(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079316
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】磁性シート、及び磁性シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240604BHJP
B29D 7/01 20060101ALI20240604BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240604BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20240604BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B29D7/01
C08L101/00
C08K3/10
H01F1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192189
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100213997
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
【テーマコード(参考)】
4F071
4F213
4J002
5E041
【Fターム(参考)】
4F071AA12X
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4J002AA011
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5E041BB04
5E041BD12
5E041CA13
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】飽和磁束密度が高く、外部磁場に対する応答性に優れ、且つ、平坦性に優れる磁性シートの提供。
【解決手段】本発明は、非晶性熱可塑性樹脂と軟磁性材料とを含む、磁性シートであって、前記磁性シートの主面に対する前記軟磁性材料の配向角度が60°以上90°以下であり、前記軟磁性材料の含有割合が、40体積%以上である、磁性シートである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性熱可塑性樹脂と軟磁性材料とを含む、磁性シートであって、
前記磁性シートの主面に対する前記軟磁性材料の配向角度が60°以上90°以下であり、
前記軟磁性材料の含有割合が、40体積%以上である、磁性シート。
【請求項2】
前記非晶性熱可塑性樹脂が、液状の非晶性熱可塑性樹脂を含む、請求項1に記載の磁性シート。
【請求項3】
前記液状の非晶性熱可塑性樹脂の含有割合が、前記非晶性熱可塑性樹脂の含有割合を100質量%とした場合に、20質量%以上40質量%以下である、請求項2に記載の磁性シート。
【請求項4】
前記非晶性熱可塑性樹脂が、ニトリルゴム、ポリブテン、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、及びフッ素ゴムからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、請求項1に記載の磁性シート。
【請求項5】
前記軟磁性材料が、鱗片状の軟磁性材料である、請求項1~4の何れかに記載の磁性シート。
【請求項6】
非晶性熱可塑性樹脂と軟磁性材料とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、
前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記一次シートを折畳又は捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、
前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、二次シートを得るスライス工程と、を含み、
前記ロール成形では、前記組成物を、第一ロールと、前記第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させる、磁性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性シート、及び磁性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性シートは、電磁波の遮蔽や吸収等に用いられ得るものであり、通信機器や各種電子機器等の分野において広く用いられている。
【0003】
ここで、電磁波とは、電界(電場)と磁界(磁場)から構成され、これらが互いに振動しながら空間を伝播する波であるところ、磁性シートの中には、磁束を一定方向に流すこと、或いは、磁束を一定方向に流さないことで電磁波を制御するものもある。
【0004】
例えば、特許文献1には、シート面内に磁気異方性を付与し、各種ノイズ(不要電磁波)の特定の方向成分を除去しようとする際に、より効果的に機能する電磁干渉抑制体として、扁平形状の軟磁性体粉末と、結合剤で構成される複合磁性体シートからなる電磁干渉抑制体であって、軟磁性体粉末の扁平な面同士が互いに平行であり且つ扁平な面が複合磁性体シート面に垂直な方向になるように配向した状態で結合剤に分散している電磁干渉抑制体が開示されている。具体的に特許文献1では、センダスト系軟磁性体80重量%と、結晶性熱可塑性樹脂である塩素化ポリエチレン20重量%とを含む複合磁性体シートを得て、これを積層、圧着してブロックを形成し、このブロックを複合磁性体シートの積層方向に沿う方向にスライスして、シート状の電磁干渉抑制体を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、高い周波数帯の電磁波を効率的に制御する観点から、磁性シートは、飽和磁束密度が高いことが望まれる。
【0007】
