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特開2024-79391電極形成装置、樹脂構造体の製造装置、電極形成方法および樹脂構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079391
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】電極形成装置、樹脂構造体の製造装置、電極形成方法および樹脂構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20240604BHJP
   C08F 2/01 20060101ALI20240604BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240604BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240604BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20240604BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20240604BHJP
   C08J 9/28 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
H01M4/04 A
C08F2/01
H01M4/139
H01M4/88 C
H01G11/86
H01G11/52
C08J9/28 CEY
C08J9/28 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192308
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山田 征史
(72)【発明者】
【氏名】大木本 美玖
(72)【発明者】
【氏名】鷹氏 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】野勢 大輔
(72)【発明者】
【氏名】杉原 直樹
【テーマコード(参考)】
4F074
4J011
5E078
5H018
5H050
【Fターム(参考)】
4F074AA23
4F074AA64
4F074AA69
4F074AD04
4F074AD05
4F074AD07
4F074AD11
4F074AD13
4F074AG20
4F074BB01
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4F074BB25
4F074CB34
4F074CB47
4F074CC04Y
4F074CC22X
4F074CC28Y
4F074CC50X
4F074DA49
4J011AA01
4J011AB04
4J011AC01
4J011AC04
4J011BA06
4J011CA02
4J011DB18
4J011DB22
4J011DB33
4J011DB35
5E078AB06
5E078BA18
5E078BA27
5E078CA06
5E078CA12
5E078FA02
5E078FA12
5E078FA13
5H018BB01
5H018DD05
5H018EE05
5H018EE17
5H018HH09
5H050AA19
5H050BA08
5H050BA14
5H050BA16
5H050CA01
5H050CA03
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050GA02
5H050GA29
(57)【要約】
【課題】第1の室の内部へ流入する空気を低減するために用いる気体の選択肢を広くすることができる技術を提供すること。
【解決手段】本開示の一態様に係る電極形成装置は、第1の開口と第2の開口とを有し、内部に存在する気体を第1の気体に置換可能な第1の室と、前記第1の室の内部に前記第1の気体を供給する第1の気体供給手段と、基材を、前記第1の開口を通して前記第1の室の内部へ搬入し、前記第2の開口を通して前記第1の室の外部へ搬出するように搬送する搬送手段と、前記搬送手段による前記基材の搬送方向における前記第1の室の下流側に配置された第2の室と、前記第2の室の内部に第2の気体を供給する第2の気体供給手段と、を備え、前記第2の室の内圧は、大気圧以上で且つ前記第1の室の内圧以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の開口と第2の開口とを有し、内部に存在する気体を第1の気体に置換可能な第1の室と、
前記第1の室の内部に前記第1の気体を供給する第1の気体供給手段と、
基材を、前記第1の開口を通して前記第1の室の内部へ搬入し、前記第2の開口を通して前記第1の室の外部へ搬出するように搬送する搬送手段と、
前記搬送手段による前記基材の搬送方向における前記第1の室の下流側に配置された第2の室と、
前記第2の室の内部に第2の気体を供給する第2の気体供給手段と、を備え、
前記第2の室の内圧は、大気圧以上で且つ前記第1の室の内圧以下である、電極形成装置。
【請求項2】
前記第2の気体供給手段は、前記搬送手段により搬送される前記基材の面に沿う方向に前記第2の気体を供給する、請求項1に記載の電極形成装置。
【請求項3】
前記第2の気体は、空気である、請求項1または請求項2に記載の電極形成装置。
【請求項4】
前記第1の気体供給手段は、前記第1の開口の近傍において、前記第1の室の内部に供給する前記第1の気体のうちの少なくとも一部を、前記搬送方向の上流方向であって、且つ前記基材の位置する方向に供給する、請求項1または請求項2に記載の電極形成装置。
【請求項5】
前記第1の気体供給手段により前記第1の室の内部に供給される前記第1の気体の単位面積当たりの酸素含有量は、0.01%以下である、請求項1または請求項2に記載の電極形成装置。
【請求項6】
前記第2の室の内圧は、前記搬送手段による前記基材の搬送速度が速いほど高い、請求項1または請求項2に記載の電極形成装置。
【請求項7】
気体置換モジュールと、
前記基材上に、重合性化合物を含む液体組成物を付与する付与手段と、
前記付与手段により付与された前記基材上の前記液体組成物に活性エネルギー線を照射する照射手段と、を有し、
前記気体置換モジュールは、
第1の開口と第2の開口とを有し、内部に存在する気体を第1の気体に置換可能な第1の室と、
前記第1の室の内部に前記第1の気体を供給する第1の気体供給手段と、
搬送手段により、前記第1の開口を通して前記第1の室の内部へ搬入し、前記第2の開口を通して前記第1の室の外部へ搬出するように搬送される基材の搬送方向における前記第1の室の下流側に配置された第2の室と、
前記第2の室の内部に第2の気体を供給する第2の気体供給手段と、を備え、
前記第2の室の内圧は、大気圧以上で且つ前記第1の室の内圧以下であり、
前記照射手段は、前記付与手段により前記液体組成物が付与された後、前記第1の室の内部を搬送される前記基材上の前記液体組成物に前記活性エネルギー線を照射する、樹脂構造体の製造装置。
【請求項8】
前記第2の室から排出された気体の少なくとも一部を吸気する手段を有する、請求項7に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項9】
前記付与手段により前記基材上に付与された前記液体組成物を加熱する加熱手段を含み、
前記吸気する手段は、前記搬送手段による前記搬送方向における前記第2の室の下流側に配置される請求項8に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項10】
前記樹脂構造体は、多孔質樹脂層を含む、請求項7に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項11】
前記第1の室の内圧を計測する第1圧力計および前記第1の室の内部の酸素濃度を計測する酸素濃度計の少なくとも一方と、
前記第2の室の内圧を計測する第2圧力計と、
前記第1圧力計および前記酸素濃度計の少なくとも一方による計測結果に応じて前記第1の室の内圧を制御するとともに、前記第2圧力計による計測結果に応じて前記第2の室の内圧を制御する制御手段と、を備える、請求項7に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項12】
電極形成装置による電極形成方法であって、
前記電極形成装置が、
第1の開口と第2の開口とを有し、内部に存在する気体を第1の気体に置換可能な第1の室の内部に、第1の気体供給手段により、前記第1の気体を供給し、
搬送手段により、基材を、前記第1の開口を通して前記第1の室の内部へ搬入し、前記第2の開口を通して前記第1の室の外部へ搬出するように搬送し、
第2の気体供給手段により、前記搬送手段による前記基材の搬送方向における前記第1の室の下流側に配置された第2の室の内部に、第2の気体を供給し、
前記第2の室の内圧は、大気圧以上で且つ前記第1の室の内圧以下である、電極形成方法。
【請求項13】
樹脂構造体の製造装置による樹脂構造体の製造方法であって、前記樹脂構造体の製造装置が、
電極形成装置により、請求項12に記載の電極形成方法を行い、
付与手段により、基材上に、重合性化合物を含む液体組成物を付与し、
照射手段により、前記付与手段により付与された前記基材上の前記液体組成物に活性エネルギー線を照射し、
前記付与手段は、前記搬送手段による前記基材の搬送方向における前記第1の室の上流側に配置され、
前記照射手段は、前記付与手段により前記液体組成物が付与された後、前記第1の室の内部を搬送される前記基材上の前記液体組成物に前記活性エネルギー線を照射する、樹脂構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極形成装置、樹脂構造体の製造装置、電極製造装置、電極形成方法および樹脂構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内部に存在する気体を第1の気体に置換可能な第1の室を有する気体置換モジュールを有する電極製造装置が知られている。この気体置換モジュールは、第1の気体を封入した第1の室の内部で活性エネルギー線を用いた硬化工程を行うことにより、硬化時の酸素阻害を低減する用途等において使用される(特許文献1)。
【0003】
また気体置換モジュールとして、連続搬送される帯状基材に伴って表面改質室内に流入する気体である同伴空気を低減するために、真空紫外光照射手段を有する表面改質室と、該表面改質室に隣接する同伴空気除去手段を有する同伴空気除去室と、を備える表面改質装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。この表面改質装置では、同伴空気除去手段が同伴空気除去室の圧力を表面改質室の圧力よりも高く、又は低く制御する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載の装置では、空気表面改質室等の第1の室および同伴空気除去室等の第2の室それぞれの内圧を制御するために、第1の室に第2の気体を供給する。従って、第1の室の内部に存在する第1の気体以外の気体の量を少なくするためには、第2の気体の種類を第1の気体の種類に合わせる必要があり、第2の気体の選択肢が狭くなる。
【0005】
本開示は、第1の室の内部へ流入する空気を低減するために用いる気体の選択肢を広くすることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電極形成装置は、第1の開口と第2の開口とを有し、内部に存在する気体を第1の気体に置換可能な第1の室と、前記第1の室の内部に前記第1の気体を供給する第1の気体供給手段と、基材を、前記第1の開口を通して前記第1の室の内部へ搬入し、前記第2の開口を通して前記第1の室の外部へ搬出するように搬送する搬送手段と、前記搬送手段による前記基材の搬送方向における前記第1の室の下流側に配置された第2の室と、前記第2の室の内部に第2の気体を供給する第2の気体供給手段と、を備え、前記第2の室の内圧は、大気圧以上で且つ前記第1の室の内圧以下である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、第1の室の内部へ流入する空気を低減するために用いる気体の選択肢を広くすることができる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る電極製造装置の全体構成例の図である。
図2】実施形態に係る付与手段の下面図である。
