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特開2024-78709ワークピースの研磨レートの応答性プロファイルを作成する方法、および研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078709
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ワークピースの研磨レートの応答性プロファイルを作成する方法、および研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240604BHJP
   B24B 37/30 20120101ALI20240604BHJP
   B24B 37/005 20120101ALI20240604BHJP
【FI】
H01L21/304 622R
B24B37/30 E
B24B37/005 A
H01L21/304 621D
H01L21/304 622K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191204
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】山木 暁
(72)【発明者】
【氏名】八木 圭太
(72)【発明者】
【氏名】中村 顕
(72)【発明者】
【氏名】白川 滉大
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AC02
3C158AC04
3C158BA04
3C158BA07
3C158BA09
3C158BB08
3C158BB09
3C158CB01
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EA14
3C158EB01
5F057AA16
5F057CA12
5F057DA03
5F057FA19
5F057GA02
5F057GA16
5F057GA17
5F057GB02
5F057GB13
(57)【要約】
【課題】ウェーハなどのワークピースを研磨パッドに押し付ける圧力の変化に対する研磨レートの応答性を正確に取得することができる方法を提供する。
【解決手段】本方法は、研磨ヘッド7の第1圧力室内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す推定研磨レート応答性プロファイルをシミュレーションを用いて作成し、第2圧力室内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す実研磨レート応答性プロファイルをワークピースの研磨結果を用いて作成し、推定研磨レート応答性プロファイルと実研磨レート応答性プロファイルを組み合わせることにより、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体デバイスの製造に使用されるワークピースを、第1圧力室および第2圧力室が内側に形成された弾性膜で研磨パッドに押し付けたときの前記第1圧力室および前記第2圧力室内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す研磨レート応答性プロファイルを作成する方法であって、
前記第1圧力室内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す推定研磨レート応答性プロファイルをシミュレーションを用いて作成し、
前記第2圧力室内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す実研磨レート応答性プロファイルをワークピースの研磨結果を用いて作成し、
前記推定研磨レート応答性プロファイルと前記実研磨レート応答性プロファイルを組み合わせることにより、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する、方法。
【請求項2】
前記推定研磨レート応答性プロファイルを作成する工程は、
前記第1圧力室内の単位圧力の変化に応答して変化した、第1ワークピースから前記研磨パッドに加えられる押し付け圧力の分布を示す押し付け圧力応答性プロファイルをシミュレーションにより算定し、
前記第1圧力室内が所定の圧力に維持された状態で、前記第1ワークピースを前記研磨パッドに押し付けて前記第1ワークピースを研磨し、
前記研磨された第1ワークピースの研磨レートの分布を示す研磨レートプロファイルを作成し、
前記押し付け圧力応答性プロファイルと、前記所定の圧力と、前記研磨レートプロファイルに基づいて、前記推定研磨レート応答性プロファイルを作成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記推定研磨レート応答性プロファイルを作成する工程は、
前記押し付け圧力応答性プロファイルに前記所定の圧力および研磨レート係数を乗算して仮想研磨レートプロファイルを作成し、
前記研磨レートプロファイルと前記仮想研磨レートプロファイルとの差を最小とする前記研磨レート係数を決定し、
前記押し付け圧力応答性プロファイルに前記決定された研磨レート係数を乗算して前記推定研磨レート応答性プロファイルを作成することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記押し付け圧力応答性プロファイルを算定する工程は、
前記第1圧力室内に第1圧力を持つ気体を供給したときの第1押し付け圧力の分布と、前記第1圧力室内に第2圧力を持つ気体を供給したときの第2押し付け圧力の分布をシミュレーションにより算定し、
前記第1ワークピース上の半径方向の各位置において、前記第1押し付け圧力と前記第2押し付け圧力との差を、前記第1圧力と前記第2圧力との差で割り算することで、前記第1圧力室内の気体の単位圧力の変化に応答して変化した押し付け圧力を算定する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記実研磨レート応答性プロファイルを作成する工程は、
前記第2圧力室内の圧力を変化させながら、第2ワークピースを前記研磨パッドに押し付けて前記第2ワークピースを研磨し、
前記第2圧力室内の異なる圧力に対応する前記第2ワークピースの複数の研磨レートを算定し、
前記第2圧力室内の圧力の変化に対する研磨レートの応答性を算定することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記推定研磨レート応答性プロファイルおよび前記実研磨レート応答性プロファイルを作成する工程は、
前記第1圧力室内が所定の第1圧力に維持され、かつ前記第2圧力室内が所定の第2圧力に維持された状態で、第1ワークピースを前記研磨パッドに押し付けて前記第1ワークピースを研磨し、
前記研磨された第1ワークピースの研磨レートの分布を示す実研磨レートプロファイルを作成し、
前記第1圧力、第1研磨レート係数、シミュレーションにより算定された押し付け圧力応答性プロファイルに基づいて第1研磨レートプロファイルを作成し、
前記第2圧力、第2研磨レート係数、第2ワークピースの研磨結果から作成された暫定的な研磨レート応答性プロファイルに基づいて第2研磨レートプロファイルを作成し、
前記第1研磨レートプロファイルと前記第2研磨レートプロファイルとを組み合わせて、第3研磨レートプロファイルを作成し、
前記実研磨レートプロファイルと前記第3研磨レートプロファイルとの差を最小とする前記第1研磨レート係数および前記第2研磨レートを決定し、
前記決定された第1研磨レート係数を前記押し付け圧力応答性プロファイルに乗算して前記推定研磨レート応答性プロファイルを作成し、
前記決定された第2研磨レート係数を前記暫定的な研磨レート応答性プロファイルに乗算して前記実研磨レート応答性プロファイルを作成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記押し付け圧力応答性プロファイルを算定する工程は、
前記第1圧力室内に第3圧力を持つ気体を供給したときの第1押し付け圧力の分布と、前記第1圧力室内に第4圧力を持つ気体を供給したときの第2押し付け圧力の分布をシミュレーションにより算定し、
前記第1ワークピース上の半径方向の各位置において、前記第1押し付け圧力と前記第2押し付け圧力との差を、前記第3圧力と前記第4圧力との差で割り算することで、前記第1圧力室内の気体の単位圧力の変化に応答して変化した押し付け圧力を算定する工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法によって作成された前記ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを用いてワークピースの研磨条件を最適化し、