また、ノイズ(不要電磁波)には周波数帯が低い電磁波も含まれ得るところ、低い周波数帯の電磁波を効果的に制御する観点から、磁性シートは、外部磁場に対する応答性に優れていることが望まれる。
【0008】
更に、磁性シートは、通常、通信機器や各種電子機器等が備えている半導体ICやプリント基板等に貼り付けて使用され得るため、カールしておらず、平坦性に優れていることが望まれる。
【0009】
そこで、本発明は、飽和磁束密度が高く、外部磁場に対する応答性に優れ、且つ、平坦性に優れる磁性シートを提供することを目的とする。
また、本発明は、飽和磁束密度が高く、外部磁場に対する応答性に優れ、且つ、平坦性に優れる磁性シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、非晶性熱可塑性樹脂と、軟磁性材料とを含む、磁性シートにおいて、軟磁性材料を磁性シートの主面に対して60°以上90°以下の角度で配向させると共に、軟磁性材料の含有割合を所定量とすれば、上記課題を解決できることを新たに見出し、本発明を完成させた。
また、本発明者は、非晶性熱可塑性樹脂と軟磁性材料とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、一次シートを複数枚積層して、或いは、一次シートを折畳又は捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、積層体を積層方向にスライスし、二次シートを得るスライス工程と、を含む、磁性シートの製造方法において、ロール成形で、組成物を、第一ロールと、第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させれば、上記課題を解決できることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[1]本発明は、非晶性熱可塑性樹脂と軟磁性材料とを含む、磁性シートであって、前記磁性シートの主面に対する前記軟磁性材料の配向角度が60°以上90°以下であり、前記軟磁性材料の含有割合が、40体積%以上である、磁性シートである。
上記のような磁性シートは、飽和磁束密度が高く、外部磁場に対する応答性に優れ、且つ、平坦性に優れている。
本明細書において、磁性シートの主面に対する軟磁性材料の配向角度は、実施例に記載の方法により測定できる。なお、磁性シートの「主面」は、当該磁性シートにおける最大面積を有する面を意味する。
本明細書において、「非晶性熱可塑性樹脂」とは、融点を有さない熱可塑性樹脂である。非晶性熱可塑性樹脂の融点の有無は、示差走査熱量計(DSC)を用いて確認でき、具体的には、示差走査熱量計(DSC)を用いて、JIS K7121に従い、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で分析を行い、かかる分析における吸熱ピークの有無によって確認できる。非晶性熱可塑性樹脂の場合には、該吸熱ピークが存在しない。なお、本明細書において、樹脂にはゴムが含まれる。
【0012】
[2]上記[1]の磁性シートにおいて、前記非晶性熱可塑性樹脂は、液状の非晶性熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
非晶性熱可塑性樹脂が液状の非晶性熱可塑性樹脂を含めば、磁性シートの柔軟性が向上するため多くの軟磁性材料を磁性シート内に充填することが可能となり、その結果、磁性シートの飽和磁束密度を向上できる。
【0013】
[3]上記[2]の磁性シートにおいて、前記液状の非晶性熱可塑性樹脂の含有割合は、前記非晶性熱可塑性樹脂の含有割合を100質量%とした場合に、20質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
液状の非晶性熱可塑性樹脂の含有割合が、非晶性熱可塑性樹脂の含有割合を100質量%とした場合に、上記範囲内であれば、軟磁性材料の含有割合を増加させても、磁性シートに良好な柔軟性を付与でき、その結果、より多くの軟磁性材料を磁性シート内に充填できる。
【0014】
[4]上記[1]~[3]の何れかの磁性シートにおいて、前記非晶性熱可塑性樹脂は、ニトリルゴム、ポリブテン、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、及びフッ素ゴムからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。
非晶性熱可塑性樹脂がこれらの樹脂のうち少なくとも1種の樹脂を含めば、磁性シートに良好な柔軟性を付与できる。
【0015】
[5]上記[1]~[4]の何れかの磁性シートにおいて、前記軟磁性材料は、鱗片状の軟磁性材料であることが好ましい。
軟磁性材料が鱗片状の軟磁性材料であれば、磁性シートの外部磁場に対する応答性を向上できる。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[6]本発明は、非晶性熱可塑性樹脂と軟磁性材料とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記一次シートを折畳又は捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、二次シートを得るスライス工程と、を含み、前記ロール成形では、前記組成物を、第一ロールと、前記第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させる、磁性シートの製造方法である。
上記のような磁性シートの製造方法であれば、飽和磁束密度が高く、外部磁場に対する応答性に優れ、且つ、平坦性に優れる磁性シートを得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、飽和磁束密度が高く、外部磁場に対する応答性に優れ、且つ、平坦性に優れる磁性シートを提供できる。
