(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079091
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】酸化亜鉛微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/14 20060101AFI20240604BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240604BHJP
B22F 9/12 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B22F9/14 Z
B22F9/00 A
B22F9/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191813
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】田中 康規
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 有理奈
(72)【発明者】
【氏名】岡野 里桜
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 周
(72)【発明者】
【氏名】末安 志織
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭太郎
【テーマコード(参考)】
4K017
【Fターム(参考)】
4K017AA01
4K017BA01
4K017CA01
4K017CA08
4K017DA07
4K017EF01
(57)【要約】
【課題】工程数を減らし、簡便な方法で酸化亜鉛微粒子が得られる酸化亜鉛微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化亜鉛微粒子の製造方法は、プラズマトーチの内部に原料を供給し、プラズマトーチの周囲に配置されたコイルに振幅変調した高周波電流を供給してプラズマトーチの内部に熱プラズマ炎を発生させ、コイルの下端から、プラズマトーチの中心軸に沿って下向き方向に700mmまでの中心軸上に3000K以下の温度領域を発生させて、熱プラズマ炎により酸化亜鉛微粒子を製造する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマトーチの内部に原料を供給し、前記プラズマトーチの周囲に配置されたコイルに振幅変調した高周波電流を供給して前記プラズマトーチの前記内部に熱プラズマ炎を発生させ、
前記コイルの下端から、前記プラズマトーチの中心軸に沿って下向き方向に700mmまでの前記中心軸上に3000K以下の温度領域を発生させて、前記熱プラズマ炎により酸化亜鉛微粒子を製造する、酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記中心軸上に存在する3000K以下の前記温度領域に、供給された前記原料が、前記高周波電流の前記振幅変調の周期の2周期以内に到達する、請求項1に記載の酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記原料が、前記コイルの前記下端から前記中心軸に沿って前記下向き方向に800mmまでの前記中心軸上に存在する3000K以下の前記温度領域に、10ms以上滞留する、請求項1又は2に記載の酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記コイルの前記下端から前記中心軸に沿って前記下向き方向に200mm、かつ前記下向き方向と直交する方向において前記中心軸を中心とした半径15mmの領域の少なくとも一部が、前記高周波電流の前記振幅変調の周期の1周期以内に2000K以下となる、請求項1又は2に記載の酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記コイルの前記下端から前記中心軸に沿って前記下向き方向に200mm、かつ前記下向き方向と直交する方向において前記中心軸を中心とした半径15mmの領域に、供給された前記原料が、前記高周波電流の前記振幅変調の周期の1周期以内に到達する、請求項1又は2に記載の酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記原料は亜鉛である、請求項1又は2に記載の酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記熱プラズマ炎は、酸素を含む、請求項1又は2に記載の酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【請求項8】
プラズマトーチの内部で発生した熱プラズマ炎を用いた酸化亜鉛微粒子の製造方法であって、
前記プラズマトーチの周囲を囲む第1のコイルと、前記第1のコイルの下方に設置され前記プラズマトーチの周囲を囲む第2のコイルと、前記第1のコイルに高周波電流を供給する第1の電源部と、前記第2のコイルに振幅変調した高周波電流を供給する第2の電源部とが設けられ、前記第1のコイルと前記第2のコイルとは前記プラズマトーチの長手方向に並んで配置されており、前記第1の電源部及び前記第2の電源部により、前記熱プラズマ炎が発生され、
前記プラズマトーチの前記内部で発生した前記熱プラズマ炎に微粒子製造用の原料を供給する第1の工程と、
前記原料を前記熱プラズマ炎で蒸発させ気相状態の混合物とし、前記混合物を冷却する第2の工程とを有し、
前記第1の工程及び前記第2の工程において、前記第2の電源部は、前記第2のコイルに振幅変調した高周波電流を供給し、
前記第2のコイルの下端から、前記プラズマトーチの中心軸に沿って下向き方向に700mmまでの前記中心軸上に3000K以下の温度領域を発生させる、酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記中心軸上に存在する3000K以下の前記温度領域に、供給された前記原料が、前記高周波電流の前記振幅変調の周期の2周期以内に到達する、請求項8に記載の酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記原料が、前記第2のコイルの前記下端から前記中心軸に沿って前記下向き方向に800mmまでの前記中心軸上に存在する3000K以下の前記温度領域に、10ms以上滞留する、請求項8又は9に記載の酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記第2のコイルの前記下端から前記中心軸に沿って前記下向き方向に200mm、かつ前記下向き方向と直交する方向において前記中心軸を中心とした半径15mmの領域の少なくとも一部が、前記高周波電流の前記振幅変調の周期の1周期以内に2000K以下となる、請求項8又は9に記載の酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【請求項12】
前記第2のコイルの前記下端から前記中心軸に沿って前記下向き方向に200mm、かつ前記下向き方向と直交する方向において前記中心軸を中心とした半径15mmの領域に、供給された前記原料が、前記高周波電流の前記振幅変調の周期の1周期以内に到達する、請求項8又は9に記載の酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【請求項13】
前記原料は亜鉛である、請求項8又は9に記載の酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【請求項14】
前記熱プラズマ炎は、酸素を含む、請求項8又は9に記載の酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いた酸化亜鉛微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、酸化亜鉛は、顔料又は添加剤として化粧料、医薬品、塗料等の各種の樹脂組成物に使用されている。また、酸化亜鉛は、紫外線防止能を有することから、化粧料においてはサンスクリーン剤の原料としても使用されている。これ以外にも、酸化亜鉛は、半導体又は圧電素子等の各種の電子材料に使用されている。
酸化亜鉛微粒子の製造方法として、例えば、特許文献1に、亜鉛化合物と酢酸とグリコールを混合して混合液を調製し、調製した混合液を50~200℃の温度で0.5~5時間保持することにより、混合液を反応させ、得られた反応液を遠心分離して反応液から白色沈殿物を分離し、この分離した白色沈殿物を溶媒に再分散させた後、この分散液を遠心分離して、平均粒径が200nm以下の酸化亜鉛微粒子を生成させる酸化亜鉛微粒子の製造方法であって、分散液から白色沈殿物を分離する工程を複数回繰り返すことにより、白色沈殿物を洗浄した後、この洗浄した白色沈殿物を25~60℃で真空乾燥することにより、酸化亜鉛微粒子を得る酸化亜鉛微粒子の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の酸化亜鉛微粒子の製造方法では、複数の工程を実施する必要があり、また、酸化亜鉛微粒子を得るために分散液から白色沈殿物を分離する工程を複数回繰り返す必要もある。このため、工程が煩雑である。
