(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080436
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】銅粉
(51)【国際特許分類】
B22F 1/102 20220101AFI20240606BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240606BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240606BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240606BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
B22F1/102
B22F1/00 L
B22F1/05
B22F9/00 A
B22F9/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193622
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森脇 和弘
(72)【発明者】
【氏名】前西原 修
(72)【発明者】
【氏名】船橋 泰知
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA01
4K017CA01
4K017DA08
4K017EJ02
4K017FB07
4K018BA02
4K018BB04
4K018BC29
4K018BD04
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】優れた低温焼結性を有する銅粉を提供する。
【解決手段】銅粉は、BET比表面積が1.0m2/g~10.0m2/gであり、分子量が500以下である有機物と、ポリエーテル及び/又はポリオールとを含有するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が1.0m2/g~10.0m2/gであり、
分子量が500以下である有機物と、ポリエーテル及び/又はポリオールとを含有する銅粉。
【請求項2】
前記ポリエーテルとして、下記一般式(1)で表される化合物、及び/又は、下記一般式(2)で表される化合物を含有する請求項1に記載の銅粉。
RO(C2H4O)nH (1)
(一般式(1)中、Rは、H又は、C4~18の飽和もしくは不飽和炭化水素であり、nは2~30の整数である。)
RO(C3H6O)nH (2)
(一般式(2)中、Rは、H又は、C4~18の飽和もしくは不飽和炭化水素であり、nは2~30の整数である。)
【請求項3】
前記分子量が500以下である有機物が、カルボン酸、カルボン酸塩、グルコース、マルトース、スクロース及びラクトースからなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載の銅粉。
【請求項4】
前記分子量が500以下である有機物が、クエン酸及び/又はクエン酸塩を含有する請求項1又は2に記載の銅粉。
【請求項5】
アルキル鎖を有する前記ポリエーテルを含有する請求項1又は2に記載の銅粉。
【請求項6】
前記ポリオールとして、グリセリンを含有する請求項1又は2に記載の銅粉。
【請求項7】
炭素含有量が0.15質量%~1.00質量%である請求項1又は2に記載の銅粉。
【請求項8】
不活性ガス中での焼結開始温度が300℃以下である請求項1又は2に記載の銅粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、銅粉に関する技術を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、粒径が1μm以下であるサブミクロンサイズの銅粉は、導電性ペーストに含ませた状態で、積層セラミックコンデンサないしインダクタその他の電子部品の内外電極用材料や、インクジェット配線の製造に使用することがある。
【0003】
銅粉を含む導電性ペーストは、回路の形成や半導体素子と基板との接合等を目的として、基板上に印刷して加熱され、銅粉を焼結させることに用いられる。導電性ペーストに用いる銅粉は、低温で焼結すること、すなわち低温焼結性が要求され得る。低温で焼結する銅粉は、高温で焼結するものよりも加熱時のコスト面で有利である他、耐熱性の低い基板に対しても適用できるからである。
【0004】
