(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079303
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 231/24 20060101AFI20240604BHJP
C07C 233/56 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C07C231/24
C07C233/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192166
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 大貴
(72)【発明者】
【氏名】若林 智光
(72)【発明者】
【氏名】関岡 直樹
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB46
4H006AD10
4H006BC52
4H006BT12
4H006BV22
(57)【要約】
【課題】不純物の生成を抑制することができる、重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】不対電子を有する気体と重合性マロン酸誘導体とを接触させる乾燥工程を含む、重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不対電子を有する気体と重合性マロン酸誘導体とを接触させる乾燥工程を含む、重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
【請求項2】
前記不対電子を有する気体が、O2、一酸化窒素および二酸化窒素から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
【請求項3】
前記重合性マロン酸誘導体が、マロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステルおよびマロン酸-2-[[[[2-[2-メチル-1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステルから選ばれる少なくとも一つである、請求項1または2に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程で使用する乾燥機がコニカルドライヤーである、請求項1または2に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥工程が常圧下および/または減圧下で行われる、請求項1または2に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
【請求項6】
重合性マロン酸誘導体に接触させる気体中、前記不対電子を有する気体の濃度が、0.01~50質量%である、請求項1または2に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
【請求項7】
重合性マロン酸誘導体組成物中のナトリウム含量が500質量ppm未満である、請求項1または2に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
【請求項8】
重合性マロン酸誘導体組成物中の、マロン酸エステル類の含有率が、前記重合性マロン酸誘導体に対し50質量%未満である、請求項1または2に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
【請求項9】
重合性マロン酸誘導体組成物を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに30質量%溶解させた溶液の、光路長50mmにおける370nmの吸光度が1未満である、請求項1または2に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
【請求項10】
下記式(2)
(R1-COO)n-R2-(NCO)m・・・(2)
(式(2)中、R1は炭素数2または3のエチレン性不飽和基であり、R2は炭素数が1~7のm+n価の炭化水素基である。mおよびnはそれぞれ独立して1または2の整数である。)
で示されるイソシアナト基を有する化合物と、マロン酸エステル類とを反応させる工程を、前記乾燥工程より前に含む、請求項1または2に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和イソシアネート化合物とマロン酸ジエステルとを反応させることなどで合成される重合性マロン酸誘導体は、カラーフィルター用途などの重合体の原料として用いられる。例えば、特許文献1は、不飽和イソシアネート化合物とマロン酸誘導体であるマロン酸エステル類を1:1で反応させ、重合性マロン酸誘導体を製造することを開示している。特許文献2は、低温・短時間の加熱条件でも容易にイソシアナト基を再生させることができるイソシアネートのブロック体を開示しており、該ブロック体を合成する際は、真空乾燥機で乾燥を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-316643号公報
【特許文献2】特許第6080839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、重合性マロン酸誘導体製造後の精製の検討は行っていなかった。特許文献2に開示されているように、粉塵による急激な反応を発生させないため、化合物の乾燥は真空下または窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下にて行われることが技術常識であった。
【0005】
