(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079041
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】光信号受信システム、光信号受信方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 10/60 20130101AFI20240604BHJP
【FI】
H04B10/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191737
(22)【出願日】2022-11-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人情報通信研究機構「革新的情報通信技術研究開発委託研究 /(Beyond 5G通信インフラを高効率に構成するメトロアクセス光技術の研究開発)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】久野 大介
(72)【発明者】
【氏名】寺師 悠平
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AH00
5K102AH11
5K102KA02
5K102KA06
5K102KA39
5K102PB11
5K102PH01
5K102PH13
5K102PH31
5K102RD26
5K102RD28
(57)【要約】
【課題】時間計算量を削減することができる光信号受信システム、光信号受信方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】光信号受信システム1は、光パルスを含む光信号を受信する光信号受信システムであって、受信した光信号をアナログデジタル変換するアナログデジタル変換部20と、アナログデジタル変換部20が変換したデジタル信号を光パルスごとにパルス分割し、パルス分割されたそれぞれの光パルスを複素数の行列に変換し、複数の行列のそれぞれに対してSS(Sakurai-Sugiura)法を用いて複素数平面上で複数の閉曲線を既定し、既定した複数の閉曲線を、複素数平面における実部の大きい順でソートされた複数のグループに分類し、分類した複数のグループの並び順で、複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく送信固有値を判定する演算部30とを備える。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光パルスを含む光信号を受信する光信号受信システムであって、
受信した光信号をアナログデジタル変換するアナログデジタル変換部と、
前記アナログデジタル変換部が変換したデジタル信号を前記光パルスごとにパルス分割し、パルス分割されたそれぞれの前記光パルスを複素数の行列に変換し、複数の前記行列のそれぞれに対してSS(Sakurai-Sugiura)法を用いて複素数平面上で複数の閉曲線を既定し、既定した前記複数の閉曲線を、前記複素数平面における実部の大きい順でソートされた複数のグループに分類し、分類した複数の前記グループの並び順で、前記複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく送信固有値を判定する演算部とを備える
光信号受信システム。
【請求項2】
前記演算部は、前記複数の閉曲線の内部に存在する前記固有値に基づく固有値の数を推定し、分類した複数の前記グループの並び順で、推定した前記固有値の数に基づく送信固有値を判定する
請求項1に記載の光信号受信システム。
【請求項3】
前記演算部は、前記グループごとに、前記固有値に含まれる実部の大きい順で並ぶように前記固有値をソートする
請求項1又は2に記載の光信号受信システム。
【請求項4】
前記演算部は、複数の前記行列のそれぞれから前記固有値を算出するために、前記SS法を用いて複素数平面上で前記複数の閉曲線を既定し、既定した前記複数の閉曲線の内部に存在する前記固有値を抽出し、既定した前記複数の閉曲線を、前記複素数平面における実部の大きい順でソートされた複数の前記グループに分類し、分類した複数の前記グループの並び順で、抽出した前記固有値に基づく送信固有値を判定する
請求項2に記載の光信号受信システム。
【請求項5】
前記演算部は、複数の前記グループ内において重複した前記固有値を削除し、前記固有値が削除した複数の前記グループを出力する
請求項3に記載の光信号受信システム。
【請求項6】
前記演算部は、予め設定された機械学習モデルを含み、前記固有値が削除された前記グループを前記機械学習モデルに入力することで、前記送信固有値を判定する
請求項5に記載の光信号受信システム。
【請求項7】
光パルスを含む光信号を受信する光信号受信方法であって、
受信した光信号をアナログデジタル変換することと、
変換されたデジタル信号を前記光パルスごとにパルス分割し、パルス分割されたそれぞれの前記光パルスを複素数の行列に変換し、複数の前記行列のそれぞれに対してSS(Sakurai-Sugiura)法を用いて複素数平面上で複数の閉曲線を既定し、既定した前記複数の閉曲線を、前記複素数平面における実部の大きい順でソートされた複数のグループに分類し、分類した複数の前記グループの並び順で、前記複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく送信固有値を判定することとを含む
光信号受信方法。
【請求項8】
請求項7に記載の光信号受信方法をコンピュータに実行させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光信号受信システム、光信号受信方法およびプログラムに関する。特に、本開示は、光固有値と呼ばれる光ファイバ伝送特有の情報キャリアの光固有値変調方式を用いた光信号受信システム、光信号受信方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、光固有値変調方式として、光ファイバ中の波長分散および非線形光学効果の影響を受けない理想的な変調方式が開示されている。光固有値は、複素固有値であり、非線形シュレディンガー方程式を逆散乱変換(IST:Inverse Scattering Transform)によって解く際に得られる随伴固有値方程式を行列の固有値問題へと帰着させることによって得られる。固有値問題は、QZ分解を用いたQZ法によって求解され、光信号から光固有値を抽出する。抽出された光固有値は、ニューラルネットワークに入力され、送信機で生成された光固有値の種類を判別する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】A. Hasegawa and T. Nyu, “Eigenvalue Communication,” Journal of lightwave technology, vol.11, no. 3, pp. 395-399, 1993.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1では、得られた行列にQZ法を適用することで光固有値を抽出する。この際、抽出された光固有値が絶対値の大きい順に並んでいるため、非特許文献1では、光固有値の実部の大きい順に並び替えるという処理を行っている。この場合、抽出する固有値の数がnのとき、QZ法では時間計算量O(n3)が必要となり、並び替え処理では平均時間計算量O(nlogn)、最大時間計算量O(n2)が必要となってしまい、固有値の数nが大きいほど膨大な時間を要してしまうという課題がある。
【0005】
そこで、本開示では、時間計算量を削減することができる光信号受信システム、光信号受信方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る光信号受信システムは、光パルスを含む光信号を受信する光信号受信システムであって、受信した光信号をアナログデジタル変換するアナログデジタル変換部と、前記アナログデジタル変換部が変換したデジタル信号を前記光パルスごとにパルス分割し、パルス分割されたそれぞれの前記光パルスを複素数の行列に変換し、複数の前記行列のそれぞれに対してSS(Sakurai-Sugiura)法を用いて複素数平面上で複数の閉曲線を既定し、既定した前記複数の閉曲線を、前記複素数平面における実部の大きい順でソートされた複数のグループに分類し、分類した複数の前記グループの並び順で、前記複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく送信固有値を判定する演算部とを備える。
【0007】
また、本開示の一態様に係る光信号受信方法は、光パルスを含む光信号を受信する光信号受信方法であって、受信した光信号をアナログデジタル変換することと、変換されたデジタル信号を前記光パルスごとにパルス分割し、パルス分割されたそれぞれの前記光パルスを複素数の行列に変換し、複数の前記行列のそれぞれに対してSS(Sakurai-Sugiura)法を用いて複素数平面上で複数の閉曲線を既定し、既定した前記複数の閉曲線を、前記複素数平面における実部の大きい順でソートされた複数のグループに分類し、分類した複数の前記グループの並び順で、前記複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく送信固有値を判定することとを含む。
【0008】
