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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024079950
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】発電装置
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/18 20060101AFI20240606BHJP
   H02K 35/06 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
H02N2/18
H02K35/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192673
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健司
【テーマコード(参考)】
5H681
【Fターム(参考)】
5H681BB08
5H681GG10
(57)【要約】
【課題】効率的に発電を行う。
【解決手段】発電装置は、中心軸に対して交差する方向に外力を受けて振動する振動柱と、前記振動柱の振動により前記振動の振幅方向に沿って伸縮することで透磁率を変化させる磁歪材料を少なくとも一部に含む磁心と、前記磁心に巻回され、前記磁心における前記透磁率の変化に基づく磁束密度の変化によって引き起こされる電磁誘導により電力を発生させるコイルと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸に対して交差する方向に外力を受けて振動する振動柱と、
前記振動柱の振動により前記振動の振幅方向に沿って伸縮することで透磁率を変化させる磁歪材料を少なくとも一部に含む磁心と、
前記磁心に巻回され、前記磁心における前記透磁率の変化に基づく磁束密度の変化によって引き起こされる電磁誘導により電力を発生させるコイルと、
を備える
発電装置。
【請求項2】
磁気飽和した前記磁歪材料の最小透磁率を得るための応力の半分の応力を、前記磁歪材料に印加可能に構成された応力調整機構をさらに備える
請求項1に記載の発電装置。
【請求項3】
中心軸に対して交差する方向に外力を受けて振動する振動柱と、
前記振動柱の振動に起因した応力に応じて透磁率を変化させる磁歪材料を少なくとも一部に含む磁心と、
前記磁心に巻回され、前記磁心の前記透磁率の変化に基づく磁束密度の変化によって引き起こされる電磁誘導により電力を発生させるコイルと、
磁気飽和した前記磁歪材料の最小透磁率を得るための応力の半分の応力を、前記磁歪材料に印加可能に構成された応力調整機構と、
を備える
発電装置。
【請求項4】
前記磁心は、前記振動柱の中心軸を中心として放射状に複数設けられ、
前記複数の磁心のそれぞれは、個別に前記磁歪材料を含んでいる
請求項1又は請求項3に記載の発電装置。
【請求項5】
中心軸に対して交差する方向に外力を受けて振動する振動柱と、
前記振動柱の振動に起因した応力に応じて透磁率を変化させる磁歪材料を少なくとも一部に含む磁心と、
前記磁心に巻回され、前記磁心の前記透磁率の変化に基づく磁束密度の変化によって引き起こされる電磁誘導により電力を発生させるコイルと、
を備え、
前記磁心は、前記振動柱の中心軸を中心として放射状に複数設けられ、
前記複数の磁心のそれぞれは、個別に前記磁歪材料を含んでいる
発電装置。
【請求項6】
前記複数の磁心は、前記振動柱の中心軸を中心として回転対称に設けられている
請求項5に記載の発電装置。
【請求項7】
前記振動柱において外力を受ける側の第1端から支点までの軸方向の長さが、前記支点から第2端までの長さよりも長くなるように、前記振動柱の前記支点を支持する支持部を有し、
前記磁心は、前記振動柱の前記第2端に係合し、前記振動柱が振動したときに、てこの原理により前記磁歪材料を伸縮させるように構成されている
請求項1、請求項3又は請求項5に記載の発電装置。
【請求項8】
前記磁歪材料は、前記第2端が振動時に形成する弧に沿って設けられている
