IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニ・チャーム株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-吸収性物品 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079361
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/511 20060101AFI20240604BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61F13/511 200
A61F13/15 146
A61F13/511 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192261
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】七海 久孝
(72)【発明者】
【氏名】岩本 牧子
【テーマコード(参考)】
3B200
【Fターム(参考)】
3B200BA02
3B200BB27
3B200DC01
3B200DC02
(57)【要約】
【課題】着用者が、経血中の粘性成分及び血液凝固物の両方による不快感を覚えにくい吸収性物品を提供すること。
【解決手段】吸収コアを備えている、経血を吸収する吸収性物品であって、上記吸収性物品が、上記吸収コアよりも肌側に配置された、繊維を含む布帛から構成された液透過性シートを備えており、上記液透過性シートが、セリンプロテアーゼを含む機能性成分を備えているとともに、上記液透過性シートが上記経血を保持するように構成されていることを特徴とする吸収性物品。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収コアを備えている、経血を吸収する吸収性物品であって、
前記吸収性物品が、前記吸収コアよりも肌側に配置された、繊維を含む布帛から構成された液透過性シートを備えており、
前記液透過性シートが、セリンプロテアーゼを含む機能性成分を備えているとともに、前記液透過性シートが前記経血を保持するように構成されている、
ことを特徴とする、前記吸収性物品。
【請求項2】
前記セリンプロテアーゼが、ナットウキナーゼを含む、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記液透過性シートが、前記液透過性シートの肌側面に、前記機能性成分を備えている、請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記液透過性シートが、前記繊維として、吸水性繊維を含む、請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記液透過性シートが、前記繊維として、前記吸水性繊維を、10~100質量%含む、請求項4に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記液透過性シートが、肌側に配置された肌側面と、非肌側に配置された非肌側面とを備えており、前記肌側面における平均空隙サイズが、前記非肌側面における平均空隙サイズより小さい、請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記肌側面における前記平均空隙サイズが、10~300μmである、請求項6に記載の吸収性物品。
【請求項8】
前記液透過性シートが、肌側に配置された肌側面と、非肌側に配置された非肌側面とを備えており、前記肌側面における前記繊維の平均繊維径が、前記非肌側面における前記繊維の平均繊維径より小さい、請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項9】
前記肌側面における前記平均繊維径が、5~50μmである、請求項8に記載の吸収性物品。
【請求項10】
前記液透過性シートが、肌側に配置された肌側面と、非肌側に配置された非肌側面とを備えており、前記肌側面における親水度が、前記非肌側面における親水度より高い、請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項11】
前記液透過性シートが、肌側に配置された肌側面と、非肌側に配置された非肌側面とを備えており、前記液透過性シートの肌側面における表面繊維密度が、前記液透過性シートの非肌側面における表面繊維密度より高い、請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項12】
前記吸収性物品が、フィブリン残存試験において、20分後における40質量%以下の模擬フィブリン残存率を有する、請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項13】
前記吸収性物品が、ムチン残存試験において、20分後における20質量%以下の模擬ムチン残存率を有する、請求項12に記載の吸収性物品。
【請求項14】
前記吸収性物品において、20分後における模擬ムチン残存率が、20分後における模擬フィブリン残存率よりも低い、請求項13に記載の吸収性物品。
【請求項15】
前記液透過性シートが、肌当接面を備えているトップシート、拡散シート、又はコアラップである、請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
経血を吸収する吸収性物品において、経血の吸収性を向上させる検討が行われている。
例えば、特許文献1には、少なくとも1つの層を含む吸収性パーソナルケア物品であって、前記層は、施された処理剤を有する支持体を含み、前記処理剤は、結合された酵素を含む、前記吸収性パーソナルケア物品が提案されている。
【0003】
特許文献1に係る吸収性パーソナルケア物品では、子宮頸管粘液等の粘性成分、特にムチンを分解させることを目的としている。
上記粘性成分は、吸収性物品のトップシートを透過しにくく、トップシートの肌当接面に残存する傾向があり、着用者に、粘性成分と、皮膚との接触による不快感を与える傾向がある。
【0004】
特許文献1の段落[0004]には、「結合された酵素の使用は、改変されていない酵素と比較して、結合された酵素が使用者の体に移動する場合には皮膚又は粘膜の感作を減少させることができる。更に、結合された酵素は、処理された材料から使用者に移動しそうになく、それによって、結合された酵素を含有する吸収性製品の使用者に対して感作リスクを減少させる」ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007-535361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
経血には、子宮頸管粘液等の粘性成分のみならず、血液凝固物が含まれる。
また、上記血液凝固物は、上記粘性成分と同様に、吸収性物品のトップシートを透過しにくく、トップシートの肌当接面に残存する傾向があり、吸収性物品の交換時に、着用者がレバー状の血液凝固物を視認することによる視覚上の不快感、吸収性物品の交換時にレバー状の血液凝固物が落下等し、衣服等に付着する場合がある等の取扱い上の不快感等があることから、血液凝固物がトップシートの表面に残存しないことが好ましい。
【0007】
特許文献1に開示される吸収性物品では、結合された酵素は、経血内の子宮頸管粘液等の粘性成分、具体的には、ムチンを分解させるものであるものの、血液凝固物を分解させるものではなく、着用者が血液凝固物による上述の不快感を覚える可能性があった。
