(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080371
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】部品付き車両用窓ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
B60J 1/20 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
B60J1/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193500
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】上田 俊司
(72)【発明者】
【氏名】明石 裕太
(57)【要約】
【課題】部品付き車両用窓ガラスの製造方法において、より簡便に部品の仮止めを行うことのできる技術を提供する。
【解決手段】
車両用ガラス板と部品とが接着剤を介して接着されてなる部品付き車両用窓ガラスの製造方法であって、部品に接着剤を塗布する塗布工程、前記塗布された前記接着剤の少なくとも一部を加熱する第1加熱工程、及び前記部品と車両用窓ガラスとを前記接着剤を介して取り付ける取り付け工程をこの順で含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用ガラス板と部品とが接着剤を介して接着されてなる部品付き車両用窓ガラスの製造方法であって、
部品に接着剤を塗布する塗布工程、
前記塗布された前記接着剤の少なくとも一部を加熱する第1加熱工程、及び
前記部品と車両用窓ガラスとを前記接着剤を介して取り付ける取り付け工程をこの順で含む、部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記第1加熱工程において、前記接着剤は、前記取り付け工程において前記車両用窓ガラスの主面と接する面である接着面の少なくとも一部が加熱される、請求項1に記載の部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記取り付け工程後に、前記接着剤を加熱して硬化する第2加熱工程をさらに含む、請求項2に記載の部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記接着剤が、熱により硬化促進される接着剤である、請求項1又は2に記載の部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記部品が、車載機器の取付け用の樹脂製部品である、請求項1又は2に記載の部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記取り付け工程前に、前記車両用窓ガラスも加熱することをさらに含む、請求項1又は2に記載の部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記第1加熱工程において、前記塗布された前記接着剤の第1部分を加熱し、
前記第2加熱工程において、前記第1部分以外の第2部分、又は前記接着剤の全体を加熱する、請求項3に記載の部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項8】
少なくとも前記第1加熱工程における加熱を無風で行う、請求項1又は2に記載の部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記車両用窓ガラスが熱吸収層を備えており、
前記第2加熱工程が、前記熱吸収層を局所的に加熱し、前記熱吸収層からの熱を前記接着剤に伝達することを含む、請求項7に記載の部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項10】
前記第1加熱工程、及び前記第2加熱工程を、近赤外線ヒータを用いて行う、請求項3に記載の部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項11】
前記車両用窓ガラスが、2枚のガラス板が中間膜を介して接合された合わせガラスである、請求項3に記載の部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項12】
前記第2加熱工程において、前記中間膜の温度が100℃を超えない、請求項11に記載の部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項13】
前記熱吸収層が、前記車両用窓ガラスの周縁部に設けられたセラミックスペースト焼成膜である、請求項9に記載の部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品付き車両用窓ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用窓ガラスに、ミラーベース、ブラケット等の部品が接着剤により接着されてなる構成が知られている。このような部品付き車両用窓ガラスの製造においては、部品の接着面に接着剤を塗布して車両用窓ガラスに取り付けた後、接着剤を硬化させて部品を車両用窓ガラスに接着する。
