(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078854
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】レーザ素子及びレーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/30 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
H01S5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191437
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】片山 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】木原 虎
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AH36
5F173AH40
(57)【要約】
【課題】光信号によってレーザ発振を制御可能なレーザ素子を提供する。
【解決手段】利得媒質と、利得媒質からのキャリアを受容するフォトクロミック化合物と、を含むレーザ素子である。レーザ素子における利得媒質は、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、グアニジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン及びプロトン化チオウレアイオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む第1イオンと、鉛、ゲルマニウム、スズ、アンチモン及びビスマスからなる群から選択される少なくとも1種を含む第2イオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、チオシアネート、イソチオシアネート及びスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種を含むアニオン又は配位子と、をその組成に含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
利得媒質と、前記利得媒質からのキャリアを受容するフォトクロミック化合物と、を含み、
前記利得媒質は、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、グアニジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン及びプロトン化チオウレアイオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む第1イオンと、
鉛、ゲルマニウム、スズ、アンチモン及びビスマスからなる群から選択される少なくとも1種を含む第2イオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、チオシアネート、イソチオシアネート及びスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種を含むアニオン又は配位子と、をその組成に含むレーザ素子。
【請求項2】
前記利得媒質は、ペロブスカイト型構造を有する結晶を含む請求項1に記載のレーザ素子。
【請求項3】
前記利得媒質は、下記式(1)で表される組成を含む請求項1に記載のレーザ素子。
[M1
wA1
(1-w)]xM2
yXz (1)
(式(1)中、M1は、Cs、Rb、K、Na及びLiからなる群から選択される少なくとも1種を含む第1イオンを示す。
A1は、アンモニウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、グアニジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン及びプロトン化チオウレアイオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む非金属カチオンを示す。
M2は、Ge、Sn、Pb、Sb及びBiからなる群から選択される少なくとも1種を含む第2イオンを示す。
Xは、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、チオシアネート、イソチオシアネート及びスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種を含むアニオン又は配位子を示す。
xは1以上4以下の数であり、yは1以上2以下の数であり、zは3以上9以下の数であり、wは0以上1以下の数である。
前記式(1)において、第1イオンM1及び非金属カチオンA1の両方を含む場合、第1イオンM1及び非金属カチオンA1は共に、ペロブスカイト型構造を構成する原子団を表す。)
【請求項4】
前記フォトクロミック化合物は、P-タイプのフォトクロミック化合物である請求項1に記載のレーザ素子。
【請求項5】
前記フォトクロミック化合物は、ジアリールエテン誘導体を含む請求項1に記載のレーザ素子。
【請求項6】
前記フォトクロミック化合物は、前記利得媒質に吸着している請求項1に記載のレーザ素子。
【請求項7】
前記利得媒質は、縦の長さ、横の長さ及び高さの合計が500nm以上50μm以下である請求項1に記載のレーザ素子。
【請求項8】
前記利得媒質の吸収スペクトルにおいて、透過強度がその最大値の50%以上となる波長範囲の少なくとも一部に、前記フォトクロミック化合物をキャリアの受容が可能な状態に変化させる波長を有する請求項1に記載のレーザ素子。
【請求項9】
前記利得媒質及び前記フォトクロミック化合物を収容する容器をさらに備え、
前記容器の内部は不活性ガスが充填されている請求項1に記載のレーザ素子。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のレーザ素子と、
第1ピーク波長を有する光を発する第1光源と、
第2ピーク波長を有する光を発する第2光源と、
を備え、
前記第1ピーク波長は、前記フォトクロミック化合物をキャリアの受容が抑制される状態に変化させる波長であり、
前記第2ピーク波長は、前記フォトクロミック化合物をキャリアの受容が可能な状態に変化させる波長であり、
前記第1ピーク波長及び第2ピーク波長の少なくとも一方が、前記利得媒質を励起可能な波長であるレーザ装置。
【請求項11】
第1透光性部材及び第2透光性部材を更に備え、
前記レーザ素子は、第1透光性部材と第2透光性部材とに挟まれている請求項10に記載のレーザ装置。
【請求項12】
前記レーザ素子は、第1レーザ素子と第2レーザ素子とを含み、
前記第1透光性部材、前記第2透光性部材、前記第1レーザ素子及び第2レーザ素子を含む断面において、
前記第1レーザ素子及び第2レーザ素子はそれぞれ、前記第1透光性部材及び前記第2透光性部材に囲まれ、
