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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080650
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】D-セリン濃度増強用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20240606BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240606BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 35/742 20150101ALI20240606BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20240606BHJP
   C12P 13/06 20060101ALN20240606BHJP
   A23K 30/18 20160101ALN20240606BHJP
【FI】
A23L33/135
C12N1/20 Z
A61P3/00
A61K35/742
A61K35/74 A
C12P13/06 D
A23K30/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200062
(22)【出願日】2023-11-27
(31)【優先権主張番号】P 2022192917
(32)【優先日】2022-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】塚原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】加田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】大淵 俊
(72)【発明者】
【氏名】牟田口 祐太
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4B064
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
2B150AC01
2B150AC33
4B018MD85
4B018ME11
4B064AE08
4B064BJ09
4B064CA02
4B064CC03
4B064CC06
4B064CC12
4B064CC15
4B064CD02
4B064CD09
4B064CD13
4B064CD19
4B064CD21
4B064CE03
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA01X
4B065AA23X
4B065AA49X
4B065AC14
4B065BA22
4B065BB03
4B065BB12
4B065BB15
4B065BB19
4B065BB20
4B065BB23
4B065BB27
4B065BB29
4B065BC03
4B065BC05
4B065BD09
4B065BD12
4B065BD15
4B065CA17
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC30
4C087BC53
4C087BC61
4C087BC68
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZC21
(57)【要約】
【課題】D-セリン濃度を好適に増強する。
【解決手段】D-セリン濃度増強用組成物は、フォカイコーラ属、バクテロイデス属、アガソバクター属、コリンセラ属、パラバクテロイデス属、ストレプトコッカス属、クロストリジウム属、ロゼブリア属、ドレア属、フェカリバクテリウム属、フラボニフラクター属、ブラウティア属、ルミノコッカス属、及びコプロコッカス属のうち、少なくともいずれか一つの属に属する菌体を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォカイコーラ属、バクテロイデス属、アガソバクター属、コリンセラ属、パラバクテロイデス属、ストレプトコッカス属、クロストリジウム属、ロゼブリア属、ドレア属、フェカリバクテリウム属、フラボニフラクター属、ブラウティア属、ルミノコッカス属、及びコプロコッカス属のうち、少なくともいずれか一つの属に属する菌体を含有することを特徴とするD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項2】
前記コリンセラ属に属する菌体の菌種が、コリンセラ アエロファシエンスである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項3】
前記バクテロイデス属に属する菌体の菌種が、バクテロイデス ユニフォルミス、バクテロイデス オバツス、又はバクテロイデス テタイオタオミクロンである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項4】
前記フォカイコーラ属に属する菌体の菌種が、フォカイコーラ ドレイ、又はフォカイコーラ ブルガータスである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項5】
前記パラバクテロイデス属に属する菌体の菌種が、パラバクテロイデス メルダエである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項6】
前記ブラウティア属に属する菌体の菌種が、ブラウティア オベウム、又はブラウティア ウェクスレラエである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項7】
前記ドレア属に属する菌体の菌種が、ドレア ロンギカテナ、又はドレア フォルミシゲネランスである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項8】
前記ルミノコッカス属に属する菌体の菌種が、ルミノコッカス トロクエス、又はルミノコッカス グナバスである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項9】