従って、本開示は、着用者が、経血中の粘性成分及び血液凝固物の両方による不快感を覚えにくい吸収性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示者らは、吸収コアを備えている、経血を吸収する吸収性物品であって、上記吸収性物品が、上記吸収コアよりも肌側に配置された、繊維を含む布帛から構成された液透過性シートを備えており、上記液透過性シートが、セリンプロテアーゼを含む機能性成分を備えているとともに、上記液透過性シートが上記経血を保持するように構成されていることを特徴とする吸収性物品を見出した。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る吸収性物品は、着用者が、経血中の粘性成分及び血液凝固物の両方による不快感を覚えにくい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
具体的には、本開示は以下の態様に関する。
[態様1]
吸収コアを備えている、経血を吸収する吸収性物品であって、
上記吸収性物品が、上記吸収コアよりも肌側に配置された、繊維を含む布帛から構成された液透過性シートを備えており、
上記液透過性シートが、セリンプロテアーゼを含む機能性成分を備えているとともに、上記液透過性シートが上記経血を保持するように構成されている、
ことを特徴とする、上記吸収性物品。
【0012】
上記吸収性物品では、液透過性シートが、セリンプロテアーゼを含む機能性成分を備えている。
本願発明者は、セリンプロテアーゼが、経血中の子宮頸管粘液等の粘性成分及び血液凝固物の両方を低粘度化させることを見いだした。
また、上記吸収性物品では、液透過性シートが、体液を保持するように構成されている。
従って、上記吸収性物品では、液透過性シートが体液を保持している間に、セリンプロテアーゼが上記粘性成分を低粘度化して、吸収体に引き渡すことができるとともに、低粘度化した粘性成分に、セリンプロテアーゼを溶解、分散等させ、セリンプロテアーゼを拡散させることができる。
【0013】
それに伴い、低粘度化された粘性成分等とともに拡散したセリンプロテアーゼが、血液凝固物に接触し、血液凝固物に接触する機会が増え、セリンプロテアーゼが血液凝固物を的確に分解することができる。
以上より、上記吸収性物品では、着用者が、経血に含まれる粘性成分及び血液凝固物による不快感を覚えにくい。
【0014】
[態様2]
上記セリンプロテアーゼが、ナットウキナーゼを含む、態様1に記載の吸収性物品。
上記吸収性物品では、セリンプロテアーゼがナットウキナーゼを含むことから、態様1の効果が高いとともに、着用者の皮膚に対する安全性が高い。
【0015】
[態様3]
上記液透過性シートが、上記液透過性シートの肌側面に、上記機能性成分を備えている、態様1又は2に記載の吸収性物品。
上記吸収性物品では、液透過性シートが、肌側面に機能性成分を備えていることから、態様1の効果が高い。
【0016】
[態様4]
上記液透過性シートが、上記繊維として、吸水性繊維を含む、態様1~3のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【0017】
上記液透過性シートは吸収性繊維を含むことから、吸収性物品に到達した経血を、当該液透過性シートが一時貯留しやすい傾向にある。液透過性シートに含まれるセリンプロテアーゼが、液透過性シートに一時貯留された経血に対して作用し、経血中の粘性成分を低粘度化させ、低粘度化した粘性成分とともに、セリンプロテアーゼを拡散させることができる。それに伴い、拡散されたセリンプロテアーゼが、血液凝固物に接触し、セリンプロテアーゼが血液凝固物を的確に分解することができる。
以上より、上記吸収性物品では、着用者が、経血に含まれる粘性成分及び血液凝固物による不快感を覚えにくい。
【0018】
[態様5]
上記液透過性シートが、上記繊維として、上記吸水性繊維を、10~100質量%含む、態様4に記載の吸収性物品。
上記吸収性成分では、液透過性シートが吸水性繊維を所定量含むことから、セリンプロテアーゼが、経血中の粘性成分を低粘度化させるとともに、血液凝固物を分解することができ、そして低粘度化させた粘性成分及び血液凝固物を吸収体に移行させやすくなる。
【0019】
[態様6]
上記液透過性シートが、肌側に配置された肌側面と、非肌側に配置された非肌側面とを備えており、上記肌側面における平均空隙サイズが、上記非肌側面における平均空隙サイズより小さい、態様1~5のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【0020】
上記吸収性物品では、液透過性シートが所定の空隙のサイズを有することから、液透過性シートの肌側面に到達した経血が、液透過性シートの肌側面に留まりやすくなる。液透過性シートに含まれるセリンプロテアーゼは、液透過性シートに一時貯留された経血に対して作用し、粘性成分を低粘度化させ、低粘度化した粘性成分とともに、セリンプロテアーゼを拡散させることができる。それに伴い、拡散されたセリンプロテアーゼが、血液凝固物に接触し、セリンプロテアーゼが血液凝固物を的確に分解することができる。
以上より、上記吸収性物品では、着用者が、経血に含まれる粘性成分及び血液凝固物による不快感を覚えにくい。
【0021】
[態様7]
上記肌側面における上記平均空隙サイズが、10~300μmである、態様6に記載の吸収性物品。
【0022】
上記吸収性成分では、上記肌側面における平均空隙サイズが所定の範囲にあることから、セリンプロテアーゼが、経血中の粘性成分を低粘度化させるとともに、血液凝固物を分解することができ、そして低粘度化させた粘性成分及び血液凝固物を吸収体に移行させやすくなる。
【0023】
[態様8]
上記液透過性シートが、肌側に配置された肌側面と、非肌側に配置された非肌側面とを備えており、上記肌側面における上記繊維の平均繊維径が、上記非肌側面における上記繊維の平均繊維径より小さい、態様1~7のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【0024】
上記吸収性物品では、液透過性シートが所定の平均繊維径を有することから、液透過性シートの肌側面に到達した経血が、液透過性シートの肌側面に留まりやすくなる。液透過性シートに含まれるセリンプロテアーゼは、液透過性シートに一時貯留された経血に対して作用し、粘性成分を低粘度化させ、低粘度化した粘性成分とともに、セリンプロテアーゼを拡散させることができる。それに伴い、拡散されたセリンプロテアーゼが、血液凝固物に接触し、血液凝固物を的確に分解することができる。
以上より、上記吸収性物品では、着用者が、経血に含まれる粘性成分及び血液凝固物による不快感を覚えにくい。
【0025】
[態様9]
上記肌側面における上記平均繊維径が、5~50μmである、態様8に記載の吸収性物品。
【0026】
上記吸収性成分では、上記肌側面における平均繊維径が所定の範囲にあることから、セリンプロテアーゼが、経血中の粘性成分を低粘度化させるとともに、血液凝固物を分解することができ、そして低粘度化させた粘性成分及び血液凝固物を吸収体に移行させやすくなる。
【0027】
[態様10]
上記液透過性シートが、肌側に配置された肌側面と、非肌側に配置された非肌側面とを備えており、上記肌側面における親水度が、上記非肌側面における親水度より高い、態様1~9のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【0028】
上記吸収性物品では、液透過性シートが所定の親水度を有することから、液透過性シートの肌側面に到達した経血は、液透過性シートの肌側面に留まりやすくなる。液透過性シートに含まれるセリンプロテアーゼは、液透過性シートに一時貯留された経血に対して作用し、粘性成分を低粘度化させ、低粘度化した粘性成分とともに、セリンプロテアーゼを拡散させることができる。それに伴い、拡散されたセリンプロテアーゼが、血液凝固物に接触し、セリンプロテアーゼが血液凝固物を的確に分解することができる。
以上より、上記吸収性物品では、着用者が、経血に含まれる粘性成分及び血液凝固物による不快感を覚えにくい。
【0029】