また、本開示の一態様に係るプログラムは、光信号受信方法をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示の光信号受信システム等によれば、時間計算量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、実施の形態に係る光信号受信システムを示すブロック図である。
【
図1B】
図1Bは、実施の形態に係る光信号受信システムの演算部の機能を示すブロック図である。
【
図2A】
図2Aは、複素数平面上で既定した閉曲線の内部に存在する固有値を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、グループごとに並べられた閉曲線を示す図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る光信号受信システムの動作を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施の形態の変形例1に係る光信号受信システムの演算部の機能を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の変形例1に係る光信号受信システムの動作を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、実施の形態の変形例2に係る光信号受信システムの演算部の機能を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、実施の形態の変形例2に係る光信号受信システムの動作を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、4ビットの割り当てに対応する4つの固有値の組み合わせを示す図である。
【
図10】
図10は、QZ法による固有値復調方式(Coh. recv. :コヒーレント受信機、ADC:アナログ-デジタル変換器、IST:逆散乱変換、ANN:人工ニューラルネットワーク)を示す図である。
【
図11】
図11は、CME方式による固有値復調方式を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、部分ソートを用いた固有値変調・復調方式を示すブロック図である。
【
図13】
図13は、求積点数Nが計算精度に与える影響を示す図である。
【
図16】
図16は、32個の固有値全体のマッピングを示した図である。
【
図17】
図17は、(a)QZと(b)CMEをそれぞれ用いた固有値のコンスタレーションを示した図である。
【
図18】
図18は、back-to-backと2,000 km伝送のBERの結果を示した図である。
【
図20】
図20は、更新された円形領域で抽出された固有値のコンスタレーションを示した図である。
【
図21】
図21は、back-to-backと2,000 km伝送のBERの結果を示した図である。
【
図22】
図22は、r
Mを変化させてHD-FECの制限値7%を満たすOSNRを示した図である。
【
図23】
図23は、直交点数Nを変化させた複素固有値平面上のコンスタレーションマップを示す図である。
【
図24】
図24は、直交点数NがBER特性に与える影響を示す図である。
【
図25】
図25は、部分ソートを用いた場合のBER結果を
図21のBERと比較した図である。
【
図27】
図27は、その他変形例に係る光信号受信システムの演算部の機能を示すブロック図である。
【
図28】
図28は、その他変形例に係る光信号受信システムの演算部の機能を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0012】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、同じ構成部材については同じ符号を付している。
【0013】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0014】
(実施の形態)
<概要>
光ファイバ中に光信号を伝送する場合、光ファイバ中の非線形光学効果に起因する波形歪み(非線形歪みと呼ぶ)によって、光ファイバへの入射光電力が制限されることが知られている。この制限による限界は、非線形シャノン限界と呼ばれ、伝送容量に上限を規定している。この限界を克服するために、非線形歪みの影響を受けない光固有値を用いた伝送方式が検討されている。光ファイバ中を光信号が伝搬すると、波長分散および非線形光学効果の影響によって、光信号は波形および周波数スペクトルが変化する。しかし、光固有値は、不変という性質があるため、理想的な情報キャリアといえる。このため、光固有値は、光ファイバ中の波長分散および非線形光学効果の影響を受けない情報キャリアの有力候補の一つとなっている。
【0015】
光固有値は、非線形シュレディンガー方程式を逆散乱変換により解くことで得られる関連固有値方程式を固有値問題に帰着させることで得られ、伝送距離によらず一定の値を保つことが可能である。この固有値問題は、従来、QZ分解に基づくアルゴリズムで解かれていた。しかしながら、QZ分解に基づくアルゴリズムは、固有値の数がnつまり行列のサイズがn×nの場合、O(n3)という膨大な時間計算量を必要としてしまう。
【0016】
そこで、発明者達は、複素モーメント固有値求解(CME:Complex-Moment Eigenvalue Solver)を用いて光固有値を復調する方法を検討した。CMEは、並列化可能な固有値求解であり、任意の固有値を抽出することができる。発明者達は、オンオフ符号化された離散固有値変調方式を採用することを前提に、CMEと人工ニューラルネットワーク(ANN)等の機械学習を組み合わせた新しい固有値復調方式を提案する。
【0017】
ANNは入力順序に敏感であるという性質があるため、事前に固有値をソートする必要がある。そのため、軽量なソートアルゴリズムも必要となる。そこで、本実施の形態では、さらに、CMEとANNを用いた部分的なソートを提案する。本開示では、オンオフ符号化された4点の固有値について、2,000 kmのファイバ伝送実験を行った。実験の結果、CMEにおける固有値の抽出範囲を工夫することで、所望のビット誤り率(BER:Bit Error Rate)特性を得ることができた。
【0018】
<機能構成>
まず、光信号受信システム1の機能構成について、
図1A~
図2Bを用いて説明する。
【0019】
図1Aは、実施の形態に係る光信号受信システム1を示すブロック図である。
図1Bは、実施の形態に係る光信号受信システム1の演算部30の機能を示すブロック図である。
図2Aは、複素数平面上で既定した閉曲線の内部に存在する固有値を示す図である。
図2Bは、グループごとに並べられた閉曲線を示す図である。
【0020】
図1Aに示すように、光信号受信システム1は、光信号受信システム1の外部機器である送信機が送信した光パルスを含む光信号を受信する光ファイバ伝送システムである。光信号受信システム1は、光信号受信部10と、アナログデジタル変換部20と、演算部30とを備えている。
【0021】
光信号受信部10は、送信機より光ファイバを介して送信された光信号を受信する。光信号受信部10は、受信した光信号を電気信号に変換し、変換した電気信号をアナログデジタル変換部20に送信する。
【0022】
アナログデジタル変換部20は、光信号受信部10から電気信号を受信する。光信号受信部10から受信した電気信号はアナログ信号である。このため、アナログデジタル変換部20は、受信した光信号をアナログデジタル変換する。具体的には、アナログデジタル変換部20は、電気信号をアナログデジタル変換したデジタル信号を生成する。アナログデジタル変換部20は、生成したデジタル信号を演算部30に送信する。
【0023】
演算部30は、アナログデジタル変換部20からデジタル信号を受信する。演算部30は、アナログデジタル変換部20が変換したデジタル信号を光パルスごとにパルス分割し、パルス分割されたそれぞれの光パルスを複素数の行列に変換し、複数の行列のそれぞれに対して、(T. Sakurai and H. Sugiura, “A Projection Method for Generalized Eigen- value Problems usingNumerical Integration,” Journal of Computational and Applied Mathematics, vol. 159, no. 1, pp. 119-128,2003)に開示されているSS(Sakurai-Sugiura)法を用いて複素数平面上で複数の閉曲線を既定し、既定した複数の閉曲線を、複素数平面における実部の大きい順でソートされた複数のグループに分類し、分類した複数のグループの並び順で、複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく送信固有値を判定する。なお、本実施の形態における固有値は、光固有値と読み替えることができる。
【0024】
ここで、
図1Bに示すように、演算部30の機能について具体的に説明する。
【0025】
演算部30は、パルス分割部31と、パルス行列変換部32と、複数の閉曲線設定部33と、複数の固有値数推定部34と、グルーピング部36と、配列結合部38と、送信固有値判定部40とを含んでいる。
【0026】
