(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078456
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】移動式レーザ表面処理システムおよび移動式レーザ表面処理装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/36 20140101AFI20240603BHJP
B23K 26/352 20140101ALI20240603BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20240603BHJP
B23K 26/067 20060101ALI20240603BHJP
B23K 26/16 20060101ALI20240603BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20240603BHJP
B08B 7/00 20060101ALI20240603BHJP
B05D 3/06 20060101ALN20240603BHJP
【FI】
B23K26/36
B23K26/352
B23K26/064 K
B23K26/067
B23K26/16
B23K26/082
B08B7/00
B05D3/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201664
(22)【出願日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2022190339
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西井 諒介
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 愛実
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 潤樹
(72)【発明者】
【氏名】梅野 和行
【テーマコード(参考)】
3B116
4D075
4E168
【Fターム(参考)】
3B116AA31
3B116AB54
3B116BC01
4D075BB20Z
4D075BB48Z
4D075BB65Z
4D075DC11
4E168AB01
4E168AD18
4E168CA07
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4E168CB03
4E168CB04
4E168CB08
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4E168DA03
4E168DA12
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA29
4E168DA37
4E168EA02
4E168EA05
4E168EA06
4E168EA15
4E168EA17
4E168EA25
4E168FC01
4E168FC07
4E168JA17
(57)【要約】
【課題】例えば、作業者が処理対象としての表面に近づき難いような状況でも当該表面に対する処理を実行することが可能となるような、改善された新規な移動式レーザ表面処理システムおよび移動式レーザ表面処理装置を得る。
【解決手段】移動式レーザ表面処理システムは、例えば、光学ヘッドと、当該光学ヘッドに含まれレーザ光を表面上で走査可能なレーザスキャナと、光学ヘッドを表面に沿って相対的に移動可能な移動機構と、を有し、表面にレーザ光を走査しながら照射する移動式レーザ表面処理装置と、移動式レーザ表面処理装置とは別に設けられ、レーザ光を出力するレーザ装置を有した光源装置と、移動式レーザ表面処理装置と光源装置との間で延びて、レーザ装置から出力されたレーザ光を移動式レーザ表面処理装置へ伝送する光ファイバを含むケーブルと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の表面にレーザ光を照射して当該表面の処理を行う移動式レーザ表面処理システムであって、
光学ヘッドと、当該光学ヘッドに含まれ前記レーザ光を前記表面上で走査可能なレーザスキャナと、前記光学ヘッドを前記表面に沿って相対的に移動可能な移動機構と、を有し、前記表面に前記レーザ光を走査しながら照射する移動式レーザ表面処理装置と、
前記移動式レーザ表面処理装置とは別に設けられ、前記レーザ光を出力するレーザ装置を有した光源装置と、
前記移動式レーザ表面処理装置と前記光源装置との間で延びて、前記レーザ装置から出力された前記レーザ光を前記移動式レーザ表面処理装置へ伝送する光ファイバを含むケーブルと、
を備えた、移動式レーザ表面処理システム。
【請求項2】
前記移動機構は、第一移動機構として、地上を移動する車両移動機構を含む、請求項1に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項3】
前記移動機構は、第一移動機構として、水上または水中を移動する船舶移動機構を含む、請求項1に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項4】
前記移動機構は、第一移動機構として、空中を移動する空中移動機構を含む、請求項1に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項5】
前記物体に固定される固定部を備え、
前記移動機構は、第一移動機構として、前記固定部に対して相対的に移動可能な機構を含む、請求項1に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項6】
前記移動機構は、前記第一移動機構として、前記固定部に対して前記光学ヘッドを上下方向に相対的に移動可能な第一エレベータを含む、請求項5に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項7】
前記移動機構は、前記第一移動機構と前記光学ヘッドとの間に設けられた第二移動機構として、ロボットアームを含む、請求項2~5のうちいずれか一つに記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項8】
前記移動機構は、前記第一移動機構と前記光学ヘッドとの間に設けられた第二移動機構として、前記第一移動機構に対して前記光学ヘッドを上下方向に相対的に移動可能な第二エレベータを含む、請求項2~5のうちいずれか一つに記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項9】
前記光学ヘッドは、前記レーザ光を複数のビームに分割するビームシェイパを有した、請求項1~5のうちいずれか一つに記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項10】
前記光学ヘッドは、前記ビームシェイパを収容した筐体と、前記ビームシェイパを前記筐体に対して当該ビームシェイパに対する入力光の光軸と交差した方向に相対的に動かす第三移動機構と、を有した、請求項9に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項11】
前記光学ヘッドは、前記第三移動機構として、前記ビームシェイパを前記筐体に対して相対的に前記入力光の光軸に沿った回転中心回りに回転する回転機構を有した、請求項10に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項12】
前記光学ヘッドは、前記第三移動機構として、前記ビームシェイパを前記筐体に対して相対的に往復移動する往復移動機構を有した、請求項10に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項13】
前記移動機構は、前記表面に沿って移動可能に構成された移動体と、前記表面に対する前記レーザ光の照射位置が変化するよう前記移動体に対する前記光学ヘッドの位置および姿勢のうち少なくとも一方を変更可能な状態に当該光学ヘッドを支持する第四移動機構と、を有した、請求項1に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項14】
前記移動体は、前記光学ヘッドを覆うカバーを有し、
前記光学ヘッドは、前記カバー内で前記第四移動機構を介して支持された、請求項13に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項15】
前記移動体は、車体と、当該車体に転動可能に支持された転動体と、を有した、請求項13に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項16】
前記移動体は、非自走車両である、請求項15に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項17】
前記第四移動機構は、揺動機構、スライド機構、および回転機構のうち少なくともいずれか一つを含む、請求項13~16のうちいずれか一つに記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項18】
物体の表面にレーザ光を照射して当該表面の処理を行う移動式レーザ表面処理システムであって、
光学ヘッドと、前記光学ヘッドに含まれた筐体と、当該筐体に収容され前記レーザ光を複数のビームに分割するビームシェイパと、前記筐体に対して前記ビームシェイパを相対的に動かす第三移動機構と、前記光学ヘッドを前記表面に沿って相対的に移動可能な移動機構と、を有し、前記表面に前記レーザ光を走査しながら照射する移動式レーザ表面処理装置と、
前記移動式レーザ表面処理装置とは別に設けられ、前記レーザ光を出力するレーザ装置を有した光源装置と、
前記移動式レーザ表面処理装置と前記光源装置との間で延びて、前記レーザ装置から出力された前記レーザ光を前記移動式レーザ表面処理装置へ伝送する光ファイバを含むケーブルと、
を備えた、移動式レーザ表面処理システム。
【請求項19】
前記光学ヘッドから出力された前記レーザ光の周囲を間隔をあけて覆い当該レーザ光の周囲の空間と外部とを隔てる隔壁を有したカバーを備えた、
請求項1または18に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項20】
前記カバーは、前記表面を覆う、請求項19に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項21】
前記空間から空気およびヒュームを前記カバーの外へ排出する排出機構を備えた、請求項19に記載の移動式レーザ表面処理システム。
【請求項22】
光学ヘッドと、
前記光学ヘッドを物体の表面に沿って相対的に移動可能な移動機構と、を備え、
前記表面にレーザ光を走査しながら照射することにより当該表面の処理を行う移動式レーザ表面処理装置であって、
前記移動機構は、
地上を移動する車両移動機構、
