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特開2024-78857オートクレーブ内のガス吹込管用支持具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078857
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】オートクレーブ内のガス吹込管用支持具
(51)【国際特許分類】
   B01J 3/00 20060101AFI20240604BHJP
   B01J 3/02 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B01J3/00 A
B01J3/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191442
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】古本 直輝
(72)【発明者】
【氏名】萩原 一義
(57)【要約】
【課題】 振動により脱落するトラブルの生じにくいガス吹込管用支持具を提供する。
【解決手段】 オートクレーブ1の接液部に取り付けられる第1部材10と、高圧ガスのガス吹込管5を固定し且つ第1部材10に取り付けられる第2部材20と、これら両部材を互いに締結するボルト・ナット及びそれらの座金とから構成されるガス吹込管用支持具であって、第1部材10並びに第1部材10側に位置するボルト・ナットのうちの一方及びその座金が第1の金属からなり、第2部材20並びに第2部材20側に位置するボルト・ナットのもう一方及びその座金が該第1の金属とは硬度及び耐腐食性が異なる第2の金属からなる。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オートクレーブの接液部に取り付けられる第1部材と、高圧ガスのガス吹込管を固定し且つ前記第1部材に取り付けられる第2部材と、これら両部材を互いに締結するボルト・ナット及びそれらの座金とから構成されるガス吹込管用支持具であって、
前記第1部材並びに該第1部材側に位置する前記ボルト・ナットのうちの一方及びその座金が第1の金属からなり、前記第2部材並びに該第2部材側に位置する前記ボルト・ナットのもう一方及びその座金が前記第1の金属とは硬度及び耐腐食性が異なる第2の金属からなることを特徴とするオートクレーブ内のガス吹込管用支持具。
【請求項2】
前記第1の金属が前記オートクレーブの接液部と同じ材質であり、前記第2の金属が前記ガス吹込管と同じ材質であることを特徴とする、請求項1に記載のオートクレーブ内のガス吹込管用支持具。
【請求項3】
前記第1部材がその長手方向を水平に延在させた状態で前記接液部に取り付けられるC型鋼であり、前記第2部材がL型鋼又は部分的に断面略Z字形状となるように改造したL型鋼であってその長手方向の片側のみが前記第1部材に重ね合わせられており、前記第1部材に重ね合わせられていない部分の長さは前記ガス吹込管の外径以上であり、前記第1部材の上面及び側面において前記第2部材が締結されていることを特徴とする、請求項2に記載のオートクレーブ内のガス吹込管用支持具。
【請求項4】
前記第1部材と前記第1の金属製の前記座金とが溶接されており、前記第1の金属製の前記座金と前記第1の金属製の前記ボルトの頭部又はナットとが溶接されており、前記第2部材と前記第2の金属製の前記座金とが溶接されており、前記第2の金属製の前記座金と前記第2の金属製の前記ボルトの頭部又はナットとが溶接されていることを特徴とする、請求項3に記載のオートクレーブ内のガス吹込管用支持具。
【請求項5】
