(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079374
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】履帯式走行体及び走行装置
(51)【国際特許分類】
B62D 55/14 20060101AFI20240604BHJP
B62D 55/06 20060101ALI20240604BHJP
B62D 55/30 20060101ALI20240604BHJP
B62D 55/125 20060101ALI20240604BHJP
B60K 7/00 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
B62D55/14 Z
B62D55/06
B62D55/30 B
B62D55/125
B60K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192283
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 泰史
(72)【発明者】
【氏名】岡本 寛
【テーマコード(参考)】
3D235
【Fターム(参考)】
3D235AA11
3D235AA24
3D235BB26
3D235CC42
3D235GA03
3D235GA13
3D235GA59
3D235GB37
3D235HH44
(57)【要約】
【課題】履帯式走行体の走行時のエネルギ効率を改善する。
【解決手段】履帯式走行体10は、ゴム製の履帯11と、履帯11に駆動力を与える駆動輪13と、駆動輪13の下方に配置された二つの転輪15a、15bと、駆動輪13と転輪15a、15bに掛け回された履帯11に駆動輪13を押し当てることによって履帯11にテンションを与えるテンショナ25と、を備える。転輪15a、15bとして使用する車輪(円板部材152、153)のうち少なくとも履帯11に接触する外周部分が樹脂製である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材料で形成される履帯と、
前記履帯に駆動力を与える駆動輪と、
前記駆動輪の下方に配置された少なくとも二つの転輪と、
前記駆動輪と前記転輪に掛け回された前記履帯に前記駆動輪を押し当てることによって前記履帯にテンションを与えるテンショナと、
を備え、
前記転輪として使用する車輪のうち少なくとも前記履帯に接触する外周部分が樹脂製である、
履帯式走行体。
【請求項2】
前記駆動輪として使用する車輪のうち少なくとも前記履帯に接触する外周部分が樹脂製である、
請求項1に記載の履帯式走行体。
【請求項3】
前記二つの転輪の間に設けられ、前記履帯と従動して回転する補助輪を備え、
前記補助輪として使用する車輪のうち少なくとも前記履帯に接触する外周部分が樹脂製である、
請求項1に記載の履帯式走行体。
【請求項4】
前記車輪の全体が樹脂製である、
請求項1のいずれか一項に記載の履帯式走行体。
【請求項5】
前記車輪の前記外周部分が樹脂製であり、前記外周部分より回転中心側の部分が金属製である、
請求項1のいずれか一項に記載の履帯式走行体。
【請求項6】
前記駆動輪として利用する前記車輪は、
回転軸の両側に対向配置される一対の円板と、
前記一対の円板の周方向に沿って配置され、前記一対の円板を連結する金属製の複数のシャフトと、
を有し、
前記一対の円板の少なくとも前記外周部分が樹脂製である、
請求項1に記載の履帯式走行体。
【請求項7】
前記履帯はゴム製である、
請求項1に記載の履帯式走行体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の履帯式走行体と、
少なくとも二つの前記履帯式走行体を支持する本体と、
を備える走行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履帯式走行体及び走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、履帯式走行体を備えた走行装置で、走行時の安定性を高める目的で、履帯にテンションを与えるテンショナ機構によって駆動輪を履帯に押し当てて回転させる履帯式走行体を用いる構成が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この構成ではインホイールモータの回転によって駆動輪を通じてゴム製の履帯を回転し、下部両端に設けられた転輪と下部中央に設けられたアイドラ(補助輪)は履帯が押し付けられた状態のため、モータ回転時は履帯に対して連れまわる構成となる。
【0004】
特許文献1などに記載の従来の履帯式走行体では、これらの履帯に接触させる部品の材料が考慮されていないため、走行時のエネルギ効率に改善の余地があった。
【0005】
本発明は、履帯式走行体の走行時のエネルギ効率を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一観点に係る履帯式走行体は、弾性材料で形成される履帯と、前記履帯に駆動力を与える駆動輪と、前記駆動輪の下方に配置された少なくとも二つの転輪と、前記駆動輪と前記転輪に掛け回された前記履帯に前記駆動輪を押し当てることによって前記履帯にテンションを与えるテンショナと、を備え、前記転輪として使用する車輪のうち少なくとも前記履帯に接触する外周部分が樹脂製である。
【発明の効果】
【0007】
