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特開2024-79870光異性化基を有する(メタ)アクリル化合物、ポリ(メタ)アクリル化合物、及び、(メタ)アクリル系接着剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079870
(43)【公開日】2024-06-12
(54)【発明の名称】光異性化基を有する(メタ)アクリル化合物、ポリ(メタ)アクリル化合物、及び、(メタ)アクリル系接着剤
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/54 20060101AFI20240604BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20240604BHJP
   C08F 20/18 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C07C69/54 Z
C09J133/06
C08F20/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201258
(22)【出願日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2022191130
(32)【優先日】2022-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載年月日:令和4年12月1日、掲載アドレス:https://www.mrs-j.org/meeting2022/jp/about/important.php https://www.mrs-j.org/meeting2022/jp/prg/programList.php?wday=6 集会名:第32回日本MRS年次大会、開催日:令和4年12月6日 掲載年月日:令和5年3月8日、掲載アドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/csj103rd/static/outline https://confit.atlas.jp/guide/event/csj103rd/subject/P1-2pm-21/advanced 集会名:日本化学会第103春季年会(2023)、開催日:令和5年3月23日 掲載年月日:令和5年3月8日、掲載アドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/csj103rd/static/outline https://confit.atlas.jp/guide/event/csj103rd/subject/P1-2pm-22/advanced 集会名:日本化学会第103春季年会(2023)、開催日:令和5年3月23日 掲載年月日:令和5年5月9日、掲載アドレス:https://main.spsj.or.jp/nenkai/72nenkai/index.html https://member.spsj.or.jp/convention/spsj2023/index.php?id=1F29&tf=1&bo=F 集会名:第72回高分子学会年次大会、開催日:令和5年5月24日 掲載年月日:令和5年5月9日、掲載アドレス:https://main.spsj.or.jp/nenkai/72nenkai/index.html https://member.spsj.or.jp/convention/spsj2023/index.php?id=2Pd072&place_num=1 集会名:第72回高分子学会年次大会、開催日:令和5年5月25日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載年月日:令和5年7月4日、掲載アドレス:https://main.spsj.or.jp/ipc/2023/index.html https://member.spsj.or.jp/convention/ipc2023/index.php?id=21P045a&place_num=1 集会名:The 13th SPSJ International Polymer Conference(IPC2023)、開催日:令和5年7月21日 掲載年月日:令和5年9月13日、掲載アドレス:https://main.spsj.or.jp/tohron/72tohron/ https://member.spsj.or.jp/convention/tohron2023/index.php?id=1Pa061&place_num=1 集会名:第72回高分子討論会、開催日:令和5年9月26日 掲載年月日:令和5年9月13日、掲載アドレス:https://main.spsj.or.jp/tohron/72tohron/ https://member.spsj.or.jp/convention/tohron2023/index.php?id=2Pd060&place_num=1 集会名:第72回高分子討論会、開催日:令和5年9月27日 掲載年月日:令和5年9月26日、掲載アドレス:https://festa.csj.jp/2023/ https://festa.csj.jp/2023/program/#ps-P4 集会名:日本化学会秋季事業 第13回 CSJ化学フェスタ2023、開催日:令和5年10月18日 掲載年月日:令和5年9月26日、掲載アドレス:https://festa.csj.jp/2023/ https://festa.csj.jp/2023/program/#ps-P6 集会名:日本化学会秋季事業 第13回 CSJ化学フェスタ2023、開催日:令和5年10月18日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「熱安定な分子スイッチによる光可逆性接着剤の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】今任 景一
(72)【発明者】
【氏名】大山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】兼田 直輝
(72)【発明者】
【氏名】日高 太智
【テーマコード(参考)】
4H006
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB46
4H006AB99
4H006BJ50
4H006BP30
4H006KC14
4J040DF041