本発明によれば、飽和磁束密度が高く、外部磁場に対する応答性に優れ、且つ、平坦性に優れる磁性シートの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1で得られた磁性シートの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の磁性シートは、飽和磁束密度が高く、外部磁場に対する応答性(以下、単に「応答性」と称する場合がある。)に優れ、且つ、平坦性に優れているため、通信機器や各種電子機器等に好適に使用できる。なお、本発明の磁性シートは、後述する本発明の磁性シートの製造方法を用いて得ることができる。
【0020】
(磁性シート)
本発明の磁性シートは、非晶性熱可塑性樹脂と軟磁性材料とを含む。また、本発明の磁性シートにおいて、磁性シートの主面に対する軟磁性材料の配向角度は60°以上90°以下である。更に、本発明の磁性シートにおいて、軟磁性材料の含有割合は、40体積%以上である。
上記のような磁性シートは、飽和磁束密度が高く、応答性に優れ、且つ、平坦性に優れている。この理由は、軟磁性材料の含有割合を上記下限以上とすることで磁性シートの飽和磁束密度が高くなり、磁性シートの主面に対する軟磁性材料の配向角度を上記範囲内とすることで応答性に優れるものとなり、非晶性熱可塑性樹脂を含むことで磁性シートのカールを抑制できたためであると推察される。
なお、磁性シートは、飽和磁束密度が高くなると、高い周波数帯の電磁波を効率的に制御できるところ、本明細書において、「高い周波数帯の電磁波」とは、特に限定されるものではないが、例えば3GHz以上30GHz以下の電磁波である。
また、磁性シートは、外部磁場に対する応答性に優れていると、低い周波数帯の電磁波を効果的に制御できるところ、本明細書において、「低い周波数帯の電磁波」とは、特に限定されるものではないが、例えば100MHz以上3GHz未満の電磁波である。
【0021】
<非晶性熱可塑性樹脂>
非晶性熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、任意の非晶性熱可塑性樹脂を用いることができる。非晶性熱可塑性樹脂は、ニトリルゴム、ポリブテン、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、及びフッ素ゴムからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。非晶性熱可塑性樹脂がこれらの樹脂のうち少なくとも1種の樹脂を含めば、磁性シートに良好な柔軟性を付与できる。
【0022】
ここで、ニトリルゴムとしては、アクリロニトリルとブタジエンとのコポリマー等を用いることができる。
ポリブテンとしては、イソブテンのホモポリマー、イソブテンとn-ブテンとのコポリマー等を用いることができる。
ブチルゴムとしては、イソブチレンとイソプレンとのコポリマーを用いることができる。
スチレンブタジエンゴムとしては、スチレンとブタジエンとのコポリマーを用いることができる。
イソプレンゴムとしては、イソプレンのホモポリマーを用いることができる。
エチレンプロピレンゴムとしては、エチレンとプロピレンとのコポリマーを用いることができる。
フッ素ゴムとしては、四フッ化エチレンプロピレン系ゴム(FEPM)、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、四フッ化エチレン-パーフルオロメチルビニルエーテル系ゴム(FFKM)、テトラフルオロエチレン系ゴム(TFE)等を用いることができる。
上記ポリマーとしては、本発明の目的を阻害しない限りにおいて任意の分子量のもの選択することができる。また、ポリマーは、無置換であっても置換基を有していてもよい。更にポリマーがコポリマーである場合には、本発明の目的を阻害しない限りにおいてその比率は任意に選択することができる。これらのポリマーは1種を単独で使用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
また、非晶性熱可塑性樹脂としては、液状の非晶性熱可塑性樹脂及び固体の非晶性熱可塑性樹脂のいずれも用いることができる。非晶性熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、非晶性熱可塑性樹脂としては、液状の非晶性熱可塑性樹脂と固体の非晶性熱可塑性樹脂との双方を用いることができる。
ここで、非晶性熱可塑性樹脂は、液状の非晶性熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。非晶性熱可塑性樹脂が液状の非晶性熱可塑性樹脂を含めば、磁性シートの柔軟性が向上するため多くの軟磁性材料を磁性シート内に充填することが可能となり、その結果、磁性シートの飽和磁束密度を向上できる。
【0024】
液状の非晶性熱可塑性樹脂としては、常温常圧下で液体である非晶性熱可塑性樹脂を用いることができる。
なお、本明細書において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0025】
非晶性熱可塑性樹脂が液状の非晶性熱可塑性樹脂を含む場合、液状の非晶性熱可塑性樹脂の含有割合は、非晶性熱可塑性樹脂の含有割合を100質量%とした場合に、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、40質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
液状の非晶性熱可塑性樹脂の含有割合が、非晶性熱可塑性樹脂の含有割合を100質量%とした場合に、上記範囲内であれば、軟磁性材料の含有割合を増加させても、磁性シートに良好な柔軟性を付与でき、その結果、より多くの軟磁性材料を磁性シート内に充填できる。
【0026】
固体の非晶性熱可塑性樹脂としては、常温常圧下で固体の非晶性熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0027】
