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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079724
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】抗菌ペプチド産生促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20240604BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240604BHJP
   A23L 33/195 20160101ALI20240604BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240604BHJP
   C07K 14/335 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 35/747 20150101ALN20240604BHJP
   C12R 1/225 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P31/04
A61P43/00 105
A23L33/195
C12N1/20 E
C07K14/335
A61P31/00
A61K35/747
C12R1:225
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040721
(22)【出願日】2024-03-15
(62)【分割の表示】P 2020557815の分割
【原出願日】2019-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2018223461
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小畠 英史
(72)【発明者】
【氏名】冠木 敏秀
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の課題は、上皮細胞からの抗菌ペプチド産生を上昇させ、感染予防効果を有する新規な素材を提供することである。
【解決手段】本発明は、ラクトバチルス属の乳酸菌を有効成分とする抗菌ペプチド産生促進用組成物を提供する。また、ラクトバチルス属の菌体由来成分を有効成分とする抗菌ペプチド産生促進用組成物を提供する。さらには、前記菌体由来成分がS層タンパク質(S-layer protein)及びS層タンパク質(S-layer protein)の分解物からなる群から選択される1つ以上である抗菌ペプチド産生促進用組成物を提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス属(ただし、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・アシドフィルス及びラクトバチルス・ファーメンタムを除く)の菌体由来成分であるS層タンパク質(S-layer protein)及び前記S層タンパク質(S-layer protein)の分解物からなる群から選択される1つ以上を有効成分として含む抗菌ペプチド産生促進用組成物。
【請求項2】
前記ラクトバチルス属の乳酸菌がラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・アミロボラス又はラクトバチルス・ブフネリである請求項1に記載の抗菌ペプチド産生促進用組成物。
【請求項3】
抗菌ペプチドがβ‐ディフェンシンである請求項1又は2に記載の抗菌ペプチド産生促進用組成物。
【請求項4】
上皮細胞における抗菌ペプチドの産生促進である請求項1~3のいずれか1つに記載の抗菌ペプチド産生促進用組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の抗菌ペプチド産生促進用組成物を含む抗菌ペプチド産生促進用飲食品。
【請求項6】
感染予防用である請求項5に記載の抗菌ペプチド産生促進用飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌ペプチド産生促進用組成物に関する。特に、ラクトバチルス属乳酸菌を含む抗菌ペプチド産生促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌ペプチドは生体が有する防御システムの一つであり、細菌、真菌、ウイルスなどに対して広い抗菌活性を有する。抗菌ペプチドの発現を誘導することにより、感染に対する予防、治療効果が期待できることから、これまでにいくつかの抗菌ペプチド産生を上昇させるための解決手段が開示されている。
特許文献1は、非病原性細菌を用いて皮膚細胞におけるβディフェンシン産生を刺激することを課題とし、その解決手段として加熱処理したラクトバチルス・プランタルムの細胞を含む抽出物、およびその活性画分を含む組成物を開示している。
