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特開2024-78487不純物を含む有機溶媒から有機系不純物を除去する除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078487
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】不純物を含む有機溶媒から有機系不純物を除去する除去方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/26 20060101AFI20240604BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240604BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20240604BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C22B3/26
C22B3/44 101A
C22B23/00 102
C22B3/44
C22B3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190895
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 寛人
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA19
4K001AA30
4K001CA07
4K001DB04
4K001DB16
4K001DB23
4K001DB26
4K001DB27
4K001DB34
(57)【要約】
【課題】不純物を含む有機溶媒から有機系不純物を除去する除去方法を提供する。
【解決手段】(1)不純物を含む有機溶媒に、硫酸を添加して、硫酸洗浄後液と硫酸洗浄後有機を得る硫酸洗浄工程S1、(2)硫酸洗浄後有機に中和剤を添加してpHを調整し、中和澱物と水相と有機相を有する洗浄後重液と有機相を含む洗浄後軽液に分離するアルカリ洗浄工程S2、(3)洗浄後重液に、硫酸を添加し、澱物溶解後有機と澱物溶解液を得る澱物溶解工程S3からなり、(4)澱物溶解後有機をアルカリ洗浄工程S2に繰り返すものであり、(5)アルカリ洗浄工程S2の前に劣化評価工程S22を実行し、劣化程度が許容できると評価された澱物溶解後有機をアルカリ洗浄工程S2に付すことで、有機系不純物が除去された有機溶媒が得られる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含む有機溶媒から有機系不純物を除去する方法であって、下記(1)~(4)を含む基本工程が、
(1)不純物を含む有機溶媒に、硫酸を添加して、硫酸洗浄後液と硫酸洗浄後有機を得る硫酸洗浄工程、
(2)前記硫酸洗浄後有機に中和剤を添加してpHを調整し、中和澱物と水相と有機相を有する洗浄後重液と有機相を含む洗浄後軽液に分離するアルカリ洗浄工程、
(3)前記洗浄後重液に、硫酸を添加し、澱物溶解後有機と澱物溶解液を得る澱物溶解工程からなり、
(4)前記澱物溶解後有機を前記アルカリ洗浄工程に繰り返すものであり、
(5)上記アルカリ洗浄工程の前に劣化評価工程を実行し、劣化程度が許容できると評価された前記澱物溶解後有機を前記アルカリ洗浄工程に付す
ことを特徴とする有機溶媒中の有機系不純物の除去方法。
【請求項2】
前記基本工程に付す不純物を含む有機溶媒が、
ニッケル、コバルト、亜鉛を含有する原料から溶媒抽出工程によりニッケルを含む抽出後液を分離して抽出後有機を得、
前記抽出後有機を逆抽出工程でコバルトを含む逆抽出後液を分離して得た逆抽後有機である
ことを特徴とする請求項1記載の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法。
【請求項3】
前記基本工程に付す不純物を含む有機溶媒が、
ニッケルとコバルトと亜鉛を含有する原料を酸または塩素ガスで浸出する浸出工程で抽出始液を得、
次いで前記溶媒抽出工程と前記逆抽出工程を順に実行して得た逆抽後有機である
ことを特徴とする請求項2記載の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法。
【請求項4】
前記基本工程に付す不純物を含む有機溶媒が、
前記逆抽出後有機に中和剤を添加し亜鉛を分離する亜鉛分離工程で、分離後重液と分離後軽液を得、
前記分離後重液に塩酸を添加して分離後澱物溶解液を分離する澱液分離工程で得た分離後澱物溶解後有機である
ことを特徴とする請求項2記載の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法。
【請求項5】
前記アルカリ洗浄工程において、硫酸洗浄後有機と中和剤を混合した際のpHを6以上12以下の範囲に維持する