前記ロゼブリア属に属する菌体の菌種が、ロゼブリア インテスティナリス、ロゼブリア ホミニス、又はロゼブリア イヌリニボランスである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項10】
前記アガソバクター属に属する菌体の菌種が、アガソバクター レクターレである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項11】
前記ストレプトコッカス属に属する菌体の菌種が、ストレプトコッカス サリバリウスである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項12】
前記クロストリジウム属に属する菌体の菌種が、クロストリジウム ネクサイルである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項13】
前記フラボニフラクター属に属する菌体の菌種が、フラボニフラクター プラウティである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項14】
前記コプロコッカス属に属する菌体の菌種が、コプロコッカス コメスである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【請求項15】
前記フェカリバクテリウム属に属する菌体の菌種が、フェカリバクテリウム ダンカニエである請求項1に記載のD-セリン濃度増強用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D-セリン濃度増強用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの腸内には1000種、40兆個もの細菌が棲息しており、腸内細菌叢とも呼ばれる複雑な共生関係を形成している。腸内細菌叢を形成する腸内細菌は、様々な代謝産物を生産しており、その代謝産物の1つとしてD-アミノ酸が挙げられる。
【0003】
アミノ酸は分子中にアミノ基とカルボキシル基を持つ化合物の総称であり、そのうち1つの炭素原子にアミノ基とカルボキシル基が結合したものをα-アミノ酸と呼ぶ。α-アミノ酸は不斉炭素原子を持ち、鏡像異性体が存在するが、このうち左旋光性を持つアミノ酸をD-アミノ酸と呼ぶ。α-アミノ酸のうち、グリシンには鏡像異性体は存在しないが、それ以外のα-アミノ酸にはL-アミノ酸とD-アミノ酸が存在する。そのため、タンパク質を構成する20種類のα-アミノ酸のうち、グリシン以外の19種類にL-アミノ酸とD-アミノ酸が存在している。
【0004】
天然に存在するアミノ酸のほとんどが、タンパク質の構成要素となるL-アミノ酸であるが、わずかにD-アミノ酸も存在している。哺乳類では、一部の種類のD-アミノ酸を自身で生産するほか、腸内に共生する細菌もD-アミノ酸を生産することが分かっている。細菌は自身の細胞壁の成分として、D-アミノ酸のうち、D-アラニン、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸を含む。それぞれを生産する酵素である、アラニンラセマーゼ、グルタミン酸ラセマーゼ、アスパラギン酸ラセマーゼも同定されている。
【0005】
一方、D-アミノ酸の一種であるD-セリンについては、哺乳類を含む真核生物ではセリンラセマーゼが同定されており、これによってD-セリンが生産されることが分かっている(非特許文献1)。しかし、この酵素は細菌には見出されておらず、またこの酵素をコードするセリンラセマーゼ遺伝子も細菌には存在していない。そのため、D-セリンを生産するかどうかは遺伝子の有無では分からない状況にある。
【0006】
生体内において、D-セリン濃度が高くなりすぎたり、低くなりすぎたりすると、健康状態が悪化することが示唆されている。そのため、生体内において、D-セリン濃度は一定濃度となるように調節されている。また、生体内のD-セリン濃度は、腸内のD-セリン濃度に影響を受けることから、腸内のD-セリン濃度が低くなりすぎないように調節することが重要である。
【0007】
腸内細菌のうち、乳酸菌やビフィズス菌ではD-アミノ酸を生産することが知られており、一部の乳酸菌やビフィズス菌ではD-セリンを生産することが報告されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、非特許文献2)。その一方で、ヒトを含む哺乳類の腸内では乳酸菌やビフィズス菌の占める割合は少ない(非特許文献3)。
【0008】
乳酸菌やビフィズス菌はヒトへの健康効果が多数確認されている一方で、D-セリン以外に副産物として乳酸や酢酸を多量に生産する性質を持つ。これらの酸は培地のpHを低下させるため、その結果として、乳酸菌やビフィズス菌の増殖が抑制される虞がある。このような増殖抑制を回避して、乳酸菌やビフィズス菌を増殖させる方法として、アルカリ製剤を培地に添加してpHの低下を防ぎながら培養する方法が提案されている(特許文献4)。しかし、アルカリ製剤を大量に必要とすることが問題となっていた。また、一部の乳酸菌やビフィズス菌は菌体外にバクテリオシンを分泌しており、組成物には他の細菌を殺傷してしまう成分が含まれている。そのため、このような乳酸菌やビフィズス菌は、食品に含まれる汚染菌制御に利用されている(非特許文献4)。その一方で、他の細菌を含有する組成物と混合して製造及び利用することが困難であったことから、これらの成分を含まない組成物が求められていた。したがって、1000種存在する腸内細菌の中から、乳酸菌やビフィズス菌ではない腸内細菌においてD-セリン生産菌を見出し、それを含有するD-セリン濃度増強用組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5941445号公報
【特許文献2】特許第5965368号公報
【特許文献3】特許第6139217号公報
【特許文献4】特開2004-057020号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Proc Natl Acad Sci U S A.1999 Jan;96(2):721-725.
