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特開2024-79579覚醒状態制御システム、ウエアラブルデバイス、及び覚醒状態制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079579
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】覚醒状態制御システム、ウエアラブルデバイス、及び覚醒状態制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 21/00 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
A61M21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023173627
(22)【出願日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2022192273
(32)【優先日】2022-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 航治
(72)【発明者】
【氏名】関根 良浩
(72)【発明者】
【氏名】木村 一平
(72)【発明者】
【氏名】冨上 良樹
(72)【発明者】
【氏名】吉川 将人
(57)【要約】
【課題】覚醒状態を適切に制御することのできる技術を提供する。
【解決手段】覚醒状態制御システムは、ユーザの生体情報を取得するセンサと、前記生体情報に基づいて覚醒状態を制御する1種類以上の刺激を決定する刺激制御部と、前記刺激制御部によって決定された前記1種類以上の刺激を前記ユーザに付与する刺激付与デバイスと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの生体情報を取得するセンサと、
前記生体情報に基づいて覚醒状態を制御する1種類以上の刺激を決定する刺激制御部と、
前記刺激制御部によって決定された前記1種類以上の刺激を前記ユーザに付与する刺激付与デバイスと、
を備える覚醒状態制御システム。
【請求項2】
前記刺激制御部は、前記生体情報を解析し前記ユーザの覚醒状態を取得する覚醒状態取得部を有し、前記ユーザの覚醒状態が目標覚醒状態よりもリラックス状態にあるときに前記ユーザの覚醒状態を引き上げる刺激を選択し、前記ユーザの覚醒状態が前記目標覚醒状態よりも緊張状態にあるときに前記ユーザの覚醒状態を緩和する刺激を選択する
請求項1に記載の覚醒状態制御システム。
【請求項3】
前記刺激制御部は、前記生体情報に基づいて前記ユーザの覚醒状態を高める第1刺激と、前記ユーザの覚醒状態を緩和する第2刺激を決定し、
前記刺激付与デバイスは、前記第1刺激と前記第2刺激を同時または交互に付与する、
請求項1に記載の覚醒状態制御システム。
【請求項4】
前記刺激制御部は、作業種別に応じた目標覚醒状態の設定を取得し、前記目標覚醒状態の設定に対する前記生体情報の変化に基づいて前記1種類以上の刺激を決定する、
請求項1に記載の覚醒状態制御システム。
【請求項5】
前記刺激制御部は、作業種別に応じた目標覚醒状態の設定を取得し、前記目標覚醒状態の設定に対する前記生体情報の変化に応じて刺激の種類、刺激付与時間、刺激強度の少なくとも一つを補正する、
請求項1に記載の覚醒状態制御システム。
【請求項6】
前記刺激制御部は、前記生体情報に基づいて2種類以上の温度刺激または電気刺激を決定し、
前記刺激付与デバイスは、前記2種類以上の温度刺激または電気刺激を同時または交互に付与する、
請求項1に記載の覚醒状態制御システム。
【請求項7】
前記刺激付与デバイスは、前記1種類以上の刺激を前記ユーザの首部に付与する、
請求項1に記載の覚醒状態制御システム。
【請求項8】
本体と、
前記本体の第1の箇所に設けられて第1刺激を付与する第1刺激部と、
前記本体の第2の箇所に設けられて前記第1刺激と異なる第2刺激を付与する第2刺激部と、
を有し、前記本体を装着するユーザの生体情報に基づいて前記第1刺激部と前記第2刺激部の一方または双方が駆動される、
ウエアラブルデバイス。
【請求項9】
前記生体情報を取得するセンサと、
前記生体情報を情報処理装置に送信し、前記情報処理装置から、前記第1刺激部と前記第2刺激部の一方または双方を駆動する制御信号を受信する通信機と、
を有する請求項8に記載のウエアラブルデバイス。
【請求項10】
センサから生体情報を取得し解析するプロセッサ、
を有し、
前記プロセッサによる前記生体情報の解析結果に基づいて、前記第1刺激部と前記第2刺激部の一方または双方が駆動される、
請求項8に記載のウエアラブルデバイス。
【請求項11】
前記生体情報を解析するプロセッサと、
前記プロセッサに接続される生体センサと、
を有し、前記プロセッサは、前記生体センサの出力に基づいて前記生体情報を解析し、
前記プロセッサによる前記生体情報の解析結果に基づいて、前記第1刺激部と前記第2刺激部の一方または双方が駆動される、
請求項8に記載のウエアラブルデバイス。
【請求項12】
ユーザの生体情報を取得し、
情報処理装置で前記生体情報を解析して、前記ユーザの覚醒状態を制御する1種類以上の刺激を決定し、
決定された前記1種類以上の刺激を前記ユーザに付与する、
覚醒状態制御方法。
【請求項13】
前記情報処理装置で前記生体情報を解析して前記ユーザの前記覚醒状態を取得し、前記覚醒状態が目標覚醒状態よりもリラックス状態にあるときに前記情報処理装置で前記覚醒状態を引き上げる刺激を選択し、前記覚醒状態が目標覚醒状態よりも緊張状態にあるときに前記覚醒状態を緩和する刺激を選択する、
請求項12に記載の覚醒状態制御方法。
【請求項14】
決定された前記刺激に基づいて、刺激付与デバイスにより、前記ユーザの覚醒状態を高める第1刺激と、前記ユーザの覚醒状態を下げる第2刺激を同時または交互に前記ユーザに付与する、
請求項12に記載の覚醒状態制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、覚醒状態制御システム、ウエアラブルデバイス、及び覚醒状態制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自律神経は、呼吸、消化、循環、体温維持などの自律機能を調整する神経系であり、交感神経と副交感神経のバランスにより成り立っている。交感神経は覚醒時に活発になり、副交感神経はリラックスするときに活発になる。覚醒レベルが高いと集中力が高まるが、覚醒レベルが高すぎると、過度のストレスでパフォーマンスが低下する。このような覚醒状態とパフォーマンスとの関係は、ヤーキーズ・ドットソンの法則として知られている。