請求項7に記載の発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、風を受けて回転する羽を有しない風力発電装置が開発されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Navkar et al., International Journal of Engineering Sciences & Research Technology, 7(2), 189-192, 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、効率的に発電を行う技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
中心軸に対して交差する方向に外力を受けて振動する振動柱と、
前記振動柱の振動により前記振動の振幅方向に沿って伸縮することで透磁率を変化させる磁歪材料を少なくとも一部に含む磁心と、
前記磁心に巻回され、前記磁心における前記透磁率の変化に基づく磁束密度の変化よって引き起こされる電磁誘導により電力を発生させるコイルと、
を備える
発電装置が提供される。
【0006】
本発明の他の態様によれば、
中心軸に対して交差する方向に外力を受けて振動する振動柱と、
前記振動柱の振動に起因した応力に応じて透磁率を変化させる磁歪材料を少なくとも一部に含む磁心と、
前記磁心に巻回され、前記磁心の前記透磁率の変化に基づく磁束密度の変化によって引き起こされる電磁誘導により電力を発生させるコイルと、
飽和した前記磁歪材料の最大磁束密度を相殺するために最小限必要な応力の半分の応力を、前記磁歪材料に印加可能に構成された応力調整機構と、
を備える
発電装置が提供される。
【0007】
本発明の更に他の態様によれば、
中心軸に対して交差する方向に外力を受けて振動する振動柱と、
前記振動柱の振動に起因した応力に応じて透磁率を変化させる磁歪材料を少なくとも一部に含む磁心と、
前記磁心に巻回され、前記磁心の前記透磁率の変化に基づく磁束密度の変化によって引き起こされる電磁誘導により電力を発生させるコイルと、
を備え、
前記磁心は、前記振動柱の中心軸を中心として放射状に複数設けられ、
前記複数の磁心のそれぞれは、個別に前記磁歪材料を含んでいる
発電装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、効率的に発電を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る発電装置を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る発電装置を示す概略平面図である。
図3図3は、図1の一部拡大図である。
図4A図4Aは、図左側から右側に向けて振動柱が風を受けた場合における発電装置の動作を示す図である。
図4B図4Bは、図右側から左側に向けて振動柱が風を受けた場合における発電装置の動作を示す図である。
図5図5は、本発明の一実施形態の変形例1に係る発電装置を示す概略断面図である。
図6図6は、本発明の一実施形態の変形例2に係る発電装置を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<発明者の得た知見>
まず、発明者の得た知見について説明する。
【0011】
上述の非特許文献1の風力発電装置は、例えば、柱状のマストと、ジャイロ発電機構と、を有している。マストが風を受けて振動したときに、マストの振動を、ジャイロ発電機構により回転運動に変換することで、電力を得ることができる。このような構成により、風力発電装置の製造コストを、従来の羽を有する装置の製造コストよりも削減することができる。
【0012】
しかしながら、ジャイロ発電機構が機械的な回転機構を有しているため、当該回転機構が摩耗して劣化する可能性がある。このため、ジャイロ発電機構において、点検、注油、または消耗部品の交換などのメンテナンスを定期的に行う必要がある。その結果、非特許文献1の風力発電装置では、維持コストが増加する可能性がある。
【0013】
本発明は、発明者等が見出した上記知見に基づくものである。
【0014】
[本発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0015】
<本発明の一実施形態>
(1)発電装置
本発明の一実施形態に係る発電装置10について、図1図3を参照して説明する。なお、図1は、図2におけるX-X’断面を示している。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の発電装置10は、例えば、羽を有することなく、流体としての風または水流による外力を利用して電力を取得する風力発電装置または水力発電装置として構成されている。具体的には、発電装置10は、例えば、振動柱100と、支持部200と、磁心300と、架台390と、コイル400と、整流昇圧回路420と、応力調整機構500と、を備えている。