前記第1レーザ素子と第2レーザ素子との間に、前記第1透光性部材及び前記第2透光性部材の少なくとも一方が配置される請求項11に記載のレーザ装置。
【請求項13】
第3透光性部材と、
前記第1光源及び前記第2光源とそれぞれ光結合する光導波路と、
を更に備え、
前記レーザ素子及び前記第3透光性部材は、前記光導波路の上に配置され、
前記レーザ素子は、前記光導波路と前記第3透光性部材とに挟まれている請求項10に記載のレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ素子及びレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信処理の更なる高速化に対応する技術として、光エレクトロニクスが期待されている。これは光を情報源として用いるため、伝送が高速であり、また微小領域で電磁干渉を示さない点から従来のエレクトロニクスよりもコンパクトかつ低電力の高速情報処理が行なえることが期待される。光を用いた情報処理におけるデバイスには、受光素子、微小レーザ、光変調器の3つの光技術が必要とされており、光信号から電気信号に、電気信号から光信号へと変換する過程が相補的に存在する。これらの変換過程において生じる熱損失、信号ノイズは、光エレクトロニクス技術の中で情報処理の確度、速度、熱損失量に関するボトルネックとなっている課題の1つである。
【0003】
上記に関連して、非特許文献1には、半導体ナノ粒子にフォトクロミック分子を吸着させた系において、フォトクロミック分子の状態に応じて半導体ナノ粒子の発光強度が変化することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「半導体ナノ粒子系-フォトクロミック分子における発光状態の光スイッチング機構解明」、2016年光化学討論会(東京駒場キャンパス)、2016年9月8日、講演番号3D05。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、光信号を他の光信号により増幅および/または変調制御することが可能であるならば、電気信号と光信号とを相互に変換する変換素子を減らすことができる。本開示の一態様は、光信号によってレーザ発振を制御可能なレーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様は、利得媒質と、前記利得媒質からのキャリアを受容するフォトクロミック化合物と、を含むレーザ素子である。レーザ素子における利得媒質は、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、グアニジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン及びプロトン化チオウレアイオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む第1イオンと、鉛、ゲルマニウム、スズ、アンチモン及びビスマスからなる群から選択される少なくとも1種を含む第2イオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、チオシアネート、イソチオシアネート及びスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種を含むアニオン又は配位子と、をその組成に含む。
【0007】
第2態様は、第1態様のレーザ素子と、第1ピーク波長を有する光を発する第1光源と、第2ピーク波長を有する光を発する第2光源と、を備えるレーザ装置である。第1ピーク波長は、フォトクロミック化合物をキャリアの受容が抑制される状態に変化させる波長であり、第2ピーク波長は、フォトクロミック化合物をキャリアの受容が可能な状態に変化させる波長であり、第1ピーク波長及び第2ピーク波長の少なくとも一方が、利得媒質を励起可能な波長である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、光信号によってレーザ発振を制御可能なレーザ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】レーザ装置の構成例を示す概略断面図である。
【
図2A】レーザ装置の構成例を示す概略断面図である。
【
図2B】レーザ装置の構成例を示す概略断面図である。
【
図3A】複数のレーザ素子を備えるレーザ装置の構成例を示す概略上面図である。
【
図3B】複数のレーザ素子を備えるレーザ装置の構成例を示す概略上面図である。
【
図4】複数のレーザ素子を備えるレーザ装置の構成例を示す概略断面図である。
【
図5】複数のレーザ素子を備えるレーザ装置の構成例を示す概略上面図である。
【
図7】ペロブスカイト型構造を有する結晶による非線形発光を示す図である。
【
図8】紫外線照射によるレーザ発振の制御を示す図である。
【
図9A】メチルアンモニウム臭化鉛の赤外吸収スペクトルである。
【
図9B】ジアリールエテン誘導体の赤外吸収スペクトルである。
【
図9C】実施例1に係るレーザ素子の赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、数値範囲として例示された数値をそれぞれ任意に選択して組み合わせることが可能である。本明細書において、層、膜、領域などの部分が他の部分の「上に」または「上部に」あるとする場合、これは他の部分の「直上」にある場合だけでなく、その中間にまた他の部分がある場合も含む。逆に、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「下に」または「下部に」にあるとする場合、これは他の部分の「直下」にある場合だけでなく、その中間にまた他の部分がある場合も含む。また、本明細書において、「上に」配置されるとは、上部だけでなく下部に配置される場合も含む。図面における各構成要素の大きさは、説明のためにそれぞれ誇張されてもよく、実際に適用される大きさ又は大きさ関係を意味するものに限られない。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、レーザ素子及びレーザ装置を例示するものであって、本発明は、以下に示すレーザ素子及びレーザ装置に限定されない。なお、各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態を分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。
図1に後続する図面においては、先行する図面と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0011】
(レーザ素子)
