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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079149
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/78 20060101AFI20240604BHJP
   A61K 36/47 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 36/482 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 36/73 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 36/534 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 1/10 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61K31/78
A61K36/47
A61K36/482
A61K36/185
A61K36/73
A61K36/534
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/16
A61K47/32
A61P1/10
A61P1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191902
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】森 謙一郎
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA53
4C076CC16
4C076CC26
4C076CC29
4C076EE09
4C076FF41
4C086AA01
4C086FA02
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086NA14
4C086ZA72
4C086ZA73
4C088AB38
4C088AB46
4C088AB51
4C088AB55
4C088AB59
4C088AC02
4C088AC04
4C088AC06
4C088BA07
4C088MA05
4C088MA35
4C088MA37
4C088MA41
4C088MA43
4C088NA10
4C088ZB21
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、ポリカルボフィル及び/又はその塩を含み、吸湿が抑制されている医薬組成物を提供することである。
【解決手段】医薬組成物において、ポリカルボフィル及び/又はその塩と共に、アカメガシワ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、ウバイ、及びハッカよりなる群から選択される少なくとも1種の生薬を含有させることにより、効果的に吸湿を抑制できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボフィル及び/又はその塩、並びに
アカメガシワ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、ウバイ、及びハッカよりなる群から選択される少なくとも1種の生薬
を含む、医薬組成物。
【請求項2】
ポリカルボフィル及び/又はその塩1重量部当たり、前記生薬が総量で0.01~10重量部含まれる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
カプセル剤、錠剤、散剤、又は顆粒剤である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリカルボフィル及び/又はその塩を含み、吸湿が抑制されている医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカルボフィルカルシウムは、カルシウムが離脱した後、酸性条件下ではわずかしか膨潤しないが、中性条件下では多量の水を吸収して膨潤・ゲル化するという特徴を有している。そのため、下痢状態の時には、増加した余剰な水分を吸収しゲル化することにより、亢進した腸管内容物の輸送を抑制すると共に、便中水分量の増加を抑制して下痢を改善する作用を示す。また、便秘状態の時には、消化管内で水分を吸収・保持して、減少した便中水分量を改善すると共に、膨潤して腸管を刺激することにより遅延した消化管内容物の輸送を改善し、便秘を改善する作用を示す。このような特徴から、ポリカルボフィルカルシウムは過敏性腸症候群治療薬として使用されている。
【0003】
一方、ポリカルボフィルカルシウムは、吸湿性が高いことが知られている。吸湿性が高い医薬組成物は、保管時に水分を吸収することにより、体積の増加、服用感の悪化、品質劣化等を生じさせるため、ポリカルボフィルカルシウムを含む医薬組成物では、ポリカルボフィルカルシウムに起因する吸湿を抑制することが重要になる。
【0004】