特許文献2は、安全で副作用のない抗菌ペプチドの誘導剤を提供することを課題とし、その解決手段として乳酸菌を有効成分として含む抗菌ペプチド誘導剤を開示している。
特許文献3は、抗菌ペプチドの分泌を誘発させる物質を提供し、細菌またはウイルスに起因する疾患に対する治療剤を提供することを課題とし、その解決手段として分岐鎖アミノ酸を有効成分として含有する抗菌ペプチド分泌誘発剤を開示している。
しかしながら、本願の提供する解決手段はいずれの文献にも開示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5224807号公報
【特許文献2】WO2015/087919パンフレット
【特許文献3】特開2003-95938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上皮細胞からの抗菌ペプチド産生を上昇させ、感染予防効果を有する新規な素材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明には以下の構成が含まれる。
〔1〕ラクトバチルス属の菌体由来成分であるS層タンパク質(S-layer protein)及び前記S層タンパク質(S-layer protein)の分解物からなる群から選択される1つ以上を有効成分として含むことを特徴とする抗菌ペプチド産生促進用組成物。
〔2〕ラクトバチルス属の菌体由来成分であるS層タンパク質(S-layer protein)及び前記S層タンパク質(S-layer protein)の分解物を含むラクトバチルス・ヘルベティカス菌体又はその培養物を有効成分として含む抗菌ペプチド産生促進用組成物。
〔3〕前記ラクトバチルス属の乳酸菌がラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・アミロボラス又はラクトバチルス・ブフネリである〔1〕又は[2]に記載の抗菌ペプチド産生促進用組成物。
〔4〕抗菌ペプチドがβ‐ディフェンシンである〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の抗菌ペプチド産生促進用組成物。
〔5〕抗菌ペプチド産生促進が、上皮細胞における抗菌ペプチドの産生促進である〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の抗菌ペプチド産生促進用組成物。
〔6〕〔1〕から〔5〕のいずれか1つに記載の抗菌ペプチド産生促進用組成物を含む抗菌ペプチド産生促進用飲食品。
〔7〕〔1〕から〔5〕のいずれか1つに記載の抗菌ペプチド産生促進用組成物を含む感染予防用飲食品。
【発明の効果】
【0006】
ラクトバチルス属乳酸菌に由来するS層タンパク質(S-layer protein、以下SLPということがある)およびその分解物、もしくはSLPを含むラクトバチルス属乳酸菌菌体およびその培養物などの抗菌ペプチド産生を誘導する素材を体内に摂取することにより、種々の感染に対する防御能の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】精製したSLPをSDS-PAGEにかけた結果を示す写真である。
図2】SLP、加熱したSLP、SLP分解物をSDS-PAGEにかけた結果を示す写真である。
図3】Caco-2細胞にラクトバチルス・ヘルベティカス乳酸菌菌体又は当該乳酸菌のSLPを添加した場合のhBD2遺伝子の発現量を示すグラフである。
図4】Caco-2細胞にラクトバチルス・ヘルベティカスのSLP、加熱したSLP、SLP分解物を添加した場合のhBD2遺伝子の発現量を示すグラフである。
図5】Caco-2細胞にラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171、ラクトバチルス・アシドフィルスJCM1132、ラクトバチルス・アミロボラスJCM1126、ラクトバチルス・ブフネリJCM1115から調製したSLPを添加した場合のhBD2遺伝子の発現量を示すグラフである。
図6】HSC-4細胞にラクトバチルス・ヘルベティカス乳酸菌菌体又は当該乳酸菌のSLPを添加した場合のhBD2遺伝子の発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、新規な抗菌ペプチド産生促進用組成物を提供するものである。
本発明の抗菌ペプチド産生促進用組成物について以下に詳細に説明する。
(抗菌ペプチド産生促進用組成物)
S-layer protein(以下、単にSLPということがある)は種々の細菌の細胞壁外層で認められ、規則的な結晶構造を呈することを特徴とするタンパク質である。SLPは細胞壁成分に非共有的に結合していることから、塩化リチウムなどのカオトロピック試薬によって菌体から抽出される。また、抽出されたSLPはカオトロピック試薬を除くことで規則的な結晶構造を再形成する。この特徴を利用し、菌体からの精製が可能となる。
