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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078963
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】波長校正方法、および原子吸光光度計
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/31 20060101AFI20240604BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G01N21/31 610B
G01N21/27 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191616
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 和子
(72)【発明者】
【氏名】西村 崇
(72)【発明者】
【氏名】奥本 豊治
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩康
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 芳昭
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059BB08
2G059CC02
2G059DD01
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE12
2G059FF08
2G059GG03
2G059HH01
2G059HH02
2G059HH03
2G059JJ05
2G059MM04
2G059MM14
(57)【要約】
【課題】原子吸光光度計において、Hgのホロカソードランプに限定せずに、様々な元素のホロカソードランプであっても共通の波長による波長校正を実現する。
【解決手段】希ガスが封入されたホロカソードランプを用いる原子吸光光度計における波長校正方法は、前記希ガスの発光線のうち、波長校正に用いられる波長を定義したデータベースに基づいて、波長校正用の波長を設定する設定工程と、前記波長校正用の波長を基準とした第1の波長範囲を走査することにより得られる最大の強度を有する第1の波長に基づいて、波長校正を行う校正工程と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希ガスが封入されたホロカソードランプを用いる原子吸光光度計における波長校正方法であって、
前記希ガスの発光線のうち、波長校正に用いられる波長を定義したデータベースに基づいて、波長校正用の波長を設定する設定工程と、
前記波長校正用の波長を基準とした第1の波長範囲を走査することにより得られる最大の強度を有する第1の波長に基づいて、波長校正を行う校正工程と、
を有する波長校正方法。
【請求項2】
前記校正工程は、前記第1の波長を基準とした第2の波長範囲を走査することにより、前記第1の波長の強度の第1の割合以上であり、かつ、前記第1の波長よりも小さい強度を有する第2の波長が検出された場合、前記第1の波長を用いて波長校正を行う、請求項1に記載の波長校正方法。
【請求項3】
前記校正工程は、前記第1の波長を基準とした前記第2の波長範囲を走査することにより、前記第2の波長が検出されなかった場合、前記波長校正を行わない、請求項2に記載の波長校正方法。
【請求項4】
前記校正工程は、前記第1の波長を基準とした第2の波長範囲を走査することにより、前記第1の波長以上の強度を有する第2の波長が検出された場合、前記第2の波長を基準とした第3の波長範囲を更に走査し、前記第2の波長の強度の第2の割合以上であり、かつ、前記第2の波長よりも小さい強度を有する第3の波長が検出された場合、前記第2の波長を用いて波長校正を行う、請求項1に記載の波長校正方法。
【請求項5】
前記校正工程は、前記第2の波長を基準とした前記第3の波長範囲を走査することにより、前記第3の波長が検出されなかった場合、前記波長校正を行わない、請求項4に記載の波長校正方法。
【請求項6】
前記校正工程は、前記設定工程にて設定された波長校正用の波長に基づいて、走査する波長範囲を規定する、請求項1に記載の波長校正方法。
【請求項7】
前記希ガスは、Neガスである、請求項1に記載の波長校正方法。
【請求項8】
前記Neガスの波長校正に用いられる波長は、319.9nm、332.4nm、692.9nm、703.2nm、717.4nm、724.5nm、748.9nm、837.8nmのうちの少なくともいずれかを含む、請求項7に記載の波長校正方法。
【請求項9】
希ガスが封入されたホロカソードランプを用いる原子吸光光度計であって、
前記希ガスの発光線のうち、波長校正に用いられる波長を定義したデータベースに基づいて、波長校正用の波長を設定する設定手段と、