ことを特徴とする請求項1記載の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法。
【請求項6】
前記中和剤が、中和剤を含む溶液もしくはスラリーの形態で添加される
ことを特徴とする請求項5記載の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法。
【請求項7】
前記不純物を含む有機溶媒を前記基本工程に付す前に、粘性を調整する粘性調整工程に付す
ことを特徴とする請求項1記載の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法。
【請求項8】
前記劣化評価工程における劣化評価の判断基準が、前記澱物溶解後有機の粘度を160mPa・s未満とする
ことを特徴とする請求項1記載の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物を含む有機溶媒から有機系不純物を除去する除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルやコバルトを含有する酸化鉱石からニッケルやコバルトを回収する方法の一つとして、酸化鉱石を硫酸溶液と共に200℃を超える高温高圧下に維持してニッケルやコバルトを硫酸溶液中に浸出した浸出液を得、次いでこの浸出液に中和剤を添加するなどしてpHを調整して鉄やアルミなどの不純物を沈殿させて除去し、次いで不純物を除去した後の溶液に硫化水素ガスなどの硫化剤を添加し、ニッケルやコバルトを混合硫化物として沈殿させ、回収する方法がある。
【0003】
さらに前記方法によって得た混合硫化物は、塩素ガスなどを用いてニッケルやコバルトを浸出して塩化物溶液とし、この塩化物溶液をセメンテーション(置換)反応や中和反応などの方法に付して塩化物溶液中に残存する銅・鉄・ヒ素・亜鉛などの不純物の多くを除去し、さらに溶媒抽出などの方法を用いてニッケルとコバルトを分離し、それぞれを硫酸塩や塩化物などの化合物塩の形で回収したり、電解採取に付して高純度な電気ニッケルや電気コバルトとして回収することも行われている。
【0004】
上述するような方法を用いた場合、溶媒抽出で用いる抽出剤や抽出剤を希釈するために添加される希釈剤(以下まとめて「有機溶媒」という)には、金属イオンを含有する不純物(以下単に「金属不純物」という)が残存することがある。
【0005】
残存する大きな原因は、一般に上述の塩化物溶液に含有される不純物の量が元々多く、セメンテーションや中和等の処理を1回程度実施しただけで完全に除去するのは困難なためである。
【0006】
具体的にはニッケル酸化鉱石の処理に用いた抽出始液には、回収対象のニッケルやコバルト以外にも亜鉛のような不純物が多量に含まれることがある。この亜鉛を完全に除去しようとして、中和等の処理をより厳格に行うと、ニッケルやコバルトが亜鉛などの金属不純物と共沈するなどしてロスとなるので、不純物除去方法としては採用し難い。
【0007】
そこで、これら有機溶媒中に含有される金属不純物を除去するための別の方法として、例えば、特許文献1~3の従来技術が提案されている。これらの従来技術は、逆抽出後の有機溶媒を中和工程に付すことで金属不純物を除去するものである。
【0008】
特許文献1には、有機溶媒と不純物とを効率よく分離できる有機溶媒中の不純物除去方法が開示されている。具体的には、亜鉛などの不純物を含む有機溶媒に中和剤を添加して、中和澱物を生成する中和工程(一般的な亜鉛存在量の多さから「脱亜鉛工程」とも称する)と、中和澱物を含む有機溶媒を、中和澱物を含む水相と有機相とに油水分離する油水分離工程とを備え、中和工程において、有機溶媒のpHを7.95~9.15に調整するものである。中和工程では、中和澱物の粒径が大きくなることで中和澱物が水相に沈降する速度が速くなり、その結果分相性を高めることができて有機溶媒と不純物とを効率よく分離することができる。
【0009】
特許文献2には、上記特許文献1の中和工程において、有機溶媒の温度を50℃~60℃に調整することで、有機溶媒の粘度を低下させ、中和澱物が水相に沈降する速度を速くし、分相性を高めることができて有機溶媒と不純物とを効率よく分離できる方法が開示されている。
【0010】
特許文献3には、上記特許文献1および特許文献2の中和工程において、有機溶媒に水を添加し有機溶媒を希釈することで粘度を低下させ、中和澱物が水相に沈降する速度が速くすることで、有機溶媒と不純物とを効率よく分離できる方法が開示されている。
【0011】
上記特許文献1~3の方法では、中和工程で有機溶媒に水酸化ナトリウム等の中和剤を添加して有機溶媒のアミンに付加した酸を脱離(不活性化)させ、同時に金属不純物を金属水酸化物の形態の中和澱物とする。次いで、この中和澱物を含んだ有機溶媒をデカンター等の油水分離装置を用いて中和澱物を含む水相(以下「重液」とも称する)と中和澱物が含まれない有機相(以下「軽液」とも称する)とに分離している。