【0017】
[振動柱]
振動柱100は、例えば、中心軸に対して交差する方向に、流体としての風または水流による外力を受けて振動するよう構成されている。振動柱100は、例えば、鉛直方向に立設されている。
【0018】
振動柱100は、例えば、中心軸に対して対称な形状を有している。具体的には、振動柱100の中心軸に直交する断面の形状は、例えば、円形である。これにより、振動柱100の風下側にカルマン渦を容易に発生させることができる。その結果、振動柱100を効率よく振動させることができる。
【0019】
振動柱100において軸方向の第1端101から支点Fまでの領域が、風を受けるように構成されている。当該第1端101から支点Fまでの領域は、例えば、逆錐台状に構成されている。このような形状により振動柱100の重心を高くすることで、振動柱100が風を受けたときに、振動柱100を容易に傾斜させることができる。
【0020】
なお、振動柱100において軸方向の第1端101から支点Fまでの領域が、水流を受ける場合は、図1全体が上下逆に配置され、当該第1端101から支点Fまでの領域は、例えば、逆錐台状に構成されている。このような形状により振動柱100は容易に傾斜させることができる。
【0021】
一方で、振動柱100において支点Fから第2端102までの領域は、後述の磁心300への応力印加に用いられる。当該支点Fから第2端102までの領域は、第1端101から後述の支点Fまでの領域よりも細くなっている。これにより、振動柱100に対して過剰な負荷が印加されたときに、支点Fから第2端102までの領域が折れることで、振動柱100よりも鉛直下側における後述の磁心300などの構成部材を保護することができる。
【0022】
[支持部]
支持部200は、例えば、振動柱100を鉛直方向に沿って支持するよう構成されている。
【0023】
本実施形態では、支持部200は、例えば、振動柱100において風を受ける側の第1端101から支点Fまでの軸方向の長さが、支点Fから第2端102までの長さよりも長くなるように、振動柱100の支点Fを支持している。振動柱100の第1端101側が風を受けたときに、振動柱100の第2端102側は、支点Fを挟んで振動柱100の第1端101側と反対側に振動する。これにより、「てこの原理」により、磁心300の磁歪材料320に対して応力を印加することができる。
【0024】
具体的な構成としては、支持部200は、例えば、支持箱220と、弾性体240と、を有している。
【0025】
支持箱220は、例えば、挿通孔(符号不図示)を上面(蓋部)に有し、当該挿通孔に挿通された振動柱100の支点Fを支持している。また、支持箱220は、例えば、中空部内に後述の磁心300などを収容している。
【0026】
弾性体240は、例えば、支持箱220の上面上に設けられ、振動柱100の支点Fを弾性的に支持するよう構成されている。これにより、振動柱100が傾斜した後に、振動柱100を鉛直方向に起立した状態に弾性的に復帰させることができる。
【0027】
なお、弾性体240は、水流を利用する場合において振動柱100が液体よりも比重が軽くて浮力を受ける場合は支持箱220の下に設けられ、液体よりも比重が大きく浮力を受けない場合は支持箱220の上に設けられ、振動柱100の支点Fを弾性的に支持するよう構成されている。これにより、振動柱100が傾斜した後に、振動柱100を鉛直方向に起立した状態に弾性的に復帰させることができる。
【0028】
[磁心]
磁心300は、例えば、後述のコイル400内を通る磁路を構成している。
【0029】
本実施形態では、磁心300は、例えば、振動柱100の振動に起因した応力に応じて透磁率を変化させる磁歪材料320を少なくとも一部に含んでいる。これにより、磁歪材料320の透磁率の変化に基づく磁束密度の変化によって引き起こされる電磁誘導により、起電力を生じさせることができる。
【0030】
また、本実施形態では、磁心300は、例えば、磁束が閉ループを形成した閉磁路を構成している。具体的には、磁心300は、例えば、係合部310と、磁歪材料320と、軟磁性体330と、磁性板340と、永久磁石350と、をこの順でループ状に有している。以下、磁心300の各部を説明する。
【0031】
(係合部)
係合部310は、例えば、振動柱100の第2端102に係合し、磁歪材料320に接続されている。これにより、振動柱100が振動したときに、係合部310を介して、てこの原理により磁歪材料320を伸縮させることが可能になっている。