磁性シートにおける非晶性熱可塑性樹脂の含有割合は、20体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましく、55体積%以下であることが好ましく、50体積%以下であることがより好ましく、43体積%以下であることが更に好ましい。
磁性シートにおける非晶性熱可塑性樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、磁性シートの柔軟性を向上できる。また、磁性シートにおける非晶性熱可塑性樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、磁性シートの平坦性を向上できる。
一方、磁性シートにおける非晶性熱可塑性樹脂の含有割合が上記上限以下であれば、磁性シートにおける軟磁性材料の充填率を高めることができる等の理由により、磁性シートの飽和磁束密度を向上できる。
【0028】
磁性シートにおける非晶性熱可塑性樹脂の含有割合は、2.5質量%以上であることが好ましく、5.5質量%以上であることがより好ましく、17質量%以下であることが好ましく、13質量%以下であることがより好ましく、9質量%以下であることが更に好ましく、7.5質量%以上であることが更により好ましい。
磁性シートにおける非晶性熱可塑性樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、磁性シートの柔軟性を向上できる。また、磁性シートにおける非晶性熱可塑性樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、磁性シートの平坦性を向上できる。
一方、磁性シートにおける非晶性熱可塑性樹脂の含有割合が上記上限以下であれば、磁性シートにおける軟磁性材料の充填率を高めることができる等の理由により、磁性シートの飽和磁束密度を向上できる。
【0029】
<軟磁性材料>
軟磁性材料としては、従来公知のものを用いることができるが、例えば、純Fe、Ni-Fe合金(パーマロイ)、Fe-Al-Si合金(センダスト)、Fe-Si合金(ケイ素鋼)、Fe-Al合金(合金アルパーム)、Fe-Co合金(パーメンジュール)及び電磁ステンレス鋼からなる群から選択される軟磁性金属の何れか1種又は複数の軟磁性金属から構成される粉末(粒子)を用いることができる。これらの中でも軟磁性金属としては、磁性シートの飽和磁束密度を向上できる観点から、Fe-Al-Si合金(センダスト)が好ましい。
【0030】
軟磁性材料の形状は、本発明の目的を阻害しなければ特に限定されないが、鱗片状であることが好ましい。即ち、軟磁性材料は、鱗片状の軟磁性材料であることが好ましい。軟磁性材料が鱗片状の軟磁性材料であれば、磁性シート中において軟磁性材料が良好に配向し得るため、磁性シートの応答性を向上できる。
【0031】
本発明の磁性シートにおいて、軟磁性材料の配向角度は、磁性シートの主面に対して60°以上90°以下である。
そして、軟磁性材料の配向角度は、磁性シートの主面に対して、70°以上であることが好ましく、75°以上であることがより好ましく、80°以上であることが更に好ましい。軟磁性材料の配向角度が70°以上であれば、磁性シートの応答性を向上できる。
【0032】
軟磁性材料の体積平均粒子径は、0.01μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることが更に好ましく、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、35μm以下であることが更に好ましい。
軟磁性材料の体積平均粒子径が上記下限以上であれば、磁性シートにおける軟磁性材料の充填率を高めることができる等の理由により、磁性シートの飽和磁束密度を向上できる。
一方、軟磁性材料の体積平均粒子径が上記上限以下であれば、磁性シートの表面粗さを小さくに保つことが可能となり、その結果、電磁波の散乱を抑制できる。
本明細書において「体積平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠して測定でき、レーザー回折法で測定された粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表す。
【0033】
軟磁性材料のアスペクト比(長径/短径)は、1超であることが好ましく、1.2以上であることが好ましく、1.4以上であることが好ましい。
軟磁性材料のアスペクト比が上記下限以上であれば、磁性シート中において軟磁性材料が良好に配向し得るため、磁性シートの応答性を向上できる。
一方、軟磁性材料のアスペクト比は、例えば5以下であり、3以下でもよく、2以下でもよい。
本明細書において、軟磁性材料のアスペクト比は、軟磁性材料を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、任意の50個の軟磁性材料について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値により算出できる。
【0034】
本発明の磁性シートにおいて、磁性シートにおける軟磁性材料の含有割合は、40体積%以上である。
そして、磁性シートにおける軟磁性材料の含有割合は、50体積%以上であることが好ましく、57体積%以上であることがより好ましく、80体積%以下であることが好ましく、70体積%以下であることがより好ましい。
磁性シートにおける軟磁性材料の含有割合が50体積%以上であれば、磁性シートの飽和磁束密度を向上できる。また、軟磁性材料の含有割合が上記下限以上であれば、磁性シート内における軟磁性材料同士の間のスペースを減少させ、その結果、特に軟磁性材料が鱗片状の軟磁性材料である場合に、一部の鱗片状の軟磁性材料が磁性シートの主面と略平行な方向に倒れることを抑制し、軟磁性材料が所定の方向に配向し易くなる。
一方、磁性シートにおける軟磁性材料の含有割合が80体積%以下であれば、磁性シートの非晶性熱可塑性樹脂の含有割合を増加させることができる等の理由により、磁性シートの柔軟性及び平坦性を向上できる。
【0035】