水上または水中を移動する船舶移動機構、
空中を移動する空中移動機構、
前記物体に固定された固定部に対して相対的に移動可能な機構、および、
地上を移動可能な非自走車両に転動可能に支持された転動体、
のうちいずれかを含む、移動式レーザ表面処理装置。
【請求項23】
前記光学ヘッドに設けられ、前記表面上で前記レーザ光を照射しながら走査する走査機構を備えた、請求項22に記載の移動式レーザ表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動式レーザ表面処理システムおよび移動式レーザ表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光の照射によって構造物の表面の塗膜や付着物を除去する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、表面にレーザ光を照射して当該表面の塗膜を除去する、可搬型のレーザ表面処理装置が開示されている。
【0005】
可搬型のレーザ表面処理装置によって表面処理を行う場合、作業者は、処理対象となる表面の比較的近くに位置する必要があるため、作業者が表面に近づき難いような状況では、可搬型のレーザ表面処理装置は使用できない虞がある。また、従来技術では、処理速度が既存のサンドブラスト工法などにくらべて遅いという課題があった。さらに、コスト的にも処理速度が遅くなる分、に要するコストが高くなってしまうという課題があった。
【0006】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、作業者が処理対象としての表面に近づき難いような状況でも当該表面に対する処理を実行することが可能となったり、処理速度が速くなったり、処理に要するコストを抑制することが可能となったりするような、改善された新規な移動式レーザ表面処理システムおよび移動式レーザ表面処理装置を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の移動式レーザ表面処理システムは、例えば、物体の表面にレーザ光を照射して当該表面の処理を行う移動式レーザ表面処理システムであって、光学ヘッドと、当該光学ヘッドに含まれ前記レーザ光を前記表面上で走査可能なレーザスキャナと、前記光学ヘッドを前記表面に沿って相対的に移動可能な移動機構と、を有し、前記表面に前記レーザ光を走査しながら照射する移動式レーザ表面処理装置と、前記移動式レーザ表面処理装置とは別に設けられ、前記レーザ光を出力するレーザ装置を有した光源装置と、前記移動式レーザ表面処理装置と前記光源装置との間で延びて、前記レーザ装置から出力された前記レーザ光を前記移動式レーザ表面処理装置へ伝送する光ファイバを含むケーブルと、を備える。
【0008】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記移動機構は、第一移動機構として、地上を移動する車両移動機構を含んでもよい。
【0009】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記移動機構は、第一移動機構として、水上または水中を移動する船舶移動機構を含んでもよい。
【0010】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記移動機構は、第一移動機構として、空中を移動する空中移動機構を含んでもよい。
【0011】
前記移動式レーザ表面処理システムは、前記物体に固定される固定部を備え、前記移動機構は、第一移動機構として、前記固定部に対して相対的に移動可能な機構を含んでもよい。
【0012】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記移動機構は、前記第一移動機構として、前記固定部に対して前記光学ヘッドを上下方向に相対的に移動可能な第一エレベータを含んでもよい。
【0013】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記移動機構は、前記第一移動機構と前記光学ヘッドとの間に設けられた第二移動機構として、ロボットアームを含んでもよい。
【0014】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記移動機構は、前記第一移動機構と前記光学ヘッドとの間に設けられた第二移動機構として、前記第一移動機構に対して前記光学ヘッドを上下方向に相対的に移動可能な第二エレベータを含んでもよい。
【0015】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記光学ヘッドは、前記レーザ光を複数のビームに分割するビームシェイパを有してもよい。
【0016】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記光学ヘッドは、前記ビームシェイパを収容した筐体と、前記ビームシェイパを前記筐体に対して当該ビームシェイパに対する入力光の光軸と交差した方向に相対的に動かす第三移動機構と、を有してもよい。
【0017】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記光学ヘッドは、前記第三移動機構として、前記ビームシェイパを前記筐体に対して相対的に前記入力光の光軸に沿った回転中心回りに回転する回転機構を有してもよい。
【0018】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記光学ヘッドは、前記第三移動機構として、前記ビームシェイパを前記筐体に対して相対的に往復移動する往復移動機構を有してもよい。
【0019】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記移動機構は、前記表面に沿って移動可能に構成された移動体と、前記表面に対する前記レーザ光の照射位置が変化するよう前記移動体に対する前記光学ヘッドの位置および姿勢のうち少なくとも一方を変更可能な状態に当該光学ヘッドを支持する第四移動機構と、を有してもよい。
【0020】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記移動体は、前記光学ヘッドを覆うカバーを有し、前記光学ヘッドは、前記カバー内で前記第四移動機構を介して支持されてもよい。
【0021】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記移動体は、車体と、当該車体に転動可能に支持された転動体と、を有してもよい。
【0022】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記移動体は、非自走車両であってもよい。
【0023】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記第四移動機構は、揺動機構、スライド機構、および回転機構のうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。
【0024】
本発明の移動式レーザ表面処理システムは、例えば、物体の表面にレーザ光を照射して当該表面の処理を行う移動式レーザ表面処理システムであって、光学ヘッドと、前記光学ヘッドに含まれた筐体と、当該筐体に収容され前記レーザ光を複数のビームに分割するビームシェイパと、前記筐体に対して前記ビームシェイパを相対的に動かす第三移動機構と、前記光学ヘッドを前記表面に沿って相対的に移動可能な移動機構と、を有し、前記表面に前記レーザ光を走査しながら照射する移動式レーザ表面処理装置と、前記移動式レーザ表面処理装置とは別に設けられ、前記レーザ光を出力するレーザ装置を有した光源装置と、前記移動式レーザ表面処理装置と前記光源装置との間で延びて、前記レーザ装置から出力された前記レーザ光を前記移動式レーザ表面処理装置へ伝送する光ファイバを含むケーブルと、を備える。
【0025】
前記移動式レーザ表面処理システムは、前記光学ヘッドから出力された前記レーザ光の周囲を間隔をあけて覆い当該レーザ光の周囲の空間と外部とを隔てる隔壁を有したカバーを備えてもよい。
【0026】
前記移動式レーザ表面処理システムでは、前記カバーは、前記表面を覆ってもよい。
【0027】
前記移動式レーザ表面処理システムは、前記空間から空気およびヒュームを前記カバーの外へ排出する排出機構を備えてもよい。
【0028】
本発明の移動式レーザ表面処理装置は、例えば、光学ヘッドと、前記光学ヘッドを物体の表面に沿って相対的に移動可能な移動機構と、を備え、前記表面にレーザ光を走査しながら照射することにより当該表面の処理を行う移動式レーザ表面処理装置であって、前記移動機構は、地上を移動する車両移動機構、水上または水中を移動する船舶移動機構、空中を移動する空中移動機構、前記物体に固定された固定部に対して相対的に移動可能な機構、および、地上を移動可能な非自走車両に転動可能に支持された転動体、のうちいずれかを含む。
【0029】
前記移動式レーザ表面処理装置は、前記光学ヘッドに設けられ、前記表面上で前記レーザ光を照射しながら走査する走査機構を備えてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、例えば、より改善された新規な移動式レーザ表面処理システムおよび移動式レーザ表面処理装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、第1実施形態の移動式レーザ表面処理システムの例示的な概略構成図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の移動式レーザ表面処理装置に含まれる光学ヘッドの例示的な概略構成図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態の移動式レーザ表面処理装置に含まれる回折光学素子の原理の概念を示す説明図である。
【
図4】
図4は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図5】
図5は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図6】
図6は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図7】
図7は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図8】
図8は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態の移動式レーザ表面処理装置に含まれる光学ヘッドの一部の例示的な概略構成図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図11】
図11は、第3実施形態の移動式レーザ表面処理装置の例示的な概略構成図である。
【
図12】
図12は、第4実施形態の移動式レーザ表面処理装置の例示的な概略構成図である。