これに関連する技術としては、たとえば特許文献1に記載されたものがある。特許文献1には、「優れた低温焼結性を有する銅粉」を提供するとの課題の下、「固めかさ密度が1.30g/cm3~2.96g/cm3であり、銅粒子の体積基準の粒子径ヒストグラムで累積頻度が50%になるときの50%粒子径D50と、当該銅粉に対する粉末X線回折法で得られるX線回折プロファイル中のCu(111)面の回折ピークから、シェラーの式を用いて求めた結晶子径Dとが、D/D50≧0.060を満たす銅粉」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された銅粉は、比較的低い温度で焼結できるものであるが、それとは異なる手法ないし観点で銅粉の低温焼結性を有効に高めることが求められる場合がある。
【0007】
この明細書では、優れた低温焼結性を有する銅粉を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この明細書で開示する銅粉は、BET比表面積が1.0m2/g~10.0m2/gであり、分子量が500以下である有機物と、ポリエーテル及び/又はポリオールとを含有するものである。
【発明の効果】
【0009】
上述した銅粉は、優れた低温焼結性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られた銅粉のSEM画像である。
【
図2】実施例2で得られた銅粉のSEM画像である。
【
図3】実施例4で得られた銅粉のSEM画像である。
【
図4】比較例1で得られた銅粉のSEM画像である。
【
図5】比較例2で得られた銅粉のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、上述した銅粉の実施の形態について詳細に説明する。
一の実施形態の銅粉は、BET比表面積が1.0m2/g~10.0m2/gである。銅粉は比表面積がある程度大きく、粒径が小さいほど、焼結が低温域で起こりやすくなる傾向がある。
【0012】
また、この銅粉は、分子量が500以下である有機物(以下、「低分子有機物」ともいう。)と、ポリエーテル及び/又はポリオールとを含有するものである。銅粉中のポリエーテルやポリオールは加熱されて熱分解する際に、銅粉の表面に生成していた銅の酸化物を還元し、それによって表面の酸化物が取り除かれた銅粉は、低い温度にて焼結が促進すると考えられる。なお実際に、銅粉の焼結体をX線回折法で分析したところ、銅粉に存在していた銅の酸化物が還元されていることが確認された。また、熱分析等で、ポリエーテルやポリオールの分解温度と銅粉の焼結温度とがほぼ一致することも確認している。
そして、低分子有機物は、銅粉の凝集抑制効果がある。そのような低分子有機物が銅粉の製造時に添加されると、低分子有機物によって分散した銅粒子の大部分に、上記のポリエーテルやポリオールが十分に付着すると推測される。これにより、ポリエーテルやポリオールによる低温焼結効果が顕著に発揮され得る。したがって、銅粉は、低分子有機物と、ポリエーテル及び/又はポリオールとの両方を含むことが、低温焼結性の向上の観点から肝要である。加えて、低分子有機物は分子量が500以下であり、熱分解時に、銅粉の焼結を阻害し得る炭素の残留量が少ない。
【0013】
それらの結果として、この実施形態の銅粉は、低温焼結性に優れたものになると考えられる。但し、上述したような理論に限定されるものではない。
【0014】
(比表面積)
銅粉のBET比表面積は、1.0m2/g~10.0m2/gである。このようにBET比表面積がある程度大きい銅粉は、粒径が小さく、不活性ガス中での焼結開始温度が比較的低いものである。なお、BET比表面積が大きすぎる場合は、耐酸化性を担保することが難しく、また吸湿や凝集などにより、導電性ペースト等のペースト特性に問題が生じることが懸念される。この観点から、銅粉のBET比表面積は、2.0m2/g~7.0m2/gであることがより一層好ましい。
【0015】
銅粉のBET比表面積の測定は、JIS Z8830:2013に準拠し、たとえばマイクロトラック・ベル社のBELSORP-mini IIを用いて行うことができる。より詳細には、銅粉の3gのサンプルについて真空中にて70℃の温度で5時間にわたって脱気した後、窒素吸着等温線を測定し、それにより得られた結果をBET法で解析することで、BET比表面積が算出される。
【0016】
(組成)
銅粉は、大部分が銅であり、さらに、低分子有機物と、ポリエーテル及び/又はポリオールとを含有するものである。典型的には、銅粉は、その銅粒子の表面の少なくとも一部が、低分子有機物と、ポリエーテル及び/又はポリオールとで被覆されたものである。
