IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石エネルギー株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人北海道大学の特許一覧

特開2024-7920金属担持触媒及びメタノールの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007920
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】金属担持触媒及びメタノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/652 20060101AFI20240112BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20240112BHJP
   C07C 29/157 20060101ALI20240112BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240112BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
B01J23/652 A ZAB
C07C31/04
C07C29/157
B01D53/94 243
B01D53/94 200
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109330
(22)【出願日】2022-07-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「NEDO先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】鳥屋尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】清水 研一
(72)【発明者】
【氏名】峯 真也
(72)【発明者】
【氏名】趙 世潤
(72)【発明者】
【氏名】松下 康一
(72)【発明者】
【氏名】真崎 仁詩
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4D148AA30
4D148AB10
4D148BA03X
4D148BA06Y
4D148BA07X
4D148BA08Y
4D148BA16X
4D148BA26X
4D148BA27X
4D148BA30X
4D148BA37Y
4D148BA41X
4D148BB01
4D148DA03
4D148DA11
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BA02A
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA05A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC59A
4G169BC59B
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CA02
4G169CA08
4G169CA20
4G169CB02
4G169CB70
4G169CC27
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EB18Y
4G169FA02
4G169FC08
4H006AA02
4H006AC41
4H006BA14
4H006BA26
4H006BA55
4H006BB25
4H006BE20
4H006BE41
4H006FE11
4H039CA60
4H039CB20
(57)【要約】
【課題】副生成物であるメタンの生成される割合に比べ、高収率かつ高選択的にメタノールを製造することができる金属担持触媒の提供。
【解決手段】本発明の金属担持触媒は、担体と、前記担体に担持された金属とを含み、前記金属が、第1の金属としてPtと、第2の金属としてW及びMoの2種類の金属とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と、前記担体に担持された金属とを含む金属担持触媒であって、
前記金属が、第1の金属としてPtと、第2の金属としてW及びMoの2種類の金属とを含む、金属担持触媒。
【請求項2】
前記担体が、無機酸化物を含む、請求項1に記載の金属担持触媒。
【請求項3】
前記無機酸化物が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、及び酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載の金属担持触媒。
【請求項4】
前記金属担持触媒における第1の金属であるPtの含有量が、前記金属担持触媒の総質量を基準として1質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の金属担持触媒。
【請求項5】
前記金属担持触媒における第2の金属の酸化物としての合計含有量が、前記金属担持触媒の総質量を基準として10質量%以上60質量%以下である、請求項1に記載の金属担持触媒。
【請求項6】
前記第2の金属におけるWの酸化物のMoの酸化物に対する質量比が、0.01以上2.0以下である、請求項1に記載の金属担持触媒。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の金属担持触媒の存在下で、二酸化炭素及び水素から、メタノールを製造する方法。
