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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078389
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】立体造形装置及び立体造形方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/14 20210101AFI20240603BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240603BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240603BHJP
   B22F 10/322 20210101ALI20240603BHJP
   B22F 12/52 20210101ALI20240603BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
B22F10/14
B33Y30/00
B33Y10/00
B22F10/322
B22F12/52
B28B1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122466
(22)【出願日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2022190257
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 健治
(72)【発明者】
【氏名】石井 洋光
【テーマコード(参考)】
4G052
4K018
【Fターム(参考)】
4G052DA02
4G052DB12
4G052DC06
4K018AA02
4K018AA03
4K018AA06
4K018AA07
4K018AA10
4K018AA14
4K018AA19
4K018AA21
4K018AA24
4K018AA33
4K018AA40
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA08
4K018BA09
4K018BA10
4K018BA13
4K018BA17
4K018BA20
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】立体造形物を造形する際に、安全性を向上する。
【解決手段】立体造形装置100は、造形エリアに粉体層31を形成する造形部1と、粉体層31に造形液10を吐出する液体吐出ユニット50と、造形前に少なくとも一部の空間の雰囲気を空気Aから所定のガスGに置換する雰囲気置換部701と、を備え、雰囲気置換部701は、空間内において所定のガスGと空気Aとの境界層Lを維持して置換する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形エリアに粉体層を形成する造形部と、
前記粉体層に造形液を吐出する液体吐出ユニットと、
造形前に少なくとも一部の空間の雰囲気を空気から所定のガスに置換する雰囲気置換部と、
を備え、
前記雰囲気置換部は、前記空間内において前記所定のガスと前記空気との境界層を維持して置換する、
立体造形装置。
【請求項2】
前記雰囲気置換部は、
前記造形部または前記液体吐出ユニットの少なくとも一方の周囲の雰囲気を前記空気から前記所定のガスに置換し、
前記所定のガスを前記空間に供給するガス供給部と、
前記空間内に設置され、前記ガス供給部により前記空間内に供給された前記所定のガスを通過させて整流して前記造形部または前記液体吐出ユニットに供給するガス整流部と、
前記空間内の前記空気を排出する排出部と、
を有する、
請求項1に記載の立体造形装置。
【請求項3】
前記雰囲気置換部は、
前記空間内に設置され、前記空間内の前記空気を通過させて整流して前記排出部に供給する空気整流部を有する、
請求項2に記載の立体造形装置。
【請求項4】
前記ガス供給部は、前記ガス整流部よりも上方から前記所定のガスを前記空間内に導入し、
前記排出部は、前記ガス整流部よりも下方から前記空気を排出する、
請求項2または3に記載の立体造形装置。
【請求項5】
前記所定のガスは、窒素、ヘリウム、ネオンのいずれかを含む、
請求項4に記載の立体造形装置。
【請求項6】
前記ガス供給部は、前記ガス整流部よりも下方から前記所定のガスを前記空間内に導入し、
前記排出部は、前記ガス整流部よりも上方から前記空気を排出する、
請求項2または3に記載の立体造形装置。
【請求項7】
前記所定のガスは、アルゴン、二酸化炭素のいずれかを含む、
請求項6に記載の立体造形装置。
【請求項8】
前記ガス供給部、前記ガス整流部、前記排出部は水平方向に配置され、
前記所定のガスは前記空間内を前記水平方向に流れる、
請求項2または3に記載の立体造形装置。
【請求項9】
前記造形部には、ホッパーにより造形材料が供給される、
請求項1に記載の立体造形装置。
【請求項10】
前記液体吐出ユニットは、前記粉体層に対して前記造形液をインクジェット方式で吐出する、
請求項1に記載の立体造形装置。
【請求項11】
前記粉体層に前記液体吐出ユニットで造形液が吐出された造形層を積層して形成される造形物を加熱する加熱部と、
加熱された前記造形物に付与された余剰な造形材料を除去してグリーン体を得る除去部と、
を含む、
請求項1に記載の立体造形装置。
【請求項12】
前記グリーン体を脱脂する脱脂部と、
脱脂された前記グリーン体を焼結する焼結部と、
を含む、
請求項11に記載の立体造形装置。
【請求項13】
造形エリアに粉体層を形成する造形部と、
前記粉体層に造形液を吐出する液体吐出ユニットと、
造形前に少なくとも一部の空間の雰囲気を空気から所定のガスに置換する雰囲気置換部と、
を備える立体造形装置を用いる立体造形方法であって、
前記雰囲気置換部が、前記空間内において前記所定のガスと前記空気との境界層を維持して置換するステップ
を含む立体造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形装置及び立体造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立体造形物(三次元造形物)を造形する立体造形装置(三次元造形装置)として、例えば積層造形法で造形するものが知られている。例えば、粉体層の粉体を結合した層状造形物を積層して立体造形物を造形するための立体造形方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1ではガスを効率的に利用することは考慮されていなかった。
【0004】
本発明は、ガスを効率的に利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明の一観点に係る立体造形装置は、造形エリアに粉体層を形成する造形部と、前記粉体層に造形液を吐出する液体吐出ユニットと、造形前に少なくとも一部の空間の雰囲気を空気から所定のガスに置換する雰囲気置換部と、を備え、前記雰囲気置換部は、前記空間内において前記所定のガスと前記空気との境界層を維持して置換する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、ガスを効率的に利用ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係る立体造形装置の平面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る立体造形装置の側面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る立体造形装置の要部の斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る立体造形装置の造形部の斜視図である。
図5】本発明の一実施形態に係る立体造形装置の制御部のブロック図である。
図6】本発明の一実施形態における立体造形物の造形動作を説明するための模式図である。
図7】本発明の第1実施形態に係る雰囲気置換部の概略構成を示す側面視の模式図である。
図8】本発明の第1実施形態に係る雰囲気置換部のガス供給系を示す上面視の模式図である。
図9】本発明の第1実施形態に係る雰囲気置換部の排出系の概略構成を示す下面視の模式図である。
図10】本発明の一実施形態に係る雰囲気置換部による効果を説明するための図である。
図11】雰囲気置換部への酸素濃度計の設置位置の一例を示す図である。
図12】境界層が形成されている場合の各酸素濃度計の数値の推移の一例を示す図である。
図13】境界層が形成されていない場合の各酸素濃度計の数値の推移の一例を示す図である。
図14】本発明の一実施形態に係るガス整流部の概略構成を示す平面図である。