パルス分割部31は、アナログデジタル変換部20からデジタル信号を取得する。取得したデジタル信号は、離散パルス列となっている。このため、パルス分割部31は、取得したデジタル信号を1つの光パルスごとにパルス分割する。パルス分割部31は、デジタル信号をパルス分割した複数の光パルスのそれぞれをパルス行列変換部32に出力する。
【0027】
パルス行列変換部32は、パルス分割部31から複数の光パルスのそれぞれを複素数の行列に変換する。パルス行列変換部32は、変換した複数の複素数の行列のそれぞれを、複数の閉曲線設定部33のそれぞれに出力する。
【0028】
閉曲線設定部33は、1つの光パルスごとに変換された複素数の行列に対して、SS法を用いることで、複素数平面上に複数の閉曲線を既定する。本実施の形態では、複数の閉曲線設定部33のそれぞれは、変換した複素数のそれぞれの行列に対しても、SS法を用いて複素数平面上で複数の閉曲線を既定する。本実施の形態の閉曲線は、
図2Aに示すように、内部に存在する固有値を抽出するための円である。
図2Aでは、閉曲線内に2つの固有値が存在する場合を例示している。
【0029】
例えば、閉曲線が円である場合、それぞれの円の直径を均一にしなくてもよく、任意の円の大きさを既定することができる。このため、閉曲線が円以外の形状であっても、任意の大きさおよび形状に既定することができる。また、固有値が集中するエリアでは、より小さい閉曲線(所定値よりも小さい閉曲線)を既定することもできる。このため、グルーピング部36でグループ化された閉曲線の数も同様に均一でなくてよい。
【0030】
図1Bに示すように、複数の閉曲線設定部33のそれぞれは、1つの光パルスごとに設定した複数の閉曲線と複素数の行列とを、複数の固有値数推定部34のそれぞれに出力する。
【0031】
固有値数推定部34は、閉曲線設定部33から、設定された複数の閉曲線と、複素数の行列とを取得する。本実施の形態では、複数の固有値数推定部34のそれぞれは、複数の閉曲線設定部33のそれぞれから、設定された複数の閉曲線と、複素数の行列とを取得する。複数の固有値数推定部34のそれぞれは、取得した複数の閉曲線と複素数の行列とに基づいて、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値の数を推定する。複数の固有値数推定部34のそれぞれは、複数の閉曲線と、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値の数(固有値数ともいう)とをグルーピング部36に出力する。
【0032】
グルーピング部36は、1つの光パルスごとに、複数の閉曲線と、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値の数とを取得する。グルーピング部36は、
図2Bに示すように、複数の閉曲線と、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値の数とに基づいて、1つの光パルスごとに既定した複数の閉曲線を、複素数平面における実部の大きい順でソートされた複数のグループA~Eに分類する。このとき、グルーピング部36では、複数のグループA~Eのそれぞれにおいて、閉曲線は、固有値の数の大きい順にソートされている。これは、送信固有値判定部40に用いられる機械学習が入力順序に感応的であるため、固有値の数の大きい順で閉曲線がソートされていることが好ましいからである。なお、固有値の数だけを取得する場合は、グループ内でソート処理を行わなくてもよい。このため、グループ内でのソート処理は、必須の処理ではない。この場合、信固有値判定部40に複数のグループA~Eが送られる際に、例えばグループA内における上の閉曲線から順に入力し、次にグループB内における上の閉曲線を順に入力することによって、大まかなソートを完了してもよい。
【0033】
図1Bに示すように、グルーピング部36は、ソートされた複数のグループA~Eのそれぞれを配列結合部38に出力する。
【0034】
配列結合部38は、ソートされた複数のグループA~Eを1つの集合体に結合する。配列結合部38は、結合した集合体を送信固有値判定部40に出力する。
【0035】
送信固有値判定部40は、ニューラルネットワーク等の機械学習されたモデルで実現される。送信固有値判定部40は、配列結合部38から集合体を取得する。送信固有値判定部40は、取得した集合体に基づいて、送信固有値を判定する。具体的には、送信固有値判定部40は、複数のグループの並び順で、複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく送信固有値を判定する。より具体的には、送信固有値判定部40は、複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく固有値の数を推定し、分類した複数のグループの並び順で、推定した固有値の数に基づく送信固有値を判定する。
【0036】
そして、送信固有値判定部40は、集合体の入力に応じた判定結果(送信固有値)を出力する。
【0037】
<動作処理>
次に、実施の形態に係る光信号受信システム1、光信号受信方法およびプログラムの動作処理について、
図3を用いて説明する。
【0038】
図3は、実施の形態に係る光信号受信システム1の動作を示すフローチャートである。
【0039】
まず、
図3に示すように、光信号受信部10は、光ファイバを介して送信機が送信した光信号を受信する(S11)。光信号受信部10は、受信した光信号をアナログ信号である電気信号に変換し、変換した電気信号をアナログデジタル変換部20に送信する。
【0040】
次に、アナログデジタル変換部20は、光信号受信部10から受信した電気信号をアナログデジタル変換したデジタル信号を生成する(S12)。アナログデジタル変換部20は、生成したデジタル信号を演算部30に送信する。
【0041】
次に、演算部30のパルス分割部31は、アナログデジタル変換部20から取得したデジタル信号を1つの光パルスごとにパルス分割する(S13)。パルス分割部31は、デジタル信号をパルス分割した複数の光パルスのそれぞれをパルス行列変換部32に出力する。
【0042】
次に、演算部30のパルス行列変換部32は、パルス分割部31から取得した複数の光パルスのそれぞれを複素数の行列に変換する(S14)。パルス行列変換部32は、変換した複数の複素数の行列のそれぞれを、複数の閉曲線設定部33のそれぞれに出力する。
【0043】
次に、演算部30の複数の閉曲線設定部33のそれぞれは、パルス行列変換部32から取得した1つの光パルスごとに変換した複素数の行列に対し、SS法を用いて複素数平面上で複数の閉曲線を既定する(S15)。複数の閉曲線設定部33のそれぞれは、複数の閉曲線と複素数の行列とを1つの光パルスごとに設定し、設定した複数の閉曲線と複素数の行列とを複数の固有値数推定部34のそれぞれに出力する。
【0044】
次に、演算部30の複数の固有値数推定部34のそれぞれは、複数の閉曲線設定部33のそれぞれから取得した複数の閉曲線と複素数の行列とに基づいて、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値の数を推定する(S16)。複数の固有値数推定部34のそれぞれは、複数の閉曲線と、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値の数とをグルーピング部36に出力する。
【0045】
次に、演算部30のグルーピング部36は、複数の固有値数推定部34のそれぞれから取得した複数の閉曲線と、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値の数とに基づいて、1つの光パルスごとに既定した複数の閉曲線を、複素数平面における実部の大きい順でソートされた複数のグループに分類する(S17)。グルーピング部36は、ソートされた複数のグループのそれぞれを配列結合部38に出力する。
【0046】
次に、演算部30の配列結合部38は、グルーピング部36から取得した複数のグループを1つの集合体に結合する(S18)。配列結合部38は、結合した集合体を送信固有値判定部40に出力する。
【0047】
次に、演算部30の送信固有値判定部40は、取得した集合体に基づいて、複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく送信固有値を判定する(S19)。送信固有値判定部40は、集合体の入力に応じた判定結果(送信固有値)を出力する。
【0048】
そして、光信号受信システム1は、
図3のフローチャートで示される処理動作を終了する。
【0049】
<作用効果>
本実施の形態における光信号受信システム1、光信号受信方法およびプログラムの作用効果について説明する。
【0050】
上述したように、本実施の形態に係る光信号受信システム1は、光パルスを含む光信号を受信する光信号受信システムであって、受信した光信号をアナログデジタル変換するアナログデジタル変換部20と、アナログデジタル変換部20が変換したデジタル信号を光パルスごとにパルス分割し、パルス分割されたそれぞれの光パルスを複素数の行列に変換し、複数の行列のそれぞれに対してSS(Sakurai-Sugiura)法を用いて複素数平面上で複数の閉曲線を既定し、既定した複数の閉曲線を、複素数平面における実部の大きい順でソートされた複数のグループに分類し、分類した複数のグループの並び順で、複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく送信固有値を判定する演算部30とを備える。
