(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078858
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】樹脂粒子、トナー、現像剤、及びトナー収容ユニット
(51)【国際特許分類】
C08G 63/127 20060101AFI20240604BHJP
G03G 9/093 20060101ALI20240604BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20240604BHJP
G03G 9/08 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C08G63/127
G03G9/093
G03G9/087 331
G03G9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191445
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】武井 章生
(72)【発明者】
【氏名】溝口 由花
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 純一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 彰法
(72)【発明者】
【氏名】行川 真広
【テーマコード(参考)】
2H500
4J029
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500CA06
2H500CA44
2H500EA41B
2H500EA49A
2H500EA60A
2H500EA60B
2H500EA61A
2H500EA61B
4J029AB01
4J029AE18
4J029BA04
4J029BA05
4J029BA08
4J029BB13A
4J029BF03
4J029BF20
4J029CA04
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4J029KB05
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE03
4J029KE05
4J029KE08
(57)【要約】
【課題】植物由来樹脂を使用し、環境負荷が少なく耐熱保存性に優れたトナーの提供。
【解決手段】第1の樹脂と第2の樹脂とを有するコアシェル構造の樹脂粒子であって、前記第1の樹脂は、アルコールモノマー単位100mol%中、植物由来のアルコールモノマー単位を5mol%以上、30mol%以下含み、前記第2の樹脂は、アルコールモノマー単位100mol%中、植物由来のアルコールモノマー単位を2mol%以上、30mol%以下含み、前記コアシェル構造におけるシェル層を、直径方向に10等分した場合の一番外側に存在する樹脂において、nanoIRで測定して得られる植物由来のアルコールモノマー単位の信号ピーク強度と、PET及びPBTの少なくともいずれかに由来するモノマー単位の信号ピーク強度の合計に対し、PET及びPBTを除く非植物由来の樹脂のモノマー単位の信号ピーク強度が5倍以上である樹脂粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂と第2の樹脂とを有するコアシェル構造の樹脂粒子であって、
前記第1の樹脂は、アルコールモノマー単位100mol%中、植物由来のアルコールモノマー単位を5mol%以上、30mol%以下含み、
前記第2の樹脂は、アルコールモノマー単位100mol%中、植物由来のアルコールモノマー単位を2mol%以上、30mol%以下含み、
前記コアシェル構造におけるシェル層を、直径方向に10等分した場合の一番外側に存在する樹脂において、nano IRで測定して得られる植物由来のアルコールモノマー単位の信号ピーク強度と、PET及びPBTの少なくともいずれかに由来するモノマー単位の信号ピーク強度の合計に対し、PET及びPBTを除く非植物由来の樹脂のモノマー単位の信号ピーク強度が5倍以上であることを特徴とする樹脂粒子。
【請求項2】
前記第2の樹脂100質量%に含まれるPET及び/又はPBTの量が40質量%以下である、請求項1に記載の樹脂粒子。
【請求項3】
前記シェル層中にドメイン粒子を含有し、前記ドメイン粒子は前記コアシェル構造におけるコアに含まれる樹脂を含有する、請求項1または2に記載の樹脂粒子。
【請求項4】
前記シェル層の厚みが、(前記コアシェル構造の樹脂粒子の平均円相当径/コアの平均円相当径)=1.005以上1.5以下である、請求項1または2に記載の樹脂粒子。
【請求項5】
請求項1または2に記載の樹脂粒子を含むことを特徴とするトナー。
【請求項6】
請求項5に記載のトナーを含有することを特徴とする現像剤。
【請求項7】
請求項5に記載のトナーを収容することを特徴とするトナー収容ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂粒子、トナー、現像剤、及びトナー収容ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トナーには環境への負荷低減が求められている。そのために、製造でのエネルギー削減や、結着樹脂での植物由来樹脂の採用などが検討されている。
しかしながら、植物由来樹脂を用いるとトナーとしての強度が下がってしまい、耐熱保存性も劣り、フィルミングなどの不具合が発生することが知られている。
【0003】
特許文献1では、コア、シェルの結着樹脂中にポリエチレンテレフタレートを含有する技術が開示されている。
特許文献2には、製造エネルギーの少ない重合トナーにおいて、植物由来樹脂を用いることが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1には、コアの結着樹脂のアルコール成分に植物由来アルコールモノマーを含有する記載はなく、環境負荷の低減が十分とはいえない。
また、特許文献2に記載の通りトナーに植物由来樹脂を用いる場合でも、耐熱保存性が劣り、植物由来樹脂を用いるとトナーの強度が低下するため、フィルミングなどの不具合が発生することから、満足のいく品質にすることは難しい。
【0005】
本発明は、植物由来の樹脂を使用し、新たに合成した材料の使用が少なく、製造エネルギーや環境負荷の低減が可能であり、耐熱保存性に優れたトナーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、
第1の樹脂と第2の樹脂とを有するコアシェル構造の樹脂粒子であって、
前記第1の樹脂は、アルコールモノマー単位100mol%中、植物由来のアルコールモノマー単位を5mol%以上、30mol%以下含み、
前記第2の樹脂は、アルコールモノマー単位100mol%中、植物由来のアルコールモノマー単位を2mol%以上、30mol%以下含み、
前記コアシェル構造におけるシェル層を、直径方向に10等分した場合の一番外側に存在する樹脂において、nano IRで測定して得られる植物由来のアルコールモノマー単位の信号ピーク強度と、PET及びPBTの少なくともいずれかに由来するモノマー単位の信号ピーク強度の合計に対し、PET及びPBTを除く非植物由来の樹脂のモノマー単位の信号ピーク強度が5倍以上であることを特徴とする樹脂粒子を提供することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明であれば、植物由来の樹脂を使用し、新たに合成した材料の使用が少なく、製造エネルギーや環境負荷の低減が可能であり、耐熱保存性に優れたトナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
通常、植物由来アルコールモノマーを原料とした樹脂をトナーに用いると、樹脂粒子としての強度が下がり高温下で凝集してしまうため、樹脂粒子の表層にはBPA-PO(ビスフェノールA-プロピレンオキサイド付加物)やBPA-EO(ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物)を含む樹脂を用いて靭性を高める必要性がある。
しかし、アルコール成分として新たに化学合成されたBPA-POやBPA-EOを使用すると、環境負荷が大きくなってしまうという問題がある。
【0009】
そこで、発明者らは鋭意検討した結果、植物由来アルコールモノマー単位を含む樹脂を使用すると、耐熱保存性が低減してしまうという問題があるところ、本発明の樹脂粒子を用いれば、植物由来アルコールモノマー単位を含む樹脂を使用することで環境負荷を減らしつつ、耐熱保存性に優れたトナーを提供することができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、
第1の樹脂と第2の樹脂とを有するコアシェル構造の樹脂粒子であって、
前記第1の樹脂は、アルコールモノマー単位100mol%中、植物由来のアルコールモノマー単位を5mol%以上、30mol%以下含み、
前記第2の樹脂は、アルコールモノマー単位100mol%中、植物由来のアルコールモノマー単位を2mol%以上、30mol%以下含み、
前記コアシェル構造におけるシェル層を、直径方向に10等分した場合の一番外側に存在する樹脂において、nano IRで測定して得られる植物由来のアルコールモノマー単位の信号ピーク強度と、PET及びPBTの少なくともいずれかに由来するモノマー単位の信号ピーク強度の合計に対し、PET及びPBTを除く非植物由来の樹脂のモノマー単位の信号ピーク強度が5倍以上であることを特徴とする樹脂粒子
である。
【0011】
本発明の樹脂粒子であれば、樹脂粒子の表面にだけ非植物由来の樹脂のモノマー単位を含む樹脂を多く存在させ、植物由来のアルコールモノマー単位や、PET及び/又はPBTに由来するモノマー単位を含む樹脂は、主に樹脂粒子の内部に存在するように、各樹脂の存在量と存在位置をコントロールすることができるため、トナーに用いられる樹脂粒子において、BPA-POやBPA-EOのような非植物由来の樹脂の存在量を減らすか、またはBPA-POやBPA-EOを使用しなくても、樹脂粒子の耐熱保存性や強度低下による耐久性の低下を抑制することができる。
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0013】
(樹脂粒子)
本実施形態に係る樹脂粒子は、第1の樹脂と第2の樹脂とを有するコアシェル構造の樹脂粒子である。
【0014】
<コアシェル構造>
前記樹脂粒子は、コアシェル構造を有する。
本明細書において、「コアシェル構造」とは、コア層からなる「コア」と、シェル層からなる「シェル」とを有する構造を意味する。
「シェル層」とは、前記樹脂粒子の最外層に存在する樹脂からなる層を意味する。
「コア層」とは、前記シェル層を除く樹脂粒子内の領域を意味する。
シェル層は、コア層の構成要素の一部または全部を含むことができ、コア層の一部または全部をドメインまたはドメイン粒子として有してもよい。
前記コア層と前記シェル層とは、互いに完全には相溶せずに不均質に形成されてなる。
前記コアシェル構造において、前記コア層の表面は、前記シェル層によって被覆された形態であることが好ましい。
前記コアシェル構造において、前記コア層の表面は、前記シェル層によって完全に被覆されていてもよく、前記シェル層によって完全に被覆されていなくてもよい。
前記コア層の表面が前記シェル層によって完全に被覆されていない形態としては、例えば、前記コア層が前記シェル層に網目状に被覆されている形態、前記コア層が部分的に前記シェル層から露出した形態などが挙げられる。これらの中でも、耐フィルミング性の点から、前記コア層の表面が、前記シェル層によって完全に被覆されていることが好ましい。
【0015】
<<コア>>
コアは、コアシェル構造の樹脂粒子において芯部を構成し得る。コアは、第1の樹脂を含むことができる。なお、コアに含まれ得る第1の樹脂は、本実施形態における樹脂の一例である。
【0016】
-第1の樹脂-
第1の樹脂は、アルコールモノマー単位100mol%中、植物由来のアルコールモノマー単位を5mol%以上、30mol%以下含む。
【0017】
本明細書において、「植物由来の」とは、植物由来の原料(「バイオマス」ともいう)から得られたものであることを示す。モノマー単位は、ポリマーを構成する最小単位を示す。
【0018】
-植物由来のモノマー単位-
植物由来のモノマー単位としては、植物由来のアルコールモノマー単位を含む。植物由来の酸単位としては、植物由来のものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂において植物由来のモノマー単位に置き換え可能な酸のモノマーを使用したモノマー単位などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記植物由来のモノマー単位を有する樹脂は、植物由来であるため、カーボンニュートラル性が高いものである。
【0019】
ここで、「カーボンニュートラル」とは、一般的に有機物より構成される植物由来成分に関する定義として用いられる。このような植物由来成分を燃焼させると二酸化炭素が排出されるが、該二酸化炭素に含まれる炭素は、その植物由来成分が成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素に由来する。そのため、植物由来成分を使用しても全体として見れば大気中の二酸化炭素量を増加させていないと考えられる。このような性質を「カーボンニュートラル性」と称する。
「カーボンニュートラル性が高い樹脂」とは、新たに合成した材料の使用が少なく、製造エネルギーや環境負荷が低い樹脂のことをいう。
したがって、前記植物由来モノマー単位を含む樹脂は、カーボンニュートラル性が高いと言える。
【0020】
また、従来、非植物由来の材料である石油由来材料であった材料についても、近年、植物由来材料への置き換えが可能になっており、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、コハク酸、イタコン酸、セバシン酸、テレフタル酸などは、植物由来材料として既に商業化が進んでいる。
【0021】
本明細書において、前記植物由来成分に置き換え可能なモノマー単位となるモノマー原料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、植物由来のエチレングリコール、植物由来のプロピレングリコール、植物由来の1,3-プロパンジオール、植物由来の1,4-ブタンジオール、植物由来のグリセリン、植物由来のコハク酸、植物由来のイタコン酸、植物由来のセバシン酸、又は植物由来のテレフタル酸が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記植物由来成分に置き換え可能なモノマーは、商業化が実現されている植物由来のモノマーであることが、入手が容易である点で好ましいが、適宜植物から分離して得られたものであってもよい。
【0022】
第1の樹脂に含まれる植物由来のアルコールモノマー単位の含有量は、コアの樹脂のアルコールモノマー単位100mol%に対して5mol%以上30mol%以下であり、好ましくは5mol%以上20mol%以下である。
【0023】
第1の樹脂のアルコールモノマー単位100mol%中、植物由来のアルコールモノマー単位が、5mol%未満であると、環境負荷の低減の効果が小さくなってしまい、30mol%より多いと、保存性が悪化してしまう。
【0024】
-植物由来のモノマー単位の測定-
14C濃度は、自然界(大気中)に存在し、植物が活動している間は光合成によって植物内に取り込まれ、大気中に存在する二酸化炭素中の14C濃度と、植物の有機成分における炭素中の14C濃度とが平衡(107.5pMC)となっている。しかし、植物が生命活動を停止した段階から光合成による炭素の取り込みが停止し、14Cの半減期である5,730年に従い該14C濃度は減少する。生物を源とする化石資源は、生命活動停止から数万年~数億年を経過しているため、前記14Cは殆ど検出されない。
【0025】
前記14C濃度は、炭素を含む石油化学製品の炭素元素成分中で、どの程度の量の炭素が植物由来の炭素であるかを規定することもできる。なお、石油化学製品の炭素元素中における14Cの濃度は、例えば、米国試験材料協会のASTM規格であるASTM-D6866に従って測定できる。
【0026】
ここで、「pMC」とは、パーセントモダンカーボン(percent Modern Carbon)の略であり、14C濃度を表す単位の一つである。西暦1950年のバイオマス中の14Cと12Cとの比(14C/12C)を100pMCと定義したものである。
【0027】
前記樹脂粒子又はトナー1gを100mLのクロロホルム中に投入し、25℃の条件下、30分間攪拌しながら可溶分が溶解した溶解液を得る。これを目開き0.2μmのメンブランフィルターにて濾過し、前記樹脂粒子又はトナー中のクロロホルム可溶分を得る。
前記クロロホルム可溶分を45℃にて24時間乾燥させたものを燃焼させ、そのCO2(二酸化炭素)を還元し、C(グラファイト)を得る。
該C(グラファイト)の放射性炭素同位体14C濃度(以下、「14C濃度」と称することがある)を、加速器質量分析装置(AMS:Accelerator Mass Spectroscopy、Beta Analytic社製)を用いて計測する。
計測した14C濃度を、下記式(1)に代入することにより、「樹脂粒子又はトナー中の植物由来成分率」を算出することができる。
樹脂粒子中の植物由来成分率(%)=14C濃度(pMC)/107.5×100 ・・・式 (1)
なお、AMSによる測定は、例えば、特許第4050051号などに開示されている。
【0028】
-非晶質ポリエステル樹脂-
第1の樹脂は、低温定着に有利な非晶質ポリエステル樹脂を含むことが好ましく、前記非晶質ポリエステル樹脂は線状のポリエステル樹脂であることがより好ましく、未変性ポリエステル樹脂であることがさらにより好ましい。
【0029】
前記非晶質ポリエステル樹脂である線状のポリエステル樹脂は、直鎖状の主鎖からなるポリエステル樹脂または直鎖状の主鎖とそれに結合する比較的短い側鎖とからなる構造をもつポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0030】
前記非晶質ポリエステル樹脂である未変性ポリエステル樹脂は、多価アルコールと、多価カルボン酸、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸エステルなどの多価カルボン酸又はその誘導体とを用いて得られるポリエステル樹脂であることが好ましい。なお、この未変性ポリエステル樹脂は、イソシアネート化合物などにより変性されていないポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0031】