【
図13】
図13は、第5実施形態の移動式レーザ表面処理装置の例示的な概略構成図である。
【
図14】
図14は、第6実施形態の移動式レーザ表面処理装置の例示的な概略構成図である。
【
図15】
図15は、第7実施形態の移動式レーザ表面処理装置の例示的かつ模式的な斜視図である。
【
図16】
図16は、第7実施形態の移動式レーザ表面処理装置の内部構成を示す例示的かつ模式的な側面図である。
【
図17】
図17は、第7実施形態の移動式レーザ表面処理装置による物体の表面の処理領域の変化の一例を示す例示的かつ模式的な平面図である。
【
図18】
図18は、第7実施形態の移動式レーザ表面処理装置による物体の表面の処理領域の変化の一例を示す例示的かつ模式的な平面図である。
【
図19】
図19は、第8実施形態の移動式レーザ表面処理装置の内部構成を示す例示的かつ模式的な側面図である。
【
図20】
図20は、第9実施形態の移動式レーザ表面処理装置の内部構成を示す例示的かつ模式的な側面図である。
【
図21】
図21は、第10実施形態の移動式レーザ表面処理装置の内部構成を示す例示的かつ模式的な側面図である。
【
図22】
図22は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図23】
図23は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図24】
図24は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図25】
図25は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図26】
図26は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図27】
図27は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図28】
図28は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図29】
図29は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図30】
図30は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図32】
図32は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図33】
図33は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図34】
図34は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図35】
図35は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図36】
図36は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図37】
図37は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図38】
図38は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置によって仮想照射面に形成されるスポットパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0033】
以下の複数の実施形態は、同様の構成要素を有している。以下では、それら同様の構成要素については、共通の符号を付与するとともに、重複する説明を省略する場合がある。
【0034】
また、本明細書において、序数は、移動機構等を区別するために便宜上付与されており、優先度や、順番、構成要素の数等を限定するものでもない。
【0035】
[レーザ表面処理装置システム]
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の移動式レーザ表面処理システム100の概略構成を示す図である。
【0036】
図1に示されるように、移動式レーザ表面処理システム100は、移動式レーザ表面処理装置200と、搭載装置300と、ケーブル400と、を備えている。
【0037】
対象物1A(1)は、例えば、建物や、建造物、建築物、建材、鉄板、橋梁桁、コンクリート、それらから構成される製品、部品、物体等、多岐に亘る。また、対象物1を構成する材料は、例えば、金属や、コンクリート、モルタル等であるが、これらには限定されない。対象物1は、表面処理の対象となる物体の一例である。
【0038】
移動式レーザ表面処理装置200は、表層を除去する対象物1の表面1aにレーザ光Lを照射する。適切な条件下でレーザ光Lを照射することにより、表面1a上の、レーザ光Lが照射された場所およびその近傍において、当該レーザ光Lのエネルギによってレーザアブレーションが生じ、表層が薄く除去される。この際、対象物1の表面1aを含むボディ(母材)を構成する材料とともに、当該表面1a上の汚れや錆、塗膜、塗料等の塗布物等が除去される。すなわち、移動式レーザ表面処理装置200は、表面1aの表層の除去や、クリーニングを行うことができる。くわえて、レーザ光Lの光出力によっては、表面に凹凸のあるアンカーパターンを形成することができ、素地調整可能なブラスト施行を行うことができる。移動式レーザ表面処理装置200は、移動式レーザ表面処理装置の一例である。
【0039】
本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200A(200)は、移動機構220A(220)と、光学ヘッド210と、光学ヘッド210のカバー211と、光学ヘッド210が出力したレーザ光Lの回りを取り囲むカバー212と、当該カバー212の先端部分に取り付けられた遮蔽部材213と、を有している。
【0040】
本実施形態の移動機構220Aは、移動体221としての車体221Aと、移動機構222としてのクローラ222Aと、移動機構223としてのロボットアーム223Aと、を有している。なお、移動機構220Aは、複数のクローラ222Aを有しているが、
図1では、一つのクローラ222Aのみが図示されている。
【0041】
クローラ222Aは、地面Gに沿って並んだ複数の車輪にベルトが掛け渡された構造を有しており、無限軌道とも称される。クローラ222Aは、転動することにより、車体221Aを地面Gに沿って動かす。クローラ222Aは、地面Gに凹凸があった場合にも、走行することができる。移動機構222としてのクローラ222Aは、第一移動機構の一例である。また、この場合、移動機構222は、車両移動機構の一例である。
【0042】
車体221Aは、移動機構223としてのロボットアーム223Aを支持する。また、車体221Aは、当該車体221Aを地面G上の定点でより安定的に固定するためのジャッキ221aを有してもよい。なお、
図1は、ジャッキ221aによって車体221Aが地面Gからジャッキアップされて支持されている状態を示している。
【0043】
ロボットアーム223Aは、複数のリンクがジョイントで回動可能に連結された多関節ロボットアームである。ロボットアーム223Aの基端は、車体221Aに支持され、ロボットアーム223Aの先端は、光学ヘッド210を支持している。すなわち、ロボットアーム223Aは、クローラ222Aおよび車体221Aと、光学ヘッド210との間に設けられている。ロボットアーム223Aの変形により、光学ヘッド210は、車体221Aに対して相対的に可動範囲内の任意の位置に移動しかつ停止することができる。ロボットアーム223Aは、第二移動機構の一例である。
【0044】
移動機構222,223(220)の作動は、有線あるいは無線の電気通信回線を介して電気的に接続された制御部(不図示)によって遠隔制御することができる。制御部は、コンピュータによって構成される。
【0045】
上述した移動機構220A(220)の作動により、光学ヘッド210は、対象物1の表面1aに沿って移動し、当該表面1aの任意の位置に対して適宜に離れて面した位置で停止することができる。制御部は、光学ヘッド210からレーザ光Lが照射される位置が徐々に移動するよう、移動機構220A(220)を制御し、これにより、表面1aの広い範囲について、上述したレーザ光Lの照射による表面処理を実行することができる。
【0046】
図1に示されるように、搭載装置300は、例えば、光源装置301や、電源装置302、冷却装置303のような各種機器を搭載している。これら機器は、嵩張ったり重かったりするため、移動式レーザ表面処理装置200には搭載し難い。そこで、移動式レーザ表面処理システム100では、搭載装置300に搭載する機器と、移動式レーザ表面処理装置200とを分離し、搭載装置300と移動式レーザ表面処理装置200とをケーブル400で接続することにより、移動式レーザ表面処理装置200の軽量化および小型化を図っている。ただし、移動体221に搭載可能なサイズあるいは重量である機器は、当該移動体221に搭載してもよい。
【0047】
また、搭載装置300は、例えば、トラック(自動車、車両)のような、移動可能に構成された移動体である。搭載装置300が移動可能であることにより、移動式レーザ表面処理システム100による表層除去の処理を行う場所を、容易に変更することができる。なお、搭載装置300は、自動車には限定されず、例えば、列車のような自動車以外の車両であってもよいし、船舶等であってもよい。また、搭載装置300は、例えば、トレーラのように、それ自体が動力源を備えなくてもよい。
【0048】
光源装置301は、レーザ発振器を備えており、一例としては、6000[W]のパワーのレーザ光を出力できるよう構成されている。レーザ発振器は、レーザ装置の一例である。レーザ発振器が出力するレーザ光の波長は、例えば、400[nm]以上かつ1200[nm]以下である。代表的には、波長1070[nm]のファイバレーザ発振器を搭載している。これらは、波長940[nm]の半導体レーザ発振器、波長450[nm]の半導体レーザ発振器、あるいは波長1064[nm]のディスクレーザや固体レーザであっても良い。
【0049】
光源装置301と移動式レーザ表面処理装置200とは、光ファイバケーブル401を介して、光学的に接続されている。光ファイバケーブル401は、コアおよび当該コアを取り囲むクラッドを有した光ファイバ(不図示)を有している。光ファイバは、光源装置301から出力されたレーザ光を移動式レーザ表面処理装置200へ伝送する。
【0050】
建物や、建造物、建築物のような比較的大きな対象物1への適用のため、光源装置301と移動式レーザ表面処理装置200との距離を比較的長く確保できるよう、光ファイバケーブル401ひいてはケーブル400の長さは、例えば5[m]以上かつ300[m]以下に設定される。光密度と伝送可能なケーブル長に誘導ラマン散乱によるエネルギーシフトに起因したトレードオフの関係があるため、このような長距離でのレーザ光の伝送を実現するためには、光ファイバのコアの直径は、50[μm]以上であるのが好ましく、80[μm]以上であるのがより好ましく、100[μm]以上であるのがさらに好ましい。