【非特許文献2】Springerplus.2013 Dec;27(2):691.
【非特許文献3】DNA Res.2016 Apr;23(2):125-133.
【非特許文献4】Annu Rev Food Sci Technol.2011 Apr;2:299-329.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、D-セリン濃度を好適に増強することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
態様1のD-セリン濃度増強用組成物は、フォカイコーラ属、バクテロイデス属、アガソバクター属、コリンセラ属、パラバクテロイデス属、ストレプトコッカス属、クロストリジウム属、ロゼブリア属、ドレア属、フェカリバクテリウム属、フラボニフラクター属、ブラウティア属、ルミノコッカス属、及びコプロコッカス属のうち、少なくともいずれか一つの属に属する菌体を含有することを要旨とする。
【0013】
態様2は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記コリンセラ属に属する菌体の菌種が、コリンセラ アエロファシエンスである。
態様3は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記バクテロイデス属に属する菌体の菌種が、バクテロイデス ユニフォルミス、バクテロイデス オバツス、又はバクテロイデス テタイオタオミクロンである。
【0014】
態様4は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記フォカイコーラ属に属する菌体の菌種が、フォカイコーラ ドレイ、又はフォカイコーラ ブルガータスである。
【0015】
態様5は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記パラバクテロイデス属に属する菌体の菌種が、パラバクテロイデス メルダエである。
態様6は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記ブラウティア属に属する菌体の菌種が、ブラウティア オベウム、又はブラウティア ウェクスレラエである。
【0016】
態様7は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記ドレア属に属する菌体の菌種が、ドレア ロンギカテナ及びドレア フォルミシゲネランスである。
態様8は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記ルミノコッカス属に属する菌体の菌種が、ルミノコッカス トロクエス、又はルミノコッカス グナバスである。
【0017】
態様9は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記ロゼブリア属に属する菌体の菌種が、ロゼブリア インテスティナリス、ロゼブリア ホミニス、又はロゼブリア イヌリニボランスである。
【0018】
態様10は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記アガソバクター属に属する菌体の菌種が、アガソバクター レクターレである。
態様11は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記ストレプトコッカス属に属する菌体の菌種が、ストレプトコッカス サリバリウスである。
【0019】
態様12は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記クロストリジウム属に属する菌体の菌種が、クロストリジウム ネクサイルである。
態様13は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記フラボニフラクター属に属する菌体の菌種が、フラボニフラクター プラウティである。
【0020】
態様14は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記コプロコッカス属に属する菌体の菌種が、コプロコッカス コメスである。