前記最適化された研磨条件の下で、前記ワークピースを前記弾性膜で前記研磨パッドに押し付けて前記ワークピースを研磨する、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの製造に使用されるウェーハ、基板、パネルなどのワークピースを研磨する技術に関し、特に、ワークピースを研磨パッドに押し付ける圧力の変化に対する研磨レートの応答性を算定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
化学機械研磨(以下、CMPという)は、シリカ(SiO)等の砥粒を含んだ研磨液を研磨パッド上に供給しつつワークピース(例えば、ウェーハ、基板、またはパネルなど)を研磨パッドに摺接させて該ワークピースを研磨するプロセスである。このCMPを行うための研磨装置は、研磨面を有する研磨パッドを支持する研磨テーブルと、ワークピースを研磨パッドに押し付けるための研磨ヘッドを備えている。
【0003】
研磨ヘッドは、圧力室を形成する弾性膜でワークピースを研磨パッドに押し付けるように構成されている。圧力室内には加圧された気体が供給され、気体の圧力は、弾性膜を介してワークピースに加えられる。したがって、ワークピースが研磨パッドに押し付けられる力は、圧力室内の圧力によって調節できる。
【0004】
研磨装置は、次のようにしてワークピースを研磨する。研磨テーブルおよび研磨パッドを一体に回転させながら、研磨液(典型的にはスラリー)を研磨パッドの研磨面に供給する。研磨ヘッドはワークピースを回転させながら、ワークピースの表面を研磨パッドの研磨面に対して押し付ける。ワークピースは、研磨液の存在下で研磨パッドに摺接される。ワークピースの表面は、研磨液の化学的作用と、研磨液に含まれる砥粒および研磨パッドの機械的作用により、研磨される。
【0005】
ワークピースの膜厚は、研磨時間に伴って徐々に減少する。ワークピースの膜厚が減少する速度は、しばしば研磨レートで表される。研磨レートは、研磨により単位時間あたりに減少するワークピースの表面材料の量であり、減少する量は厚さで表される。研磨レートは、除去レートとも呼ばれる。
【0006】
CMPプロセスを最適化するためには、研磨ヘッドの圧力室内の圧力変化に対するワークピースの研磨レートの応答性を把握することが重要である。研磨レートの応答性とは、圧力室内の単位圧力の変化に応答した研磨レートの変化をいう。研磨レートの応答性を知ることができれば、目標プロファイルを達成するために必要な研磨レートでワークピースを研磨することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-43873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
研磨レートは、基本的に、以下のようなプレストンの法則に従うことが知られている。
研磨レート∝押し付け圧力×相対速度
しかしながら、研磨ヘッドの弾性膜からワークピースに加えられる押し付け力は、弾性膜の押し付け面内で一定ではなく、また、温度、研磨パッド、研磨液など様々な要因で変化する。
【0009】
そこで、本発明は、ウェーハなどのワークピースを研磨パッドに押し付ける圧力の変化に対する研磨レートの応答性を正確に取得することができる方法を提供する。また、本発明は、研磨レート応答性プロファイルを利用してワークピースを研磨する研磨方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、半導体デバイスの製造に使用されるワークピースを、第1圧力室および第2圧力室が内側に形成された弾性膜で研磨パッドに押し付けたときの前記第1圧力室および前記第2圧力室内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す研磨レート応答性プロファイルを作成する方法であって、前記第1圧力室内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す推定研磨レート応答性プロファイルをシミュレーションを用いて作成し、前記第2圧力室内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す実研磨レート応答性プロファイルをワークピースの研磨結果を用いて作成し、前記推定研磨レート応答性プロファイルと前記実研磨レート応答性プロファイルを組み合わせることにより、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する、方法が提供される。
【0011】
一態様では、前記推定研磨レート応答性プロファイルを作成する工程は、前記第1圧力室内の単位圧力の変化に応答して変化した、第1ワークピースから前記研磨パッドに加えられる押し付け圧力の分布を示す押し付け圧力応答性プロファイルをシミュレーションにより算定し、前記第1圧力室内が所定の圧力に維持された状態で、前記第1ワークピースを前記研磨パッドに押し付けて前記第1ワークピースを研磨し、前記研磨された第1ワークピースの研磨レートの分布を示す研磨レートプロファイルを作成し、前記押し付け圧力応答性プロファイルと、前記所定の圧力と、前記研磨レートプロファイルに基づいて、前記推定研磨レート応答性プロファイルを作成することを含む。
一態様では、前記推定研磨レート応答性プロファイルを作成する工程は、前記押し付け圧力応答性プロファイルに前記所定の圧力および研磨レート係数を乗算して仮想研磨レートプロファイルを作成し、前記研磨レートプロファイルと前記仮想研磨レートプロファイルとの差を最小とする前記研磨レート係数を決定し、前記押し付け圧力応答性プロファイルに前記決定された研磨レート係数を乗算して前記推定研磨レート応答性プロファイルを作成することを含む。
【0012】
一態様では、前記押し付け圧力応答性プロファイルを算定する工程は、前記第1圧力室内に第1圧力を持つ気体を供給したときの第1押し付け圧力の分布と、前記第1圧力室内に第2圧力を持つ気体を供給したときの第2押し付け圧力の分布をシミュレーションにより算定し、前記第1ワークピース上の半径方向の各位置において、前記第1押し付け圧力と前記第2押し付け圧力との差を、前記第1圧力と前記第2圧力との差で割り算することで、前記第1圧力室内の気体の単位圧力の変化に応答して変化した押し付け圧力を算定する工程を含む。
一態様では、前記実研磨レート応答性プロファイルを作成する工程は、前記第2圧力室内の圧力を変化させながら、第2ワークピースを前記研磨パッドに押し付けて前記第2ワークピースを研磨し、前記第2圧力室内の異なる圧力に対応する前記第2ワークピースの複数の研磨レートを算定し、前記第2圧力室内の圧力の変化に対する研磨レートの応答性を算定することを含む。
【0013】
一態様では、前記推定研磨レート応答性プロファイルおよび前記実研磨レート応答性プロファイルを作成する工程は、前記第1圧力室内が所定の第1圧力に維持され、かつ前記第2圧力室内が所定の第2圧力に維持された状態で、第1ワークピースを前記研磨パッドに押し付けて前記第1ワークピースを研磨し、前記研磨された第1ワークピースの研磨レートの分布を示す実研磨レートプロファイルを作成し、前記第1圧力、第1研磨レート係数、シミュレーションにより算定された押し付け圧力応答性プロファイルに基づいて第1研磨レートプロファイルを作成し、前記第2圧力、第2研磨レート係数、第2ワークピースの研磨結果から作成された暫定的な研磨レート応答性プロファイルに基づいて第2研磨レートプロファイルを作成し、前記第1研磨レートプロファイルと前記第2研磨レートプロファイルとを組み合わせて、第3研磨レートプロファイルを作成し、前記実研磨レートプロファイルと前記第3研磨レートプロファイルとの差を最小とする前記第1研磨レート係数および前記第2研磨レートを決定し、前記決定された第1研磨レート係数を前記押し付け圧力応答性プロファイルに乗算して前記推定研磨レート応答性プロファイルを作成し、前記決定された第2研磨レート係数を前記暫定的な研磨レート応答性プロファイルに乗算して前記実研磨レート応答性プロファイルを作成することを含む。
一態様では、前記押し付け圧力応答性プロファイルを算定する工程は、前記第1圧力室内に第3圧力を持つ気体を供給したときの第1押し付け圧力の分布と、前記第1圧力室内に第4圧力を持つ気体を供給したときの第2押し付け圧力の分布をシミュレーションにより算定し、前記第1ワークピース上の半径方向の各位置において、前記第1押し付け圧力と前記第2押し付け圧力との差を、前記第3圧力と前記第4圧力との差で割り算することで、前記第1圧力室内の気体の単位圧力の変化に応答して変化した押し付け圧力を算定する工程を含む。