図3】第1実施形態に係る気体置換モジュールの上面図である。
図4図3におけるIV-IV線の断面図である。
図5】実施形態に係る制御手段のハードウェア構成例のブロック図である。
図6】第1実施形態に係る制御手段の機能構成例のブロック図である。
図7】基材搬送速度と第1の気体流出量との関係の第1図である。
図8】基材搬送速度と第1の気体流出量との関係の第2図である。
図9図8の状態での第1の室および第2の室の各内圧例を示す図である。
図10】第2の室の内圧と第1の室の酸素濃度との関係例を示す図である。
図11】基材搬送速度と第2の室の内圧との関係例を示す図である。
図12】第2実施形態に係る気体置換モジュールの上面図である。
図13】実施形態に係る電気化学素子用部材の多孔質絶縁層付与物、及び積層体の製造方法を実現するための多孔質絶縁層の製造装置の一例を示す模式図である。
図14図13の多孔質絶縁層の製造装置に追加の印刷部をさらに有した構成例を示す図である。
図15】実施形態に係る電気化学素子用部材の多孔質絶縁層付与物、乃至積層体の製造方法を実現するための多孔質絶縁層の製造装置の他の一例を示す模式図である。
図16】実施形態に係る多孔質絶縁層、乃至積層体の製造方法の他の例を示す図である。
図17】タンクを有する液体吐出ヘッドを示す図である。
図18】ドラム状の中間転写体を用いた印刷部を示す構成図である。
図19】無端ベルト状の中間転写体を用いた印刷部を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について詳細に説明する。各図面において、同一の構成部には同一符号を付し、重複した説明を適宜省略する。
【0010】
以下に示す実施形態は、本開示の技術思想を具体化するための電極形成装置、樹脂構造体の製造装置、電極形成方法、および樹脂構造体の製造方法を例示するものであって、本開示を以下に示す実施形態に限定するものではない。以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本開示の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張している場合がある。各図面において、方向表現として、X軸、Y軸およびZ軸を有する直交座標を用いる。Z方向は、典型的には鉛直方向である。Z正方向側を上、Z負方向を下と表記する。X方向及びY方向は、典型的には水平方向である。
【0011】
本明細書では、気体置換モジュールを有する電極製造装置を一例として主に説明する。電極製造装置は、電極形成装置の一例に対応し、樹脂構造体の製造装置の一例に対応する。この電極製造装置は、活性エネルギー線硬化型の液体組成物を基材上に付与する付与手段を少なくとも有するものである。まず、実施形態に係る液体組成物、重合性化合物、樹脂構造体および基材等について詳細に説明する。
【0012】
<液体組成物>
実施形態に係る液体組成物は、重合性化合物、溶媒、および必要に応じて重合開始剤などのその他成分を含む。また、液体組成物は、硬化させられることで樹脂を骨格とする多孔質構造を有する樹脂構造体(以降の説明において「多孔質樹脂」とも称する)を形成する。
【0013】
なお、本開示において、液体組成物は多孔質樹脂を形成するが、これは、液体組成物中において多孔質樹脂が形成される場合だけでなく、液体組成物中において多孔質樹脂の前駆体(例えば、多孔質樹脂の骨格部)が形成され、その後の工程(例えば、加熱工程等)で多孔質樹脂が形成される場合等も含む意味である。また、液体組成物が多孔質樹脂を形成するとは、液体組成物中の一部成分(重合性化合物等)が硬化(重合)させられることで多孔質樹脂の骨格を形成し、液体組成物中のその他成分(溶媒等)が硬化させられずに多孔質樹脂を形成しない場合等も含む意味である。
【0014】
(重合性化合物)
重合性化合物は、重合することにより樹脂を形成し、液体組成物中において重合した場合に多孔質樹脂を形成する。重合性化合物により形成される樹脂は、活性エネルギー線の付与等(例えば、光の照射や熱を加えること等)で形成される網目状の構造体を有する樹脂であることが好ましく、例えば、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、およびエン-チオール反応により形成される樹脂が好ましい。また、反応性の高いラジカル重合を利用して構造体を形成することが容易な点から、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるアクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂や、ビニル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるビニルエステル樹脂が生産性の観点からより好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、重合性化合の組み合わせとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、柔軟性付与のため、ウレタンアクリレート樹脂を主成分として他の樹脂を混合することが好ましい。なお、本開示ではアクリロイル基またはメタクリロイル基を有する重合性化合物を、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と称する。
【0015】
重合性化合物は、少なくとも1つのラジカル重合性官能基を有することが好ましい。その例としては、1官能、2官能、3官能以上のラジカル重合性化合物、機能性モノマー、およびラジカル重合性オリゴマーなどが挙げられる。これらの中でも、2官能以上のラジカル重合性化合物が好ましい。
【0016】
1官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0017】
2官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
3官能以上のラジカル重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
液体組成物中における重合性化合物の含有量は、液体組成物全量に対して、5.0質量%以上70.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上50.0質量%以下がより好ましく、20.0質量%以上40.0質量%以下が更に好ましい。重合性化合物の含有量が70.0質量%以下である場合、得られる多孔質樹脂の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質樹脂が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、重合性化合物の含有量が5.0質量%以上である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0020】
(溶媒)
溶媒(以降の記載において「ポロジェン」とも称する)は、重合性化合物と相溶する液体である。また、溶媒は、液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。液体組成物中に溶媒が含まれることで、重合性化合物は、液体組成物中において重合した場合に、言い換えると、液体組成物中において第一の活性エネルギー線および第二の活性エネルギー線を順次照射された場合に、多孔質樹脂を形成する。また、光または熱によってラジカル又は酸を発生する化合物(後述する重合開始剤)を溶解可能であることが好ましい。溶媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。なお、溶媒は重合性を有さない。
【0021】
ポロジェンの1種単独としての沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、50℃以上250℃以下であることが好ましく、70℃以上200℃以下であることがより好ましい。沸点が50℃以上であることにより、室温付近におけるポロジェンの気化が抑制されて液体組成物の取扱が容易になり、液体組成物中におけるポロジェンの含有量の制御が容易になる。また、沸点が250℃以下であることにより、重合後のポロジェンを乾燥させる工程における時間が短縮されて、多孔質樹脂の生産性が向上する。また、多孔質樹脂の内部に残存するポロジェンの量を抑制することができるので、多孔質樹脂を物質間の分離を行う物質分離層や反応場としての反応層などの機能層として利用する場合に品質が向上する。また、ポロジェンの1種単独としての沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、120℃以上であることが好ましい。
【0022】
ポロジェンとしては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール類、γブチロラクトン、炭酸プロピレン等のエステル類、NNジメチルアセトアミド等のアミド類等を挙げることができる。また、テトラデカン酸メチル、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、テトラデカン等の比較的分子量の大きな液体も挙げることができる。また、アセトン、2-エチルヘキサノール、1-ブロモナフタレン等の液体も挙げることができる。
【0023】
なお、上記の例示された液体であれば常にポロジェンに該当するわけではない。ポロジェンとは、上記の通り、重合性化合物と相溶する液体であって、且つ液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。言い換えると、ある液体がポロジェンに該当するか否かは、重合性化合物および重合物(重合性化合物が重合することにより形成される樹脂)との関係で決まる。
【0024】
また、液体組成物は、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればいいため、液体組成物作製時の材料選択の幅が広がり、液体組成物の設計が容易になる。液体組成物作製時の材料選択の幅が広がることで、多孔質構造の形成以外の観点で液体組成物に求められる特性がある場合に、対応の幅が広がる。例えば、液体組成物をインクジェット方式で吐出する場合、多孔質形成以外の観点として、吐出安定性等を有する液体組成物であることが求められるが、材料選択の幅が広いため、液体組成物の設計が容易になる。
【0025】
なお、液体組成物は、上記の通り、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればいいため、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有さない液体(ポロジェンではない液体)を追加的に含有していてもよい。但し、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有さない液体(ポロジェンではない液体)の含有量は、液体組成物全量に対して10.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることが更に好ましく、含まれないことが特に好ましい。
【0026】
液体組成物中におけるポロジェンの含有量は、液体組成物全量に対して、30.0質量%以上95.0質量%以下が好ましく、50.0質量%以上90.0質量%以下がより好ましく、60.0質量%以上80.0質量%以下が更に好ましい。ポロジェンの含有量が30.0質量%以上である場合、得られる多孔質体の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質体が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、ポロジェンの含有量が95.0質量%以下である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0027】
液体組成物中における重合性化合物の含有量とポロジェンの含有量の質量比(重合性化合物:ポロジェン)は、1.0:0.4~1.0:19.0が好ましく、1.0:1.0~1.0:9.0がより好ましく、1.0:1.5~1.0:4.0が更に好ましい。
【0028】
((重合誘起相分離))
多孔質樹脂は、重合誘起相分離により形成される。重合誘起相分離は、重合性化合物とポロジェンは相溶するが、重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)とポロジェンは相溶しない(相分離を生じる)状態を表す。相分離により多孔質樹脂を得る方法は他にも存在するが、重合誘起相分離の方法を用いることで、網目構造を有する多孔質体を形成できるために、薬品や熱に対する耐性の高い多孔質体が期待できる。また、他の方法と比較して、プロセス時間が短く、表面修飾が容易といったメリットも挙げられる。
