(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080912
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】N-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質及び糖ペプチドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20240610BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20240610BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240610BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240610BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240610BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240610BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240610BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240610BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20240610BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N9/10
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194268
(22)【出願日】2022-12-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(糖鎖利用による革新的操業技術開発)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】512088316
【氏名又は名称】株式会社糖鎖工学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】千葉 靖典
(72)【発明者】
【氏名】吉村 弥生
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 扶美恵
(72)【発明者】
【氏名】西内 祐二
(72)【発明者】
【氏名】野口 真人
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD02
4B050LL05
4B050LL10
4B064AF22
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CC24
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA19
4B065CA24
4B065CA29
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA10
4H045BA53
4H045CA40
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、N-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチドのうちの複数種類と高い反応性を示し、複数種類のN-アセチルへキソサミンを受容体基質に転移する酵素活性を有するタンパク質を提供することを目的とする。
【解決手段】特定のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性を有する、タンパク質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性を有する、タンパク質。
【請求項2】
前記N-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性が、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性、及びN-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ活性である、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
UDP-N-アセチルグルコサミン及びUDP-N-アセチルガラクトサミンを供与体基質とすることができる、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質をコードする、核酸。
【請求項5】
請求項4に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項6】
請求項4に記載の核酸又は請求項5に記載のベクターで宿主細胞を形質転換して得られる、形質転換体。
【請求項7】
前記宿主細胞がブレビバチルス属細菌である、請求項6に記載の形質転換体。
【請求項8】
N-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチドと、受容体基質となるペプチドと、請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質とを反応させる工程を含む、糖ペプチドの製造方法。
【請求項9】
前記ペプチドが、セリン残基又はスレオニン残基を含むペプチドである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ペプチドが、MUC2ペプチド又はEA2ペプチドである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
N-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチドと、受容体基質となるペプチドと、請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質とを反応させる工程を含む、受容体基質となるペプチドにN-アセチルへキソサミンを転移させる方法。
【請求項12】
前記ペプチドが、セリン残基又はスレオニン残基を含むペプチドである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ペプチドが、MUC2ペプチド又はEA2ペプチドである、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質及び糖ペプチドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖は、単糖がグリコシド結合で結合した鎖状の構造を有するものであり、タンパク質又は脂質に結合して細胞の表面又は細胞の中に多く存在している。生体系において、糖鎖はエネルギー源であるだけでなく、細胞間のコミュニケーションと識別に関連するプロセスで重要な役割を果たしていることも知られている。そのため、ヘルスケア及び医療分野における糖鎖利用への関心が高まっている。そのような糖鎖利用に関する技術の一つには、糖ヌクレオチド及び糖転移酵素(グリコシルトランスフェラーゼ)を利用して糖ペプチドを産生する技術がある。
【0003】
糖転移酵素は、供与体基質である糖ヌクレオチドから、受容体基質に糖を転移する反応を触媒する。糖転移酵素について、例えば非特許文献1には、ヒトO-GlcNAcトランスフェラーゼ(OGT)がUDP-N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)から受容体基質となるペプチドへのGlcNAcの転移を触媒することが記載されている。一方、UDP-N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を基質とした場合、OGTの反応性は極めて低く、GalNAcを受容体基質に転移する酵素活性はないことが記載されている。
【0004】
また、非特許文献2には、アイソザイムであるヒトGalNAcトランスフェラーゼ-T1、-T2、-T3は、UDP-GalNAcを供与体基質とした場合は、GalNAcを受容体基質へと転移する酵素反応が進行することが記載されている。一方、UDP-GlcNAcを供与体基質とした場合、ヒトGalNAcトランスフェラーゼ-T1、-T2、-T3の酵素反応は進行しないことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ma X et al., “Substrate specificityprovides insights into the sugar donor recognition mechanism of O-GlcNActransferase (OGT).”, PLoS One. 2013 May 21;8(5):e63452.
