(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080072
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】ブランキングアパーチャアレイシステム及びマルチ荷電粒子ビーム描画装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240606BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240606BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20240606BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
H01L21/30 541B
H01L21/30 541W
G03F7/20 504
H01J37/147 C
H01J37/305 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192962
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】吉野 修司
【テーマコード(参考)】
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
5C101AA27
5C101BB08
5C101EE03
5C101EE23
5C101EE36
5C101EE68
5C101EE69
5C101FF02
5F056AA07
5F056EA02
5F056EA03
5F056EA04
5F056EA05
5F056EA06
5F056EA14
5F056EA18
(57)【要約】
【課題】散乱電子やX線による回路素子の動作不良を抑制する。
【解決手段】ブランキングアパーチャアレイシステムは、マルチビームの各ビームに対応するブランカが設けられたブランキングアパーチャアレイ基板と、第1の放射線シールドと、第2の放射線シールドと、を備える。ブランカに電圧を印加する回路部は、ブランカを含むセル部より周縁側に配置される。第1の放射線シールドは、前記回路部の上方を覆い、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上面に配置され、マルチビーム通過用の第1開口の周縁から延伸した第1プレートを有する。第2の放射線シールドは、前記回路部の下方を覆い、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下面から垂下し、前記セル部を取り囲む下側周壁部と、マルチビーム通過用の下側開口の周縁から延伸した下側プレートとを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ荷電粒子ビームの各ビームが上流側から下流側に通過する複数のビーム通過孔が形成され、各ビーム通過孔に対応して前記各ビームのブランキング偏向を行うブランカがそれぞれ設けられたブランキングアパーチャアレイ基板と、
前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上流側に配置された第1の放射線シールドと、
前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下流側に配置された第2の放射線シールドと、
を備え、
前記ビーム通過孔及び前記ブランカを含むセル部は、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の中央部に設けられ、前記ブランカにそれぞれ電圧を印加する回路素子を含む回路部が、前記セル部より前記ブランキングアパーチャアレイ基板の周縁側に配置され、
前記第1の放射線シールドは、前記回路部の上方を覆い、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上面に配置され、前記マルチ荷電粒子ビーム通過用の第1開口が設けられ、前記第1開口の周縁から延伸した第1プレートを有し、
前記第2の放射線シールドは、前記回路部の下方を覆い、前記マルチ荷電粒子ビーム通過用の下側開口が設けられ、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下面から垂下し、前記セル部を取り囲む下側周壁部と、前記下側開口の周縁から延伸した下側プレートとを有する、ブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項2】
前記セル部を取り囲む下側周壁部は、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の前記セル部と前記回路部の間の領域と、前記セル部と前記ブランキングアパーチャアレイ基板の端部の間の領域とにそれぞれ配置され、
前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下面側に設けられた前記回路部が、前記下側周壁部と前記下側プレートで形成された空間内に位置している、請求項1に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項3】
