサイクル品のポリエチレンテレフタレートは示す傾向にある。
【0063】
<無機充填剤>
本実施形態における樹脂組成物は、無機充填剤を含んでいてもよい。無機充填剤を含むことにより、得られる熱可塑性樹脂部材、さらには金属樹脂複合体の機械的強度を向上させることができる。
無機充填剤は、その形状等特に定めるものではないが、繊維状充填剤および/または非繊維状無機充填剤が挙げられる。
【0064】
本実施形態における樹脂組成物における一例は、繊維状充填剤を含む形態である。
本実施形態における樹脂組成物における無機充填剤の総量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、8質量部以上であることがさらに好ましく、15質量部以上であることが一層好ましく、25質量部以上であることがより一層好ましく、30質量部以上であることがさらに一層好ましく、35質量部以上であることが特に一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の機械的強度がより向上する傾向にある。また、前記無機充填剤の総量の上限値は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、150質量部以下であることが好ましく、120質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることがさらに好ましく、80質量部以下であることが一層好ましく、60質量部以下であることがより一層好ましく、50質量部以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形性がより良好になる傾向にある。
【0065】
本実施形態における樹脂組成物における無機充填剤の総量は、樹脂組成物の1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが一層好ましく、25質量%以上であることがより一層好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、35質量%以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の機械的強度がより向上し、かつ、熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の収縮率がより小さくなるという傾向にある。また、本実施形態における樹脂組成物における無機充填剤の総量は、樹脂組成物の60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形性がより良好になるという傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、無機充填剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0066】
<<樹脂組成物中の鉄元素の含有量>>
本実施形態における樹脂組成物は、前記樹脂組成物が無機充填剤を含む場合、前記樹脂組成物中の無機充填剤以外の成分中、鉄元素の含有量が0.1~90μg/gであることが好ましい。このような範囲とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0067】
本実施形態で用いる樹脂における鉄元素の量は、樹脂組成物中の無機充填剤以外の成分中、0.2μg/g以上であることが好ましく、0.3μg/g以上であることがより好ましく、0.4μg/g以上であることがさらに好ましく、0.45μg/g以上であることが一層好ましく、0.5μg/g以上であることがより一層好ましい。また、樹脂組成物中の無機充填剤以外の成分中、80μg/g以下であることが好ましく、60μg/g以下であることがより好ましく、30μg/g以下であることがさらに好ましく、10μg/g以下であることが一層好ましく、3.0μg/g以下であることがより一層好ましく、1.0μg/g以下であることがさらに一層好ましく、0.8μg/g以下であることが特に一層好ましい。
樹脂組成物中の無機充填剤以外の成分における鉄元素は、通常は、ポリエチレンテレフタレート樹脂に由来する。
【0068】
<<繊維状無機充填剤>>
本実施形態における樹脂組成物は、繊維状無機充填剤を含んでいてもよい。繊維状無機充填剤を含むことにより、得られる熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の機械的強度が向上すると共に、成形収縮率も効果的に小さくすることができる。
本実施形態における樹脂組成物は、繊維状無機充填剤を含んでいることが好ましい。繊維状無機充填剤を含むことにより、得られる熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の機械的強度を高くすることができる。
【0069】
繊維状無機充填剤は、短繊維であってもよいし、長繊維であってもよい。
繊維状無機充填剤の原料は、ガラス、炭素(炭素繊維等)、アルミナ、ボロン、セラミック、金属(スチール等)等の無機物、および、植物(ケナフ(Kenaf)、竹等を含む)、アラミド、ポリオキシメチレン、芳香族ポリアミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、超高分子量ポリエチレン等の有機物などが挙げられ、ガラスが好ましい。
本実施形態における樹脂組成物は、繊維状無機充填剤として、ガラス繊維を含むことが好ましい。
【0070】
ガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス、Rガラス、Dガラス、Mガラス、Sガラス、NEガラス、HLガラスなどのガラス組成から選択され、特に、Eガラス(無アルカリガラス)が好ましい。
ガラス繊維は、長さ方向に直角に切断した断面形状が真円状または多角形状の繊維状の材料をいう。ガラス繊維は、単繊維の数平均繊維径が通常1~25μm、好ましくは5~17μmである。数平均繊維径を1μm以上とすることにより、樹脂組成物の成形加工性がより向上する傾向にある。数平均繊維径を25μm以下とすることにより、得られる構造体の外観が向上し、補強効果も向上する傾向にある。ガラス繊維は、単繊維または単繊維を複数本撚り合わせたものであってもよい。
ガラス繊維の形態は、単繊維や複数本撚り合わせたものを連続的に巻き取ったガラスロービング、長さ1~10mmに切りそろえたチョップドストランド(すなわち、数平均繊維長1~10mmのガラス繊維)、長さ10~500μm程度に粉砕したミルドファイバー(すなわち、数平均繊維長10~500μmのガラス繊維)などのいずれであってもよいが、長さ1~10mmに切りそろえたチョップドストランドが好ましい。ガラス繊維は、形態が異なるものを併用することもできる。