[態様11]
上記液透過性シートが、肌側に配置された肌側面と、非肌側に配置された非肌側面とを備えており、上記液透過性シートの肌側面における表面繊維密度が、前記液透過性シートの非肌側面における表面繊維密度より高い、態様1~10のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【0030】
上記吸収性物品では、液透過性シートが所定の表面繊維密度を有することから、液透過性シートの肌側面に到達した経血は、液透過性シートの肌側面に留まりやすくなる。液透過性シートに含まれるセリンプロテアーゼは、液透過性シートに一時貯留された経血に対して作用し、粘性成分を低粘度化させ、低粘度化した粘性成分とともに、セリンプロテアーゼを拡散させることができる。それに伴い、拡散されたセリンプロテアーゼが、血液凝固物に接触し、セリンプロテアーゼが血液凝固物を的確に分解することができる。
以上より、上記吸収性物品では、着用者が、経血に含まれる粘性成分及び血液凝固物による不快感を覚えにくい。
【0031】
[態様12]
上記吸収性物品が、フィブリン残存試験において、20分後における40質量%以下の模擬フィブリン残存率を有する、態様1~11のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【0032】
上記吸収性物品は、所定の模擬フィブリン残存率を有する。それにより、上記吸収性物品では、着用者が、経血に含まれる血液凝固物による不快感を覚えにくい。
【0033】
[態様13]
上記吸収性物品が、ムチン残存試験において、20分後における20質量%以下の模擬ムチン残存率を有する、態様1~12のいずれか一項に記載の吸収性物品。
上記吸収性物品は、所定の模擬ムチン残存率を有する。それにより、上記吸収性物品では、着用者が、経血に含まれる粘性成分による不快感を覚えにくい。
【0034】
[態様14]
上記吸収性物品において、20分後における模擬ムチン残存率が、20分後における模擬フィブリン残存率よりも低い、態様12及び13に記載の吸収性物品。
【0035】
上記吸収性物品では、所定の模擬ムチン残存率が、所定の模擬フィブリン残存率よりも低い。従って、上記吸収性物品では、着用者が、経血の粘性成分に由来する不快感を覚えにくいとともに、吸収性物品の交換の際に、血液凝固物による視覚的な不快感を覚えにくい。
【0036】
[態様15]
上記液透過性シートが、肌当接面を備えているトップシート、拡散シート、又はコアラップである、態様1~14のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【0037】
上記吸収性物品では、液透過性シートが、所定の部材から構成されることから、態様1の効果が高い。
【0038】
本開示に係る吸収性物品について、以下、詳細に説明する。
本開示に係る吸収性物品は、吸収コアを備えているとともに、経血を吸収するものであれば、特に制限されず、例えば、生理用ナプキン、生理用ショーツ、パンティーライナー等が挙げられる。
【0039】
上記吸収性物品は、上記吸収コアよりも肌側に配置された、繊維を含む布帛から構成された液透過性シートを備えている。
上記液透過性シートとしては、肌当接面を備えているトップシート、吸収コアを覆うコアラップ(吸収コア及びコアラップを、吸収体と称する場合がある)、拡散シート(例えば、トップシート及び吸収体の間に配置されたセカンドシート)等が挙げられる。
上記液透過性シートとしては、経血により早期に作用する観点から、経血により近い側に配置されたものであることが好ましく、上記トップシート及び拡散シート(セカンドシート)であることがより好ましく、そして上記トップシートであることがさらに好ましい。
【0040】
上記布帛としては、不織布、織物、編物、ティッシュ等が挙げられる。
上記布帛は、一般的には、上記布帛を構成する繊維として、不織布を形成する際に熱融着させることを意図している熱融着性繊維、不織布を形成する際に熱融着させることを意図していない熱可塑性樹脂繊維、後述の吸水性繊維等を含むことができる。
【0041】
上記熱融着性繊維としては、例えば、ポリオレフィン系ポリマー、例えば、ポリエチレン若しくはポリプロピレン;ポリエステル系ポリマー、例えば、テレフタレート系ポリマー、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート,ポリペンチレンテレフタレート;ポリアミド系ポリマー、例えば、ナイロン6若しくはナイロン6,6;アクリル系ポリマー;ポリアクリロニトリル系ポリマー;又はそれらの変性物、あるいはそれらの組み合わせ等から形成された繊維が挙げられる。
【0042】
上記熱可塑性樹脂繊維としては、上述の上記熱融着性繊維として列挙されるものが挙げられる。また、上記布帛が、熱融着性繊維及び熱可塑性樹脂繊維の両方を含む場合には、上記熱可塑性樹脂繊維は、上記熱融着性繊維の表面を構成する樹脂の軟化温度、融点等よりも高い軟化温度、融点等を有することが好ましい。上記熱可塑性樹脂繊維としては、例えば、ポリアミド系ポリマー、ポリエステル系ポリマー等から形成された繊維が挙げられる。
【0043】
なお、後述の通り、上記液透過性シート(を構成する布帛)は、吸水性繊維を100質量%含む場合があるが、その場合には、上記液透過性シート(を構成する布帛)は、上記熱融着性繊維及び熱可塑性樹脂繊維を含まない。
【0044】
上記液透過性シートは、セリンプロテアーゼを含む機能性成分を備えている。
上記セリンプロテアーゼとしては、ナットウキナーゼ(Nattokinase)が挙げられる。
ナットウキナーゼ(Nattokinase)は、高いフィブリン分解能を示すセリンプロテアーゼであり、血液凝固物(例えば、経血)の低粘度化を促進することができ、かつ血液の凝固を抑制することができる。
【0045】
ナットウキナーゼは、フィブリンを分解する能力を有することが知られている酵素(セリンプロテアーゼ)である。ナットウキナーゼは、一般に、納豆に含有され、納豆菌によって産出することができる。ナットウキナーゼは、フィブリンを、主にDD(175kDa)及びLD(110kDa)へと分解しうる。理論によって限定する意図はないが、ナットウキナーゼは、フィブリンを分解するために適した立体構造を有しており、プラスミンと同様の機構によって、フィブリンを分解すると考えられる。ナットウキナーゼは、フィブリンに対する酵素の特異性定数が、プラスミンの約6倍であるという報告がある。このことは、ナットウキナーゼが、プラスミンよりも高いフィブリン分解作用を有することを示している。
【0046】
理論によって限定する意図はないが、ナットウキナーゼは、30~40℃の温度及びpH6~9の条件で、特に高い活性を示す。吸収性物品、特に生理用ナプキンは装着時に体温に起因して35℃前後の温度となり、かつ経血のpHは7前後であるので、ナットウキナーゼは、経血を吸収するための吸収性物品の使用条件下において、特に良好に機能すると考えられる。
【0047】
また、理論によって限定する意図はないが、フィブリノゲンとナットウキナーゼとの結合様式についてのシミュレーション結果によれば、ナットウキナーゼは、その8個のアミノ酸残基(Gly61、Ser63、Thr99、Phe189、Leu209、Tyr217、Asn218、Met222)を介してフィブリノゲンと相互作用し、主にSer221を介してフィブリンの分解を行うと考えられる。ナットウキナーゼの作用機序に関するこのような詳細な知見を利用することによって、吸収性物品における血液凝固の抑制作用と、血液凝固物の低粘度化作用とを、さらに向上させることができると考えられる。
【0048】
ナットウキナーゼは、人体に対する安全性が高い。したがって、機能性物質としてナットウキナーゼを吸収性物品に適用した場合には、安全性に特に優れる。
ナットウキナーゼは、例えば、粉末状の形態で、市販品として入手可能である。例えば、粒形15~35μmのNattokinase(富士フィルム和光純薬社製)が市販されている。
