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特開2024-78964原子吸光光度計の制御方法、および原子吸光光度計
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  • 特開-原子吸光光度計の制御方法、および原子吸光光度計 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078964
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】原子吸光光度計の制御方法、および原子吸光光度計
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/31 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
G01N21/31 610B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191617
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 和子
(72)【発明者】
【氏名】西村 崇
(72)【発明者】
【氏名】奥本 豊治
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩康
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059CC03
2G059EE01
2G059EE12
2G059JJ05
2G059KK01
2G059PP01
(57)【要約】
【課題】原子吸光光度計において、複数の元素に対応して、測定の制御パラメータの変更を行う際の効率化を実現する。
【解決手段】試料に含まれる複数の元素の測定を行う原子吸光光度計の制御方法は、前記複数の元素を第1の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第1の切替時間を算出する第1の算出工程と、予め規定されたソート条件に基づいて、前記第1の測定順を第2の測定順にソートするソート工程と、前記複数の元素を第2の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第2の切替時間を算出する第2の算出工程と、前記第1の切替時間と前記第2の切替時間のうち短い切替時間に対応する測定順を前記試料の測定に用いる測定順として設定する設定工程と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含まれる複数の元素の測定を行う原子吸光光度計の制御方法であって、
前記複数の元素を第1の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第1の切替時間を算出する第1の算出工程と、
予め規定されたソート条件に基づいて、前記第1の測定順を第2の測定順にソートするソート工程と、
前記複数の元素を第2の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第2の切替時間を算出する第2の算出工程と、
前記第1の切替時間と前記第2の切替時間のうち短い切替時間に対応する測定順を前記試料の測定に用いる測定順として設定する設定工程と、
を有する制御方法。
【請求項2】
前記制御パラメータは、測定波長、スリット幅、ホロカソードランプの種類、検出器の印加電圧、燃料ガス流量のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記ソート条件は、前記複数の元素の測定を行う際の制御パラメータの切替において、ソート後の方が、総変化量が小さくなる、または、切替回数が少なくなるように規定される、請求項1に記載の制御方法。
【請求項4】
前記ソート条件は、制御パラメータの設定項目に対して優先度および並び替え条件が設定され、当該優先度の順に設定項目に着目してソートが行われる、請求項1に記載の制御方法。
【請求項5】
複数の設定項目それぞれに対して制御パラメータが規定され、
前記第1の算出工程および前記第2の算出工程では、前記複数の設定項目における制御パラメータの切り替えに要する時間の和を用いて、切替時間を算出する、請求項1に記載の制御方法。
【請求項6】
前記原子吸光光度計は、フレーム式の原子化部を備え、
前記原子化部は、ゼーマン効果を生じさせる磁場発生部を備える、請求項1に記載の制御方法。
【請求項7】
前記磁場発生部は、永久磁石である、請求項6に記載の制御方法。
【請求項8】
試料に含まれる複数の元素の測定を行う原子吸光光度計であって、
前記複数の元素を第1の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第1の切替時間を算出する第1の算出手段と、
