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特開2024-79857縮合複素環化合物含有組成物および有機材料含有組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079857
(43)【公開日】2024-06-12
(54)【発明の名称】縮合複素環化合物含有組成物および有機材料含有組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 277/78 20060101AFI20240605BHJP
   C07D 279/36 20060101ALI20240605BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240605BHJP
   C08K 5/46 20060101ALI20240605BHJP
   C07C 211/58 20060101ALN20240605BHJP
   C07C 323/33 20060101ALN20240605BHJP
【FI】
C07D277/78
C07D279/36 CSP
C08L101/00
C08K5/46
C07C211/58
C07C323/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029823
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 強
(72)【発明者】
【氏名】ド ハン ズン
【テーマコード(参考)】
4C036
4H006
4J002
【Fターム(参考)】
4C036AA02
4C036AA07
4C036AA15
4C036AA17
4H006AA03
4H006AB48
4J002AA001
4J002BG041
4J002EV316
4J002FD036
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有機材料に対し高い分散性を示し、有機材料に対して優れた老化防止作用を示す縮合複素環化合物含有組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(A)で表される化合物と、特定の縮合複素環化合物、特定の芳香族ジアミン化合物、および特定の芳香族ジスルフィド化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物と、を含有する縮合複素環化合物含有組成物。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表される化合物と、
下記一般式(B)~(E)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物と、を含有する縮合複素環化合物含有組成物。
【化18】
(上記一般式(A)中、RおよびRはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1~30の有機基を表す。
およびZはそれぞれ独立して、化学的な単結合または-SO-を表す。
およびXはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、-OR、-O-C(=O)-R、-C(=O)-OR、-O-C(=O)-OR、-NR(R)、-NR-C(=O)-R、-C(=O)-NR(R)、または、-O-C(=O)-NR(R)を表す。ここで、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。
nおよびmはそれぞれ独立して、0~2の整数を表し、nおよびmのいずれか一方は0でない。
また、nおよび/またはmが2のとき、2個のR同士および2個のR同士は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。)
【化19】
(上記一般式(B)中、Yは、-S-、または、―S(=O)-を表し、R、R、Z、Z、X、X、nおよびmは、上記一般式(A)と同義である。)
【化20】
(上記一般式(C)中、XおよびXはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、-OR、-O-C(=O)-R、-C(=O)-OR、-O-C(=O)-OR、-NR(R)、-NR-C(=O)-R、-C(=O)-NR(R)、または、-O-C(=O)-NR(R)を表す。ここで、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。pおよびqはそれぞれ独立して、0~7の整数を表す。)
【化21】
(上記一般式(D)中、XおよびXは、上記一般式(C)と同義であり、rおよびsはそれぞれ独立して、0~4の整数を表す。)
【化22】
(上記一般式(E)中、XおよびXは、上記一般式(C)と同義であり、tおよびuはそれぞれ独立して、0~4の整数を表し、vおよびwはそれぞれ独立して、0~5の整数を表す。)
【請求項2】
フェノチアジン系化合物を原料として合成された、前記一般式(A)で表される化合物を含む反応液に、
前記一般式(B)~(E)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を添加して得られたものである請求項1に記載の縮合複素環化合物含有組成物。
【請求項3】
前記一般式(A)で表される化合物と、前記一般式(B)~(E)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物とを、これらを含む溶液から共析出させることにより得られた共析出物である請求項1または2に記載の縮合複素環化合物含有組成物。
【請求項4】
前記一般式(A)で表される化合物1モルに対する、前記一般式(B)~(E)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物の含有量が1モル以下である請求項1~3のいずれかに記載の縮合複素環化合物含有組成物。
【請求項5】
前記一般式(A)で表される化合物と、前記一般式(B)で表される化合物と、を含有する請求項1~4のいずれかに記載の縮合複素環化合物含有組成物。
【請求項6】
(a)有機材料と、(b)請求項1~5のいずれかに記載の縮合複素環化合物含有組成物とを含有する有機材料含有組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料に対し高い分散性を示し、有機材料に対して優れた老化防止作用を示す縮合複素環化合物含有組成物、および、このような縮合複素環化合物含有組成物と、有機材料とを含有する有機材料含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー等の有機材料はそのままでは熱等により酸化劣化を受けやすいため、耐熱性を向上させるために、種々の老化防止剤を添加することで目的に応じた耐熱性を付与している。
【0003】
また、近年においては、ポリマー等の有機材料は、より過酷な高温下で使用されることが増えてきている。たとえば、自動車のエンジン周りに用いられるゴム材料は、自動車エンジンの高出力化や低公害エンジンの開発等により、エンジンルーム内の温度は上昇する傾向にある。そのため、その周辺で使用されるゴム材料には、より優れた耐熱性が求められている。その目的を達成する一つの方策として、より高い耐熱性を付与できる老化防止剤として、特許文献1に記載されたフェノチアジン骨格を有する老化防止剤が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5682575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、特許文献1に記載の老化防止剤は、高い耐熱性を付与できるものの、ポリマー等の有機材料に対する分散性が必ずしも十分でなく、そのため、老化防止剤としての機能を十分に発揮できないという課題があった。
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされ、有機材料に対し高い分散性を示し、有機材料に対して優れた老化防止作用を示す縮合複素環化合物含有組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく検討を行ったところ、老化防止剤として優れた効果を奏する特定の縮合複素環化合物に対し、これとは異なる構造を有する特定の縮合複素環化合物、特定の芳香族ジアミン化合物、および特定の芳香族ジスルフィド化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を配合することで、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、下記一般式(A)で表される化合物と、下記一般式(B)~(E)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物と、を含有する縮合複素環化合物含有組成物が提供される。
【化1】
(上記一般式(A)中、RおよびRはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1~30の有機基を表す。
およびZはそれぞれ独立して、化学的な単結合または-SO-を表す。
およびXはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、-OR、-O-C(=O)-R、-C(=O)-OR、-O-C(=O)-OR、-NR(R)、-NR-C(=O)-R、-C(=O)-NR(R)、または、-O-C(=O)-NR(R)を表す。ここで、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。