乳酸菌の中ではラクトバチルス属においてS-layerを発現していることが見出されており、向井らの報告(Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria,19(1):21-29,2008)ではラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)グループ乳酸菌をはじめとする13菌種でSLPの発現が確認もしくは推定されている。これらの乳酸菌が発現しているSLPには、等電点が9~10の塩基性タンパク質であること、N末端領域に23~30アミノ酸残基からなるシグナルペプチド配列を持つことといった共通点がある。本発明の抗菌ペプチド産生促進用組成物に用いるSLPは、ラクトバチルス属に由来し、当該作用を有するものであればどのようなものでも用いることができるが、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・アミロボラス又はラクトバチルス・ブフネリが好ましい。ラクトバチルス・ヘルベティカスのうちではSBT2171(FERM BP-5445)が最も好ましい。
また、SLPは菌体から精製されたものである必要はなく、SLPを含む菌体自体や培養物としても用いることができるが、精製したSLPがより好ましい。菌体自体は、生菌体でも死菌体でもよい。
抗菌ペプチドとしては、ディフェンシンファミリー(α-ディフェンシン、β-ディフェンシンなど)、カセリシジン(LL-37)、ダームシジン、LEAP-1(ヘプシジン)、LEAP-2、ラクトフェリン、Regペプチドなどが挙げられ、このうちでもディフェンシンファミリーが好ましく、β-ディフェンシンがさらに好ましい。
【0009】
(抗菌ペプチド産生促進用組成物の製造方法)
SLPは以下の方法に従って乳酸菌菌体より精製する。対象とするラクトバチルス属乳酸菌をMRS液体培地などの液体培地、もしくは脱脂乳で十分に培養した後に菌体を回収し、必要に応じて洗浄を行う。菌体は、寒天培地などに生育させたコロニーから回収してもよい。得られた菌体をそのまま、もしくは凍結乾燥した後に、塩化リチウム、尿素、塩酸グアニジンなどのカオトロピック試薬溶液で懸濁、攪拌して菌体表層のSLPを可溶化する。可溶化したSLPを含む溶液から固形物を除いた後、透析などによってカオトロピック試薬を除き、SLPを析出させる。析出したSLPを回収後、必要に応じて洗浄を行い、精製SLPとする。本発明の抗菌ペプチド産生促進用組成物に用いるSLPは加熱しても抗菌ペプチド促進作用が維持されることから加熱されたものであってもよい。
【0010】
(SLP分解物)
SLP分解物は以下の方法に従って調製する。SLPの懸濁液に対して種々のプロテアーゼを適当な濃度で添加し、適宜反応させる。プロテアーゼの種類およびプロテアーゼ分解の程度は限定されるものではない。一例としてプロティナーゼKで分解処理する条件としては、37℃で2時間~24時間が望ましく、3時間~20時間がより好ましい。
【0011】
(摂取量)
SLPによる抗菌ペプチド産生促進作用は分解物の状態でも発揮されることから、経口的に摂取した後に胃酸による分解を受けても作用への影響は小さいものと考えられる。このことから、SLPを食品に添加して経口的に摂取することが望ましい。摂取量については特に制限しないが、ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171の場合、概算でSLP1mg/日を継続的に摂取することで抗菌ペプチドの誘導が期待できると考えられる。
【0012】
(食品、医薬品、飼料への配合)
精製したSLPは加熱処理によって抗菌ペプチド産生促進作用を失わないことから、常法に従って食品、医薬品、飼料に配合することが可能である。
本発明の抗菌ペプチド産生促進用組成物を含む飲食品は、抗菌ペプチド産生促進用飲食品としての利用価値があり、本飲食品を摂取することにより、上皮細胞からの抗菌ペプチド産生を促進し、様々な感染からの予防ができ、また感染した場合でも軽症に抑えられ、また早い回復が期待できる。動物用飼料に含まれる場合は、これを摂取した動物に同様の効果が期待できる。
また、本発明の抗菌ペプチド産生促進用組成物を含む医薬は、抗菌ペプチドの産生が促進されることにより治療または予防できる疾患に使うことができる。例えば、病原菌による各種の感染症などが挙げられる。
【0013】
(評価方法)
抗菌ペプチド産生促進作用とは、対象における抗菌ペプチドの産生が促進される作用をいい、抗菌ペプチドを発現するための遺伝子の発現が誘導されることにより抗菌ペプチドが発現されることをいう。したがって、本明細書中、抗菌ペプチド産生促進作用と抗菌ペプチド誘導作用とは同義で用いられる。
本発明のSLPによる抗菌ペプチド誘導作用は以下に示す方法で評価する。培養細胞に対してSLPもしくはその分解物を添加し、所定の時間作用させた後に抗菌ペプチド遺伝子の発現量を測定する。評価には種々の細胞を用いることができるが、特に生体外との接触が想定される上皮細胞が好ましい。また、測定される抗菌ペプチドは限定されるものではないが、ディフェンシンファミリーが好ましく、上皮細胞から分泌されるβ‐ディフェンシンが特に好ましい。
