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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079586
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】皮膚疾患モデル動物
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20240101AFI20240604BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183540
(22)【出願日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2022192192
(32)【優先日】2022-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日 令和 4年10月26日 刊行物 日本研究皮膚科学会第47回年次学術大会・総会 プログラム・抄録集 公開されたアドレス https://jsid47.jp/program/47JSID_Abstract.pdf
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】松岡 悠美
(72)【発明者】
【氏名】藤本 学
(72)【発明者】
【氏名】杉平 貴史
(57)【要約】
【課題】角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物を提供すること。
【解決手段】角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物(ヒトを除く)であって、前記皮膚疾患が、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを前記モデル動物の皮膚に塗布することにより誘発された皮膚疾患である、モデル動物。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物(ヒトを除く)であって、
前記皮膚疾患が、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを前記モデル動物の皮膚に塗布することにより誘発された皮膚疾患である、モデル動物。
【請求項2】
前記C14~C18脂肪酸がパルミチン酸である、請求項1に記載のモデル動物。
【請求項3】
前記アルキルエステルがエチルエステルである、請求項1に記載のモデル動物。
【請求項4】
前記角化亢進に由来する皮膚疾患が尋常性ざ瘡である、請求項1~3のいずれか一項に記載のモデル動物。
【請求項5】
C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルをモデル動物(ヒトを除く)の皮膚に塗布することを含む、角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物の作成方法。
【請求項6】
角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物(ヒトを除く)に対して物質を投与することを含む、角化亢進に由来する皮膚疾患に対する前記物質の予防効果又は治療効果の評価方法であって、前記モデル動物は、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを前記モデル動物の皮膚に塗布することにより皮膚疾患が誘発されたモデル動物である、評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、皮膚疾患モデル動物に関する。
【背景技術】
【0002】
角化亢進は、皮膚疾患の主要な要因の1つであり、角化亢進に由来する代表的な皮膚疾患としては、尋常性ざ瘡が挙げられる。角化亢進に由来する皮膚疾患への薬剤の有効性及び角化亢進を生じた場合における遺伝子の影響の評価等は、モデル動物を用いて行われることが一般的であり、たとえば尋常性ざ瘡の場合、アクネ菌をマウスに皮下注射して生じた炎症に対して行われた例が報告されている(非特許文献1~3)。しかし、菌そのものを皮下注射するというアプローチは、尋常性ざ瘡の生理的な発生機構とはかけ離れており、角化亢進に由来する皮膚疾患患者における皮膚疾患により近い状態の角化亢進に由来する皮膚疾患を再現する技術の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】KolarSL, Tsai CM, Torres J, Fan X, Li H, Liu GY. "Propionibacteriumacnes-induced immunopathology correlates with health and diseaseassociation." JCI Insight. 2019;4(5)
【非特許文献2】AnHJ, Lee WR, Kim KH, et al. "Inhibitory effects of bee venom onPropionibacterium acnes-induced inflammatory skin disease in an animal model."Int J Mol Med. 2014;34(5):1341-1348
【非特許文献3】NguyenCT, Sah SK, Zouboulis CC, Kim TY. "Inhibitory effects of superoxidedismutase 3 on Propionibacterium acnes-induced skin inflammation." SciRep. 2018;8(1):4024
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物及びその作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを動物の皮膚に塗布すると、コメドが形成され、角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物として利用可能であることを見出し、本開示を完成させた。
【0006】
本開示は、以下の[1]~[18]に関する。
[1]角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物(ヒトを除く)であって、上記皮膚疾患が、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを上記モデル動物の皮膚に塗布することにより誘発された皮膚疾患である、モデル動物。
[2]C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルをモデル動物(ヒトを除く)の皮膚に塗布することを含む、角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物の作成方法。
[3]角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物(ヒトを除く)に対して物質又は組成物を投与することを含む、角化亢進に由来する皮膚疾患に対する上記物質又は組成物の予防効果又は治療効果の評価方法であって、上記モデル動物は、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを上記モデル動物の皮膚に塗布することにより皮膚疾患が誘発されたモデル動物である、評価方法。
[4]角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物(ヒトを除く)に対して物質又は組成物を投与することを含む、角化亢進に由来する皮膚疾患の予防効果又は治療効果を有する物質又は組成物のスクリーニング方法であって、上記モデル動物は、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを上記モデル動物の皮膚に塗布することにより皮膚疾患が誘発されたモデル動物である、スクリーニング方法。
[5]上記皮膚疾患の予防効果又は治療効果を有する物質を含む組成物又は上記組成物が、薬剤、洗浄剤又は食品として用いるためのものである、[3]又は[4]に記載の方法。
[6]C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを動物(ヒトを除く)の皮膚に塗布することを含む、動物(ヒトを除く)におけるミエロイド系細胞の浸潤の誘導方法。
[7]上記C14~C18脂肪酸に含まれる炭素-炭素二重結合の数が0以上1以下である、[1]~[6]のいずれか一つに記載のモデル動物又は方法。
[8]上記C14~C18脂肪酸が飽和脂肪酸である、[1]~[6]のいずれか一つに記載のモデル動物又は方法。
[9]上記C14~C18脂肪酸がパルミチン酸である、[1]~[6]のいずれか一つに記載のモデル動物又は方法。
[10]上記アルキルエステルがC1~C3アルキルエステルである、[1]~[9]のいずれか一つに記載のモデル動物又は方法。
[11]上記アルキルエステルがイソプロピルエステル又はエチルエステルである、[1]~[9]のいずれか一つに記載のモデル動物又は方法。
[12]上記アルキルエステルがエチルエステルである、[1]~[9]のいずれか一つに記載のモデル動物又は方法。
[13]上記C14~C18脂肪酸がパルミチン酸であり、上記アルキルエステルがエチルエステルである、[1]~[6]のいずれか一つに記載のモデル動物又は方法。
[14]上記C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルがパルミチン酸エチルである、[1]~[6]のいずれか一つに記載のモデル動物又は方法。
[15]上記皮膚疾患が炎症性の皮膚疾患である、[1]~[5]及び[7]~[14]のいずれか一つに記載のモデル動物又は方法。