【0003】
上記接着のために通常用いられる接着剤は、硬化するまでに時間を要するものが多い。そのため、部品が車両用窓ガラスに取り付けられた後、振動等の負荷が掛かった場合でも部品と車両用窓ガラスとの相対位置がずれないように、多くの場合、部品の仮止め(若しくは仮固定)が行われている。仮止めの手段としては、両面テープがよく知られているが、本来の接着剤とは別種の、硬化時間の短い接着剤を追加で用いることも検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように両面テープ、或いは別種の接着剤の使用をする場合、必要な材料点数が多く、また、本来使用されている接着剤の塗布とは別の工程が必要であるので、コストや手間がかかってしまう。特に、特許文献1に記載されているように硬化時間の短いホットメルトのような接着剤を用いた場合、接着剤材料を加温して流動化させて射出する機器が必要であるため、そのような追加の設備のためのコストがかかり、製造工程も煩雑になり得る。
【0006】
上記の点に鑑みて、本発明の一態様は、部品付き車両用窓ガラスの製造方法において、より簡便に部品の仮止めを行うことのできる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、車両用ガラス板と部品とが接着剤を介して接着されてなる部品付き車両用窓ガラスの製造方法であって、部品に接着剤を塗布する塗布工程、前記塗布された前記接着剤の少なくとも一部を加熱する第1加熱工程、及び前記部品と車両用窓ガラスとを前記接着剤を介して取り付ける取り付け工程をこの順で含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、部品付き車両用窓ガラスの製造方法において、より簡便に部品の仮止めを行うことのできる技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態により製造される部品付き車両用窓ガラスの例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態による製造方法の一例のフロー図である。
【
図4】本発明の一実施形態による部品付き車両用窓ガラスの製造例の一工程を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態による部品付き車両用窓ガラスの製造例の一工程を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態による部品付き車両用窓ガラスの製造例の一工程を示す図である。
【
図8】
図7のIII-III線断面の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0011】
図1に、本形態によって製造される部品付き車両用窓ガラス1の一例を、車内面側から見た図である。また、
図2に、
図1のI-I線断面の部分拡大図を示す。
図1及び
図2に示すように、部品30が車両用窓ガラス10の主面に接着されており、その接着に接着剤20が利用されている。図示の例では、部品30は樹脂ブラケットであり、当該樹脂ブラケットが、車両用窓ガラス10の車内面の上方、左右方向の中央付近に接着されている(
図1)。また、
図1の車両用窓ガラス10はフロントガラスであるが、本形態における車両用窓ガラスは、リアガラス、サイドガラス、ルーフガラス等であってもよい。
【0012】
図1及び
図2に示すように、車両用窓ガラス10には、周縁部に遮蔽層50が形成されている。遮蔽層50は黒セラ層とも呼ばれる。遮蔽層50の構成は特に限定されないが、黒色、灰色、濃茶色有色のセラミックスペースト(ガラスペースト)が塗布され焼成されてなる層であると好ましい。遮蔽層50は、車両において車両用窓ガラスを車体に装着して保持するためのシーラント等を紫外線などから保護する働きを有する。
図1及び
図2の例では、部品30は接着剤20を介して遮蔽層50に接触して、車両用窓ガラス10に接着されている。
【0013】
本形態において用いられる車両用窓ガラス10には、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス板が用いられていてよい。ガラス板の成形法は特に限定されないが、例えばフロート法により成形されたガラスが好ましい。ガラス板は未強化であってよいし、風冷強化又は化学強化処理が施された強化ガラスであってもよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したものである。強化ガラスは、未強化ガラスの表面に圧縮応力層を形成したものである。強化ガラスが風冷強化ガラスである場合は、に加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷し、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることで、ガラス表面を強化してもよい。一方、強化ガラスが化学強化ガラスである場合は、イオン交換法等によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることでガラス表面を強化してもよい。また、車両用窓ガラスは透明であることが好ましいが、透明性を損なわない程度に着色されたガラスであってもよい。ガラスの形状は、特に矩形状に限定されるものではなく、種々の形状に加工されていてよい。また、車両用窓ガラスに用いられるガラス板は曲げ成形され、湾曲していてもよい。曲げ成形としては、重力成形、又はプレス成形等が用いられる。