【実施例0014】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
本試験に用いたラクトバチルス属の菌体、SLP、SLP分解物の調製例を以下に示す。
(ラクトバチルス属乳酸菌菌体の調製例)
ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171をMRS液体培地100mLで37℃、16時間培養後、遠心分離(8,000×g、4℃、10分間)にて菌体を回収し、生理食塩水で2回、滅菌MilliQ水で1回洗浄し、さらに凍結乾燥を実施した(凍結乾燥菌体)。
以下の試験では、凍結乾燥菌体を用いた。
【0016】
(SLPの調製例)
ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171をMRS液体培地100mLで37℃、16時間培養後、遠心分離(8,000×g、4℃、10分間)にて菌体を回収し、滅菌MilliQ水で1回洗浄した。得られた菌体はcOmpleteTM Protease Inhibitor Cocktail(Roche)を添加した1M LiCl溶液10mLで懸濁し、室温で30分間攪拌した。攪拌後の懸濁液を遠心分離(10,000×g、4℃、20分間)し、上清を回収した。沈殿はcOmpleteTMProtease Inhibitor Cocktail(Roche)を添加した5M LiCl
溶液10mLで再懸濁し、室温で再度30分間攪拌した。攪拌後の懸濁液は遠心分離(10,000×g、4℃、20分間)し、上清を回収した。回収した上清をまとめ、0.2μmフィルターを通した後にSlide-A-Lyzer G2 10K(Pierce)で滅菌MilliQ水に対して透析することでSLPを析出させた。透析後の溶液を遠心分離(12,000×g、4℃、20分間)し、析出したSLPを回収した。回収したSLPは滅菌MilliQ水1mLで洗浄後、1M LiCl溶液500μLに懸濁し、適宜攪拌しながら氷上で15分間保持した。遠心分離によってLiCl溶液を除き、再度滅菌MilliQ水1mLで洗浄、滅菌MilliQ水に再懸濁して凍結乾燥したものを精製SLPとした。
精製後のSLPは、SDS-PAGE法によって目的サイズの43kDa付近にバンドが認められることを確認した(図1)。また、得られたSLPは3mgであった。
【0017】
(SLP分解物の調製例)
5mg/mLとなるようにPBSで懸濁したSLPに、proteinaseK(from Tritirachium album,P6556:Sigma)(10mg/mL)を終濃度100μg/mLとなるように添加し、37℃で一晩反応させた。反応後のSLPを96℃で10分間加熱してproteinaseKを不活化し、SLP分解物とした。比較のため、PBSで懸濁したSLP、PBSで懸濁して96℃で10分間加熱したSLP、proteinaseKで分解したSLPについてSDS-PAGE法でバンドの確認を行った(図2)。加熱したSLPはSLPと同様の43kDa付近のほかに37kDa付近、5kDa付近にもバンドが見られた。また、SLP分解物は5kDa以上の明確なバンドは見られなかった。
【0018】
〔試験例1〕抗菌ペプチド誘導活性の評価(1)菌体との比較
1.試験方法
継代培養したCaco-2細胞(ヒト腸管上皮細胞)を2.0×10cells/wellとなるよう12wellプレートに播種し、5%COインキュベーターにて37℃で一晩培養した。培養には、DMEM-high glucose(D5796:Sigma)にFBS(final conc.10%)(Lot.11D264:Sigma)、NEAA(final conc.1×)(M7145:Sigma)、Penicillin-Streptomycin(final conc.100U-100μg/mL)(15140-122:Life technologies)を添加して使用した。培養後、細胞が70~80%コンフルエントに達していることを確認するとともに、培地を除きFBSおよび抗生物質を添加していない培地(DMEM-high glucose+1×NEAA)に交換、37℃でさらに24時間培養した。培養後の12wellプレートから培地を除き、ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171菌体もしくはラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171から精製したSLPを10もしくは50μg/mL含む培地を添加、6時間培養した。培養後の12wellプレートから培地を除き、PBSで洗浄した後、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて細胞からトータルRNAを抽出した。抽出したトータルRNAは、NanoDrop2000(Thermo Fisher Scientific)で濃度を測定した。