【請求項8】
前記二酸化炭素及び水素を含む原料ガスが、排ガス由来である、請求項7に記載のメタノールを製造する方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の金属担持触媒の存在下で、二酸化炭素及び水素を含む排ガスを用いて、前記排ガス中の二酸化炭素をメタノールに変換することによって、前記二酸化炭素を固定化する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属担持触媒に関する。また、本発明は、該金属担持触媒を用いてメタノールを製造する方法に関する。さらに、本発明は、該金属担持触媒を用いて二酸化炭素を固定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタノールは、現在、基幹化学品として幅広い用途を有する。例えば、脱水反応により得られるジメチルエーテルは、軽油代替燃料として用いられる。メタノールから変換されるホルムアルデヒドは、防腐剤や接着剤に使用される他、フェノール樹脂やメラミン樹脂などの原料としても広く用いられる。また、アクリル樹脂の原料であるメタクリル酸メチルの原料として用いられる。さらに、メタノールからガソリンへ変換するMTG反応では、現行エンジンをそのまま使用できる高オクタン価ガソリンの製造が可能である。その他、メタノール自体も、アルキル化剤として使用されている他、将来的には燃料電池用燃料や水素キャリヤーとしての用途も期待されていれる。
【0003】
メタノールは、一般に、石炭や天然ガスの酸化反応により一酸化炭素と水素に変換し、得られた製造ガスから製造される。反応条件としては、例えば、銅/亜鉛/アルミニウムの酸化物からなる触媒あるいは銅/亜鉛/クロムの酸化物からなる触媒を用いて、250~350℃、5~15MPaの条件下で、メタノール収率として60~70%で工業的に実施されている。
【0004】
これに対して、炭素源として二酸化炭素を用いてメタノールを製造することができれば、地球環境への負荷低減に貢献できることが期待される。ただし、一酸化炭素の水素化によるメタノール製造反応に比べ、二酸化炭素を原料とした場合は、熱力学的平衡のため低温ほど有利であり、高温になると平衡制約のためメタノール収率が低下する。この制約のため、より低温で高活性を示す触媒を用いなければ、高いメタノール収率が得られないことが分かっている(非特許文献1)。
【0005】
従来法の反応温度(250℃以上)よりも低温条件で、二酸化炭素からメタノールに変換する方法として、酸化銅、ガリウムを含有する触媒が提案されている(特許文献1)。しかし、活性が依然として不十分であるため、反応条件として250℃におけるメタノール収率が30%程度あるにもかかわらず、200℃では10%にも満たない。
【0006】
これに対して、従来の銅/亜鉛系触媒以外の触媒を用いて、高収率のメタノールを低温で得る方法として、白金と酸化モリブデンを用いた触媒による方法が提案されており、熱平衡的に有利な150℃という低温での反応でも高活性を示している(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3163374号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本エネルギー学会、第74巻第3号、1995年、p137
【非特許文献2】ACS Catal.,2019,vol9,p8187
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1は、反応温度200℃でメタノールを生成することができるが、依然として熱力学的平衡の観点から転化率が制限される上、副生成物であるメタンも多く選択率は70%程度であり、将来的には再生可能エネルギーから製造される必要がある貴重な水素を多く消費してしまう欠点がある上、分離のためのエネルギーを投入しなければならず、好ましくない。メタノールの製造において、反応に供する水素をより有効に活用するためには、副生物であるメタンの生成に対するメタノールの生成の比率(メタノール選択性)が高いほど好ましい。
また、非特許文献2では、高収率及び高選択性でメタノールが得られているものの、実運転条件である低接触時間条件では、依然としてメタノール収率が低い。反応時間20時間を超えれば60%以上のメタノール収率が得られるが、10時間では約25%、6時間では約20%の収率であり、実運転で必要とされる低接触時間条件では、十分な活性ではなかった。
そこで、低接触時間条件で、副生成物であるメタンの生成を抑制し、かつ高収率でメタノールを生成できるメタノール選択性の高い方法の提供が望まれていた。
【0010】
本発明は、副生成物であるメタンの生成は抑えつつ、メタノールを高収率かつ高選択的に製造することができる金属担持触媒の提供を目的とする。また、本発明は、該金属担持触媒を用いてメタノールを製造する方法の提供を目的とする。さらに、本発明は、該金属担持触媒を用いて二酸化炭素を固定化する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、担体にPtと、特定の金属の少なくとも2種類の金属を担持してなる金属担持触媒を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1] 担体と、前記担体に担持された金属とを含む金属担持触媒であって