態様15は、態様1のD-セリン濃度増強用組成物において、前記フェカリバクテリウム属に属する菌体の菌種が、フェカリバクテリウム ダンカニエである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のD-セリン濃度増強用組成物によれば、D-セリン濃度を好適に増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るD-セリン濃度増強用組成物を具体化した実施形態について説明する。D-セリン濃度増強用組成物は、コリンセラ属(Collinsella)、バクテロイデス属(Bacteroides)、フォカイコーラ属(Phocaeicola)、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)、ブラウティア属(Blautia)、ドレア属(Dorea)、ルミノコッカス属(Ruminococcus)、ロゼブリア属(Roseburia)、アガソバクター属(Agathobacter)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、クロストリジウム属(Clostridium)、フラボニフラクター属(Flavonifractor)、コプロコッカス属(Coprococcus)、及びフェカリバクテリウム属(Faecalibacterium)のうち、少なくともいずれか一つの属に属する菌体を含有する。なお、以下では、上記属の英語表記は省略する。
【0023】
D-セリン濃度増強用組成物は、上記の属に属する菌体、又はその菌体の培養物を有効成分とすることが好ましい。
上記菌体の培養物は、公知の製剤、飲食品、飼料、又は食品グレードの素材等を培地として菌を培養したものを意味するものとする。培養物は、培養した菌体に対して、さらに濃縮、乾燥、凍結乾燥処理等の処理を行ったものであってもよい。培養物は、培養した菌体と培地とを含んだ懸濁物であってもよいし、培養物の上清であってもよい。
【0024】
D-セリン濃度増強用組成物とは、D-セリン濃度を増強することができる組成物を意味するものとする。具体的には、D-セリン濃度増強用組成物は、D-セリン濃度の増強率が1を超えるものを意味するものとする。D-セリン濃度増強用組成物は、D-セリン濃度の増強率が、1.1以上であることが好ましい。D-セリン濃度の増強率は、1.3以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましく、1.7以上であることがさらにより好ましく、2.0以上であることが最も好ましい。
【0025】
なお、D-セリン濃度の増強率は、腸内細菌培養後に含まれるD-セリン濃度を、腸内細菌培養前に含まれるD-セリン濃度で除した値として定義することができる。
本実施形態において、「腸内細菌」は、哺乳類の糞便や小腸、大腸、結腸、回腸、盲腸から単離された細菌を意味するものとする。各腸内細菌種については、各基準株と16SリボゾームRNA遺伝子の塩基配列の相同性が97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上である菌種を指すものとする。
【0026】
また、本実施形態において、「組成物」には、製剤、飲食品ならびに飼料等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物が含まれるものとする。
上記属に含まれる菌種としては、以下のものが挙げられる。
【0027】
<菌種>
コリンセラ属に属する菌体の菌種としては、例えばコリンセラ アエロファシエンス(Collinsella aerofaciens)が挙げられる。
【0028】
バクテロイデス属に属する菌体の菌種としては、例えばバクテロイデス ユニフォルミス(Bacteroides uniformis)、バクテロイデス オバツス(Bacteroides ovatus)、バクテロイデス テタイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)等が挙げられる。
【0029】
フォカイコーラ属に属する菌体の菌種としては、例えばフォカイコーラ ドレイ(Phocaeicola dorei)、フォカイコーラ ブルガータス(Phocaeicola vulgatus)等が挙げられる。
【0030】
パラバクテロイデス属に属する菌体の菌種としては、例えばパラバクテロイデス メルダエ(Parabacteroides merdae)が挙げられる。