【0012】
上記の軽液は、金属不純物が除去された有機溶媒として酸性水溶液を添加されて再度活性化され、溶媒抽出工程での抽出段に繰り返されて溶媒抽出に再利用される。
【0013】
一方、重液には少量の有機溶媒も混入することは避けらないので、有機溶媒は澱物溶解工程に送り塩酸を添加して溶解され、亜鉛などの金属不純物を含有する澱物溶解液と有機相を主とする澱物溶解後有機とに油水分離される。
【0014】
澱物溶解液は金属不純物の水溶液なので、排水処理工程に送られ公知の方法で処理される。
【0015】
一方、澱物溶解後有機は中和工程に繰り返されて、逆抽後有機に巻き込まれた水相や固形分を分離しやすくするための希釈剤として使用され、最終的には上述の軽液として溶媒抽出工程に繰り返されて有機溶媒として再利用される。
【0016】
しかしながら、逆抽出後の有機溶媒には、上述の金属不純物の他にも、抽出剤や希釈剤の製造時から含まれていたり、使用に伴って有機溶媒が劣化して生成した有機系不純物も含有される。具体的な有機系不純物としては、例えばカルボン酸、スルホン酸等がある。
これらの有機系不純物は、有機溶媒の繰り返し使用に伴って次第に増加し蓄積し、ひいては有機溶媒による不純物の分離能力を低下させる問題がある。
【0017】
これら有機系不純物や金属系不純物の一つである鉄や亜鉛は、塩素イオン(塩化物イオン)との錯体(クロロ錯体)を形成して存在するが、とくに鉄や亜鉛のクロロ錯体は有機溶媒との結合が強く安定となる特徴があり、有機溶媒との分離は容易ではなかった。
【0018】
有機溶媒の分離能力が低下すると、品質や生産性の低下をもたらすことになるので有機溶媒を再生することが望まれる。しかしながら、工業的に効率な方法は見当たらず、解決すべき課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2015-157990号公報
【特許文献2】特開2015-157991号公報
【特許文献3】特開2015-157992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、不純物を含む有機溶媒から有機系不純物を除去する除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
第1発明の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法は、不純物を含む有機溶媒から有機系不純物を除去する方法であって、下記(1)~(4)を含む基本工程が、(1)不純物を含む有機溶媒に、硫酸を添加して、硫酸洗浄後液と硫酸洗浄後有機を得る硫酸洗浄工程、(2)前記硫酸洗浄後有機に中和剤を添加してpHを調整し、中和澱物と水相と有機相を有する洗浄後重液と有機相を含む洗浄後軽液に分離するアルカリ洗浄工程、(3)前記洗浄後重液に、硫酸を添加し、澱物溶解後有機と澱物溶解液を得る澱物溶解工程からなり、(4)前記澱物溶解後有機を前記アルカリ洗浄工程に繰り返すものであり、(5)上記アルカリ洗浄工程の前に劣化評価工程を実行し、劣化程度が許容できると評価された前記澱物溶解後有機を前記アルカリ洗浄工程に付すことを特徴とする。
第2発明の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法は、第1発明において、前記基本工程に付す不純物を含む有機溶媒が、ニッケル、コバルト、亜鉛を含有する原料から溶媒抽出工程によりニッケルを含む抽出後液を分離して抽出後有機を得、前記抽出後有機を逆抽出工程でコバルトを含む逆抽出後液を分離して得た逆抽後有機であることを特徴とする。
第3発明の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法は、第2発明において、前記基本工程に付す不純物を含む有機溶媒が、ニッケルとコバルトと亜鉛を含有する原料を酸または塩素ガスで浸出する浸出工程で抽出始液を得、次いで前記溶媒抽出工程と前記逆抽出工程を順に実行して得た逆抽後有機であることを特徴とする。
第4発明の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法は、第2発明において、前記基本工程に付す不純物を含む有機溶媒が、前記逆抽出後有機に中和剤を添加し亜鉛を分離する亜鉛分離工程で、分離後重液と分離後軽液を得、前記分離後重液に塩酸を添加して分離後澱物溶解液を分離する澱液分離工程で得た分離後澱物溶解後有機であることを特徴とする。
第5発明の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法は、第1発明において、前記アルカリ洗浄工程において、硫酸洗浄後有機と中和剤を混合した際のpHを6以上12以下の範囲に維持することを特徴とする。