履帯式走行体の走行時のエネルギ効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る走行装置の概略構成を示す斜視図
【
図5】履帯式走行体の駆動輪、転輪、アイドラの配置を示す図
【
図10】車輪を樹脂製にすることの効果を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0010】
なお、以下の説明において、X方向、Y方向、Z方向は互いに垂直な方向である。x方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。X方向は走行装置1の前後方向である。Y方向は、走行装置1の左右方向である。また、以下では説明の便宜上、Z正方向側を上側、Z負方向側を下側とも表現する場合がある。
【0011】
<走行装置の構成>
まず
図1~
図3を参照して、実施形態に係る履帯式走行体10a、10bを備える走行装置1の構成について説明する。
図1は、実施形態に係る走行装置1の概略構成を示す斜視図である。
図2は、
図1中の履帯式走行体10の側面図である。なお、
図2では、一対の履帯式走行体10a、10bは構成が同一であるため、纏めて符号10として図示している。
【0012】
図1に示すように、走行装置1は、Y方向の中央に本体50を有し、本体50のY方向両側に、走行面と接地して駆動する一対の履帯式走行体10a、10bを有する。走行装置1は、一対の履帯式走行体10a、10bのそれぞれに速度差を付けることによって進行方向を変更するよう構成される。
【0013】
図1、
図2に示すように、走行装置1は、姿勢を安定させて走行させるために、インホイールモータ14を内蔵した駆動輪13と二つの転輪15a、15bによって形成される三角形の履帯式の走行体10を用いる。このように履帯式走行体10を有する走行装置1は、高い走行性能を持ち、凹凸のある不整地を安定して走行することができる。
【0014】
履帯式走行体10a、10bは、走行装置1の移動手段となるユニットである。また、履帯式走行体10a、10bは、ゴム製のベルトを用いた履帯式(クローラ式)の走行体である。履帯式の走行体は、自動車のようなタイヤで走行する走行体と比較して接地面積が広く、例えば、足場の悪い環境においても、安定した走行を行うことができる。また、タイヤで走行する走行体は、回転動作を行う際に旋回スペースを必要とするのに対して、履帯式の走行体を備えた走行装置は、いわゆる超信地旋回を行うことができるため、限られたスペースでも回転動作をスムーズに行うことができる。
【0015】
本体50は、履帯式走行体10a、10bを走行可能な状態で支持する支持体であるとともに、走行装置1を駆動させるための制御を行う制御装置である。また、本体50は、履帯式走行体10a、10bを駆動させるための電力を供給する、後述のバッテリ530を搭載する。
【0016】
図1に示すように、走行装置1の本体50は、非常停止ボタン31、状態表示ランプ33、接触充電部35を備える。非常停止ボタン31は、走行装置1の周辺にいる人が、走行中の走行装置1を停止させる際に押下する操作手段である。
【0017】
状態表示ランプ33は、走行装置1の状態を通知するための通知手段である。状態表示ランプ33は、例えば、バッテリ残量の低下等の走行装置1の状態が変化した場合、周囲の人に、走行装置1の状態変化を知らせるために点灯する。また、状態表示ランプ33は、例えば、走行装置1の走行を妨げる障害物の存在等が検知された場合等、異常発生のおそれがある場合に点灯する。なお、
図1は、走行装置1に状態表示ランプ33が二つ備えられている例を示すが、状態表示ランプ33の数は、一つであってもよく、三つ以上であってもよい。また、通知手段は、状態表示ランプ33のみならず、スピーカから発せられる警告音等によって走行装置1の状態を通知する構成であってもよい。
【0018】
接触充電部35は、充電タスクの際に外部の充電装置と接触して、バッテリに電力を供給する要素である。本実施形態では、本体50の外形は略直方体形状で形成され、X方向を法線方向とする前面50Aが最も前方に配置される。接触充電部35は、例えばこの前面50Aに設置される。接触充電部35は、例えば樹脂製の矩形状の枠体35Cの前面に、2つの金属製の接触面35A、35Bが設けられる。2つの接触面35A、35Bは、Y方向を長手または長辺とする略長方形状の略同一形状で形成され、平行に配列される。
【0019】
図2に示すように、履帯式走行体10は、駆動輪13と二つの転輪15a,15bによって形成された三角形の形状を有する。三角形の形状の履帯式走行体10は、例えば、走行体の前後のサイズに制約がある場合、前後の限られたサイズの中で接地面積を大きくすることができるので、走行時の安定性を向上させることができる。一方で、下側(転輪側)よりも上側(駆動輪側)の方が長い、いわゆる戦車タイプのクローラでは、前後のサイズの制約がある場合には全体的に接地面積が小さくなって不安定になる。このように、本実施形態の履帯式走行体10は、比較的に小型の走行装置1の走行性を高める場合に有効である。
【0020】
履帯式走行体10は、履帯11、駆動輪13、インホイールモータ14、転輪15a,15b、アイドラ18a,18b、リンク19、側板20a,20bおよびテンショナ25を備える。
【0021】