【0051】
また、処理むらが少なく形状精度が高いような高品質な処理面(表層除去面)を得るためには、光ファイバから移動式レーザ表面処理装置200へ出力されるレーザ光を高品質に維持するのが肝要である。このような観点から、光ファイバは、上述した長さおよび直径を有したスペックにおいて、当該光ファイバから出力されるレーザ光のM2ビーム品質が10以下となるよう、構成される。M2ビーム品質は、M2ファクタとも称されうる。
【0052】
電源装置302は、例えば、バッテリや、発電機等を備えており、移動式レーザ表面処理装置200に対し、その各部が作動するのに必要な電力を供給する。移動式レーザ表面処理装置200には、電源装置302から、電気ケーブル402を介して、電力が供給される。
【0053】
また、冷却装置303は、例えば、冷却液のような冷媒を貯えるタンクや、当該冷媒を吐出するポンプ等を備えており、移動式レーザ表面処理装置200に対し、その各部を冷却するのに冷媒を供給する。移動式レーザ表面処理装置200には、冷却装置303から、冷媒チューブ403を介して、冷媒が供給される。
【0054】
光学ヘッド210は、カバー211で覆われている。カバー211により、光学ヘッド210の保護性を高めることができる。
【0055】
カバー211または光学ヘッド210には、当該光学ヘッド210から出力されるレーザ光Lの回りを覆う隔壁212aを有したカバー212が取り付けられている。隔壁212aは、レーザ光Lの周囲を間隔をあけて覆い、当該レーザ光Lの周囲に空間Spを形成している。隔壁212aは、空間Spと外部とを隔てている。また、カバー212は、表面1aの、レーザ光Lの照射領域の周辺部分を覆っている。
【0056】
また、カバー212には開口212bが設けられており、カバー212内の空間Spは、当該開口212bおよびダクト404の管内を介して、排気集塵装置304、と連通している。排気集塵装置304は、レーザ光Lの照射によって生じたヒュームを含む空気を、開口212bおよびダクト404内を介して空間Spから吸引し、空気からヒュームを分別して回収することができる。このような構成により、例えば、ヒュームの周辺環境への影響を軽減できたり、ヒュームが表面1aに再付着して当該表面1aの品質が悪化するのを抑制できたり、といった利点が得られる。排気集塵装置304、ダクト404、およびカバー212は、排気機構の一例である。なお、
図1の例では、排気集塵装置304は、搭載装置300には搭載されていないが、排気集塵装置304は、搭載装置300の移動時および使用時に搭載されてもよいし、搭載装置300の移動時には搭載され、使用時には搭載装置300から下ろされてもよい。
【0057】
また、カバー212の、表面1aと面した端縁には、複数の遮蔽部材213が間隔をあけて取り付けられている。遮蔽部材213は、例えば、可撓性かつ弾性を有した難燃性のエラストマ等で作られている。制御部は、遮蔽部材213を比較的軽い力で表面1aに押圧されるよう、移動機構220を制御して、表面1aに対するカバー212の相対的な位置を適宜に調整する。この際、制御部は、カバー212と表面1aとの距離を、例えば、カバー211またはカバー212に取り付けられ表面1aとの距離を計測するレーザ変位計のような非接触センサから取得してもよい。遮蔽部材213は、ヒューム等がカバー212内の空間Spから外部へ漏れるのを抑制する。また、空間Sp内には、隣り合う遮蔽部材213の間の隙間を介して、外部から空気が導入される。なお、遮蔽部材213は、表面1aとは接触しなくてもよいし、遮蔽部材213は無くてもよい。
【0058】
[光学ヘッド]
光学ヘッド210は、光源装置301から光ファイバケーブル401を介して入力されたレーザ光を、対象物1の表面1aに向けて適宜に照射するための光学装置である。光学ヘッド210から出力されるレーザ光は、例えば、連続波である。
図2は、第1実施形態の光学ヘッド210A(210)の概略構成を示す断面図である。
図2に示されるように、光学ヘッド210は、筐体201、複数の光学部品202、コネクタ203、モータ204、回転伝達機構205、レーザスキャナ206等を備えている。
【0059】
筐体201は、略筒状の形状を有しており、その内部に複数の光学部品202を収容している。また、筐体201は、これら複数の光学部品202の他、コネクタ203、モータ204、回転伝達機構205等を支持する支持部材としても機能している。
【0060】
筐体201の端部には、出力するレーザ光Lを透過する窓部材201aが取り付けられている。また、筐体201には、冷媒チューブ403を介して冷却装置303(
図1参照)から送られた冷媒を通す通路201bが設けられている。冷却装置303と光学ヘッド210の通路201bとの間では、冷媒チューブ403を介して、冷媒が循環している。筐体201のうち通路201bを構成する部位、冷却装置303、および冷媒チューブ403は、筐体201ひいては光学部品202を冷却する冷却機構の一例である。
【0061】
光学部品202は、例えば、コリメートレンズ202a,202bや、回折光学素子202c(以下、DOE202cと称する、DOE:diffractive optical element)、調整レンズ202d、レーザスキャナ206等である。
【0062】
コリメートレンズ202a,202bは、光ファイバおよびコネクタ203を介して入力されたレーザ光をコリメートする。コリメートされたレーザ光は、平行光になる。
【0063】
DOE202cは、コリメートレンズ202a,202bで平行光となったレーザ光のビームを成形する。DOE202cは、ビームシェイパの一例である。
【0064】
図3は、DOE202cの原理の概念を示す説明図である。
図3に概念的に例示されるように、DOE202cは、例えば、周期の異なる複数の回折格子202c1が重ね合わせられた構成を備えている。DOE202cは、平行光を、各回折格子202c1の影響を受けた方向に曲げたり、重ね合わせたりすることにより、ビーム形状を成形することができる。
【0065】
DOE202cのようなビームシェイパを有することにより、光学ヘッド210において、レーザ光は、それぞれパワーが適宜に調整された複数のビームに分割される。光学ヘッド210からは、表面1aに向けて、複数のビームを有したレーザ光LがZ方向に出力され、当該表面1a上には、当該複数のビームによって複数のスポットが形成される。なお、スポットは、互いに離間していてもよいし、繋がっていてもよい。Z方向は、光学ヘッド210からのレーザ光Lの出力方向である。
【0066】
調整レンズ202dは、集光レンズまたは拡散レンズである。
【0067】
レーザスキャナ206は、複数のミラー206aを有したガルバノスキャナである。複数のミラー206aの角度を変更することで、光学ヘッド210からのレーザ光Lの出力方向を切り替えることができる。ミラー206aの角度は、それぞれ、例えば制御装置によって制御されたモータ(いずれも不図示)によって変更される。光学ヘッド210は、レーザ光Lを照射しながら、レーザ光Lの出力方向を変更することにより、対象物1の表面1a上で、レーザ光Lを相対的に走査することができる。
図1に示されるように、車体221Aの地面Gに対する位置が一時的に固定されている場合、対象物1の表面1aに対するレーザ光Lのスポットの相対的な走査は、移動機構223およびレーザスキャナ206の双方の作動の組み合わせによって実現される。移動機構223およびレーザスキャナ206は、走査機構とも称されうる。なお、移動機構223の作動による走査で所要の表面処理が可能である場合、レーザスキャナ206は無くてもよい。また、レーザスキャナ206は、2軸ガルバノスキャナであってもよいし、1軸ガルバノスキャナであってもよい。また、レーザスキャナ206は、例えば、MEMSスキャナや、ポリゴンスキャナ、レゾナントスキャナのような、ガルバノスキャナとは異なるレーザスキャナであってもよい。光学ヘッド210は、レーザスキャナ206とDOE202cの回転機構を有することにより、より高速な表面処理を実現することができる。
【0068】
また、
図2に示されるように、本実施形態の光学ヘッド210では、DOE202cは、レーザ光Lの出力中において、光軸Axと平行な回転中心回りに回転可能に、筐体201に取り付けられている。本実施形態では、電気ケーブル402を介して電源装置302から供給された電力によってモータ204のロータが回転し、当該ロータの回転が回転伝達機構205を介してDOE202cに伝達され、これにより、DOE202cが回転する。この場合、DOE202cの回転中心は、光軸Axと略重なってもよいし、光軸Axから離隔してもよい。モータ204および回転伝達機構205は、回転機構の一例であり、DOE202cを筐体201に対して相対的に動かす第三移動機構の一例でもある。また、回転伝達機構205は、減速機構とも称されうる。なお、モータ204は、本実施形態では、電動モータであるが、これには限定されず、エアモータであってもよい。その場合、エアモータとしてのモータ204は、搭載装置300に搭載された機器としてのエア供給装置(不図示)から、ケーブル400内に収容されたエアチューブ(不図示)を介して供給された圧縮空気によって作動する。
【0069】
[スポットパターン]
上述したDOE202cの回転により、レーザ光Lのスポットは、表面1a上、および光学ヘッド210からZ方向に離隔しかつZ方向と直交した仮想照射面Pv上で(
図2参照)、回転中心C回りに回転する。モータ204および回転伝達機構205は、走査機構とも称されうる。
【0070】
実際の対象物1の表面1aは、平面であるとは限らないし、Z方向と直交するとは限らない。このため、表面1a上でスポットの構成や配置を特定するのは難しい場合がある。そこで、本実施形態では、Z方向、すなわちレーザ光Lの出力方向と直交し、光学ヘッド210から離隔した仮想照射面Pv上で、レーザ光Lのスポットの形状や配置を特定する。すなわち、仮想照射面Pvは、レーザ光Lのスポットの構成や配置を特定するための仮想的な平面であり、識別平面や検出平面とも称されうる。このように、仮想照射面Pv上でレーザ光Lによって形成されたスポットの構成や配置を比較することにより、本実施形態の移動式レーザ表面処理装置と、別の移動式レーザ表面処理装置との間で、スポットの構成や配置との一致や不一致を判別することができる。仮想照射面Pvは、例えば、光学ヘッド210から、当該光学ヘッド210と表面1aとの間の距離の設計範囲の中央となる距離だけ、離隔した位置に設けられた面、として定義してもよいし、表面1aと部分的に重なる位置に設けられた面と定義してもよい。
【0071】
図4は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP1を例示する平面図である。