本発明の目的は、工程数を減らし、簡便な方法で酸化亜鉛微粒子が得られる酸化亜鉛微粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様は、プラズマトーチの内部に原料を供給し、プラズマトーチの周囲に配置されたコイルに振幅変調した高周波電流を供給してプラズマトーチの内部に熱プラズマ炎を発生させ、コイルの下端から、プラズマトーチの中心軸に沿って下向き方向に700mmまでの中心軸上に3000K以下の温度領域を発生させて、熱プラズマ炎により酸化亜鉛微粒子を製造する、酸化亜鉛微粒子の製造方法である。
【0006】
中心軸上に存在する3000K以下の温度領域に、供給された原料が、高周波電流の振幅変調の周期の2周期以内に到達することが好ましい。
原料が、コイルの下端から中心軸に沿って下向き方向に800mmまでの中心軸上に存在する3000K以下の温度領域に、10ms以上滞留することが好ましい。
コイルの下端から中心軸に沿って下向き方向に200mm、かつ下向き方向と直交する方向において中心軸を中心とした半径15mmの領域の少なくとも一部が、高周波電流の振幅変調の周期の1周期以内に2000K以下となることが好ましい。
コイルの下端から中心軸に沿って下向き方向に200mm、かつ下向き方向と直交する方向において中心軸を中心とした半径15mmの領域に、供給された原料が、高周波電流の振幅変調の周期の1周期以内に到達することが好ましい。
原料は亜鉛であることが好ましい。
熱プラズマ炎は、酸素を含むことが好ましい。
【0007】
本発明の一態様は、プラズマトーチの内部で発生した熱プラズマ炎を用いた酸化亜鉛微粒子の製造方法であって、プラズマトーチの周囲を囲む第1のコイルと、第1のコイルの下方に設置されプラズマトーチの周囲を囲む第2のコイルと、第1のコイルに高周波電流を供給する第1の電源部と、第2のコイルに振幅変調した高周波電流を供給する第2の電源部とが設けられ、第1のコイルと第2のコイルとはプラズマトーチの長手方向に並んで配置されており、第1の電源部及び第2の電源部により、熱プラズマ炎が発生され、プラズマトーチの内部で発生した熱プラズマ炎に微粒子製造用の原料を供給する第1の工程と、原料を熱プラズマ炎で蒸発させ気相状態の混合物とし、混合物を冷却する第2の工程とを有し、第1の工程及び第2の工程において、第2の電源部は、第2のコイルに振幅変調した高周波電流を供給し、第2のコイルの下端から、プラズマトーチの中心軸に沿って下向き方向に700mmまでの中心軸上に3000K以下の温度領域を発生させる、酸化亜鉛微粒子の製造方法。
【0008】
中心軸上に存在する3000K以下の温度領域に、供給された原料が、高周波電流の振幅変調の周期の2周期以内に到達することが好ましい。
原料が、第2のコイルの下端から中心軸に沿って下向き方向に800mmまでの中心軸上に存在する3000K以下の温度領域に、10ms以上滞留することが好ましい。
第2のコイルの下端から中心軸に沿って下向き方向に200mm、かつ下向き方向と直交する方向において中心軸を中心とした半径15mmの領域の少なくとも一部が、高周波電流の振幅変調の周期の1周期以内に2000K以下となることが好ましい。
第2のコイルの下端から中心軸に沿って下向き方向に200mm、かつ下向き方向と直交する方向において中心軸を中心とした半径15mmの領域に、供給された原料が、高周波電流の振幅変調の周期の1周期以内に到達することが好ましい。
原料は亜鉛であることが好ましい。
熱プラズマ炎は、酸素を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、工程数を減らし、簡便な方法で酸化亜鉛微粒子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態の酸化亜鉛微粒子の製造方法の製造装置の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態の酸化亜鉛微粒子の製造方法の製造装置のプラズマトーチの一例を示す模式的部分断面図である。
【
図3】プラズマ発生部の電源部の高周波電流の波形の一例を示す模式図である。
【
図4】プラズマ発生部の高周波電流の波形の一例を示す模式図である。
【
図5】第1のコイルの高周波電流の波形の一例、第2のコイルの高周波電流の波形の一例、及び原料の供給の波形の一例を示すグラフである。
【
図6】第2のコイルの高周波電流の波形の他の例を示すグラフである。
【
図7】(a)は第2のコイルの高周波電流の波形がのこぎり波のグラフであり、(b)は第2のコイルの高周波電流の波形が逆こぎり波のグラフであり、(c)は第2のコイルの高周波電流の波形が矩形波のグラフであり、(d)は第2のコイルの高周波電流の波形が三角波のグラフである。
【
図8】(a)~(d)は第2のコイルの高周波電流の波形がのこぎり波の場合のプラズマトーチ及びチャンバー内の温度分布を示す模式図である。
【
図9】(a)~(d)は第2のコイルの高周波電流の波形が逆こぎり波の場合のプラズマトーチ及びチャンバー内の温度分布を示す模式図である。
【
図10】(a)~(d)は第2のコイルの高周波電流の波形が矩形波の場合のプラズマトーチ及びチャンバー内の温度分布を示す模式図である。
【
図11】(a)~(d)は第2のコイルの高周波電流の波形が三角波の場合のプラズマトーチ及びチャンバー内の温度分布を示す模式図である。
【
図12】(a)は第2のコイルの高周波電流の波形がのこぎり波の場合の原料供給開始時の温度分布を示す模式図であり、(b)は第2のコイルの高周波電流の波形が逆のこぎり波の場合の原料供給開始時の温度分布を示す模式図であり、(c)は第2のコイルの高周波電流の波形が矩形波の場合の原料供給開始時の温度分布を示す模式図であり、(d)は第2のコイルの高周波電流の波形が三角波の場合の原料供給開始時の温度分布を示す模式図である。
【
図13】(a)は第2のコイルの高周波電流の波形がのこぎり波の場合の原料供給停止時の温度分布を示す模式図であり、(b)は第2のコイルの高周波電流の波形が逆のこぎり波の場合の原料供給停止時の温度分布を示す模式図であり、(c)は第2のコイルの高周波電流の波形が矩形波の場合の原料供給停止時の温度分布を示す模式図であり、(d)は第2のコイルの高周波電流の波形が三角波の場合の原料供給停止時の温度分布を示す模式図である。
【
図15】例1の酸化亜鉛微粒子のSEM像を示す模式図である。
【
図16】例2の酸化亜鉛微粒子のSEM像を示す模式図である。
【
図17】例3の酸化亜鉛微粒子のSEM像を示す模式図である。
【
図18】例4の酸化亜鉛微粒子のSEM像を示す模式図である。
【
図19】(a)は例1の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の正規分布を示すグラフであり、(b)は例1の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の対数正規分布を示すグラフである。
【
図20】(a)は例2の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の正規分布を示すグラフであり、(b)は例2の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の対数正規分布を示すグラフである。
【
図21】(a)は例3の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の正規分布を示すグラフであり、(b)は例3の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の対数正規分布を示すグラフである。
【
図22】(a)は例4の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の正規分布を示すグラフであり、(b)は例4の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の対数正規分布を示すグラフである。
【
図23】(a)は例1の酸化亜鉛微粒子のワイヤ長さの正規分布を示すグラフであり、(b)は例1の酸化亜鉛微粒子のワイヤ長さの対数正規分布を示すグラフである。
【
図24】(a)は例2の酸化亜鉛微粒子のワイヤ長さの正規分布を示すグラフであり、(b)は例2の酸化亜鉛微粒子のワイヤ長さの対数正規分布を示すグラフである。
【
図25】(a)は例3の酸化亜鉛微粒子のワイヤ長さの正規分布を示すグラフであり、(b)は例3の酸化亜鉛微粒子のワイヤ長さの対数正規分布を示すグラフである。
【
図26】(a)は例4の酸化亜鉛微粒子のワイヤ長さの正規分布を示すグラフであり、(b)は例4の酸化亜鉛微粒子のワイヤ長さの対数正規分布を示すグラフである。
【