【0014】
車両用窓ガラス1は、単板のガラスであってもよいし、合わせガラスであってもよい(
図2)。合わせガラスは、複数のガラス板11、12を、中間膜15を介して貼り合わせてなるガラスである。合わせガラスに用いられる複数のガラス板も上述のガラスが用いられる。
【0015】
合わせガラスにおいて、複数のガラス板11、12の間に配置される中間膜15(
図2)の材料は特に限定されないが、熱可塑性樹脂であると好ましい。中間膜の材料の具体例としては、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、アイオノマー樹脂等の従来から用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。また、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。上記の熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
【0016】
中間膜15は、可塑剤を含有していない樹脂、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂等であってもよい。上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(PVB)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適な材料として挙げられる。なお、上記の樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0017】
合わせガラスの場合、車両用窓ガラス全体の厚み(中間膜も含めた厚み)は、2.3mm以上8.0mm以下であってよい。また、合わせガラスを構成する複数のガラス板のそれぞれの厚みは、0.5mm以上3.5mm以下であってよい。複数のガラス板の厚みは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、なお、車内側のガラス板の厚みを0.5mm以上2.3mm以下としてもよい。
【0018】
一方、部品30は、車両用窓ガラス10の主面のいずれかの場所に取り付けられる部品であれば、特に限定はされない。部品30は、インナーミラー取付け用のミラーベース、センサ、カメラ等を取り付けるためのブラケット、モール、プロテクタ、ピン、クリップ、ホルダ、ヒンジ等であってよい。
【0019】
部品30の材料も特に限定されず、樹脂、金属、若しくは金属と樹脂との組合せ、又はそれ以外の材料からなっていてもよい。部品30の材料に樹脂が用いられる場合には、当該樹脂は、熱硬化性樹脂であっても熱可塑性樹脂であってもよい。樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリカーボネート(PC)、ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド(PA)、テレフタル酸やイソフタル酸をベースとした高耐熱ポリアミド(PA6T、PA6I、PA6T/6I等)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、ポリアセタール(POM)、ポリ塩化ビニル(PVC)、エポキシ(EP)等が挙げられる。部品30の材料に金属が用いられる場合には、1種の金属元素からなる単体金属であってもよいし合金であってもよく、例えば、アルミニウム、亜鉛、鉄、ステンレス等であってよい。
【0020】
本形態で用いられる接着剤20は、窓ガラス10と部品30との接着のために使用可能な接着剤であれば特に限定されず、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系、変成シリコーン系、メラミン系、フェノール系、アクリル系等であってよい。また、一液型であってもよいし、二液型であってもよい。接着剤は、熱によって硬化が促進される接着剤(熱硬化型接着剤)、すなわち、熱トリガー型(熱カチオン、熱ラジカル等の加熱により硬化が促進されるもの)であること、若しくは熱硬化性ポリマーを主成分として含むことが好ましい。熱硬化型接着剤の場合、製造者によって硬化のタイミングのコントロールが可能となるので、好ましい。なお、熱硬化型接着剤は、加熱硬化式(通常の使用形態で加熱を要するとされているもの)であってもよいし、常温硬化式(通常の使用形態で放置により硬化反応させ、加熱不要とされているもの)であってもよいが、本形態による方法では、常温硬化式の接着剤を好適に使用できる。接着剤の具体例としては、二液変性シリコーン接着剤(変成シリコーン/エポキシ接着剤)、二液ウレタン接着剤、一液熱硬化ウレタン接着剤、第二世代アクリル系接着剤(SGA)等が挙げられる。