図4に示されるように、パターンP1は、レーザ光Lの複数のビームのスポットSとして、回転中心Cからの距離が異なる複数のスポットSを含んでいる。複数のスポットSは、仮想照射面Pvに対する平面視で、略十字状に並んでいる。また、複数のスポットSのパワーおよび大きさは同じである。
【0072】
上述したDOE202cの回転に伴って、パターンP1は、仮想照射面Pv上で、回転中心C回りに経時的に略一定の角速度で回転する。これにより、表面1a上で、DOE202cによってパワーが適宜に調整された複数のビームのスポットSが回転するため、例えば、表面1a上でガウシアン状の強度分布を有した一つのビームのスポットが回転する場合に比べて、表面1aにおける場所によるパワー密度のばらつき、ひいては表面1aの処理状態の場所によるばらつきを、抑制することができる。
【0073】
図5は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP2を例示する平面図である。
図5に示されるパターンP2も、回転中心C回りに一定の角速度で回転する。パターンP2は、回転中心Cと重なるスポットS1(S)と、回転中心Cを中心とした所定半径の円周上に並んだ複数のスポットS2(S)と、を有している。パターンP2では、複数のスポットS2のパワーは同じに設定されるとともに、スポットS1のパワーは、スポットS2のパワーより低く設定されている。すなわち、
図5の場合、レーザ光Lのビームは、仮想照射面Pv上に、回転中心Cから離れた複数のスポットS2を形成するとともに、回転中心Cと重なりスポットS2よりパワーが低いスポットS1を形成する。この場合、回転中心Cの近傍で当該回転中心Cから離れた領域に比べてパワー密度が過度に高くなるのを抑制できるとともに、回転中心Cの近傍でパワー密度が0になるのも抑制できるため、表面1aの処理状態の場所によるばらつきをより一層抑制することができる。
【0074】
図6は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP3を例示する平面図である。
図6に示されるパターンP3も、回転中心C回りに一定の角速度で回転する。パターンP3は、回転中心Cから放射状に延びた複数の線分に沿って並んだ複数のスポットSを有している。
図4,5に示される各パターンP1,P2では、回転中心Cは、複数のスポットSの幾何中心に位置したが、
図6に示されるパターンP3では、回転中心Cは、複数のスポットSの幾何中心から外れて位置している。
【0075】
図7は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP4を例示する平面図である。
図7に示されるパターンP4も、回転中心C回りに一定の角速度で回転する。パターンP4は、回転中心Cからの半径R1の円周C1上に位置するスポットS1と、半径R1よりも長い回転中心Cからの半径R2の円周C2上に位置するスポットS2と、を有している。パターンP4では、スポットS1の数とスポットS2の数とは同じである。円周C2上では、円周C1上に比べて、回転中心C回りの回転に伴うスポットSの移動速度が速い。このため、仮に、円周C1上および円周C2上の双方において、同じパワーのスポットSが同数配置された場合、円周C2上の各位置でのパワー密度は、円周C1上の各位置でのパワー密度よりも低くなる。そこで、パターンP4では、スポットS2のパワーを、スポットS1のパワーより高く設定している。これにより、表面1a上で複数のスポットS1が移動する領域のパワー密度と、複数のスポットS2が移動する領域のパワー密度との差を減らし、ひいては表面1aの処理状態の場所によるばらつきを抑制することができる。スポットS1は、第一スポットの一例であり、スポットS2は、第二スポットの一例である。また、半径R1は、第一半径の一例であり、半径R2は、第二半径の一例である。
【0076】
図8は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP5を例示する平面図である。
図8に示されるパターンP5も、回転中心C回りに一定の角速度で回転する。パターンP5も、
図7のパターンP4と同様、回転中心Cからの半径R1の円周C1上に位置するスポットS1と、半径R1よりも長い回転中心Cからの半径R2の円周C2上に位置するスポットS2と、を有している。ただし、パターンP5では、スポットS1のパワーとスポットS2のパワーとは同じである。この場合も円周C2上では、円周C1上に比べて、回転中心C回りの回転に伴うスポットSの移動速度が速い。このため、仮に、円周C1上および円周C2上の双方において、同じパワーのスポットSが同数配置された場合、円周C2上の各位置でのパワー密度は、円周C1上の各位置でのパワー密度よりも低くなる。そこで、パターンP5では、スポットS2の数を、スポットS1の数より多く設定している。これにより、表面1a上で複数のスポットS1が移動する領域のパワー密度と、複数のスポットS2が移動する領域のパワー密度との差を減らし、ひいては表面1a上の場所による処理状態のばらつきを抑制することができる。
【0077】
なお、
図6~8の例の各パターンP3~P5は、回転中心Cと重なるスポットSを有してもよいし、当該スポットSのパワーは、当該回転中心Cから離れたスポットSのパワーより低くてもよい。
【0078】
以上、説明したように、本実施形態によれば、例えば、作業者が処理対象としての表面1aに近づき難いような状況でも当該表面に対する処理を実行することが可能となるような、改善された新規な移動式レーザ表面処理システム100および移動式レーザ表面処理装置200を得ることができる。また、本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Aは、例えば、トンネルのコンクリート製の内側面の処理に適用することができる。
【0079】
[第2実施形態]
図9は、第2実施形態の光学ヘッド210B(210)の一部の概略構成を示す断面図である。本実施形態の光学ヘッド210Bは、回転伝達機構205(
図2参照)に替えて回転直動変換機構207を備えている点で、
図2の光学ヘッド210Aと相違している。回転直動変換機構207は、モータ204の回転を、光軸Axと交差したD1方向において往復する直動に変換する。これにより、DOE202cは、筐体201に対して相対的に、光軸Axと交差したD1方向に往復移動する。モータ204および回転直動変換機構207は、往復移動機構の一例であり、DOE202cを筐体201に対して相対的に動かす第三移動機構の一例でもある。なお、往復直動機構は、直動アクチュエータのような他の機構であってもよいし、往復移動機構は、DOE202cを往復揺動する機構(往復揺動機構)であってもよい。
【0080】
図10は、光学ヘッド210Bから出力されたレーザ光Lによって仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP6を例示する平面図である。DOE202cの往復直動により、パターンP6の複数のスポットSは、位置Ps1と位置Ps2との間でD1方向に往復直動する。この場合、パターンP6は、D1方向と交差した方向に並んだ複数のスポットSの行を、複数(この例では二つ)含んでいる。これにより、スポットSが表面1a上で特定の場所に留まるのを抑制して当該スポットSによる照射領域を広げるとともに場所によるパワー密度の差を減らし、ひいては表面1a上の場所による処理状態のばらつきを抑制することができる。位置Ps1は、第一位置の一例であり、位置Ps2は、第二位置の一例である。
【0081】
DOE202cが往復移動する本実施形態によっても、DOE202cが回転する上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0082】
[第3実施形態]
図11は、第3実施形態の移動式レーザ表面処理装置200C(200)の概略構成図である。本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Cは、
図1の移動機構220Aに替えて移動機構220Cを備えている点で、上記第1実施形態と相違している。移動機構220Cは、移動機構222としての複数の車輪222Cと、移動機構223としてのエレベータ223Cと、を有している。エレベータ223Cは、リフタとも称されうる。
【0083】
複数の車輪222Cは、転動することにより、車体221Aを地面Gに沿って動かす。この場合、移動機構222としての車輪222Cは、第一移動機構の一例である。
【0084】
車体221Aは、移動機構223としてのエレベータ223Cを支持する。エレベータ223Cは、例えば、上下方向に伸縮する伸縮機構223aや、当該伸縮機構223aの伸縮方向と交差した方向にスライドするスライド機構223b、当該伸縮機構223aの上下方向に沿う回転軸回りに回転する軸回転機構223c等を有している。エレベータ223Cの基端は、車体221Aに支持され、エレベータ223Cの先端は、光学ヘッド210を支持している。すなわち、エレベータ223Cは、車輪222Cおよび車体221Aと、光学ヘッド210との間に設けられている。エレベータ223Cの変形により、光学ヘッド210は、車体221Aに対して相対的に可動範囲内の任意の位置に移動しかつ停止することができる。エレベータ223Cは、第二エレベータの一例であるとともに、第二移動機構の一例である。
【0085】
移動機構222,223は、有線あるいは無線の電気通信回線を介して電気的に接続された制御部(不図示)によって遠隔操作することができる。制御部は、コンピュータによって構成される。
【0086】
本実施形態でも、上述した移動機構220C(220)の作動により、光学ヘッド210は、対象物1の表面1aに沿って移動し、当該表面1aの任意の位置に対して適宜に離れて面した位置で停止することができる。制御部は、光学ヘッド210からレーザ光Lが照射される位置が徐々に移動するよう、移動機構220C(220)を制御し、これにより、表面1aの広い範囲について、上述したレーザ光Lの照射による表面処理を実行することができる。本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Cは、第1実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Aに替えて設けられうる。本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0087】
[第4実施形態]
図12は、第4実施形態の移動式レーザ表面処理装置200D(200)の概略構成図である。本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Dは、
図1の移動機構220Aに替えて移動機構220D(220)を備えている点で、上記第1実施形態と相違している。移動機構220Dは、移動体221として船体221Dを有し、移動機構222として、スクリュー222Dを有している。なお、移動機構223としてのロボットアーム223Aは、第1実施形態と同じである。
