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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080423
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】ポリマー被覆シリカゲル粒子充填剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/281 20060101AFI20240606BHJP
   B01J 20/283 20060101ALI20240606BHJP
   B01J 20/289 20060101ALI20240606BHJP
   B01J 20/288 20060101ALI20240606BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240606BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20240606BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20240606BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240606BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240606BHJP
   B01D 15/08 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
B01J20/281 X
B01J20/283
B01J20/289
B01J20/288
G01N30/88 Q
B01J20/26 H
B01J20/26 L
B01J20/10 C
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01D15/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193599
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【弁理士】
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】門田 純平
(72)【発明者】
【氏名】目黒 友啓
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
【Fターム(参考)】
4D017AA11
4D017BA03
4D017CA14
4D017CB01
4D017DA03
4G066AA22C
4G066AB06B
4G066AB11B
4G066AB13B
4G066AC11C
4G066BA09
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA28
4G066BA38
4G066FA03
4G066FA07
4G066FA21
4G066FA31
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】アルカリ緩衝液中でのシリカ溶出を抑制可能なポリマー被覆シリカゲル粒子充填剤、及び前記充填剤を用いて糖化たんぱく質を分離可能な液体クロマトグラフィーを提供する。
【解決手段】以下の[1]~[3]の工程を経て作製されるボロン酸固定化ポリマー被覆シリカゲル粒子充填剤、及び前記充填剤を用いた液体クロマトグラフィー。
[1] 多孔質シリカゲル粒子表面に、有機又は無機リンカー材料を介し重合開始点を導入する工程、
[2] [1]で導入された重合開始点を起点に多孔質シリカゲル粒子表面にポリマー層を付与する工程、
[3] [2]で付与されたポリマーの主鎖及び/又は側鎖末端にボロン酸誘導体を導入する工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質シリカゲル粒子表面に、有機又は無機リンカー材料を介してポリマー層が形成されており、このポリマー層の主鎖及び/又は側鎖末端にボロン酸誘導体が結合していることを特徴とする、液体クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項2】
炭素数2~12の直鎖状及び/または環状を含むリンカーを介して、前記ボロン酸誘導体が結合していることを特徴とする、請求項1に記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項3】
アルカリ緩衝液(pH9)に対するシリカ溶出量が、15%未満であることを特徴とする、請求項1に記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項4】
細孔容量が0.10~0.65cm3/g_粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項5】