図15】本発明の第1実施形態の第1変形例に係る雰囲気置換部の側面視の模式図である。
図16】本発明の第1実施形態の第2変形例に係る雰囲気置換部の側面視の模式図である。
図17】本発明の第1実施形態に係る雰囲気置換部による雰囲気置換の経緯を示す図である。
図18】本発明の第1実施形態の第1変形例に係る雰囲気置換部による雰囲気置換の経緯を示す図である。
図19】本発明の第1実施形態の第1変形例に係る雰囲気置換部による雰囲気置換の経緯を示す図である。
図20】本発明の第2実施形態に係る雰囲気置換部の概略構成を示す側面視の模式図である。
図21】本発明の第2実施形態の変形例に係る雰囲気置換部の概略構成を示す側面視(Y方向視)の模式図である。
図22】本発明の第2実施形態の変形例に係る雰囲気置換部の概略構成を示す上面視の模式図である。
図23】本発明の第2実施形態の変形例に係る雰囲気置換部の概略構成を示す側面視(X方向視)の模式図である。
図24】本発明の第2実施形態の変形例に係る雰囲気置換部による雰囲気置換の経緯を示す図である。
図25】本発明の第3実施形態に係る立体造形装置の概略構成を示す側面図である。
図26】本発明の一実施形態の立体造形用ロボット装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0009】
なお、以下の説明において、X方向、Y方向、Z方向は互いに垂直な方向である。X方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。X方向は液体吐出ユニット50のガイド部材54、55に沿う移動方向である。Y方向は、造形ユニット5のガイド部材71に沿う移動方向である。Z方向は、供給ステージ23、造形ステージ24、及び液体吐出ユニット50の昇降方向である。また、以下では説明の便宜上、Z正方向側を上側、Z負方向側を下側とも表現する場合がある。
【0010】
<立体造形装置の基本構成>
図1図6を参照して本発明の一実施形態に係る立体造形装置100について説明する。
【0011】
以下の説明では、造形ステージ24(造形エリア)に形成される粉体20の層を「粉体層31」と呼ぶ。粉体層31は、平坦化された層でもよい。また、粉体20は、金属又は非金属を含む。また、粉体層31に対して造形液10を吐出した層を「造形層30」を呼ぶ。造形層30は、造形液10が吐出されることによって粉体20が結合された層状造形物である。なお、「粉体層31」及び「造形層30」は、それぞれ一層のものをいう。さらに、複数の造形層30が積層されて形成される集合体であり、かつ造形が完成する前の状態のものを「造形物」と呼ぶ。一方、複数の造形層30が積層されて造形が完成したものを「立体造形物」と呼ぶ。なお、「立体造形物」は、粉体20が金属の場合、「造形物」が焼結された物であってもよい。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る立体造形装置100の平面図である。図2は、本発明の一実施形態に係る立体造形装置100の側面図である。図3は、本発明の一実施形態に係る立体造形装置100の要部の斜視図である。
【0013】
本実施形態に係る立体造形装置100は、粉体20(粉末ともいう)を積層して立体造形物を造形する粉体造形装置(粉末造形装置)である。立体造形装置100は、三次元造形装置や3Dプリンタなどと呼ばれる場合もある。
【0014】
立体造形装置100は、造形部1、造形ユニット5、及びメンテナンス機構61が含まれる。造形部1は、粉体20(粉末ともいう)が結合された層状造形物である造形層30を形成する。造形ユニット5は、造形部1の層状に敷き詰められた粉体層31に造形液10を吐出して立体造形物を造形する。
【0015】
造形部1は、粉末槽11、平坦化部12、モータ26、モータ27及びモータ28、及び、粉末除去板13が含まれる。
【0016】
粉末槽11は、粉末20を供給する供給槽21と、造形層30が積層されて立体造形物が造形される造形槽22が含まれる。供給槽21は、粉末20が供給される供給ステージ23が含まれる。造形槽22は、造形層30が積層される造形ステージ24が含まれる。モータ27、28は、それぞれ供給ステージ23、造形ステージ24を昇降させる。
【0017】
供給槽21の底部は、供給ステージ23がモータ27によって鉛直方向(高さ方向)に沿って昇降自在となっている。同様に、造形槽22の底部は、造形ステージ24がモータ28によって鉛直方向に沿って昇降自在となっている。より具体的には、図3の矢印で示されるZ方向に、供給ステージ23及び造形ステージ24は昇降される。供給ステージ23の側面は、供給槽21の内側面に接するように配置されている。造形ステージ24の側面は造形槽22の内側面に接するように配置されている。供給ステージ23及び造形ステージ24の上面は水平に保たれている。
【0018】
平坦化部12は、粉末20を平坦化する。モータ26は、平坦化部12を回転駆動させる。平坦化部12はリコーターとして回転体としてもよいし、板状部材としてブレードとしてもよい。平坦化部12は、供給槽21の供給ステージ23上に供給された粉末20を造形槽22に供給して平坦化し、粉体層31を形成する。
【0019】
ここで、図3で示される平坦化部12は、造形ステージ24のステージ面(粉末20が積層される面)に沿って、矢印のY方向に配置されている。この平坦化部12は、往復移動機構25により、ステージ面に対して相対的に往復移動される。また、平坦化部12は、モータ26によって、進行方向に対するカウンタ方向に回転駆動される。平坦化部12は、回転駆動された状態で、供給槽21の外側から供給槽21及び造形槽22の上方を通過するように水平移動する。これにより、粉体20が造形槽22上へと移送供給され、平坦化部12が造形槽22上を通過しながら粉末20を平坦化することで粉体層31が形成される。
【0020】
なお、本実施形態では粉末槽11が供給槽21と造形槽22の2つの槽を有することとしたが、造形槽22のみとしてもよい。この場合、造形槽22に粉末を供給して、平坦化部12で平坦化してもよい。
【0021】
粉末除去板13は、平坦化部12に付着した粉末20を除去する。粉末除去板13は、平坦化部12の周面に接触した状態で、平坦化部12と共に移動して平坦化部12に付着した粉末20を除去する。また、粉末除去板13は、平坦化部12が平坦化を行うときの回転方向に回転するときにカウンタ方向になる状態で配置されている。
【0022】
造形ユニット5は、液体吐出ユニット50を備える。液体吐出ユニット50は、キャリッジ51、ヘッド52、タンク装着部56が含まれる。
【0023】
液体吐出ユニット50は、ヘッド52から造形ステージ24の粉体層31に造形液10を吐出する。本実施形態のヘッド52は、液体吐出ヘッド52a、52bとして、2つの液体吐出ヘッドを含む構成としているが、1つでも良いし、3つ以上でも良い。また、ヘッド52a、52bは、液体を吐出する複数のノズルを配列したノズル列がそれぞれ2列配置されている。
【0024】
タンク装着部56は複数のタンク60が装着されている。複数のタンク60から液体吐出ヘッド52a、52bに液体が供給される。
【0025】
造形ユニット5は、ベース部材7上に配置されたガイド部材71に移動可能に保持されたスライダ部72を有し、造形ユニット5全体がX方向と直交するY方向(副走査方向)に往復移動可能となっている。また、キャリッジ51は、ガイド部材54、55によりヘッド52が移動可能に支持される。側板70は、ガイド部材54、55を保持して、Z方向に昇降可能とする。
【0026】
メンテナンス機構61は、液体吐出ユニット50のメンテナンスを行う。メンテナンス機構61は、キャップ62とワイパ63が含まれる。キャップ62を、ヘッド52のノズル面に密着させ、造形液10を吸引する。液体吐出ユニット50に詰まった粉末20の排出や高粘度化した造形液10を排出できる。ワイパ63は、ヘッド52のノズル面をワイピング(払拭)する。メンテナンス機構61は、液体吐出が行われない場合、ヘッド52をキャップ62で覆い、粉末20の混入、及び、造形液10の乾燥を防止する。
【0027】
図4は、本発明の一実施形態に係る立体造形装置100の造形部1の斜視図である。余剰粉末受け槽29は、供給槽21からの粉末20を余剰粉として受け取る。粉体層31を形成するときに平坦化部12によって移送供給される粉末20のうちの余剰な粉末20が生じるため、余剰粉末受け槽29で保持する。そして、供給槽21に戻される。余剰粉末受け槽29は、造形槽22の隣接した位置に構成され、上面が開放された凹形状となっている。
【0028】
また、供給槽21には粉末供給装置554がもうけられている。粉末供給装置554は、造形に必要な粉末20が保持されており、余剰粉末受け槽29で保持された余剰な粉末20も保持される。そして造形に必要な粉末20が粉末供給装置554から供給槽21へ供給される。粉末20の供給のための粉末搬送方法としては、スクリューを利用したスクリューコンベア方式や、エアーを利用した空気輸送方式などが挙げられる。