また、ガラス繊維としては、異形断面形状を有するものも好ましい。この異形断面形状とは、繊維の長さ方向に直角な断面の長径/短径比で示される扁平率が、例えば、1.5~10であり、中でも2.5~10、さらには2.5~8、特に2.5~5であることが好ましい。
【0071】
ガラス繊維は、本実施形態における樹脂組成物の特性を大きく損なわない限り、樹脂成分との親和性を向上させるために、例えば、シラン系化合物、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物などで表面処理したもの、酸化処理したものであってもよい。
【0072】
本実施形態における樹脂組成物における繊維状無機充填剤の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、8質量部以上であることがさらに好ましく、15質量部以上であることが一層好ましく、25質量部以上であることがより一層好ましく、30質量部以上であることがさらに一層好ましく、35質量部以上であることが特に一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の機械的強度がより向上する傾向にある。また、前記繊維状無機充填剤の含有量の上限値は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、150質量部以下であることが好ましく、120質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることがさらに好ましく、80質量部以下であることが一層好ましく、60質量部以下であることがより一層好ましく、50質量部以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形性がより良好になる傾向にある。
【0073】
本実施形態における樹脂組成物における繊維状無機充填剤の含有量は、樹脂組成物の1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが一層好ましく、25質量%以上であることがより一層好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、35質量%以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の機械的強度がより向上し、かつ、熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の収縮率がより小さくなるという傾向にある。また、本実施形態における樹脂組成物における繊維状無機充填剤の含有量は、樹脂組成物の60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形性がより良好になるという傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、繊維状無機充填剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0074】
<<非繊維状無機充填剤>>
本実施形態における樹脂組成物は、非繊維状無機充填剤を含んでいてもよい。非繊維状無機充填剤を含むことにより、得られる熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の機械的強度が向上すると共に、成形収縮率も効果的に小さくすることができる傾向にある。
非繊維状無機充填剤としては、繊維以外の形状の無機充填剤を意味し、板状無機充填剤または粒子状無機充填剤が好ましく、粒子状無機充填剤がより好ましい。
非繊維状無機充填剤としては、炭酸カルシウム、シリカ、ワラストナイト、ケイ酸ジルコニウム、クレー、ベントナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミナ、ガラスビーズ、ガラスフレーク、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム等が挙げられるが、好ましくは、炭酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウムであり、より好ましくは炭酸カルシウム、であり、炭酸カルシウムが熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の外観を向上する傾向にあるため特に好ましい。
また、本実施形態で用いる非繊維状無機充填剤は、表面が酸処理されていることが好ましく、表面が脂肪酸で処理されていることがより好ましい。
酸処理に用いられる酸としては、脂肪酸、ロジン酸、リグニン酸が例示され、炭素数が6~20の飽和もしくは不飽和の脂肪酸が好ましい。炭素数が6~20の飽和もしくは不飽和の脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸などを挙げることができる。
【0075】
本実施形態で用いる非繊維状無機充填剤は、体積基準の平均粒子径が5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましく、0.8μm以下であることが一層好ましく、0.5μm以下であることがより一層好ましく、0.3μm以下であることが特に好ましい。前記体積基準の平均粒子径下限値は、0.01μm以上であることが好ましく、0.08μm以上であることがより好ましい。本実施形態における体積基準の平均粒子径は、粒子形状を球として、ガス吸着等温線より解析される比表面積を基に算出される。
なお、非繊維状無機充填剤が粒子状以外の場合においても、同じ体積の粒子であると仮定した場合の粒子径を持って本実施形態における粒子径とする。
【0076】
本実施形態における樹脂組成物の樹脂組成物における、非繊維状無機充填剤の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、1.0質量部以上であることが好ましく、1.5質量部以上であることがより好ましく、2.0質量部以上であることがさらに好ましく、2.5質量部以上であることが一層好ましく、3.0質量部以上であることがより一層好ましく、3.5質量部以上であることがさらに一層好ましく、4.0質量部以上であることが特に一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、剛性や耐熱性の向上および成形時収縮の低減と異方性の低減効果がより向上する傾向にある。また、前記非繊維状無機充填剤の含有量の上限値は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、100質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましく、80質量部以下であることがさらに好ましく、50質量部以下であることが一層好ましく、30質量部以下であることがより一層好ましく、15質量部以下であることがさらに一層好ましく、10質量部以下であることがよりさらに一層好ましく、8.0質量部以下であることがより特に一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の表面外観の良化する傾向にある。