【0014】
一態様では、上記方法によって作成された前記ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを用いてワークピースの研磨条件を最適化し、前記最適化された研磨条件の下で、前記ワークピースを前記弾性膜で前記研磨パッドに押し付けて前記ワークピースを研磨する、研磨方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シミュレーションにより生成された推定研磨レート応答性プロファイルと、実際の研磨により取得された実研磨レート応答性プロファイルとの組み合わせから、正確な研磨レート応答性プロファイルを取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】研磨装置の一実施形態を示す模式図である。
図2】研磨ヘッドの一実施形態を示す断面図である。
図3】ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する一実施形態を説明するためのフローチャートである。
図4】押し付け圧力応答性プロファイルを作成する一実施形態を説明する図である。
図5】押し付け圧力応答性プロファイルの一例を示すグラフである。
図6】すべての圧力室についてシミュレーションにより算出した推定研磨レート応答性プロファイルの一例を示すグラフである。
図7】実際の研磨に基づいて算定したすべての圧力室についての実研磨レート応答性プロファイルの一例を示すグラフである。
図8】推定研磨レート応答性プロファイルと実研磨レート応答性プロファイルとの組み合わせからなるハイブリッド研磨レート応答性プロファイルの一例を示すグラフである。
図9】ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する他の実施形態を説明するためのフローチャートの一部である。
図10】上記フローチャートの他の部分である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、研磨装置の一実施形態を示す模式図である。研磨装置は、半導体デバイスの製造に使用されるワークピースの一例であるウェーハWを化学機械的に研磨する装置である。図1に示すように、この研磨装置は、研磨面2aを有する研磨パッド2を支持する研磨テーブル5と、ウェーハWを研磨面2aに対して押し付ける研磨ヘッド7と、研磨液(例えば、砥粒を含むスラリー)を研磨面2aに供給する研磨液供給ノズル8と、後述する研磨レート応答性プロファイルを作成する演算システム10を備えている。
【0018】
研磨ヘッド7は、その下面にウェーハWを保持できるように構成されている。ウェーハWは被研磨膜を有する。以下の実施形態では、ワークピースの例としてウェーハが使用されているが、ワークピースはウェーハに限定されず、半導体デバイスの製造に使用されるものであれば、円形基板、矩形基板、パネルなどであってもよい。
【0019】
演算システム10は、少なくとも1台のコンピュータから構成されている。演算システム10は、後述する研磨レート応答性プロファイルを作成するためのプログラムが格納された記憶装置10aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置10bを備えている。記憶装置10aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。演算装置10bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、演算システム10の具体的構成はこれらの例に限定されない。演算システム10は、研磨モジュール内、研磨装置内、複数の研磨モジュールを含む基板処理システム内、研磨装置が配置される工場の管理システム内、研磨装置が配置される工場外などに配置されてもよい。
【0020】
研磨装置は、支軸14と、支軸14の上端に連結された研磨ヘッド揺動アーム16と、研磨ヘッド揺動アーム16の自由端に回転可能に支持された研磨ヘッドシャフト18をさらに備えている。研磨ヘッド7は、研磨ヘッドシャフト18の下端に固定されている。研磨ヘッド揺動アーム16内には、電動機などを備えた研磨ヘッド回転機構(図示せず)が配置されている。この研磨ヘッド回転機構は、研磨ヘッドシャフト18に連結されており、研磨ヘッドシャフト18および研磨ヘッド7を矢印で示す方向に回転させるように構成されている。
【0021】
研磨ヘッドシャフト18は、図示しない研磨ヘッド昇降機構(ボールねじ機構などを含む)に連結されている。この研磨ヘッド昇降機構は、研磨ヘッドシャフト18を研磨ヘッド揺動アーム16に対して相対的に上下動させるように構成されている。この研磨ヘッドシャフト18の上下動により、研磨ヘッド7は、矢印で示すように、研磨ヘッド揺動アーム16および研磨テーブル5に対して相対的に上下動可能となっている。
【0022】
研磨装置は、研磨パッド2および研磨テーブル5をそれらの軸心を中心に回転させるテーブル回転モータ21をさらに備えている。テーブル回転モータ21は研磨テーブル5の下方に配置されており、研磨テーブル5は、テーブル軸5aを介してテーブル回転モータ21に連結されている。研磨テーブル5および研磨パッド2は、テーブル回転モータ21によりテーブル軸5aを中心に矢印で示す方向に回転されるようになっている。研磨パッド2は、研磨テーブル5の上面に貼り付けられている。研磨パッド2の露出面は、ウェーハWを研磨する研磨面2aを構成している。
【0023】
ウェーハWの研磨は次のようにして行われる。ウェーハWは、その被研磨面が下を向いた状態で、研磨ヘッド7に保持される。研磨ヘッド7および研磨テーブル5をそれぞれ回転させながら、研磨テーブル5の上方に設けられた研磨液供給ノズル8から研磨液(例えば、砥粒を含むスラリー)を研磨パッド2の研磨面2a上に供給する。研磨パッド2はその中心軸線を中心に研磨テーブル5と一体に回転する。研磨ヘッド7は研磨ヘッド昇降機構(図示せず)により所定の高さまで移動される。さらに、研磨ヘッド7は上記所定の高さに維持されたまま、ウェーハWを研磨パッド2の研磨面2aに押し付ける。ウェーハWは研磨ヘッド7と一体に回転する。研磨液が研磨パッド2の研磨面2a上に存在した状態で、ウェーハWは研磨面2aに摺接される。ウェーハWの表面は、研磨液の化学的作用と、研磨液に含まれる砥粒および研磨パッド2の機械的作用との組み合わせにより、研磨される。
【0024】
研磨装置は、研磨面2a上のウェーハWの膜厚を測定する膜厚センサ42を備えている。膜厚センサ42は、ウェーハWの膜厚を直接または間接に示す研磨指標値を生成するように構成されている。この研磨指標値は、ウェーハWの膜厚に従って変化するので、ウェーハWの膜厚を示す。研磨指標値は、ウェーハWの膜厚自体を表す値であってもよいし、または膜厚に換算される前の物理量または信号値であってもよい。
【0025】
膜厚センサ42の例としては、光学式膜厚センサ、渦電流センサが挙げられる。光学式膜厚センサは、ウェーハWの表面に光を照射し、ウェーハWからの反射光のスペクトルからウェーハWの膜厚を決定するように構成される。渦電流センサは、ウェーハWに形成されている導電膜に渦電流を誘起させ、導電膜と渦電流センサのコイルとを含む電気回路のインピーダンスに従って変化する信号値を出力するように構成される。光学式膜厚センサおよび渦電流センサには、公知の装置を使用することができる。
【0026】
膜厚センサ42は、研磨テーブル5内に設置されており、研磨テーブル5と一体に回転する。より具体的には、膜厚センサ42は、研磨テーブル5が一回転するたびに、研磨面2a上のウェーハWを横切りながら、ウェーハWの複数の測定点での膜厚を測定するように構成されている。本実施形態では、膜厚センサ42は、ウェーハWの中心を含む複数の測定点での膜厚を測定するように配置されている。したがって、複数の測定点はウェーハWの半径方向に並んでいる。
【0027】
膜厚センサ42は、演算システム10に接続されている。膜厚センサ42によって生成された膜厚の測定値は、演算システム10によって監視される。すなわち、ウェーハWの複数の測定点での膜厚の測定値は、膜厚センサ42から出力され、演算システム10に送られ、記憶装置10a内に保存される。演算システム10は、膜厚の測定値に基づいてウェーハWの膜厚プロファイルを作成する。膜厚プロファイルは、ウェーハWの半径方向に沿った膜厚の分布を表す。
【0028】