前記第1の放射線シールドは、前記第1プレートの上方に配置され、前記マルチ荷電粒子ビーム通過用の第2開口が設けられ、前記第2開口の周縁から延伸した第2プレートをさらに有し、
前記第1プレートの前記第1開口の周縁部から第1周壁部が起立し、
前記第2プレートの前記第2開口の周縁部から第2周壁部が垂下し、
前記第1周壁部の上部と前記第2周壁部の下部とが入れ子状に連結する、請求項1に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項4】
前記下側プレートは、前記下側周壁部の下部に連なり、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下面から離隔して配置されている、請求項1に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項5】
前記下側周壁部は、
前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下面から垂下し、前記セル部を取り囲む第3周壁部と、
前記下側プレートの前記下側開口の周縁部から起立した第4周壁部と、
を有し、
前記第3周壁部の下部と前記第4周壁部の上部とが入れ子状に連結する、請求項4に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項6】
前記第1プレートの下面と前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上面とが密着している、請求項1に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項7】
前記第1プレートの下面と前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上面とが接着剤で接着され、
前記第3周壁部の上面と前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下面とが接着剤で接着されている、請求項5に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項8】
前記第1プレートと前記第2プレートとの間に配置された実装基板をさらに備え、
前記回路部は、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下面側に設けられ、前記実装基板とワイヤボンディングにより接続されている、請求項3に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項9】
荷電粒子ビームを放出する荷電粒子ビーム源と、
複数の開口が形成され、前記前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ前記複数の開口を上流側から下流側に通過することによりマルチ荷電粒子ビームを形成する成形アパーチャアレイ基板と、
前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームが上流側から下流側に通過する複数のビーム通過孔が形成され、各ビーム通過孔に対応して前記各ビームのブランキング偏向を行うブランカがそれぞれ設けられたブランキングアパーチャアレイ基板と、
前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上流側に配置された第1の放射線シールドと、
前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下流側に配置された第2の放射線シールドと、
を備え、
前記ビーム通過孔及び前記ブランカを含むセル部は、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の中央部に設けられ、前記ブランカにそれぞれ電圧を印加する回路素子を含む回路部が、前記セル部より前記ブランキングアパーチャアレイ基板の周縁側に配置され、
前記第1の放射線シールドは、前記回路部の上方を覆い、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上面に配置され、前記マルチ荷電粒子ビーム通過用の第1開口が設けられ、前記第1開口の周縁から延伸した第1プレートを有し、
前記第2の放射線シールドは、前記回路部の下方を覆い、前記マルチ荷電粒子ビーム通過用の下側開口が設けられ、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下面から垂下し、前記セル部を取り囲む下側周壁部と、前記下側開口の周縁から延伸した下側プレートとを有する、マルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブランキングアパーチャアレイシステム及びマルチ荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路(LSI)の高集積化に伴い、半導体デバイス(MOSFET:金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)の設計寸法はムーアの法則に従い依然として微細化されている。