【0077】
本実施形態における樹脂組成物が非繊維状無機充填剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物の0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることがさらに好ましく、2.0質量%以上であることが一層好ましく、2.5質量%以上であることがより一層好ましく、3.0質量%以上であることが特に好ましい。前記下限値以上とすることにより、剛性や耐熱性の向上および成形時収縮の低減と異方性の低減効果がより向上する傾向にある。また、樹脂組成物の15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、7.0質量%以下であることが特に好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の表面外観がより良くなる傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、非繊維状無機充填剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0078】
<他の成分>
本実施形態における樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記したもの以外に他の成分を含有していてもよい。他成分としては、スチレン系樹脂等の他の熱可塑性樹脂や各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
樹脂添加剤としては、具体的には、離型剤、安定剤(熱安定剤、光安定剤)、着色剤(顔料、染料)、反応性化合物、繊維状無機充填剤、核剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。
本実施形態における樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、および、必要に応じ配合される成分の合計が100質量%となる。
【0079】
<<スチレン系樹脂>>
本実施形態における樹脂組成物は、スチレン系樹脂を含んでいてもよい。
スチレン系樹脂としては、スチレン系単量体の単独重合体、スチレン系単量体とスチレン系単量体と共重合可能な単量体との共重合体等が挙げられる。スチレン系単量体とは、例えばスチレン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、メチルスチレン、tert-ブチルスチレンが挙げられる。本実施形態におけるスチレン系樹脂は、単量体単位のうち、50モル%以上がスチレン系単量体である。
スチレン系樹脂としては、より具体的には、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)、スチレン-IPN型ゴム共重合体等の樹脂等が挙げられる。
本実施形態では、スチレン系樹脂が、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)であることが好ましく、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)であることがより好ましい。
アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)中のスチレン単量体の含有率は、50~95質量%が好ましく、65~92質量%がより好ましい。
スチレン系樹脂の重量平均分子量は、通常、50,000以上であり、好ましくは100,000以上であり、より好ましくは150,000以上であり、また、通常、500,000以下であり、好ましくは400,000以下であり、より好ましくは300,000以下である。また、数平均分子量は、通常、10,000以上であり、好ましくは30,000以上であり、より好ましくは50,000以上であり、また、好ましくは500,000以下であり、より好ましくは300,000以下である。
スチレン系樹脂の、JIS K7210(温度200℃、荷重5kgf)に準拠して測定されるメルトフローレイト(MFR)は、0.1~30g/10分であることが好ましく、0.5~25g/10分であることがより好ましい。MFRが0.1g/10分以上であると流動性が向上する傾向にあり、30g/10分以下であると耐衝撃性が向上する傾向にある。
【0080】
このようなスチレン系樹脂の製造方法としては、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法あるいは塊状重合法等の公知の方法が挙げられる。
スチレン系樹脂の詳細は、特開2017-052925号公報の段落0061~0069の記載、特開2017-052262号公報の段落0021~0031の記載、段落0057~0064の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0081】
前記下限値以上とすることにより、収縮率の低減や外観不良の抑制という効果がより向上する傾向にある。また、前記スチレン系樹脂の含有量の上限値は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく10質量部以下であることがさらに好ましく、8.0質量部以下であることが一層好ましく、6.0質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、ウェルド強度や衝撃強度の低下抑制という効果がより向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、スチレン系樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0082】
<<離型剤>>