4J040JA02
4J040JB02
4J040MA05
4J040MB09
4J040NA19
4J040PA20
4J040PA30
4J040PA42
4J100AL04Q
4J100AL05Q
4J100AL08P
4J100BA02P
4J100BC03P
4J100BC43P
4J100CA01
4J100CA04
4J100CA27
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA06
4J100FA19
4J100FA35
4J100GA22
4J100GC07
4J100GC26
4J100JA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新たに、高分子分野においても分子スイッチとして利用可能な光異性化基を有する(メタ)アクリル化合物、ポリ(メタ)アクリル化合物、及び、(メタ)アクリル系接着剤を提供する。
【解決手段】光異性化基を有する(メタ)アクリル化合物は、式1又は式2で表される。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1又は式2で表される、
【化1】

(式1及び式2中、Rは水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基又はフェニル基、Rは水素、メトキシ基又はシアノ基、Rは炭素数1~20のアルキル基又はフェニル基、Rは水素又はメチル基、nは1~20の整数を表す。)
ことを特徴とする光異性化基を有する(メタ)アクリル化合物。
【請求項2】
式11又は式12で表される、
【化2】

(式11及び式12中、Rは水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基又はフェニル基、Rは水素、メトキシ基又はシアノ基、Rは炭素数1~20のアルキル基又はフェニル基、mは正の実数、nは1~20の整数を表す。)
ことを特徴とする光異性化基を有するポリ(メタ)アクリル化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の(メタ)アクリル化合物又は請求項2に記載のポリ(メタ)アクリル化合物を含有する、
ことを特徴とする(メタ)アクリル系接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光異性化基を有する(メタ)アクリル化合物、ポリ(メタ)アクリル化合物、及び、(メタ)アクリル系接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
光可逆的に異性化する分子スイッチは小さな構造とシンプルな動きから分子マシンとして広く利用されている。分子スイッチは、外部刺激によって2つの状態を可逆的に変更しながら機能性のある応答を行う。分子スイッチに組み込まれる光異性化基として、アゾベンゼンが広く知られている。紫外線或いは可視光線の照射により、アゾベンゼンユニットがシス体・トランス体に異性化し、分子構造が大きく変化する。
【0003】
アゾベンゼンのほか、光異性化基として、インダン骨格の二量体をユニットとするスティッフスチルベンやヒンダードスティッフスチルベンなどが知られている。また、分子スイッチの高分子分野への応用も検討されており、例えば、高分子主鎖にヒンダードスティッフスチルベンを有する高分子化合物が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】今任景一、“熱安定型分子マシンの開発とゲルアクチュエーターへの応用”、[online]、令和3年9月30日、公益財団法人 矢崎科学技術振興記念財団、[令和4年11月28日検索]、インターネット、<URL:https://www.yazaki-found.jp/search/recipient1165.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1など、高分子分野においても光異性化可能な分子スイッチの応用が検討されているが、様々な高分子分野で求められる要求に対応できるよう、更なる分子スイッチを備えた高分子化合物の開発が臨まれる。
【0006】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、新たに、高分子分野においても分子スイッチとして利用可能な光異性化基を有する(メタ)アクリル化合物、ポリ(メタ)アクリル化合物、及び、(メタ)アクリル系接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点に係る光異性化基を有する(メタ)アクリル化合物は、
式1又は式2で表される、
【化1】

(式1及び式2中、Rは水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基又はフェニル基、Rは水素、メトキシ基又はシアノ基、Rは炭素数1~20のアルキル基又はフェニル基、Rは水素又はメチル基、nは1~20の整数を表す。)
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の観点に係る光異性化基を有するポリ(メタ)アクリル化合物は、
式11又は式12で表される、
【化2】

(式11及び式12中、Rは水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基又はフェニル基、Rは水素、メトキシ基又はシアノ基、Rは炭素数1~20のアルキル基又はフェニル基、mは正の実数、nは1~20の整数を表す。)
ことを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の観点に係る(メタ)アクリル系接着剤は、
本発明の第1の観点に係る(メタ)アクリル化合物又は本発明の第2の観点に係るポリ(メタ)アクリル化合物を含有する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新たに、高分子分野においても分子スイッチとして利用可能な光異性化基を有する(メタ)アクリル化合物、ポリ(メタ)アクリル化合物、及び、(メタ)アクリル系接着剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】化合物M1のH NMRスペクトルを示すグラフである。
図2】化合物M2のH NMRスペクトルを示すグラフである。
図3】化合物M3のH NMRスペクトルを示すグラフである。
図4】化合物M4のH NMRスペクトルを示すグラフである。