前記第1の金属がチタン鋼又はチタン合金鋼であり、前記第2の金属がオーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載のオートクレーブ内のガス吹込管用支持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートクレーブ内に設置されるガス吹込管の支持具に関し、特に操業時にガス吹込管において発生する振動により生ずる異種金属間での摩耗等の問題を抑制することが可能なガス吹込管用支持具に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属の製錬プラントでは、有価金属を含んだ原料スラリーを受け入れて高温高圧下で浸出処理する装置として、円筒形の圧力容器を横向きにした横長形状のオートクレーブと称する高圧反応装置が用いられている。例えば特許文献1に記載のニッケルの製錬プラントにおいては、ニッケル硫化物を主成分とする微粉末状のニッケルマット及び微粉末状の硫黄を含む混合スラリーをオートクレーブに装入し、更にこの混合スラリー内に高圧空気を吹き込んで加圧浸出処理を施すことにより、該ニッケルマットに含まれる有価金属のニッケルを硫酸ニッケルとして回収している。
【0003】
上記のオートクレーブの内部は、隔壁により長手方向に並ぶ複数の区画室に仕切られており、該隔壁の上部はオーバーフロー可能なように切り欠かれている。これにより、該オートクレーブ内に装入された原料スラリーは、該隔壁をオーバーフローすることでこれら複数の区画室に上流側から下流側に順次に流れ込んでいき、その際、各区画室においては撹拌機で撹拌されると共にガス吹込管を介して吹き込まれる高圧空気によって加圧浸出処理が施される。このように、オートクレーブを用いることで原料スラリーを加圧酸化浸出でき、更にオートクレーブの形状を横長にして内部を隔壁によって複数の区画室に仕切ることによって段階的に処理できるので、反応効率を高めることができ、結果的に有価金属の浸出率を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-011442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、オートクレーブでは複数の区画室の各々において撹拌状態の原料スラリー(被処理液)に高圧空気(高圧ガス)を吹き込む必要があるため、各区画室ごとに該高圧ガスのガス吹込管がオートクレーブの上部から差し込まれている。このガス吹込管からの高圧ガスの吹込みでは、より効率的に被処理液内に高圧ガスを分散させるため、高圧ガス吹出用の先端開口部が撹拌機の下方に至るようにガス吹込管の形状を略L字状に屈曲させている。このため、被処理液に浸漬しているガス吹込管の先端部では、内部を流れる高圧ガスによる振動に加えて、撹拌により激しく流動している該被処理液による振動が生じやすい。これらの要因による振動を抑制するため、オートクレーブの各区画室において、ガス吹込管を強固に固定する必要がある。
【0006】
しかしながら、一般的な支持部材を用いてガス吹込管をオートクレーブ内に固定する場合は、上記のガス吹込管の振動等の影響で該支持部材のボルト・ナットが緩みやすく、該ボルト・ナットが緩んだまま操業を続けると、最終的にガス吹込管が脱落して運転停止や設備の破損等のトラブルに繋がるおそれがあった。一方で、オートクレーブでは高い腐食性と摩耗性を有する流体を処理するので、ガス吹込管や支持部材に使用できる材質には制約があった。
【0007】
具体的には、例えば、オートクレーブの接液部側の支持部材については耐腐食性に優れたチタン鋼が採用され、ガス吹込管側の支持部材については耐摩耗性を重要視してステンレス鋼が採用されることがある。この場合、単なるボルト・ナットの緩みの問題であれば溶接による締結等で対応できるが、チタン鋼とステンレス鋼という異種の金属同士は溶接で締結することができないため、締付けにより締結することになり、この締結部分に異種の金属同士が互いに溶接されていない合わせ面が存在してしまうことがある。この合わせ面が振動すると、異種の金属のうちの硬い方の金属であるステンレス鋼が、柔らかい方の金属であるチタン鋼を徐々に削ってしまい、締付けによる締結が緩んでしまうことになる。