【0029】
次に、重合誘起相分離を用いた多孔質樹脂の形成プロセスについて説明する。重合性化合物は、光照射等により重合反応を生じて樹脂を形成する。このプロセスの間、成長中の樹脂におけるポロジェンに対する溶解度が減少し、樹脂とポロジェンの間における相分離が生じる。最終的に、樹脂は、ポロジェン等が孔を満たしている多孔質構造を形成する。これを乾燥すると、ポロジェン等は除去され、多孔質樹脂が残る。そのため、適切な空隙率を有する多孔質樹脂を形成するため、ポロジェンと重合性化合物との相溶性、およびポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性が検討される。
【0030】
ポロジェンと重合性化合物との相溶性については次のようにして判断する。
まず、液体組成物を石英セルに注入し、攪拌子を用いて300rpmで攪拌させながら、液体組成物の波長550nmにおける光(可視光)の透過率を測定する。本開示では、光の透過率が30%以上である場合を重合性化合物とポロジェンとが相溶の状態、30%未満である場合を重合性化合物とポロジェンとが非相溶の状態であると判断する。なお、光の透過率の測定に関する諸条件を以下に示す。
・石英セル:スクリューキャップ付き特殊ミクロセル(商品名:M25-UV-2)
・透過率測定装置:Ocean Optics社製USB4000
・撹拌速度:300rpm
・測定波長:550nm
・リファレンス:石英セル内が空気の状態で、波長550nmにおける光の透過率を測定して取得する(透過率:100%)
【0031】
ポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性については次のようにして判断する。
【0032】
まず、無アルカリガラス基板上に、スピンコートにより樹脂微粒子を基板上に均一分散させ、ギャップ剤とする。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせる。次に液体組成物を、貼り合わせた基板間に毛細管現象を利用して充填し、「UV照射前ヘイズ測定用素子」を作製する。続いて、UV照射前ヘイズ測定用素子にUV照射して液体組成物を硬化させる。最後に基板の周囲を封止剤で封止することで「ヘイズ測定用素子」を作製する。作製時の諸条件を以下に示す。
【0033】
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した液体組成物量:160μL
・UV照射条件:光源としてUV-LEDを使用、光源波長365nm、照射強度30mW/cm、照射時間20s
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
次に、作製したUV照射前ヘイズ測定用素子とヘイズ測定用素子を用いてヘイズ値(曇り度)を測定する。UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値をリファレンス(ヘイズ値0)とし、ヘイズ測定用素子における測定値(ヘイズ値)のUV照射前ヘイズ測定用素子における測定値に対する上昇率を算出する。ヘイズ測定用素子におけるヘイズ値は、重合性化合物が重合することにより形成される樹脂とポロジェンとの相溶性が低いほど高くなり、相溶性が高いほど低くなる。また、ヘイズ値が高いほど重合性化合物が重合することにより形成される樹脂が多孔質構造を形成しやすくなることを示す。本開示では、ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である場合を樹脂とポロジェンとが非相溶の状態、1.0%未満である場合を樹脂とポロジェンとが相溶の状態であると判断する。なお、測定に用いた装置を以下に示す。
・ヘイズ測定装置:Haze meter NDH5000 日本電色工業製
【0034】
(重合開始剤)
重合開始剤は、光や熱等のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、重合性化合物の重合を開始させることが可能な材料である。重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤やカチオン重合開始剤、塩基発生剤等を、1種単独もしくは2種以上を組み合わせて用いることができ、中でも光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0035】
光ラジカル重合開始剤としては、光ラジカル発生剤を用いることができる。例えば、商品名イルガキュアーやダロキュアで知られるミヒラーケトンやベンゾフェノンのような光ラジカル重合開始剤、より具体的な化合物としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン誘導体、例えばα-ヒドロキシ-もしくは、α-アミノセトフェノン、4-アロイル-1,3-ジオキソラン、ベンジルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、pp'-ジクロロベンゾフェン、pp'-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンゾインn-プロピル、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(ダロキュア1173)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンモノアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド又はチタノセン、フルオレセン、アントラキノン、チオキサントン又はキサントン、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物又はジハロメチル化合物、活性エステル化合物、有機ホウ素化合物、等が好適に使用される。
【0036】
更に、ビスアジド化合物のような光架橋型ラジカル発生剤を同時に含有させても構わない。また、熱のみで重合させる場合は通常のラジカル発生剤であるazobisisobutyronitrile(AIBN)等の熱重合開始剤を使用することができる。
【0037】
重合開始剤の含有量は、十分な硬化速度を得るために、重合性化合物の総質量を100.0質量%とした場合に、0.05質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
(その他)
本開示の液体組成物は、液体組成物中に分散物を含まない非分散系組成物であっても、液体組成物中に分散物を含む分散系組成物であってもよいが、非分散系組成物であることが好ましい。液体組成物が非分散系組成物であることで、液体組成物を様々な付与手段に用いることができるためである。例えば、吐出安定性を維持することが重要となるインクジェット方式にも安定して使用することができるので好ましい。
【0039】
<液体組成物の製造方法>
液体組成物は、重合開始剤を重合性化合物に溶解させる工程、ポロジェンや他の成分を更に溶解させる工程、および均一な溶液とするために撹拌する工程などを経て作製するのが好ましい。
【0040】
<液体組成物の物性>
液体組成物の粘度は、液体組成物を付与する際の作業性の観点から25℃において、1.0mPa・s以上150.0mPa・s以下が好ましく、1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下がより好ましく、1.0mPa・s以上25.0mPa・s以下が特に好ましい。液体組成物の粘度が1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下であることにより、液体組成物をインクジェット方式に適用する場合においても、良好な吐出性が得られる。ここで、粘度は、例えば、粘度計(装置名:RE-550L、東機産業株式会社製)などを使用して測定することができる。
【0041】
<基材>
次に、実施形態に係る基材について説明する。
【0042】
基材の材料としては透明、不透明を問わずあらゆる材料を用いることができる。すなわち、透明基材として、ガラス基材や各種プラスチックフィルム等の樹脂フィルム基材やまたその複合基板などが、また不透明な基材としてはシリコン基材、ステンレス等の金属基材、又はこれらを積層したものなど、種々の基材を用いることができる。なお、基材は、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などの記録媒体であってもよい。また、記録媒体としては、低浸透性基材(低吸収性基材)であってもよい。低浸透性基材とは、水透過性、吸収性、又は吸着性が低い表面を有する基材を意味し、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれる。低浸透性基材としては、商業印刷に用いられるコート紙や、古紙パルプを中層、裏層に配合して表面にコーティングを施した板紙のような記録媒体等が挙げられる。なお、基材は、蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層として用いられる多孔質樹脂シートであってもよい。
【0043】
電極製造に用いる基材としては、正極負極の電極基材が挙げられ、具体的にはアルミ箔や銅箔等が挙げられる。また、実施形態に係る電極製造装置における製膜対象がセパレータ層ならば、基材は、アルミ箔あるいは銅箔上に活物質層が形成された電極基材であることが望ましい。活物質層の一例としては主にカーボン等で構成され、電解液が透過できるような多孔質体である。
【0044】
また、形状に関しても曲面であっても凹凸形状を有するものであっても、印刷工程部、重合工程部、重合工程部に適用可能な基材ならば使用することができる。
【0045】
<樹脂構造体>
次に、実施形態に係る樹脂構造体について説明する。
【0046】
液体組成物によって形成される樹脂を骨格とする多孔質構造を有する樹脂構造体(多孔質樹脂)の膜厚は、特に限定はされないが、重合時の硬化均一性を考慮して0.01μm以上500μm以下であることが好ましく、0.01μm以上100μm以下であることがより好ましく、1μm以上50μm以下であることが更に好ましく、10μm以上20μm以下であることが特に好ましい。膜厚が0.01μm以上であることで、得られる多孔質樹脂の表面積が大きくなり、多孔質樹脂による機能を十分に得ることができる。また、膜厚が500μm以下であることで、膜厚方向において重合時に用いる光や熱のムラが抑制され、膜厚方向において均一な多孔質樹脂を得ることができる。膜厚方向において均一な多孔質樹脂を作製することで多孔質樹脂の構造ムラを抑制し、液体や気体の透過性低下を抑制することができる。なお、多孔質樹脂の膜厚に関しては、多孔質樹脂が使用される用途に応じて適宜調整される。例えば、多孔質樹脂を蓄電素子用絶縁層として用いる場合は、10μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0047】
形成される多孔質樹脂は、特に限定されないが、液体や気体の良好な浸透性を確保する観点から、樹脂の硬化物の三次元分岐網目構造を骨格として有し、多孔質樹脂中の複数の孔が連続して連結している共連続構造(モノリス構造とも称する)を有することが好ましい。すなわち、多孔質樹脂は多数の孔を有しており、一つの孔がその周囲の他の孔と連結した連通性を有して三次元的に広がっていることが好ましい。孔同士が連通することで、液体や気体の浸み込みが十分に起き、物質分離や反応場といった機能を効率的に発現することができる。
【0048】
なお、共連続構造を有することで得られる物性の一つとして透気度が挙げられる。多孔質樹脂の透気度は、例えば、JIS P8117に準拠して測定され、500秒/100mL以下である場合が好ましく、300秒/100mL以下である場合がより好ましい。このとき、透気度は、例えば、ガーレー式デンソメーター(東洋精機製作所製)等を用いて測定される。
【0049】