前記非晶質ポリエステル樹脂は、ウレタン結合及びウレア結合を有しないことが好ましい。
【0032】
前記非晶質ポリエステル樹脂は、構成成分としてジカルボン酸成分を含むことが好ましく、ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を50mol%以上含有することが好ましい。そうすることにより、耐熱保存性の点で有利である。
【0033】
前記多価アルコールとしては、例えば、ジオールなどが挙げられる。
【0034】
前記ジオールとしては、例えば、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレン(炭素数2~3)オキサイド(平均付加モル数1~10)付加物;エチレングリコール、プロピレングリコール;水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールAのアルキレン(炭素数2~3)オキサイド(平均付加モル数1~10)付加物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
前記多価カルボン酸としては、例えば、ジカルボン酸などが挙げられる。
【0036】
ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フマル酸、マレイン酸、ドデセニルコハク酸、オクチルコハク酸等の炭素数1~20のアルキル基又は炭素数2~20のアルケニル基で置換されたコハク酸などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、植物由来の飽和脂肪族のコハク酸を含むことが好ましい。
【0037】
前記ジカルボン酸が植物由来の成分であることにより、樹脂粒子のカーボンニュートラル性を高めることができ、環境負荷を低減することができる。また、飽和脂肪族は、結晶性ポリエステル樹脂の再結晶化性を高める効果があり、結晶性ポリエステル樹脂のアスペクト比を高め、低温定着性を向上させることができる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
また、酸価、水酸基価を調整する目的で、非晶質ポリエステル樹脂は、その樹脂鎖の末端に3価以上のカルボン酸及び3価以上のアルコールの少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0039】
前記3価以上のカルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、又はそれらの酸無水物などが挙げられる。
【0040】
前記3価以上のアルコールとしては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。
【0041】
前記非晶質ポリエステル樹脂の分子量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。非晶質ポリエステル樹脂の分子量としては、例えば、GPC(Gel permeation chromatography、ゲル浸透クロマトグラフィー)測定において、重量平均分子量(Mw)が3,000~10,000であることが好ましく、4,000~7,000であることがより好ましい。
また、前記非晶質ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、1,000~4,000であることが好ましく、1,500~3,000であることがより好ましい。さらに、Mw/Mnは、1.0~4.0であることが好ましく、1.0~3.5であることがより好ましい。
【0042】
前記非晶質ポリエステル樹脂の分子量が上記下限値以上の場合、樹脂粒子をトナーに用いた場合にトナーの耐熱保存性や現像機内での攪拌等のストレスに対する耐久性が低下することを抑制することができる。非晶質ポリエステル樹脂の分子量が上記上限値以下の場合、トナーの溶融時の粘弾性が高くなることを抑え、低温定着性が低下することを抑制することができる。
【0043】
前記非晶質ポリエステル樹脂の酸価としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。非晶質ポリエステル樹脂の酸価は、1mgKOH/g以上50mgKOH/g以下が好ましく、5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下がより好ましい。
【0044】
前記非晶質ポリエステル樹脂の酸価が、1mgKOH/g以上であることにより、樹脂粒子をトナーに用いた場合に、トナーが負帯電性となりやすく、更には、紙への定着時に、紙とトナーの親和性が良くなり、低温定着性を向上させることができる。酸価が、50mgKOH/g以下であることにより、帯電安定性、特に環境変動に対する帯電安定性が低下することを抑制することができる。
【0045】
前記非晶質ポリエステル樹脂の水酸基価としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5mgKOH/g以上であることが好ましい。
前記非晶質ポリエステル樹脂の水酸基価が5mgKOH/g以上であれば、所定の低温定着性を得られる。
【0046】
前記非晶質ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、40℃以上80℃以下が好ましく、50℃以上70℃以下がより好ましい。
【0047】
前記非晶質ポリエステル樹脂のガラス転移温度が、40℃以上であることにより、樹脂粒子をトナーに用いた場合のトナーの耐熱保存性、及び現像機内での攪拌等のストレスに対する耐久性が十分なものとなり、また、耐フィルミング性も良好となる。ガラス転移温度が、80℃以下であることにより、樹脂粒子をトナーに用いた場合のトナーの定着時における加熱及び加圧による変形が十分なものとなり、低温定着性が良好となる。
【0048】
前記非晶質ポリエステル樹脂の分子構造は、溶液又は固体によるNMR(Nuclear magnetic resonance、核磁気共鳴)測定のほか、X線回折(X‐ray diffraction、XRD)、GC/MS(Gas Chromatography - Mass spectrometry、ガスクロマトグラフィー質量分析)、LC/MS(Liquid Chromatograph - Mass Spectrometry、液体クロマトグラフ質量分析)、IR(Infrared spectroscopy、赤外分光法)測定などにより確認することができる。
【0049】
前記非晶質ポリエステル樹脂の検出方法として、簡便には赤外線吸収スペクトルにおいて、965±10cm-1及び990±10cm-1にオレフィンのδCH(面外変角振動)に基づく吸収を有しないものを非晶質ポリエステル樹脂として検出する方法が挙げられる。
【0050】
前記非晶質ポリエステル樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、第1の樹脂100質量%に対して、50質量%以上90質量%以下が好ましく、60質量%以上80質量%以下がより好ましい。
【0051】
第1の樹脂において、前記非晶質ポリエステル樹脂の含有量が、50質量%以上であると、樹脂粒子をトナーに用いた場合のトナー中の顔料、離型剤の分散性が悪化することを抑制でき、画像のかぶりや乱れが生じることを抑制することができ、90質量%以下であると、低温定着性が低下することを抑制することができ、高画質、及び低温定着性の全てに優れる点で有利である。
【0052】
-PET及び/又はPBT由来のモノマー単位-
コアの第1の樹脂には、さらにポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)及び/又はポリブチレンテレフタレート(以下、PBTという)由来のモノマー単位が含まれていてもよい。 なお、PET及びPBTは、いずれも結晶性の熱可塑性飽和ポリエステルである。
【0053】
本明細書において、「PET及び/又はPBT」は、第1の樹脂がPETとPBTの両方を含んでもよく、またはPETとPBTのいずれか一方を含んでもよいことを示す。
【0054】
前記PETは、一般的にエチレングリコールとテレフタル酸から構成されている。
また、前記PBTは、一般的にブチレングリコールとテレフタル酸から構成されている。
そのため、前記PET及び/又はPBT由来のモノマー単位としては、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール、又はテレフタル酸のモノマーユニット等のモノマー単位が挙げられる。
前記第1の樹脂において、前記PET及び/又はPBT由来成分は含有されていてもよく、含有されていなくてもよいが、耐熱保存性及び耐フィルミング性の点で、含有されていることが好ましい。
【0055】
前記PET及びPBTは、いずれも芳香族二酸と脂肪族ジオールとの反応によって形成される半芳香族ポリエステルである。
具体的には、前記PETは、芳香環骨格を有し、前記脂肪族ジオールに由来する炭素数がC2の化合物である。また、前記PBTは、芳香環骨格を有し、前記脂肪族ジオールに由来する炭素数がC4の化合物である。
【0056】
このように、PET及びPBTは、その化学的性質が類似しているため、当該技術分野においては、PETで実施可能であることは、概ねPBTでも実施可能であることが周知慣用技術である。本発明の樹脂粒子においてもPETとPBTとは、代替可能なものであり、前記樹脂粒子においては、特にPET及びPBT由来する芳香環骨格を有する成分が、該樹脂粒子の機械的強度の向上に有効である。
【0057】
これらの中でも、前記脂肪族ジオールに由来する炭素数が小さい方が、前記樹脂粒子の機械的強度の向上の点でより好ましく、前記PET由来成分が特に好ましい。
前記PET及び/又はPBTの重量平均分子量(Mw)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30,000~100,000が好ましい。
【0058】
第1の樹脂に含まれ得るPET及び/又はPBT由来のモノマー単位は、再生樹脂由来のものであることが環境対応性の点で好ましい。
本明細書において、再生樹脂とは、新たに合成されたものではなく、リサイクルされた、又は廃棄予定であった樹脂を示す。
【0059】
<樹脂粒子又はトナー中の環境対応成分率の測定方法>
-環境対応成分率の測定方法-
本発明の樹脂粒子又はトナー中の植物由来のアルコールモノマー単位や、前記PET又はPBT由来モノマー単位の含有量の分析方法及び算出方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、前記樹脂粒子からゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により分離を行い、その分離した各成分について後述の分析手法を採ることで、前記樹脂粒子又はトナーの構成成分の質量比あるいはモル比を算出することができる。また、反応試薬(10%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)/メタノール溶液)による300℃のガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)により、前記樹脂構造中のエステル結合部をメチル化によるソフトな分解から主な構成成分を推定し、全イオン電流クロマトグラム(TICC)強度の検量線を引くことでも定量分析が可能である。
【0060】
本明細書において、PET及び/又はPBT由来モノマー単位、好ましくは、再生PET及び/又は再生PBT由来モノマー単位と、前記植物由来モノマー単位を含む成分を合わせて、「環境対応成分」又は「リサイクル由来樹脂」と称することがある。また、樹脂粒子又はトナーにおける、前記「環境対応成分」又は「リサイクル由来樹脂」の合計含有量の比率は、「環境対応成分比率」又は「環境対応比率」と称することがある。
【0061】
前記環境対応成分は、本発明の樹脂粒子から、クロロホルム可溶分として分離することができる。
前記樹脂粒子のクロロホルム可溶分は、以下のようにして得ることができる。
前記樹脂粒子1gを100mLのクロロホルム中に投入し、25℃の条件下、30分間攪拌しながら可溶分が溶解した溶解液を得る。これを目開き0.2μmのメンブランフィルターにて濾過し、前記樹脂粒子中のクロロホルム可溶分を得る。
【0062】
前記方法で得られたクロロホルム可溶分をクロロホルムに溶解してGPC測定用の試料とし、GPCに注入する。GPCの溶出液排出口にフラクションコレクターを配置し、所定のカウントごとに溶出液を分取(溶出曲線の全面積分のうちの所望の分子量部分に相当するフラクションをまとめて分取)し、溶出曲線の溶出開始(曲線の立ち上がり)から面積率で5%毎に溶出液を得る。次いで、各溶出液をエバポレーターなどにより濃縮及び乾燥した後、固形分を1mLの重クロロホルムにサンプル30mgを溶解させ、基準物質として0.05体積%のテトラメチルシラン(TMS)を添加する。得られた溶液を5mm径の核磁気共鳴分光法(NMR)測定用ガラス管に充填し、核磁気共鳴装置(例えば、JNM-AL400、日本電子株式会社製)を用い、23℃~25℃の温度下にて、128回の積算を行い、スペクトルを得る。得られたスペクトルのピーク積分比率から、溶出成分における前記樹脂粒子に含まれる各樹脂のモノマー組成及び構成比率を求めることができる。
【0063】
また、他の手法としては、前記溶出液を濃縮後、水酸化ナトリウム等により加水分解を行い、分解生成物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などにより定性定量分析することで構成モノマー比率を算出することもできる。
【0064】
第1の樹脂に使用され得る再生樹脂は、ポリエステル樹脂であることが好ましく、前記再生樹脂に含まれるポリエステル樹脂は、リサイクルPET及び/又はPBT由来のモノマー単位を含むことが好ましい。前記再生樹脂は、例えば、リサイクル品をフレーク状に加工したものが好ましく、PET及び/又はPBTを使用したリサイクル品をフレーク状にしたものであることが好ましく、重量平均分子量(Mw)で30,000~100,000のものであることが好ましい。
なお、再生樹脂であるリサイクルPET及び/又はPBTは、そのPET及び/又はPBTの分子量分布、組成、製造方法、使用する際の形態等に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0065】
また、再生樹脂であるポリエステル樹脂、好ましくはPET及び/又はPBTは、リサイクル品(以下、「リサイクル樹脂」と称することがある)に制限されることはなく、目的に応じて適宜選択することができ、製品にするためのスペックを満たさないオフスペックの繊維クズやペレットを用いてもよい。
さらに、ポリエステル樹脂合成時に、リサイクル樹脂、好ましくはリサイクルPET及び/又はPBTを導入する比率を調整することで、樹脂粒子をトナーに用いた場合のトナーの環境対応比率と品質を調整することができる。
【0066】
第1の樹脂にPET及び/又はPBT由来成分が含まれる場合、PET及び/又はPBTの含有量は、第1の樹脂100質量%に対して70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
第1の樹脂に含まれるPET及び/又はPBTが、第1の樹脂100質量%に対して70質量%以下であれば、粒度分布が向上する点で有利である。
【0067】
-結晶性樹脂-
第1の樹脂は、低温定着性向上のために、結晶性樹脂を含むことが好ましい。
結晶性樹脂は、結晶性を有するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0068】
結晶性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ビニル樹脂、変性結晶性樹脂等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0069】
前記結晶性ポリエステル樹脂は、多価アルコールと、多価カルボン酸、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸エステルなどの多価カルボン酸又はその誘導体から得ることができる。
【0070】
本明細書において、ポリエステル樹脂を変性したもの、例えばプレポリマー、及びそのプレポリマーを架橋及び/又は伸長反応させて得られる樹脂は、本実施形態では結晶性ポリエステル樹脂には属さない。
【0071】
前記結晶性樹脂に使用され得る多価アルコールは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジオール、及び3価以上のアルコールが挙げられる。
【0072】
前記結晶性樹脂に使用され得るジオールとしては、例えば、飽和脂肪族ジオールなどが挙げられる。飽和脂肪族ジオールとしては、直鎖飽和脂肪族ジオール、分岐飽和脂肪族ジオールが挙げられるが、これらの中でも、直鎖飽和脂肪族ジオールが好ましく、炭素数が2~12の直鎖飽和脂肪族ジオールがより好ましい。
【0073】
前記結晶性樹脂に使用され得る飽和脂肪族ジオールが直鎖型であると、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性の低下を抑え、融点の低下を抑制することができる。また、飽和脂肪族ジオールの炭素数が2~12の範囲では、実用上の材料の入手が容易である。
【0074】
前記結晶性樹脂に使用され得る飽和脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,14-エイコサンデカンジオールなどが挙げられる。
【0075】
これらの中でも、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性が高く、シャープメルト性に優れる点で、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールが好ましい。
【0076】
前記結晶性樹脂に使用され得る3価以上のアルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0077】
前記結晶性樹脂に使用され得る多価カルボン酸は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。多価カルボン酸としては、例えば、2価のカルボン酸、及び3価以上のカルボン酸が挙げられる。
【0078】