しかしながら本発明者らは、重合性マロン酸誘導体の精製方法を検討した結果、重合性マロン酸誘導体を乾燥する際に、乾燥容器を回転させながら真空乾燥させるといった一般的な方法で乾燥を行うと、重合性マロン酸誘導体の重合物である不純物が生じてしまう新たな問題を見出した。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、不純物の生成を抑制することができる、重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、重合性マロン酸誘導体の乾燥工程において、不対電子を有する気体と重合性マロン酸誘導体とを接触させることで不純物の生成を抑制できることを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、本発明は以下の項[1]~[10]に示される発明を含む。
【0008】
[1] 不対電子を有する気体と重合性マロン酸誘導体とを接触させる乾燥工程を含む、重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
[2] 前記不対電子を有する気体が、O2、一酸化窒素および二酸化窒素から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
[3] 前記重合性マロン酸誘導体が、マロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステルおよびマロン酸-2-[[[[2-[2-メチル-1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステルから選ばれる少なくとも一つである、[1]または[2]に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
[4] 前記乾燥工程で使用する乾燥機がコニカルドライヤーである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
[5] 前記乾燥工程が常圧下および/または減圧下で行われる、[1]~[4]のいずれか1項に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
[6] 重合性マロン酸誘導体に接触させる気体中、前記不対電子を有する気体の濃度が、0.01~50質量%である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
[7] 重合性マロン酸誘導体組成物中のナトリウム含量が500質量ppm未満である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
[8] 重合性マロン酸誘導体組成物中の、マロン酸エステル類の含有率が、前記重合性マロン酸誘導体に対し50質量%未満である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
[9] 重合性マロン酸誘導体組成物を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに30質量%溶解させた溶液の、光路長50mmにおける370nmの吸光度が1未満である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
[10] 下記式(2)
(R1-COO)n-R2-(NCO)m・・・(2)
(式(2)中、R1は炭素数2または3のエチレン性不飽和基であり、R2は炭素数が1~7のm+n価の炭化水素基である。mおよびnはそれぞれ独立して1または2の整数である。)
で示されるイソシアナト基を有する化合物と、マロン酸エステル類とを反応させる工程を、前記乾燥工程より前に含む、[1]~[9]のいずれか1項に記載の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、不純物の生成を抑制することができる、重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法を提供することができる。また、本発明により製造された重合性マロン酸誘導体組成物は、合成樹脂への不純物混入を抑えられ、例えば合成樹脂を塗料として塗膜する際の異物混入によるパターン不良が起こるリスクを低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明の一実施形態は、不対電子を有する気体と原料の重合性マロン酸誘導体とを接触させる乾燥工程を含む、重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法である。
【0012】
<重合性マロン酸誘導体組成物>
重合性マロン酸誘導体組成物は、重合性マロン酸誘導体および重合性マロン酸誘導体の重合物が含まれ、ならびに重合性マロン酸誘導体の製造に使用される原料のマロン酸エステル類などの未反応物および重合禁止剤などを含んでもよい。重合性マロン酸誘導体組成物中の、マロン酸エステル類の含有率が重合性マロン酸誘導体に対し50質量%未満が好ましく、5質量%未満であることがより好ましい。該マロン酸エステル類の含有率は、例えば、高速液体クロマトグラフィーによる測定から得ることができる。
【0013】
重合性マロン酸誘導体組成物中のナトリウムの含量は、500質量ppm未満が好ましく、250質量ppm未満がより好ましい。該ナトリウム含量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析装置および誘導結合プラズマ質量分析装置などを用いて測定して得ることができる。
【0014】
<重合性マロン酸誘導体>
重合性マロン酸誘導体は、マロン酸骨格およびエチレン性二重結合を含む化合物であり、好ましくは式(1)で表される。
【0015】
【0016】
式(1)中、R1は炭素数2または3のエチレン性不飽和基である。R1の炭素数が4以上であると、エチレン性不飽和基の反応性が低下する場合がある。R1は、原料の入手容易性の点から、CH2=CH(CH3)-またはCH2=CH2-(ビニル基)であることが好ましい。
【0017】