形成される多孔質樹脂が有する孔の断面形状は、略円形状、略楕円形状、略多角形状等の様々な形状および様々な大きさであって構わない。ここで、孔の大きさとは、断面形状における最も長い部分の長さを指すものとする。孔の大きさは、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した断面写真から求めることができる。多孔質樹脂の有する孔の大きさに関しては、特に限定はされないが、液体や気体の浸透性の観点から0.01μm以上10μm以下であることが好ましい。また、多孔質樹脂の空隙率としては、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。多孔質樹脂の有する孔の大きさおよび空隙率をこれらの範囲にする方法としては、特に限定されないが、例えば、液体組成物中における重合性化合物の含有量を上記の範囲に調整する方法、液体組成物中におけるポロジェンの含有量を上記の範囲に調整する方法、および活性エネルギー線の照射条件を調整する方法等が挙げられる。
【0050】
(樹脂構造体の用途)
((蓄電素子用途または発電素子用途))
上記の液体組成物を用いて形成される樹脂を骨格とする多孔質構造を有する樹脂構造体(多孔質樹脂)は、例えば、蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層として用いることができる。これら用途として用いる場合には、例えば、電極基体上に予め形成された活物質層上へ液体組成物を付与することで絶縁層(セパレーター)を形成することが好ましい。
【0051】
蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層としては、例えば、所定の大きさの空孔や空隙率を有するフィルム状の多孔質絶縁層等を用いることが知られている。一方で、上記の液体組成物を用いた場合、重合性化合物の含有量、ポロジェンの含有量、活性エネルギー線の照射条件等を適宜調整することで空孔や空隙率を適宜変更することができ、蓄電素子および発電素子の性能面における設計自由度を向上させることができる。また、上記の液体組成物は、多様な付与方法に展開可能であるため、例えば、インクジェット方式で付与することができ、蓄電素子および発電素子の形状面における設計自由度を向上させることができる。
【0052】
なお、絶縁層は、正極と負極を隔離し、かつ正極と負極との間のイオン伝導性を確保する部材である。また、本開示において絶縁層と表す場合、層状の形状に限られない。
【0053】
また、上記の液体組成物は、蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層(第一の絶縁層)上に付与されることで、追加的に、多孔質樹脂層からなる絶縁層(第二の絶縁層)を形成することができる。第一の絶縁層上に第二の絶縁層を形成することで、絶縁層全体としての耐熱性、耐衝撃性、耐高温収縮性といった諸機能を追加又は向上させることができる。
【0054】
電極基体は導電性を有する基体であれば、特に制限はなく、一般に蓄電デバイスである2次電池、キャパシター、なかでもリチウムイオン2次電池に好適に用いることができる、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、チタニウム箔および、それらをエッチングして微細な穴を開けたエッチド箔や、リチウムイオンキャパシターに用いられる穴あき電極基体などが用いられる。また、燃料電池のような発電デバイスで用いられるカーボンペーパー繊維状の電極を不織または織状で平面にしたものや上記穴あき電極基体のうち微細な穴を有するものも使用できる。更に、太陽光デバイスの場合、上記電極に加えてガラスやプラスチックスなどの平面基体上に、インジウム・チタン系の酸化物や亜鉛酸化物のような、透明な半導体薄膜を形成したものや、導電性電極膜を薄く蒸着したものを用いることができる。
【0055】
活物質層は、粉体状の活性物質や触媒組成物を液体中に分散し、かかる液を電極基体上に塗布、固定、乾燥することによって形成されており、通常はスプレー、ディスペンサー、ダイコータや引き上げ塗工を用いた印刷が用いられ、塗布後に乾燥して形成される。
【0056】
正極活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵および放出できる材料であれば特に限定されない。典型的には、アルカリ金属含有遷移金属化合物を正極用活物質として使用できる。例えばリチウム含有遷移金属化合物として、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄およびバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素とリチウムとを含む複合酸化物が挙げられる。例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどのリチウム含有遷移金属酸化物、LiFePO4などのオリビン型リチウム塩、二硫化チタン、二硫化モリブデンなどのカルコゲン化合物、二酸化マンガンなどが挙げられる。リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む金属酸化物または該金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。異種元素としては、例えばNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bなどが挙げられ、なかでもMn、Al、Co、NiおよびMgが好ましい。異種元素は1種でもよくまたは2種以上でもよい。これらの正極活物質は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。ニッケル水素電池における上記活物質としては水酸化ニッケルなどが挙げられる。
【0057】
負極活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵および放出できる材料であれば特に限定されない。典型的には、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料を負極活物質として使用できる。そのような炭素材料として、天然黒鉛、球状又は繊維状の人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。炭素材料以外の材料としては、チタン酸リチウムが挙げられる。また、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高める観点から、シリコン、錫、シリコン合金、錫合金、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化錫等の高容量材料も負極活物質として好適に使用できる。
【0058】
[実施形態]
<電極製造装置100の全体構成>
図1は、実施形態に係る電極製造装置100の全体構成の一例を説明する図であり、電極製造装置100の模式的透視側面図である。
【0059】
図1に示すように、電極製造装置100は、気体置換モジュール1と、搬送手段13と、付与手段2と、照射手段3と、加熱手段4と、検査手段5と、制御手段6と、を有する。気体置換モジュール1は、第1の室11と、第1の気体供給手段12と、第2の室14と、第2の気体供給手段15と、を有する。搬送手段13は、巻き出しロール131と、支持ロール132~136と、巻取りロール137と、を有する。
【0060】
電極製造装置100は、搬送手段13により、基材7を搬送方向70に搬送する。搬送方向70における上流から下流に向け、巻き出しロール131、支持ロール132、支持ロール133、付与手段2、照射手段3および第1の室11、第2の室14、加熱手段4、支持ロール134、支持ロール135、検査手段5、支持ロール136、巻取りロール137がこの順で配置されている。照射手段3および第1の室11の配置位置は、搬送方向70においてほぼ同じであってもよい。
【0061】
本実施形態では、電極製造装置100は、付与手段2により、重合性化合物を含む液体組成物を基材7上に付与し、照射手段3により、付与手段2で付与された基材7上の液体組成物に活性エネルギー線としての紫外線を照射する。照射手段3は、付与手段2により液体組成物が付与された後、第1の室11の内部を搬送される基材7上の液体組成物に紫外線を照射する。
【0062】
電極製造装置100は、例えば電池製造において、正負の電極間に設けられる機能層を形成するものである。また電極製造装置100は、ロール状に巻かれた状態から巻き出された基材7上に、紫外線硬化型の液体組成物を連続して付与し、基材上に液体組成物による樹脂構造体を形成した後、再度ロールに巻き取る、いわゆるロールツーロール方式のものである。なお、本明細書では、活性エネルギー線硬化型の液体組成物の一例として紫外線硬化型の液体組成物を例示するが、これに限定されるものではなく、液体組成物は、熱線硬化型や電子線硬化型等の液体組成物であってもよい。
【0063】
より具体的には、電極製造装置100は、巻き出しロール131から巻き出され、搬送方向70に沿って搬送される基材7上に、付与手段2により液体組成物を所定の厚みになるように付与する。電極製造装置100は、基材7上に付与された液体組成物に対し、複数の照射手段3から紫外線を照射して液体組成物を硬化させる。その後、電極製造装置100は、加熱手段4により基材7上の液体組成物を加熱して乾燥させ、液体組成物を基材7上に定着させて樹脂構造体を形成する。電極製造装置100は、基材7上に定着された樹脂構造体を検査手段5により検査した後、巻取りロール137により巻き取る。樹脂構造体が形成され、巻取りロール137により巻き取られた基材7は、巻き取り後のロールの状態で、次工程に回されるか、あるいは完成品として出荷される。支持ロール132~136は、各構成部間を搬送される基材7を支持するために使用される。支持ロールが配置される位置、個数は適宜変更可能である。
【0064】
電極製造装置100における気体置換モジュール1では、第1の室11は、第1の開口と第2の開口とを有し、第1の室11の内部に存在する気体を第1の気体に置換可能である。第1の室11は、ガラス、プラスチック等の素材により構成されたチャンバ等の収容器である。
【0065】
第1の気体供給手段12は、第1の室11の内部に第1の気体を供給する。第1の気体供給手段12は、第1の気体を供給するボンベや、ボンベからの第1の気体の供給量および供給速度等を調整可能なレギュレータ等を含んで構成される。第1の気体供給手段12は、第1の気体の質量または流量を計測可能なマスフローメータ等を含んでもよい。
【0066】
第2の室14は、後述する搬送手段13により基材が搬送される搬送方向70における第1の室11の下流側に配置される。第2の室14は、ガラス、プラスチック等の素材により構成されたチャンバ等の収容器である。本実施形態では特に、第2の室14の内圧は、大気圧以上で且つ第1の室11の内圧以下である。
【0067】
第2の気体供給手段15は、搬送方向70における第1の室11の下流側に配置された第2の室14の内部に第2の気体を供給する。第2の気体供給手段15は、第2の気体を供給するボンベや、ボンベからの第2の気体の供給量および供給速度等を調整可能なレギュレータ等を含んで構成される。第2の気体供給手段15は、第2の気体の質量または流量を計測可能なマスフローメータ等を含んでもよい。また、第2の気体供給手段15は、圧縮空気装置やDC(Direct Current)ファン等により構成されてもよい。
【0068】
なお、気体置換モジュール1の構成については、別途、図3図4も参照して詳述する。
【0069】
搬送手段13は、基材7を、少なくとも、第1の開口を通して第1の室11の内部へ搬入し、第2の開口を通して第1の室11の外部へ搬出するように搬送する。
【0070】
付与手段2は、液体組成物を吐出する吐出部2a、2b、2cおよび2dを含む。吐出部2a、2b、2cおよび2dのそれぞれは、搬送方向70および上下方向のそれぞれに略直交する幅方向71に沿って配置された複数のノズルを有し、複数のノズルからインクジェット方式により液体組成物を吐出する。付与手段2は、吐出部2a、2b、2cおよび2dのそれぞれのノズルから吐出される液体組成物を基材7上に付与する。
【0071】
付与手段2は、例えば液体組成物を付与することにより、正極基材および負極基材の少なくとも一方を含む基材上に、多孔質樹脂層を含む樹脂構造体を形成する。樹脂構造体は、多孔質樹脂層を含むことにより、ロール状態で真空乾燥が施された場合にもブロッキング現象を低減することができる。なお、ブロッキング現象とは、樹脂構造体同士が固着する現象をいう。
【0072】
上記の樹脂構造体は、例えば正極と負極との間に設けられるセパレータ層である。セパレータ層を形成する場合には、付与手段2によって基材7に付与される液体組成物の厚みは、10μm以上50μm以下の範囲内であってもよい。製膜物質は樹脂を主体とすることから、液体組成物は、樹脂前駆体(モノマー)を主体として溶剤等を含んだ液体、あるいはゲル状のものになる。