前記結晶性樹脂に使用され得る2価のカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、マロン酸、メサコニン酸等の芳香族ジカルボン酸;などが挙げられる。更に、これらの無水物やこれらの低級(炭素数1~3)アルキルエステルも挙げられる。
【0079】
これらの中でも、カーボンニュートラルの観点から、植物由来の炭素数が12以下の飽和脂肪族が好ましい。
【0080】
前記結晶性樹脂に使用され得る3価以上のカルボン酸としては、例えば、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,2,5-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸等、及びこれらの無水物やこれらの低級(炭素数1~3)アルキルエステルなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0081】
前記結晶性樹脂に使用され得る結晶性ポリエステル樹脂は、炭素数4~12の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸と、炭素数2~12の直鎖飽和脂肪族ジオールとから構成されることが好ましい。これにより、結晶性が高く、シャープメルト性に優れるため、優れた低温定着性を発揮できる。
【0082】
また、前記結晶性樹脂に使用され得る結晶性ポリエステル樹脂の結晶性および軟化点を制御する方法として、ポリエステル合成時にアルコール成分にグリセリン等の3価以上の多価アルコールや、酸成分に無水トリメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸を追加して縮重合を行った非線状ポリエステルなどを設計、使用するなどの方法が挙げられる。
【0083】
前記結晶性樹脂に使用され得る結晶性ポリエステル樹脂の分子構造は、溶液や固体によるNMR測定の他、X線回折、GC/MS、LC/MS、IR測定などにより確認することができる。
【0084】
簡便には、赤外線吸収スペクトルにおいて、965±10cm-1もしくは990±10cm-1にオレフィンのδCH(面外変角振動)に基づく吸収を示すものを、例として挙げることができる。
【0085】
前記結晶性樹脂に使用され得る結晶性ポリエステル樹脂の分子量については、上記の分子量分布がシャープで低分子量のものが低温定着性に優れ、分子量が低い成分が多いと耐熱保存性が悪化するという観点から、o-ジクロロベンゼンの可溶分のGPCによる分子量分布で、横軸をlog(M)、縦軸を質量%で表した分子量分布図のピーク位置が3.5~4.0の範囲にあり、ピークの半値幅が1.5以下であり、重量平均分子量(Mw)で3,000~30,000、数平均分子量(Mn)で1,000~10,000、Mw/Mnが1~10であることが好ましい。
【0086】
更には、前記結晶性樹脂に使用され得る結晶性ポリエステル樹脂の分子量が、重量平均分子量(Mw)で5,000~15,000、数平均分子量(Mn)で2,000~10,000、Mw/Mnが1~5であることが好ましい。
【0087】
前記結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、樹脂粒子をトナーに用いた場合に、紙と樹脂との親和性の観点から、目的とする低温定着性を達成するためには、その酸価が5mgKOH/g以上であることが好ましい。また、転相乳化法による微粒子の作製のためには、その酸価が7mgKOH/g以上であることがより好ましい。
【0088】
一方、ホットオフセット性を向上させるには45mgKOH/g以下のものであることが好ましい。また、結晶性高分子の水酸基価については、所定の低温定着性を達成し、かつ良好な帯電特性を達成するためには0~50mgKOH/g、より好ましくは5~50mgKOH/gのものが好ましい。
【0089】
<<シェル>>
シェルは、コアシェル構造の樹脂粒子においてコアの少なくとも一部の表面を被覆する外殻部である。
また、本発明の樹脂粒子のシェル層は、第2の樹脂を含んでもよく、前記シェル層は、コアに含まれる樹脂の一部または全部を含有してもよく、コアに含まれる樹脂の一部または全部をドメインまたはドメイン粒子として含有してもよい。
なお、シェルに含まれ得る第2の樹脂は、本実施形態における樹脂の一例である。
【0090】
-第2の樹脂-
第2の樹脂は、コアシェル構造のシェルに含まれていてもよく、アルコールモノマー単位100mol%中、植物由来のアルコールモノマー単位を2mol%以上、30mol%以下含む。
【0091】
第2の樹脂は、非晶性樹脂を含むことが好ましく、第2の樹脂に含まれ得る非晶性樹脂は、第1の樹脂に含まれ得る非晶性樹脂と同様の内容である。
【0092】
また、第2の樹脂は、PET及び/又はPBT由来であるポリエステル由来モノマー単位を含有してもよく、含有していなくてもよいが、耐熱保存性及び耐フィルミング性の点で、PET及び/又はPBT由来のモノマー単位を含有することが好ましい。
第2の樹脂に含まれ得るポリエステル由来のモノマー単位は、PET及び/又はPBT由来のモノマー単位が好ましく、第2の樹脂に含まれ得るPET及び/又はPBT由来のモノマー単位は、第1の樹脂に含まれ得るPET及び/又はPBT由来のモノマー単位と同様の内容である。
【0093】
第2樹脂に含まれ得るPET及び/又はPBT由来のモノマー単位の含有量は、第2の樹脂100質量%に対して40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
第2の樹脂に含まれるPET及び/又はPBT由来のモノマー単位の含有量が、第2の樹脂100質量%中、40質量%以下であれば、樹脂粒子の強度を補うことできるため、環境負荷を低減しながら、強度および低温定着性に優れたトナーが得られる樹脂粒子を提供することができる。
【0094】
また、第2の樹脂は、低温定着性向上のために、結晶性樹脂を含むことが好ましい。第2の樹脂に含まれ得る前記結晶性樹脂は、第1の樹脂に含まれ得る結晶性樹脂と同様の内容である。
【0095】
また、第2の樹脂は、植物由来ではない樹脂(モノマー単位含む)を含み、前記植物由来ではない樹脂(非植物由来の樹脂)としては、例えば、石油を原料として生成されるモノマー単位を含むことが好ましい。
第2の樹脂が、植物由来ではない樹脂やモノマー単位を含むことで、樹脂中の植物由来アルコールモノマー単位を含む成分やPET及び/又はPBT由来のモノマー単位を含む成分の存在位置をコントロールすることができるため、樹脂粒子表面において植物由来のアルコールモノマー単位を含む樹脂や、PET及び/又はPBT由来のモノマー単位を含む樹脂を少なくして強度の低下を抑制することができ、樹脂粒子の耐久性及び耐熱保存性の低下を抑制することができる。
【0096】
第2の樹脂に含まれる植物由来ではない樹脂の含有量は、第2の樹脂100質量%に対して、50質量%以上90質量%以下が好ましく、70質量%以上80質量%以下がより好ましい。50質量%以上90質量%以下であれば、環境負荷の低減と耐熱保存性の両立が可能である。
【0097】
<<シェル層の組成構成>>
本発明の樹脂粒子におけるシェル層を、直径方向に10等分した場合の一番外側に存在する樹脂において、ナノ(nano)IR(「AMF-IR」とも称する)で測定して得られる植物由来のアルコールモノマー単位の信号ピーク強度と、PET及びPBTの少なくともいずれかに由来するモノマー単位の信号ピーク強度の合計に対し、PET及びPBTを除く非植物由来の樹脂のモノマー単位の信号ピーク強度は5倍以上であり、本発明の樹脂粒子が製造できる限り上限はないが、一般的には20倍以下、10倍以下であると、樹脂粒子の製造が容易である。
【0098】
なお、前記直径方向とは、前記樹脂粒子の代表径(体積粒径等)の粒径方向を意味する。
【0099】
前記シェル層を、直径方向に10等分した場合の一番外側に存在する樹脂において、nano IRで測定して得られる植物由来のアルコールモノマー単位の信号ピーク強度と、PET及びPBTの少なくともいずれかに由来するモノマー単位の信号ピーク強度の合計に対して、非植物由来の成分強度が5倍未満であると高温下で樹脂が凝集してしまう。
【0100】
前記コアシェル構造におけるシェル層を、直径方向に10等分した場合の一番外側に存在する樹脂において、nano IRで測定して得られる植物由来のアルコールモノマー単位の信号ピーク強度と、PET及びPBTの少なくともいずれかに由来するモノマー単位の信号ピーク強度の合計に対して、非植物由来のモノマー単位の信号ピーク強度が5倍以上となればよく、nano IRで測定して得られる植物由来のアルコールモノマー単位の信号ピーク強度と、PET及びPBTの少なくともいずれかに由来するモノマー単位の信号ピーク強度のどちらかが0であってもよい。
【0101】
本発明の樹脂粒子におけるシェル層は、ドメイン粒子を含有することが好ましく、前記ドメイン粒子は、前記コアに含まれる樹脂を含有してもよく、前記第1の樹脂を含有してもよい。
【0102】
従来、トナー用の樹脂粒子におけるシェル層は均一層であったが、樹脂粒子の製造工程において、コアとなる第1の樹脂を含む樹脂粒子に、第1の樹脂と第2の樹脂を含み得るコアシェル構造の樹脂粒子を付着させて樹脂粒子を製造することで、本発明のシェル層にドメイン又はドメイン粒子を含有する樹脂粒子又はトナーを提供することができる。
このような樹脂粒子又はトナーであれば、製造エネルギーや副材料の使用が少なく、植物由来樹脂を使用しても耐熱保存性に優れたトナーを提供することができる。
前記ドメイン又はドメイン粒子は、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することができる。
【0103】
前記シェル層の組成構成を確認する方法としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、nano IRを用いた表層(シェル層)組成分析によって確認することができる。
nano IRの原子間力顕微鏡(AFM)とIRとを組合せたナノスケール分解能を実現する分析手法により、前記樹脂粒子又はトナーの表層(シェル層)のIRスペクトルを取得することで組成構成を得ることができる。
具体的には、前記樹脂粒子をエポキシ樹脂(S-31、DEVCON社製)に包埋して硬化させた後、ナイフで断面出しして、超音波ウルトラミクロトーム(Leica EM UC7、ライカ社製)を用いて、100nm前後の厚さに切除し、樹脂粒子又はトナーの超薄切片を作製する。作製したトナーの超薄切片を、基板上(ZnS)に回収し、ナノスケール赤外分光分析システム(例えば、nanoIR2、アナシスインスツルメント社製)を用い、測定箇所(シェル層)をAFM-IR法にて測定する。測定範囲は、1,900cm-1から910cm-1とし、分解能は2cm-1として、得られたAFM-IR吸収スペクトルから、測定箇所(シェル層)の化学構造を解析することができる。
したがって、この分析によって表層(シェル層)の組成構成を確認することができる。
なお、前記測定箇所をコア層とすることで、コア層の化学構造を解析することもできる。
【0104】
<シェルの厚み>
シェルの厚みは、トナーの超薄切片の断面における透過型電子顕微鏡(TEM)による画像をもとに測定することができる。
【0105】
シェルの厚みは、下式より算出し得られた値とする。
シェルの厚み=コアシェル構造の樹脂粒子の平均円相当径/コアの平均円相当径
【0106】
シェルの厚みは、制限されるものではなく、適宜選択することができるが、例えば、コアの平均円相当径に対する樹脂粒子の平均円相当径の比(上式により算出される値)で定義されるシェルの厚みは、1.005以上1.5以下であることが好ましく、1.01以上1.3以下がより好ましく、1.03以上1.1以下が更に好ましい。
樹脂粒子におけるシェルの厚みを1.005以上1.5以下に調整することで、トナーの耐久性を低下させずに、環境負荷を低減させる樹脂粒子を得ることができる。
【0107】
前記コア層表面の前記シェル層による被覆率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50%~100%が好ましく、80%~100%がより好ましい。なお、前記被覆率が100%であるとは、前記樹脂粒子における前記コア層の表面全域が、前記シェル層で覆われていることを意味する。
前記コア層表面の前記シェル層による被覆率(%)は、下記式(2)により算出することができる。
被覆率(%)=(被覆領域の面積)/(樹脂粒子の全表面積)×100 ・・・ 式(2)
前記式(2)中、「樹脂粒子の全表面積」は、被覆領域の面積と、コア層露出面積との合計を意味し、「被覆領域の面積」は、樹脂粒子の全表面積のうち、コア層がシェル層により被覆された領域の面積を意味し、「コア層露出面積」は、樹脂粒子の全表面積のうち、コア層がシェル層により被覆されていない領域の面積を意味する。
【0108】
前記樹脂粒子が、コアシェル構造を有することを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記樹脂粒子をエポキシ樹脂(S-31、DEVCON社製)に包埋して硬化させた後、ナイフで断面出しして、超音波ウルトラミクロトーム(Leica EM UC7、ライカ社製)を用いて、100nm前後の厚さに切除し、樹脂粒子の超薄切片を作製する。作製したトナーの超薄切片を、四酸化ルテニウム(RuO4)でガス暴露し、シェルとコアを識別染色する。ガス暴露時間は観察時のコントラストにより適宜調整することができる。その後、透過型電子顕微鏡(TEM)(H-7500、株式会社日立ハイテク製)を用いて、加速電圧120kVで樹脂粒子の断面像を観察することで確認することができる。
【0109】
また、前述の方法で観察されたTEM画像において、前記樹脂粒子の表面におけるコア層の被覆領域(樹脂粒子において、コア層がシェル層により被覆された領域)と、コア層の露出領域(樹脂粒子において、コア層がシェル層により被覆されていない領域)とは、輝度値の違いにより区別することができる。そのため、前述の方法で観察されたTEM画像を、画像処理ソフトを利用して2値化処理を行い、そのコントラスト比により、シェル層を特定することができ、シェル層の厚さを測定することができる。
【0110】
前記画像処理ソフトとしては、Image-J、Image-Pro Plus等を使用することができる。Image-Jを使用した前記シェル層の平均厚みの算出方法は、以下の通りである。
(1)Straight Lineでスケールをなぞった直線を引く。AnalyzeのSet Scaleでその実長と単位を設定する。
(2)樹脂粒子1個の前記断面像における該樹脂粒子の外周をFreehand-sectionsで囲い、「領域1」を作成する。
(3)前記樹脂粒子1個の前記断面像におけるシェル層を除いた領域の外周(即ち、シェル層とコア層との境界)をFreehand-sectionsで囲い、「領域2」を作成する。
(4)前記「領域1」の重量中心をAnalyzeにより求める。
(5)独自に開発したプラグインを使用し、前記「領域1」の外周、即ち、前記(2)において前記樹脂粒子1個の外周をFreehand-sectionsで囲った線を等間隔に100分割した座標から、前記(4)で求めた樹脂粒子の重量中心に向かって直線を引く。
(6)前記(5)で作成した100個の各直線の前記「領域1」を通る長さから、前記「領域2」を通る長さを除いたものの長さを、前記(1)で作成したスケールをなぞった直線を利用して算出し、100個の平均をとったものを、前記樹脂粒子1個のシェル層の厚みとする。
(7)前記(2)~(6)の操作を50個の樹脂粒子について行い、50個の樹脂粒子又はトナーのシェル層の厚みの平均値を算出する。この平均値を、本発明におけるシェル層の平均厚みとする。
【0111】
また、Image-Jを使用した前記シェル層による被覆率の算出方法は、以下の通りである。
(1)樹脂粒子1個の前記断面像における該樹脂粒子の外周のシェル層で被覆されている部分をFreehand Lineでなぞり、なぞった線の長さをAnalyzeにより測定する。この長さを「長さ1」とする。
(2)前記樹脂粒子1個の前記断面像における該樹脂粒子の外周をFreehand Lineでなぞり、なぞった線の長さをAnalyzeにより測定する。この長さを「長さ2」とする。
(3)(長さ1/長さ2)×100を算出し、これを前記樹脂粒子1個のシェル層による被覆率とする。
(4)前記(1)~(3)の操作を50個の樹脂粒子について行い、50個の樹脂粒子又はトナーのシェル層による被覆率の平均値を算出する。この平均値を、本発明におけるシェル層による被覆率とする。
【0112】
シェルの厚みの値は、画像処理ソフトにより求めた値が好ましいが、同様の解析結果が得られるのであれば、特に上記の透過型顕微鏡装置、画像解析装置、ソフトウエアに限定されない。
上記の平均円相当径は、画像ソフトによる2値化処理により算出することができる。
【0113】
-TEMによる樹脂粒子又はトナー断面の観察及び測定-
作製した樹脂粒子又はトナーを、エポキシ系樹脂に包埋して硬化させ、ウルトラミクロトーム(Leica社製、ULTRACUT UCT、ダイヤナイフ使用)で樹脂粒子又はトナーの超薄切片(100nm厚さ前後)を作製することで、樹脂粒子又はトナーの断面を観察することができる。
【0114】
四酸化ルテニウム、あるいは四酸化オスミウム、あるいは別の染色剤で試料をガス暴露することで、コアとシェル層の部分に識別染色することができる。暴露時間は、観察時のコントラストにより適宜調整することができる。その後、透過型電子顕微鏡(JEOL社製、JEM-2100等)により加速電圧100kVで観察することができる。
【0115】
また、選択エッチング等別の手段で組成コントラストを付与することも可能で、そのような前処理後に透過型顕微鏡で観察してコア層とシェル層を評価することができ、シェル層にドメイン粒子が存在する場合は、そのドメイン粒子を確認することができる。
【0116】
観察した断面像は市販の画像処理ソフト(例えばImage-J、Image-Pro Plus等)を利用して2値化処理等により、コアシェル構造の樹脂粒子又はトナーの平均円相当径およびコアの平均円相当径を算出することができる。複数のトナー断面を観察することで、平均円相当径を求めることができる。
【0117】
本明細書において、樹脂粒子又はトナーの平均円相当径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した樹脂粒子又はトナーの断面像を、画像ソフトを用いた2値化処理により算出することができる。
シェルの厚みは、樹脂粒子の平均円相当径を樹脂粒子の平均円相当径で除した値を示す。
【0118】
-樹脂粒子又はトナー表層の樹脂組成の分析-