第6発明の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法は、第5発明において、前記中和剤が、中和剤を含む溶液もしくはスラリーの形態で添加されることを特徴とする。
第7発明の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法は、第1発明において、前記不純物を含む有機溶媒を前記基本工程に付す前に、粘性を調整する粘性調整工程に付すことを特徴とする。
第8発明の有機溶媒中の有機系不純物の除去方法は、第1発明において、前記劣化評価工程における劣化評価の判断基準が、前記澱物溶解後有機の粘度を160mPa・s未満とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
第1発明によれば、硫酸洗浄工程で金属系不純物を除去したのち、有機系不純物を含む硫酸洗浄後有機をアルカリ洗浄工程に付すと不純物が除去された洗浄後軽液と不純物が残留している洗浄後重液が得られる。洗浄後重液は澱物溶解工程で澱物溶解液と澱物溶解後有機に分離され、澱物溶解後有機は劣化評価工程で劣化が許容されると評価されたものがアルカリ洗浄工程に繰り返される。このため、不純物が充分に除去された洗浄後軽液が得られ、再び有機溶媒として利用できるようになる。
第2発明によれば、ニッケルコバルト製錬工程で生ずる逆抽出後有機を不純物の少ない有機溶媒に再生できる。
第3発明によれば、浸出工程で抽出始液を得ると、この抽出始液は液として扱えるので後工程である溶媒抽出工程と逆抽出工程が実行しやすくなる。
第4発明によれば、亜鉛分離工程で亜鉛を分離した後の分離後重液について澱液分離工程に付すと分離後澱物溶解後有機が得られ、基本工程での不純物除去に適した有機溶媒が得られる。
第5発明によれば、pHが適正な範囲なので、テトラクロロベンゼンスルホン酸、ヘプタン酸、トリクロロメタンスルホン酸を除去できる。
第6発明によれば、中和剤が溶液もしくはスラリーであることでpHの測定が容易に行えるので、アルカリ洗浄工程中のpH管理が適正に行える。
第7発明によれば、粘度調整工程において有機溶媒を低粘性に調整しておくと、基本工程における不純物除去が効率良く行える。
第8発明によれば、劣化基準基準を有機の粘度160mPa・s未満とし、基準値以上の有機を系外に払い出すことで、濃縮した有機劣化物を除去できる。このため、澱物溶解工程の溶解反応が効率良く行える。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る有機系不純物除去方法における基本工程の工程図である。
図2図1の基本工程で除去するに適した逆抽出後有機が生ずるニッケルコバルト製錬工程の工程図である。
図3】ニッケルコバルト製錬工程で生じた逆抽出後有機の後処理工程の工程図である。
図4図1に示す基本工程に対する付加工程である粘性調整工程S21および劣化評価工程S22の説明図である。
図5】硫酸洗浄と金属不純物の除去率の関係を示す図である。
図6】アルカリ洗浄処理によるpHと有機系不純物の洗浄率の関係を示す図である。
図7】実施例3で行った澱物溶解の溶解回数と澱物溶解の状態を示す図(写真)である。
図8】実施例3で行った溶解回数と有機粘度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る有機系不純物除去方法を、図1および図4に基づき説明する。
図1に示す本発明の基本工程は、不純物を含む有機溶媒から有機系不純物を除去する方法であって、
(1)不純物を含む有機溶媒に、硫酸を添加して、硫酸洗浄後液と硫酸洗浄後有機を得る硫酸洗浄工程S1、
(2)前記硫酸洗浄後有機に中和剤を添加してpHを調整し、中和澱物と水相と有機相を有する洗浄後重液と有機相を含む洗浄後軽液に分離するアルカリ洗浄工程S2、
(3)前記洗浄後重液に、硫酸を添加し、澱物溶解後有機と澱物溶解液を得る澱物溶解工程S3からなり、
(4)前記澱物溶解後有機を前記アルカリ洗浄工程S2に繰り返すものである。
本発明では、さらに図4に示すように、(5)上記アルカリ洗浄工程の前に劣化評価工程を実行し、劣化程度が許容できると評価された前記澱物溶解後有機を前記アルカリ洗浄工程に付すことを特徴とする。
【0025】
上記除去方法によれば、硫酸洗浄工程S1で金属系不純物を硫酸洗浄後液に含ませて除去するので、硫酸洗浄後有機には有機系不純物が含まれることになる。この硫酸洗浄後有機はアルカリ洗浄工程S2で、不純物が除去された洗浄後軽液(有機溶媒)と不純物が残留している洗浄後重液に分離される。洗浄後重液は澱物溶解工程S3で澱物溶解液と澱物溶解後有機に分離され、澱物溶解後有機は再びアルカリ洗浄工程S2に繰り返されて、アルカリ洗浄される。上記のアルカリ洗浄工程S2で繰り返し洗浄された洗浄後軽液は有機系不純物が充分に除去されているので、再利用可能な有機溶媒となる。なお、劣化評価工程S22については後述する。