図27】(a)は例1のアスペクト比の正規分布を示すグラフであり、(b)は例2のアスペクト比の正規分布を示すグラフであり、(c)は例3のアスペクト比の正規分布を示すグラフであり、(d)は例4のアスペクト比の正規分布を示すグラフである。
【
図28】(a)は例1~4の平均直径と、ナノワイヤの割合を示すグラフであり、(b)は例1~4の平均長さを示すグラフであり、(c)は例1~4の平均アスペクト比を示すグラフである。
【
図29】第1のコイル及び第2のコイルの高周波電流が無変調の場合のプラズマトーチ及びチャンバー内の温度分布を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の酸化亜鉛微粒子の製造方法を詳細に説明する。
なお、以下に説明する図は、本発明を説明するための例示的なものであり、以下に示す図に本発明が限定されるものではない。
【0012】
[酸化亜鉛微粒子]
酸化亜鉛微粒子の製造方法で得られた酸化亜鉛微粒子は、基板等の担体の存在を前提としないものであり、単独で粉体の形態である。酸化亜鉛微粒子の製造方法では、酸化亜鉛微粒子が単体、かつ不純物が少ない状態で存在するため、酸化亜鉛微粒子を分離又は抽出する作業が不要であり、酸化亜鉛微粒子は取り扱いやすい。このため、酸化亜鉛微粒子を種々の用途に利用しやすい。
本発明では、酸化亜鉛微粒子は、ナノ粒子と、ナノワイヤとを含む。ナノ粒子及びナノワイヤは、いずれも基板等の担体の存在を前提としない。ナノ粒子及びナノワイヤは、それぞれ酸化亜鉛で構成される。
【0013】
<ナノ粒子>
ナノ粒子とは、ナノサイズの微粒子であり、粒径が200nm以下の粒子である。ナノ粒子の粒径は、好ましくは10~100nmである。また、ナノ粒子は、球状であることが好ましいが、球状に限定されるものではない。ナノ粒子は、例えば、短軸の直径をαとし、長軸の直径をβとするとき、比β/αが5未満であれば、ナノ粒子とする。比β/αのことをアスペクト比という。
ナノ粒子の粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて微粒子のSEM画像を複数取得し、3~5のSEM画像から無作為に総数で500個抽出した微粒子の粒径を測定して得られた微粒子の粒径の平均値である。3~5のSEM画像を画像解析して、無作為に抽出した総数500個の微粒子を球とみなし、球に相当する領域の直径を測定して、粒径の平均値を求めることもできる。
ナノ粒子は、上述のように比β/αが5未満のものが含まれる。このため、球状ではない微粒子についても、短軸に相当する長さと、長軸に相当する長さを測定し、比β/αを求める。
なお、ナノ粒子は、表面に炭素等のナノ粒子を構成するもの以外の物質が担持又はコーティングされていてもよい。
【0014】
<ナノワイヤ>
ナノワイヤは、直径が200nm以下であり、かつ長さが直径の5倍以上のもののことである。すなわち、比β/α(アスペクト比)が5以上である。ナノワイヤは長さが直径の5倍以上であれば、上限値は、特に限定されるものではなく、例えば、製造条件等の制約を受ける。ナノワイヤは、ナノワイヤよりも直径が太いワイヤ状の物体である。
ナノワイヤの直径は、SEMを用いてナノワイヤの画像を複数取得し、3~5のSEM画像から無作為に総数で500個抽出したナノワイヤの直径を測定して得られたナノワイヤの直径の平均値である。3~5のSEM画像を画像解析して、無作為に抽出した総数500個のナノワイヤの直径に相当する領域の直径を測定して、直径の平均値を求めることもできる。
また、ナノワイヤの長さは、SEMを用いてナノワイヤの複数画像を取得し、3~5のSEM画像から無作為に総数で500個抽出したナノワイヤの長さを測定して得られたナノワイヤの長さの平均値である。3~5のSEM画像を画像解析して、無作為に抽出した総数500個のナノワイヤの長さに相当する領域の長さを測定して、長さの平均値を求めることもできる。
【0015】
(酸化亜鉛微粒子の製造装置)
図1は本発明の実施形態の酸化亜鉛微粒子の製造方法の製造装置の一例を示す模式図であり、
図2は本発明の実施形態の酸化亜鉛微粒子の製造方法の製造装置のプラズマトーチの一例を示す模式的部分断面図である。
図1に示す酸化亜鉛微粒子の製造方法の製造装置10(以下、単に製造装置10という)は、酸化亜鉛微粒子の製造用の原料を用いて、酸化亜鉛微粒子を製造するものである。
酸化亜鉛微粒子の製造方法に用いる原料は、例えば、粉体の形態である。原料には、例えば、Zn(亜鉛)の粉体を用いる。原料の粉体、例えば、Znの粉体は、キャリアガスを用いて、製造装置10に供給される。キャリアガスには、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、又は窒素ガス等の不活性ガスが用いられる。なお、キャリアガスは、酸素を含んでもよい。
製造装置10は、原料供給部12と、プラズマトーチ14と、チャンバー16と、回収部18と、プラズマガス供給部20と、プラズマ発生部21と、気体供給部22と、シースガス供給部23と、制御部24とを有する。
【0016】
原料供給部12はプラズマトーチ14に中空状の供給管13を介して接続されている。
また、原料供給部12とプラズマトーチ14との間の供給管13に間歇供給部15が設けられている。
プラズマトーチ14の下方にチャンバー16が設けられ、チャンバー16の下流に回収部18が設けられている。プラズマ発生部21はプラズマトーチ14に接続されており、後述するようにプラズマ発生部21により、プラズマトーチ14の内部(石英管14aの内部)に熱プラズマ炎34が発生される。
【0017】
原料供給部12は、酸化亜鉛微粒子製造用の原料をプラズマトーチ14の内部で発生する熱プラズマ炎34中に供給するためのものである。
原料供給部12は、原料を熱プラズマ炎34中に供給することができれば、特に限定されるものではなく、原料を粒子状に分散させた状態で熱プラズマ炎34中に供給するものと、原料をスラリーにし、スラリーを液滴化した形態で熱プラズマ炎34中に供給するものとの2通りの方式を用いることができる。
【0018】
例えば、酸化亜鉛微粒子製造用の原料に、粉体を用いた場合、プラズマトーチ14内の熱プラズマ炎34中に原料が供給される際には原料が粒子状に分散されている必要がある。このため、例えば、原料は、キャリアガスに分散させて粒子状に供給される。この場合、例えば、原料供給部12は、粉体の原料を分散状態に維持しつつ、定量的にプラズマトーチ14内部の熱プラズマ炎34中に供給するものである。このような機能を有する原料供給部12としては、例えば、特許第3217415号公報、及び特開2007-138287号公報に開示されている装置が利用可能である。
例えば、原料供給部12は、例えば、原料の粉末を貯蔵する貯蔵槽(図示せず)と、原料の粉末を定量搬送するスクリューフィーダ(図示せず)と、スクリューフィーダで搬送された原料の粉末が最終的に散布される前に、これを粒子の状態に分散させる分散部(図示せず)と、キャリアガス供給源(図示せず)とを有する。
キャリアガス供給源から押し出し圧力がかけられたキャリアガスとともに原料の粉末は供給管13を介してプラズマトーチ14内の熱プラズマ炎34中へ供給される。
原料供給部12は、原料の粉末の凝集を防止し、分散状態を維持したまま、原料の粉末を、粒子状に分散させた状態でプラズマトーチ14内に散布することができるものであれば、その構成は特に限定されるものではない。
【0019】
原料の粉末をスラリーの形態で供給する原料供給部12は、例えば、特開2011-213524号公報に開示されているものを用いることができる。この場合、原料供給部12は、原料の粉末が水等の液体に分散されたスラリー(図示せず)を入れる容器(図示せず)と、容器中のスラリーを攪拌する攪拌機(図示せず)と、供給管13を介してスラリーに高圧をかけプラズマトーチ14内に供給するためのポンプ(図示せず)と、スラリーを液滴化させてプラズマトーチ14内へ供給するための噴霧ガスを供給する噴霧ガス供給源(図示せず)とを有する。噴霧ガス供給源は、キャリアガス供給源に相当するものである。噴霧ガスのことをキャリアガスともいう。
スラリーの形態で原料を供給する場合、原料の粉末を水等の液体に分散させてスラリーにする。なお、スラリー中の原料の粉末と水との混合比は、特に限定されるものではなく、例えば、質量比で5:5(50%:50%)である。
【0020】
原料の粉末をスラリーにして、スラリーを液滴化した形態で供給する原料供給部12を用いた場合、噴霧ガス供給源から押し出し圧力をかけられた噴霧ガスが、スラリーと共に供給管13を介してプラズマトーチ14内の熱プラズマ炎34中へ供給される。供給管13は、スラリーをプラズマトーチ内の熱プラズマ炎34中に噴霧し液滴化するための二流体ノズル機構を有しており、これにより、スラリーをプラズマトーチ14内の熱プラズマ炎34中に噴霧する。すなわち、スラリーを液滴化させることができる。噴霧ガスには、上述のキャリアガスと同様に、例えば、アルゴンガス(Arガス)、窒素ガス等の不活性ガスが用いられる。
このように、二流体ノズル機構は、スラリーに高圧をかけ、気体である噴霧ガス(キャリアガス)によりスラリーを噴霧することができ、スラリーを液滴化させるための一つの方法として用いられる。