履帯11は、クローラとも呼ばれて、金属またはゴムで形成されている。履帯11は、駆動輪13と転輪15a,15bに掛け回される。履帯11は、駆動輪13の回転方向に従って移動しながら、転輪15a,15bを従動させることによって、履帯式走行体10を回転させる。また、履帯11の表面には、複数の突起部11a,11bが設けられている。履帯11の外側の突起部11aは、例えば、路面上の石等の小さな障害物を安定して乗り越えて走行するために設けられている。また、内側の突起部11bは、例えば、駆動輪13または転輪15a,15bからの脱輪を防止するために設けられている。
【0022】
駆動輪13は、履帯11に対して、履帯式走行体10を回転させるための駆動力を伝達する。履帯式走行体10は、インホイールモータ14が駆動輪13に伝達した駆動力(回転力)を、履帯11を介して、転輪15a,15bに伝達する。
【0023】
インホイールモータ14は、駆動輪13の内部に内蔵されており、駆動輪13に回転力を伝達する。インホイールモータ14は、駆動軸となるモータ軸141を中心にして回転駆動する。インホイールモータ14の回転軸(モータ軸141)は、駆動輪13の回転軸(駆動軸)となり、インホイールモータ14の回転力によって駆動輪13が回転する。そして、インホイールモータ14の回転力は、駆動力として履帯11に伝達される。具体的には、インホイールモータ14は、駆動輪13に対して、走行装置1を前進させる正方向の回転、または走行装置1を後退させる負方向の回転を与える。
【0024】
また、インホイールモータ14は、駆動輪13に内蔵されることで構造を簡略化することができ、例えば、駆動チェーンまたはギア等の部品を用いないことで、それらの部品に起因する故障等のリスクを低減することができる。さらに、インホイールモータ14は、駆動輪13に内蔵させることで、履帯式走行体10の外周付近で駆動力を出すことができるため、トルクを大きくすることができる。
【0025】
転輪15a,15bは、履帯式走行体10に回転自在に取り付けられている。転輪15a,15bは、履帯11を介して駆動輪13から伝達された駆動力(回転力)によって、転輪軸151a,151bを回転軸として回転する。
【0026】
ここで、駆動輪13と転輪15aと転輪15bは、側面視において、三角形を形成する。履帯11は、駆動輪13と転輪15aと転輪15bとに掛け回されて、転輪15aと転輪15bの間の範囲が接地する。すなわち、インホイールモータ14が内蔵された駆動輪13は、路面に接地しない。よって、履帯式走行体10は、例えば、水溜まりを走行した場合であってもインホイールモータ14が浸水することはないため、インホイールモータ14に対して特別な防水機構を設置する必要はない。
【0027】
また、駆動輪13と転輪15a,15bの径は異なる。走行体は、要求されるサイズの制限や走行性等の要因を踏まえてレイアウト設計する必要がある。一般的に、モータは径が小さいほどモータの厚み(幅)における単位幅当たりのトルクが下がる傾向にある。そのため、インホイールモータを内蔵した駆動輪は、要求されるトルク性能に対応できるようなモータ径以上の径を有する必要がある。したがって、履帯式走行体10は、走行装置1または履帯式走行体10のサイズ制限を満たすとともに、要求される走行性能を満たすようなレイアウトとして、上方に設置された駆動輪13の径を、転輪15a,15bの径よりも大きくなるように設計する。なお、サイズが制限される中で転輪の径も大きくすると、接地面積が小さくなり走行安定性が損なわれる。そのため、駆動輪13の径を踏まえて比較的小さい径の転輪15a,15bを採用する利点もある。
【0028】
アイドラ18a,18bは、二つの転輪15a,15bの間に設けられ、履帯11に従動して回転する補助輪である。アイドラ18a,18bは、アイドラ軸181a,181bを回転軸としてそれぞれ回転する。また、リンク19は、アイドラ18aおよびアイドラ18bを支持する支持体である。
【0029】
側板20aは、履帯式走行体10において、駆動輪13、転輪15a,15b、およびアイドラ18a,18bを支持する。側板20aは、履帯式走行体10のY正方向側の側面に設置される。また、側板20aの反対側、履帯式走行体10のY負方向側の側面には側板20aと同一形状の側板20bが設定される。履帯式走行体10は、二つの側板20a,20bを用いて、駆動輪13および転輪15a,15b等を支持する両持ち構造になっている。側板20a,20bは、モータ軸141を用いて、駆動輪13を支持する。また、側板20a,20bは、転輪軸151a,151bを用いて、転輪15a,15bをそれぞれ支持する。さらに、側板20a,20bは、アイドラ18a,18bを支持するリンク19のリンク軸191を介して、アイドラ18a,18bを支持する。
【0030】
テンショナ25は、バネ等の弾性部材で形成されており、インホイールモータ14および駆動輪13の回転軸であるモータ軸141に接続される。テンショナ25は、駆動輪13が履帯11の内側に押し当たるように設置されて、履帯11にテンションを与える。テンショナ25は、走行時に、駆動輪13から履帯11に与えるテンションを調整する役割を担う。テンショナ25は、例えば、履帯式走行体10の静止時のテンションを基準として、基準となるテンションを走行時に略一定に保つための役割を担う。また、履帯式走行体10は、テンショナ25によって履帯11のたるみが調整されることによって、履帯11による正常な駆動力の伝達を維持する。また、履帯式走行体10は、テンショナ25によって履帯11にテンションを与えることで、履帯11の脱輪を防止することができる。
【0031】
ここで、
図1および
図2に示されているように、履帯式走行体10は、駆動輪13を中心に、走行方向の前後に略対称の構造を有する。より詳細には、履帯式走行体10は、