【0026】
本発明により有機系不純物を除去する対象には、「不純物を含む有機溶媒」であれば、とくに制限はない。ただし、ニッケルコバルト製錬工程における溶媒抽出で用いる抽出剤(有機溶媒)に蓄積した不純物や抽出剤自身が劣化した有機系不純物を除去する場合に好適に利用できる。
【0027】
本発明により不純物が除去された有機溶媒は再生された有機溶媒として、再び溶媒抽出に用いる抽出剤やその他の用途に再利用できる。
【0028】
図2に基づきニッケルコバルト製錬工程の概略を説明する。
ニッケル、コバルト、亜鉛を含有する原料から溶媒抽出工程S12により抽出後液と抽出後有機を得る。抽出後液からは必要な工程を経てニッケル製品を得る。抽出後有機は逆抽出工程S13に付する。逆抽出工程S13では逆抽出後液とコバルトとニッケル以外の不純物を含む逆抽出後有機を得る。逆抽出後液からは必要な工程を経てコバルト製品を得ることができるが、逆抽出後有機は金属系および有機系の不純物が蓄積したものとなっている。この不純物を除去すると、有機溶媒として再生できるので、本発明の基本工程に付す意義がある。
【0029】
図2に示す製錬工程では、前記溶媒抽出工程S12の前に浸出工程S11をおくことが好ましい場合がある。ニッケルとコバルトと亜鉛を含有する原料を酸または塩素ガスで浸出する浸出工程S11を実行すると、ニッケルとコバルトを含有する抽出始液が得られる。この抽出始液は液体として扱えるので、後工程である溶媒抽出工程S12と逆抽出工程S13が実行しやすくなる。
【0030】
上記のようにニッケルコバルト製錬工程で得られた逆抽出後有機には、亜鉛などの金属系不純物のほか有機系不純物が残留している。金属系不純物が少量の場合は、逆抽出後有機を不純物除去工程の基本工程(図1)に直接付してもよい。しかし、金属系不純物が多い場合は、予め金属系不純物を除去する方が除去効率が高くなるため、図3に示す後処理工程に付したうえで逆抽出後有機を、有機系不純物を除去する基本工程に供するのが好ましい。
【0031】
図3に示す後処理工程を説明する。
ニッケルコバルト製錬工程で得た逆抽出後有機は亜鉛分離工程S14に付され、水酸化ナトリウムなどの中和剤を添加しpHを8~9に調整して分離後重液と分離後軽液に分離する。有機物を主とする分離後軽液は塩酸等を添加して活性化させて再び有機溶媒として利用できる。たとえば、得られた分離後軽液は図2に点線で示すように溶媒抽出工程S12へ溶媒として供される。一方、分離後重液は澱物と一部の有機物を含んでいるので澱液分離工程S15に付し、塩酸を添加して亜鉛などの金属系不純物を含む分離後澱物溶解液と分離後澱物溶解後有機に分離する。このようにして得られた分離後澱物溶解後有機には有機系不純物と一部の再抽出された亜鉛等の金属不純物も含んだ有機となっている。この分離後澱物溶解後有機が図1の基本工程に供される。
【0032】
上記の後処理工程で得た分離後澱物溶解後有機に含まれる有機系不純物には、カルボン酸が劣化し分解したヘプタン酸や、スルホン酸が劣化して生じたトリクロロメタンスルホン酸やテトラクロロベンゼンスルホン酸に代表される有機系不純物がある。
【0033】
上述するヘプタン酸などの有機系不純物は、酸の添加によりpHが低下すると有機相へ移動してしまうので、有機溶媒が有機系不純物が含まれたまま繰り返されると、有機系不純物を払い出すことができず蓄積してしまう。
【0034】
しかるに、本発明の不純物除去方法(図1の基本工程)を用いると、後述するように上記有機系不純物をほとんど除去して再び有機溶媒として利用することができる。
【0035】
上記に概要を説明した不純物除去方法の実施形態を、以下に図1を参酌しながら詳細に説明する。
(1)硫酸洗浄工程S1
不純物を含む有機溶媒、たとえば、図3に示す処理で得た分離後澱物溶解後有機を硫酸洗浄工程S1に付す。硫酸洗浄工程S1では、不純物を含む有機溶媒に硫酸を添加し、硫酸洗浄後液と硫酸洗浄後有機とを得る。
【0036】
不純物を含む有機溶媒を硫酸洗浄すると、主に鉄と塩素との錯体を分離し、それによって固形物などの生成原因となる鉄を除去できる。
この理由は硫酸を添加することで、分離後澱物溶解後有機中の塩化物濃度が薄まり、鉄と亜鉛と銅が塩化物溶液中で形成するクロロ錯イオン(FeCl )を壊すことができ、その結果有機溶媒から除去されやすくなるためである。
【0037】
この結果、鉄、亜鉛、銅などの金属が硫酸洗浄後液に含められて除去される。図5に示すように、混合する硫酸溶液酸濃度(横軸)は、0.1mol/L以上とすることで、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)の洗浄効果が高まる。
【0038】
硫酸洗浄工程S1で鉄、亜鉛、銅などの金属を除去しておけば、澱物生成が抑制されるので、後工程で溶液の固液分離(分相性)が向上し、有機系不純物を除去しやすくなる。この結果、アルカリ洗浄工程S2での洗浄後重液と洗浄後軽液の分離性が改善でき、さらなる後工程である澱物溶解工程S3での澱物溶解性も改善する。