【0017】
銅粉は低分子有機物を含有することにより、上述したように凝集が抑制されて、分散性が高いものになる。銅粉の製造時のポリエーテル及び/又はポリオールの表面処理が施される際に、低分子有機物が含まれていると、ポリエーテル及び/又はポリオールが有効に付着した銅粉が得られる。ポリエーテルやポリオールは、銅粉の低温焼結性の向上をもたらすものであり、ポリエーテル及び/又はポリオールだけでなく低分子有機物をも含む銅粉は、ポリエーテルやポリオールによる焼結の低温化が有効に達成されたものになる。
【0018】
また、低分子有機物は、分子量が500以下であって、酸素含有量が50質量%以上である場合があり、炭素をそれほど含まないものである。このため、焼結のために銅粉を加熱したとき、低分子有機物が熱分解した際に残留する炭素は比較的少量となり、焼結の妨げとなり難い。
【0019】
なお参考として、低分子有機物の具体例の酸素含有量を以下に示す。
グルコース(C6H12O6):53.29質量%
ガラクトース(C6H12O6):53.29質量%
マンノース(C6H12O6):53.29質量%
マルトース(C12H22O11):51.42質量%
スクロース(C12H22O11):51.42質量%
ラクトース(C12H22O11):51.42質量%
クエン酸(C6H8O7):58.29質量%
酢酸(C2H4O2):53.29質量%
リンゴ酸(C4H6O5):59.66質量%
マロン酸(C3H4O4):61.50質量%
コハク酸(C4H6O4):54.19質量%
フマル酸(C4H4O4):55.14質量%
酒石酸(C4H6O6):63.96質量%
グルコン酸(C6H12O7):57.10質量%
ギ酸(CH2O2):69.52質量%
シュウ酸(C2H2O4):71.08質量%
アコニット酸(C6H6O6):55.14質量%
ピルビン酸(C3H4O3):54.50質量%
オキサロ酢酸(C4H4O5):60.57質量%
乳酸(C3H6O3):53.29質量%
アスコルビン酸(C6H8O6):54.50質量%
【0020】
銅粉は、低分子有機物のなかでも、カルボン酸、カルボン酸塩、グルコース、マルトース、スクロース及びラクトースからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。それにより、凝集を抑制しつつ、焼結が阻害されない銅粉とすることができる。
【0021】
上述した低分子有機物のうち、カルボン酸は、銅粉の製造時に添加されると、銅に配位して反応速度ないし銅粒子の成長速度を低下させる。これにより、銅粉は、粒子形状が球形に近くなり、粒度分布が狭くなる他、凝集が少ないものになる。それ故に、銅粉は、低分子有機物のなかでもカルボン酸を含有することが好適である。
【0022】
カルボン酸として具体的には、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、メバロン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、グルコン酸、ギ酸、シュウ酸、アコニット酸、ピルビン酸、オキサロ酢酸、乳酸、それらの塩等が挙げられる。特に銅粉は、低分子有機物としてクエン酸及び/又はクエン酸塩を含有することがより一層好ましい。クエン酸やクエン酸塩は、凝集を抑制しつつ、焼結を阻害しない効果が高い。
【0023】
なお、銅粉は、アラビアゴム等の高分子有機物(分子量が500を超える有機物)を含まないことが望ましい。高分子有機物は、加熱時の熱分解で多量の炭素の残留を招き、これが比較的低温での銅粉の焼結を阻害するおそれがあるからである。
【0024】
銅粉は、上記の低分子有機物の他、ポリエーテル及び/又はポリオールを含有するものである。銅粉中のポリエーテルやポリオールは加熱時に、銅粉の表面に自然に生成され得る酸化銅を銅に還元するべく作用する。これにより、低温での銅粉の焼結が促進される。ポリエーテルやポリオールは、低分子有機物よりも銅粉表面の還元力が強いと考えられる。
【0025】