【0032】
なお、係合部310の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、トランスの磁心として使用される、積層させた珪素鋼板などが挙げられる。
【0033】
また、図3に示すように、係合部310は、例えば、振動柱100が挿入される挿入孔(符号不図示)を有している。係合部310の挿入孔の底面と、振動柱100の第2端102との間には、微小な間隙が設けられている。これにより、後述の応力調整機構500による応力調整を行ったときに、係合部310の可動域を確保することができる。その結果、振動柱100への応力印加を抑制しつつ、磁歪材料320のみに応力を印加することができる。
【0034】
また、係合部310は、例えば、図2のX-X’断面において、Y字状に構成されている。X-X’断面において、後述のように、Y字状の係合部310の縦画部を挟んだ両側で、2つの磁心300が構成されている。
【0035】
(磁歪材料)
磁歪材料320は、上述のように係合部310から伝達された応力によって磁束密度を変化させるように構成されている。
【0036】
磁歪材料320の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、鉄ガリウム(FeGa)合金(Galfenol)が挙げられる。FeGa合金は、大きな逆磁歪効果を示す。例えば、FeGa合金は、圧縮応力を印加すると、見かけの透磁率が減少し、磁束密度も減少する。FeGa合金に予めバイアスとなる圧縮応力を加えておくと、FeGa合金に圧縮応力を印加した際に磁束密度が減少し、FeGa合金に引張応力を印加した際にバイアス応力の一部が相殺されることで磁束密度が増加する。
【0037】
本実施形態では、磁歪材料320は、例えば、振動柱100の振動により振動の振幅方向に沿って伸縮するよう構成されている。なお、ここでいう「振幅方向」とは、静止時の振動柱100の第2端102の位置に対して、振動時の振動柱100の第2端102が変位する方向を意味する。また、ここでいう「振動の振幅方向に沿って伸縮する」とは、振動の振幅方向に平行な成分を主成分とする方向に伸縮することを意味する。なお、図2で示した3極構成の場合では、任意の方向の振動柱100の振動は、符号としてa、bおよびcを用いた3つの方向の伸縮に分解される。これにより、磁歪材料320a、320bおよび320cは、純粋な伸縮の力を受けることとなる。
【0038】
具体的な構成としては、磁歪材料320は、例えば、柱状に構成され、振動柱100の第2端102が振動時に形成する弧に沿って設けられている。これにより、振動柱100の振動における振幅方向に沿うように、磁歪材料320を安定的に伸縮させることができる。
【0039】
(軟磁性体)
軟磁性体330は、外部磁界を取り去ったときに磁化を失って元の状態に戻る物質である。つまり、軟磁性体330は、上述の磁歪材料320の磁束密度の変化に応じた磁束密度を伝播する特性を有している。
【0040】
本実施形態では、軟磁性体330は、例えば、C字状に構成されており、磁歪材料320と磁性板340とを接続している。
【0041】
また、本実施形態では、軟磁性体330は、例えば、振動柱100が振動したときに静止状態を維持するように固定されている。具体的には、後述のように軟磁性体330は架台390に固定されている。
【0042】
(磁性板)
磁性板340は、例えば、高い透磁率を有する軟磁性の板状部材であり、束ねた厚さ方向に弾性変形可能に構成されている。磁性板340としては、例えば、珪素鋼からなる積層板などが挙げられる。
【0043】
磁性板340の下面の端部は、軟磁性体330に接続されている。一方で、磁性板340の上面は、永久磁石350に接続されている。
【0044】
(永久磁石)
永久磁石350は、例えば、強磁性体により構成され、磁心300内の磁場を形成するよう構成されている。また、永久磁石350は、例えば、磁歪材料320を磁気飽和させるよう構成されている。
【0045】
本実施形態では、永久磁石350は、例えば、柱状に構成されている。永久磁石350の中心軸は、静止時の振動柱100の中心軸と一致するよう配置されている。例えば、永久磁石350の軸方向の下端が磁性板340の上面に接続され、永久磁石350の軸方向の上端が係合部310の下端に接続されている。
【0046】
(複数配置)