レーザ素子は、利得媒質と、利得媒質からのキャリアを受容するフォトクロミック化合物と、を含む。利得媒質は第1イオン、第2イオン及びアニオン又は配位子をその組成に含む。第1イオンは、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、グアニジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン及びプロトン化チオウレアイオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む。第2イオンは、鉛、ゲルマニウム、スズ、アンチモン及びビスマスからなる群から選択される少なくとも1種を含む。アニオン又は配位子は、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、チオシアネート、イソチオシアネート及びスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0012】
特定の組成を有する利得媒質と、利得媒質からのキャリアを受容可能に配置されるフォトクロミック化合物とを含むレーザ素子は、フォトクロミック化合物の状態に応じて利得媒質のレーザ発振を制御することができる。フォトクロミック化合物の状態は、光信号によって制御可能であることから、光信号によってレーザ素子のレーザ発振が制御される。
【0013】
(利得媒質)
利得媒質は、第1イオン、第2イオン及びアニオン又は配位子をその組成に含むイオン結晶を含んでいてよく、ペロブスカイト型構造を有する結晶を含んでいてよい。利得媒質を構成する第1イオンは、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、グアニジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン及びプロトン化チオウレアイオンからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。第1イオンが含むアルカリ金属イオンは、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。アンモニウムイオンは、例えば下記式(A-1)で表されてよい。ホルムアミジニウムイオンは、例えば下記式(A-2)で表されてよい。グアニジニウムイオンは、例えば下記式(A-3)で表され、プロトン化チオウレアイオンは、例えば下記式(A-4)で表されてよい。イミダゾリウムイオンは、例えば下記式(A-5)で表されてよい。ピリジニウムイオンは、例えば下記式(A-6)で表されてよい。ピロリジニウムイオンは、例えば下記式(A-7)で表されてよい。非金属カチオンを表す各式中、Rは、互いに独立して、水素原子、炭素数1から4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、ハロゲン原子及び擬ハロゲンからなる群から選択される少なくとも1種を表す。各式中の任意の2つのRは互いに連結して炭素数3から6の含窒素脂肪族環を形成してもよい。
【0014】
[R4N+] (A-1)
[(NR2)2RC+] (A-2)
[(NR2)3C+] (A-3)
[(NR2)2C+-SR] (A-4)
【0015】
【0016】
利得媒質を構成する第2イオンは、鉛(Pb)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)及びビスマス(Bi)からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、少なくとも鉛を含んでいてよい。
【0017】
アニオン又は配位子は、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、チオシアネート、イソチオシアネート及びスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、少なくとも臭化物イオンを含んでいてよい。
【0018】
利得媒質の組成は、例えば第1イオンの総モル数が1以上4以下であり、第2イオンの総モル数が1以上2以下であり、アニオン又は配位子の総モル数が3以上9以下であってよい。
【0019】
利得媒質は、例えば、下記式(1)で表される組成を有していてよい。
[M1
wA1
(1-w)]xM2
yXz (1)
【0020】
式(1)中、M1は、Cs、Rb、K、Na及びLiからなる群から選択される少なくとも1種を含む第1イオンを示す。A1は、アンモニウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、グアニジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン及びプロトン化チオウレアイオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む非金属カチオンを示す。M2は、Ge、Sn、Pb、Sb及びBiからなる群から選択される少なくとも1種を含む第2イオンを示す。Xは、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、チオシアネート、イソチオシアネート及びスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種を含むアニオン又は配位子を示す。
【0021】
xは1以上4以下の数であり、yは1以上2以下の数であり、zは3以上9以下の数であり、wは0以上1以下の数である。式(1)において、第1イオンM1及び非金属カチオンA1の両方を含む場合、第1イオンM1及び非金属カチオンA1は共に、ペロブスカイト型構造を構成する原子団を表す。
【0022】
A1で表される、アンモニウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、グアニジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン及びプロトン化チオウレアイオンの詳細については、既述の通りである。
【0023】
式(1)において、好ましくは、M1が少なくともCsを含んでいてよく、A1がアンモニウムイオンを含み、アンモニウムイオンにおけるRが炭素数1から4のアルキル基であってよく、M2が少なくともPbを含んでいてよく、Xが塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0024】
また、利得媒質は、下記式(2a)で表される組成を有していてもよい。
[M1
wA1
(1-w)]nM2X2+n (2a)
【0025】
式(2a)中、M1、A1、M2及びXは、式(1)におけるそれらと同義である。wは0以上1以下の数であり、nは1以上4以下の数である。n=1の場合、3次元ペロブスカイト構造をとる。nが2から4の場合、ペロブスカイト構造の8面体が平面を形成する低次元ペロブスカイト構造をとると考えられる。レーザ素子を構成する利得媒質は式(2a)において、n=1であることが好ましい。
【0026】
なお、利得媒質は、少なくとも結晶中に上記式(2a)で示される構成を有していればよい。例えば、上記式(2a)で示されるペロブスカイトの層と、岩塩型の層をともに有していてもよい。
【0027】
また、利得媒質は、例えば、下記式(2b)で表される組成を有していてよい。
M1
2[BivA2
(1-v)]2X6 (2b)