【0039】
この硫酸洗浄工程S1で除去されるのは金属系不純物なので、出発原料としての分離後澱物溶解後有機に金属系不純物が含有されないか許容値以下の場合は硫酸洗浄工程S1は理論上必須とはいえない。しかしながら、金属系不純物を安定して含有させないことは工業的には困難なので、この硫酸洗浄工程S1によって金属系の不純物を安定して除去し、また有機相と水相との分離性を向上するには事実上必須とされる。
【0040】
また、分離後澱物溶解後有機に含有される金属系不純物が許容値以下の場合は分離後澱物溶解後有機の全量を硫酸洗浄工程S1に付す必要はなく、直ちにアルカリ洗浄工程S2に付してもよい。
【0041】
(2)アルカリ洗浄工程S2
硫酸洗浄工程S1によって得た硫酸洗浄後有機は、中和剤を添加してpHを調整するアルカリ洗浄工程S2に付される。中和剤によってpHを上げることで、有機系不純物を水相へと移行させ、次いで有機と水相を分離すると、有機系不純物が除去された洗浄後軽液と洗浄後重液とに分離される。洗浄後軽液は不純物が除去された有機溶媒として再利用でき、洗浄後重液は有機系不純物を含んでいるので、次の澱物溶解工程S3に付される。
【0042】
アルカリ洗浄工程S2におけるpH調整は、中和剤を添加してpHを6以上12以下、好ましくはpHを8以上12以下、より好ましくはpH9以上12以下、の範囲に維持するとよい。
【0043】
pHが6未満であると有機系不純物をほとんど除去できない。pHが6以上になるとテトラクロロベンゼンスルホン酸を除去でき、さらにpHが8以上ではヘプタン酸もほぼ完全に除去できる。さらにpHが9以上ではトリクロロメタンスルホン酸もほぼ完全に除去できる。
【0044】
pHが12を超える強アルカリ域では、除去効果の向上はほとんど見られず、むしろコストや設備材料の耐久性や取り扱い面の安全性などの点でメリットはない。
【0045】
上記のpH範囲に調整することで、有機系不純物を洗浄後重液に分配させ、有機系不純物が除去された洗浄後軽液が得られる。
【0046】
アルカリ洗浄工程S2で得た洗浄後軽液は、不純物が除去されているが一部の水相や澱物も含有している。その洗浄後軽液の一部は図1の点線で示すように、アルカリ洗浄工程S2に付してもよい。金属系不純物と有機系不純物が分離された洗浄後軽液を繰り返すことで、硫酸洗浄後有機を希釈することと同じ効果が得られ、洗浄後重液と洗浄後軽液の分離性も向上する。
【0047】
また、図3に点線で示すように、基本工程のアルカリ洗浄工程S2で得た洗浄後軽液の大部分を後処理工程を始めるときの亜鉛分離工程S14に付す逆抽出後有機に供してもよい。この場合、逆抽出後有機を希釈する効果が得られ、亜鉛分離工程S14や澱液分離工程S15が進めやすくなる。
【0048】
図1に示すアルカリ洗浄工程S2においては、中和剤は溶液もしくはスラリーの形態で添加される。
【0049】
中和剤としては、水酸化ナトリウムなどの溶液を用いることができる。水酸化ナトリウムの結晶など固体の中和剤も実際には有機相に巻き込まれた水相分があるので、使用できるが、溶媒が完全に有機溶媒のみであるとpHの測定ができないので現実的でない。
【0050】
アルカリ洗浄工程S2におけるアルカリ洗浄による有機系不純物の除去は、とくにカルボン酸に由来するナトリウム塩を形成する有機酸を不純物として含む有機溶媒に対して、効果的に機能する。
【0051】
(3)澱物溶解工程S3
アルカリ洗浄工程S2で得られた洗浄後重液は、澱物溶解工程S3に供される。澱物溶解工程S3では、硫酸を用いて澱物溶解後有機と澱物溶解液とに分離される。ここで用いる硫酸には、新しい硫酸のほか硫酸洗浄工程S1で得た硫酸洗浄後液を用いてもよい。澱物溶解工程S3では硫酸を添加することで鉄のクロロ錯体の形成を抑制して、有機相に抽出されないようにしている。このため、澱物溶解後有機は鉄や銅、亜鉛をほとんど含まないものとなっている。
【0052】
(4)繰り返し処理
得られた澱物溶解後有機は、アルカリ洗浄工程S2に繰り返され、必要な回数だけアルカリ洗浄される。
澱物溶解液は公知の処理方法を用いる排水処理工程で処理され、排水として系外に放出される。
【0053】
以上のように、図1に示す基本処理工程を実行すると、有機溶媒中に蓄積した不純物、とくに有機系不純物を充分に除去することができる。このようにして有機系不純物を分離した有機溶媒は、種々の用途に再利用することができる。とくに、本発明の除去方法では、有機系不純物としてナトリウム塩を形成する有機酸に対し効果がある。さらに有機酸の中でもカルボン酸に由来する場合に顕著な効果がある。
【0054】
つぎに、図4に基づき、粘性調整工程S21と劣化評価工程S22を説明する。
【0055】
(粘性調整工程S21)