nおよびmはそれぞれ独立して、0~2の整数を表し、nおよびmのいずれか一方は0でない。
また、nおよび/またはmが2のとき、2個のR同士および2個のR同士は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。)
【化2】
(上記一般式(B)中、Yは、-S-、または、―S(=O)-を表し、R、R、Z、Z、X、X、nおよびmは、上記一般式(A)と同義である。)
【化3】
(上記一般式(C)中、XおよびXはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、-OR、-O-C(=O)-R、-C(=O)-OR、-O-C(=O)-OR、-NR(R)、-NR-C(=O)-R、-C(=O)-NR(R)、または、-O-C(=O)-NR(R)を表す。ここで、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。pおよびqはそれぞれ独立して、0~7の整数を表す。)
【化4】
(上記一般式(D)中、XおよびXは、上記一般式(C)と同義であり、rおよびsはそれぞれ独立して、0~4の整数を表す。)
【化5】
(上記一般式(E)中、XおよびXは、上記一般式(C)と同義であり、tおよびuはそれぞれ独立して、0~4の整数を表し、vおよびwはそれぞれ独立して、0~5の整数を表す。)
【0009】
本発明の縮合複素環化合物含有組成物は、フェノチアジン系化合物を原料として合成された、前記一般式(A)で表される化合物を含む反応液に、前記一般式(B)~(E)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を添加して得られたものであることが好ましい。
本発明の縮合複素環化合物含有組成物は、前記一般式(A)で表される化合物と、前記一般式(B)~(E)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物とを、これらを含む溶液から共析出させることにより得られた共析出物であることが好ましい。
本発明の縮合複素環化合物含有組成物において、前記一般式(A)で表される化合物1モルに対する、前記一般式(B)~(E)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物の含有量が1モル以下であることが好ましい。
本発明の縮合複素環化合物含有組成物は、前記一般式(A)で表される化合物と、前記一般式(B)で表される化合物と、を含有するものであることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、(a)有機材料と、(b)上記の縮合複素環化合物含有組成物とを含有する有機材料含有組成物が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機材料に対し高い分散性を示し、有機材料に対して優れた老化防止作用を示す縮合複素環化合物含有組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の縮合複素環化合物含有組成物は、後述する一般式(A)で表される化合物と、後述する一般式(B)~(E)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物と、を含有するものである。
【0013】
<一般式(A)で表される化合物>
本発明の縮合複素環化合物含有組成物は、下記一般式(A)で表される化合物を含有する。
【化6】
【0014】
上記一般式(A)中、RおよびRはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1~30の有機基を表す。
およびRを構成する炭素数1~30の有機基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数1~30のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の炭素数3~30のシクロアルキル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラニル基等の炭素数6~30のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基等の炭素数1~30のアルコキシ基;等が挙げられる。
【0015】
また、上述したRおよびRを構成する有機基は、置換基を有していてもよく、該置換基の位置としては、任意の位置とすることができる。
【0016】
前記有機基の置換基としては、該有機基がアルキル基である場合には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1~10のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;フェニル基、4-メチルフェニル基、2-クロロフェニル基等の、置換基を有していてもよいフェニル基;等が挙げられる。
前記有機基がシクロアルキル基およびアリール基である場合には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1~10のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メチル基、エチル基、t-ブチル基等の炭素数1~10のアルキル基;等が挙げられる。
また、前記有機基がアルコキシ基の場合には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;ニトロ基;シアノ基;等が挙げられる。
【0017】
なお、RおよびRを構成する有機基が、置換基を有する場合、有機基の炭素数には、該置換基の炭素数を含まないものとする。すなわち、RおよびRを構成する有機基は、置換基に含有される炭素原子を除いた炭素原子の数が、1~30の範囲にあればよい。たとえば、RおよびRを構成する有機基が、メトキシエチル基である場合には、該有機基の炭素数は2となる。すなわち、この場合においては、メトキシ基は置換基であるため、該有機基の炭素数は、置換基であるメトキシ基の炭素数を除いたものとなる。
【0018】
本発明においては、RおよびRとしてはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい直鎖若しくは分岐の炭素数1~20のアルキル基、および、置換基を有していてもよいフェニル基並びに置換基を有していてもよいナフチル基が好ましく、置換基を有していてもよい直鎖若しくは分岐の炭素数2~8のアルキル基および置換基を有していてもよいフェニル基がより好ましい。
このようなRおよびRを構成する有機基の好ましい具体例としては、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基、t-ブチル基、フェニル基、または4-メチルフェニル基などが挙げられ、これらのなかでも、α,α-ジメチルベンジル基、または4-メチルフェニル基が特に好ましい。なお、これらは、それぞれ独立したものとすることができる。
【0019】
上記一般式(A)中、ZおよびZはそれぞれ独立して、化学的な単結合または-SO-であり、化学的な単結合が好ましい。
【0020】
上記一般式(A)中、XおよびXはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、-OR、-O-C(=O)-R、-C(=O)-OR、-O-C(=O)-OR、-NR(R)、-NR-C(=O)-R、-C(=O)-NR(R)、または、-O-C(=O)-NR(R)を表す。
【0021】
、Xを構成するハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基の炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0022】
炭素数1~10のアルキル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基等のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基等が挙げられる。
【0023】
、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表し、R、RおよびRのすべてが水素原子であることが好ましい。
【0024】
、RおよびRを構成する置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基の炭素数1~20の有機基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数1~20のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の炭素数3~20のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラニル基等の炭素数6~20のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基等の炭素数1~20のアルコキシ基;等が挙げられる。
【0025】
、RおよびRを構成する有機基の置換基としては、上述したRおよびRを構成する有機基の置換基として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0026】
これらの中でも、X、Xとしては、入手容易性等の観点から、ともに水素原子であることが好ましい。
【0027】
上記一般式(A)中、nおよびmはそれぞれ独立して、0~2の整数を表し、nおよびmのいずれか一方は0でない。nおよびmはそれぞれ独立して、0または1である(nおよびmのいずれか一方は0でない)ことが好ましく、nおよびmが1であることがさらに好ましい。