図5】化合物M5のH NMRスペクトルを示すグラフである。
図6】化合物M6のH NMRスペクトルを示すグラフである。
図7】化合物P1のH NMRスペクトルを示すグラフである。
図8】化合物P2のH NMRスペクトルを示すグラフである。
図9】化合物P3のH NMRスペクトルを示すグラフである。
図10】化合物P4のH NMRスペクトルを示すグラフである。
図11】化合物P5のH NMRスペクトルを示すグラフである。
図12】化合物P6のH NMRスペクトルを示すグラフである。
図13】化合物P7のH NMRスペクトルを示すグラフである。
図14図14(A)、(B)は、実験1において、化合物P1の溶液に300nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図15図15(A)、(B)は、実験1において、化合物P1の溶液に405nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図16図16(A)、(B)は、実験1において、化合物P1の溶液に365nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図17図17(A)、(B)は、実験1において、化合物P1の溶液に385nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図18図18(A)、(B)は、実験2において、P1薄膜10に300nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図19図19(A)、(B)は、実験2において、P1薄膜10に405nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図20図20(A)、(B)は、実験2において、P1薄膜10に365nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図21図21(A)、(B)は、実験2において、P1薄膜10に385nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図22図22(A)、(B)は、実験3において、P1薄膜20に300nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図23図23(A)、(B)は、実験3において、P1薄膜20に405nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図24図24(A)、(B)は、実験3において、P1薄膜20に365nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図25図25(A)、(B)は、実験3において、P1薄膜20に385nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図26図26(A)、(B)は、実験3において、P3薄膜20に365nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図27図27(A)、(B)は、実験3において、P3薄膜20に405nmの光を照射した際の吸光度及びモル分率を示すグラフである。
図28図28(A)~(D)は、実験4において、それぞれ化合物P1、P2、P3、P6のDSC測定結果を示すグラフである。
図29図29(A)、(B)は、実験5において、それぞれ最大応力、破断時変位を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施の形態に係る光異性化基を有する(メタ)アクリル化合物は、式1又は式2で表される。
【0013】
【化3】
【0014】
式1及び式2中、Rは水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基又はフェニル基を表す。また、Rは水素、メトキシ基又はシアノ基を表す。また、Rはメチル基、t-ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基等の炭素数1~20のアルキル基又はフェニル基を表す。また、Rは水素又はメチル基を表す。また、nは1~20の整数を表す。
【0015】
また、光異性化基を有するポリ(メタ)アクリル化合物は、式11又は式12で表される。
【0016】
【化4】
【0017】
式11及び式12中、R、R、R、nは、上記式1及び式2とそれぞれ同義であり、mは正の実数である。式11及び式12で表されるポリ(メタ)アクリル化合物の数平均分子量(M)は例えば4000~15000であり、分子量分布(M/M)は例えば1~1.5である。
【0018】
式1及び式2で表される(メタ)アクリル化合物は、下記の実施例を参照して合成することができる。また、式11及び式12で表されるポリ(メタ)アクリル化合物は、式1及び式2で表される(メタ)アクリル化合物を用いて、下記の実施例を参照して合成することができる。
【0019】
ポリ(メタ)アクリル化合物は、光異性化基として、インダン骨格のサブユニットが二重結合で結合した二量体ユニットを有している。二量体ユニットを有していることにより、ポリ(メタ)アクリル化合物は、特定の波長の光を照射することで異性化する。
【0020】
具体的には、式11で表される化合物を例に説明すると、特定の波長の光照射を受けて式11の状態(E体)から式11’の状態(Z体)に異性化する。また、特定の波長の光照射を受けて、式11’の状態から、式11の状態に光異性化する。なお、式11で表されるポリ(メタ)アクリル化合物は、式11の状態(E体)では流動性がない状態(固体状)、式11’の状態(Z体)では流動性がある状態(液状)になる。したがって、光照射によって、固体状から液状へ、又は、液状から固体状へ可逆的に状態が変化する。このE体からZ体への異性化は、例えば、300~370nmの波長の光照射により進行する。また、Z体からE体への異性化は、例えば、380~410nmの波長の光照射により進行する。
【0021】
【化5】
【0022】
また、ポリ(メタ)アクリル化合物は、式11及び式12中の置換基(式11及び式12中のR、R、R)、アルキル鎖の炭素数(式11及び式12中のn)の選択により、ガラス転移温度を変えることができ、常温付近に設定することもできる。ポリ(メタ)アクリル化合物は、ガラス転移温度以上で上記の特定の波長の光照射によってE体からZ体へ、又は、Z体からE体へと異性化するので、ガラス転移温度が常温付近であることにより、加熱を行わなくても光照射のみで異性化させることが可能になる。