銅粉がポリエーテルを含有する場合、そのポリエーテルは、一般式(1):RO(C2H4O)nH(Rは、H又は、C4~18の飽和もしくは不飽和炭化水素であり、nは2~30の整数である。)で表される化合物、及び/又は、一般式(2):RO(C3H6O)nH(Rは、H又は、C4~18の飽和もしくは不飽和炭化水素であり、nは2~30の整数である。)で表される化合物を含むことが好ましい。銅粉が上記一般式(1)や一般式(2)の化合物を含有する場合、比較的低温で銅酸化物を還元することができる。一般式(1)の化合物としては、HO(C2H4O)nHのポリエチレングリコール、H2m+1CmO(C2H4O)nH(m:4~18の整数)のポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。また、一般式(2)の化合物としては、HO(C3H6O)nHのポリプロピレングリコール、H2m+1CmO(C3H6O)nH(m:4~18の整数)のポリオキシプロピレンアルキルエーテル等が挙げられる。また、ポリオキシエチレン部位とポリオキシプロピレン部位が組み合わさった、H2m+1CmO(C2H4O)n(C3H6O)lHのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等も挙げられる。
【0026】
銅粉に含有され得るポリエーテルは、アルキル鎖(すなわち直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基)を有することが好適である。アルキル鎖を有するものであれば、ペースト中での銅粉の分散性が向上する。アルキル鎖は疎水性の官能基であるため、ペーストの、同じく疎水性である有機溶媒との馴染みが良いからである。そのため、アルキル鎖を有する銅粉を、有機溶媒と混合した場合、銅粉の分散状態を長時間維持することができると考えられる。
【0027】
また、銅粉はポリオールを含有するものであってもよい。ポリオールとしては、グリセリン(グリセロール)、ポリグリセリン、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ペンタエリトリオール、ジペンタエリトリオール等が挙げられる。
【0028】
銅粉が、低分子有機物やポリエーテル、ポリオールを含有することは、赤外分光法や質量分析法等によって確認することができる。
【0029】
赤外分光法による同定では拡散反射法が用いられ、以下の測定条件とすることができる。
測定機種:日本分光株式会社製のFT/IR-6700
測定法:拡散反射法
積算回数:オート
分解:4cm-1
波長:400~4000cm-1
【0030】
銅粉が、先述した一般式(1)や一般式(2)で表されるポリエーテルを含有する場合、上記の赤外分光法を用いると、飽和炭化水素(アルキル基)に由来するピークが3000~2840cm-1に検出され、エーテル結合に由来するピークが1260~1000cm-1に検出される。したがって、これにより、銅粉がポリエーテルを含有すると判断することができる。また、低分子有機物のうちのカルボン酸やカルボン酸塩に由来するピークは、1500~1750cm-1に検出されるので、銅粉がカルボン酸やカルボン酸塩を含有するかどうかについても確認可能である。
【0031】
また、質量分析法による同定では、液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析計(LC-TOF/MS)を用いることができる。これにより、銅粉がポリオールや低分子有機物を含有するものであるかどうかを確認可能である。測定条件は次のとおりである。10mmol/Lの酢酸アンモニウム水溶液とアセトニトリルとを混合した溶液に銅粉を入れ、振とう機および超音波洗浄機による抽出操作を行い、遠心分離で銅粉と抽出液とに分離し、シリンジフィルターろ過により抽出液を採取する。この抽出液をLC-TOF/MSにて測定する。カラムには、Hypersil GOLD(C18)を用い、移動相は10mmol/Lの酢酸アンモニウム水溶液からアセトニトリルへと変化させるように導入し、カラム温度は40℃とすることができる。Negativeイオン検出モードにおいて、m/z値500以下のピークが検出された場合、銅粉は分子量500以下の有機物を含有していると言える。また、一例としてPositiveイオン検出モードにおいてC3H8O3にイオン付加されたピークが検出された場合、銅粉は、ポリオールの一種であるグリセリンを含有していると言える。
【0032】
銅粉は、炭素含有量が0.15質量%~1.00質量%であることが好ましい。銅粉中の炭素には、低分子有機物に由来するものと、ポリオール及び/又はポリエーテルに由来するものが含まれる。銅粉の炭素含有量が少なすぎる場合、低温焼結に必要な低分子有機物及び/又は、ポリオールないしポリエーテルが不足している可能性がある。一方、炭素含有量が多すぎると、銅粉の焼結後に炭素の残留量が多くなり、焼結性が低下することや、低抵抗の妨げとなることが懸念される。この観点から、銅粉の炭素含有量は、0.15質量%~0.70質量%であることがより一層好ましい。