図1および図2に示すように、本実施形態では、上述の構成を有する磁心300は、例えば、(静止時における振動柱100の中心軸の方向に見たときに)振動柱100の中心軸を中心として放射状に複数設けられている。複数の磁心300のそれぞれは、個別に磁歪材料320を含んでいる。これにより、振動柱100が様々な方向から外力を受けたとしても、振動柱100の振動の変化により、コイル400a、400bおよび400cの発電量のバランスが変化するだけで、総合的には一定量の発電量を得ることができる。その結果、効率的に発電を行うことができる。
【0047】
また、本実施形態では、複数の磁心300は、例えば、振動柱100の中心軸を中心として回転対称に設けられている。これにより、振動柱100がどの方向から風を受けたとしても、バランスよく発電を行うことができる。
【0048】
なお、本実施形態では、例えば、3つの磁心300が、振動柱100の中心軸を中心として3回対称(120°対称)に設けられている。これにより、最少限数の磁心300を用いて、発電効率の風向き依存性を低くすることができる。
【0049】
また、本実施形態では、複数の磁心300のそれぞれは、上述の閉磁路を形成し、振動柱100の中心軸と重なる位置で閉磁路の一部を共有している。具体的には、複数の磁心300のそれぞれは、例えば、係合部310、磁性板340および永久磁石350を共有している。これにより、発電装置10の構成を簡略化することができる。
【0050】
なお、以下において、3つの磁心300を「磁心300a、300bおよび300c」ということがあり、磁心300a、300bおよび300cが個別に有する構成部材における符号の末尾にも、それぞれ、a、bおよびcを用いることがある。
【0051】
[架台]
架台390は、例えば、磁心300が載置されるよう構成されている。架台390には、例えば、磁心300の軟磁性体330の下面がボルトにより締結されている。
【0052】
[コイル]
コイル400は、例えば、磁心300に巻回され、磁心300における磁束密度の変化に基づいて電磁誘導により電力を発生させるよう構成されている。
【0053】
本実施形態では、コイル400は、例えば、磁心300の磁歪材料320と異なる位置に巻回されている。具体的には、コイル400は、例えば、C字状の軟磁性体330の中間位置に巻回されている。つまり、コイル400は、振動柱100の振動に応じて伸縮する磁歪材料320ではなく、固定されて変動しない軟磁性体330に巻回されている。これにより、コイル400の巻回状態を維持しつつ、配線が機械的な応力で断線するリスクを低減することができる。その結果、電磁誘導の起電力を安定的に得ることができる。
【0054】
[整流昇圧回路]
整流昇圧回路420は、例えば、コイル400に接続され、振動柱100の振動によってコイル400に生じた交流の誘導電流を直流に整流するよう構成されている。また、整流昇圧回路420は、所定の電圧に昇圧するよう構成されている。なお、整流昇圧回路420は、例えば、直流に整流された誘導電流の波形を整形するよう構成されていてもよい。これにより、振動柱100の振動によって生じた複雑な波形を有する電力を整流し、当該電力を外部に安定的に供給することができる。
【0055】
本実施形態では、整流昇圧回路420は、例えば、複数設けられている。整流昇圧回路420a、420bおよび420c(不図示)は、それぞれ、磁心300a、300bおよび300cに設けられたコイル400a、400bおよび400cに接続されている。整流昇圧回路420a、420bおよび420cの出力側は、合流し、互いに接続されている。これにより、複数の磁心300からの位相または電圧が異なる電力をそれぞれ直流に変換し、且つ、一定の電圧へ昇圧した後に、これらを合成した電力を外部に供給することができる。
【0056】
[応力調整機構]
図1および図3に示すように、応力調整機構500は、例えば、磁歪材料320に予めバイアスとなる応力を印加し、当該応力を調整するよう構成されている。
【0057】
ここで、磁歪材料320は、応力により磁化方向が回転する特性を有する。磁気回路内に磁歪材料320を入れると、応力によって見かけの透磁率が変化する様に見える。応力がゼロであると、最大の透磁率になる。応力を大きくすると、共に磁化方向が回転することで、見かけの透磁率が小さくなる。応力を増大させ続けても、磁化方向は応力と直行する方向に近付くため、応力に対する見かけの透磁率の変化率は、次第に小さくなり、やがて飽和する。
【0058】
従って、圧縮応力が加わると、見かけの透磁率は減少するが、引張応力では磁化方向の回転が起きないので見かけの透磁率は変化しない。ここで、透磁率の変化率が所定の値に小さく収束したときの応力を「飽和圧縮応力」と定義する。