本実施形態における樹脂組成物は、離型剤を含んでいてもよい。離型剤としては、モンタン酸エステルワックス、ポリオレフィンワックス、高級脂肪酸、エステル化合物、エチレンビスステアロアマイドなどが例示され、モンタン酸エステルワックス、ポリオレフィンワックスおよびエチレンビスステアロアマイドから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
離型剤としては、具体的には、特開2018-070722号公報の段落0063~0077の記載、特開2019-123809号公報の段落0090~0098の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0083】
本実施形態における樹脂組成物が離型剤を含む場合、その含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.08質量部以上であることがより好ましい。前記下限値以上にすることにより、成形時の離型性が向上する傾向にある。また、前記離型剤の含有量の上限値は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、5.0質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以下であることがより好まく、0.7質量部以下であることがさらに好ましく、0.5質量部以下であることが特に好ましい。前記上限値以下にすることにより、アウトガス量を低減することができる傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、離型剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0084】
<<安定剤>>
本実施形態における樹脂組成物は、安定剤(光安定剤および/または熱安定剤)を含んでいてもよい。
安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物、硫黄系安定剤等が例示される。本実施形態では、ヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物および硫黄系安定剤を併用することも好ましい。このように3種の安定剤を併用することにより、熱安定性がより向上し、さらに熱安定性が長期に継続する傾向にある。
安定剤としては、具体的には、特開2021-063196号公報の段落0067~0075の記載、特開2018-070722号公報の段落0046~0057の記載、特開2019-056035号公報の段落0030~0037の記載、国際公開第2017/038949号の段落0066~0078の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0085】
本実施形態における樹脂組成物が安定剤を含む場合、その含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、溶融混練時や成形時、さらに成形体としての使用中での、樹脂の熱劣化や酸化劣化の抑制効果がより向上する傾向にある。また、前記安定剤の含有量の上限値は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、2.0質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、安定剤などの添加剤の凝集などによる外観や物性へ悪影響を効果的に抑制できる。
本実施形態における樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0086】
<<着色剤>>
本実施形態における樹脂組成物は、着色剤(染料および/または顔料)を含んでいてもよい。着色剤としては、染料であっても、顔料であってもよい。
着色剤が、染料を含むことにより、ハコ型離型性が向上し、また、金属部材と熱可塑性樹脂部材の接合強度も向上する傾向にある。
着色剤としては、有機着色剤および無機着色剤のいずれでもよい。また、有彩色着色剤および無彩色着色剤のいずれであってもよい。
着色剤としては、特開2021-101020号公報の段落0121~0123の記載、特開2019-188393号公報の段落0088~0090の記載が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0087】
本実施形態における樹脂組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックは、その種類、原料種、製造方法に制限はなく、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のいずれをも使用することができる。中でも、ファーネスブラックが好ましい。その数平均粒径には特に制限はないが、5~60nm程度であることが好ましい。
【0088】
カーボンブラックのDBP吸油量(単位:cm3/100g)は40~300cm3/100gであることが好ましい。上限値は、300cm3/100g以下であることが好ましく、200cm3/100g以下であることがより好ましく、150cm3/100g以下であることがさらに好ましく、100cm3/100g以下であってもよい。また、下限値は40cm3/100g以上が好ましく、50cm3/100g以上がより好ましく、60cm3/100g以上がさらに好ましく、80cm3/100g以上であってもよい。前記上下限値以内とすることにより、熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の外観が向上する傾向にある。なお、DBP吸油量(単位:cm3/100g)はJIS K6217に準拠して測定することができる。
【0089】
カーボンブラックの数平均粒子径(単位:nm)は、5~60nmであることが好ましい。上限値は、60nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましく、25nm以下であることがより一層好ましい。下限値は10nm以上であることが好ましく、13nm以上であることがより好ましく、16nm以上であることがさらに好ましく、19nm以上であることがより一層好ましい。前記上下限値以内とすることにより、熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の外観が向上する傾向にある。数平均粒子径は、ASTM D3849規格(カーボンブラックの標準試験法-電子顕微鏡法による形態的特徴付け)に記載の手順によりアグリゲート拡大画像を取得し、このアグリゲート画像から単位構成粒子として3,000個の粒子径を測定し、算術平均して求めることができる。
【0090】