[16]上記角化亢進に由来する皮膚疾患が尋常性ざ瘡である、[1]~[5]及び[7]~[15]のいずれか一つに記載のモデル動物又は方法。
[17]上記尋常性ざ瘡における毛包の表皮に対して垂直方向の断面積が4700μm以上である、[16]に記載のモデル動物又は方法。
[18]上記C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルが、2~9wt%の溶液として、1日あたり1回、5~50μLで1~4日間塗布される、[1]~[17]のいずれか一つに記載のモデル動物又は方法。
[19]上記C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルが、3~8wt%のエタノール溶液として、1日あたり1回、10~30μLで2日間塗布される、[1]~[17]のいずれか一つに記載のモデル動物又は方法。
[20]上記モデル動物がモデルマウスである、[1]~[5]及び[7]~[19]のいずれか一つに記載のモデル動物又は方法。
[21]上記角化亢進に由来する皮膚疾患が耳に形成される、[1]~[5]及び[7]~[20]に記載のモデル動物又は方法。
[22]上記モデル動物における上記C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの塗布箇所において、ミエロイド系細胞の浸潤が生じている、[1]~[21]に記載のモデル動物又は方法。
[23][3]~[22]のいずれか一つに記載の評価方法によって評価された、又は[4]~[22]のいずれか一つに記載のスクリーニング方法によって選別された、上記皮膚疾患の予防効果又は治療効果を有する物質を有効量含む、組成物。
[24]医薬組成物、外用組成物又は食品組成物である、[23]に記載の組成物。
[25]皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの総量を指標として、角化亢進に由来する皮膚疾患への将来的な罹患又はその症状悪化の可能性を判定又は評価する方法。
[26]皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの総量を指標とすることを含む、物質又は組成物の、角化亢進に由来する皮膚疾患の治療、改善、緩和又は予防作用の判定又は評価方法。
[27]皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの総量を指標とすることを含む、角化亢進に由来する皮膚疾患の治療、改善、緩和又は予防用の物質又は組成物のスクリーニング方法。
[28]皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを含む、角化亢進に由来する皮膚疾患の将来的な罹患や症状の悪化の原因物質のモデル組成物。
[29]皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを含む組成物であって、角化亢進に由来する皮膚疾患の将来的な罹患や症状悪化の可能性を判定又は評価する指標として用いられる、角化亢進に由来する皮膚疾患の将来的な罹患や症状悪化の可能性の判定又は評価用指標剤。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、角化亢進に由来する皮膚疾患患者における皮膚疾患に近い状態の角化亢進に由来する皮膚疾患を発症したモデル動物、及びその作成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1において、尋常性ざ瘡患者及び健常者から採取した皮脂中に含まれる各脂肪酸の含有量を示す図である。
図2】実施例2において、モデルマウスから採取した組織を用いて作成したヘマトキシリン・エオジン染色切片の画像を示す図である。
図3】実施例2において、モデルマウスにおける毛包の、表皮に対して垂直方向の断面積を測定した結果を示す図である。
図4】実施例2において、マウスから採取した組織に含まれる、炎症マーカー(a)Il-1α(b)Il-1β(c)Tnf及び(d)Defb4を定量した結果を示す図である。
図5】実施例2において、マウスから採取した組織に含まれる、炎症マーカー(a)Defb14(b)S100a8(c)S100a9及び(d)Tslpを定量した結果を示す図である。
図6】実施例2において、マウスから採取した組織に含まれる、過角化マーカー(a)Krt16(b)Klk6及び(c)Krt17を定量した結果を示す図である。
図7】実施例3において、モデルマウスから採取した組織を用いて作成したヘマトキシリン・エオジン染色切片の画像を示す図である。
図8】実施例3において、モデルマウスにおける毛包の、表皮に対して垂直方向の断面積を測定した結果を示す図である。
図9】実施例3において、マウスから採取した組織に含まれる、炎症マーカーCxcl2を定量した結果を示す図である。
図10】実施例4において、モデルマウスから採取した組織を用いて作成したヘマトキシリン・エオジン染色切片の画像を示す図である。
図11】実施例4において、マウスから採取した組織に含まれる、炎症マーカー(a)Cxcl2並びに過角化マーカー(b)Krt16及び(c)Klk6を定量した結果を示す図である。
図12】実施例5において、パルミチン酸エチル又はステアリン酸エチルを塗布したマウスから採取した組織における、上昇が見られた遺伝子を示す図である。
図13】実施例6において、パルミチン酸エチル又はステアリン酸エチルを塗布したマウスから採取した組織に含まれる細胞における、好中球及びマクロファージのマーカーの発現量を示す図である。
図14】実施例6において、パルミチン酸エチル又はステアリン酸エチルを塗布したマウスから採取した組織における、好中球及びマクロファージの存在量を示す図である。
図15】実施例7において、好中球、単球、マクロファージを分類したゲーティングの方法(左図)、及びパルミチン酸エチルの塗布直後、6時間後、12時間後、24時間後及び48時間(2回塗布)後におけるフローサイトメトリーの結果(右図)を示す図である。
図16】実施例7において、CD45細胞、マクロファージ、単球、好中球に分類された細胞の数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示において、「脂肪酸」との記載は、カルボキシ基を1個もつ鎖式化合物,すなわち鎖状モノカルボン酸を意味する。本開示において、「飽和脂肪酸」との記載は、分子内の炭素-炭素結合がすべて単結合である脂肪酸、すなわち鎖状飽和モノカルボン酸を意味する。本開示において、「不飽和脂肪酸」との記載は、飽和脂肪酸ではない脂肪酸、すなわち分子内に炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を1つ以上有する脂肪酸を指す。
【0010】
本開示において、「脂肪酸名 [数値A]:[数値B]」又は「脂肪酸名([数値A]:[数値B])」との記載は、該脂肪酸に含まれる炭素数がAであること、及び、該脂肪酸に含まれる炭素-炭素二重結合の数がBであり、かつそれ以外の炭素-炭素結合は全て単結合であることを意味する。すなわち、例えば炭素数が16の飽和脂肪酸であるパルミチン酸は、「パルミチン酸 16:0」及び「パルミチン酸(16:0)」と表すことができ、また炭素数が18で分子内に炭素-炭素二重結合を1つ有する不飽和脂肪酸であるオレイン酸は、「オレイン酸 18:1」及び「オレイン酸(18:1)」と表すことができる。
【0011】
本開示において「C[数値A]アルキル」又は「C[数値A]アルキル基」との記載は、炭素数がAである飽和炭化水素基を意味し、「C[数値A]アルキルエステル」との記載は、カルボン酸と、炭素数がAであるアルキルアルコールとの間で形成されたエステルを意味する。すなわち、例えばメチルエステルはC1アルキルエステルに該当し、エチルエステルはC2アルキルエステルに該当する。
【0012】
本開示において、「C[数値A]脂肪酸」との記載は、炭素数がAである脂肪酸を意味する。本開示において、「C[数値A]飽和脂肪酸」との記載は、炭素数がAである飽和脂肪酸を意味する。例えば炭素数が16の飽和脂肪酸であるパルミチン酸は、「C16脂肪酸」及び「C16飽和脂肪酸」に該当する。
【0013】
本開示において、「C[数値A]~C[数値B]」との記載は、炭素数がA以上B以下であることを意味する。すなわち、例えば「C14~C18脂肪酸」は炭素数が14以上18以下の脂肪酸を表し、「C1~C3アルキル」は炭素数が1以上3以下のアルキルを表す。
【0014】
本開示の一側面は、角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物(ヒトを除く)であって、上記皮膚疾患が、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを前記モデル動物の皮膚に塗布することにより誘発された皮膚疾患である、モデル動物である。本開示において、「C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを前記モデル動物の皮膚に塗布する」とは、まだC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを塗布されておらず、角化亢進に由来する皮膚疾患を発症していない動物(ヒトを除く)に対して塗布することを意味する。すなわち、「C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを前記モデル動物の皮膚に塗布する」とは、「C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを動物(ヒトを除く)の皮膚に塗布する」ことであると言い換えることができ、例えば本開示の一側面は、角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物(ヒトを除く)であって、上記皮膚疾患が、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを動物(ヒトを除く)の皮膚に塗布することにより誘発された皮膚疾患である、モデル動物、と言い換えることもできる。