この微細化を担うリソグラフィは、半導体製造プロセスの中でもパターンを生成する極めて重要な技術である。LSIの所望の回路パターンをウェーハ上に形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターン(マスク、或いは特にステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)をウェーハ上に塗布されたレジスト(感光性樹脂)に縮小転写する手法が主流となっている。現在、最先端の微細パターンの形成においては極端紫外線(Extreme Ultraviolet: EUV)を光源に用いたEUVスキャナも採用されている。EUV露光では石英上にEUVを反射させる多層膜と、さらにその上に形成された吸収体をパターニングしたEUVマスクが用いられる。いずれのマスクも、本質的に解像性に優れる電子ビームを応用した電子ビーム描画装置を用いて製造されている。
【0003】
マルチビームを使った描画装置は、1本の電子ビームで描画する場合に比べて、一度に多くのビームを照射できるので、スループットを大幅に向上させることができる。マルチビーム描画装置の一形態であるブランキングアパーチャアレイ基板を使ったマルチビーム描画装置では、例えば、1つの電子源から放出された電子ビームを複数の開口を持った成形アパーチャアレイ基板に通してマルチビーム(複数の電子ビーム)を形成する。マルチビームは、ブランキングアパーチャアレイ基板のそれぞれ対応するブランカ内を通過する。ブランキングアパーチャアレイ基板はビームを個別に偏向するための電極対(ブランカ)と、その間にビーム通過用の開口を備えており、電極対の一方をグラウンド電位で固定し、他方をグラウンド電位とそれ以外の電位に切り替えることにより、それぞれ個別に、通過する電子ビームのブランキング偏向を行う。ブランカによって偏向された電子ビームは制限アパーチャによって遮蔽され、偏向されなかった電子ビームは試料上に照射される。ブランキングアパーチャアレイ基板は、各ブランカの電極電位を独立制御するための回路を搭載する。
【0004】
マルチビームを形成するための開口が設けられた成形アパーチャアレイ基板に電子ビームが照射される際に、制動放射X線が発生する。また、成形アパーチャアレイ基板でマルチビームを形成する際に、開口のエッジで一部の電子ビームが散乱され散乱電子となる。この制動放射X線や散乱電子がブランキングアパーチャアレイ基板に照射されると、回路素子に含まれるMOSFETの電気特性がトータルドーズ(Total Ionizing Dose:TID)効果により劣化し、回路素子の動作不良を引き起こすおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-178055号公報
【特許文献2】特開平11-317357号公報
【特許文献3】特開2019-033285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、散乱電子や制動放射X線による回路素子の動作不良を抑制するブランキングアパーチャアレイシステム及びマルチ荷電粒子ビーム描画装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によるブランキングアパーチャアレイシステムは、マルチ荷電粒子ビームの各ビームが上流側から下流側に通過する複数のビーム通過孔が形成され、各ビーム通過孔に対応して前記各ビームのブランキング偏向を行うブランカがそれぞれ設けられたブランキングアパーチャアレイ基板と、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上流側に配置された第1の放射線シールドと、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下流側に配置された第2の放射線シールドと、を備え、前記ビーム通過孔及び前記ブランカを含むセル部は、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の中央部に設けられ、前記ブランカにそれぞれ電圧を印加する回路素子を含む回路部が、前記セル部より前記ブランキングアパーチャアレイ基板の周縁側に配置され、前記第1の放射線シールドは、前記回路部の上方を覆い、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上面に配置され、前記マルチ荷電粒子ビーム通過用の第1開口が設けられ、前記第1開口の周縁から延伸した第1プレートを有し、前記第2の放射線シールドは、前記回路部の下方を覆い、前記マルチ荷電粒子ビーム通過用の下側開口が設けられ、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下面から垂下し、前記セル部を取り囲む下側周壁部と、前記下側開口の周縁から延伸した下側プレートとを有するものである。