【0003】
ユーザの体温、心拍数等の生体情報を測定して、画像、音楽、触覚刺激などの癒し効果を発生させるストレス抑制システムが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヤーキーズ・ドットソンの法則によると、横軸に覚醒レベル、縦軸にパフォーマンスをとったときに、覚醒レベルとパフォーマンスは逆U字型の相関関係にある。パフォーマンスを最大化する適切な覚醒レベルの範囲が存在し、その範囲の外ではパフォーマンスは低下する。この逆U字型の相関関係は、取り組む作業の難易度によって変化する。簡単な作業では、ある程度の緊張をもっている方が、生産性が向上する。複雑な作業では、緊張を緩めることで効率が良くなる場合がある。適切な覚醒レベルは、個人によっても異なる。知的生産性を向上するには、癒し効果だけではなく、ユーザごとに覚醒状態を適切に制御する技術が望まれる。
【0005】
ひとつの側面で、覚醒状態を適切に制御することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態において、覚醒状態制御システムは、
ユーザの生体情報を取得するセンサと、
前記生体情報に基づいて覚醒状態を制御する1種類以上の刺激を決定する刺激制御部と、
前記刺激制御部によって決定された前記1種類以上の刺激を前記ユーザに付与する刺激付与デバイスと、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
ユーザの覚醒状態を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の覚醒状態制御システムの模式図である。
図2】実施形態のウエアラブルデバイスの装着状態を示す模式図である。
図3A】ウエアラブルデバイスの第1の態様を示す図である。
図3B】ウエアラブルデバイスの第2の態様を示す図である。
図3C】ウエアラブルデバイスの第3の態様を示す図である。
図4】情報処理装置のハードウェア構成図である。
図5】刺激制御部の機能ブロック図である。
図6A】刺激制御部によって実行される制御のフローチャートである。
図6B】刺激制御部によって実行される制御のフローチャートである。
図7】覚醒状態制御の評価結果を示す図である。
図8】ウエアラブルデバイスのその他の態様を示す図である。
図9図8のウエアラブルデバイスの皮膚との接触面側の構成例を示す図である。
図10】ウエアラブルデバイスのさらに別の態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下で、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。下記の実施形態は、発明の技術思想を具体化するための例示であり、本発明を下記の構成、及び手法に限定するものではない。図面中、同一の構成要素には同一符号を付して、重複する記載を省略する場合がある。図面に示される部材の大きさや位置関係は、発明の理解を容易にするために誇張されている場合がある。
【0010】
実施形態では、生体情報に基づいて、リラックス効果だけではなく、適度な緊張を与えることでユーザを適切な覚醒状態に導く。これを実現するために、ユーザの生体情報を解析して、異なる種類の刺激を生成し付与する。たとえば、緊張または覚醒を高める第1刺激と、緊張または覚醒を緩和する第2刺激を組み合わせる。異なる種類の刺激を同時、または別々に与えることで、ユーザの覚醒状態を適切に制御して、知的生産性を向上する。
【0011】
<覚醒状態制御システムとウエアラブルデバイスの構成例>
図1は、実施形態の覚醒状態制御システム1の模式図である。覚醒状態制御システム1は、ユーザの生体情報を取得するセンサ115と、生体情報に基づいて覚醒状態を制御する1種類以上の刺激を決定する刺激制御部210と、刺激制御部によって決定された1種類以上の刺激をユーザに付与する刺激付与デバイス12と、を有する。刺激付与デバイス12は、ウエアラブルデバイス10の形態で実現される。ユーザはウエアラブルデバイス10を装着して作業を行うことで、作業中に適度な覚醒刺激が得られる。
【0012】
ウエアラブルデバイス10、センサ115、及び情報処理装置200は、それぞれ別個のデバイスであってもよいし、センサ115と刺激制御部210の少なくとも一方が、ウエアラブルデバイス10に組み込まれていてもよい。ウエアラブルデバイス10、センサ115、及び情報処理装置200の間の接続は、ケーブル接続であってもよいし、無線接続であってもよい。情報処理装置200として、マイクロプロセッサがウエアラブルデバイス10の内部に組み込まれていてもよいし、ウエアラブルデバイス10は別個のパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などであってもよい。センサ115は、配線または無線によりウエアラブルデバイス10に接続されていてもよいし、情報処理装置200に接続されていてもよい。
【0013】
図2は、ウエアラブルデバイス10の装着状態の一例を示す。ウエアラブルデバイス10は、ユーザ5に効率良く覚醒刺激を与えられる身体箇所に装着される。実施形態のウエアラブルデバイス10は、ユーザ5の首51に装着される形態に設計されている。図2の例で、ウエアラブルデバイス10はユーザ5の首51の周囲の一部を囲うU字型であるが、C字型であっても良く、ユーザ5の首51の周囲の全部を囲うO字型であっても良い。その他、肩、腰、上腕、下腕、その他身体の適切な箇所に装着される形状と構成に変更可能である。刺激付与デバイス12は、1種類以上の異なる種類の刺激をユーザに与える。たとえば、覚醒レベルまたは集中を高める刺激と、覚醒レベルを下げる刺激(覚醒状態を緩和する刺激)を、首51の適切な個所に与える。覚醒レベルを調整する刺激として温度刺激と電気刺激を用い、これらの刺激を同時または交互に付与する構成としてもよい。なお、同時又は別々に与える刺激の種類は、3種類以上であっても良い。また、異なる種類の刺激を別々に付与する代わりに、同一種類の刺激の強度を変えて付与しても良い。ここで、覚醒レベル(覚醒状態、と称することもある)とは、対象者の覚醒(緊張と称することもある)、又はリラックスの度合いを示す。覚醒レベルの評価は、基準の覚醒レベルに対してより緊張している場合を覚醒レベルが高いと表し、よりリラックスしている場合を覚醒レベルが低いと表す。なお本発明の実施形態では、基準の覚醒レベルの一例として、後述する「目標覚醒レベル」を用いている。