前記波長校正用の波長を基準とした第1の波長範囲を走査することにより得られる最大の強度を有する第1の波長に基づいて、波長校正を行う校正手段と、
を有する原子吸光光度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長校正方法、および原子吸光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属元素の濃度等を測定する原子吸光光度計では、一般に波長駆動機構の波長の校正には、Hg(水銀)を用いたホロカソードランプ(HCL)や、Hgを用いた他の光源ランプを利用している。このような光源では、Hgの発光線(輝線)である253.7nm、546.1nm、871.6nm等の発光線を走査し、波長差を計測することで波長校正を行っている。
【0003】
計測の際の波長校正方法には様々な手法が知られている。例えば、特許文献1~特許文献3では、分光光度計を対象として、波長校正を行う構成が開示されている。例えば、特許文献2では、安価な機構部品を用いて波長の校正を行う手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6677107号公報
【特許文献2】特開2000-136965号公報
【特許文献3】特表2021-522492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、原子吸光光度計にて用いられるホロカソードランプは、測定に利用する元素ごとに、元素に対応した波長の異なる輝線を生じさせる。そのため、測定対象に応じて、複数種類の元素の中から、所望の元素を用いたホロカソードランプを準備する必要がある。
【0006】
Hg以外の元素を用いるホロカソードランプを用いる場合でも、Hgを用いるホロカソードランプと同様に発光線を走査し、波長差を計測することで波長校正を行いたいという要求がある。しかしながら、Hg以外の元素のホロカソードランプの場合、目的とする発光線の近傍に複数の発光線が存在することに起因して、波長校正が困難になる場合がある。また、ホロカソードランプでは利用する元素ごとに波長が異なってしまうため、共通の波長による波長校正が困難であるという課題もある。
【0007】
ホロカソードランプは放電管であり、その内部には希ガスが封入されている。従来のホロカソードランプの構成において、例えば、Ne(ネオン)が封入ガスとして共通して用いられるが、Neの発光線は上述したように複数存在するため、このような発光線は波長校正には用いられてこなかった。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑み、測定光となる光束を発出する光源にホロカソードランプを用いる原子吸光光度計において、Hgのホロカソードランプに限定せずに、様々な元素のホロカソードランプであっても共通の波長による波長校正を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成を有する。すなわち、希ガスが封入されたホロカソードランプを用いる原子吸光光度計における波長校正方法であって、
前記希ガスの発光線のうち、波長校正に用いられる波長を定義したデータベースに基づいて、波長校正用の波長を設定する設定工程と、
前記波長校正用の波長を基準とした第1の波長範囲を走査することにより得られる最大の強度を有する第1の波長に基づいて、波長校正を行う校正工程と、
を有する波長校正方法。
【0010】
また、本発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、希ガスが封入されたホロカソードランプを用いる原子吸光光度計であって、
前記希ガスの発光線のうち、波長校正に用いられる波長を定義したデータベースに基づいて、波長校正用の波長を設定する設定手段と、
前記波長校正用の波長を基準とした第1の波長範囲を走査することにより得られる最大の強度を有する第1の波長に基づいて、波長校正を行う校正手段と、
を有する原子吸光光度計。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、原子吸光光度計において、Hgのホロカソードランプに限定せずに、様々な元素のホロカソードランプであっても共通の波長による波長校正を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る原子吸光光度計を用いる測定装置の構成例を示す概略図。
図2】本発明の一実施形態に係る波長校正処理のフローチャート。
図3】本発明の一実施形態に係るデータベースの構成例を示す概略図。
図4】本発明の一実施形態に係る波長校正の具体例を説明するためのグラフ図。
図5】本発明の一実施形態に係る波長校正の具体例を説明するためのグラフ図。