【0088】
スクリュー222Dの作動により、水面W上に浮かぶ船体221Dは、当該水面W上を移動する。スクリュー222Dは、第一移動機構の一例である。また、この場合、移動機構222は、船舶移動機構の一例である。なお、船舶移動機構は、スクリュー222Dには限定されない。また、船体221Dは、水中に位置し、スクリュー222Dは、当該水中の船体221Dを移動してもよい。また、各種の機器を搭載する搭載装置300は、船体221Dあるいは当該船体221Dとは別の船体であってもよいし、水面Wに臨んだ地面G上に位置してもよいし、対象物1D(1)であってもよい。
【0089】
本実施形態の構成は、対象物1D(1)が、例えば、船舶や岸壁のように、水に近い位置に設けられる場合に、適用しやすい。本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0090】
[第5実施形態]
図13は、第5実施形態の移動式レーザ表面処理装置200E(200)の概略構成図である。本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Eは、対象物1E(1)に固定される点で、上記実施形態とは相違している。
【0091】
移動式レーザ表面処理装置200Eの移動機構220E(220)は、対象物1Eに固定される固定部224と、当該固定部224に対して光学ヘッド210を相対的に移動可能なエレベータ225と、を備えている。本実施形態では、固定部224は、対象物1Eの上面1b上に載せられた状態で固定されている。固定部224は、略水平に延びたレールである。また、エレベータ225は、スライダ225aと、ゴンドラ225bと、ワイヤ225cと、巻上機225dと、を有している。スライダ225aは、固定部224に沿って
図13の左右方向(以下、単に左右方向と記す)に移動可能に支持されている。ゴンドラ225bは、光学ヘッド210を支持している。ワイヤ225cは、巻上機225dから繰り出されて下方に延び、ゴンドラ225bを吊り下げている。また、巻上機225dは、スライダ225aに固定されており、ワイヤ225cを上方に巻き取ることができる。スライダ225aの左右方向における位置は、スライダ225aを移動するモータのようなアクチュエータの作動によって、変更することができる。また、ゴンドラ225bの
図13の上下方向(以下、単に上下方向と記す)における位置は、巻上機225dからのワイヤ225cの繰り出し長さによって変化する。すなわち、ゴンドラ225bの上下方向の位置は、巻上機225dを作動するモータのようなアクチュエータの作動によって、変更することができる。制御部は、これらアクチュエータの作動を電気的に制御することにより、表面1aと面した光学ヘッド210の位置、すなわち光学ヘッド210による表面1aに対するレーザ光Lの照射位置を、変更することができる。エレベータ225は、固定部224に対して光学ヘッド210を上下方向に相対的に移動可能な第一エレベータの一例であり、第一移動機構の一例である。
【0092】
本実施形態の構成は、対象物1E(1)が固定部224を固定可能な構成を備えている場合に、適用することができる。本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0093】
[第6実施形態]
図14は、第6実施形態の移動式レーザ表面処理装置200F(200)の概略構成図である。本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Fは、ドローンとして構成されている。移動式レーザ表面処理装置200Fは、移動体221としての機体221Fと、移動機構220としての複数のロータ226と、を備えている。
【0094】
制御部による複数のロータ226等の作動の遠隔制御によって、表面1a(
図1等参照)に対する相対的な機体221Fおよび光学ヘッド210の位置、ひいては光学ヘッド210から表面1aへのレーザ光Lの照射位置を、変更することができる。ロータ226は、空中移動機構の一例であり、第一移動機構の一例である。
【0095】
本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Fは、第1実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Aに替えて設けられうる。本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0096】
[第7実施形態]
図15は、第7実施形態の移動式レーザ表面処理装置200G(200)の斜視図である。本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Gは、地面G(表面1a)に沿って移動する非自走車両としての移動体221を備えている。具体的に、移動体221は、ハンドル211aを介して作業者Woに押されて地面G上を移動する手押し式の台車として構成されている。本実施形態では、移動体221は、自走するための移動機構を有していない。なお、X方向は、表面1aに略沿った移動体221の進行方向であり、Y方向は、表面1aに略沿いX方向と交差した方向である。また、Z方向は、表面1aと交差し表面1a上から表面1aに近付く方向である。言い換えると、表面1aは、Z方向の反対方向を向いている。X方向、Y方向、およびZ方向は、互いに交差するとともに略直交している。
【0097】
また、移動体221には、ダクト404が取り付けられている。ダクト404は、上記第1実施形態と同様に、カバー211内の空間Sp(
図16参照)からレーザ光Lの照射によって生じたヒュームを含む空気を排出するものであり、排気集塵装置304(
図1参照)に接続されている。排気集塵装置304、ダクト404、およびカバー211は、排気機構を構成している。
【0098】
図16は、移動式レーザ表面処理装置200Gのカバー211(ボディ221b)の側壁の一部が取り外された状態での内部構成が示される側面図である。
【0099】
移動体221は、地面G(表面1a)上をX方向に転動する転動体215を有している。転動体215は、移動体221のボディ221bに転動可能に支持されている。転動体215は、例えばローラや、キャスター、クローラ等である。作業者Wo(
図15参照)によって移動体221がX方向に押されると、転動体215のX方向への転動を伴って、当該移動体221はX方向に移動する。ボディ221bは車体の一例である。転動体215は、移動機構の一例である。なお、転動体215が転動する地面Gと、処理対象としての表面1aとの間には段差があってもよい。すなわち、地面Gと表面1aとは異なる面であってもよい。
【0100】
移動式レーザ表面処理装置200Gは、空間Sp内でボディ221bに対して光学ヘッド210A(210)を動かす可動機構214G(214)を有している。可動機構214Gは、光学ヘッド210AをX方向に略沿う中心軸Cm回りに揺動する揺動機構として構成されている。すなわち、可動機構214Gは、固定部214aと、可動部214bと、駆動機構(不図示)と、を有している。固定部214aは、ボディ221bに固定されている。可動部214bは、固定部214aに、中心軸Cm回りに揺動可能に支持されている。光学ヘッド210Aは、可動部214bに取り付けられている。駆動機構は、モータや、減速機構、リンク機構等を有しており、固定部214aに対して可動部214bを動かす。これにより、可動部214bおよび光学ヘッド210Aは、中心軸Cm回りに揺動する。光学ヘッド210Aの位置は、位置Ph0を中心として、位置Ph1と位置Ph2との間で変化するとともに、光学ヘッド210Aの姿勢ひいてはレーザ光Lの照射方向が変化する。当該位置および姿勢の変化に伴い、表面1aにおけるレーザ光Lの照射位置すなわち照射領域が、Y方向に変化する。可動機構214G(214)は、第四移動機構の一例である。
【0101】
図17,18は、移動式レーザ表面処理装置200Gによる表面1aにおける処理領域Aの変化の一例を示す平面図である。
図17,18中、Arは、DOE202cの回転による照射領域を示し、Asは、レーザスキャナ206の走査による照射領域を示し、Aは、移動式レーザ表面処理装置200Gによる処理領域を示している。白抜きの矢印は照射領域Asの移動方向を示す。なお、説明を簡単にするため、
図17,18の例では、レーザスキャナ206の走査は、Y方向における直線的な往復走査としているが、これには限定されず、照射領域Arは、曲線状の経路を含む任意の経路で走査されうる。また、照射領域Asの移動方向は、可動機構214や移動体221の移動速度に応じて変化する。また、当該移動速度に応じて、照射領域Asの重なり率が変化する。
【0102】
図17,18に示されるように、レーザスキャナ206によりDOE202cの回転によって形成される照射領域Arが拡大し、かつ可動機構214Gにより処理領域AがY方向に拡大し、さらに移動体221のX方向への移動により処理領域AがX方向に拡大する。このような構成により、作業者Woは、X方向に移動体221を押すだけで、Y方向における所定幅の領域、本実施形態では一例として、移動体221のY方向における幅と略一致した幅の領域について、表面1aの処理を行うことができる。また、
図16に示されるように、本実施形態によれば、処理領域Aの上方がカバー211で覆われることになるため、レーザ光Lの表面1aでの反射光が作業者Woに影響を及ぼすのを防止することができる。
【0103】
本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Gによれば、例えば、敷鉄板の清掃処理を安全を確保しながら、迅速に行うことができる。また、本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Gによれば、例えば、サンドブラストやウォーターブラストに替えて、鉄筋コンクリートの床面の清掃処理等を、鉄筋を傷つけることなく、より迅速にかつより高品質に行うことができる。また、鉄板としてタンク底面の鉄板や溶接部の塗膜除去や清掃処理などのブラスト作業を迅速に行うことができる。
【0104】
[第8実施形態]
図19は、移動式レーザ表面処理装置200Hのカバー211(ボディ221b)の側壁の一部が取り外された状態での内部構成が示される側面図である。本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Hは、上記第7実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Gと同様の構成を備えている。ただし、本実施形態では、可動機構214H(214)の構成が、上記第7実施形態と相違している。
【0105】