【0014】
センサ115をウエアラブルデバイス10に組み込む場合は、ウエアラブルデバイス10の内側で、ユーザ5の耳52の下側の頸動脈に接触する位置にセンサ115を組み込んでもよいし、ユーザの耳たぶ52や手首に装着する構成としてもよい。
【0015】
図3A、3B、及び3Cは、ウエアラブルデバイス10の構成例を示す。図3Aで、ウエアラブルデバイス10Aは、本体110と、本体110に設けられた刺激付与デバイス12a、12b、及び12c(適宜、「刺激付与デバイス12」と総称する)を有する。図3Aの構成は、図1の覚醒状態制御システム1において、センサ115と情報処理装置200が、ウエアラブルデバイス10と別体になっている構成である。ウエアラブルデバイス10Aの本体110に、通信機117が設けられている。通信機117は、外部の情報処理装置200から、生体情報の解析結果を示す制御信号を受信する。受信された制御信号にしたがって、刺激付与デバイス12a、12b、及び12cの一部または全部が駆動される。情報処理装置200は、センサ115から取得した生体情報を解析し、解析結果をウエアラブルデバイス10に送信する機能を有するかぎり、どのようなものを使ってもよい。上述したように、情報処理装置200として、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などを用いてもよい。
【0016】
刺激付与デバイス12a、12b、12cは、それぞれ異なる刺激を生成する。一例として、刺激付与デバイス12aは、U字型の本体110の湾曲部101の内側に設けられた第1電極121及び122を有する。第1電極121と122は、ウエアラブルデバイス10Aがユーザ5の首51に装着されたときに、ユーザ5の首51の後ろ側、またはうなじに接触するように設けられている。刺激付与デバイス12aは、第1電極121と122を介して、ユーザ5のうなじに、温熱刺激または低周波の電気刺激を与える。第1電極の数は2個に限定されず、本体110の湾曲部101の内面に沿って、3つ以上の第1電極が設けられてもよい。
【0017】
刺激付与デバイス12aが温熱を生成する場合、通信機117で受信された制御信号にしたがって、刺激付与デバイス12aの内部に設けられたヒータが加熱され、第1電極121及び122から温熱が与えられる。刺激付与デバイス12aが低周波刺激を与える場合、刺激付与デバイス12aの内部に設けられた発振回路がオンにされ、第1電極121及び122を介して低周波の振動が与えられる。低周波の振動は筋電気刺激(EMS:Electrical Muscle Stimulation)を与える。うなじに与えられる温熱や低周波振動は、一般的には筋肉の緊張を緩和するリラックス刺激になるが、個人差や刺激の強度によっては覚醒刺激にもなり得る。
【0018】
刺激付与デバイス12bは、本体110の湾曲部101の両側に延びるアーム130に取り付けられており、アーム130から本体110の幅(または高さ)方向に突出する第2電極123及び124を有する。第2電極123と124は、ウエアラブルデバイス10Aがユーザ5の首51に装着されたときに、ユーザ5の耳52またはえらの下側で頸動脈周辺の皮膚表面に接触する。刺激付与デバイス12bは、第2電極123と124を介してユーザ5の頸動脈に、高周波の電気刺激を与える。刺激付与デバイス12bの内部に設けられた発振回路がオンにされ、第2電極123及び124を介して高周波の振動が与えられる。高周波の振動は、一般的には血流を良くするリラックス刺激になるが、個人差や刺激の強度によっては覚醒刺激になり得る。
【0019】
刺激付与デバイス12cは、本体110の湾曲部101の両側に延びるアーム130の内側に設けられており、互いに対向する第3電極125及び126を有する。第3電極125と126は、ウエアラブルデバイス10Aがユーザ5の首51に装着されたときに、ユーザ5の首筋に沿って頸動脈周辺の皮膚表面に接触するように設けられている。刺激付与デバイス12cは、第3電極125と126を介してユーザ5の頸動脈に、冷却刺激または温熱刺激を与える。刺激付与デバイス12cが冷却または温熱刺激を与える場合、刺激付与デバイス12cの内部に設けられたペルチェ素子を駆動する電圧のオンオフと、印加電圧の極性とを制御することで、冷却または加温刺激が生成される。頸動脈への適度の冷却と加温は、一般には覚醒レベルを高める方向に作用するが、血管が過度に拡がっているときは、涼感刺激によりリラックス状態に移行する場合もある。
【0020】
図3Bは、ウエアラブルデバイス10Bの模式図である。ウエアラブルデバイス10Bは、図3Aの構成に加えて、通信機117に接続されるセンサ115を有する。図3Bの構成は、図1の覚醒状態制御システム1において、センサ115がウエアラブルデバイス10とセットになっており、情報処理装置200がウエアラブルデバイス10と別体になっている構成である。図3Bの例では、センサ115はケーブル116により本体110に接続され、通信機117と電気的に接続されているが、センサ115は通信機117に無線接続されていてもよい。センサ115が通信機117を介さずに、直接外部の情報処理装置200と通信可能に構成されている場合は、図3Aの構成となる。センサ115は、心拍センサ、脈拍センサ、温度センサ、発汗センサ等の生体センサである。心拍センサまたは脈拍センサの場合、ユーザの耳たぶまたは指先に付けるタイプでもよいし、胸に貼付するタイプでもよい。
【0021】
通信機117は、センサ115で取得された生体情報を、外部の情報処理装置200に送信する。情報処理装置200は、取得した生体情報を解析して、ユーザに与える刺激を決定し、決定した刺激を制御信号としてウエアラブルデバイス10Bに送信する。ウエアラブルデバイス10Bは、通信機117で受信された制御信号に基づいて、刺激付与デバイス12a、12b、及び12cの一部または全部を駆動する。本体110に設けられた刺激付与デバイス12a、12b、及び12cの構成と機能は、図3Aを参照して述べたとおりである。
【0022】