【0028】
式(2b)中、M1及びXは、式(1)におけるそれらと同義である。A2は、アンモニウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、グアニジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、プロトン化チオウレアイオン、Li、NaおよびKからなる群から選択される少なくとも1種を示す。
【0029】
vは0以上1以下の数である。式(2b)において、第2イオンBi及びA2の両方を含む場合、第2イオンBi及びA2は共に、ペロブスカイト型構造を構成する原子団を表す。なお、式(2b)における組成を示す数値は、電荷を補償する範囲において若干変化してもよい。例えば、式(2b)は、M1
2+δ1[BivA2
(1-v)]2+δ2X6+δ3と表され、δ1およびδ2は-0.2以上0.2以下の範囲で、電荷を補償するように変化してもよい。δ3は-0.6以上0.6以下の範囲で、電荷を補償するように変化してもよい。
【0030】
レーザ素子における利得媒質の形状としては、ロッド、シート、バルク、プレート等が挙げられる。利得媒質の形状がロッドであるとき、例えば、ファブリ・ペロー共振器をなし得る。この場合、モードの制御が行い易い。また、利得媒質の形状がプレートであるとき、例えば、ウィスパリングギャラリーモード共振器をなし得る。この場合、高次モードを利用したい場合に好適である。また利得媒質の大きさは、例えば、利得媒質の形状をロッド、シート、プレート等に近似する場合に、縦の長さ、横の長さ及び高さの合計が500nm以上50μm以下であってよく、好ましくは1μm以下であってよい。ここで、利得媒質の高さはロッド状に近似した場合の、ロッドの延伸方向の最大長さである。縦の長さは高さ方向に直交する面において、利得媒質の外周の2点間の最大距離である。横の長さは高さ方向に直交する面において、縦の長さ方向に直交する方向における利得媒質の外周の2点間の距離である。
【0031】
利得媒質は、その吸収スペクトルにおいて、吸収強度のピーク波長は、例えば300nm以上900nm以下の波長範囲にあってよく、好ましくは400nm以上、又は500nm以下の波長範囲にあってよい。利得媒質は、吸収スペクトルにおける吸収ピークの半値幅が、例えば10nm以上300nm以下であってよく、好ましくは30nm以上、又は200nm以下であってよい。ここで半値幅は、利得媒質の吸収スペクトルにおいて、最大吸収強度に対して吸収強度が50%となる吸収スペクトルの波長幅(半値全幅;FWHM)を意味する。
【0032】
ペロブスカイト型構造を有する結晶を含む利得媒質は、例えば、以下のようにして製造することができる。第2イオンを含む塩の水溶液を用いて第2イオンを含む塩を含む薄膜を形成する。形成される薄膜に対して、アルコール等の有機溶剤に第1イオンとアニオン又は配位子を溶解した溶液を添加することで、ペロブスカイト型構造を有する結晶を得ることができる。有機溶媒としては、炭素数1から4のアルコール等を挙げることができる。なお、ペロブスカイト型構造を有する結晶の製造方法の詳細については、例えば、Haiming Zhu et al., Nature Mater. 14, 636-643(2015).の記載等を参照することができる。
【0033】
(フォトクロミック化合物)
利得媒質からのキャリアを受容可能に配置されるフォトクロミック化合物は、光照射により吸収スペクトルの異なる2つの状態間を可逆的に異性化し、物質の色の変化を示す化合物である。2つの状態とは、フォトクロミック化合物が、開環または閉環の状態をとり、これらの状態において、フォトクロミック化合物は消色または着色する。利得媒質からのキャリアが受容可能であるとき、レーザ発振は抑制される。また、利得媒質からのキャリアが受容可能でないとき、レーザ発振は阻害されない。フォトクロミック化合物としては、例えば、アゾベンゼン誘導体、スピロピラン誘導体、フルギド誘導体、ジアリールエテン誘導体等が挙げられる。
【0034】
フォトクロミック化合物には、光照射によって分子構造が変化した後、さらに別波長の光照射で元の構造に戻るP-タイプの化合物と、光照射だけでなく熱反応でも元の構造に戻るT-タイプの化合物とが知られている。レーザ素子に用いられるフォトクロミック化合物は、P-タイプの化合物とT-タイプの化合物のいずれを用いてもよいが、光制御性の観点から、P-タイプの化合物であることが好ましい。また、P-タイプの化合物を用いることで、着色および消色の繰り返し耐久性または2つの状態の熱安定性を向上させることもできる。P-タイプのフォトクロミック化合物としては、例えば、フルギド誘導体、ジアリールエテン誘導体等が挙げられる。着色および消色の繰り返し耐久性の観点から、フォトクロミック化合物は、少なくともジアリールエテン誘導体を含むことが好ましい。また、ジアリールエテン誘導体は、閉環体では励起直後から消色を示し、開環体では光励起状態での分子構造変化が500フェムト秒程度で進行する。500フェムト秒は、一般的な半導体素子のキャリアの熱緩和時間が数ピコ秒から数ナノ秒程度であることを考慮すると、十分早い。したがって、ジアリールエテン誘導体の光異性化反応速度は、これまでの利得媒質の光電変換過程によるレーザ発振速度を超えることができる。よって、レーザ素子では、光電変換過程のスイッチングと比較して1桁から4桁以上高速なスイッチング制御が可能となる。
【0035】
ジアリールエテン誘導体としては、例えば、下記式(3)で表される化合物を挙げることができる。
【0036】
【0037】
式(3)中、Rは、カルボキシ基、ホスホノ基、ニトロ基、スルホ基、アルキル基、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアリール基等を表す。式(3)におけるRの置換位置は、例えばベンゾチオフェン環の6位であってよい。
【0038】
フォトクロミック化合物は、その構造等に応じて、キャリアを受容可能にする光の波長が異なる。レーザ素子を構成するフォトクロミック化合物においては、利得媒質からのキャリアを受容可能な状態に変化させる光の波長が、利得媒質の吸収スペクトルにおいて、透過強度がその最大値の50%以上となる波長範囲の少なくとも一部に含まれていてよい。フォトクロミック化合物をキャリアの受容が可能な状態に変化させる波長は、好ましくは利得媒質の吸収スペクトルにおける透過強度がその最大値の70%以上、又は80%以上となる波長範囲に含まれていてよい。これにより、フォトクロミック化合物を効率よくキャリアを受容可能な状態にできる。
【0039】
一態様において、レーザ素子を構成するフォトクロミック化合物は、利得媒質からのキャリアを受容可能な状態に変化させる光の波長が400nm以上900nm以下の波長範囲にあってよく、好ましくは700nm以下の波長範囲にあってよい。また、フォトクロミック化合物は、利得媒質からのキャリアを受容が抑制される状態に変化させる光の波長が200nm以上400nm未満の波長範囲にあってよく、好ましくは260nm以上、又は350nm以下の波長範囲にあってよい。