なお、上述の二流体ノズル機構に限定されるものではなく、一流体ノズル機構を用いてもよい。さらに他の方法として、例えば、回転している円板上にスラリーを一定速度で落下させて遠心力により液滴化する(液滴を形成する)方法、スラリー表面に高い電圧を印加して液滴化する(液滴を発生させる)方法等が挙げられる。
【0021】
プラズマトーチ14は、内部に熱プラズマ炎34が発生されるものであり、原料供給部12により供給される原料を熱プラズマ炎34にて蒸発させて気相状態の混合物35とするものである。
図2に示すように、プラズマトーチ14は、石英管14aと、石英管14aの外面に設けられた、プラズマトーチ14の外側を取り巻く高周波発振用コイル14bとで構成されている。プラズマトーチ14の上部には、供給管13が挿入される供給口14cがその中央部に設けられており、プラズマガス供給口14dがその周辺部(同一円周上)に形成されている。石英管14aの内部で熱プラズマ炎34が発生する。石英管14aの内部がプラズマトーチ14の内部である。
供給管13により、例えば、粉末状の原料と、アルゴンガス又は水素ガス等のキャリアガスとがプラズマトーチ14内に供給される。
【0022】
プラズマガス供給口14dは、例えば、図示しない配管によりプラズマガス供給部20が接続されている。プラズマガス供給部20は、プラズマガス供給口14dを介してプラズマトーチ14内にプラズマガスを供給するものである。プラズマガスとしては、例えば、アルゴンガス及び水素ガス等が単独又は適宜組み合わせて用いられるが、プラズマガスには酸素を含むことが好ましい。これにより、熱プラズマ炎34が酸素を含む。
なお、プラズマガス供給部20に加えて、プラズマトーチ14内にシースガスを供給するシースガス供給部23を設けてもよい。シースガスはプラズマガスと同じガスを用いることができる。シースガスが酸素を含んでもよい。
プラズマガス供給部20とシースガス供給部23とは、ガス種が異なるだけであり、基本的には同じ構成である。このため、プラズマガス供給部20に代えて、上述のシースガス供給部23を設けてもよい。
【0023】
また、プラズマトーチ14の石英管14aの外側は、同心円状に形成された石英管14eで囲まれており、石英管14aと14eの間に冷却水14fを循環させて石英管14aを水冷し、プラズマトーチ14内で発生した熱プラズマ炎34により石英管14aが高温になりすぎるのを防止している。
【0024】
プラズマ発生部21は、上述のようにプラズマトーチ14の内部に熱プラズマ炎34を発生させるものである。プラズマ発生部21は、プラズマトーチ14の周囲を囲む第1のコイル30と、プラズマトーチ14の周囲を囲む第2のコイル32と、第1のコイル30に高周波電流を供給する第1の電源部21aと、第2のコイル32に振幅変調(AM変調)した高周波電流を供給する第2の電源部21bとを有する。第1のコイル30に供給する高周波電流のことを、第1のコイル電流ともいい、第2のコイル32に供給する高周波電流のことを、第2のコイル電流ともいう。
【0025】
第1のコイル30と第2のコイル32とはプラズマトーチ14の長手方向に並んで配置されており、第2のコイル32は、第1のコイル30の下方に設置されている。
第1の電源部21a及び第2の電源部21bは、いずれも高周波電源であり、かつ互いに独立している。また、第1のコイル30と第2のコイル32との間の磁気結合を低減するために第1の電源部21aの高周波電流の周波数と、第2の電源部21bの高周波電流の周波数とは異なることが好ましい。これにより、互いの電源部への影響を抑制できる。
なお、第1のコイル30と第2のコイル32とにより高周波発振用コイル14bが構成される。第1のコイル30の巻数及び第2のコイル32の巻数は、特に限定されるものではなく、製造装置10の仕様に応じて適宜決定されるものである。第1のコイル30及び第2のコイル32の材質も、特に限定されるものではなく、製造装置10の仕様に応じて適宜決定されるものである。
【0026】
プラズマ発生部21において、2つのコイルと、2つの独立した電源部を用いることにより、誘導熱プラズマの直列構造を構成することができる。誘導熱プラズマの直列構造を構成することにより、プラズマトーチ14の軸方向に長い高温場を生成することができる。上述の長い高温場を利用することにより、高融点材料を完全に蒸発させることが可能である。なお、熱プラズマ炎が所定時間間隔で周期的に高温状態と、この高温状態よりも温度が低い低温状態にされたもの、すなわち、熱プラズマ炎の温度状態が時間変調されたもののことを変調誘導熱プラズマ炎という。
【0027】
プラズマ発生部21では、例えば、第1の電源部21aが第1のコイル30に振幅変調していない無変調の高周波電流(
図3参照)を供給する。第2の電源部21bが第2のコイル32に振幅変調した高周波電流(
図4参照)を供給する。
第1のコイル30に無変調の高周波電流(
図3参照)が供給され、第2のコイル32に振幅変調した高周波電流(
図4参照)が供給されると、プラズマトーチ14の内部に熱プラズマ炎34が発生する。第2のコイル32に供給される振幅変調された高周波電流により、熱プラズマ炎34の温度を変えることができ、プラズマトーチ14の内部の温度を制御することができる。熱プラズマ炎34の温度状態が時間変調されて、熱プラズマ炎34の温度状態が周期的に高温状態と、高温状態よりも温度が低い低温状態になる。これにより、酸化亜鉛微粒子の粒径を制御でき、より粒径が小さい酸化亜鉛微粒子を大量に得ることができ、酸化亜鉛微粒子を効率よく大量に製造できる。
なお、第1のコイル30に無変調の高周波電流を供給して熱プラズマ炎34を発生させることにより、熱プラズマ炎34を安定させることができ、第2のコイル32へ供給する高周波電流を変調させても熱プラズマ炎34が不安定になることが抑制される。これにより、例えば、大量の原料が熱プラズマ炎34に供給された場合でも、熱プラズマ炎34の温度低下を抑制することができる。これにより、粒径の均一性が良好な酸化亜鉛微粒子を大量に得ることができる。このことからも、酸化亜鉛微粒子を効率よく大量に製造できる。
【0028】
ここで、
図3は第1の電源部の高周波電流の波形の一例を示す模式図であり、
図4は第2の電源部の高周波電流の波形の一例を示す模式図である。
図3は上述の振幅変調していない、無変調の高周波電流の波形40を示すものであり、振幅が一定であり、変わらない。
図4は上述の振幅変調した高周波電流の波形41を示すものであり、振幅が時間に対して周期的に変調している。
図4は矩形波振幅変調を示す。振幅変調は、三角波、のこぎり波、逆のこぎり波、又は正弦波等を含む曲線を含む繰り返し波からなる波形があるが、後述のように
図4に示す矩形波振幅変調が好ましい。
【0029】
振幅変調した高周波電流において、電流振幅の高値をHCL(Higher Current Level)、電流振幅の低値をLCL(Lower Current Level)とし、変調一周期の中で、HCLをとる時間をオン時間、LCLをとる時間をオフ時間と定義する。さらに、一周期におけるオン時間の割合(オン時間/(オン時間+オフ時間)×100(%))をデューティ比(DF)とする。また、振幅の比(LCL/HCL×100(%))を電流変調率(SCL)とする。電流変調率(SCL)は電流振幅の変調度合いを示すものであり、100%SCLは無変調状態を示し、0%SCLは電流振幅が最も大きく変調していることを示す。0%SCLでは、オフ時間、すなわち、後述のように高周波電流の電流振幅が低い領域において高周波電流の電流値が0A(アンペア)である。振幅変調は、0%SCL以上100%SCL未満であれば、特に限定されるものではないが、0%SCLに近い方が変調度合い高い、すなわち、振幅の変調が大きいため、0%SCLが最も好ましい。
なお、オン時間(
図4参照)は高周波電流の電流振幅が高い領域であり、オフ時間(
図4参照)は高周波電流の電流振幅が低い領域である。上述のオン時間とオフ時間との合計が1周期(1サイクル)である。
また、上述のオン時間、オフ時間、及び1周期(1サイクル)は、いずれもマイクロ秒から数秒オーダーであることが好ましい。
【0030】
プラズマトーチ14内における圧力雰囲気は、酸化亜鉛微粒子の製造条件に応じて適宜決定されるものであり。例えば、大気圧以下である。ここで、大気圧以下の雰囲気については、特に限定されないが、例えば、5Torr(666.5Pa)~750Torr(99.975kPa)とすることができる。
【0031】
図1に示すようにチャンバー16は、プラズマトーチ14に近い方から、上流チャンバー16aがプラズマトーチ14と同軸方向に取り付けられている。また、上流チャンバー16aと垂直に下流チャンバー16bを設け、さらに下流に、酸化亜鉛微粒子を捕集するための所望のフィルター18aを備える回収部18が設けられている。製造装置10において、酸化亜鉛微粒子の回収場所は、例えば、フィルター18aである。