図3Cは、ウエアラブルデバイス10Cの模式図である。ウエアラブルデバイス10Cは、本体110に設けられるマイクロプロセッサ120と、マイクロプロセッサ120に接続されるセンサ115を有する。図3Cの構成は、図1の覚醒状態制御システム1において、センサ115及び情報処理装置200がウエアラブルデバイス10と一体になった構成である。情報処理装置200は、マイクロプロセッサ120として実現されているが、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)や、特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)で実現されてもよい。図3Cで、センサ115はケーブルにより本体110に接続され、マイクロプロセッサ120に接続されているが、通信機能内蔵型のマイクロプロセッサ120に無線接続されてもよい。
【0023】
マイクロプロセッサ120は、センサ115から取得した生体情報を解析し、本体110に設けられた刺激付与デバイス12a、12b、及び12cの一部または全部を駆動する。刺激付与デバイス12a、12b、及び12cの構成と機能は、図3Aを参照して述べたとおりである。図3A、3B、3Cに示した構成例の他に、本体110に、無線通信機能付きのマイクロプロセッサ120のみが設けられた構成にしてもよい。この場合、図1の覚醒状態制御システム1において、ウエアラブルデバイス10と情報処理装置200が一体化され、センサ115が別体とされる。生体情報を取得して、生体情報に基づいて1種類以上の刺激を生成してユーザの覚醒状態を制御できるならば、覚醒状態制御システム1とウエアラブルデバイス10は、どのように構成されてもよい。
【0024】
図4は、情報処理装置200のハードウェア構成図である。情報処理装置200は、プロセッサ201、主メモリ202、補助メモリ203、入出力インタフェース(図中で「I/F」と表記)204、及び通信インタフェース205を有し、これらは、システムバス206を介して相互に接続されている。
【0025】
プロセッサ201は、各種の演算処理を含む制御処理を実行し、刺激制御部210の機能を実現する。プロセッサ201が実行する制御処理の中には、生体情報の取得、生体情報の解析、刺激の決定、ユーザが設定した目標覚醒レベルと主観評価の取得が含まれる。刺激の決定の中には、刺激の種類、組み合わせ、刺激付与時間、刺激強度などの決定と、それらの補正または変更が含まれる。後述するように、目標覚醒レベルと生体情報から算出された覚醒レベルの差分の変化や、パフォーマンスの主観評価に基づいて、付与する刺激の種類や付与時間、作業に応じた目標覚醒レベルなどが補正され得る。
【0026】
主メモリ202は、プロセッサ201の動作に用いられるプログラムを記憶するリードオンリーメモリ(ROM)と、プロセッサ201のワークエリアとして使用されるランダムアクセスメモリ(RAM)を含む。補助メモリ203は、ハードディスクドライブ(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD)などの記憶装置を含み、各種プログラムとプログラムの起動に必要なパラメータ情報の他に、覚醒状態制御に必要な情報やパラメータを記憶する。
【0027】
入出力インタフェース204は、表示装置、タッチパネル、スピーカ、イヤフォン、マイク、キーボード等の入出力デバイスを情報処理装置200に接続する。通信インタフェース205は、公衆通信網、LAN、近距離通信規格等を介して、情報処理装置200と外部装置との間の通信を可能にする。情報処理装置200とセンサ115やウエアラブルデバイス10との間の通信は、近距離無線通信規格により行われてもよい。
【0028】
<刺激制御部の機能構成>
図5は、刺激制御部210の機能ブロック図である。刺激制御部210は、プロセッサ201により実現される。刺激制御部210は、生体情報取得部211、目標レベル設定部212、データ解析部213、刺激決定部214、及び評価取得部215を有する。
【0029】
生体情報取得部211は、ウエアラブルデバイス10を装着するユーザの生体情報を取得する。生体情報は、上述したようにユーザが装着したセンサ115から直接取得されてもよいし、ウエアラブルデバイス10から取得されてもよい。
【0030】
目標レベル設定部212は、ユーザ入力により、目標覚醒状態の設定を取得する。目標覚醒状態は、ユーザが作業をする際に目標とする覚醒または緊張状態の度合いを表し、呼吸数、発汗レベル、心拍数、まばたき回数等の数値を用いることができる。この意味で、目標覚醒状態は「目標覚醒レベル」と呼ばれる。実施形態では、心拍数を分析して得られる心拍変動のパワースペクトルに含まれる低周波(LF:Low Frequency)成分と高周波(HF:High Frequency)成分の比率(LF/HF)を、覚醒レベルを示すパラメータとして用いる。この場合、目標覚醒レベルは、目標LF/HF値として設定される。
【0031】
LF成分は、心拍変動のパワースペクトルのうち、0.004~0.150Hzの周波数帯であり、交感神経と副交感神経の両方の活動を反映するとされている。HF成分は、心拍変動のパワースペクトルのうち、0.150~0.400Hzの周波数帯であり、副交感神経の活動を反映するとされている。LF/HF比は、交感神経と副交感神経のどちらが、どの程度優位な状態にあるかを示す。ユーザが覚醒または緊張状態にある場合、交感神経が副交感神経よりも優位な状態となり、LF/HFの値は大きくなる。ユーザがリラックスした状態のときは、副交感神経が交感神経よりも優位な状態にあり、LF/HFの値は小さくなる。
【0032】
データ解析部213(覚醒状態取得部と称することもある)は、生体情報を解析してユーザの覚醒レベルを判断する。覚醒レベルを表すパラメータとしてLF/HF比を用いる場合、データ解析部213は取得した心拍データの変動スペクトルからLF成分とHF成分を抽出してLF/HF比を計算する。データ解析部213はまた、ユーザによって設定された目標の覚醒レベルを参照し、算出されたLF/HF値と目標の覚醒レベルとの差分を特定する。現在のLF/HF値と目標の覚醒レベルとの差分の大きさが許容範囲を超えているときに、ユーザが過度のリラックス状態または過度の緊張状態にあることを検出する。データ解析部213は、差分の変化方向をモニタする。
【0033】
刺激決定部214は、データ解析部213の解析結果に基づいて、ユーザに付与する刺激を決定する。算出されたLF/HF値と目標の覚醒レベルの差分に基づき、ユーザが過度のリラックス状態にあると判断される場合は、覚醒レベルを引き上げる刺激を選択し、ユーザが過度の緊張状態にあると判断される場合は、覚醒レベルを緩和する刺激を決定する。どのような刺激が覚醒レベルの引き上げと緩和に有効であるかは、ユーザによって異なるので、ユーザの傾向を事前に測定し、ユーザにとって効果的な覚醒刺激を刺激決定部214で決定しておいてもよい。