図3に示す澱液分離工程S15で得られた分離後澱物溶解後有機が有機相と水相の分離性に問題が無い場合は、必須ではないが工業的な操業を行う場合は、分離後澱物溶解後有機の粘性を調整したうえで硫酸洗浄工程S1に付すことが好ましい。
【0056】
有機溶媒には、それまで既に金属系不純物の多くが分離されているが、なお多くの金属イオンが抽出され同時に有機劣化物も含まれる状態が多く、粘性が高くなっていることが多い。この場合、高粘性では有機溶媒への不純物を含んだ水相の巻き込みも増加し、不純物の除去が効率よく進まない。
【0057】
そこで、粘性調整工程S21で逆抽出後有機や洗浄後有機を添加し、有機溶媒を低粘性に調整して不純物除去が効率良く行えるようにする。そのうえで、硫酸洗浄工程S1、アルカリ洗浄工程S2、澱物溶解工程S3からなる基本工程に付すとよい。
【0058】
(劣化評価工程S22)
基本工程で得た澱物溶解後有機は劣化評価工程S22に付すことが好ましい。有機溶媒の劣化程度を評価する方法としては、例えば粘度を測定する方法がある。粘度が一定粘度以下ならば、澱物溶解後有機はアルカリ洗浄工程S2に繰り返され、不純物の除去率が高くなった洗浄後軽液はコバルト抽出のための有機溶媒として再度利用される。
【0059】
澱物溶解後有機が、一定粘度以上ならば劣化しており再利用できないと評価できる。劣化した有機溶媒は、公知の廃有機処理に付し処分すればよい。
【0060】
劣化評価工程S22における劣化評価の判断基準は、澱物溶解後有機の粘度を160mPa・s未満とするのが好ましい。澱物溶解後有機の粘度が基準値である160mPa・s以上だと澱物の溶け残りが発生するが、基準値未満だと澱物の溶け残りが発生しないからである。
上記の基準値以上の有機は系外に払い出すことで、濃縮した有機劣化物を除去できる。このため、澱物溶解工程S3の溶解反応が効率良く行える。
【実施例0061】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0062】
<実施例1>
(不純物を含む有機溶媒の準備)
有機溶媒としては、抽出剤にカルボン酸系抽出剤であるトリノルマルオクチルアミン(以下、TNOAという)を用い、これに希釈剤(丸善石油化学株式会社製、商品名:スワゾール1800)を加えて28重量%の抽出剤濃度に調整した。この抽出剤と希釈剤からなる有機溶媒を公知の方法を用いてコバルトの溶媒抽出処理に付すことを繰り返した。
【0063】
具体的な処理としては、図2に示す、ニッケルとコバルトを含有する原料を塩素ガスで浸出する浸出工程S11に付しコバルトを含有する塩酸酸性溶液の抽出始液を得る。この抽出始液を溶媒抽出工程S12に付す。溶媒抽出工程S12では、ニッケルを抽出後液に残し、抽出後有機を得た。
【0064】
次いで抽出後有機を公知の方法で洗浄し、逆抽出工程S13に付した。逆抽出工程S13で塩酸溶液を加えるとコバルトが逆抽出された逆抽出後液と逆抽後有機とに分離した。
【0065】
逆抽出後有機には鉄や亜鉛などの金属系不純物や本発明の除去対象である有機系不純物が含有されるので、一部を抜き出し、図3に示す後処理工程に付した。
【0066】
後処理工程(図3)の亜鉛分離工程S14では、逆抽出後有機に水酸化ナトリウムなどの中和剤を添加し、pHを8~9に調整して中和し、澱物と一部の有機物の混合した分離後重液と有機物を主とする分離後軽液とに分離した。分離後軽液は塩酸を添加して活性化し、活性化後の有機溶媒はコバルト抽出に繰り返した。
【0067】
一方、分離後重液には塩酸を添加する澱液分離工程S15に付し、分離後澱物溶解液と分離後澱物溶解後有機に固液分離した。金属系不純物が多く含まれる分離後澱物溶解液は排水処理工程に送り、公知の方法で排水処理して放出した。
分離後澱物溶解後有機は、逆抽出後有機と混合し有機溶媒として繰り返したり、亜鉛分離工程S14に繰り返すことで、有機溶媒中に有機系不純物を蓄積させた。
【0068】
(基本工程による不純物除去)
まず、基本工程の硫酸洗浄工程S1に付した。準備しておいた有機系不純物を含有する有機溶媒(分離後澱物溶解後有機に相当)から5サンプルを分取した。
【0069】
(硫酸洗浄)
5サンプルのそれぞれを硫酸を含まない水だけの場合、濃度0.1mol/l、0.5mol/l、1mol/l、2mol/lの硫酸溶液を有機溶媒と同じ体積だけ添加した場合で、硫酸洗浄した(硫酸洗浄工程S1)。得られた有機溶媒中の亜鉛、鉄、銅の各濃度を測定し、金属系不純物の変化を調査した。
【0070】
図5に示すように、0.1mol/l程度の硫酸濃度で洗浄することで、有機溶媒中の亜鉛と鉄と銅を低減することができた。洗浄前の有機中には亜鉛が7.9g/L、鉄が1.8g/L、銅が0.29g/L含有されていたが、いずれも目標値以下に低減できた。具体的には、亜鉛が5.5g/L、鉄が0.17g/L、銅が0.14g/Lに低減した。
【0071】
(アルカリ洗浄)