式(1)中、R2は炭素数が1~7、好ましくは2~6、より好ましくは3~5、更に好ましくは2のm+n価の炭化水素基であり、直鎖状であってもよいし分岐状であってもよい。また、R2はエーテル結合を含んでいてもよい。R2は原料の入手容易性の点から、-CH2-、-CH2CH2-、または-CH2CH2OCH2CH2-であることが好ましく、-CH2CH2-がより好ましい。
【0018】
式(1)中、mおよびnはそれぞれ独立して1または2の整数であり、製造容易性の点からいずれも1であることが好ましい。
【0019】
式(1)中、R3およびR4はそれぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基またはアリールアルキル基を表わす。R3およびR4の炭素数はそれぞれ1~5が好ましく、1~3がより好ましく、2が更に好ましい。
【0020】
重合性マロン酸誘導体を製造する方法は各種考えられ、特に限定されるものではないが、例えば工業的に製造されている下記式(2)
(R1-COO)n-R2-(NCO)m・・・(2)
(式(2)中、R1、R2、mおよびnは式(1)の各符号と同義である。)
で示されるイソシアナト基を有する化合物と、マロン酸エステル類とを反応させる方法が挙げられる。
【0021】
式(2)で示されるイソシアナト基を有する化合物としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、3-メタクリロイルオキシ-n-プロピルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシイソプロピルイソシアネート、4-メタクリロイルオキシ-n-ブチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシ-tert-ブチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシブチル-4-イソシアネート、2-メタクリロイルオキシブチル-3-イソシアネート、2-メタクリロイルオキシブチル-2-イソシアネート、2-メタクリロイルオキシブチル-1-イソシアネート、5-メタクリロイルオキシ-n-ペンチルイソシアネート、6-メタクリロイルオキシ-n-ヘキシルイソシアネート、7-メタクリロイルオキシ-n-ヘプチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルメタクリレート、3-メタクリロイルオキシフェニルイソシアネート、4-メタクリロイルオキシフェニルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、3-アクリロイルオキシ-n-プロピルイソシアネート、2-アクリロイルオキシイソプロピルイソシアネート、4-アクリロイルオキシ-n-ブチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシ-tert-ブチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシブチル-4-イソシアネート、2-アクリロイルオキシブチル-3-イソシアネート、2-アクリロイルオキシブチル-2-イソシアネート、2-アクリロイルオキシブチル-1-イソシアネート、5-アクリロイルオキシ-n-ペンチルイソシアネート、6-アクリロイルオキシ-n-ヘキシルイソシアネート、7-アクリロイルオキシ-n-ヘプチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルアクリレート、3-アクリロイルオキシフェニルイソシアネート、4-アクリロイルオキシフェニルイソシアネート、1,1-ビス(メタクリロイルオキシメチル)メチルイソシアネート、1,1-ビス(メタクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)メチルイソシアネート、1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートが挙げられる。
【0022】
このうち、製造容易性および/または原料の入手容易性の点から、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルアクリレート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルメタクリレートまたは1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートであることが好ましく、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートまたは2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートがより好ましく、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートが更に好ましい。
【0023】
マロン酸エステル類としては、例えば、メタノール、エタノール、イソ-およびn-プロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコールなどの脂肪族アルコール;シクロヘキシルメタノールなどの脂環式アルコール;ベンジルアルコールなどの芳香環を含むアルコールなどと、マロン酸とのジエステル、あるいは二つのアルコールが異なる混合エステルが挙げられる。このうち、入手の容易さ、コスト上および品質上の観点から、マロン酸とのジメチルエステルまたはジエチルエステルが好ましく、ジエチルエステルがより好ましい。
【0024】
上記式(2)で示されるイソシアナト基を有する化合物とマロン酸エステル類との反応は、マロン酸エステル類を単独で用いるか不活性溶媒に溶解させておき、これに式(2)で示されるイソシアナト基を有する化合物、またはそれを不活性溶媒に溶かした溶液を加えて行く。加え終わった後、しばらくそのまま反応させて反応を完結させる。
【0025】