次に、研磨ヘッド7について説明する。図2は、研磨ヘッド7の一実施形態を示す断面図である。研磨ヘッド7は、研磨ヘッドシャフト18の端部に固定されたヘッド本体31と、ヘッド本体31の下部に取り付けられた弾性膜34と、ヘッド本体31の下方に配置されたリテーナリング32とを備えている。リテーナリング32は、弾性膜34の周囲に配置されている。このリテーナリング32は、ウェーハWの研磨中にウェーハWが研磨ヘッド7から飛び出さないようにするためにウェーハWを保持する環状の構造体である。
【0029】
弾性膜34とヘッド本体31との間には、4つの圧力室C1,C2,C3,C4が設けられている。圧力室C1,C2,C3,C4は弾性膜34とヘッド本体31によって形成されている。中央の圧力室C1は円形であり、他の圧力室C2,C3,C4は環状である。これらの圧力室C1,C2,C3,C4は、同心上に配列されている。
【0030】
圧力室C1,C2,C3,C4には気体移送ラインF1,F2,F3,F4がそれぞれ接続されている。気体移送ラインF1,F2,F3,F4の一端は、研磨装置が設置されている工場に設けられたユーティリティとしての圧縮気体供給源(図示せず)に接続されている。圧縮空気等の圧縮気体は、気体移送ラインF1,F2,F3,F4を通じて圧力室C1,C2,C3,C4にそれぞれ供給されるようになっている。圧力室C1,C2,C3,C4内の圧縮気体は、弾性膜34を介してウェーハWを研磨パッド2の研磨面2aに対して押し付ける。
【0031】
圧力室C3に連通する気体移送ラインF3は、図示しない真空ラインに接続されており、圧力室C3内に真空を形成することが可能となっている。圧力室C3を構成する、弾性膜34の部位には開口が形成されており、圧力室C3に真空を形成することによりウェーハWが研磨ヘッド7に吸着保持される。また、この圧力室C3に圧縮気体を供給することにより、ウェーハWが研磨ヘッド7からリリースされる。
【0032】
ヘッド本体31とリテーナリング32との間には、環状の弾性膜36が配置されており、この弾性膜36の内部には圧力室C5が形成されている。圧力室C5は、気体移送ラインF5を介して上記圧縮気体供給源に連結されている。圧縮気体は、気体移送ラインF5を通じて圧力室C5内に供給され、圧力室C5内の圧縮気体はリテーナリング32を研磨パッド2に対して押し付ける。
【0033】
気体移送ラインF1,F2,F3,F4,F5は、研磨ヘッドシャフト18に取り付けられたロータリージョイント40を経由して延びている。圧力室C1,C2,C3,C4,C5に連通する気体移送ラインF1,F2,F3,F4,F5には、圧力レギュレータR1,R2,R3,R4,R5がそれぞれ設けられている。圧縮気体供給源からの圧縮気体は、圧力レギュレータR1~R5を通って圧力室C1~C5内にそれぞれ独立に供給される。圧力レギュレータR1~R5は、圧力室C1~C5内の圧縮気体の圧力を調節するように構成されている。
【0034】
圧力レギュレータR1~R5は、圧力室C1~C5の内部圧力を互いに独立して変化させることが可能であり、これにより、ウェーハWの対応する4つの領域、すなわち、中央部、内側中間部、外側中間部、およびエッジ部に対する押し付け圧力、およびリテーナリング32の研磨パッド2への押し付け圧力を独立に調節することができる。気体移送ラインF1,F2,F3,F4,F5は大気開放弁(図示せず)にもそれぞれ接続されており、圧力室C1~C5を大気開放することも可能である。本実施形態では、弾性膜34は、4つの圧力室C1~C4を形成するが、一実施形態では、弾性膜34は4つよりも少ない、または4つよりも多い圧力室を形成してもよい。
【0035】
圧力レギュレータR1~R5は演算システム10に接続されている。演算システム10は、ウェーハWの膜厚の測定値を膜厚センサ42(図1参照)から受け取り、膜厚の測定値に基づいて、目標膜厚プロファイルを達成するための圧力室C1~C5の目標圧力値を決定し、目標圧力値を圧力レギュレータR1~R5に送信する。圧力レギュレータR1~R5は、圧力室C1~C5内の圧力が対応する目標圧力値に維持されるように動作する。
【0036】
研磨ヘッド7はウェーハWの複数の領域に対して、独立した圧力をそれぞれ加えることができる。例えば、研磨ヘッド7は、ウェーハWの表面の異なる領域を異なる圧力で研磨パッド2の研磨面2aに対して押し付けることができる。したがって、研磨ヘッド7は、ウェーハWの膜厚プロファイルを制御して、目標とする膜厚プロファイルを達成することができる。
【0037】
研磨プロセスを最適化するには、圧力室C1~C4内の圧力に対するウェーハWの研磨レートの応答性を把握することが重要である。研磨レートは、研磨により単位時間あたりに減少するウェーハWの表面材料の量であり、減少する量は厚さで表される。研磨レートは、除去レートとも呼ばれる。研磨レートの応答性とは、圧力室内の単位圧力の変化に応答した研磨レートの変化をいう。
【0038】
以下に説明する実施形態では、演算システム10は、研磨ヘッド7の弾性膜34でウェーハWを研磨パッド2に対して押し付けたときの、圧力室C1~C4内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す研磨レート応答性プロファイルを作成する。より具体的には、演算システム10は、圧力室C1~C3内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す推定研磨レート応答性プロファイルをシミュレーションを用いて作成し、圧力室C4内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す実研磨レート応答性プロファイルをワークピースとしてのウェーハの研磨結果を用いて作成し、推定研磨レート応答性プロファイルと実研磨レート応答性プロファイルを組み合わせることにより、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する。
【0039】
すなわち、圧力室C1~C3については、シミュレーションに基づいて研磨レート応答性プロファイルが作成され、圧力室C4については、実際の研磨結果に基づいて研磨レート応答性プロファイルが作成され、これらの研磨レート応答性プロファイルの組み合わせであるハイブリッド研磨レート応答性プロファイルが作成される。圧力室C4は、ウェーハのエッジ部を研磨パッド2に押圧するための最も外側の圧力室である。最も外側の圧力室C4内の圧力と研磨レートとの関係は、他の圧力室C1~C3内の圧力と研磨レートの関係と異なることがある。また、最も外側の圧力室C4については研磨レート応答性プロファイルのシミュレーションが難しく、またシミュレーション精度が低いことがある。その理由は、圧力室C4が押圧するウェーハのエッジ部は、ウェーハの研磨中にリテーナリングと接触すること、および回転する研磨パッド2はウェーハのエッジ部からウェーハの下に入り込むからである。そこで、本実施形態では、最も外側の圧力室C4については、実際の研磨結果に基づいて実研磨レート応答性プロファイルが作成される。
【0040】
ただし、実際の研磨結果に基づいて実研磨レート応答性プロファイルが作成される圧力室は、圧力室C4に限られず、圧力室C1~C4のうちのいずれかであってもよい。一実施形態では、圧力室C2~C4については、シミュレーションにより推定研磨レート応答性プロファイルが作成され、中央の圧力室C1について、実際の研磨結果に基づいて実研磨レート応答性プロファイルが作成されてもよい。他の実施形態では、圧力室C1,C2については、シミュレーションにより推定研磨レート応答性プロファイルが作成され、圧力室C3,C4については、実際の研磨結果に基づいて実研磨レート応答性プロファイルが作成されてもよい。圧力室が3つ以下、または5つ以上ある場合であっても、実研磨レート応答性プロファイルが作成される圧力室は、最も外側の圧力室に限られず、複数の圧力室のうちのいずれかであってもよい。
【0041】
ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成するための演算システム10の設置場所は特に限定されない。例えば、演算システム10は、研磨テーブル5および研磨ヘッド7などの研磨を実行する研磨モジュールから離れた場所に配置されてもよい。演算システム10は、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信システムにより研磨モジュールに接続されてもよい。例えば、演算システム10は、通信システムに接続されたワークステーションから構成されてもよく、あるいはエッジサーバとクラウドサーバとの組み合わせから構成されてもよい。
【0042】
図3は、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する一実施形態を説明するためのフローチャートである。