【0008】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、荷電粒子ビームを放出する荷電粒子ビーム源と、複数の開口が形成され、前記前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ前記複数の開口を上流側から下流側に通過することによりマルチ荷電粒子ビームを形成する成形アパーチャアレイ基板と、前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームが上流側から下流側に通過する複数のビーム通過孔が形成され、各ビーム通過孔に対応して前記各ビームのブランキング偏向を行うブランカがそれぞれ設けられたブランキングアパーチャアレイ基板と、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上流側に配置された第1の放射線シールドと、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下流側に配置された第2の放射線シールドと、を備え、前記ビーム通過孔及び前記ブランカを含むセル部は、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の中央部に設けられ、前記ブランカにそれぞれ電圧を印加する回路素子を含む回路部が、前記セル部より前記ブランキングアパーチャアレイ基板の周縁側に配置され、前記第1の放射線シールドは、前記回路部の上方を覆い、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上面に配置され、前記マルチ荷電粒子ビーム通過用の第1開口が設けられ、前記第1開口の周縁から延伸した第1プレートを有し、前記第2の放射線シールドは、前記回路部の下方を覆い、前記マルチ荷電粒子ビーム通過用の下側開口が設けられ、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の下面から垂下し、前記セル部を取り囲む下側周壁部と、前記下側開口の周縁から延伸した下側プレートとを有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ブランキングアパーチャアレイ基板上の回路素子が、散乱電子や制動放射X線によって動作不良を起こすことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態によるマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
【
図3】ブランキングアパーチャアレイシステムの概略構成図である。
【
図4】ブランキングアパーチャアレイ基板の平面図である。
【
図7】変形例によるブランキングアパーチャアレイシステムの概略構成図である。
【
図8】ブランキングアパーチャアレイシステムの一部拡大図である。
【
図9】ブランキングアパーチャアレイシステムの一部拡大図である。
【
図10】ブランキングアパーチャアレイシステムの一部拡大図である。
【
図11】変形例によるブランキングアパーチャアレイシステムの概略構成図である。
【
図12】第2の放射線シールドの断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限るものでなく、イオンビーム等でもよい。
【0012】
図1は、実施形態に係る描画装置の概略構成図である。
図1に示す描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画装置100は、電子鏡筒102と描画室103とを備えている。電子鏡筒102内には、電子源111、照明レンズ112、成形アパーチャアレイ基板10、ブランキングアパーチャアレイシステム1、縮小レンズ115、制限アパーチャ部材116、投影レンズ117及び偏向器118が配置されている。
【0013】
ブランキングアパーチャアレイシステム1は、ブランキングアパーチャアレイ基板30、実装基板40及び放射線シールド50を有する。ブランキングアパーチャアレイ基板30は、実装基板40の裏面側(下面側)に実装されている。本実施形態では、電子ビーム(マルチビームMB)の進行方向上流側を表面側又は上面側といい、進行方向下流側を裏面側又は下面側という。
【0014】
実装基板40の中央部には、電子ビーム(マルチビームMB)が通過するための開口が形成されている。放射線シールド50については後述する。
【0015】
描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となる、レジストが塗布されたまだ何も描画されていないマスクブランクス等の試料101が配置される。また、試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。
【0016】
図2に示すように、成形アパーチャアレイ基板10には、縦m列×横n列(m,n≧2)の開口12が所定の配列ピッチで形成されている。各開口12は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。開口12の形状は、円形であっても構わない。これらの複数の開口12を電子ビームBの一部がそれぞれ通過することで、マルチビームMBが形成される。
【0017】