従来、医薬組成物の吸湿を抑制するために、コーティングを施す方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、医薬組成物においてコーティングを施すと、嵩が増したり、製造工程の増加によって製造効率が低下したりするという欠点がある。また、医薬組成物の吸湿の抑制には、乾燥剤の同梱も有効であるが、乾燥剤の充填工程が必要になったり、使用後に乾燥剤の廃棄による環境面負荷が生じたりするという欠点がある。そこで、ポリカルボフィルカルシウムを含む医薬組成物について、コーティングや乾燥剤を使用した方法以外で吸湿を抑制する技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-184888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、ポリカルボフィル及び/又はその塩を含み、吸湿が抑制されている医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、医薬組成物において、ポリカルボフィル及び/又はその塩と共に、アカメガシワ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、ウバイ、及びハッカよりなる群から選択される少なくとも1種の生薬を含有させることにより、効果的に吸湿を抑制できることを見出した。本開示は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ポリカルボフィル及び/又はその塩、並びに
アカメガシワ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、ウバイ、及びハッカよりなる群から選択される少なくとも1種の生薬
を含む、医薬組成物。
項2. ポリカルボフィル及び/又はその塩1重量部当たり、前記生薬が総量で0.01~10重量部含まれる、項1に記載の医薬組成物。
項3. カプセル剤、錠剤、散剤、又は顆粒剤である、項1又は2に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本開示の医薬組成物は、ポリカルボフィル及び/又はその塩による吸湿を抑制できるので、保管時に外気と接触しても、水分の吸収による品質劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本書において、数値範囲に関する記載「X~Y」は、X以上Y以下の数値範囲を指す。
【0011】
本開示の医薬組成物は、ポリカルボフィル及び/又はその塩、並びにアカメガシワ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、ウバイ、及びハッカよりなる群から選択される少なくとも1種の生薬を含有することを特徴とする。以下、本開示の医薬組成物について詳述する。
【0012】
[ポリカルボフィル及び/又はその塩]
本開示の医薬組成物は、ポリカルボフィル及び/又はその塩を含有する。ポリカルボフィルとは、3,4-ジヒドロキシ-1,5-ヘキサジエンにより架橋したポリアクリル酸であり、ポリカルボフィル及び/又はその塩は過敏性腸症候群治療薬として使用されている公知の成分である。
【0013】
ポリカルボフィルの塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ポリカルボフィルのアルカリ土類金属塩、好ましくはポリカルボフィルカルシウムが挙げられる。
【0014】
本開示の医薬組成物は、ポリカルボフィル及びその塩の中から1種を選択した単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
本開示の医薬組成物におけるポリカルボフィル及び/又はその塩については、医薬組成物の剤形に応じて、一日当たりの投与量が1.5~3.0g程度となるように適宜設定すればよいが、例えば、10~98重量%、好ましくは20~90重量%、より好ましくは30~85重量%が挙げられる。
【0016】
[生薬]
本開示の医薬組成物は、ポリカルボフィル及び/又はその塩に加えて、アカメガシワ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、ウバイ、及びハッカよりなる群から選択される少なくとも1種の生薬を含有する。ポリカルボフィル及び/又はその塩と前記生薬とを併用することにより、ポリカルボフィル及び/又はその塩による吸湿を抑制することが可能になる。
【0017】
生薬名「アカメガシワ」とは、アカメガシワ Mallotus japonica Muell. Arg. (Euphorbiaceae)の樹皮を基原とする生薬である。生薬名「ケツメイシ」とは、エビスグサ Cassia obtusifolia Linne または Cassia tora Linne(Leguminosae)の種子である。生薬名「ゲンノショウコ」とは、ゲンノショウコ Geranium thunbergii Siebold et Zuccarini(Geraniaceae)の地上部を基原とする生薬である。生薬名「ウバイ」とは、ウメ Prunus mume Sieb. et Zucc.(Rosaceae)の未熟果実を燻製にしたものである。生薬名「ハッカ」とは、ハッカ(Mentha arvensis Linne var. piperascens Malinvaud (Labiatae)の地上部を基原とする生薬である。
【0018】
本開示で使用される前記生薬は、全形生薬、切断生薬、抽出エキス、又は粉末生薬のいずれであってもよいが、好ましくは粉末生薬である。
【0019】
本開示の医薬組成物では、アカメガシワ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、ウバイ、及びハッカの中から1種の生薬を選択して使用してもよく、また2種以上の生薬を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