締付けによる締結が緩むと振動が大きくなるので、チタン鋼側の摩耗が加速的に大きくなり、ついには、ガス吹込管が脱落する事態に至ることもあった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ニッケル硫化物を含有する原料スラリーに対して高温高圧下で加圧浸出処理を施す場合に代表されるような、高い腐食性や摩耗性を有する流体の処理を行なうオートクレーブ内に設置される、振動により生ずる異種金属間での摩耗等の問題を抑制することが可能な、耐久性に優れたガス吹込管用支持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明が提供するオートクレーブ内のガス吹込管用支持具は、オートクレーブの接液部に取り付けられる第1部材と、高圧ガスのガス吹込管を固定し且つ前記第1部材に取り付けられる第2部材と、これら両部材を互いに締結するボルト・ナット及びそれらの座金とから構成されるガス吹込管用支持具であって、前記第1部材並びに該第1部材側に位置する前記ボルト・ナットのうちの一方及びその座金が第1の金属からなり、前記第2部材並びに該第2部材側に位置する前記ボルト・ナットのもう一方及びその座金が前記第1の金属とは硬度及び耐腐食性が異なる第2の金属からなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い腐食性や摩耗性を有する流体の処理を行なうオートクレーブ内において、振動により生ずる異種金属間での摩耗等の問題を抑制することで、振動等により脱落させることなく強固にガス吹込管を支持することが可能な、耐久性に優れたガス吹込管用支持具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のガス吹込管用支持具が好適に使用されるオートクレーブの模式的な縦断面図である。
図2図1のオートクレーブ内の隔壁に本発明の一具体例の支持具を介してガス吹込管の先端部を支持している状態を示す斜視図である。
図3図2のガス吹込管用支持具の側面図である。
図4図3のガス吹込管用支持具の分解斜視図である。
図5】本発明のガス吹込管用支持具の他の具体例の分解斜視図である。
図6】本発明の代替例のガス吹込管用支持具である。
図7】本発明の比較例のガス吹込管用支持具の側面図である。
図8】本発明の実施例2のガス吹込管用支持具である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.オートクレーブ
先ず、本発明に係るガス吹込管用支持具が好適に取り付けられるオートクレーブについて説明する。図1に示すように、両端部に略半球状の鏡板を備えた横長円筒形状のオートクレーブ1は、上部がオーバーフロー用に切り欠かれた堰の役割を担う隔壁2によって内部が複数の区画室3に区画されており、各区画室3には好ましくは傾斜タービン翼形状の撹拌翼を備えた撹拌機4が設けられている。この撹拌機4の撹拌翼の下方において高圧空気を下向きに吹き出すことができるように、オートクレーブ1の上部から差し込まれているガス吹込管5は、その先端部が底部近傍で略L字形状に屈曲して水平方向に延在している。このオートクレーブ1内のガス吹込管5のうち、鉛直方向に延在する部分が後述する本発明の実施形態の支持具7で隔壁2に支持されている。
【0013】
かかる構成により、オートクレーブ1内の複数の区画室3のうち(図1には5個の区画室が例示されている)、最上流の区画室3内に装入された被処理液としての原料スラリーは、隔壁2をオーバーフローして順次隣接する下流側の区画室3に流れ込んでいき、その際、各区画室3において撹拌機4で撹拌されると共に、ガス吹込管5を介して吹き込まれる高圧空気によって加圧浸出処理される。このようにして複数の区画室3で段階的に加圧浸出処理された原料スラリーは、最下流の区画室3に設けられている抜出管6を介して浸出スラリーとして抜き出される。
【0014】
上記構造のオートクレーブ1を用いることで、有価金属を含んだ原料スラリーから該有価金属を効率よく浸出することが可能になる。例えばニッケル・コバルト混合硫化物(Mixed Sulfide、MSと略称することもある)を含むスラリーから粗硫酸ニッケル水溶液を製造する場合は、レーザー回折散乱法で測定した粒径D50で100μm以下程度の粒径を有するMSを含んだスラリー濃度200~300g/L程度の原料スラリーがオートクレーブ1に装入される。この場合、各区画室3ではガス吹込管5を介して高圧空気が吹き込まれることで、圧力1.7~2.3MPaG程度、温度150~220℃程度の高温高圧条件下で加圧浸出処理が施される。これにより、硫酸ニッケルと硫酸コバルトとの混合水溶液である加圧浸出液が生成される。