【0021】
図3に、一実施形態による部品付き車両用窓ガラス1の製造方法のフロー図を示す。
図3に示すように、本形態による製造方法は、部品に接着剤と塗布する塗布工程(S11)、塗布された接着剤の少なくとも一部を加熱する第1加熱工程(S12)、及び部品と車両用窓ガラスとを取り付ける取り付け工程(S13)をこの順で含む。第1加熱工程(S12)後に取り付け工程(S13)を行うことで、部品が車両用窓ガラスに対して仮止めされ得る。さらに、製造方法は、接着剤を加熱して硬化させる第2加熱工程(S14)、及び冷却工程(S15)を含んでいてよい。接着剤を加熱して硬化させる第2加熱工程(S14)によって、部品と車両用窓ガラスとが接着剤を介して接着され固定されて、部品付き車両用窓ガラスという目的の製品が得られる。なお、第2加熱工程(S14)による接着を、主接着(若しくは本接着)と呼ぶ場合がある。
【0022】
上述のように本形態では、接着剤を部品に塗布し、その塗布された接着剤の少なくとも一部(接着剤第1部分、若しくは第1部分と呼ぶ)を加熱した後に、部品を車両用窓ガラスに取り付ける。これにより、加熱された接着剤第1部分の硬化がある程度促進されて、部品と窓ガラスとの相対的な位置ずれ防止のために十分な接着機能を発揮できるので、当該接着剤第1部分を、部品の車両用窓ガラスに対する仮止めのために使用できる。よって、両面テープのような部材、すなわち、使用形式が接着剤と相違する別部材を使用する必要がない。また、本形態によれば、例えば、主接着のために元々使用されていた接着剤の一部を、仮止め用の接着剤部分として使用することができるので、その場合には、主接着と仮止めとで接着剤を統一することができ、仮止め用に、別の接着剤を準備する必要がない。このように本形態では、仮止めのために、所要材料の点数を増やすことなく、使用形式の相違による製造中の手間も増やすことなく、簡便な工程で仮止めを行うことができる。
【0023】
なお、仮止めのための別の接着剤として、従来、硬化時間の短いもの、特にホットメルト接着剤等が検討されているが、ホットメルト接着剤の場合には、接着剤材料を80℃以上に加熱して一旦流動化して射出するための装置が必要であるので、製造設備を増やさなくてはならず、製造工程は煩雑になり得る。これに対し、このような煩雑さは、本形態による製造方法により回避される。また、ホットメルト接着剤の場合、温度低下により硬化が進む特性を有するので、使用者の意向に関わらず射出後直ちに硬化が始まってしまうので、部品を取り付ける時点までにある程度硬化が進んでしまい、十分なオープンタイム(塗布後から取り付けまでの時間)を取ることができない可能性がある。これに対し、本形態による製造方法では、十分なオープンタイムを取ることが可能であり、さらには加熱(第1加熱工程S12)のタイミング、加熱温度、加熱時間等の条件を調整することでオープンタイムの調整も可能であり、作業性(工程適用性)が高い。例えば、本形態によれば、1秒以上90秒以下、好ましくは10秒超90秒以下でオープンタイムを調整することができる。
【0024】
以下、
図3と共に
図4~
図8も参照して、本形態による製造方法の各工程についてより詳細に説明する。
【0025】
まず、塗布工程(S11)では、部品30の接着面に接着剤20を塗布する。部品30の接着面とは、車両用窓ガラス10の主面に対向させ、当該主面に沿わせることができる面、すなわち、取り付け工程(S13)において車両用窓ガラス10の主面と接する面である。接着面は平坦、又は車両用窓ガラス10の対向面のカーブに合わせた湾曲を有していてもよい。接着剤20の塗布は、接着剤の種類に応じた従来公知の手段で行うことができる。塗布工程(S11)においては、接着剤20の温度は80℃未満、好ましくは50℃以下である。
図4に、接着面31に接着剤20が塗布された部品30を示す。
図4に示すように、接着剤20は、接着面31全体に塗布されていてもよいが、接着面31の一部に塗布することで、窓ガラス10取り付け時の接着剤20のはみ出しを防止し、コストも低減できる。
図4には、非連続の複数箇所に塗布された、平面視でほぼ一定の幅を有する直線状の接着剤20を例示しているが、接着剤20が塗布される場所は、部品30の構成、すなわち部品30のサイズ、形状、材料種、機能(ブラケットであれば保持対象は何か等)によって決められる。なお、接着剤20を線状に塗布する場合には、線の幅は1mm以上4mm以下であってよい。
【0026】
塗布工程(S11)の後、第1加熱工程(S12)にて、接着剤20の少なくとも一部が加熱手段80を用いて加熱される。本明細書では、接着剤20のうち、第1加熱工程(S12)で加熱される接着剤部分(仮止め用接着剤部分)を第1部分21とし、第1加熱工程(S12)で加熱されず、主接着(第2加熱工程S14)の際に加熱される部分(主接着用接着剤部分)を第2部分22とする。塗布された接着剤20のうち、どの部分を第1部分21とするか、又は第2部分22とするかは、部品30の構成によって適宜決めることができる。また、仮止めにかかる工程負荷に対して垂直方向に接着剤を塗布する事で、仮保持(仮止め)としての強度をより効率的に発現できる。例えば、