【0023】
ポリ(メタ)アクリル化合物は、光異性化基である二量体ユニットの二重結合が高分子主鎖中に存在せず、側鎖に存在している。二量体ユニットの二重結合が高分子主鎖中にある場合に比べ、サブユニットの回転が阻害されにくく、異性化しやすいと考えられる。また、この二量体ユニットは、熱安定と言われていることから、熱による不測の異性化の発生も生じにくいと考えられる。
【0024】
(メタ)アクリル系接着剤は、上述した(メタ)アクリル化合物又はポリ(メタ)アクリル化合物を含有する。(メタ)アクリル系接着剤は、対象物同士を接着しているときはE体であり、対象物同士を剥がすときには、光照射を受けてZ体へ異性化し、接着力が弱まる。
【0025】
あらゆる分野において、金属やプラスチック、セラミックス、複合材料などの特性が異なる材料を適材適所に組み合わせて性能向上を図った材料や部材が用いられる等、所謂マルチマテリアル化が進んでいる。一方で、資源の有効利用の観点から、マルチマテリアル化された材料や部材についても、不要になった後に解体し、再利用することが望まれる。
【0026】
マルチマテリアル化においては接着接合が主要な手段となるが、アクリル系接着剤では、光照射によって、接着力が弱まるので、マルチマテリアル化された材料や部材を解体して再利用しやすくなる。すなわち、(メタ)アクリル系接着剤は、マルチマテリアル化における光解体性接着剤としての利用が期待できる。
【0027】
(メタ)アクリル系接着剤は、上述した(メタ)アクリル化合物、ポリ(メタ)アクリル化合物のほか、機能を損なわない限り、フィラー、増量剤、物性調整剤、着色剤、難燃剤、酸化防止剤、老化防止剤、香料、顔料、染料等、他の成分を含有していてもよい。
【実施例0028】
下記スキーム1に示すように、段階的に化合物M1を合成した。
【0029】
【化6】
【0030】
(化合物2の合成)
窒素雰囲気下で化合物1(6.16g,17.7mmol)とメチルマグネシウムヨージド(1Mジエチルエーテル溶液,17.7mL,7.7mmol)のテトラヒドロフラン(40mL)溶液を調製した。この溶液を160℃で2時間加熱した。このとき、反応容器は密閉せずに溶媒を揮発させた。室温に冷却して飽和NHCl水溶液(50mL)を加え、酢酸エチル(50mL)を用い、3回分液して有機成分を抽出した。有機層を飽和食塩水(100mL)で分液して洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)により精製して、化合物2を得た(収量2.40g、収率41%)。
【0031】
(化合物3の合成)
二口フラスコに炭酸カリウム(2.98g,21.5mmol)を加え、窒素置換した。化合物2(2.40g,7.18mmol)のアセトン(80mL)溶液と6-ブロモ-1-ヘキサノール(1.88mL,14.4mmol)を加えて、50℃で2日間撹拌した。室温に冷却して酢酸エチル(200mL)を加えて、超純水(100mL)で3回、飽和食塩水で1回分液した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=6/4)と分取ゲル浸透クロマトグラフィー(溶離液:クロロホルム)により精製して、化合物3を得た(収量2.36g,収率76%)。
【0032】
(化合物M1の合成)
窒素雰囲気下で化合物3(2.36g,5.43mmol)とトリエチルアミン(1.51mL,10.9mmol)のジクロロメタン(12mL)溶液を調製した。氷浴中、窒素雰囲気下でアクリロイルクロリド(0.88mL,10.9mmol)のジクロロメタン(8mL)溶液をゆっくりと滴下した。そのまま30分間撹拌した後、室温に戻して24時間撹拌した。反応溶液を濃縮した後、酢酸エチル(100mL)を加えた。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100mL)と飽和食塩水(100mL)で分液し、無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=9/1)により精製して、化合物M1を得た(収量2.10g,収率74%)。
得られた化合物M1のH NMRスペクトルを図1に示す。
【0033】
下記スキーム2に示すように、段階的に化合物M2を合成した。なお、化合物2は上記スキーム1に沿って合成し、用いた。
【0034】
【化7】
【0035】
(化合物4の合成)
二口フラスコに炭酸カリウム(1.11g,8.06mmol)を加え、窒素置換した。化合物2(898mg,2.69mmol)のアセトン(40mL)溶液と12-ブロモ-1-ドデカノール(1.43g,5.37mmol)を加えて、50℃で2日間撹拌した。室温に冷却して酢酸エチル(70mL)を加えて、飽和食塩水で2回分液した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=7/3)と分取ゲル浸透クロマトグラフィー(溶離液:クロロホルム)により精製して、化合物4を得た(収量917mg,収率66%)。
【0036】
(化合物M2の合成)
窒素雰囲気下で化合物4(917mg,1.77mmol)とトリエチルアミン(0.49mL,3.54mmol)のジクロロメタン(8mL)溶液を調製した。氷浴中、窒素雰囲気下でアクリロイルクロリド(286μL,3.54mmol)のジクロロメタン(12mL)溶液をゆっくりと滴下した。そのまま30分間撹拌した後、室温に戻して24時間撹拌した。反応溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と飽和食塩水で分液し、有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)により精製して、化合物M2を得た(収量843mg,収率83%)。
得られた化合物M2のH NMRスペクトルを図2に示す。
【0037】
下記スキーム3に示すように、段階的に化合物M3を合成した。
【0038】
【化8】
【0039】
(化合物5の合成)
窒素雰囲気下で化合物1(3.33g,9.56mmol)とメチルマグネシウムヨージド(1Mジエチルエーテル溶液,57.3mL,57.3mmol)のテトラヒドロフラン(22mL)溶液を調製した。この溶液を160℃で6時間加熱した。このとき、反応容器は密閉せずに溶媒を揮発させた。室温に冷却して飽和塩化アンモニウム水溶液(100mL)を加え、酢酸エチル(100mL)を用いて2回分液して有機成分を抽出した。有機層を飽和食塩水(100mL)で2回分液して洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=49/1-4/1)により精製して、化合物5を得た(収量1.20g,収率39%)。