【非特許文献2】Wandall HH et al., “Substratespecificities of three members of the human UDP-N-acetyl-alpha-D-galactosamine:Polypeptide N-acetylgalactosaminyl transferase family, GalNAc-T1, -T2, and-T3.”, J Biol Chem. 1997 Sep 19;272 (38):23503-14.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、これまでのところ、特定のN-アセチルへキソサミン(HexNAc)が結合した糖ヌクレオチドのみを供与体基質とし、当該供与体基質における特定のN-アセチルへキソサミンのみを受容体基質に転移する酵素活性があるタンパク質は知られている。しかしながら、特定のN-アセチルへキソサミンのみならず、その他のN-アセチルへキソサミンをも受容体基質に転移する酵素活性を有するタンパク質は知られていない。
【0007】
そこで本発明は、N-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチドのうちの複数種類と高い反応性を示し、複数種類のN-アセチルへキソサミンを受容体基質に転移する酵素活性を有するタンパク質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質が、UDP-GlcNAc及びUDP-GalNAcのどちらを基質とした場合でも高い反応性を示し、GlcNAc及びGalNAcを受容体基質に転移する酵素活性を有することを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば以下の発明に関する。
[1]
配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性を有する、タンパク質。
[2]
上記N-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性が、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性、及びN-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ活性である、[1]に記載のタンパク質。
[3]
UDP-N-アセチルグルコサミン及びUDP-N-アセチルガラクトサミンを供与体基質とすることができる、[1]又は[2]に記載のタンパク質。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載のタンパク質をコードする、核酸。
[5]
[4]に記載の核酸を含む、ベクター。
[6]
[4]に記載の核酸又は[5]に記載のベクターで宿主細胞を形質転換して得られる、形質転換体。
[7]
上記宿主細胞がブレビバチルス属細菌である、[6]に記載の形質転換体。
[8]
N-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチドと、受容体基質となるペプチドと、[1]~[3]のいずれかに記載のタンパク質とを反応させる工程を含む、糖ペプチドの製造方法。
[9]
上記ペプチドが、セリン残基又はスレオニン残基を含むペプチドである、[8]に記載の製造方法。
[10]
上記ペプチドが、MUC2ペプチド又はEA2ペプチドである、[8]又は[9]に記載の製造方法。
[11]
N-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチドと、受容体基質となるペプチドと、[1]~[3]のいずれかに記載のタンパク質とを反応させる工程を含む、受容体基質となるペプチドにN-アセチルへキソサミンを転移させる方法。
[12]
上記ペプチドが、セリン残基又はスレオニン残基を含むペプチドである、[11]に記載の方法。
[13]
上記ペプチドが、MUC2ペプチド又はEA2ペプチドである、[11]又は[12]に記載の方法。
[14]
受容体基質となるペプチドにN-アセチルへキソサミンを転移させるための、配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性を有する、タンパク質の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、N-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチドのうちの複数種類と高い反応性を示し、複数種類のN-アセチルへキソサミンを受容体基質に転移する酵素活性を有するタンパク質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例にて得たブレビバチルス属細菌の形質転換体において、目的タンパク質の発現をSDS-PAGE及びウエスタンブロット解析で確認した結果を示す図である。
【
図2】実施例にて得た大腸菌の形質転換体において、目的タンパク質の発現をSDS-PAGE及びウエスタンブロット解析で確認した結果を示す図である。
【
図3】実施例にて得た形質転換体の培養上清について、GalNAcを受容体基質に転移する酵素活性を調べた結果を示す図である。
【
図4】実施例にて得た形質転換体から目的タンパク質を精製する過程で得られたサンプルについてSDS-PAGE及びウエスタンブロット解析した結果を示す図である。
【
図5】実施例にて得た目的タンパク質の最適温度の検討結果を示す図である。
【
図6】実施例にて得た目的タンパク質の最適pHの検討結果を示す図である。
【
図7】実施例にて得た目的タンパク質の金属イオン要求性の検討結果を示す図である。
【
図8】実施例にて得た目的タンパク質の供与体基質に対する活性の解析結果を示す図である。
【
図9】実施例にて得た目的タンパク質の受容体基質であるMUC2ペプチドに対する活性の解析結果(A)及びEA2ペプチドに対する活性を解析した結果(B)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0013】
<タンパク質>
本実施形態に係るタンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性を有する、タンパク質である。
【0014】
N-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性とは、N-アセチルへキソサミン(HexNAc)が結合した複数種類の糖ヌクレオチドを供与体基質とし、供与体基質におけるHexNAcを、受容体基質に転移する反応を触媒する酵素活性である。