【0029】
図5は、本発明の一実施形態に係る立体造形装置100の制御部500のブロック図である。立体造形装置100の制御部500は、立体造形装置への情報を入力及する操作パネル522、造形環境として温度及び湿度などを検出するセンサ560、造形データ作成装置600、他、立体造形装置100の各種制御部、駆動部に接続されている。また、制御部500は、この立体造形装置100全体の制御を司るCPU501と、CPU501に立体造形制御を実行させるためのプログラム、その他の固定データを格納するROM502と、データ等を一時格納するRAM503を含む主制御部500Aを備えている。不揮発性メモリ(NVRAM)504は、データを保持する。ASIC505は、データに対する各種信号処理等を行う画像処理及びその他装置全体を制御するための入出力信号を処理する。I/F506は、造形データ作成装置600からのデータ等の送受信を行う。なお、造形データ作成装置600は、造形に必要なデータを装置であり、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置を用いることができる。立体造形装置100に情報処理装置を内蔵させてもよいし、それぞれ別個に保持してもよい。I/O507は、センサ560から検知された信号を取り込む。
【0030】
ヘッド駆動制御部508は、ヘッド52を駆動制御する。
【0031】
モータ駆動部510,511及び512は、それぞれ、X方向走査機構550、Z方向昇降機構551及びY方向走査機構552を駆動する。X方向走査機構550は、キャリッジ51をモータ、プーリ及びベルトから構成される主走査移動機構を介して主走査方向であるX方向に往復移動させる。Z方向昇降機構551は、液体吐出ユニット50をガイド部材54、55と共にZ方向に昇降させる。Y方向走査機構552は、造形ユニット5をY方向に往復移動させる。
【0032】
モータ駆動部513は、供給ステージ23を昇降させるモータ27を駆動する。モータ駆動部514は、造形ステージ24を昇降させるモータ28を駆動する。モータ駆動部515は、平坦化部12を移動させる往復移動機構25のモータ553を駆動する。モータ駆動部516は、平坦化部12を回転駆動させるモータ26を駆動する。供給系駆動部517は、供給槽21に粉末20を供給する粉末供給装置554を駆動させる。メンテナンス駆動部518はメンテナンス機構61を駆動させる。
【0033】
なお、制御部500のヘッド駆動制御部508、モータ駆動部510~516、供給系駆動部517、メンテナンス駆動部518は、それぞれが例えば制御基板などのハードウェアで構成される。または、制御部500のヘッド駆動制御部508、モータ駆動部510~516、供給系駆動部517、メンテナンス駆動部518は、主制御部500Aにより実行されるソフトウェアにより実装される構成でもよい。
【0034】
図6は、本発明の一実施形態に係る立体造形装置100における立体造形物の造形動作を説明するための模式図である。図6(a)では、造形槽22の造形ステージ24に、1層目の造形層30が形成される。造形層30上に次の造形層30を形成すると場合、供給槽21の供給ステージ23をZ1方向に上昇させ、造形槽22の造形ステージ24をZ2方向に下降させる。このとき、造形槽22の上面と平坦化部12の下部との間隔がΔt1となるように造形ステージ24の下降距離を設定する。この間隔Δt1は、次に形成する粉体層31の厚さに相当する。
【0035】
図6(b)では、粉末20が造形槽22へ供給される。具体的には、供給槽21の上面レベルよりも上方に位置する粉末20を、平坦化部12でY2方向として造形槽22側に移動する。
【0036】
図6(c)では、平坦化部12が、造形槽22の造形ステージ24のステージ面と平行となるように移動する。図6(d)では、造形ステージ24の造形層30上で所定の厚さΔt1になる粉体層31を形成する。ここで、平坦化部12は、造形槽22及び供給槽21の上面レベルとの距離を一定に保って移動できるようになっている。これにより、平坦化部12で粉末20を造形槽22の上へと搬送させつつ、造形槽22上又は既に形成された造形層30の上に均一の厚さΔt1の粉体層31を形成できる。
【0037】
図6(d)では、供給槽21の供給ステージ23および造形槽22の造形ステージ24をZ2方向に下降させて、供給槽21および造形槽22を下降させる。平坦化部12は、粉体層31を形成後、Y1方向に移動されて初期位置に戻される。
【0038】
図6(e)では、供給槽21の供給ステージ23および造形槽22の造形ステージ24をZ1方向に上昇させる。
【0039】
図6(f)では、液体吐出ユニット50のヘッド52から造形液10を吐出し、次の粉体層31に造形層30を積層する(造形)。粉体層31は、粉末20の層で、造形層30は、例えばヘッド52から吐出された造形液10が粉末20に付与された層をさす。これらの工程を繰り返して新たな造形層30を積層して造形物を構成する。必要に応じて、造形物(グリーン体)を焼結して立体造形物としてもよい。
【0040】
より詳細には、立体造形装置100は、造形層30を積層して形成される造形物を加熱する加熱部を造形ユニット5もしくは立体造形装置100の筐体に含んでもよい。また、立体造形装置100は、加熱部により加熱された造形物に付与された余剰な造形材料を除去してグリーン体を得る除去部と、を含む構成でもよい。さらに、立体造形装置100は、グリーン体を脱脂する脱脂部と、脱脂部により脱脂された前記グリーン体を焼結する焼結部と、を含む構成でもよい。もしくは、加熱部、除去部、脱脂部、焼結部は、立体造形装置100とは異なる装置として、加熱装置、除去装置、脱脂装置、焼結装置の構成としてもよい。また焼結装置は、脱脂部と焼結部を含んでも良い。加熱部、除去部、脱脂部により造形に余剰な粉末や造形液を除去できるので、精度が高く造形できる。
【0041】
また、立体造形装置100では、造形部1には、ホッパーにより造形材料が供給される構成でもよい。ホッパーを用いることにより、造形材料の供給が乱れないので、精度よく造形できる。また、液体吐出ユニット50は、粉体層31に対して造形液10をインクジェット方式で吐出する構成でもよい。インクジェット方式で造形液を吐出することにより、粉体層に対する造形液の着弾が乱れないので、精度よく造形できる。焼結部により積層した粉の密度を上げられるので、精度よく造形できる。
【0042】
粉末20としては、粉末ないし粒子の形態を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、金属、セラミックス、カーボン、ポリマーなどが挙げられるが、高強度な立体造形物を得る観点からは、最終的に焼結処理が可能な金属、セラミックスなどが好ましい。粉末20には、例えば、乾燥防止剤、粘度調整剤、界面活性剤、浸透剤、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、着色剤、安定化剤などの添加剤を含ませてもよい。
【0043】
金属としては、材質として金属を含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)等の難焼結体、マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、鉛(Pd)、銀(Ag)、インジウム(In)、錫(Sn)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ネオジウム(Nd)さらにこれらの合金が挙げられる。これらの中でも、ステンレス(SUS)鋼、鉄(Fe)、銅(Cu)、銀(Ag)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、あるいはこれらの合金などが好ましく、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅等の難焼結体、及びこれらの合金がより好ましい。アルミニウム合金としては、例えば、AlSi10Mg、AlSi12、AlSi7Mg0.6、AlSi3Mg、AlSi9Cu3、Scalmalloy、ADC12などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
金属の中でもアルミニウム(Al)やチタン(Ti)は、取り扱いが難しい材料として知られているので、本発明は金属としてアルミニウムやチタンが適用されることが好ましい。
【0045】
セラミックスとしては、例えば、酸化物、炭化物、窒化物、水酸化物などが挙げられる。酸化物としては、例えば、金属酸化物などが挙げられる。前記金属酸化物としては例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)などが挙げられる。ただし、これらは一例であって、これらに限定されるものではない。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