図4に示すように部品の長手方向の端部に塗布した接着剤部分を、第1部分21として、第1加熱工程(S12)で加熱することが好ましい。
図4に示す例では、接着剤20が3箇所に分割して塗布されており、そのうちの1箇所を第1部分21としている。
【0027】
第1部分21の量は、接着面31に塗布された接着剤20全量に対して、10体積%以上60体積%以下の体積を有するものであってよい。また、第1部分21は、平面視で、部品30の接着面31の面積の合計の10%以上60%以下の面積を占める範囲の部分であってよい。第1部分21の塗布領域を上記範囲とすることで、第1部分21の接着剤が、十分な仮止めの機能を果たすことができると共に、主接着(第2加熱工程S14)にて硬化される第2部分22を確保し、第1加熱工程(S12)が煩雑になったり過度に長くなったりすることを防止できる。
【0028】
第1加熱工程(S12)における加熱手段は、特に限定されないが、所定波長の電磁波を照射する手段であると、非接触での加熱が可能になるので、接着剤20の変形等を引き起こすことなく加熱が可能であり、好ましい。例えば、近赤外線から短波長赤外線(波長780nm以上2500nm以下)を照射することによって加熱を行う加熱手段、例えばハロゲンランプヒータ(ハロゲンワイドヒータ、ハロゲンポイントヒータ、ハロゲンラインヒータ等)であると、好ましい。
【0029】
第1加熱工程(S12)でヒータを用いる場合、その出力は200W以上800W以下であってよい。また、ヒータの開口から接着剤表面までの距離(若しくは焦点距離)は20mm以上60mm以下であってよい。
【0030】
なお、第1加熱工程(S12)における加熱の条件は、主接着(第2加熱工程S14、後述)における加熱の条件より同じとしてもよいが、主接着(第2加熱工程S14)における加熱の条件より高い温度条件、例えば、単位質量当たりの温度上昇速度がより高くなるような条件で行うと好ましい。仮止め工程(第1加熱工程S12)の時間を短縮できると共に、ガラスとして合わせガラスを使用した場合であっても、主接着(第2加熱工程S14)において合わせガラス中の中間膜が変性することを防止できる。
【0031】
なお、第1加熱工程(S12)における加熱は、仮止め用接着剤部分が、部品をガラスに仮止めできる状態となる目標温度(仮止め用硬化狙い温度)に達するよう行うことができる。仮止め用硬化狙い温度は、第1加熱工程(S12)において接着剤が達すべき所望の温度であり、部品の種類、材質、車両用窓ガラスの構成、仮止め用接着剤部分の量及び所望の硬化度合等によって決定される。仮止め用硬化狙い温度は、例えば複数の温度に対する接着剤のゲル化時間を測定した上で、部品及び接着剤にダメージがでない温度範囲で、最も高い温度となるゲル化温度とすることができる。接着剤の硬化狙い温度は、常温(15~25℃)より高い温度であり、例えば50℃以上150℃以下であってよい。第1加熱工程(S12)は、ガラスに貼り合わせる前に部品に塗布された接着剤に対して行う加熱であるので、仮止め用硬化狙い温度は、後述の主接着(第2加熱工程S14)における硬化狙い温度よりも高い温度とすることが可能である。
【0032】
本形態における加熱には、誘導加熱、レーザ、熱風等も利用できるが、無風で加熱を行うことが好ましい。本明細書において「無風で」とは、加熱対象に衝突する空気又はその他の気体(水蒸気を含む)の流れを発生させる手段を設けないことを指す。無風の加熱手段により、接着剤が変形する可能性を低減できる又はなくすことができるので、接着剤20の第1部分21による仮止め強度を向上できるし、部品30がダメージを受ける可能性を低減できる。
【0033】
図4に示す例では、加熱手段80としてハロゲンヒータ装置を示す。当該ハロゲンヒータ装置は、ヒータ本体81と、電源・制御部85とを備えていてよい。
図5に、
図4のII-II線断面図を示す。
図5に示すように、加熱手段80を第1部分21の上方に配置し、第1部分21が配置された領域内にヒータの焦点を対応させることができる。
【0034】
図4及び
図5に示すように、接着剤20が塗布された部品30は、接着面31を上に向けた状態で、台部70の上に載置して固定されてもよい。この場合、台部70はジャッキ等に取り付けられていて、上下方向に位置調整可能としてもよいい。或いは、台部70はロボットアーム等に取り付けられていて、3次元的に可動になっていてもよい。
【0035】
第1加熱工程(S12)によって接着剤20の第1部分21の加熱が終了した後、取り付け工程(S13)において、接着剤20が接着面31に塗布された部品30を、車両用窓ガラス10に配置する。
図6に、取り付け工程(S13)の途中の状態を示し、
図7に、部品30が車両用窓ガラス10の主面に配置された状態を示す。
図6及び
図7に示す例では、車両用窓ガラス10の遮蔽層50の上に配置されているが、部品30は、遮蔽層50上でなく、ガラス板の上に直接取り付けられてもよい。
【0036】