【0040】
レーザ素子におけるフォトクロミック化合物は、利得媒質からのキャリアを受容可能に配置されてよい。フォトクロミック化合物は、例えば利得媒質に吸着されていてよい。これにより、利得媒質とフォトクロミック化合物が接近し、フォトクロミック化合物がキャリアを受容可能な状態であるとき、利得媒質から効率よくキャリアを受容することができる。フォトクロミック化合物の利得媒質への吸着は、例えば、フォトクロミック化合物が有する官能基と利得媒質との間の静電的な力による吸着、ファンデルワールス力等による物理的な力による吸着、共有結合を伴う化学吸着のいずれであってもよい。
【0041】
フォトクロミック化合物の利得媒質への吸着を可能にする官能基としては、例えばカルボシキ基、ホスホノ基等が挙げられる。フォトクロミック化合物の利得媒質への吸着が官能基に由来する場合、例えば、官能基に特有の赤外吸収スペクトルを観測することで、フォトクロミック化合物の利得媒質への吸着状態を推定することができる。
【0042】
フォトクロミック化合物の利得媒質への吸着は、例えば、フォトクロミック化合物の溶液を利得媒質と接触させることと、利得媒質と接触しているフォトクロミック化合物の溶液から溶媒の少なくとも一部を除去することと、を含む方法で行うことができる。フォトクロミック化合物の溶液を構成する溶媒は、例えば炭素数1から4のアルコール等を挙げることができる。フォトクロミック化合物の溶液からの溶媒の除去は、例えば風乾、加熱乾燥、減圧乾燥等で行うことができる。
【0043】
レーザ素子を構成する利得媒質及びフォトクロミック化合物は、容器に収容されていてよい。容器に収容されていることで、繰り返し耐久性がより向上する傾向がある。容器はその内部への外部からの気体の侵入が制限される密封容器であってよい。容器の形状は、例えばプレート状、ブロック状等であってよい。容器の材質は、例えばガラス、ステンレス(SUS)等であってよい。
【0044】
容器の大きさは、収容される利得媒質及びフォトクロミック化合物の量に応じて選択されればよく、収容される利得媒質及びフォトクロミック化合物の体積に対して200体積%以上100,000体積%以下の容量であってよい。容器の大きさは、レーザ光の射出面に直交する方向の長さを容器の高さとし、射出面における2点間の最大距離を容器の縦の長さとし、射出面における容器の縦の長さ方向に直交する方向の長さを容器の横の長さとする場合に、容器の高さが1000μm以上10000μm以下であって、容器の縦の長さが1000μm以上10000μm以下であって、容器の横の長さが1μm以上1000μm以下であってよい。
【0045】
利得媒質及びフォトクロミック材料を収容する容器の内部は、不活性ガスが充填されていてよい。不活性ガスが充填されていることで、着色および消色の繰り返し耐久性、利得媒質の光耐久性がより向上する傾向がある。容器の内部に充填される不活性ガスとしては、アルゴンガス等の希ガス、窒素ガス等を挙げることができる。容器の内部に不活性ガスが充填される場合、容器中の不活性ガスの含有量は、容器の容量に対して、例えば90体積%以上であってよく、好ましくは99体積%以上であってよい。
【0046】
(レーザ装置)
レーザ装置は、上述したレーザ素子の少なくとも1つと、第1ピーク波長を有する光を発する第1光源の少なくとも1つと、第2ピーク波長を有する光を発する第2光源の少なくとも1つと、を備えていてよい。第1光源が発する光のピーク波長である第1ピーク波長は、フォトクロミック化合物をキャリアの受容が抑制される状態に変化させる波長であってよい。また、第2光源が発する光のピーク波長である第2ピーク波長は、フォトクロミック化合物をキャリアの受容が可能な状態に変化させる波長であってよい。第1ピーク波長及び第2ピーク波長の少なくとも一方は、利得媒質を励起可能な波長であってよい。第1光源及び第2光源は、レーザ素子に第1光源及び第2光源からの光を照射可能に配置されてよい。
【0047】
レーザ装置では、第1光源及び第2光源の少なくとも一方によって利得媒質が励起されてレーザ発振する。例えば第1光源が発する光によって利得媒質が励起される場合、第2光源が発する光によってフォトクロミック化合物が、利得媒質からのキャリアの受容が可能な状態になることで、利得媒質からのエネルギー移動によりレーザ発振が停止する。また第1光源が発する光によってフォトクロミック化合物が利得媒質からのキャリアの受容が抑制される状態になることで、再びレーザ発振するようになる。従って、第1光源及び第2光源の発光を光信号として制御することで、レーザ素子のレーザ発振を制御することができる。
【0048】
レーザ装置が備える光源としては、発光ダイオードまたはレーザダイオード等を用いることができる。光源は、好ましくはレーザダイオードであり、端面発光型の半導体レーザであってよく、面発光型の半導体レーザであってよもよい。一態様において、第1光源の第1ピーク波長は、例えば200nm以上400nm未満であってよく、好ましくは260nm以上、又は350nm以下であってよい。また第2光源の第2ピーク波長は、例えば400nm以上900nm以下であってよく、好ましくは700nm以下であってよい。
【0049】
レーザ装置に含まれるレーザ素子は、例えば、350nm以上1100nm以下、好ましくは450nm以上、又は650nm以下の範囲で非線形発光することができる。また、非線形発光するときの半値幅は、例えば、0.5nm以上500nm以下、好ましくは1nm以上、又は10nm以上であってよく、また好ましくは500nm以下、又は100nm以下であってよい。
【0050】
レーザ装置は、レーザ素子の表面の少なくとも一部を被覆する透光性部材を更に備えていてよい。透光性部材を備えることでレーザ素子の耐久性を向上させることができる。透光性部材の材質としては、例えば酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸窒化ケイ素、ガラス等が挙げられる。透光性部材の厚みは、例えばレーザ素子の縦の長さに対して、1倍以上100倍以下であってよく、好ましくは2倍以上、又は20倍以下であってよい。
【0051】
レーザ装置が透光性部材を備える場合、レーザ素子の1つの面である第1面上に配置される第1透光性部材と、レーザ素子の第1面に対向する第2面上に配置される第2透光性部材と、を備えていてよい。すなわち、レーザ素子は第1透光性部材と第2透光性部材とに挟まれていてよい。第1透光性部材及び第2透光性部材は、レーザ素子の第1面及び第2面の少なくとも一部をそれぞれ独立して被覆していてもよく、レーザ素子の第1面及び第2面の少なくとも一部を連続して被覆して一体の透光性部材を形成していてもよい。
【0052】
透光性部材を備えるレーザ装置の一例を、図面を参照して説明する。