【0040】
(化合物6の合成)
二口フラスコに炭酸カリウム(1.85g,13.4mmol)を加え、窒素置換した。化合物5(1.43g,4.47mmol)のアセトン(43mL)溶液と1-ブロモヘキサン(0.63mL,4.47mmol)を加えて、50℃で40.5時間撹拌した。室温に冷却して酢酸エチル(100mL)を加えて、超純水(100mL)で2回、飽和食塩水で1回分液した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=19/1-3/2)により精製して、化合物6を得た(収量860mg,収率48%)。
【0041】
(化合物7の合成)
二口フラスコに炭酸カリウム(707mg,5.12mmol)を加え、窒素置換した。化合物6(690mg,1.71mmol)のアセトン(21mL)溶液と6-ブロモ-1-ヘキサノール(0.45mL,3.41mmol)を加えて、50℃で50時間撹拌した。室温に冷却して酢酸エチルを加えて、超純水と飽和食塩水で分液した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=49/1-4/1)により精製して、化合物7を得た(収量760mg,収率88%)。
【0042】
(化合物M3の合成)
窒素雰囲気下で化合物7(1.41g,2.79mmol)とトリエチルアミン(0.78mL,5.59mmol)のジクロロメタン(9mL)溶液を調製した。氷浴中、窒素雰囲気下でアクリロイルクロリド(0.45mL,5.59mmol)のジクロロメタン(5mL)溶液をゆっくりと滴下した。そのまま30分間撹拌した後、室温に戻して19時間撹拌した。反応溶液を濃縮した後、酢酸エチルを加えた。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と飽和食塩水で分液し、無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/ジクロロメタン=3/1-0/1)により精製して、化合物M3を得た(収量760mg,収率49%)。
得られた化合物M3のH NMRスペクトルを図3に示す。
【0043】
下記スキーム4に示すように、段階的に化合物M4を合成した。
【0044】
【化9】
【0045】
(化合物12の合成)
窒素雰囲気下で化合物11(1.5g,5.13mmol)とメチルマグネシウムヨージド(1Mジエチルエーテル溶液,30.8mL,30.8mmol)を混合し、160℃で3.5時間加熱した。このとき、反応容器は密閉せずに溶媒を揮発させた。室温に冷却して飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルを用いて分液して有機成分を抽出した。有機層を飽和食塩水で分液して洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=49/1-0/1)により精製して、化合物12を得た(収量990mg,収率73%)。
【0046】
(化合物13の合成)
二口フラスコに化合物12(1.64g,6,21mmol)と炭酸カリウム(2.57g,18.6mmol)を加え、窒素置換した。N,N-ジメチルホルムアミド(82mL)を加えて、30℃で1時間撹拌した。1-ブロモヘキサン(0.87mL,6.20mmol)を加えて、110℃で13時間撹拌した。室温に冷却して酢酸エチルと超純水、飽和食塩水を加えて分液した。有機層を濃縮した後、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=49/1-4/1)により精製して、化合物13を得た(収量830mg,収率38%)。
【0047】
(化合物14の合成)
化合物13(400mg,1.15mmol)と炭酸カリウム(476mg,3.44mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド(30mL)溶液を調製して、30℃で1時間撹拌した。6-ブロモ-1-ヘキサノール(0.30mL,2.30mmol)を加えて、110℃で18時間撹拌した。室温に冷却して酢酸エチルと超純水、飽和食塩水を加えて分液した。有機層を濃縮した後、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=19/1-3/2)により精製して、化合物14を得た(収量400mg,収率78%)。
【0048】
(化合物M4の合成)
窒素雰囲気下で化合物14(400mg,0.892mmol)とトリエチルアミン(0.25mL,1.78mmol)のジクロロメタン(4mL)溶液を調製した。氷浴中、窒素雰囲気下でアクリロイルクロイド(0.14mL,1.78mmol)のジクロロメタン(2mL)溶液をゆっくりと滴下した。そのまま30分間撹拌した後、室温に戻して25.5時間撹拌した。酢酸エチルと飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水を加えて分液し、有機層を濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=49/1-4/1)により精製して、化合物M4を得た(収量300mg,収率67%)。
得られた化合物M4のH NMRスペクトルを図4に示す。
【0049】
下記スキーム5に示すように、段階的に化合物M5を合成した。
【0050】
【化10】
【0051】
(化合物8の合成)
二口フラスコに炭酸カリウム(408mg,6.06mmol)を加え、窒素置換した。化合物5(971mg,3.03mmol)のアセトン(30mL)溶液と1-ブロモヘキサデカン(0.93mL,3.03mmol)を加えて、60℃で59時間攪拌した。室温に冷却して酢酸エチル(100mL)を加えて、超純水(100mL)で2回分液した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=9/1)により精製して、化合物8を得た(収量780mg,収率47%)。
【0052】
(化合物9の合成)