【0015】
本開示において、角化亢進に由来する皮膚疾患とは、表皮における角化の異常である角化亢進に起因し生じる皮膚疾患である。角化亢進が生じると、過角化を引き起こし、毛包が拡張して皮脂が溜まった結果として、種々の皮膚疾患を生じる。また、皮脂が溜まった毛包は炎症を生じやすく、本開示における角化亢進に由来する皮膚疾患は、角化亢進に由来する炎症性の皮膚疾患であってもよい。
【0016】
本開示における角化亢進に由来する皮膚疾患は、例えば、角化症、炎症性角化症、尋常性ざ瘡、毛嚢炎、脂漏性皮膚炎、化膿性汗腺炎、湿疹であってよい。
【0017】
本開示におけるモデル動物に係る動物は、ヒト以外の動物であって、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを上記モデル動物の皮膚に塗布することによって角化亢進に由来する皮膚疾患を再現することができる動物であれば、特に限定されない。本開示におけるモデル動物に係る動物は、例えば、哺乳類又は鳥類の動物であることが好ましく、哺乳類の動物であることがより好ましく、げっ歯類(げっ歯目、ネズミ目、Rodeitia)の動物であることがさらに好ましい。また、本開示におけるモデル動物に係る動物が哺乳類の動物である場合、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、フェレット、スナネズミ、ウサギ、イヌ又はサルであってよく、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、フェレット又はスナネズミであってもよく、マウス、ラット、モルモット又はハムスターであってもよく、マウス又はラットであってもよい。本開示におけるモデル動物に係る動物は、無毛の動物でもよいが、免疫系に異常がある動物の場合、角化亢進に由来する皮膚疾患を適切に評価できない恐れがあるため、免疫系に異常がない動物であることが好ましい。
【0018】
本開示におけるC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルは、モデル動物の皮膚に塗布することによって角化亢進に由来する皮膚疾患を再現することできるものであれば、特に限定されない。
【0019】
本開示の一側面に係る脂肪酸は、C14~C18脂肪酸であればよい。好ましい一実施形態において、本開示の一側面に係る脂肪酸はC16脂肪酸であってもよい。脂肪酸がC16脂肪酸であると、モデル動物に再現される角化亢進に由来する皮膚疾患において、炎症を高効率で惹起することができ、角化亢進に由来する炎症性の皮膚疾患モデル動物として好適に利用することができる。
【0020】
本開示におけるC14~C18脂肪酸は、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよく、不飽和脂肪酸である場合、その炭素-炭素二重結合の位置及び立体化学は限定されない。また、本開示におけるC14~C18脂肪酸に含まれる炭素-炭素二重結合の数は、例えば0以上3以下であってよく、0以上2以下であってもよく、0以上1以下であってもよい。また、好ましい一実施形態において、本開示におけるC14~C18脂肪酸に含まれる炭素-炭素二重結合の数は0であってよい、すなわち、C14~C18脂肪酸は飽和脂肪酸であってよい。C14~C18脂肪酸が飽和脂肪酸であると、モデル動物に再現される角化亢進に由来する皮膚疾患において、炎症を高効率で惹起することができ、角化亢進に由来する炎症性の皮膚疾患モデル動物として好適に利用することができる。また、本開示におけるC14~C18脂肪酸は、直鎖脂肪酸であってよい。また、好ましい一実施形態におけるC14~C18脂肪酸は、炭素-炭素三重結合を含まない。
【0021】
本開示におけるC14~C18脂肪酸としては、例えばミリスチン酸(14:0)、ペンタデカン酸(15:0)、パルミチン酸(16:0)、ヘプタデカン酸(17:0)、ステアリン酸(18:0)、ミリストレイン酸(14:1)、サピエン酸(16:1)、パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)、エライジン酸(18:1)、バクセン酸(18:1)、ペトロセリン酸(18:1)、イソステアリン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、ピノレン酸(18:3)、エレオステアリン酸(18:3)、カレンド酸(18:3)、プニカ酸(18:3)及びステアリドン酸(18:4)等を挙げることができる。一実施形態に係るC14~C18脂肪酸は、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、サピエン酸、イソステアリン酸及びオレイン酸からなる群より選択される1以上の脂肪酸であってよく、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸及びステアリン酸からなる群より選択される1以上の脂肪酸であってもよく、ミリスチン酸、パルミチン酸又はステアリン酸であってもよく、パルミチン酸であってもよい。
【0022】
本開示におけるC14~C18脂肪酸のアルキルエステルは、例えばC14~C18脂肪酸のC1~C3アルキルエステルであってもよい。本開示におけるC14~C18脂肪酸のアルキルエステルがC14~C18脂肪酸のC1~C3アルキルエステルである場合、一実施形態におけるC1~C3アルキルエステルはメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル又はイソプロピルエステルであり、好ましい一実施形態におけるC1~C3アルキルエステルはイソプロピルエステル又はエチルエステルであり、より好ましい一実施形態におけるC1~C3アルキルエステルはエチルエステルである。また、本開示におけるC14~C18脂肪酸のアルキルエステルは、直鎖脂肪酸の直鎖アルキルエステルであってもよい。
【0023】
本開示の好ましい一実施形態におけるC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルは、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ミリスチン酸メチル、ペンタデカン酸メチル、パルミチン酸メチル、ヘプタデカン酸メチル、ステアリン酸メチル、イソステアリン酸メチル、ミリスチン酸エチル、ペンタデカン酸エチル、パルミチン酸エチル、ヘプタデカン酸エチル、ステアリン酸エチル、イソステアリン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソプロピル及びイソステアリン酸イソプロピルからなる群より選択される1以上である。本開示のより好ましい一実施形態におけるC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルは、ミリスチン酸エチル、ペンタデカン酸エチル、パルミチン酸エチル、ヘプタデカン酸エチル、ステアリン酸エチル、イソステアリン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソプロピル及びイソステアリン酸イソプロピルからなる群より選択される1以上である。本開示のより好ましい他の一実施形態におけるC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルは、パルミチン酸、パルミチン酸イソプロピル及びパルミチン酸エチルからなる群より選択される1以上である。本開示のさらに好ましい一実施形態において、C14~C18脂肪酸はパルミチン酸であり、アルキルエステルはエチルエステルである。本開示のより一層好ましい一実施形態におけるC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルは、パルミチン酸エチルである。
【0024】
本開示におけるC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルは、溶媒に溶解、懸濁又は乳化された状態でモデル動物の皮膚に塗布されてよい。溶媒としては特に限定されず、例えば水、エタノール、イソプロピルアルコール、グリセリン、ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アセトン、メタノール、ジメチルホルムアミド、ピリジン若しくはジメチルスルホキシド又はそれらの混合物を用いることができる。一実施形態における溶媒は、エタノール、水とエタノールの混合物、アセトン、アセトンと水の混合物、水とプロピレングリコールの混合物、水とポリエチレングリコールの混合物又は水とジメチルスルホキシドの混合物であってもよい。
【0025】
本開示におけるC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルが溶媒に溶解、懸濁又は乳化された状態でモデル動物の皮膚に塗布される場合、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの濃度としては、2~50wt%であればよく、2~20wt%、2~10wt%、2~9wt%、3~8wt%、3~6wt%又は4~6wt%であってもよい。C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの濃度が上記上限以下であると、角化亢進に由来する皮膚疾患の初期段階であるコメドが成熟しすぎず、好適なモデル動物が得られる。好ましい一実施形態において、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの濃度は、5wt%である。
【0026】