樹脂粒子又はトナー表層に植物由来のアルコールモノマー単位及びPET及び/又はPBT由来のモノマー単位が含まれることを確認する指標としてnano IRを用いた表層の組成分析によって確認できる。nano IRのAFMとIRを組合せたナノスケール分解能を実現する分析手法により樹脂粒子表層のIRスペクトルを取得することで組成構成を得ることができる。
この分析によってシェル層表層に植物由来のアルコールモノマー単位や、PET及び/又はPBT由来のモノマー単位が存在するかを識別することができる。
また、樹脂粒子又はトナー表層の組成分析により、シェル層の表層の植物由来又はPET及び/又はPBT由来の樹脂成分量を分析することができる。
nano IRを用いた樹脂粒子又はトナー表層の組成分析によって、樹脂粒子におけるシェル層を直径方向に10等分した場合の一番外側に存在する樹脂における、nano IRで測定して得られる植物由来のアルコールモノマー単位の信号ピーク強度、PET及びPBT由来のモノマー単位の信号ピーク強度、PET及びPBTを除く非植物由来のモノマー単位の信号ピーク強度の比を確認することができる。
【0119】
<樹脂粒子又はトナー構成成分の分析方法>
樹脂粒子又はトナーに含まれる、植物由来のアルコールモノマー単位や、PET、PBTは、どのような手法を用いて分析してもよい。例えば、トナーからゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により分離を行い、その分離した各成分について後述の分析手法を採ることで、定性することができる。
【0120】
反応試薬(10%Tetramethyl ammonium hydroxide(TMAH)/Methanol溶液)による300℃のガスクロマトグラフ質量分析法により、樹脂構造中のエステル結合部をメチル化によるソフトな分解から、主な構成成分を推定可能となる。
【0121】
<<融点及びガラス転移温度(Tg)の測定方法>>
本明細書において、各成分の融点及びガラス転移温度(Tg)は、例えば、DSCシステム(示差走査熱量計)(Q-200、TAインスツルメント社製)を用いて測定することができる。
具体的には、対象試料の融点及びガラス転移温度は、下記手順により測定できる。
まず、測定試料約5.0mgをアルミニウム製の試料容器に入れ、試料容器をホルダーユニットに載せ、電気炉中にセットする。次いで、窒素雰囲気下、-80℃から昇温速度10℃/分間にて150℃まで加熱する(昇温1回目)。その後、150℃から降温速度10℃/分間にて-80℃まで冷却させ、更に昇温速度10℃/分間にて150℃まで加熱(昇温2回目)する。この昇温1回目、及び昇温2回目のそれぞれにおいて、示差走査熱量計(Q-200、TAインスツルメント社製)を用いてDSC曲線を計測する。
得られるDSC曲線から、Q-200システム中の解析プログラムを用いて、1回目の昇温時におけるDSC曲線を選択し、測定試料の昇温1回目におけるガラス転移温度を求めることができる。また同様に、2回目の昇温時におけるDSC曲線を選択し、測定試料の昇温2回目におけるガラス転移温度を求めることができる。
また、得られるDSC曲線から、Q-200システム中の解析プログラムを用いて、1回目の昇温時におけるDSC曲線を選択し、測定試料の昇温1回目における吸熱ピークトップ温度を融点として求めることができる。また同様に、2回目の昇温時におけるDSC曲線を選択し、測定試料の昇温2回目における吸熱ピークトップ温度を融点として求めることができる。
本明細書では、非晶質ポリエステル樹脂、更には前記離型剤等のその他構成成分のガラス転移温度及び融点については、特に断りが無い場合、2回目の昇温時における吸熱ピークトップ温度を各対象試料の融点とし、2回目の昇温時におけるTgを各対象試料のTgとする。
【0122】
<その他の成分>
本発明の樹脂粒子は、上述の第1の樹脂、第2の樹脂、及び結晶性ポリエステル樹脂以外のその他の成分として、着色剤、プレポリマー、帯電制御剤、ワックス(離型剤)、流動性向上剤、クリーニング性向上剤、磁性材料、異形化剤を任意に含んでもよい。
【0123】
-着色剤-
着色剤は、特に限定されず、公知の染料及び顔料を使用でき、目的に応じて適宜選択することができる。
着色剤としては、例えば、カーボンブラック、ニグロシン染料、鉄黒、ナフトールイエローS、ハンザイエロー(10G、5G、G)、カドミュウムイエロー、黄色酸化鉄、黄土、黄鉛、チタン黄、ポリアゾイエロー、オイルイエロー、ハンザイエロー(GR、A、RN、R)、ピグメントイエローL、ベンジジンイエロー(G、GR)、パーマネントイエロー(NCG)、バルカンファストイエロー(5G、R)、タートラジンレーキ、キノリンイエローレーキ、アンスラザンイエローBGL、イソインドリノンイエロー、ベンガラ、鉛丹、鉛朱、カドミュウムレッド、カドミュウムマーキュリレッド、アンチモン朱、パーマネントレッド4R、パラレッド、ファイセーレッド、パラクロルオルトニトロアニリンレッド、リソールファストスカーレットG、ブリリアントファストスカーレット、ブリリアントカーミンBS、パーマネントレッド(F2R、F4R、FRL、FRLL、F4RH)、ファストスカーレットVD、ベルカンファストルビンB、ブリリアントスカーレットG、リソールルビンGX、パーマネントレッドF5R、ブリリアントカーミン6B、ポグメントスカーレット3B、ボルドー5B、トルイジンマルーン、パーマネントボルドーF2K、ヘリオボルドーBL、ボルドー10B、ボンマルーンライト、ボンマルーンメジアム、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、ローダミンレーキY、アリザリンレーキ、チオインジゴレッドB、チオインジゴマルーン、オイルレッド、キナクリドンレッド、ピラゾロンレッド、ポリアゾレッド、クロームバーミリオン、ベンジジンオレンジ、ペリノンオレンジ、オイルオレンジ、コバルトブルー、セルリアンブルー、アルカリブルーレーキ、ピーコックブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー、ファストスカイブルー、インダンスレンブルー(RS、BC)、インジゴ、群青、紺青、アントラキノンブルー、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、コバルト紫、マンガン紫、ジオキサンバイオレット、アントラキノンバイオレット、クロムグリーン、ジンクグリーン、酸化クロム、ピリジアン、エメラルドグリーン、ピグメントグリーンB、ナフトールグリーンB、グリーンゴールド、アシッドグリーンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、フタロシアニングリーン、アントラキノングリーン、酸化チタン、亜鉛華、リトボン及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0124】
これらの着色剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0125】
着色剤の含有量は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。着色剤の含有量としては、例えば、樹脂粒子100質量%に対して、1質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0126】
着色剤は、樹脂と複合化されたマスターバッチとして用いることもできる。
【0127】
-プレポリマー-
プレポリマー(反応性前駆体)は、活性水素基と反応可能な基を持つポリエステルが挙げられる。
【0128】
活性水素基と反応可能な基としては、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸、酸クロリド基などが挙げられる。これらの中でも、非晶質ポリエステル樹脂にウレタン結合又はウレア結合を導入可能な点で、イソシアネート基が好ましい。
【0129】
反応性前駆体は、3価以上のアルコール及び3価以上のカルボン酸の少なくともいずれかによって付与される分岐構造を有していてもよい。
【0130】
イソシアネート基を含有するポリエステル樹脂としては、例えば、活性水素基を有するポリエステル樹脂とポリイソシアネートとの反応生成物などが挙げられる。
【0131】
活性水素基を有するポリエステル樹脂は、例えば、ジオールと、ジカルボン酸と、3価以上のアルコール及び3価以上のカルボン酸の少なくともいずれかと重縮合することにより得られる。3価以上のアルコール及び3価以上のカルボン酸は、イソシアネート基を含有するポリエステル樹脂に分岐構造を付与する。
【0132】
ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等の脂肪族ジオール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン基を有するジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等の脂環式ジオール;脂環式ジオールに、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加したもの;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール類;ビスフェノール類に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加したもの等のビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物などが挙げられる。
【0133】
これらの中でも、ポリエステル樹脂のガラス転移点を20℃以下に制御する観点から、例えば、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール等の炭素数3以上10以下の脂肪族ジオールを使用することが好ましく、樹脂中のアルコール成分の50mol%以上使用することがより好ましい。これらのジオールは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0134】
ポリエステル樹脂は、非晶性樹脂であることが好ましく、また、樹脂鎖に立体障害を持たせることで定着時の溶融粘度が低下し、低温定着性がより発現しやすくなる。このため、脂肪族ジオールの主鎖は下記一般式(3)で表される構造を有することが好ましい。
【0135】
【化1】
[式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表し、nは3~9の奇数を表す。但し、n個の繰り返し単位において、R
1及びR
2はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。]
【0136】
ここで、脂肪族ジオールの主鎖とは、脂肪族ジオールが有する二つのヒドロキシル基間を最短数で結ばれた炭素鎖のことである。主鎖の炭素数は奇数である場合、偶奇性により結晶性が低下するので好ましい。また、少なくとも1つ以上の炭素数1~3のアルキル基を側鎖に有する場合、立体性により主鎖分子間の相互作用エネルギーが低下する点でより好ましい。
【0137】
ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。また、これらの無水物や低級(炭素数1~3)アルキルエステル化物、ハロゲン化物を用いてもよい。
【0138】
これらの中でも、ポリエステル樹脂のTgを20℃以下に制御する観点から、炭素数4以上12以下の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、樹脂中のカルボン酸成分の50質量%以上使用することがより好ましい。これらのジカルボン酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0139】
3価以上のアルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の3価以上の脂肪族アルコール;トリスフェノールPA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の3価以上のポリフェノール類;3価以上のポリフェノール類に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加したもの等の3価以上のポリフェノール類のアルキレンオキシド付加物などが挙げられる。
【0140】
3価以上のカルボン酸としては、例えば、3価以上の芳香族カルボン酸などが挙げられ、特にはトリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数9以上20以下の3価以上の芳香族カルボン酸が好ましい。また、これらの無水物や、低級(炭素数1~3)アルキルエステル化物、ハロゲン化物を用いてもよい。
【0141】
ポリイソシアネートは、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジイソシアネート、3価以上のイソシアネートなどが適用できる。
【0142】
ポリイソシアネートとしては、具体的には、1,3-及び/又は1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-及び/又は2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、粗製TDI、2,4’-及び/又は4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、粗製MDI[粗製ジアミノフェニルメタン〔ホルムアルデヒドと芳香族アミン(アニリン)又はその混合物との縮合生成物;ジアミノジフェニルメタンと少量(たとえば5~20質量%)の3官能以上のポリアミンとの混合物〕のホスゲン化物:ポリアリルポリイソシアネート(PAPI)]、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート、m-及びp-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-及び2,6-ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;m-及びp-キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香脂肪族ジイソシアネート;リジントリイソシアネート、3価以上のアルコールのジイソシアネート変性物等の3価以上のポリイソシアネート;これらのイソシアネートの変性物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0143】
イソシアネートの変性物としては、例えば、ウレタン基、カルボジイミド基、アロファネート基、ウレア基、ビューレット基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、イソシアヌレート基、オキサゾリドン基含有変性物などが挙げられる。
【0144】
-帯電制御剤-
帯電制御剤は、特に限定されず、公知のものがすべて使用でき、目的に応じて適宜選択することができる。帯電制御剤としては、例えば、ニグロシン系染料、トリフェニルメタン系染料、クロム含有金属錯体染料、モリブデン酸キレート顔料、ローダミン系染料、アルコキシ系アミン、四級アンモニウム塩(フッ素変性四級アンモニウム塩を含む)、アルキルアミド、燐の単体または化合物、タングステンの単体または化合物、フッ素系活性剤、サリチル酸金属塩及び、サリチル酸誘導体の金属塩等が挙げられる。
【0145】
帯電制御剤としては、具体的には、ニグロシン系染料のボントロン03、第四級アンモニウム塩のボントロンP-51、含金属アゾ染料のボントロンS-34、オキシナフトエ酸系金属錯体のE-82、サリチル酸系金属錯体のE-84、フェノール系縮合物のE-89(以上、オリエント化学工業社製)、第四級アンモニウム塩モリブデン錯体のTP-302、TP-415(以上、保土谷化学工業社製)、第四級アンモニウム塩のコピーチャージPSY VP2038、トリフェニルメタン誘導体のコピーブルーPR、第四級アンモニウム塩のコピーチャージ NEG VP2036、コピーチャージ NX VP434(以上、ヘキスト社製)、LRA-901、ホウ素錯体であるLR-147(日本カーリット社製)、銅フタロシアニン、ペリレン、キナクリドン、アゾ系顔料、その他スルホン酸基、カルボキシル基、四級アンモニウム塩等の官能基を有する高分子系の化合物が挙げられる。
【0146】
帯電制御剤は、性能を発現し定着性などへの阻害がない範囲の量で用いられればよく、樹脂粒子中に0.5~5質量%含まれることが好ましく、0.8~3質量%含まれることがより好ましい。
【0147】
-ワックス(離型剤)-
ワックスは、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができるが、融点が50℃~120℃の低融点の離型剤が好ましい。低融点の離型剤は、樹脂と分散されることにより、樹脂粒子をトナーに用いた場合に、離型剤として効果的に定着ローラとトナー界面との間で働き、これによりオイルレス(定着ローラにオイルの如き離型剤を塗布しない)でもホットオフセット性が良好となる。
【0148】
離型剤としては、例えば、ロウ類、ワックス類、等が好適に挙げられる。ロウ類及びワックス類としては、例えば、カルナウバワックス、綿ロウ、木ロウ、ライスワックス等の植物系ワックス;ミツロウ、ラノリン等の動物系ワックス;オゾケライト、セルシン等の鉱物系ワックス;パラフィン、マイクロクリスタリン、ペトロラタム等の石油ワックス;などの天然ワックスが挙げられる。
【0149】
また、これら天然ワックスのほか、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成炭化水素ワックス;エステル、ケトン、エーテル等の合成ワックス;などが挙げられる。
【0150】
更に、12-ヒドロキシステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、無水フタル酸イミド、塩素化炭化水素等の脂肪酸アミド;低分子量の結晶性高分子樹脂である、ポリ-n-ステアリルメタクリレート、ポリ-n-ラウリルメタクリレート等のポリアクリレートのホモ重合体あるいは共重合体(例えば、n-ステアリルアクリレート-エチルメタクリレートの共重合体等);側鎖に長いアルキル基を有する結晶性高分子、などを用いてもよい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0151】
これらのワックスの中でも、カーボンニュートラルの観点から、植物系ワックスが好ましい。
【0152】