【0051】
これによれば、1つの光パルスごとにおいて、複素数平面における実部の大きい順で自動的にソートされた複数のグループに複数の閉曲線を分類することができているため、固有値の数に応じて複数の閉曲線をさらにソートしなくてもよい。
【0052】
したがって、光信号受信システム1は、複数の閉曲線をソートするための時間計算量を削減することができる。これにより、従来のQZ法を用いた場合では膨大な時間計算量を必要としてしまうが、本開示の光信号受信システム1によれば、時間計算量を削減することができる。
【0053】
また、本実施の形態に係る光信号受信方法は、光パルスを含む光信号を受信する光信号受信方法であって、受信した光信号をアナログデジタル変換することと、変換されたデジタル信号を光パルスごとにパルス分割し、パルス分割されたそれぞれの光パルスを複素数の行列に変換し、複数の行列のそれぞれに対してSS(Sakurai-Sugiura)法を用いて複素数平面上で複数の閉曲線を既定し、既定した複数の閉曲線を、複素数平面における実部の大きい順でソートされた複数のグループに分類し、分類した複数のグループの並び順で、複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく送信固有値を判定することとを含む。
【0054】
この方法によれば、上述と同様の作用効果を奏する。
【0055】
また、本実施の形態に係るプログラムは、光信号受信方法をコンピュータに実行させる。
【0056】
このプログラムによれば、上述と同様の作用効果を奏する。
【0057】
また、本変形例に係る光信号受信システム1において、演算部30は、複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく固有値の数を推定し、分類した複数のグループの並び順で、推定した固有値の数に基づく送信固有値を判定する。
【0058】
これによれば、固有値の数を推定することで、グループごとに固有値の数の大きい順に複数の閉曲線が並べられるため、光信号受信システム1では、QZ法を用いた場合に比べて、複数の固有値をソートするための時間計算量を削減することができる。
【0059】
また、固有値を算出しなくても、閉曲線の内部に含まれる固有値の数を推定すれば、送信固有値を判定することができるため、演算部30における時間計算量の削減を期待することができる。その結果、演算部30における処理負荷の増大を抑制することができる。
【0060】
(実施の形態の変形例1)
以下では、本変形例における光信号受信システム1aの演算部30aが固有値求解部35と重複データ削除部39とをさらに含んでいる点で、実施の形態と相違する。本変形例における光信号受信システム1a、光信号受信方法およびプログラムの基本的な機能構成は、実施の形態の光信号受信システム、光信号受信方法およびプログラムの基本的な機能構成と同様であるため、本変形例における光信号受信システム1a、光信号受信方法およびプログラムの基本的な機能構成について、上述と同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0061】
<機能構成>
ここで、演算部30aの機能について、
図4を用いて具体的に説明する。
【0062】
図4は、実施の形態の変形例1に係る光信号受信システム1aの演算部30aの機能を示すブロック図である。
【0063】
演算部30aは、パルス分割部31、パルス行列変換部32、複数の閉曲線設定部33、複数の固有値数推定部34、グルーピング部36、配列結合部38および送信固有値判定部40の他に、複数の固有値求解部35と、重複データ削除部39とをさらに含んでいる。
【0064】
本変形例における固有値数推定部34は、複数の閉曲線と、複数の閉曲線の内部に存在する固有値の数とを固有値求解部35に出力する。
【0065】
複数の固有値求解部35のそれぞれは、複数の閉曲線と、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値の数とを取得する。複数の固有値求解部35のそれぞれは、複数の閉曲線と、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値の数とに基づいて、既定した複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値を抽出する。複数の固有値求解部35のそれぞれは、複数の閉曲線と、抽出した複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値とをグルーピング部36に出力する。
【0066】
グルーピング部36は、複数の閉曲線と、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値とに基づいて、複数の閉曲線を、複素数平面における実部、つまり複素固有値の実部の大きい順でソートされた複数のグループに分類する。グルーピング部36は、ソートされた複数のグループのそれぞれを配列結合部38に出力する。
【0067】
配列結合部38は、ソートされた複数のグループを1つの集合体に結合する。配列結合部38は、結合した集合体を重複データ削除部39に出力する。
【0068】
重複データ削除部39は、配列結合部38から集合体を取得する。集合体に含まれる固有値は、複素共役成分を含んでいる。つまり、集合体に含まれる全固有値のうちの半分の固有値は情報が重複している。このため、集合体に含まれる全固有値のうち、半分の固有値は情報が重複しており、不要である。そこで、重複データ削除部39は、複数のグループ内において重複した固有値を削除する。具体的には、重複データ削除部39は、複素固有値の実部の大きい順でソートされた固有値を含む集合体を2倍でダウンサンプリングすることで、集合体に含まれる全固有値の複素共役成分を削除する。重複データ削除部39は、複素共役成分を削除した複数のグループの集合体を送信固有値判定部40に出力する。
【0069】
送信固有値判定部40は、予め機械学習された機械学習モデルである。送信固有値判定部40は、固有値が削除されたグループを機械学習モデルに入力することで、送信固有値を判定する。具体的には、送信固有値判定部40は、複数のグループの並び順で、複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく送信固有値を判定し、複素共役成分が削除された集合体の入力に応じた判定結果(送信固有値)を出力する。
【0070】
<動作処理>
次に、実施の形態の変形例1に係る光信号受信システム1a、光信号受信方法およびプログラムの動作処理について、
図5を用いて説明する。本動作処理において、
図3と同様の処理については、同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0071】
図5は、実施の形態の変形例1に係る光信号受信システム1aの動作を示すフローチャートである。
【0072】
光信号受信システム1aではステップS11~S16を経て、複数の固有値数推定部34のそれぞれは、複数の閉曲線と、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値の数とを固有値求解部35に出力する。
【0073】
次に、演算部30aの複数の固有値求解部35のそれぞれは、複数の固有値数推定部34のそれぞれから取得した複数の閉曲線と、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値の数とに基づいて、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値を抽出する(S16a)。複数の固有値求解部35のそれぞれは、複数の閉曲線と、抽出した複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値とをグルーピング部36に出力する。
【0074】
次に、演算部30aのグルーピング部36は、複数の固有値求解部35のそれぞれから取得した複数の閉曲線と、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値とに基づいて、複数の閉曲線を、複素固有値の実部の大きさでソートされた複数のグループに分類する(S17a)。グルーピング部36は、ソートされた複数のグループのそれぞれを配列結合部38に出力する。
【0075】
次に、演算部30aの配列結合部38は、グルーピング部36から取得したソートされた複数のグループを1つの集合体に結合する(S18)。配列結合部38は、結合した集合体を重複データ削除部39に出力する。
【0076】
次に、演算部30aの重複データ削除部39は、集合体に含まれる全固有値の複素共役成分を削除する(S18a)。重複データ削除部39は、複素共役成分を削除した集合体を送信固有値判定部40に出力する。
【0077】
そして、光信号受信システム1aは、ステップS19を経て、
図4のフローチャートで示される処理動作を終了する。
【0078】
<作用効果>
本変形例における光信号受信システム1a、光信号受信方法およびプログラムの作用効果について説明する。
【0079】
上述したように、本変形例に係る光信号受信システム1aにおいて、演算部30aは、複数の行列のそれぞれから固有値を算出するために、SS法を用いて複素数平面上で複数の閉曲線を既定し、既定した複数の閉曲線の内部に存在する固有値を抽出し、既定した複数の閉曲線を、複素数平面における実部の大きい順でソートされた複数のグループに分類し、分類した複数のグループの並び順で、抽出した固有値に基づく送信固有値を判定する。