図1および
図2に示されているようなY軸方向から見た側面視において、二つの転輪15a,15bの転輪軸を結ぶ直線に対するインホイールモータ14のモータ軸141からの垂線に対しておおよそ線対称の構造である。
【0032】
例えば、オフィスの廊下などの狭いスペースで走行する走行装置は、前進後進や超信地旋回を頻繁に行う必要がある。この場合、走行装置は、履帯の形状、または駆動輪、転輪もしくはテンショナ等の配置が前後に非対称だと、前進後進で駆動特性が変わったり、超信地旋回時に中心回転できなかったりする場合がある。そこで、履帯式走行体10は、レイアウト(構造)を前後に略対称にすることによって、走行装置1の走行時の安定性の向上や制御の簡略化を図ることができる。また、履帯式走行体10は、走行装置1の左右を意識せずに取り付けることができるため、部品点数の削減等を図ることができる。
【0033】
図3は、走行装置1のハードウェア構成の一例を示す図である。走行装置1は、
図1に示されているように、走行装置1の処理または動作を制御する本体50を備える。本体50は、ラジコン受信部501、CPU(Central Processing Unit)502、メモリ503、通信I/F(Interface)506、バッテリ530、走行制御用モータドライバ540、姿勢制御用モータドライバ550、および姿勢制御用モータ555a,555bを備える。また、ラジコン受信部501、CPU502、メモリ503、通信I/F506、バッテリ530、走行制御用モータドライバ540、および姿勢制御用モータドライバ550は、システムバス510を介して接続している。システムバス510は、上記各構成要素を電気的に接続するためのアドレスバスやデータバス等であり、アドレス信号、データ信号、および各種制御信号等を伝送する。
【0034】
ラジコン受信部501は、走行装置1の操作者が使用するPC等の送信機から送信される動作指示信号を受信する。
【0035】
CPU502は、走行装置1全体の制御を行う。CPU502は、メモリ503に格納された、プログラムP1または走行装置1を動作させるのに必要な各種データを読み出し、処理を実行することで、走行装置1の各機能を実現する演算装置である。
【0036】
メモリ503は、CPU502が実行するプログラムP1をはじめ、走行装置1を動作させるのに必要な各種データを記憶する。プログラムP1は、メモリ503に予め組み込まれて提供される。
【0037】
また、プログラムP1は、インストール可能な形式、または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-RまたはDVD(Digital Versatile Disc)等のCPU502(コンピュータ)で読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。さらに、プログラムP1は、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由で走行装置1にダウンロードさせることにより提供されるように構成してもよい。また、プログラムP1は、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布されるように構成してもよい。プログラムP1が外部から提供される場合、CPU502は、通信I/F506を介してプログラムP1を読み込む。なお、走行装置1は、CPU502をプログラムP1に従って動作させる代わりに、プログラムP1が実行するのと同じ演算機能および制御機能を有する専用のASIC(Application Specific Integrated Circuit)を実装することによって、ハードウェア的に動作させてもよい。
【0038】
通信I/F506は、通信ネットワークを経由して、他の機器または装置との通信(接続)を行う通信インターフェースである。通信I/F506は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)等の通信インターフェースである。なお、通信I/F506は、3G(3rd Generation)、LTE(Long Term Evolution)、4G(4th Generation)、5G(5th Generation)、Wi-Fi(Wireless Fidelity)(登録商標)、WiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)、Zigbee(登録商標)、またはミリ波無線通信等の通信インターフェースを備えてもよい。また、走行装置1は、NFC(Near Field communication)またはBluetooth(登録商標)等の近距離無線通信を行うための通信回路を備えていてもよい。
【0039】
バッテリ530は、走行装置1の処理または動作に必要な電力を供給する電力供給ユニットである。バッテリ530は、例えば、インホイールモータ14a,14bおよび姿勢制御用モータ555a,555bに対して電力を供給する。バッテリ530は、接触充電部35と電気的に接続され、充電タスクの際には接触充電部35を介して外部の充電装置から電力が供給されて充電が行われる。例えば
図1に示す接触充電部35の2つの接触面35A、35Bが、それぞれ充電装置のコネクタと接触することによって、充電動作を実施できる。
【0040】