ワックスの融点としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50℃~120℃が好ましく、60℃~90℃がより好ましい。融点が、50℃以上であれば、ワックスが耐熱保存性に悪影響を与えるのを防止でき、120℃以下であれば、低温での定着時にコールドオフセットを起こすという問題を有効に防止できる。
【0153】
ワックスの溶融粘度としては、該ワックスの融点より20℃高い温度での測定値として、5cps~1,000cpsが好ましく、10cps~100cpsがより好ましい。溶融粘度が、5cps以上であれば、離型性の低下を防止でき、1,000cps以下であれば、耐ホットオフセット性、低温定着性の効果が十分発揮できる。
【0154】
ワックスの樹脂粒子における含有量は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができるが、0質量%以上40質量%以下が好ましく、3質量%以上30質量%以下がより好ましい。含有量が、40質量%以下であると、樹脂粒子をトナーに用いた場合にトナーの流動性悪化を防止することができる。
【0155】
-外添剤-
外添剤は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。外添剤としては、例えば、無機微粒子、高分子系微粒子が適用できる。
【0156】
無機微粒子の一次粒子径は、5nm~2μmであることが好ましく、特に5nm~500nmであることが好ましい。
【0157】
無機微粒子のBET法による比表面積は、20~500m2/gであることが好ましい。
【0158】
無機微粒子の使用割合は、樹脂粒子に対して0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0159】
無機微粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ペンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素などを挙げられる。
【0160】
高分子系微粒子としては、例えば、ソープフリー乳化重合や懸濁重合、分散重合によって得られるポリスチレン、メタクリル酸エステルやアクリル酸エステル共重合体やシリコン、ベンゾグアナミン、ナイロンなどの重縮合系、熱硬化性樹脂による重合体粒子が挙げられる。
【0161】
-流動性向上剤-
また、本発明の樹脂粒子には流動性向上剤を添加することもできる。このような流動性向上剤は、表面処理を行って、疎水性を上げ、高湿度下においても流動特性や帯電特性の悪化を防止することができる。
【0162】
例えば、シランカップリング剤、シリル化剤、フッ化アルキル基を有するシランカップリング剤、有機チタネート系カップリング剤、アルミニウム系のカップリング剤、シリコンオイル、変性シリコンオイルなどが好ましい表面処理剤として挙げられる。
【0163】
-クリーニング性向上剤-
感光体や一次転写媒体に残存する転写後の現像剤を除去するためのクリーニング性向上剤としては、例えばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸など脂肪酸金属塩、例えばポリメチルメタクリレート微粒子、ポリスチレン微粒子などのソープフリー乳化重合などによって製造された、ポリマー微粒子などを挙げることかできる。
【0164】
ポリマー微粒子は比較的粒度分布が狭く、体積平均粒径が0.01から1μmのものが好ましい。
【0165】
-磁性材料-
前記磁性材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鉄粉、マグネタイト、又はフェライトが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記磁性材料としては、色調の点で白色のものが好ましい。
【0166】
前記磁性材料の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記樹脂粒子100質量部に対して、20質量部以上200質量部以下が好ましく、40質量部以上150質量部以下がより好ましい。
【0167】
-異形化剤-
前記異形化剤は、前記樹脂粒子の形状を異形化するために添加されるものである。
前記異形化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、層状無機鉱物が有する層間のイオンの少なくとも一部を有機物イオンで変性した層状無機鉱物を含有することが好ましい。
【0168】
前記層状無機鉱物が有する層間のイオンの少なくとも一部を有機物イオンで変性した層状無機鉱物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スメクタイト系の基本結晶構造を有するものを有機カチオンで変性したものなどが挙げられる。スメクタイト族粘土鉱物は、層が負の電荷を帯び、これを補うために層間に陽イオンが存在する。この陽イオンのイオン交換や極性分子の吸着により層間化合物を形成することができる。また、層状無機鉱物の2価金属の一部を3価の金属に置換することにより、金属イオンを導入することができる。しかし、金属アニオンを導入すると親水性が高いため、金属アニオンの少なくとも一部を有機アニオンで変性した層状無機化合物が好ましい。
【0169】
前記層状無機鉱物が有する層間のイオンの少なくとも一部を有機物イオンで変性した層状無機鉱物は、有機物カチオン変性剤又は有機物アニオン変性剤を用いることで得られる。
【0170】
前記有機物カチオン変性剤としては、有機物イオンで上記のように変性し得るものであれば、特に制限はなく、例えば、第4級アルキルアンモニウム塩、フォスフォニウム塩、又はイミダゾリウム塩が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記有機物カチオン変性剤としては、第4級アルキルアンモニウム塩が好ましい。
【0171】
前記第4級アルキルアンモニウムとしては、特に制限はなく、例えば、トリメチルステアリルアンモニウム、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム、又はオレイルビス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムが挙げられる。
【0172】
前記有機物アニオン変性剤としては、有機物イオンで上記のように変性し得るものであれば、特に制限はなく、例えば、分岐、非分岐、又は環状のアルキル(C1~C44)基、分岐、非分岐、又は環状のアルケニル(C1~C22)基、分岐、非分岐、又は環状のアルコキシ(C8~C32)基、分岐、非分岐、又は環状のヒドロキシアルキル(C2~C22)基、エチレンオキサイド骨格、又はプロピレンオキサイド骨格を有する、硫酸塩、スルホン酸塩、カルボン酸塩、又はリン酸塩が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記有機物アニオン変性剤は、エチレンオキサイド骨格を有するカルボン酸が好ましい。
【0173】
前記異形化剤は、前記樹脂粒子が製造される工程において、油相作製工程で添加されることが好ましい。
前記層状無機鉱物の層間のイオンの少なくとも一部を有機物イオンで変性することにより、適度な疎水性を有するため、前記樹脂粒子の材料を含む油相が非ニュ-トニアン粘性を持ち、前記樹脂粒子を異形化することができる。この際、前記樹脂粒子の材料における、前記異形化剤の含有量としては、前記樹脂粒子の材料の全量に対して、0.05質量%~10質量%であることが好ましく、0.05質量%~5質量%であることがより好ましい。
【0174】
また、前記層状無機鉱物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライト、アタパルジャイト、セピオライト、又はこれらの混合物が挙げられる。
これらの中でも、前記層状無機鉱物が有する層間のイオンの少なくとも一部を有機物イオンで変性した層状無機鉱物は、前記樹脂粒子をトナーに利用した場合、トナー特性に影響を与えず、容易に粘度調整ができ、添加量を少量とすることができることから、有機変性モンモリロナイト又は有機変性ベントナイトが好ましい。
【0175】
前記層状無機鉱物が有する層間のイオンの少なくとも一部を有機物イオンで変性した層状無機鉱物の市販品としては、例えば、Bentone 3、Bentone 38、Bentone 38V(以上、レオックス社製)、チクソゲルVP(United catalyst社製)、クレイトン34、クレイトン40、クレイトンXL(以上、サザンクレイ社製)等のクオタニウム18ベントナイト;Bentone 27(レオックス社製)、チクソゲルLG(United catalyst社製)、クレイトンAF、クレイトンAPA(以上、サザンクレイ社製)等のステアラルコニウムベントナイト;クレイトンHT、クレイトンPS(以上、サザンクレイ社製)等のクオタニウム18/ベンザルコニウムベントナイトが挙げられる。これらの中でも、クレイトンAF、クレイトンAPAが好ましい。
【0176】
また、前記層状無機鉱物が有する層間のイオンの少なくとも一部を有機物イオンで変性した層状無機鉱物としては、DHT-4A(登録商標)(協和化学工業株式会社製)に下記一般式(4)で表される有機物アニオン変性剤で変性させたものがより好ましい。下記一般式(4)で表される有機物アニオン変性剤としては、例えば、ハイテノール(登録商標)330T(第一工業製薬株式会社製)が挙げられる。
【0177】
R1(OR2)nOSO3M ・・・一般式(4)
(前記一般式(4)中、R1は炭素数13のアルキル基を表し、R2は炭素数2~6のアルキレン基を表し、nは2~10の整数を表し、Mは1価の金属元素を表す。)
【0178】
(樹脂粒子の製造方法)
本発明の樹脂粒子の製造方法は、a)少なくとも非晶質ポリエステル樹脂及び結晶性樹脂を有機溶媒に溶解乃至分散させた油相を作製する工程(以下、「油相作製工程」と称することがある)と、b)前記油相に水系媒体を添加して、油中水型分散液から水中油型分散液に転相させる工程(以下、「転相乳化工程」と称することがある)と、c)前記水中油型分散液の粒子を凝集させて樹脂粒子を得る工程(以下、「凝集工程」と称することがある)と、を含み、更に必要に応じて、水相調製工程、脱溶剤工程、融着工程、洗浄工程、乾燥工程、分級工程、アニーリング工程等のその他の工程を含む。
【0179】
<a)油相作製工程> 前記油相作製工程は、少なくとも樹脂を有機溶媒中に攪拌して溶解乃至分散させた油相を作製する工程である。
油相作製工程で溶解させる樹脂は、上述した通りである。
前記油相は、更に必要に応じて、前記着色剤、前記離型剤、架橋成分などを含んでいてもよい。
【0180】
前記有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、除去が容易である点で、沸点が150℃未満の有機溶媒が好ましい。
前記沸点が150℃未満の有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、四塩化炭素、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロエチリデン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、又はイソプロピルアルコール等が挙げられる。これらを、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記有機溶媒としては、酢酸エチル、トルエン、キシレン、ベンゼン、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、又は四塩化炭素が好ましく、酢酸エチルがより好ましい。
【0181】
これらの有機溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0182】
有機溶媒中に溶解あるいは分散させる樹脂がポリエステル骨格を有する樹脂である場合、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系の溶媒もしくはメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系の溶媒を用いることが、溶解性が高くなる点で好ましい。中でも、溶媒除去性の高い酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトンが特に好ましい。
【0183】
前記有機溶媒の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記樹脂粒子の原料100質量部に対し、40質量部~300質量部が好ましく、60質量部~140質量部がより好ましく、80質量部~120質量部が更に好ましい。
【0184】
前記油相の作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記有機溶媒中に、攪拌しながら、前記油相の材料を徐々に添加し、溶解又は分散させる方法などが挙げられる。
前記分散に際しては、公知のものが使用でき、例えば、ビーズミルやディスクミル等の分散機を用いることができる。
【0185】
前記油相中の前記結晶性樹脂の分散粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20nm以上500nm以下であることが好ましく、50nm以上360nm以下であることがより好ましい。
なお、本明細書において、前記結晶性樹脂の分散粒径は、体積平均粒径である。
【0186】
前記結晶性樹脂の分散粒径は、例えば、ナノトラック粒度分布測定装置(UPA-EX150、日機装株式会社、動的光散乱法/レーザードップラー法)を用いて測定することができる。
具体的な測定方法としては、前記結晶性樹脂が分散された分散液を測定濃度範囲に調整して測定する。その際、予め分散液の分散溶媒のみでバッククラウンド測定をしておく。この測定法により、数十nm~数μmまでを測定することが可能である。
【0187】
<水相(水系媒体)作製工程>
前記水相調製工程は、水相(水系媒体)を調製する工程である。
前記水系媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、水と混和可能な溶媒、又はこれらの混合物が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水が好ましい。
【0188】
前記水と混和可能な溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルコール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、セロソルブ類、又は低級ケトン類が挙げられる。
前記アルコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、イソプロパノール、又はエチレングリコールが挙げられる。
前記低級ケトン類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アセトン又はメチルエチルケトンが挙げられる。
また、水相にドデシル硫酸ナトリウムを添加してもよい。
【0189】
<b)転相乳化工程>
前記転相乳化工程は、前記油相に水系媒体を添加して、油中水型分散液から水中油型分散液に転相させる工程である。これにより、微粒子分散液(油滴)が得られる。
また、前記油相が、前記非線状の反応性前駆体を含む場合、前記転送乳化工程において、前記硬化剤と前記非線状の反応性前駆体とを伸長反応及び/又は架橋反応させることにより非晶質ポリエステル樹脂を生成してもよい。
前記非晶質ポリエステル樹脂は、前記(樹脂粒子、トナー用樹脂、及び塗料用樹脂粒子)の<<非晶質ポリエステル樹脂>>の項目に記載の通りである。
【0190】
前記転送乳化工程で前記非晶質ポリエステル樹脂を生成する場合、具体的には、前記非晶質ポリエステル樹脂は、例えば、以下の(1)~(3)のいずれかの方法により生成させることができる。
(1)前記非線状の反応性前駆体と前記硬化剤とを含む油相を、前記水系媒体中で乳化又は分散させ、前記水系媒体中で前記硬化剤と前記非線状の反応性前駆体とを伸長反応及び/又は架橋反応させることにより前記非晶質ポリエステル樹脂を生成させる方法。
(2)前記非線状の反応性前駆体を含む油相を、予め前記硬化剤を添加した水系媒体中で乳化又は分散させ、水系媒体中で前記硬化剤と前記非線状の反応性前駆体とを伸長反応及び/又は架橋反応させることにより前記非晶質ポリエステル樹脂を生成させる方法。
(3)前記非線状の反応性前駆体を含む油相を水系媒体中で乳化又は分散させた後で、水系媒体中に前記硬化剤を添加し、水系媒体中で粒子界面から前記硬化剤と前記非線状の反応性前駆体とを伸長反応及び/又は架橋反応させることにより前記非晶質ポリエステル樹脂を生成させる方法。
【0191】
なお、前記樹脂粒子界面から前記硬化剤と前記非線状の反応性前駆体とを伸長反応及び/又は架橋反応させる場合、生成する樹脂粒子の表面に優先的に前記非晶質ポリエステル樹脂が形成され、樹脂粒子中に前記非晶質ポリエステル樹脂の濃度勾配を設けることもできる。
【0192】
前記非晶質ポリエステル樹脂を生成させるための反応条件(反応時間、反応温度)としては、特に制限はなく、前記硬化剤と、前記非線状の反応性前駆体との組み合わせに応じて、適宜選択することができる。
前記反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10分間以上40時間以下が好ましく、2時間以上24時間以下がより好ましい。
前記反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0℃以上150℃以下が好ましく、40℃以上98℃以下がより好ましい。
【0193】
前記水系媒体中において、前記非線状の反応性前駆体を含有する分散液を転相乳化する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、油相を塩基などで中和した後、それに水相を添加していき、油中水型分散液から水中油型分散液に転相させる転相乳化によって微粒子分散液を得る方法などが挙げられる。
【0194】
前記油相を中和するための塩基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又はアンモニア水が挙げられる。
【0195】