図1は、レーザ装置100の断面図であって、レーザ光の射出方向60に平行な面における概略断面図である。レーザ装置100は、レーザ素子10とレーザ素子10を挟み込む第1透光性部材32及び第2透光性部材34とを備える。レーザ素子10は、1つでも、複数で合ってもよい。レーザ装置100では、光源20とレーザ素子10が、第1透光性部材32を挟んで配置されている。光源20からの光は、第1透光性部材32を介してレーザ素子10に照射され、レーザ素子のレーザ発振を制御する。レーザ装置100では、レーザ素子10が第1透光性部材32と第2透光性部材34とで挟まれていることで、レーザ素子が保護され、耐久性が向上する。第1透光性部材32は第2透光性部材34よりも厚くてよい。これにより、光源20からの熱をレーザ素子10から遠ざけることができる。また、第1透光性部材32および第2透光性部材34は、レーザ素子10よりも屈折率が小さい方が好ましい。これにより効率よく光を閉じ込めることができる。したがって、第1透光性部材32および第2透光性部材34は、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどが好ましい。レーザ装置100では、レーザ素子10の紙面に直交する面が第1透光性部材32又は第2透光性部材34で被覆されていてもよいし、レーザ装置100の表面に露出していてもよい。またレーザ素子10の射出面とは反対側の面は、第1透光性部材32又は第2透光性部材34で被覆されていてもよいし、レーザ装置100の表面に露出していてもよい。
【0053】
レーザ装置は、複数のレーザ素子を備え、それぞれのレーザ素子の少なくとも一部は透光性部材に被覆されていてもよい。すなわち、レーザ装置は、レーザ素子として、少なくとも第1レーザ素子及び第2レーザ素子を含み、第1透光性部材、第2透光性部材、前記第1レーザ素子及び第2レーザ素子を含む断面において、第1レーザ素子及び第2レーザ素子はそれぞれ、第1透光性部材及び第2透光性部材に囲まれ、第1レーザ素子と第2レーザ素子との間に、第1透光性部材及び第2透光性部材の少なくとも一方が配置されていてよい。
【0054】
複数のレーザ素子を備えるレーザ装置の構成例を、図面を参照して説明する。
図2Aは、レーザ装置200の断面図であって、レーザ光の射出方向に直交する面における概略断面図である。レーザ装置200は、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14と、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14を挟み込む第1透光性部材32及び第2透光性部材34とを備える。第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14は互いに発振波長が異なっていてよい。第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14の側面は第2透光性部材34に被覆され、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14は第2透光性部材34によって離隔されている。
図2Bは、レーザ装置210の断面図であって、レーザ光の射出方向に直交する面における概略断面図である。レーザ装置210は、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14と、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14を挟み込む第1透光性部材32及び第2透光性部材34とを備える。第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14の側面は第1透光性部材32に被覆され、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14は第1透光性部材32によって離隔されている。これにより、第1レーザ素子12および第2レーザ素子14は、その上面、下面、および側面が保護されるので、さらに耐久性が向上する。
図2A及び2Bにおいては、レーザ素子が2つの場合を図示しているが、レーザ装置は3以上のレーザ素子を備えていてもよい。3以上のレーザ素子は、第1レーザ素子12と、第2レーザ素子14と、他のレーザ素子を含むことができる。他のレーザ素子は、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14と平行に配置されていてよい。他のレーザ素子は第1レーザ素子又は第2レーザ素子と同一の発振波長を有していてもよく、異なる発振波長を有していてもよい。
【0055】
また、レーザ装置は、透光性部材と、第1光源及び第2光源と、第1光源及び第2光源とそれぞれ光結合する光導波路と、を更に備えていてよい。レーザ素子及び透光性部材は、光導波路の上に配置されていてよく、レーザ素子は光導波路と透光性部材とに挟まれて配置されていてよい。レーザ装置を構成する光導波路は、例えば、プレーナ光波回路であってよい。光導波路は、例えば、グレーティングカプラを含んでよい。これにより第1光源および第2光源からの励起光をレーザ素子へ効率よく照射することができる。光導波路は、他にも、曲がり導波路、テーパー導波路、Y分岐導波路、方向性結合器、アレイ導波路格子、マルチモード干渉計、またはマッハツェンダー干渉計などを含んでいてもよい。
【0056】
図3Aは、第1光源及び第2光源とそれぞれ光結合する光導波路を備えるレーザ装置310の構成例を示す概略上面図であり、
図4は、
図3AのA-A線における概略断面図である。レーザ装置310では、光導波路40は上面と上面に対抗する下面とを有し、上面と下面を連結する側面の高さを厚みとする板状となっている。光導波路40の1つの側面には第1光源22が光結合して配置される。第1光源22が配置される側面に対向する他の側面には、第2光源24が光結合して配置される。第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14は、それぞれ光導波路40の上面に互いに離隔され、光導波路40と光結合して配置される。第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14は、光導波路40と、第3透光性部材36とに挟まれている。レーザ装置310は、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14をそれぞれ少なくとも2つ有する。第1レーザ素子12は、複数の第1レーザ素子12からの第1射出光62を同一方向に射出するように配置される。また第2レーザ素子14は、複数の第2レーザ素子14からの第2射出光64を、第1レーザ素子12からの第1射出光62と同一方向に射出するように配置される。レーザ装置310では、第1射出光62及び第2射出光64は、第1光源22及び第2光源24が配置される方向とは異なる方向に射出される。
【0057】
レーザ装置310では、第1光源22及び第2光源24からの光がそれぞれ光導波路を介して、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14に、それぞれ照射される。
図4に示すようにレーザ装置310では、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14は、第3透光性部材36で被覆されている。