チャンバー16に、気体供給部22が接続されている。気体供給部22から供給される急冷ガスにより、チャンバー16内で、酸化亜鉛微粒子が生成される。また、チャンバー16は冷却槽として機能するものである。急冷ガスは、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、又は窒素ガス等の不活性ガスが用いられる。なお、急冷ガスは、酸素を含んでもよい。
【0032】
回収部18は、フィルター18aを備えた回収室と、この回収室内下方に設けられた管を介して接続された真空ポンプ18bとを備えている。チャンバー16から送られた酸化亜鉛微粒子は、上述の真空ポンプ18bで吸引されることにより、酸化亜鉛微粒子が回収室内に引き込まれ、フィルター18aの表面で留まった状態にて酸化亜鉛微粒子が回収される。
【0033】
気体供給部22は、チャンバー16内の熱プラズマ炎34に急冷ガスを供給するものである。急冷ガスは、冷却ガスとして機能するものである。気体供給部22は、気体が貯留される気体供給源(図示せず)と、チャンバー16内に供給する急冷ガスに押出し圧力をかけるコンプレッサ、ブロア等の圧力付与部(図示せず)とを有する。また、気体供給源からのガス供給量を制御する調整弁(図示せず)が設けられている。気体供給源は、急冷ガスの組成に応じたものが用いられ、気体の種類は1種類に限定されるものではなく、急冷ガスを混合ガスとする場合、気体供給源を複数用意する。
急冷ガスは、冷却する機能を発揮するものであれば、特に限定されるものではない。急冷ガスには、例えば、原料と反応しない、アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが用いられる。急冷ガスは、これ以外に、水素ガスを含有してもよい。また、急冷ガスは、原料と反応する反応性ガスを含有してよい。反応性ガスとしては、例えば、メタン、エタン,プロパン,ブタン,アセチレン,エチレン,プロピレン,ブテン等の炭化水素ガス等が挙げられる。
【0034】
気体供給部22は、例えば、熱プラズマ炎34の尾部34b(
図2参照)、すなわち、プラズマガス供給口14dと反対側の熱プラズマ炎34の端、すなわち、熱プラズマ炎34の終端部に向かって、例えば、45°の角度で、急冷ガス(冷却ガス)を供給し、かつチャンバー16の内壁に沿って上方から下方に向かって、急冷ガス(冷却ガス)を供給する。なお、熱プラズマ炎34の終端部に急冷ガスを供給することに限定されるものではない。
【0035】
気体供給部22からチャンバー16内に供給される急冷ガスにより、熱プラズマ炎34で気相状態にされた混合物35が急冷されて酸化亜鉛微粒子が得られる。これ以外にも上述の急冷ガスは酸化亜鉛微粒子の分級に寄与する等の付加的作用を有する。
酸化亜鉛微粒子の生成直後の酸化亜鉛微粒子同士が衝突し、凝集体を形成することで粒子径の不均一が生じると、品質低下の要因となる。しかしながら、熱プラズマ炎の尾部34b(終端部)に向かって、急冷ガスを供給することにより、急冷ガスが酸化亜鉛微粒子を希釈することにより、酸化亜鉛微粒子同士が衝突して凝集することが防止される。
また、チャンバー16の内壁面に沿って、急冷ガスを供給することにより、酸化亜鉛微粒子の回収の過程において、酸化亜鉛微粒子のチャンバー16の内壁への付着が防止され、生成した酸化亜鉛微粒子の収率が向上する。
【0036】
気体供給部22の熱プラズマ炎34への急冷ガスの供給方法は、特に限定されるものではなく、1方向から急冷ガスを供給してもよい。また、熱プラズマ炎34の周囲を囲む、複数の方向から急冷ガスを供給してもよい。この場合、急冷ガスの供給口をチャンバー16の外周面に、周方向に沿って複数に、例えば、等間隔に設けるが、等間隔に限定されるものではない。
複数の方向から急冷ガスを供給する場合、供給タイミングは、特に限定されるものではなく、複数の方向から同期して急冷ガスを供給する。これ以外にも、例えば、時計回り又は反時計回りの順で、急冷ガスを供給してもよい。この場合、急冷ガスにより、チャンバー16内に旋回流等の気流が生じる。複数の方向から急冷ガスを供給する場合、供給順を決定することなく、ランダムに供給してもよい。
なお、急冷ガスを用いることなく、酸化亜鉛微粒子を生成することができれば、気体供給部22は必ずしも必要ではない。気体供給部22がない構成の場合、製造装置10の装置構成を簡素化でき、かつ酸化亜鉛微粒子の製造方法も工程を簡素化できる。
【0037】
原料供給部12は、上述のように熱プラズマ炎34に原料を供給するものであり、例えば、原料を、予め定めた量を供給するものであり、時間によらず、一定量の原料を供給する。
原料供給部12は、一定量の原料を供給するものに限定されるものではなく、原料の熱プラズマ炎34中への供給量を時間変調して、原料を熱プラズマ炎34中に供給するものでもよい。これにより、
図4に示すオン時間に大量の原料を供給することができる。これにより、より粒径が小さい酸化亜鉛微粒子を大量に製造することができる。この場合、例えば、供給管13に間歇供給部15を設ける。間歇供給部15により、チャンバー16内に原料を時間変調して供給する。原料の供給量の変化は、特に限定されるものではなく、サイン波状でも、三角波状でも、方形波状でも、のこぎり波状でもよいが、第2のコイル32に供給される高周波電流の振幅変調に合わせることが好ましい。すなわち、関数で表される振幅変調の時間変化が同じであることが好ましい。これにより、オン時間と原料の供給とのタイミングを合わせやすくなる。
【0038】
間歇供給部15は、例えば、供給管13に接続されたソレノイドバルブ(電磁弁)を用いて、原料の供給量を時間変調する。制御部24により、ソレノイドバルブの開閉が制御される。ソレノイドバルブ以外に、ボールバルブを用いてもよい。この場合も、制御部24により、ボールバルブの開閉が制御される。制御部24により、例えば、オン時間のときに原料の供給量を多くし、オフ時間のときに原料の供給量を少なくするパターンで、原料の供給量を時間変調する。これにより、より小さい酸化亜鉛微粒子を大量に製造することができる。このため、原料の供給は、オン時間のときに原料の供給量を多くし、オフ時間のときに原料の供給量を少なくすることが好ましい。このように、オン時間に原料を供給することにより、大量の原料を蒸発させることができ、その結果、酸化亜鉛微粒子の大量生成が可能になり、酸化亜鉛微粒子を効率よく、しかも大量に製造できる。
【0039】
ここで、
図5は第1のコイルの高周波電流の波形の一例、第2のコイルの高周波電流の波形の一例、及び原料の供給の波形の一例を示すグラフである。
図5において、符号42は第1のコイルの高周波電流の波形を示し、符号43は第2のコイルの高周波電流の波形を示し、符号44は原料の供給を示す波形である。
図5において第1のコイルの高周波電流の電流値と、第2のコイルの高周波電流の電流値とは、同期して変化している。このため、第1のコイルの高周波電流の電流値が高いと、第2のコイルの高周波電流の電流値も高く、第1のコイルの高周波電流の電流値が低いと、第2のコイルの高周波電流の電流値も低い。第1のコイルの高周波電流の電流値及び第2のコイルの高周波電流の電流値が高いときに、熱プラズマ炎34は高温状態であり、第1のコイルの高周波電流の電流値及び第2のコイルの高周波電流の電流値が低いときに、熱プラズマ炎34は低温状態である。
原料は、熱プラズマ炎34が高温状態で供給し、低温状態で供給しない。これにより、原料を効率的に蒸発させ、かつ蒸発蒸気を冷却できる。なお、第2のコイルの高周波電流の変調を大きくすることで、より蒸発蒸気を冷却することができる。
【0040】
[酸化亜鉛微粒子の製造方法]
以下、上述の製造装置10を用いた酸化亜鉛微粒子の製造方法について説明する。酸化亜鉛微粒子の製造方法は、製造装置10を用いるものに限定されるものではない。
まず、酸化亜鉛微粒子の製造方法の原料の粉末として、例えば、d50が60~90μmのZn(亜鉛)の粉末を用意する。
Zn(亜鉛)の粉末を原料供給部12に投入する。
プラズマガスに、例えば、アルゴンガスを用いる。第1の電源部21aにより、無振幅変調の高周波電流を第1のコイル30に供給する。第2の電源部21bにより、振幅変調した高周波電流を第2のコイル32に供給する。これにより、プラズマトーチ14の内部に熱プラズマ炎34を発生させる。第2のコイル32に供給する高周波電流の振幅変調は、例えば、20%SCLであり、変調周期が20ms、オン時間が10ms、オフ時間が10msである。
【0041】
次に、キャリアガスとして、例えば、アルゴンガスを用いてZnの粉末を気体搬送し、供給管13を介してプラズマトーチ14の内部の熱プラズマ炎34中に供給する(第1の工程)。供給されたZnの粉末は、熱プラズマ炎34中で蒸発させて気相状態の混合物35(
図2参照)となる。気相状態の混合物35を冷却する(第2の工程)。これにより、酸化亜鉛微粒子が得られる。混合物35を冷却する場合、急冷ガスを用いてもよく、急冷ガスを用いなくてもよい。第2の工程は、熱プラズマ炎34に急冷ガスを供給して、気相状態の混合物35を冷却してもよい。
そして、チャンバー16内で得られた酸化亜鉛微粒子は、真空ポンプ18bによる回収部18からの負圧(吸引力)によって回収部18のフィルター18aに捕集される。このように少ない工程数で酸化亜鉛微粒子を得ることができる。工程数を減らし、簡便な方法で酸化亜鉛微粒子が得られる。