【0015】
上記のように、MSから加圧浸出液の生成を行なうオートクレーブ1では、極めて高い腐食性を有し且つ摩耗性の流体を扱うので、オートクレーブ1の接液部には耐食耐摩耗性の金属が用いられ、また、本体材質には、圧力容器用鋼材の内面側に耐食耐磨耗金属を貼り合せたクラッド鋼板が一般的に用いられる。更に、オートクレーブ1内のうち液面以下の部分には、耐酸レンガ等の耐熱耐食材8が内張りとして積層されている。なお、上記のクラッド鋼板や隔壁に用いる上記耐食耐摩耗金属には、例えばチタン、ニッケル基モリブデン、クロム合金等を用いるのが好ましく、これらの中ではチタンがより好ましい。チタンは純チタン(チタン鋼)でもよいが、JIS規格TP-240PdHなどのチタン合金鋼がより好ましい。
【0016】
2.ガス吹込管用支持具
次に、上記したオートクレーブ1内に設置される本発明の一具体例のガス吹込管用支持具について説明する。図2に示すように、この本発明の一具体例のガス吹込管用支持具7は、ガス吹込管5のうち鉛直方向に延在する部分をUボルト9及びこれに螺合するナットで固定するものであり、オートクレーブ1の接液部に取り付けられる第1部材と、ガス吹込管5をUボルト9で固定し且つ第1部材に取り付けられる第2部材と、これら両部材を互いに締結するボルト・ナット及びそれらの座金とから構成される。そして、該第1部材並びに該第1部材側に位置する該ボルト・ナットのうちの一方及びその座金が第1の金属からなり、該第2部材並びに該第2部材側に位置する該ボルト・ナットのもう一方及びその座金が該第1の金属とは硬度及び耐腐食性が異なる第2の金属からなる。
【0017】
図3及び図4を参照しながら具体的に説明すると、本発明の一具体例のガス吹込管用支持具7は、オートクレーブ1の接液部に取り付けられる第1の金属製の第1部材10と、図示しないガス吹込管をUボルト9で固定し且つ第1部材10に取り付けられ、上記第1の金属とは硬度及び耐腐食性が異なる第2の金属製の第2部材20とから構成される。そして、これら第1部材10と第2部材20の互いの当接部分に設けられているボルト孔10a、10b、20a、20bに第2部材20側から第2の金属製の座金21、23を挟んで挿入された第2の金属製のボルト22、24が、第1部材10側から第1の金属製の座金11、13を挟んで第1の金属製のナット12、14で締め付けられている。
【0018】
上記構成のガス吹込管用支持具7を用いることで、上記したように高い腐食性を有し且つ摩耗性を有する流体を取り扱うオートクレーブ1内にガス吹込管5を設置する場合であっても、操業時の振動等によりガス吹込管5が脱落するトラブルを防ぐことができる。すなわち、上記したように、第1部材10と第2部材20とを互いに締結するボルト22、24とナット12、14の硬度が互いに異なるので、これらボルト22、24の雄ネジ部をナット12、14の雌ネジ部で密着性良く締め付けることが可能になる。
【0019】
また、第1部材10と第2部材20との互いの当接面及び上記のボルトとナットの螺合部分を除いて、第1部材10側の構成要素(すなわち、第1部材10、座金11、13、及びナット12、14)及び第2部材20側の構成要素(すなわち、第2部材20、座金21、23、及びボルト22、24)をそれぞれ同じ種類の金属で組み合わせることができるので、異種金属同士の接触によって生じうる異種金属同士の振動時により生じる物理的に弱い側の摩耗を抑えることができる。また、異種金属同士の接触によって生じるガルバニック腐食の可能性についても排除することができる。
【0020】