また、nおよび/またはmが2のとき、2個のR同士および2個のR同士は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0028】
本発明で用いる上記一般式(A)で表される化合物としては、下記一般式(A')、(A'')、(A''')で表される化合物のいずれかであることが好ましい。
【化7】
【0029】
上記一般式(A')、(A'')、(A''')中、R、R、ZおよびZは上記一般式(A)と同義である。上記一般式(A')、(A'')、(A''')で表される化合物の中でも、上記一般式(A''')で表される化合物が特に好ましい。
また、上記一般式(A')、(A'')、(A''')中、-Z-R、-Z-Rがそれぞれ独立して、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基、t-ブチル基、フェニルスルホニル基、または4-メチルフェニルスルホニル基である化合物がさらに好ましく、α,α-ジメチルベンジル基である化合物が特に好ましい。
【0030】
上記一般式(A)で表される化合物は、たとえば、特許第5682575号公報に記載の方法にしたがって合成することができる。すなわち、上記一般式(A)で表される化合物は、フェノチアジンを原料として用いた、公知のフェノチアジン系化合物の製造方法を適用することによって、フェノチアジン環の硫黄が酸化されていない化合物(すなわち、上記一般式(A)において、-S(=O)-が、-S-である化合物)を得て、次いで、得られた化合物を酸化することで、フェノチアジン環の硫黄(すなわち、-S-)を、-S(=O)-とすることにより製造することができる。
【0031】
なお、この際においては、フェノチアジン環の硫黄(すなわち、-S-)を、-S(=O)-とするための酸化反応においては、酸化剤として、酢酸-過酸化水素、m-クロロ過安息香酸等の有機過酸化物などを用い、酸化反応の温度を60~100℃とし、酸化前の化合物1モル当たりの酸化剤の使用量を2.0~3.0モルとすればよい。酸化反応の温度および酸化剤の使用量を上記範囲とすることで、過剰量の酸化剤を使用していることから、フェノチアジン環の硫黄(すなわち、-S-)は、実質的に全て、-S(=O)-へと酸化されることとなる。
【0032】
<一般式(B)~(E)で表される化合物>
本発明の縮合複素環化合物含有組成物は、上記した一般式(A)で表される化合物と、後述する一般式(B)~(E)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物とを含有するものである。
【0033】
一般式(B)で表される化合物は、下記構造を有するものである。
【化8】
【0034】
上記一般式(B)中、Yは、-S-、または、―S(=O)-を表し、―S(=O)-であることが好ましい。
また、R、R、Z、Z、X、X、nおよびmは、上記一般式(A)と同義であり、これらの例示および好適な基等も、上記一般式(A)と同様である。
【0035】
上記一般式(B)で表される化合物としては、下記一般式(B')、(B'')、(B''')で表される化合物のいずれかであることが好ましい。
【化9】
【0036】
上記一般式(B')、(B'')、(B''')中、R、R、ZおよびZは上記一般式(B)と同義である。上記一般(B')、(B'')、(B''')で表される化合物の中でも、上記一般式(B''')で表される化合物が特に好ましい。
また、上記一般式(B')、(B'')、(B''')中、-Z-R、-Z-Rがそれぞれ独立して、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基、t-ブチル基、フェニルスルホニル基、または4-メチルフェニルスルホニル基である化合物がさらに好ましく、α,α-ジメチルベンジル基である化合物が特に好ましい。
【0037】
また、本発明においては、上記一般式(B)で表される化合物を用いる場合には、ポリマー等の有機材料に対する分散性をより高めることができるという観点より、上記一般式(A)で表される化合物と、R、R、Z、Z、X、X、nおよびmが同じであり、かつ、-Z-R、-Z-Rの置換位置も同じである化合物を用いることが好ましい。すなわち、上記一般式(B)で表される化合物として、フェノチアジン環の硫黄原子が、-S(=O)-基とされているか、-S(=O)-基とされているかの相違のみであるものを用いることが好ましい。
【0038】
上記一般式(B)で表される化合物は、たとえば、特許第5682575号公報に記載の方法にしたがって合成することができる。すなわち、上記一般式(B)で表される化合物は、フェノチアジンを原料として用いた、公知のフェノチアジン系化合物の製造方法を適用することによって製造することができる。また、上記一般式(B)で表される化合物のうち、Yが、―S(=O)-である化合物は、フェノチアジン環の硫黄が酸化されていない化合物(すなわち、上記一般式(B)において、Yが、-S-である化合物)を得て、次いで、得られた化合物を酸化することで、フェノチアジン環の硫黄(すなわち、-S-)を、-S(=O)-とすることにより製造することができる。
【0039】
なお、この際においては、フェノチアジン環の硫黄(すなわち、-S-)を、-S(=O)-とするための酸化反応においては、酸化剤として、酢酸-過酸化水素、m-クロロ過安息香酸等の有機過酸化物などを用い、酸化反応の温度を60~100℃とし、酸化前の化合物1モル当たりの酸化剤の使用量を1.0~1.3モルとするとともに、酸化剤を、徐々に反応系に加えるような態様とすればよい。酸化反応の温度および酸化剤の使用量を上記範囲とすることで、フェノチアジン環の硫黄(すなわち、-S-)は、実質的に全て、-S(=O)-へと酸化されることとなるとともに、さらに酸化されてしまうことで、-S(=O)-となってしまうことを有効に抑制することができる。
【0040】
一般式(C)で表される化合物は、下記構造を有するものである。
【化10】
【0041】
上記一般式(C)中、XおよびXはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、-OR、-O-C(=O)-R、-C(=O)-OR、-O-C(=O)-OR、-NR(R)、-NR-C(=O)-R、-C(=O)-NR(R)、または、-O-C(=O)-NR(R)を表し(R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。)、これらの例示および好適な基等は、上記一般式(A)と同様である。
また、pおよびqはそれぞれ独立して、0~7の整数を表し、好ましくは0~2であり、より好ましくは0または1であり、特に好ましくは0である(すなわち、ナフタレン環に置換基を有しないものが特に好ましい)。
【0042】
一般式(D)で表される化合物は、下記構造を有するものである。
【化11】
【0043】
上記一般式(D)中、XおよびXは、上記一般式(C)と同義であり、これらの例示および好適な基等も、上記一般式(C)と同様である。
また、rおよびsはそれぞれ独立して、0~4の整数を表し、好ましくは0~2であり、より好ましくは0または1であり、特に好ましくは0である(すなわち、ベンゼン環に置換基を有しないものが特に好ましい)。
【0044】
一般式(E)で表される化合物は、下記構造を有するものである。
【化12】
【0045】
上記一般式(E)中、XおよびXは、上記一般式(C)と同義であり、これらの例示および好適な基等も、上記一般式(C)と同様である。
また、tおよびuはそれぞれ独立して、0~4の整数を表し、vおよびwはそれぞれ独立して、0~5の整数を表す。t、u、vおよびwは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0または1であり、特に好ましくは0である(すなわち、ベンゼン環に置換基を有しないものが特に好ましい)。
【0046】
上記一般式(B)~(E)で表される化合物の中でも、ポリマー等の有機材料に対する分散性をより高めることができるという観点より、上記一般式(B)で表される化合物および上記一般式(D)で表される化合物が好ましく、上記一般式(B)で表される化合物が特に好ましい。
【0047】
本発明の縮合複素環化合物含有組成物中における、上記一般式(A)で表される化合物と、上記一般式(B)~(E)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物との含有割合は、特に限定されないが、上記一般式(A)で表される化合物1モルに対する、上記一般式(B)~(E)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物の含有量は、好ましくは1モル以下であり、より好ましくは0.01~0.5モル、さらに好ましくは0.01~0.15モルである。含有量を上記範囲とすることにより、上記一般式(A)で表される化合物の有する老化防止機能をより十分なものとしながら、ポリマー等の有機材料に対する分散性をより適切なものとすることができる。
【0048】
<縮合複素環化合物含有組成物の調製方法>
本発明の縮合複素環化合物含有組成物の調製方法としては、特に限定されず、たとえば、上記一般式(A)で表される化合物と、上記一般式(B)~(E)で表される化合物のうち少なくとも一種の化合物とを、固体状態で混合する方法、溶媒中に溶解あるいは分散させた状態で混合し、溶媒を除去する方法などが挙げられる。
【0049】