カーボンとしては、例えば、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレンなどが挙げられる。
【0047】
これらの材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
<第1実施形態>
図7図19を参照して第1実施形態について説明する。
【0049】
図7は、本発明の第1実施形態に係る雰囲気置換部701の概略構成を示す側面視の模式図である。図8は、本発明の第1実施形態に係る雰囲気置換部701のガス供給系を示す上面視の模式図である。図9は、本発明の第1実施形態に係る雰囲気置換部701の排出系の概略構成を示す下面視の模式図である。
【0050】
図7図9に示すように、第1実施形態に係る立体造形装置100は、一部の空間の雰囲気を空気から所定のガスに置換する雰囲気置換部701を備える。一部の空間として、例えば、図7図9に示す雰囲気置換部701は、造形部1の周囲を包囲して形成される。雰囲気置換部701は、例えば筐体などにより造形部1の周囲の空間を外部と区分して、造形部1の周囲の空間を雰囲気置換部701の内部空間とする。
【0051】
造形部1の粉面に酸素濃度を空気下より低い8%Vol以下にすることが望ましい。第1実施形態では、雰囲気置換部701の内部空間に造形部1を収容して、造形部1の周囲の雰囲気を空気から所定のガスに置換する。本実施形態では、置換するガス(不活性ガス)に、窒素(純度99%)を用いる。以下の説明では、窒素ガスを単に「ガス」と表記し、符号G1、G2で表す。また、置換される空気を符号A1、A2で表す。
【0052】
雰囲気置換部701は、ガス供給部702と、ガス整流部703と、空気整流部704と、排出部707とを備える。
【0053】
ガス供給部702は、一部の空間にガスを供給する。例えばガス供給部702は、造形部1の周囲の空間にガスを供給する。
【0054】
ガス整流部703は、空間内に設置され、ガス供給部702により空間内に供給されたガスを通過させて整流して造形部1または液体吐出ユニット50に供給する。
【0055】
空気整流部704は、空間内に設置され、空間内の空気を通過させて整流して排出部707に供給する。
【0056】
ガス整流部703及び空気整流部704は、例えば板状部材であり、その主面が内部空間においてガスや空気の流れ方向と対向するよう配置される。本実施形態では、ガス整流部703及び空気整流部704としてはパンチングメタルが適用される。パンチングメタルには多数の貫通孔751が設けられ、ガスや空気が貫通孔751を通過することによって整流されて低速の層流となって下流側に送り出される。
【0057】
排出部707は、内部空間内の空気を排出する。
【0058】
雰囲気置換部701では、ガス供給部702は、ガス整流部703よりも上方からガスを内部空間内に導入し、排出部707は、ガス整流部703(及び空気整流部704)よりも下方から空気を排出する。
【0059】
つまり、本実施形態では、上方側(Z正方向側)から順に、ガス供給部702、ガス整流部703、空気整流部704、排出部707の順で配置される。内部空間は、板状部材のガス整流部703と空気整流部704によって上下方向に3つの空間に区分されている。
【0060】
ガス整流部703により内部空間の上端部に上部個室705が形成され、この上部個室705にガス供給部702によってガスG1が導入される。上部個室705に導入されたガスG1は、ガス整流部703としてのパンチングメタルの多数の貫通孔751を通過することによって低速の層流として整流され、整流後のガスG2がガス整流部703より下方に流れる。
【0061】
このように、第1実施形態の雰囲気置換部701は、内部空間に導入されたガスG2を下方に流す。この構成に適用されるガスは、例えば窒素、ヘリウム、ネオンなど、空気A1より比重が小さいものが好ましい。
【0062】
整流後のガスG2は低速の層流であるので、内部空間に残る空気との間に境界層Lを維持しながら下方に移動することができる。これにより、内部空間における造形部1の周囲の雰囲気を空気からガスに迅速に置換することができる。
【0063】
空気整流部704により内部空間の下端部に下部個室706が形成される。ガスG2により下方に押し出される内部空間の空気A1は、空気整流部704としてのパンチングメタルの多数の貫通孔751を通過することによって、低速の層流として整流され、整流後の空気A2が下部個室706に導入される。この下部個室706に排出部707が配置されており、下部個室706に導入された整流後の空気A2は排出部707から外部に排出される。
【0064】
なお、排出系では空気整流部704や下部個室706を設けずに、ガスG2により下方に押し出される内部空間の空気A1を直接排出部707から排出する構成でもよい。
【0065】
図8を参照してガス供給部702の具体例について説明する。窒素発生装置などで生成した窒素、窒素ボンベの窒素を、ガス供給部702を通じ雰囲気置換部701の内部空間に導入する。
【0066】
ガス供給部702は、外部からガスG1を導入する配管720と、配管720から上部個室705内にガスG1を導入する複数の導入管721とを備える。ガスG1の導入は、例えば供給圧0.3MPa(G)、100l/minで行う。
【0067】
なお、ガス供給部702の流量を例えば200l/minにすることで、ガス置換の時間を短縮することができる。しかしながら、流量を大きくしすぎると境界層Lが破壊される可能性があるので注意が必要である。また、ガス供給部702の供給圧を高くすることで、ガス置換の時間を短縮することができる。しかし、供給圧を上げた場合、配管720に加わる圧力も高くなるのでガスリークへの注意が必要である。
【0068】
導入管721は、例えば、上部個室705内で2系統の分割菅722、723に分割される。分割菅722、723にはチューブ表面に直径0.5mm程度の孔が開けれており、その孔から窒素ガスG1が上部個室705内に吹き出す。分割菅722、723の先端724は封止されておりガスG1は止まる。
【0069】
図9を参照して排出部707の具体例について説明する。排出部707は、複数のダクト731と、集合ダクト732とを備える。
【0070】
空気整流部704のパンチングメタルを通過した空気A2(場合によってはガスG2も含まれる)は、下部個室706から雰囲気置換部701の筐体の背面や下面に配置された複数(図9では四本)のダクト731から排出される。複数のダクト731はさらに集合ダクト732につながっており、空気A2は集合ダクト732から外部(例えば建物の設備のダクトなど)に排出される。
【0071】
本実施形態では、排出部707にダクト731を複数個所に配置することで、排気の均一性を保つことができるので、ガスG2と空気A1の境界層Lを壊すことをさらに抑制できる。
【0072】
図10は、本発明の一実施形態に係る雰囲気置換部701による効果を説明するための図である。図10は、造形部1の周囲の雰囲気を空気からガスに置換する際の酸素濃度の推移を示す。図10の横軸は時間(分)を示し、縦軸は酸素濃度(%)を示す。図10では、本実施形態に係る雰囲気置換部701を適用した場合の推移を太い実線のグラフEで示す。一方、比較例として従来の置換手法、本実施形態に係る雰囲気置換部701を用いずに、配管などを用いてガスを造形部1の周囲に直接導入した場合の推移を太い点線のグラフCで示す。
【0073】
図10の例では、窒素ガスを供給し酸素濃度を8%Vol以下にすることが目的である。図10には、酸素濃度が8%Volの閾値ラインTを細い一点鎖線で示す。
【0074】
従来手法のグラフCでは、ガスと空気との境界層Lを維持できず、ガスと空気とが混合されながら徐々に雰囲気が空気からガスに置換される。このため、酸素濃度が所望の閾値ラインに到達するまでの所要時間t2は相対的に長い。一方、本実施形態のグラフEでは、酸素濃度が所望の閾値ラインに到達するまでの所要時間t1は、従来の所要時間t2に比べて約半分の時間でガス置換が可能なことがわかる。つまり、短時間かつ少ない量(同じ流量で窒素を流しているので、窒素量は時間に比例して多くなる)でガス置換ができる。
【0075】
ここで、本実施形態において、ガスG2と空気A1の境界層Lが維持されていることの立証をどう行うかの判断方法の一例について説明する。
【0076】
この例では、大気を窒素に置換し、酸素濃度をある一定以下にする場合で説明する。大気の酸素濃度は20%程度である。
【0077】
まず、図11に示すように、3つの酸素濃度計740A、740B、740Cを雰囲気置換部701の内部にセットする。図11は、雰囲気置換部701への酸素濃度計740A、740B、740Cの設置位置の一例を示す図である。図11に示す雰囲気置換部701の構成の概略は、図7のものと同様である。