ブラウティア属に属する菌体の菌種としては、例えばブラウティア オベウム(Blautia obeum)、ブラウティア ウェクスレラエ(Blautia wexlerae)等が挙げられる。
【0031】
ドレア属に属する菌体の菌種としては、例えばドレア ロンギカテナ(Dorea longicatena)、ドレア フォルミシゲネランス(Dorea formicigenerans)等が挙げられる。
【0032】
ルミノコッカス属に属する菌体の菌種としては、例えばルミノコッカス トロクエス(Ruminococcus torques)、ルミノコッカス グナバス(Ruminococcus gnavus)等が挙げられる。
【0033】
ロゼブリア属に属する菌体の菌種としては、例えばロゼブリア インテスティナリス(Roseburia intestinalis)、ロゼブリア ホミニス(Roseburia hominis)、ロゼブリア イヌリニボランス(Roseburia inulinivorans)等が挙げられる。
【0034】
アガソバクター属に属する菌体の菌種としては、例えばアガソバクター レクターレ(Agathobacter rectalis)が挙げられる。
ストレプトコッカス属に属する菌体の菌種としては、例えばストレプトコッカス サリバリウス(Streptococcus salivarius)が挙げられる。
【0035】
クロストリジウム属に属する菌体の菌種としては、例えばクロストリジウム ネクサイル(Clostridium nexile)が挙げられる。
フラボニフラクター属に属する菌体の菌種としては、例えばフラボニフラクター プラウティ(Flavonifractor plautii)が挙げられる。
【0036】
コプロコッカス属に属する菌体の菌種としては、例えばコプロコッカス コメス(Coprococcus comes)が挙げられる。
フェカリバクテリウム属に属する菌体の菌種としては、例えばフェカリバクテリウム ダンカニエ(Faecalibacterium duncaniae)が挙げられる。
【0037】
D-セリン濃度増強用組成物は、上記の各属に含まれる菌種のうち、一つの菌種の菌体を単独で有効成分とするものであってもよいし、二種以上の菌種の菌体を組み合わせて有効成分とするものであってもよい。なお、以下では、上記菌種の英語表記は省略する。
【0038】
D-セリン濃度増強用組成物は、上記の各属に属する菌体のうち、バクテロイデス属、及びフォカイコーラ属の少なくともいずれか一方の菌体を有効成分とすることが好ましい。また、バクテロイデス属に属する菌体の菌種が、バクテロイデス ユニフォルミスであることがより好ましい。また、フォカイコーラ属に属する菌体の菌種が、フォカイコーラ ドレイであることがより好ましい。
【0039】
以下、D-セリン濃度増強用組成物を構成する菌体の培養方法について説明する。
<培養方法>
D-セリン濃度増強用組成物を構成する菌体の培養方法には、一般的に腸内細菌の培養に使用する培地を用いることができる。一般的に腸内細菌の培養に使用する培地としては、例えばYCFA培地(JCM培地番号1130)や、EG培地(JCM培地番号14)等が挙げられる。これらの中でも、GAMブイヨン、変法GAMブイヨン等は、より調製が簡便であるため好ましい。
【0040】
培養温度は特に制限されないが、ヒトの体温付近の温度として36~38℃が挙げられ、37℃が好ましい。
大腸は無酸素状態にあり、ここに生育する腸内細菌は偏性嫌気性である。従って、窒素ガスにより培地中、及び培地気層中を無酸素状態に維持する必要がある。また、腸内には腸内細菌が産生する炭酸ガスや水素ガスも存在することから、これらを含むことが好ましい。割合としては、例えば窒素80~90%、炭酸ガス5~10%、水素ガス5~10%が挙げられる。
【0041】
培養時間は、特に制限されないが、濁度が目視で確認できるまで実施することが好ましい。
各種腸内細菌は、10mLの培地に対して、1.0E+05cfu/mL程度となるように加える。
【0042】
以下、D-セリン濃度の測定方法について説明する。
<D-セリン濃度測定方法>
D-セリン濃度の測定方法は特に制限されず、公知の測定方法を採用することができる。公知の測定方法としては、例えば、高速液体クロマトグラフ(以下、HPLCともいう。)、超高速液体クロマトグラフ(以下、UHPLCともいう。)等による測定が挙げられる。