二口フラスコに炭酸カリウム(334mg,2.42mmol)を加え、窒素置換した。化合物8(660mg,1.21mmol)のアセトン(20mL)溶液と6-ブロモ-1-ヘキサノール(0.32mL,2.42mmol)を加えて、50℃で66時間攪拌した。室温に冷却して酢酸エチル(10mL)を加えて、超純水(100mL)で2回分液した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=6/4)により精製して、化合物9を得た(収量675mg,収率86%)。
【0053】
(化合物M5の合成)
窒素雰囲気下で化合物9(650mg,1.05mmol)とトリエチルアミン(0.300mL,2.09mmol)のジクロロメタン(2.5mL)溶液を調製した。氷浴中、窒素雰囲気下で塩化アクリロイル(0.200mL,2.09mmol)のジクロロメタン(0.3mL)溶液をゆっくりと滴下した。そのまま30分間撹拌した後、室温に戻して24時間撹拌した。反応溶液を濃縮した後、酢酸エチル(100mL)を加えた。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)と飽和食塩水(50mL)で分液し、無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=9/1)により精製して、化合物M5を得た(収量390mg,収率53%)。
得られた化合物M5のH NMRスペクトルを図5に示す。
【0054】
下記スキーム6に示すように、段階的に化合物M6を合成した。
【0055】
【化11】
【0056】
(化合物10の合成)
窒素雰囲気下で化合物1(5.00g,14.6mmol)とヨウ化メチルマグネシウム(1Mジエチルエーテル溶液,53.0mL,53.0mmol)のテトラヒドロフラン(10mL)溶液を調製した。この溶液を160℃で4時間加熱した。このとき、反応容器は密閉せずに溶媒を揮発させた。室温に冷却して飽和塩化アンモニウム水溶液(100mL)を加え、酢酸エチル(100mL)を用いて2回分液して有機成分を抽出した。有機層を飽和食塩水で分液して洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=49/1-4/1)により精製して、化合物10を得た(収量2.47g,収率54%)。
【0057】
(化合物11の合成)
二口フラスコに炭酸カリウム(1.73g,21.5mmol)を加え、窒素置換した。化合物10(2.00g,6.24mmol)のアセトン(30mL)溶液と1-ブロモヘキサデカン(1.90mL,6.24mmol)を加えて、60℃で52時間攪拌した。室温に冷却して酢酸エチル(150mL)を加えて、超純水(100mL)で2回分液した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=9/1)により精製して、化合物11を得た(収量1.48g,収率44%)。
【0058】
(化合物12の合成)
二口フラスコに炭酸カリウム(422mg,2.97mmol)を加え、窒素置換した。化合物11(810mg,1.49mmol)のアセトン(24mL)溶液と6-ブロモ-1-ヘキサノール(0.40mL,2.97mmol)を加えて、60℃で2日間攪拌した。室温に冷却して酢酸エチル(100mL)を加えて、超純水(100mL)で2回と飽和食塩水(100mL)で1回分液した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=9/1)により精製して、化合物12を得た(収量700mg,収率73%)。
【0059】
(化合物M6の合成)
窒素雰囲気下で化合物12(667mg,1.03mmol)とトリエチルアミン(0.290mL,2.07mmol)のジクロロメタン(3.0mL)溶液を調製した。氷浴中、窒素雰囲気下で塩化アクリロイル(0.167mL,2.07mmol)のジクロロメタン(2.0mL)溶液をゆっくりと滴下した。そのまま30分間撹拌した後、室温に戻して24時間撹拌した。反応溶液を濃縮した後、酢酸エチル(100mL)を加えた。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)と飽和食塩水(50mL)で分液し、無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。最後にシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=9/1)により精製して、化合物M6を得た(収量612mg,収率85%)。
得られた化合物M6のH NMRスペクトルを図6に示す。
【0060】
(化合物P1の合成)
下記スキーム7に示すようにして、化合物P1を合成した。
【0061】
【化13】
【0062】
銅線(5mm,2本)を硫酸で洗浄し、メタノールで置換した後、乾燥させた。化合物M1(1.26g,2.58mmol)のジメチルスルホキシド(0.7mL)とテトラヒドロフラン(1.4mL)の混合溶液を調製し、2-ブロモイソ酪酸エチル(8.5μL,57.1μmol)と銅線を加えて、凍結脱気を2回行った。トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(62.1μL,229μmol)のジメチルスルホキシド(0.7mL)溶液も別に調製して、凍結脱気を2回行った後、窒素雰囲気下で化合物M1の溶液に加えて、凍結脱気を3回行った。室温で70時間撹拌した後、空気中に暴露し、ジクロロメタンを加えて、中性アルミナで吸引濾過した。濾液を濃縮して、過剰量のヘキサンを用いて再沈殿を3回行い、減圧乾燥して、化合物P1を得た(収量310mg,収率25%,M=13500,M/M=1.35)。
得られた化合物P1のH NMRスペクトルを図7に示す。
【0063】
(化合物P2の合成)
下記スキーム8に示すようにして、化合物P2を合成した。
【0064】
【化14】
【0065】
銅線(5mm,2本)を硫酸で洗浄し、メタノールで置換した後、乾燥させた。化合物M2(486mg,848μmol)のテトラヒドロフラン(1.35mL)溶液を調製し、2-ブロモイソ酪酸エチル(4.35μL,29.2μmol)と銅線を加えて、凍結脱気を4回行った。窒素雰囲気下でトリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(31.7μL,117μmol)を加えて、室温で1日撹拌した。空気中に暴露し、ジクロロメタンを加えて、中性アルミナで吸引濾過した。過剰量のアセトニトリル/水=8/2の混合溶液を用いて、氷浴中で濾液の再沈殿を2回行い、減圧乾燥して、化合物P2を得た(収量109mg,収率22%,M=7200,M/M=1.25)。
得られた化合物P2のH NMRスペクトルを図8に示す。