【0059】
振動柱100の振動による圧力振幅の多くを効率良く発電に繋げるためには、振動柱100の振動による係合部310が磁歪材料320に及ぼす圧力の増加および減少の両方によって、磁歪材料320の見かけの透磁率が変化することが望ましい。
【0060】
そこで、磁歪材料320に予め飽和圧縮応力の半分程度を与えておくことが有効となる。
【0061】
本実施形態では、応力調整機構500は、例えば、磁気飽和した磁歪材料320の最小透磁率を得るための応力(飽和圧縮応力)の半分の応力を、磁歪材料320に印加可能に構成されている。言い換えれば、本実施形態では、応力調整機構500は、例えば、磁気飽和した磁歪材料320において、見かけの透磁率が応力により変化し得る変化幅の半分となる応力を、磁歪材料320に印加可能に構成されている。これにより、振動柱100の振動による係合部310が磁歪材料320に及ぼす圧力の増加および減少の両方の範囲に亘って、磁歪材料320の磁束密度の変化を得ることができる。
【0062】
具体的には、応力調整機構500は、例えば、バネ部520と、押圧部540と、を有している。バネ部520は、例えば、磁性板340の下面の中央に接続され、磁性板340の厚さ方向に弾性的に伸縮するように構成されている。押圧部540は、例えば、架台390に螺合し、バネ部520を押圧可能に構成されている。このような構成により、磁性板340、永久磁石350および係合部310を介して磁歪材料320に印加される圧縮応力を調整することができる。
【0063】
上述の応力調整機構500による応力調整手順、および調整される応力の大きさについては、詳細を後述する。
【0064】
(2)発電方法
次に、図1図4Bを参照し、本実施形態の発電方法について説明する。なお、図4Aおよび図4Bにおいて、磁心300を通る矢印は磁力線の方向を示し、当該矢印の太さは磁束密度の大きさを簡易的に示している。
【0065】
(S10:準備工程)
まず、上述した発電装置10を準備する。発電装置10を風が強い場所などに設置する。
【0066】
このとき、図1および図3に示すように、本実施形態では、上述の応力調整機構500により応力調整を行う。具体的には、押圧部540を磁性板340側に向けて螺進させることで、バネ部520を押圧する。バネ部520を押圧することで、磁性板340を屈曲させ、永久磁石350を介して係合部310の縦画部を鉛直上方向に押し上げる。これにより、磁性板340、永久磁石および係合部310を介して磁歪材料320を圧縮することができる。また、押圧部540の螺進具合を調整することで、磁歪材料320に印加される圧縮応力を調整することができる。
【0067】
また、このとき、本実施形態では、上述のように係合部310がY字状に構成されていることで、応力調整機構500の押圧により、係合部310の縦画部を鉛直上方向に押し上げるだけで、係合部310を共有する複数の磁心300における複数の磁歪材料320に対して、均等な圧縮応力を同時に印加することができる。
【0068】
また、このとき、本実施形態では、振動柱100の第2端102の変位によって、磁歪材料320に印加される正および負の応力変化の両方によって、磁歪材料320の透磁率の変化が得られるように、予め応力調整機構500によって磁歪材料320に飽和圧縮応力の半分の応力を印加する。
【0069】
(S20:発電工程)
準備工程S10が完了したら、発電装置10により発電を行う。振動柱100が受けた外力の方向(風向き)に応じて、発電装置10を、以下のように動作させる。
【0070】
例えば、図4Aに示すように、図左側から右側に向けて振動柱100が外力を受けた場合では、振動柱100の支点Fが支持部200に固定された状態で、振動柱100の第1端101側が、図右側に向けて傾く(倒れる)。これに対し、振動柱100の第2端102側は、支点Fを回動中心として、支点Fを挟んで振動柱100の第1端101側と反対側に回動する。
【0071】
このとき、振動柱100の第2端102側の回動により、図4Aの左側の磁心300aにおいて、振動柱100が係合部310に接する点をてこの原理の作用点として、係合部310を軟磁性体330a側に近づける。これにより、係合部310を介して、磁歪材料320aを圧縮させる。
【0072】
磁心300aにおける磁歪材料320aを圧縮させることで、磁歪材料320aの磁束密度の減少とは反対に、コイル400a内の磁束密度を増加させるように、コイル400aに誘導電流が流れる。このようにして、磁心300aにおける磁束密度の変化に基づいた電磁誘導により、磁心300aに巻回されたコイル400aにおいて、起電力を生じさせることができる。