【0080】
これによれば、固有値を抽出することで、固有値に応じてグループごとにソートされるため、固有値に応じてさらにソートしなくてもよい。このため、光信号受信システム1aでは、QZ法を用いた場合に比べて、グループごとに固有値をソートするための時間計算量を削減することができる。
【0081】
また、本変形例に係る光信号受信システム1aにおいて、演算部30aは、複数のグループ内において重複した固有値を削除し、固有値が削除された複数のグループを出力する。
【0082】
これによれば、全固有値において、半分の固有値は複素共役成分が重複している。このため、全固有値の複素共役成分を削除することで、QZ法を用いた場合に比べて抽出される固有値の数を少なくすることができる。このため、送信固有値判定部40への入力数が、QZ法を用いて復調する場合よりも少なくすることができるため、送信固有値判定部40の演算処理の増大を抑制することができる。固有値を抽出する範囲を設定することで時間計算量の削減と、復調性能とを確保することができる。
【0083】
また、本変形例に係る光信号受信システム1aにおいて、演算部30aは、予め設定された機械学習モデルを含み、固有値が削除されたグループを機械学習モデルに入力することで、送信固有値を判定する。
【0084】
機械学習モデルは入力順序に感応的であるが、これによれば、複素固有値の実部の大きい順でソートされた固有値が入力されるため、機械学習モデルに入力するために、固有値に応じてさらにソートしなくてもよい。このため、光信号受信システム1aでは、QZ法を用いた場合に比べて、時間計算量を削減することができる。
【0085】
(実施の形態の変形例2)
以下では、本変形例における光信号受信システム1bの演算部30bが固有値並び替え部37をさらに含んでいる点で、実施の形態の変形例1と相違する。本変形例における光信号受信システム1b、光信号受信方法およびプログラムの基本的な機能構成は、実施の形態および実施の形態の変形例1の光信号受信システム1b、光信号受信方法およびプログラムの基本的な機能構成と同様であるため、本変形例における光信号受信システム1b、光信号受信方法およびプログラムの基本的な機能構成について、上述と同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0086】
<機能構成>
ここで、演算部30bの機能について、
図6を用いて具体的に説明する。
【0087】
図6は、実施の形態の変形例2に係る光信号受信システム1bの演算部30bの機能を示すブロック図である。
【0088】
図6に示すように、演算部30bは、パルス分割部31、パルス行列変換部32、複数の閉曲線設定部33、複数の固有値数推定部34、複数の固有値求解部35、グルーピング部36、配列結合部38、重複データ削除部39および送信固有値判定部40の他に、固有値並び替え部37をさらに含んでいる。
【0089】
本変形例におけるグルーピング部36は、複数の閉曲線と、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値とに基づいて、複数の閉曲線を複数のグループに分類する。グルーピング部36は、複数のグループを固有値並び替え部37に出力する。
【0090】
固有値並び替え部37は、グルーピング部36から複数のグループを取得する。固有値並び替え部37は、グループごとに、固有値に含まれる実部の大きい順で並ぶように、固有値をソートする。具体的には、固有値並び替え部37は、複数のグループのそれぞれに含まれる固有値を、グループごとに実部の大きい順でソートする。固有値並び替え部37は、グループごとに実部の大きい順でソートした複数の固有値を配列結合部38に出力する。
【0091】
配列結合部38は、ソートされた複数の固有値を1つの集合体に結合する。配列結合部38は、結合した集合体を重複データ削除部39に出力する。結合した集合体は重複データ削除部39を経由し、送信固有値判定部40は、複素共役成分が削除された集合体の入力に応じた判定結果(送信固有値)を出力する。
【0092】
これにより、送信固有値判定部40は、複数のグループの並び順で、複数の閉曲線の内部に存在する固有値に基づく送信固有値を判定し、複素共役成分が削除された集合体の入力に応じた判定結果(送信固有値)を出力する。
【0093】
<動作処理>
次に、実施の形態の変形例2に係る光信号受信システム1b、光信号受信方法およびプログラムの動作処理について、
図7を用いて説明する。本動作処理において、
図5と同様の処理については、同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0094】
図7は、実施の形態の変形例2に係る光信号受信システム1bの動作を示すフローチャートである。
【0095】
光信号受信システム1bではステップS11~S17を経て、演算部30bのグルーピング部36は、複数の固有値求解部35のそれぞれから取得した複数の閉曲線と、複数の閉曲線のそれぞれの内部に存在する固有値とに基づいて、1つの光パルスごとに既定した複数の閉曲線を複数のグループに分類する(S17a)。グルーピング部36は、複数のグループのそれぞれを固有値並び替え部37に出力する。
【0096】
次に、固有値並び替え部37は、グループごとに固有値をソートする(S17b)。具体的には、固有値並び替え部37は、グルーピング部36から取得した複数のグループのそれぞれに含まれる固有値を、グループごとに実部の大きい順でソートする。固有値並び替え部37は、グループごとに実部の大きい順でソートした複数の固有値を配列結合部38に出力する。
【0097】
そして、光信号受信システム1bは、ステップS18、S18a、S19を経て、
図7のフローチャートで示される処理動作を終了する。
【0098】
<作用効果>
本変形例における光信号受信システム1b、光信号受信方法およびプログラムの作用効果について説明する。
【0099】
上述したように、本変形例に係る光信号受信システム1bにおいて、演算部30bは、グループごとに、固有値に含まれる実部の大きい順で並ぶように、固有値をソートする。
【0100】
これによれば、固有値の数を推定することで、固有値の数に応じてグループごとにソートされるため、固有値に応じてさらにソートしなくてもよい。このため、光信号受信システム1bでは、QZ法を用いた場合に比べて、固有値をソートするための時間計算量を削減することができる。
【0101】
<実施例>
次に、光信号受信システム、光信号受信方法およびプログラムの実施例について、
図8~
図26を用いて具体的に説明する。
【0102】
[関連技術:固有値通信]
まず、ISTによって導出された光固有値は、光ファイバ伝搬中の波長分散および非線形光学効果の影響を受けない理想的な変調キャリアとして、広く研究されてきた。1993年には、長谷川とNyuによって、固有値を用いた変調技術が提案された。
【0103】
近年、デジタルコヒーレント技術の出現により、伝送容量を増大させるために、光固有値を用いた多くの作品が提案されている。複数の固有値を複素数平面上に配置したオンオフ符号化方式、およびMulti-Soliton Pulsesの変調スペクトル振幅である。
図8は、4ビットの割り当てに対応する4つの固有値の組み合わせを示す図である。前者は、
図8に示すように、固有値のオンオフにビット列を対応させる方式である。複数の固有値を用いる場合、1パルスで複数ビットの伝送が可能である。
【0104】
しかし、帯域制限およびASE(Amplified Spontaneous Emission)ノイズによる固有値の分散は、円対称な複素ガウス分布に従わないことが知られている。また、分散は、各固有値の位置および固有値の組み合わせに依存する。同じ位置の固有値を使用しても、他の位置の固有値によって分散が変化する。例えば、オンオフ符号化された固有値変調では、固有値集合∈{i, -1+i}または{i, 1+i}のいずれかを用いることを想定している。どちらの固有値集合を用いても、固有値{i}は割り当てられるが、{i, -1+i}と{i, 1+i}とでは、固有値{i}の分散量が異なっている。このような状況から、記号決定の境界を複素数平面上の線形閾値で最適化することは非常に困難である。適切な閾値を設定するために、ユークリッド最小距離による判定プロセスが示された。また、機械学習を用いた復調方法(特にANNを採用)および等化も提案された。
【0105】
ANNの場合、代表的な復調方法として、時間領域(TD:Time Domain)復調と固有値領域(ED:Eigenvalue Domain)復調がある。TD復調を用いた場合(K. Mishina, S. Yamamoto, T. Kodama, Y. Yoshida, D. Hisano, andA. Maruta, “Experimental Demonstration of Neural Network Based Demodulationfor On-off Encoded Eigenvalue Modulation,” in Proceedingsof 45th European Conference on Optical Communication (ECOC). IET,)(2019, pp. 1-4. [15] K. Mishina, S. Sato, Y. Yoshida, D. Hisano, and A. Maruta, “EigenvaluedomainNeural Network Demodulator for Eigenvalue-modulated Signal,”IEEE Journal of Lightwave Technology, vol. 39, no. 13, pp. 4307-4317,2021.)では、IST復調および硬判定復調に比べて11dBという大幅な電力マージンが得られていることが示されている。一方、従来のTD復調では、伝送距離ごとにANNの学習モデルを用意する必要があった。固有値復調の本来の利点を最大限に活かすには、EDで復調することが重要である。これは、固有値平面で復調することで、距離に依存しないANN復調が可能になるためである。発明者達は、