ボロン酸固定化量が1.0~15.0μmol/m2であることを特徴とする、請求項1に記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項6】
前記ボロン酸誘導体が3-アミノフェニルボロン酸であり、前記ボロン酸誘導体がアミド結合を介して結合していることを特徴とする、請求項1に記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の充填剤をカラムに充填してなる、液体クロマトグラフィー用カラム。
【請求項8】
請求項7に記載のカラムを用いた、糖化たんぱく質の測定方法。
【請求項9】
糖化たんぱく質が糖化ヘモグロビンである、請求項8に記載の測定方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィー用充填剤の製造方法であって、
[1] 多孔質シリカゲル粒子表面に、有機又は無機リンカー材料を介し重合開始点を導入する工程、
[2] [1]で導入された重合開始点を起点に多孔質シリカゲル粒子表面にポリマー層を付与する工程、
[3] [2]で付与されたポリマーの主鎖及び/又は側鎖末端にボロン酸誘導体を導入する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィー用途ポリマー被覆シリカゲル粒子充填剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ボロン酸アフィニティクロマトグラフィーは、分離担体上のボロン酸部位と糖化たんぱく質のcis-ジオール基間とで起こるボロン酸エステル形成・交換反応を利用した分離技術である。とくに、糖化されたヘモグロビンであるHbA1cを定量する糖尿病診断において、陽イオン交換クロマトグラフィー法が汎用されているが、糖尿病診断が困難な血色素異常症(異常ヘモグロビン症、サラセミア症)患者の場合には、異常ヘモグロビンなどの影響を受けることなくHbA1cが定量できるボロン酸アフィニティ法が利用される。このとき、HbA1cの分離に必要なボロン酸エステル形成・交換反応は、分離担体上のボロン酸部位にボロネートイオン(-B(OH)3-)を形成させる必要があることから、通常ボロン酸アフィニティ法では弱アルカリ緩衝液(pH8-9)が使用される(特許文献1)。
【0003】
ボロン酸アフィニティクロマトグラフィーの分離担体には、有機及び無機系担体が使用される。利用されている有機系担体は、天然物由来としてはアガロースやデキストランが、合成高分子由来としてはポリスチレン、エチレン-無水マレイン酸もしくはポリアクリルアミドなどである。一方、無機系担体としては多孔質シリカゲルが挙げられる。これら2種の分離担体はそれぞれ異なる性質を有しており、適切に使い分ける必要がある。具体的には、前者は化学的強度が強い一方で機械的強度が低く耐圧性に欠けることから、測定流速に制限がかかり高速分析が難しい場合がある。くわえて、疎水性の高いモノマーを使用しているポリスチレンやエチレン-無水マレイン酸等の合成高分子では、血中たんぱくをはじめとした生体関連物質の非特異吸着が懸念される。
【0004】
一方、後者の多孔質シリカゲルを用いた充填剤は、優れた耐圧性を有しているうえ、粒径・空孔制御が容易であることから高速・高分離性能評価が可能である。しかし、多孔質シリカゲルは化学的強度に乏しく、ボロン酸アフィニティ法で使用されるアルカリ環境下ではシリカ担体を構成するシリルエーテル結合の加水分解が進行するためカラムの寿命が短くなりやすいので、多孔質シリカゲルに耐アルカリ性を付与するために様々な表面修飾法が考案されてきた。
【0005】
たとえば、ジルコニア成分を担持させた系(特許文献2)や、シリコーン等の有機ケイ素成分を被覆させた系(特許文献3)が提案されてきたが、シリカに付与された耐アルカリ性能はいまだ不十分である。シリカ表面への担持量・被覆量をさらに増やすことで耐アルカリ性が向上することが期待できる一方で、シリカ表面のシラノール基量は減少してしまうため、分離担体の分離性能を損なうことなくこれを実施するのは必ずしも容易ではない。また、ボロン酸アフィニティ法において、分離担体表面の細孔径が糖化たんぱく質の認識に影響を与えることが報告されている(非特許文献1)。耐アルカリ性付与のためポリマー等の表面修飾量を増やすことは細孔径の狭小に起因するため、シリカ表面への修飾量を精密に制御できる手法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3050951号公報
【特許文献2】特許第2740810号公報