カーボンブラックは、熱可塑性樹脂、好ましくはポリエステル樹脂、より好ましくはポリブチレンテレフタレート樹脂と予め混合したマスターバッチとして配合されることにより、カーボンブラックの分散度が高まり、熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の外観が向上すし、熱可塑性樹脂部材の機械的物性が向上する傾向にあるため好ましい。
本実施形態における樹脂組成物が染料を含む場合、その用途に応じて適宜選択することができ、その色も特に定めるものではない。本実施形態で用いる染料は、黒色色素および/または黒色色素組成物であることが好ましい。黒色色素組成物とは、赤、青、緑等の有彩色色素が2種以上組み合わさって、黒色を呈する色素組成物を意味する。
【0091】
黒色色素組成物の第一の実施形態は、緑色色素と赤色色素を含む形態である。黒色色素組成物の第二の実施形態は、赤色色素と青色色素と黄色色素を含む形態である。
光透過性色素の具体例としては、ニグロシン、ナフタロシアニン、アニリンブラック、フタロシアニン、ポルフィリン、ペリノン、ペリレン、クオテリレン、アゾ、アゾメチン、アントラキノン、ピラゾロン、スクエア酸誘導体、ペリレン、クロム錯体、インモニウム、イミダゾール(特に、ベンズイミダゾール)、シアニン等が挙げられ、アゾメチン、アントラキノン、ペリノンが好ましく、その中でもアントラキノン、ペリノン、ペリレン、イミダゾール(特に、ベンズイミダゾール)、シアニンがより好ましい。
市販品としては、オリエント化学工業社製の色素であるe-BIND LTW-8731H、e-BIND LTW-8701H、有本化学社製の色素であるPlast Yellow 8000、Plast Red M 8315、Plast Red 8370、Oil Green 5602、LANXESS社製の色素であるMacrolex Yellow 3G、Macrolex Red EG、Macrolex Green 5B、 紀和化学工業社製のKP Plast HK、KP Plast Red HG、KP Plast Red H2G、KP Plast Blue R、KP Plast Blue GR、KP Plast Green G、BASF社製、Lumogenシリーズ等が例示される。また、特許第4157300号公報に記載の色素、特許第4040460号公報に記載の色素も採用することができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0092】
本実施形態における樹脂組成物が着色剤(好ましくはカーボンブラック)を含む場合、その含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましく、0.5質量部以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、着色効果がより効果的に発揮され、離型性が向上する傾向にある。また、前記着色剤の含有量の上限値は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、4質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましく、1質量部以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる熱可塑性樹脂部材ないし金属樹脂複合体の機械的強度がより向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、着色剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0093】
<<反応性化合物>>
本実施形態における樹脂組成物は、反応性化合物を含んでいてもよい。反応性化合物としては、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン基(環)を有する化合物、オキサジン基(環)を有する化合物、カルボン酸を有する化合物、および、アミド基を有する化合物からなる群から選ばれた1種以上であるのが好ましく、特にエポキシ化合物であることが耐加水分解性を向上する傾向にあり、アウトガスを抑制する傾向にあるため好ましい。
【0094】
エポキシ化合物としては、単官能エポキシ化合物であっても、多官能エポキシ化合物であってもよいが、多官能エポキシ化合物が好ましい。多官能エポキシ化合物としては、例えばビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、レゾルシン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂環化合物型ジエポキシ化合物、グリシジルエーテル類、エポキシ化ポリブタジエン、さらに具体的には、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、レゾルシン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシドなどの脂環化合物型エポキシ化合物をいずれも好ましく用いることができる。
また、エポキシ化合物は、グリシジル基含有化合物を構成成分とする共重合体であってもよい。例えばα,β-不飽和酸のグリシジルエステルと、α-オレフィン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレンからなる群より選ばれる1種または2種以上のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0095】
また、エポキシ化合物は、エポキシ基含有単量体とスチレン系単量体との共重合体も好ましく、さらに他の共重合可能な単量体との共重合体であってもよい。エポキシ基含有単量体とスチレン系単量体との共重合体を構成するスチレン系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル等が挙げられ、好ましくはグリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートであり、特に好ましくはグリシジルメタクリレートである。スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、トリブロモスチレンなどが挙げられ、スチレン、α-メチルスチレンがより好ましく、特にスチレンが好ましい。エポキシ基含有単量体とスチレン系単量体との共重合体の具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート-スチレン共重合体、グリシジル(メタ)アクリレート-スチレン-メチル(メタ)アクリレート等がアウトガスを抑制する傾向にあるため特に好ましい。