図3に示すように、ブランキングアパーチャアレイ基板30には、成形アパーチャアレイ基板10の各開口12の配置位置に合わせて、それぞれのマルチビームMBが通過できるよう通過孔32が形成されている。各通過孔32には、対となる2つの電極の組からなるブランカ34が配置される。ブランカ34の電極の一方はグラウンド電位で固定されており、他方をグラウンド電位と別の電位に切り替える。各通過孔32を通過する電子ビームは、ブランカ34に印加される電圧(電界)によってそれぞれ独立に偏向される。
【0018】
このように、複数のブランカ34が、成形アパーチャアレイ基板10の複数の開口12を通過したマルチビームMBのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0019】
図4に示すように、複数のブランカ34は、ブランキングアパーチャアレイ基板30の中央のセル部Cに設けられている。ブランキングアパーチャアレイ基板30は平面視矩形状であり、セル部Cを挟んで長手方向(第1方向、図中左右方向)の両側にそれぞれ回路部36が設けられている。回路部36は、ブランカ34への電圧印加を制御するLSI回路を含む。
【0020】
ブランキングアパーチャアレイ基板30の下面側に配置された回路部36は、MOSFET等を有し、実装基板40とワイヤボンディングにより接続され、外部から転送されてくるデータに応じた信号を生成し、ブランキングアパーチャアレイ基板30内に配置された配線(図示せず)を介してブランカ34に電圧を印加する。回路部36には、ワイヤが接続される入出力パッド(図示せず)が設けられている。
【0021】
セル部Cは、実装基板40の開口と位置合わせされている。
【0022】
電子源111(放出部)から放出された電子ビームBは、照明レンズ112によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ基板10全体を照明する。電子ビームBが成形アパーチャアレイ基板10の複数の開口12を通過することによって、複数の電子ビーム(マルチビームMB)が形成される。マルチビームMBは、ブランキングアパーチャアレイ基板30のセル部C内の、それぞれ対応する通過孔32を通過する。
【0023】
ブランキングアパーチャアレイ基板30を通過したマルチビームMBは、縮小レンズ115によって、縮小され、制限アパーチャ部材116の中心の開口に向かって進む。ここで、ブランカ34によって僅かに偏向された電子ビームは、制限アパーチャ部材116の中心の開口から位置がはずれ、制限アパーチャ部材116によって遮蔽される。一方、ブランカ34によって偏向されなかった電子ビームは、制限アパーチャ部材116の中心の開口を通過する。ブランカ34への電圧印加による電界の制御、すなわちオン/オフ操作によってビームのブランキング制御が行われ、各ビームの試料101上でのオフ/オン状態が制御される。
【0024】
このように、制限アパーチャ部材116は、複数のブランカ34によってビームオフの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームオンになってからビームオフになるまでの時間が、試料101上のレジストへのビーム照射による1回分の露光時間となる。
【0025】
制限アパーチャ部材116を通過したマルチビームは、投影レンズ117により焦点が試料101上に合わされ、成形アパーチャアレイ基板10の開口12の形状(物面の像)が試料101(像面)に所望の縮小率で投影される。偏向器118によってマルチビーム全体が同方向にまとめて偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。XYステージ105が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように偏向器118によって制御される。
【0026】
ここで、成形アパーチャアレイ基板10でマルチビームMBを形成する際に、電子ビームBの一部が成形アパーチャアレイ基板10に当たってX線が発生する。また、電子ビームBの一部が開口12のエッジで散乱された散乱電子や、開口12の側壁で反射した反射電子が、ブランキングアパーチャアレイ基板30や描画装置内の他部材に当たると、電子が当たった箇所からX線が発生する。このようなX線がブランキングアパーチャアレイ基板30の回路部36に照射されると、TID効果によりトランジスタの電気特性が劣化し、動作不良を引き起こし得る。
【0027】
そこで、本実施形態では、ブランキングアパーチャアレイ基板30の回路部36を、X線吸収率の高い材料からなる放射線シールド50で覆い、X線による影響を抑制する。放射線シールド50は、原子番号が大きい程、X線吸収率が高くなる。そのため、放射線シールド50は、重金属、例えばタングステン、金、タンタル、鉛等で構成されていることが好ましい。放射線シールド50は、描画装置内で発生するX線を1/1000~1/10000程度以下に減衰させる厚みを有することが好ましい。
【0028】
図3に示すように、放射線シールド50は、ブランキングアパーチャアレイ基板30の上面側に配置される第1の放射線シールド51と、ブランキングアパーチャアレイ基板30の下面側に配置される第2の放射線シールド55とを有する。
【0029】
第1の放射線シールド51は、実装基板40とブランキングアパーチャアレイ基板30との間に配置される第1プレート52と、実装基板40上に配置される第2プレート53とを有する。
【0030】