【特許文献3】特開2003-75421号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y.Chen et al.,Nanoscale,6,9563-9567(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アルカリ緩衝液中でのシリカ溶出の抑制が可能なシリカゲル粒子充填剤、及び前記充填剤を用いた液体クロマトグラフィーで糖化たんぱく質を分離する手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、多孔質シリカゲル粒子をポリマー層で被覆することにより、シリカ溶出が抑制され、なおかつ糖化たんぱく質の分離性能が損なわれないシリカゲル粒子充填剤が得られることを見い出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明は下記の発明を包含する:
1.多孔質シリカゲル粒子表面に、有機又は無機リンカー材料を介してポリマー層が形成されており、このポリマー層の主鎖及び/又は側鎖末端にボロン酸誘導体が結合していることを特徴とする、液体クロマトグラフィー用充填剤。
2.炭素数2~12の直鎖状及び/又は環状を含むリンカーを介して、前記ボロン酸誘導体が結合していることを特徴とする、1.に記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
3.アルカリ緩衝液(pH9)に対するシリカ溶出量が、15%未満であることを特徴とする、1.又は2.に記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
4.細孔容量が0.10~0.65cm3/g_粒子であることを特徴とする、1.~3.のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
5.ボロン酸固定化量が1.0~15.0μmol/m2であることを特徴とする、1.~4.のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
6.前記ボロン酸誘導体が3-アミノフェニルボロン酸であり、前記ボロン酸誘導体がアミド結合を介して結合していることを特徴とする、1.~5.のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
7.1.~6.のいずれかに記載の充填剤をカラムに充填してなる、液体クロマトグラフィー用カラム。
8.7.に記載のカラムを用いた、糖化たんぱく質の測定方法。
9.糖化たんぱく質が糖化ヘモグロビンである、8.に記載の測定方法。
10.1.~6.のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用充填剤の製造方法であって、
[1] 多孔質シリカゲル粒子表面に、有機又は無機リンカー材料を介し重合開始点を導入する工程、
[2] [1]で導入された重合開始点を起点に多孔質シリカゲル粒子表面にポリマー層を付与する工程、
[3] [2]で付与されたポリマーの主鎖及び/又は側鎖末端にボロン酸誘導体を導入する工程
を含む、方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、アルカリ緩衝液に対するシリカ溶出が抑制されたシリカゲル粒子充填剤を提供できる。すなわち、本発明では、シリカ表面へのポリマー被覆によって、ボロン酸アフィニティ法でのアルカリ条件下におけるシリルエーテル結合の分解を抑制させ、シリカゲル粒子充填剤に安定した分離性能を付与し、これがカラムの長寿命化をもたらす。また、本発明は、モノマー仕込み条件によってポリマー被覆量やポリマー組成を制御可能であるため、耐アルカリ性や細孔径、細孔容量といった細孔形状の異なる充填剤を提供できる。とくに、充填剤表面の細孔形状はアフィニティ分離に大きな影響を与えるため、目的物質に応じて高い分子認識性能を有する充填剤を提供できることは大きな利点となる。くわえて、化学的強度の低さから使用の避けられてきた、高い耐圧性を有するシリカゲル粒子の使用により高流速での分析が可能となることから、高速分析への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の糖化ヘモグロビン分離性能評価。
図2】実施例2の糖化ヘモグロビン分離性能評価。
図3】実施例3の糖化ヘモグロビン分離性能評価。
図4】比較例1の糖化ヘモグロビン分離性能評価。
図5】比較例2の糖化ヘモグロビン分離性能評価。
図6】比較例3の糖化ヘモグロビン分離性能評価。
図7】比較例4の糖化ヘモグロビン分離性能評価。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0014】
本明細書において、「耐アルカリ性」とは、ボロン酸アフィニティクロマトグラフィーに好適とされるアルカリ環境下、特にpH8-9のアルカリ環境下におけるシリカ(SiO2)溶出量の抑制効果を指す。シリカ溶出量は、前記アルカリ緩衝液中のSi元素量分析、JIS K0101(工業用水試験方法)で規定されるモリブデン黄吸光光度法を用いた比色法、アルカリ処理前後の重量差分等から算出されうる。カラムの長寿命化並びに糖化たんぱく質の安定した分離性能の観点から、例えばモリブデン黄吸光光度法を用いた比色法の場合、アルカリ緩衝液(pH9)に対するシリカ溶出量は、未修飾シリカゲル粒子に対して50%未満が好ましく、30%未満がさらに好ましく、15%未満が最も好ましい。