本発明においては、得られる縮合複素環化合物含有組成物中における、上記一般式(A)で表される化合物の結晶化度を低く抑え、これにより、ポリマー等の有機材料に対する分散性をより高めることができるという観点より、縮合複素環化合物含有組成物を得る際には、フェノチアジン系化合物を原料として合成された、上記一般式(A)で表される化合物を含む反応液に、上記一般式(B)~(E)で表される化合物のうち少なくとも一種の化合物を添加する方法が好適である。すなわち、上記一般式(A)で表される化合物を合成した後、一度も、固体状の化合物として回収せずに、合成により得られた反応液をそのまま用い、ここに、上記一般式(B)~(E)で表される化合物のうち少なくとも一種の化合物を添加して、これらを混合する方法が好ましい。
【0050】
以下、本発明の縮合複素環化合物含有組成物の調製方法として、フェノチアジン系化合物を原料として合成された、上記一般式(A)で表される化合物を含む反応液に、上記一般式(B)~(E)で表される化合物のうち少なくとも一種の化合物を添加する方法を例示して、説明する。
【0051】
上記一般式(A)で表される化合物を含む反応液に、上記一般式(B)~(E)で表される化合物のうち少なくとも一種の化合物を添加し、混合する方法としては、特に限定されないが、上記一般式(A)で表される化合物を含む反応液に含まれる溶媒を分散媒として用いて、混合を行う方法が好適であり、必要に応じて、別の溶媒を添加してもよい。混合温度は、上記一般式(A)で表される化合物や、上記一般式(B)~(E)で表される化合物が析出しないような温度とすればよいが、好ましくは30~80℃、より好ましくは35~60℃であり、混合時間は、好ましくは5分~5時間、より好ましくは15分~2時間である。
【0052】
なお、上記一般式(A)で表される化合物を含む反応液に、上記一般式(B)~(E)で表される化合物のうち少なくとも一種の化合物を添加する前に、上記一般式(A)で表される化合物を含む反応液に、上記一般式(A)で表される化合物の合成に用いた酸化剤を失活させるために、亜硫酸水素ナトリウムなどの失活剤を添加してもよく、失活剤を予め添加しておくことで、上記一般式(B)~(E)で表される化合物の酸化を抑制することができる。
【0053】
また、本発明においては、上記一般式(A)で表される化合物を含む反応液に、上記一般式(B)~(E)で表される化合物のうち少なくとも一種の化合物を添加し、混合を行った後、得られた混合液について、熟成処理を行うことが好ましい。熟成処理を行うことで、得られる縮合複素環化合物含有組成物中における、上記一般式(A)で表される化合物の結晶化度をより低く抑えることができ、これにより、ポリマー等の有機材料に対する分散性をより一層高めることができる。
【0054】
熟成処理としては、好ましくは30~60℃、より好ましくは35~55℃で、好ましくは5分~5時間、より好ましくは15分~3時間の条件で、混合液を攪拌する方法が好ましい。
【0055】
また、得られる縮合複素環化合物含有組成物中における、上記一般式(A)で表される化合物の結晶化度をより一層低く抑えることができるという観点より、熟成処理は、種結晶を添加した状態で行うことが好ましく、種結晶としては、上記一般式(A)で表される化合物を用いることが好ましく、結晶化度が35%以下である、上記一般式(A)で表される化合物を用いることが特に好ましい。種結晶として、上記一般式(A)で表される化合物を用いる場合には、本発明の縮合複素環化合物含有組成物を種結晶として用いてもよいし、あるいは、合成に際し、不純物量が多くなるような条件で製造された、上記一般式(A)で表される化合物を用いてもよい。種結晶の使用量は、上記一般式(A)で表される化合物と、上記一般式(B)~(E)で表される化合物との合計100重量部に対し、好ましくは0.01~5重量部、より好ましくは0.03~1重量部である。
【0056】
そして、熟成処理を経た混合液を、好ましくは0~25℃まで徐冷することで、混合液中に、上記一般式(A)で表される化合物と、上記一般式(B)~(E)で表される化合物のうち少なくとも一種の化合物とを共析出させて、これらの共析出物を形成させる。徐冷を行う際の冷却速度は、好ましくは3~20℃/時間、より好ましくは5~15℃/時間である。このような条件で徐冷を行うことで、得られる縮合複素環化合物含有組成物中における、上記一般式(A)で表される化合物の結晶化度をより低く抑えることができ、これにより、ポリマー等の有機材料に対する分散性をより一層高めることができる。なお、徐冷を行う際の冷却速度は、一定でもよいし、あるいは、徐冷の初期と、徐冷の終期とで異なる速度としてもよい。また、徐冷を行った後、徐冷後の混合液を、好ましくは15分~30時間、より好ましくは30分~18時間の条件で、冷却後の温度に保持することで、熟成を行ってもよい。
【0057】
そして、混合液中において析出させた共析出物に対し、濾過などの回収操作を行うことで、上記一般式(A)で表される化合物と、上記一般式(B)~(E)で表される化合物とを含む湿結晶を得る。
【0058】
次いで、得られた湿結晶について、乾燥処理を行うことで、上記一般式(A)で表される化合物と、上記一般式(B)~(E)で表される化合物のうち少なくとも一種の化合物とを含む縮合複素環化合物含有組成物を得る。なお、この様にして得られる縮合複素環化合物含有組成物は、上記一般式(A)で表される化合物と、上記一般式(B)~(E)で表される化合物のうち少なくとも一種の化合物とを共析出させる工程を経ているため、これらの共析出物であるといえる。
【0059】
乾燥処理方法としては、特に限定されず、湿結晶に含まれている溶媒を除去できる方法であればよく、特に限定されないが、減圧条件とし、必要に応じて加熱を行う方法が好ましい。乾燥温度は、溶媒の種類によって選択すればよいが、好ましくは20~100℃、より好ましくは50~90℃である。また、減圧条件とし、必要に応じて加熱を行う方法としては、たとえば、真空棚段乾燥機を用いる方法や、エバポレーターを用いる方法などが挙げられ、真空棚段乾燥機を用いる方法においては、乾燥時間は、好ましくは12~150時間、より好ましくは24~100時間であり、また、エバポレーターを用いる方法においては、乾燥時間は、好ましくは16~120時間、より好ましくは24~100時間である。なお、乾燥処理においては、乾燥による溶媒の除去に伴い、結晶の形成が進行することとなるため、得られる縮合複素環化合物含有組成物中に含まれる、上記一般式(A)で表される化合物の結晶化度をより低いものとするという観点より、乾燥条件を上記範囲において、適宜選択することが好ましい。
【0060】
本発明の縮合複素環化合物含有組成物中に含まれる、上記一般式(A)で表される化合物の結晶化度は、好ましくは35%以下であり、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは28%以下である。縮合複素環化合物含有組成物中に含まれる、上記一般式(A)で表される化合物の結晶化度を上記のように低く抑えることにより、ポリマー等の有機材料に対する分散性をより高めることができる。なお、結晶化度は、縮合複素環化合物含有組成物について、示差走査熱量計(DSC)を用いた測定を行い、得られたDSC曲線より、発熱ピークおよび吸熱ピークを求め、下記式にしたがって、算出することができる。
結晶化度(%)=100-{(発熱ピークの熱量)÷(吸熱ピークの熱量)×100}
【0061】
また、本発明の縮合複素環化合物含有組成物中における、上記一般式(A)で表される化合物と、上記一般式(B)~(E)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物との合計の含有割合が、99.5重量%以上であることが好ましく、99.7重量%以上であることがより好ましく、99.9重量%以上であることがさらに好ましく、揮発分量が、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.3重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下とされたものであることが好ましい。揮発分量としては、製造に用いた溶媒等が挙げられる。
【0062】
<有機材料含有組成物>
本発明の有機材料含有組成物は、成分(a)としての有機材料と、成分(b)としての上記した本発明の縮合複素環化合物含有組成物を含有する組成物である。
【0063】
本発明で用いる成分(a)の有機材料は、特に限定されず、天然有機材料であっても合成有機材料であってもよい。なかでも、成分(a)の有機材料としては、本発明の縮合複素環化合物含有組成物の添加効果が大きいことから、合成ゴム、ポリオレフィン、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド等の、耐熱性が求められる用途に使用される合成ポリマーが好ましく、合成ゴムがより好ましい。
【0064】
本発明の有機材料含有組成物を構成することができる合成ゴムは、特に限定されないが、たとえば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(ニトリルゴム)、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合ゴム、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合ゴムなどの共役ジエン単位が含まれるゴム;アクリルゴム;ヒドリンゴム、エチレンプロピレンゴム;などが挙げられる。これらの合成ゴムは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシシリル基、アミノ基及びエポキシ基などを有していてもよい。また、これらのゴムは水素化されていてもよく、たとえば、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム水素添加物(水素化ニトリルゴム)が挙げられる。これらの合成ゴムは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、特に、高い耐熱性が求められるアクリルゴムまたは水素化ニトリルゴムに適用することが耐熱性の改善効果の観点から好ましく、アクリルゴムに適用することがより好ましい。