磁性シートにおける軟磁性材料の含有割合は、81質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、92質量%以上であることが更により好ましく、97質量%以下であることが好ましく、94質量%以下であることがより好ましい。
磁性シートにおける軟磁性材料の含有割合が上記下限以上であれば、磁性シートの飽和磁束密度を向上できる。また、軟磁性材料の含有割合が上記下限以上であれば、磁性シート内における軟磁性材料同士の間のスペースを減少させ、その結果、特に軟磁性材料が鱗片状の軟磁性材料である場合に、一部の鱗片状の軟磁性材料が磁性シートの主面と略平行な方向に倒れることを抑制し、軟磁性材料が所定の方向に配向し易くなる。
一方、磁性シートにおける軟磁性材料の含有割合が上記上限以下であれば、磁性シートの非晶性熱可塑性樹脂の含有割合を増加させることができる等の理由により、磁性シートの柔軟性及び平坦性を向上できる。
【0036】
<磁性シートの性状>
磁性シートは、非晶性熱可塑性樹脂及び軟磁性材料を含む条片が磁性シートの厚み方向に対して一方の略垂直な方向(厚み方向に対する角度が略90°の方向)に並列接合された構造を有してもよい。この略垂直な方向における条片の幅は、1mm以上であることが好ましく、1.2mm以上であることがより好ましく、1.5mm以上であることが更に好ましく、3mm以下であることが好ましく、2.8mm以下であることがより好ましく、2.5mm以下であることが更に好ましい。
上記条片の幅は、後述する一次シートの厚みに依存し得る。そのため、条片の幅が上記下限以上の磁性シートは、一次シートの積層数、折畳数又は捲回数がより削減されている。その結果、このような磁性シートは、例えば、後述する積層体形成速度が向上され、生産性が向上されている。
一方、条片の幅が上記上限以下の磁性シートは、磁性シート中において軟磁性材料が厚み方向に良好に配向し得るため、磁性シート主面に対して垂直方向の外部磁場への応答性が向上されている。これは軟磁性材料の磁化容易軸の方向が磁性シートに対して垂直方向の外部磁場の方向と概ね一致しているためである。
【0037】
磁性シートは、非晶性熱可塑性樹脂及び軟磁性材料を含む条片が、任意の接着層を介して並列接合されていてもよい。接着層としては、市販の接着テープや、接着剤を塗布して形成した膜を用いることができる。また、高温(例えば100℃程度)で溶解する樹脂シートを用いることもできる。
このような磁性シートであれば、磁性シートの厚み方向に軟磁性材料の長軸を配向させやすいので、磁性シートの応答性を向上できる。
【0038】
磁性シートの厚みは、0.05mm以上であることが好ましく、0.10mm以上であることがより好ましく、0.30mm以上であることが更に好ましく、1.00mm以下であることが好ましく、0.80mm以下であることがより好ましく、0.60mm以下であることが更に好ましい。
磁性シートの厚みが上記下限以上であれば、磁性シートの強度を向上できる。
一方、磁性シートの厚みが上記上限以下であれば、磁性シートの柔軟性を向上できる。
【0039】
(磁性シートの製造方法)
本発明の磁性シートの製造方法は、(A)非晶性熱可塑性樹脂と軟磁性材料とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、(B)一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、一次シートを折畳又は捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、(C)積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、二次シートを得るスライス工程と、を含む。そして、本発明の磁性シートの製造方法において、ロール成形では、組成物を、第一ロールと、第一ロールよりも外周速度が速い第二ロール(以下、「第一ロールよりも外周速度が速い第二ロール」を、単に「第二ロール」と称する場合がある。)との間を通過させる。
上記のような磁性シートの製造方法であれば、飽和磁束密度が高く、外部磁場に対する応答性に優れ、且つ、平坦性に優れる磁性シートを得ることができる。また、このような磁性シートの製造方法によれば、上述した本発明の磁性シートを製造できる。
【0040】
なお、磁性シートの製造方法は、任意で、上記(A)~(C)以外の工程を更に含んでいてもよい。
【0041】
<(A)一次シート成形工程>
一次シート成形工程では、非晶性熱可塑性樹脂と軟磁性材料とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る。
【0042】
〔組成物〕
組成物は、非晶性熱可塑性樹脂と軟磁性材料とを含む。非晶性熱可塑性樹脂及び軟磁性材料としては、「磁性シート」の項で上述した非晶性熱可塑性樹脂及び軟磁性材料を、上述した比率で用いることができる。
【0043】
〔組成物の調製〕
組成物は、特に限定されず、上述した成分を混合することにより調製できる。
なお、上述した成分の混合は、特に制限されず、ニーダー;ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサー;二軸混練機;ロール;等の既知の混合装置を用いて行うことができる。
【0044】
混合は、酢酸エチル等の溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒に予め非晶性熱可塑性樹脂を溶解又は分散させて樹脂溶液として、軟磁性材料、及び任意で添加されるその他の成分と混合してもよい。
【0045】
混合時間は、例えば、5分以上60分以下である。
【0046】
混合温度は、例えば、5℃以上160℃以下である。
【0047】
〔組成物の成形〕
調製した組成物は、任意に脱泡及び解砕した後に、ロール成形してシート状に成形できる。このように組成物をロール成形したシート状のものを、一次シートとすることができる。
なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0048】
本発明の磁性シートの製造方法において、ロール成形では、組成物を、第一ロールと、第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させる。このようなロール成形によれば、高い剪断応力を加えて組成物を成形でき、この結果、一次シート中の軟磁性材料が良好に配向し、これを用いて得られた磁性シートは応答性に優れている。また、このようなロール成形によれば、磁性シートの軟磁性材料の含有割合を増加させることが可能となり、その結果、高い飽和磁束密度を有する磁性シートを得ることができる。
【0049】
第一ロールに対する第二ロールの外周速度比(「第二ロールの外周速度」/「第一ロールの外周速度」)は、1.03/1以上であることが好ましく、1.05/1以上であることがより好ましく、1.1/1以上であることが更に好ましく、2/1以下であることが好ましく、1.3/1以下であることがより好ましく、1.2/1以下であることが更に好ましい。
第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記下限以上であれば、より高い剪断応力を加えて組成物を成形できるため、一次シート中の軟磁性材料がより良好に配向し、磁性シートの応答性を向上できる。
一方、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記上限以下であれば、磁性シートの柔軟性を向上できる。また、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記上限以下であれば、一次シートの表面に発生するシワを抑制できる。即ち、一次シートの製品不良の発生を抑制し、これを用いて得られる磁性シートの生産性を向上できる。
なお、外周速度比は、ロールの径及び/又は回転速度を変更することで調整できる。
【0050】
第一ロールと第二ロールとの外周速度差(「第二ロールの外周速度」-「第一ロールの外周速度」)は、0.06m/分以上であることが好ましく、0.1m/分以上であることがより好ましく、0.2m/分以上であることが更に好ましく、1m/分以下であることが好ましく、0.7m/分以下であることがより好ましく、0.5m/分以下であることが更に好ましい。
第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記下限以上であれば、より高い剪断応力を加えて組成物を成形できるため、一次シート中の軟磁性材料がより良好に配向し、磁性シートの応答性を向上できる。
一方、第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記上限以下であれば、磁性シートの柔軟性を向上できる。また、第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記上限以下であれば、一次シートの表面に発生するシワを抑制できる。即ち、一次シートの製品不良の発生を抑制し、これを用いて得られる磁性シートの生産性を向上できる。
なお、外周速度差は、ロールの径及び/又は回転速度を変更することで調整できる。
【0051】
第一ロールと第二ロールとの間隔は、1mm以上であることが好ましく、1.2mm以上であることより好ましく、1.5mm以上であることが更に好ましく、3mm以下であることが好ましく、2.8mm以下であることがより好ましく、2.5mm以下であることが更に好ましい。
第一ロールと第二ロールとの間隔が上記下限以上であれば、組成物に剪断応力が過度に加わることを抑制して一次シートの柔軟性を向上し、その結果、磁性シートの柔軟性を向上できる。また、第一ロールと第二ロールとの間隔が上記下限以上であれば、一次シートの積層数、折畳数又は捲回数を削減できる。即ち、積層体形成速度を向上し、磁性シートの生産性を向上できる。なお、本発明においては、高い剪断応力を加えて組成物を成形しているため、第一ロールと第二ロールとの間隔が上記下限以上であっても、一次シート中の軟磁性材料が良好に配向し得る。
一方、第一ロールと第二ロールとの間隔が上記上限以下であれば、より高い剪断応力を加えて組成物を成形できるため、一次シート中の軟磁性材料がより良好に配向し、磁性シートの応答性を向上できる。
【0052】
<(B)積層体形成工程>
積層体形成工程では、一次シート成形工程で得られた一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、一次シートを折畳又は捲回して、非晶性熱可塑性樹脂及び軟磁性材料を含む一次シートが厚み方向に複数形成された積層体を得る。積層体を得るにあたり、一次シートの表面に接着層を配置して、一次シートの間に接着層が介在してなる構造を有する積層体を形成してもよい。
【0053】
ここで、一次シートの折畳による積層体の形成は、特に制限されることなく、折畳機を用いて一次シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、一次シートの捲回による積層体の形成は、特に制限されることなく、一次シートの短手方向又は長手方向に平行な軸の回りに一次シートを捲き回すことにより行うことができる。また、一次シートの積層による積層体の形成は、特に制限されることなく、積層装置を用いて行うことができる。例えば、シート積層装置(日機装社製、製品名「ハイスタッカー」)を用いれば、層間に空気が入り込むことを抑えることができるため、良好な積層体を効率的に得ることができる。
【0054】
なお、積層工程では、得られた積層体を、加熱しながら、少なくとも積層方向に加圧(二次加圧)することが好ましい。積層体を加熱しながら積層方向に加圧する二次加圧を行うことにより、積層された一次シート相互間の融着を促進することができる。
【0055】
ここで、積層体を積層方向に加圧する際の圧力(絶対圧)は、0.05MPa以上0.90MPa以下とすることができる。また、積層体の加熱温度は、特に限定されないが、50℃以上170℃以下であることが好ましい。更に、積層体の加熱時間は、例えば、10秒間以上30分間以下とすることができる。