【0033】
銅粉の炭素含有量は、高周波誘導加熱炉燃焼-赤外線吸収法により測定する。具体的には、LECO製CS844型等の炭素硫黄分析装置を用いて、助燃剤をLECO製LECOCEL II及びFeチップとし、検量線にスチールピンを使用して、銅粉の炭素含有量を測定することができる。
【0034】
(焼結開始温度)
上述したような銅粉は、不活性ガス中で加熱した場合、比較的低い温度で焼結し、たとえば焼結開始温度が300℃以下になることがある。銅粉の不活性ガス中での焼結開始温度は、好ましくは250℃以下である。
【0035】
上記の焼結開始温度は、熱機械分析(TMA;Thermomechanical Analysis)を用いて測定する。具体的には、直径5mmの穴が開いたペレットダイに銅粉(約0.3g)を入れ、1kNの力で圧縮し、円柱状(高さ:約3mm、直径:約5mm)の銅粉ペレットを作製する。その高さをマイクロメーターで測定し、これを初期高さとする。このペレットを、熱機械分析装置(NETZSCH社製、TMA3000)にセットし、N2雰囲気下で10g重の荷重をかけながら、10℃/分の昇温速度で室温から700℃まで昇温する。このとき、1秒毎にペレット高さを測定し、初期高さから2%収縮した時の温度を焼結開始温度とする。
【0036】
(製造方法)
銅粉を製造するには、化学還元法や不均化法等の液相法その他の種々の手法を採用することができるが、たとえば液相法の場合、所定の有機物を添加すること、並びに、好ましくは反応により銅粒子が生成した後に、銅粒子を表面処理剤と接触させることが重要である。以下に、化学還元法を採用する場合の具体例について詳説する。
【0037】
化学還元法では、硫酸銅等の銅塩、低分子有機物(分子量が500以下である有機物)、還元剤及び、アルカリを液中で混合して反応させることにより、銅粒子を生成させ、銅粒子を含む銅スラリーを得る工程を行う。低分子有機物は、先述したとおりであり、たとえばクエン酸や、クエン酸ナトリウムやクエン酸カリウム等のクエン酸塩が含まれる。還元剤としては、ヒドラジンや水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられ、また、アルカリとしては、水酸化ナトリウムやアンモニア等が挙げられる。
【0038】
この工程のより詳細な一例としては、硫酸銅水溶液を、適切な反応温度に昇温した後、水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水溶液でpHを調整した後、ヒドラジン水溶液を一気に添加して反応を行い、硫酸銅を粒径100nm程度の亜酸化銅粒子へ還元する。亜酸化銅粒子を含む亜酸化銅スラリーを反応温度に昇温した後、水酸化ナトリウムとヒドラジンとを含む水溶液を滴下し、さらにその後にヒドラジン水溶液を滴下することで亜酸化銅粒子を銅粒子へ還元させる。
【0039】
次いで、上記の銅スラリーを洗浄し、洗浄後銅スラリーを得る工程を行う。洗浄方法は特に限らないが、フィルタープレスやデカンテーション等を採用可能である。
【0040】
次いで、上記の洗浄後銅スラリーに、たとえばポリオキシエチレンアルキルエーテル等の表面処理剤を添加し、洗浄後銅スラリー中の銅粒子に表面処理を施す。このとき、洗浄後銅スラリーに含まれる低分子有機物により、銅粒子の凝集が抑制されるので、多数の銅粒子のほぼ全体が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等によって有効に処理される。銅粒子が凝集している場合、凝集している箇所は銅粒子どうしが接触しているため、表面処理が十分に施されない。
【0041】
このように表面処理は、銅粒子が生成する反応後に行うことが好適である。反応時にポリオキシエチレンアルキルエーテルを添加すると、発泡により反応容器から液体が溢れ出すおそれがある。還元剤としてヒドラジンを用いる場合は、安全性の観点から発泡は望ましくない。消泡剤を使用した場合は、そのコストが嵩む他、消泡剤の成分が銅粉に残留して、焼結特性やペースト分散性に影響を及ぼす可能性がある。
【0042】
表面処理剤は、スラリー中で銅粒子と均一に接触させるため、水溶性のポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。非水溶性のものではスラリーと分離し、均一に混合できないことや、付着量のコントロールができなくなることが懸念される。
【0043】