ステップ101では、演算システム10は、圧力室C1~C4内の単位圧力の変化に応答して変化した、ウェーハW1から研磨パッド2に加えられる押し付け圧力の分布を示す押し付け圧力応答性プロファイルをシミュレーションにより算定する。シミュレーションは、研磨ヘッド7の弾性膜34、研磨パッド2、およびウェーハの数学的モデルを用いて実行される。したがって、シミュレーション結果には、弾性膜34の形状および弾性、研磨パッド2の弾性、ウェーハW1の剛性などが反映される。使用されるシミュレーションは、意図した押し付け圧力応答性プロファイルを算定できるものであれば特に限定されないが、本実施形態では、有限要素法に基づくシミュレーションが使用される。本実施形態のシミュレーションは、ウェーハW1および研磨パッド2を回転させない条件下で実行されるが、実際の研磨と同じように、ウェーハW1および研磨パッド2を回転させる条件下でシミュレーションを実行してもよい。
【0043】
ステップ102では、図1に示す研磨装置は、研磨ヘッド7の圧力室C1~C4内が所定の圧力に維持された状態で、研磨ヘッド7によりウェーハW1を研磨パッド2に押し付けてウェーハW1を実際に研磨する。ウェーハW1の研磨は、上述したように、研磨テーブル5および研磨パッド2を回転させ、かつウェーハW1を研磨ヘッド7により回転させながら、研磨液が研磨パッド2の研磨面上に存在した状態で、ウェーハW1の表面(被研磨面)を研磨ヘッド7により研磨面2aに対して押し付けることで行われる。
【0044】
ウェーハW1の研磨中、膜厚センサ42は、ウェーハW1を横切りながら、ウェーハW1の複数の測定点での膜厚を測定する。本実施形態では、複数の測定点はウェーハW1の半径方向に沿って並んでいる。膜厚の測定値は、膜厚センサ42から演算システム10に送られる。ウェーハW1の研磨は、ウェーハW1の膜厚が目標値に到達したときに終了される。膜厚センサ42は、ウェーハW1の研磨開始から研磨終了まで、ウェーハW1の膜厚を測定し続け、膜厚の測定値を演算システム10に送信する。ステップ102は、ステップ101の前に行ってもよい。
【0045】
ステップ103では、演算システム10は、研磨されたウェーハW1の研磨レートの分布を示す研磨レートプロファイルを作成する。この研磨レートプロファイルは、ウェーハW1上の半径方向の各位置での研磨レートを表す。
【0046】
ステップ104では、演算システム10は、上記ステップ101で算定された押し付け圧力応答性プロファイルと、上記ステップ102で設定された圧力室C1~C4内の所定の圧力と、上記ステップ103で算定された研磨レートプロファイルに基づいて、推定研磨レート応答性プロファイルを作成する。推定研磨レート応答性プロファイルは、ウェーハW1の複数の半径位置(すなわち膜厚の複数の測定点)での圧力室C1~C4内の圧力変化に対する推定研磨レートの応答性の分布である。
【0047】
ステップ105では、図1に示す研磨装置は、研磨ヘッド7の圧力室C1~C3内の圧力を一定に維持した状態で、圧力室C4内の圧力を変化させながら、研磨ヘッド7によりウェーハW2を研磨パッド2に押し付けてウェーハW2を研磨する。ウェーハW2の研磨は、上述したように、研磨テーブル5および研磨パッド2を回転させ、かつウェーハW2を研磨ヘッド7により回転させながら、研磨液が研磨パッド2の研磨面上に存在した状態で、ウェーハW2の表面(被研磨面)を研磨ヘッド7により研磨面2aに対して押し付けることで行われる。
【0048】
ウェーハW2の研磨中、膜厚センサ42は、ウェーハW2を横切りながら、ウェーハW2の複数の測定点での膜厚を測定する。本実施形態では、複数の測定点はウェーハW2の半径方向に沿って並んでいる。膜厚の測定値は、膜厚センサ42から演算システム10に送られる。ウェーハW2の研磨は、ウェーハW2の膜厚が目標値に到達したときに終了される。膜厚センサ42は、ウェーハW2の研磨開始から研磨終了まで、ウェーハW2の膜厚を測定し続け、膜厚の測定値を演算システム10に送信する。
【0049】
ステップ106では、演算システム10は、圧力室C4内の異なる圧力に対応するウェーハW2の複数の研磨レートを膜厚の測定値から算定し、圧力室C4内の圧力の変化に対する研磨レートの応答性を算定する。
ステップ107では、演算システム10は、上記ステップ106で算定された圧力室C4についての研磨レートの応答性から、実研磨レート応答性プロファイルを作成する。
一実施形態では、ステップ105~107は、ステップ101~104の前に行ってもよい。
【0050】
ステップ108では、演算システム10は、上記ステップ104で求められた圧力室C1~C3についての推定研磨レート応答性プロファイルと、上記ステップ107で求められた圧力室C4についての実研磨レート応答性プロファイルを組み合わせて、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する。本実施形態では、上記ステップ104で求められた圧力室C4についての推定研磨レート応答性プロファイルを、上記ステップ107で求められた圧力室C4についての実研磨レート応答性プロファイルに置き換えることで、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する。演算システム10は、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルに基づき、目標膜厚プロファイルを達成するための圧力室C1~C4内の圧力を正しく決定することができる。
【0051】
以下、上記各ステップについて詳述する。
図4は、図3に示す上記ステップ101の押し付け圧力応答性プロファイルを算定する一実施形態を説明する図である。図4の縦軸はウェーハW1から研磨パッド2の研磨面2aに加えられる圧力(以下、押し付け圧力という)を表し、横軸はウェーハW1上の半径方向の位置を表している。図4の横軸は、ウェーハW1の半径が150mmの場合を示しているが、ウェーハW1の半径は図4の例に限定されない。
【0052】
まず、図2に示す圧力室C1内に圧力P1を持つ気体を供給したときの押し付け圧力の分布(記号CP1+で示す)をシミュレーションにより算定する。次に、同じ圧力室C1内に圧力P2を持つ気体を供給したときの押し付け圧力の分布(記号CP1-で示す)をシミュレーションにより算定する。圧力P1および圧力P2は、どちらも予め設定された圧力であり、圧力P1は圧力P2よりも高い。
【0053】
同様にして、圧力室C2内に上記圧力P1を持つ気体を供給したときの押し付け圧力の分布(記号CP2+で示す)、圧力室C2内に上記圧力P2を持つ気体を供給したときの押し付け圧力の分布(記号CP2-で示す)、圧力室C3内に上記圧力P1を持つ気体を供給したときの押し付け圧力の分布(記号CP3+で示す)、圧力室C3内に上記圧力P2を持つ気体を供給したときの押し付け圧力の分布(記号CP3-で示す)、圧力室C4内に上記圧力P1を持つ気体を供給したときの押し付け圧力の分布(記号CP4+で示す)、圧力室C4内に上記圧力P2を持つ気体を供給したときの押し付け圧力の分布(記号CP4-で示す)をシミュレーションにより算定する。
【0054】
次に、演算システム10は、ウェーハW1上の半径方向の各位置において、押し付け圧力CP1+と押し付け圧力CP1-との差を、圧力P1と圧力P2との差で割り算することで、圧力室C1内の気体の単位圧力の変化に応答して変化した押し付け圧力を算定する。同じようにして、演算システム10は、ウェーハW1上の半径方向の各位置において、押し付け圧力CP2+と押し付け圧力CP2-との差を、圧力P1と圧力P2との差で割り算することで、圧力室C2内の気体の単位圧力の変化に応答して変化した押し付け圧力を算定し、ウェーハW1上の半径方向の各位置において、押し付け圧力CP3+と押し付け圧力CP3-との差を、圧力P1と圧力P2との差で割り算することで、圧力室C3内の気体の単位圧力の変化に応答して変化した押し付け圧力を算定し、ウェーハW1上の半径方向の各位置において、押し付け圧力CP4+と押し付け圧力CP4-との差を、圧力P1と圧力P2との差で割り算することで、圧力室C4内の気体の単位圧力の変化に応答して変化した押し付け圧力を算定する。
【0055】
図5は、押し付け圧力応答性プロファイルの一例を示すグラフである。図5の縦軸は圧力室内の単位圧力の変化に応答して変化した押し付け圧力を表し、横軸はウェーハW1上の半径方向の位置を表している。図5の記号PP1は圧力室C1内の気体の単位圧力の変化に応答して変化した押し付け圧力の分布を表し、記号PP2は圧力室C2内の気体の単位圧力の変化に応答して変化した押し付け圧力の分布を表し、記号PP3は圧力室C3内の気体の単位圧力の変化に応答して変化した押し付け圧力の分布を表し、記号PP4は圧力室C4内の気体の単位圧力の変化に応答して変化した押し付け圧力の分布を表している。このようにして、演算システム10は、押し付け圧力応答性プロファイルを作成する。