【0066】
(化合物P3の合成)
下記スキーム9に示すようにして、化合物P3を合成した。
【0067】
【化15】
【0068】
銅線(5mm,2本)を硫酸で洗浄し、メタノールで置換した後、乾燥させた。窒素雰囲気下で銅線と化合物M3(760mg,1.36mmol)のテトラヒドロフラン(1.9mL)溶液、2-ブロモイソ酪酸エチル(6.1μL,41.2μmol)、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(44.7μL,165μmol)を混合し、凍結脱気を行った。室温で47時間撹拌した後、空気中に暴露し、ジクロロメタンを加えて、中性アルミナで吸引濾過した。濾液を濃縮して、過剰量のアセトニトリルを用いて再沈殿を行い、減圧乾燥して、化合物P3を得た(収量450mg,収率59%,M=9200,M/M=1.29)。
得られた化合物P3のH NMRスペクトルを図9に示す。
【0069】
(化合物P4の合成)
下記スキーム10に示すようにして、化合物P4を合成した。
【0070】
【化16】
【0071】
銅線(5mm,2本)を硫酸で洗浄し、メタノールで置換した後、乾燥させた。窒素雰囲気下で銅線と化合物M4(280mg,0.557mmol)のアニソール(1mL)溶液、2-ブロモイソ酪酸エチル(2.1μL,13.9μmol)、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(15.1μL,55.7μmol)を混合し、凍結脱気を行った。70℃で43時間撹拌した後、100℃で3.5時間撹拌した。空気中に暴露し、ジクロロメタンを加えて、中性アルミナで吸引濾過した。濾液を濃縮して、過剰量のアセトニトリル/水=9/1の混合溶液を用いて再沈殿を行い、減圧乾燥して、化合物P4を得た(収量16mg,収率6%,M=4600,M/M=1.32)。
得られた化合物P4のH NMRスペクトルを図10に示す。
【0072】
(化合物P5の合成)
下記スキーム11に示すようにして、化合物P5を合成した。
【0073】
【化17】
【0074】
銅線(5mm,2本)を硫酸で洗浄し、メタノールで置換した後、乾燥させた。化合物M1(80mg,0.164mmol)のテトラヒドロフラン溶液を調製し、アクリル酸 2-エチルヘキシル(0.31mL,1.47mmol)と2-ブロモイソ酪酸エチル(3.5μL,23.4μmol)、銅線を加えて、凍結脱気を行った。トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(25.4μL,93.6μmol)のテトラヒドロフラン溶液も別に調製して、凍結脱気を行った後、窒素雰囲気下で化合物M1の溶液に加えて、凍結脱気を行った。テトラヒドロフランは合計1mL使用した。室温で22.5時間撹拌した後、空気中に暴露し、ジクロロメタンを加えて、中性アルミナで吸引濾過した。濾液を濃縮して、過剰量のヘキサンを用いて再沈殿を行い、減圧乾燥して、化合物P5を得た(M=7700,M/M=1.22)。
得られた化合物P5のH NMRスペクトルを図11に示す。
【0075】
(化合物P6の合成)
下記スキーム12に示すようにして、化合物P6を合成した。
【0076】
【化18】
【0077】
銅線(5mm,2本)を硫酸で洗浄し、メタノールで置換した後、乾燥させた。化合物M5(390mg,558μmol)のテトラヒドロフラン(1.2mL)の溶液を調製し、2-ブロモイソ酪酸エチル(2.5μL,16.9μmol)と銅線、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(18.0μL,67.6μmol)を加えて、凍結脱気を4回行った。室温で2日間撹拌した後、空気中に暴露し、ジクロロメタンを加えて、中性アルミナで吸引濾過した。濾液を濃縮して、過剰量の冷アセトンを用いて再沈殿を2回行い、減圧乾燥して、化合物P6を得た(収量158mg,収率41%,M=12400,M/M=1.20)。
得られた化合物P6のH NMRスペクトルを図12に示す。
【0078】
(化合物P7の合成)
下記スキーム13に示すようにして、化合物P7を合成した。
【0079】
【化19】
【0080】
銅線(5mm,2本)を硫酸で洗浄し、メタノールで置換した後、乾燥させた。化合物M6(53mg,75.8μmol)とアクリル酸ドコシル(245mg,644μmol)のアニソール(0.7mL)溶液を調製し、2-ブロモイソ酪酸エチル(1.0μL,5.64μmol)と銅線、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(7.0μL,28.6μmol)を加えて、凍結脱気を4回行った。45℃で36時間撹拌した後、空気中に暴露し、トルエンを加えて、中性アルミナで吸引濾過した。濾液を濃縮して、過剰量のメタノールを用いて再沈殿を行い、得られた粉体をアセトンで洗浄した後、減圧乾燥して、化合物P7を得た(収量78mg,収率26%,M=33000,M/M=1.30)。
得られた化合物P7のH NMRスペクトルを図13に示す。
【0081】
(実験1)溶液での光異性化の検証
化合物P1をテトラヒドロフランに溶解させた溶液(3.28×10-5M)を調製した。この溶液に300nmの波長の光を照射した。そして、吸光度を測定し、Z体及びE体のモル分率を求めることで、E体からZ体への異性化を評価した。吸光度及びモル分率を図14(A)、(B)にそれぞれ示す。波長300nmの光照射に伴い、化合物P1はE体からZ体への異性化が進行していることがわかる。
【0082】
次いで、300nmの光照射後の溶液に対して波長405nmの光を照射した。そして、吸光度を測定することで、Z体及びE体のモル分率を求めることで、Z体からE体への光異性化を評価した。吸光度及びモル分率を図15(A)、(B)にそれぞれ示す。波長405nmの光照射に伴い、化合物P1はZ体からE体への異性化が進行していることがわかる。
【0083】
また、化合物P1をテトラヒドロフランに溶解させた溶液(3.25×10-5M)について、照射する光の波長を上記の300nm、405nmをそれぞれ365nm、385nmに代えて、上記と同様に行った。
【0084】
365nmの光を照射したときの吸光度及びモル分率を図16(A)、(B)に、また、385nmの光を照射したときの吸光度及びモル分率を図17(A)、(B)にそれぞれ示す。化合物P1は、365nmの光照射によりE体からZ体へ、385nmの光照射によりZ体からE体への異性化が進行している。
【0085】