【0049】
本願発明者らは、ナットウキナーゼが、高いフィブリン分解能を示し、血液凝固物(例えば、経血)の低粘度化を促進することができ、かつ血液の凝固を抑制することができるのみならず、経血内の子宮頸管粘液等の粘性成分(例えば、ムチン)を低粘度化させることを見いだした。
【0050】
上記セリンプロテアーゼとしては、プラスミン、DFE27、Subtilisin DFE、及びSubtilisin QK-2が挙げられる。
【0051】
上記プラスミンは、通常、血液(例えば、経血)に存在する。プラスミンは、フィブリンを分解することができる。プラスミンがフィブリンを分解することによって、D-ダイマーと呼ばれる分解産物、及びその他の分解産物が生成される。
DFE27は、一般に、トウチ(Douchi)に含有され、B.subtilis DC27(枯草菌DC27)によって産生することができる。
【0052】
Subtilisin DFE は、一般に、トウチ(Douchi)に含有され、B.amyloliquefaciens DC-4によって産生することができる。
Subtilisin QK-2は、一般に、発酵大豆に含有され、B.subtilis QK02によって産生することができる。
【0053】
上記機能性成分は、上記セリンプロテアーゼとしてのナットウキナーゼを、好ましくは50質量%超、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらにいっそう好ましくは80質量%以上、そしてさらにいっそう好ましくは90質量%以上含む。それにより、着用者の皮膚への安全性を確保しながら、経血中の粘性成分を低粘度化し且つ血液凝固物を分解することができる。なお、機能性成分におけるナットウキナーゼの上限は、100質量%である。
【0054】
上記液透過性シートは、上記機能性成分を、好ましくは0.1g/m2以上、より好ましくは0.5g/m2以上、そしてさらに好ましくは2.0g/m2以上の坪量で備えている。また、上記液透過性シートは、上記機能性成分を、好ましくは80.0g/m2以下、より好ましくは40.0g/m2以下、そしてさらに好ましくは20.0g/m2以下の坪量で備えている。それにより、吸収性物品の吸収性を保持しながら、セリンプロテアーゼが、経血中の粘性成分を低粘度化させるとともに、血液凝固物を分解することができる。
【0055】
上記吸収性物品は、上記機能性成分を、好ましくは0.1g/m2以上、より好ましくは1.0g/m2以上、そしてさらに好ましくは2.0g/m2以上の坪量で備えている。また、上記吸収性物品は、上記機能性成分を、好ましくは400.0g/m2以下、より好ましくは200.0g/m2以下、そしてさらに好ましくは100.0g/m2以下の坪量で備えている。それにより、吸収性物品の吸収性を保持しながら、セリンプロテアーゼが、経血中の粘性成分を低粘度化させるとともに、血液凝固物を分解することができる。
【0056】
上記液透過性シートは、セリンプロテアーゼを含む機能性成分を任意の場所に備えていることができる。上記液透過性シートは、例えば、液透過性シートの肌側面、液透過性シートの非肌側面、液透過性シートの内部に、セリンプロテアーゼを含む機能性成分を備えていることができる。経血に、より早期に作用する観点から、上記液透過性シートは、好ましくは液透過性シートの肌側面及び内部、そしてより好ましくは液透過性シートの肌側面に、セリンプロテアーゼを含む機能性成分を備えている。
【0057】
本開示に係る液透過性シートは、経血を保持するように構成されている。それにより、液透過性シートが体液を保持している間に、セリンプロテアーゼが上記粘性成分を低粘度化して、吸収体に引き込むとともに、低粘度化した粘性成分に、セリンプロテアーゼを溶解、分散等させ、セリンプロテアーゼを拡散することができる。それに伴い、拡散したセリンプロテアーゼが、血液凝固物に接触し、血液凝固物を低粘度化する機会が増え、セリンプロテアーゼが血液凝固物を的確に分解することができる。
【0058】
液透過性シートが経血を保持するように構成されている実施形態としては、特に制限されず、例えば、(i)液透過性シートが、上記繊維として吸水性繊維を含む実施形態、(ii)上記液透過性シートの肌側面における平均空隙サイズが、上記液透過性シートの非肌側面における平均空隙サイズより小さい実施形態、(iii)上記液透過性シートの肌側面における上記繊維の平均繊維径が、上記液透過性シートの非肌側面における上記繊維の平均繊維径より小さい実施形態、(iv)上記液透過性シートの肌側面における親水度が、上記液透過性シートの非肌側面における親水度より高い実施形態、及び(v)上記液透過性シートの肌側面における表面繊維密度が、上記液透過性シートの非肌側面における表面繊維密度より高い実施形態が挙げられる。
なお、肌側面及び非肌側面は、それぞれ、液透過性シートの肌側に配置された肌側面及び液透過性シートの非肌側に配置された非肌側面を意味する。
【0059】
上記(i)に関して、上記液透過性シートは、吸水性繊維を含むことができる。それにより、セリンプロテアーゼが、経血中の粘性成分を低粘度化させるとともに、血液凝固物を分解させやすくなる。
上記液透過性シートは、上記吸水性繊維を、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、そしてさらに好ましくは30質量%以上含む。また、上記液透過性シートは、上記吸水性繊維を、好ましくは100質量%以下、より好ましくは80質量%以下、そしてさらに好ましくは70質量%以下含む。それにより、セリンプロテアーゼが、経血中の粘性成分を低粘度化させるとともに、血液凝固物を分解することができ、そして低粘度化された粘性成分及び血液凝固物を吸収体に移行させやすくなる。
なお、上記液透過性シートが上記吸水性繊維を100質量%含む場合には、上述の熱融着性繊維を含まない。
【0060】
上記吸水性繊維としては、セルロース系繊維、例えば、天然セルロース繊維、再生セルロース繊維、精製セルロース繊維及び半合成セルロース繊維が挙げられる。
上記天然セルロース繊維としては、植物繊維、例えば、パルプ繊維、種子毛繊維(例えば、コットン繊維)、じん皮繊維(例えば、麻)、葉脈繊維(例えば、マニラ麻)、果実繊維(例えば、やし)が挙げられる。
【0061】
上記パルプ繊維としては、当技術分野で、パルプ繊維として公知のものが含まれ、例えば、木材パルプ繊維及び非木材パルプ繊維が挙げられる。上記木材パルプ繊維としては、例えば、針葉樹パルプ繊維及び広葉樹パルプ繊維が挙げられる。上記非木材パルプ繊維としては、例えば、ワラパルプ繊維、バガスパルプ繊維、ヨシパルプ繊維、ケナフパルプ繊維、クワパルプ繊維、竹パルプ繊維、麻パルプ繊維、綿パルプ繊維(例えば、コットンリンター繊維)等が挙げられる。
【0062】
上記コットン繊維としては、ヒルスツム種コットン繊維(例えば、アップランドコットン)、バルバデンセ種コットン繊維、アルボレウム種コットン繊維及びヘルバケウム種コットン繊維が挙げられる。
また、上記コットン繊維は、オーガニックコットン繊維、プレオーガニックコットン(商標)繊維であることができる。
オーガニックコットン繊維は、GOTS(Global Organic Textile Standard)による認証を受けたコットンを意味する。
【0063】
上記再生セルロース繊維としては、レーヨン、例えば、ビスコースから得られるビスコースレーヨン、ポリノジック及びモダール、セルロースの銅アンモニア塩溶液から得られる銅アンモニアレーヨン(「キュプラ」とも称される)等の繊維が挙げられる。
【0064】
上記精製セルロース繊維としては、リヨセル、具体的には、パルプを、N-メチルモルホリンN-オキシドの水溶液に溶解させて紡糸原液(ドープ)とし、N-メチルモルホリンN-オキシドの希薄溶液中に押出して繊維としたものが挙げられる。上記精製セルロースは、例えば、テンセル(商標)として市販されている。