また、上述のように、熱プラズマ炎34を安定した状態で周期的に高温状態と、高温状態よりも温度が低い低温状態にすることができることから、酸化亜鉛微粒子の粒径、酸化亜鉛微粒子がワイヤ状の場合には長さ、又はアスペクト比を制御できる。
【0042】
なお、上述の気相状態の混合物35(
図2参照)の冷却は、特に限定されるものではなく、急冷ガス等の冷却媒体を用いることなく冷却させた自然冷却でもよい。急冷ガスを用いない場合、SCLの値を小さくすることにより、すなわち、第2のコイルの高周波電流の変調度合いを大きくすることにより、オン時間の熱プラズマ炎34の温度を維持しつつ、オフ時間の熱プラズマ炎34の温度を低くできるため、急冷ガスを用いた冷却を行わなくても、より小さなサイズの酸化亜鉛微粒子を得ることができる。この場合、酸化亜鉛微粒子の製造方法の工程を更に簡素化できる。
また、気体供給部22から熱プラズマ炎34の尾部34b(
図2参照)、すなわち、熱プラズマ炎34の終端部に、急冷ガスとして、例えば、アルゴンガスを供給して、混合物35(
図2参照)を急冷してもよい。これにより、熱プラズマ炎34が急冷されて酸化亜鉛微粒子が生成されるが、このとき、チャンバー16内に温度が低い領域が生じ、よりさらに小さい酸化亜鉛微粒子が得られる。
【0043】
Znの粉末をプラズマトーチ14の内部の熱プラズマ炎34中に供給する際、上述のように、オン時間にZnの粉末の供給量を多くし、オフ時間にZnの粉末の供給量を少なくすることが好ましい。また、オン時間にZnの粉末を供給し、オフ時間にZnの粉末の供給しないようにしてもよい。いずれにしろ、ソレノイドバルブが開になってから実際に原料が搬送され、熱プラズマ炎34中の原料の供給量が多くなるまでに時間がかかるので、その搬送時間にかかる時間を見越して、ソレノイドバルブ等を制御する必要がある。
上述のように、例えば、
図5に示す第2のコイル32の矩形波状に振幅変調された波形43に基づき、搬送時間を考慮してバルブの開閉タイミングが決定され、バルブの開閉のタイミング信号(図示せず)が得られ、バルブが所定の時間間隔で開閉される。その結果、例えば、原料の供給を示す波形44に基づいて、原料の粉末がプラズマトーチ14内にオン時間に供給され、結果として原料が間歇的に供給される。
Znの粉末の供給タイミングと、第2のコイル32の振幅変調とについては、後に詳細に説明する。
【0044】
酸化亜鉛微粒子の製造方法では、プラズマトーチ14の内部に原料を供給し、プラズマトーチ14の周囲に配置された第2のコイル32に振幅変調した高周波電流を供給してプラズマトーチ14の内部に熱プラズマ炎34を発生させ、第2のコイル32の下端32bから、プラズマトーチ14の中心軸Cに沿って下向き方向D
1(
図2参照)に700mm(
図2の位置Q
3参照)までの中心軸C上に3000K以下の温度領域(図示せず)を発生させて、熱プラズマ炎34により酸化亜鉛微粒子を製造する。3000K以下の温度領域があることにより、溶融された原料が十分に冷却されて、ナノサイズのものが得られる。
ここで、下向き方向D
1(
図2参照)とは、プラズマトーチ14からチャンバー16に向う方向である。
上述の中心軸C上に存在する3000K以下の温度領域に、供給された原料が、高周波電流の振幅変調の周期の2周期以内に到達することが好ましい。この場合、供給された原料は、実際には熱プラズマ炎34で蒸発された気相状態の混合物35が下向き方向D
1に移動して到達する。第2のコイル32の高周波電流の振幅変調の周期の2周期以内に到達すれば、溶融された原料が十分に冷却されて、ナノサイズのものが得られる。
【0045】
原料が、第2のコイル32の下端32bから中心軸Cに沿って下向き方向D
1に800mm(
図2位置Q
4参照)までの中心軸C上に存在する3000K以下の温度領域(図示せず)に、10ms以上滞留することが好ましい。
3000K以下の温度領域(図示せず)に10ms以上滞留することにより、混合物35(
図2参照)の蒸気が十分に冷却されて核生成とナノワイヤの成長が促進されるため、好ましい。
第2のコイル32の下端32bから中心軸Cに沿って下向き方向D
1に200mm、かつ下向き方向D
1と直交する方向D
2(
図2参照)において中心軸Cを中心とした半径15mmの領域Dc(
図2参照)の少なくとも一部が、第2のコイル32の高周波電流の振幅変調の周期の1周期以内に2000K以下となることが好ましく、上述の半径15mmの領域Dc(
図2参照)全部が、第2のコイル32の高周波電流の振幅変調の周期の1周期以内に2000K以下となることがより好ましい。これにより、原料が十分に溶融された後に十分に冷却されて、ナノサイズのものが得られる。
第2のコイル32の下端32bから中心軸Cに沿って下向き方向D
1に200mm、かつ下向き方向D
1と直交する方向D
2において中心軸Cを中心とした半径15mmの領域Dcに、供給された原料が、第2のコイル32の高周波電流の振幅変調の周期の1周期以内に到達することが好ましい。これにより、原料が十分に溶融される。
以上のような温度領域は、温度を含め、後述するように第2のコイル32に印加される高周波電流の振幅変調の波形が矩形波の場合により確実に実現できる。このため、高周波電流の振幅変調の波形は矩形波が好ましい。
なお、上述の温度領域、温度領域の3000K等の温度は、実測値、又はシミュレーションの結果でもよい。
また、第2のコイル32に印加される高周波電流の振幅変調の波形が矩形波の場合、冷却をコントロールすることで、ワイヤ状の酸化亜鉛微粒子を得ることができる。この場合、得られた酸化亜鉛微粒子は、ワイヤ状のものの割合が多い。得られたワイヤ状の酸化亜鉛微粒子は、長く、かつアスペクト比が大きい。
【0046】
図6は第2のコイルの高周波電流の波形の他の例を示すグラフである。
図6は三角形状に振幅変調した高周波電流の波形45を示す。高周波電流の波形45が三角形状の場合、上述の電流変調率(SCL)に対応する電流変調率SPCL(Shimmer PeakCurrent Level)と、立ち上がり継続時間比RR(Rising Ratio)を定義する。電流変調率SPCL及び立ち上がり継続時間比RRは、下記式で表される。
SPCL=LPCL/HPCL×100(%)
RR=RT/T
cyc×100(%)
ここで、HPCL及びLPCLは、それぞれ第2のコイルの高周波電流の振幅値の最高値(High Peak Current Level)及び最低値(Low Peak Current Level)である。また、RT(Rising Time)はLCPLからHPCL迄の時間である。T
cycは周期である。
【0047】
図7(a)は第2のコイルの高周波電流の波形がのこぎり波のグラフであり、(b)は第2のコイルの高周波電流の波形が逆こぎり波のグラフであり、(c)は第2のコイルの高周波電流の波形が矩形波のグラフであり、(d)は第2のコイルの高周波電流の波形が三角波のグラフである。
図7(a)~(d)に示す第2のコイルの高周波電流の波形46~49は、いずれも1周期が20msである。また、
図7(a)~(d)に示す区間δ
1~δ
4は、いずれも原料の供給期間である。
図8(a)~(d)は第2のコイルの高周波電流の波形がのこぎり波の場合のプラズマトーチ及びチャンバー内の温度分布を示す模式図である。
図9(a)~(d)は第2のコイルの高周波電流の波形が逆こぎり波の場合のプラズマトーチ及びチャンバー内の温度分布を示す模式図である。
図10(a)~(d)は第2のコイルの高周波電流の波形が矩形波の場合のプラズマトーチ及びチャンバー内の温度分布を示す模式図である。
図11(a)~(d)は第2のコイルの高周波電流の波形が三角波の場合のプラズマトーチ及びチャンバー内の温度分布を示す模式図である。
【0048】
図8(a)~(d)~
図11(a)~(d)は、いずれも数値解析により得られたプラズマトーチ及びチャンバー内の温度分布である。
図8(a)~(d)は、
図7(a)に示す第2のコイルの高周波電流の波形46に基づく温度分布である。
図9(a)~(d)は、
図7(b)に示す第2のコイルの高周波電流の波形47に基づく温度分布である。
図10(a)~(d)は、
図7(c)に示す第2のコイルの高周波電流の波形48に基づく温度分布である。
図11(a)~(d)は、
図7(d)に示す第2のコイルの高周波電流の波形49に基づく温度分布である。
図8(a)、
図9(a)、
図10(a)及び
図11(a)は、それぞれ各区間δ
1~δ
4の5.0ms時点の温度分布を示す。
図8(b)、
図9(b)、
図10(b)及び
図11(b)は、それぞれ各区間δ
1~δ
4の10.0ms時点の温度分布を示す。
図8(c)、
図9(c)、
図10(c)及び
図11(c)は、それぞれ各区間δ
1~δ
4の15.0ms時点の温度分布を示す。
図8(d)、
図9(d)、
図10(d)及び
図11(d)は、それぞれ各区間δ
1~δ
4の20.0ms時点の温度分布を示す。
【0049】
図8(a)~(d)~
図11(a)~(d)に示すシミュレーションの結果から、
図7(a)に示す第2のコイルの高周波電流の波形46の区間δ