取り付け工程(S13)の後には、主接着工程である第2加熱工程(S14)を行う。第2加熱工程(S14)では、接着剤20のうち、第1加熱工程(S12)で加熱されなかった第2部分22、或いは第1部分21及び第2部分22を含む接着剤20の全体が加熱されることで、接着剤20が硬化し、部品30と車両用窓ガラス10とが接着され、部品付き車両用窓ガラス1を形成できる(
図1)。
【0037】
第2加熱工程(S14)における加熱手段は、第1加熱工程(S12)における加熱手段80と同様のものを使用することができる。すなわち、近赤外線から短波長赤外線(波長780nm以上2500nm以下)を照射することによって加熱を行う加熱手段、例えばハロゲンランプヒータ(ハロゲンワイドヒータ、ハロゲンポイントヒータ、ハロゲンラインヒータ等)が好ましい。このように、本形態による製造方法では、第1加熱工程(S12)と第2加熱工程(S14)とで同じ加熱手段を利用することができるので、設備をコンパクトに構成することができる。
【0038】
第2加熱工程(S14)での加熱方法としては、特に部品30が樹脂製の場合には、車両用窓ガラス10の主面(部品30に対する対向面)に設けられた熱吸収層又はその近傍を、局所的に加熱することが好ましい。熱吸収層は、熱を吸収し、吸収した熱を伝達する、或いは外部から供給されるエネルギー(例えば熱線などの光エネルギー)を吸収し、吸収したエネルギーを熱に変換して熱を得ることのできる材料からなる層である。上述の車両用窓ガラス10の周縁部に形成された遮蔽層50(
図1等)は、熱吸収層である。また、本明細書において、所定部分を局所的に加熱するとは、所定部品と組み合わされた構造体全体を加熱することではなく、所定部分を局所的に昇温させることを指す。例えば、所定部分の加熱に伴い所定部分及びそれ以外の部分若しくは部材の温度をそれぞれ測定した場合、所定部分の温度が先行して上昇すること、若しくは所定部分の昇温速度が速いことを指す。
【0039】
なお、熱吸収層としては、例えば金属成分を含む層、若しくはいわゆる低放射膜(Low-E膜)や、銀等の金属粒子を含む導電性ペーストを塗布、焼成してなる導電層等であってもよい。上記のような熱吸収性の層に用いられる金属は銀や錫、亜鉛、チタン酸化物等であってよい。熱吸収層50の厚みは特に限定されず、熱吸収性を有していて得られた熱を接着剤に伝えることができる膜厚であればよい。
【0040】
熱吸収層を局所的に加熱することにより、構造体全体を筐体等に収容してその全体を加熱する方法に比べて、短時間で接着剤を昇温できる。よって、接着剤の温度を、目標とする温度(狙い温度)まで上げるまでの時間を短縮でき、ひいては部品付き車両用窓ガラスの製造効率を上げることができる。また、接着剤以外の部分の昇温が抑えられるので、接着剤以外の部分が、熱によるダメージを受けることを防止できる。
【0041】
第2加熱工程(S14)において、熱吸収層である遮蔽層50を局所的に加熱する場合、
図8に示すように、加熱手段80のヒータ本体81を遮蔽層50の上方に配置することができる。
図8は、
図7のIII-III線断面図である。第2加熱工程(S14)における加熱手段の出力は、150W以上400W以下であってよい。また、ヒータの開口から熱吸収層(
図8の例では遮蔽層50)の表面までの距離(若しくは焦点距離)は12mm以上30mm以下であってよい。第2加熱工程(S14)での加熱手段の出力、及び/又は第2加熱工程(S14)での焦点距離を第1加熱工程(S12)の条件よりも小さくすることで、車両用窓ガラスとして合わせガラスを使用した場合であっても、第2加熱工程(S14)にて合わせガラス中の中間膜が変性することを防止できる。
【0042】
上述のように、車両用窓ガラス10が合わせガラスの場合、第2加熱工程(S14)を、合わせガラスに含まれる中間膜に変性(発泡、変色、変形等)が生じないように行うことができる。例えば、本実施形態における加熱は、中間膜の温度が100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下であるように行うことができる。熱吸収層を局所的に加熱する方法では、接着剤を迅速に昇温しつつも中間膜の過度な昇温を抑えることができる。そのため、合わせガラスにダメージを与えることなく、短時間での部品の接着が可能となる。
【0043】
なお、第2加熱工程(S14)における加熱は、接着剤の温度が、接着剤の硬化のための目標温度(硬化狙い温度)に達するよう行うことができる。ここで、硬化狙い温度も、上述の仮固定用硬化狙い温度と同様に、接着剤の種類、部品の種類、材質、車両用窓ガラスの構成、接着剤の所望の硬化度合等によって決定することができる。硬化狙い温度は、例えば、複数の温度に対する接着剤のゲル化時間を測定した上で、接着剤、部品、及びガラス中の中間膜にダメージが出ない温度範囲で、最も高い温度となるゲル化温度とすることができる。接着剤の硬化狙い温度は、常温(15~25℃)より高い温度であり、例えば40℃以上100℃以下であってよい。
【0044】
第2加熱工程(S14)後には、冷却工程(S15)を設けてもよい。