図4では、第3透光性部材36は、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14の上面を被覆する第1領域と、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14の側面を被覆する第2領域とに分割されている。一態様において第3透光性部材36は、第1領域と第2領域とが一体に形成されていてもよい。
【0058】
図3Bは、レーザ装置320の構成例を示す概略上面図である。レーザ装置320は、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14からの射出光が、それぞれ第2光源24が配置される方向に射出されること以外は、レーザ装置310と同様に構成される。
図3Bでは、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14からの射出光が、第2光源24が配置される方向に射出されるが、第1光源22が配置される方向に射出されてもよい。
【0059】
レーザ装置は、第1レーザ素子及び第2レーザ素子のいずれか一方の射出光で励起される第3レーザ素子と、第3レーザ素子に含まれるフォトクロミック化合物をキャリアの受容が可能な状態に変化させる第3ピーク波長を有する光を発する第3光源と、を更に備えてもよい。第3光源は、第3レーザ素子に第3光源からの光を照射可能に配置されていてよく、第3レーザ素子は、第1レーザ素子及び第2レーザ素子からの射出光を第3レーザに照射可能に配置されてよい。
【0060】
第1レーザ素子及び第2レーザ素子のいずれか一方の射出光で励起される第3レーザ素子を備えることで、第1レーザ素子及び第2レーザ素子で生成される第1世代の光情報を第3レーザ素子に引き継いで第2世代の光情報とすることができる。第2世代の光情報を取得することにより、第1世代における光情報をより明確に区別することができる。さらに、この例のようにレーザ素子と光源の数を増やして光情報の世代を増すことで、より複雑な情報を扱うことができる。
【0061】
図5は、第3レーザ素子を備えるレーザ装置400の構成例を示す概略上面図である。レーザ装置400は、レーザ装置310と同様の構成を備える第1世代Pと、透光性部材で被覆される第3レーザ素子16及び第3光源26を備える第2世代Qと、を備える。第3レーザ素子は第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14からの射出光が照射されるように配置されている。第3光源26は、それが発する光を第3レーザ素子16に照射可能に配置されている。第3レーザ素子16は、第1レーザ素子12及び第2レーザ素子14のいずれか一方の射出光によって励起されてレーザ発振する。また第3レーザ素子は第3光源26からの光によって、第3レーザ素子16が含むフォトクロミック化合物がキャリアの受容が可能な状態に変化し、第3レーザ素子16のレーザ発振が停止する。レーザ装置400では、第1レーザ素子12又は第2レーザ素子14からの射出光によって第3レーザ素子16がレーザ発振することから、第3レーザ素子のレーザ発振の状態によって、第1レーザ素子12と第2レーザ素子14のレーザ発振の状態を区別することができる。
【0062】
図6は、光源装置の構成例を示す概略断面図である。光源装置500は、基台520と、蓋530と、立ち上げミラー550と、レーザ装置510と、を含む。レーザ装置510は、上述したレーザ装置100、200、210、310、320、または400であってよい。レーザ装置510は、基台520の上に配置される。レーザ装置510は、サブマウント540を介して基台520に配置されてよい。また、立ち上げミラー550は、反射面がレーザ装置のレーザ光の出射面と対向するように基台520に配置されてよい。基台520は、レーザ装置510、サブマウント540、立ち上げミラー550を収容する凹部を有する。凹部を形成する外壁の上面は、蓋530と接合される。凹部の内部は、窒素またはアルゴンなどの不活性ガスが充填され、気密に封止されている。光源装置500において、レーザ装置510のレーザ素子は透光性部材により保護され、かつ凹部および蓋により気密封止されることにより、さらに耐久性が向上する。レーザ装置510から出射されるレーザ光は、立ち上げミラー550により立ち上げられ、光源装置500から取り出される。
【0063】
本開示に係る発明は、以下の態様を包含してよい。
[1] 利得媒質と、前記利得媒質からのキャリアを受容するフォトクロミック化合物と、を含み、
前記利得媒質は、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、グアニジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン及びプロトン化チオウレアイオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む第1イオンと、
鉛、ゲルマニウム、スズ、アンチモン及びビスマスからなる群から選択される少なくとも1種を含む第2イオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、チオシアネート、イソチオシアネート及びスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種を含むアニオン又は配位子と、をその組成に含むレーザ素子。
【0064】
[2] 前記利得媒質は、ペロブスカイト型構造を有する結晶を含む[1]に記載のレーザ素子。
【0065】
[3] 前記利得媒質は、下記式(1)で表される組成を含む[1]又は[2]に記載のレーザ素子。
[M1
wA1
(1-w)]xM2
yXz (1)
(式(1)中、M1は、Cs、Rb、K、Na及びLiからなる群から選択される少なくとも1種を含む第1イオンを示す。
A1は、アンモニウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、グアニジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン及びプロトン化チオウレアイオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む非金属カチオンを示す。
M2は、Ge、Sn、Pb、Sb及びBiからなる群から選択される少なくとも1種を含む第2イオンを示す。
Xは、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、チオシアネート、イソチオシアネート及びスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種を含むアニオン又は配位子を示す。
xは1以上4以下の数であり、yは1以上2以下の数であり、zは3以上9以下の数であり、wは0以上1以下の数である。