1(
図8(b)~(d)に相当)では、温度が低い状態で原料が供給されるが、その後、十分な高温になっておらず、原料の溶融が十分ではない。
また、
図7(b)に示す第2のコイルの高周波電流の波形47の区間δ
2(
図9(d)、(a)及び(d)に相当)では、原料の供給が完了した後も、原料は高温場に存在しており、冷却が十分ではない。
また、
図7(c)に示す第2のコイルの高周波電流の波形48の区間δ
3(
図10(b)~(d)に相当)では、温度が低い状態で原料が供給されて、その後、十分な高温になっており、原料の溶融が十分である。
また、
図7(d)に示す第2のコイルの高周波電流の波形49の区間δ
4(
図11(c)(d)及び(a)に相当)では、原料供給時に十分に高温になっておらず、原料の溶融が十分ではない。
【0050】
図8(a)~(d)~
図11(a)~(d)から、
図7(c)に示す第2のコイルの高周波電流の波形48が矩形波の場合、原料の溶融が十分であるため好ましい。
ここで、
図29は第1のコイル及び第2のコイルの高周波電流が無変調の場合のプラズマトーチ及びチャンバー内の温度分布を示す模式図である。
第1のコイル及び第2のコイルの高周波電流が無変調の場合、時間に依らずに
図29に示すように温度が高い状態が維持されており、原料の供給が完了した後も、原料は高温場に存在しており、冷却が十分ではない。この点が、上述の
図8(a)~(d)~
図11(a)~(d)とは異なる。
【0051】
ここで、
図12(a)は第2のコイルの高周波電流の波形がのこぎり波の場合の原料供給開始時の温度分布を示す模式図であり、(b)は第2のコイルの高周波電流の波形が逆のこぎり波の場合の原料供給開始時の温度分布を示す模式図であり、(c)は第2のコイルの高周波電流の波形が矩形波の場合の原料供給開始時の温度分布を示す模式図であり、(d)は第2のコイルの高周波電流の波形が三角波の場合の原料供給開始時の温度分布を示す模式図である。
図13(a)は第2のコイルの高周波電流の波形がのこぎり波の場合の原料供給停止時の温度分布を示す模式図であり、(b)は第2のコイルの高周波電流の波形が逆のこぎり波の場合の原料供給停止時の温度分布を示す模式図であり、(c)は第2のコイルの高周波電流の波形が矩形波の場合の原料供給停止時の温度分布を示す模式図であり、(d)は第2のコイルの高周波電流の波形が三角波の場合の原料供給停止時の温度分布を示す模式図である。
図12(a)と
図13(a)とが対応し、
図12(b)と
図13(b)とが対応し、
図12(c)と
図13(c)とが対応し、
図12(d)と
図13(d)とが対応している。
なお、
図12(a)~
図12(d)と
図13(a)~
図13(d)とにおいて、
図2と同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0052】
図12(a)~
図12(d)と
図13(a)~
図13(d)とから、第2のコイルの高周波電流の波形が矩形波の場合、原料供給開始時の温度が低く、原料供給停止時の温度が高い。
図12(c)に示すように、コイル下端Q
1から200mmの位置Q
2の温度が低い。
図13(c)に示すように、コイル下端Q
1から200mmの位置Q
2における領域Dc(
図2参照)に対応する領域Dfの温度が高い。また、コイル下端Q
1から200mmの位置Q
2迄の範囲で温度が高い。
第2のコイルの高周波電流の波形が矩形波の場合、第2のコイル32の下端32bから、プラズマトーチ14の中心軸Cに沿って下向き方向D
1(
図2参照)に700mm(
図2の位置Q
3参照)までの中心軸C上に3000K以下の温度領域(図示せず)を発生させることができる。さらには、第2のコイル32の下端32bから中心軸Cに沿って下向き方向D
1に200mm、かつ下向き方向D
1と直交する方向D
2(
図2参照)において中心軸Cを中心とした半径15mmの領域Dc(
図2参照)を、変調周期内に2000K以下にできる。
第2のコイルの高周波電流の波形がのこぎり波、逆のこぎり波、及び三角波の場合、第2のコイルの高周波電流の波形が矩形波と同様の温度領域と、温度領域の温度とが得られない。結果として、第2のコイルの高周波電流の波形がのこぎり波、逆のこぎり波、及び三角波の場合、第2のコイルの高周波電流の波形が矩形波の場合と同様の酸化亜鉛微粒子を得ることができない。
なお、第1のコイル及び第2のコイルの高周波電流が無変調の場合、熱プラズマ炎が発生している期間中、上述のように
図29に示す中心軸C上で温度が高い状態が維持される。このため、第1のコイル及び第2のコイルの高周波電流が無変調の場合でも、第2のコイルの高周波電流の波形が矩形波の場合と同様の酸化亜鉛微粒子を得ることができない。
【0053】
上述の
図8(a)~(d)~
図11(a)~(d)に示す数値解析には、非定常電磁熱流体解析モデルを用いた。数値解析の詳細は、Ryudai Furukawa, et al.,Numerical Study of Nanoparticle Formation in Two-Coil Tandem-Type Modulated Induction Thermal Plasmas with Simultaneous Modulation of Upper- and Lower-Coil Currents,J.Phys.D:Appl.Phys. vol.55, 044001,2022 (28pp)に記載されている通りである。
数値解析における計算空間を
図14に示す。プラズマトーチは、長さ440mm、半径35mmとした。チャンバーは、プラズマトーチに下端から長さ700mm、半径65mmとした。プラズマトーチ上部からシースガスをプラズマトーチ内に投入した。さらに、プラズマトーチ中心には、水冷チューブを挿入した。水冷チューブは壁境界として与えた。トーチの外部には、8ターンコイルを設置した。計算空間は有限体積法により離散化した。プラズマトーチ及びチャンバーを軸方向に115分割し、径方向は66分割した。メッシュ形状は長方形とし、メッシュサイズは、10mm×1mmとした。
熱プラズマへの合計投入電力は20kWとした。第1のコイル及び第2のコイルに10kWづつ投入した。第1のコイルの周波数を430kHz、第2のコイルの周波数を300kHzとした。石英管内の圧力を300torrとした。プラズマガス及びクエンチングガスは未供給とした。キャリアガスはArを供給し、流量4slpmとした。シースガスはArを供給し、流量90slpmとした。水冷チューブの挿入深さは、トーチヘッド(z=0mm)に対して、150mmとした。
なお、
図29に示すは第1のコイル及び第2のコイルの高周波電流が無変調の場合のプラズマトーチ及びチャンバー内の温度分布も、上述の数値解析により得られたものである。
【0054】
(用途)
酸化亜鉛微粒子は、顔料又は化粧料、医薬品、塗料等の各種の樹脂組成物の添加剤として使用される。また、酸化亜鉛微粒子は、化粧料においてサンスクリーン剤の原料としても使用される。これ以外にも、酸化亜鉛微粒子は、半導体又は圧電素子等の各種の電子材料に使用される。
【0055】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の酸化亜鉛微粒子の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良又は変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例0056】
以下、本発明の酸化亜鉛微粒子の製造方法について、より具体的に説明する。
本実施例においては、酸化亜鉛微粒子の製造を試みた(例1~4)。酸化亜鉛微粒子の製造には、
図1に示す製造装置10を用いた。以下に製造条件を示す。
【0057】
(製造条件)
第1のコイルに印加する平均電力を15kWとし、第1のコイルに印加する電流の周波数を410kHzとした。第2のコイルに印加する平均電力を10kWとし、第2のコイルに印加する周波数を250kHzとした。
石英管の内部の圧力を300torr(≒40kPa)とした。
シースガスにArガスを用い、流量を90L/min(標準状態換算)とした。
キャリアガスにArガスを用い、流量を4L/min(標準状態換算)とした。
上述のシースガスがプラズマガスとして機能する。なお、急冷ガスは用いていない。
第1のコイルは8巻とし、第2のコイルは8巻とした。
コイル電流の変調条件は、第1のコイルは変調せずに一定値とした。第2のコイルを時間変調し、変調周期を20msとした。
原料にZnの粉末を用い、かつ間歇的に供給した。原料の間歇供給には、株式会社アイシンナノテクノロジー社製のTF-70-CT(型式)を用いた。
原料には、d50が75μmのZn(亜鉛)の粉末を用いた。
【0058】
第2のコイルの変調波形は、例1をのこぎり波とし、例2を三角波とし、例3を矩形波とし、例4を変調しないものとした。例1~例3は遅延時間を7msとした。
例1は、第1のコイル電流は無変調としたが、第2のコイル電流は立ち上がり継続時間比(RR)を99.9%とし、電流変調率(SPCL)を20%とした。