走行制御用モータドライバ540は、インホイールモータ14a,14bに対して、モータ駆動信号をそれぞれ供給することによって、インホイールモータ14a,14bを駆動させる。
【0041】
インホイールモータ14a,14bは、履帯式走行体10aの駆動輪13、履帯式走行体10bの駆動輪13の内部にそれぞれ設置されており、各駆動輪13に回転力を伝達する。インホイールモータ14a,14bは、履帯式走行体10a、10bの各駆動輪13に対して、走行装置1を前進させる正方向の回転、または走行装置1を後退させる負方向の回転を与える。さらに、インホイールモータ14a,14bは、履帯式走行体10a、10bの各駆動輪13の一方のみを正方向または負方向に回転させて、他方を停止させることによって、走行装置1を信地旋回させる。また、インホイールモータ14a,14bは、履帯式走行体10a、10bの各駆動輪13の一方を正方向に回転させて、他方を負方向に回転させることによって、走行装置1を超信地旋回させる。
【0042】
姿勢制御用モータドライバ550は、姿勢制御用モータ555a,555bに対して、モータ駆動信号をそれぞれ供給することによって、姿勢制御用モータ555a,555bを駆動させる。姿勢制御用モータ555a,555bは、例えば、姿勢制御用モータドライバ550からの制御信号に応じて、リンク19の高さを上下に変更することで、アイドラ18a,18bの高さを調整する。また、姿勢制御用モータ555a,555bは、例えば、本体50の姿勢を制御することによって、走行装置1の転倒を防止する。
【0043】
なお、走行装置1は、ラジコン受信部501に受信された動作指示に応じて走行する構成に限られず、自律走行またはライントレース等の技術を用いて走行する構成であってもよい。また、走行装置1は、通信ネットワークを介して送信された動作指示信号を通信I/F506で受信することで、遠隔地にいるユーザから遠隔操作によって走行する構成であってもよい。また、走行装置1は、操作者の手動遠隔操作の他に、サーバなどの上位システムによって自動的に走行や各種タスクなどの操作を自動的に行う構成とすることもできる。この場合、走行装置1は、ラジコン受信部501や通信I/F506を介して、上位システムからの動作指示信号を受信することができる。
【0044】
図1~
図3に例示した走行装置1の寸法は、例えば前後方向の長さ、左右方向の幅、高さ、共に1メートル程度である。
【0045】
<履帯式走行体の各要素の構成>
次に
図4~
図9を参照して、本実施形態に係る履帯式走行体10の主要な各要素の詳細について説明する。
【0046】
図4は、ゴム製の履帯11の形状を示す斜視図である。履帯11の内部側の面には周期的な複数の突起部11bが存在し、後述する駆動輪13のシャフト133と、この突起部11bとによって、履帯11を回転させることが可能になる。なお
図4では突起部11bは履帯11の内側の面のうち下側にしか図示されていないが、実際には全周にわたって存在する。また、
図4では図示が省略されているが、履帯11の外側の面には、
図2を参照して説明したように複数の突起部11aが設けられる。
【0047】
なお、本実施形態で用いる「ゴム製」とは、履帯11の全体が一種類のゴム材料で形成されるものに限られず、複数種のゴム材料を積層構造にしたり、部分ごとに使い分ける構造を含めてよい。例えば、履帯11の内側の突起部11bや、外側の突起部11aに、硬さや弾性が異なる別のゴム材料を適用してもよい。また、一般にCRT(Campsite Rubber Track)と呼ばれるゴム製履帯も含めてよい。CRTは、単にゴム製ではなく、アラミド繊維や金属など多くの異なった素材からなる重層的な構造をとる履帯である。CRTと同様にゴム以外の材料を含む構造も含めてよい。
【0048】
さらに、履帯11は、例えばエラストマーなど、ゴム以外の弾性材料で形成される構成でもよい。
【0049】
図5は、履帯式走行体10の駆動輪13、転輪15a、15b、及びアイドラ18a、18bの配置を示す図である。本実施形態では、駆動輪13、転輪15a、15b、及びアイドラ18a、18bとして機能する各車輪がすべて樹脂製で形成される。ゴム製の履帯11に対して内部で接する各車輪が樹脂製の部分である。
【0050】
各車輪に用いる樹脂の種類としては、例えば剛性を高めるためにはガラス入りポリカーボネートを用いるのが好ましい。また、摺動性を重視するのであればポリアセタール(POM)などを金属の円盤の外周部に張り付けるなどの構成としてもよい。その他にも、一定以上の剛性であり、3Dプリンタでの加工が可能であるPA12(ポリエアミド12)やPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、さらにはFRP(繊維強化プラスチック)などの繊維強化樹脂などを適用してもよい。
【0051】
図6は、駆動輪13の斜視図である。駆動輪13は、インホイールモータ14に対して軸方向(Y方向)の両側から円環状の一対のリング部材131、132を組み付けることで車輪を構成している。すなわち駆動輪13は一対のリング部材131、132の外周面が履帯11と接触する部分であり、具体的には駆動輪13の一対のリング部材131、132が樹脂製である。リング部材131、132の径方向内側にインホイールモータ14が配置される。リング部材131、132の中心位置にインホイールモータ14のモータ軸141が配置されて、これによりインホイールモータ14の回転軸(モータ軸141)が駆動輪13の回転軸となる。
【0052】