本開示におけるC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルが溶媒に溶解された状態でモデル動物の皮膚に塗布される場合、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの濃度としては、0.0560~1.40mol/Lであってよく、0.0560~0.560mol/L、0.0560~0.280mol/L、0.0560~0.252mol/L、0.0840~0.224mol/L、0.0840~0.168mol/L又は0.112~0.168mol/Lであってもよい。C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの濃度が上記上限以下であると、角化亢進に由来する皮膚疾患の初期段階であるコメドが成熟しすぎず、好適なモデル動物が得られる。
【0027】
本開示の一側面における角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物は、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを上記モデル動物の皮膚に塗布することによって作成される。塗布する方法は特に限定されず、例えば皮膚に対して滴下又は噴霧すること等によって塗布してもよい。
【0028】
モデル動物の皮膚に塗布するC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの1回の塗布あたりの量は、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの質量を基準として、例えば0.0750~3.60mgであってよく、0.250~1.80mgであってもよく、0.450~1.13mgであってもよい。また、モデル動物の皮膚に塗布するC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの1回の塗布あたりの絶対量は、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを基準として、例えば0.250~13.0μmolであってよく、0.750~6.50μmolであってもよく、1.50~4.00μmolであってもよい。また、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを溶媒に溶解、懸濁又は乳化した状態で塗布する場合、塗布する溶媒の量は、例えば5~50μLであってよく、10~30μLであってもよく、15~25μLであってもよい。
【0029】
モデル動物の皮膚にC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを塗布する1日あたりの回数は特に限定されず、例えば1日当たり1回、2回又は3回であってもよく、1日当たり1回であってもよい。また、塗布する期間は、1~7日であってよく、1~5日であってもよく、1~4日であってもよく、形成される皮膚疾患における炎症の強さの観点から好ましくは2~4日であってもよく、2~3日であってもよい。好ましい一実施形態において、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルは、モデル動物の皮膚に対して1日あたり1回で2日間塗布される。
【0030】
C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを皮膚に塗布して角化亢進に由来する皮膚疾患を形成するモデル動物の部位は特に限定されず、例えば、耳、背中であってよい。好ましい一実施形態において、角化亢進に由来する皮膚疾患は、耳に形成されてもよい。C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを塗布する際、モデル動物の皮膚の塗布部位は無毛であることもしくは脱毛・剃毛処理を施すことが好ましい。
【0031】
本開示の一側面における角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物においては、過角化が生じ、毛包の拡張が見られる。毛包の表皮に対して垂直方向の断面積としては、4700μm以上が好ましく、5000μm以上がより好ましい。上記断面積は、マウス1匹における複数個の毛包を測定した場合の平均値であってもよく、測定される毛包の個数は例えば3個以上、5個以上、10個以上、または15個以上であってよく、一例として15個であってもよい。毛包の断面積が上記下限以上であると、皮脂の十分な蓄積が生じるため、角化亢進に由来する皮膚疾患が高効率に誘発できる。
【0032】
本開示の一側面の一実施形態に係る、角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物は、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの塗布箇所において、ミエロイド系細胞の浸潤が生じていてもよい。このようなミエロイド系細胞の浸潤は、尋常性ざ瘡の患者において発現する免疫反応として知られているため、一実施形態に係るモデル動物においてミエロイド系細胞の浸潤が生じていると、該モデル動物を角化亢進に由来する皮膚疾患(例えば尋常性ざ瘡)のモデル動物として好適に用いることができる。
【0033】
浸潤が生じているミエロイド系細胞は、例えば好中球、単球又はマクロファージを含むミエロイド系細胞であってよく、好ましい一実施形態においてはマクロファージを含むミエロイド系細胞であってよく、より好ましい一実施形態においては好中球、単球及びマクロファージを含むミエロイド系細胞であってよく、より詳細にはマクロファージ、又は好中球、単球及びマクロファージであってよい。
【0034】
本開示の一側面の一実施形態においてC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルがパルミチン酸エチルであると、角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物のパルミチン酸エチルの塗布部位においては好中球、単球及びマクロファージの顕著な浸潤が見られるため、該モデル動物は角化亢進に由来する皮膚疾患のモデル動物として特に好適に用いることができる。
【0035】
ミエロイド細胞(例えば好中球、単球、マクロファージ)の浸潤が生じていることは、例えば、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの塗布箇所周辺の組織から採取した細胞において、ミエロイド細胞の細胞数又は存在比が増加していることであってよい。例えば、ミエロイド細胞(例えば好中球、単球、マクロファージ)の浸潤が生じていることは、同重量の組織あたりのミエロイド細胞の細胞数(個数)が、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを塗布していない動物に対して2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、7倍以上又は10倍以上であることであってよい。また、例えば、ミエロイド細胞(例えば好中球、単球、マクロファージ)の浸潤が生じていることは、塗布部位周辺から採取した細胞に占めるミエロイド細胞の割合が、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを塗布していない動物に対して2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、7倍以上又は10倍以上であることであってよい。ミエロイド細胞の含有量及び存在比は、例えばフローサイトメトリー法によって評価することができる。
【0036】
本開示の他の一側面は、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルをモデル動物(ヒトを除く)の皮膚に塗布することを含む、角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物の作成方法である。すなわち、本開示の他の一側面は、本開示の一側面に係るモデル動物を作成する方法であり、モデル動物に係る動物、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステル、溶媒、その他成分並びに塗布方法等としては上述したものを用いることができ、塗布により形成される毛包の断面積についても上述のとおりである。
【0037】
本開示における角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物は、角化亢進に由来する皮膚疾患患者における皮膚疾患に近い状態の角化亢進に由来する皮膚疾患を再現することができる。すなわち、本開示における角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物は、角化亢進に由来する皮膚疾患患者における皮膚疾患を忠実に再現することができる。角化亢進に由来する皮膚疾患患者における皮膚疾患に近い状態の角化亢進に由来する皮膚疾患としては、例えば、以下に述べる1つ以上の特徴を有する角化亢進に由来する皮膚疾患が挙げられる。
【0038】
C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを塗布することより形成されるコメドが成熟しすぎている場合、皮膚のターンオーバーによりコメドが排出されてしまうため、尋常性ざ瘡等の、毛包で皮脂分泌が亢進することにより引き起こされる角化亢進に由来する皮膚疾患の生理的条件における病態を再現することができない。すなわち、モデル動物が発症する角化亢進に由来する皮膚疾患が角化亢進に由来する皮膚疾患患者における皮膚疾患に近い状態であるとは、一義には、形成されるコメドが成熟しすぎていない状態であることであり得る。
【0039】