【0015】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、ブレビバチルス・ブレビス(Brevibacillus brevis)由来の仮想タンパク質であり(Genbankアクセッション番号:BAH42714)、ヒトGalNAcトランスフェラーゼ等とアミノ酸配列の相同性を有することから、GlycosylTransferase (GT) Family 27に分類され、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が結合した糖ヌクレオチドを供与体基質として利用し、GalNAcを受容体基質に転移すると考えられていた。しかしながら、本発明者らは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が、GalNAcだけではなく、その他のHexNAcも受容体基質に転移するN-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性を有することを明らかにした。
【0016】
したがって、本実施形態に係るタンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0017】
本実施形態に係るタンパク質は、複数種類のHexNAcを受容体基質に転移する酵素活性を有していれば特に限定されず、例えば、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性、N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ活性、N-アセチルマンノサミニルトランスフェラーゼ活性等が挙げられ、好ましくは、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性及びN-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ活性である。ここで、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性とは、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)が結合した複数種類の糖ヌクレオチドを供与体基質とし、供与体基質におけるGlcNAcを、受容体基質に転移する反応を触媒する酵素活性を意味する。N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ活性とは、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が結合した複数種類の糖ヌクレオチドを供与体基質とし、供与体基質におけるGalNAcを、受容体基質に転移する反応を触媒する酵素活性を意味する。N-アセチルマンノサミニルトランスフェラーゼ活性とは、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)が結合した複数種類の糖ヌクレオチドを供与体基質とし、供与体基質におけるManNAcを、受容体基質に転移する反応を触媒する酵素活性を意味する。
【0018】
本実施形態に係るタンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性を有するものでもある。
【0019】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST[Pro.Nat.Acad.Sci.USA,90,5873(1993)]やFASTA[Methods Enzymol.,183,63(1990)]を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXとよばれるプログラムが開発されている(J. Mol. Biol., 215, 403 (1990))。BLASTに基づいてBLASTNを使用して塩基配列を解析する場合には、パラメータは、例えばScore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXを使用してアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGap ped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメータを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0020】
本実施形態に係るタンパク質は、N-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性を有していれば、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1~15、1~10、1~5、1~3のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むものであってもよい。置換、挿入、又は付加されるアミノ酸配列は、天然型であってもよく、非天然型であってもよい。
【0021】
天然型アミノ酸としては、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-アルギニン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、L-システイン等が挙げられる。
【0022】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸
C群:アスパラギン、グルタミン
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸
E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン
G群:フェニルアラニン、チロシン
【0023】
本実施形態に係るタンパク質は、精製又は検出に利用されるタグ又は標識マーカーが結合されていてもよい。タグとしては、例えば、Hisタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ、FLAGタグ、mycタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)タグ、PAタグ等の公知のタグが用いられ得る。標識マーカーとしては、GFP等の蛍光タンパク質、FITC等の蛍光色素などが用いられ得る。本実施形態に係るタンパク質は、上記タグ又は標識マーカーを切り離して用いてもよく、上記タグ又は標識マーカーを切り離さずに用いてもよい。