【0056】
また、二次加圧では、圧力媒体として流体等を用いて、得られた積層体を全方位から加熱加圧することがより好ましい。これにより、一方向に圧力が逃げることなく効果的に積層体を加圧することができる。圧力媒体として用いられ得る流体は、液体でも、気体でもよいが、効率良く強い圧力をかけられる等の作業性の観点から、気体であることが好ましい。
なお、全方位からの加熱加圧は、例えば、オートクレーブを用いて実施できる。
【0057】
全方位からの加熱加圧は、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.5MPa以上、更に好ましくは0.8MPa以上の圧力(絶対圧)で行う。全方位からの加熱加圧をこの下限以上の圧力で行えば、積層された一次シート同士の接着強度を向上でき、その結果、磁性シートの条片同士の接着強度を向上できる。
一方、全方位からの加熱加圧における圧力は、例えば5.0MPa以下であり、3.0MPa以下でもよく、2.0MPa以下でもよい。
【0058】
全方位からの加熱加圧における加熱温度は、50℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることが更に好ましく、200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。
加熱温度が上記下限以上であれば、積層された一次シート同士の接着強度を向上でき、その結果、磁性シートの条片同士の接着強度を向上できる。
一方、加熱温度が上記上限以下であれば、一次シート、及び任意の接着層の劣化を抑制できる。
【0059】
全方位からの加熱加圧における加熱加圧の時間は、例えば、10秒間以上30分間以下である。
【0060】
一実施形態において、全方位からの加熱加圧は、圧力媒体として流体を用いて、得られた積層体を、80℃以上の温度で、且つ、全方位から0.8MPa以上の圧力で行うことが特に好ましい。このような加熱加圧であれば、積層された一次シート同士の接着強度をより向上でき、その結果、磁性シートの条片同士の接着強度をより向上できる。
【0061】
<(C)スライス工程>
スライス工程では、積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、積層体のスライス片よりなる二次シートを得る。本工程にて得られた二次シートは本発明の磁性シートとしてもよい。
【0062】
積層体をスライスする方法としては、特に限定されず、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、二次シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。
【0063】
積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されず、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナ及びスライサー)を用いることができる。
【0064】
積層体をスライスする角度は、磁性シートの応答性を高める観点からは、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【実施例0065】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。また、体積分率等の算出に際して、各配合成分の体積として、各配合成分の質量をそれらの理論比重で除した値を採用した。なお、実施例における各種の測定及び評価は以下の方法に従って行った。
【0066】
<軟磁性材料の配向角度>
各実施例及び比較例で得られた磁性シート中の軟磁性材料の配向角度は、磁性シートを正八角形に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ製「SU-3500」)にて当該シートの上端から下端までが収まる倍率で観察した。なお、このときの倍率は700倍であった。この断面における軟磁性材料の長軸に50本線を引き、磁性シートの表面に対する長軸の角度の平均を算出した。なお、角度が90°以上であった場合には補角を採用した。これを8面に対して実施し、8面の中で最も値の大きなものを磁性シート中の軟磁性材料の配向角度とした。
【0067】
<平坦性>
スライスして得られた50mm×50mmの磁性シートに重り(55mm×55mm、65g)を10秒間乗せた。重りを除去した後、デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製、商品名「ABSインサイドデジマチックキャリパ」)にてカール高さを測定した。なお、重りを除去した後に1周以上カールしている磁性シートは、表1において「評価不能」と表記した。
【0068】
<飽和磁束密度>
各実施例及び比較例で得られた磁性シートの飽和磁束密度を、振動試料型磁力計(VSM)(東英工業株式会社製「VSM-7P」)を用いて測定した。具体的には、印加磁場(外部磁場)を0kOeから20kOeまで変化させて、外部磁場の変化に対する磁束密度の値からB-H曲線を得た。そして、外部磁場が20kOeの時の磁束密度を求め、この磁束密度を飽和磁束密度(B1)とした。
なお、磁束密度は、磁性シート中の反磁界による影響を防ぐために、磁性シートの条片の長軸方向と外部磁場の方向が一致するように測定した。比較例3の磁性シートに関しては特に方向を指定せずに測定を行った。
【0069】
<外部磁場に対する応答性>
上記で得られたB-H曲線から2kOeのときの初期磁束密度(B0)を求めた。そして、飽和磁束密度(B1)に対する初期磁束密度(B0)の割合(B0/B1×100[%])を算出し、外部磁場に対する応答性を評価した。該割合の数値が大きい程、外部磁場に対する応答性に優れていることを意味する。
【0070】
(実施例1)
<組成物の調製>