【0034】
頸動脈を冷やすことで緊張状態からリラックス状態に移行できるユーザに対しては、緊張状態が強いときに涼感刺激を選択する。低周波の電気刺激によって覚醒状態に移行するユーザには、過度のリラックス時に低周波の電気刺激を選択する。逆に、頸動脈を冷やすことでリラックス状態から覚醒状態に移行するユーザに対しては、過度にリラックスしているときに涼感刺激を選択し、低周波の電気刺激でリラックスするユーザには、過度の緊張時に低周波の電気刺激を選択する。
【0035】
初回の刺激として、一般的に覚醒またはリラックスに有効であるとみなされている刺激がデフォルトで選択されてもよい。あるいは、ウエアラブルデバイス10に搭載されている刺激付与デバイス12の中から、ランダムに刺激が選択されてもよい。ユーザの作業中に繰り返し生体情報を取得し、目標覚醒レベルに対する生体情報の変化に基づいて覚醒状態を判断することで、当初選択された刺激を適切に補正または変更して、目標覚醒レベルへと導くことができるからである。刺激の補正または変更については後述する。
【0036】
評価取得部215は、ウエアラブルデバイス10の装着によりパフォーマンスが向上したかどうかの評価を取得する。評価は、ユーザが作業終了後に情報処理装置200に入力する主観評価であってもよいし、目標の覚醒レベルへの収束の程度や収束時間に基づいてデータ解析部213で自動判定した評価であってもよい。
【0037】
ユーザの生体情報に基づいて異なる種類の刺激を決定することで、ユーザの覚醒状態を適切に制御することができる。覚醒の目標レベルへの到達状況を検出して刺激の種類、刺激付与時間、刺激強度などを補正または変更することで、適切な覚醒レベルへと導くことができる。パフォーマンスの評価結果をフィードバックすることで、ユーザごとに目標の覚醒レベルを見直すことができる。
【0038】
<覚醒状態制御の処理フロー>
図6A図6Bは、刺激制御部210、すなわちプロセッサ201で実行される覚醒状態制御のフローチャートである。図6Bの処理は、図6AのノードAから引き続く処理である。刺激制御部210は、センサから生体情報の取得を開始する(S1)。ユーザがウエアラブルデバイス10を装着し、情報処理装置200の所定のアプリケーションを立ち上げることで、生体情報の取得が開始される。
【0039】
刺激制御部210は、作業種別を取得し(S2)、作業種別に応じた目標覚醒レベルLTRGTを取得する(S3)。作業種別と目標覚醒レベルLTRGTは、ユーザによって情報処理装置200に入力される。作業種別は、ユーザの思考が関与する知的作業の程度を表し、単純、普通、複雑などにより表される。作業種別とともに、作業予定時間が入力されてもよい。目標覚醒レベルLTRGTは、予定されている作業で必要とされる、あるいは望ましい覚醒状態を示す。
【0040】
実施形態では、目標覚醒レベルとしてLF/HFの目標値、またはその範囲がユーザにより入力される。LF/HFを用いる場合、目標覚醒レベルは作業種別に応じて1.5以上5.0以下の範囲で適切に設定され得る。単純作業の場合は、眠気をさそわないように、目標覚醒レベルLTRGTはやや高めに設定されてもよい。複雑な知的作業の場合は、過度のストレスがかからないように、目標覚醒レベルLTRGTはやや低めに設定されてもよい。S2とS3の順序はどちらが先でもよいし、刺激制御部210に同時に取り込まれてもよい。
【0041】
刺激制御部210は、生体データを取得し解析する(S4)。刺激制御部210は、取り込まれた生体情報(心拍データ)を所定の時間ごとに解析して、心拍データの変動に含まれるLF成分とHF成分を抽出し、LF/HFを計算する。たとえば、5分間の心拍データを解析してLF/HF値を算出し、1分ごとに処理を更新するが、この例に限定されない。データ蓄積時間と更新の間隔は、適宜設定可能である。データ解析の時間区間と算出されたLF/HF値は、たとえば以下のようになる。
【0042】
時間区間 LF/HF
10:00 - 10:05 2.0
10:01 - 10:06 1.4
10:02 - 10:07 1.8
10:03 - 10:08 1.2
以下、5分間の解析区間が1分ごとにシフトし、LF/HF値が計算される。
【0043】
刺激制御部210は、各解析区間で算出されたLF/HF値が目標覚醒レベルLTRGTの近傍の所定の範囲内(LTRGT±ΔL)にあるか否かを判断する(S5)。算出されたLF/HF値がLTRGT±ΔLの範囲内にある場合(S5でYES)、ユーザは作業内容に応じた適切な覚醒状態にある。この場合、作業が終了するまで(S6でYESになるまで)、生体データの取得と解析(S4)、及び覚醒状態のチェック(S5)を繰り返す。
【0044】
算出されたLF/HF値がLTRGT±ΔLの範囲内にない場合(S5でNO)、ユーザの覚醒状態は、作業内容に応じて設定された目標の覚醒レベルから離れている。算出されたLF/HF値が許容範囲を超えて小さい場合(LTRGT-ΔL>算出値)、ユーザは現在の作業に対して過度のリラックス状態にある(S7)。この場合、刺激制御部210は覚醒レベルを高める刺激、すなわち覚醒刺激を選択する(S8)。低周波の電気刺激が覚醒に有効なユーザの場合、刺激付与デバイス12aを駆動して、低周波の電気刺激を付与する。刺激の決定とともに、刺激付与時間を決定してもよい。
【0045】
算出されたLF/HF値が許容範囲を超えて大きい場合(LTRGT+ΔL<算出値)、ユーザは現在の作業に対して過度の緊張(またはストレス)状態にある(S9)。この場合、刺激制御部210は覚醒レベルを下げる刺激、すなわちリラックス刺激を選択する(S10)。頸動脈への涼感刺激によりリラックス状態に移行するユーザの場合、刺激付与デバイス12cを駆動して、ユーザの首筋を適度に冷やす。あるいは、刺激付与デバイス12aを駆動して、ユーザのうなじに温熱刺激を与えて首の後ろ側を温めてもよい。刺激付与デバイス12aと12cの両方を駆動してもよい。リラックス刺激の決定とともに、刺激付与時間や刺激の強度を決定してもよい。
【0046】
刺激制御部210は、ステップS8またはS10で決定された刺激を付与する制御信号を、刺激付与デバイス12に出力する(S11)。この制御信号により、刺激付与デバイス12で刺激が生成され付与される。
【0047】
刺激制御部210は、引き続き生体データの取得と解析を継続し(S12)、LF/HFの算出値と目標覚醒レベルとの差分が減少する方向に変化しているか否かを判断する(S13)。算出されたLF/HF値と目標覚醒レベルとの差分が小さくなっている場合(S13でYES)、選択された刺激が適切なので、作業が終了するまで(S6でYESになるまで)、生体データの取得と解析(S4)、及び覚醒状態のチェック(S5)を繰り返す。