前記金属が、第1の金属としてPtと、第2の金属としてW及びMoの2種類の金属とを含む、金属担持触媒。
[2] 前記担体が、無機酸化物を含む、[1]に記載の金属担持触媒。
[3] 前記無機酸化物が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、及び酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[2]に記載の金属担持触媒。
[4] 前記金属担持触媒における第1の金属であるPtの含有量が、前記金属担持触媒の総質量を基準として1質量%以上10質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の金属担持触媒。
[5] 前記金属担持触媒における第2の金属の酸化物としての合計含有量が、前記金属担持触媒の総質量を基準として10質量%以上60質量%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の金属担持触媒。
[6] 前記第2の金属におけるWの酸化物のMoの酸化物に対する質量比が、0.01以上2.0以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の金属担持触媒。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の金属担持触媒の存在下で、二酸化炭素及び水素から、メタノールを製造する方法。
[8]
前記二酸化炭素及び水素を含む原料ガスが、排ガス由来である、[7]に記載のメタノールを製造する方法。
[9] [1]~[6]のいずれかに記載の金属担持触媒の存在下で、二酸化炭素及び水素を含む排ガスを用いて、前記排ガス中の二酸化炭素をメタノールに変換することによって、前記二酸化炭素を固定化する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によれば、副生成物であるメタンの生成される割合に比べ、メタノールを高収率で生成できる、メタノールを製造する金属担持触媒を提供することができる。特に、本発明による金属担持触媒を用いてメタノールを製造することで、低温条件であっても、高いメタノール収率および高いメタノール選択性を達成することができる。また、本発明による金属担持触媒を用いてメタノールを製造することで、低温条件であっても、低接触時間条件でメタノールを高収率かつ高選択性で得ることができる。
また、本発明の一側面によれば、該金属担持触媒を用いてメタノールを製造する方法を提供することができる。
さらに、本発明の一側面によれば、該金属担持触媒を用いて二酸化炭素を固定化する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0015】
(メタノール製造用金属担持触媒)
メタノール製造用金属担持触媒(以下、単に「金属担持触媒」とも言う)は、二酸化炭素及び水素から、メタノールを製造する方法に使用することができる。
金属担持触媒は、担体と、該担体に担持された金属とを含む。
金属は、第1の金属と、第2の金属の2種類の金属とを含む。
第1の金属はPtであり、第2の金属はW及びMoの2種の金属(以下、「特定の第2の金属」又は「特定の金属」ともいう)である。
【0016】
担体に、Pt、W及びMoを担持してなる本発明の金属担持触媒を、メタノール製造用の触媒として用いる。該金属担持触媒の存在下で、二酸化炭素及び水素から、メタノールを生成させた場合、下記実施例で示す通り、副生成物であるメタンの生成は抑えつつ、メタノールを高収率で生成することができる。
【0017】
担体は、触媒としての活性を有する金属を担持することができるものであり、例えば、無機酸化物が挙げられる。無機酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、及び酸化ケイ素等が挙げられる。これらの中でも、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及び酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、酸化チタンがより好ましい。
【0018】
担体としての粒子の一次粒子の粒径は、特に限定されないが、例えば、10nm以上1000nm以下である。当該粒径の上限値は、500nm以下であってもよく、200nm以下であってもよく、100nm以下であってもよく、50nm以下であってもよい。ここで粒径は、X線回折法によって求めることができる。
【0019】
金属担持触媒における第1の金属であるPtの含有量は、金属担持触媒の総質量を基準として、好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以上9質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上8質量%以下である。第1の金属の含有量が上記数値範囲内にあると、特に高い収率でメタノールが生成し易い傾向がある。なお、第1の金属の含有量が上記下限値以上の場合、水素化活性が高くなるために二酸化炭素の水素化反応が進行し易くなり、その結果メタノールが生成し易くなる。
【0020】
金属担持触媒において、担体に担持される金属としては、第1の金属のPtの他に、W及びMoの第2の金属が挙げられ、Mo単独ではなくWと混合することが望ましい。