液状の非晶性熱可塑性樹脂として常温常圧下で液体のニトリルゴム(NBR)(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol(登録商標) 1312」、比重:1)30部、固体の非晶性熱可塑性樹脂として常温常圧下で固体のニトリルゴム(NBR)(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol(登録商標) 3350、比重:1)70部とを準備し、軟磁性材料としてセンダスト(山陽特殊製鋼製、商品名「Fe 3Si ヘンペイ 合金」、体積平均粒子径:30μm、アスペクト比:1.5、比重:約8)1200部(非晶性熱可塑性樹脂及び軟磁性材料の合計体積(組成物全体)に対して60体積%)を準備した。これらを加圧ニーダー(日本スピンドル社製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合し、組成物を得た。
【0071】
<一次シート成形工程>
次いで、得られた組成物500gを、第一ロール及び第二ロールを用いて、第一ロールと第二ロールとの間隔2mm、ロール温度25℃、シート搬出速度(第一ロールの外周速度)2m/分、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比(第二ロール/第一ロール):1.15/1の条件にて圧延加工(一次加圧)してシート状にした。シートの搬送方向を同一にして、圧延加工を繰り返した。合計で圧延加工を10回行い、厚み2mmの一次シートを得た。
【0072】
<積層体形成工程>
次いで、得られた一次シートを縦50mm×横50mmに裁断し、一次シートの厚み方向に25枚積層し、更に、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向に対してプレス(二次加圧)することにより、高さ約50mmの積層体を得た。
【0073】
<スライス工程>
次いで、二次加圧された積層体の積層面を0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、積層方向に対して0度の角度で(換言すれば、積層された一次シートの主面の法線方向に)スライスすることにより、縦50mm×横50mm×厚み0.50mmの二次シート(磁性シート)を得た。磁性シートは、シートの厚み方向に対して垂直な方向(厚み方向に対する角度が90°の方向)に並列結合された条片により構成されている。この略垂直な方向における条片の幅は、一次シートの厚みとほぼ同じである。
得られた磁性シートについて、上記に従って各種測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。なお、
図1は、磁性シートの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
【0074】
(実施例2)
組成物の調製において、液体のニトリルゴム(NBR)に替えて常温常圧下で液体のポリブテン(日本曹達製、商品名「NISSO-PB B-3000」、比重:0.88)30部を用いたこと、固体のニトリルゴム(NBR)に替えて常温常圧下で固体のスチレンブタジエンゴム(SBR)(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipole1502」、比重:0.94)70部を用いたこと、及びセンダストの量を1200部から1300部(非晶性熱可塑性樹脂及び軟磁性材料の合計体積に対して60体積%)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0075】
(実施例3)
組成物の調製において、非晶性熱可塑性樹脂として固体のニトリルゴム(NBR)100部のみを用いたこと、及びセンダストの量を1200部から1000部(非晶性熱可塑性樹脂及び軟磁性材料の合計体積に対して56体積%)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例4)
組成物の調製において、センダストの量を1300部から700部(非晶性熱可塑性樹脂及び軟磁性材料の合計体積に対して45体積%)に変更したこと以外は、実施例2と同様の操作、測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0077】
(比較例1)
組成物の調製において、非晶性熱可塑性樹脂として、結晶性熱可塑性樹脂である低密度ポリエチレン(融点:113℃、三菱化学社製、「ノバテック(登録商標)LD LF440HB」)100部のみを用いたこと、及びセンダストの量を1200部から400部(低密度ポリエチレン及び軟磁性材料の合計体積に対して33体積%)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。なお、比較例1の磁性シートは平坦性が評価不可であったため、飽和磁束密度及び外部磁場に対する応答性の評価(測定)は実施しなかった。
【0078】
(比較例2)
組成物の調製において、センダストの量を1000部から400部(非晶性熱可塑性樹脂及び軟磁性材料の合計体積に対して33体積%)に変更したこと以外は、実施例3と同様の操作、測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0079】
(比較例3)
一次シート成形工程において、第一ロールと第二ロールとの間隔0.5mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、一次シートを得た。そして、積層体形成工程及びスライス工程を行わずに、得られた一次シート(磁性シート)を用いて、実施例1と同様の測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0080】
【0081】
表1からも明らかなように、実施例の磁性シートは、比較例の磁性シートと比較して、飽和磁束密度が高く、外部磁場に対する応答性に優れ、且つ、平坦性に優れていることが分かる。