図3、
図5に示すように、第1プレート52には、マルチビーム通過用の矩形の開口52a(第1開口)が形成されている。第2プレート53には、マルチビーム通過用の矩形の開口53a(第2開口)が形成されている。開口52a、53aを介してマルチビームがセル部Cを通過するように、第1プレート52及び第2プレート53が配置される。
図5は、第1の放射線シールド51の断面斜視図である。第1プレート52は、開口52aの周縁から、ブランキングアパーチャアレイ基板30の上面と平行となるように延伸している。第2プレート53は、開口53aの周縁から、ブランキングアパーチャアレイ基板30の上面と平行となるように延伸している。
【0031】
第1プレート52の下面は、ブランキングアパーチャアレイ基板30の上面に密着している。例えば、第1プレート52の下面と、ブランキングアパーチャアレイ基板30の上面とが銀ペースト等の導電性接着剤により接着される。
【0032】
第1プレート52は、開口52aの周縁から起立する周壁部52b(第1周壁部)を有する。周壁部52bより周縁側の第1プレート52の上面は、実装基板40の下面に密着している。第1プレート52の上面と、実装基板40の下面とが銀ペースト等の導電性接着剤により接着される。ワイヤボンディングの配線方向(図中左右方向)における第1プレート52の外端は、ブランキングアパーチャアレイ基板30の外端よりも外側に位置すると共に、ワイヤボンディングと実装基板40との接続箇所よりも内側に位置する。
【0033】
第2プレート53は、開口53aの周縁から垂下する周壁部53b(第2周壁部)を有する。周壁部53bより周縁側の第2プレート52の下面は、実装基板40の上面に当接している。第2プレート53は、ネジ等の締結部材を用いて、実装基板40又は描画装置の他部材に固定される。
【0034】
第1プレート52の周壁部52bの上部、及び第2プレート53の周壁部53bの下部には切り欠きが設けられており、それぞれの凹凸を噛み合わせて嵌め込み、周壁部52bと周壁部53bとが連結される。周壁部52b及び周壁部53bは、連結状態において、内周面同士、外周面同士が面一になっていることが好ましい。
【0035】
図3,
図12に示すように、第2の放射線シールド55は、ブランキングアパーチャアレイ基板30の下面から垂下し、セル部Cを囲む周壁部56(第3周壁部)と、第3プレート57(下側プレート)とを有する。
図12は、第2の放射線シールド55の断面斜視図である。
【0036】
周壁部56は、回路部36よりも内側、かつセル部Cよりも外側の領域に設けられている。周壁部56の上端部は、ブランキングアパーチャアレイ基板30の下面に密着している。例えば、周壁部56の上端面56aと、ブランキングアパーチャアレイ基板30の下面とが銀ペースト等の導電性接着剤により接着される。
【0037】
第3プレート57には、マルチビーム通過用の矩形の開口57a(下側開口)が形成されている。第3プレート57は、ブランキングアパーチャアレイ基板30の下面から離隔しており、開口57aの周縁から、ブランキングアパーチャアレイ基板30の下面と平行となるように延伸している。第3プレート57は、開口57aの周縁から起立する周壁部57b(第4周壁部)を有する。
【0038】
第3プレート57の周壁部57bの上部、及び周壁部56の下部には切り欠きが設けられており、それぞれの凹凸を噛み合わせて嵌め込み、周壁部57bと周壁部56とが連結される。周壁部57b及び周壁部56は、連結状態において、内周面同士、外周面同士が面一になっていることが好ましい。周壁部56及び周壁部57bにより、ブランキングアパーチャアレイ基板30の下方に位置する下側周壁部が構成される。
【0039】
図4に示すように、セル部Cを挟んでブランキングアパーチャアレイ基板30の長手方向(第1方向、図中左右方向)の両側にそれぞれ回路部36が設けられている場合、セル部Cと回路部36の間の領域R1と、セル部Cとブランキングアパーチャアレイ基板30の短手方向(第2方向、図中上下方向)の端部の間の領域R2とのそれぞれに下側周壁部が配置される。ブランキングアパーチャアレイ基板30の下面側に設けられた回路部36は、下側周壁部と第3プレート57で形成された空間内に位置する。
【0040】
周壁部57bの上部と周壁部56の下部との隙間を塞ぐように、周壁部57b及び周壁部56の外周面にキャップ部材60を配置する。キャップ部材60は、銅、チタン、タングステン等で構成される。キャップ部材60は、ネジ等の締結部材を用いて、描画装置の他部材に固定される。第3プレート57は、ネジ等の締結部材を用いて、キャップ部材60に固定される。
【0041】
ワイヤボンディングの配線方向(図中左右方向)における第3プレート57の外端の位置は、第2プレート53の外端の位置と同程度であり、かつ、ワイヤボンディングと実装基板40との接続箇所よりも外側となっている。また、第3プレート57と第2プレート53とは、厚みが同程度となっている。
【0042】
このように、ブランキングアパーチャアレイ基板30の回路部36の上方及び下方を放射線シールド50(第1プレート52、第2プレート53、第3プレート57)で覆うと共に、回路部36が形成された領域とマルチビーム通過領域との間に放射線シールド50(周壁部52b、53b、56、57b)を配置することで、回路部36をX線から保護して回路素子の動作不良を防止し、ブランキングアパーチャアレイ基板30の寿命を延ばすことができる。