例えば尋常性ざ瘡の場合、薬剤の効果や強度を評価するにあたっては、その効果や強度を評価するに足る重症度まで尋常性ざ瘡が成長していることが好ましい。一般に角化亢進に由来する皮膚疾患患者においては、過角化が生じて毛包が閉塞し、分泌皮脂が詰まった結果、毛包が拡張して種々の皮膚疾患を生じる。さらに、角化亢進に由来する皮膚疾患の悪化(例えば、尋常性ざ瘡の成長)に伴い毛包が拡張していく。そのため、モデル動物が発症する角化亢進に由来する皮膚疾患が角化亢進に由来する皮膚疾患患者における皮膚疾患に近い状態であるとは、一義には、毛包の断面積がある下限値以上であることであり得る。
【0040】
また、尋常性ざ瘡等の多くの角化亢進に由来する皮膚疾患においては炎症を伴うため、これらの皮膚疾患に対するモデル動物は、形成されるコメドにおいて炎症が生じていることが好ましい。すなわち、モデル動物が発症する角化亢進に由来する皮膚疾患が角化亢進に由来する皮膚疾患患者における皮膚疾患に近い状態であるとは、一義には、形成されるコメドにおいて炎症が生じていることであり得る。
【0041】
本開示の他の一側面は、角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物(ヒトを除く)に対して物質又は組成物を投与することを含む、角化亢進に由来する皮膚疾患に対する上記物質又は組成物の予防効果又は治療効果の評価方法であって、上記モデル動物は、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを上記モデル動物の皮膚に塗布することにより皮膚疾患が誘発されたモデル動物である、評価方法である。上記物質又は組成物は、皮膚疾患予防剤又は治療剤として知られている物質又は組成物であってもよく、皮膚疾患予防剤又は治療剤として知られていないが皮膚疾患の予防効果又は治療効果を有する可能性がある物質又は組成物であってもよい。上記組成物は、例えば皮膚疾患予防剤若しくは治療剤として知られている、又は皮膚疾患予防剤若しくは治療剤として知られていないが皮膚疾患の予防効果若しくは治療効果を有する可能性がある物質を少なくとも1種含む、2種以上の物質の混合物であってよい。
【0042】
本開示の他の一側面は、角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物(ヒトを除く)に対して物質又は組成物を投与することを含む、角化亢進に由来する皮膚疾患の予防効果又は治療効果を有する物質又は組成物のスクリーニング方法であって、上記モデル動物は、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを上記モデル動物の皮膚に塗布することにより皮膚疾患が誘発されたモデル動物である、スクリーニング方法である。以下では、スクリーニング方法において投与される上記物質を、皮膚疾患の予防効果又は治療効果を有する物質又は組成物の「候補物質」又は「候補組成物」とも記載する。
【0043】
本開示における評価方法又はスクリーニング方法が、角化亢進に由来する皮膚疾患の予防効果の評価方法又は予防効果を有する物質又は組成物のスクリーニング方法である場合、本開示における評価方法又はスクリーニング方法は、例えば以下の3つの工程を含む方法によって実施することができる。ここで、工程A及び工程Bは、同時に行われてもよい。
[工程A]モデル動物(ヒトを除く)に対して、角化亢進に由来する皮膚疾患の予防効果を有する物質若しくは組成物又はそれらの候補物質若しくは候補組成物を投与する工程。
[工程B]C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを上記モデル動物の皮膚に塗布することにより、角化亢進に由来する皮膚疾患を誘発する工程。
[工程C]上記モデル動物における角化亢進に由来する皮膚疾患の発症の有無及びその重症度を評価する工程。
【0044】
工程Aにおける角化亢進に由来する皮膚疾患の予防効果を有する物質若しくは組成物又はそれらの候補物質若しくは候補組成物の投与方法は特に限定されず、例えば経皮投与、経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、点鼻投与又は点眼投与等であってよい。皮膚疾患予防剤若しくは組成物又はそれらの候補物質若しくは候補組成物として投与方法が既知の薬剤を用いる場合、既知の投与方法に従うことが好ましい。
【0045】
工程Bは、本開示の一側面に係る角化亢進に由来する皮膚疾患モデル動物の作成方法と同様の方法により行うことができる。
【0046】
工程Cは、モデル動物における角化亢進に由来する皮膚疾患の発症の有無及びその重症度を評価することができる任意の方法によって行うことができ、例えば外観に基づく病徴評価によってもよく、上記モデル動物の角化亢進に由来する皮膚疾患を発症した部分を含む組織を採取し、ヘマトキシリン・エオジン染色等の発症の有無及び病徴の程度を評価可能な方法で標識することより評価してもよく、上記モデル動物の角化亢進に由来する皮膚疾患を発症した部分から採取した組織中における過角化マーカー又は炎症マーカー等の上昇の有無及びその程度から評価してもよい。
【0047】
また、本開示における評価方法又はスクリーニング方法が、角化亢進に由来する皮膚疾患の治療効果の評価方法又は治療効果を有する物質又は組成物のスクリーニング方法である場合、本開示における評価方法又はスクリーニング方法は、例えば以下の3つの工程を含む方法によって実施することができる。なお、以下の3工程のうち、工程B及び工程Aについては、順番が違うことを除き、本開示の一側面における評価方法又はスクリーニング方法が角化亢進に由来する皮膚疾患の予防効果の評価方法又は予防効果を有する物質のスクリーニング方法である場合と同様の方法により行うことができる。
[工程B]C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルをモデル動物の皮膚に塗布することにより、角化亢進に由来する皮膚疾患を誘発する工程。
[工程A]上記モデル動物(ヒトを除く)に対して、角化亢進に由来する皮膚疾患の治療効果を有する物質若しくは組成物又はそれらの候補物質若しくは候補組成物を投与する工程。
[工程D]上記モデル動物が発症した角化亢進に由来する皮膚疾患が、上記角化亢進に由来する皮膚疾患の治療効果を有する物質又はその候補物質の投与による改善の有無及びその程度を評価する工程。
【0048】
工程Dは、上記工程Aの前後、あるいは工程Aを含む場合と含まない場合の間における角化亢進に由来する皮膚疾患の改善の有無及びその重症度の差異を評価することができる任意の方法によって行うことができ、例えば外観に基づく病徴評価によってもよく、上記モデル動物の角化亢進に由来する皮膚疾患を発症した部分から採取した組織中における過角化マーカー又は炎症マーカー等の上昇の有無及びその程度から評価してもよい。
【0049】
以上で説明した評価方法及びスクリーニング方法に係る、角化亢進に由来する皮膚疾患の予防効果又は治療効果を有する物質、又は上記組成物に含まれる物質は、例えば薬剤、洗浄剤又は食品の成分として用いるためのものであってよく、薬剤、洗浄剤又は食品の有効成分として用いるためのものであってもよい。上記薬剤は、外用剤又は内服剤のいずれであってもよく、上記外用剤は例えば経皮投与用の製剤であってよく、上記内服剤は例えば経口投与用、静脈内投与用、皮下投与用、筋肉内投与用、腹腔内投与用、点眼投与用又は点鼻投与用の製剤であってもよい。上記洗浄剤は、例えば頭皮洗浄剤、洗顔料、ボディソープ、全身洗浄剤又は手指洗浄剤であってよい。上記食品は、例えば機能性食品であってよい。
【0050】
本開示の他の一側面は、本開示の一側面に係る評価方法によって予防効果又は治療効果を評価された、又は本開示の一側面に係るスクリーニング方法によって選別された、組成物、又は、角化亢進に由来する皮膚疾患の予防効果又は治療効果を有する物質を有効量含む、組成物である。このような組成物は、例えば医薬組成物、外用組成物又は食品組成物であってよい。上記医薬組成物は、例えば経皮投与用、経口投与用、静脈内投与用、皮下投与用、筋肉内投与用、腹腔内投与用、点眼投与用又は点鼻投与用の組成物であってもよい。上記外用組成物は、例えば化粧品用、頭皮洗浄用、洗顔用、体洗浄用、全身洗浄用又は手指洗浄用の組成物であってよい。上記食品組成物は、例えば機能性食品の有効成分として用いるための組成物であってよい。
【0051】
角化亢進に由来する皮膚疾患の予防効果又は治療効果を有する物質の有効量としては、組成物が投与された対象において該物質の有する予防効果又は治療効果が発揮される量であれば特に限定されず、該物質の種類に応じて当業者が設定することができ、例えば体重60kgの成人男性に対して1日あたりの投与量として0.001mg~10kgである。また、一実施形態において、上記組成物は、角化亢進に由来する皮膚疾患の予防効果又は治療効果を有する物質を有効成分として含む。組成物が該物質を有効成分として含んでいることは、組成物を投与された対象において見られた角化亢進に由来する皮膚疾患の予防効果又は治療効果が、投与していない対象においては見られないことによって決定することができ、該対象としては例えばヒトであってよく、またマウス又はラット等のモデル動物であってもよく、また培養細胞又は培養組織等であってもよい。
【0052】
本開示のさらに他の一側面は、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを動物(ヒトを除く)の皮膚に塗布することを含む、動物(ヒトを除く)におけるミエロイド系細胞の浸潤の誘導方法である。C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステル、動物(ヒトを除く)、塗布の方法、ミエロイド系細胞及びミエロイド系細胞の浸潤の評価としては、本開示の一側面に係るモデル動物において説明したものと同様のものを用いることができる。また、このような誘導方法によると、角化亢進に由来する皮膚疾患の予防効果又は治療効果を有する物質の評価又はスクリーニング等に用いるための、ミエロイド系細胞の浸潤が生じたモデル動物(ヒトを除く)を作成することができる。