【0056】
図4を参照して説明したように、押し付け圧力応答性プロファイルは、圧力室C1~C4内が予め設定された値である圧力P1および圧力P2とした条件下でシミュレーションを実行することで作成される。押し付け圧力応答性プロファイルは、圧力室C1~C4内の圧力の設定値によって変わることがあり、さらにウェーハの実際の研磨でも圧力室C1~C4内の圧力はウェーハの構造や膜厚などによって変わりうる。
【0057】
そこで、一実施形態では、演算システム10は、圧力室C1~C4内の圧力を、複数の異なる値に設定した状態で、シミュレーションを複数回実行し、押し付け圧力応答性プロファイルをさらに算定(作成)する。例えば、演算システム10は、圧力室C1~C4内の圧力P1から圧力P2への変化に応答して変化した押し付け圧力の分布を示す第1の押し付け圧力応答性プロファイルをシミュレーションにより算定し、圧力室C1~C4内の圧力P3から圧力P4への変化に応答して変化した押し付け圧力の分布を示す第2の押し付け圧力応答性プロファイルをシミュレーションにより算定することで、複数の圧力応答性プロファイルを作成する。圧力P3および圧力P4は、圧力P1および圧力P2とは異なる。
【0058】
さらに、演算システム10は、シミュレーションにより算定された複数の押し付け圧力応答性プロファイルを用いた内挿または外挿により、新たな押し付け圧力応答性プロファイルをさらに作成してもよい。一実施形態では、演算システム10は、シミュレーションにより作成された複数の押し付け圧力応答性プロファイルを、機械学習により構築されたモデルに入力し、モデルから新たな押し付け圧力応答性プロファイルを出力することにより、押し付け圧力応答性プロファイルをさらに作成してもよい。このようにして作成された複数の押し付け圧力応答性プロファイルは、演算システム10の記憶装置10a内に格納される。演算システム10は、複数の押し付け圧力応答性プロファイルのうちの1つを使用して、上記ステップ104で推定研磨レート応答性プロファイルを作成する。
【0059】
上述した実施形態は、研磨ヘッド7の弾性膜34によりウェーハW1を研磨パッド2に押し付ける圧力に関するものであるが、研磨ヘッド7のリテーナリング32が研磨パッド2を押し付ける圧力も押し付け圧力応答性プロファイルに含めてもよい。すなわち、シミュレーションは、研磨ヘッド7の弾性膜34、研磨パッド2、リテーナリング32、およびウェーハW1の数学的モデルを用いて実行されてもよい。
【0060】
次に、上記ステップ102について詳述する。このステップ102では、ウェーハW1が実際に研磨される。図1に示す研磨装置は、研磨ヘッド7の圧力室C1~C4内が所定の圧力に維持された状態で、研磨ヘッド7によりウェーハW1を研磨パッド2に押し付けてウェーハW1を研磨する。研磨ヘッド7の圧力室C1,C2,C3,C4内の圧力は、それぞれ所定の圧力SP1,SP2,SP3,SP4にそれぞれ設定される。一例では、所定の圧力SP1,SP2,SP3,SP4は、上記ステップ101で使用された圧力P1以下であり、かつ圧力P2以上である。所定の圧力SP1,SP2,SP3,SP4は、互いに異なってもよいし、それらのうちのいずれか2つまたは全部が同じであってもよい。ウェーハW1の研磨は、少なくとも、ウェーハW1の膜厚が目標値に到達するまで実施される。膜厚センサ42は、ウェーハW1の研磨開始から研磨終了まで、ウェーハW1の膜厚を測定し続け、膜厚の測定値を演算システム10に送信する。
【0061】
次に、上記ステップ103について詳述する。このステップ103では、演算システム10は、圧力室C1,C2,C3,C4に対応するウェーハW1の複数の測定点のそれぞれにおける初期膜厚と最終膜厚との差を、ウェーハW1の研磨時間で割り算することにより、複数の測定点での複数の研磨レートを算定する。初期膜厚はウェーハW1の研磨前の膜厚であり、最終膜厚はウェーハW1の研磨終了時の膜厚である。演算システム10は、算定された複数の研磨レートを、圧力室C1,C2,C3,C4に対応する複数の測定点に割り当てることで、研磨レートプロファイルを作成する。
【0062】
ウェーハの実際の研磨では、圧力室C1~C4内の設定圧力はウェーハの構造や膜厚などによって変わりうる。そこで、一実施形態では、異なる圧力を圧力室C1~C4内に設定した状態で、複数のウェーハを研磨することで複数の研磨レートプロファイルを作成してもよい。より具体的には、複数のウェーハごとに異なる圧力を圧力室C1~C4内に設定した状態で、複数のウェーハを研磨パッド2に1つずつ押し付けてこれら複数のウェーハを研磨する。演算システム10は、研磨された複数のウェーハの研磨レートの分布を示す複数の研磨レートプロファイルを生成する。このようにして作成された複数の研磨レートプロファイルは、演算システム10の記憶装置10a内に格納される。演算システム10は、複数の研磨レートプロファイルのうちの1つを使用して、次のステップ104で推定研磨レート応答性プロファイルを作成する。
【0063】
次に、上記ステップ104について詳述する。このステップ104では、演算システム10は、その記憶装置10aに格納されている以下の式を使用する。
【数1】
Resp(n,r)=F(n)*P(n,r) (2)
ここで、rはウェーハW1上の半径方向の位置、raはウェーハW1の半径、Rate(r)は半径位置rでの研磨レート(実測値)、nは圧力室の番号、ntは圧力室の数(本実施形態ではnt=4)、AP(n)はウェーハW1を実際に研磨したときのn番目の圧力室内の気体の圧力、F(n)はn番目の圧力室に関する研磨レート係数、P(n,r)はn番目の圧力室に関する半径位置rでの押し付け圧力の応答性、Resp(n,r)はn番目の圧力室に関する半径位置rでの研磨レート応答性を表す。
【0064】
演算システム10は、押し付け圧力応答性プロファイルに、研磨レート係数F(n)の候補および所定の圧力AP(n)を乗算して仮想研磨レートプロファイルを算定し、上記式(1)で示される、実際の研磨レートプロファイルと仮想研磨レートプロファイルとの差(絶対値)を最小とする研磨レート係数F(n)を決定する。上記式(1)を最小とする研磨レート係数F(n)を求めるアルゴリズムは、最適化法などの公知のアルゴリズムが適用できる。
【0065】
研磨レート係数F(n)は、n番目の圧力室に関する研磨レート係数であるが、圧力室C1~C4について同じ値の研磨レート係数F(n)を用いてもよい。あるいは複数の圧力室C1~C4にそれぞれ対応した複数の研磨レート係数F(n)を用いてもよい。後者は前者に比べて、上記式(1)で示される実際の研磨レートプロファイルと仮想研磨レートプロファイルとの差をより最小とすることができる。
【0066】
演算システム10は、さらに、押し付け圧力応答性プロファイルに、決定された研磨レート係数F(n)を乗算して、式(2)で表される推定研磨レート応答性プロファイルを算定(作成)する。
【0067】
次に、上記ステップ105について詳述する。このステップ105では、ウェーハW2が実際に研磨される。図1に示す研磨装置は、研磨ヘッド7の圧力室C1~C3内の圧力は一定に維持しつつ、圧力室C4内の圧力を変えながら、研磨ヘッド7によりウェーハW2を研磨パッド2に押し付けてウェーハW2を研磨する。例えば、研磨ヘッド7の圧力室C4内の圧力が所定の圧力TP1に維持された状態で、研磨ヘッド7はウェーハW2を研磨パッド2に押し付けてウェーハW2を所定の第1研磨時間の間研磨し、その後、研磨ヘッド7の圧力室C4内の圧力が所定の圧力TP2に維持された状態で、研磨ヘッド7はウェーハW2を研磨パッド2に押し付けてウェーハW2を所定の第2研磨時間の間研磨する。圧力TP2は、圧力TP1とは異なる。圧力室C1~C3内の圧力は一定である。膜厚センサ42は、少なくとも上記第1研磨時間および上記第2研磨時間の間は、圧力室C4に対応するウェーハW2の複数の測定点での膜厚を測定し続け、膜厚の測定値を演算システム10に送信する。
【0068】
次に、上記ステップ106について詳述する。このステップ106では、演算システム10は、圧力TP1で研磨したときの複数の測定点での複数の第1研磨レートと、圧力TP2で研磨したときの複数の測定点での複数の第2研磨レートを、膜厚の測定値、第1研磨時間、および第2研磨時間から算定する。さらに、演算システム10は、圧力室C4に対応する各測定点での第1研磨レートと第2研磨レートとの差を、圧力TP1と圧力TP2との差で割り算することで、圧力室C4内の圧力の変化に対する研磨レートの応答性を決定(算定)する。演算システム10は、算定された研磨レートの応答性を、圧力室C4に対応する複数の測定点に割り当てることで、実研磨レート応答性プロファイルを作成する。