予め規定されたソート条件に基づいて、前記第1の測定順を第2の測定順にソートするソート手段と、
前記複数の元素を第2の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第2の切替時間を算出する第2の算出手段と、
前記第1の切替時間と前記第2の切替時間のうち短い切替時間に対応する測定順を前記試料の測定に用いる測定順として設定する設定手段と、
を有する原子吸光光度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子吸光光度計の制御方法、および原子吸光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、同一の試料を測定中に、測定対象となる元素を切り替えながら連続して多元素測定を行う原子吸光光度計が知られている。このような原子吸光光度計では、測定感度および測定精度を保つために、測定元素ごとに最適な制御パラメータが予め定義されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、フレーム式原子吸光光度計において、測定条件の組み合わせに対応する信号電圧の最適値を保持し、測定条件が設定された際に最適値に対応する信号を調整する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-10314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、測定対象となる元素を切り替える際には、制御パラメータの変更を行う必要があり、これに伴って、機械的、処理的な変更処理に時間を要することとなる。上記のような変更処理は、例えば、数分程度の時間を要する。
【0006】
例えば、複数の未知試料の測定を行う場合、一般的には、ある元素に基づく制御パラメータを設定した上で、複数の未知試料を測定する。その後、別の元素に基づく制御パラメータに変更して複数の未知試料に対する測定を繰り返すといった制御が行われる。また、ある1つの未知試料に対し、複数の元素を連続的に測定する場合においては、制御パラメータを順次切り替えて測定を行う。このような変更に要する時間は、変更内容によって様々であり、また、制御パラメータの変更に係る原子吸光光度計の状態が安定するまでの待ち時間も異なる。
【0007】
原子吸光光度計にて複数の元素を測定する場合において、測定時間全体の短縮化が求められている。特に、上述したような制御パラメータの切り替えには、その変更内容に応じて、所要時間に差異が生じるため、より効率的な変更が求められている。特許文献1では、複数の元素の測定を行う際に、より短い測定時間にて測定を可能とする構成については考慮していない。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑み、原子吸光光度計において、複数の元素に対応して測定の制御パラメータの変更を行う際の効率化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成を有する。すなわち、試料に含まれる複数の元素の測定を行う原子吸光光度計の制御方法であって、
前記複数の元素を第1の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第1の切替時間を算出する第1の算出工程と、
予め規定されたソート条件に基づいて、前記第1の測定順を第2の測定順にソートするソート工程と、
前記複数の元素を第2の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第2の切替時間を算出する第2の算出工程と、
前記第1の切替時間と前記第2の切替時間のうち短い切替時間に対応する測定順を前記試料の測定に用いる測定順として設定する設定工程と、
を有する。
【0010】
また、本発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、試料に含まれる複数の元素の測定を行う原子吸光光度計であって、
前記複数の元素を第1の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第1の切替時間を算出する第1の算出手段と、
予め規定されたソート条件に基づいて、前記第1の測定順を第2の測定順にソートするソート手段と、
前記複数の元素を第2の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第2の切替時間を算出する第2の算出手段と、
前記第1の切替時間と前記第2の切替時間のうち短い切替時間に対応する測定順を前記試料の測定に用いる測定順として設定する設定手段と、