【0096】
上記の他、反応性化合物としては、特開2020-199755号公報の段落0038~0050、特開2020-125468号公報の段落0043の記載を参酌でき、これの内容は本明細書に組み込まれる。
【0097】
本実施形態における樹脂組成物が反応性化合物を含む場合、その含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましい。また、前記反応性化合物の含有量の上限値は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、7.0質量部以下であることがさらに好ましく、2.0質量部以下であることがさらにより好ましく1.0質量部以下であることが特に好ましく、0.5質量部以下であってもよい。
本実施形態における樹脂組成物は、反応性化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0098】
<<核剤>>
本実施形態における樹脂組成物は、結晶化速度を調整するために、核剤を含んでいてもよい。核剤の種類は、特に、限定されるものではないが、脂肪酸金属塩、リン酸塩、芳香族ホスホン酸塩、多価アルコール、脂肪酸アミド、およびオレフィンとマレイン酸の共重合体等の有機核剤、ならびに、無機核剤が例示される。
【0099】
脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、12-ヒドロキシステアリン酸バリウム、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、12-ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸リチウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸アルミニウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸リチウム、ラウリン酸ナトリウムリシノール酸カルシウム、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛、カプリル酸カリウム、カプリル酸ナトリウム、カプリル酸カルシウム、カプリル酸マグネシウム、オクチル酸アルミニウム、ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、スルホイソフタル酸ジメチルナトリウムなどが挙げられる。
これらの脂肪酸金属塩のうち、脂溶性が高く、ポリエステルと相溶しやすい観点から、12-ヒドロキシステアリン酸塩、ステアリン酸塩、モンタン酸塩が好ましく、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸ナトリウムが特に好ましい。
無機核剤としては、タルク、窒化ホウ素、マイカ、カオリン、硫酸バリウム、窒化珪素および二硫化モリブデンが好ましく、硫酸バリウム、タルクおよび窒化ホウ素がより好ましく、硫酸バリウムおよびタルクがさらに好ましく、タルクが一層好ましい。
【0100】
その他、核剤としては、特開2022-142501号公報の段落0045~0051の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0101】
本実施形態における樹脂組成物が核剤を含む場合、その含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.2質量部以上であることがさらに好ましい。前記含有量の上限は、結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましく、6質量部以下であることがさらに好ましく、4質量部以下であることが一層好ましく、2質量部以下であることがより一層好ましく、1質量部以下、0.8質量部以下であってもよい。
本実施形態における樹脂組成物は、核剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0102】
<<樹脂組成物の製造方法>>
本実施形態における樹脂組成物は、樹脂組成物の調製の常法によって製造できる。通常は各成分および所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸または二軸押出機で溶融混練する。また、各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、本実施形態における樹脂組成物を調製することもできる。着色剤等の一部の成分を熱可塑性樹脂と溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りの成分を配合して溶融混練してもよい。
なお、無機充填剤を用いる場合には、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することも好ましい。
【0103】
溶融混練に際しての加熱温度は、通常220~300℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、不透明化の原因になる場合がある。それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。混練時や、後行程の成形時の分解を抑制する為、酸化防止剤や熱安定剤の使用が望ましい。
【0104】
<<金属樹脂複合体の製造方法>>
本実施形態の金属樹脂複合体の製造方法は、表面に凹凸を有する金属部材の、前記凹凸を有する面側に対し、樹脂組成物であって、溶融した樹脂組成物を適用して成形することが好ましい。
金属部材に上記樹脂組成物を適用するに際し、使用する成形機としては、金属部材と樹脂組成物との金属樹脂複合体が形成できれば特に限定されず、例えば、射出成形機、押出成形機、加熱プレス成形機、圧縮成形機、トランスファーモールド成形機、注型成形機、反応射出成形機等の種々の成形機を使用できるが、これらの中でも射出成形機が特に好ましい。すなわち、好ましくは、表面に凹凸を有する金属部材に溶融した樹脂組成物を適用する工程は、射出成形により行う。
【0105】
射出成形法の場合、具体的には、金属部材を射出成形金型のキャビティ部にインサートし、樹脂組成物を金型に射出するインサート成形法により製造するのが好ましい。具体的には、成形用の金型を用意し、その金型を開いてその一部に金属部材を設置(インサート)し、その後、金型を閉じ、樹脂組成物の少なくとも一部が金属部材の凹凸形状を形成した面に接するように、金型内に樹脂組成物を射出して固化させる。その後、金型を開き、離型することにより、金属樹脂複合体を得ることができる。