【0053】
本開示のさらに他の一側面は、皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの総量を指標として、角化亢進に由来する皮膚疾患への将来的な罹患又はその症状悪化の可能性を判定又は評価する方法である。本開示のさらに他の一側面は、皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの総量を指標として、角化亢進に由来する皮膚疾患への将来的な罹患又はその症状悪化の可能性を判定又は評価することを補助する方法である。これらにおいて、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステル、塗布の方法、角化亢進に由来する皮膚疾患としては、本開示の一側面に係るモデル動物において説明したものと同様のものを用いることができる。また、これらにおいて、例えば角化亢進に由来する皮膚疾患に罹患していない対象と比較して皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの総量が多い場合に、角化亢進に由来する皮膚疾患への将来的な罹患又はその症状悪化の可能性が高いと判定又は評価してよい。また例えば、対象の皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの総量が経時的に上昇している場合に、該対象の角化亢進に由来する皮膚疾患への将来的な罹患又はその症状悪化の可能性が高いと判定又は評価してよい。
【0054】
皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの総量の評価方法としては、これらを評価可能な方法であれば特に限定されないが、例えばSebutape(CuDerm Corp)等を用いて皮膚上から採取したC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを、GC/MSを用いて評価する方法であってよい。
【0055】
本開示のさらに他の一側面は、皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの総量を指標とすることを含む、物質又は組成物の、角化亢進に由来する皮膚疾患の治療、改善、緩和又は予防作用の判定又は評価方法である。この場合、判定又は評価方法に用いられる動物は、例えば動物(ヒトを除く)であってよく、ヒトであってもよい。これらの場合における、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステル、動物(ヒトを除く)、塗布の方法、ミエロイド系細胞及びミエロイド系細胞の浸潤の評価としては、本開示の一側面に係るモデル動物において説明したものと同様のものを用いることができる。また、皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの総量を指標とすることは、本開示の一側面に係る、角化亢進に由来する皮膚疾患への将来的な罹患又はその症状悪化の可能性を判定又は評価する方法において説明したのと同様に行うことができる。
【0056】
本開示のさらに他の一側面は、皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの総量を指標とすることを含む、角化亢進に由来する皮膚疾患の治療、改善、緩和又は予防用の物質又は組成物のスクリーニング方法である。この場合、判定又は評価方法に用いられる動物は、例えば動物(ヒトを除く)であってよく、ヒトであってもよい。これらの場合における、C14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステル、動物(ヒトを除く)、塗布の方法、ミエロイド系細胞及びミエロイド系細胞の浸潤の評価としては、本開示の一側面に係るモデル動物において説明したものと同様のものを用いることができる。また、皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルの総量を指標とすることは、本開示の一側面に係る、角化亢進に由来する皮膚疾患への将来的な罹患又はその症状悪化の可能性を判定又は評価する方法において説明したのと同様に行うことができる。
【0057】
本開示のさらに他の一側面は、皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを含む、角化亢進に由来する皮膚疾患の将来的な罹患や症状の悪化の原因物質のモデル組成物である。本開示のさらに他の一側面は、皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを含む組成物であって、角化亢進に由来する皮膚疾患の将来的な罹患や症状悪化の可能性を判定又は評価する指標として用いられる、角化亢進に由来する皮膚疾患の将来的な罹患や症状悪化の可能性の判定又は評価用指標剤でもありうる。これらのモデル組成物、及び判定若しくは評価用指標剤は、角化亢進に由来する皮膚疾患の将来的な罹患や症状の悪化の原因物質を含む組成物又は製剤であり、少なくとも皮膚上のC14~C18脂肪酸及び/又はそのアルキルエステルを含む。例えば、対象の皮膚から採取したサンプルが、これらのモデル組成物、又は判定若しくは評価用指標剤と同様又は類似した成分の組み合わせ又は組成を備えた場合に、該対象は角化亢進に由来する皮膚疾患への将来的な罹患やその症状の悪化の可能性が高いと判定することができる。
【実施例0058】
以下、実施例に基づいて本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0059】
以下の実施例において使用したマウスは、雌のB6系統マウス(C57BL/6Jマウス)を日本クレア株式会社(日本、東京)より購入した。実験には6~9週齢の雌マウスを使用した。すべての実験は、大阪大学動物実験規程に準拠して行った。プロトコルは、大阪大学施設動物管理使用委員会の承認を得た。
【0060】
[実施例1:尋常性ざ瘡患者の皮脂の脂肪酸解析]
尋常性ざ瘡患者及び健常者から採取した皮脂中に含まれる各脂肪酸の含有量を測定し、尋常性ざ瘡患者において分泌量が多くなっている脂肪酸について検討した。
【0061】
健常者では眉間中央に、尋常性ざ瘡患者では眉間中央の皮疹部に、1cm×1cmのSebutapeを貼付し、30分経過後に剥離して皮脂を採取した。Sebutape(CuDerm Corp)は、皮膚から皮脂を採取するために設計された微多孔質フィルムである。次にSebutapeを厚紙から剥がし、クロロホルム及びメタノールの2:1の混合物である抽出溶媒8mlとガラスビーズをガラス試験管に入れ、10分間振盪した。その後10分間超音波処理したのち更に10分間振盪し、皮脂中の脂肪酸を抽出した。なお、ブランクとして無処理のSebutapeを使用した。抽出した脂肪酸を含む溶液から溶媒を窒素ガスを供給して蒸発させ、残渣を20w/v%エタノールのクロロホルム溶液1mlを加え溶解させた。0.5mlのトリメチルシリルジアゾメタン(約10w/v%ヘキサン溶液、約0.6mol/L、東京化成工業株式会社製)を加え混合後、室温で30分間静置させた。得られた溶液の溶媒を窒素ガスを供給して蒸発させた後、インターナルスタンダード(C24 ester)を加え混合後、ガラスバイアルへ移し、溶媒を窒素ガスを供給して蒸発させた。200μlのヘキサンで溶解後、GC/MSで解析した。結果を図1に示す。図1の結果は、平均値±標準偏差で示されており、**、****は、Sidak’s multiple comparisons検定におけるP値がそれぞれ0.01未満、0.0001未満であったことを示す。
【0062】
結果として、まず、尋常性ざ瘡患者及び健常者の双方において、皮脂中に含まれる脂肪酸として、C14~C18脂肪酸の分泌量が多かった。また、いずれの脂肪酸についても、健常者と比較して、尋常性ざ瘡患者における分泌量が多かった。さらに、健常者と尋常性ざ瘡患者との間における分泌量の差は、C16脂肪酸であるサピエン酸及びパルミチン酸において大きく、C16飽和脂肪酸であるパルミチン酸においてより大きかった。
【0063】
[実施例2:マウス耳に対するパルミチン酸エチルの皮膚塗布試験]
実施例1において健常者と尋常性ざ瘡患者の皮脂における分泌量の差が大きかったパルミチン酸について、エチルエステル体であるパルミチン酸エチルをマウス耳に対して塗布することにより、角化亢進に由来する皮膚疾患の初期段階であるコメドが形成されるかを検討した。すなわち、尋常性ざ瘡を原因としてパルミチン酸が分泌されるのみならず、皮膚がパルミチン酸に曝露されることで尋常性ざ瘡が発症及び悪化するかについて検討した。
【0064】
パルミチン酸エチル(東京化成工業株式会社製)の1、3、5又は10wt%エタノール溶液を、C57BL/6Jマウスの耳介に片耳あたり20μL/dayで、塗布開始した日を0日目として、1日1回で0、1、2、3、4日目の計5日間塗布した。ネガティブコントロールとして、エタノールを、C57BL/6Jマウスの耳介に片耳あたり20μL/dayで、塗布開始した日を0日目として、0、1、2、3、4日目の計5日間塗布した。これらのマウスについて、5日目に、塗布した部分を含む組織を採取した後、その組織をPBS中の10%中性緩衝ホルマリン液(富士フイルム和光純薬株式会社製)で固定し、パラフィンに包埋した。その固定組織をカットして厚さ4μmの切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジンで染色した。All-in-one Fluorescence Microscope BZ-X710 (KeyencE,Osaka,Japan)を用いて画像を撮影した。結果を図2に示す。また、エタノールを塗布したマウス及びパルミチン酸エチルの5又は10wt%エタノール溶液を塗布したマウスに形成された毛包の、表皮に対して垂直方向の断面積を、1匹のマウスにつき15か所の測定を3匹のマウスについて行った結果を図3に示す。図3の結果は平均値±標準偏差(n=3)で示されており、図中において、*は、一元配置分散分析におけるP値が0.05未満であったことを示し、図中において、***は、一元配置分散分析におけるP値が0.001未満であったことを示す。