図8に示すように4つの固有値を用いて、固有値がオンオフ符号化された信号に対して、伝送距離3,000 kmまで高い汎化性能を示すED復調方式を実証した。また、伝送容量を向上させるために、マルチラベル学習を用いた手法により、オンオフ符号化された12光固有値の信号を200 kmまでの伝送距離で復調できることを実証した。しかし、固有値平面上の信号を復調するためには、受信機はシンボル毎(ソリトンパルス毎)に固有値計算とソートを行う必要があり、膨大な計算量を必要とする。そこで、発明者達は、固有値を解くのに必要な計算量を削減するために、CMEを採用することを検討した。
【0106】
[関連技術:固有値求解]
固有値は、一般に安定な固有値解法アルゴリズムであるQZを用いて求める。QZは、標準固有値問題(Az = ζz)のQRアルゴリズムを一般化固有値問題(Az = ζBz)に拡張したアルゴリズムである。あるユニタリー行列QとZを用いると、正方行列A、Bは上三角行列QAZ、QBZに変換される。しかし、QZは、行列サイズがn×nの場合、膨大な計算量O(n
3)を必要とする。QZで固有値を求める場合、固有値は、上三角行列の対角要素から{ζ1, ζ2, . . . , ζi, . . . , ζn} = diag(QAZ)のように求められる。ここで、iはi番目の行と列の要素のインデックスである。出力は、絶対値の大きさの順に並べられ、
【数1】
となる。この出力順序は、ANNと結合して復調する際に、ビットエラーを引き起こす可能性がある。
【0107】
QZは、膨大な計算量を必要とするため、固有値を解く際の計算量を削減するためにCMEを採用することを検討する。
図9は、CMEの並列性能を示す図である。
図9にCME法の概要を示す。CMEは、複素数平面上に任意の円形領域を設定し、その円形領域内の固有値を解くものである。CMEは、各円形領域に対して並列演算が可能である。
図9では、3つの円を描き、合計5つの固有値を抽出している。この円形領域を計算機上でシミュレートするために、円を離散化し、いくつかの求積点を用意した。各円形領域での数値積分近似に用いる各直交点(
図9では8点)は、並列化されており、各直交点の計算も並列化されている。つまり、3つの並列演算が行われる。
【0108】
CMEの全体的な計算量は、QZより大きいが、階層的な並列化により計算量は、O(Nn3/Np)である。大規模並列化により、QZのO(n3)に比べて計算量を大幅に削減することが可能である。ここで、Nは各閉円上の数値積分近似のために用意された求積点の数であり、Npは並列化の数であることを示す。Nが大きいほど計算性能が高く、固有値の誤差が小さくなる。しかし、Nの大きさは受信機規模に直結するため、光ファイバ通信システムで本手法を用いる場合は、できるだけ小さくすることが望ましい。
【0109】
[提案手法:ANNを用いたQZ方式(ベースライン方式)]
次に、ソートアルゴリズムを含むCMEとANNの組み合わせによる提案手法を、QZとANNの場合と比較しながら説明する。
【0110】
図10は、QZ法による固有値復調方式(Coh. recv. :コヒーレント受信機、ADC:アナログ-デジタル変換器、IST:逆散乱変換、ANN:人工ニューラルネットワーク)を示す図である。
図10では、固有値復調方式の概要を示している。アナログの光信号はコヒーレント受信機でIQ成分に分離され、ADC(Analog-to-Digital Converter)でデジタル信号へ変換される。得られたデジタルパルス列を各パルスに分割し、ISTにより光固有値を抽出する。光固有値はQZによって抽出される。サンプリングレートをS
aサンプル/パルスとすると、抽出される固有値の数は2S
aである。
【0111】
表1で示されるアルゴリズム1は、固有値のソートアルゴリズムである。QZで抽出された固有値集合ζin∈C2Saを用意する。一般に、固有値集合ζinは複素固有値とその共役からなる。つまり、固有値集合の半分はビット情報に寄与していない。そこで、アルゴリズム1を用いて、共役要素を除去する。まず、集合中の固有値を実部方向にソートする(Line 1)。ソートされた光固有値から複素共役固有値を除去する(Line 2-5)。その後、固有値ζtmp∈CSaの実部、虚部を分解する。分解された固有値を連結し、新たな固有値集合ζout∈R2Saを形成する(Line 6)。固有値集合ζoutはANNに入力される。また、光固有値を抽出する場合、QZ法では固有値を解くための行列サイズをnとすると、O(n3)という膨大な計算時間が必要であるため、計算量の削減が必要である。発明者達はこのアルゴリズムを提案した。次のサブセクションでアルゴリズムを説明する。
【0112】
【0113】
なお、集合中の固有値の実部の最大・最小要素は、固有値とその共役の対ではない。つまり、その組の要素数は2Sa-2である。また、アルゴリズム1では、集合中の固有値の実部の最大または最小の要素を削除している。この事実は、アルゴリズムの性能に影響を与えない。
【0114】
[提案手法:ANNを用いたCMEの提案]
図11は、CME方式による固有値復調方式を示すブロック図である。
図11では、ANNと組み合わせたCMEによる復調を示している。ISTに信号を入力する前の処理は、
図10と同じである。並列化されたCMEは、ISTから取得した行列から各円の固有値を抽出する。CMEは固有値抽出のために重なった複数の円を用意するため、重複した固有値が複数回抽出される可能性がある。そこで、CMEアルゴリズムでは、円の重なり部分を参照して重複する固有値を除去し、重複しない固有値をソートアルゴリズムに入力する。また、円は、重複していない固有値がソートアルゴリズムに入力される。
【0115】
表2で示されるアルゴリズム2は、CMEによって抽出された固有値のソートアルゴリズムを示している。CMEから抽出された固有値の数をN
inとした固有値集合ζ
in∈C
Ninを実部方向にソートする(Lines1)。
図11の複素共役固有値除去部(Complex conjugate Eigenvalue removal)で、ソートされた固有値集合から虚部が負の固有値を削除する(Lines 2-6)。ISTが出力する複素固有値は、その複素共役要素と対になって表示される。共役固有値は元の固有値と同じ情報を持っているので、共役の固有値を削除する。CMEは描かれた円の中にある固有値のみを抽出するため、円の外にある固有値は抽出が困難である。ANNの入力ユニット数は固定であるため、このユニット数に固有値の数を合わせる必要がある。そこで、本アルゴリズムでは、CMEにより抽出された固有値が不足する場合、ゼロパディングを採用している(Lines7)。さらに、固有値集合ζ
tmpの実部、虚部を分解する。分解された固有値を連結し、固有値集合ζ
outを構成する(Lines7)。固有値集合ζ
outはANNに入力される。
【0116】
【0117】
[提案手法:部分ソートによるCME]
図10、
図11に示すように、固有値集合を実部方向にソートし、固有値を実部と虚部に分割してANNに入力する。このソート処理には、簡単なアルゴリズムでO(n
2)の計算量が必要である。高速なソートアルゴリズムとして知られるクイックソートでは平均時間がO(n log n)となり、ワーストケースの平均時間はO(n
2)となる。
【0118】
そのため、ソート処理の複雑さを軽減する必要がある。本開示では、CMEの複数の円をグループ化し、そのグループごとにソートアルゴリズムを採用する部分ソート方式を提案する。
図12は、部分ソートを用いた固有値変調・復調方式を示すブロック図である。
図12では、CMEと部分ソートを用いた固有値復調方式を示している。受信信号をISTに入力するまでの処理は、
図10と同様である。表3で示されるアルゴリズム3は、部分ソートのアルゴリズムを示したものである。アルゴリズムに入力される固有値集合はζ
in∈C
c×r×Nmaxとし、c、r∈ZはそれぞれCMEの縦方向、横方向の各円の識別子を示す。複素固有値平面の原点の円は(c, r)=(0, 0)とする。3次元目のζ
inは各領域の固有値の個数を表す。N
maxは固有値の最大数である。円内の固有値の数がN
maxより少ない場合は、ヌル(null)が格納される。
【0119】
【0120】
CMEで抽出された固有値集合ζinは、同じ実部識別子rを持つ円に対して実部方向にグループ化され、ソートされる(Lines 1-2)。次に、3次元の固有値集合を1次元の固有値集合に整形(Reshape)する(Lines3)。Lines4ではヌルを排除する。以下の操作はアルゴリズム2と同様である(Lines6-10)。円の数にもよるが、部分ソートを行うことで、固有値集合全体をソートするよりも複雑さが軽減される。
【0121】
[提案手法:CMEの有効性の検討]