【0043】
<その他成分>
D-セリン濃度増強用組成物は、D-セリン濃度増強用組成物の効果を妨げない範囲で、その他成分を含有してもよい。その他成分としては、例えば賦型剤、安定剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、着色剤、溶媒、薬剤等が挙げられる。
【0044】
以下、D-セリン濃度増強用組成物の適用形態について説明する。
<適用形態>
D-セリン濃度増強用組成物の適用形態としては特に制限されず、例えばD-セリン濃度増強用飼料組成物(以下、飼料組成物ともいう。)、D-セリン濃度増強用医薬組成物(以下、医薬組成物ともいう。)、又はD-セリン濃度増強用食品組成物(以下、食品組成物ともいう。)として適用される。医薬組成物は、医薬部外品組成物を含むものとする。
【0045】
以下、D-セリン濃度増強用組成物の用途について説明する。
<用途>
D-セリン濃度増強用組成物の用途は特に制限されず、飼料に配合して用いてもよいし、飲食品に配合して用いてもよい。飼料や飲食品の製造工程中に原料に添加してもよい。
【0046】
飲食品の具体例としては、特に制限されず、例えばチーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、バター、マーガリン等の乳製品が挙げられる。また、乳飲料、果汁飲料、清涼飲料等の飲料、ゼリー、キャンディー、プリン、マヨネーズ等の卵加工品、バターケーキ等の菓子・パン類が挙げられる。さらに、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物等を挙げることもできる。
【0047】
上記飲食品の分類は、特に制限されず、一般食品や保健機能食品、特別用途食品等に使用することができる。また、保健機能食品としては、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等に使用することができる。
【0048】
D-セリン濃度増強用組成物の用途を付す場合、各種法律、施行規則、ガイドライン等によって定められた表示が挙げられる。用途の表示には、例えば包装、容器等のパッケージへの表示の他、パンフレット等の広告媒体への表示も含まれる。
【0049】
D-セリン濃度増強用組成物の投与対象は特に制限されず、ヒトに対して投与することができる。投与対象はヒト以外の動物(例えば、イヌ、ネコ、ウマ又はウサギ等)でもよい。投与対象がヒトである場合は、例えば20歳未満の未成年、成人、又は65歳以上の高齢者等に投与することができる。
【0050】
<作用及び効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)D-セリン濃度増強用組成物は、フォカイコーラ、バクテロイデス、アガソバクター、コリンセラ、パラバクテロイデス、ストレプトコッカス、クロストリジウム、ロゼブリア、ドレア、フェカリバクテリウム、フラボニフラクター、ブラウティア、ルミノコッカス、及びコプロコッカスのうち、少なくともいずれか一つの属に属する菌体を含有する。上記属に属する菌体を含有することによって、D-セリン濃度を好適に増強することができる。したがって、乳酸菌やビフィズス菌ではない腸内細菌を活用してD-セリン濃度を好適に増強することができる。また、D-セリン濃度を好適に増強することによって、良好な健康状態の維持に貢献することができる。
【0051】
(2)コリンセラ属に属する菌体の菌種が、コリンセラ アエロファシエンスであり、バクテロイデス属に属する菌体の菌種が、バクテロイデス ユニフォルミス、バクテロイデス オバツス、又はバクテロイデス テタイオタオミクロンであり、フォカイコーラ属に属する菌体の菌種が、フォカイコーラ ドレイ、又はフォカイコーラ ブルガータスであり、パラバクテロイデス属に属する菌体の菌種が、パラバクテロイデス メルダエであり、ブラウティア属に属する菌体の菌種が、ブラウティア オベウム、又はブラウティア ウェクスレラエであり、ドレア属に属する菌体の菌種が、ドレア ロンギカテナ、又はドレア フォルミシゲネランスであり、ルミノコッカス属に属する菌体の菌種が、ルミノコッカス トロクエス、又はルミノコッカス グナバスであり、ロゼブリア属に属する菌体の菌種が、ロゼブリア インテスティナリス、ロゼブリア ホミニス、又はロゼブリア イヌリニボランスであり、アガソバクター属に属する菌体の菌種が、アガソバクター レクターレであり、ストレプトコッカス属に属する菌体の菌種が、ストレプトコッカス サリバリウスであり、クロストリジウム属に属する菌体の菌種が、クロストリジウム ネクサイルであり、フラボニフラクター属に属する菌体の菌種が、フラボニフラクター プラウティであり、コプロコッカス属に属する菌体の菌種が、コプロコッカス コメスであり、フェカリバクテリウム属に属する菌体の菌種が、フェカリバクテリウム ダンカニエである。したがって、D-セリン濃度をより好適に増強することができる。