【0065】
続いて、エタノールを塗布したマウス及びパルミチン酸エチルの1、5又は10wt%エタノール溶液を塗布したマウスに形成された毛包から、TRIzol(登録商標)試薬(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)とDirect-zol RNA Miniprep Kit(Zymo Research,Irvine,CA,USA)を用いて、製造元の指示に従ってパルミチン酸エチルを塗布した部分を含む組織からtotal RNAを単離した。RNA濃度は、CytationTM 3 microplate reader(BioTek,Winooski,VT,USA)を用いて評価した。マウスの耳から抽出したRNAについて、High Capacity cDNA kit(Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)を用いて逆転写を実施した。遺伝子の定量は、定量的リアルタイムPCRにより行った。用いたプライマーのリストを表1に示す。qPCRはViiA7 real-time PCR system(Life Technologies Corporation,Grand Island,NY,USA)を用いて実施された。遺伝子の量は、dCT法により算出した。遺伝子の量は、ハウスキーピング遺伝子であるGapdh mRNAの量に対して正規化した。炎症マーカーであるIl-1αについて結果を図4(a)に示す。炎症マーカーであるIl-1βについての結果を図4(b)に示す。炎症マーカーであるTnfについて結果を図4(c)に示す。炎症マーカーであるDefb4についての結果を図4(d)に示す。炎症マーカーであるDefb14についての結果を図5(a)に示す。炎症マーカーであるS100a8についての結果を図5(b)に示す。炎症マーカーであるS100a9についての結果を図5(c)に示す。炎症マーカーであるTslpについての結果を図5(d)に示す。過角化マーカーであるKrt16についての結果を図6(a)に示す。過角化マーカーであるKlk6についての結果を図6(b)に示す。過角化マーカーであるKrt17の結果を図6(c)に示す。これらの結果は平均値±標準誤差(n=3)で示されている。また、これらの結果は一元配置分散分析を用いて検定されており、図中において、*はP値が0.05未満であったことを示し、**はP値が0.01未満であったことを示し、***はP値が0.001未満であったことを示し、****はP値が0.0001未満であったことを示す。
【0066】
【表1】
【0067】
図2によれば、パルミチン酸エチルの3、5及び10wt%エタノール溶液を塗布した群において明らかなコメドの形成が見られた。このうち、パルミチン酸エチルの10wt%エタノール溶液を塗布したマウスにおいてはコメドが表皮の表層近くまで移動してしまっており、コメドが成熟してしまっているのに対し、パルミチン酸エチルの3及び5wt%エタノール溶液を塗布したマウスではこのような事象は見られていないことから、パルミチン酸エチルの3及び5wt%エタノール溶液を塗布したマウスが角化亢進に由来する皮膚疾患モデルマウスとしてより好適に利用できることが明らかとなった。また、図3によれば、パルミチン酸エチルの5及び10wt%エタノール溶液を塗布したマウスにおける毛包の大きさが、エタノールを塗布したマウスより有意に大きくなったことから、パルミチン酸エチルの5及び10wt%エタノール溶液の塗布により、コメドが形成され、毛包が拡大したことが強く示唆された。
【0068】
図4及び図5によれば、パルミチン酸エチルの5及び10wt%エタノール溶液を塗布した群において全ての炎症マーカーの上昇が見られたことに加え、予想外なことに、5wt%溶液を添加した群において、10wt%溶液を添加した群よりも炎症マーカーの上昇がより顕著である傾向にあった。よって、パルミチン酸エチルの5及び10wt%エタノール溶液を塗布したマウスはいずれも角化亢進に由来する皮膚疾患モデルマウスとして利用可能であり、かつ、特にパルミチン酸エチルの5wt%エタノール溶液を塗布したマウスは、角化亢進に由来する炎症性の皮膚疾患モデルマウスとして利用可能であることが明らかとなった。また、図6によれば、パルミチン酸エチルの5及び10wt%エタノール溶液を塗布した群において、角化亢進に由来する皮膚疾患の前段階である過角化が生じたことを示すマーカーである過角化マーカーの上昇が見られたことから、パルミチン酸エチルの塗布は過角化を惹起することを通じてコメド形成を促進していることが強く示唆された。
【0069】
[実施例3:塗布期間を短縮した、マウス耳に対するパルミチン酸エチルの皮膚塗布試験]
実施例2において見られたコメドの形成が、実施例2の塗布期間である5日間よりも短い塗布期間でも見られるか検討した。
【0070】
パルミチン酸エチルの3及び5wt%エタノール溶液並びにエタノールについて、塗布期間を1日1回で2日間とした(すなわち、0及び1日目に塗布し、2日目に切片の作成及びマーカーの定量を行った)こと以外は実施例2と同様の方法によって、モデルマウスの作成、染色された切片の画像の取得及びマーカーの定量を行った。取得した画像を図7に示す。また、エタノールを塗布したマウス及びパルミチン酸エチルの5wt%エタノール溶液を塗布したマウスに形成された毛包の、表皮に対して垂直方向の断面積を、1匹のマウスにつき15か所の測定を3匹のマウスについて行った結果を図8に示す。図8の結果は平均値±標準誤差(n=3)で示されており、図中において、****は、スチューデントT検定におけるP値が0.0001未満であったことを示す。また、表1記載のプライマーを用いて、炎症マーカーであるCxcl2について定量した結果を図9に示す。図9の結果は平均値±標準誤差(n=3)で示されている。また、図9の結果は一元配置分散分析を用いて検定されており、図中において、*はP値が0.05未満であったことを示し、**はP値が0.01未満であったことを示し、***はP値が0.001未満であったことを示す。
【0071】
図7によれば、塗布期間を2日間としても、パルミチン酸エチルの3及び5wt%エタノール溶液を塗布した群において、コメドの形成が見られた。また、図8によれば、パルミチン酸エチルの5wt%エタノール溶液を塗布したマウスにおける毛包の大きさが、エタノールを塗布したマウスより有意に大きくなった。また、図9によれば、パルミチン酸エチルの3及び5wt%エタノール溶液のいずれを塗布した群においても、炎症マーカーの上昇が見られ、5wt%エタノール溶液を塗布した群でより顕著な上昇が見られた。以上から、パルミチン酸エチルの3及び5wt%エタノール溶液を2日間塗布したマウスはいずれも角化亢進に由来する炎症性の皮膚疾患モデルマウスとして利用可能であり、かつ、特にパルミチン酸エチルの5wt%エタノール溶液を塗布したマウスは、角化亢進に由来する炎症性の皮膚疾患モデルマウスとして好適に利用可能であることが明らかとなった。
【0072】
[実施例4:マウス耳に対する、種々のアルキル長を有する脂肪酸エステルの皮膚塗布試験]
実施例3までにおいて実証したパルミチン酸エチルを塗布した場合のコメド形成が、アルキル鎖の長さの異なる脂肪酸エステルを塗布した場合にも生じるか検討した。
【0073】
ラウリン酸(12:0)、ミリスチン酸(14:0)、パルミチン酸(16:0)又はステアリン酸(18:0)のエチルエステル(いずれも東京化成工業株式会社製)の5wt%エタノール溶液を、C57BL/6Jマウスの耳介に片耳あたり20μL/dayで、塗布開始した日を0日目として、1日1回で0及び1日目の計2日間塗布した。ネガティブコントロールとして、エタノールを、C57BL/6Jマウスの耳介に片耳あたり20μL/dayで、塗布開始した日を0日目として、1日1回で0及び1日目の計2日間塗布した。2日目に、実施例2及び3と同様の方法によって、組織の採取、染色された切片の画像の取得、及び表1記載のプライマーを用いてマーカーの定量を行った。取得した画像を図10に示す。炎症マーカーであるCxcl2について定量した結果を図11(a)に示す。過角化マーカーであるKrt16について定量した結果を図11(b)に示す。過角化マーカーであるKlk6について定量した結果を図11(c)に示す。図11の結果は平均値±標準誤差(エタノール以外についてn=3、エタノールについてn=4)で示されている。また、図11の結果は一元配置分散分析を用いて検定されており、図中において、*はP値が0.05未満であったことを示し、**はP値が0.01未満であったことを示し、***はP値が0.001未満であったことを示し、****はP値が0.0001未満であったことを示す。
【0074】
図10によれば、ミリスチン酸(14:0)、パルミチン酸(16:0)及びステアリン酸(18:0)のエチルエステルを塗布した群においてはコメドの形成が見られたのに対し、ラウリン酸(12:0)を塗布した群ではコメドの形成が見られず、実施例1における尋常性ざ瘡患者と健常者との間の皮脂中含有量の差の大きさと矛盾しない結果が得られた。また、図10及び図11(a)によれば、コメド形成が見られたミリスチン酸エチル、パルミチン酸エチル及びステアリン酸エチルの塗布群のうち、パルミチン酸エチルの塗布群において、コメドが炎症性である所見及び炎症マーカーの上昇が観測された。また、図11(b)及び(c)によれば、ミリスチン酸エチル、パルミチン酸エチル及びステアリン酸エチルの塗布群において、角化亢進に由来する皮膚疾患の前段階である過角化が生じたことを示すマーカーである過角化マーカーの上昇が見られた。以上の結果から、ミリスチン酸エチル、パルミチン酸エチル及びステアリン酸エチルを塗布したマウスはいずれも角化亢進に由来する皮膚疾患モデルマウスとして利用可能であり、かつ、特にパルミチン酸エチルを塗布したマウスは、角化亢進に由来する炎症性の皮膚疾患モデルマウスとして利用可能であることが明らかとなった。