上記半合成繊維としては、半合成セルロース、例えば、アセテート繊維、例えば、トリアセテート及びジアセテート等の繊維が挙げられる。
【0065】
上記液透過性シートは、上記吸水性繊維を任意の場所に備えていることができる。上記液透過性シートは、例えば、液透過性シートの肌側面、液透過性シートの非肌側面、液透過性シートの内部に、上記吸水性繊維を備えていることができる。経血に、より早期に作用する観点から、上記液透過性シートは、好ましくは液透過性シートの肌側面及び内部、そしてより好ましくは液透過性シートの肌側面に、上記吸水性繊維を備えている。
【0066】
上記液透過性シートは、上記液透過性シートの肌側面における吸水性繊維の比率が、上記液透過性シートの非肌側面における吸水性繊維の比率よりも高くともよい。それにより、セリンプロテアーゼが、経血中の粘性成分を低粘度化させるとともに、血液凝固物を分解させやすくなる。
なお、上記液透過性シートの肌側面における吸水性繊維の比率と、上記液透過性シートの非肌側面における吸水性繊維の比率との大小は、必要に応じて、吸水性繊維を着色等して、目視、顕微鏡等により確認することができる。
【0067】
上記(ii)に関して、上記液透過性シートの肌側面における平均空隙サイズが、上記液透過性シートの非肌側面における平均空隙サイズより小さいことが好ましい。それにより、セリンプロテアーゼが、経血中の粘性成分を低粘度化させるとともに、血液凝固物を分解させやすくなる。
【0068】
また、当該観点から、上記液透過性シートの肌側面における平均空隙サイズは、上記液透過性シートの非肌側面における平均空隙サイズよりも、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、そしてさらに好ましくは30μm以上小さい平均空隙サイズ差を有する。
なお、上記平均空隙サイズ差の上限は、液透過性シートの構造上、1000μm程度である。
【0069】
上記液透過性シートの肌側面における平均空隙サイズは、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、そしてさらに好ましくは60μm以上である。また、上記液透過性シートの肌側面における平均空隙サイズは、好ましくは300μm以下、より好ましくは270μm以下、そしてさらに好ましくは250μm以下である。それにより、セリンプロテアーゼが、経血中の粘性成分を低粘度化させるとともに、血液凝固物を分解することができ、そして低粘度化された粘性成分及び血液凝固物を吸収体に移行させやすくなる。
【0070】
本開示では、液透過性シートの肌側面及び非肌側面の平均空隙サイズは、以下の通り測定される。
(1)高分解能3DX線顕微鏡 nano3DX(リガク製)を準備する。
(2)液透過性シートのサンプルを準備し、nano3DXを用いて、サンプルの繊維立体像を測定する。
測定条件は、以下の通りである。
・X線源:Cu
・管電圧-管電流:40kV-30mA
・検出器:sCMOSカメラ(レンズ:1080)
・解像度:2.51μm/voxel
【0071】
(3)nano3DXに付属のソフトを用いて、液透過性シートのサンプルの肌側面及び非肌側面のそれぞれにおける平均空隙サイズ(μm)を算出する。具体的には、以下の通りである。
(3-1)サンプルから、2,571μm×2,571μm×T(製造時の搬送方向×搬送方向と直交する直交方向×液透過性シートのサンプルの厚さ)の領域における繊維立体像を作成する。
【0072】
(3-2)上記繊維立体像を、上記厚さ方向に3等分する。具体的には、肌側面から2,571μm×2,571μm×(T/3)(製造時の搬送方向×搬送方向と直交する直交方向×肌側面から厚さTの1/3)における肌側領域と、非肌側面から2,571μm×2,571μm×(T/3)(製造時の搬送方向×搬送方向と直交する直交方向×非肌側面から厚さTの1/3)における非肌側領域とに分割する。
【0073】
(3-3)nano3DXに付属のソフトを用いて測定される、肌側領域における平均空隙サイズを肌側面における平均空隙サイズとし、非肌側領域における平均空隙サイズを、非肌側面における平均空隙サイズとする。
なお、液透過性シートの肌側面及び非肌側面の平均空隙サイズの大小であれば、液透過性シートを顕微鏡等を用いて観察する、nano3DXを用いたサンプルの繊維立体像を目視で観察する等により判断することができる。
【0074】
上記(iii)に関連して、上記液透過性シートの肌側面における繊維の平均繊維径が、上記液透過性シートの非肌側面における繊維の平均繊維径より小さいことが好ましい。それにより、セリンプロテアーゼが、経血中の粘性成分を低粘度化させるとともに、血液凝固物を分解させやすくなる。
上記液透過性シートの肌側面における繊維の平均繊維径は、上記液透過性シートの非肌側面における繊維の平均繊維径よりも、好ましくは5.0μm以上、より好ましくは7.0μm以上、そしてさらに好ましくは10.0μm以上小さい平均繊維径差を有する。
なお、上記平均繊維径差の上限は、液透過性シートの構造上、50.0μm程度である。
【0075】
上記液透過性シートでは、肌側面における平均繊維径が、好ましくは5.0μm以上、より好ましくは8.0μm以上、そしてより好ましくは10.0μm以上である。また、上記液透過性シートでは、肌側面における平均繊維径が、好ましくは50.0μm以下、より好ましくは40.0μm以下、そしてより好ましくは30.0μm以下である。それにより、液透過性シートの肌側面に高粘度の経血を保持し、低粘度化することができるとともに、低粘度化した経血を吸収体に移行しやすくなる。
【0076】
本開示では、上記平均繊維径は以下の通り測定される。
(1)走査型電子顕微鏡(KEYENCE社製,VE-7800)を準備する。
(2)液透過性シートの任意の場所から、縦×横=5mm×5mmのサンプルを10個切り出す。
(3)走査型電子顕微鏡を用いて、倍率500倍でサンプルの肌側面の写真を計10枚(1試料1枚)撮影する。
【0077】
(4)計10枚の写真のそれぞれにおいて、所定本数(例えば、10本)の繊維の繊維径を測定する。
(5)計10枚の写真の所定本数の繊維径の和を、計10枚の写真の所定本数の和で除した値を、肌側面における平均繊維径とする。
(6)肌側面と同様にして、非肌画面における平均繊維径を求める。
【0078】
上記(iv)に関連して、上記液透過性シートの肌側面における親水度が、上記液透過性シートの非肌側面における親水度より高いことが好ましい。それにより、セリンプロテアーゼが、経血中の粘性成分を低粘度化させるとともに、血液凝固物を分解させやすくなる。
【0079】
本開示では、上記親水度の高低は、以下の通り測定される。
(1)液透過性シートから10cm×10cmのサンプルを切り出す。
(2)上記サンプルを、肌側面を上にして、12cm×12cmのサイズにカットした10枚のろ紙の上に置き、ビュレットを、サンプルの肌側面から1cmの高さに滴下口が配置されるようにセットする。
(3)ビュレットから、生理食塩水の液滴1滴(約0.05mL)を、サンプル上に滴下し、上記液滴が滴下されてから消失するまでの消失時間を計測する。
【0080】
(4)(3)のビュレット滴下試験を、別の場所にて計50箇所繰り返し、消失時間が3秒未満の個数:mを算出し、m/50を肌側面の評点とする。
(5)新たなサンプルを、非肌側面を上にして、12cm×12cmのサイズにカットした10枚のろ紙の上に置き、ビュレットを、サンプルの肌側面から1cmの高さに滴下口が配置されるようにセットして、上記(3)及び(4)を実施し、消失時間が3秒未満の個数:nを算出し、n/50を非肌側面の評点とする。
(6)評点の高い方の面(肌側面及び非肌側面)を親水度が高いと判断する。
なお、上記試験は、20℃の恒温室中で実施する。
【0081】