また一対のリング部材131、132の間に金属製の複数のシャフト133が配置される。複数のシャフト133は軸方向に延在し、リング部材131、132の周方向に沿って略等間隔で配置され、一対のリング部材131、132を連結する。複数のシャフト133の間隔は、履帯11の内部側の面の突起部11bのピッチと合うように、隣接する2つのシャフト133の間に1つの突起部11bが篏合するように配置される。このようにシャフト133を設けることにより、駆動輪13は履帯11の突起部11bと篏合しながら回転することによって履帯を駆動させる。しかしながらシャフト133は車輪の外周部のように履帯11の内周面には接触せず、履帯11を押し付けているわけではない。
【0053】
シャフト133は、駆動輪13のうち突起部11bを介して履帯11に駆動力を伝達する部分であり、履帯11から最も大きい反力を受ける部分である。このため本実施形態では、シャフト133を金属製とすることにより、耐荷重性や耐摩耗性を向上させることができ、駆動輪13を長寿命化できるよう構成されている。
【0054】
図7は、転輪15a、15bの斜視図である。転輪15a、15bの回転軸(転輪軸151a,151b)の軸方向の両側には円板状の一対の円板部材152、153が対向配置されている。転輪15a、15bは、一対の円板部材152、153を、円形状の中心にて軸151a、151bを貫通させることで車輪を構成している。すなわち転輪15a、15bの一対の円板部材152、153の外周面が履帯11と接触する部分であり、具体的には転輪15a、15bのうち一対の円板部材152、153が樹脂製である。
【0055】
また、本実施形態では、転輪15a、15bは、内部に軸151a、151bを受けるベアリングを配置する構成としている。そのため軸で保持している一対の円板部材152、153は自由に回転することが可能となり、当接した履帯11に連れ回ることで自由に回転する。なお
図7の例では、内部の防水を果たすために軸まわりにカバー154を設けているが、この代わりに軸を円板部材152、153と一体化して軸も回転する構成としてもよい。
【0056】
なお、履帯式走行体10は、少なくとも2つの転輪15a、15bを備え、これらの2つの転輪15a、15bとその上方に配置される駆動輪13とによって側面視において略二等辺三角形状に配置される構成であればよく、2つの転輪15a、15bの間や、駆動輪13と各転輪との間に別の転輪を設け、3つ以上の転輪を備える構成でもよい。
【0057】
図8は、アイドラ(補助輪)18a、18bの斜視図である。本実施形態では、アイドラ18a、18bは、転輪15a、15bと同様に内部に軸(アイドラ軸181a,181b)を受けるベアリングを配置する構成としている。
【0058】
アイドラ18a、18bの回転軸(アイドラ軸181a,181b)の軸方向の両側には円板状の一対の円板部材182、183が対向配置されている。アイドラ18a、18bは、一対の円板部材182、183を、円形状の中心にて軸181a,181bを貫通させることで車輪を構成している。すなわちアイドラ18a、18bは一対の円板部材182、183の外周面が履帯11と接触する部分であり、具体的にはアイドラ18a、18bのうち一対の円板部材182、183が樹脂製である。
【0059】
なお、履帯式走行体10は、2つのアイドラ18a、18bを備える構成に限られず、アイドラを1つまたは3つ以上備える構成でもよいし、アイドラを備えない構成でもよい。
【0060】
なお
図5~
図8では車輪全体を樹脂製としているが、本実施形態の目的はゴム製履帯11との摺動性向上であるので、
図9のように金属製の車輪100と、樹脂製の外周部(カバー104)との組み合わせとしても問題ない。
図9は、変形例に係る車輪100の一例を示す斜視図である。
【0061】
図9に示す車輪100は一対の円板状部材101、102を有するが、これらの円板状部材101、102は、
図5~
図8に示した駆動輪13のリング部材131、132や、転輪15a、15bの円板部材152、153や、アイドラ18a、18bの円板部材182、183と置き換えることができるものである。
【0062】
図9に示すように、円板状部材101、102は、金属製の円板部103の外周部に、樹脂製のカバー104を取り付け、両者をボルト等で締結することで一体化する。この構成でも、車輪100が履帯11と接触する円板状部材101、102の外周面を樹脂製にできるので、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0063】
なお、
図9に示す構造は、車輪の中央側が金属製であり、外周部分が樹脂製である構造の一例であって、他の構造でもよい。例えばカバー104の代わりに樹脂製の円環状部材を用いる構造でもよい。この場合、円環状部材の内径と、金属製の円板部103の外径とが略同一であり、円板部103の径方向外側に円環状部材を篏合させることによって、一体的な車輪を形成することができる。
【0064】
次に本実施形態に係る履帯式走行体10の効果を説明する。本実施形態の履帯式走行体10は、ゴム製の履帯11と、履帯11に駆動力を与える駆動輪13と、駆動輪13の下方に配置された二つの転輪15a、15bと、を備える。履帯11は、駆動輪13と転輪15a、15bとの間に掛け回される。
【0065】