【0024】
供与体基質としては、HexNAcが結合した糖ヌクレオチドであれば特に限定されず、例えば、UDP-N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、UDP-N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、UDP-N-アセチルマンノサミン(ManNAc)、GDP-ManNAc、dTDP-GlcNAc、dTDP-GalNAc、dTDP-ManNAc等が挙げられる。また、供与体基質は、天然に存在する糖ヌクレオチドであってもよく、人工的に合成した非天然の糖ヌクレオチドであってもよい。
【0025】
本実施形態に係るタンパク質は、上記の供与体基質のうちの少なくとも2種類以上を供与体基質とすることができ、UDP-GlcNAc及びUDP-GalNAcを基質とすることができることが好ましい。
【0026】
受容体基質としては、上記の供与体基質におけるN-アセチルへキソサミンを受容できる基質であれば特に限定されず、例えば、ペプチド等が挙げられる。ここで、本明細書において、「ペプチド」とは、2以上のアミノ酸残基がペプチド結合(アミド結合)によって連結されたものを含むものを意味し、ポリペプチド、タンパク質であってもよく、これらには糖ペプチド又は糖タンパク質も含まれる。アミノ酸残基としては、天然型アミノ酸であっても、非天然型アミノ酸であってもよい。ペプチドとしての長さは特に限定されないが、2~1000程度のアミノ酸残基を含んでもよい。
【0027】
受容体基質がペプチドである場合、ペプチドの種類は特に限定されないが、好ましくはセリン残基及び/又はスレオニン残基を含むペプチドであり、より好ましくはムチン型糖ペプチドであり、さらに好ましくはMUC2ペプチド(配列番号5)又はEA2ペプチド(配列番号6)である。
【0028】
受容体基質が、セリン残基及び/又はスレオニン残基を含むペプチドである場合、全アミノ酸残基数に対するセリン残基数及び/又はスレオニン残基数の割合は、特に限定されないが、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上であってもよい。
【0029】
本実施形態に係るタンパク質がN-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性を有していることは、例えば、後述する実施例に記載の方法によって確認することができる。より具体的には、複数種類のN-アセチルへキソサミンが結合した供与体基質と、受容体基質と、本実施形態のタンパク質とを反応させ、HPLCを用いる等してN-アセチルへキソサミンが結合した受容体基質を検出することで、N-アセチルへキソサミニルトランスフェラーゼ活性を有することが確認できる。
【0030】
<核酸>
本実施形態に係る核酸は、上記本実施形態に係るタンパク質をコードする核酸であり、DNAであっても、RNAであってもよいが、好ましくはDNAである。上記本実施形態に係るタンパク質をコードする核酸の具体例としては、例えば、配列番号2で表される塩基配列を含むものであってもよく、配列番号2で表される塩基配列からなるものであってもよく、また、配列番号2で表される塩基配列と90%以上、好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むものであってもよく、配列番号2で表される塩基配列と90%以上、好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるものであってもよい。
【0031】
本実施形態に係る核酸は、本実施形態に係るタンパク質をコードする核酸であれば特に限定されず、例えば、形質転換する宿主細胞の種類に応じてコドンを最適化したものであってもよい。
【0032】
本実施形態に係る核酸が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA(配列番号2で表される塩基配列を含むDNA)である場合、例えば、ブレビバチルス・ブレビス由来のゲノムDNAを鋳型にしてPCRを実施することによって作製してもよい。本実施形態に係る核酸が、配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAである場合には、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(配列番号2で表される塩基配列からなるDNA)を鋳型にしてエラープローンPCRを実施することで得ることができる。または、部位特異的変異導入により塩基配列に変異を導入することによっても得ることができる。また、本実施形態に係る核酸は、人工合成によって作製してもよい。
【0033】
上記のように得たDNAは、そのまま、又は適当な制限酵素等で切断し、常法によりベクターに組み込み、得られた組換えベクターを宿主細胞に導入して増幅した後、通常用いられる塩基配列解析方法等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、該DNAの塩基配列を決定することができる。
【0034】
核酸の塩基配列を決定する際に用いることができるベクターとしては、公知のクローニングベクター又は発現ベクターを挙げることができ、より具体的には、例えば、pBluescript系ベクター、pUC系ベクター、pET系ベクター等を挙げることができる。
【0035】
<ベクター>
本実施形態に係るベクターは、上記本実施形態に係る核酸を含む。上記本実施形態に係る核酸を組み込むベクターは、上記本実施形態に係る核酸のコードするタンパク質(上記本実施形態に係るタンパク質)を宿主細胞内で発現させることができるものであれば、特に限定されない。
【0036】
本実施形態に係るベクターは、該ベクターを導入する宿主細胞によって適宜選択すればよいが、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等であってよい。また、自律複製型ベクターであってもよく、ゲノム組込み型ベクターであってもよい。
【0037】