を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、原子吸光光度計において、複数の元素に対応して測定の制御パラメータの変更を行う際の効率化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る原子吸光光度計を用いる測定装置の構成例を示す概略図。
図2】本発明の一実施形態に係る制御処理のフローチャート。
図3】本発明の一実施形態に係る制御処理の適用例を説明するための図。
図4】本発明の一実施形態に係る制御処理の適用例を説明するための図。
図5】本発明の一実施形態に係る制御処理の適用例を説明するための図。
図6】本発明の一実施形態に係る制御処理の適用例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を説明するための一実施形態であり、本発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0014】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態について説明を行う。
【0015】
[装置構成]
図1は、本発明に係る制御方法を適用可能な原子吸光光度計100の構成例を示す概略図である。原子吸光光度計100は、制御部101、操作部102、表示部103、記憶部104、IF(インターフェース)部105、および測定部110を含んで構成される。
【0016】
制御部101は、原子吸光光度計100全体の制御を司る。制御部101は、例えば、測定部110による試料の測定動作や、得られた測定結果に基づいて分析処理などを行う。制御部101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)のうち少なくとも1つを用いて構成されてよい。制御部101が、記憶部104に記憶された各種プログラムを読み出して実行することにより、制御部101における各種機能を実現してよい。
【0017】
また、制御部101は、操作部102を介して設定パラメータや各種情報を受け付け、当該情報に基づいて原子吸光光度計100を動作させる。なお、本実施形態においては、原子吸光光度計100の各部位を制御するための制御部101が、各部位を包括的に制御するものとして説明するが、部位ごとに別個の制御部を設け、それらが連携することで原子吸光光度計100が動作するような構成であってもよい。また、本実施形態では、制御部101と、測定部110が一体となった装置構成の例を示すが、これに限定するものではなく、制御部(例えば、情報処理装置)と測定部が個々の装置として構成され、それらが連携して、後述する動作を実施するような構成であってもよい。
【0018】
操作部102は、原子吸光光度計100のユーザから、各種指示や設定を受け付けるためのUI(User Interface)部である。表示部103は、測定結果や入力されたパラメータ等を表示するための表示部である。なお、操作部102と表示部103とが一体となったタッチパネルディスプレイなどが用いられてもよい。記憶部104は、原子吸光光度計100における測定動作に用いられる各種プログラムや設定データ等が保持される記憶領域である。記憶部104は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)、またはRAM(Random Access Memory)等の揮発性や不揮発性の記憶装置により構成される。IF部105は、外部装置と通信するための通信部などにより構成されるインターフェースである。
【0019】
測定部110は、制御部101からの指示に基づき、試料の測定を行う。測定部110は、ホロカソードランプ111、バーナ112、回折格子113、スリット114、および検出器115を含んで構成される。また、光源であるホロカソードランプ111からの光の光路上には、複数の反射部材が設置される。
【0020】
ホロカソードランプ111は、測定部110の輝光光源として機能し、着脱可能に構成される。ホロカソードランプ111は、所定の波長の光を発出するために、複数種類の元素のうちのいずれかを利用する。よって、利用する元素の種類に応じた複数種類のホロカソードランプ111が利用可能である。ホロカソードランプ111は、制御部101からの指示に基づき、射出する光の量やタイミングが制御される。また、本実施形態では、複数のホロカソードランプ111が同時に装着可能であり、測定対象の元素に応じて、利用するホロカソードランプ111を切り替え可能であるとする。
【0021】
バーナ112は、測定対象である試料を燃やし、原子の状態にさせるための機能を有する、いわゆるフレーム法を用いた原子化部として動作する。試料の原子化法として、フレーム法を例に挙げて説明するが、これに限定するものではなく、例えば、グラファイト炉法、水素化物発生法、または還元気化法などが用いられてもよい。バーナ112にて原子化された試料に対して、ホロカソードランプ111による輝光が照射される。