【0015】
本発明において、シリカゲル粒子に耐アルカリ性を付与するため、粒子表面には有機又は無機リンカー材料を介して、被覆層として1種又は2種以上のモノマー成分より構成されるポリマー層が形成される。モノマー成分としてとくに限定は無く、例えば(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-へキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(シクロ)アルキル(メタ)アクリレート類;2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、p-メトキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルコキシ(シクロ)アルキル(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多価(メタ)アクレート類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;2-シアノエチル(メタ)アクリレート、2-シアノプロピル(メタ)アクリレート、3-シアノプロピル(メタ)アクリレート等のシアノアクリレート類;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-アミノ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の置換ヒドロキシ(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジルメチルアクリレート、エポキシ化シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、エトキシ化フェニルアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類等の(メタ)アクリレート系モノマー、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-エチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、4-メトキシスチレン、4-エトキシスチレン、2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、4-クロロ-3-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、p-スチレンスルホン酸ナトリウム等のスチレン系モノマーが挙げられ、好ましくは2-シアノエチル(メタ)アクリレート、2-シアノプロピル(メタ)アクリレート、3-シアノプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジルメチルアクリレート、エポキシ化シクロヘキシル(メタ)アクリレートであり、特に好ましくはグリシジル(メタ)アクリレートである。ここで、シリカゲル粒子表面にポリマー層を導入するための有機又は無機リンカー材料は、シリカゲル粒子表面のシラノール基と結合可能な反応性官能基と、耐アルカリ性付与に必要なポリマーの重合開始点となる反応性官能基の少なくとも2種以上の反応性官能基を有した材料であり、例えば3-(トリメトキシシリルプロピル)2-ブロモ-2-メチルプロピオネート(BTS)、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられ、好ましくはBTS、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランであり、特に好ましくはBTSである。
【0016】
ポリマー被覆工程におけるモノマー仕込み量を変量することで、被覆するポリマー層の厚みを任意に選択可能となる。ポリマー層が薄いと耐アルカリ性能が十分ではなく、シリカ溶出による耐久性低下が懸念される。また、ポリマー層が厚いと粒子表面の疎水性が増大し、タンパクの非特異吸着が起こり分離性能低下が懸念される。耐アルカリ性の観点から、モノマー仕込み量は0.05M以上が好ましく、0.1M以上がさらに好ましく、0.5M以上が最も好ましい。また、分離性能の観点から、モノマー仕込み量は1.0M以下が好ましく、0.5M以下がさらに好ましく、0.1M以下が最も好ましい。
【0017】
側鎖に反応性官能基を有するモノマー成分を用いた場合、ポリマーの主鎖及び/又は側鎖末端へのリンカーを介したボロン酸誘導体の固定化が可能であり、ボロン酸固定化量を広範囲で制御可能となるため好ましい。本発明において、反応性官能基は、後述の炭素数2~12の直鎖状及び/又は環状を含むリンカーの導入点となり、例えば水酸基、ヒドロキシメチル基、アミノ基、アミノメチル基、カルボキシ基、ホルミル基等が挙げられ、好ましくは、アミノ基、アミノメチル基、カルボキシ基であり、特に好ましくはアミノ基である。