本実施形態では、可動機構214H(214)は、スライド機構として構成されている。すなわち、可動機構214Hは、固定部214aと、可動部214bと、駆動機構(不図示)と、を有している。固定部214aは、Y方向に延びたレールであり、ボディ221bに固定されている。可動部214bは、レールとしての固定部214aにY方向に往復スライド可能に支持されたスライダである。光学ヘッド210Aは、可動部214bに取り付けられている。駆動機構は、モータや、減速機構等を有しており、固定部214aに対して可動部214bを動かす。これにより、可動部214bおよび光学ヘッド210Aが、Y方向に往復スライドする。光学ヘッド210Aの位置は、位置Ph0を中心として、位置Ph1と位置Ph2との間で変化する。当該位置の変化に伴い、表面1aにおけるレーザ光Lの照射位置すなわち照射領域が、Y方向に変化する。本実施形態によっても、上記第7実施形態と同様の効果が得られる。可動機構214H(214)は、第四移動機構の一例である。
【0106】
[第9実施形態]
図20は、移動式レーザ表面処理装置200Iのカバー211(ボディ221b)の側壁の一部が取り外された状態での内部構成が示される側面図である。本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Iも、上記第7実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Gと同様の構成を備えている。ただし、本実施形態では、可動機構214I(214)の構成が、上記第7実施形態と相違している。
【0107】
本実施形態では、可動機構214I(214)は、光学ヘッド210AをZ方向に略沿う中心軸Cm回りに揺動する揺動機構として構成されている。すなわち、可動機構214Iは、固定部214aと、可動部214bと、アーム214cと、駆動機構(不図示)と、を有している。固定部214aは、ボディ221bに固定されている。可動部214bは、固定部214aに、中心軸Cm回りに揺動可能に支持されている。アーム214cは、可動部214bから中心軸Cmの径方向に延びている。アーム214cの先端に、光学ヘッド210Aが取り付けられている。駆動機構は、モータや、減速機構、リンク機構等を有しており、固定部214aに対して可動部214bを動かす。これにより、当該可動部214b、アーム214c、および光学ヘッド210Aが、中心軸Cm回りに揺動する。光学ヘッド210Aの位置は、位置Ph0を中心として、位置Ph1と位置Ph2との間で変化し、これにより、レーザ光Lの照射位置(照射領域)が表面1a上で円弧状に往復するように変化する。本実施形態によっても、上記第7実施形態と同様の効果が得られる。可動機構214I(214)は、第四移動機構の一例である。
【0108】
[第10実施形態]
図21は、移動式レーザ表面処理装置200Jのカバー211(ボディ221b)の側壁の一部が取り外された状態での内部構成が示される側面図である。本実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Jも、上記第7実施形態の移動式レーザ表面処理装置200Gと同様の構成を備えている。ただし、本実施形態では、可動機構214J(214)の構成が、上記第7実施形態と相違している。
【0109】
本実施形態では、可動機構214J(214)は、光学ヘッド210AをZ方向に略沿う中心軸Cm回りに回転する回転機構として構成されている。すなわち、可動機構214Jは、固定部214aと、可動部214bと、アーム214cと、駆動機構(不図示)と、を有している。固定部214aは、ボディ221bに固定されている。可動部214bは、固定部214aに、中心軸Cm回りに回転可能に支持されている。アーム214cは、可動部214bから中心軸Cmの径方向に延びている。アーム214cの先端に、光学ヘッド210Aが取り付けられている。駆動機構は、モータや、減速機構等を有しており、固定部214aに対して可動部214bを動かす。これにより、当該可動部214b、アーム214c、および光学ヘッド210Aが、中心軸Cm回りに回転する。光学ヘッド210Aの位置は、位置Ph0や位置Ph1を通過しながら変化し、これにより、レーザ光Lの照射位置(照射領域)が表面1a上で円周状に移動する。本実施形態でも、上記第7実施形態と同様の効果が得られる。可動機構214J(214)は、第四移動機構の一例である。
【0110】
上記第7~第10実施形態の可動機構214や、移動体221、ボディ221b(カバー211)等は、上記第1~第6実施形態の移動式レーザ表面処理装置200にも適用することができる。
【0111】
[スポットパターンの例]
図22は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP12を例示する平面図である。
図22に示されるパターンP12は、回転中心C回りに一定の角速度で回転する。パターンP12は、回転中心Cと重なるスポットSが無い点を除き、
図4のパターンP1と同じである。すなわち、
図22の場合、レーザ光Lのビームは、仮想照射面Pv上に、回転中心Cから離れた複数のスポットSを形成するとともに、回転中心Cと重なるスポットを形成しない。パターンP1の場合、表面1a上の回転中心Cから離れた領域内の各位置では、当該パターンP1の回転中心C回りの回転に伴ってスポットSが断続的に通過し、レーザ光Lのビームが断続的に照射されるのに対し、回転中心Cの近傍にはスポットSが留まるため、レーザ光Lのビームが継続的に照射されることになる。このため、表面1aにおいて、回転中心Cが位置した領域では、回転中心Cから離れた領域に比べて処理が進むことになり、ひいては、表面1a上で場所による処理状態の差が大きくなる虞がある。この点、
図22のパターンP12のように、回転中心Cと重なるスポットSが無い場合にあっては、回転中心Cの近傍においてレーザ光Lのビームが継続的に照射されるのを抑制することができ、ひいては、表面1a上で場所による処理状態の差が大きくなるのを抑制することができる。なお、実際には、回転中心Cが全く動かない状況は生じ難いため、パターンP12の場合に、局所的にレーザ光Lのビームが照射されずに表面処理がされない場所が生じることはほぼない。
【0112】
図23は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP14を例示する平面図である。
図23に示されるパターンP14も、回転中心C回りに一定の角速度で回転する。パターンP14は、回転中心Cを取り囲んだ四角形の辺に沿って並んだ複数のスポットSを有している。
【0113】
図24は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP15を例示する平面図である。
図24に示されるパターンP15も、回転中心C回りに一定の角速度で回転する。パターンP15は、回転中心Cを挟む平行な二つの線分に沿って並んだ複数のスポットSを有している。
【0114】
図25は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP17を例示する平面図である。
図25に示されるパターンP17も、回転中心C回りに一定の角速度で回転する。
図25に示されるパターンP17は、四角形状の領域内にマトリクス状に配置された複数のスポットSを有している。
【0115】
図26は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP21を例示する平面図である。
図26に示されるように、パターンP21は、レーザ光Lの複数のビームのスポットSとして、回転中心Cからの距離が異なる複数のスポットSを含んでいる。複数のスポットSは、仮想照射面Pvに対する平面視で、回転中心Cに対する径方向に略沿って、所定間隔で一直線上に並んでいる。複数のスポットSのパワーおよび大きさは同じである。複数のスポットSは、上述したDOE202cの回転に伴って、仮想照射面Pv上で、回転中心C回りに経時的に略一定の角速度で回転する。
【0116】
図27は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP22を例示する平面図である。
図27に示されるように、パターンP22は、レーザ光Lの複数のビームのスポットSとして、回転中心Cからの距離が異なる複数のスポットSを含んでいる。複数のスポットSは、仮想照射面Pvに対する平面視で、回転中心Cに対する径方向に略沿って、所定間隔で二列に、かつ互い違いに並んでいる。また、複数のスポットSのパワーおよび大きさは同じである。この場合も、複数のスポットSは、上述したDOE202cの回転に伴って、仮想照射面Pv上で、回転中心C回りに経時的に略一定の角速度で回転する。
【0117】
図28は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP23を例示する平面図である。パターンP23は、
図26に示されるパターンP21に含まれる複数のスポットSのうち、回転中心Cから所定距離以上離れた複数のスポットSのみを含んでいる。すなわち、パターンP23は、回転中心Cに近いスポットSを含んでいない。
【0118】
図29は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP24を例示する平面図である。パターンP24は、
図27に示されるパターンP22に含まれる複数のスポットSのうち、回転中心Cから所定距離以上離れた複数のスポットSのみを含んでいる。すなわち、パターンP24は、回転中心Cに近いスポットSを含んでいない。
【0119】
これらパターンP21~P24では、複数のスポットSが、互いに間隔をあけて配置されている。これらパターンP21~P24によれば、複数のスポットSが互いに密接して配置された場合に比べて、スポットSの分岐数をより少なくし、かつ各スポットSのパワーをより強く設定することにより、複数のスポットSが互いに密接して配置された場合と同様の効果が得られる。
【0120】
また、パターンP22,P24は、径方向に所定間隔で並んだ複数のスポットSの列として、複数の列を含み、当該複数の列において、スポットSが互い違いに並んでいる。言い換えると、当該複数の列において、径方向におけるスポットSの位置が互いにずれている。この場合、一つの列において互いに隣接する二つのスポットSの円周状の軌跡の間に、当該列と隣接する列のスポットSの円周状の軌跡が配置されることになるため、表面1aにおける場所によるパワー密度のばらつき、ひいては表面1aの処理状態の場所によるばらつきを、より一層抑制することができる。
【0121】
なお、複数のスポットSのパワーは、回転中心Cから離れるほど大きくなるよう設定してもよい。この場合、スポットSのパワーは、回転中心Cから離れるにつれて徐々に大きくなるよう設定してもよいし、回転中心Cからの距離に比例するよう設定してもよい。これにより、複数の円周状の軌跡において回転中心Cからの距離が長いほどパワー密度が小さくなるのを抑制することができるため、表面1aにおける場所によるパワー密度のばらつき、ひいては表面1aの処理状態の場所によるばらつきを、より一層抑制することができる。
【0122】
図29は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP24を例示する平面図である。パターンP24は、