【0022】
回折格子113は、分光器として機能し、所定の波長の単色光を得るために光を分離する。回折格子113は、制御部101の制御により、受光する角度を調整可能に構成される。より具体的には、回折格子113には回転駆動機構(不図示)が設けられ、回転駆動により回折格子113の角度を変えることで、光から任意の波長の単色光を取り出す。不図示の回転駆動機構は、例えば、モータや減速機構などを含んで構成される。単色光を得るための精度は、回折格子113の角度制御の精度に依存する。なお、図1の例では、反射型の回折格子の例を示しているが、透過型の回折格子が用いられてもよい。また、プリズムなどの分光素子が用いられてもよい。スリット114は、測定部110の持つ分解能を調整する。スリット114は、回折格子113の前後の光路それぞれにて機能するように構成され、それぞれの光路上にて測定部110の持つ分解能を調整する。検出器115は、スリット114からの光を受光して、その光量を検出する。検出されたパラメータは、制御部101に通知される。
【0023】
したがって、本実施形態に係る原子吸光光度計100の測定部110において、ホロカソードランプ111から発出される輝光は、バーナ112にて原子化された試料、スリット114、回折格子113、スリット114、検出器115を通る光路を形成する。
【0024】
(制御パラメータ)
本実施形態に係る原子吸光光度計100(フレーム原子吸光光度計)は、複数の元素の測定が可能であり、測定対象となる元素に応じて、測定時の適切な制御パラメータが予め規定される。制御パラメータには様々な設定項目があり、例えば、測定波長、スリット幅、バーナ112における燃料ガスの流量、測定に利用するホロカソードランプ111の種類、ホロカソードランプ111の点灯電流、検出器115の印加電圧などが挙げられる。なお、設定項目はこれらに限定するものではなく、異なる設定項目が含まれてよい。
【0025】
上記のような設定項目に対する制御パラメータの変更を行う場合、その変更内容に応じて、要する時間が異なる。例えば、フレーム式の原子化部にて用いられる燃料ガス流量は、燃料ガスの流量をバルブ(不図示)等で調整した後、目的とする流量にて安定するまでに時間を要する。ここでの安定までの時間は、燃料ガス流量の変更幅の大きさに応じて、例えば、5秒程度の変動幅が生じ得る。また、測定波長は元素ごとに規定されるため、測定対象となる元素の測定順に応じて、波長の変化量が異なる。測定波長の変化量が大きいほど、原子吸光光度計100の機械的変更(例えば、回折格子113の機械的制御)に要する時間が長くなる。ここで要する時間の幅は、例えば、数秒程度となり得る。同様に、スリット幅の変更、ホロカソードランプ111の切り替え、検出器115の印加電圧の変更などにもゼロコンマ数秒~数秒程度の時間を要する。
【0026】
本実施形態では、上記のような様々な設定項目における制御パラメータの切り替えに伴って生じる待機時間に対し、その切り替えの順番を調整することで最適化を行い、待機時間の短縮化を図る。
【0027】
[制御処理]
図2は、本実施形態に係る原子吸光光度計100における制御処理のフローチャートである。本実施形態において、本処理フローは、制御部101が記憶部104に記憶されたプログラムを読み出して実行することで実現されてよい。本処理フローは、原子吸光光度計100が起動した際に実行されてよい。
【0028】
S201にて、原子吸光光度計100は、測定に係る指示を受け付ける。ここでの測定に係る指示は、測定試料の数、測定元素の指定などが挙げられる。測定元素については特に限定するものではないが、例えば、金属元素である69の元素(Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Th、U)のうちの少なくとも1つが指定されてよい。測定に係る指示は、例えば、原子吸光光度計100が表示部103を介してUI(User Interface)画面をユーザに提供し、そのUI画面を介して受け付けてよい。もしくは、予め設定されたリストなどに基づいて、測定に係る指示を受け付けてもよい。
【0029】
S202にて、原子吸光光度計100は、S201にて取得した指示に基づき、指定された測定元素の測定順および制御パラメータを設定する。測定順は、初期値として、測定元素を指定された順を用いてよい。また、上述したように、測定元素に応じて測定の際の制御パラメータは予め規定され、記憶部104にデータベース(DB)として記憶されている。そのため、原子吸光光度計100は、S201にて指定された測定元素に対応する制御パラメータを記憶部104から読み出すことで設定する。制御パラメータの具体的な例については、図3を用いて後述する。
【0030】