【0073】
一方で、振動柱100の第2端102側の回動により、図4Aの右側の磁心300bにおいて、振動柱100が係合部310に接する点をてこの原理の作用点として、係合部310を軟磁性体330b側から遠ざける。これにより、係合部310を介して、磁歪材料320bを伸張させる(磁歪材料320bの圧縮応力が緩和する)。
【0074】
磁心300bにおける磁歪材料320bの圧縮応力を減少させることで、磁歪材料320bの磁束密度の増加とは反対に、コイル400b内の磁束密度を減少させるように、コイル400bに誘導電流が流れる。つまり、磁心300bにおけるコイル400bでは、磁心300aにおけるコイル400aと反対の方向に誘導電流が流れることとなる。このようにして、それぞれの磁心300において、位相が異なる電力を無駄なく生じさせることができる。
【0075】
その後、整流昇圧回路420において、磁心300aおよび磁心300bから得られた位相が異なる電力をそれぞれ直流に変換し、これらを合成した電力を外部に供給する。
【0076】
なお、例えば、図4Bに示すように、図4Aとは反対に、図右側から左側に向けて振動柱100が外力を受けた場合では、磁歪材料320aおよび磁歪材料320bにおける磁束密度の増減関係が、図4Aの場合と反対となる。その結果、図4Bの場合において、それぞれのコイル400に流れる誘導電流の向きは、図4Aの場合と反対となる。
【0077】
また、本実施形態では、上述のように、複数の磁心300が振動柱100の中心軸を中心として回転対称に設けられていることで、風上側に近い構成部材が図4Aの左側に示したように動作し、風下側に近い構成部材が図4Aの右側に示したように動作する。
【0078】
(3)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0079】
(a)本実施形態の発電装置10では、外力を受けた振動柱100の振動に起因した応力に応じて、磁心300に含まれる磁歪材料320の透磁率を変化させる。当該磁心300の透磁率の変化に基づく磁束密度の変化によって引き起こされる電磁誘導により、コイル400に電力を発生させる。
【0080】
本実施形態によれば、発電装置10が回転機構のように機械的に摩耗する箇所を有しないか、或いは、発電装置10が摩耗箇所を有していたとしても、その箇所が少ない。これにより、発電装置10の点検、注油または消耗部品の交換などのメンテナンスを削減することができる。その結果、発電装置10を半永久的に動作させるとともに、発電装置10の維持コストを低減することが可能となる。
【0081】
また、本実施形態によれば、発電装置10が複雑な回転機構などを有しないことで、発電装置10の構成を簡略化することができる。これにより、発電装置10の製造コストを低減することが可能となる。
【0082】
また、本実施形態によれば、発電装置10が羽を回転させる回転機構などを有しないことで、羽の回転に起因した騒音の発生を抑制することができる。また、回転機構への鳥類などの生物の巻き込みを抑制することができる。これらのような事象発生後の対応(メンテナンス)を行う必要が無く、また、当該事象に対する対策を発電装置10に講じる必要が無い。この観点でも、発電装置10のコストを低減することが可能となる。
【0083】
このように、本実施形態によれば、効率的に発電を行うことが可能となる。
【0084】
(b)本実施形態では、磁心300に含まれる磁歪材料320は、振動柱100の振動により振動の振幅方向に沿って伸縮することで、透磁率を変化させる。すなわち、磁歪材料320の伸縮を、振動柱100の振幅から誘起させることで、振動柱の100の振動力を無駄にすることなく磁歪材料320に伝達させ、磁歪材料320に伸縮力として印加することができる。これにより、磁歪材料320の透磁率を効率よく変化させることができる。その結果、発電装置10の発電効率を向上させることが可能となる。
【0085】
(c)本実施形態では、応力調整機構500は、磁気飽和した磁歪材料320の最小透磁率を得るための応力の半分の応力を、磁歪材料320に印加可能に構成されている。これにより、磁歪材料320における磁束密度を、その変化可能範囲の中心に設定することができる。このような応力調整により、振動柱100の振動によって磁歪材料320に及ぼす圧力の増加および減少の両方の範囲に亘って、磁歪材料320の磁束密度の変化を得ることができる。その結果、発電装置10の発電効率を向上させることが可能となる。
【0086】