上記反応を円滑に進めるためには、反応触媒を用いることが望ましい。反応触媒としてはトリエチルアミンのような3級アミン、ナトリウムエトキシド、カリウムターシャリーブトキシドのような金属アルコキシド、および亜鉛アセチルアセトナートのような亜鉛化合物が好適に用いられ、これらの中でもナトリウムメトキシドおよびトリエチルアミンが好ましく、より好ましくはナトリウムメトキシドである。上記反応触媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また反応触媒は、溶媒に分散させて用いてもよいし、ブロック剤に溶解させて用いてもよい。
【0026】
上記反応触媒の使用量は、特に制限されず、反応が円滑に進むような量で使用すればよいが、式(2)の化合物100molに対し、好ましくは0.01mol以上、より好ましくは0.05mol以上、更に好ましくは0.2mol以上であり、好ましくは20mol以下、より好ましくは10mol以下、更に好ましくは5mol以下である。反応触媒の使用量が前記範囲を下回ると、反応が遅くなる傾向にある。反応触媒の使用量が前記範囲を上回ると、反応の制御が困難になる場合がある。上記反応触媒の添加タイミングは、特に限定されない。
【0027】
マロン酸エステル類と式(2)で示されるイソシアナト基を有する化合物との比率は、理論的には1:1(モル比)でよいが、反応を完結させやすくするために、式(2)で示されるイソシアナト基を有する化合物100molを基準としてマロン酸エステル類を101mol以上1000mol以下用いる方がよい。マロン酸エステル類が101mol以上であれば、反応完結までの時間を短くでき好ましい。マロン酸エステル類が1000mol以下であれば、式(2)で示されるイソシアナト基を有する化合物が晶析による精製で結晶化しやすく好ましい。
【0028】
不活性溶媒としては式(2)で示されるイソシアナト基を有する化合物と反応しないものなら何でもよく、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等が用いられる。またこれらの溶媒のいくつかを混合して用いてもよい。
【0029】
反応系には、更に酸が含まれていてもよい。酸としては特に限定されないが、硫酸が好ましい。
【0030】
反応温度は、式(2)で示されるイソシアナト基を有する化合物の種類によって異なるが、-20℃以上120℃以下が好ましい。-20℃以上では充分な反応速度が得られ、また、120℃以下ではC=C(二重結合)の重合が発生しにくく、ゲル化せず好ましい。
【0031】
反応系には重合を防止するために重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤としては、フェノチアジン、p-メトキシフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(以下「BHT」とも称す)など、一般に使用されているものを用いることができるが、特にフェノチアジン、BHTが重合防止効果の点で適している。
【0032】
本発明の一実施形態においては、後述する乾燥工程の前に、上記のように式(2)で示されるイソシアナト基を有する化合物と、マロン酸エステル類とを反応させ、重合性マロン酸誘導体を得る工程を含んでもよい。
【0033】
<不対電子を有する気体>
不対電子を有する気体は特に限定されないが、O2、一酸化窒素、および二酸化窒素から選ばれる少なくとも1種を含む気体が好ましい。不対電子を有する気体は上記以外との混合ガスであってもよく、空気はO2を0.1~40質量%含みおよび入手の容易さからより好ましい。気体中の不対電子が、後述する乾燥工程にて生じる重合性マロン酸誘導体由来のラジカルを不活性化すると推測される。
【0034】
重合性マロン酸誘導体に接触させる気体中の不対電子を有する気体の濃度は限定されないが、ハンドリングの容易さから、不対電子を有する気体の合計で0.01~50質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましい。
【0035】
<乾燥工程>
本発明の重合性マロン酸誘導体組成物の製造方法は、不対電子を有する気体と重合性マロン酸誘導体を接触させる乾燥工程を含む。乾燥工程に使用される、重合性マロン酸誘導体は、上記<重合性マロン酸誘導体>の項で例示した方法によって製造することができる。
【0036】
重合性マロン酸誘導体を乾燥させる際に、不対電子を有する気体の存在しない条件下、例えばN2ガス下で行うと、上記一般的な乾燥機を用いて乾燥する際の乾燥容器や撹拌翼の回転、加圧などにより重合性マロン酸誘導体に機械的エネルギーが加えられて結晶が粉砕されることに起因して一部でラジカルが発生し、重合性マロン酸誘導体の重合物である不純物が生成する。該不純物は、アセトンやプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの溶媒に溶解せず、製品の保存安定性を悪化させる。しかし、本発明に含まれる乾燥工程により、上記のような機械的エネルギーが重合性マロン酸誘導体に加わっている間に、不対電子を有する気体を重合性マロン酸誘導体と接触させておくことで、粉砕により発生したラジカルを不活性化し、前記不純物の生成を抑制できると推測される。
【0037】
乾燥工程に使用する機器は特に限定されないが、コニカルドライヤー乾燥機、ろ過乾燥機、振動乾燥機、撹拌乾燥機が挙げられ、撹拌羽根が無いことからせん断等の物理的な力が加わりにくく重合性マロン酸誘導体の結晶が粉砕されにくいこと、不純物が混入しにくいことからコニカルドライヤー乾燥機がより好ましい。さらには、内部が平滑なコニカルドライヤーがさらに好ましい。
【0038】
乾燥工程は、減圧下(真空を含む)、常圧下、加圧下において行うことができるが、常圧下および/または減圧下で行うことが好ましく、常圧下および減圧下で交互に行うことがより好ましい。交互に行う際の順序および回数については特に限定されないが、例えば、常圧下から始めて、その後減圧下で行ってもよいし、減圧下で始めて、その後常圧下で行ってもよい。