S203にて、原子吸光光度計100は、S202にて設定した測定順および制御パラメータに基づき、制御パラメータの切り替えに要する総時間を算出する。ここで算出された時間を、便宜上、「第1の切替総時間」とも称する。例えば、制御パラメータの設定項目それぞれに対して、制御パラメータの変動量ごとに要する時間が予め規定され、記憶部104にデータベース(DB)として記憶されている。そのため、このような情報と、測定順に基づく切り替えの際の変動量に応じて、切り替えに要する切替総時間を算出する。切替総時間の算出には、各設定項目における切り替え時間の和が用いられてよい。なお、複数の設定項目のうちのいずれかを同時並行的に切り替えが可能な場合には、それらの設定項目の切り替え時間のうち、最も長い切替時間を用いてよい。
【0031】
S204にて、原子吸光光度計100は、S202にて設定された測定元素の測定順に対し、各設定項目に対して予め設定されたソート条件に基づいて、ソートを行う。ここでは、スリット幅、燃料ガス流量、測定波長、およびホロカソードランプの種類(ランプNo)の4つの設定項目を例に挙げて説明する。各設定項目には、ソートの際に着目する順に対応する優先度および並び替え条件が設定される。一例として、優先度が、スリット幅>燃料ガス流量>測定波長>ランプNoの順に規定されているとする。更に、並び替え条件として、スリット幅はサイズの昇順、燃料ガス流量は流量の昇順、測定波長は波長の昇順、ランプNoは番号の昇順として規定されているとする。この場合に、優先度の高い設定項目から順に着目して測定順の並び替えを行う。上記の例の場合、最初に「スリット幅」が着目される。制御パラメータの値が同じ場合には、次の優先度の設定項目に着目して並び替えを継続する。なお、上述した優先度や並び替え条件は一例であり、これに限定するものではない。例えば、並び替え条件として降順が用いられてもよい。
【0032】
S205にて、原子吸光光度計100は、S204にてソートされた測定順および制御パラメータに基づき、制御パラメータの切り替えに要する総時間を算出する。ここで算出された時間を、便宜上、「第2の切替総時間」とも称する。ここでの算出処理は、S203と同様に行われる。
【0033】
S206にて、原子吸光光度計100は、S203にて算出した第1の切替総時間と、S205にて算出した第2の切替総時間とを比較し、第2の切替総時間の方が小さいか否かを判定する。第2の切替総時間の方が小さい場合(S206にてYES)、原子吸光光度計100の処理はS207へ進む。一方、第2の切替総時間が第1の切替総時間以上である場合(S206にてNO)、原子吸光光度計100の処理はS208へ進む。
【0034】
S207にて、原子吸光光度計100は、S204にてソートされた測定順(ソート後)にて測定を行うように設定する。そして、原子吸光光度計100の処理はS209へ進む。
【0035】
S208にて、原子吸光光度計100は、S202にて設定された測定順(ソート前)にて測定を行うように設定する。そして、原子吸光光度計100の処理はS209へ進む。
【0036】
S209にて、原子吸光光度計100は、S207またはS208にて設定された測定順および制御パラメータを用いて測定を実行する。そして、本処理フローを終了する。
【0037】
(適用例)
図3は、本実施形態に係る制御処理により行われる測定順のソートを説明するための図である。図3においてパターンAはソート前の状態を示し、パターンBはソート後の状態を示す。本例では、4つの元素(Fe、Ca、Cu、Na)が測定元素として指定されたものとする。ここでは、ソート前の測定順として、Fe→Ca→Cu→Naであるとする。
【0038】
4つの測定元素に対する設定項目(測定波長、スリット幅、ランプNo、検出器印加電圧、燃料ガス流量)が、予め規定されたDBから取得される(図2のS202)。そして、これらの測定順および制御パラメータに基づいて、第1の切替総時間が算出される(図2のS203)。一例として、第1の切替総時間が10.0sであるとする。
【0039】
その後、予め規定されたソート条件に基づいて、パターンBのように並び替えられたとする(図2のS204)。ここでは、ソート後の測定順として、Fe→Na→Cu→Caであるとする。そして、ソート後の測定順および制御パラメータに基づいて、第2の切替総時間が算出される(図2のS205)。一例として、第2の切替総時間が7.0sであるとする。
【0040】
そして、第1の切替総時間(10.0s)と第2の切替総時間(7.0s)との比較を行い、第2の切替総時間の方が小さいため、ソート後の並び順(本例では、パターンB)にて測定が行われることとなる。
【0041】
図4図6は、設定項目ごとの並び替えの効果の例を説明するための図である。図4は、測定波長の設定項目の例を示す。本例では、4つの元素(Cd、Cr、Pb、Zn)が測定元素として指定されたものとする。ここでは、図4(a)に示すようにソート前の測定順として、Cd→Cr→Pb→Znであるとする。また、Cd、Cr、Pb、Znの測定波長は、228.8nm、359.3nm、283.3nm、213.9nmである。