【0018】
本発明において、多孔質シリカゲル粒子に被覆したポリマーの主鎖及び/又は側鎖末端に対して、炭素数2~12の直鎖状及び/又は環状を含むリンカーが導入されてもよい。前記リンカーを導入することによって、ボロン酸誘導体を任意の結合様式で導入することが可能であり、また長鎖のリンカーを導入することで表面疎水性の向上も期待される。リンカーは特に限定されず、本発明においては6-アミノヘキサン酸である。
【0019】
本発明において、ボロン酸誘導体はホウ酸の水酸基の1つを炭化水素又はアリール基で置換した構造体の総称であり、糖のcis-1,2-ジオール構造と反応し環状エステルを生成する。ボロン酸誘導体の例としては、例えば、エチルボロン酸、ブチルボロン酸、シクロヘキシルボロン酸のようなアルキルボロン酸、1-シクロペンテニルボロン酸のようなアルケニルボロン酸、フェニルボロン酸、ビフェニルボロン酸、ナフタレンボロン酸のようなアリールボロン酸が挙げられ、前記エステル形成に特に好適のため、フェニルボロン酸の使用が好ましい。
【0020】
ボロン酸誘導体には、ポリマー被覆粒子の表面修飾に要する反応性官能基が導入される。前記反応性官能基として、水酸基、ヒドロキシメチル基、アミノ基、アミノメチル基、カルボキシ基、ホルミル基等を用いることができ、好ましくはアミノ基である。
【0021】
本発明において、ボロン酸固定化ポリマー被覆シリカゲル粒子の粒径は、目的によって異なるが、例えば2~10μmであり、高速・高分離性能発現に好適のため10μm以下が好ましく、5μm以下がさらに好ましく、3μm以下が最も好ましい。また、細孔容量としては、目的によって異なるが、例えば0.05~0.70cm3/g_粒子であり、好ましくは0.10~0.65cm3/g_粒子である。分離対象物質が糖化ヘモグロビンの場合、分離性能に好適のため0.10cm3/g以上が好ましく、0.20cm3/g以上がさらに好ましく、0.50cm3/g以上が最も好ましい。また、アルカリ緩衝液へのシリカ溶出抑制に好適であることから、0.70cm3/g以下が好ましく、0.60cm3/g以下が最も好ましい。
【0022】
本発明において、ボロン酸固定化量は、例えば0.3~50μmol/m2であり、好ましくは1.0~15.0μmol/m2である。
【0023】
本発明において、糖化たんぱく質の測定は公知の方法で実施することができ、例えば、特開2020-146622号公報に記載の方法により実施することができる。測定できる糖化たんぱく質としては、特に限定されるものではないが、糖化ヘモグロビン、シチジン、ウリジン、グアノジン、アデノシンが挙げられ、本発明の方法は糖化ヘモグロビンの測定に特に適している。
次に、本発明の液体クロマトグラフィー用充填剤の製造方法について説明する。
本発明の液体クロマトグラフィー用充填剤は、特に限定されないが、多孔質シリカゲル粒子表面に、有機又は無機リンカー材料を介し重合開始点を導入し、導入された重合開始点を起点に多孔質シリカゲル粒子表面にポリマー層を付与し、付与されたポリマーの主鎖及び/又は側鎖末端の官能基に炭素数2~12の直鎖状及び/又は環状を含むリンカーを導入してもよく、導入されたリンカーを介してボロン酸誘導体を導入することで製造することができる。例えば、以下の反応スキームで例示されるように充填剤を製造することができる。
【0024】
【化1】
【0025】
[1] アルコール及び塩基触媒下にて、例えばBr基を有するシランカップリング剤、(3-トリメトキシシリルプロピル)2-ブロモ-2-メチルプロピオネート(BTS)を反応させ、重合開始点を導入する。
[2] 導入された重合開始点を起点に、例えば(メタ)アクリレート系モノマー、グリシジルメタクリラート(GMA)を用いて原子移動ラジカル重合(ATRP法)によって、多孔質シリカゲル粒子表面にポリマー層を付与する。
[3] DMSO及び塩基触媒下にて、例えば6-アミノヘキサン酸を反応させ、付与されたポリマーの主鎖及び/又は側鎖末端の官能基にリンカーを導入する。
[4] リンカー末端のカルボキシ基に、例えばアミノ基を有するボロン酸誘導体、3-アミノフェニルボロン酸(APBA)をアミドカップリングによって反応させ、リンカーを介してボロン酸誘導体を導入する。
【実施例0026】
以下、本発明を実施するための形態を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。また本発明の要旨の範囲内で適宜に変更して実施することができる。なお、断りのない限り試薬は市販品を用いた。
【0027】
[ポリマー導入量の算出]
ポリマー被覆シリカゲル粒子ポリマー導入量は以下の方法で実施した。
ポリマー被覆シリカゲル粒子を3倍量のメタノールで2回洗浄し、窒素気流下で24時間静置して乾燥させたものを測定試料として用いた。試料10mgをAl製試料カップ(GAA-0068、日立ハイテク製)に秤量し、示差熱熱重量同時測定装置(NEXTA STA200、日立ハイテク製)にて以下の条件で熱分析を実施した。