前記樹脂粒子材料を含有する油相を転相乳化させる際の、前記水系媒体の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記樹脂粒子材料100質量部に対して、50質量部以上2,000質量部以下が好ましく、100質量部以上1,000質量部以下がより好ましい。前記水系媒体の使用量が、前記樹脂粒子材料100質量部に対して50質量部以上であると、前記樹脂粒子材料の分散状態が悪くなることを防止し、所定の粒子径の樹脂粒子が得られないことを抑制することができる。また、前記水系媒体の使用量が、前記樹脂粒子材料100質量部に対して2,000質量部以下であると、生産コストが高くなることを抑えることができる。
【0196】
前記樹脂粒子材料を含有する油相を転相乳化する際には、油滴等の分散体を安定化させ、所望の形状にすると共に粒度分布をシャープにする観点から、分散剤を用いることが好ましい。
前記分散剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、界面活性剤、難水溶性の無機化合物分散剤、又は高分子系保護コロイドが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記分散剤としては、界面活性剤が好ましい。
【0197】
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、又は両性界面活性剤が挙げられる。
【0198】
前記陰イオン界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、又はリン酸エステルが挙げられる。これらの中でも、前記陰イオン界面活性剤としては、フルオロアルキル基を有するものが好ましい。
【0199】
前記非晶質ポリエステル樹脂を生成させる際の伸長反応及び/又は架橋反応には、触媒を用いることができる。
前記触媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジブチルスズラウレート、ジオクチルスズラウレートなどが挙げられる。
【0200】
前記転相乳化は、攪拌翼を用いて行うことができる。
前記攪拌翼としては、特に制限はなく、溶液の粘度に応じて適宜選択することができ、例えば、アンカー翼、タービン翼、ファウドラー翼、フルゾーン翼、マックスブレンド翼、又は半月翼が挙げられる。
【0201】
前記攪拌翼を用いた場合の、周速としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4m/秒間~2.0m/秒間が好ましく、0.7m/秒間~1.5m/秒間がより好ましい。
【0202】
前記微粒子分散液中の分散体(油滴)の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50nm~2,000nmが好ましく、50nm~500nmがより好ましい。
【0203】
<脱溶剤工程>
前記脱溶剤工程は、前記転相乳化工程で得られた微粒子分散液から前記有機溶媒を除去し、樹脂の母体粒子を含むスラリーを得る工程である。
【0204】
前記微粒子分散液から前記有機溶媒を除去する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、反応系全体を徐々に昇温させて、前記微粒子分散液(油滴)中の有機溶媒を蒸発させる方法;前記微粒子分散液を乾燥雰囲気中に噴霧して、該微粒子分散液(油滴)中の有機溶媒を除去する方法;前記微粒子分散液を減圧し、有機溶媒を蒸発除去する方法などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0205】
前記微粒子分散液が噴霧される乾燥雰囲気としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、空気、窒素、炭酸ガス、燃焼ガス等を加熱した気体などが挙げられ、使用される最高沸点溶媒の沸点以上の温度に加熱された各種気流が一般に用いられる。
【0206】
前記脱溶剤工程は、装置を用いて行うことができ、例えば、スプレードライヤー、ベルトドライアー、又はロータリーキルンを用いることができ、短時間の処理で十分に目的とする品質を得ることができる。
【0207】
<植物由来成分を含まない樹脂粒子の調整工程>
前記a)油相作製工程と、前記b)転相乳化工程において、植物由来成分を含まない樹脂を用いる以外は、上記と同様の方法で脱溶剤を行って、シェルにのみ使用する樹脂粒子を得ることができる。
【0208】
<シェル用樹脂粒子の調製工程>
本発明の樹脂粒子のシェルとなるシェル用樹脂粒子を調整する工程であって、前記b)転相乳化工程の<脱溶剤工程>で作製する植物由来成分を含む樹脂の母体粒子を含む[スラリーA]と、前記b)転相乳化工程の<脱溶剤工程>と同様の方法で作製する植物由来成分を含まない樹脂の母体粒子を含む[スラリーB]を混合させる工程である。
【0209】
前記[スラリーA]と前記[スラリーB]を混合させてなるシェル用樹脂粒子は、さらにコアシェル構造を形成することができ、該コアシェル構造のコアは、[スラリーA]を主に含んでもよく、該コアシェル構造のシェルは、[スラリーB]を主に含んでもよい。
本発明の樹脂粒子表面には、フィルミング性を悪化させる植物由来成分が少ないか、又は存在しないことが好ましいことから、前記シェル用樹脂粒子にさらに形成されるコアシェル構造において、該シェルは[スラリーB]を主に含むことが好ましく、該コアが[スラリーA]を主に含むことが好ましい。
【0210】
なお、上記のシェル用樹脂粒子がさらにコアシェル構造を形成するときの該コアシェル構造のコアが主に[スラリーA]を含む場合、この構成のシェル用樹脂粒子から作製される本発明の樹脂粒子のシェル層は、「植物由来成分を含む樹脂」を主に含むドメインを有する構造となり得、本発明の樹脂粒子の最表面部分に含まれる樹脂は、「植物由来成分を含まない樹脂」を主に含む構成となり得る。このような構成の樹脂をシェル用樹脂に使用することで、耐熱保存性に優れる樹脂粒子を作製することができる。
【0211】
<c)凝集工程>
前記凝集工程は、前記水中油型分散液の粒子を凝集させて凝集粒子を得る工程である。
前記油滴又は前記母体粒子を凝集させる方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、凝集剤を添加する方法、pH調整を行う方法などが挙げられる。
【0212】
前記凝集剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化アルミニウム、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酢酸ナトリウム、アセト酢酸ナトリウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化リチウム、酢酸リチウム、アセト酢酸リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、フッ化カリウム、アセト酢酸カリウム、臭化マグネシウム、塩化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酢酸マグネシウム、アセト酢酸マグネシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、臭化バリウム、塩化バリウム、ヨウ化バリウム、フッ化バリウム、酢酸バリウム、アセト酢酸バリウム、臭化ストロンチウム、塩化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、アセト酢酸ストロンチウム、臭化亜鉛、塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛、フッ化亜鉛、酢酸亜鉛、アセト酢酸亜鉛、臭化銅、塩化銅、ヨウ化銅、フッ化銅、酢酸銅、アセト酢酸銅、臭化鉄、塩化鉄、ヨウ化鉄、フッ化鉄、酢酸鉄、又はアセト酢酸鉄が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記凝集剤としては、二価の金属塩が好ましく、三価の金属塩がより好ましい。二価以上の金属塩を用いることで、前記非晶質ポリエステル樹脂に含まれるカルボキシル基と金属架橋による三次元構造を形成することができ、これにより前記樹脂粒子の強度が上がり、耐フィルミング性が向上する。
【0213】
前記凝集剤を添加する場合、そのまま添加してもよいが、該凝集剤の水溶液にしたほうが、局所的な高濃度化を避けることができるため好ましい。また、凝集塩は、樹脂粒子の粒径を見ながら、徐々に添加することが好ましい。
【0214】
前記凝集工程を行う反応系の温度(凝集時の分散液の温度)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、使用する樹脂のガラス転移温度(Tg)付近であることが好ましく、前記非晶質ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)付近であることがより好ましい。前記の反応系の温度が低すぎると凝集があまり進まないため効率が悪くなることがあり、前記の反応系の温度が高すぎると凝集速度が速くなり、粗大粒子が発生するなど粒径分布が悪化することがある。
【0215】
前記凝集工程は、前記凝集粒子が目的とする粒径に達した後、凝集を停止させる。
前記凝集を停止させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記凝集塩よりもイオン価数の低い塩やキレート剤を添加する方法;pHを調整する方法;凝集時の反応系(分散液)の温度を下げる方法;水系媒体を多量に添加して凝集時の反応系(分散液)濃度を薄める方法などが使用できる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0216】
前記凝集粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3.0μm~6.0μmが好ましく、4.0μm~5.0μmがより好ましい。
【0217】
前記凝集工程においては、離型剤を添加してもよく、低温定着性のために前記結晶性樹脂を添加してもよい。
前記離型剤としては、上述した離型剤(ワックス)を使用することができる。
前記凝集工程において前記離型剤又は前記結晶性樹脂を添加する場合、前記離型剤を水系媒体に分散させた分散液や、同様に前記結晶性ポリエステル樹脂の分散液を用意し、前記微粒子分散液(油滴)と混合した上で凝集させていくことで、均一に離型剤や結晶性樹脂が分散した凝集粒子を得ることができる。
【0218】
前記分散液中の前記離型剤の分散粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50nm以上600nm以下であることが好ましく、50nm以上300nm以下であることがより好ましい。
なお、本明細書において、前記分散液中の前記離型剤の分散粒径は、体積平均粒径である。
【0219】
前記離型剤の分散粒径は、例えば、ナノトラック粒度分布測定装置(UPA-EX150、日機装株式会社、動的光散乱法/レーザードップラー法)を用いて測定することができる。
具体的な測定方法としては、前記離型剤が分散された分散液を測定濃度範囲に調整して測定する。その際、予め分散液の分散溶媒のみでバッククラウンド測定をしておく。この測定法により、数十nm~数μmまでを測定することが可能である。
【0220】
また、前記樹脂粒子にシェル層を形成させるために、前記凝集工程において、シェル用樹脂の分散液を添加してもよい。前記樹脂粒子にシェル層を形成させることで、フィルミング性を悪化させる前記結晶性樹脂や前記離型剤を内包でき、耐フィルミング性が向上する。
【0221】
前記シェル層を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前述の方法で凝集粒子を作製した後、所望の粒径に達した凝集粒子に、前記シェル用樹脂を添加する方法などが挙げられる。
なお、前記樹脂粒子の製造方法が、前記脱溶剤工程を含む場合は、前記脱溶剤工程で得られた母体粒子の凝集粒子のスラリーを得た後、前記シェル用樹脂のスラリーを添加して凝集スラリーを得てもよい。
【0222】
<融着工程>
前記融着工程は、前記凝集粒子または前記凝集粒子を含むスラリーを融着させて凹凸を減らし、球形化した樹脂粒子を得る工程である。また、前記凝集工程で前記樹脂粒子にシェル層を形成するため樹脂を添加した場合は、前記融着工程により前記凝集粒子の表面にシェル層を形成することができる。
【0223】
前記凝集粒子を融着させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記凝集粒子の分散液を攪拌しながら加熱する方法などが挙げられる。
【0224】
前記加熱の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記非晶質ポリエステル樹脂のTg以上Tg+20℃以下が好ましく、Tg以上Tg+10℃以下がより好ましい。前記加熱の温度が、前記非晶質ポリエステル樹脂のTg+20℃以下であると、前記非晶質ポリエステル樹脂と前記結晶性樹脂とが適度に相溶し、耐熱保存性が向上する。
【0225】
前記樹脂粒子の平均円形度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記樹脂粒子の平均円形度が高いほど、前記樹脂粒子をトナーとして用いる場合に、現像ニップにおいてスムーズに回転するため、より多くの樹脂粒子が静電潜像担持体に移行できる点で、0.95以上が好ましく、0.96以上がより好ましい。
【0226】
-平均粒子径と平均円形度の測定-
本実施形態において、平均粒子径及び平均円形度は、例えば、フロー式粒子像分析装置(FPIA-3000、シスメックス株式会社製)を用いて測定することができる。
具体的な測定方法としては、容器中の予め不純固形物を除去した水100mL~150mL中に、分散剤として界面活性剤、好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩を0.1mL~0.5mL加え、更に測定試料を0.1g~0.5g程度加える。試料を分散した懸濁液は、超音波分散器で約1分間~3分間の分散処理を行い、分散液濃度を3,000個/μL~1万個/μLとして前記装置により平均粒子径、平均円形度、及び円形度の標準偏差(SD)を測定する。
ただし、粒子径は円相当径とし、平均粒子径は円相当径(個数基準)により求め、前記フロー式粒子像分析装置の解析条件は以下とする。
[解析条件]
粒子径限定:0.5μm≦円相当径(個数基準)≦200.0μm
粒子形状限定:0.93<円形度≦1.00
また、本実施形態において平均円形度の定義は次の通りである。
(平均円形度)=(粒子の投影面積と等しい円の周囲長)/(粒子の投影像の周囲長)
【0227】
<洗浄工程>
前記洗浄工程は、前記凝集工程又は前記融着工程で得られた樹脂粒子を洗浄する工程である。
上述の方法で得られた樹脂粒子の分散液には、該樹脂粒子の他に、凝集剤等の副材料が含まれていることがあるため、前記樹脂粒子の分散液から前記樹脂粒子のみを取り出すために洗浄を行うことが好ましい。
【0228】
前記樹脂粒子の洗浄方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、遠心分離法、減圧濾過法、又はフィルタープレス法が挙げられる。
いずれの洗浄方法によっても前記樹脂粒子のケーキ体が得られるが、一度の操作で十分に洗浄できない場合は、得られたケーキ体を再度水系溶媒に分散させてスラリーにして前記洗浄方法の少なくともいずれかで、前記樹脂粒子を取り出す工程を繰り返してもよい。
前記減圧濾過法又は前記フィルタープレス法によって洗浄を行う場合は、水系溶媒を前記ケーキ体に貫通させて、前記樹脂粒子が抱き込んだ副材料を洗い流す方法をとってもよい。
【0229】
前記洗浄工程に用いられる前記水系溶媒としは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、又は水とアルコールとの混合溶媒が挙げられる。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、又はエタノールが挙げられる。
これらの中でも、前記水系溶媒は、コストや排水処理などによる環境負荷の点から、水が好ましい。
【0230】
<乾燥工程>
前記乾燥工程は、前記洗浄工程で得られた樹脂粒子を洗浄する工程である。
前記洗浄工程で洗浄された樹脂粒子は、前記水系媒体を多く抱き込んでいるため、前記乾燥工程で乾燥を行い、前記水系媒体を除去することで、前記樹脂粒子のみを得ることができる。
【0231】
乾燥の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動槽乾燥機、回転式乾燥機、又は攪拌式乾燥機等の乾燥機を使用する方法が挙げられる。
【0232】
乾燥された樹脂粒子の最終的な水分量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水分が1質量%未満であることが好ましい。
【0233】
前記乾燥工程で乾燥された樹脂粒子は、軟凝集をしており、使用に際して不都合が生じる場合には、解砕を行い、軟凝集をほぐしてもよい。
前記解砕を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、コーヒーミル、オースターブレンダー、又はフードプロセッサー等の装置を用いる方法が挙げられる。
【0234】
<分級工程>
分級工程は、前記洗浄工程又は前記乾燥工程で得られた樹脂粒子を分級する工程である。
前記分級の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液中でサイクロン、デカンター、遠心分離等により、微粒子部分を取り除くことによる方法;乾燥後に公知の分級操作を行う方法などが挙げられる。
【0235】
<アニーリング工程>
前記アニーリング工程は、結晶性樹脂を添加した場合に、前記乾燥工程の後に行われる工程であり、結晶性樹脂と、非晶質ポリエステル樹脂とを相分離させる工程である。
【0236】
前記アニーリング処理を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記結晶性樹脂のガラス転移温度(Tg)付近の温度で10時間以上保管する方法などが挙げられる。
【0237】
前記融着工程において、使用している樹脂のガラス転移温度(Tg)を超える温度付近で加熱した場合、前記結晶性樹脂と前記非晶質ポリエステル樹脂とが相溶状態となり、耐熱保存性と低温定着性の両立ができないことがあるが、前記アニーリング処理を行うと、前記結晶性樹脂と前記非晶質樹脂との相分離が進み、相溶状態ではなくなる点で有利であり、定着性向上に寄与し得る。
【0238】
(トナー)
本実施形態に係るトナーは、上述の樹脂粒子を含む。すなわち、本実施形態のトナーは、上述の第1の樹脂を含むコアと、上述の第2の樹脂を含むシェルとを有するコアシェル構造の樹脂粒子を含む。