【0078】
図11に示すように、3つの酸素濃度計740A、740B、740Cは、この順番で窒素供給部(図中のガス整流部703)により近くなるように配置される。つまり、3つの酸素濃度計740A、740B、740Cは、雰囲気置換部701の内部において、この順番で上方側(Z正方向側)から下方側(Z負方向側)へZ方向に沿って並んで配置される。また、酸素濃度計740Aは、ガス整流部703と空気整流部704との間の空間のうち、ガス整流部703に近い側に配置される。酸素濃度計740Bは、ガス整流部703と空気整流部704との間の空間のうち、空気整流部704に近い側に配置される。酸素濃度計740Cは、空気整流部704より下方の下部個室706に配置される。
【0079】
次に窒素を所定の方法(例えば図7を参照して説明した手順)で供給する。このとき、酸素濃度計740A、740B、740Cの数値の変化を記録し、境界層Lが形成されたか否かを判断する。この判断は、例えば立体造形装置100の制御部500などが実施することができる。
【0080】
図12は、境界層Lが形成されている場合の各酸素濃度計740A、740B、740Cの数値の推移の一例を示す図である。図12では、酸素濃度計740A、740B、740Cにより計測された酸素濃度の推移をそれぞれ太い実線のグラフE1、太い点線のグラフE2、太い一点鎖線のグラフE3で示している。また、図12には、酸素濃度が8%Volの閾値ラインTを細い点線で示す。図12に示すように、窒素供給部に近い側から濃度が下がれば、すなわち、酸素濃度が下がり始める順番が、酸素濃度計740A、酸素濃度計740B、酸素濃度計740Cの順である場合に、境界層Lができたと判断することができる。
【0081】
図13は、境界層Lが形成されていない場合の各酸素濃度計740A、740B、740Cの数値の推移の一例を示す図である。図13中の各グラフE1、E2、E3と閾値ラインTの概要は図12のものと同様である。図13に示すように、各酸素濃度計740A、740B、740Cの変化が重なった場合は、境界層Lができていないと判断することができる。
【0082】
なお、境界層Lができていない場合の各酸素濃度計740A、740B、740Cにより計測された酸素濃度の推移は図13に示す例に限られない。例えば、酸素濃度計740Aの変化が酸素濃度計740Cの上側に来る場合、すなわち酸素濃度計740Cのほうが酸素濃度計740Aよりも早いタイミングで下がりはじめる場合などもある。
【0083】
また、境界層Lを判断する方法は、ダミーのガスとしてドライアイスを流し、可視化する方法などもある。
【0084】
境界層Lについてだが、明確な境界できるわけではなく、比較的境界ができたような挙動という点であることに注意が必要である。
【0085】
図14は、本発明の一実施形態に係るガス整流部703及び空気整流部704概略構成を示す平面図である。本実施形態では、ガス整流部703及び空気整流部704としてパンチングメタルが適用される。
【0086】
パンチングメタルの構造は、Z方向の厚みが1~5mm、孔751の開度が直径0.1~5mmで、主面の面積に対する孔751の開口率5~50%程度が好ましい。
【0087】
図14に示す例は、本実施形態で適用したパンチングメタルの一例であり、板厚は1.5mm、穴751の径Dは5mm、穴751のピッチPは14mm、孔751の中心間のなす角度θは60°となるよう形成されるパンチングメタルを用いた。
【0088】
パンチングメタルの材料としては、鋼板、メッキ鋼板、カラー鋼板、ステンレス鋼板、アルミ板、チタン板などの金属材料が好ましい。具体的には、一般構造用圧延鋼板(SS)、冷延鋼板(SPCC-SD)、熱廷鋼板(SPHC-P)、亜鉛鋼板(SGCC、SGHC)、高張力鋼板、ステンレス鋼板(SUS)、アルミニウム鋼板(ALP)、表面処理鋼板、亜鉛メッキ鋼板、電気メッキ鋼板(ボンデ、SECC、SEHC)、溶融亜鉛メッキ鋼板(ジンク、SGCC、SGHC)、アルミメッキ鋼板(アルスター)、カラー鋼板、黄銅板(真鍮板)、銅板、チタン板(Tip)、塩化ビニール板(PVC)等、CFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)などが好ましい。
【0089】
パンチングメタルの厚みがない場合は、補強の構造体の上に配置する構成でもよい。これにより整流作用と強度とを両立できる。また、パンチングメタルは小さいサイズに分割して敷き詰めてもよい。これにより組立性を向上できる。また、パンチングメタルを2枚以上の複数枚重ねる構成でもよい。これにより整流作用を向上できる。
【0090】
なお、ガス整流部703及び空気整流部704は、通過するガスや空気を整流することができればよく、パンチングメタル以外の要素を適用してもよい。
【0091】
例えば、樹脂多孔質板を適用してもよい。樹脂多孔質板としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の均一なプラスチック粉末を焼結成形した連続多孔質体がある。樹脂多孔質板を適用する効果としては、穴が細かいので、安定した層流を形成できる。
【0092】
また、金属多孔質板を適用してもよい。金属多孔質板としては、例えばブロンズ(BC/青銅)、ステンレス(SUS304/SUS316L)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、インコネル(innconel)、チタン(Ti)、酸化チタン(TiO)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)の粉末を焼結成形した連続多孔質体がある。
【0093】
また、精密多孔板を適用してもよい。精密多孔板は、例えばステンレス・ニッケル・アルミなどの極薄板(厚さ0.03~3mm程度)に無数の微細孔・貫通孔(直径5μm~2mm程度)を均質にあけた薄板で、エッチング・エレクトロフォーミング(電鋳)・電子ビーム(EBP)・レーザー・ドリル加工・放電加工等で製作される。精密多孔板を適用する場合には、板厚が薄いため、別途構造体を設けその上に精密多孔質板を敷く。
【0094】
第1実施形態に係る立体造形装置100は、造形前に造形部1の周囲の空間の雰囲気を空気A1から所定のガスG2に置換する雰囲気置換部701を備える。雰囲気置換部701は、造形部1の周囲の空間内において所定のガスG2と空気A1との境界層Lを維持して置換する。
【0095】
この構成により、第1実施形態の立体造形装置100は、ガスを効率的に利用することができる。また、所定のガスG2として不活性ガスを用いると、造形部1の周囲の空間の雰囲気が不活性ガスに置換されるので、雰囲気の酸素濃度を低下させることができる。さらに、ガスG2と空気A1との境界層Lを維持して置換を行うことにより、ガス置換時に機内に堆積した粉じんを舞い上げないことが可能となるので、短時間かつ少量でガス充填ができる。この結果、第1実施形態の立体造形装置100は、粉体層31や造形層30を形成する空間の雰囲気を空気A1から不活性ガスG2に置換するための所要時間を短縮することができる。
【0096】
また、第1実施形態に係る立体造形装置100では、雰囲気置換部701は、所定のガスG1を造形部1の周囲の空間に供給するガス供給部702と、空間内に設置され、ガス供給部702により空間内に供給された所定のガスG1を通過させて整流して造形部1に供給するガス整流部703と、空間内の空気A1を排出する排出部707と、を有する。
【0097】
この構成により、ガス供給部702により導入されたガスG1を直接造形部1の周囲の空間に送り出さずに、一旦ガス整流部703により整流して、低速の層流となったガスG2を造形部1側に送り出すことができる。これにより、ガスG2と空気A1との境界層Lを維持して置換することをより確実にできるので、ガス置換の所要時間をより確実に短縮できる。
【0098】
また、第1実施形態に係る立体造形装置100では、雰囲気置換部701は、造形部1の周囲の空間内に設置され、空間内の空気A1を通過させて整流して排出部707に供給する空気整流部704を有する。
【0099】
この構成により、ガス置換の際に造形部1の周囲の空間の空気A1を直接排出部707に送り出さすに、一旦空気整流部704により整流して、定速の層流となった空気A2を排出部707側に送り出すことができる。これにより、造形部1の周囲の空間の空気A1が急激に排出されることを抑制できるので、ガスG2と空気A1との境界層Lの維持をより確実にできる。また、ガス置換時に機内に堆積した粉じんを舞い上げないことがより確実に可能となる。
【0100】
なお、ガス整流部703や空気整流部704としてパンチングメタルを適用することにより、整流作用を安価に実現できる。
【0101】