第2の金属は、酸化物として使用され、金属として担体に担持された後に酸化されても良く、あるいは酸化物としてそのまま担体に担持されていてもよい。
金属担持触媒における第2の金属の酸化物としての合計含有量は、金属担持触媒の総質量を基準として、好ましくは10質量%以上60質量%以下であり、より好ましくは12質量%以上55質量%以下であり、さらに好ましくは14質量%以上50質量%以下であり、さらにより好ましくは16質量%以上45質量%以下である。第2の金属の酸化物としての含有量が上記数値範囲内にあると、メタノールの生成が多く、副生成物であるメタンの生成が少なくなる傾向がある。
また、Moの酸化物としての含有量は、金属担持触媒の総質量を基準として、好ましくは5質量%以上35質量%以下であり、より好ましくは8質量%以上32質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以上30質量%以下であり、さらにより好ましくは12質量%以上28質量%以下である。Mo酸化物の含有量が上記数値範囲内にあると、高価な金属の使用量を抑えることで、製造コストを削減することができる。
【0021】
金属担持触媒におけるWの酸化物とMoの酸化物の比率は、特に限定されないが、WO/MoO(質量比)で、好ましくは0.01以上2.0以下であり、より好ましくは0.05以上1.5以下であり、さらにより好ましくは0.1以上1.2以下であり、特に好ましくは0.2以上1.0以下である。WO/MoOが上記数値範囲内にあると、メタノールの生成が多く、副生成物であるメタンの生成が少なくなる傾向がある。
【0022】
金属担持触媒は、通常の方法によって調製することができる。例えば、担体に金属化合物の水溶液を接触させることと、担体及び金属化合物の水溶液の混合物から水を除去し、残留した固形物を焼成することとを含む方法によって、金属担持触媒を得ることができる。
【0023】
金属担持触媒は、通常、反応触媒として用いられる前に還元処理されるとよい。還元処理の方法は、特に制限されない。例えば、水素ガスを含む雰囲気下で金属担持触媒を加熱する方法によって金属担持触媒を還元処理することができる。還元処理のための温度は、例えば200~800℃である。還元処理の時間は、0.1~5時間である。
【0024】
(メタノールを製造する方法)
本発明のメタノールを製造する方法は、上述した本発明の金属担持触媒を用いてメタノールを製造する。
メタノールを製造する方法の好ましい実施態様としては、例えば、上記金属担持触媒の存在下で、二酸化炭素及び水素から、メタノールを生成させる工程を含む方法が挙げられる。本発明のメタノールを製造する方法を用いることにより、二酸化炭素をメタノールに効率的に変換することで、二酸化炭素を固定化することができる。
【0025】
本発明のメタノールを製造する方法によれば、金属担持触媒の存在下で、二酸化炭素及び水素と反応させることにより、副生成物であるメタンの生成を抑制し、高選択かつ高収率でメタノールを生成することができる。本発明のメタノールを製造する方法において、メタノールの選択率は、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは75%以上である。副生成物であるメタンの選択率は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは17%以下であり、さらに好ましくは15%以下である。また、メタノールの収率のメタンの収率に対する比(メタノール/メタン)は、好ましくは4.0以上であり、より好ましくは4.5以上であり、さらに好ましくは5.0以上である。
【0026】
本発明のメタノールを製造する方法において、反応の条件は、反応が進行するように適切に調整されることが好ましい。
反応温度は、例えば、100~300℃であり、好ましくは120~230℃であり、より好ましくは130~190℃である。
反応温度は、用いられる金属担持触媒中の金属の種類や含有量、又は担体の種類や含有量の違いを考慮し、あるいは反応条件の違い(例えば、触媒と各種反応物との接触時間を変える等)を考慮して、適宜好ましい温度を設定するとよい。反応温度が上記下限値以上であれば、水素化活性が高いため、メタノールが生成し易くなる。
【0027】
反応雰囲気の圧力は、例えば、0.1~10MPaである。二酸化炭素と水素との比率(モル比、又は圧力比)は、例えば、10:1~1:100である。なお、反応ガス中に一酸化炭素が含まれてもよいが、二酸化炭素に対する一酸化炭素の比率(モル比、又は圧力比)が1よりも少ない、すなわち、二酸化炭素の方が多い方が好ましい。これは、一酸化炭素による触媒被毒が起こりやすいためである。また、二酸化炭素の有効活用の点からも、二酸化炭素の比率が大きいほうが更に有利である。
【0028】
原料として使用される二酸化炭素は、比較的純度の低い二酸化炭素であってもよい。低濃度の二酸化炭素を含む混合ガスは、例えば、石油精製、石油化学、発電、製鉄、ボイラーなどにおいて、炭化水素を燃料として燃焼させる工程、又は、未反応の炭化水素を燃焼させる工程から発生する。一般的に、ボイラー又は燃焼システムから排出される排ガス中には、二酸化炭素の他、空気由来の窒素及び酸素、並びに不完全燃焼の一酸化炭素が含まれる。さらに、硫黄酸化物又は窒素酸化物も含まれることが多い。通常、不完全燃焼を抑制するために空気の比率を高める燃焼方式が採用され、酸素は燃焼に消費されるため減少するが、反応しない窒素の濃度が高くなる。その結果、窒素を過剰に含む混合ガス中に、酸素及び二酸化炭素が少量含有される。一例として、石油精製における代表的な装置である接触分解装置の再生塔燃焼ガスの組成は、一般に窒素80容量%、二酸化炭素15容量%、一酸化炭素及び酸素がそれぞれ2容量%となっている。