次いで、表面処理後銅スラリーを乾燥させ、乾燥粉末を得る工程を行う。乾燥方法は特に限らないが、表面処理剤の付着量を制御する観点から全量乾燥できる方法、たとえば、スプレードライ乾燥、FMミキサー、真空乾燥、真空加熱乾燥、又は、不活性ガス雰囲気下の加熱乾燥等が好ましい。
【0044】
次いで、ジェットミル、遊星ボールミル又は乳鉢等を用いて、乾燥粉末を解砕する工程を行う。その後、真空乾燥、真空加熱乾燥又は、不活性ガス雰囲気下の加熱乾燥等により、解砕粉末を乾燥させる工程を行う。これにより、銅粉を製造することができる。
【0045】
上述したところでは、洗浄後銅スラリー中の銅粒子を乾燥前に、表面処理剤と接触させたが、銅粒子と表面処理剤との接触時期は、それ以降であってもかまわない。たとえば、解砕粉末の乾燥工程を行った後に、銅粒子を、表面処理剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルエーテル水溶液等と接触させてもよい。この場合、その後に必要に応じて乾燥や解砕等が行われ得る。
【実施例0046】
次に、上述したような銅粉を試作し、その特性を確認したので、以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0047】
(実施例1)
溶液Aとして、1mol/L硫酸銅水溶液1kgに、クエン酸2.7gの比率で混合した液を準備した。溶液Bとして、純水1Lに、30質量%水酸化ナトリウム水溶液369g、80質量%ヒドラジン水溶液37.5gの比率で混合した液を準備した。溶液Cとして、純水1Lに、30質量%水酸化ナトリウム水溶液374g、80質量%ヒドラジン水溶液31.4gの比率で混合した液を準備した。溶液Dとして、純水1Lに、30質量%水酸化ナトリウム水溶液489gの比率で混合した液を準備した。溶液Eとして、純水1Lに、クエン酸200gの比率で混合した液を準備した。溶液Fとして、純水1Lに、80質量%ヒドラジン水溶液76.7gの比率で混合した液を準備した。
【0048】
以下の添加比率は、特段の記述が無い限りは1Lの溶液Aに対する添加比率を記載するものとする。
溶液Aを反応容器に入れ、50℃に加温し、溶液Bを0.66Lの比率になるように添加した。次いで70℃に加温し、溶液Cを0.24kgの比率になるように添加した。次に溶液DをpHが10.5になるように添加し、溶液Eをクエン酸分として1.5gの比率になるように添加した。次いで溶液Fを0.18kgの比率になるように添加し、銅スラリーを得た。これを水洗することで洗浄後銅スラリーを得た。
【0049】
赤外線水分計による水分蒸発量測定により、前記洗浄後銅スラリー中の銅質量%を算出し、表面処理剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE、三洋化成工業株式会社製のエマルミンNL-70)を10質量%に希釈した水溶液を、前記洗浄後銅スラリー中の銅質量に対して上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルが1質量%となる量を添加後攪拌し、表面処理後銅スラリーを得た。前記表面処理後銅スラリーを乾燥、気流解砕、真空乾燥を行って、銅粉を得た。
【0050】
(実施例2)
溶液Bを0.65Lの比率になるように添加したこと、溶液Dを30質量%水酸化ナトリウム水溶液に替え、pHが10.3になるように添加したこと、洗浄後銅スラリー中の銅質量に対して上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルが0.65質量%となる量を添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、銅粉を得た。
【0051】
(実施例3)
洗浄後銅スラリー中の銅質量に対して上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルが0.14質量%となる量を添加したこと以外は、実施例2と同様の操作を行い、銅粉を得た。
【0052】
(実施例4)
溶液Bを0.67Lの比率になるように添加したこと、溶液Cを0.25kgの比率になるように添加したこと、洗浄後銅スラリー中の銅質量に対して上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルが0.03質量%となる量を添加したこと以外は、実施例2と同様の操作を行い、銅粉を得た。
【0053】
(実施例5)
洗浄後銅スラリー中の銅質量に対して上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルが0.55質量%となる量を添加したこと以外は、実施例4と同様の操作を行い、銅粉を得た。