また、第1実施形態に係る立体造形装置100では、ガス供給部702は、ガス整流部703よりも上方から所定のガスG1を造形部1の周囲の空間内に導入し、排出部707は、ガス整流部703(及び空気整流部704)よりも下方から空気A2を排出する。
【0102】
この構成により、特に空気より軽いガスを用いる場合に、造形部1の周囲の空間の雰囲気を効率よくガスに置換できる。このような所定のガスとしては、窒素、ヘリウム、ネオンのいずれかを含むのが好ましい。
【0103】
図15は、本発明の第1実施形態の第1変形例に係る雰囲気置換部801の概略構成を示す側面視の模式図である。
【0104】
第1変形例の雰囲気置換部801は、内部空間に導入されたガスG2を上方に流す点が雰囲気置換部701と異なる。この構成に適用されるガスは、例えばアルゴン、二酸化炭素など、空気A1より比重が大きいものが好ましい。
【0105】
雰囲気置換部801は、雰囲気置換部701のガス供給部702(図8参照)及び排出部707(図9参照)と同様の要素を備える。また、雰囲気置換部801は、雰囲気置換部701の上部個室705、ガス整流部703、空気整流部704、下部個室706と同様の機能を有する下部個室805、ガス整流部803、空気整流部804、上部個室806を備える。
【0106】
雰囲気置換部801のガス供給部は、ガス整流部803よりも下方からガスG1を内部空間内に導入し、排出部は、ガス整流部803(及び空気整流部704)よりも上方から空気A2を排出する。
【0107】
ガスG1は下部個室805に導入される。下部個室805内の配管は、図8に例示した構成と同様でよい。下部個室805内のガスG1は、ガス整流部803としてのパンチングメタルの多数の貫通孔751を通過することによって低速の層流として整流され、整流後のガスG2がガス整流部803より上方に流れる。
【0108】
整流後のガスG2は低速の層流であるので、内部空間に残る空気との間に境界層Lを維持しながら上方に移動することができる。これにより、内部空間における造形部1の周囲の雰囲気を空気からガスに迅速に置換することができる。
【0109】
ガスG2により上方に押し出される内部空間の空気A1は、空気整流部804としてのパンチングメタルの多数の貫通孔751を通過することによって、低速の層流として整流され、整流後の空気A2が上部個室806に導入される。この上部個室806に排出部が配置されている。排出部の構成は図9に例示した構成と同様でよい。上部個室806に導入された整流後の空気A2は排出部から外部に排出される。
【0110】
第1実施形態の変形例に係る雰囲気置換部801では、ガス供給部802は、ガス整流部803よりも下方から所定のガスG1を造形部1の周囲の空間内に導入し、排出部807は、ガス整流部803(及び空気整流部804)よりも上方から空気A2を排出する。
【0111】
この構成により、特に空気より重いガスを用いる場合に、造形部1の周囲の空間の雰囲気を効率よくガスに置換できる。このような所定のガスとしては、アルゴン、二酸化炭素のいずれかを含むのが好ましい。
【0112】
図16は、本発明の第1実施形態の第2変形例に係る雰囲気置換部901の概略構成を示す側面視の模式図である。
【0113】
第2変形例の雰囲気置換部901は、内部空間に導入されたガスG2を水平方向(図16の例ではY負方向)に流す点が雰囲気置換部701と異なる。例えば乾燥空気(湿度20%RH以下)に置換する場合に、第2変形例の雰囲気置換部901の構成を用いるのが好ましい。湿度が造形品質に影響がある場合に有効である。
【0114】
雰囲気置換部901は、雰囲気置換部701のガス供給部702(図8参照)及び排出部707(図9参照)と同様の要素を備える。また、雰囲気置換部901は、雰囲気置換部701の上部個室705、ガス整流部703、空気整流部704、下部個室706と同様の機能を有する上流側個室905、ガス整流部903、空気整流部904、下流側個室906を備える。
【0115】
雰囲気置換部901のガス供給部、上流側個室905、ガス整流部903、空気整流部904、下流側個室906、排出部は水平方向に配置され、所定のガスG2は内部空間内を水平方向に流れる。
【0116】
ガスG1は上流側個室905に導入される。上流側個室905内の配管は、図8に例示した構成と同様でよい。上流側個室905内のガスG1は、ガス整流部903としてのパンチングメタルの多数の貫通孔751を通過することによって低速の層流として整流され、整流後のガスG2がガス整流部903よりY負方向側に流れる。
【0117】
整流後のガスG2は低速の層流であるので、内部空間に残る空気A1の間に境界層Lを維持しながらY負方向側に移動することができる。これにより、内部空間における造形部1の周囲の雰囲気を空気からガスに迅速に置換することができる。
【0118】
ガスG2によりY負方向側に押し出される内部空間の空気A1は、空気整流部904としてのパンチングメタルの多数の貫通孔751を通過することによって、低速の層流として整流され、整流後の空気A2が下流側個室906に導入される。この下流側個室906に排出部が配置されている。排出部の構成は図9に例示した構成と同様でよい。下流側個室906に導入された整流後の空気A2は排出部から外部に排出される。
【0119】
図17は、本発明の第1実施形態に係る雰囲気置換部701による雰囲気置換の経緯を示す図である。図17(A)~(C)は、それぞれ雰囲気置換過程の各段階における雰囲気置換部701の内部空間の雰囲気を模式的に示している。
【0120】
図17(A)に示す初期状態では、内部空間はすべて空気A1で満たされている状態にある。雰囲気置換部701による置換を始めると、図17(B)に示すように、ガスG2が上から内部空間に入り、空気A1を下に押しやる。このとき、ガスG2と空気A1との境界層Lができ、境界層Lが維持されたまま下方に移動する。そして、図17(C)に示す最終状態になると、内部空間はガスG2で満たされる。
【0121】
図18は、本発明の第1実施形態の第1変形例に係る雰囲気置換部801による雰囲気置換の経緯を示す図である。図18(A)~(C)の各図の概要は、図17(A)~(C)と同様である。
【0122】
図18(A)に示す初期状態では、内部空間はすべて空気A1で満たされている状態にある。雰囲気置換部801による置換を始めると、図18(B)に示すように、ガスG2が下から内部空間に入り、空気A1を上に押しやる。このとき、ガスG2と空気A1との境界層Lができ、境界層Lが維持されたまま上方に移動する。そして、図18(C)に示す最終状態になると、内部空間はガスG2で満たされる。
【0123】
図19は、本発明の第1実施形態の第1変形例に係る雰囲気置換部901による雰囲気置換の経緯を示す図である。図19(A)~(C)の各図の概要も、図17(A)~(C)と同様である。
【0124】
図19(A)に示す初期状態では、内部空間はすべて空気A1で満たされている状態にある。雰囲気置換部901による置換を始めると、図19(B)に示すように、ガスG2が図中左側から内部空間に入り、空気A1を右側に押しやる。このとき、ガスG2と空気A1との境界層Lができ、境界層Lが維持されたまま右側に移動する。そして、図19(C)に示す最終状態になると、内部空間はガスG2で満たされる。
【0125】
図17図19に示すように、第1実施形態の雰囲気置換部701、801,901によって、雰囲気置換過程においてガスと空気との境界層Lが維持することができるので、短時間かつ最小量でガス置換ができる。一方、例えばガスが内部空間に一時に大量に導入されると、境界層Lを維持できずに破壊される場合がある。境界層Lが破壊されると、ガスが空気側に乱れて侵入し、この侵入したガスも空気とともに排気しながら置換する。このため、侵入したガスの分だけ、必要なガスが多くなり、時間も長くなる。
【0126】
<第2実施形態>
図20図24を参照して第2実施形態について説明する。
【0127】
図20は、本発明の第2実施形態に係る雰囲気置換部2101の概略構成を示す側面視の模式図である。
【0128】
図20に示すように、第2実施形態に係る立体造形装置100は、一部の空間の雰囲気を空気から所定のガスに置換するための雰囲気置換部2101を備える。一部の空間として、図20に示す雰囲気置換部2101は、液体吐出ユニット50の液体吐出ヘッド52a、52bの周囲を包囲して形成される。雰囲気置換部2101は、例えば液体吐出ユニット50の筐体などにより液体吐出ヘッド52a、52bの周囲の空間を外部と区分して、液体吐出ヘッド52a、52bの周囲の空間を雰囲気置換部2101の内部空間とする。
【0129】
なお、雰囲気置換部2101は、液体吐出ユニット50の外側を別の筐体で包囲して、液体吐出ユニット50全体の周囲の雰囲気をガスに置換する構成でもよい。
【0130】