【0069】
図6は、すべての圧力室C1~C4についてシミュレーションにより算出した推定研磨レート応答性プロファイルの一例を示すグラフであり、図7は、実際の研磨に基づいて算定したすべての圧力室C1~C4についての実研磨レート応答性プロファイルの一例を示すグラフである。図6および図7の縦軸は各圧力室内の単位圧力の変化に応答して変化した研磨レートを表し、横軸はウェーハの半径方向の位置を表している。
【0070】
図6の記号ER1は圧力室C1に関する推定研磨レート応答性プロファイルを表し、記号ER2は圧力室C2に関する推定研磨レート応答性プロファイルを表し、記号ER3は圧力室C3に関する推定研磨レート応答性プロファイルを表し、記号ER4は圧力室C4に関する推定研磨レート応答性プロファイルを表している。図7の記号RR1は圧力室C1に関する実研磨レート応答性プロファイルを表し、記号RR2は圧力室C2に関する実研磨レート応答性プロファイルを表し、記号RR3は圧力室C3に関する実研磨レート応答性プロファイルを表し、記号RR4は圧力室C4に関する実研磨レート応答性プロファイルを表している。
【0071】
図6図7との対比から分かるように、推定研磨レート応答プロファイルER1,ER2,ER3は、実研磨レート応答性プロファイルRR1,RR2,RR3と似ているが、推定研磨レート応答プロファイルER4は、実研磨レート応答性プロファイルRR4から大きく異なっている。したがって、すべての圧力室C1~CP4について、シミュレーションにより推定研磨レート応答プロファイルを作成すると、意図した膜厚プロファイルが達成できないことがある。
【0072】
上述した実施形態によれば、図8に示すように、シミュレーションにより生成された推定研磨レート応答性プロファイルER1,ER2,ER3と、実際の研磨により取得された実研磨レート応答性プロファイルRR4との組み合わせから、正確なハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを取得することができる。
【0073】
さらには、シミュレーションを用いることで、研磨レート応答性を得るためのウェーハ(ワークピース)の枚数と作業時間を減らすことができる。具体的には、上記ステップ102で実際に研磨されるウェーハの枚数を減らすことができる。上記ステップ102で実際に研磨されるウェーハの枚数は1枚であってもよいし、あるいは複数枚であってもよいが、上記ステップ102で研磨レートプロファイルを取得するのに必要なウェーハの枚数は、研磨ヘッド7の圧力室C1~C3の数よりも少ない数とすることができる。
【0074】
上述のようにして取得されたハイブリッド研磨レート応答性プロファイルは、次に研磨される他のウェーハの研磨条件の最適化に用いることができる。一実施形態では、演算システム10は、他のウェーハの研磨中に膜厚センサ42(図1参照)から取得した膜厚の測定値から上記他のウェーハの現在の膜厚プロファイルを作成し、現在の膜厚プロファイルと目標膜厚プロファイルとの差を最小とするための圧力室C1~C4内の圧力を、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルに基づいて決定する。他の実施形態では、演算システム10は、研磨レートプロファイルの生成に使用されたウェーハの研磨前の膜厚プロファイルおよび研磨後の膜厚プロファイルを作成し、研磨前の膜厚プロファイル、研磨後の膜厚プロファイル、目標膜厚プロファイル、およびハイブリッド研磨レート応答性プロファイルに基づいて、圧力室C1~C4内の圧力を決定する。
【0075】
次に、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する他の実施形態について説明する。特に説明しない本実施形態の詳細は、上述した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0076】
演算システム10は、上述した実施形態と同様に、圧力室C1~C3内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す推定研磨レート応答性プロファイルをシミュレーションを用いて作成し、圧力室C4内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す実研磨レート応答性プロファイルをワークピースとしてのウェーハの研磨結果を用いて作成し、推定研磨レート応答性プロファイルと実研磨レート応答性プロファイルを組み合わせることにより、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する。
【0077】
図9は、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する実施形態を説明するためのフローチャートである。
ステップ201では、研磨ヘッド7の圧力室C1,C2,C3,C4内が所定の圧力UP1,UP2,UP3,UP4にそれぞれ維持された状態で、研磨ヘッド7によりウェーハW3を研磨パッド2に押し付けてウェーハW3を研磨する。所定の圧力UP1,UP2,UP3,UP4は、互いに異なってもよいし、それらのうちのいずれか2つまたは全部が同じであってもよい。ウェーハW3の研磨は、上述したように、研磨テーブル5および研磨パッド2を回転させ、かつウェーハW3を研磨ヘッド7により回転させながら、研磨液が研磨パッド2の研磨面上に存在した状態で、ウェーハW3の表面(被研磨面)を研磨ヘッド7により研磨面2aに対して押し付けることで行われる。
【0078】
ウェーハW3の研磨中、膜厚センサ42は、ウェーハW3を横切りながら、ウェーハW3の複数の測定点での膜厚を測定する。本実施形態では、複数の測定点はウェーハW3の半径方向に沿って並んでいる。膜厚の測定値は、膜厚センサ42から演算システム10に送られる。ウェーハW3の研磨は、ウェーハW3の膜厚が目標値に到達したときに終了される。膜厚センサ42は、ウェーハW3の研磨開始から研磨終了まで、ウェーハW3の膜厚を測定し続け、膜厚の測定値を演算システム10に送信する。
【0079】
ステップ202では、演算システム10は、研磨されたウェーハW3の研磨レートの分布を示す実研磨レートプロファイルを作成する。この研磨レートプロファイルは、ウェーハW3上の半径方向の各位置での研磨レートを表す。このステップ202は、上述したステップ103と同様にして行われるので、その重複する説明を省略する。
【0080】
ステップ203では、演算システム10は、圧力室C1~C3内の単位圧力の変化に応答して変化した、ウェーハW3から研磨パッド2に加えられる押し付け圧力の分布を示す押し付け圧力応答性プロファイルをシミュレーションにより算定する。このシミュレーションは、上述した実施形態で説明したステップ101のシミュレーションと同様にして行われるので、その重複する説明を省略する。一実施形態では、ステップ203は、ステップ201の前に行われてもよい。
【0081】
ステップ204では、演算システム10は、上記ステップ201で設定された圧力室C1~C3内の圧力UP1,UP2,UP3と、上記ステップ203で算定された押し付け圧力応答性プロファイルと、第1研磨レート係数に基づいて、第1研磨レートプロファイルを作成する。第1研磨レートプロファイルは、圧力室C1~C3についてのウェーハW3の研磨レートの分布である。第1研磨レートプロファイルは、以下のように表される。
【数2】
ここで、rはウェーハW3上の半径方向の位置、nは圧力室の番号、ntは圧力室の数(本実施形態ではnt=3)、AP(n)はウェーハW3を実際に研磨したときのn番目の圧力室内の気体の圧力(すなわち圧力UP1,UP2,UP3)、F(n)はn番目の圧力室に関する第1研磨レート係数、Psim(n,r)はn番目の圧力室に関する半径位置rでの押し付け圧力の応答性を表す。
【0082】
ステップ205では、図1に示す研磨装置は、研磨ヘッド7の圧力室C1~C3内の圧力を一定に維持した状態で、圧力室C4内の圧力を変化させながら、研磨ヘッド7によりウェーハW4を研磨パッド2に押し付けてウェーハW4を研磨する。ウェーハW4の研磨は、上述したように、研磨テーブル5および研磨パッド2を回転させ、かつウェーハW4を研磨ヘッド7により回転させながら、研磨液が研磨パッド2の研磨面上に存在した状態で、ウェーハW4の表面(被研磨面)を研磨ヘッド7により研磨面2aに対して押し付けることで行われる。このステップ205は、上述したステップ105と同じようにして行われるので、その重複する説明を省略する。
【0083】