【0052】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0053】
本実施形態において、D-セリン濃度増強用組成物は、乳酸菌やビフィズス菌を含有しないが、この態様に限定されない。D-セリン濃度増強用組成物は、乳酸菌やビフィズス菌を含有していてもよい。
【実施例0054】
以下、本発明の構成、及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。なお、特に説明のない限り、%の表示は容量%を示す。
【0055】
<試験例1>
1.腸内細菌の選択と凍結濃縮菌体の調製
(1)腸内細菌の入手
ヒトの腸内細菌叢において優勢に存在する腸内細菌に該当する22菌種を、国立研究開発法人理化学研究所バイオリソース研究センター微生物材料開発室(以下、JCMともいう。)より入手した。
【0056】
(2)凍結濃縮菌体の調製
上記22菌種を、変法GAMブイヨン培地(商品コード05433、ニッスイ)にて培養した。使用した変法GAMブイヨン培地の組成を表1に示す。
【0057】
【表1】
上記変法GAMブイヨン培地を、121℃、15分間の加熱処理にて培地を滅菌した。上記22菌種の腸内細菌を個々の滅菌培地にそれぞれ植菌し、嫌気ワークステーション(セントラル科学貿易社製のコンセプト400)を用いて37℃で嫌気培養した。嫌気ワークステーション操作では混合ガスで通気して実施した。嫌気ガスの割合は、それぞれ窒素80%(v/v)、炭酸ガス10%(v/v)、水素10%(v/v)の割合とした。得られた各培養物を遠心操作により濃縮し、10%(v/v)となるようにグリセロールを添加して各種の濃縮菌体を取得した。得られた濃縮菌体を-80℃にて凍結した。
【0058】
凍結した濃縮菌体について、その後融解を実施した後、段階希釈を行い、変法GAMブイヨン寒天培地に塗沫して生菌数を測定した。いずれの菌株についても、1.0E+07cfu/mL以上の生菌数が含まれていることを確認した。
【0059】
(3)各腸内細菌の培養
上記凍結濃縮菌体を嫌気ワークスステーション内で融解し、変法GAMブイヨン培地10mLに2%となるように植菌し、同ワークステーション内に付属の培養装置にて37℃にて24時間または72時間培養した。培養時間は目視にて懸濁物が生成していることを確認して、懸濁物が生成した時点で24時間または72時間のいずれかに近い培養時間とした。
【0060】
通気する嫌気ガスの割合は、それぞれ窒素80%(v/v)、炭酸ガス10%(v/v)、水素10%(v/v)の割合とした。培養後に菌体を遠心操作により回収した。その後、DNeasy Blood&Tissueキット(QIAGEN)を使用して染色体DNAを抽出した。16SrRNA遺伝子の塩基配列を決定して、目的の菌種が培養できていることを確認した。
【0061】
(4)培養上清の調製
上記嫌気ワークステーション内で培養した腸内細菌について、嫌気ワークステーションから取り出した。大気下にて14,000rpm、10分、4℃にて遠心操作を行い、粗培養上清を9mL程度回収した。粗培養上清をさらに3kDa限外ろ過膜が付随したカラム(3kDモルカット;ミリポアメルク)にアプライした。14,000rpm、30分、4℃にて遠心操作を行い、高分子画分を除去した。限外ろ過膜を通過した画分をD-セリン測定用培養上清とした。これらD-セリン測定用培養上清を、表2に示す実施例1~22のD-セリン濃度増強用組成物とした。
【0062】
また、比較例1として、腸内細菌を含まないD-セリン測定用培養上清を用意した。D-セリン測定用培養上清は、培養上清の調製と同様に調製した。比較例1で測定されるD-セリン濃度は、腸内細菌培養前に含まれるD-セリン濃度を意味する。
【0063】
2.D-セリン濃度の測定