雰囲気置換部2101は、第1実施形態の雰囲気置換部701のガス供給部702、上部個室705、ガス整流部703、空気整流部704、下部個室706、排出部707と同様の機能を有するガス供給部2102、上部個室2105、ガス整流部2103、空気整流部2104、下部個室2106、排出部2107を備える。
【0131】
空気整流部2104の上面は、液体吐出ユニット50の液体吐出ヘッド52a、52bのノズル面と同じ位置にある。
【0132】
ガス供給部2102はガスG1を液体吐出ユニット50内の上部個室2105に導入する。上部個室2105内の配管は、図8に例示した構成と同様でよい。上部個室2105内のガスG1は、ガス整流部2103としてのパンチングメタルの多数の貫通孔751を通過することによって低速の層流として整流され、整流後のガスG2がガス整流部803より下方に流れる。
【0133】
整流後のガスG2は低速の層流であるので、液体吐出ユニット50内に残る空気との間に境界層Lを維持しながら下方に移動することができる。これにより、液体吐出ユニット50の内部空間における液体吐出ヘッド52a、52bの周囲の雰囲気を空気からガスに迅速に置換することができる。
【0134】
ガスG2により下方に押し出される内部空間の空気A1は、空気整流部2104としてのパンチングメタルの多数の貫通孔751を通過することによって、低速の層流として整流され、整流後の空気A2が下部個室2106に導入される。下部個室2106に導入された整流後の空気A2は排出部2107から外部に排出される。
【0135】
第2実施形態に係る雰囲気置換部2101による雰囲気置換の経緯は、図17を参照して説明した第1実施形態に係る雰囲気置換部701の内容と同様となる。
【0136】
第2実施形態に係る立体造形装置100は、造形前に液体吐出ユニット50の周囲の空間の雰囲気を空気A1からガスG2に置換する雰囲気置換部2101を備える。雰囲気置換部2101は、雰囲気を置換するときに液体吐出ユニット50の周囲の空間内においてガスG2と空気A1との境界層Lを維持して置換する。
【0137】
第2実施形態に係る雰囲気置換部2101の効果は、第1実施形態と同様にガス置換の所要時間の短縮化もあるが、その他に液体吐出ユニット50内部からガスを吐き出すことで、粉の進入を防止できる。このため、液体吐出ユニット50の底面を空気整流部2104としている。
【0138】
第2実施形態に係る雰囲気置換部2101は、第1実施形態の雰囲気置換部701のガス供給部702、上部個室705、ガス整流部703、空気整流部704、下部個室706、排出部707と同様の機能を有するガス供給部2102、上部個室2105、ガス整流部2103、空気整流部2104、下部個室2106、排出部2107を備える。これにより、第2実施形態の雰囲気置換部2101でも、第1実施形態の各要素と同様の効果を奏することができる。
【0139】
図21は、本発明の第2実施形態の変形例に係る雰囲気置換部2201の概略構成を示す側面視(Y方向視)の模式図である。図22は、本発明の第2実施形態の変形例に係る雰囲気置換部2201の概略構成を示す上面視の模式図である。図23は、本発明の第2実施形態の変形例に係る雰囲気置換部2201の概略構成を示す側面視(X方向視)の模式図である。
【0140】
第2実施形態の変形例に係る雰囲気置換部2201は、内部空間に導入されたガスG2を水平方向(図21図22の例ではX正方向及びX負方向)に流す点が雰囲気置換部2101と異なる。
【0141】
雰囲気置換部2201は、雰囲気置換部2101のガス供給部2102及び排出部2107と同様の要素を備える。また、雰囲気置換部2201は、雰囲気置換部2101の上部個室2105、ガス整流部2103、空気整流部2104、下部個室2106と同様の機能を有する中央個室2205、ガス整流部2203、空気整流部2204、外側個室2206を備える。
【0142】
雰囲気置換部2201は、液体吐出ユニット50の内部区間のZ方向視の中央部に、Z方向に沿って延在して、液体吐出ユニット50の筐体の上面と下面とを連結する柱2221を備える。柱2221は、2つの液体吐出ヘッド52a、52bのX方向の中間位置に配置される。柱2221は、例えば図22に示すようにZ方向視の断面形状が楕円状などの遠心側に凸形状となる曲面形状に形成されるのが好ましい。
【0143】
図23に示すように、柱2221の表面に、ガス供給部の一要素としての複数の配管2231が設置される。なお、図23では複数のうち1つの配管2231のみを図示している。複数の配管2231は、それぞれZ方向に延在して、柱2221のZ軸まわりの周面方向に沿って略等間隔に配置される。また、各配管2231は、液体吐出ユニット50の筐体の上面から外部に露出し、外部の集合配管などに連通されている。
【0144】
ガス発生装置などで生成したガスや、ガスボンベのガスが、ガス供給部によって上方から配管2231に導入される。各配管2231の表面には直径0.5mm程度の孔が複数個開けられており、それらの孔からガスG1が吹き出す。配管2231の下端2234は封止されておりガスは止まる。
【0145】
図22に示すように、ガス整流部2203はZ方向視において柱2221と略同心円状に配置される。これにより、中央個室2205は、柱2221及び複数の配管2231の外周側にガス整流部2203との間に所定幅で形成される。
【0146】
液体吐出ユニット50の筐体のX正方向側の端部と、X負方向側の端部には、それぞれ法線方向がX方向となる向きで一対の空気整流部2204が配置されている。これにより、液体吐出ユニット50の筐体のX正方向側の端部と、X負方向側の端部がそれぞれ空気整流部2204により区分されて、一対の外側個室2206が形成される。
【0147】
雰囲気置換部2201では、液体吐出ユニット50の中心部の複数の配管2231(図23)からガスG1が中央個室2205に導入される。中央個室2205内のガスG1は、ガス整流部2203としてのパンチングメタルの多数の貫通孔751を通過することによって低速の層流として整流され、整流後のガスG2がガス整流部2203よりX方向両側に流れる。
【0148】
整流後のガスG2は低速の層流であるので、内部空間に残る空気との間に一対の境界層Lを維持しながらX方向両側に移動することができる。これにより、液体吐出ユニット50の内部空間における液体吐出ヘッド52a、52bの周囲の雰囲気を空気からガスに迅速に置換することができる。
【0149】
ガスG2によりX方向両側に押し出される内部空間の空気A1は、一対の空気整流部2204としてのパンチングメタルの多数の貫通孔751を通過することによって、低速の層流として整流され、整流後の空気A2が一対の外側個室2206に導入される。この外側個室2206に排出部が配置されている。排出部の構成は図9に例示した構成と同様でよい。一対の外側個室2206に導入された整流後の空気A2は排出部から外部に排出される。
【0150】
また、図21に示すように液体吐出ヘッド52a、52bの下面には造形液10を吐出する吐出口52cが設けられる。図20では吐出口52cの図示を省略しているが、空気整流部2104や排出部2107とは別系統で設置されている。
【0151】
図24は、本発明の第2実施形態の変形例に係る雰囲気置換部2201による雰囲気置換の経緯を示す図である。図24(A)~(C)の各図の概要は、図17(A)~(C)と同様である。
【0152】
図24(A)に示す初期状態では、液体吐出ユニット50の内部空間はすべて空気A1で満たされている状態にある。雰囲気置換部2201による置換を始めると、図24(B)に示すように、ガスG2が中央部から内部空間に入って左右に広がり、空気A1を左右外側に押しやる。このとき、ガスG2と空気A1との間に一対の境界層Lができ、一対の境界層Lが維持されたまま左右外側に移動する。そして、図24(C)に示す最終状態になると、内部空間はガスG2で満たされる。
【0153】
<第3実施形態>
図25は、本発明の第3実施形態に係る立体造形装置100の概略構成を示す側面図である。図25に示すように、第3実施形態に係る立体造形装置100は、造形部1の周囲の空間の雰囲気を空気からガスに置換する、第1実施形態に係る雰囲気置換部701、801、901と、液体吐出ユニット50の周囲の空間の雰囲気を空気からガスに置換する、第2実施形態に係る雰囲気置換部2101、2201の両方を備える。
【0154】
第3実施形態の場合、雰囲気置換部2101、2201の排出部は、造形部1の周囲の空間に空気が排出されないように、チューブ配管などを利用して雰囲気置換部701、801、901の筐体より外部に排出箇所が配置されるよう構成するのが好ましい。これにより、造形部1の雰囲気置換と、液体吐出ユニット50の雰囲気置換との両方を迅速に実施することができる。
【0155】
これまでの実施形態では立体造形装置100で造形ユニット5を用いる例を説明した。次に立体造形装置100で造形ユニット5に代えて、立体造形用ロボット装置5aを用いる例について説明する。図26は、本発明の一実施形態の立体造形用ロボット装置5aの概略図を示す。立体造形装置100は、例えば図26に示すように、造形ユニット5の代わりに立体造形用ロボット装置5aを適用して、立体造形ロボットシステム100aとしてもよい。