【0039】
乾燥工程の一部または全部において、静置または撹拌しながら乾燥を行っても良いが、撹拌しながら乾燥を行う場合は、上述の発生したラジカルを不活性化させるため、不対電子を有する気体を接触させながら行うのが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法が上記乾燥工程を含むことによって、重合性マロン酸誘導体組成物中の重合性マロン酸誘導体の重合物である不純物の生成が抑制される。不純物生成抑制の効果は、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに重合性マロン酸誘導体組成物を30質量%溶解させた溶液を光路長50mmのガラスセルに入れ、370nmにおける吸光度によって評価することができる。該吸光度が1未満、好ましくは0.7未満であるとき、重合性マロン酸誘導体の重合物である不純物の生成を充分抑制していると判断できる。
【実施例0041】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ制限されるものではない。
【0042】
[測定方法]
実施例、比較例および参考例において、マロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル中のマロン酸ジエチルの含有率は、高速液体クロマトグラフィーにて測定した。高速液体クロマトグラフィーの測定条件は以下の通りである。
・装置:示差屈折率検出器(Agilent 1200シリーズ;Agilent Technologies社製)
・カラム:Shodex(登録商標) KF-801×4本(昭和電工株式会社製)
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速0.8mL/min
・注入量0.01mL
・カラム温度40℃
・光学系温度40℃
【0043】
実施例、比較例および参考例において、マロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル中のナトリウムの含量は、以下の手順で測定した。
分析試料の準備:マロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステルを含む組成物50mgを石英ビーカーに量り取り、濃硫酸2mLを加え、ホットプレートにより230度まで加熱し炭化させた。さらに、濃硝酸0.3mLを加え再び230℃まで加熱した。褐色煙の発生が収まったら下ろして冷ました。褐色煙が発生しなくなり、分解液が無色か淡い黄色になるまで濃硝酸添加と加熱を繰り返した。50mLのメスフラスコに分解液を移液後、標線まで水でメスアップを行った。こうして、分析試料を得た。
分析試料の分析:調製した分析試料を下記、誘導結合プラズマ発光分光分析装置にて測定した。
使用装置:誘導結合プラズマ発光分光分析装置(製品名700 Series ICP-OES:Agilent Technologies社製)
【0044】
[実施例1]
温度計、撹拌翼を備えた30L反応器に、マロン酸ジエチル13.0kg(立山化成株式会社製、81mol)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール7.0g(オクサリスケミカルズ株式会社製、0.032mol)、30質量%ナトリウムメトキシド-メタノール溶液20g(日本曹達株式会社製、ナトリウムメトキシドとして0.11mol)を加え、-10℃に冷却した。そこへ、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート2.86kg(昭和電工株式会社製、AOI-VM(登録商標)、20.0mol)を1.5時間かけて加え、41時間反応させた。反応完了後、20%硫酸-メタノール溶液20.0gを加え反応を停止させ、27℃に昇温させた。昇温後の反応液を孔径0.2μmのフィルターに通し、洗浄した30L反応器に反応液を再投入し、20℃に冷却した。そこへ、ヘキサン4.38kg(大伸化学株式会社製、51mol)を2時間かけて加え、さらに5℃まで冷却して結晶を析出させ、スラリーを形成させた後、ろ紙を備えたろ過器にスラリーを投入した。ろ紙上の結晶に対して、ヘキサン11.56kg(大伸化学株式会社製、134mol)を3回に分けて加え、結晶に付着した溶媒を洗浄した。その結晶をコニカルドライヤー乾燥機(八光産業株式会社製、グラスライニング18Lコニカルドライヤー)の乾燥容器に投入し、静置させながら真空乾燥を行い、乾燥空気0.013kgで常圧に戻した後に乾燥容器を回転させ、再度減圧する工程を15回実施することで、マロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル4.26kg(14.0mol)を得た。得られたマロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル3.00g(0.01mol)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート7.00g(関東化学株式会社製、0.05mol)に加えて溶解させた。得られた溶液をサンプル、および得られた溶液を孔径0.45μmのフィルターに通した溶液をリファレンスとして、それぞれの溶液を光路長50mmのガラスセルに入れて370nmの吸光度を測定したところ、サンプル溶液の吸光度は0.63であった。また、上記マロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル中のマロン酸ジエチルの含有量は0.4質量%であり、ナトリウム含量は100質量ppmであった。
【0045】
[比較例1]