【0065】
本発明で用いることのできるアクリルゴムは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位50~100重量%および架橋性単量体単位10~0重量%、ならびに、必要に応じこれらの単量体単位を形成する単量体と共重合可能なその他の単量体の単位50~0重量%を有するゴムであり、アクリルゴムを構成する各単量体単位の割合を調節することにより、ゴム物性を調整することができる。なお、本発明では、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよび/またはメタアクリルのことを示す。
【0066】
アクリルゴムは、耐油性、特に高温下での耐油性に優れ、かつ、耐熱性が良好なゴムとして知られ、自動車用のホース、オイルシール、Oリングや装置・機械内蔵コンベアベルト等として需要が増大しているものである。
【0067】
アクリルゴムの主成分である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体は、特に限定されないが、たとえば、好ましいものとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体などを挙げることができる。
【0068】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、炭素数1~8のアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル酸エチルおよび(メタ)アクリル酸n-ブチルが好ましく、アクリル酸エチルおよびアクリル酸n-ブチルがより好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
【0069】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、炭素数2~8のアルコキシアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-メトキシブチルなどが挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル酸2-エトキシエチルおよび(メタ)アクリル酸2-メトキシエチルが好ましく、アクリル酸2-エトキシエチルおよびアクリル酸2-メトキシエチルが特に好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
【0070】
アクリルゴム中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量は、50~100重量%、好ましくは60~99.5重量%、より好ましくは70~99.5重量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐候性、耐熱性および耐油性が低下するおそれがある。
【0071】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の内訳は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位30~100重量%および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位70~0重量%であることが好ましい。
【0072】
架橋性単量体単位を形成する架橋性単量体としては、特に限定されないが、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸単量体;ハロゲン原子またはエポキシ基を有する単量体;ジエン単量体;などが挙げられる。
【0073】
α,β-エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、特に限定されないが、たとえば、炭素数3~12のα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸、炭素数4~12のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸、および炭素数4~12のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1~8のアルカノールとのモノエステルなどが挙げられる。炭素数3~12のα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。炭素数4~12のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸としては、フマル酸またはマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸などが挙げられる。炭素数4~12のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1~8のアルカノールとのモノエステルとしては、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチルなどのブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキセニル、マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘキセニルなどの脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸モノシクロヘキシルなどのイタコン酸モノエステル;などが挙げられる。これらの中でもブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステルまたは脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステルが好ましく、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノシクロヘキシルおよびマレイン酸モノシクロヘキシルがより好ましい。これらのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸単量体は1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。なお、上記単量体のうち、ジカルボン酸は、無水物として共重合されていてもよく、架橋の際に加水分解してカルボキシル基を生成するものであればよい。
【0074】
ハロゲン原子を有する単量体としては、特に限定されないが、たとえば、ハロゲン含有飽和カルボン酸の不飽和アルコールエステル、(メタ)アクリル酸ハロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ハロアシロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸(ハロアセチルカルバモイルオキシ)アルキルエステル、ハロゲン含有不飽和エーテル、ハロゲン含有不飽和ケトン、ハロメチル基含有芳香族ビニル化合物、ハロゲン含有不飽和アミド、ハロアセチル基含有不飽和単量体などが挙げられる。ハロゲン含有飽和カルボン酸の不飽和アルコールエステルとしては、クロロ酢酸ビニル、2-クロロプロピオン酸ビニル、クロロ酢酸アリルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸ハロアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸1-クロロエチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、(メタ)アクリル酸1,2-ジクロロエチル、(メタ)アクリル酸2-クロロプロピル、(メタ)アクリル酸3-クロロプロピル、(メタ)アクリル酸2,3-ジクロロプロピルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸ハロアシロキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2-(クロロアセトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(クロロアセトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(クロロアセトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(ヒドロキシクロロアセトキシ)プロピルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸(ハロアセチルカルバモイルオキシ)アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2-(クロロアセチルカルバモイルオキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3-(クロロアセチルカルバモイルオキシ)プロピルなどが挙げられる。ハロゲン含有不飽和エーテルとしては、クロロメチルビニルエーテル、2-クロロエチルビニルエーテル、3-クロロプロピルビニルエーテル、2-クロロエチルアリルエーテル、3-クロロプロピルアリルエーテルなどが挙げられる。ハロゲン含有不飽和ケトンとしては、2-クロロエチルビニルケトン、3-クロロプロピルビニルケトン、2-クロロエチルアリルケトンなどが挙げられる。ハロメチル基含有芳香族ビニル化合物としては、p-クロロメチルスチレン、p-クロロメチル-α-メチルスチレンなどが挙げられる。ハロゲン含有不飽和アミドとしては、N-クロロメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。ハロアセチル基含有不飽和単量体としては、3-(ヒドロキシクロロアセトキシ)プロピルアリルエーテル、p-ビニルベンジルクロロ酢酸エステルなどが挙げられる。