本実施形態に係るベクターは、本実施形態に係る核酸の塩基配列以外にも制限酵素部位、挿入された遺伝子の発現のための制御配列(プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合領域等)、抗生物質耐性遺伝子、形質転換体の選別のための配列、シグナル配列(例えば、大腸菌において目的タンパク質をペリプラズムへ移行させるための配列であるpelBシグナル配列等)等、種々の配列を含むことができる。
【0038】
上記本実施形態に係る核酸を組み込むベクターの具体例としては、例えば、pSTV28(タカラバイオ社製)、pET21a、pET30a、pCDF-1b、pRSF-1b(いずれもメルクミリポア社製)、pMAL-c5x(ニューイングランドバイオラブス社製)、pGEX-6P-1、pTrc99A(いずれもGEヘルスケアバイオサイエンス社製)、pNI、pNCMO2、pNY326、pBIC3(いずれもタカラバイオ社製)、pAUR123(タカラバイオ社製)、pKLAC2(ニューイングランドバイオラブス社製)、pFastBac1(Invitrogen社製)、pRI101(タカラバイオ社製)、pBApo-EF1a(タカラバイオ社製)、pPIC9、pPICZα(Thermo Fisher社製)pHEK293 Ultra(タカラバイオ社製)等が挙げられる。
【0039】
<形質転換体>
本実施形態に係る形質転換体は、上記本実施形態に係る核酸又はベクターで宿主細胞を形質転換することで得られる。
【0040】
宿主細胞としては、本実施形態に係るタンパク質を発現できるものであれば特に限定されないが、例えば、大腸菌、ブレビバチルス属細菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞等が挙げられ、好ましくはブレビバチルス属細菌である。これらの宿主細胞で本実施形態に係るタンパク質を発現させるために、本実施形態に係る核酸をそのまま、又は本実施形態に係るベクターを用いて、宿主細胞を形質転換することが好ましい。
【0041】
宿主細胞としての用いることができるブレビバチルス属細菌の具体例としては、特に限定されないが、ブレビバチルス・アグリ、ブレビバチルス・ボルステレンシス、ブレビバチルス・ブレビス、ブレビバチルス・セントロポラス、ブレビバチルス・チョウシネンシス、ブレビバチルス・フォルモサス、ブレビバチルス・インボカツス、ブレビバチルス・ラチロスポラス、ブレビバチルス・リムノフィルス、ブレビバチルス・パラブレビス、ブレビバチルス・レウスゼリ、ブレビバチルス・サーモルバー等が挙げられる。好ましくは、ブレビバチルス・チョウシネンシスであり、より好ましくはブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31である。
【0042】
宿主細胞の形質転換は、本実施形態に係る核酸又はベクターを宿主細胞に導入することにより行われる。そのような方法としては、宿主細胞及びベクターによって適宜選択すればよく、遺伝子工学において用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0043】
<糖ペプチドの製造方法>
本実施形態に係る糖ペプチドの製造方法は、N-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチドと、受容体基質となるペプチドと、上記本実施形態に係るタンパク質とを反応させる工程(以下、「反応工程」ともいう。)を含む。N-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチド及び受容体基質となるペプチドについては、上述のとおりである。
【0044】
本実施形態に係る糖ペプチドの製造方法において、反応工程に用いる上記本実施形態に係るタンパク質としては、精製したタンパク質を用いてもよく、又は、本実施形態に係る形質転換体が培養上清に本実施形態に係るタンパク質を分泌する場合、その培養上清を用いてもよい。
【0045】
反応工程は、N-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチドと、受容体基質となるペプチドと、上記本実施形態に係るタンパク質とを混合し、インキュベートする工程であってよく、混合の順番は任意であり、また、本実施形態に係るタンパク質の混合量は、所望の目的糖ペプチドの産生量を達成できる量であればよく、当業者が適宜に設計できる。
【0046】
本実施形態に係る糖ペプチドの製造方法は、複数種類のN-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチドと反応させる場合、受容体基質となるペプチドと本実施形態に係るタンパク質を、同時に複数種類のN-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチドと反応させてもよく、1種類ずつN-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチドと反応させてもよい。
【0047】
反応工程における反応温度は、本実施形態に係るタンパク質の酵素反応を進行させることができる温度であれば特に限定されず、例えば、30℃以上、35℃以上、40℃以上、45℃以上であってもよい。また、反応工程における反応温度は、60℃以下、55℃以下、50度以下であってもよい。反応工程における反応温度は、35℃~55℃であってよく、好ましくは40℃~50℃であり、より好ましくは42℃~48℃であり、さらに好ましくは43℃~47℃である。
【0048】
反応工程におけるpHは、本実施形態に係るタンパク質の酵素反応を進行させることができるpHであれば特に限定されず、例えば、5.0以上、5.5以上、6.0以上、6.5以上、7.0以上であってもよい。また、反応工程におけるpHは、9.0以下、8.5以下、8.0以下、7.5以下であってもよい。反応工程におけるpHは、5.0~9.0であってもよく、好ましくは6.0~8.5であり、より好ましくは6.5~8.0であり、さらに好ましくは7.0~7.5である。
【0049】
反応工程における反応系には、上記糖ヌクレオチド、ペプチド、及び本実施形態のタンパク質以外にも、緩衝液、水、pH調整剤、界面活性剤、金属イオン、プロテアーゼ阻害剤等を適宜添加してもよい。
【0050】
金属イオンとしては、特に限定されないが、一価金属イオン、二価金属イオン、三価金属イオンであってもよく、好ましくは二価金属イオンである。
【0051】
二価金属イオンとしては、例えば、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン(Fe2+又はFe3+)、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン等が挙げられる。好ましくは、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオンである。