図6】本発明の一実施形態に係る波長校正の具体例を説明するためのグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を説明するための一実施形態であり、本発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0014】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態について説明を行う。
【0015】
[装置構成]
図1は、本発明に係る波長校正方法を適用可能な原子吸光光度計100の構成例を示す概略図である。原子吸光光度計100は、制御部101、操作部102、表示部103、記憶部104、IF(インターフェース)部105、および測定部110を含んで構成される。
【0016】
制御部101は、原子吸光光度計100全体の制御を司る。制御部101は、例えば、測定部110による試料の測定動作や、得られた測定結果に基づいて分析処理などを行う。制御部101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)のうち少なくとも1つを用いて構成されてよい。制御部101が、記憶部104に記憶された各種プログラムを読み出して実行することにより、制御部101における各種機能を実現してよい。
【0017】
また、制御部101は、操作部102を介して設定パラメータや各種情報を受け付け、当該情報に基づいて原子吸光光度計100を動作させる。なお、本実施形態においては、原子吸光光度計100の各部位を制御するための制御部101が、各部位を包括的に制御するものとして説明するが、部位ごとに別個の制御部を設け、それらが連携することで原子吸光光度計100が動作するような構成であってもよい。また、本実施形態では、制御部101と、測定部110が一体となった装置構成の例を示すが、これに限定するものではなく、制御部(例えば、情報処理装置)と測定部が個々の装置として構成され、それらが連携して、後述する動作を実施するような構成であってもよい。
【0018】
操作部102は、原子吸光光度計100のユーザから、各種指示や設定を受け付けるためのUI(User Interface)部である。表示部103は、測定結果や入力されたパラメータ等を表示するための表示部である。なお、操作部102と表示部103とが一体となったタッチパネルディスプレイなどが用いられてもよい。記憶部104は、原子吸光光度計100における測定動作に用いられる各種プログラムや設定データ等が保持される記憶領域である。記憶部104は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)、またはRAM(Random Access Memory)等の揮発性や不揮発性の記憶装置により構成される。IF部105は、外部装置と通信するための通信部などにより構成されるインターフェースである。
【0019】
測定部110は、制御部101からの指示に基づき、試料の測定を行う。測定部110は、ホロカソードランプ111、バーナ112、回折格子113、スリット114、および検出器115を含んで構成される。また、光源であるホロカソードランプ111からの光の光路上には、複数の反射部材が設置される。
【0020】
ホロカソードランプ111は、測定部110の輝光光源として機能し、着脱可能に構成される。ホロカソードランプ111は、1つのみが装着されてもよいし、複数が装着され、計測の際に切り替え可能に構成されてもよい。ホロカソードランプ111は、所定の波長の光を発出するために、測定元素に対応した複数種類の元素のうちのいずれかを利用する。よって、測定部110は、利用する元素の種類に応じた複数種類のホロカソードランプ111が利用可能である。本実施形態に係るホロカソードランプ111には、共通的にNe(ネオン)を封入ガスとして用いる。ホロカソードランプ111は、制御部101からの指示に基づき、発出する光の量やタイミングが制御される。
【0021】
バーナ112は、測定対象である試料を燃やし、原子の状態にさせるための原子化部としての機能を有する。なお、本実施形態では、試料の原子化法として、フレーム法を例に挙げて説明するが、これに限定するものではなく、例えば、グラファイト炉法、水素化物発生法、または還元気化法などが用いられてもよい。バーナ112にて原子化された試料に対して、ホロカソードランプ111による輝光が照射される。
【0022】
回折格子113は、分光器として機能し、所定の波長の単色光を得るために光を分離する。回折格子113は、制御部101の制御により、受光する角度を調整可能に構成される。より具体的には、回折格子113には回転駆動機構(不図示)が設けられ、回転駆動により回折格子113の角度を変えることで、光から任意の波長の単色光を取り出す。不図示の回転駆動機構は、例えば、モータや減速機構などを含んで構成される。単色光を得るための精度は、回折格子113の角度制御の精度に依存する。なお、図1の例では、反射型の回折格子の例を示しているが、透過型の回折格子が用いられてもよい。また、プリズムなどの分光素子が用いられてもよい。スリット114は、測定部110の持つ分解能を調整する。スリット114は、回折格子113の前後の光路それぞれにて機能するように構成され、それぞれの光路上にて測定部110の持つ分解能を調整する。検出器115は、スリット114からの光を受光して、その光量を検出する。検出されたパラメータは、制御部101に通知される。