温度計、撹拌翼を備えた30L反応器にマロン酸ジエチル13.0kg(立山化成株式会社製、0.081kmol)、BHT7.0g(オクサリスケミカルズ株式会社製、0.031mol)、30質量%ナトリウムメトキシド-メタノール溶液20.0g(日本曹達株式会社製、ナトリウムメトキシドとして11.0mol)を加え、-10℃に冷却した。そこへ、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート2.86kg(昭和電工株式会社製、AOI-VM(登録商標)、20.0mol)を1.5時間かけて加え、41時間撹拌しながら反応させた。反応完了後、20%硫酸-メタノール溶液20.0gを加え反応を停止させ、27℃に昇温させた。昇温後の反応液を孔径0.2μmのフィルターに通し、洗浄した30L反応器に反応液を再投入し、20℃に冷却した。そこへ、ヘキサン4.38kg(大伸化学株式会社製、51.0mol)を2時間かけて加え、さらに5℃まで冷却して結晶を析出させ、スラリーを形成させた後、ろ紙を備えたろ過器にスラリーを投入した。ろ紙上の結晶に対してヘキサン11.56kg(大伸化学株式会社製、134mol)を3回に分けて加え、結晶に付着した溶媒を洗浄した。その結晶をコニカルドライヤー乾燥機の乾燥容器に投入し、真空にしたのち、乾燥容器を10分間回転させながら真空乾燥を行い、窒素ガスで常圧に戻した後に再度減圧する工程を20回実施することで、マロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル4.42kg(15.0mol)を得た。得られたマロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル3.00g(0.01mol)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート7.00g(関東化学株式会社製、0.05mol)に入れて溶解させた。得られた溶液をサンプル、および得られた溶液を孔径0.45μmのフィルターに通した溶液をリファレンスとして、それぞれの溶液を光路長50mmのガラスセルに加えて370nmの吸光度を測定したところ、サンプル溶液の吸光度は2.04であった。高速液体クロマトグラフィーによる分析を行ったところ、上記マロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル中にマロン酸ジエチルは検出されず、ナトリウム含量は110質量ppmであった。
【0046】
[参考例1]
実施例1で取得したマロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル10.0g(0.03mol)を真空乾燥機で圧力4kPa、40℃、2.5時間静置させて乾燥させた。得られたマロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル3.00g(0.01mol)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート7.00g(関東化学株式会社製、0.05mol)に加えて溶解させた。得られた溶液をサンプル、および得られた溶液を孔径0.45μmのフィルターに通した溶液をリファレンスとして、それぞれの溶液を光路長50mmのガラスセルに入れて370nmの吸光度を測定したところ、サンプル溶液の吸光度は0.63であった。高速液体クロマトグラフィーにて分析を行ったところ、上記マロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル中にマロン酸ジエチルは検出されなかった。
【0047】
[参考例2]
実施例1で取得したマロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル10.0g(0.03mol)をメノウ乳鉢で大気下、15分間すり潰した後、そのうち3.00gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート7.00g(関東化学株式会社製、0.05mol)に加えて溶解させた。得られた溶液をサンプル、および得られた溶液を孔径0.45μmのフィルターに通した溶液をリファレンスとして、それぞれの溶液を光路長50mmのガラスセルに加えて370nmの吸光度を測定したところ、サンプル溶液の吸光度は0.63であった。高速液体クロマトグラフィーにて分析を行ったところ、上記マロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル中にマロン酸ジエチルは検出されなかった。
【0048】
[参考例3]
実施例1で取得したマロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル10.0g(0.03mol)をメノウ乳鉢で窒素ガス雰囲気下、15分間すり潰した後、そのうち3.00gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート7.00g(関東化学株式会社製、0.05mol)に加えて溶解させた。得られた溶液をサンプル、得られた溶液を孔径0.45μmのフィルターに通した溶液をリファレンスとして、それぞれの溶液を光路長50mmのガラスセルに加えて370nmの吸光度を測定したところ、サンプル溶液の吸光度は10.00であった。高速液体クロマトグラフィーにて分析を行ったところ、上記マロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステル中にマロン酸ジエチルは検出されなかった。
【0049】
実施例1にて得られたマロン酸-2-[[[[2-[1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチル]アミノ]カルボニル]-1,3-ジエチルエステルを、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させて測定した吸光度は0.63であり、重合性マロン酸誘導体の重合物である不純物の生成を充分抑制していると判断できる。一方で窒素ガス雰囲気下にて乾燥を行った比較例1の吸光度は2.04であり、不純物が生成していると考えられる。