抽出したトータルRNA溶液から、ReverTra Ace qPCR RT Mas ter Mix with gDNA Remover(東洋紡)を用いてcDNAを合成した。逆転写反応には、TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(登録商標)Gradient(タカラバイオ)を使用した。得られた逆転写反応液をtemplate cDNAとしてリアルタイムPCRに供した。
リアルタイムPCRにはTaqMan(登録商標)Fast Advanced Master Mix(Life Technologies、Cat#4444556)およびTaqManGene Expression Assay(hBD2:Hs00175474_m1、GAPDH:Hs03929097_g1)(Life Technologies)を使用した。反応には384ウェルプレート(Life Technologies、Cat#4309849)を用い、ViiATM7(Life Technologies)を使用した。ポジティブコントロール(positive control)としてLPSを10μg/mLの濃度で添加し、各水準の遺伝子発現はΔΔCt法によってポジティブコントロールに対する相対発現量として評価した。試験はn=3で実施し、増幅が認められなかったサンプルを含む水準は非検出(n.d.:not detected)とした。
【0019】
2.試験結果
評価の結果、SBT2171菌体およびSLP共にhBD2遺伝子の発現上昇が認められた(図3)。SBT2171菌体では添加濃度10μg/mLでポジティブコントロールの約3倍、添加濃度50μg/mLで約28倍のhBD2遺伝子発現が認められた。一方、SLPでは添加濃度10μg/mLで約19倍、50μg/mLで約45倍の遺伝子発現が認められた。この結果より、SBT2171から精製したSLPは、SBT2171菌体よりも強い抗菌ペプチド誘導作用を有すると考えられた。図中、a、b、c、dの記号はそれぞれ異なる記号間で有意な差(P<0.05)があること
を示す(以下、図4~6において同じ)。
【0020】
〔試験例2〕抗菌ペプチド誘導活性の評価(2)SLP分解物の評価
1.試験方法
上記「試験例1(1)菌体との比較」と同様にCaco-2細胞を播種、培地交換した後、ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171のSLPをそのままで、96℃10分間加熱したもの、もしくはproteinaseK処理によって分解したものをそれぞれ50μg/mLの濃度となるよう添加し、6時間培養した。その後、上記の通りトータルRNA抽出、cDNA合成、リアルタイムPCRによるhBD2遺伝子発現解析を行った。
【0021】
2.試験結果
評価の結果、何も処理していないSLPだけでなく、加熱処理したSLPおよびproteinaseKで分解処理したSLPでもポジティブコントロールと比較して顕著に高いhBD2遺伝子発現が認められた(図4)。この結果より、精製したSLPは分解物の状態でも抗菌ペプチド誘導作用を有すると考えられた。
【0022】
〔試験例3〕抗菌ペプチド誘導活性の評価(3)菌株比較
1.試験方法
上記「試験例1(1)菌体との比較」と同様にCaco-2細胞を播種、培地交換した後、ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171、ラクトバチルス・アシドフィルスJCM1132、ラクトバチルス・アミロボラスJCM1126、ラクトバチルス・ブフネリJCM1115からそれぞれ精製したSLPを10μg/mLの濃度となるよう添加、6時間培養した。その後、上記の通りトータルRNA抽出、cDNA合成、リアルタイムPCRによるhBD2遺伝子発現解析を行った。なお、SLP無添加の場合をネガティブコントロール(negative control)としてポジティブコントロールに対する相対発現量として評価した。
【0023】
2.試験結果
評価の結果、いずれの菌株から精製したSLPでもネガティブコントロールと比較して高いhBD2遺伝子発現が認められ、また、ポジティブコントロールと同等あるいはそれ以上のhBD2遺伝子発現が認められた(図5)。この結果より、精製したSLPによる抗菌ペプチド誘導作用はラクトバチルス属に広く共通するものと考えられた。
乳酸菌が産生するSLPの分子量は菌種間で大きな開きがあり、さらにその遺伝子構造は同一菌種内においても多様性に富むことが示されていたところ、本発明のSLPによる抗菌ペプチド誘導作用がラクトバチルス属に広く見出されたことは意外なものであった。
【0024】
〔試験例4〕抗菌ペプチド誘導活性の評価(4)口腔上皮細胞での評価
1.試験方法
継代培養したHSC-4細胞(ヒト舌上皮細胞)を1.0×10cells/wellとなるよう24wellプレートに播種し、5%COインキュベーターにて37℃で一晩培養した。培養には、DMEM-high glucose(D5796:Sigma)にFBS(final conc.10%)(Lot.42F4160K:Gibco)、Penicillin-Streptomycin(final conc.100U-100μg/mL)(15140-122:Life technologies