図27に示されるパターンP22に含まれる複数のスポットSのうち、回転中心Cから所定距離以上離れた複数のスポットSのみを含んでいる。すなわち、パターンP24は、回転中心Cに近いスポットSを含んでいない。
【0123】
図30は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP25を例示する平面図である。パターンP25は、
図28に示されるパターンP23と同様の複数のスポットSを含んでいる。ただし、パターンP25の方が、パターンP23よりもスポットSの数が多い。なお、スポットSの数は、
図28や
図30の例には限定されない。
【0124】
図31は、
図30のパターンP25における各スポットのパワーの一例を示すグラフである。
図30のパターンP25では、上述したように、スポットSのパワーは、回転中心Cから離れるにつれて徐々に大きくなるよう設定されるとともに、回転中心Cからの距離rに比例して増大するように設定されている。
図31は、その具体的な設定例を示している。これにより、表面1aにおける場所によるパワー密度のばらつき、ひいては表面1aの処理状態の場所によるばらつきを、より一層抑制することができる。発明者らの研究によれば、
図30のパターンP25および
図31のようなパワーの設定により、最良の結果が得られることが判明している。
【0125】
図32~34は、それぞれ、既出のパターンとは異なるパターンP26~P28を例示する平面図である。これらパターンP26~P28も、それぞれ、回転中心C回りに回転する複数のスポットSを含むとともに、回転中心Cからの距離が異なる複数のスポットSを含んでいる。これらパターンP26~P28では、複数のスポットSは、回転中心Cを挟むI字状(
図32)や、回転中心Cを角とするL字状(
図33)、回転中心Cを交差位置とするT字状(
図34)に配置されている。また、これらのパターンP26~P28でも、回転中心C付近に対する過度なエネルギの供給を防ぐため、回転中心C付近にはスポットSが配置されていない。なお、同様なスポットSの数により、
図22のような略十字状のパターンが形成されてもよい。
【0126】
図35は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP29を例示する平面図である。パターンP29も、回転中心C回りに回転する複数のスポットSを含むとともに、回転中心Cからの距離が異なる複数のスポットSを含んでいる。ただし、パターンP29では、回転中心Cから離れるにつれて、隣り合うスポットS間の間隔が短くなっている。言い換えると、パターンP29は、回転中心Cに近くかつ隣り合うスポットSとの間の間隔が長いスポットSと、回転中心Cから遠くかつ隣り合うスポットSとの間の間隔が短いスポットSと、を含んでいる。このようなパターンP29によっても、回転中心Cからの距離が長いほどパワー密度が小さくなるのを抑制することができるため、表面1aにおける場所によるパワー密度のばらつき、ひいては表面1aの処理状態の場所によるばらつきや処理むらを抑制することができる。
【0127】
図36は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP30を例示する平面図である。パターンP30も、回転中心C回りに回転する複数のスポットSを含むとともに、回転中心Cからの距離が異なる複数のスポットSを含んでいる。ただし、パターンP30は、
図8に示すパターンP5と同様の構成を有している。すなわち、パターンP30では、複数のスポットSが、回転中心Cから遠くなるほどスポットSの数が多くなるよう、配置されている。言い換えると、パターンP30は、回転中心Cからの距離が第一距離である一つ以上のスポットSとしての第一スポットと、回転中心Cからの距離が第一距離より長い第二距離である複数のスポットSとしての第二スポットと、を含み、第二スポットの数が第一スポットの数より多い。このようなパターンP30によっても、回転中心Cからの距離が長いほどパワー密度が小さくなるのを抑制することができるため、表面1aにおける場所によるパワー密度のばらつき、ひいては表面1aの処理状態の場所によるばらつきや処理むらを抑制することができる。
【0128】
図37は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP31を例示する平面図である。パターンP31も、回転中心C回りに回転する複数のスポットSを含むとともに、回転中心Cからの距離が異なる複数のスポットSを含んでいる。ただし、パターンP31では、互いに隣り合うスポットSが、それらの間の間隔iが所定距離(第一距離)以上になるよう配置されるとともに、回転中心Cからの距離の差dr(すなわち半径の差)が所定距離より小さくなるよう、配置されている。間隔iは、スポットSの中心(幾何中心)間の間隔とする。仮に、回転中心Cの径方向に沿って並ぶ複数のスポットSにおいて、互いに隣り合うスポットS間の間隔iが短すぎると、パワー密度が過度に大きくなり、処理対象とする表層より深い位置が溶融したり損傷したりする虞がある。その対策として、間隔iを長くすると、径方向におけるパワー密度分布のばらつきが生じ、十分に処理された領域と、処理が不十分な領域とが、同心円状に交互に並ぶような事態となる虞がある。また別の対策として、隣り合うスポットS間の間隔iを変えずに各スポットSのパワーを小さくすると、表面処理に必要なパワーを確保できなかったり、所要の表面処理が完了するまでの所要時間が長くなったりする虞がある。この点、パターンP31によれば、互いに隣り合うスポットSが、それらの間の間隔iが所定距離以上となるよう配置されるとともに、回転中心Cからの距離の差drが当該間隔iより小さくなるよう、配置されているため、互いに隣り合うスポットS間でエネルギ密度が過度に大きくなるのを抑制できる上、径方向におけるパワー密度分布のばらつきを抑制しながら、適宜なパワー密度に設定することができる。すなわち、パターンP31によれば、処理むらを少なくすることができるとともに、処理を行うのに要する時間をより短縮することができるという効果が得られる。また、
図37の例では、隣り合うスポットS間の間隔iを一定(略同じ)に設定しているため、複数のスポットSは、径方向外側に向かうにつれて径方向との角度差が除去に大きくなる渦巻き状の曲線Csに略沿って並ぶことになる。
【0129】
図38は、仮想照射面Pv上に形成されたスポットSのパターンP32を例示する平面図である。パターンP32も、回転中心C回りに回転する複数のスポットSを含むとともに、回転中心Cからの距離が異なる複数のスポットSを含んでいる。また、パターンP32でも、パターンP31と同様に、互いに隣り合うスポットSが、それらの間の間隔が所定距離以上の間隔iとなるよう配置されるとともに、回転中心Cを中心とする半径の差drが当該間隔iより小さくなるよう、配置されている。さらに、パターンP32は、パターンP31と同様の曲線Csに沿って並ぶスポットSの複数の群を含んでいる。この場合、パターンP31の場合と同様の効果が得られるとともに、パターンP31の場合より処理に要する時間を短縮することができる。なお、パターンP31と同様の効果は、隣接するスポットS間で回転中心Cからの距離の差drが所定距離より小さくなっていれば得られるものであり、当該効果が得られる複数のスポットSのパターンは、
図37,38に例示されるものには限定されない。
【0130】
上述した種々のパターンについての発明者らの実験的な研究によれば、レーザ光の出力が300[W]以上9000[W]以下の範囲にあっては、レーザ光の分岐数、すなわちスポットSの分岐数は、2以上50以下とするのが好ましく、20以上30以下とするのがより好ましいことが判明した。これは、分岐数が少ないほど同時に処理できる面積が少なくなるからであり、分岐数が多いほど一点あたりの出力が小さくなり処理速度が遅くなるからであると推定される。さらに、当該レーザ光の出力範囲および当該スポットSの分岐数の範囲においては、パターンの回転速度は、100[rpm]以上5000[rpm]以下とするのが好ましく、500[rpm]以上3000[rpm]以下とするのがより好ましいことが判明した。これは、回転速度が低いほど処理むらができやすくなるからであり、回転速度が高いほど処理速度が遅くなるからであると推定される。
【0131】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0132】
1,1A,1D,1E…対象物
1a…表面
1b…上面
100…移動式レーザ表面処理システム
200,200A,200C~200J…移動式レーザ表面処理装置
201…筐体
201a…窓部材
201b…通路(冷却機構)
202…光学部品
202a,202b…コリメートレンズ
202c…DOE(ビームシェイパ)
202c1…回折格子
202d…調整レンズ
203…コネクタ
204…モータ(電動モータ、エアモータ、回転機構、第三移動機構)
205…回転伝達機構(回転機構、第三移動機構)
206…レーザスキャナ
206a…ミラー
207…回転直動変換機構(往復移動機構、第三移動機構)
210、210A,210B…光学ヘッド
211…カバー(排出機構)
211a…ハンドル
212…カバー(排出機構)
212a…隔壁
212b…開口
213…遮蔽部材
214,214G~214J…可動機構(第四移動機構)
214a…固定部
214b…可動部
214c…アーム
215…転動体
220,220A,220C~220E…移動機構
221…移動体
221a…ジャッキ
221b…ボディ
221A…車体
221D…船体
221F…機体
222…移動機構(車両移動機構、船舶移動機構、第一移動機構)
222A…クローラ
222C…車輪
222D…スクリュー
223…移動機構(第二移動機構)
223A…ロボットアーム
223C…エレベータ(第二エレベータ)
223a…伸縮機構
223b…スライド機構
223c…軸回転機構
224…固定部
225…エレベータ(第一エレベータ、第一移動機構)
225a…スライダ
225b…ゴンドラ
225c…ワイヤ
225d…巻上機
226…ロータ(第一移動機構)
300…搭載装置
301…光源装置
302…電源装置
303…冷却装置(冷却機構)
304…排気集塵装置(排出機構)
400…ケーブル
401…光ファイバケーブル
402…電気ケーブル
403…冷媒チューブ(冷却機構)
404…ダクト(排出機構)
A…処理領域
Ar…照射領域
As…照射領域
Ax…光軸
C…回転中心
C1,C2…円周
Cs…曲線
Cm…中心軸
D1…方向
dr…差
i…間隔
L…レーザ光
P1~P6,P12,P14,P15,P17,P21~P32…パターン
Ph0,Ph1,Ph2…位置
Ps1…位置(第一位置)
Ps2…位置(第二位置)
Pv…仮想照射面
R1…半径(第一半径)
R2…半径(第二半径)
r…距離
S…スポット
S1…スポット(第一スポット)
S2…スポット(第二スポット)
Sp…空間
G…地面
W…水面
Wo…作業者
Z…方向