上記の第2の金属の具体的な種類は、上記の第1の金属に対して硬度及び耐腐食性が異なるものであれば特に限定はない。第1の金属には前述したチタン鋼やチタン合金鋼、ニッケル基モリブデン、クロム合金等のオートクレーブ1の接液部の材質と同じ材質が好適に用いられるが、第2の金属はガス吹込管と同じ材質が好適に用いられる。第2の金属としては、ステンレス鋼が好ましく、オーステナイト系ステンレス鋼がより好ましく、SUS316Lが最も好ましい。オートクレーブの接液部については、耐腐食性に優れた金属が採用され、ガス吹込管については耐摩耗性を重要視した金属が採用されることから、必然的に、第2の金属は第1の金属とは硬度及び耐腐食性が異なることになる。例えば第1の金属がビッカース硬さ110~150Hv程度のチタン合金の場合は、第2の金属にSUS316Lを採用することで、第2の金属のビッカース硬さが200Hv程度になる。なお、本発明の一具体例のガス吹込管用支持具7においては、上記のように、第2の金属の硬度が第1の金属の硬度よりも高い場合に限定されるものではなく、逆に第1の金属の硬度が第2の金属の硬度より高くてもよい。また、第1の金属及び第2の金属の硬度の評価方法は、上記のビッカース硬さに限定されるものではなく、ロックウェル硬さ(単位HRC)、ショア硬さ(単位HS)、ブリネル硬さ(単位HB)等によるものでもかまわない。
【0021】
本発明の一具体例のガス吹込管用支持具7においては、図4に示すように、第1部材10がその長手方向を水平に延在させた状態でオートクレーブ1の接液部に取り付けられるC型鋼であり、第2部材20が第1部材10との当接部分において断面略Z字形状となるように第1部材10とほぼ同じ長さの矩形板状の水平係合部が溶接されたL型鋼であり、第2部材20において該水平係合部が溶接されていない部分は、ガス吹込管5の外径以上の長さを有している。すなわち、第1部材10にガス吹込管5が干渉しないように、第2部材20はその長手方向の片側のみが第1部材10に重ね合わせられており、第2部材20において第1部材10に重ね合わせられていない部分であるガス吹込管支持部の長さはガス吹込管5の外径以上である。
【0022】
上記の第1部材10は、断面C字形状における両屈曲部がそれぞれ上下方向に対向する姿勢で長手方向を水平にしてオートクレーブ1の隔壁に垂直に例えば溶接により取り付けられており、これら両屈曲部のうち上側屈曲部の上面に、第2部材20の上記水平係合部が引っ掛けるように載せられている。この状態で、第1部材10の上面及び側面において第2部材20がボルト・ナットにより締結されている。
【0023】
すなわち、第1部材10の上記した上側屈曲部の上面には第2部材20の上記水平係合部が引っ掛けられており、それらの長手方向中央部にそれぞれ設けられているボルト孔10a、20aに第2部材20側から座金23を挟んでボルト24が挿通されている。そして、このボルト24の先端部に座金13を挟んでナット14が螺合している。一方、第1部材10の側面には第2部材20の鉛直部分のうち上記水平係合部の下方に位置する部分が当接しており、これら両当接部分の各々に長手方向に離間して2個ずつ設けられているボルト孔10b、20bに第2部材20側から座金21を挟んで2本のボルト22が挿通されている。そして、これら2本のボルト22の先端部に座金11を挟んで2個のナット12がそれぞれ螺合している。なお、第1部材10の上面及び側面にそれぞれ設けられている上記のボルト孔10a、10bは、いずれも水平方向に延在する長孔になっているので、第1部材10に対して第2部材20の取付位置を長手方向に調整することができる。
【0024】
上記構成により、第2部材20のうち、上記の水平係合部が溶接されていない先端部分において長手方向に離間して設けられている2個のボルト孔20cに、図示しないガス吹込管を支持すべくその鉛直部分を跨いだ状態のUボルト9の両先端部を第1部材10側から差し込んで2個のナット9aで締め付けることで、ガス吹込管を強固に支持することが可能になる。Uボルト9及びナット9aの材質は、特に限定されないが、第2の金属であることが好ましい。
【0025】
第2部材20においては、上記した水平係合部が溶接されたL型鋼に代えて、一般的なL型鋼を用いてもよい。この場合は図5に示す本発明の他の具体例のガス吹込管用支持具107のように、第1部材10に重ね合わせたL型鋼の姿勢が、図4の第2部材20の姿勢に対して長手方向から見て180°回転させたいわゆる点対称の関係になる。これにより、L型鋼の水平部分の一部を第1部材10の上側屈曲部の上面に引っ掛けた状態で上記した第2部材20の場合と同様に座金を挟んでボルト・ナットで第2部材120を第1部材10に締結することができる。但し、一般的なL型鋼を用いた第2部材120の場合は、その先端部においてもL型鋼の水平部分が第1部材10側に突出しているので、上記した第2部材20の場合とは異なり、ガス吹込管の鉛直部を跨いだ状態のUボルト9は、第2部材120のボルト孔120cに対して第1部材10とは反対側から差し込む必要がある。