【0239】
本発明のトナーは、更に外添剤を含有することが好ましく、更に必要に応じて、その他の成分を含有することができる。
本発明のトナーにおいて、本発明の樹脂粒子は、トナー用樹脂粒子であり、本発明のトナー母体粒子となり得る。
【0240】
前記トナーにおける前記トナー用樹脂粒子の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記トナーは、前記トナー用樹脂粒子そのものであってもよい。
【0241】
-外添剤-
前記外添剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機微粒子、酸化物微粒子、脂肪酸金属塩、又はこれらが疎水化処理されたものなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0242】
前記無機微粒子の一次粒子の平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100nm以下が好ましく、1nm以上100nm以下がより好ましく、3nm以上70nm以下が更に好ましく、5nm以上70nm以下が特に好ましい。前記無機微粒子の一次粒子の平均粒径が1nm以上であると、前記無機微粒子が前記トナー中に埋没し、その機能が有効に発揮されないことを防止でき、また100nm以下であると、感光体表面を不均一に傷つけることを抑制することができる。
【0243】
また、前記無機微粒子は、一次粒子の平均粒径が20nm以下の無機微粒子を少なくとも1種類以上含み、かつ一次粒子の平均粒径が30nm以上の無機微粒子を少なくとも1種類含むことが好ましい。
【0244】
前記無機微粒子のBET法による比表面積としは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20m2/g以上500m2/g以下であることが好ましい。
【0245】
前記無機微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化スズ、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ベンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、又は窒化ケイ素が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、シリカ又は二酸化チタンが好ましい。
【0246】
前記酸化物微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チタニア、アルミナ、酸化錫、又は酸化アンチモンなどが挙げられる。
【0247】
前記脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、又はステアリン酸アルミニウムが挙げられる。
【0248】
これらの中でも、前記外添剤としては、疎水化処理された、シリカ、チタニア、酸化チタン、又はアルミナ微粒子が好ましい。
【0249】
前記シリカの微粒子としては、例えば、R972、R974、RX200、RY200、R202、R805、又はR812(いずれも、日本アエロジル株式会社製)が挙げられる。
【0250】
前記チタニアの微粒子としては、例えば、P-25(日本アエロジル株式会社製)、STT-30、STT-65C-S(いずれも、チタン工業株式会社製)、TAF-140(富士チタン工業株式会社製)、MT-150W、MT-500B、MT-600B、又はMT-150A(いずれも、テイカ株式会社製)が挙げられる。
【0251】
前記疎水化処理された酸化チタン微粒子としては、例えば、T-805(日本アエロジル株式会社製)、STT-30A、STT-65S-S(いずれも、チタン工業株式会社製)、TAF-500T、TAF-1500T(いずれも、富士チタン工業株式会社製)、MT-100S、MT-100T(いずれも、テイカ株式会社製)、又はIT-S(石原産業株式会社製)が挙げられる。
【0252】
前記疎水化処理された酸化物微粒子、疎水化処理されたシリカ微粒子、疎水化処理されたチタニア微粒子、又は疎水化処理されたアルミナ微粒子としては、例えば、親水性の微粒子をメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤で処理して得ることができる。また、シリコーンオイルを必要ならば熱を加えて無機微粒子に処理した、シリコーンオイル処理酸化物微粒子、無機微粒子も好適である。また、前記外添剤は、前記(樹脂粒子、トナー用樹脂、及び塗料用樹脂粒子)の<<流動性向上剤>>により表面処理行うこともできる。
【0253】
前記シリコーンオイルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、又はα-メチルスチレン変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0254】
前記外添剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記トナー100質量%に対して、0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、1質量%以上3質量%以下がより好ましい。
【0255】
前記トナーの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができるが、後述する本発明のトナーの製造方法により製造されることが好ましい。
【0256】
(トナーの製造方法)
本発明のトナーの製造方法は、本発明のトナー用の樹脂粒子と外添剤とを混合する混合工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0257】
前記トナー用樹脂粒子は、上述の通りであり、また、前記外添剤も上述の通りであり、その詳細は省略する。
【0258】
<混合工程>
前記混合工程は、前記トナー母体粒子としてのトナー用樹脂粒子と、前記外添剤とを混合する工程である。この際、機械的衝撃力を印加することが、前記トナー母体粒子の表面から前記外添剤の粒子が脱離するのを抑制することができる点で好ましい。
【0259】
前記機械的衝撃力を印加する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、高速で回転する羽根を用いて、前記トナー用樹脂粒子と前記外添剤との混合物に衝撃力を印加する方法;前記トナー用樹脂粒子と前記外添剤との混合物を高速気流中に投入し、加速させて粒子同士又は粒子を適当な衝突板に衝突させる方法などが挙げられる。
【0260】
前記機械的衝撃力を印加する方法に用いる装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、オングミル(ホソカワミクロン株式会社製)、I式ミル(日本ニューマチック工業株式会社製)を改造して粉砕エアー圧力を下げた装置、ハイブリダイゼイションシステム(株式会社奈良機械製作所製)、クリプトロンシステム(川崎重工業株式会社製)、自動乳鉢などが挙げられる。
【0261】
(現像剤)
本発明の現像剤は、少なくとも本発明のトナーを含有し、更に必要に応じてキャリア等の適宜選択されるその他の成分を含有する。
本発明の現像剤に含有される前記トナーは、本発明のトナー用樹脂粒子を含有するため、前記現像剤は、環境対応性が高く、かつカーボンニュートラル性が高く、耐熱保存性に優れるものである。このため、前記現像剤は、転写性、帯電性等に優れ、高画質な画像を安定に形成することができる。
【0262】
なお、前記現像剤は、一成分現像剤であってもよいし、二成分現像剤であってもよいが、近年の情報処理速度の向上に対応した高速プリンタ等に使用する場合には、寿命が向上することから、二成分現像剤が好ましい。
【0263】
前記現像剤を一成分現像剤として用いる場合、前記トナーの収支が行われても、該トナーの粒子径の変動が少なく、現像ローラへのトナーのフィルミングや、トナーを薄層化するブレード等の部材へのトナーの融着が少なく、現像装置における長期の攪拌においても、良好で安定した現像性及び画像が得られる。
【0264】
前記現像剤を二成分現像剤として用いる場合、長期にわたるトナーの収支が行われても、トナーの粒子径の変動が少なく、現像装置における長期の撹拌においても、良好で安定した現像性及び画像が得られる。
【0265】
<キャリア>
前記キャリアとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、芯材と、芯材を被覆する樹脂層を有するものが好ましい。
【0266】
<<芯材>>
前記芯材の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、50emu/g~90emu/gのマンガン-ストロンチウム系材料、又は50emu/g~90emu/gのマンガン-マグネシウム系材料が挙げられる。また、画像濃度を確保するためには、100emu/g以上の鉄粉、75emu/g~120emu/gのマグネタイト等の高磁化材料を用いることが好ましい。また、穂立ち状態となっている現像剤の感光体に対する衝撃を緩和でき、高画質化に有利であることから、30emu/g~80emu/gの銅-亜鉛系等の低磁化材料を用いることが好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0267】
前記芯材の体積平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm以上150μm以下が好ましく、40μm以上100μm以下がより好ましい。前記芯材の体積平均粒子径が10μm以上であると、キャリア中に微粉が多くなることを防ぎ、一粒子当たりの磁化が低下してキャリアの飛散が生じることを抑制することができる。また、前記芯材の体積平均粒子径が150μm以下であると、比表面積が低下することを防ぎ、トナーの飛散が生じることを抑制することができ、ベタ部分の多いフルカラーでは、特に、ベタ部の再現が悪くなることを抑制することができる。
【0268】
前記トナーを二成分系現像剤に用いる場合には、前記キャリアと混合して用いればよい。前記二成分現像剤中の前記キャリアの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記二成分現像剤100質量部に対して、90質量部以上98質量部以下が好ましく、93質量部以上97質量部以下がより好ましい。
【0269】
前記現像剤は、磁性一成分現像方法、非磁性一成分現像方法、又は二成分現像方法の公知の各種電子写真法による画像形成に好適に用いることができる。
【0270】
(トナー収容ユニット)
本発明のトナー収容ユニットは、トナーを収容する機能を有するユニットに、トナーを収容したものである。
前記トナー収容ユニットに収容される前記トナーは、本発明のトナーである。したがって、本発明のトナー収容ユニットは、環境対応性が高いものである。また、前記トナー収容ユニットを、本発明の画像形成装置に装着して画像形成することで、本発明のトナーを用いて画像形成が行われるため、カーボンニュートラル性が高く、耐熱保存性に優れるものである。
【0271】
前記トナー収容ユニットの態様としては、前記トナーを収容できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トナー収容容器、現像器、又はプロセスカートリッジが挙げられる。
【0272】
<トナー収容容器>
前記トナー収容容器とは、前記トナーを収容した容器をいう。
前記トナー収容容器としては、特に限定されず、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、容器本体と、キャップとを有するものなどが挙げられる。
【0273】
前記容器本体の大きさとしては、特に限定されず、適宜変更することができる。
【0274】
前記容器本体の形状としては、特に限定されず、適宜変更することができるが、筒状であることが好ましい。
【0275】
前記容器本体の構造としては、特に限定されず、適宜変更することができるが、内周面にスパイラル状の凹凸が形成され、回転させることにより内容物である前記トナーが排出口側に移行することが可能である、スパイラル状の凹凸の一部又は全てが蛇腹機能を有する構造が好ましい。
【0276】
前記容器本体の材質としては、特に限定されず、適宜変更することができるが、寸法精度がよいものであることが好ましく、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリル酸、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、又はポリアセタール樹脂等の樹脂材料が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0277】
前記トナー収容容器は、保存及び搬送が容易であり、取扱性に優れるため、プロセスカートリッジ又は画像形成装置に着脱可能に取り付け、前記トナーの補給に使用することができる。
【0278】
<現像器>
前記現像器とは、前記トナーを収容し、現像手段を有するものをいう。
前記現像手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記トナー収容容器と、該トナー収容容器内に収容されたトナーを担持すると共に搬送するトナー担持体とを少なくとも有する。
なお、前記現像手段は、担持するトナーの厚さを規制するため規制部材等を更に有してもよい。
【0279】
<プロセスカートリッジ>
前記プロセスカートリッジとは、少なくとも静電潜像担持体と、現像手段とを一体とし、前記トナーを収容し、画像形成装置に対して着脱可能であるものをいう。前記プロセスカートリッジは、更に必要に応じて、帯電手段、露光手段、クリーニング手段、及び除電手段から選択される少なくとも1種を有していてもよい。
【0280】
前記プロセスカートリッジの一例としては、各種画像形成装置に着脱可能に成型されており、静電潜像を担持する静電潜像担持体と、該静電潜像担持体上に担持された静電潜像を前記トナーで現像してトナー像を形成する現像手段を少なくとも有するものなどが挙げられ、必要に応じて、更にその他の手段を有していてもよい。
【実施例0281】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」、は、特に断りのない限り、質量基準である。また、各種の試験及び評価は、下記の方法に従う。
【0282】
以下、非晶質ポリエステル樹脂の合成について説明する。なお、非晶質ポリエステル樹脂を合成する際、表1に示す割合で、植物由来のアルコールモノマー単位を含む樹脂と、非植物由来のモノマー単位を含む樹脂を加えた。
【0283】
<非晶質ポリエステル樹脂B-1の合成>
窒素導入管、脱水管、撹拌機及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、植物由来のプロピレングリコール(Dupont社製)、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物、テレフタル酸、及び植物由来のコハク酸(Bioamber社製)を、植物由来のプロピレングリコールとビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物とがモル比(植物由来のプロピレングリコール/ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物)で30/70であり、テレフタル酸とコハク酸とがモル比(テレフタル酸/コハク酸)で86/14であり、水酸基とカルボキシル基とのモル比であるOH/COOHが1.3となるように仕込み、チタンテトライソプロポキシド(樹脂成分に対して500ppm)と共に常圧、230℃で8時間反応させ、更に10mmHg~15mmHgの減圧で4時間反応後、反応容器に無水トリメリット酸を全樹脂成分に対して1mol%になるように入れ、180℃、常圧、3時間で反応させ、[非晶質ポリエステル樹脂B-1]を得た。得られた[非晶質ポリエステル樹脂B-1]の重量平均分子量は6000であった。
【0284】
<非晶質ポリエステル樹脂B-2の合成>
窒素導入管、脱水管、撹拌機及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、植物由来のプロピレングリコール、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物、テレフタル酸、及び植物由来のコハク酸を、植物由来のプロピレングリコールとビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物とがモル比(植物由来のプロピレングリコール/ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物)で20/80であり、テレフタル酸とコハク酸とがモル比(テレフタル酸/コハク酸)で86/14であり、水酸基とカルボキシル基とのモル比であるOH/COOHが1.3となるように仕込み、チタンテトライソプロポキシド(樹脂成分に対して500ppm)と共に常圧、230℃で8時間反応させ、更に10mmHg~15mmHgの減圧で4時間反応後、反応容器に無水トリメリット酸を全樹脂成分に対して1mol%になるように入れ、180℃、常圧、3時間で反応させ、[非晶質ポリエステル樹脂B-2]を得た。得られた[非晶質ポリエステル樹脂B-2]の重量平均分子量は5500であった。
【0285】
<非晶質ポリエステル樹脂B-3の合成>
窒素導入管、脱水管、撹拌機及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、植物由来のプロピレングリコール、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物、テレフタル酸、及び植物由来のコハク酸を、植物由来のプロピレングリコールとビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物とがモル比(植物由来のプロピレングリコール/ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物)で4/96であり、テレフタル酸とコハク酸とがモル比(テレフタル酸/コハク酸)で86/14であり、水酸基とカルボキシル基とのモル比であるOH/COOHが1.3となるように仕込み、チタンテトライソプロポキシド(樹脂成分に対して500ppm)と共に常圧、230℃で8時間反応させ、更に10mmHg~15mmHgの減圧で4時間反応後、反応容器に無水トリメリット酸を全樹脂成分に対して1mol%になるように入れ、180℃、常圧、3時間で反応させ、[非晶質ポリエステル樹脂B-3]を得た。得られた[非晶質ポリエステル樹脂B-3]の重量平均分子量は6500であった。