【0073】
付与手段2による付与方式には、インクジェット方式の他、ダイコータ方式、ワイヤーバー方式、ドクターブレード方式または印刷方式等が適用でき、印刷方式にはオフセット印刷、カールソンプロセス方式またはインクジェット方式等が適用できる。
【0074】
複数の照射手段3は、搬送される基材7に向き合うようにして、搬送方向70に並んで配置される。複数の照射手段3のそれぞれは、基材7に紫外線を照射する。なお、照射手段3は少なくとも1つあればよい。
【0075】
加熱手段4は、搬送方向70における第2の室14の下流側に配置され、付与手段2により基材7上に付与された液体組成物を加熱する。図1に示す例では、複数の加熱手段4は、基材7上に付与された液体組成物を加熱することにより、液体組成物の内部に残留した液体成分を蒸発させる。インクジェット方式により液体組成物を付与する場合には、適切な粘度に調整するために、液体組成物には紫外線硬化樹脂以外に溶剤等の液体が処方される場合がある。加熱手段4は、このような液体を揮発させることができる。
【0076】
加熱手段4による加熱方式には、温度の高い乾燥炉内を通過させる方式、温風を吹き付ける方式、赤外線を照射する方式、高熱の回転ドラム等に基材7を巻き付ける方式または高周波誘電方式等が挙げられる。
【0077】
複数の加熱手段4は、筐体40の内部に収容されている。本実施形態では、筐体40の内部から外部に熱気が排出されるのを防止するため、筐体40の内圧は負圧になっている。
【0078】
本実施形態では、照射手段3による照射によって発生し、第2の室14を通って第2の室14の外部に排出される不活性ガスが筐体40内に吸気されるように、筐体40は、搬送方向70における照射手段3の下流側に配置されてもよい。第2の室14からのガスを効率よく吸気されるように、筐体40は、照射手段3の近くに配置されることが好ましい。筐体40は、第2の室14から排出された気体の少なくとも一部を吸気する手段に対応する。筐体40により、照射手段3による紫外線の照射によって発生する不活性ガスを吸気することで、電極製造装置100は、不活性ガスが電極製造装置100の周囲に拡散されることを防ぐことができる。
【0079】
また、本実施形態では、筐体40は加熱手段4を含んでもよい。筐体40が加熱手段4を含むことで、電極製造装置100の構成を簡略化することができる。
【0080】
さらに、本実施形態では、付与手段2も所定の収容部の内部に配置され、この収容部内がミストの飛散抑制の観点から負圧に保たれてもよい。この場合には、付与手段2の収容部内では、搬送方向70における上流側の負圧の絶対値よりも、照射手段3に近い下流側の負圧の絶対値が大きい方が好ましい。このようにすることで、照射手段3による照射によって排出される不活性ガスが付与手段2の収容部内に流入し、付与手段2による液体組成物の基材7への付与に悪影響を生じさせることを低減することができる。
【0081】
検査手段5は、基材7上に形成された液体組成物による樹脂構造体の品質を検査する。検査手段5は高速度カメラを含み、樹脂構造体の厚みムラやピンホールの有無等の欠陥を検査し、基材7上における欠陥箇所の位置情報等を含む検査結果を記憶する。
【0082】
制御手段6は、電極製造装置100の動作を制御する。制御手段6は、例えばコンピュータにより構築される。本実施形態では、制御手段6は、第1の室11および第2の室14それぞれの内圧を制御する。なお、制御手段6は、任意の位置に配置可能である。
【0083】
<付与手段2の構成例>
図2は、付与手段2の構成の一例を説明する図である。図2は、液体組成物が吐出される方向側から視た付与手段2を示している。図1に示した電極製造装置100において、基材7は、付与手段2に含まれる吐出部2a、2b、2cおよび2dに向き合った状態において、搬送方向70に沿って搬送される。
【0084】
図2に示すように、吐出部2a、2b、2cおよび2dは、ライン型の吐出部を構成してもよい。ここで、ライン型の吐出部とは、幅方向71において、基材7上に液体組成物を付与する付与幅20全体にわたって複数のノズルが設けられたものをいう。電極製造装置100は、ライン型の吐出部を用いることで、基材7内における広い面積に一度に液体組成物を付与でき、電極製造を高速化することができる。
【0085】
吐出部2a、2b、2cおよび2dのそれぞれは、幅方向71に沿って配置された4つのヘッド21を有する。4つのヘッド21は、幅方向71に沿って配置された複数のノズル22を有する。
【0086】
吐出部2a、2b、2cおよび2dは、幅方向71において基材7上に液体組成物を付与する付与幅20全体にわたって配置された複数のノズル22から液体組成物を吐出することにより、基材7上に液体組成物を付与する。従って、付与手段2は、移動することなく、基材7上の付与幅20全体に液体組成物を付与できる。なお、1つの吐出部が備えるヘッドの数は、幅方向71における付与幅20の長さに応じて適宜変更できる。
【0087】
4つのヘッド21では、液体組成物に刺激を印加して液体組成物を吐出させる手段を目的に応じて適宜選択でき、例えば、加圧装置、圧電素子、振動発生装置、超音波発振器、ライト等を使用できる。具体的には、圧電素子等の圧電アクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータ等がある。
【0088】
これらの中でも、特に4つのヘッド21内のインク流路内にある圧力室(液室等とも称する)と呼ばれる位置に接着された圧電素子に電圧を印加するものが好ましい。この4つのヘッド21は、電圧の印加により圧電素子が撓み、圧力室の容積が縮小することで圧力室中のインクを加圧し、ノズルからインクを液滴として吐出する。
【0089】
また、吐出部2a、2b、2cおよび2dは、それぞれ吐出ユニットを備えてもよい。吐出ユニットとは、吐出部2a、2b、2cおよび2dからの液体組成物の吐出に関連する機能部品、機構の集合体である。吐出ユニットは、供給機構、維持回復機構、液体吐出ヘッド移動機構の構成の少なくとも一つを吐出部2a、2b、2cおよび2dそれぞれと組み合わせたもの等を含む。
【0090】
[基材に液体組成物を直接的に付与することで多孔質樹脂層を形成する実施形態]
図13は、本実施形態の電極製造方法を実現するための電極製造装置(電極形成装置)の一例を示す模式図である。
【0091】
電極製造装置500は、上記した液体組成物を用いて多孔質樹脂層を製造する装置である。電極製造装置は、印刷基材4A上に、液体組成物を付与して液体組成物層を形成する付与処理を実施する印刷部100Aと、液体組成物層に熱又は光を付与して重合させる重合処理を実施する重合部200と、液体組成物を重合処理することで得られた多孔質樹脂前駆体5Bを加熱し、その孔内の溶媒を除去することで多孔質樹脂を得る除去処理を実施する除去部300を備える。電極製造装置は、印刷基材4Aを搬送する搬送部7Aを備え、搬送部7Aは、印刷部100A、重合部200、除去部300の順に印刷基材4Aをあらかじめ設定された速度で搬送する。
【0092】
-印刷部100A-
印刷部100Aは、印刷基材4A上に多孔質樹脂層を形成するための液体組成物を付与する付与工程を実現する付与手段の一例である印刷装置1aAと、液体組成物を収容する収容容器1bと、収容容器1bに貯留された液体組成物を印刷装置1aAに供給する供給チューブ1cを備える。
【0093】
収容容器1bは、液体組成物5Aを収容し、印刷部100Aは、印刷装置1aAから液体組成物5Aを吐出して、搬送部7Aにより搬送される印刷基材4A上に液体組成物5Aを付与して液体組成物層を薄膜状に形成する。なお、収容容器1bは、電極製造装置と一体化した構成であってもよいが、電極製造装置から取り外し可能な構成であってもよい。また、電極製造装置と一体化した収容容器や電極製造装置から取り外し可能な収容容器に添加するために用いられる容器であってもよい。また図14に示すように印刷部100Aは複数設けられていてもよい。
【0094】
収容容器1bや供給チューブ1cは、液体組成物5Aを安定して貯蔵及び供給できるものであれば任意に選択可能である。収容容器1bや供給チューブ1cを構成する材料は、紫外及び可視光の比較的短波長領域において遮光性を有することが好ましい。これにより、液体組成物5Aが外光により重合開始されることが防止される。
【0095】
-重合部200-
重合部200は、図13に示すように、光重合の場合、重合工程を実施する重合手段の一例である照射手段3と、重合不活性気体を循環させる気体置換モジュール1を有し、照射手段3は、印刷部100Aにより形成された液体組成物層に重合不活性気体存在下において光を照射し、光重合させて多孔質樹脂前駆体5Bを得る。
【0096】
照射手段3は、液体組成物層に含まれる光重合開始剤の吸収波長に応じて適宜選択され、液体組成物層中の化合物の重合を開始及び進行させられるものならば特に限定はなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、熱陰極管、冷陰極管、LED等の紫外線光源などが挙げられる。ただし、短波長の光ほど一般に深部に到達しやすい傾向を持つため、形成する多孔質膜の厚みに応じて光源を選択することが好ましい。
【0097】
次に、照射手段3の光源の照射強度に関して、照射強度が強すぎると相分離が十分に起きる前に急激に重合が進行するため、多孔質構造が得られにくい傾向がある。また、照射強度が弱すぎる場合は、相分離がミクロスケール以上に進行し、多孔質のばらつきや粗大化が起きやすい。また、照射時間も長くなり、生産性が低下する傾向にある。そのため、照射強度としては10mW/cm以上1W/cm以下が好ましく、30mW/cm以上300mW/cm以下がより好ましい。
【0098】
気体置換モジュール1は、大気中に含まれる重合活性な酸素濃度を低下させ、液体組成物層の表面近傍の重合性化合物の重合反応を阻害されることなく進行させる役割を担う。そのため、用いられる重合不活性気体は上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えば窒素や二酸化炭素やアルゴンなどが挙げられる。
【0099】
重合不活性気体のO2濃度としては、阻害低減効果が効果的に得られることを考慮して、20%未満(大気よりも酸素濃度が低い環境)が好ましく、0%以上15%以下がより好ましく、0%以上5%以下が更に好ましい。また、気体置換モジュール1は安定した重合進行条件を実現させるために、温度を調節できる温調手段が設けられていることが好ましい。
【0100】
重合部200は、熱重合の場合は、加熱装置であってもよい。加熱装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、基板加熱(例えば、ホットプレート)、IRヒータ、温風ヒータなどが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
【0101】
また、加熱温度や時間、又は光照射の条件に関しては、液体組成物5Aに含まれる重合性化合物や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0102】
-除去部300-
除去部300は、図13に示すように、加熱装置3aを有し、重合部200により形成した多孔質樹脂前駆体5Bを加熱装置3aにより加熱して、残存する液体を乾燥させて除去する液体除去工程を行う。これにより多孔質樹脂を形成することができる。除去部300は、液体除去を減圧下で実施してもよい。
【0103】
また、除去部300は、多孔質樹脂前駆体5Bを加熱装置3aにより加熱して、重合部200で実施した重合反応を更に促進させる重合促進工程、及び多孔質樹脂前駆体5Bに残存する光重合開始剤を、加熱装置3aにより加熱して乾燥させて除去する開始剤除去工程も行う。なお、これらの重合促進工程及び開始剤除去工程は、液体除去工程と同時ではなく、液体除去工程の前又は後に実施されてもよい。
【0104】
さらに、除去部300は、液体除去工程後に、多孔質を減圧下で加熱する重合完了工程を行う。加熱装置3aは、上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えばIRヒータや温風ヒータなどが挙げられる。
【0105】
また、加熱温度や時間に関しては、多孔質樹脂前駆体5Bに含まれる液体の沸点や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0106】
図15は、本実施形態の多孔質樹脂層付与物製造方法を実現するための多孔質樹脂層の製造装置(電極形成装置)の他の一例を示す模式図である。
【0107】