〈測定条件〉
・昇温プログラム:40-550℃(10℃/min)
・ガス流量:Air 100mL/min、N2 100mL/min
・サンプリング時間:0.5 s-1
【0028】
上記操作を未修飾シリカゲル粒子でも同様に実施し、両者の測定結果より次式に従ってポリマー導入量を算出した。
ポリマー導入量(g/粒子1g)={(TG40℃-TG500℃)/m}-{(TG40℃,未修飾-TG500℃、未修飾)/m未修飾
m:試料重量(g)
未修飾:未修飾シリカゲル粒子重量(g)
TG40℃:40℃における試料重量(g)
TG500℃:500℃における試料重量(g)
TG40℃、未修飾:40℃における未修飾シリカゲル粒子重量(g)
TG500℃、未修飾:500℃における未修飾シリカゲル粒子重量(g)
【0029】
[耐アルカリ性試験]
ポリマー被覆シリカゲル粒子の耐アルカリ性試験は以下の方法で実施した。
1.5mL PPチューブ(Eppendorf社製)にポリマー被覆シリカゲル粒子を10~20mg秤量し、ボロン酸アフィニティ法で使用されるアルカリ緩衝液(pH9)を1mL添加し分散させた。その後40℃で24時間攪拌した後、遠心分離(3,000g、5分)で上澄み液を回収した。この上澄み液を超純水で10倍希釈したものを測定試料として用いた。測定試料に6N HCl溶液を20μL、次いで100g/L 七モリブデン酸六アンモニウム水溶液を40μL添加し、よく混合した後5分間静置した。所定時間静置後、400nmにおける吸光度を測定した。上記操作を未修飾シリカゲル粒子でも同様に実施した。各吸光度値より、次式に則ってポリマー被覆シリカゲル粒子のアルカリ耐性値に相当するシリカ溶出量(%)を算出した。
シリカ溶出量(%)=(A1/A0)×100
1:ポリマー被覆シリカゲル粒子の400nmにおける吸光度値
0:未修飾シリカゲル粒子の400nmにおける吸光度値
【0030】
[比表面積・細孔容量測定]
ポリマー被覆シリカゲル粒子の比表面積及び細孔容量は、窒素ガス吸脱着測定を行い、それぞれBET法、BJH法を用いて解析した。
【0031】
[ボロン酸固定化量の定量]
ボロン酸固定化ポリマー被覆シリカゲル粒子を加圧酸分解した後、ICP-AES測定により粒子中のホウ素存在比を算出した。算出したホウ素量から、次式に従って単位面積当たりのボロン酸固定化量を算出した。
B={(b/100)/A}/M×106
B:ボロン酸固定化量(μmol/m2_粒子)
b:ホウ素存在比(wt%)
A:ポリマー被覆粒子の比表面積(m2/g_粒子)
M:ホウ素の原子量、10.8(g/mol)
【0032】
[糖化ヘモグロビンの分離性能評価]
糖化ヘモグロビンの分離性能評価は以下の条件で行った。
溶離液A:50mM グリシン、500mM NaCl含有リン酸緩衝液(pH9.5)
溶離液B:50mM EDTA、100mM ソルビトール含有リン酸緩衝液(pH8.0)
流速:1.5mL/分
モニター波長:415nm
グラジエント:溶離液A(0-1.0分)、溶離液B(1.0-4.0分)
ボロン酸固定化ポリマー被覆シリカゲル粒子を20wt%となるように溶離液Aに分散し、ステンレス製カラム(φ4.6mm×3.5mm)に添加後、流速5.0mL/分で10分間通液してカラムを調製した。
調製したカラムを高速液体クロマトグラフ(Prominence、(株)島津製作所製)につなぎ、前述の条件で血液成分を分離した。
【0033】
それぞれの結果を下表1及び図に示す。
【0034】
[実施例1]
50mL二口フラスコに、多孔質シリカゲル粒子(比表面積:120m2/g_粒子、細孔径:60nm、細孔容量:1.10cm3/g_粒子)を4g秤量し、次いで2-プロパノール 28mLを添加し、1分間超音波分散させた。スクリュー管に3-(トリメトキシシリルプロピル)2-ブロモ-2-メチルプロピオネート(BTS)2gを秤量し、次いで2-プロパノール 4mL/g_粒子を添加しよく混合した後、前述の二口フラスコに全量添加し、200rpm下で5分間攪拌した。スクリュー管に20% NH3水溶液(富士フィルム和光純薬工業(株))1.4mLを秤量し、次いで2-プロパノール 4mLを添加しよく混合した後、全量二口フラスコに添加した。添加後、65℃に加温した水浴に設置し3時間反応させた。反応終了後、室温まで放冷した後濾別した。その後、ゲル5倍量の超純水で計3回洗浄し、次いでゲル5倍量のメタノールで計3回洗浄して、重合開始点導入シリカゲル粒子を得た。
【0035】