【0075】
[実施例5:パルミチン酸エチルを皮膚塗布したマウス耳介におけるbulk RNA sequence解析]
実施例4までに実証したパルミチン酸エチルによる炎症惹起反応やコメド形成のメカニズムを明らかとするために、パルミチン酸エチルを塗布したマウス耳におけるbulk RNA sequence解析を行った。
【0076】
パルミチン酸エチル又はステアリン酸エチル(いずれも東京化成工業株式会社製)の5wt%エタノール溶液を、C57BL/6Jマウスの耳介に片耳あたり20μL/dayで、塗布開始した日を0日目として、1日1回で0及び1日目の計2日間塗布した。ネガティブコントロールとして、エタノールを、C57BL/6Jマウスの耳介に片耳あたり20μL/dayで、塗布開始した日を0日目として、1日1回で0及び1日目の計2日間両耳に塗布した。2日目に、実施例2及び3と同様の方法によって、組織の採取、組織よりtotal RNAの抽出を行った。次世代シーケンサー(NGS)を用いたRNA-sequence解析は株式会社Rhelixaに外部発注した。NGSによる測定の生データはFAST-Tを使用してトリミングとクオリティチェックを行い、STARを使用してマッピングを行った。生リードカウントはFeatureCountを使用しておこなった。生リードカウントの正規化は、TPMCalculatorによりTPM(transcripts per million、転写産物百万個当たりに占める注目転写産物の数)に変換して行った。パルミチン酸エチル及びステアリン酸エチルの塗布群、エタノール塗布群は各々n=5として試験を行った。
【0077】
結果を図12に示す。図12では、パルミチン酸エチル及びステアリン酸エチルで上昇するトップ15遺伝子を示したが、そのうち両脂肪酸エチルエステル間で10遺伝子は一致していた。一致した遺伝子は、Ccl20、Cxcl1、Ccl7、Saa3、Il6、Cxcl2、Sprr2a3、Clec4e、Il19、Ccl1であった。一方で、パルミチン酸エチルで上昇している4遺伝子は、Ccl2、Retnlg、Acod1、Trem1であり、これらは単球やマクロファージ、好中球の遊走や活性化に関わる遺伝子であった。以上の結果から、パルミチン酸エチル及びステアリン酸エチルはよく似た表現型を示す一方で、パルミチン酸エチルの皮膚塗布は他の脂肪酸エチルエステルよりも、ミエロイド系の免疫細胞が浸潤していることが推察された。実施例4では、パルミチン酸エチルの塗布群においてコメドが炎症性である所見及び炎症マーカーが上昇する結果を示したが、図12の結果より、この炎症反応は単球や好中球をはじめとしたミエロイド系の免疫細胞によることが示唆された。このようなミエロイド系の免疫細胞の浸潤は、尋常性ざ瘡の患者において発現する免疫反応として知られていることから、上記の結果によれば、パルミチン酸エチルの塗布によって作製されたモデル動物は、尋常性ざ瘡等の皮膚疾患モデル動物として好適に用いることができることが明らかとなった。
【0078】
[実施例6:脂肪酸エチルを皮膚塗布したマウス耳介における免疫学的解析]
実施例5までにパルミチン酸エチルによりミエロイド系免疫細胞が特異的に誘導されていることが示唆された。実際にパルミチン酸エチルを塗布したマウス耳にミエロイド系細胞が浸潤しているのか、免疫学的手法(フローサイトメトリー)を用いて検討した。
【0079】
パルミチン酸エチル又はステアリン酸エチル(いずれも東京化成工業株式会社製)の5wt%エタノール溶液を、C57BL/6Jマウスの耳介に片耳あたり20μL/dayで、塗布開始した日を0日目として、1日1回で0及び1日目の計2日間塗布した。ネガティブコントロールとして、エタノールを、C57BL/6Jマウスの耳介に片耳あたり20μL/dayで、塗布開始した日を0日目として、1日1回で0及び1日目の計2日間両耳に塗布した。2日目に、実施例2、3及び4と同様に組織の採取を行い、リベラーゼ処理を行った。0.1%BSA含有HBSSを加え、400g、4℃、5分間遠心分離を行った。上清を除去し、0.1%BSA含有HBSSを加え100μmと37μmのセルストレーナーに通してろ過した。抗体染色のため細胞をFACSチューブに移し、eBioscience(登録商標) Fixable Viability Dye eFluortm 780(1/1000)を加え、室温で30分間インキュベートした。細胞を0.1%BSA含有HBSSで1回洗浄した後、以下を含む抗体カクテル100μlに再懸濁した:FITC anti-mouse CD45(1:100)、PE anti-mouse Gr-1(1:200)、APC anti-mouse F4/80(1:100)、BV421 anti-mouse CD11b(1:200)、anti-mouse CD16/CD32(1:100)(Biolegend)。細胞を抗体カクテルとともに4℃で20分間インキュベートし、0.1%BSA含有HBSSで2回洗浄した後、最終容量300μlとなるように0.1%BSA含有HBSSで再懸濁した。細胞はBD FACSCelesta(登録商標)とBD FACSDIVAソフトウェア(BectonDickinson)を用いて解析した。データはFlowJoソフトウェア(FlowJo)を用いて解析した。
【0080】
フローサイトメトリーの結果を図13に示す。図13では、サンプル中に含まれる細胞のうち、live cells、CD45、及びCD11bに該当する細胞における結果を示しており、Gr-1、F4/80画分は好中球、Gr-1、F4/80画分はマクロファージを示している。また、図13の結果に基づくゲーティングによって分類された、好中球、マクロファージ及びその他の細胞の数を表すグラフを図14に示す。パルミチン酸(16:0)のエチルエステルは特異的に好中球の割合を増加させた。また、パルミチン酸エチル又はステアリン酸エチルはマクロファージの割合を増加させ、特に、Gr-1int、F4/80で示されるマクロファージ分画に属する細胞の数はパルミチン酸エチルで増加した。以上の結果より、パルミチン酸エチルの皮膚塗布によって、好中球、マクロファージをはじめとするミエロイド系細胞の浸潤が生じ、皮膚に存在していることが確認された。このような確認された細胞プロファイルは、実施例5で見られた遺伝子発現プロファイルと一致する結果であった。尋常性ざ瘡において、好中球浸潤が尋常性ざ瘡の特徴的所見であることから、本結果は、本モデルマウスが尋常性ざ瘡のモデルとして使用できる妥当性を強く支持しているものである。
【0081】
[実施例7:パルミチン酸エチルを皮膚塗布したマウス耳介における浸潤細胞の経時変化]
実施例6までに、パルミチン酸エチルがミエロイド系細胞のうちの好中球の遊走を特異的に誘導すること、パルミチン酸エチル(16:0)及びステアリン酸エチル(18:0)がマクロファージを遊走させることが明らかとなった。そこで、ミエロイド系細胞の遊走能力が高いパルミチン酸エチルの塗布開始から耳介に浸潤する好中球、単球、マクロファージの経時変化の検討を行った。また、Gr-1int、F4/80で示されたマクロファージ分画の詳細なプロファイルも重ねて検討した。
【0082】
パルミチン酸エチル又はステアリン酸エチル(いずれも東京化成工業株式会社製)の5wt%エタノール溶液を、C57BL/6Jマウスの耳介に片耳あたり20μL/dayで、塗布開始した日を0日目として、1日1回で0及び1日目の計2日間塗布した。ネガティブコントロールとして、エタノールを、同様の条件で塗布した。2日目に、実施例2、3及び4と同様に組織の採取を行い、リベラーゼ処理を行った。0.1%BSA含有HBSSを加え、400g、4℃、5分間遠心分離を行った。上清を除去し、0.1%BSA含有HBSSを加え100μmと37μmのセルストレーナーに通してろ過した。抗体染色のため細胞をFACSチューブに移し、eBioscience(登録商標) Fixable Viability Dye eFluortm 780(1/1000)を加え、室温で30分間インキュベートした。細胞を0.1%BSA含有HBSSで1回洗浄した後、以下を含む抗体カクテル100μlに再懸濁した:FITC anti-mouse CD45(1:100)、PE anti-mouse F4/80(1:200)、APC anti-mouse Ly6C(1:100)、BV421 anti-mouse CD11b(1:200)、PE-Cy7 anti―mouse Ly6G(1:200)、anti-mouse CD16/CD32(1:100)(Biolegend)。細胞を抗体カクテルとともに4℃で20分間インキュベートし、0.1%BSA含有HBSSで2回洗浄した後、最終容量300μlとなるように0.1%BSA含有HBSSで再懸濁した。細胞はBD FACSCelesta(登録商標)とBD FACSDIVAソフトウェア(BectonDickinson)を用いて解析した。データはFlowJoソフトウェア(FlowJo)を用いて解析した。
【0083】
好中球、単球、マクロファージを分類したゲーティングの方法(左図)、及びパルミチン酸エチルの塗布直後、6時間後、12時間後、24時間後及び48時間(2回塗布)後におけるフローサイトメトリーの結果(右図)を図15に示す。また、図15においてCD45細胞、マクロファージ、単球、好中球に分類された細胞の数をそれぞれ図16に示す。これらの結果より、パルミチン酸エチルの塗布後、好中球、単球がほぼ同じタイミングで遊走されることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
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