液体吐出装置300'は、ポンプ310と、バルブ311、312を制御することにより、液体組成物が液体吐出ヘッド306、タンク307、チューブ308を循環することが可能である。
【0108】
また、液体吐出装置300'は、外部タンク313が設けられており、タンク307内の液体組成物が減少した際に、ポンプ310と、バルブ311、312、314を制御することにより、外部タンク313からタンク307に液体組成物を供給することも可能である。
【0109】
上記電極製造装置を用いると、付与対象物の狙ったところに液体組成物を吐出することができる。
【0110】
本実施形態の多孔質樹脂層の製造方法の他の例を図16に示す。
【0111】
基材上に多孔質樹脂が付与された付与物210の製造方法は、液体吐出装置300'を用いて、基材211上に、液体組成物12Aを、順次吐出する工程を含む。
【0112】
まず、細長状の基材211を準備する。そして、基材211を筒状の芯に巻き付け、多孔質樹脂212を形成する側が、図16中、上側になるように、送り出しローラ304と巻き取りローラ305にセットする。ここで、送り出しローラ304と巻き取りローラ305は、反時計回りに回転し、基材211は、図16中、右から左の方向に搬送される。そして、送り出しローラ304と巻き取りローラ305の間の基材211の上方に設置されている液体吐出ヘッド306から、液体組成物12Aの液滴を、順次搬送される基材211上に吐出する。
【0113】
なお、液体吐出ヘッド306は、基材211の搬送方向に対して、略平行な方向又は略垂直な方向に、複数個設置されていてもよい。次に、液体組成物12Aの液滴が吐出された基材211は、送り出しローラ304と巻き取りローラ305によって、重合部309に搬送される。その結果、多孔質樹脂212が形成され、基材上に多孔質樹脂が設けられた付与物210が得られる。その後、多孔質樹脂が付与された付与物210は、打ち抜き加工等により、所望の大きさに切断される。
【0114】
重合部309は、基材211の上下の何れか一方に設置されてもよいし、複数個設置されていてもよい。
【0115】
重合部309としては、液体組成物12Aに直接接触しなければ、特に制限はなく、例えば、熱重合の場合、抵抗加熱ヒータ、赤外線ヒータ、ファンヒータ等;光重合の場合、紫外線照射装置などが挙げられる。なお、重合部309は、複数個設置されていてもよい。
【0116】
加熱又は光照射の条件は、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。重合により液体組成物12Aが重合されて多孔質樹脂が形成される。
【0117】
また、図17のように、タンク307Aは、タンク307Aに接続されたタンク313Aから液体組成物を供給してもよく、液体吐出ヘッド306は、複数の液体吐出ヘッド306A、306Bを有してもよい。
【0118】
[基材に液体組成物を間接的に付与することで多孔質樹脂層を形成する実施形態]
図18~19は、本実施形態の電極製造装置としての、付与手段としてインクジェット方式、及び転写方式を採用した印刷部の一例を示す構成図であり、図18は、ドラム状の中間転写体を用いた印刷部、図19は、無端ベルト状の中間転写体を用いた印刷部を示す構成図である。
【0119】
図18に示した印刷部400´は、中間転写体4001を介して基材に液体組成物乃至多孔質樹脂を転写することで基材上に多孔質樹脂を形成する、インクジェットプリンタである。
【0120】
印刷部400´は、インクジェット部420、転写ドラム4000、前処理ユニット4002、吸収ユニット4003、加熱ユニット4004および清掃ユニット4005を備える。
【0121】
インクジェット部420は、複数のヘッド101を保持したヘッドモジュール422を備える。ヘッド101は、転写ドラム4000に支持された中間転写体4001に液体組成物を吐出し、中間転写体4001上に液体組成物層を形成する。各ヘッド101は、ラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの基材の記録領域の幅をカバーする範囲にノズルが配列されている。ヘッド101は、その下面に、ノズルが形成されたノズル面を有しており、ノズル面は、微小間隙を介して中間転写体4001の表面と対向している。本実施形態の場合、中間転写体4001は円軌道上を循環移動する構成であるため、複数のヘッド101は、放射状に配置される。
【0122】
転写ドラム4000は、圧胴621と対向し、転写ニップ部を形成する。前処理ユニット4002は、ヘッド101による液体組成物の吐出前に、例えば、中間転写体4001上に、液体組成物の粘度を高めるための反応液を付与する。吸収ユニット4003は、転写前に、中間転写体4001上の液体組成物層から液体成分を吸収する。加熱ユニット4004は、転写前に、中間転写体4001上のインク層を加熱する。液体組成物層を加熱することで、液体組成物を熱重合させて、多孔質樹脂を形成する。また、液体が除去され、基材への転写性が向上する。清掃ユニット4005は、転写後に中間転写体4001上を清掃し、中間転写体4001上に残留したインクやごみ等の異物を除去する。
【0123】
圧胴621の外周面は、中間転写体4001に圧接しており、圧胴621と中間転写体4001との転写ニップ部を基材が通過するときに、中間転写体4001上の多孔質樹脂が基材に転写される。なお、圧胴621は、その外周面に基材の先端部を保持するグリップ機構を少なくとも1つ備えた構成としてもよい。
【0124】
図19に示した印刷部400´´は、中間転写ベルト4006を介して基材に液体組成物乃至多孔質樹脂を転写することで基材上に多孔質樹脂を形成する、インクジェットプリンタである。
【0125】
印刷部400´´は、インクジェット部420に設けた複数のヘッド101から液体組成物の液滴を吐出して、中間転写ベルト4006の外周表面上に液体組成物層を形成する。中間転写ベルト4006に形成された液体組成物層は、加熱ユニット4007によって加熱され、熱重合することで多孔質樹脂を形成し、中間転写ベルト4006上で膜化する。
【0126】
中間転写ベルト4006が転写ローラ622と対向する転写ニップ部において、中間転写ベルト4006上の膜化した多孔質樹脂は基材に転写される。転写後の中間転写ベルト4006の表面は、清掃ローラ4008によって清掃される。
【0127】
中間転写ベルト4006は、駆動ローラ4009a、対向ローラ4009b、複数(本例では4つ)の形状維持ローラ4009c,4009d,4009e,4009f、および複数(本例では4つ)の支持ローラ4009gに架け渡され、図中矢印方向に移動する。ヘッド101に対向して設けられる支持ローラ4009gは、ヘッド101からインク滴が吐出される際の中間転写ベルト4006の引張状態を維持する。
【0128】
[第1実施形態]
<気体置換モジュール1の構成例>
図3および図4を参照して、第1実施形態に係る気体置換モジュール1の構成の一例を説明する。図3は、気体置換モジュール1の上面図である。図4は、図3におけるIV-IV線の断面図である。図3および図4では、気体置換モジュール1と、照射手段3と、を示している。
【0129】
電極製造装置100は、照射手段3によって、基材7上に付与された液体組成物に、光源から所定の強度で所定の時間、紫外線を照射することにより、多孔質樹脂層を含む樹脂構造体を形成する。所望の多孔質層を効率的に形成するためには、略均一な光強度の紫外線を広い面積に照射することが求められる。そのため、電極製造装置100は、図3および図4に示すように、基材7の搬送方向70に沿って配置された複数の照射手段3を備え、略均一な光強度の紫外線を広い面積に照射可能に構成される。基材7と照射手段3との間の距離や、隣り合う照射手段3同士の搬送方向70における距離等は、照射手段3が発する紫外線の指向性に応じて適正化される。
【0130】
紫外線の照射により重合性化合物を硬化させる場合、硬化対象となる重合性化合物の周辺に酸素が存在すると硬化が阻害される場合がある。このため、電極製造装置100は、気体置換モジュール1が備える第1の室11内の酸素濃度を低くし、第1の室11の内部を通過中の基材7上の液体組成物に紫外線を照射することにより、液体組成物硬化時の酸素阻害を低減する。なお、第1の室11における少なくとも照射手段3に向き合う部分は、紫外線に対して光透過性を有するガラス、樹脂等の材料により構成されている。
【0131】
気体置換モジュール1は、第1の気体供給手段12により、第1の室11の内部に第1の気体S1を供給する。第1の気体供給手段12は、第1の継手部材121、管状部材122および複数の気体供給孔123を含む。第1の気体供給手段12は、第1の継手部材121、管状部材122および複数の気体供給孔123を介して、第1の室11の内部に第1の気体S1を供給できる。
【0132】
気体置換モジュール1は、第1の室11の内部に存在する気体を、第1の気体供給手段12から供給する第1の気体S1に置換することにより、第1の室11内の酸素濃度を低下させる。また、気体置換モジュール1では、例えば制御手段6が第1の気体供給手段12から供給される第1の気体S1の流量、流速等を制御することにより、第1の室11の内圧を変化させることができる。第1の気体S1には、例えば不活性ガスを使用できる。不活性ガスには、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0133】
第1の室11内における単位面積当たりの酸素濃度は、0.01%以下であることが好ましい。また、第1の気体供給手段12から供給される第1の気体S1の単位面積当たりの酸素含有量は、0.01%以下であることが好ましい。第1の気体S1の単位面積当たりの酸素含有量を0.01%以下にすることで、第1の室11内における単位面積当たりの酸素濃度を0.01%以下とし、液体組成物硬化時の酸素阻害を低減することができる。単位体積当たりの窒素濃度が99.999%以上である窒素ガス入りボンベ等が数多く市販されているため、これを用いることで、第1の気体における単位体積当たりの酸素含有量を0.01%以下にすることができる。
【0134】
第1の開口111および第2の開口112のそれぞれは、第1の室11の内部と外部を連通させる貫通孔である。基材7は、第1の開口111を通って第1の室11の内部に搬入され、第2の開口112を通って第1の室11の外部に搬出される。
【0135】
第1の開口111および第2の開口112それぞれの平面視における形状は、幅方向71を長手とする略長方形であることが好ましい。この形状により、基材7を通しつつ、できるだけ開口面積を小さくすることができる。
【0136】
また、基材7は、搬送時に、その厚み方向にバタついたり、幅方向71に蛇行移動したりする場合がある。従って、基材7が通過する際に、第1の開口111および第2の開口112の一部が基材7上の液体組成物に接触しないようにするために、幅方向71における第1の開口111および第2の開口112それぞれの長さは、基材7の幅方向71における長さよりも十分に長いことが好ましい。且つ、基材7の厚み方向における第1の開口111および第2の開口112それぞれの長さは、基材7の厚みの長さよりも十分に長いことが好ましい。但し、上記に限定されるものではなく、第1の開口111および第2の開口112それぞれの平面視における形状は、略楕円形、略多角形であってもよいし、第1の開口111と第2の開口112との間で該形状が異なっていてもよい。
【0137】
気体置換モジュール1は、第2の気体供給手段15から、第2の継手部材141を介して第2の室14の内部に第2の気体S2を供給する。第2の気体S2は、第1の開口から第1の室の内部へ流入する空気を低減するために用いられる。気体置換モジュール1では、例えば、制御手段6が第2の気体供給手段15から供給される第2の気体S2の流量、流速等を制御することにより、第2の室14の内圧を変化させることができる。
【0138】
ここで、第1の室11は、第1の開口111および第2の開口112を備えるため、これらを通って第1の室11の内部に酸素が流入する場合がある。特に、基材7が搬入される第1の開口111では、境界層の効果で基材7が空気を第1の室11内に持ち込もうとするため、搬送される基材7に伴って第1の室11の外部から大気中の酸素が第1の室11の内部へ流入する場合がある。
【0139】
本実施形態では、第1の室11の内圧は、大気圧よりも高い。また、第2の室14の内圧は、大気圧以上で且つ第1の室11の内圧以下である。これらにより、第1の開口111または第2の開口112を通って第1の室11の外部から内部へ空気が流入することを低減できる。また、搬送される基材7に伴って第1の室11の内部へ流入する空気を低減できる。これらにより、空気中の酸素が第1の室11の内部へ流入することを低減できる。