【0075】
エポキシ基を有する単量体としては、特に限定されないが、たとえば、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルおよびエポキシ基含有エーテルなどを挙げることができる。エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられ、また、エポキシ基含有エーテルとしては、アリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0076】
ジエン単量体としては、共役ジエン単量体および非共役ジエン単量体が挙げられる。共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、ピペリレンなどを挙げることができる。非共役ジエン単量体としては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸2-ジシクロペンタジエニルエチルなどを挙げることができる。
【0077】
これら架橋性単量体は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。アクリルゴム中における、架橋性単量体単位の含有量は、0~10重量%、好ましくは0.5~7重量%、より好ましくは0.5~5重量%である。架橋性単量体単位の含有量が多すぎると、得られるゴム架橋物の伸びが低下したり、圧縮永久歪率が増大したりする可能性がある。
【0078】
上記各単量体と共重合可能なその他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、芳香族ビニル単量体、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体、アクリロイルオキシ基を2個以上有する単量体、オレフィン系単量体、およびビニルエーテル化合物などが挙げられる。
【0079】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。多官能(メタ)アクリル単量体としては、エチレングリコールの(メタ)アクリル酸ジエステル、プロピレングリコールの(メタ)アクリル酸ジエステルなどが挙げられる。オレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-オクテンなどが挙げられる。ビニルエーテル化合物としては、酢酸ビニル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、スチレン、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルおよびメタアクリロニトリルがより好ましい。
【0080】
これら共重合可能なその他の単量体は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。アクリルゴム中における、その他の単量体の単位の含有量は、0~50重量%、好ましくは0~39.5重量%、より好ましくは0~29.5重量%である。
【0081】
本発明で用いられるアクリルゴムは、上記単量体を重合することにより得ることができる。重合反応の形態としては、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法および溶液重合法のいずれも用いることができるが、重合反応の制御の容易性等から、従来公知のアクリルゴムの製造法として一般的に用いられている常圧下での乳化重合法によるのが好ましい。
【0082】
乳化重合は、回分式、半回分式、連続式のいずれでもよい。重合は通常0~70℃、好ましくは5~50℃の温度範囲で行われる。
【0083】
このようにして製造される、本発明で用いるアクリルゴムのムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕(ポリマームーニー)は、好ましくは10~80、より好ましくは20~70、特に好ましくは25~60である。
【0084】
また、本発明の有機材料含有組成物は、上記した成分(a)および成分(b)に加えて、さらに他の添加剤を含有していてもよい。
他の添加剤としては、合成高分子材料などを用いる分野において通常使用される添加剤が挙げられる。たとえば、カーボンブラック、シリカ等の補強性充填剤;炭酸カルシウム、クレー等の非補強性充填材;光安定剤;スコーチ防止剤;可塑剤;加工助剤;滑剤;粘着剤;潤滑剤;難燃剤;防黴剤;帯電防止剤;着色剤;シランカップリング剤;架橋剤;架橋促進剤;架橋遅延剤;等が挙げられる。
これらの添加剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を適宜配合することができる。
【0085】
本発明の有機材料含有組成物は、成分(a)、成分(b)および所望により他の添加剤の所定量をバンバリーミキサーやニーダー等で混合・混練し、次いで、混練ロールを用いて、さらに混練することにより調製することができる。
各成分の配合順序は特に限定されないが、熱で反応や分解しにくい成分を充分に混合した後、熱で反応や分解しやすい成分である架橋剤等を、反応や分解が起こらない温度で短時間に混合することが好ましい。
【0086】
たとえば、有機材料含有組成物を構成する、有機材料として、アクリルゴムなどのゴムを使用し、架橋剤を含有させた場合には、これを架橋することによりゴム架橋物を得ることができる。ゴム架橋物は、所望の形状に対応した成形機、たとえば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、架橋反応によりゴム架橋物としての形状を固定化することにより得ることができる。その際には、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10~200℃、好ましくは25~120℃である。架橋温度は、通常、130~220℃、好ましくは150~190℃であり、架橋時間は、通常、2分間~10時間、好ましくは3分間~6時間である。加熱方法としては、プレス加熱、蒸気加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる方法を適宜選択すればよい。
【0087】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。二次架橋時間は、加熱方法、架橋温度、形状などにより異なるが、好ましくは1~48時間である。加熱方法、加熱温度は適宜選択すればよい。
【0088】
本発明の有機材料含有組成物は、上記した本発明の縮合複素環化合物含有組成物を配合してなるものであり、本発明の縮合複素環化合物含有組成物は、有機材料に対する分散性に優れるものであるため、有機材料に対し、優れた耐熱性を付与できるものである。そのため、本発明の有機材料含有組成物や、これを用いて得られるゴム架橋物は、優れた耐熱性を備えるものである。
【実施例0089】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。
各種の物性については、以下の方法に従って評価した。
【0090】
<各種化合物の含有量>
下記の方法に従って、実施例および比較例で得られた湿結晶中における各化合物の含有量を測定した。
すなわち、湿結晶中について、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用い測定することで、後述する化合物(A-1)の量を求め、その結果より、後述する化合物(A-1)の量と、後述する化合物(B-1)、化合物(C-1)、化合物(D-1)および化合物(E-1)の量とを、百分率による、2成分の比率にて算出した。なお、HPLC測定においては、検量線として、99.0%以上の高純度な化合物を使用して、3種類の濃度の溶液を調製して標準試料とした。この濃度の異なる3種類の標準試料をオートサンプラーにより一定量分析した結果を基に、横軸がHPLCのピーク面積、縦軸が濃度の検量線を作成して定量を実施した。
HPLC測定の具体的な条件を以下に示す。
測定装置:アジレント社製LC1260型
カラム:XDB-C18 直径4.6mm×長さ250mm(Agilent社製990967-902)
カラム温度:40℃
移動相:アセトニトリル/蒸留水=90/10(容量比)(0~10分)、アセトニトリル/蒸留水=95/5(容量比)(10~25分)(すなわち、合計25分間の分析を行った。)
【0091】
<結晶化度の測定>
下記の方法に従って縮合複素環化合物含有組成物中における、後述する化合物(A-1)の結晶化度を測定した。
実施例および比較例で得られた組成物あるいは化合物10mgを、アルミパンに秤量し、この上にアルミパンカバーを乗せて、サンプルシーラーでシールすることで試料容器を調製した。対照サンプルとして、空のアルミパンにアルミパンカバーを乗せて、サンプルシーラーでシールし、これをリファレンス容器とした。
そして、試料容器とリファレンス容器とについて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、一定の速度で昇温させながら、リファレンスと試料の温度を測定して試料の状態変化に伴う熱量を測定し、測定したDSC曲線から、結晶化と融解(融点)に伴う熱量を求め、この2つの熱量の値から結晶化度を算出した。