これらの生薬の中でも、ポリカルボフィル及び/又はその塩による吸湿をより一層効果的に抑制するという観点から、好ましくは、アカメガシワ、ゲンノショウコ、及びウバイ、より好ましくはアカメガシワ及びゲンノショウコが挙げられる。
【0021】
本開示の医薬組成物において、ポリカルボフィル及び/又はその塩に対する生薬の比率としては、例えば、ポリカルボフィル及び/又はその塩1重量部当たり、0.01~10重量部、好ましくは0.05~5重量部、より好ましくは0.1~2重量部、更に好ましくは0.3~2重量部が挙げられる。
【0022】
本開示の医薬組成物における前記生薬菌の含有量については、ポリカルボフィル及び/又はその塩の含有量、医薬組成物の剤形等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、前記生薬の総量で2~80重量%、好ましくは5~70重量%、より好ましくは10~60重量%が挙げられる。
【0023】
[その他の成分]
本開示の医薬組成物には、前述する成分以外に、必要に応じて、他の薬理成分を含んでいてもよい。また、本開示の医薬組成物には、所望の剤形に調製するために、必要に応じて、薬学的に許容される基剤や添加剤等が含まれていてもよい。このような基剤及び添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤等が挙げられる。これらの基剤や添加剤の含有量については、使用する添加成分の種類や医薬組成物の剤形等に応じて適宜設定すればよい。
【0024】
[剤形・包装形態]
本開示の医薬組成物の剤形は、経口投与(内服)又は経腸投与、好ましくは経口投与が可能な固形状製剤であればよい。本開示の医薬組成物の剤形として、具体的には、錠剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、散剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)等が挙げられる。
【0025】
本開示の医薬組成物を前記剤形に調製するには、ポリカルボフィル及び/又はその塩、前記生薬、並びに必要に応じて添加される薬理成分、基剤、及び添加剤を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0026】
本開示の医薬組成物は、PTP包装、ストリップ包装、ブリスター包装等によって一次包装されていてもよいが、開閉可能なボトル又はパウチ袋に複数回の使用量を一次包装していてもよい。本開示の医薬組成物では、ポリカルボフィル及び/又はその塩による吸湿を抑制できるので、開閉可能なボトル又はパウチ袋に複数回の使用量を一次包装していても、ボトル又はパウチ袋の開閉により内部の医薬組成物が外気と接触しても吸湿による品質劣化を抑制することができる。
【0027】
また、本開示の医薬組成物では、ポリカルボフィル及び/又はその塩による吸湿を抑制できるので、乾燥剤を同梱することなく包装されていてもよい。
【実施例0028】
以下に実施例を示して本開示の発明をより具体的に説明するが、本開示の発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
試験例1:細粒での吸湿性の評価
表1~5に示す組成の細粒(散剤)を調製した。各生薬は、日本薬局方(第十八改正)又は日本薬局方外生薬規格2022に適合する生薬を粉末化したものを用いた。得られた細粒(表1~5に示す合計量)をシャーレに入れて40℃、75%RHの雰囲気で1カ月間保存した。保存前後の細粒の重量を測定し、以下の式に従って保存後の吸湿率(%)を算出し、小数点第二位を四捨五入した値を保存後の吸湿率(%)とした。
【数1】
【0030】
結果を表1~5に示す。ポリカルボフィルカルシウムを単独で含む細粒(比較例1)では、高い吸湿性が認められた。これに対して、ポリカルボフィルカルシウムと、アカメガシワ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、ウバイ、又はハッカを含む細粒では、ポリカルボフィルカルシウムを単独で含む場合に比べて保存後の吸湿率が顕著に低下していた(実施例1~22)。即ち、本結果から、ポリカルボフィルカルシウムと共に前記生薬を配合して製剤化することにより、ポリカルボフィルカルシウムによる吸湿を抑制できることが確認された。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
【表5】
【0036】
試験例2:錠剤での吸湿性の評価
表6~10に示す成分を混合して打錠することにより錠剤を調製した。各生薬は、日本薬局方(第十八改正)又は日本薬局方外生薬規格2022に適合する生薬を粉末化したものを用いた。得られた錠剤10錠をシャーレに入れて40℃、75%RHの雰囲気で1カ月間保存した。保存前後の錠剤の重量を測定し、前記試験例1と同様の方法で、保存後の吸湿率(%)を算出した。表6~10に示す各成分の重量は、得られた錠剤10錠分の重量を示す。
【0037】
結果を表6~10に示す。ポリカルボフィルカルシウムを単独で含む錠剤(比較例7)では保存後の吸湿率が15%を超えており、吸湿性が認められた。これに対して、ポリカルボフィルカルシウムと、アカメガシワ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、ウバイ、又はハッカを含む錠剤では、保存後の吸湿率が顕著に低下していた(実施例23~42)。即ち、本結果からも、ポリカルボフィルカルシウムと共に前記生薬を配合して製剤化することにより、ポリカルボフィルカルシウムによる吸湿を抑制できることが確認された。
【0038】
【表6】
【0039】
【表7】
【0040】
【表8】
【0041】
【表9】
【0042】
【表10】