(d)本実施形態では、磁心300は、図2に示すように、振動柱100の中心軸を中心として放射状に複数設けられている。複数の磁心300のそれぞれは、個別に磁歪材料320(320a、320bおよび320c)を含んでいる。例えば、外力の向きが変化したとしても、外力の向きは3つのベクトルに分解され、それぞれのベクトル毎に発電が行われ、発電総和は外力の向きに依存しない。その結果、振動柱100がどのような方向から外力を受けたとしても、効率的に発電を行うことが可能となる。
【0087】
(e)本実施形態では、複数の磁心300は、例えば、振動柱100の中心軸を中心として回転対称に設けられている。これにより、それぞれの磁心300において、位相が異なる電力を無駄なく生じさせることができる。その結果、振動柱100がどの方向から外力を受けたとしても、バランスよく発電を行うことが可能となる。
【0088】
(f)本実施形態では、磁心300は、振動柱100の第2端102に係合し、振動柱100が振動したときに、てこの原理により磁歪材料320を伸縮させるように構成されている。このように、てこの原理を利用することで、振動柱100に振幅が小さい振動が生じたとしても、磁歪材料320に大きな応力を印加することができる。その結果、発電装置10の発電効率を向上させることが可能となる。
【0089】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0090】
上述の実施形態では、発電に利用する流体が風である場合について説明したが、発電に利用する流体は、振動柱100を振動させることができれば、風だけに限定されない。例えば、発電装置10は、流体としての水流の力を利用して電力を取得する発電装置として構成されていてもよい。
【0091】
具体的には、図5に示した変形例1のように、水の比重よりも小さい比重を有する材質からなる振動柱100を用いる場合では、発電装置10を上述の実施形態と鉛直上下反対に配置することで、水流の力を利用して電力を取得することができる。
【0092】
或いは、図6に示した変形例2のように、水の比重よりも大きい比重を有する材質からなる振動柱100を用いる場合では、振動柱100の支点Fを弾性的に支持する弾性体240を支持箱220の蓋部の鉛直上に配置する点を除いて、発電装置10を変形例1と同様に構成することで、水流の力を利用して電力を取得することができる。
【0093】
このように水流の力を利用して電力を取得する発電装置10では、川や水路での水流発電の様に、流れの方向が常に一定の場合には、磁心300の数を2つにし、磁心300aと磁心300bを対向させてもよい。これにより、磁心300の数を減らすことができる。
【0094】
上述の実施形態では、3つの磁心300が、振動柱100の中心軸を中心として3回対称に設けられている場合について説明したが、この場合に限られない。2つの磁心300が振動柱100の中心軸を中心として2回対称(つまり、軸対称)に設けられていてもよい。或いは、4つ以上の磁心300が振動柱100の中心軸を中心として4回以上の回転対称に設けられていてもよい。
【0095】
上述の実施形態では、発電装置10が以下の特徴A~Cの全てを満たす場合について説明したが、この場合に限られない。
(特徴A)磁心300に含まれる磁歪材料320は、振動柱100の振動により振動の振幅方向に沿って伸縮することで、磁束密度を変化させるよう構成されている。
(特徴B)応力調整機構500は、飽和した磁歪材料320の最大磁束密度を相殺するために最小限必要な応力の半分の応力を、磁歪材料320に印加可能に構成されている。
(特徴C)磁心300は、振動柱100の中心軸を中心として放射状に複数設けられ、複数の磁心300のそれぞれは、個別に磁歪材料320を含んでいる。
発電装置10が特徴A~Cのうち少なくともいずれか1つを満たせば、効率的な発電を行う効果を少なからず得ることができる。
【符号の説明】
【0096】
10 発電装置
100 振動柱
101 第1端
102 第2端
200 支持部
220 支持箱
240 弾性体
300、300a、300b、300c 磁心
310 係合部
320、320a、320b、320c 磁歪材料
330、330a、330b、330c 軟磁性体
340 磁性板
350 永久磁石
390 架台
400、400a、400b、400c コイル
420 整流昇圧回路
500 応力調整機構
520 バネ部
540 押圧部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6