【0023】
したがって、本実施形態に係る原子吸光光度計100の測定部110において、ホロカソードランプ111から発出される光は、バーナ112にて原子化された試料、スリット114、回折格子113、スリット114、検出器115を通る光路を形成する。
【0024】
(Neガスの利用)
本実施形態では、複数種類のホロカソードランプ111に共通的に封入されているNeガスに着目し、これを利用することで、ホロカソードランプ111の種類に関わらず利用可能な波長校正方法を提供する。
【0025】
上述したように、Neの発光線は、例えば、Hgの発光線と比べて、多数の発光線が存在する。そこで、本実施形態では、Neの発光線のうち、波長校正に利用可能な発光線の情報に関し、データベース(DB)を予め定義する。図3は、本実施形態に係るDB300の構成例を示す。ここでは、Neの複数の発光線の波長のうち、波長校正に利用可能な波長として、8つを例に挙げて説明する。
【0026】
DB300では、8つのNeの波長とこれらそれぞれに対応する強度、そして、波長間の波長差が定義される。波長校正に利用可能なNeの波長の例として、319.9、332.4、692.9、703.2、717.4、724.5、748.9、837.8[nm]を用いる。具体的なDB300の利用方法については、フローチャート等を用いて後述する。
【0027】
また、本実施形態に係る測定部110の回折格子113は、図3に示すDB300にて特定した、隣接する波長間にて誤検出が生じない精度にて駆動制御が行われる。つまり、回折格子113に設けられた回転駆動機構は、DB300に定義されている波長の誤検出が生じない程度にて回転角の制御が可能であるものとする。
【0028】
[波長校正処理]
図2は、本実施形態に係る原子吸光光度計100における波長校正処理のフローチャートである。本実施形態において、本処理フローは、制御部101が記憶部104に記憶されたプログラムを読み出して実行することで実現されてよい。本処理フローは、原子吸光光度計100が起動した際に実行してもよいし、ユーザの指示等に基づいて任意のタイミングで実行されてもよい。
【0029】
S201にて、原子吸光光度計100は、ホロカソードランプ111が装着されているか否かを判定する。ここでの判定は、例えば、ホロカソードランプ111の装着を検出するセンサ(不図示)の検出結果に基づいて行われてよい。ホロカソードランプ111が装着されている場合(S201にてYES)、原子吸光光度計100の処理は、S203へ進む。一方、ホロカソードランプ111が装着されていない場合(S201にてNO)、原子吸光光度計100の処理は、S202へ進む。
【0030】
S202にて、原子吸光光度計100は、ホロカソードランプ111が装着されていないことを、表示部103等を介してユーザに通知し、装着を促す。そして、原子吸光光度計100の処理はS201へ戻り、ホロカソードランプ111の装着が行われるまで待機する。なお、S201の判定処理において、ホロカソードランプ111の装着の有無の他、装着されているホロカソードランプ111の種類を判定するような構成であってもよい。この場合において、装着されているホロカソードランプ111の封入ガスが、上記のDB300に対応したNeガスではない場合には、ホロカソードランプ111が装着されていないものとして扱ってもよい。また、装着されているホロカソードランプ111がHgを用いるホロカソードランプである場合には、従来のHgの発光線を用いた波長校正処理を行うような構成であってもよい。
【0031】
S203にて、原子吸光光度計100は、予め定義され、記憶部104に記憶されているDB300を参照し、校正用ピーク波長を設定する。ここでの校正用ピーク波長の設定では、DB300に示される8つのNeの波長の中からいずれかが選択される。ここでの選択方法は特に限定するものでは無いが、波長を走査する際により精度良く検出するためには、例えば、図3のDB300に示す強度の値が高い波長を選択することが好ましい。または、波長校正の精度を向上させる帯域として着目している波長に基づいて選択してよい。例えば、図3に示すDB300では、Neの波長が320nm付近と、720nm付近、830nm付近に分けられるが、これらの帯域ごとに着目して波長校正を行ってもよい。
【0032】
S204にて、原子吸光光度計100は、予め規定された初期値としてのパラメータを用いて、S203にて設定された校正用ピーク波長付近における第1の波長範囲を走査する。より具体的には、制御部101が回折格子113の回転駆動機構を駆動させることで、波長の走査が行われる。ここでの第1の波長範囲は特に限定するものではないが、例えば、校正用ピーク波長を基準として予め規定された範囲(例えば、±10nm)であってよい。もしくは、第1の波長範囲は、校正用ピーク波長とその近傍のNeの波長との間の波長差に基づいて設定されてもよい。例えば、DB300を参照すると、校正用ピーク波長が724.5nmと設定されている場合、近傍のNeの波長は717.4nmと748.9nmであり、それらとの波長差は7.1nmと24.4nmである。これらに基づき、例えば、隣接する波長との取り違えが生じないように、より小さい波長差である7.1nmに基づいて、第1の波長範囲はこの値以下となるように設定してよい。