【0048】
算出されるLF/HF値と目標覚醒レベルとの差分が小さくならない場合は(S13でNO)は、選択された刺激が適切ではないので、刺激の種類、刺激付与時間、及び刺激強度の少なくとも1つを補正または変更する(S14)。この補正は、S8の覚醒刺激の選択、及びS9のリラックス刺激の選択に反映され、刺激の決定が学習される。その後、作業が終了するまで(S6でYESになるまで)、生体データの取得と解析(S4)、及び覚醒状態のチェック(S5)を繰り返す。
【0049】
作業が終了すると(S6でYES)、パフォーマンス改善の評価を取得する(S15)。評価は、刺激付与により作業効率またはパフォーマンスが向上したか否かを示すユーザの主観的な評価であってもよい。主観評価が作業効率の向上を示している場合は(S16でYES)、特定の作業種別に対する刺激の付与が成功したことを意味する。この場合、設定された目標覚醒レベル、選択された刺激の種類、刺激付与時間を保持して、プロセスを終了する。
【0050】
刺激の補正にもかかわらず作業効率が向上していない場合(S16でNO)、特定の作業種別に対して設定された目標覚醒レベル自体が不適切であった可能性がある。そこで、目標覚醒レベルLTRGTを補正して(S17)、プロセスを終了する。目標覚醒レベルLTRGTを補正は、S3の目標覚醒レベルLTRGTの設定に反映され、学習される。
【0051】
図6の覚醒状態制御で、S5の覚醒レベルの判定は所定時間ごとに行われてもよい。たとえば、10分間隔、15分間隔などでユーザの覚醒状態を判定してもよい。この覚醒状態制御方法により、ユーザが行う作業に応じて覚醒状態を適切に制御することができる。
【0052】
<覚醒状態制御の評価>
図7は、覚醒状態制御の評価結果を示す図である。ユーザAとユーザBは、ウエアラブルデバイス10を装着する。この評価で、ユーザAとBはともに成人男子であるが、ウエアラブルデバイス10は、ユーザの性別や年齢と関係なく、どのようなユーザにも適用可能である。情報処理装置200の制御により、ユーザAとBのそれぞれに、1種類以上の刺激が付与される。すべての評価に共通して、生体情報として心拍データを取得し、覚醒レベルを表すパラメータとしてLF/HF値を計算する。LF/HF値は、5分間の心拍データを解析して計算し、1分ごとに更新する。
【0053】
評価項目は、覚醒レベルの変動率と、目標覚醒レベル到達時間である。覚醒レベルの変動率は、プラス側、すなわち目標の覚醒レベルよりもLF/HF値が高い過ストレス状態での変動と、マイナス側、すなわち目標の覚醒レベルよりもLF/HF値が小さい過リラックス状態での変動を示す。目標覚醒レベルへの到達時間も、必要に応じてプラス側とマイナス側のそれぞれについて示す。
【0054】
刺激付与の直前の15点分のLF/HF値を「BFR」、刺激付与中のLF/HF値の最大から15点分を「AFT」とすると、覚醒レベルの変動率RCHN(%)を、
CHN=100×(AFT-BFR)/BFR
で求める。
【0055】
目標覚醒レベル到達時間は、目標の変動率を100±10%として、3点の変動率の平均値が100±10%の範囲に達した時間とする。30分間継続して刺激を付与しても目標の変動率に到達しない場合や、LF/HF値が上振れする場合は、覚醒レベルの変動率RCHNを0(%)と評価している。
【0056】
<実施例1>
実施例1で、ユーザAの頸動脈とうなじに、それぞれ異なる種類の刺激(1)と(2)を付与する。実施例1の刺激(1)は頸動脈への涼感刺激、刺激(2)はうなじへの温熱刺激である。ウエアラブルデバイス100の刺激付与デバイス12cと12aを交互に駆動して、刺激(1)と刺激(2)をそれぞれ30分間ずつ、交互に与える。刺激(1)と刺激(2)を交互に与えることで、プラス側(過ストレス状態)にあるときのLF/HF値は3.6であり、変動率RCHNは140%、目標覚醒レベル、すなわち目標LF/HF値への到達時間は8分である。マイナス側(過リラックス状態)にあるときのLF/HF値は0.3であり、変動率RCHNは80%である。目標覚醒レベルへの到達時間は12分である。異なる刺激を与えた場合、単一の刺激を与えるよりも効率的に覚醒状態を付与できる場合があり得る。この例では、覚醒レベルを高める制御と、低減する制御の双方が実現され、10分前後で目標覚醒レベルに達している。
【0057】
<参考例1a>
参考例1aは、実施例1の刺激のうち、刺激(1)のみを頸動脈に与えたときの評価結果である。プラス側(過ストレス状態)でのLF/HF値は3.4、変動率RCHNは120%である。マイナス側(過リラックス状態)でのLF/HF値は1.6、変動率RCHNは7%である。刺激(1)のみを30分間継続して付与する場合、目標覚醒レベルへの到達が難しくなる場合がある。この例で、ユーザAにとって、頸動脈への涼感刺激によりある程度緊張を緩和できるが、目標のレベルまでは到達せず、涼感刺激はユーザAにとって覚醒レベルを高める刺激として適していないと考えられる。別の単一の刺激を選択することで、ユーザAの覚醒レベルを向上できる可能性がある。
【0058】
<参考例1b>
参考例1bは、実施例1の刺激のうち、刺激(2)のみをうなじに与えたときの評価結果である。プラス側(過ストレス状態)でのLF/HF値は1.4、変動率RCHNは0%である。マイナス側(過リラックス状態)でのLF/HF値は0.4、変動率RCHNは73%である。刺激(2)のみを30分間継続して付与した場合、刺激(1)を与える場合と比較して、覚醒効果は高い。ユーザAにとって、うなじへの温熱刺激によりある程度覚醒レベルを上げることができ、温熱刺激は緊張を緩和する方向に作用し得る。
【0059】
<実施例2>
実施例2で、ユーザAの頸動脈とうなじに、それぞれ異なる種類の刺激(1)と(2)を付与する。実施例2の刺激(1)は頸動脈への温感刺激、刺激(2)はうなじへのEMS(低周波)刺激である。ウエアラブルデバイス100の刺激付与デバイス12cと12aを同時に駆動して、刺激(1)と刺激(2)を同時に与える。刺激(1)と刺激(2)を同時に与えることで、マイナス側(過リラックス状態)でのLF/HF値は0.3、変動率RCHNは80%、目標覚醒レベルへの到達時間は5分である。プラス側では、LF/HF値は1.5と低く、この値はほとんど変動しない。異なる刺激を同時に与えることで、目標の覚醒レベルに迅速に達している。
【0060】
<参考例2a>