【0026】
上記した本発明の具体例のガス吹込管用支持具7、107のいずれにおいても、第1部材10側の第1の金属製の構成要素において、互いに当接するもの同士が溶接されていると共に、第2部材20、120側の第2の金属製の構成要素において、互いに当接するもの同士が溶接されているのが好ましい。これによりガス吹込管5が激しく振動してもボルト・ナットが緩むのをより確実に防ぐことが可能になる。
【0027】
上記の互いに当接するもの同士の溶接について、本発明の一具体例のガス吹込管用支持具7の場合を例に挙げて再度図3に戻って具体的に説明すると、第1の金属製の部材からなる第1部材10側においては、第1部材10と座金11、13とが、好ましくはこれら座金11、13の全周において第1の金属で隅肉溶接されており、座金11、13とナット12、14とが、好ましくは全周において第1の金属でそれぞれ隅肉溶接されている。同様に、第2の金属製の部材からなる第2部材20側においては、第2部材20と座金21、23とが、好ましくはこれら座金21、23の全周において第2の金属で隅肉溶接されており、座金21、23とボルト22、24の頭部とが、好ましくはこれら頭部の全周において第2の金属で隅肉溶接されている。
【0028】
以上、本発明のガス吹込管用支持具について具体例を挙げて説明したが、本発明は上記の具体例に限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で種々の代替例や変更例を含むことができる。例えば、ボルト・ナットの取付態様は図3に示す位置に限定されるものではなく、図6に示す逆の態様でもよい。すなわち、この図6の場合は、第1部材10側から第1の金属製の座金11、13を挟んで挿入された第1の金属製のボルト112、114が、第2部材20側から第2の金属製の座金21、23を挟んで第2の金属製のナット122、124で締め付けられている。そして、第1部材10側の第1の金属製の構成要素において、互いに当接するもの同士が第1の金属で隅肉溶接されていると共に、第2部材20側の第2の金属製の構成要素において、互いに当接するもの同士が第2の金属で隅肉溶接されている。
【実施例0029】
[実施例1]
粒径D50が85μmの粉末状のMSを含む原料スラリーに高圧空気を吹き込んで高温高圧条件下で浸出処理を行なって粗硫酸ニッケル水溶液を生成する図1に示すようなオートクレーブ1の5つの区画室3のうち、最上流側の区画室に図4に示すような本発明の実施例1のガス吹込管用支持具7を取り付けてガス吹込管5を支持した。第2部材20側の材質である第2の金属にはSUS316Lを採用し、第1部材10側の材質である第1の金属には第1部材10が溶接で取り付けられている隔壁2の材質である純チタンを採用した。また、図3に示すように、第2の金属であるSUS316L製の第2部材20、座金21、23、及びボルト22、24の頭部のうち、互いに当接するもの同士をSUS316L製の溶接棒で全周に亘って隅肉溶接し、第1の金属である純チタン製の第1部材10、座金11、13、及びナット12、14のうち、互いに当接するもの同士を純チタン製の溶接棒で全周に亘って隅肉溶接した。
【0030】
比較のため、上記実施例1とは別の期間において、上記の5つの区画室3のうちの最上流側の区画室に、図7に示す構造の本発明の比較例のガス吹込管用支持具207を取り付けた。この比較例のガス吹込管用支持具207の第2部材220は、矩形板状の水平係合部を有していないことを除いて図4に示すガス吹込管用支持具7の第2部材20と同じである。また、この比較例のガス吹込管用支持具207では、第1部材210側の第1の金属及び第2部材220側の第2の金属にそれぞれ上記実施例1と同様に純チタン及びSUS316Lを採用したが、第2の金属製のボルト213を上記実施例1とは異なり第1部材210側から差し込んで、第2部材220側から第2の金属製のナット222で締め付けた。そのため、ボルト213の頭部と第1部材210との間には、第1の金属製の座金211及び第2の金属製の座金212をこの順に第1部材210側から重ねて挟み込んだ。