【0140】
例えば、第1の室11の内部へ流入する空気を低減するために、第2の気体S2を第1の室11の内部に供給すると、酸素を含む空気等の気体を第2の気体S2として使用できなくなり、第2の気体S2の選択肢が狭くなる。これに対し、本実施形態では、第2の室14の内圧を設定することによって第1の室11の内部へ流入する空気を低減するため、第2の気体S2を第1の室11の内部に供給する気体と同じ気体としなくてもよく、また同じ気体としてもよい。この結果、酸素を含む空気等の気体を第2の気体S2として使用可能となり、第2の気体S2の選択肢が広くなる。このように、本実施形態では、第1の室11の内部へ流入する空気を低減するために用いる第2の気体S2の選択肢を広くすることができる技術を提供することができる。
【0141】
本実施形態では、第2の気体供給手段15は、搬送手段13により搬送される基材7の面に沿う方向に向かって第2の気体S2を供給してもよい。搬送手段13により搬送される基材7の面は、図3および図4におけるXY平面に沿う面に対応する。基材7の面に沿う方向は、例えば基材7の面に対して傾きが10度以下の方向である。この方向に向かって第2の気体S2を供給することにより、搬送手段13により搬送される基材7の面と交差する方向から第2の気体S2を供給する場合と比較して、第2の気体S2の供給に伴う基材7のバタつきを低減することができる。バタつきを低減することで、基材7上に付与された液体組成物が移動することを低減できるため、電極製造装置100により製造される電極の品質を高くすることができる。但し、第2の気体S2を供給する方向は、基材7の面に沿う方向に限定されるものではなく、適宜変更可能である。第2の気体S2を供給する方向は、基材7の面に対する傾きが45度以下であることが好ましく、該傾きが30度以下であることがより好ましく、上記のように該傾きが10度以下であることがさらに好ましい。このような傾きであると、基材7上に付与された液体組成物が移動することをより低減することができる。
【0142】
また、本実施形態では、第2の気体供給手段15は、第2の気体S2として空気を供給してもよい。第2の気体供給手段15が空気を供給することにより、気体置換モジュール1の構成を簡素化し、また気体置換モジュール1のコストを低減することができる。第2の気体供給手段15は、第2の気体S2として圧縮空気を供給してもよい。第2の気体供給手段15が圧縮空気を供給することにより、第2の室14の内圧の調節が容易になる。
【0143】
また、本実施形態では、第1の気体供給手段12は、第1の開口111の近傍において、第1の室11の内部に供給する第1の気体S1のうちの少なくとも一部を、搬送方向70の上流方向であって、且つ基材7が位置する方向に供給してもよい。これにより、図3および図4に示すように、第1の気体供給手段12により供給される第1の気体S1によって、第1の開口111の近傍に、エアナイフ113を形成することができる。エアナイフ113を形成することで、搬送される基材7に伴って第1の開口111を通って流入する空気を低減することができる。
【0144】
第2の室14の内圧は、搬送手段13による基材7の搬送速度が速いほど高くてもよい。このようにすることで、基材7の搬送速度によらず、第1の室11の内部を単位面積当たり0.01%以下の低酸素濃度状態にすることができる。
【0145】
<制御手段6の構成例>
(ハードウェア構成例)
図5は、制御手段6のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。制御手段6は、コンピュータによって構築されている。制御手段6は、CPU(Central Processing Unit)601と、ROM(Read Only Memory)602と、RAM(Random Access Memory)603と、を有する。また制御手段6は、HDD/SSD(Hard Disk Drive/Solid State Drive)604と、機器接続I/F(Interface)605と、を有する。これらは、システムバスAを介して相互に通信可能に接続している。
【0146】
CPU601は、各種の演算処理を含む制御処理を実行する。ROM602は、IPL(Initial Program Loader)等のCPU601の駆動に用いられるプログラムを記憶する。RAM603は、CPU601のワークエリアとして使用される。HDD/SSD604は、プログラム等の各種情報等を記憶する。
【0147】
機器接続I/F605は、制御手段6を各種の機器と接続するためのインターフェースである。ここでの機器は、第1の気体供給手段12、第2の気体供給手段15等である。
【0148】
なお、CPU601により実現される機能の少なくとも一部は、電気回路または電子回路により実現されてもよい。
【0149】
(機能構成例)
図6は、制御手段6の機能構成の一例を示すブロック図である。制御手段6は、第1内圧制御部61と、第2内圧制御部62と、出力部63と、を有する。第1内圧制御部61および第2内圧制御部62の各機能は、図5のCPU601等のプロセッサがROM602等の不揮発性メモリに格納されたプログラムに規定された処理を実行すること等により実現される。出力部63の機能は、図5の機器接続I/F135等により実現される。
【0150】
第1内圧制御部61は、出力部63を介して第1の気体供給手段12に第1内圧制御信号u1を出力し、第1の気体供給手段12から第1の室11に供給される第1の気体の流量、流速等を制御することによって、第1の室11の内圧を制御する。
【0151】
第2内圧制御部62は、出力部63を介して第2の気体供給手段15に第2流量制御信号u2を出力し、第2の気体供給手段15から第2の室14に供給される第2の気体の流量、流速等を制御することによって、第2の室14内の内圧を制御する。
【0152】
<電極製造装置100の動作例>
次に、電極製造装置100の動作の一例について説明する。
【0153】
(照射工程)
照射工程は、付与工程において付与された液体組成物に対して活性エネルギー線を照射する工程である。照射工程は、最終的に製造される多孔質樹脂の空隙率を向上させ、これにより、例えば、多孔質樹脂における液体又は気体などの流体の取込性を向上させる。具体的には、液体組成物に対して活性エネルギー線を照射することにより、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る上で基礎となる多孔質構造を有する多孔質前駆体を形成する。
【0154】
なお、活性エネルギー線としては、重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線等が挙げられる。これらの中でも紫外線であることが好ましい。なお、特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。
【0155】
照射工程により、多孔質前駆体を形成する理由について説明する。 上記の通り、重合誘起相分離により多孔質樹脂を形成する場合、重合条件に基づいて多孔質樹脂の構造及び性質等が変化する。例えば、液体組成物に対して照射強度の強い活性エネルギー線を照射して重合性化合物の重合が促進される条件下で多孔質樹脂の形成を行った場合、相分離が十分に生じる前に重合が進行してしまい、空隙率の高い多孔質樹脂を製造することが困難になる傾向がある。 そのため、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る上で基礎となる多孔質構造を有する多孔質前駆体を形成することを目的とした照射工程においては、照射される活性エネルギー線の照射強度は高すぎないように設定される。
【0156】
具体的には、活性エネルギー線の照射強度は、1W/cm以下が好ましく、300mW/cm未満がより好ましく、100mW/cm以下が更に好ましい。但し、活性エネルギー線の照射強度が低すぎると、相分離が過度に進行することで多孔質構造のばらつきや粗大化が生じやすくなり、更に、照射時間も長くなって生産性が低下することから、10mW/cm以上であることが好ましく、30mW/cm以上であることがより好ましい。なお、活性エネルギー線を照射する光源と液体組成物が相対的に移動しながら照射工程が行われる場合、液体組成物表面における照射強度は連続的に変化する。このような場合における照射強度は、照射工程が実行される領域内から満遍なく(均一に)選択される複数箇所において測定された照射強度の平均値を表す。
【0157】
照射工程においての活性エネルギー線を照射する時間は、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る上で基礎となる多孔質構造が決定される構造決定時間以上であることが好ましく、更には多孔質樹脂の重合率が90%以上であることが好ましい。
【0158】
構造決定時間は、液体組成物を用い、以下の方法により算出することができる。
まず、無アルカリガラス基板上に、スピンコートにより樹脂微粒子を基板上に均一分散させ、ギャップ剤とする。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせる。次に、液体組成物を、貼り合わせた素子間に毛細管現象を利用して充填し、最後に基板の周囲を封止剤で封止することで「構造決定時間測定用素子」を作製する。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した液体組成物量:160μL
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
次に、作製した構造決定時間測定用素子に対して照射工程と同一条件で活性エネルギー線を照射する。照射前の素子における透過率をリファレンスとし、素子における測定値(透過率)の照射中の減衰を計測する。活性エネルギー線が過剰に照射されることで減衰変化が無くなったときの透過率を100%として減衰率を算出する。減衰率は、重合により多孔質構造が形成されるほど高くなる。本開示では、照射開始から透過率の減衰率が50%となるまでに要した時間を構造決定時間と定義する。なお、測定に用いた装置を以下に示す。
・透過率測定装置:LCD-5200 大塚電子株式会社製
【0159】
(除去工程)
除去工程は、照射工程後に、多孔質樹脂から溶媒を除去する工程である。溶媒を除去する方法としては特に限定されず、例えば、加熱することにより多孔質樹脂から溶媒を除去する方法が挙げられる。このとき、減圧下で加熱することで溶媒の除去がより促進され、多孔質樹脂中における溶媒の残存を抑制できるので好ましい。
【0160】
<データ例>
図7図11を参照して、電極製造装置100における様々なデータについて説明する。図7は、基材7の搬送速度と第1の気体の流出量との関係を示す第1図である。図8は、基材7の搬送速度と第1の気体の流出量との関係の一例を示す第2図である。図9は、図8の状態における第1の室11および第2の室14それぞれの内圧の一例を示す図である。図10は、第2の室14の内圧と第1の室11の酸素濃度との関係の一例を示す図である。図11は、基材7の搬送速度と第2の室14の内圧との関係の一例を示す図である。
【0161】
図7において、流出量Q1は、第1の室11の内部から第1の開口111を通って第1の室11の外部に流出する第1の気体の流出量を示している。流出量Q2は、第1の室11の内部から第2の開口112を通って第1の室11の外部に流出する第1の気体の流出量を示している。
【0162】
図7に示すように、基材7の搬送速度が速いほど、第1の開口111からの流出量Q1は減少し、第2の開口112からの流出量Q2は増加する。基材7の搬送速度が速いほど、流出量Q1と流出量Q2との差は大きくなる。また、基材7の搬送速度が所定の搬送速度よりも速くなると、流出量Q1は負の値になる。流出量Q1が負の値になると、第1の室11内への空気流入が発生し、第1の室11内の酸素濃度が上昇する。
【0163】
上記に対し、第1の開口111からの第1の気体の流出量Q1を第2の開口112からの第1の気体の流出量Q2よりも予め大きくすると、図8に示すように、基材7の搬送速度が0mpm(meter per minutes)の状態、すなわち基材7が停止した状態であっても、また基材7の搬送速度が60mpmの状態であっても、流出量Q1および流出量Q2はいずれも正の値になる。つまり、第1の室11内への空気流入を防止し、第1の室11内への酸素流入を防止することができる。
【0164】
本実施形態では、搬送方向70における第2の開口112の下流側に第2の室14を配置し、第2の室14の内圧を大気圧以上で且つ第1の室11の内圧以下にすることにより、図8の状態にすることができる。