【実施例0045】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態についてさらに詳説する。本実施例では、部品が接着剤によって窓ガラスの主面に接着されてなる、部品付き自動車用窓ガラスを様々な条件で作製し、評価した。以下の例のうち、例1~例6及び例10が実施例であり、例7~例9が比較例である。
【0046】
(例1)
=塗布=
ポリアミド(PA)製のセンサ用ブラケット(全長70mm、幅50mm、接着面の面積約2000mm2、略円形開口のある6角形形状)を準備し、その接着面に、計3.6gの二液変成シリコーン/エポキシ接着剤(コニシ社製「MOS400」)を塗布した。なお、センサブラケット(部品)の接着面は、窓ガラスの主面に対向させる側の平坦な面である。接着剤は、3箇所に分けて、それぞれ長さ50mmにわたって1.0gずつ線状に塗布した。このうち、1箇所の部分を主接着用接着剤部分(第1部分)とし、他の部分を仮止め用接着剤部分(第2部分)とした。
【0047】
=第1加熱=
続いて、ブラケットの接着面に塗布された接着剤のうち、仮止め用接着剤部分(第1部分)を、短波長赤外線ヒータ(ハロゲンランプヒータ、進勇商事株式会社製「ワイドヒーターII WH-1000」)を用いて加熱した。より具体的には、上記ヒータを、当該ヒータの開口から接着剤表面までの距離が約30mmとなるように(焦点距離が約10mmとなるように)配置した。そして、出力700Wで、仮止め用接着剤部分の温度が仮止め用硬化狙い温度(後述)となるまで加熱した。
【0048】
=取り付け=
板厚2mmの2枚のガラス板をポリビニルブチラール中間膜(0.73mm)を介して貼り合わせてなる合わせガラスのサンプル(100mm×100mm)を準備した。合わせガラスのサンプルの一方の面には、セラミックスペーストが焼成されてなる遮蔽層が形成されていた。上述のように仮止め用接着剤部分が加熱された後のブラケットの接着面を、合わせガラスに、遮蔽層が設けられている範囲に取り付けた。ブラケットと合わせガラスとに間に挟まれた接着剤の厚みは約1mmであった。これにより、ブラケットを合わせガラスに対して仮止めした。
【0049】
=第2加熱=
そして、上記ヒータを、合わせガラスガラスの遮蔽層に対向させ、焦点がブラケットから合わせガラスの面方向に約5mm離れて位置するように、ヒータの開口から遮蔽層表面までの距離が約5mmとなるように(焦点距離が約5mmとなるように)配置した。出力300Wで、少なくとも主接着用接着剤部分の温度が硬化狙い温度(主接着硬化狙い温度、後述)となるまで加熱した。これにより、ブラケットが合わせガラスに対して本固定された。
【0050】
(例2)
ブラケットをポリブチレンテレフタレート(PBT)製に替えたこと以外は例1と同様にして(ブラケットのサイズ、形状も例1と同様)、ブラケットに接着剤を塗布し、仮止め用接着剤部分を加熱した(第1加熱)後、合わせガラスに取り付け、さらに合わせガラスの遮蔽層を局所的に加熱した(第2加熱)。
【0051】
(例3)
ブラケットをポリカーボネート(PC)製に替えたこと以外は例1と同様にして(ブラケットのサイズ、形状も例1と同様)、ブラケットに接着剤を塗布し、仮止め用接着剤部分を加熱した(第1加熱)後、合わせガラスに取り付け、さらに合わせガラスの遮蔽層を局所的に加熱した(第2加熱)。
【0052】
(例4)
主として鉄製ではあるが表面にカチオン電着塗装が施されたセンサブラケット(長手方向長さ74mm、幅方向長さ3.8mm、接着面の面積320mm2)を使用した。センサブラケットの接着面全面に、例1と同様の二液変成シリコーン/エポキシ接着剤を塗布し、例1と同様、合わせガラスに配置した。接着剤の厚みは1.2mmになるようにした。ブラケットに接着剤を塗布し、仮止め用接着剤部分(長手方向に延在するフレーム部に塗布された接着剤部分)を加熱した(第1加熱)後、合わせガラスに取り付け、さらに合わせガラスの遮蔽層を局所的に加熱した(第2加熱)。
【0053】
(例5)
接着剤全体を、二液ウレタン接着剤(シーカハマタイト社製「WS222/B1」)に替えたこと以外は、例1と同様にして実験を行った。
【0054】
(例6)
接着剤全体を一液熱硬化ウレタン接着剤(サンスター社製「Penguin Cement #8800」)に替え、さらに接着剤を塗布する前にガラスの接着面にプライマー(サンスター社製「SC―241」)を塗布したこと以外は、例1と同様にして実験を行った。
【0055】
(例7)
主接着用接着剤部分は、例1で用いた二液変成シリコーン/エポキシ接着剤としたが、仮止め手段としては接着剤を用いず両面テープを用いた。それ以外の点は、例1と同様にして実験を行った。
【0056】
(例8)
主接着用接着剤部分は、例1で用いた二液変成シリコーン/エポキシ接着剤としたが、仮止め用接着剤部分として、ホットメルト接着剤(東亜合成社製「AS920」)を用いた。それ以外の点は、例1と同様にして実験を行った。ホットメルト接着剤は、射出機にホットメルト材料を装填し、高温の流動性のある状態にしてから射出した。
【0057】
(例9)
例1と同様に、二液変成シリコーン/エポキシ接着剤を用いたが、当該接着剤をブラケットの接着面に塗布した後、仮止め用接着剤部分の加熱(第1加熱)は行わずに、ブラケットの接着面を合わせガラスの遮蔽層に取り付け、遮蔽層を局所的に加熱した(第2加熱)。