【0043】
上記実施形態では、第1の放射線シールド51を第1プレート52と第2プレート53とで構成し、第2の放射線シールド55を周壁部56と第3プレート57とで構成しているため、ブランキングアパーチャアレイ基板30を交換する際に、ブランキングアパーチャアレイ基板30に接着されている第1プレート52及び周壁部56は一緒に交換されるが、第2プレート53及び第3プレート57は分割して継続使用できるため、コストを削減できる。
【0044】
周壁部52bと周壁部53bとの連結部は、切り欠きを組み合わせた入れ子構造となっているため、周壁部52bと周壁部53bとの間の隙間が階段状(ジグザグ)になり、X線が回路部36側へ侵入することを防止できる。入れ子構造の形状は
図3に示すものに限定されず、
図6A、
図6B、
図6Cに示すように、階段部の数や傾斜が異なるものであってもよい。周壁部57b及び周壁部56による入れ子構造の形状も同様である。
【0045】
図7に示すように、実装基板40と第2プレート53との間に金属の第4プレート62を配置してもよい。第2プレート53は、ネジ等の締結部材を用いて、第4プレート62に固定される。第4プレート62は、セル部Cから離隔した位置で、キャップ部材60とネジで固定してもよい。この時、実装基板40を共締めで第4プレート62に固定してもよい。第4プレート62の材料は、例えば、鉛やチタン等の、タングステンより安価な非磁性金属を用いることがコストの面で好ましい。
【0046】
また、第3プレート57の下面側に、第3プレート57と同じ材料で構成された第5プレート58を取り付け、第2の放射線シールド55の厚みを大きくするようにしてもよい。第5プレート58には、第3プレート57と同じサイズのマルチビーム通過用開口が形成されており、開口同士の位置を合わせて第5プレート58を第3プレート57に取り付ける。第3プレート57に対する第5プレート58の取付方法は限定されず、ネジ止め固定でもよいし、導電性接着剤を用いた接着でもよい。
【0047】
製造及び組立て上の観点から、第3プレート57の厚みを大きくするよりも、第3プレート57と第5プレート58の積層構成にする方が好ましい。
【0048】
ワイヤボンディングの配線方向(図中左右方向)における第5プレート58の外端の位置は、第3プレート57の外端の位置よりも外側となっている。
【0049】
図8に示すように、ブランキングアパーチャアレイ基板30よりも外側で、第1の放射線シールド51の第2プレート53の下面から立ち下がる立下片53cを設けると共に、第2の放射線シールド55の第5プレート58の上面から立ち上がる立上片58cを設け、立下片53cと立上片58cとで第2プレート53と第5プレート58との間を閉塞し、散乱電子の侵入を防止するようにしてもよい。立下片53cの下端部及び立上片58cの上端部にそれぞれ切り欠きを設け、切り欠き同士を組み合わせた入れ子構造としてもよい。あるいはまた、立下片53cの下端部と立上片58cの上端部とを当接させてネジ止めしてもよい。
【0050】
図9に示すように、ブランキングアパーチャアレイ基板30よりも外側で、第1の放射線シールド51の第2プレート53の下面と、第2の放射線シールド55の第5プレート58の上面との間に非磁性金属体70を配置し、散乱電子の侵入を防止するようにしてもよい。非磁性金属体70は、鉛やチタン等の、タングステンより安価な非磁性金属を用いることがコストの面で好ましい。
【0051】
図10に示すように、第1の放射線シールド51の第2プレート53の上面に、第2プレート53よりも外側に延出するように非磁性金属板72を設けてもよい。同様に、第2の放射線シールド55の第5プレート58の下面に、第5プレート58よりも外側に延出するように非磁性金属板74を設けてもよい。非磁性金属板72、74を設けることで、散乱電子の侵入を防止できる。非磁性金属板72、74は、鉛やチタン等の、タングステンより安価な非磁性金属を用いることがコストの面で好ましい。
【0052】
ブランキングアパーチャアレイ基板30の下面に、平板状とした第2の放射線シールド55を密着させて配置してもよい。この場合、ブランキングアパーチャアレイ基板30の側面にデータ転送用のワイヤを連結させる。
【0053】
上記実施形態では、周壁部56と第3プレート57とを別体とし、周壁部57b及び周壁部56の外周面にキャップ部材60を配置する構成について説明したが、
図11に示すように一体化してもよい。すなわち、第3プレート57から起立する周壁部57bの上端面がブランキングアパーチャアレイ基板30の下面に密着する構成としてもよい。このような構成の場合、キャップ部材60は省略可能である。
図7に示す構成に対しても適用可能である。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 成形アパーチャアレイ基板
30 ブランキングアパーチャアレイ基板
34 ブランカ
36 回路部
40 実装基板
50 放射線シールド
100 描画装置
101 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
111 電子源