例2は、第1のコイル電流は無変調としたが、第2のコイル電流は、立ち上がり継続時間比(RR)を50%とし、電流変調率(SPCL)を20%とした。
例3は、第1のコイル電流は無変調としたが、第2のコイル電流はデューティ比(DF)を50%とし、電流変調率(SCL)を20%とした。
例4は、第1のコイル及び第2のコイルの高周波電流を変調しておらず、プラズマを変調しなかった。
また、例1~3では、原料の間歇供給のデューティ比を40%とした。
【0059】
図15は例1の酸化亜鉛微粒子のSEM像を示す模式図である。
図16は例2の酸化亜鉛微粒子のSEM像を示す模式図である。
図17は例3の酸化亜鉛微粒子のSEM像を示す模式図である。
図18は例4の酸化亜鉛微粒子のSEM像を示す模式図である。
図15~
図18は、いずれも35000倍のSEM像である。
図15~
図18に示すように、例1~4では、ワイヤ状の酸化亜鉛微粒子を製造できた。
【0060】
次に、例1~4のワイヤ状の酸化亜鉛微粒子について、直径、及び長さを測定し、さらにアスペクト比を算出した。
ワイヤ状の酸化亜鉛微粒子の直径、及び長さは、SEM画像から無作為に総数で500個のワイヤ状の物体を抽出し、500個のワイヤ状の物体について、それぞれ直径に相当する領域の直径と、長さに相当する部分の長さを測定した。さらに、測定した直径、及び長さを用いてアスペクト比を算出した。
この結果、例1~4について、
図19(a)及び(b)~
図22(a)及び(b)に示すワイヤの径の度数分布が得られた。
図19(a)は例1の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の正規分布を示すグラフであり、(b)は例1の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の対数正規分布を示すグラフである。
図20(a)は例2の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の正規分布を示すグラフであり、(b)は例2の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の対数正規分布を示すグラフである。
図21(a)は例3の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の正規分布を示すグラフであり、(b)は例3の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の対数正規分布を示すグラフである。
図22(a)は例4の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の正規分布を示すグラフであり、(b)は例4の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の対数正規分布を示すグラフである。
【0061】
図19(a)は例1の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の正規分布を示すグラフであり、曲線50はカウント数を示す。
図19(b)はワイヤ径の対数正規分布を示すグラフであり、曲線51は対数正規分布を示す。
例1は、
図19(a)に示すように、平均直径dが111.1nmであり、d
50が90.0nmであり、標準偏差σが80.9nmであった。なお、d
50は、ワイヤ径における値を示す。上述のd
50はワイヤ径の度数分布のメジアンである。
図20(a)は例2の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の正規分布を示すグラフであり、曲線52はカウント数を示す。
図20(b)はワイヤ径の対数正規分布を示すグラフであり、曲線53は対数正規分布を示す。
例2は、
図20(a)に示すように、平均直径dが116.2nmであり、d
50が84.0nmであり、標準偏差σが94.4nmであった。
【0062】
図21(a)は例3の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の正規分布を示すグラフであり、曲線54はカウント数を示す。
図21(b)はワイヤ径の対数正規分布を示すグラフであり、曲線55は対数正規分布を示す。
例3は、
図21(a)に示すように、平均直径dが74.3nmであり、d
50が54.0nmであり、標準偏差σが59.7nmであった。
図22(a)は例4の酸化亜鉛微粒子のワイヤ径の正規分布を示すグラフであり、曲線56はカウント数を示す。
図22(b)はワイヤ径の対数正規分布を示すグラフであり、曲線57は対数正規分布を示す。
例4は、
図22(a)に示すように、平均直径dが135.6nmであり、d
50が88.5nmであり、標準偏差σが124.6nmであった。
【0063】
また、例1~4について、
図23(a)及び(b)~
図26(a)及び(b)に示すワイヤの長さの度数分布が得られた。
図23(a)は例1の酸化亜鉛微粒子のワイヤの長さの正規分布を示すグラフであり、曲線58はカウント数を示す。
図23(b)はワイヤの長さの対数正規分布を示すグラフであり、曲線59は対数正規分布を示す。
例1は、
図23(a)に示すように、平均長さが487.0nmであり、d
50が418.5nmであり、標準偏差σが352.3nmであった。なお、d
50は、ワイヤの長さにおける値を示す。上述のd
50はワイヤの長さの度数分布のメジアンである。
図24(a)は例2の酸化亜鉛微粒子のワイヤの長さの正規分布を示すグラフであり、曲線60はカウント数を示す。
図24(b)はワイヤの長さの対数正規分布を示すグラフであり、曲線61は対数正規分布を示す。
例2は、
図24(a)に示すように、平均長さが509.6nmであり、d
50が391.5nmであり、標準偏差σが406.4nmであった。
【0064】
図25(a)は例3の酸化亜鉛微粒子のワイヤの長さの正規分布を示すグラフであり、曲線62はカウント数を示す。
図25(b)はワイヤの長さの対数正規分布を示すグラフであり、曲線63は対数正規分布を示す。
例3は、
図25(a)に示すように、平均長さが838.0nmであり、d
50が75.0nmであり、標準偏差σが425.9nmであった。
図26(a)は例4の酸化亜鉛微粒子のワイヤの長さの正規分布を示すグラフであり、曲線64はカウント数を示す。
図26(b)はワイヤの長さの対数正規分布を示すグラフであり、曲線65は対数正規分布を示す。
例4は、
図26(a)に示すように、平均長さが563.5nmであり、d
50が494.0nmであり、標準偏差σが385.1nmであった。
【0065】
また、例1~4について、
図27(a)~(d)に示すアスペクト比が得られた。
図27(a)は例1の酸化亜鉛微粒子のアスペクト比の正規分布を示すグラフであり、曲線66はカウント数を示す。
例1は、
図27(a)に示すように、アスペクト比が5.97であり、d
50が3.77であり、標準偏差σが6.42であった。なお、d
50は、アスペクト比における値を示す。上述のd
50はアスペクト比の度数分布のメジアンである。
図27(b)は例2の酸化亜鉛微粒子のアスペクト比の正規分布を示すグラフであり、曲線67はカウント数を示す。
例2は、
図27(b)に示すように、アスペクト比が5.97nmであり、d
50が3.77であり、標準偏差σが6.42であった。
図27(c)は例3の酸化亜鉛微粒子のアスペクト比の正規分布を示すグラフであり、曲線68はカウント数を示す。
例3は、
図27(c)に示すように、アスペクト比が15.34であり、d
50が13.38であり、標準偏差σが10.15であった。
図27(d)は例4の酸化亜鉛微粒子のアスペクト比の正規分布を示すグラフであり、曲線69はカウント数を示す。
例4は、
図27(d)に示すように、アスペクト比が6.88nmであり、d
50が4.20であり、標準偏差σが8.04であった。
【0066】
ここで、
図28(a)は例1~4の平均直径と、ナノワイヤの割合を示すグラフであり、(b)は例1~4の平均長さを示すグラフであり、(c)は例1~4の平均アスペクト比を示すグラフである。
なお、SEM像から粒子形状でないものを抽出して、アスペクト比が5以上のものをナノワイヤと定義した。アスペクト比が5以上のものの数の割合をナノワイヤの割合とした。
図28(a)に示すように、酸化亜鉛微粒子の平均直径に関しては,第2のコイルの変調波形が矩形波の例3が最も平均直径が小さい。また、例3は平均直径が100nm以下の割合が81.2%と最も高かった。標準偏差も、例3が最も小さい。
図28(a)ではクロスハッチングのバーが平均直径を表し、白抜きのバーがナノワイヤの割合を示す。
図28(b)に示すように、酸化亜鉛微粒子の平均長さに関しては、第2のコイルの変調波形が矩形波の例3が最も長い。
図28(c)に示すように、平均アスペクト比については、第2のコイルの変調波形が矩形波の例3が最も大きかった。
以上のように、第2のコイルの変調波形を矩形波とした例3では、酸化亜鉛微粒子の平均直径を小さく、酸化亜鉛微粒子の平均長さ、及び平均アスペクト比を大きくできた。