【0054】
(実施例6)
溶液Dの添加前に30質量%水酸化ナトリウム水溶液をpHが8.0になるように添加したこと、溶液DをpHが10.4になるように添加したこと、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを添加しなかったこと以外は実施例2と同様の操作を行った。これにより得られた銅粉に、表面処理剤としてポリエチレングリコール200(PEG 200、富士フイルム和光純薬株式会社製)の水溶液を、銅質量に対してポリエチレングリコール200が1質量%となる量を添加して乾燥、解砕を行い、銅粉を得た。
【0055】
(実施例7)
表面処理剤をポリエチレングリコール400(PEG 400、富士フイルム和光純薬株式会社製)に変えたこと以外は、実施例6と同様の操作を行い、銅粉を得た。
【0056】
(実施例8)
表面処理剤をポリエチレングリコール1000(PEG 1000、富士フイルム和光純薬株式会社製)に変えたこと以外は、実施例6と同様の操作を行い、銅粉を得た。
【0057】
(実施例9)
表面処理剤をポリプロピレングリコール400ジオール型(PPG 400 ジオール型、富士フイルム和光純薬株式会社製)に変えたこと以外は、実施例6と同様の操作を行い、銅粉を得た。
【0058】
(実施例10)
表面処理剤をポリプロピレングリコール700ジオール型(PPG 700 ジオール型、富士フイルム和光純薬株式会社製)に変えたこと以外は、実施例6と同様の操作を行い、銅粉を得た。
【0059】
(実施例11)
表面処理剤をポリプロピレングリコール1000ジオール型(PPG 1000 ジオール型、富士フイルム和光純薬株式会社製)に変えたこと以外は、実施例6と同様の操作を行い、銅粉を得た。
【0060】
(実施例12)
表面処理剤をグリセリン(富士フイルム和光純薬株式会社製)に変えたこと以外は、実施例6と同様の操作を行い、銅粉を得た。
【0061】
(比較例1)
表面処理剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作で行い、銅粉を得た。
【0062】
(比較例2)
比較例2での添加比率は、亜酸化銅1kgに対する添加比率を記載するものとする。
亜酸化銅と純水を混合し、15.8質量%の亜酸化銅スラリーを用意し、0.016質量%のアラビアゴム水溶液を、アラビアゴムとして6gの比率になるように添加した。これに32質量%硫酸を1.8kgの比率になるように添加した。その後、0.016質量%のアラビアゴム水溶液を、アラビアゴムとして4gの比率になるように添加し、銅スラリーを得た。これを水洗することで洗浄後銅スラリーを得た。この洗浄後銅スラリーを乾燥、気流解砕、真空乾燥を行い、銅粉を得た。
【0063】
(比較例3)
比較例2の製造条件で合成した銅粉を準備し、この銅粉に、表面処理剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE、三洋化成工業株式会社製のエマルミンNL-70)の水溶液を、銅質量に対して上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルが1質量%となる量を添加して乾燥、解砕を行い、銅粉を得た。
【0064】
(比較例4)
比較例1における原料の比率を変更して比較例1の銅粉よりもBET比表面積の大きい銅粉を得た。
【0065】
(有機物の同定)
一例として、実施例5の銅粉を、先述した赤外分光法で分析したところ、2900cm-1付近(飽和炭化水素由来)、1600cm-1付近(カルボン酸、カルボン酸塩由来)、1100cm-1付近(エーテル結合由来)、のピークが観測された。この結果から、実施例5の銅粉は、一般式(1)または一般式(2)に記載のポリエーテル(に由来する炭化水素およびエーテル結合)、およびカルボン酸またはカルボン酸塩を含有することが分かった。
【0066】
また、一例として、実施例5の銅粉を、先述した質量分析法で分析した結果、Positiveイオン検出モードにおいて、m/z値が275.2579から1040.7299にかけて、m/z値が44刻みで検出された。m/z値556.4418が最も強度が大きく、これは、一般式(1)のn=8に相当する化学式にアンモニウムイオンが付加した、[C28H58O9+NH4]+のMonoisotopic massである556.4425とほぼ一致する。また、Negativeイオン検出モードにおいて、m/z値191.0196が検出された。これは、クエン酸に相当する化学式からプロトンが脱離した、[C6H8O7-H]-のMonoisotopic massである191.0192とほぼ一致する。この結果から、実施例5の銅粉は、一般式(1)で表される化合物および、クエン酸を含有していることが分かった。