測定には、DSC装置(日立ハイテクサイエンス社製 DSC7000シリーズ)を用い、0~250℃の範囲で、10℃/分の速度で昇温することで、測定を行った。DSC曲線より、125~140℃に頂点を持つ発熱ピーク(結晶化ピーク)の熱量を計算し、これを「発熱ピーク」とした。また、180~220℃に頂点を持つ吸熱ピーク(融点ピーク)の熱量を計算して、これを「吸熱ピーク」とした。そして、結晶化度(%)を、下記式にしたがって、求めた。
結晶化度(%)=100-{(発熱ピークの熱量)÷(吸熱ピークの熱量)×100}
【0092】
<アクリルゴムに対する分散性>
アクリルゴム(日本ゼオン社製、Nipol AR22)100重量部に、カーボンブラック(東海カーボン社製、シーストSO)60質量部、ステアリン酸2質量部、ならびに、老化防止剤として、実施例で得られた縮合複素環化合物含有組成物1重量部、あるいは比較例で得られた化合物(A-1)1重量部を添加し、ブラベンダーを用いて50℃にて混錬を開始し、5分間混錬した後、100℃まで昇温して混錬した。そして、混錬途中および混錬後の混練物中における、老化防止剤に由来の粒状物を目視にて計数し、以下の基準で評価した。
A:100℃、10分間の混錬後に老化防止剤の粒状物が確認されなかった。
B:100℃、10分間の混錬後には、極わずかに、老化防止剤の粒状物が確認されたものの、100℃、20分間の混錬後には、老化防止剤の粒状物が確認されなかった。
C:100℃、20分間の混錬後においても、老化防止剤の粒状物が確認され、100℃、20分間の混錬後、ゴム断面(8cm×0.5cm)の粒状物を測定したところ、1個以上、5個以下であった。
D:100℃、20分間の混錬後においても、老化防止剤の粒状物が確認され、100℃、20分間の混錬後、ゴム断面(8cm×0.5cm)の粒状物を測定したところ、6個以上であった。
【0093】
(合成例1)化合物(A-1)の反応液の調製
以下の方法に従い、上記式(A-1)に示す化合物(A-1)を合成した。
【化13】
すなわち、まず、温度計を備えた3つ口反応器に、窒素気流中、フェノチアジン80.0g(401.47mmol)、o-キシレン200gを添加した。次いで、ここに、α-メチルスチレン94.89g(802.94mmol)と、p-トルエスルホン酸1水和物3.82g(20.07mmol)を加えて80℃にて1時間反応させた。その後、反応液に酢酸80g、o-キシレン400g、30重量%過酸化水素水102.57g(905.03mmol)を加えて、さらに80℃にて2時間反応させた。反応液に10重量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液52.22g(200.74mmol)を添加し、85℃にて1時間加熱した。水層を除いた後に有機層にメタノール180gを添加することで、化合物(A-1)の反応液を調製した。
【0094】
そして、化合物(A-1)の反応液の一部を取り出し、20℃まで冷却することで結晶を析出させ、析出した結晶をろ過し、メタノールでリンスすることで、メタノールを含有する湿結晶を得て、湿結晶を真空乾燥することで、乾燥白色結晶を得た。なお、この時の収率は66%であった。そして、得られた乾燥白色結晶について、H-NMR測定を行ったところ、上記式(A-1)に示す化合物(A-1)であると同定された。
【0095】
H-NMR(500MHz、DMSO-d6、TMS、δppm):1.67(s,12H),7.15-7.32(m ,12H),7.43(dd,2H,J=9.0,2.0Hz),7.68(d,2H,J=1.5Hz),10.84( s , 1 H ) 。
【0096】
(合成例2)化合物(B-1)の合成
以下の方法に従い、下記式(B-1)に示す化合物(B-1)を合成した。
【化14】
すなわち、まず、温度計を備えた3つ口反応器に、窒素気流中、フェノチアジン80.0g(401.47mmol)、o-キシレン200gを添加した。次いで、ここに、α-メチルスチレン94.89g(802.94mmol)と、p-トルエスルホン酸1水和物3.82g(20.07mmol)を加えて80℃にて1時間反応させた。反応液を50℃に冷却した後、酢酸60g、o-キシレン400gを加え、30重量%過酸化水素水49.88g(440.12mmol)を30分かけてゆっくりと滴下し、さらに80℃で2 時間反応させた。反応液に10重量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液52.22g(200.74mmol)を添加し、85℃にて1時間加熱した。水層を除いた後に有機層にメタノール180gを添加した。
【0097】
その後、反応液を20℃まで冷却して析出した結晶をろ過し、240gのメタノールでリンスすることで、白色結晶の化合物(B-1)を、136.29g、収率66%で得た。なお、構造については、H-NMRで同定した。
【0098】
H-NMR(500MHz、DMSO-d6、TMS、δppm):1.68(s,6H),1.70(s,6H),7.15-7.32(m,12H),7.38(dd ,2H,J=9.0,2.0Hz),7.70(d,2H,J=1.5Hz),10.85(s,1H) 。
【0099】
(実施例1)化合物(A-1)および化合物(B-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-1)の調製
以下の方法に従い、化合物(A-1)および化合物(B-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-1)を調製した。
すなわち、まず、温度計を備えた3つ口反応器に、窒素気流中、上記合成例1で調製した化合物(A-1)の反応液129.43g(化合物(A-1)の量で、23.18g)、およびメタノール28.90gを添加した。この溶液に、上記合成例2で合成した化合物(B-1)0.10gを添加し、70℃の温浴上で、1時間加熱還流して溶解させた。1時間の還流の後、混合液を40℃まで冷却し、化合物(A-1)の種結晶(結晶化度:35%以下)12.9mgを添加し、反応液について、40℃にて1時間の撹拌を行った後に、反応液を20℃まで2時間かけて冷却した後、20℃で、1時間保持した。そして、冷却により析出した共析出物をろ過し、メタノール38.8gでリンスすることで、化合物(A-1)および化合物(B-1)を含む湿結晶24.30gを得た。湿結晶の乾燥減量を測定した結果、14.78重量%であった。また、この湿結晶について、HPLCを用いて分析した結果、化合物(A-1)と化合物(B-1)の面積比は、98.91:1.09であり、この結果より、得られた湿結晶は、化合物(A-1)と化合物(B-1)とを、上記モル比にて含有するものであると確認された(後述する各実施例、比較例においても同様。)。
【0100】
そして、上記にて得られた湿結晶を、室温で一晩風乾し、風乾後の結晶をアルミ製の秤量皿に移し、70℃の真空棚段乾燥機を用いて168時間乾燥することで、縮合複素環化合物含有組成物(α-1)を得て、上記した方法にしたがい、結晶化度およびアクリルゴムに対する分散性を評価した。結果を、残留メタノール量(すなわち、揮発成分量)とともに、表1に示す。なお、真空棚段乾燥機は、油回転式真空ポンプを用いて減圧し、その減圧度は1mmHg以下であった。
【0101】
(実施例2)化合物(A-1)および化合物(B-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-2)の調製
化合物(B-1)の添加量を0.29gとした以外は、実施例1と同様に操作を行い、化合物(A-1)および化合物(B-1)を含む湿結晶24.19gを得た。湿結晶の乾燥減量を測定した結果、14.88重量%であった。この湿結晶について、HPLCを用いて分析した結果、化合物(A-1)と化合物(B-1)の面積比は、98.17:1.83であった。
そして、上記にて得られた湿結晶について、実施例1と同様にして乾燥を行うことで、縮合複素環化合物含有組成物(α-2)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(実施例3)化合物(A-1)および化合物(B-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-3)の調製
化合物(B-1)の添加量を0.45gとした以外は、実施例1と同様に操作を行い、化合物(A-1)および化合物(B-1)を含む湿結晶24.36gを得た。湿結晶の乾燥減量を測定した結果、14.99重量%であった。この湿結晶について、HPLCを用いて分析した結果、化合物(A-1)と化合物(B-1)の面積比は、97.32:2.68であった。
そして、上記にて得られた湿結晶について、実施例1と同様にして乾燥を行うことで、縮合複素環化合物含有組成物(α-3)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
(実施例4)化合物(A-1)および化合物(B-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-4)の調製
化合物(B-1)の添加量を0.88gとした以外は、実施例1と同様に操作を行い、化合物(A-1)および化合物(B-1)を含む湿結晶24.41gを得た。湿結晶の乾燥減量を測定した結果、15.54重量%であった。この湿結晶について、HPLCを用いて分析した結果、化合物(A-1)と化合物(B-1)の面積比は、94.94:5.06であった。
そして、上記にて得られた湿結晶について、実施例1と同様にして乾燥を行うことで、縮合複素環化合物含有組成物(α-4)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例5)化合物(A-1)および化合物(B-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-5)の調製