【0031】
また、第2部材220側において、第2の金属であるSUS316L製の第2部材220、座金221、及びナット222のうち互いに当接するもの同士をSUS316Lの溶接棒で全周に亘って隅肉溶接したが、第1部材210側においては、第1の金属である純チタン製の第1部材210及び座金211を純チタン製の溶接棒で全周に亘って隅肉溶接した後、第2の金属であるSUS316L製の座金212及びボルト213の頭部をSUS316L製の溶接棒で全周に亘って隅肉溶接する必要が生じた。
【0032】
上記の構成で約半年に亘って操業を行なった後に開放点検を行なったところ、本発明の実施例1のガス吹込管用支持具7では、ボルトとナットに互いに硬度の異なる金属を用いたこと、第2部材20を第1部材10の上面及び側面の2箇所で強固に締結したこと、更に、第1部材10と第2部材20との互いの当接箇所を除いて同種金属同士を当接させて周囲を溶接したことが功を奏したと考えられ、ガス吹込管用支持具7には目視点検において腐食や摩耗が確認されなかった。また、ボルト・ナットに全く緩みが生じておらず、ガス吹込管5が脱落するトラブルを回避することができた。
【0033】
一方、比較例のガス吹込管用支持具207では、ボルトとナットにいずれもSUS316L製のものを使用し、第2部材220を第1部材210の側面のみで締結し、チタン製の座金211とSUS316L製の座金212との当接箇所は溶接できなかったので、ボルト・ナットが緩んでいたうえ、チタン製の座金211とSUS316L製の座金212との間に腐食及び摩耗が生じていた。また、ガス吹込管5が、第2部材220もろとも座屈するように脱落していた。
【0034】
[実施例2]
上記実施例1と同じ期間において、上記の5つの区画室3のうちの上流側から2段目の区画室に、図8に示す構造の本発明の実施例2のガス吹込管用支持具307を取り付けた。この実施例2のガス吹込管用支持具307の第2部材320は、矩形板状の水平係合部を有していないことを除いて図4に示すガス吹込管用支持具7の第2部材20と同じである。また、この実施例2のガス吹込管用支持具307では、第2部材320側の材質である第2の金属にはSUS316Lを採用し、第1部材310側の材質である第1の金属には第1部材310が溶接で取り付けられている隔壁2の材質である純チタンを採用した。また、図8に示すように、第2の金属であるSUS316L製の第2部材320、座金321及びボルト322の頭部のうち、互いに当接するもの同士をSUS316L製の溶接棒で全周に亘って隅肉溶接し、第1の金属である純チタン製の第1部材310、座金311及びナット312のうち、互いに当接するもの同士を純チタン製の溶接棒で全周に亘って隅肉溶接した。
【0035】
上記の構成で約半年に亘って操業を行なった後に開放点検を行なったところ、本発明の実施例2のガス吹込管用支持具307では、ボルトとナットに互いに硬度の異なる金属を用いたこと、第1部材310と第2部材320との互いの当接箇所を除いて同種金属同士を当接させて周囲を溶接したことが功を奏したと考えられ、ガス吹込管用支持具307には目視点検において腐食や摩耗が確認されなかった。また、ボルト・ナットに全く緩みが生じておらず、ガス吹込管5が脱落するトラブルを回避することができた。
【符号の説明】
【0036】
1 オートクレーブ
2 隔壁
3 区画室
4 撹拌機
5 ガス吹込管
6 抜出管
7、107、207、307 ガス吹込管用支持具
8 耐熱耐蝕材
9 Uボルト
9a ナット
10、210、310 第1部材
10a、10b ボルト孔
20a、20b、20c、120a、120b、120c ボルト孔
11、13、21、23、211、212、221、311、321 座金
12、14、122、124、222、312 ナット
20、120、220、320 第2部材
22、24、112、114、213、322 ボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8