【0033】
S205にて、原子吸光光度計100は、S204の走査結果に基づき、第1の波長範囲の中で最も強度が高い位置の波長を波長Aとして設定する。
【0034】
S206にて、原子吸光光度計100は、S205にて設定した波長Aを基準として、第2の波長範囲を走査する。ここでの第2の波長範囲は特に限定するものではないが、例えば、予め規定された範囲(例えば、±10nm)であってもよい。もしくは、第2の波長範囲は、校正用ピーク波長とその近傍のNeの波長との間の波長差に基づいて設定されてもよい。例えば、DB300を参照すると、校正用ピーク波長が724.5nmと設定されている場合、近傍のNeの波長は717.4nmと748.9nmであり、それらとの波長差は7.1nmと24.4nmである。これらに基づき、より小さい波長差である7.1nmに基づいて、第2の波長範囲はこの値以上となるように設定してよい。
【0035】
そして、原子吸光光度計100は、走査の結果、波長Aの強度に対して第1の割合以上のピークを有する波長Bが有るか否かを判定する。ここでの第1の割合は予め規定された割合(例えば、50%)であってよい。もしくは、第1の割合は、DB300に定義された、校正用ピーク波長とその近傍のNeの波長の強度に基づいて設定されてもよい。例えば、DB300を参照すると、校正用ピーク波長が724.5nmと設定されている場合、その強度は800である。また、近傍のNeの波長は717.4nmと748.9nmであり、これらの強度は、700と300である。これらに基づき、校正用ピーク波長の強度(800)と、近傍の波長のより小さい強度(300)との比から、第1の割合を設定してもよい(例えば、300/800=37.5%)。第1の割合以上の波長が複数ある場合には、より強度が高い波長を波長Bとして設定してよい。走査により波長Bが検出できた場合(S206にてYES)、原子吸光光度計100の処理は、S207へ進む。一方、波長Bが検出できなかった場合(S206にてNO)、原子吸光光度計100の処理はS212へ進む。
【0036】
S207にて、原子吸光光度計100は、波長Aと波長Bを比較し、波長Aの方が大きいか否かを判定する。波長Aの方が大きい場合(S207にてYES)、原子吸光光度計100の処理はS208へ進む。一方、波長Aが波長B以下である場合(S207にてNO)、原子吸光光度計100の処理はS209へ進む。
【0037】
S208にて、原子吸光光度計100は、波長Aを校正用ピーク波長に設定する。すなわち、走査にて検出されたピーク位置である波長Aの位置が、S203にて最初に着目した校正用ピーク波長に対応する。したがって、走査にて検出した波長Aの位置と、S203にて設定した校正用ピーク位置とに差が生じている場合には、測定誤差が生じていることとなる。そして、原子吸光光度計100の処理はS213へ進む。
【0038】
S209にて、原子吸光光度計100は、S206にて検出した波長Bを基準として、第3の波長範囲を走査する。ここでの第3の波長範囲は特に限定するものではないが、例えば、予め規定された範囲(例えば、±10nm)であってもよい。もしくは、第3の波長範囲は、校正用ピーク波長とその近傍のNeの波長との間の波長差に基づいて設定されてもよい。例えば、DB300を参照すると、校正用ピーク波長が724.5nmと設定されている場合、近傍のNeの波長は717.4nmと748.9nmであり、それらとの波長差は7.1nmと24.4nmである。これらに基づき、より小さい波長差である7.1nmに基づいて、第3の波長範囲はこの値以上となるように設定してよい。走査対象となる第3の波長範囲は、第2の波長範囲と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
そして、原子吸光光度計100は、走査の結果、波長Bの強度に対して第2の割合以上のピークを有する波長Cが有るか否かを判定する。ここでの第2の割合は予め規定された割合(例えば、50%)であってよい。もしくは、第2の割合は、DB300に定義された、校正用ピーク波長とその近傍のNeの波長の強度に基づいて設定されてもよい。例えば、DB300を参照すると、校正用ピーク波長が724.5nmと設定されている場合、その強度は800である。また、近傍のNeの波長は717.4nmと748.9nmであり、これらの強度は、700と300である。これらに基づき、校正用ピーク波長の強度(800)と、近傍の波長のより小さい強度(300)との比から、第2の割合を設定してもよい(例えば、300/800=37.5%)。第2の割合は、第1の割合と同じであってもよいし、異なっていてもよい。第2の割合以上の波長が複数ある場合には、より強度が高い波長を波長Cとして設定してよい。走査により波長Cが検出できた場合(S209にてYES)、原子吸光光度計100の処理は、S210へ進む。一方、波長Cが検出できなかった場合(S209にてNO)、原子吸光光度計100の処理はS212へ進む。