【0067】
(比表面積)
実施例1~12及び比較例1~4で得られた各銅粉のBET比表面積を、先述した方法で測定した。その結果を表1および表2に示す。
【0068】
(SEM画像)
実施例1、2及び4並びに比較例1及び2で得られた各銅粉の走査電子顕微鏡画像(SEM画像)をそれぞれ、
図1~5に示す。
【0069】
実施例1、2及び4並びに比較例1及び2の各銅粉の表1に示すBET比表面積と、
図1~5とを比較すると、BET比表面積は粒子サイズに依存していることがわかる。表1でBET比表面積を「1~10」とした実施例6~12及び比較例3の銅粉は、BET比表面積の測定を行っていないが、粒子サイズは銅粒子を生成させる工程で決まるため、実施例2と同様にして銅粒子を生成させた実施例6~12の銅粉及び、比較例2と同様にして銅粒子を生成させた比較例3の銅粉は、BET比表面積が1m
2/g~10m
2/gの範囲内にある可能性が極めて高い。
【0070】
また、
図1及び4と
図5を比較すると、実施例1及び比較例1のクエン酸で被覆された各銅粉(
図1及び4)は、比較例2のクエン酸で被覆されていない銅粉(
図5)に比べて、粒子間のネッキングが低減され、個々の粒子が真球に近づくことが分かる。このことから、クエン酸で被覆された銅粉は、ペースト中での分散性が向上すると考えられる。
【0071】
(炭素含有量)
実施例1~12及び比較例1~4で得られた各銅粉の炭素含有量を、先述した方法で測定した。その結果を表1および表2に示す。
【0072】
(低温焼結性)
実施例1~12及び比較例1~4で得られた各銅粉について、先述した方法により、不活性ガス中での焼結開始温度を確認したところ、表1に示すとおりであった。
【0073】
表1からわかるように、実施例1~12の銅粉は、低分子有機物と、ポリエーテル及び/又はポリオールとの両方を含有することから、比較例1~4の銅粉に比して、焼結開始温度が低くなった。
【0074】
(銅粉ペーストの調整)
実施例3および比較例4のそれぞれの銅粉について銅粉ペーストを作成した。具体的には、α-テルピネオール(80.5g)、オレイン酸(6.5g)、およびエチルセルロース(49%エトキシ)10(13.0g)を自転公転ミキサーで混合し、これをビヒクルとした。その後、銅粉(8.0g)とビヒクル(2.0g)とを自転公転ミキサーで混合し、銅粉ペーストを得た。
【0075】
(ペーストの粘度)
作成した銅粉ペーストの粘度を以下の方法で測定した。銅粉ペーストの粘度は、Anton Paar社製の回転式粘度計MCR102を用いて行った。設定温度25℃とした恒温プレートに銅粉ペーストを乗せ、コーン角度2°のコーンプレート(型番:CP25-2)を測定治具に使用し、測定位置のギャップ設定は1mmにし、コーンプレートを銅粉ペーストに押し付け、その後、コーンプレートからはみ出した銅粉ペーストを除去した。測定プログラムは、392秒の時間をかけ、せん断速度0から1000s-1まで徐々に上げていった。これにより、各せん断速度におけるペースト粘度を測定した。せん断速度1s-1における銅粉ペーストの粘度を表2に示す。
【0076】
表2から分かるように、実施例3の銅粉と比較例4の銅粉との違いは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを添加したか否かであって、両者のBET比表面積は等しい。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルを添加した実施例3の銅粉を用いた銅粉ペーストの粘度は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを添加していない比較例4の銅粉を用いた銅粉ペーストの粘度よりも低かった。
【0077】
銅粉ペーストの粘度は、ペースト中で銅粉が分散しているほど低くなる。したがって、実施例3の銅粉の方が、比較例4の銅粉よりもペースト中での分散性が高いと言える。この理由として、発明者は、疎水性のアルキル鎖を含むポリオキシエチレンアルキルエーテルを銅粉に添加することで、同じく疎水性であるビヒクルと銅粉との相溶性が高くなり、ペースト中における銅粉の分散性が高くなった、と考えている。
【0078】
【0079】
【0080】
以上より、先述した銅粉は、優れた低温焼結性を有するものである可能性が示唆された。