【0052】
反応工程の反応系において本実施形態に係るタンパク質の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.0001質量%以上、0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.1質量%以上であってもよい。また、反応系における本実施形態に係るタンパク質の濃度は、10質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下であってもよい。
【0053】
本実施形態に係る糖ペプチドの製造方法は、更に上記反応工程における反応系から糖ペプチドを分離する工程(以下、「分離工程」ともいう。)を含んでいてもよい。分離工程は、例えば、分取HPLC等によって行ってもよい。
【0054】
<受容体基質となるペプチドにN-アセチルへキソサミンを転移させる方法>
本実施形態に係る受容体基質となるペプチドにN-アセチルへキソサミンを転移させる方法(以下、「転移方法」ともいう。)は、N-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチドと、受容体基質となるペプチドと、上記本実施形態に係るタンパク質とを反応させる工程(以下、「反応工程」ともいう。)を含む。N-アセチルへキソサミンが結合した糖ヌクレオチド及び受容体基質となるペプチドについては、上述のとおりである。
【0055】
本実施形態に係る転移方法は、上記本実施形態に係る糖ペプチドの製造方法の各態様を特に限定なく適用することができる。
【0056】
本実施形態に係る転移方法は、受容体基質となるペプチドにN-アセチルへキソサミンが転移したか否かを確認する工程(以下、「確認工程」ともいう。)を含んでいてもよい。確認工程は、特に限定されないが、例えばHPLC、質量分析等により実施することができる。
【実施例0057】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
(1.発現コンストラクトの作製及び菌株の取得)
配列番号2で表される塩基配列を基に、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質のN末端側に順に10×Hisタグ及びPAタグが付加されたタンパク質(以下、「BbppHexNAc-T」ともいう;配列番号3)をコードするDNA(配列番号4)を人工合成した。
【0059】
その後、ブレビバチルス属細菌にてBbppHexNAc-Tを精製するにあたり、ヒゲタ醤油株式会社に、配列番号4で表される塩基配列が挿入された発現コンストラクトの作製とブレビバチルス属細菌によるBbppHexNAc-T発現の受託解析(BreviMAX Standard)を依頼した。
【0060】
その結果、ブレビバチルス・チョウシネンシス(Brevibacillus choshinensis)HPD31を配列番号4で表される塩基配列が挿入されたpBIC3sベクターを導入して形質転換した株(以下、「BB-1株」ともいう。)を得た。
【0061】
なお、受託解析にて、BB-1株を3mLのブレビバチルス属細菌用培地に植菌し、25℃、3日間培養して15,000×g、5分の遠心分離によって得た培養上清について、SDS-PAGEとウエスタンブロット解析が実施され、BB-1株による目的タンパク質(BbppHexNAc-T)の発現が確認された。ウエスタンブロット解析は、抗5×Hisタグ抗体(Thermo Fisher社製)を一次抗体として、パーオキシダーゼ融合抗マウスIgG抗体を二次抗体として使用し、常法に従って実施した。その結果を
図1に示す。
図1において、矢尻で示すように、想定される分子量(36.1kDa)相当の位置にバンドが確認されため、BbppHexNAc-Tの発現が確認された。
【0062】
(2.培養上清におけるGalNAc転移活性の評価)
<FITCで標識したMUC2ペプチド(FITC-MUC2)の作製>
外部委託により合成された粗FITC-MUC2を、分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で以下の条件にて精製した。精製したFITC-MUC2を、以下の実験で用いた。FITC-MUC2は、MUC2ペプチド(PTTTPITTTTTVTPTPTPTGTQTK;配列番号5)のC末端にFITCを融合したペプチドである。
(HPLC条件)
カラム:COSMOSIL 5C18-AR-II
バッファーA:0.05%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液
バッファーB:0.05%TFAを含む100%アセトニトリル(ACN)
平衡化:バッファーA:バッファーB=80:20の溶液
グラジエント:15分間でバッファーA:バッファーB=65:35まで直線的にバッファーBを増加させて溶出を行なった。
流速:1mL/分
検出:蛍光検出器(Ex.495nm、Em.520nm)
【0063】
<大腸菌を用いたBbppHexNAc-Tの精製>
人工合成したBbppHexNAc-T遺伝子(配列番号2)の5’側に、NdeIサイト、ペリプラズムへの分泌シグナルであるpelBシグナル配列、10×Hisタグ配列、及びPAタグ配列をこの順となるように、また、3’側にNotIサイトをPCR法で付与し、DNA断片を作製した(配列番号7)。その後、当該DNA断片を大腸菌の発現ベクターであるpET30aのNdeIとNotIの間に挿入した。得られたプラスミド(pFS300)を用いて大腸菌Rosetta-gami2(DE3)(Novagen社製)を形質転換し、発現株(EFS4)を構築した。次にカナマイシン(30μg/mL)を含む8mLのLB培地(1%Bacto Tryptone、0.5%Bacto yeast Extract、1%塩化ナトリウム)にEFS4株を植菌し、37℃で一晩培養した。この培養液を、カナマイシン(30μg/mL)を含む100mLのTB培地(1.2%Bacto Tryptone、2.4%Bacto yeast Extract、0.8%グリセロール、17mM リン酸二水素カリウム、72mM リン酸水素二カリウム)でOD600が0.4となるように希釈し、この培地を24穴プレート2枚に2mLずつ分注した。これを16℃で8時間培養後、終濃度1mMとなるようにイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、マキシマイザー(タイテック社製)にて1,200rpm、16℃で40時間培養を行なった。