【0040】
S210にて、原子吸光光度計100は、波長Bと波長Cを比較し、波長Bの方が大きいか否かを判定する。波長Bの方が大きい場合(S210にてYES)、原子吸光光度計100の処理はS211へ進む。一方、波長Bが波長C以下である場合(S210にてNO)、原子吸光光度計100の処理はS212へ進む。
【0041】
S211にて、原子吸光光度計100は、波長Bを校正用ピーク波長に設定する。すなわち、走査にて検出されたピーク位置である波長Bの位置が、S203にて最初に着目した校正用ピーク波長に対応する。したがって、走査にて検出した波長Bの位置と、S203にて設定した校正用ピーク位置とに差が生じている場合には、測定誤差が生じていることとなる。そして、原子吸光光度計100の処理はS213へ進む。
【0042】
S212にて、原子吸光光度計100は、表示部103等を介して、ユーザに波長校正ができない旨のエラーを通知する。ここでの通知方法は特に限定するものではなく、視覚的に画面上で通知してもよいし、聴覚的に音声で通知してもよい。また、波長校正ができなかった際には、ユーザに測定動作を継続するか否かを確認してもよいし、ホロカソードランプ111の交換を促すような通知を行ってもよい。そして、本処理フローを終了する。
【0043】
S213にて、原子吸光光度計100は、設定された校正用ピーク波長に基づいて、波長校正を行う。ここでの波長校正は、予め規定されたNeの波長と、設定された校正用ピーク波長との波長差を用いて行われる。また、波長校正には、実際の試料の測定の際のパラメータ設定や、回折格子113の角度の設定などが含まれてよい。そして、本処理フローを終了する。
【0044】
[制御例]
図4図6は、図2にて示した波長校正処理の途中における具体的な制御例を説明するためのグラフ図である。図4図6の各グラフ図において、横軸は波長を示し、縦軸は走査にて検出された波長の強度を示す。
【0045】
(例1)
図4(a)において、まず、第1の波長範囲400を走査して得られた最高強度の波長401が波長Aとして設定される(図2のS204、S205)。その後、図4(b)に示すように、波長A(ここでは、波長401)を基準として第2の波長範囲410を走査して、波長402が波長Bとして検出されたとする(図2のS206にてYES)。この場合、図4(b)に示すように、波長A(波長401)の方が波長B(波長402)よりも大きいため(図2のS207にてYES)、波長A(波長401)が校正用ピーク波長として設定され、この値が波長校正に用いられる。
【0046】
(例2)
図5(a)において、まず、第1の波長範囲500を走査して得られた最高強度の波長501が波長Aとして設定される(図2のS204、S205)。その後、図5(b)に示すように、波長A(ここでは、波長501)を基準として第2の波長範囲510を走査して、波長503が波長Bとして検出されたとする(図2のS206にてYES)。この場合、図5(b)に示すように、波長A(波長501)が波長B(波長503)以下である(図2のS207にてNO)。この場合、更に、波長B(波長503)を基準として第3の波長範囲530を走査した結果、波長501が波長Aに代えて、波長Cとして検出したとする(S209にてYES)。この場合、図5(c)に示すように、波長B(波長503)の方が波長C(波長501)よりも大きいため(図2のS210にてYES)、波長B(波長503)が校正用ピーク波長として設定され、この値が波長校正に用いられる。
【0047】
(例3)
図6(a)において、まず、第1の波長範囲600を走査して得られた最高強度の波長601が波長Aとして設定される(図2のS204、S205)。その後、図6(b)に示すように、波長A(ここでは、波長601)を基準として第2の波長範囲610を走査した結果、波長Bとして検出されなかったとする(図2のS206にてNO)。この場合、波長校正はできないものとして、エラー表示が行われる(図2のS212)。
【0048】
以上、本実施形態により、原子吸光光度計において、Hgのホロカソードランプに限定せずに、様々な元素のホロカソードランプであっても共通の波長による波長校正を行うことが可能となる。
【0049】
<その他の実施形態>
上記の実施形態では、ホロカソードランプに封入されている希ガスとしてNe(ネオン)を例に挙げて説明したが、これに限定するものではない。ホロカソードランプに共通的に用いられている希ガスを対象としてDBを構成することで本発明を適用可能である。
【0050】
本発明において、上述した1つ以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0051】