参考例2aは、実施例2の刺激のうち、刺激(1)のみを頸動脈に与えたときの評価結果である。マイナス側(過リラックス状態)でのLF/HF値は0.4、変動率RCHNは73%、目標覚醒レベルへの到達時間は12分である。プラス側でのLF/HF値は1.5と低く、この値はほとんど変動しない。参考例2aは実施例のひとつに含まれ、刺激(1)の頸動脈への温感刺激のみを与えることで目標の覚醒レベルへと制御できる。ただし、刺激(2)のEMS刺激を併用する実施例2よりも、目標の覚醒レベルへの収束に時間がかかっている。
【0061】
<参考例2b>
参考例2bは、実施例2の刺激のうち、刺激(2)のみをうなじに与えたときの評価結果である。マイナス側(過リラックス状態)でのLF/HF値は0.6、変動率RCHNは60%である。刺激(2)のみを付与することで、覚醒レベルをある程度高めることができるが、刺激(2)を継続して30分間付与しても、目標覚醒レベルに到達しない。プラス側でのLF/HF値は1.5と低く、この値はほとんど変動しない。
【0062】
<実施例3>
実施例3で、ユーザBの頸動脈とうなじに、それぞれ異なる種類の刺激(1)と(2)を付与する。実施例3の刺激(1)は頸動脈への涼感刺激、刺激(2)はうなじへのEMS(低周波)刺激である。ウエアラブルデバイス100の刺激付与デバイス12cと12aを同時に駆動して、刺激(1)と刺激(2)を同時に与える。刺激(1)と刺激(2)を同時に与えることで、プラス側(過ストレス状態)でのLF/HF値は3.6、変動率RCHNは140%である。マイナス側(過リラックス状態)でのLF/HF値は1.4、変動率RCHNは7%である。目標覚醒レベルへの到達時間は9分である。マイナス側でLF/HF値がわずかに変動していることから、主として刺激(1)がストレス緩和に作用し、それと同時に、刺激(2)は覚醒レベルをわずかに高める方向に微調整する役割を果たしていると考えられる。異なる刺激を与えることで、覚醒レベルを下げる方向の制御と、上げる方向の制御の双方が実現され、目標の覚醒レベルへと容易に収束する。
【0063】
<参考例3a>
参考例3aは、実施例3の刺激のうち、刺激(1)の涼感刺激のみを頸動脈に与えたときの評価結果である。プラス側(過ストレス状態)でのLF/HF値は4.7、変動率RCHNは213%である。マイナス側(過リラックス状態)でのLF/HF値は1.4、変動率RCHNは0%である。ユーザBにとって、刺激(1)の強度が強すぎてLF/HF値が上振れし、評価が不能である。この場合、実施例3のように、覚醒レベルを高める方向の刺激(2)と組み合わせることで、所望の覚醒レベルへと制御することができる。
【0064】
<参考例3b>
参考例3bは、実施例3の刺激のうち、刺激(2)のみをうなじに与えたときの評価結果である。マイナス側(過リラックス状態)でのLF/HF値は0.6、変動率RCHNは60%である。刺激(2)のみを継続して30分間付与しても、目標覚醒レベルに到達しない。プラス側でのLF/HF値は1.5と低く、この値はほとんど変動しない。このユーザにとって、うなじへのEMS刺激のみよりも、複数種類の刺激を組み合わせるほうが、効果的に覚醒レベルへ制御できる。
【0065】
図7の結果から、同じ刺激でも、ユーザによってリラックス刺激にも覚醒刺激にもなり得る。あらかじめユーザの傾向を取得して、ウエアラブルデバイス10で付与可能な複数種類の刺激の各々について、リラックス刺激か覚醒刺激かに分類して、情報処理装置200またはマイクロプロセッサ120の内蔵メモリに記録しておいてもよい。2以上の異なる刺激を組み合わせることで高いリラックス効果、あるいは適切な覚醒効果が得られる場合は、その刺激の組み合わせを情報処理装置200またはマイクロプロセッサ120の内蔵メモリに記録しておいてもよい。たとえば、頸動脈への温感刺激とうなじへの低周波の電気刺激を同時に付与することで、それぞれ単独の刺激ではリラックス効果または覚醒効果が過大になる場合でも、所望の覚醒状態へと微調整することができる。
【0066】
実施形態の覚醒状態制御方法をコンピュータプログラムで実現する場合、覚醒状態制御能プログラムが情報処理装置200にインストールされる。覚醒状態制御プログラムは、プロセッサ201に、
(a)ユーザの生体情報を取得する手順と、
(b)取得した生体情報を解析して、ユーザの覚醒状態を制御する1種類以上の刺激を決定する手順と、
(c)決定された前記1種類以上の刺激を刺激付与デバイスに通知する手順と、
を実行させる。
【0067】
上記で、特定の実施例に基づいて覚醒状態制御について説明したが、本発明の技術思想の範囲内で多様な変形例が可能である。ウエアラブルデバイス10にセンサ115、通信機117、またはマイクロプロセッサ120が組み込まれている場合、必ずしも本体110の湾曲部101に接続または設置される必要はなく、アーム130の適切な個所に接続または設置されてもよい。センサ115が取得する生体情報は、心拍データに限定されない。呼吸数、発汗状態、まばたき回数等、ユーザの緊張またはリラックス状態を判別できる別の生体データを検知してもよい。温度刺激と電気刺激の他に、アロマや光による刺激を付与してもよい。ウエアラブルデバイス10は、図2のように首への装着型が作業の妨げにならず、かつ覚醒状態の制御に効果的であるが、必ずしも首に装着する態様で構成される必要はない。脈拍、体温、発汗状態等の生体情報を測定でき、かつ刺激を付与できる場所であれば、手首、耳たぶ、指先、前腕、大腿部、肩背部等、身体のその他の部位に装着してもよい。
【0068】
<ウエアラブルデバイスのその他の態様>
図8はウエアラブルデバイスのその他の態様を示す図、図9図8のウエアラブルデバイス1000の皮膚との接触面側の構成例を示す図である。ウエアラブルデバイス1000は、手首に装着できるように構成されている。ウエアラブルデバイス1000は、本体1001と、装着部1002と、を備える。本体1001は、図9に示すように、操作部1003と、刺激付与デバイス1004と、センサ1005と、を含む。刺激付与デバイス1004は、たとえば手首の内側に接触するように配置されている。センサ1005は、生体情報を取得し易い位置、たとえば手首の内側、または動脈に触れる位置に配置されている。本体1001の側面に、操作部1003を設けても良い。操作部1003によって、ユーザは電源のON/OFFや刺激の強度等を調整できる。本体1001に、通信機117(図3A及び3B参照)又はマイクロプロセッサ120(図3C参照)が内蔵されており、取得した生体情報を遠隔のプロセッサに送信し、あるいは、ウエアラブルデバイス1000の内部で解析する。なお、図9では、刺激付与デバイス1004が1つのみである場合を示しているが、これに限られない。例えば、本体1001の同一面において他の刺激付与デバイスを設け、温度刺激や電気刺激等の複数種類の刺激を付与可能な構成としても良い。