(実験2)薄膜での光異性化の検証1
化合物P1をテトラヒドロフランに溶解させた溶液(10mg/mL)を調製し、石英基板上にスピンコート法により化合物P1の薄膜(以下、P1薄膜10)を製造した。
【0086】
P1薄膜10について、実験1と同様に、波長300nmの光を照射した後、405nmの光を照射した。300nmの光を照射したときの吸光度及びモル分率を図18(A)、(B)に、また、405nmの光を照射したときの吸光度及びモル分率を図19(A)、(B)にそれぞれ示す。薄膜の場合、溶液の場合ほどではないものの、化合物P1は、300nmの光照射によりE体からZ体への異性化、405nmの光照射によりZ体からE体への異性化が進行している。
【0087】
また、照射する光を上記の300nm、405nmをそれぞれ365nm、385nmに代えて、上記と同様に行った。
【0088】
365nmの光を照射したときの吸光度及びモル分率を図20(A)、(B)に、また、385nmの光を照射したときの吸光度及びモル分率を図21(A)、(B)にそれぞれ示す。化合物P1は365nmの光照射によりE体からZ体への異性化、385nmの光照射によりZ体からE体への異性化が進行している。
【0089】
(実験3)薄膜での光異性化の検証2
化合物P1をテトラヒドロフランに溶解させた溶液(20mg/mL)を調製し、石英基板上にスピンコート法により化合物P1の薄膜(以下、P1薄膜20)を製造した。
【0090】
P1薄膜20について、実験1と同様に、波長300nmの光を照射した後、405nmの光を照射した。300nmの光を照射したときの吸光度及びモル分率を図22(A)、(B)に、また、405nmの光を照射したときの吸光度及びモル分率を図23(A)、(B)にそれぞれ示す。化合物P1は300nmの光照射によりE体からZ体への異性化、405nmの光照射によりZ体からE体への異性化が進行している。
【0091】
照射する光を上記の300nm、405nmから365nm、385nmにそれぞれ変えて、上記と同様に行った。365nmの光を照射したときの吸光度及びモル分率を図24(A)、(B)に、また、385nmの光を照射したときの吸光度及びモル分率を図25(A)、(B)にそれぞれ示す。化合物P1は365nmの光照射によりE体からZ体への異性化、385nmの光照射によりZ体からE体への異性化が進行している。
【0092】
化合物P3をテトラヒドロフランに溶解させた溶液(20mg/mL)を調製し、石英基板上にスピンコート法により化合物P3の薄膜(以下、P3薄膜20)を製造した。
【0093】
P3薄膜20について、実験1と同様に、波長365nmの光を照射した後、405nmの光を照射した。365nmの光を照射したときの吸光度及びモル分率を図26(A)、(B)に、また、405nmの光を照射したときの吸光度及びモル分率を図27(A)、(B)にそれぞれ示す。化合物P3は、365nmの光照射によりE体からZ体への異性化、405nmの光照射によりZ体からE体への異性化が進行している。
【0094】
(実験4)ガラス転移温度の測定
化合物P1(E体)について、示差走査熱量測定(DSC)を行い、ガラス転移温度(T)を求めた。
【0095】
次に、化合物P1の合成時における溶媒等の残留物を除去すべく、化合物P1(E体)をテトラヒドロフランに溶解させ(5×10-5M)、ヘキサンで沈殿させた。そして、減圧乾燥を行って得られた化合物P1(E体)について、DSC測定を行った。
【0096】
更に、化合物P1(E体)をテトラヒドロフランに溶解させた溶液に対し、波長300nmの光を4分間照射し、Z体に異性化させた。その後、ヘキサンで沈殿させ、減圧乾燥を行って得られた化合物P1(Z体)についても、DSC測定を行った。
【0097】
その結果を図28(A)に示す。化合物P1のE体のTgは52℃であり、Z体のTgは55℃に変化していた。
【0098】
また、化合物P1に代えて化合物P2(E体)を用い、上記と同様にしてDSC測定を行った。その結果を図28(B)に示す。化合物P2のE体のTgは32℃であり、Z体のTgは11℃に変化していた。
【0099】
また、化合物P1に代えて化合物P3(E体)を用い、照射する光を365nm、15秒間とした以外、上記と同様にしてDSC測定を行った。その結果を図28(C)に示す。化合物P3のE体のTgは31℃であり、Z体のTgは26℃に変化していた。
【0100】
また、化合物P1に代えて化合物P6(E体)を用い、上記と同様にしてDSC測定を行った。その結果を図28(D)に示す。化合物P6のE体のTgは-4℃であり、Z体のTgは-5℃に変化していた。
【0101】
(実験5)接着性の評価
ピラニア処理した後にHMDS(ヘキサメチルジシラザン)処理した疎水性石英ガラス基板(40×10mm)を2枚用意した。一方の疎水性石英ガラス基板の端から7×10mmの範囲に化合物P6の粉末を2mg置いた。
そして、オーブンに入れて、82℃で1時間加熱して溶融させた。
化合物P2の上にもう1枚の疎水性石英ガラス基板を置いた。そして、50gの錘を用いて疎水性石英ガラス基板同士(試験体)を加圧した状態でオーブンに入れて再度1時間(82℃)で加熱圧着させた。
オーブンから試験体を取り出し、錘を乗せたまま室温で1時間冷却し、2枚の基板を接合した。
【0102】
この試験片について、500Nのロードセル(SM-500N-168、島津製作所製)および保持装置(SCG-1kNA、島津製作所製)を備えた万能試験機(EZ-LX、島津製作所製)を用い、ひずみ速度0.5mm/min(室温)にて、疎水性石英ガラス基板同士を引っ張り、最大応力と破断時変位の平均値と標準偏差を算出した(n=5)。
【0103】
また、試験片に波長300nmの光(UV光)を照射した。そして、UV光照射後の試験片について、上記と同様にして、最大応力と破断時変位の平均値と標準偏差を算出した(n=5)。
【0104】
最大応力の結果を図29(A)に、破断変位の結果を図29(B)に示す。UV光を照射することで、最大応力、破断変位が低下している。即ち、化合物P2がE体からZ体への異性化がおこることに伴って、接着力が低下したことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る光異性化基を有する(メタ)アクリル化合物及びポリ(メタ)アクリル化合物は、分子スイッチとしての利用が期待される。また、(メタ)アクリル系接着剤は、マルチマテリアル化における光解体性接着剤としての利用が期待される。
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