【0064】
上記培養液を一本のチューブにまとめたのち、15,000rpm、4℃、15分間遠心した。得られた菌体に18mLのPBS溶液(Sigma社製)を添加して超音波破砕したのち、再度遠心し、上清を回収した。この上清に1mLのNi-アガロース(富士フイルム和光純薬社製)を添加し、攪拌後、5mLのオープンカラムに移し、1mLのPBS溶液で5回洗浄後、500mMのイミダゾール溶液を含むPBS溶液1mLを添加し溶出を行なった。これを4回繰り返し、精製酵素画分を取得した。得られた精製酵素画分を10kDaカットの限外ろ過膜を用いて脱塩を行ない、4mLの精製BbppGalNAc-T溶液とした。
【0065】
この精製工程の各画分について、SDS-ポリアクリルアミドゲル(PAG)電気泳動を行い、蛍光染色と抗PA抗体によるウエスタンブロッティングを行なった。それぞれの画分で、菌体量OD
6000.0083相当分をSDS化後、10%のPAG2枚について各レーンにアプライし、常法により電気泳動を行った。泳動終了後、1枚のゲルはOriole 蛍光ゲルステイン(Bio-Rad社製)を用いて染色を行った。もう一枚については、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜への転写を行ったのち、一次抗体として抗PAタグ,ラットモノクローナル抗体(富士フイルム和光純薬社製)、二次抗体としてパーオキシダーゼ融合抗ラットイムノグロブリン抗体を二次抗体として使用し、常法に従って実施した。その結果を
図2に示す。
【0066】
図2に示すように、精製BbppGalNAc-T溶液画分では依然として複数のバンドが確認されるものの、BbppGalNAc-Tは、ウエスタンブロッティングの結果における矢尻で示す部分に確認された。また、精製BbppGalNAc-T溶液画分ではBbppGalNAc-Tが濃縮されていることが確認された。
【0067】
<活性の評価>
以下の手順により、BB-1株の培養上清によるGalNAc転移活性を評価した。まず、BB-1株を上記1.と同様に、ブレビバチルス属細菌用培地で25℃、3日間培養し、その培養上清を得た。次いで、1M MOPS(pH7.0)、0.1M MnCl
2、10mM UDP-GalNAc(供与体基質;ヤマサ醤油社製)、100mM PMSF、100×プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche社製)、10μM FITC-MUC2ペプチド(受容体基質)、蒸留水、及びBB-1株の培養上清又は大腸菌にて発現させ、精製したBbppHexNAc-T(精製BbppHexNAc-T)が、下記表1に示す組成となるように反応溶液1~6を調製した。続いて、当該反応溶液を37℃で18時間振とうしながらインキュベートすることで反応させ、その後それぞれのサンプルに100μLの蒸留水を加えたのち、95℃で10分間インキュベートすることで反応を終了させた。反応を終了させた溶液を0.22μmフィルター(MultiScreen GV Filter Plate 0.22μm;ミリポア社製)に通して濾過した後、溶液の1/3量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に注入した。HPLCでの分析は以下の条件にて行った。その結果を
図3に示す。
(HPLCの分析条件)
カラム:Cosmosil 5C18-ARII(ナカライテスク)
カラムオーブン:40℃
流速:1mL/分
平衡化:0.05%TFAを含む10%ACN水溶液
グラジエント:30分間で40%ACN+0.05%TFAまで直線的にACN水溶液の濃度を増加させて溶出を行った
検出:蛍光検出器(Ex.495nm、Em.520nm)
【0068】
【0069】
図3に示すように、反応溶液1を用いた場合と反応溶液2を用いた場合との比較、又は反応溶液3を用いた場合と反応溶液4を用いた場合との比較から、BB-1株の培養上清を添加した反応溶液1及び反応溶液3を用いた場合でのみ、MUC2ペプチドにGalNAcが付加した産物が確認された(
図3中Aのピーク)。このピーク画分を分取したのち、質量分析装置による解析を行なったところ、MUC2のペプチドの分子量に加えN-アセチルヘキソサミンに相当する分子量の増加が確認された。すなわち、BB-1株で発現しているBbppHexNAc-TがMUC2ペプチドにGalNAcを転移したことがわかった。
【0070】
(3.BbppHexNAc-Tの精製)
上記1.及び2.のとおり、BB-1株によるBbppHexNAc-Tの発現、及びBB-1株の培養上清によるGalNAc転移活性が確認されたため、BB-1株からBbppHexNAc-Tを以下の手順で精製した。
【0071】
滅菌したブレビバチルス属細菌用培地を24穴プレートにそれぞれ2mLずつ分注後、それぞれにBB-1株のコロニーを植菌し、37℃、180rpmで一晩培養した。これらの培養液全てを回収し、1本のチューブにまとめ、15000rpm、4℃、5分で遠心して細胞を沈殿させた。この沈殿画分を200mLのブレビバチルス属細菌用培地に懸濁したのち、96穴ディープウェルプレート2枚に対し1穴あたり1mLずつ分注した。これをマキシマイザー(タイテック社製)に設置し、25℃、1300rpmで3日間の培養を行った。
【0072】
その後、培養液を遠心して上清を回収し、当該上清にグリセロール(終濃度10%)、CHAPS(終濃度0.1%)、PMSF(終濃度1mM)を添加した。50mLのチューブに、平衡化済みのcOmplete(商標) Hisタグ精製樹脂(Merck社製)2.5mLと上記培養上清を含む溶液50mLを加え、ローテーターを利用して2時間、4℃で混合した。混合溶液を空のカラムに移して樹脂を回収した後、樹脂を25mLのバッファーA(10%グリセロール、0.1%CHAPS、1mM PMSFを含む0.05M HEPESバッファー(pH7.0))で2回洗浄した。続いて、樹脂に5mLのバッファーB(0.5Mイミダゾール、10%グリセロール、0.1%CHAPS、1mM PMSFを含む0.05M HEPESバッファー(pH7.0))を添加することでBbppHexNAc-Tの溶出を行った。さらに15分後に再度5mLのバッファーBでBbppHexNAc-Tの溶出を行った。溶出した画分はアミコンウルトラ(10,000NMWL、ミリポア社製)で濃縮したのち、バッファーAでの洗浄を繰り返して脱塩を行い、精製標品を得た。
【0073】