【0069】
図10は、ウエアラブルデバイスのさらに別の態様を示す図である。ウエアラブルデバイス2000は、耳に装着可能に構成されている。ウエアラブルデバイス2000は、本体2001と、装着部2002と、刺激付与デバイス2003と、センサ2004と、を備える。本体2001は、通信機117又はマイクロプロセッサ120を内蔵している。ウエアラブルデバイス2000は、刺激付与デバイス2003として、スピーカを内蔵していてもい。スピーカにより、ユーザに音刺激を付与できる。また、例えば温度刺激を付与する刺激付与デバイス2003を設ける場合は、耳に接触しやすいよう装着部2002の耳たぶとの接触面に配置されていることが好ましい。同様に、センサ2004も装着部2002の耳(耳たぶ)に接触しやすい位置に配置されていることが好ましい。
【0070】
ウエアラブルデバイス1000及び2000によっても、ユーザの生体情報に基づいて異なる種類又は異なる強度の刺激をユーザの装着部位に付与することができる。
【0071】
上記の実施例に対して以下の態様をとり得る。
(項1)
ユーザの生体情報を取得するセンサと、
前記生体情報に基づいて覚醒状態を制御する1種類以上の刺激を決定する刺激制御部と、
前記刺激制御部によって決定された前記1種類以上の刺激を前記ユーザに付与する刺激付与デバイスと、
を備える覚醒状態制御システム。
(項2)
前記刺激制御部は、前記生体情報を解析し前記ユーザの覚醒状態を取得する覚醒状態取得部を有し、前記ユーザの覚醒状態が目標覚醒状態よりもリラックス状態にあるときに前記ユーザの覚醒状態を引き上げる刺激を選択し、前記ユーザの覚醒状態が前記目標覚醒状態よりも緊張状態にあるときに前記ユーザの覚醒状態を緩和する刺激を選択する、
項1に記載の覚醒状態制御システム。
(項3)
前記刺激制御部は、前記生体情報に基づいて前記ユーザの覚醒状態を高める第1刺激と、前記ユーザの覚醒状態を緩和する第2刺激を決定し、
前記刺激付与デバイスは、前記第1刺激と前記第2刺激を同時または交互に付与する、
項1または2に記載の覚醒状態制御システム。
(項4)
前記刺激制御部は、作業種別に応じた目標覚醒状態の設定を取得し、前記目標覚醒状態の設定に対する前記生体情報の変化に基づいて前記1種類以上の刺激を決定する、
項1から3のいずれかに記載の覚醒状態制御システム。
(項5)
前記刺激制御部は、作業種別に応じた目標覚醒状態の設定を取得し、前記目標覚醒状態の設定に対する前記生体情報の変化に応じて刺激の種類、刺激付与時間、刺激強度の少なくとも一つを補正する、
項1から3のいずれかに記載の覚醒状態制御システム。
(項6)
前記刺激制御部は、前記生体情報に基づいて2種類以上の温度刺激または電気刺激を決定し、
前記刺激付与デバイスは、前記2種類以上の温度刺激または電気刺激を同時または交互に付与する、
項1から5のいずれか記載の覚醒状態制御システム。
(項7)
前記刺激付与デバイスは、前記1種類以上の刺激を前記ユーザの首部に付与する、
項1から6のいずれかに記載の覚醒状態制御システム。
(項8)
本体と、
前記本体の第1の箇所に設けられて第1刺激を付与する第1刺激部と、
前記本体の第2の箇所に設けられて前記第1刺激と異なる第2刺激を付与する第2刺激部と、
を有し、前記本体を装着するユーザの生体情報に基づいて前記第1刺激部と前記第2刺激部の一方または双方が駆動される、
ウエアラブルデバイス。
(項9)
前記生体情報を取得するセンサと、
前記生体情報を情報処理装置に送信し、前記情報処理装置から、前記第1刺激部と前記第2刺激部の一方または双方を駆動する制御信号を受信する通信機と、
を有する項8に記載のウエアラブルデバイス。
(項10)
センサから生体情報を取得し解析するプロセッサ、
を有し、
前記プロセッサによる前記生体情報の解析結果に基づいて、前記第1刺激部と前記第2刺激部の一方または双方が駆動される、
項8に記載のウエアラブルデバイス。
(項11)
前記生体情報を解析するプロセッサと、
前記プロセッサに接続される生体センサと、
を有し、前記プロセッサは、前記生体センサの出力に基づいて前記生体情報を解析し、
前記プロセッサによる前記生体情報の解析結果に基づいて、前記第1刺激部と前記第2刺激部の一方または双方が駆動される、
項8に記載のウエアラブルデバイス。
(項12)
ユーザの生体情報を取得し、
情報処理装置で前記生体情報を解析して、前記ユーザの覚醒状態を制御する1種類以上の刺激を決定し、
決定された前記1種類以上の刺激を前記ユーザに付与する、
覚醒状態制御方法。
(項13)
前記情報処理装置で前記生体情報を解析して前記ユーザの前記覚醒状態を取得し、前記覚醒状態が目標覚醒状態よりもリラックス状態にあるときに前記情報処理装置で前記覚醒状態を引き上げる刺激を選択し、前記覚醒状態が目標覚醒状態よりも緊張状態にあるときに前記覚醒状態を緩和する刺激を選択する、
項12に記載の覚醒状態制御方法。(項14)
決定された前記刺激に基づいて、刺激付与デバイスにより、前記ユーザの覚醒レベルを高める第1刺激と、前記ユーザの覚醒レベルを下げる第2刺激を同時または交互に前記ユーザに付与する、
項12に記載の覚醒状態制御方法。
【符号の説明】
【0072】
1 覚醒状態制御システム
10、10A、10B、10C、1000、2000 ウエアラブルデバイス
12、12a、12b、12c、1004、2003 刺激付与デバイス(刺激部)
101 湾曲部
110、1001、2001 本体
115、1005、2004 センサ
116 ケーブル
117 通信機
120 マイクロプロセッサ
121、122 第1電極
123、124 第2電極
125,126 第3電極
130 アーム
200 情報処理装置
201 プロセッサ
202 主メモリ
203 補助メモリ
204 入出力インタフェース
205 通信インタフェース
210 刺激制御部
211 生体情報取得部
212 目標レベル設定部
213 データ解析部
214 刺激決定部
215 評価取得部
1002、2002 装着部
1003 操作部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0073】
【特許文献1】特開2020-2029716号公報
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10