また、1つ以上の機能を実現する回路によって実現してもよい。なお、1つ以上の機能を実現する回路としては、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。
【0052】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 希ガスが封入されたホロカソードランプ(例えば、111)を用いる原子吸光光度計(例えば、100)における波長校正方法であって、
前記希ガスの発光線のうち、波長校正に用いられる波長を定義したデータベース(例えば、300)に基づいて、波長校正用の波長を設定する設定工程(例えば、S203)と、
前記波長校正用の波長を基準とした第1の波長範囲を走査することにより得られる最大の強度を有する第1の波長に基づいて、波長校正を行う校正工程(例えば、S204~S213)と、
を有する波長校正方法。
この構成によれば、原子吸光光度計において、Hgのホロカソードランプに限定せずに、様々な元素のホロカソードランプであっても共通の波長による波長校正を実現する。
【0053】
(2) 前記校正工程は、前記第1の波長を基準とした第2の波長範囲を走査することにより、前記第1の波長の強度の第1の割合以上であり、かつ、前記第1の波長よりも小さい強度を有する第2の波長が検出された場合、前記第1の波長を用いて波長校正を行う、(1)に記載の波長校正方法。
この構成によれば、走査結果に応じて、波長校正用の波長を切り替えることができ、構成精度を向上させることが可能となる。
【0054】
(3) 前記校正工程は、前記第1の波長を基準とした前記第2の波長範囲を走査することにより、前記第2の波長が検出されなかった場合、前記波長校正を行わない、(2)に記載の波長校正方法。
この構成によれば、走査結果に応じて、波長校正用の波長を切り替えることができ、構成精度を向上させることが可能となる。
【0055】
(4) 前記校正工程は、前記第1の波長を基準とした第2の波長範囲を走査することにより、前記第1の波長以上の強度を有する第2の波長が検出された場合、前記第2の波長を基準とした第3の波長範囲を更に走査し、前記第2の波長の強度の第2の割合以上であり、かつ、前記第2の波長よりも小さい強度を有する第3の波長が検出された場合、前記第2の波長を用いて波長校正を行う、(1)に記載の波長校正方法。
この構成によれば、走査結果に応じて、波長校正用の波長を切り替えることができ、構成精度を向上させることが可能となる。
【0056】
(5) 前記校正工程は、前記第2の波長を基準とした前記第3の波長範囲を走査することにより、前記第3の波長が検出されなかった場合、前記波長校正を行わない、(4)に記載の波長校正方法。
この構成によれば、走査結果に応じて、波長校正用の波長を切り替えることができ、構成精度を向上させることが可能となる。
【0057】
(6) 前記校正工程は、前記設定工程にて設定された波長校正用の波長に基づいて、走査する波長範囲を規定する、(1)に記載の波長校正方法。
この構成によれば、希ガスの発光線の複数の波長のうち、着目する波長に基づいて走査範囲を規定することが可能となる。
【0058】
(7) 前記希ガスは、Neガスである、(1)に記載の波長校正方法。
この構成によれば、ホロカソードランプに封入されたNeガスの特性に基づいて、波長校正を行うことが可能となる。
【0059】
(8) 前記Neガスの波長校正に用いられる波長は、319.9nm、332.4nm、692.9nm、703.2nm、717.4nm、724.5nm、748.9nm、837.8nmのうちの少なくともいずれかを含む、(7)に記載の波長校正方法。
この構成によれば、ホロカソードランプに封入されたNeガスの発光線の所定の波長に基づいて、波長校正を行うことが可能となる。
【0060】
(9) 希ガスが封入されたホロカソードランプ(例えば、111)を用いる原子吸光光度計(例えば、100)であって、
前記希ガスの発光線のうち、波長校正に用いられる波長を定義したデータベース(例えば、300)に基づいて、波長校正用の波長を設定する設定手段(例えば、101)と、
前記波長校正用の波長を基準とした第1の波長範囲を走査することにより得られる最大の強度を有する第1の波長に基づいて、波長校正を行う校正手段(例えば、101)と、
を有する原子吸光光度計。
この構成によれば、原子吸光光度計において、Hgのホロカソードランプに限定せずに、様々な元素のホロカソードランプであっても共通の波長による波長校正を実現する。
【0061】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0062】
100 原子吸光光度計
101 制御部
102 操作部
103 表示部
104 記憶部
105 IF(インターフェース)部
110 測定部
111 ホロカソードランプ
112 バーナ
113 回折格子
114 スリット
115 検出器
300 データベース(DB)
図1
図2
図3
図4
図5
図6