BbppHexNAc-Tの上記各精製工程において得た画分について、SDS-PAGE及びウエスタンブロット解析を行った。ウエスタンブロット解析は、抗5×Hisタグ抗体(Thermo Fisher社製)を一次抗体として、パーオキシダーゼ融合抗マウスIgG抗体を二次抗体として使用し、常法に従って実施した。その結果を
図4に示す。
図4に示すように、精製標品において、BbppHexNAc-Tは
図4中の矢尻で示す部分に確認できた(
図4レーン5)。
【0074】
(4.BbppHexNAc-Tの諸性質)
<試験例1:BbppHexNAc-Tの最適温度の検討>
上記3.で得たBbppHexNAc-Tの最適温度を、下記表2で示す組成の反応溶液を調製し、調製した反応溶液を30℃から60℃まで5℃刻みで温度を変化させて反応させたこと以外は、上記2.と同様にして解析した。その結果を
図5に示す。なお、
図5に示す結果は3回の独立した実験の測定値の平均値である。
【0075】
【0076】
図5に示すように、BbppHexNAc-Tは45℃で最も高い活性を示した。この結果から、BbppHexNAc-Tの最適温度は45℃前後であることが明らかになった。
【0077】
<試験例2:BbppHexNAc-Tの最適pHの検討>
上記3.で得たBbppHexNAc-Tの最適pHを、試験例1と同様の組成の反応溶液の他に、0.1Mの酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0、5.5)、MESバッファー(pH5.5、6.0、6.5)、MOPSバッファー(pH6.5、7.5)、Trisバッファー(pH7.5、8.0、8.5、9.0)を用いた反応溶液を調製したこと、及び反応温度を45℃で反応させたこと以外は試験例1と同様にして解析した。その結果を
図6に示す。なお、
図6に示す結果は、3回の独立した実験の測定値の平均値である。
【0078】
図6に示すように、BbppHexNAc-TはMOPSバッファー(pH7.0)を用いた反応溶液中で反応させた場合に最も高い活性を示した。この結果から、BbppHexNAc-Tの最適pHは7.0付近であることが明らかになった。
【0079】
<試験例3:BbppHexNAc-Tの金属イオン要求性の検討>
糖転移酵素の多くが、その活性においてマンガンイオン(Mn
2+)を要求することが知られている。そのため、BbppHexNAc-Tの金属イオン要求性を以下のとおりに確認した。試験例1の反応溶液における塩化マンガン(Mn
2+)の代わりに、塩化コバルト(Co
2+)、塩化ニッケル(Ni
2+)、塩化鉄(Fe
2+、Fe
3+)、塩化マグネシウム(Mg
2+)、塩化カルシウム(Ca
2+)、塩化銅(Cu
2+)、塩化亜鉛(Zn
2+)、又はEDTAを添加した反応溶液、及び試験例1の反応溶液において塩化マンガンを添加しない反応溶液を調製した。これらの反応溶液について、反応温度を45℃で反応させたこと以外は試験例1と同様の方法を実施した。その結果を
図7に示す。なお、
図7に示す結果は、3回の独立した実験の測定値の平均値である。
【0080】
図7に示すように、BbppHexNAc-Tは二価金属イオンの添加で高い活性を示し、Ni
2+、Co
2+、Mn
2+の添加で特に高い活性を示すことが明らかとなった。
【0081】
<試験例4:BbppHexNAc-Tの供与体基質に対する活性の解析>
BbppHexNAc-Tはアミノ酸配列の相同性からCAZYデータベースのGT27に分類され、UDP-N-アセチルガラクトサミン(UDP-GalNAc)を供与体基質として利用すると考えられる。そこで、BbppHexNAc-Tの糖ヌクレオチド基質に対する活性を調べた。具体的には、試験例1における反応溶液における供与体基質であるUDP-GalNAcの代わりに、UDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)、UDP-ガラクトース(UDP-Gal)、UDP-グルコース(UDP-Glc)、GDP-マンノース(GDP-Man)、又はGDP-フコース(GDP-Fuc)を添加した反応溶液、及び試験例1の反応溶液においてUDP-GalNAcを添加しない反応溶液を調製した。これらの反応溶液について、反応温度を45℃で反応させたこと以外は試験例1と同様の方法を実施した。その結果を
図8に示す。なお、
図8に示す結果は、3回の独立した実験の測定値の平均値である。
【0082】
図8に示すように、BbppHexNAc-Tは、想定されていたUDP-GalNAcに加え、UDP-GlcNAcも供与体基質として利用することができ、UDP-GalNAcを供与体基質とした場合よりも高い活性を示した。一方、HexNAcが結合していない他の糖ヌクレオチドには反応せず活性を示さなかった。この結果から、BbppHexNAc-Tは、複数種類のHexNAcを受容体基質に転移する酵素活性を有することが明らかになった。
【0083】
<試験例5:BbppHexNAc-Tの受容体基質に対する活性の解析>
上述したとおり、BbppHexNAc-TはGT27に属することから、セリン又はスレオニン残基を含むペプチドに糖を転移すると考えられた。そこで、BbppHexNAc-Tについて、様々なセリン又はスレオニン残基を含むペプチド(受容体基質)に対する活性を調べた。試験例1の反応溶液における受容体基質であるFITC-MUC2の代わりに、FITCで標識したEA2ペプチド(FITC-EA2)を添加した反応溶液を調製した。なお、FITC-EA2は、EA2ペプチド(PTTDSTTPAPTTK;配列番号6)のC末端にFITCを融合したペプチドであり、上記2.におけるFITC-MUC2と同様にして精製した。これらの反応溶液について、反応温度を45℃で反応させたこと以外は試験例1と同様の方法を実施した。BbppHexNAc-TのMUC2ペプチドに対する活性を解析した結果を
図9(A)に、EA2ペプチドに対する活性を解析した結果を
図9(B)に示す。
【0084】
図9(A)及び(B)に示すように、MUC2ペプチド及びEA2ペプチドのどちらを受容体基質として用いた場合でも、アスタリスクで示す部分にピーク(FITC-MUC2又はFITC-EA2にGalNAcが付加した産物)が確認でき、また反応時間にしたがってその量が増加した。この結果から、BbppHexNAc-Tにより、どちらの受容体基質に対してもGalNAcが転移されていることが確認された。
【0085】
以上の試験例4及び5の結果より、BbppHexNAc-Tは、複数種類のHexNAcを受容体となる基質に対して転移する酵素活性を有することが明らかになった。