)を添加して使用した。培養後、細胞が70~80%コンフルエントに達していることを確認するとともに、培地を除きFBSおよび抗生物質を添加していない培地(DMEM-high glucose)に交換、37℃でさらに24時間培養した。培養後の24wellプレートから培地を除き、ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171菌体もしくはラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171から精製したSLPを10もしくは50μg/mL含む培地を添加、6時間培養した。その後、上記の通りトータルRNA抽出、cDNA合成、リアルタイムPCRによるhBD2遺伝子発現解析を行った。
【0025】
2.試験結果
評価の結果、Caco-2細胞の場合と同様に菌体、SLP共にhBD2遺伝子発現の上昇が認められた。また、菌体と比較してSLP添加によって高いhBD2遺伝子発現が認められた(図6)。この結果はCaco-2細胞の場合と同様であり、SLPは菌体よりも強い抗菌ペプチド誘導作用を有すると考えられた。
【0026】
(食品への配合例)
ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171から精製したSLP10mgに、脱脂粉乳30g、ビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gを加えて混合した。混合物をスティック状袋に詰め、本発明の抗菌ペプチド産生促進用スティック状健康食品を製造した。
【0027】
(飼料への配合例)
ラクトバチルス・ヘルベティカス SBT2171から精製したSLP2gを3998gの脱イオン水に懸濁し、40℃まで加熱後、TKホモミクサー(MARK II 160型;特殊機化工業社製)にて、3,600rpmで20分間撹拌混合して2g/4kgのSLP溶液を得た。このSLP溶液2kgに大豆粕1kg、脱脂粉乳1kg、大豆油0.4kg、コーン油0.2kg、パーム油2.3kg、トウモロコシ澱粉1kg、小麦粉0.9kg、ふすま0.2kg、ビタミン混合物0.5kg、セルロース0.3kg、ミネラル混合物0.2kgを配合し、120℃、4分間加熱殺菌して、本発明の抗菌ペプチド産生促進用飼料10kgを製造した。
【0028】
(医薬品への配合例)
ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171の液体培養物を、4℃、7,000rpmで15分間遠心分離した後、滅菌水による洗浄と遠心分離を3回繰り返して行い、洗浄菌体を得た。この洗浄菌体を凍結乾燥処理して菌体粉末を得た。この菌体粉末1部に脱脂粉乳4部を混合し、この混合粉末を打錠機により1gずつ常法により打錠して、本発明の抗菌ペプチド産生促進用錠剤を調製した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
ラクトバチルス属乳酸菌に由来するSLPおよびSLP分解物、もしくはSLPを含むラクトバチルス属乳酸菌菌体およびその培養物などの抗菌ペプチド産生を誘導する素材を体内に摂取することにより、種々の感染に対する防御能の向上が期待できる。
【受託番号】
【0030】
<寄託生物材料への言及>
(1)SBT2171
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター
日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室(郵便番号292-0818)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
1996年3月6日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP-5445
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-05-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ヘルベティカスの菌体由来成分であるS層タンパク質(S-layer protein)及び前記S層タンパク質(S-layer protein)の分解物からなる群から選択される1つ以上を有効成分として含むβ‐ディフェンシン産生促進用組成物。
【請求項2】
β‐ディフェンシン産生促進が、上皮細胞におけるβ‐ディフェンシン産生促進である請求項1に記載のβ‐ディフェンシン産生促進用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のβ‐ディフェンシン産生促進用組成物を含むβ‐ディフェンシン産生促進用飲食品。
【請求項4】
感染予防用である請求項に記載のβ‐ディフェンシン産生促進用飲食品。