前記式(1)において、第1イオンM1及び非金属カチオンA1の両方を含む場合、第1イオンM1及び非金属カチオンA1は共に、ペロブスカイト型構造を構成する原子団を表す。)
【0066】
[4] 前記フォトクロミック化合物は、P-タイプのフォトクロミック化合物である[1]から[3]のいずれかに記載のレーザ素子。
【0067】
[5] 前記フォトクロミック化合物は、ジアリールエテン誘導体を含む[1]から[4]のいずれかに記載のレーザ素子。
【0068】
[6] 前記フォトクロミック化合物は、前記利得媒質に吸着している[1]から[5]のいずれかに記載のレーザ素子。
【0069】
[7] 前記利得媒質は、縦の長さ、横の長さ及び高さの合計が500nm以上50μm以下である[1]から[6]のいずれかに記載のレーザ素子。
【0070】
[8] 前記利得媒質の吸収スペクトルにおいて、透過強度がその最大値の50%以上となる波長範囲の少なくとも一部に、前記フォトクロミック化合物をキャリアの受容が可能な状態に変化させる波長を有する[1]から[7]のいずれかに記載のレーザ素子。
【0071】
[9] 前記利得媒質及び前記フォトクロミック化合物を収容する容器をさらに備え、
前記容器の内部は不活性ガスが充填されている[1]から[8]のいずれかに記載のレーザ素子。
【0072】
[10] [1]から[9]のいずれかに記載のレーザ素子と、
第1ピーク波長を有する光を発する第1光源と、
第2ピーク波長を有する光を発する第2光源と、
を備え、
前記第1ピーク波長は、前記フォトクロミック化合物をキャリアの受容が抑制される状態に変化させる波長であり、
前記第2ピーク波長は、前記フォトクロミック化合物をキャリアの受容が可能な状態に変化させる波長であり、
前記第1ピーク波長及び第2ピーク波長の少なくとも一方が、前記利得媒質を励起可能な波長であるレーザ装置。
【0073】
[11] 第1透光性部材及び第2透光性部材を更に備え、
前記レーザ素子は、第1透光性部材と第2透光性部材とに挟まれている[10]に記載のレーザ装置。
【0074】
[12] 前記レーザ素子は、第1レーザ素子と第2レーザ素子とを含み、
前記第1透光性部材、前記第2透光性部材、前記第1レーザ素子及び第2レーザ素子を含む断面において、
前記第1レーザ素子及び第2レーザ素子はそれぞれ、前記第1透光性部材及び前記第2透光性部材に囲まれ、
前記第1レーザ素子と第2レーザ素子との間に、前記第1透光性部材及び前記第2透光性部材の少なくとも一方が配置される[11]に記載のレーザ装置。
【0075】
[13] 第3透光性部材と、
前記第1光源及び前記第2光源とそれぞれ光結合する光導波路と、
を更に備え、
前記レーザ素子及び前記第3透光性部材は、前記光導波路の上に配置され、
前記レーザ素子は、前記光導波路と前記第3透光性部材とに挟まれている[10]に記載のレーザ装置。
【実施例0076】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
参考例1
100mg/mLの酢酸鉛(II)水溶液をスライドガラス上に滴下し、60℃で30分間乾かし酢酸鉛薄膜を得た。得られた酢酸鉛薄膜を、イソプロパノールを溶媒とした5mg/mLの臭化メチルアンモニウム溶液に、窒素雰囲気下で20時間浸漬した。これによりスライドガラス上に、ペロブスカイト型構造を有し、CH3NH3PbBr3で表される組成を有する結晶として利得媒質を得た。
【0078】
PbAc2(s)+4Br-(sol)→PbBr4
2-(sol)+2Ac-(sol)
PbBr4
2-(sol)+CH3NH3
+(sol)
→CH3NH3PbBr3(s)+Br-(sol)
【0079】
Ac-は酢酸イオンを表す。(s)は固体であることを示し、(sol)は溶液であることを示す。
【0080】
実施例1
ジアリールエテン誘導体として以下に示す構造を有する化合物を準備した。10mgのジアリールエテン誘導体に、1.0mlのイソプロパノールを加え、沈殿物を含む飽和溶液を調製した。上記で得られた結晶である利得媒質に飽和溶液の上澄み液を滴下し、大気下で乾燥させた。これにより利得媒質にジアリールエテン誘導体を吸着させて、レーザ素子を得た。
【0081】
【0082】
評価 非線形発光の観察
上記で得られたペロブスカイト型構造を有する結晶を試料として用いた。再増幅されたフェムト秒パルス(Spectra Physics, Solistice, 400nm、1kHz、100fs)を顕微鏡(Olympus,IX-71)に導き、5倍の対物レンズで試料に集光してレーザ素子の発光を観察した。
図7は、破線でパルスのエネルギー密度が17μJcm
-2の場合と、実線で42μJcm
-2の場合についての発光強度を示す。
【0083】
図7に示すように、励起光強度が発振閾値以下の17μJcm
-2では発光極大波長が約540nmであるが、発振閾値を超える42μJcm
-2の場合には、新たに546nm、および549nm付近に強い発光が観測された。この発光信号は結晶内を共振器として発振した非線形発光を示唆している。
【0084】
評価 紫外線照射によるレーザ発振の制御
上記で得られたレーザ素子を試料として用いた。非線形発光の観察と同様に400nmの励起パルス光を照射して、励起パルス光のエネルギー密度を光学発振閾値程度に調整した。キセノンランプの300nmから400nmの波長域の紫外光(90mWcm
-2;以下、UV光とも称する)を30秒照射した。UV光照射後、光学発振に起因する548nmの発光は消失した。UV光を閉じ、30秒さらに励起パルス光のみを照射すると光学発振に起因する発光が再び観測された。この手順を10回繰り返すと、光学発振は消失と発振を8回繰り返した。結果を
図8に示す。
図8において、黒色で塗られた丸は光学発振の状態を表し、白抜きの丸は光学発振の消失を示している。また、レーザ素子を、窒素が充填された容器に入れて気密封止し、同様な手順を繰り返すと、同様に光学発振の消失と発振を100回程度繰り返した。
【0085】
評価 ジアリールエテン誘導体の結晶への吸着
ジアリールエテン誘導体が利得媒質に吸着されていることを評価するために以下の実験を行った。まず、利得媒質であるCH
3NH
3PbBr
3と、開環状態のジアリールエテン誘導体と、をそれぞれ準備した。利得媒質と、ジアリールエテン誘導体と、をそれぞれ単独でIR顕微鏡(日本分光社、型番IRT-5200-16)により赤外吸収スペクトルを測定した。
図9AはCH
3NH
3PbBr
3の赤外吸収スペクトルである。
図9Bは、開環状態のジアリールエテン誘導体の赤外吸収スペクトルである。次に、実施例1のレーザ素子に対しても同様にIR顕微鏡で赤外吸収スペクトルを測定した。
図9Cは、実施例1のレーザ素子の赤外吸収スペクトルである。
図9Cは、
図9Aおよび
図9Bの赤外吸収スペクトルと比べて、1150cm
―1および1350cm
―1付近に新たな振動吸収バンドの生成が確認できた。これは、ジアリールエテン誘導体の官能基の一部が利得媒質の官能基と結合することによる振動モードのシフトに起因していることを示唆している。すなわち、ジアリールエテン誘導体が利得媒質に吸着していることが推測された。