ウェーハW4の研磨中、膜厚センサ42は、ウェーハW4を横切りながら、ウェーハW4の複数の測定点での膜厚を測定する。本実施形態では、複数の測定点はウェーハW4の半径方向に沿って並んでいる。膜厚の測定値は、膜厚センサ42から演算システム10に送られる。ウェーハW4の研磨は、ウェーハW4の膜厚が目標値に到達したときに終了される。膜厚センサ42は、ウェーハW4の研磨開始から研磨終了まで、ウェーハW4の膜厚を測定し続け、膜厚の測定値を演算システム10に送信する。
【0084】
ステップ206では、演算システム10は、圧力室C4内の異なる圧力に対応するウェーハW4の複数の研磨レートを膜厚の測定値から算定し、圧力室C4内の圧力の変化に対する研磨レートの応答性を算定する。
ステップ207では、演算システム10は、上記ステップ206で決定された圧力室C4についての研磨レートの応答性から、暫定的な研磨レート応答性プロファイルを作成する。ステップ206、207は、上述したステップ106、107と同じようにして行われるので、その重複する説明を省略する。
【0085】
ステップ208では、演算システム10は、上記ステップ201で設定された圧力室C4内の圧力UP4と、上記ステップ207で作成された圧力室C4についての暫定的な研磨レート応答性プロファイルと、第2研磨レート係数に基づいて第2研磨レートプロファイルを作成する。第2研磨レートプロファイルは、圧力室C4についてのウェーハW4の研磨レートの分布である。第2研磨レートプロファイルは、以下のように表される。
【数3】
ここで、rはウェーハW4上の半径方向の位置、mは圧力室の番号(本実施形態ではm=4)、AP(m)はウェーハW4を実際に研磨したときのm番目の圧力室内の気体の圧力(本実施形態では圧力UP4)、F(m)はm番目の圧力室に関する第2研磨レート係数、Rreal(m,r)はm番目の圧力室に関する半径位置rでの暫定的な研磨レート応答性プロファイルを表す。
一実施形態では、ステップ205~208は、ステップ201~204の前に行われてもよい。
【0086】
ステップ209では、演算システム10は、第1研磨レートプロファイルと第2研磨レートプロファイルとを組み合わせて、第3研磨レートプロファイルを作成する。第3研磨レートプロファイルは、以下のように表される。
【数4】
【0087】
ステップ210では、演算システム10は、上記ステップ202で作成された実研磨レートプロファイルと、上記ステップ209で作成された第3研磨レートプロファイルとの差(絶対値)を最小とする第1研磨レート係数F(n)および第2研磨レート係数F(m)を決定する。実研磨レートプロファイルと第3研磨レートプロファイルとの差は、次のように表される。
【数5】
ここで、rはウェーハ上の半径方向の位置、raはウェーハの半径、Rate(r)はステップ202で算定された、半径位置rでの研磨レート(実測値)を表す。
上記式(6)を最小とする第1研磨レート係数F(n)および第2研磨レート係数F(m)を求めるアルゴリズムは、最適化法などの公知のアルゴリズムが適用できる。
【0088】
ステップ211では、演算システム10は、決定された第1研磨レート係数F(n)を押し付け圧力応答性プロファイルPsim(n,r)に乗算して推定研磨レート応答性プロファイルを作成し、決定された第2研磨レート係数F(m)を暫定的な研磨レート応答性プロファイルRreal(m,r)に乗算して実研磨レート応答性プロファイルを作成する。
ステップ212では、演算システム10は、上記ステップ210で作成された推定研磨レート応答性プロファイルと実研磨レート応答性プロファイルとを組み合わせて、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する。
【0089】
上記ステップ211,212は、次の式で表される。
Resp(l,r)=F(n)*Psim(n,r)+F(m)*Rreal(m,r) (7)
ここで、Resp(l,r)はl番目の圧力室に関する半径位置rでの研磨レート応答性を表す。演算システム10は、その記憶装置10a内に、上記式(1)~(7)を格納している。
【0090】
上述した実施形態によれば、シミュレーションにより生成された推定研磨レート応答性プロファイルと、実際の研磨により取得された実研磨レート応答性プロファイルとの組み合わせから、正確なハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを取得することができる。さらには、シミュレーションを用いることで、研磨レート応答性を得るためのウェーハ(ワークピース)の枚数と作業時間を減らすことができる。
【0091】
上述のようにして取得されたハイブリッド研磨レート応答性プロファイルは、次に研磨される他のウェーハの研磨条件の最適化に用いることができる。一実施形態では、演算システム10は、他のウェーハの研磨中に膜厚センサ42(図1参照)から取得した膜厚の測定値から上記他のウェーハの現在の膜厚プロファイルを作成し、現在の膜厚プロファイルと目標膜厚プロファイルとの差を最小とするための圧力室C1~C4内の圧力を、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルに基づいて決定する。他の実施形態では、演算システム10は、研磨レートプロファイルの生成に使用されたウェーハの研磨前の膜厚プロファイルおよび研磨後の膜厚プロファイルを作成し、研磨前の膜厚プロファイル、研磨後の膜厚プロファイル、目標膜厚プロファイル、およびハイブリッド研磨レート応答性プロファイルに基づいて、圧力室C1~C4内の圧力を決定する。
【0092】
図3のフローチャートを参照して説明した実施形態では、圧力室C1~C3についてのシミュレーション結果を実研磨の結果に近づけるための研磨レート係数を求める工程は、圧力室C4について実研磨レート応答性プロファイルを算定する工程とは独立に行われる。これに対し、図9および図10のフローチャートを参照して説明した実施形態では、圧力室C1~C4についての第1研磨レート係数および第2研磨レート係数を求める工程は、圧力室C1~C3についての推定研磨レート応答性プロファイル算定する工程と圧力室C4について実研磨レート応答性プロファイルを算定する工程と実質的に同じオペレーションに従って実行される。図9および図10のフローチャートを参照して説明した実施形態は、図3のフローチャートを参照して説明した実施形態よりも、より高い精度の研磨レート応答性プロファイルを作成できることが実際の研磨結果から分かっている。
【0093】
今まで説明した実施形態では、4つの圧力室C1~C4についてのハイブリッド研磨レート応答性プロファイルが求められるが、3つ以下、または5つ以上の圧力室についてのハイブリッド研磨レート応答性プロファイルも同様にして求めることができる。
【0094】
演算システム10は、記憶装置10aに電気的に格納されたプログラムに含まれる命令に従って動作し、上述した各実施形態の動作を実行する。具体的には、演算システム10は、第1圧力室(例えば、圧力室CP1)内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す推定研磨レート応答性プロファイルをシミュレーションを用いて作成し、第2圧力室(例えば、圧力室CP4)内の圧力変化に対する研磨レートの応答性の分布を示す実研磨レート応答性プロファイルをワークピースの研磨結果を用いて作成し、推定研磨レート応答性プロファイルと実研磨レート応答性プロファイルを組み合わせることにより、ハイブリッド研磨レート応答性プロファイルを作成する。
【0095】
上述した各実施形態の動作を演算システム10に実行させるためのプログラムは、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、記録媒体を介して演算システム10に提供される。または、プログラムは、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークを介して演算システム10に入力されてもよい。
【0096】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0097】
2 研磨パッド
2a 研磨面
5 研磨テーブル
5a テーブル軸
7 研磨ヘッド
8 研磨液供給ノズル
10 演算システム
10a 記憶装置
10b 演算装置
14 支軸
16 研磨ヘッド揺動アーム
18 研磨ヘッドシャフト
21 テーブル回転モータ
31 ヘッド本体
32 リテーナリング
34,36 弾性膜
40 ロータリージョイント
42 膜厚センサ
C1,C2,C3,C4,C5 圧力室
F1,F2,F3,F4,F5 気体移送ライン
R1,R2,R3,R4,R5 圧力レギュレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10