このような構成の履帯式走行体10では、インホイールモータ14の回転によって駆動輪13を通してゴム製の履帯11を回転させ、下部両端に設けられた転輪15a、15bと下部中央に設けられたアイドラ18a、18b(補助輪)は履帯11が押し付けられた状態で、モータ回転時は履帯11に対して連れまわる構成となる。従来は、これらの履帯11に接触させる部品である駆動輪13、転輪15a、15b、アイドラ18a、18bの強度の確保を目的として、これらの車輪にアルミやステンレスなどの金属を用いることが一般的に考えられる。しかしながらゴム製である履帯11を押し付けて連れまわす構成であるため、動力伝達時に金属製の各車輪から履帯11に付与される摩擦抵抗などの負荷によりエネルギロスが生じる虞がある。また、履帯11と各車輪との間で異音が生じる場合がある。従来、これらの問題の対策としてはシリコンスプレーなどの潤滑剤を両者の間に塗布して摺動抵抗を減らすことで改善が図られている。しかしながら、時間の経過により潤滑剤が不足することで再発するという問題がある。また、潤滑剤が不足するたびに再度塗布する必要があるので、メンテナンス作業の負担が増えるという問題もある。
【0066】
さらに、本実施形態の履帯式走行体10は、駆動輪13の駆動軸(すなわちインホイールモータ14のモータ軸141)に接続され、駆動輪13と転輪15a、15bに掛け回された履帯11に駆動輪13を押し当てることによって履帯11にテンションを与えるテンショナ25を備える。この構成の場合、従来のテンショナ25を備えない構成と比較して履帯11の張力が相対的に大きくなる。このため、履帯11と駆動輪13、転輪15a、15b、アイドラ18a、18bとの接触部分における抵抗も相対的に大きくなるため、上述のエネルギロスや異音の問題が特に顕著になると考えられる。
【0067】
そこで本実施形態では、転輪15a、15bとして使用する車輪(円板部材152、153)のうち少なくとも履帯11に接触する外周部分を樹脂製とする。この構成により、転輪15a、15bの履帯11との摺動性を高めることができる。転輪15a、15bの摺動性が高まると、履帯11に対して転輪15a、15bが滑りやすく空転しやすくできる。これにより、駆動輪13によって履帯11が駆動し、履帯11が転輪15a、15bを連れまわす際に、履帯11が転輪15a、15bから受ける摩擦抵抗を低減できるので、動力伝達のエネルギロスも低減でき、走行時のエネルギ効率を改善することができる。また、走行時の異音の発生も抑制できる。さらに、金属車輪の場合のように潤滑剤の塗布などの作業が不要となるので、メンテナンス性も向上できる。
【0068】
また、本実施形態の履帯式走行体10では、駆動輪13として使用する車輪(リング部材131、132)のうち少なくとも履帯11に接触する外周部分を樹脂製とする。この構成によっても、転輪15a、15bを樹脂製とすることと同様の理由で、走行時のエネルギ効率をさらに改善することができ、また、走行時の異音の発生もさらに抑制できる。
【0069】
また、本実施形態の履帯式走行体10では、アイドラ18a、18bとして使用する車輪(円板部材182、183)のうち少なくとも履帯11に接触する外周部分を樹脂製とする。この構成によっても、転輪15a、15bを樹脂製とすることと同様の理由で、走行時のエネルギ効率をより一層改善することができ、また、走行時の異音の発生もより一層抑制できる。
【0070】
また、駆動輪13、転輪15a、15b、及びアイドラ18a、18bを樹脂製とすることにより、履帯式走行体10の全体の重量の軽量化につながるため、走行時の消費電力が下がることによってバッテリ稼働時間を増加させることができる。これにより、バッテリの充電頻度を低減できるので、メンテナンス性をさらに向上できる。なお、この点の効果は、特に駆動輪13、転輪15a、15b、及びアイドラ18a、18bの車輪の全体が樹脂製である場合に、軽量化が促進されるため特に顕著となる。
【0071】
一方、
図9に示す変形例のように、駆動輪13、転輪15a、15b、及びアイドラ18a、18bの車輪の外周部分が樹脂製であり、外周部分より回転中心側の部分が金属製である構成としてもよい。そしてこの構成の場合にも、車輪の一部を樹脂製とするので、従来の金属製車輪と比較して上述の軽量化やバッテリ稼働時間増加などの効果を奏することができる。
【0072】
なお、本実施形態のように車輪の全体を樹脂製とする構成(構成1)と、変形例のように車輪の外周部分のみを樹脂製とする構成(構成2)とを比較すると、構成1のほうが軽量化やバッテリ稼働時間増加の効果に優れる。一方、構成2は、車輪の中心側が金属製であるので、構成1に比べて車輪の剛性に優れ、これにより車輪の長寿命化という利点がある。したがって、履帯式走行体10の使用環境に応じて、構成1と構成2のそれぞれの利点を考慮して適宜選択して適用すればよい。
【0073】
なお、本実施形態では、履帯11と接触するすべての車輪、すなわち駆動輪13、転輪15a、15b、及びアイドラ18a、18bのすべて、より詳細には、駆動輪13のリング部材131、132と、転輪15a、15bの円板部材152、153と、アイドラ18a、18bの円板部材182、183を樹脂製とする構成を例示したが、これらの要素のうち少なくとも一部が樹脂製であってもよい。樹脂製にする優先度としては、転輪15a、15b→駆動輪13→アイドラ18a、18bの順が好ましい。この理由は、転輪15a、15bは外周面のうち履帯11と接触する部分の割合が最も大きいので、上述の走行時のエネルギ効率改善や、走行時の異音の発生抑制の効果に最も影響が強いためである。一方、アイドラ18a、18bは外周面のうち履帯11と接触する部分の割合が最も小さいので、上述の効果に最も影響が少ない。
【0074】