本開示に係る吸収性物品は、フィブリン残存試験において、20分後において、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、そしてさらに好ましくは30質量%以下の模擬フィブリン残存率を有する。それにより、着用者が、経血に含まれる血液凝固物による不快感を覚えにくくなる。
【0082】
本開示では、フィブリン残存試験は、以下の通り実施される。
(1)機能性成分を備えている液透過性シートと、機能性成分を備えていない液透過性シートとを準備する。機能性成分を備えている液透過性シートは、必要に応じて、ドライヤー、コールドスプレー等を用いて吸収性物品から液透過性シートを剥離することにより準備する。また、機能性成分を備えていない液透過性シートは、機能性成分を備えている液透過性シートから、機能性成分を洗浄等により除去し、機能性成分を除去した液透過性シートを乾燥させることにより準備する。
【0083】
(2)模擬フィブリン経血の準備
35℃で保管した、フィブリノゲン(Fibrinogen,富士フィルム和光純薬社製)の生理食塩水溶液(10mg/mL)1.0質量部と、トロンビン(Thrombin、富士フィルム和光純薬社製)の生理食塩水溶液(333units/mL)0.1質量部とを2秒間混合し、35℃で1時間静置することにより、模擬フィブリン経血を準備する。
【0084】
(3)35℃に保持した、50枚重ねたろ紙(ADVANTEC No2,100mm×100mm)の上に、35℃に保持した機能性成分を備えている液透過性シートを肌側面を上にして積層する。液透過性シートの肌側面の中央に、模擬フィブリン経血1.1gを載せ、35℃で所定時間:t(分)保持する。
(4)所定時間:t(分)保持した、機能性成分を備えている液透過性シートの肌側面に残存する模擬フィブリン経血を掻き取り、その質量:m11(g)を測定する。
【0085】
(5)35℃に保持した、50枚重ねたろ紙(ADVANTEC No2,100mm×100mm)の上に、35℃に保持した、機能性成分を備えていない液透過性シートを肌側面を上にして積層する。液透過性シートの肌側面の中央に、模擬フィブリン経血1.1gを載せ、35℃で所定時間:t(分)保持する。
(6)所定時間:t(分)保持した、機能性成分を備えてない液透過性シートの肌側面に残存する模擬フィブリン経血を掻き取り、その質量:m12(g)を測定する。
【0086】
(7)模擬フィブリン残存率:r1(質量%)を、次の式
1(質量%)=100×m11/m12
により算出する。
(8)模擬フィブリン残存率:r1(質量%)を、異なる液透過性シートで計5回測定し、その平均値を、模擬フィブリン残存率:R1(質量%)とする。
(9)異なる所定時間:t1(分)、t2(分)等にて模擬フィブリン残存率:R1(質量%)を測定する場合には、新たな液透過性シートを用いて測定する。
【0087】
本開示に係る吸収性物品は、ムチン残存試験において、20分後において、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、そしてさらに好ましくは5質量%以下の模擬ムチン残存率を有する。それにより、着用者が、経血に含まれる粘性成分による不快感を覚えにくくなる。
【0088】
本開示では、ムチン残存試験は、以下の通り実施される。
(1)上述のフィブリン残存試験と同様にして、機能性成分を備えている液透過性シートと、機能性成分を備えていない液透過性シートとを準備する。
(2)模擬ムチン経血の準備
生卵から卵白部分を採取し、金網(線径:0.47mm,メッシュ:10,ピッチ:2.07mm)の上に載せ、金網を5回回転させ、卵白のうち、低粘度のものを除外する。
金網上に残存する卵白の粘弾性を以下の測定条件にて測定し、粘弾性が以下の範囲にあることを確認した上で、模擬ムチン経血とし、模擬ムチン経血を35℃で保持する。なお、上記卵白のうち、粘弾性を測定した部分は、模擬ムチン経血として用いない。
【0089】
[測定条件]
-レオメータ:モジュラーコンパクトレオメータMCR102e(アントンパール社製)
-測定温度:35℃
-コーンプレート直径:50mm
-コーン角度:α=0.5°
[粘弾性の範囲]
-貯蔵弾性率G’:800~2,200mPa
-損失弾性率G’’:100~500mPa
-複素粘度η*:150~350mPa・s
【0090】
(3)35℃に保持した、50枚重ねたろ紙(ADVANTEC No2,100mm×100mm)の上に、35℃に保持した機能性成分を備えている液透過性シートを肌側面を上にして積層する。先端が直径4mmのスポイトに、模擬ムチン経血1.0gを充填し、液透過性シートの肌側面の中央に、模擬ムチン経血1.0gを滴下し、35℃で所定時間:t(分)保持する。
(4)所定時間:t(分)保持した、機能性成分を備えている液透過性シートの肌側面に残存する模擬ムチン経血を掻き取り、その質量:m21(g)を測定する。
【0091】
(5)35℃に保持した、50枚重ねたろ紙(ADVANTEC No2,100mm×100mm)の上に、35℃に保持した、機能性成分を備えていない液透過性シートを肌側面を上にして積層する。先端が直径4mmのスポイトに、模擬ムチン経血1.0gを充填し、液透過性シートの肌側面の中央に、模擬ムチン経血1.0gを滴下し、35℃で所定時間:t(分)保持する。
(6)所定時間:t(分)保持した、機能性成分を備えてない液透過性シートの肌側面に残存する模擬ムチン経血を掻き取り、その質量:m22(g)を測定する。
【0092】
(7)模擬ムチン残存率:r2(質量%)を、次の式
2(質量%)=100×m21/m22
により算出する。
(8)模擬ムチン残存率:r2(質量%)を、異なる液透過性シートで計5回測定し、その平均値を、模擬ムチン残存率:R2(質量%)とする。
(9)異なる所定時間:t1(分)、t2(分)等にて模擬ムチン残存率:R2(質量%)を測定する場合には、新たな液透過性シートを用いて測定する。
【0093】
上記吸収性物品では、20分後における模擬ムチン残存率が、20分後における模擬フィブリン残存率よりも低いことが好ましい。それにより、着用者が、経血の粘性成分に由来する不快感を覚えにくくなるとともに、吸収性物品の交換の際に、血液凝固物による視覚的な不快感を覚えにくくなる。
【0094】
上記(v)に関連して、上記液透過性シートの肌側面における表面繊維密度が、上記液透過性シートの非肌側面における表面繊維密度より高いことが好ましい。それにより、液透過性シートの肌側面に到達した経血が、液透過性シートの肌側面に留まりやすくなる。液透過性シートに含まれるセリンプロテアーゼは、液透過性シートに一時貯留された経血に対して作用し、粘性成分を低粘度化させ、低粘度化した粘性成分とともに、セリンプロテアーゼを拡散させることができる。それに伴い、拡散されたセリンプロテアーゼが、血液凝固物に接触し、セリンプロテアーゼが血液凝固物を的確に分解することができる。
以上より、上記吸収性物品では、着用者が、経血に含まれる粘性成分及び血液凝固物による不快感を覚えにくくなる。
【0095】
上記観点から、上記液透過性シートの肌側面における表面繊維密度が、上記液透過性シートの非肌側面における表面繊維密度よりも、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上、そしてさらにいっそう好ましくは2.0倍以上大きい。
なお、液透過性シートの構造上、上記液透過性シートの肌側面における表面繊維密度は、上記液透過性シートの非肌側面における表面繊維密度よりも、3.0倍以下大きい。
【0096】
本開示において、表面繊維密度は、以下の通り測定される。
(1)株式会社日立ハイテク製の走査電子顕微鏡,Flex SEM 1000を準備する。
(2)対象物(液透過性シート)を、液体窒素で冷却し、カッターで、20mm×10mm(製造時の搬送方向×搬送方向と直交する直交方向)程度のサイズにカットし、サンプルを作成する。