まず、固有値通信にCMEを採用し、オンオフ符号化ζ∈{0.5i}の単一固有値の場合についてシミュレーションを行った。シミュレーションでは、固有値通信に必要なCMEパラメータの直交点数Nを調べた。CMEでは、求積点の数だけ並列演算が必要であるが、複雑さを軽減するためにNはできるだけ小さくする必要があり、Nが小さいと計算誤差が大きくなるというトレードオフがある。そこで、最小のNパラメータを求めた。
【0122】
シミュレーションの設定として、送信機で生成されたビット列を1つの固有値列に符号化した。ISTは、この固有値列をパルス列に変換した。このパルス列をAWGNチャネルに入力した。受信側では、ISTを用いて分割されたパルス列から固有値を抽出した。
図13は、求積点数Nが計算精度に与える影響を示す図である。
図13(a)にback-to-back固有値列とCMEに指定された領域を示す。
【0123】
図13(a)では、信号対雑音比(SNR)の変化に対する固有値の分散を示している。理想的な固有値の位置と受信した固有値の位置の間の分散を計算した。直交点はN = 2, 4, 8, 16とした。Nの数を変えても、分散に与える影響は小さかった。
図13(b)は、ノイズのないback-to-backシミュレーションにおけるNの数による分散を示したものである。
図13(a)と比較すると、CMEの計算誤差による分散は十分に無視できるレベルであった。一般的なCMEの応用は厳密な固有値を抽出することに主眼が置かれているが、光固有値通信ではチャネル内のノイズが支配的であるため、非常に小さなN数でCMEを利用することが可能である。
【0124】
Nの数が復調性能に与える影響を調べるために、BERを測定した結果を
図13(c)に示す。このシミュレーションでは、ハード判定の閾値を0.25iに設定した。なお、このシミュレーションでは、ANNは採用していない。
図13(d)に示すようにNの数を2~16と変化させても、BERの結果はQZの場合と同じであった。本シミュレーションでは、1つの固有値を使用することを想定している。複数の固有値を使用する場合、複数の固有値が円の中に入ることがある。この場合、CMEはより多くのN数を必要とするため、使用する固有値の数に応じて、受信機でN数を決定する必要がある。
【0125】
[実験:セットアップ]
発明者達は、2,000 kmの伝送実験を行った。
図14は、実験のセットアップを示す図である。
図14では、実験用送信システムを示している。送信機はランダムなビット列を生成し、4ビットごとに
図8に対応する固有値パターンに符号化する。合計62,250個のパルスが生成された。生成されたパルス列は任意波形発生器(AWG:Arbitrary Waveform Generator)に10GSa/s、32samples/pulseで入力された。ビットレートは1.25Gbps(=0.315Gpulse/s×4 bit/pulse)であった。このRF信号をIQ変調器で光信号に変調し、2,000 kmの伝送系に入力した。伝送系は50 kmのノンゼロ分散シフトファイバ(NZ-DSF:Nonzero Dispersion-Shifted Fiber)、エルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA:Erbium-doped Fiber Amplitude)、利得等化器(GEQ:Gain Equalizer)、音響光学変調器(AOM:Acousto-Optic Modulator)で構成されている。2,000 km伝送後、EDFAでASEノイズを付加しOSNR(Optical Signal And Noise Power Ratio)を調整した。光信号はコヒーレント受信機で受信され、蓄積されたパルス列は40GSa/sデジタルサンプリングオシロスコープ(DSO:Digital Sampling Oscilloscope)で20GSa/sにリサンプリングされ、固有値復調された。
【0126】
[実験:パラメータ]
固有値復調には、(1)QZ+ソート+ANN、(2)CME+ソート+ANN、(3)CME+部分ソート+ANNの3つのアルゴリズムが使用される。(2)と(3)のパラメータは同じである。(1)と(2)のパラメータは以下の通りである。
【0127】
1)QZ+ソート+ANN:使用したANNは、入力層が64ユニット、隠れ層が256ユニット、出力層が16(= 24)ユニットからなる3層構造で、隠れ層を1層有する。入力ユニット層は、固有値を実部と虚部に分解するため、2倍のサンプリングレートを持つ。活性化関数には、隠れ層にReLU(Rectified Linear Unit)関数を、出力層にソフトマックス関数を適用した。ANNの学習には最適化手法Adamを用い、初期ステップサイズをα = 0.001、指数減衰率をβ1 = 0.9、β2 = 0.999、係数をε = 10-8に設定した。ANNのフレームワークには、Mathworks Inc.からリリースされているMATLAB(登録商標) Deep Learning Toolboxを使用した。62,250パルスのうち10,000パルスをトレーニングデータ、残りの52,250パルスをテストデータと仮定してBER測定を実施した。
【0128】
2)CME+Sort+ANN: CMEはz-Paresを用いて実装した。z-ParesはSakurai-Sugiura法を用いた並列固有値計算のためのパッケージである。
図15は、固有値抽出領域を示す図である。
図15にはCME法の固有値計算の指定領域が示されている。固有値には、離散固有値と連続固有値の2種類があり、離散固有値は
図8のように現れる。連続固有値は連続した波形を持つが、サンプリングした波形から抽出すると離散値となり、実軸に沿って現れる。
図16では、32個の固有値全体のマッピングを示している。オンオフ符号化方式の固有値変調は離散的な固有値を変調するため、離散的な固有値を含むように32個の円を描いている。ANNのパラメータは、ANNの入力層を32単位、隠れ層を128単位とし、その他のパラメータは(1)QZ+Sort+ANNと同じにした。
【0129】
[実験:CME方式による固有値復調性能]
図17では、(a)QZと(b)CMEをそれぞれ用いた固有値のコンスタレーションを示している。
図17(a)のQZは複素数平面上に存在する全ての固有値を抽出したのに対し、
図17(b)は
図15に示したように、領域に基づいて固有値を求めている。CMEの場合、オンオフ符号化された4つの離散固有値が完全に抽出された。
図18では、back-to-backと2,000 km伝送のBERの結果を示している。7%オーバーヘッドのHD-FEC(Hard-Decision Forward Error Correction)限界値(= 3.8×10
-3)において、QZの場合とCMEの場合のOSNRペナルティは、back-to-backで約1.6dB、2,000 km伝送後で2dBであった。CMEとANNを用いた提案方式は、これらのペナルティを許容できる場合に有効である。仮説として、OSNRのペナルティが現れた理由は、4つの離散固有値以外の連続固有値が復調性能に影響を及ぼした可能性が高いと考えられる。次に、その一部しか得られていない連続固有値の影響を調べた。
【0130】
[実験:連続固有値のBER特性への影響]
ここでは、CMEの円の数を変化させ、固有値の抽出領域を拡大した。
図19では、CMEの円形領域を拡大している。
図20では、更新された円形領域で抽出された固有値のコンスタレーションを示している。
図19の追加領域では、実軸に沿った連続した広い範囲の固有値が得られた。
図21では、back-to-backと2,000 km伝送のBERの結果を示している。実軸に沿った連続固有値を抽出することで、
図18のOSNRのペナルティが消え、QZと同等の復調性能を得ることができた。したがって、ANNは離散固有値だけでなく連続固有値の変化もクラス分類に利用すると思われる。離散固有値の位置によって、ノイズによる連続固有値の分散が異なるので、連続固有値もANNではビット判定のための特徴量になると思われる。
【0131】
上記の解析では、CMEの複数円を用いて32個の固有値を全て抽出した。CMEの場合、使用する円の数を任意に選択できる。また、円の数が少なければ少ないほど、受信機の複雑さを軽減することに貢献する。次に、OSNRのペナルティがほとんど発生しない最小限のCMEの円の数を検討した。CMEの円の位置は、
図19に示すように、虚軸対称に配置されるものとした。ここで、実軸に沿った最大円、最小円の中心座標を(c, r)=(0, ± r
M)と定義する。例えば、
図19において、r
Mを±2.0とした。r
M = ±2.0の円を削除すると、r
Mは±1.75にリセットされる。この手順で円の数を調整した。
図22は、r
Mを変化させてHD-FECの制限値7%を満たすOSNRを示している。固有値抽出範囲を広くすればするほど、ノイズ耐性は高くなる。固有値抽出範囲を|r
M|<1.75にすることで、OSNRの耐性はQZの場合に近いものとなった。つまり、各離散固有値がビットパターンに応じてON/OFFする場合、|r
M|<1.75の連続固有値はANNのビット判定特性に影響を与えることがわかった。一方、広範囲の連続固有値を抽出するために円の数を増やすと、受信機の複雑さが増す。したがって、必要なOSNRと利用可能な複雑さの観点から、抽出領域を決定する必要がある。
【0132】
[実験:Nが精度に与える影響]