化合物(B-1)の添加量を1.58gとした以外は、実施例1と同様に操作を行い、化合物(A-1)および化合物(B-1)を含む湿結晶25.23gを得た。湿結晶の乾燥減量を測定した結果、15.21重量%であった。この湿結晶について、HPLCを用いて分析した結果、化合物(A-1)と化合物(B-1)の面積比は、91.40:8.60であった。
そして、上記にて得られた湿結晶について、実施例1と同様にして乾燥を行うことで、縮合複素環化合物含有組成物(α-5)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
(実施例6)化合物(A-1)および化合物(B-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-6)の調製
実施例4と同様にして湿結晶を得た後、得られた湿結晶を、ナス型フラスコに入れ、エバポレーターを用いて48時間乾燥することで、縮合複素環化合物含有組成物(α-6)を得て、得られた縮合複素環化合物含有組成物(α-6)を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、乾燥操作は、ナス型フラスコを70℃の湯浴上で加熱し、毎分10~30回の速度で回転させながら、ダイヤフラム式真空ポンプを用い10mmHgの減圧度にて実施した。
【0106】
(実施例7)化合物(A-1)および化合物(B-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-7)の調製
エバポレーターを用いた乾燥における乾燥時間を80時間とした以外は、実施例6と同様にして、縮合複素環化合物含有組成物(α-7)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
(実施例8)化合物(A-1)および化合物(C-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-8)の調製
化合物(B-1)に代えて、下記式(C-1)に示す化合物(C-1:ノクラックWhite(大内新興化学工業社製))1.20gを添加した以外は、実施例1と同様に操作を行い、化合物(A-1)および化合物(C-1)を含む湿結晶22.16gを得た。湿結晶の乾燥減量を測定した結果、7.94重量%であった。この湿結晶について、HPLCを用いて分析した結果、化合物(A-1)と化合物(C-1)の面積比は、99.28:0.72であった。
そして、上記にて得られた湿結晶について、実施例1と同様にして乾燥を行うことで、縮合複素環化合物含有組成物(α-8)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【化15】
【0108】
(実施例9)化合物(A-1)および化合物(D-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-9)の調製
化合物(B-1)に代えて、下記式(D-1)に示す化合物(D-1:ノクセラーDM-P(大内新興化学工業社製))1.20gを添加した以外は、実施例1と同様に操作を行い、化合物(A-1)および化合物(D-1)を含む湿結晶22.02gを得た。湿結晶の乾燥減量を測定した結果、9.28重量%であった。この湿結晶について、HPLCを用いて分析した結果、化合物(A-1)と化合物(D-1)の面積比は、96.34:3.66であった。
そして、上記にて得られた湿結晶について、実施例1と同様にして乾燥を行うことで、縮合複素環化合物含有組成物(α-9)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【化16】
【0109】
(実施例10)化合物(A-1)および化合物(E-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-10)の調製
化合物(B-1)に代えて、下記式(E-1)に示す化合物(E-1:ノクタイダーSS(大内新興化学工業社製))1.20gを添加した以外は、実施例1と同様に操作を行い、化合物(A-1)および化合物(E-1)を含む湿結晶20.26gを得た。湿結晶の乾燥減量を測定した結果、5.73重量%であった。この湿結晶について、HPLCを用いて分析した結果、化合物(A-1)と化合物(E-1)の面積比は、98.57:1.43であった。
そして、上記にて得られた湿結晶について、実施例1と同様にして乾燥を行うことで、縮合複素環化合物含有組成物(α-10)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【化17】
【0110】
(実施例11)化合物(A-1)および化合物(C-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-11)の調製
実施例8と同様にして湿結晶を得た後、得られた湿結晶について、実施例7と同様にしてエバポレーターを用いて80時間乾燥した以外は、実施例8と同様にして、縮合複素環化合物含有組成物(α-11)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
(実施例12)化合物(A-1)および化合物(D-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-12)の調製
実施例9と同様にして湿結晶を得た後、得られた湿結晶について、実施例7と同様にしてエバポレーターを用いて80時間乾燥した以外は、実施例9と同様にして、縮合複素環化合物含有組成物(α-12)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0112】
(実施例13)化合物(A-1)および化合物(E-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-13)の調製
実施例10と同様にして湿結晶を得た後、得られた湿結晶について、実施例7と同様にしてエバポレーターを用いて80時間乾燥した以外は、実施例10と同様にして、縮合複素環化合物含有組成物(α-13)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
(実施例14)化合物(A-1)および化合物(B-1)を含有する縮合複素環化合物含有組成物(α-14)の調製
合成例1において、o-キシレンをトルエンに変更した以外は、合成例1と同様にして化合物(A-1)を合成して、化合物(A-1)の反応液(トルエン溶液)を得て、化合物(A-1)の反応液(トルエン溶液)を使用した以外は、実施例4と同様にして、化合物(A-1)および化合物(B-1)を含む湿結晶24.41gを得た。次いで、得られた湿結晶を実施例7と同様にしてエバポレーターを用いて80時間乾燥する以外は、実施例4と同様にして、縮合複素環化合物含有組成物(α-14)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
このとき、湿結晶の乾燥減量を測定した結果、12.14重量%であった。この湿結晶について、HPLCを用いて分析した結果、化合物(A-1)と化合物(B-1)の面積比は、95.48:4.52であった。
【0114】
(比較例1)乾燥状態の化合物(A-1)の調製
化合物(B-1)を添加しなかった以外は、実施例1と同様に操作を行い、化合物(A-1)を含む湿結晶24.58gを得た。湿結晶の乾燥減量を測定した結果、18.27重量%であった。また、この湿結晶について、HPLCを用いて分析した結果、化合物(A-1)以外の成分(具体的には、化合物(B-1)、化合物(C-1)、化合物(D-1)および化合物(E-1))については検出されなかった。
そして、上記にて得られた湿結晶について、実施例1と同様にして乾燥を行うことで、乾燥状態の化合物(A-1)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0115】
(比較例2)乾燥状態の化合物(A-1)の調製
比較例1と同様にして湿結晶を得た後、得られた湿結晶について、実施例6と同様に、エバポレーターを用いた乾燥を行うことで、乾燥状態の化合物(A-1)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
(比較例3)乾燥状態の化合物(A-1)の調製
エバポレーターを用いた乾燥における乾燥時間を80時間とした以外は、比較例2と同様にして、乾燥状態の化合物(A-1)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0117】
(比較例4) トルエン溶媒で合成した乾燥状態の化合物(A-1)の調製
実施例14において、化合物(B-1)を添加しなかった以外は、実施例14と同様に操作を行い、乾燥状態の化合物(A-1)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
表1に示すように、比較例1のように、化合物(A-1)に加えて、化合物(B-1)、化合物(C-1)、化合物(D-1)、および化合物(E-1)のうちいずれかを含有する実施例1~14の縮合複素環化合物含有組成物によれば、化合物(A-1)のみからなり、これらの化合物を含有しない比較例1~4と比較して、結晶化度が低く抑えられたものであった。
また、表1に示すように、化合物(A-1)に加えて、化合物(B-1)、化合物(C-1)、化合物(D-1)、および化合物(E-1)を含有する実施例1~14の縮合複素環化合物含有組成物によれば、アクリルゴムに対する分散性が高く、そのため、アクリルゴムを含む有機材料に対し、高い老化防止機能を発揮できるものであるといる。
一方、化合物(A-1)のみからなり、これらの化合物を含有しない比較例1~4においては、アクリルゴムに対する分散性が十分なものではなかった。