【0029】
一酸化炭素の一部はアルキル化反応に利用できるため、原料が一酸化炭素を含んでいてもよい。窒素及び酸素はアルキル化反応を阻害しないため、これらが原料に含まれていてもよい。
【0030】
原料ガス中の二酸化炭素の濃度は特に限定されないが、原料ガスの体積を基準として、70容量%未満が好ましく、50容量%未満がさらに好ましく、20容量%未満が特に好ましい。原料ガス中の二酸化炭素の濃度は、原料ガスの体積を基準として、1容量%以上が好ましく、2容量%以上がさらに好ましく、5容量%以上が特に好ましい。原料ガス中の二酸化炭素の濃度が1容量%以上であると、反応を特に効率的に進めることができる。原料ガス中の二酸化炭素の濃度が95容量%未満であっても使用することができ、二酸化炭素の濃縮にかかるエネルギー、設備、コストなどが軽減できる。
【0031】
二酸化炭素に対する水素の分圧比は、好ましくは0.5以上70未満、より好ましくは5以上70未満である。二酸化炭素に対する水素の分圧比が上記範囲の中でも高いと、効率的に二酸化炭素の変換が進行する傾向がある。また二酸化炭素に対する水素の分圧比が上記範囲の中でも低いと、メタノールの生成が抑制される傾向がある。
【0032】
原料の全圧は、好ましくは1MPa以上7.6MPa未満、より好ましくは1.5MPa以上7.6MPa未満である。原料の全圧が上記範囲の中でも高いと、アルキル化反応が十分に進行し易い傾向がある。また原料の全圧が上記範囲の中でも低いと、メタノールの生成が抑制される傾向がある。
【0033】
(二酸化炭素を固定化する方法)
本発明の二酸化炭素を固定化する方法は、メタノール製造用金属担持触媒の存在下で、二酸化炭素及び水素を含む排ガスを用いて、排ガス中の二酸化炭素をメタノールに変換することを含む。本発明の方法を用いることにより、効率的に二酸化炭素を固定化することができる。排ガスとしては、炭素を含む物質の燃焼によって生成する二酸化炭素を含む原料ガスを用いることができる。なお、炭素を含む物質は炭化水素であってもよい。
【実施例0034】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(試験例1)
[1-1.金属担持触媒の調製]
<実施例1-1>
以下の方法により、Pt、W及びMoが酸化チタン粒子に担持された金属担持触媒を調製した。
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物(富士フイルム和光純薬株式会社富士フイルム和光純薬株式会社)0.4141g、タングステン酸アンモニウムパラ五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社)0.0202g、酸化チタン粒子(一次粒子径:21nm、P-25、日本アエロジル)1.185g及びイオン交換水50mLの混合物を室温で30分撹拌した。混合物を50℃に加熱しながら減圧下で溶媒を留去し、残渣を110℃で一晩乾燥した。乾燥後の固形物を、瑪瑙乳鉢及び乳棒ですりつぶした。得られた粉体を大気雰囲気下、500℃で3時間焼成して、MoO及びWOが担持された酸化チタン粒子を得た。得られた粒子0.475gを用いて、それにジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液(フルヤ金属)0.5208g、及びイオン交換水50mLの混合物を室温で30分撹拌した。混合物を50℃に加熱しながら減圧下で溶媒を留去し、残渣を110℃で一晩乾燥した。乾燥後の固形物を、瑪瑙乳鉢及び乳棒ですりつぶした。得られた粉体を大気雰囲気下、500℃で3時間焼成して、MoO、WO及びPt金属が酸化チタンに担持された金属担持触媒を得た。
仕込み量から計算されるPt金属、MoO及びWOの含有量を表1に記載した。
【0036】
<実施例1-2>
タングステン酸アンモニウムパラ五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社)0.0607g、酸化チタン粒子(P-25、日本アエロジル)1.155gを用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして、MoO、WO及びPt金属が酸化チタンに担持された金属担持触媒を得た。仕込み量から計算されるPt金属、MoO及びWOの含有量を表1に記載した。
【0037】
<実施例1-3>
タングステン酸アンモニウムパラ五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社)0.3034g、酸化チタン粒子(P-25、日本アエロジル)0.975gを用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして、MoO、WO及びPt金属が酸化チタンに担持された金属担持触媒を得た。仕込み量から計算されるPt金属、MoO及びWOの含有量を表1に記載した。
【0038】
<実施例1-4>
タングステン酸アンモニウムパラ五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社)0.4046g、酸化チタン粒子(P-25、日本アエロジル)0.900gを用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして、MoO、WO及びPt金属が酸化チタンに担持された金属担持触媒を得た。仕込み量から計算されるPt金属、MoO及びWOの含有量を表1に記載した。