(3)搬送方向に延びるサンプルの断面を、日本電子製の真空蒸着装置,Twin Coater JEC-550を用いて金蒸着して、蒸着面を形成する。
【0097】
(4)サンプルの蒸着面が観察できるようにサンプルを電子顕微鏡にセットし、蒸着面の肌側面近傍を倍率200倍で観察し、635μm×445μm(搬送方向×サンプルの厚さ方向)の範囲内に観察される繊維の断面の数(繊維本数)を数え、1mm2当たりの本数に換算する。
測定を、異なるサンプルで計5回繰り返し、それらの平均値を、肌側面における表面繊維密度(本/mm2)として採用する。
【0098】
(5)蒸着面の非肌側面近傍を倍率200倍で観察し、635μm×445μm(搬送方向×サンプルの厚さ方向)の範囲内に観察される繊維の断面の数(繊維本数)を数え、1mm2当たりの本数に換算する。
測定を、異なるサンプルで計5回繰り返し、それらの平均値を、非肌側面における表面繊維密度(本/mm2)として採用する。
【0099】
上記機能性成分は、セリンプロテアーゼを含む機能性成分と、その他の成分とを含む、機能性組成物として、液透過性シートに配置されることができる。
上記その他の成分として、血液の凝固に働く因子を阻害する機能を有する機能性物質が挙げられる。
【0100】
上記血液の凝固に働く因子としては、例えば、フィブリン(特には、フィブリンモノマー、フィブリンポリマー及び/又は安定化フィブリン)、血液凝固因子、血小板、及び血小板の凝集促進物質が挙げられる。血液凝固因子としては、特に、トロンビン、活性化第II因子、活性化第VII因子、活性化第IX因子、活性化第X因子、及び活性化第XIII因子が挙げられる。また、血小板の凝集促進物質としては、特に、TXA2及びcAMPが挙げられる。
【0101】
上記血液の凝固に働く因子を阻害する機能を有する機能性物質としては、フィブリン分解能を有する酵素、抗血小板作用を有する物質(特には化合物)、プラスミンの活性化を促進させる因子、及び凝固阻害剤が挙げられる。
【0102】
上記フィブリン分解能を有する酵素及びプラスミンの活性化を促進させる因子は、主に、血液凝固物の低粘度化を促進する作用を有する。また、抗血小板作用を有する物質及び凝固阻害剤は、主に、血液の凝固を抑制する機能を有する。
【0103】
上記フィブリン分解能を有する酵素は、プロテアーゼであってよく、特に、システインプロテアーゼであってよい。フィブリン分解能を有する酵素は、特には、フィブリンポリマー及び/又は安定化フィブリンを切断することができる。
また、上記フィブリン分解能を有する酵素として、Subtilisin QK-2、ブロメライン、及びセラペプターゼが挙げられる。
【0104】
(Subtilisin QK-2)
Subtilisin QK-2は、フィブリンを分解する能力を有する酵素(セリンプロテアーゼ)である。Subtilisin QK-2は、一般に、発酵大豆に含有され、B.subtilis QK02によって産生することができる。
(ブロメライン)
ブロメラインは、フィブリンを分解する能力を有する酵素(システインプロテアーゼ)である。プロメラインは、パイナップルの果実等に含まれる。
(セラペプターゼ)
セラペプターゼは、フィブリンを分解する能力を有する酵素である。セラペプターゼは、一般に、カイコに含有され、非病原性細菌セラチアE15によって産生することができる。
【0105】
理論によって限定する意図はないが、血液中では、一連の分子を含む血液凝固因子が働くことによって、フィブリノゲンからのフィブリンモノマーの生成、フィブリンモノマーのポリマー化、及びフィブリンの架橋(安定化)が進行し、血液が凝固する。フィブリンポリマー、及び安定化フィブリンは、網目状(メッシュ状)の構造を形成し、この構造で赤血球、血小板等を凝集させて、血液を凝固させる。フィブリン分解能を有する酵素は、特に、フィブリンポリマー及び安定化フィブリンを分解することによって血液の凝固を抑制することができ、また、網目状の構造を形成したフィブリンポリマー及び安定化フィブリンを分解することによって、血液凝固物の低粘度化を促進することができる。
【0106】
上記機能性組成物は、フィブリン分解能を有する酵素、例えば、ナットウキナーゼのフィブリン分解能(線溶能力)を向上させることができる補助成分をさらに含むことができる。
上記補助成分としては、炭素数12~18の脂肪酸、野菜粉砕物、EPA、DHA、香辛料、亜鉛イオン(Zn2+)、マンガンイオン(Mn2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、カリウムイオン(K+)が挙げられる。
【0107】
炭素数12~18の脂肪酸は、特に、ナットウキナーゼの線溶能力を向上させることができる。炭素数12~18の脂肪酸は、ナットウキナーゼに対して、4~12mg/2000FUの配合比で用いることが好ましい。
【0108】
野菜粉砕物、EPA、及びDHAは、特に、ナットウキナーゼの線溶能力を向上させることができる。野菜粉砕物としては、例えば、玉ねぎ粉末が挙げられる。
香辛料は、特に、ナットウキナーゼの線溶能力を向上させることができる。香辛料として、(特には粉末状の)唐辛子が挙げられる。
【0109】
亜鉛イオン(Zn2+)は、特に、ナットウキナーゼの線溶能力を向上させることができる。また、マンガンイオン(Mn2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、及びカリウムイオン(K+)は、特に、ドウチ由来のプロテアーゼの線溶能力を向上させることができる。
【0110】
上記機能性組成物は、プラスミンの活性化を促進させる因子を含むこともできる。通常、経血中にはプラスミンが存在しており、フィブリンを分解することができるので、プラスミンの活性化を促進させる因子を用いることによって、高粘性経血の低粘度化を促進することができる。プラスミンの活性化を促進させる因子としては、溶解阻害因子PAI-1の活性を阻害する作用を有する因子が挙げられる。溶解阻害因子PAI-1の活性を阻害する作用を有する因子としては、上記ナットウキナーゼが挙げられる。また、ブロメライン及びDFE27も、プラスミノーゲンからプラスミンへの変化を促進する作用を有する。
【0111】
溶解促進因子t-PAが活性化すると、プラスミノーゲンからプラスミンが生成される。t-PAは、溶解阻害因子PAI-1と結合することによって、不活性化する。理論によって限定する意図はないが、溶解阻害因子PAI-1の活性を阻害することによって、t-PAの不活性化が抑制されるので、t-PAによるプラスミノーゲンからのプラスミンの生成が促進されると考えられる。なお、プラスミンは、生体内でプラスミンインヒビター(antiplasmin)と結合して不活性化する。
【0112】
上記抗血小板作用を有する化合物としては、ブロメライン、アセチルサリチル酸(アスピリン(商標)、バファリン(登録商標)等)、PGI2誘導体ベラプロスト、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、(例えば、ニトログリセリン等の)NO関連製剤が挙げられる。その他、抗血小板作用を有する化合物として、クロピドグレル硫酸塩、プラスグレル塩酸塩、チクロピジン塩酸塩、チカグレロル、シロスタゾール、サルポグレラート塩酸塩を挙げることもできる。
【0113】
一般に、血液内皮の破損又はコラーゲンとの接触等の要因によって、血液中で血小板が活性化すると、血小板の凝集が起こる。血小板の凝集は、可逆反応である。抗血小板作用を有する化合物を用いることによって、血液の凝固を抑制することができると考えられる。
【0114】
理論によって限定する意図はないが、アセチルサリチル酸は、血小板の凝集促進物質であるTXA2の産生に働くシクロオキシゲナーゼ(COX)を不可逆的に失活させる作用を有しており、これによって、抗血小板作用を示すと考えられる。
【0115】
また、理論によって限定する意図はないが、PGI2誘導体ベラプロストは、血小板の凝集を抑制する物質であるPGI2の合成を増加させることによって、血小板の凝集を抑制すると考えられる。