【0042】
この場合において、測定順に従って測定波長を切り替えた場合、その変動量は順に、+130.5nm、-76.0nm、-69.4nmである。その結果、これらの総波長移動距離は、275.9nmとなる。測定波長を切り替える場合、移動距離の変動量と切り替えに要する時間は比例関係となる。切り替えに要する時間は、例えば、原子吸光光度計100の測定部110内の機械的な制御に要する時間などに相当する。したがって、切り替えに要する時間を短縮化するためには、総波長移動距離を短くすることが挙げられる。
【0043】
測定順を、図4(b)に示すように、Zn→Cd→Pb→Crにソートしたとする。この場合、その変動量は順に、+14.9nm、+54.5nm、+76.0nmである。その結果、これらの総波長移動距離は、145.4nmとなる。したがって、ソート前よりも総波長移動距離が短くなるため、切り替えに要する時間が短縮化できることとなる。
【0044】
図5は、燃料ガス流量の設定項目の例を示す。本例では、4つの元素(Cd、Cr、Pb、Zn)が測定元素として指定されたものとする。ここでは、図5(a)に示すようにソート前の測定順として、Cd→Cr→Pb→Znであるとする。また、Cd、Cr、Pb、Znの燃料ガス流量は、1.8L/min、2.5L/min、2.0L/min、1.2L/minである。
【0045】
この場合において、測定順に従って燃料ガス流量を切り替えた場合、その変化量は順に、+0.7L/min、-0.5L/min、-0.8L/minである。その結果、燃料ガス流量の総変化量は、2.0L/minとなる。燃料ガス流量を切り替える場合、燃料ガス流量の変化量と切り替えに要する時間は比例関係となる。切り替えに要する時間は、例えば、原子吸光光度計100の測定部110内の燃料ガス流量の調整動作および燃料ガスの安定化に要する時間などに相当する。したがって、切り替えに要する時間を短縮化するためには、燃料ガス流量の変化の程度、特に燃料ガス流量の総変化量を小さくすることが挙げられる。
【0046】
測定順を、図5(b)に示すように、Zn→Cd→Pb→Crにソートしたとする。この場合、その変化量は順に、+0.6L/min、+0.2L/min、+0.5L/minである。その結果、燃料ガス流量の総変化量は、1.3となる。したがって、ソート前よりも燃料ガス流量の総変化量が小さくなるため、切り替えに要する時間が短縮化できることとなる。
【0047】
図6は、スリット幅の設定項目の例を示す。本例では、4つの元素(Cd、Fe、Na、Pb)が測定元素として指定されたものとする。ここでは、図6(a)に示すようにソート前の測定順として、Cd→Fe→Na→Pbであるとする。また、Cd、Fe、Na、Pbのスリット幅は、1.3nm、0.2nm、0.4nm、1.3nmである。
【0048】
この場合において、測定順に従ってスリット幅を切り替えた場合、3回の変更回数が生じる。スリット幅を切り替える場合、スリット幅の切替回数と切り替えに要する時間は比例関係となる。切り替えに要する時間は、例えば、原子吸光光度計100の測定部110内のスリット114の機械的な制御に要する時間などに相当する。したがって、切り替えに要する時間を短縮化するためには、スリット114の切替回数を減らすことが挙げられる。
【0049】
測定順を、図6(b)に示すように、Cd→Pb→Na→Feにソートしたとする。この場合、スリット114の切替回数は、2回となる。その結果、ソート前よりもスリット114の切替回数が少なくなるため、切り替えに要する時間が短縮化できることとなる。
【0050】
なお、上記の例では、測定波長、燃料ガス流量、スリット幅の切替を例に挙げて説明したが、これ以外の設定項目についても同様に扱うことが可能である。また、原子吸光光度計の構成に応じて、上記以外の設定項目の切替時間を更に考慮してもよい。
【0051】
以上、本実施形態により、原子吸光光度計において、複数の元素に対応して、測定の制御パラメータの変更を行う際の効率化が可能となる。
【0052】
<その他の実施形態>
上記の実施形態にて示した原子吸光光度計の構成は一例であり、測定精度や測定感度などを向上させるために更なる構成を備えていてもよい。例えば、原子吸光光度計は、更にゼーマン効果を発生させるための磁場発生部を備えてもよい。ゼーマン効果による補正を行うことで、信号の安定化時間を短縮し、その結果、測定時間(安定化に要する時間)の短縮とデータの安定性を確保することが可能となる。なお、ゼーマン効果を発生させる磁場発生部の構成については、公知の構成を用いてよいが、例えば、永久磁石を含んで構成されてよい。
【0053】
本発明において、上述した1つ以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0054】