図10は、本実施形態において車輪を樹脂製にすることの効果を説明する図である。本実施形態に係る樹脂製の車輪を有する履帯式走行体10を備える走行装置1(
図10には「樹脂車輪」と表記)と、比較例として履帯式走行体の車輪を金属製とした走行装置(
図10には「現行」と表記)との電力消費量を比較した。
【0075】
図10の横軸は走行装置1の走行距離(m)を示し、縦軸はバッテリ消費量(mAh)を示す。また、
図10では、比較例において金属製車輪と履帯との間に潤滑剤(シリコンスプレー)を塗布する前の結果を白丸(〇)でプロットし、潤滑剤を塗布した後の結果を白三角(△)でプロットした。同様に、本実施形態において樹脂車輪と履帯との間に潤滑剤を塗布する前の結果を黒丸(●)でプロットし、潤滑剤を塗布した後の結果を黒三角(▲)でプロットした。
【0076】
さらに、上記の4種類の結果のプロットに基づき各結果の近似直線A、B、C、Dを算出して
図10に図示した。各近似直線の式は「y=ax+b」の形で表現しており、xは横軸の走行距離(m)に対応し、yは縦軸のバッテリ容量(mAh)に対応する。aは各直線の傾きを示し、bはy切片を示す。
図10では、走行距離xに対してのバッテリ消費量yを測定しているので、近似直線A~Dの傾きaの大きさが、各結果のエネルギ効率を表している。
【0077】
図10の近似直線A、Bに示すように、比較例の金属製車輪では潤滑剤の塗布によって消費電力が低下することが確認された。
図10の測定結果においては塗布の前後で近似直線A、Bのそれぞれの傾きaの大きさが4.2484から3.9092に変化し、エネルギ効率が約8%向上した。また比較例では、潤滑剤を塗布する前の状態では走行時に履帯と車輪との間で異音が発生する事象が確認されたが、潤滑剤塗布により走行時の異音は消滅することが確認された。
【0078】
一方、
図10の近似直線C、Dに示すように、本実施形態の樹脂車輪では潤滑剤の塗布前後において共に消費電力が比較例よりも低下することが確認された。
図10の測定結果においては塗布の前後で近似直線C、Dのそれぞれの傾きaの大きさは3.557及び3.6156であり、エネルギ効率は潤滑剤の塗布前では比較例に対して約16.7%高く、塗布後では比較例に対して約7.5%高い。この理由は、本実施形態では車輪が金属製から樹脂製になったことで、履帯11と車輪の間での異音や摩擦熱によるエネルギロスがなくなったこと、およびクローラユニット(履帯式走行体)が軽量化されたこと、などによる効果と考えられる。なお本測定では走行装置1全体の質量は、比較例の金属車輪品では71.8kg、実施形態の樹脂車輪品では60.6kgであった。
【0079】
また、
図10の測定結果においては塗布の前後で近似直線C、Dのそれぞれの傾きaの大きさが3.557から3.6156とほとんど変化せず、エネルギ効率に係る潤滑剤による影響は比較例より少ないことが確認された。これらの結果により、本実施形態では、比較例の金属車輪を用いた構成では経時で必要としていた潤滑剤の塗布などのメンテナンス作業を不要にできるか、または、作業頻度を低減できるので、メンテナンス作業の負荷を軽減できるといえる。
【0080】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0081】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 弾性材料で形成される履帯と、
前記履帯に駆動力を与える駆動輪と、
前記駆動輪の下方に配置された少なくとも二つの転輪と、
前記駆動輪と前記転輪に掛け回された前記履帯に前記駆動輪を押し当てることによって前記履帯にテンションを与えるテンショナと、
を備え、
前記転輪として使用する車輪のうち少なくとも前記履帯に接触する外周部分が樹脂製である、
履帯式走行体。
<2> 前記駆動輪として使用する車輪のうち少なくとも前記履帯に接触する外周部分が樹脂製である、
前記<1>に記載の履帯式走行体。
<3> 前記二つの転輪の間に設けられ、前記履帯と従動して回転する補助輪を備え、
前記補助輪として使用する車輪のうち少なくとも前記履帯に接触する外周部分が樹脂製である、
前記<1>または<2>に記載の履帯式走行体。
<4> 前記車輪の全体が樹脂製である、
前記<1>~<3>のいずれか一項に記載の履帯式走行体。
<5> 前記車輪の前記外周部分が樹脂製であり、前記外周部分より回転中心側の部分が金属製である、
前記<1>~<3>のいずれか一項に記載の履帯式走行体。
<6> 前記駆動輪として利用する前記車輪は、
回転軸の両側に対向配置される一対の円板と、
前記一対の円板の周方向に沿って配置され、前記一対の円板を連結する金属製の複数のシャフトと、
を有し、
前記一対の円板の少なくとも前記外周部分が樹脂製である、
前記<1>~<5>のいずれか一項に記載の履帯式走行体。
<7> 前記履帯はゴム製である、
前記<1>~<6>のいずれか一項に記載の履帯式走行体。
<8> 前記<1>~<7>のいずれか一項に記載の履帯式走行体と、
少なくとも二つの前記履帯式走行体を支持する本体と、
を備える走行装置。
【符号の説明】
【0082】
1 走行装置
50 本体
10、10a、10b 履帯式走行体
11 履帯
13 駆動輪
131、132 リング部材
133 シャフト
15a、15b 転輪
152、153 円板部材
18a、18b アイドラ(補助輪)
182、183 円板部材
25 テンショナ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】