次に、乾燥させた200mL二口フラスコに、得られた重合開始点導入シリカゲル粒子を2g秤量し、次いでメタクリル酸グリシジル(東京化成工業(株))、臭化銅(II)及び2,2-ビピリジルをそれぞれ終濃度0.05M、0.002mM、0.02mMとなるように秤量した。窒素置換を3回実施後、2-プロパノールを80mL添加して攪拌溶解させた。溶解後、前述の二口フラスコに全量添加し、1分間超音波分散させた。その後10分間N2パージした後、5分間攪拌させた。また、100mLナスフラスコにアスコルビン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬(株))を終濃度0.02Mとなるように秤量し、窒素置換を3回実施後、超純水を20mL添加して攪拌溶解させた。溶解後、前述のフラスコに全量添加し、45℃に加温した水浴に設置し、3時間反応させた。反応終了後、室温まで放冷した後濾別した。その後、ゲル5倍量の超純水で計3回洗浄し、次いでゲル5倍量のメタノールで計3回洗浄して、ポリマー被覆シリカゲル粒子を得た。
【0036】
続いて、100mLナスフラスコに、得られたポリマー被覆シリカゲル粒子を2g秤量し、次いで6-アミノヘキサン酸 0.5g、ジメチルスルホキシド(DMSO) 50mLを添加した後、1分間超音波分散させた。その後、トリエチルアミン 0.5gを滴下し、50℃、300rpm攪拌下で5時間反応させた。反応終了後、室温まで放冷した後濾別し、ゲル5倍量のメタノールで計5回洗浄して、カルボキシ化ポリマー被覆シリカゲル粒子を得た。
【0037】
100mLナスフラスコに、カルボキシ化ポリマー被覆シリカゲル粒子を2g秤量した。スクリュー管に3-アミノフェニルボロン酸(APBA) 0.5gを秤量し、DMSO 10mLで溶解させた。別のスクリュー管に1-エチル-3-(-3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC) 0.45g、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS) 0.35gを秤量し、0.1M MES緩衝液(pH6.0) 40mLで溶解させた。前述のフラスコにEDC/NHS溶液を全量添加し、1分間超音波分散行った後、室温、300rpm攪拌下で1時間反応させ、カルボキシ基を活性化させた。その後、前述のフラスコにAPBA溶液を全量添加し、室温、300rpm攪拌下で24時間反応させた。反応終了後、濾別してゲル5倍量のメタノールで計5回洗浄し、アミド結合型ボロン酸固定化ポリマー被覆シリカゲル粒子を得た。
【0038】
実施例1の表面修飾粒子は、未修飾シリカゲル粒子の比表面積及び細孔容量の50%以上を維持しつつ、シリカの溶出が抑制され、すなわち優れたアルカリ耐性を示した。また、実施例1のカラムを用いた場合、非糖化成分と糖化成分とが分離され、さらにピーク形状も良好だった(図1)。糖化率の異なる血液試料を用いた場合に定量性も確認された。
【0039】
[実施例2]
ポリマー被覆工程において、モノマー仕込み量を0.1Mとした以外は実施例1と同様にして行った。実施例2の表面修飾粒子は、実施例1と同様にアルカリ耐性が向上し、また非糖化成分と糖化成分とが分離され、ピーク形状も良好だった(図2)。
【0040】
[実施例3]
ポリマー被覆工程において、モノマー仕込み量を0.5Mとした以外は実施例1と同様にして行った。実施例3の表面修飾粒子は、大幅にアルカリ耐性が向上し、また非糖化成分と糖化成分とが分離され、ピーク形状も良好だった(図3)。
【0041】
[比較例1]
ポリマー被覆工程において、モノマー仕込み量を4.0Mとした以外は実施例1と同様にして行った。比較例1の表面修飾粒子は、実施例3と同程度のアルカリ耐性を示したが、高ポリマー導入量による細孔損失が確認された。糖化ヘモグロビンの分離ピークは実施例1~3と比較してブロード化しており、糖化ヘモグロビン認識能の低下が示された(図4)。
【0042】
[比較例2]
ポリマー被覆工程において、メタクリル酸メチルをモノマーとして使用し、モノマー仕込み量を0.1Mとした以外は実施例1と同様にして行った。比較例2の表面修飾粒子は、ポリマー導入量が少なく実施例1~3と比較して低アルカリ耐性であった。また、糖化ヘモグロビン由来ピークに定量性はなく、非特異吸着が顕著に観察された(図5)。
【0043】
[比較例3]
ポリマー被覆工程において、メタクリル酸メチルをモノマーとして使用し、モノマー仕込み量を1.0Mとした以外は実施例1と同様にして行った。比較例3の表面修飾粒子は、高アルカリ耐性であったが、糖化ヘモグロビン認識能が確認されなかった(図6)。
【0044】
[比較例4]
ポリマー被覆工程までは実施例2と同様にして行った。ポリマー被覆シリカゲル粒子を100mLナスフラスコに2g秤量し、次いでAPBA 0.5g、DMSO 50mLを添加した後、1分間超音波分散させた。その後、トリエチルアミン 0.5gを滴下し、50℃、300rpm攪拌下で5時間反応させた。反応終了後、室温まで放冷した後濾別し、ゲル5倍量のメタノールで計5回洗浄し、エポキシ開環型ボロン酸固定化ポリマー被覆シリカゲル粒子を得た。比較例4の表面修飾粒子を用いた場合、糖化ヘモグロビン認識能は確認されなかった(図7)。
【0045】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7