実施例1~22、及び比較例1のD-セリン濃度増強用組成物に、o-フタルアルデヒド、及びN-イソブチリル-L-システインを添加して、各サンプルに含まれるD-及びL-セリンを蛍光標識されたジアステレオマー化した。その後、島津製作所社製のUHPLCに供して、分離を行った。
【0064】
正確なD-セリン濃度を得るために、上記サンプルをあらかじめD-アミノ酸オキシダーゼによって処理して、誘導体化試薬に反応しないケト酸に変換した。同条件にて誘導体化処理後UHPLCに再度供した。酵素処理を施さずに得られた測定値から酵素処理を施して得られた測定値を差し引いた値を算出した。
【0065】
酵素処理の操作によって測定用サンプルは5倍希釈されるため、算出された値を5倍したものをD-セリン濃度とした。標準物質として、0.1、0.5、2.5、12.5、25μMのD-セリンを使用して検量線を作成し、測定値がこの範囲に入っていることを確認して定量を行った。
【0066】
<試験例2>
1.腸内細菌の選択と凍結濃縮菌体の調製
(1)腸内細菌の入手
フォカイコーラ ドレイ、フォカイコーラ ブルガータス、及びバクテロイデス ユニフォルミスの3菌種について、表3に示す9種類の菌株をJCM、又はドイツの菌株保存・分譲機関(以下、DSMともいう。)より入手した。
【0067】
(2)凍結濃縮菌体の調製
上記9種類の菌株を用いて、試験例1と同様の方法にて、凍結濃縮菌体を調製した。
(3)各腸内細菌の培養
試験例1と同様の方法にて、各腸内細菌を培養した。
【0068】
(4)培養上清の調製
試験例1と同様の方法にて、D-セリン測定用培養上清を調製した。これらD-セリン測定用培養上清を、実施例23~31のD-セリン濃度増強用組成物とした。また、比較例2として、腸内細菌を含まないD-セリン測定用培養上清を用意した。
【0069】
2.D-セリン濃度の測定
試験例1と同様の方法にて、実施例23~31及び比較例2のD-セリン濃度増強用組成物のD-セリン濃度を測定した。
【0070】
<試験結果>
実施例1~22、及び比較例1のD-セリン濃度増強用組成物に含まれる腸内細菌種、D-セリン濃度、及び増強率を表2に示す。また、実施例23~31、及び比較例2のD-セリン濃度増強用組成物に含まれる腸内細菌種、D-セリン濃度、及び増強率を表3に示す。
【0071】
表2では、各D-セリン濃度増強用組成物とその菌株番号、D-セリン濃度、及びD-セリン濃度増強率を、それぞれ「含有菌種」欄、「JCM株番号」欄、「D-セリン濃度(μM)」欄、「増強率」欄に記載する。
【0072】
表3では、各D-セリン濃度増強用組成物に含まれる腸内細菌と、その分譲機関、菌株番号、D-セリン濃度、及びD-セリン濃度増強率を、それぞれ「含有菌種」欄、「分譲機関」欄、「株番号」欄、「D-セリン濃度(μM)」欄、「増強率」欄に記載する。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
表2において、「増強率」は、比較例1のD-セリン濃度を基準にして、各実施例のD-セリン濃度の増強率を算出した。表3において、「増強率」は、比較例2のD-セリン濃度を基準にして、各実施例のD-セリン濃度の増強率を算出した。
【0075】
表2に示すように、実施例1~22のD-セリン濃度増強用組成物は、全てD-セリン濃度増強率が1.17以上であり、D-セリン濃度をより好適に増強できることが確認された。また、実施例2のバクテロイデス ユニフォルミスと、実施例5のフォカイコーラ ドレイは、増強率がそれぞれ、2.22と、2.03と高い値であった。バクテロイデス ユニフォルミスと、フォカイコーラ ドレイは、D-セリン濃度をさらに好適に増強できることが確認された。
【0076】
また、表3に示すように、実施例23~31のD-セリン濃度増強用組成物は、全てD-セリン濃度増強率が1.17以上であり、D-セリン濃度をより好適に増強できることが確認された。また、フォカイコーラ ドレイ、フォカイコーラ ブルガータス、及びバクテロイデス ユニフォルミスは、異なる菌株においてもD-セリン濃度をより好適に増強できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本願発明によれば、ビフィズス菌や乳酸菌を使用することなく、D-セリン濃度増強用組成物を得ることができる。これにより、天然での存在比が非常に低いD-セリンを含有する組成物を得ることができる。