【0116】
また、理論によって限定する意図はないが、EPA及び/又はDHAによって、血小板から血小板凝集作用を有しないTXA3が生成し、結果として、血小板の凝集を抑制すると考えられる。
【0117】
フィブリン分解能を有する酵素(特にはナットウキナーゼ)によるフィブリン分解産物も、血小板凝集抑制作用を有する。ナットウキナーゼによるフィブリン分解産物としては、DD(175kDa)及びLD(110kDa)が挙げられる。
【0118】
機能性物質(A)は、フィブリン生成阻害作用を有する凝固阻害剤を含むこともできる。上記凝固阻害剤としては、ブロメライン、EDTA、ヘパリン、クエン酸ナトリウム、ワルファリン、及びフッ化ナトリウムが挙げられる。
【0119】
理論によって限定する意図はないが、血液では、血液凝固因子によって凝固が進行する。例えば、血液凝固因子のうち、トロンビンは、フィブリノゲンからフィブリンモノマーを生成する。また、血液凝固因子のうち、活性化第XIII因子は、フィブリンポリマーの分子間を架橋することによって、フィブリンから構成される構造体を安定化させ、安定化フィブリンを生成する。
【0120】
凝固阻害剤は、血液凝固因子の作用を阻害することによって、血液の凝固を阻害することができる。
【0121】
理論によって限定する意図はないが、例えば、ブロメラインは、プロトロンビン時間(PT)及び活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の著しい延長をもたらすことによって、フィブリノゲンからフィブリンへの変換を抑制すると考えられる。
【0122】
また、理論によって限定する意図はないが、例えば、EDTAは、トロンビンの活性に必要なカルシウムイオンをキレートすることによって、フィブリン生成に必要なトロンビンの活性化を阻害すると考えられる。クエン酸ナトリウムも、同様の機序で働くと考えられる。
【0123】
また、理論によって限定する意図はないが、例えば、ワルファリンは、血液凝固因子でありトロンビンの活性化に働く第II因子、第VII因子、第IX因子、及び第X因子が作用するために必要なビタミンKを阻害することによって、フィブリンの生成に必要なトロンビンの活性化を抑制すると考えられる。
【0124】
また、理論によって限定する意図はないが、例えば、ヘパリンは、トロンビンを阻害するアンチトロンビンの作用を高めることによって、フィブリンの生成に必要なトロンビンの活性化を抑制すると考えられる。
【0125】
ナットウキナーゼ及びセラペプターゼも、フィブリン生成阻害作用を有する。理論によって限定する意図はないが、血液中に存在するナットウキナーゼは、フィブリン同士を架橋する活性化第XIII因子の減少、及び/又は、フィブリン生成に必要なトロンビン活性の阻害等を通じて、フィブリン阻害作用を発揮すると考えられる。
【0126】
(コーティング)
液透過性シートに適用された機能性成分にコーティング処理を行うことができる。この場合には、機能性成分の機能を、より良好に保持(維持)することができることがある。また、このようなコーティング処理によって、機能性成分の挙動、性質、形状などを調節することができ、その結果として、上記機能の維持のほか、徐放性、吸湿阻害性、劣化防止、べたつき防止などの効果が得られることがある。コーティングとしては、油脂コーティング及びセラミックコーティングが挙げられる。
【0127】
(固定化)
機能性成分の固定化を促進する物質によって、機能性成分を液透過性シートに固定し、それによって、機能性成分の活性をさらに向上させることもできる。このような固定化を促進する物質としては、例えば、両親媒性分子が挙げられる。
【0128】
上記機能性成分又は機能性組成物は、液透過性シートに、特に制限されず、例えば、粒子状、フィルム状、含浸状、ストライプ状等で配置されうる。上記機能性組成物は、例えば、繊維に粒子状に配置される、繊維を被覆するように配置される、繊維に含浸されるように配置される、液透過性シート上にフィルム状に配置される、液透過性シート上にストライプ状に配置されることができる。
【0129】
本開示において、機能性成分又は機能性組成物は、他の成分、例えば、ポリマーに結合されていないことが好ましい。それにより、機能性成分が、効果的にその機能を発揮することができる。
なお、機能性成分又は機能性組成物が他の成分に結合されていないことは、機能性成分又は機能性組成物が、他の成分に共有結合又はイオン結合によって化学的に結合されていないことを意味する。なお、機能性成分又は機能性組成物が他の成分に結合されていないことには、機能性成分又は機能性組成物が、他の成分と水素結合していることは含まれない。
【実施例0130】
[製造例1]
機能性成分としてのナットウキナーゼ(富士フィルム和光純薬社製)と、生理食塩水とを、ナットウキナーゼ1.0質量部及び生理食塩水2.7質量部の比率で混合し、機能性成分溶液No.1を得た。
【0131】
[製造例2]
芯鞘複合繊維(芯:ポリエステル,鞘:ポリエチレン,平均繊維径:25μm)からなるウェブNo.1(坪量:15g/m2)と、ウェブNo.1と同一の芯鞘複合繊維からなるウェブNo.2(坪量:15g/m2)とを積層し、積層ウェブNo.1を形成した。なお、ウェブNo.1は、ウェブNo.2よりも厚さが薄く、ウェブNo.2よりも繊維密度が高いものであった。
【0132】
当技術分野で公知のエアスルー不織布の製造方法に従って、積層ウェブNo.1から、エアスルー不織布No.0(坪量:30g/m2)を形成した。
本願明細書に記載の方法によりエアスルー不織布No.0の第1面及び第2面における平均空隙サイズを測定したところ、エアスルー不織布No.0の第1面における平均空隙サイズは、第2面における平均空隙サイズよりも小さいものであった。
【0133】
[製造例3]
エアスルー不織布No.0を、8cm×5cmのサイズにカットし、エアスルー不織布の長手方向中心及び幅方向中心(以下、「不織布中心」と称する)を中心として、第1面の5cm×3cm(長手方向×幅方向)の領域に、ナットウキナーゼの坪量が10g/m2となるように、機能性成分溶液No.1を均一に噴霧した。
機能性成分溶液No.1を噴霧したエアスルー不織布No.0を、30℃で120分間静置して乾燥させて、エアスルー不織布No.1を形成した。
【0134】
[製造例4]
エアスルー不織布No.0を、8cm×5cmのサイズにカットしたもの(機能性成分溶液No.1を噴霧していないもの)を、エアスルー不織布No.2とした。
【0135】
[実施例1]
本明細書に記載の方法に従って、エアスルー不織布No.1及びNo.2を用いて、エアスルー不織布No.1における模擬フィブリン残存率:R1(質量%)及び模擬ムチン残存率:R2(質量%)を経時:時間(分)で追跡した。結果を表1及び図1に示す。
【0136】
【表1】
【0137】
表1及び図1より、セリンプロテアーゼ、特に、ナットウキナーゼは、平均空隙サイズを調整したエアスルー不織布上で、模擬フィブリン経血のみならず、模擬ムチン経血を分解することが分かる。
【0138】
[実施例2]
生理用ナプキン(ユニ・チャーム社製,ボディフィット レギュラー)のトップシートを剥離し、剥離したトップシートと同一サイズのエアスルー不織布No.1(第1面の5cm×3cm(長手方向×幅方向)の領域に機能性成分溶液No.1を均一に噴霧し、乾燥したもの)を、その第1面が肌側面(肌当接面)となるように生理用ナプキンのトップシートとして貼り付け、生理用ナプキンNo.1を形成した。
生理用ナプキンNo.1と、市販の生理用ナプキン(ユニ・チャーム社製,ボディフィット レギュラー)とを、複数の生理中のボランティアの被験者に着用してもらったところ、生理用ナプキンNo.1は、市販の生理用ナプキンと比較して、子宮頸管粘液等の粘性成分と、血液凝固物とが残存しにくかったとの回答を得た。
図1