また、1つ以上の機能を実現する回路によって実現してもよい。なお、1つ以上の機能を実現する回路としては、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。
【0055】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 試料に含まれる複数の元素の測定を行う原子吸光光度計(例えば、100)の制御方法であって、
前記複数の元素を第1の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第1の切替時間を算出する第1の算出工程(例えば、S202、S203)と、
予め規定されたソート条件に基づいて、前記第1の測定順を第2の測定順にソートするソート工程(例えば、S204)と、
前記複数の元素を第2の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第2の切替時間を算出する第2の算出工程(例えば、S205)と、
前記第1の切替時間と前記第2の切替時間のうち短い切替時間に対応する測定順を前記試料の測定に用いる測定順として設定する設定工程(例えば、S206~S208)と、
を有する制御方法。
この構成によれば、原子吸光光度計において、複数の元素に対応して測定の制御パラメータの変更を行う際の効率化が可能となる。
【0056】
(2) 前記制御パラメータは、測定波長、スリット幅、ホロカソードランプの種類、検出器の印加電圧、燃料ガス流量のうちの少なくとも1つを含む、(1)に記載の制御方法。
この構成によれば、原子吸光光度計の構成に応じた複数の設定項目の制御パラメータを考慮した効率化が可能となる。
【0057】
(3) 前記ソート条件は、前記複数の元素の測定を行う際の制御パラメータの切替において、ソート後の方が、総変化量が小さくなる、または、切替回数が少なくなるように規定される、(1)に記載の制御方法。
この構成によれば、総変化量または切替回数を考慮したソート条件を設定することが可能となる。
【0058】
(4) 前記ソート条件は、制御パラメータの設定項目に対して優先度および並び替え条件が設定され、当該優先度の順に設定項目に着目してソートが行われる、(1)に記載の制御方法。
この構成によれば、設定項目に対応して優先度を設定でき、当該優先度に基づいてソートを行うことが可能となる。
【0059】
(5) 複数の設定項目それぞれに対して制御パラメータが規定され、
前記第1の算出工程および前記第2の算出工程では、前記複数の設定項目における制御パラメータの切り替えに要する時間の和を用いて、切替時間を算出する、(1)に記載の制御方法。
この構成によれば、各設定項目における切替時間の和を用いて切り替え時間を算出することが可能となる。
【0060】
(6) 前記原子吸光光度計は、フレーム式の原子化部を備え、
前記原子化部は、ゼーマン効果を生じさせる磁場発生部を備える、(1)に記載の制御方法。
この構成によれば、フレーム式の原子吸光光度計を対象として、より精度を向上させるための磁場発生部を備えて測定を行うことが可能となる。
【0061】
(7) 前記磁場発生部は、永久磁石である、(6)に記載の制御方法。
この構成によれば、磁場発生部として永久磁石を用いることができる。
【0062】
(8) 試料に含まれる複数の元素の測定を行う原子吸光光度計(例えば、100)であって、
前記複数の元素を第1の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第1の切替時間を算出する第1の算出手段(例えば、101)と、
予め規定されたソート条件に基づいて、前記第1の測定順を第2の測定順にソートするソート手段(例えば、101)と、
前記複数の元素を第2の測定順にて、前記複数の元素それぞれに対応した制御パラメータを用いて測定を行う際に、制御パラメータの切り替えに要する第2の切替時間を算出する第2の算出手段(例えば、101)と、
前記第1の切替時間と前記第2の切替時間のうち短い切替時間に対応する測定順を前記試料の測定に用いる測定順として設定する設定手段(例えば、101)と、
を有する原子吸光光度計。
この構成によれば、原子吸光光度計において、複数の元素に対応して測定の制御パラメータの変更を行う際の効率化が可能となる。
【0063】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0064】
100 原子吸光光度計
101 制御部
102 操作部
103 表示部
104 記憶部
105 IF(インターフェース)部
110 測定部
111 ホロカソードランプ
112 バーナ
113 回折格子
114 スリット
115 検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6