【0286】
<非晶質ポリエステル樹脂B-4の合成>
窒素導入管、脱水管、撹拌機及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、植物由来のプロピレングリコール、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物、テレフタル酸、及び植物由来のコハク酸を、植物由来のプロピレングリコールとビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物とがモル比(植物由来のプロピレングリコール/ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物)で40/60であり、テレフタル酸とコハク酸とがモル比(テレフタル酸/コハク酸)で86/14であり、水酸基とカルボキシル基とのモル比であるOH/COOHが1.3となるように仕込み、チタンテトライソプロポキシド(樹脂成分に対して500ppm)と共に常圧、230℃で8時間反応させ、更に10mmHg~15mmHgの減圧で4時間反応後、反応容器に無水トリメリット酸を全樹脂成分に対して1mol%になるように入れ、180℃、常圧、3時間で反応させ、[非晶質ポリエステル樹脂B-4]を得た。得られた[非晶質ポリエステル樹脂B-4]の重量平均分子量は6000であった。
【0287】
<非晶質ポリエステル樹脂B-0の合成>
窒素導入管、脱水管、撹拌機及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物、テレフタル酸、及びアジピン酸を、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物とビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物とがモル比(ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物/ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物)で60/40であり、テレフタル酸とアジピン酸とがモル比(テレフタル酸/アジピン酸)で97/3であり、水酸基とカルボキシル基とのモル比であるOH/COOHが1.3となるように仕込み、チタンテトライソプロポキシド(樹脂成分に対して500ppm)と共に常圧、230℃で8時間反応させ、更に10mmHg~15mmHgの減圧で4時間反応後、反応容器に無水トリメリット酸を全樹脂成分に対して1mol%になるように入れ、180℃、常圧、3時間で反応させ、[非晶質ポリエステル樹脂B-0]を得た。得られた[非晶質ポリエステル樹脂B-0]の重量平均分子量は7000であった。
【0288】
<マスターバッチ(MB)の調製>
水1,200部、カーボンブラック(デクサ社製、Printex35、)〔DBP吸油量=42mL/100mg、pH=9.5〕500部、及び[非晶質ポリエステル樹脂B-1]500部を加え、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)で混合し、混合物を2本ロールを用いて150℃で30分間混練後、圧延冷却しパルペライザーで粉砕し、[マスターバッチMB-1]を得た。
【0289】
<ポリエチレンテレフタレート(PET)の導入>
フレーク状のリサイクルPET(協栄J&T環境株式会社製)を、上記の[非晶質ポリエステル樹脂(B-1)~(B-0)]の材料を混合する際に、表1の固形分の割合となるように混合した。
【0290】
(実施例1)
<油相の調製>
[非晶質ポリエステル樹脂B-1]830部、前記リサイクルPET20部、[マスターバッチMB-1]100部(顔料)を容器に入れ、TKホモミキサー(プライミクス株式会社製)で5,000rpmで60分間混合し、[油相1]を得た。
なお、上記配合量は、各原材料における固形分の配合量を示す。
【0291】
<水相の調製>
水990部、ドデシル硫酸ナトリウム20部、及び酢酸エチル90部を混合撹拌し、乳白色の液体を得た。これを[水相1]とした。
【0292】
<乳化>
[油相1]700部をTKホモミキサーで、回転数8,000rpmで撹拌しながら28%アンモニア水20部を加え、10分間混合した後、[水相1]1,200部を徐々に滴下していき、[乳化スラリー1]を得た。
【0293】
<脱溶剤>
撹拌機及び温度計をセットした容器に、[乳化スラリー1]を投入し、30℃180分脱溶剤した後、[脱溶剤スラリー1]を得た。
【0294】
<シェル用樹脂の調製>
実施例1に記載の油相の調整において[非晶質ポリエステル樹脂B-1]を[非晶質ポリエステル樹脂B-0]に置換えた以外は実施例1に記載の通りに作製したものを[脱溶剤スラリー5]とした。
[脱溶剤スラリー1]に3%塩化マグネシウム溶液50部を滴下して更に5分攪拌した後、50℃に昇温し、[脱溶剤スラリー5]を入れて、再度3%塩化マグネシウム溶液50部を滴下して更に5分攪拌した後、冷却し、シェル用樹脂として[シェルA-1]を得た。
【0295】
<凝集>
[脱溶剤スラリー1]1500部に、3%塩化マグネシウム溶液100部を滴下して更に5分攪拌した後、60℃に昇温し、粒径が5.0μmになったところで[シェルA-1]100部を滴下し、3%塩化マグネシウム溶液100部を更に滴下して5分間攪拌した後、65℃に昇温し、塩化ナトリウムを50部添加して凝集工程を終了し、[凝集スラリー1]を得た。
【0296】
<融着>
[凝集スラリー1]を攪拌しながら70℃に加熱して、所望の平均円形度である0.957になったところで冷却し、[分散スラリー1]を得た。
【0297】
<洗浄・乾燥>
[分散スラリー1]100部を減圧濾過した後、下記(1)~(4)の操作を行った。
(1):濾過ケーキにイオン交換水100部を加え、TKホモミキサーで混合(回転数12,000rpmで10分間)した後濾過した。
(2):(1)の濾過ケーキに10%水酸化ナトリウム水溶液100部を加え、TKホモミキサーで混合(回転数12,000rpmで30分間)した後、減圧濾過した。
(3):(2)の濾過ケーキに10%塩酸100部を加え、TKホモミキサーで混合(回転数12,000rpmで10分間)した後濾過した。
(4):(3)の濾過ケーキにイオン交換水300部を加え、TKホモミキサーで混合(回転数12,000rpmで10分間)した後濾過した。
【0298】
上記(1)~(4)の操作を2回行い、[濾過ケーキ1]を得た。
[濾過ケーキ1]を循風乾燥機にて45℃で48時間乾燥し、目開き75μmのメッシュで篩い分けし、トナー母体粒子となる[樹脂粒子1]を得た。
【0299】
<外添剤処理工程>
[樹脂粒子1]100部に対して、外添剤として疎水性シリカ(クラリアント株式会社製、HDK-2000)2.0部をヘンシェルミキサーにて混合し、目開き500μmメッシュの篩を通過させ、[トナー1]を得た。
【0300】
添加する樹脂、シェル用樹脂、リサイクルPET、MB、の種類と添加部数を、表1に記載した通り変更した以外は[樹脂粒子1]と同様に[樹脂粒子2]~[樹脂粒子8]を作製し、[トナー1]と同様の方法で[トナー2]~[トナー8]を作製し、[トナー2]~[トナー4]を実施例2~4とし、[トナー5]~[トナー8]を比較例1~4とした。
【0301】
実施例1~4,比較例1~4のトナーの環境対応性、耐久性、低温定着性の評価を行った。各評価の条件を以下に示す。結果は、表1に示す通りである。
【0302】
<樹脂粒子(トナー)の粒子径>
樹脂粒子(トナー)の粒子径は、コールターマルチサイザーIII(コールター社製)で測定した。樹脂粒子の粒子径の測定は、以下の通り行った。
【0303】
まず、電解液100mL中に分散剤として界面活性剤(ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、東京化成社製)を2mL加えた。なお、電解液は、1級塩化ナトリウムを用いて約1%NaCl水溶液を調製したものであり、ISOTON-II(コールター社製)を用いた。電解液に界面活性剤を加えた混合液に、更に測定試料を固形分にして10mg加え、試料が懸濁した電解液を得た。
【0304】
試料を懸濁した電解液は、超音波分散器で約1~3分間分散処理を行い、コールターマルチサイザーIIIにより、アパーチャーとして100μmアパーチャーを用いて、トナーの体積及び個数を測定して、体積分布と個数分布を算出した。得られた分布から、トナーの体積平均粒径(Dv)を求めた。
【0305】
<平均粒子径、平均円形度>
樹脂粒子(トナー)の平均粒子径、平均円形度の計測には、フロー式粒子像分析装置(シスメックス株式会社製、FPIA-3000)を用いた。
【0306】
具体的な測定方法としては、容器中の予め不純固形物を除去した水100~150ml中に分散剤として界面活性剤、好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩を0.1~0.5ml加え、更に測定試料を0.1~0.5g程度加えた。試料を分散した懸濁液は超音波分散器で約1~3分間分散処理を行い、分散液濃度を3000~1万個/μLとして装置により平均粒子径、平均円形度、及び円形度の標準偏差(SD)を測定した。
【0307】
ただし、粒子径は円相当径とし、平均粒子径は円相当径(個数基準)により求め、フロー式粒子像分析装置の解析条件は以下の条件とした。
粒子径限定:0.5μm≦円相当径(個数基準)≦200.0μm
粒子形状限定:0.93<円形度≦1.00
【0308】
また、本実施形態において平均円形度の定義は次の通りである。
(平均円形度)=(投影面積と等しい円の周囲長)/(投影像の周囲長)
【0309】
<分子量の測定>
表1の[B-0]~[B-4]の樹脂の分子量を、以下の方法で測定した。
【0310】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定装置:(東ソー社製、GPC-8220GPC)
カラム:TSKgel SuperHZM-H 15cm 3連(東ソー社製)
温度:40℃
溶媒:THF
流量:0.35mL/min
試料:0.15質量%の試料を100μL注入
試料の前処理:各樹脂をテトラヒドロフランTHF(安定剤含有、和光純薬製)に0.15質量%で溶解した後に、0.2μmフィルターで濾過し、その濾液を試料として用いた。THF試料溶液を100μL注入して測定した。
【0311】
試料の分子量測定にあたっては、試料の有する分子量分布を、数種の単分散ポリスチレン標準試料により作製された検量線の対数値とカウント数との関係から算出した。
【0312】
検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては、ShowdexSTANDARD(昭和電工社製)のStd.No S-7300、S-210、S-390、S-875、S-1980、S-10.9、S-629、S-3.0、S-0.580を用いる。検出器にはRI(屈折率)検出器を用いた。
【0313】
<トナー構成成分の分析方法>
各トナーを構成する樹脂における、植物由来のアルコールモノマー単位やPET由来モノマー単位、PETを除く非植物由来のモノマー単位の質量比及びモル比は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により分離を行い、その分離した各成分について後述の分析手法を採ることで算出し、定性評価を行った。
【0314】
上記分析による定性評価は、反応試薬(10%Tetramethyl ammonium hydroxide(TMAH)/Methanol溶液)による300℃のガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)により、樹脂構造中のエステル結合部をメチル化によるソフトな分解から、主な構成成分を推定することで行った。
【0315】
<植物由来成分率の測定>
表1の[B-1]~[B-4]の樹脂と、[A-1]~[A―5]の樹脂を、それぞれ1gずつ100mLのクロロホルム中に投入し、25℃の条件下、30分間攪拌しながら可溶分が溶解した溶解液を得た。これを目開き0.2μmのメンブランフィルターにて濾過し、各樹脂のクロロホルム可溶分を得た。
前記クロロホルム可溶分を45℃にて24時間乾燥させたものを燃焼させ、そのCO2(二酸化炭素)を還元し、C(グラファイト)を得た。
該C(グラファイト)の放射性炭素同位体14C濃度を、加速器質量分析装置(AMS:Accelerator Mass Spectroscopy、Beta Analytic社製)を用いて計測した。
計測した14C濃度を、下記式に代入することにより、植物由来成分率を算出した。
各樹脂中の植物由来成分率(%)=14C濃度(pMC)/107.5×100 ・・・式 (1)
【0316】
上記で求めた植物由来成分率の値を用いて、各樹脂における植物由来のモノマー単位、及び植物由来のアルコールモノマー単位の量を求めた。
【0317】
<シェルの厚み>
作製したトナーをエポキシ系樹脂に包埋して硬化させた。ウルトラミクロトーム(Leica社製、ULTRACUT UCT、ダイヤナイフ使用)でトナーの超薄切片(100nm厚さ前後)を作製した。
【0318】
四酸化ルテニウム、あるいは四酸化オスミウム、あるいは別の染色剤で試料をガス暴露し、コアとシェル層の部分に識別染色する。暴露時間は、観察時のコントラストにより適宜調整する。その後、透過型電子顕微鏡(TEM)(JEOL社製、JEM-2100)により加速電圧100kVで観察した。
【0319】
また、選択エッチング等別の手段で組成コントラストを付与し、その前処理後に透過型顕微鏡で観察し、コア層とシェル層を評価した。
実施例1~4および比較例1~3のシェル層にはドメイン粒子が含まれていたが、比較例4のシェル層には、ドメイン粒子が見られなかった。
【0320】
観察したトナーの断面像は市販の画像処理ソフト(Image-Pro Plus 5.1、Media Cybernetics社製)を利用して2値化処理により、コアシェル構造の樹脂粒子の平均円相当径およびコアの平均円相当径を算出した。20のトナー断面を観察し、平均円相当径を求めた。
シェルの厚みは、下式より算出し得られた値とした。
シェルの厚み=コアシェル構造の樹脂粒子の平均円相当径/コアの平均円相当径
【0321】
<表層の樹脂組成の分析>
樹脂粒子又はトナー表層に植物由来のアルコールモノマー単位や、PET由来のモノマー単位の樹脂成分が含まれることを確認する指標として、nanoIRを用いた表層の組成分析によって確認した。
nanoIRのAFMとIRを組合せたナノスケール分解能を実現する分析手法により微粒子表層のIRスペクトルを取得することで組成構成を得た。この分析によって表層に植物由来のアルコールモノマー単位、及びPET由来のモノマー単位の組成が存在するかを識別し、各樹脂粒子又は各トナーの体積平均粒径(Dv)の体積粒径方向にシェル層を10等分した場合の一番外側に存在する樹脂における、植物由来のアルコールモノマー単位の信号ピーク強度とPET由来のモノマー単位の信号ピーク強度の合計に対する、PETを除く非植物由来のモノマー単位の信号ピーク強度の比を求めた。結果を表1に示す。
【0322】
【0323】
表1の[B-1]~[B-4]、[A-1]~[A-5]の樹脂の環境対応樹脂比率から、コアとシェルに含まれる環境対応成分の存在量を割り出して環境対応比率を求め、環境対応性(環境負荷)を判断した。判断基準は以下の通りである。
【0324】
<環境対応性>
[評価基準]
◎:コアおよびシェルの樹脂に植物由来アルコールモノマー単位が20%以上導入され、かつシェル中の非晶質樹脂におけるPET割合が20%以上
○:コアの樹脂に植物由来アルコールモノマー単位が5%以上、かつシェルの樹脂に植物由来アルコールモノマー単位が2%以上導入さている
×:コアの樹脂に植物由来アルコールモノマー単位が5%未満またはシェルの樹脂に植物由来アルコールモノマー単位が2%未満しか導入されていない
【0325】
<耐熱保存性>
熱保存性の評価ガラス容器に実施例1~4,比較例1~4のトナーを充填し、50℃の恒温槽にて24時間放置した。各トナーを24℃に冷却し、針入度試験(JIS K2235-1991)にて針入度を測定する。針入度に基づく熱保存性の判定基準は次のとおりである。
○…25mm以上
△…10~25mm
×…10mm未満
【0326】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0327】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1>第1の樹脂と第2の樹脂とを有するコアシェル構造の樹脂粒子であって、
前記第1の樹脂は、アルコールモノマー単位100mol%中、植物由来のアルコールモノマー単位を5mol%以上、30mol%以下含み、
前記第2の樹脂は、アルコールモノマー単位100mol%中、植物由来のアルコールモノマー単位を2mol%以上、30mol%以下含み、
前記コアシェル構造におけるシェル層を、直径方向に10等分した場合の一番外側に存在する樹脂において、nano IRで測定して得られる植物由来のアルコールモノマー単位の信号ピーク強度と、PET及びPBTの少なくともいずれかに由来するモノマー単位の信号ピーク強度の合計に対し、PET及びPBTを除く非植物由来の樹脂のモノマー単位の信号ピーク強度が5倍以上であることを特徴とする樹脂粒子。
<2>前記第2の樹脂100質量%に含まれるPET及び/又はPBT由来の量が40質量%以下である、前記<1>に記載の樹脂粒子。
<3>前記シェル層中にドメイン粒子を含有し、前記ドメイン粒子は前記コアシェル構造におけるコアに含まれる樹脂を含有する、前記<1>または<2>に記載の樹脂粒子。
<4>前記シェル層の厚みが、(前記コアシェル構造の樹脂粒子の平均円相当径/コアの平均円相当径)=1.005以上1.5以下である、前記<1>、<2>または<3>に記載の樹脂粒子。
<5>前記<1>、<2>、<3>、または<4>に記載の樹脂粒子を含むことを特徴とするトナー。
<6>前記<5>に記載のトナーを含有することを特徴とする現像剤。
<7>前記<6>に記載のトナーを収容することを特徴とするトナー収容ユニット。
【0328】
前記<1>から<4>のいずれかに記載の樹脂粒子、前記<5>に記載のトナー、前記<6>に記載の現像剤、前記<7>に記載のトナー収容ユニットは、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。