【0058】
(例10)
加熱手段として、短波長赤外線ヒータに替えて熱風ヒータ(フィンテック社製「SAHD-15S」)を用いたこと以外は、例1と同様にして実験を行った。
【0059】
各例について、工程適用性及び品質の観点から評価を行った。各例の条件及び評価の結果は、表1に示す。
【0060】
<工程適用性に関する評価>
(加熱時間)
仮止め用接着剤の加熱を開始してから、仮止め用接着剤部分が仮止め用硬化狙い温度となるまでの時間を記録した。評価基準は以下の通りとした:
〇:60秒以下
×:60秒超
なお、「仮止め用硬化狙い温度」は次のようにして設定した。「仮止め用硬化狙い温度」は、仮止めのための加熱工程(第1加熱工程)において仮止め用接着剤部分が達すべき所望の温度である。使用される接着剤ごとに、複数の温度に対するゲル化時間を測定して、接着剤や被着体(部品)にダメージが出ない温度範囲で、最も高い温度となるゲル化温度を仮止め用硬化狙い温度とした。第1加熱工程は貼り合わせ前である為、ガラスへの熱ダメージの懸念が低く、比較的高い硬化狙い温度とする事ができる。なお、ゲル化時間の測定は、JIS K 6910:2007におけるゲル化時間A法に準拠した方法で測定した。表1には、各例の仮止め用硬化狙い温度も記載する。
【0061】
(オープンタイム)
オープンタイムは、各例において、ブラケットに接着剤を塗布し貼り合わせられる状態になってから合わせガラスの遮蔽層の表面にブラケットの接着面を接触させるまでの時間である。本開示においては、第1加熱工程(S12)が終わった時点から、合わせガラスの遮蔽層の表面にブラケットの接着面を接触させるまでの時間を指す。本評価では、オープンタイムを90秒以上とすることができるか、すなわち最大90秒のオープンタイムを取った場合、仮止め用接着剤部分が、接着剤としての機能を有し得るかを判断した。評価基準は以下の通りとした:
〇:最大90秒のオープンタイムが可能であった。
×:最大90秒のオープンタイムを取ることができなかった。
【0062】
(取り付け直後の強度)
仮止め用接着剤によって部品をガラス板に取り付けた後、直ちにせん断強度を測定した。せん断強度測定は、引張試験機(イマダ製、ZTS-500N)をブラケットの開口付近に引っ掛け、50mm/分で引っ張り、破断が生じた時に示された強度値を記録した。評価基準は以下の通りとした:
〇:破断時の強度値が30N以上
△:15以上30N未満
×:破断時の強度値が15N未満であった。
【0063】
(必要材料数)
ブラケット及び合わせガラス以外に必要となる材料の点数を評価した(カッコ内に必要な追加設備を記載)。評価基準は以下の通りとした:
〇:材料点数は1であった。
×:材料点数は2以上であった。
【0064】
(追加設備)
実施の際、例1と比較して(塗布機や加熱装置に加えて)、追加の設備が必要であったかを評価した(追加設備が必要であれば、カッコ内に記載)。評価基準は以下の通りとした:
〇:追加の設備は不要であった。
×:追加の設備は不要であった。
【0065】
<品質に関する評価>
(接着剤形状)
部品に塗布された接着剤の形状を、加熱前と加熱後(ガラス板への取り付け前)とで目視で比較した。評価基準は以下の通りとした:
〇:接着剤の形状には変化がなかった、又はほとんど変化がなかった。
×:接着剤の形状に変化があった。
【0066】
(部品ダメージ)
実験終了時に、ガラスに接着された部品の全体観察し、ダメージの有無を目視で確認した。評価基準は以下の通りとした:
〇:ダメージが確認されなかった。
×:ダメージが確認された。
【0067】
(ガラス温度上昇)
実験開始から第1加熱後に合わせガラスの遮蔽層の表面にブラケットの接着面を接触させるまで継続的に、ガラス板の温度を、ブラケット貼り付けの位置付近の黒セラ表面全体を測定し、温度上昇最大値(℃)を求めた。温度上昇最大値Δtmaxは、加熱前のガラス板の温度をt0、ガラス板の最高温度をt1として、t1-t0であった。評価基準は以下の通りとした:
〇:最大温度上昇値が50℃未満であった。
△:最大温度上昇値が50℃以上90℃以下であった。
×:最大温度上昇値が90℃超であった。
【0068】
【0069】
表1に示すように、ガラスサンプルへの取り付け前に接着剤の少なくとも一部を加熱した例1~例7及び例10では、製造のために必要な材料数を抑え、射出機のような追加設備の必要なしで、十分な仮止め接着ができた。さらに、取り付け前の接着剤の加熱(第1加熱)を無風で行った例1~例7では、全ての評価項目が良好であった。
【0070】
以上、本発明を実施形態及び実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施形態及び実施例によって限定されるものではない。また、上記実施形態は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、様々な変更、修正、置換、付加、削除、及び組合せ等が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に属する。