【0039】
<比較例1-1>
工業用触媒として使用されている、製造ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)からのメタノール製造用触媒として、銅/亜鉛/酸化アルミニウム(Alfa Aesar社製、商品名:Stock No.45776.36)を使用した。
【0040】
[1-2.メタノール製造反応]
各金属担持触媒150mgを固定床流通式反応器に充填し、20mL/分の水素気流下、500℃で0.5時間、還元処理した。
【0041】
還元処理した金属担持触媒を空気に触れないように、溶媒の1,4-ジオキサンとともにオートクレーブ中で混合した。その後、オートクレーブに5MPaの水素及び1MPaの二酸化炭素を導入した。オートクレーブ中、150℃、6時間反応を進行させて、反応生成物を得た。
【0042】
得られた反応生成物を、ガスクロマトグラフを用いて下記の測定条件で分析して、COの仕込み量を基準とする各成分の収率及び選択率を求めた。測定結果を表1に示す。
(ガスクロマトグラフの測定条件)
・測定装置:気体測定:GC-FID;島津製作所GC-2014
液体測定:GC-FID;島津製作所GC-14B
・カラム:気体測定:Porapak Q column
液体測定:Ultra ALLOY capillary column
UA+ -1
・測定温度:気体測定:40℃
液体測定:80℃
・キャリアガス:気体測定:ヘリウム
液体測定:窒素
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示されるように、第1の金属であるPtと、第2の金属であるMo及びWとを含む金属担持触媒を用い、二酸化炭素及び水素から、メタノールを製造させたところ、銅/亜鉛/酸化アルミニウムを用いた比較例と比較し、副生成物であるメタンの生成は抑えつつ、メタノールを高い収率で生成できることが確認された。
【0045】
(試験例2)
<実施例2-1>
ジアンミンジニトロ白金(II)硝酸溶液(フルヤ金属)0.3125g、タングステン酸アンモニウムパラ五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社)0.2023g、酸化チタン粒子(P-25、日本アエロジル)1.155gを用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして、MoO、WO及びPt金属が酸化チタンに担持された金属担持触媒を得た。仕込み量から計算されるPt金属、MoO及びWOの含有量を表2に記載した。
【0046】
<比較例2-1>
タングステン酸アンモニウムパラ五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いず、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.276gを用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして、MoO及びPt金属が酸化チタンに担持された金属担持触媒を得た。仕込み量から計算されるPt金属、MoOの含有量を表2に記載した。
【0047】
<比較例2-2>
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物を用いず、タングステン酸アンモニウムパラ五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社)0.2023g、酸化チタン粒子(P-25、日本アエロジル)1.305gを用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして、WO及びPt金属が酸化チタンに担持された金属担持触媒を得た。仕込み量から計算されるPt金属、WOの含有量を表2に記載した。
【0048】
得られた各金属担持触媒を用いたこと以外は試験例1と同様の条件で、メタノール製造反応の試験を行った。
【0049】
得られた反応生成物をガスクロマトグラフ用いて試験例1と測定条件で分析して、COの仕込み量を基準とする各成分の収率及び選択率を求めた。測定結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示されるように、第1の金属であるPtと、第2の金属であるMo及びWと含む金属担持触媒を用い、二酸化炭素及び水素から、メタノールを製造させたところ、比較例と比較し、副生成物であるメタンの生成は抑えつつ、メタノールを高い収率で生成できることが確認された。
【0052】
本発明によれば、二酸化炭素及び水素からメタノールを、不均一系触媒を用いて高い収率で得ることができる。さらに、炭素を含む物質の燃焼によって生成し、大気に放出されていた低濃度の二酸化炭素を原料として適用することもできる。そのため、従来は大気に放出されていたような低濃度の二酸化炭素を含む排ガス(例えば、石油精製工場、発電所などで発生する、炭化水素の燃焼により生成する混合ガス)を効率的に利用することができる。その結果、排ガス中の二酸化炭素をメタノールに変換することによって二酸化炭素を固定化することで、地球環境への負荷のより一層の低減につながることが期待される。