次いで、上記の硫酸洗浄を行った硫酸洗浄後有機を分取し、各サンプルごとに洗浄後の水相/有機相の体積比(O/A比)が1.0となるように、水酸化ナトリウム溶液を添加して、温度を60℃に維持しながら、それぞれpHを5から12の範囲で調整し、アルカリ洗浄処理を行った(アルカリ洗浄工程S2)。
【0072】
アルカリ洗浄処理前後の有機溶媒を、高速液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)を用いて測定し、検出成分のピーク面積比から各成分の有機溶媒から有機系不純物が除去された割合、すなわち洗浄率を求めた。
【0073】
アルカリ洗浄処理によるpHと有機系不純物の除去率(洗浄率)の関係を表1ならびに図6に示す。pHが6で9%の洗浄率が得られるが、pHをさらに8から9に上げることで洗浄率が線形で急激に向上していた。特に、pH9ではヘプタン酸(C14)やトリクロロメタンスルホン酸(CHClS)やテトラクロロベンゼンスルホン酸(CClS)の洗浄率は86%以上が得られた。
【0074】
【表1】
【0075】
<実施例2>
有機系不純物だけを含有し、金属系不純物が含まれないTNOAを含む有機溶媒を処理対象として、本発明の基本工程により有機系不純物の除去を行い、結果を確認した。
【0076】
具体的には、鉄や亜鉛を含まない塩化コバルト試薬を溶解した塩酸酸性溶液を抽出始液に用い、以降は実施例1と同じ方法で有機系不純物を有機溶媒中に蓄積させた。
有機系不純物が充分に蓄積した時点で、後処理工程(図3)の亜鉛分離工程S14に付し、中和して分離後重液と分離後軽液を得た。そして分離後重液には塩酸で溶解する澱液分離工程S15に付して分離後澱物溶解後有機を得た。この分離後澱物溶解後有機は有機系不純物を含んでいる。
【0077】
ついで、分離後澱物溶解後有機を基本工程(図1)に付した。この分離後澱物溶解後有機は鉄や亜鉛を含んでいないので、硫酸洗浄工程S1は省略し、そのままアルカリ洗浄工程S2に付した。この段階の分離後澱物溶解後有機のヘプタン酸濃度は、ガスクロマトグラフ/水素炎イオン化検出器と高速液体クロマトグラフ質量分析装置を用いて測定すると、4800重量ppmだった。なおTNOA濃度は18重量%だった。
【0078】
アルカリ洗浄工程S2では、分離後澱物溶解後有機に有機と同じ体積分の純水と水酸化ナトリウム溶液を加えて、温度60℃に維持してpH12に調整した。次いで、遠心分離機を用いて有機溶媒である洗浄後軽液と洗浄後重液を分離し、洗浄後軽液に有機と同じ体積分の純水と水酸化ナトリウム溶液を添加してpH12に調整するアルカリ洗浄を繰り返し、合計4回アルカリ洗浄を行った。終了後のヘプタン酸は30重量ppmまで減少した。TNOAの濃度は27重量%と最初に調合した濃度とほとんど同じであるので、濃縮や希釈による液量変化を加味しても、本発明の不純物除去方法を用いることでヘプタン酸等の有機系不純物を効果的に除去できることが確認された。
【0079】
<実施例3>
(劣化評価)
劣化評価の適切な判断基準を得るため澱物溶解工程S3で得た澱物溶解後有機の粘度を測定し、粘度に対する澱物溶解工程S3への影響を確認した。
具体的には、実施例1の硫酸濃度0.1mol/lで洗浄(硫酸洗浄工程S1に対応)して得た硫酸洗浄後有機を水酸化ナトリウム溶液でpH12に調整し、アルカリ洗浄(アルカリ洗浄工程S2に対応)して洗浄後重液を得た。アルカリ洗浄後重液225mLとアルカリ洗浄後軽液30mLの混合液に0.1mol/l硫酸337mlを添加し、10mol/l硫酸を用いてpH0.8に調整(澱物溶解工程S3に対応)した。40℃、1時間の攪拌後、有機粘度の測定と澱物の溶解状態を確認した。溶解後有機を全量回収し、この有機を再度アルカリ洗浄後重液225mLと混合し1回目と同様に硫酸による澱物溶解を行った。上記の方法で6回澱物溶解を繰り返した。
【0080】
結果を図7および図8に示す。図7は6回繰り返した澱物溶解に使用したビーカーの写真であり、溶解回数が1回から6回までを左から右に順に示している。図8は横軸に溶解回数をおき、縦軸に有機の粘度(単位mPa・s)をおいている。
図7に示すように、溶解5回目で澱物の溶け残りが発生し、6回目でも有機相に未溶解の澱物が存在することが確認された。図8から分かるように溶解回数が増えるに従って有機の粘度は線形で高くなり、5回のときの有機の粘度は160mPa・sである。この結果から、有機の粘度が、160mPa・s未満であると澱物の溶け残りは発生しないことが確認された。一方、有機の粘度が160mPa・s以上では澱物の溶け残りが発生しており、有機の粘度が高くなり酸と澱物の接触を阻害していることが確認された。
【符号の説明】
【0081】
S1 硫酸洗浄工程
S2 アルカリ洗浄工程
S3 澱物溶解工程
S11 浸出工程
S12 溶媒抽出工程
S13 逆抽出工程
S14 亜鉛分離工程
S15 澱液分離工程
S21 粘性調整工程
S22 劣化評価工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8