インサートされる金属部材の大きさは、目的の金属樹脂複合体の大きさ、構造等によって、適宜決めればよい。インサートされる金属部材は、得られる金属樹脂複合体の全体にわたる必要はなく、金属樹脂複合体の一部分であってもよい。
【0106】
インサート成形時に、溶融した樹脂組成物の温度と金属部材の温度を可能な限り近くすることが接合強度を向上させる上で好ましい。特に方法は限定されないが、金属部材を予め加熱しておくことが望ましい。また加熱方法は特に限定されないが、例えば金属部材をインサート成形する前に誘導加熱や、赤外線加熱、ホットプレート、加熱炉、レーザー等で加熱したものをインサートする方法、金属部材を金型にインサート後に金属部材における樹脂組成物との接合領域付近をハロゲンランプ、ドライヤー等で外部から加熱する方法、金型内部に配置したカートリッジヒーター等で加熱する方法等が挙げられる。特に、樹脂組成物との接合領域のみを局所的に加熱することが有用である。なお、「局所的に加熱」とは、加熱手段によっては、接合領域を含んだ周辺まで加熱されるが金属部材の接合領域より遠い部分は加熱しないことを含む。
【0107】
加熱温度は高いほどよいが、通常、100~350℃、好ましくは120~250℃、さらに好ましくは130~250℃である。加熱温度は、前記下限値以上とすることにより、金型温度との差異を大きくでき、加熱の効果がより効果的に発揮され、上記上限値以下とすることにより、昇温時間を短縮できるため、成形サイクルが向上する傾向にあり、また、樹脂の滞留が発生しにくくなり、成形上、好ましい。
金属樹脂複合体を得る方法として、上記以外に、レーザー溶着法や、振動溶着法、超音波溶着法など、金属部材もしくは熱可塑性樹脂部材(樹脂組成物)、またはそのいずれも加熱することで複合化する方法を選択することも可能である。複合体の形状やコスト等により最適な方法を選択すればよい。特にレーザー溶着法は、局所領域の溶着が可能であり、かつ局所加熱も兼ねることができるため好ましい。
【0108】
このようにして得られる、本実施形態の金属樹脂複合体の大きさ、形状、厚み等は特に限定されるものではなく、板状(円板、多角形など)、柱状、箱形状、椀形状、トレイ状などいずれでもよい。また複合体の全ての部分の厚みが均一である必要はなく、また、複合体には補強リブ等が設けられていてもよい。
なお、本実施形態において、金属樹脂複合体は、最終製品に限らず、各種部品も含む趣旨である。
【0109】
本実施形態の金属樹脂複合体から形成される成形品は、金属部材と熱可塑性樹脂部材とを強固かつ安定して接合させることができ、優れた接合強度、離型性を得ることができることから、各種用途に好適に使用することができる。中でも、接合強度を特に要求される自動車用途、一般家電製品に好ましく用いられる。
具体的には、一般家電製品を始め、スマートフォンやパソコンなどのOA機器に組み込まれる電気電子部品(ハウジング、ケ-ス、カバ-等)、機械機構部品、車輛用電装部品(各種コントロ-ルユニット、イグニッションコイル部品、センサ-部品、モ-タ-部品、パワ-モジュ-ル、コンデンサ-、インシュレ-タ-、モ-タ-端子台、バッテリ-、電動コンプレッサ-、バッテリ-電流センサ-及びジャンクションブロック等)の筐体の一部又は全部を構成する部材など、機能として接合強度を必要とする用途に好ましく用いられる。
【実施例0110】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0111】
1.以下の原料を用いた。
【表1】
【表2】
上記成分について、ポリエチレンテレフタレート樹脂以外の熱可塑性樹脂成分は、鉄元素量が検出限界未満であった。
【0112】
PETの詳細は以下の通りである。
【表3】
上記においてn.dは、検出限界未満であったことを示す。
検出限界値:Ca 0.2(μg/g)、Na 0.2(μg/g)、Ti 0.2(μg/g)、Ge 3(μg/g)
【0113】
<固有粘度の測定>
フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒中に、ポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットを、濃度が1.00g/dLとなるように110℃で1時間撹拌して溶解させた。その後、30℃まで冷却した。全自動溶液粘度計にて、30℃で試料溶液の落下秒数、溶媒のみの落下秒数をそれぞれ測定し、下記式(1)により固有粘度を算出した。
固有粘度=((1+4KHηsp0.5-1)/(2KHC) …(1)
ここで、ηsp=η/η0-1であり、ηは試料溶液の落下秒数、η0は溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用した。
全自動溶液粘度計は、柴山科学社製のものを用いた。
【0114】
<DSCによる測定>
ポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶化温度、結晶化熱、融点、融解熱を、JIS K7121に基づいて示差走査熱量測定機(DSC)を用いて測定した。窒素雰囲気下で40℃から300℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、300℃で3分保持した後、降温速度-20℃/分で40℃まで降温した。これを1サイクルとした。昇温時の結晶化よる最大ピークの温度を結晶化温度Tc1とし、結晶化熱をΔHTc1として求めた。融解時のピークより融点Tmと融解熱ΔHTmを求めた。降温時の結晶化による最大ピーク温度を結晶化温度Tc2、結晶化熱ΔHTc2として求めた。昇温時と降温時の結晶化時のピークの結晶化熱ΔHの絶対値が3J/g未満の場合、または、ピークがない場合は、下記表において「ピークなし」とした。
なお、融解熱ΔHTmは、吸熱ピークとベースラインで囲まれる面積、結晶化熱ΔHTC1は、昇温の過程において融点未満に確認される結晶化の発熱ピークとベースラインで囲まれる面積、結晶化熱ΔHTC2は、降温の過程において発熱ピークとベースラインで囲まれる面積として求めた。
示差走査熱量測定機は、(株)日立ハイテクサイエンス社製「DSC7020」を用いた。
【0115】
<MVRの測定>
MVRは、メルトインデクサーを用いて、上記で得られたペレットを、265℃、荷重5kgfの条件にて、単位時間当たりの溶融流動体積MVR(単位:cm3/10分)を測定した。
メルトインデクサーは、タカラ工業(株)製を用いた。
<イソフタル酸量、DEG量の測定>
ポリエチレンテレフタレート樹脂中のイソフタル酸量、DEG(ジエチレングリコール)量は、1H-NMRにて測定した。