【0156】
立体造形用ロボット装置5aは、複数の関節部2321a、2321b、2321cと、複数の接続部2322a、2322b、2322cと、エンドエフェクタとしての担持部2350a、2350bと、液体吐出ユニット50と、を少なくとも含む。
【0157】
複数の関節部2321a、2321b、2321cは、それぞれ駆動源により回転駆動されるロボットアームの関節部分である。複数の接続部2322a、2322b、2322cは、隣接する関節部の間に連結されるロボットアームのリンク部分である。なお、図26の例では、立体造形用ロボット装置5aは、それぞれ3つの関節部2321a、2321b、2321cと、接続部2322a、2322b、2322cとを有する三自由度の構成を例示しているが、四自由度以上の構成でもよい。
【0158】
担持部2350a、2350bは、ロボットアームの先端に設置されるエンドエフェクタの一例である。図26の例では、最も先端側に配置される接続部2322aの先端に設置される。担持部2350a、2350bは、例えば一対の板状部材が相互に対向配置され、接続部2322aの延在方向と直交する方向に移動可能に設置される。そして、一対の担持部2350a、2350bが相互に接近する方向に移動することによって、両者の間にある物体を担持できる。また、相互に離れる方向に移動することによって、担持していた物体を離すことができる。
【0159】
図26の例では、担持部2350a、2350bは、上記実施形態の液体吐出ユニット50のヘッド52を、造形液10の吐出方向が下方となるように担持する。複数の関節部2321a、2321b、2321cと、複数の接続部2322a、2322b、2322cとは、担持部2350a、2350bにより担持されているヘッド52の姿勢を維持しながら、ヘッド52を任意の位置に移動させることができる。また、立体造形用ロボット装置5aの担持部2350a、2350bの下方には、上記実施形態と同様の造形部1が設置されている。立体造形用ロボット装置5aは、ヘッド52を造形部1上で任意に移動させながらヘッド52から造形液10を吐出させることで、造形部1の造形ステージ24上に造形層30を形成し、これを繰り返すことで立体造形物を形成できる。
【0160】
なお、担持部2350a、2350bは、液体吐出ユニット50のヘッド52を担持できればよく、図26の例のように所定方向両側からの把持機構には限られない。例えば空気や磁石などによる吸着機構を適用してもよいし、爪やボルトなどによる係合機構を適用してもよい。
【0161】
立体造形用ロボット装置5aは、制御装置(例えば上記実施形態の制御部500)からの制御信号に応じて、複数の関節部2321a、2321b、2321cの少なくとも一部のアクチュエータを駆動して、液体吐出ユニット50を所定の位置に移動させてヘッド52から造形液を吐出する。なお、複数の接続部2322a、2322b、2322cの少なくとも一部は、制御装置からの制御信号に応じて伸縮する構成としてもよい。
【0162】
つまり、図26に示す例では、立体造形ロボットシステム100a及び立体造形用ロボット装置5aが、上記実施形態の立体造形装置100及び造形ユニット5と対応する。
【0163】
また、担持部2350a、2350bは、立体造形物を担持させることもできる。担持部2350a、2350bを駆動させて立体造形物を担持し、所定の場所を移動させることができるので、効率よく造形できる。例えば、加熱部、除去部、脱脂部、焼結部が、立体造形ロボットシステム100aとは異なる別の装置である加熱装置、除去装置、脱脂装置、焼結装置として設けられる構成の場合、立体造形用ロボット装置5aの担持部2350a、2350bを利用して立体造形物を効率よく移動させることができる
【0164】
図26の例でも、図7図9などの実施形態と同様に、一部の空間として造形部1や、液体吐出ユニット50(ヘッド52)や、立体造形用ロボット装置5aの周囲を包囲して雰囲気置換部701を形成してもよい。雰囲気置換部701は、例えば筐体などにより造形部1や液体吐出ユニット50の周囲の空間を外部と区分して、造形部1や液体吐出ユニット50の周囲の空間を雰囲気置換部701の内部空間とする。
【0165】
<国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)への貢献>
本発明の各実施形態は、所定のガスの廃棄ロスに寄与することができるので、SDGsの目標12、13に貢献できる。
【0166】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0167】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 造形エリアに粉体層を形成する造形部と、
前記造形部に積層された前記粉体層に造形液を吐出して造形層を形成する液体吐出ユニットと、
造形前に少なくとも一部の空間の雰囲気を空気からガスに置換する雰囲気置換部と、
を備え、
前記雰囲気置換部は、前記雰囲気を置換するときに前記空間内において前記ガスと前記空気との境界層を維持して置換する、
立体造形装置。
<2> 前記雰囲気置換部は、
前記ガスを前記空間に供給するガス供給部と、
前記空間内に設置され、前記ガス供給部により前記空間内に供給された前記ガスを通過させて整流して前記造形部または前記液体吐出ユニットに供給するガス整流部と、
前記空間内の前記空気を排出する排出部と、
を有する、
前記<1>に記載の立体造形装置。
<3> 前記雰囲気置換部は、
前記空間内に設置され、前記空間内の前記空気を通過させて整流して前記排出部に供給する空気整流部を有する、
前記<2>に記載の立体造形装置。
<4> 前記ガス供給部は、前記ガス整流部よりも上方から前記ガスを前記空間内に導入し、
前記排出部は、前記ガス整流部よりも下方から前記空気を排出する、
前記<2>または<3>に記載の立体造形装置。
<5> 前記ガスは、窒素、ヘリウム、ネオンのいずれかを含む、
前記<4>に記載の立体造形装置。
<6> 前記ガス供給部は、前記ガス整流部よりも下方から前記ガスを前記空間内に導入し、
前記排出部は、前記ガス整流部よりも上方から前記空気を排出する、
前記<2>または<3>に記載の立体造形装置。
<7> 前記ガスは、アルゴン、二酸化炭素のいずれかを含む、
前記<6>に記載の立体造形装置。
<8> 前記ガス供給部、前記ガス整流部、前記排出部は水平方向に配置され、
前記ガスは前記空間内を前記水平方向に流れる、
前記<2>または<3>に記載の立体造形装置。
<9> 前記造形部には、ホッパーにより造形材料が供給される、
前記<1>~<8>のいずれか一項に記載の立体造形装置。
<10> 前記液体吐出ユニットは、前記粉体層に対して前記造形液をインクジェット方式で吐出する、
前記<1>~<9>のいずれか一項に記載の立体造形装置。
<11> 前記造形層を積層して形成される造形物を加熱する加熱部と、
加熱された前記造形物に付与された余剰な造形材料を除去してグリーン体を得る除去部と、
を含む、
前記<1>~<10>のいずれか一項に記載の立体造形装置。
<12> 前記グリーン体を脱脂する脱脂部と、
脱脂された前記グリーン体を焼結する焼結部と、
を含む、
前記<11>に記載の立体造形装置。
<13> 造形エリアに粉体層を形成する造形部と、
前記造形部に積層された前記粉体層に造形液を吐出して造形層を造形する液体吐出ユニットと、
造形前に少なくとも一部の空間の雰囲気を空気からガスに置換する雰囲気置換部と、
を備える立体造形装置を用いる立体造形方法であって、
前記雰囲気置換部が、前記雰囲気を置換するときに前記空間内において前記ガスと前記空気との境界層を維持して置換するステップ
を含む立体造形方法。
【符号の説明】
【0168】
100 立体造形装置
1 造形部
24 造形ステージ(造形エリア)
5 造形ユニット
50 液体吐出ユニット
701、801、901、2101、2201 雰囲気置換部
702、2102 ガス供給部
703、803、903、2103、2203 パンチングメタル(ガス整流部)
704、804、904、2104、2204 パンチングメタル(空気整流部)
707、2107 排出部
G1、G2 窒素ガス(不活性ガス)
A1、A2 空気
L 境界層
20 粉体
30 造形層
31 粉体層
5a 立体造形用ロボット装置(造形ユニット)
100a 立体造形ロボットシステム(立体造形装置)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0169】
【特許文献1】特許6565489号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26