【0165】
図9において、領域A1は、搬送方向70における第1の室11に対応する領域である。領域A2は、搬送方向70における第2の室14に対応する領域である。内圧P1は、搬送方向70における第2の開口112の下流側に第2の室14がない場合の内圧を示している。内圧P2は、搬送方向70における第2の開口112の下流側に第2の室14がある場合の内圧を示している。
【0166】
図9に示すように、搬送方向70における第2の開口112の下流側に第2の室14があると、内圧P2が高くなる。第2の開口112からの第1の気体の流出が低減されるためと考えられる。内圧P2が高くなることで、第1の開口111からの第1の気体の流出量が多くなる。
【0167】
図10において、横軸は第2の室14の内圧を示している。縦軸は第1の室11内の単位体積当たりの酸素濃度の比率(%)を示している。酸素濃度N0は、基材7が停止している場合の酸素濃度を示している。酸素濃度N1は、基材7が60mpmで搬送されている場合の酸素濃度を示している。なお、基準となる0Paには大気圧を設定しており、第1の室11の内圧は6Paである。
【0168】
図10に示すように、第2の室14の内圧が小さい場合には、基材7が停止している状態で酸素濃度N0は0.01%以下になる一方、基材7を60mpmで搬送すると酸素濃度N1は0.01%を大きく上回る。第2の室14の内圧を3Pa以上にすると、基材7を60mpmで搬送している状態でも酸素濃度N1を0.01%以下にすることができる。しかし、第2の室14の内圧を6Pa以上にすると、また酸素濃度N1が0.01%を上回る。これは、第2の室14の内圧が第1の室11の内圧を上回り、第2の室14から第1の室11に酸素が流入したためと考えられる。以上より、第2の室14の内圧が3Pa以上6Pa以下である範囲が、第1の室11の酸素濃度0.01%以下を維持できる範囲として好適である。第2の室14の内圧P2を制御することにより、第1の室11内の酸素濃度を、単位体積当たり0.01%以下にすることができる。
【0169】
また、図7に示したように、基材7の搬送速度が速くなるほど第1の開口111からの第1の気体の流出量Q1は減少し、第2の開口112からの第1の気体の流出量Q2は増加する。流出量Q1と流出量Q2が略等しくなる条件が第1の室11内への酸素流入を最も低減できる条件であることを考慮すると、基材7の搬送速度が速いほど第1の開口111からの第1の気体の流出量を増やした方が好ましい。換言すると、第2の室14の内圧を上げたほうが好ましい。以上より、第1の室11内の単位面積当たりの酸素濃度を0.01%以下にすることができる第2の室14の内圧の範囲は、基材7の搬送速度ごとに異なる。
【0170】
図11は、基材7の搬送速度ごとにおける、第1の室11内の単位面積当たりの酸素濃度を0.01%以下にすることができる第2の室14の内圧の範囲を示している。図11に示すように、第2の室14の内圧は、基材7の搬送速度が速いほど高いことが好ましい。
【0171】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る電極製造装置について説明する。なお、既に説明した実施形態と同一の名称、符号については、同一もしくは同質の部材又は構成部を示しており、詳細説明を適宜省略する。
【0172】
本実施形態では、電極製造装置は、第1の室の内圧を計測する第1圧力計および第1の室の内部の酸素濃度を計測する酸素濃度計の少なくとも一方と、第2の室の内圧を計測する第2圧力計と、第1の室および第2の室それぞれの内圧を制御する制御手段と、を備える。また電極製造装置は、第1圧力計および酸素濃度計の少なくとも一方による計測結果に応じて第1の室の内圧を制御するとともに、第2圧力計による計測結果に応じて第2の室の内圧を制御する制御手段を備える。これらの点が第1の実施形態とは異なる。
【0173】
図12は、第2実施形態に係る気体置換モジュール1aの上面図である。図12に示すように、電極製造装置100aは、気体置換モジュール1aと、制御手段6aと、を有する。気体置換モジュール1aは、第1圧力計114と、酸素濃度計115と、第2圧力計142と、を有する。
【0174】
第1圧力計114は、第1の室11の内圧を計測する。酸素濃度計115は、第1の室11の内部の酸素濃度を計測する。第1圧力計114および酸素濃度計115は、例えば第1の室11の内部に配置される。
【0175】
第2圧力計142は、第2の室14の内圧を計測する。第2圧力計142は、例えば第2の室14の内部に配置される。
【0176】
制御手段6aは、第1圧力計114および酸素濃度計115の少なくとも一方による計測結果に応じて第1の室11の内圧を制御するとともに、第2圧力計142による計測結果に応じて第2の室14の内圧を制御する。
【0177】
電極製造装置100aは、上記構成を備えることにより、第1の室11および第2の室14それぞれの内圧を高精度に制御し、第1の室の内部へ流入する空気を適切に低減することができる。これ以外の効果は、第1の実施形態とほぼ同じである。
【0178】
以上、実施形態を説明したが、本開示は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0179】
実施形態の説明で用いた序数、数量等の数字は、全て本開示の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本開示は例示された数字に制限されない。また、構成要素間の接続関係は、本開示の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本開示の機能を実現する接続関係はこれに限定されない。
【0180】
上記で説明した実施形態の各機能は、一または複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、本明細書における「処理回路」とは、電子回路により実装されるプロセッサのようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(digital signal processor)、FPGA(field programmable gate array)や従来の回路モジュール等のデバイスを含むものとする。
【0181】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 第1の開口と第2の開口とを有し、内部に存在する気体を第1の気体に置換可能な第1の室と、前記第1の室の内部に前記第1の気体を供給する第1の気体供給手段と、基材を、前記第1の開口を通して前記第1の室の内部へ搬入し、前記第2の開口を通して前記第1の室の外部へ搬出するように搬送する搬送手段と、前記搬送手段による前記基材の搬送方向における前記第1の室の下流側に配置された第2の室と、前記第2の室の内部に第2の気体を供給する第2の気体供給手段と、を備え、前記第2の室の内圧は、大気圧以上で且つ前記第1の室の内圧以下である、電極形成装置である。
<2> 前記第2の気体供給手段は、前記搬送手段により搬送される前記基材の面に沿う方向に前記第2の気体を供給する、前記<1>に記載の電極形成装置である。
<3> 前記第2の気体は、空気である、前記<1>または前記<2>に記載の電極形成装置である。
<4> 前記第1の気体供給手段は、前記第1の開口の近傍において、前記第1の室の内部に供給する前記第1の気体のうちの少なくとも一部を、前記搬送方向の上流方向であって、且つ前記基材の位置する方向に供給する、前記<1>から前記<3>のいずれか1つに記載の電極形成装置である。
<5> 前記第1の気体供給手段により前記第1の室の内部に供給される前記第1の気体の単位面積当たりの酸素含有量は、0.01%以下である、前記<1>から前記<4>のいずれか1つに記載の電極形成装置である。
<6> 前記第2の室の内圧は、前記搬送手段による前記基材の搬送速度が速いほど高い、前記<1>から前記<5>のいずれか1つに記載の電極形成装置である。
<7> 気体置換モジュールと、前記基材上に、重合性化合物を含む液体組成物を付与する付与手段と、前記付与手段により付与された前記基材上の前記液体組成物に活性エネルギー線を照射する照射手段と、を有し、前記気体置換モジュールは、第1の開口と第2の開口とを有し、内部に存在する気体を第1の気体に置換可能な第1の室と、前記第1の室の内部に前記第1の気体を供給する第1の気体供給手段と、搬送手段により、前記第1の開口を通して前記第1の室の内部へ搬入し、前記第2の開口を通して前記第1の室の外部へ搬出するように搬送される基材の搬送方向における前記第1の室の下流側に配置された第2の室と、前記第2の室の内部に第2の気体を供給する第2の気体供給手段と、を備え、前記第2の室の内圧は、大気圧以上で且つ前記第1の室の内圧以下であり、前記照射手段は、前記付与手段により前記液体組成物が付与された後、前記第1の室の内部を搬送される前記基材上の前記液体組成物に前記活性エネルギー線を照射する、樹脂構造体の製造装置である。
<8> 前記第2の室から排出された気体の少なくとも一部を吸気する手段を有する、前記<7>に記載の樹脂構造体の製造装置である。
<9> 前記付与手段により前記基材上に付与された前記液体組成物を加熱する加熱手段を含み、前記吸気する手段は、前記搬送手段による前記搬送方向における前記第2の室の下流側に配置される前記<8>に記載の樹脂構造体の製造装置である。
<10> 前記樹脂構造体は、多孔質樹脂層を含む、前記<7>に記載の樹脂構造体の製造装置である。
<11> 前記第1の室の内圧を計測する第1圧力計および前記第1の室の内部の酸素濃度を計測する酸素濃度計の少なくとも一方と、前記第2の室の内圧を計測する第2圧力計と、前記第1圧力計および前記酸素濃度計の少なくとも一方による計測結果に応じて前記第1の室の内圧を制御するとともに、前記第2圧力計による計測結果に応じて前記第2の室の内圧を制御する制御手段と、を備える、前記<7>に記載の樹脂構造体の製造装置である。
<12> 電極形成装置による電極形成方法であって、前記電極形成装置が、第1の開口と第2の開口とを有し、内部に存在する気体を第1の気体に置換可能な第1の室の内部に、第1の気体供給手段により、前記第1の気体を供給し、搬送手段により、基材を、前記第1の開口を通して前記第1の室の内部へ搬入し、前記第2の開口を通して前記第1の室の外部へ搬出するように搬送し、第2の気体供給手段により、前記搬送手段による前記基材の搬送方向における前記第1の室の下流側に配置された第2の室の内部に、第2の気体を供給し、前記第2の室の内圧は、大気圧以上で且つ前記第1の室の内圧以下である、電極形成方法である。
<13> 樹脂構造体の製造装置による樹脂構造体の製造方法であって、前記樹脂構造体の製造装置が、電極形成装置により、請求項12に記載の電極形成方法を行い、付与手段により、基材上に、重合性化合物を含む液体組成物を付与し、照射手段により、前記付与手段により付与された前記基材上の前記液体組成物に活性エネルギー線を照射し、前記付与手段は、前記搬送手段による前記基材の搬送方向における前記第1の室の上流側に配置され、前記照射手段は、前記付与手段により前記液体組成物が付与された後、前記第1の室の内部を搬送される前記基材上の前記液体組成物に前記活性エネルギー線を照射する、樹脂構造体の製造方法である。
【符号の説明】
【0182】
1、1a 気体置換モジュール
11 第1の室
111 第1の開口
112 第2の開口
113 エアナイフ
114 第1圧力計
115 酸素濃度計
12 第1の気体供給手段
121 第1の継手部材
122 管状部材
123 気体供給孔
13 搬送手段
131 巻き出しロール
132~136 支持ロール
137 巻取りロール
14 第2の室
141 第2の継手部材
142 第2圧力計
15 第2の気体供給手段
2 付与手段
2a、2b、2c、2d 吐出部
20 付与幅
21 ヘッド
22 ノズル
3 照射手段
4 加熱手段
40 筐体
5 検査手段
6、6a 制御手段
7 基材
70 搬送方向
71 幅方向
100 電極製造装置(電極形成装置の一例、樹脂構造体の製造装置の一例)
A1、A2 領域
N0、N1 酸素濃度
P1、P2 内圧
Q1、Q2 流出量
S1 第1の気体
S2 第2の気体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0183】
【特許文献1】特開2020-070362号
【特許文献2】国際公開第2012/026482号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19