1H-NMRの測定は、AVANCIII(ブルカー・バイオスピン社製)を用いて、測定した。
【0116】
<末端カルボキシル基量(AV)の測定>
ポリエチレンテレフタレート樹脂を粉砕した後、熱風乾燥機にて140℃で15分間、乾燥させ、デシケーター内で室温まで冷却した試料から、0.1gを精秤して試験管に採取し、ベンジルアルコール3mLを加えて、乾燥窒素ガスを吹き込みながら195℃、3分間で溶解させ、次いで、クロロホルム5mLを徐々に加えて室温まで冷却した。この溶液にフェノールレッド指示薬を1~2滴加え、乾燥窒素ガスを吹き込みながら撹拌下に、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で滴定し、黄色から赤色に変じた時点で終了とした。また、ブランクとして、ポリエステル試料を溶解させずに同様の操作を実施し、以下の式によって末端カルボキシル基量(酸価)を算出した。
末端カルボキシル基量(当量/トン)=(a-b)×0.1×f/w
(ここで、aは、滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)、bは、無試料で滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)、wはポリエステルの試料の量(g)、fは、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価である。)
【0117】
<GPCによる測定>
ポリエチレンテレフタレート樹脂の分子量(Mw、Mn、Mz)は以下のように測定した。
ポリエチレンテレフタレート樹脂を秤量し、所定量のHFIP(ヘキサフルオロ-2-プロパノール)、10mM-CF3COONa溶離液を加え、室温で一晩静置溶解させた。続いて、0.45μmのPTFEカートリッジフィルターでろ過を行った。溶解した試料(ろ液)について、GPCにより分子量を測定した。なお、検量線は標準PMMAを用いた3次近似曲線を用い、PMMA換算分子量とした。
GPCによる測定に際し、カラムはHLC-8420GPC(東ソー製)を用いた。
【0118】
2.実施例1~6、比較例1~6
<コンパウンド>
表1または表2に示すガラス繊維以外の各成分を表4または表5に示す割合(質量部)にて、タンブラーミキサーで均一に混合した後、二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」)のホッパーに投入し、ガラス繊維はサイドフィーダーより供給し、シリンダー設定温度280℃、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練した樹脂組成物を、水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、樹脂組成物のペレットを得た。
【0119】
<ノッチ無しシャルピー衝撃強さ>
上記で得られた樹脂組成物ペレットを、120℃で5時間乾燥した後、射出成形機(J-85AD-60H)にて、シリンダー温度290℃、金型温度140℃の条件下で、JIS K7139多目的試験片(4mm厚)を射出成形した。
前記多目的試験片(4mm厚)を使用し、JIS K7111-1規格に基づいて、ノッチ無しシャルピー衝撃強さ(単位:KJ/m2)を測定した。
【0120】
<成形収縮率>
上記で得られたペレットを120℃で5時間乾燥した後、日精樹脂工業社製「NEX80-9E型」射出成形機を使用して、シリンダー温度290℃、表4または表5に示す金型温度にて、試験片(タテ100mm、ヨコ100mm、肉厚2.0mm)を成形した。得られた試験片を、室温23℃、湿度50%RH環境下で24時間以上調湿した。
その後、得られた試験片を用いて、MD(Machine Direction、流動方向とも言う。)およびTD(Transverse Direction、直角方向とも言う。)方向の寸法を計測し、金型の寸法を基準として成形収縮率(単位:%)を計算した。
【0121】
<ハコ型離型性>
上記で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所社製射出成形機(型締め力50T)を用い、表4または表5に示す、シリンダー温度および金型温度、ならびに、冷却時間30秒または20秒の条件にて、厚み1.5mmt、外寸30×50×15mm深さの箱型成形品を成形し、イジェクターピンの突出しで離型させた時の最大離型抵抗値(単位:MPa)を離型抵抗として評価した。最大離型抵抗値が15MPa以下であれば、実製品としたときに問題ないレベルと判断できる。
【0122】
<異材接合強度>
<<金属部材の処理>>
厚さが1.5mmのアルミニウム(JIS A5052)板上に株式会社東亜電化社製のTRIーSystemによる凹凸化を施した。
【0123】
<<金属樹脂複合体の製造>>
ISO19095に準拠し、上記表面を処理した金属部材(アルミニウム板)を長さ45mm×幅12mmの大きさに切断し、金型キャビティ内に装着した。
装着したアルミニウム板の凹凸表面側へ、上記で得られた樹脂ペレット(樹脂組成物)を120℃で4時間乾燥したものを用い、アルミニウム板と樹脂組成物の接合面積が長さ5mm×幅10mmとなるようにインサート成形(長さ45mm×幅10mm×厚3mm)し、図1に示すようなアルミニウム板(金属部材)1と樹脂組成物(熱可塑性樹脂部材)2が結合した金属樹脂複合体を成形した。
成形には、射出成形機(日本製鋼所社製「J100AD」)を用い、シリンダー温度280℃、金型温度140℃の条件で射出成形した。
【0124】
<<接合強度の測定>>
得られた金属樹脂複合体を用い、ISO19095に準拠し、接合性の評価を行った。
測定は、引張試験機(インストロン社製「5544型」)を使用し、接合して一体化された金属部材(アルミニウム板)1と樹脂組成物(熱可塑性樹脂部材)2とを、ISO19095に準拠した引張用治具を用いて、その長軸方向の両端をクランプで挟み、引張速度5mm/分、チャック間距離80mmの条件で引張り、接合強度(単位:MPa)を測定した。
【0125】
【表4】
【0126】
【表5】
【0127】
本実施形態の金属樹脂複合体は、金属部材と熱可塑性樹脂部材の接合強度に優れていた。さらに、熱可塑性樹脂部材の金型からの離型性にも優れていた。さらに、着色剤として、染料を用いることにより、顔料を用いる場合よりも、接合強度に優れていた。加えて、熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート樹脂に加え、ポリブチレンテレフタレート樹脂も併用することにより、より接合強度に優れていた。
【符号の説明】
【0128】
1:金属部材
2:熱可塑性樹脂部材
図1