CMEにおける直交点数Nの少なさは、QZの場合よりも精度を悪くする決定的な要因である。セクションIVでは、1つの固有値の通信の場合、N = 2でより良い結果が得られたが、複数の固有値の場合、必ずしも同じ結果が得られるとは限らないことが予想される。この小節では、固有値が4つの場合について解析する。
図23は、直交点数Nを変化させた複素固有値平面上のコンスタレーションマップを示している。
図23は、(a)N = 4、(b)N = 6、(c)N = 8では、(c)N = 8に比べて外れ値が多く現れている。CMEで複数の固有値を求める場合、その精度はNに依存し、つまり、直交点による数値積分の誤差が固有値抽出精度に直結していることがわかる。この誤差が大きいと、固有値がランダムな位置に移動してしまい、外れ値が発生する。(b)N = 6では、わずかな外れ値が存在するものの、(a)N = 4よりも抑制されていることがわかる。なお、ノイズや円の中の固有値の数が増えると、N = 6でも外れ値が増加する可能性がある。
図24は、直交点数NがBER特性に与える影響を示す図である。
図24(a)は、Nの値を変えた場合のback-to-back BER測定結果であり、N = 4では、HD-FECの7%限界で約1.5dBのOSNRペナルティが観測された。このペナルティの原因は、コンステレーションマップ上の外れ値である。N = 6では、
図23(b)に示すように、固有値の外れ値が観測され、N = 8とほぼ同じ結果であった。一方、外れ値の固有値を持つパルスの数は少なく、BER性能に影響を与えないことが確認できた。
【0133】
図24(b)は、Nを変化させて2,000 km伝送した後のBER測定結果であり、直交点数N = 2の場合、7% HD-FEC限界付近でエラーフロアが出現していることがわかる。これは、バックトゥバックと同様に、固有値のランダムな分散が原因であると考えられます。N = 6でもOSNRのペナルティは約0.2dBであった。これは、わずかではあるが、ランダム分散が発生したためである。Nが大きいほど固有値判定の精度が高いので、復調性能も高くなる。一方、Nが大きくなると、複雑さが大きくなる。したがって、要求されるOSNRに対する要求精度と、要求される複雑さの観点からパラメータを設定する必要がある。
【0134】
[実験:部分ソートの採用]
さらに計算量を削減するために、部分ソートについても原理検証実験を行った。
図14から得られた測定データによって、
図12とアルゴリズム3に示すような固有値復調のためのアルゴリズムを用いた。パラメータはセクションV-Dと同じである。
【0135】
図25では、部分ソートを用いた場合のBER結果を
図21のBERと比較している。BER特性は、全ての測定点でほぼ同等であった。
【0136】
このように、部分ソートを用いることで、通常のクイックソートを全固有値に適用した場合と比較して、複雑さが軽減されることが確認された。
図26は、ソートの複雑度の特性を示す図である。
図26では、ソートの複雑さを比較したものである。r
Mは±0.75から±3.25の範囲で変化させた。縦軸はソート処理のみを比較した場合の計算量の推定値である。また、部分ソートありのCMEと部分ソートなしのCMEを比較すると、複雑さは同じであることがわかる。固有値の数をN
ζとすると、平均的な計算量はO(N
ζlog
2(N
ζ))、最悪の計算量は
【数2】
と見積もられた。部分ソートを用いない通常のクイックソートを用いた場合、抽出された全ての固有値について上記の推定を行った。すなわち、N
ζ = 32のとき、平均複雑度は160、最悪複雑度は1,024であった。部分ソートでは、アルゴリズム3で示される各固有値群の複素数を推定し、その複素数をまとめた。これらを合計した計算量を求め、
図26にプロットした。CMEによる指定領域を|r
M|≧1.75とした場合、部分ソートを用いた場合の方が、計算量が小さくなることがわかる。|r
M|= 1.75のときの平均的な計算量は、どちらのソートもほぼ同じ値である。|r
M|= 3.25の場合、部分ソートは通常のクイックソートに比べて32.9%の複雑度低減を達成した。最悪の場合、|r
M|= 1.75と|r
M|= 3.25では、部分ソートはそれぞれ55.8%と79.0%の複雑度の減少を得た。最悪複雑度の場合、部分ソートはソートを細かく分割するため、
【数3】
で評価しても複雑度が抑制された。したがって、複数の固有値を用いてサンプリングレートを上げることで、部分ソートの効果が顕著に現れた。
【0137】
[結論]
本開示では、光固有値通信のためにCMEとANNの共同復調を提案した。ISTを解いて得られた離散固有値と連続固有値において、CMEは離散固有値とその近傍の連続固有値のみを抽出した。固有値を抽出した後、それをANNに入力し、ビット判定を行った。その結果、QZの場合と比較して、2dBのOSNRペナルティが得られた。
【0138】
この結果は、提案方式がこのペナルティを許容できるシステムにおいて十分に実用的であることを示している。さらに、2dBのOSNRペナルティの理由を調べるため、CMEは複素固有値コンスタレーションマップ上の円形領域を拡大し、抽出される連続固有値の数を増やした。中心座標と原点との距離が最大となるCME円を|rM|<1.75に配置した場合、BER特性はQZと同程度であった。つまり、|Re[ζ]|<1.875では離散固有値の変動だけでなく、連続固有値の変動もANNのビット判定に影響を与えることが明らかになった。
【0139】
BER特性に影響を与えるもう一つの要因として懸念されるCMEアルゴリズムの内部パラメータである直交点数Nについて検討した。単一固有値を用いる場合は、最小限の直交点数である2点でもBER特性に影響はなかったが、複数の固有値を用いる場合は、6点程度の直交点が必要であることが判明した。
【0140】
部分ソートアルゴリズムを提案し、実験により検証を行った。BER特性は、通常のクイックソートを全固有値に適用した場合と比較して、OSNRのペナルティがなく、かつ、複雑さが軽減された。
【0141】
(その他の変形例)
以上、本開示に係る光信号受信システム、光信号受信方法およびプログラムについて、上記実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思い付く各種変形を実施の形態、実施の形態の変形例1、2および実施例に施したものも、本開示の範囲に含まれてもよい。
【0142】
例えば、本開示に係る光信号受信システム、光信号受信方法およびプログラムにおいて、
図27に示すように、演算部30cの固有値求解部35aは、上述の閉曲線設定部、固有値数推定部およびグルーピング部を有していてもよい。
図27は、その他変形例に係る光信号受信システム1cの演算部30cの機能を示すブロック図である。
【0143】
また、本開示に係る光信号受信システム、光信号受信方法およびプログラムにおいて、
図28に示すように、固有値数推定部34bは、上述の閉曲線設定部、固有値数推定部およびグルーピング部を有していてもよい。
図28は、その他変形例に係る光信号受信システム1dの演算部30dの機能を示すブロック図である。
【0144】
例えば、本開示に係る光信号受信システムをCPU又はプロセッサ等のプログラム実行部を有するコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。
【0145】
なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0146】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。
【0147】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、DSP(Digital Signal Processor)等のマイクロプロセッサ、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0148】
また、上記で用いた数字は、全て本開示を具体的に説明するために例示するものであり、本開示の実施の形態は例示された数字に制限されない。
【0149】
また、ブロック図における機能ブロックの分割は一例であり、複数の機能ブロックを一つの機能ブロックとして実現したり、一つの機能ブロックを複数に分割したり、一部の機能を他の機能ブロックに移してもよい。また、類似する機能を有する複数の機能ブロックの機能を単一のハードウェア又はソフトウェアが並列又は時分割に処理してもよい。
【0150】
また、フローチャートにおける各ステップが実行される順序は、本開示を具体的に説明するために例示するためであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記ステップの一部が、他のステップと同時(並列)に実行されてもよい。
【0151】
なお、上記の実施の形態、実施の形態の変形例1、2および実施例に対して当業者が思い付く各種変形を施して得られる形態、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態、実施の形態の変形例1、2および実施例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本開示は、例えば、光ファイバ伝送を用いたシステム、装置、方法およびプログラムに利用可能である。
【符号の説明】
【0153】
1、1a、1b、1c、1d 光信号受信システム
20 アナログデジタル変換部
30、30a、30b、30c、30d 演算部